上記で説明したように、熱膨張に起因する不都合に関しては、特許文献1で示されているように種々の提案がなされているのであるが、燃料電池セルでは、熱膨張以外に、酸化還元サイクルに起因する膨張の問題がある。
即ち、発電時には、燃料ガス(水素)の供給により、燃料電池内部は、還元雰囲気下に晒されるが、発電停止時には、安全性・経済性の面から、高温状態にある電池内部への燃料ガスの供給が絶たれ、電池内部は還元雰囲気から酸化雰囲気に変化することになる。しかるに、燃料電池セルにおいては、一般に、所定の強度を確保するために、導電性支持体を用い、この導電性支持体上に電極構造を形成し、且つ導電性支持体を介して集電が行われるようになっている。例えば、図4のセルでは、燃料極層7が導電性支持体となっており、この導電性支持体である燃料極層7上に固体電解質層9及び酸素極層11を設けた構造となっており、このような導電性支持体は、一般に、セル体積の大部分を占める。勿論、導電性支持体上に燃料極層、固体電解質層及び酸素極層の積層構造を形成した燃料電池セルにおいても、同様、導電性支持体は、セルの大部分を占める。したがって、このような導電性支持体の雰囲気の変化における安定性は重要である。
ところで、上述した導電性支持体は、導電性を付与するための金属を含有しており、このような金属としては、一般にNiが使用されている。Niは、燃料ガス(水素)を天然ガスから生成するための改質触媒としての機能を有しているため、燃料の有効利用を図ることができ、また、Niは燃料極層中にも含まれており、導電性支持体上に燃料極層を形成する場合にも、高温下での燃料極層と導電性支持体間での元素拡散による不都合を防止する上でも好適だからである。
しかるに、Ni等の金属は、発電停止などによる酸化雰囲気下では酸化し、これに伴って導電性支持体の体積が膨張する。また、酸化された金属は、還元雰囲気下で還元されるため、膨張した導電性支持体は収縮することとなる。
従って、酸化雰囲気(作製時の焼結後)から還元雰囲気に雰囲気を変化させると、理論的には、導電性支持体の体積は元に戻る(縮む)と考えられるのであるが、実際は、元には戻らず、多少膨張した状態になる。このような作製後における最初の還元雰囲気に晒された場合の導電性支持体の膨張により、導電性支持体上に形成されている固体電解質層にクラックが発生したり、或いは固体電解質層が導電性支持体から剥離する等の問題があった。
本発明は、最初に還元雰囲気に晒された場合の導電性支持体の膨張を抑制することができる固体電解質形燃料電池セル及びセルスタック並びに燃料電池を提供することを目的とする。
本発明の固体電解質形燃料電池セルは、多孔質体から形成される導電性支持体に、固体電解質層及び酸素極層がこの順で積層された構造を有する固体電解質形燃料電池セルであって、前記導電性支持体がNiまたはNiOからなるNi相と無機骨材相とを有するとともに、前記導電性支持体が、FeおよびCoのうち少なくとも1種からなる膨張抑制用金属を、該膨張抑制用金属と前記Ni相との合計量に対する前記膨張抑制用金属の量(モル%)が0.02〜4モル%となる量で含有し、かつ前記燃料電池セル作製後に最初に還元雰囲気に晒された時の線膨張率が−0.2〜0.04%であることを特徴とする。
導電性支持体は、導電性を付与するためのNiまたはNiOが使用され、燃料電池の大気中における焼成時にNiがNiOとなった状態で焼結している。このようなNiOは発電開始により還元されてNiとなるため、理論的には導電性支持体は収縮することとなる。しかしながら、理由は明確ではないが、実際は、還元しても収縮することがなく、少し膨張した状態となる。
これにより、導電性支持体が最初に還元雰囲気に晒された時に、導電性支持体が還元膨張し、この導電性支持体に形成された薄層の固体電解質層にクラックが発生したり、また、固体電解質層が導電性支持体から剥離するという問題が生じていた。
そこで、本発明者は、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された時の導電性支持体の線膨張率を−0.2〜0.04%としたのである。従来では、導電性支持体は、上記したように、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された時に大きく膨張していたため、この導電性支持体上に形成された緻密な固体電解質層にクラックが発生したり、固体電解質層が剥離する傾向があったが、本発明では、導電性支持体が最初の還元雰囲気に晒された際の線膨張率を従来よりも収縮側の−0.2〜0.04%としたので、固体電解質層におけるクラックや剥離を有効に防止することができる。
また、本発明の固体電解質形燃料電池セルは、多孔質体から形成される導電性支持体に、固体電解質層及び酸素極層がこの順で積層された構造を有する固体電解質形燃料電池セルであって、前記導電性支持体が、NiまたはNiOからなるNi相と無機骨材相とを有するとともに、前記導電性支持体が、FeおよびCoのうち少なくとも1種からなる膨張抑制用金属を、該膨張抑制用金属と前記Ni相との合計量に対する前記膨張抑制用金属の量(モル%)が0.02〜4モル%となる量で含有し、かつ前記導電性支持体の開気孔率が20〜35%であり、細孔径が1.1〜3μmであることを特徴とする。
このような固体電解質形燃料電池セルでは、上記したように、導電性支持体が、NiまたはNiOからなるNi相と無機骨材相とを有する場合には、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された時に大きく膨張していたため、この導電性支持体上に形成された緻密な固体電解質層にクラックが発生したり、固体電解質層が剥離する傾向があったが、本発明では、導電性支持体の開気孔率を20〜35%、細孔径を1.1〜3μmとしたので、理由は明確ではないが、導電性支持体が最初の還元雰囲気に晒された際の線膨張率を従来よりも収縮側の−0.2〜0.04%とすることができ、固体電解質層におけるクラックや剥離を有効に防止することができる。
さらに、本発明の固体電解質形燃料電池セルは、前記導電性支持体は、前記膨張抑制用金属が、前記Ni相中に固溶し、或いはNi相と無機骨材相との粒界に偏在していることを特徴とする。
即ち、Ni相は、この導電性支持体に導電性と改質触媒としての機能とを付与するものであり、無機骨材相は、酸化雰囲気及び還元雰囲気に対して安定な無機材料から形成され、支持体の基本骨格を形成する。このようなNi相と無機骨材相とを有する支持体(多孔質体)が還元雰囲気及び酸化雰囲気に交互に曝されたとき(還元・酸化を繰り返したとき)、Ni相において、還元及び酸化が交互に繰り返され、酸化すればNiが酸化物になる分体積膨張し、従って、理論的には、この酸化物を還元すれば収縮し、元の体積に戻るはずである。しかしながら、先にも述べたように、実際は、還元しても元の大きさには戻らず、還元・酸化を繰り返すことにより、導電性支持体は徐々に膨張することとなる。このような還元・酸化サイクルによる支持体の膨張挙動のメカニズムは、正確に解明されてわけではないが、本発明者は、次のように推定している。
Ni相で酸化による膨張が生じると、この周りに存在する無機骨材相は外側に押しやられ、導電性支持体は膨張する。次いで、還元雰囲気下に曝されてNi相で還元が生じると、NiOがNiとなるために収縮を生じる。しかるに、導電性支持体を構成している無機骨材(例えば希土類元素酸化物等)は、酸化・還元に対して安定な材料であり、金属ニッケル(あるいはその酸化物)との濡れ性は良くない。このため、酸化による膨張が生じた状態で、無機骨材相と膨張したNi相とが良好に接合していたとしても、還元によりNi相が収縮する際、一部のNi相が無機骨材相と分離して収縮してしまい(Ni相の収縮に無機骨材相が追随しない)、この結果、酸化によって膨張した導電性支持体の体積は、還元収縮によっては元に戻らず、酸化前の体積よりも若干大きくなると考えられる。
本発明は、このような還元・酸化サイクルによる膨張を、特定の金属Mを存在させることにより抑制することができるのであるが、このような抑制メカニズムについて、本発明者は次のように推定している。
先ず、上述した膨張抑制用金属Mの内、Feは、Niや無機骨材(例えばY2O3)に対して反応性を有しており、導電性支持体製造プロセスでの焼成に際して、その反応物がNi相と無機骨材相との粒界に析出したり、反応物でなくとも粒界に富む形で偏在したりする。この結果、Ni相と無機骨材相との濡れ性が向上し、Ni相の還元収縮に際し、無機骨材相がNi相に追随し、この結果、酸化による膨張が還元時の収縮によって相殺され、還元・酸化サイクルによる導電性支持体の膨張が有効に回避されるものと考えられる。また、これらの金属Mは多価金属であり、微量であればNi相に固溶するが、そのとき、Ni酸化物の成長速度を著しく速める。このため、酸化雰囲気に曝されたとき、多孔質体である導電性支持体中の気孔内部に向かってNi酸化物が成長していく。気孔内部で酸素
が容易に供給されるからである。このように気孔内部に向かってNi酸化物が急速に成長していくと、その周囲にある無機骨材相は、Ni相に引っ張られる形となり、この結果、酸化雰囲気中における酸化膨張が著しく小さく、場合によっては収縮することもある。従って、Ni相への金属Mの固溶によるNi酸化物の成長速度の増大によっても、還元・酸化サイクルによる膨張を有効に低減させることができる。
また、膨張抑制用金属Mの内、Coは、Ni相に全率固溶するため、無機骨材との反応物は生成しないが、Coを固溶したNi相と無機骨材相との濡れ性が向上し、この結果、上記と同様、Ni相の還元収縮に際して無機骨材相がNi相に追随し、還元・酸化サイクルによる導電性支持体の膨張が有効に回避される。
そして、導電性支持体が最初の還元雰囲気に晒された際の線膨張率を従来よりも収縮側の−0.2〜0.04%とすることにより、最初の還元雰囲気での還元膨張を抑制し、また、2回目以降の還元膨張は、膨張抑制用金属Mにより、抑制することができ、長期的な導電性支持体の還元膨張を抑制することができるのである。
尚、本発明において、Niや無機骨材と金属M(Fe、Co)との反応物の析出や粒界での偏在、Niに固溶した金属Mの存在は、粉末X線回折(XRD)やX線マイクロ分析(EPMA)、特に、透過電子顕微鏡分析(TEM)による制限視野電子回折像解析(SAED)やX線分析(EDS)、二次イオン質量分析(SIMS)により確認することができる。
このように本発明の導電性支持体は、燃料電池セル作製後に最初に還元雰囲気に晒された時の線膨張率を−0.2〜0.04%とし、このときの導電性支持体を基準として酸化還元による変形が生じるため、より酸化還元による膨張を抑制することができる。また、還元・酸化サイクルによる膨張が、膨張抑制用金属により低減されており、例えば後述する実施例からも明らかな通り、還元・酸化サイクルを3回繰り返したときの線膨張率の絶対値を0.2%以下とすることもできる。
かかる本発明の導電性支持体は、例えば、この上に燃料極層、固体電解質層、酸素極層を順次形成した燃料電池セルとして使用に供され、起動停止を繰り返し行う場合であっても、固体電解質層におけるクラックや剥離を有効に抑制することができ、例えば起動・停止の多い一般家庭における実使用、また、負荷追従運転等において長期的な信頼性を向上させることができる。
また、本発明の固体電解質形燃料電池セルは、前記導電性支持体は、燃料ガスが通過する燃料ガス通路を有しており、前記導電性支持体の燃料ガス排出側端部が保護膜で被覆されていることを特徴とする。このような固体電解質形燃料電池セルでは、導電性支持体の燃料ガス排出側端部が保護膜で被覆されているため、いわゆる負荷追従運転により、導電性支持体の燃料ガス排出側端部が空気(酸素源)に晒されたとしても、導電性支持体の酸化を防止し、酸化還元による変形を長期的に抑制することができる。
本発明のセルスタックは、上記固体電解質形燃料電池セルの複数を直列に電気的に接続してなるものである。また、燃料電池は、上記セルスタックを収納容器内に収納してなるものである。
本発明の燃料電池は、例えば、負荷追従運転を行う家庭用として好適に用いられ、0.5〜1.5KWの発電能力を有する分散型の燃料電池として好適に用いることができる。
図1は、本発明の導電性支持体を備えた燃料電池セルの横断面を示す図であり、図1において、全体として30で示す燃料電池セルは中空平板状であり、断面が扁平状で、全体的に見て細長板状の導電性支持体31を備えている。導電性支持体31の内部には、適当な間隔で複数の燃料ガス通路31aが長さ方向に貫通して形成されており、燃料電池セル30は、この導電性支持体31上に各種の部材が設けられた構造を有している。このような燃料電池セル30は、一般に、その複数を、図2に示すように、集電部材40により互いに直列に接続してセルスタックとし、このようなセルスタックを所定の収容容器に入れて燃料電池として使用される。
導電性支持体31は、図1に示されている形状から理解されるように、平坦部Aと平坦部Aの両端の弧状部Bとからなっている。平坦部Aの両面は互いにほぼ平行に形成されており、平坦部Aの一方の面と両側の弧状部Bを覆うように燃料極層32が設けられており、さらに、この燃料極層32を覆うように、緻密質な固体電解質層33が積層されており、この固体電解質層33の上には、燃料極層32と対面するように、平坦部Aの一方の表面に酸素極層34が積層されている。
また、燃料極層32及び固体電極層33が積層されていない平坦部Aの他方の表面には、インターコネクタ35が形成されている。図1から明らかな通り、燃料極層32及び固体電解質層33は、インターコネクタ35の両サイドにまで延びており、導電性支持体31の表面が外部に露出しないように構成されている。
上記のような構造の燃料電池セルでは、燃料極層32の酸素極層34と対面している部分が燃料極として作動して発電する。即ち、酸素極層34の外側に空気等の酸素含有ガスを流し、且つ導電性支持体31内のガス通路31aに燃料ガス(水素)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより、酸素極層34で下記式(1)の電極反応を生じ、また燃料極層32の燃料極となる部分では例えば下記式(2)の電極反応を生じることによって発電する。
酸素極: 1/2O2+2e− → O2− (固体電解質) …(1)
燃料極: O2− (固体電解質)+ H2 → H2O+2e−…(2)
かかる発電によって生成した電流は、導電性支持体31に取り付けられているインターコネクタ35を介して集電される。即ち、上記のような構造の燃料電池セル30の複数を、集電部材40により互いに直列に接続することにより図2に示すセルスタックを形成し、このセルスタックを所定の収容容器に収容した燃料電池として使用に供され、燃料ガス(水素)及び酸素含有ガスを所定の部位に流すことにより、電池として機能させることができる。
(導電性支持体31)
上記のような構造を有する燃料電池セル30において、導電性支持体31は、燃料ガスを燃料極層32まで透過させるためにガス透過性であることが必要であり、また、インターコネクタ35を介しての集電を行うために導電性であることや、後述する同時焼成により燃料電池セル30を作製する際に、熱膨張差によるクラックや剥離がないことが要求される。このような要求を満たす目的で、導電性支持体31は、導電性多孔質体であり、金属ニッケル(Ni)またはその酸化物(NiO)の相(Ni相)と、基本骨格を形成する無機骨材の相とを有している。
即ち、Ni相は、導電性支持体31に導電性を付与するためのものであり、ニッケル酸化物(NiO)によりNi相が形成されていた場合、或いは酸化性雰囲気中では、ニッケル酸化物がNi相を形成するが、発電時には、還元雰囲気となるため、金属ニッケルによりNi相が形成され、良好な導電性を示すこととなる。また、このようなNi相は、改質触媒としての機能をも有しているため、燃料ガス(水素)中に天然ガス(CH4)が残存していたとしても、かかるガスを水素に改質し得るため、燃料の有効利用を図ることができる。さらに、後述する燃料極層32には、一般に、Niが含まれているが、導電性支持体31にNi相を含有させることにより、焼成時や発電時での導電性支持体31と燃料極層32との間の元素拡散を有効に回避することができる。
また、無機骨材相は、酸化雰囲気や還元雰囲気に対して安定な無機酸化物から形成され、導電性支持体31の基本骨格を形成し、所定の強度を付与するものである。このような無機酸化物としては、特に導電性支持体31の熱膨張係数を、固体電解質層33と近似させ且つ固体電解質層33等への拡散を防止するために、希土類元素酸化物が好適に使用される。希土類元素酸化物としては、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、Tm2O3、Er2O3、Ho2O3、Dy2O3、Gd2O3、Sm2O3、Pr2O3を例示することができ、特に安価であるという点で、Y2O3が好適である。また、所謂三相界面(電解質/Ni/気相の界面)を増やして前述した式(2)の電極反応を促進するために、固体電解質層33に使用される安定化ジルコニアやランタンガレート系ペロブスカイト型複合酸化物を無機骨材として使用することもできる。
上記のようなNi成分と無機骨材とは、良好な導電率を維持し且つ固体電解質層33を形成している固体電解質層材料と近似した熱膨張係数を確保するために、酸化物換算で、Ni成分:無機骨材=35:65乃至65:35の体積比で導電性支持体31中に含まれている。
また、導電性支持体31は、燃料ガス透過性を有していることが必要であるため、一般に開気孔率を高くすることが行われているが、開気孔率が高いと、上記したように導電性支持体が最初に還元雰囲気に晒された際の線膨張率が大きくなるため、開気孔率は20〜35%とされ、導電性支持体31の細孔径は1.1〜3μmとされ、これにより、還元時における膨張をさらに抑制することができ、導電性支持体31の還元雰囲気に晒された際の変形を収縮側とすることができる。
一方、開気孔率が20%よりも小さい場合には、導電性支持体が最初に還元雰囲気に晒された際の線膨張率が膨張側に大きくなり、導電性支持体に形成された固体電解質層にクラックが発生し易くなる。また、35%よりも大きい場合には導電性支持体の強度が小さくなり、また、固体電解質層が剥離するからである。この開気孔率は、特には30%未満が望ましく、さらには22%以上30%未満が望ましく、さらには燃料電池セルの作製後の最初の還元雰囲気に晒された場合の線膨張率が0よりも僅かに収縮(マイナス)となるような値であることが望ましい。
また、導電性支持体31の細孔径が1.1μmよりも小さい場合には還元時に発生する水蒸気が抜けにくくなり、3μmよりも大きい場合には導電性支持体の強度が低下し工程中でのハンドリング性が悪くなる。導電性支持体31の細孔径は、還元時に発生する水蒸気の抜け性と支持体強度の観点から1.1〜2μmが望ましい。
これらの開気孔率、細孔径を満足することにより、導電性支持体31の作製後に最初の還元雰囲気に晒された時の線膨張率を−0.2〜0.04%、特には−0.2〜0.02%、さらには、−0.1〜0%とすることができる。開気孔率はアルキメデス法により、細孔径は水銀圧入法により測定することができる。
また、導電性支持体31の導電率は、300S/cm以上、特に440S/cm以上であることが好ましい。
さらに、導電性支持体31の平坦部Aの長さは、通常、15〜35mm、弧状部Bの長さ(弧の長さ)は、3〜8mm程度であり、導電性支持体31の厚みは(平坦部Aの両面の間隔)は2.5〜5mm程度であることが望ましい。
本発明の導電性支持体31においては、上述した各種特性等を有するものであるが、特にFe、Co、Mnからなる群より選択された膨張抑制用金属(酸化還元膨張抑制用金属M、又は金属Mということもある:Mnは参考例である。以下同様)の少なくとも1種が、前記Ni相中に固溶していること、或いは、Ni相と無機骨材相との粒界に偏在していることが望ましい。偏在の形態はNiまたは無機骨材との反応物の形でもよいし、粒界部での富化でもよい。Niまたは無機骨材との反応物の形でNi相と無機骨材相との粒界に析出していることが重要である。即ち、導電性支持体31が、上記のようなNi相と無機骨材相とからなる多孔質体により形成されている場合には、発電及び発電停止に伴う還元・酸化サイクルに起因して導電性支持体31の体積膨張を生じ、固体電解質層33でのクラック発生、燃料極層32の剥離などが発生してしまい、この燃料電池の長期信頼性が損なわれてしまう。しかるに、上記の酸化還元膨張抑制用金属MをNi相或いはNi相と無骨材相との粒界に存在させることにより、このような種々の不都合を引き起こす還元・酸化サイクルによる体積膨張を有効に防止することが可能となるのである。
即ち、酸化還元膨張抑制用金属Mの内、MnやFeは、Niや無機骨材に対して反応性を有しており、導電性支持体製造プロセスでの焼成に際して、Niや無機骨材との反応物を生成する。このような反応物としては、例えば、MnとNiとの反応物としてNiMn2O4、Mnと希土類元素酸化物(Y2O3)との反応物としてMnYO3、更にMnとNi及び希土類元素酸化物との反応物としてY2NiMnO6などが挙げられる。また、FeとNiとの反応物としてNiFe2O4、Feと希土類元素酸化物(Y2O3)との反応物としてFeYO3などが挙げられる。このようなMnとNi或いは無機骨材との反応物は、主にNi相と無機骨材相との粒界に析出し、このように粒界に析出した反応物によってNi相と無機骨材相との濡れ性が向上することとなる。また、反応物でなくとも、粒界に富化する形で金属Mが偏在することによってもNi相と無機骨材相との濡れ性が向上することとなる。この結果、Ni相の還元収縮が生じると、無機骨材相がNi相の還元収縮に追随することとなり、Ni相の酸化による膨張が還元時の収縮によって相殺され、還元・酸化サイクルによる導電性支持体31の膨張が有効に回避されるのである。尚、Mnは、他の酸化還元膨張抑制用金属Mと異なり、Ni相への固溶限界量が著しく小さく、このため、ほとんどは上記の反応物として粒界に析出する。
酸化還元膨張抑制用金属Mの内、Feも、Niや無機骨材に対して反応性を有しており、例えば、NiFe2O4、FeYO3などの反応物を生成し得る。しかしながら、Feは、Ni相への固溶限界量が大きく、且つNiと無機骨材との両方に反応した反応物を形成しないため、上記のような反応物を粒界に析出することなくNi相中に固溶する。また、Ni相に固溶したFeは、特に無機骨材相との粒界付近に偏在しており、Ni相と無機骨材相との接触面積を小さく保とうとする力が働き、Ni相と無機骨材相との濡れ性が大きく向上し、この結果、粒界に反応物を析出し、Mnと同様、還元・酸化サイクルによる導電性支持体31の膨張を有効に回避することができる。
さらに、他の酸化還元膨張抑制用金属MであるCoも、Feほどではないが、Feと同様に、Ni相中に固溶する。酸化還元膨張抑制用金属Mとしては、Feが最も望ましい。
さらに、これらの多価金属がNi相中に固溶した場合には、先にも述べたように、Ni酸化物の成長速度が著しく速められる。即ち、発電停止時での酸化雰囲気中では、導電性支持体(多孔質体)31の気孔内部に向かってNi酸化物が成長し、その周囲にある無機骨材相は、酸化成長するNi相によって内部に引っ張られ、結果として、酸化膨張が著しく小さく、場合によっては収縮する。従って、このような上記のような他の金属Mの固溶による酸化膨張の抑制によっても、還元・酸化サイクルによる膨張を有効に低減させることができる。
酸化還元膨張抑制用金属Mの内、Coは、Ni相に全率固溶できるため、不純物固溶による濡れ性の向上により、還元・酸化サイクルによる導電性支持体31の膨張が有効に回避されるのである。
尚、上記の説明では、無機骨材としてY2O3を用いた場合を例にとって説明したが、これは他の希土類元素酸化物を無機骨材として用いた場合にも同様である。また、無機骨材として、安定化ジルコニアなどの固体電解質層材を用いた場合には、上述した酸化還元膨張抑制用金属Mは、このような固体電解質層材中に固溶するため上記と同様に、還元・酸化サイクルによる膨張を有効に低減させることができる。
本発明において、還元・酸化サイクルによる膨張を最も有効に低減させ得るのは、無機骨材として、希土類酸化物、特にY2O3を用い、さらに酸化還元膨張抑制用金属Mが、Mn、FeまたはCoである場合である。
尚、上述した酸化還元膨張抑制用金属Mが、Niとの合計(M+Ni)当り、0.02乃至4モル%の量で存在していることが好ましい。金属Mの量がこの範囲よりも少ないと、還元・酸化サイクルによる膨張低減を十分効果的に行うことが困難となるおそれがあり、上記範囲よりも多量に存在すると、導電性が低下し、集電効率が低下するおそれがある。
尚、上記のような導電性支持体31では、上述した特性が損なわれない限り、Ni(或いはNiO)、無機骨材及び酸化還元膨張抑制用金属M以外の成分が含まれていてもよい。
(燃料極層32)
本発明において、燃料極層32は、前述した式(2)の電極反応を生じせしめるものであり、それ自体公知の多孔質の導電性サーメットから形成される。例えば、希土類元素が固溶しているZrO2と、Ni及び/またはNiOとから形成される。この希土類元素が固溶しているZrO2(安定化ジルコニア)としては、後述する固体電解質層33の形成に使用されているものと同様のものを用いるのがよい。
燃料極層32中の安定化ジルコニア含量は、35〜65体積%の範囲にあるのが好ましく、またNi或いはNiO含量は、65〜35体積%であるのがよい。さらに、この燃料極層32の開気孔率は、15%以上、特に20〜40%の範囲にあるのがよく、その厚みは、1〜30μmであることが望ましい。例えば、燃料極層32の厚みがあまり薄いと、性能が低下するおそれがあり、またあまり厚いと、固体電解質層33と燃料極層32との間で熱膨張差による剥離等を生じるおそれがある。
また、図1の例では、この燃料極層32は、インターコネクタ35の両サイドにまで延びているが、酸素極層34に対面する位置に存在して燃料極が形成されていればよいため、例えば酸素極層34が設けられている側の平坦部Aにのみ燃料極層32が形成されていてもよい。さらには、支持体31の全周にわたって燃料極層32を形成することも可能である。本発明においては、固体電解質層33と支持体31との接合強度を高めるために、固体電解質層33の全体が燃料極層32上に形成されていることが好適である。
(固体電解質層33)
この燃料極層32上に設けられている固体電解質層33は、一般に3〜15モル%の希土類元素が固溶したZrO2(安定化ジルコニア)と呼ばれる緻密質なセラミックスから形成されている。希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを例示することができるが、安価であるという点からY、Ybが望ましい。
この固体電解質層33を形成する安定化ジルコニアセラミックスは、ガス透過を防止するという点から、相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上の緻密質であることが望ましく、且つその厚みが10〜100μm、特には60μm以下であることが望ましい。
(酸素極層34)
酸素極層34は、所謂ABO3型のペロブスカイト型酸化物からなる導電性セラミックスから形成される。かかるペロブスカイト型酸化物としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物、特にAサイトにLaを有するLaMnO3系酸化物、LaFeO3系酸化物、LaCoO3系酸化物の少なくとも1種が好適であり、600〜1000℃程度の作動温度での電気伝導性が高いという点からLaFeO3系酸化物が特に好適である。尚、上記ペロブスカイト型酸化物においては、AサイトにLaと共にSrなどが存在していてもよいし、さらにBサイトには、FeとともにCoやMnが存在していてもよい。
また、酸素極層34は、ガス透過性を有していなければならず、従って、酸素極層34を形成する導電性セラミックス(ペロブスカイト型酸化物)は、開気孔率が20%以上、特に30〜50%の範囲にあることが望ましい。
このような酸素極層34の厚みは、集電性という点から30〜100μmであることが望ましい。
(インターコネクタ35)
上記の酸素極層34に対面する位置において、導電性支持体31上に設けられているインターコネクタ35は、導電性セラミックスからなるが、燃料ガス(水素)及び酸素含有ガスと接触するため、耐還元性、耐酸化性を有していることが必要である。このため、かかる導電性セラミックスとしては、一般に、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(LaCrO3系酸化物)が使用される。また、導電性支持体31の内部を通る燃料ガス及び導電性支持体31の外部を通る酸素含有ガスのリークを防止するため、かかる導電性セラミックスは緻密質でなければならず、例えば93%以上、特に95%以上の相対密度を有していることが好適である。
かかるインターコネクタ35は、ガスのリーク防止と電気抵抗という点から、10〜200μmであることが望ましい。即ち、この範囲よりも厚みが薄いと、ガスのリークを生じやすく、またこの範囲よりも厚みが大きいと、電気抵抗が大きく、電位降下により集電機能が低下してしまうおそれがあるからである。
また、図1から明らかな通り、ガスのリークを防止するため、インターコネクタ35の両サイドには、緻密質の固体電解質層33が密着しているが、シール性を高めるために、例えばY2O3などからなる接合層(図示せず)をインターコネクタ35の両側面と固体電解質層33との間に設けることもできる。
インターコネクタ35の外面(上面)には、P型半導体層39を設けることが好ましい。即ち、この燃料電池セルから組み立てられるセルスタック(図2参照)では、インターコネクタ35には、導電性の集電部材40が接続されるが、集電部材40を直接インターコネクタ35に直接接続すると、非オーム接触により、電位降下が大きくなってしまい、集電性能が低下してしまう。
しかるに、集電部材40を、P型半導体層39を介してインターコネクタ35に接続させることにより、両者の接触がオーム接触となり、電位降下を少なくし、集電性能の低下を有効に回避することが可能となり、例えば、一方の燃料電池30の酸素極層34からの電流を、他方の燃料電池30の導電性支持体31に効率良く伝達できる。このようなP型半導体としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物を例示することができる。
具体的には、インターコネクタ35を構成するLaCrO3系酸化物よりも電子伝導性が大きいもの、例えば、BサイトにMn、Fe、Coなどが存在するLaMnO3系酸化物、LaFeO3系酸化物、LaCoO3系酸化物などの少なくとも一種からなるP型半導体セラミックスを使用することができる。このようなP型半導体層39の厚みは、一般に、30〜100μmの範囲にあることが好ましい。
また、インターコネクタ35は、固体電解質層33が設けられていない側の導電性支持体31の平坦部分A上に直接設けることもできるが、この部分にも燃料極層32を設け、燃料極層32上にインターコネクタ35を設けることもできる。即ち、燃料極層32を導電性支持体31の全周にわたって設け、この燃料極層32上にインターコネクタ35を設けることができる。燃料極層32を介してインターコネクタ35を導電性支持体31上に設けた場合には、導電性支持体31とインターコネクタ35との間の界面での電位降下を抑制することができる上で有利である。
(導電性支持体及び燃料電池セルの製造)
以上のような構造を有する導電性支持体31、該導電性支持体31を備えた燃料電池セルは、以下のようにして製造される。
先ず、Ni或いはその酸化物粉末と、Y2O3等の無機骨材の粉末と、前述した酸化還元膨張抑制用金属Mを含む化合物の粉末とを、所定の量比で混合し、さらに、アクリル樹脂やポリビニルアルコール等の有機バインダと、イソプロピルアルコールや水等の溶媒とポア形成剤を混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いての押出成形により、導電性支持体用成形体を作製し、これを乾燥する(この導電性支持体用成形体を焼成することにより、導電性支持体31が得られる)。
尚、ポア形成剤としては、有機物であればどのようなものであってもよいが、セルロース系のポア形成剤を用いることが好ましい。また平均粒径の異なるポア形成剤を用いる事で、開気孔率を制御できると共に、細孔径をも制御することができ、粒径の小さいポア形成剤を用いることにより、導電性支持体の強度を高めることができる。
このように、粒径の異なるポア形成剤を用いることにより、開気孔率の制御を容易とすることができ、セル作製後の1回目の還元雰囲気に晒された場合の還元膨張を収縮側に向けることができる。また、粒径の小さなポア形成剤を用いることにより、セル作製後の1回目の還元雰囲気に晒された場合の還元膨張を収縮側にさらに向け、収縮とすることができ、より厳密な導電性支持体の線膨張率を制御することができる。
開気孔率を20〜35%に制御するには、ポア形成剤の種類、形状、サイズ、量を制御したり、他に焼成温度、無機骨材層の粒子サイズ、金属M量を制御することにより可能である。
尚、酸化還元膨張抑制用金属Mを含む化合物としては、Fe2O3、Mn2O3、Co3O4として用いることが好ましい。また、金属MをNi相へ固溶させるときには、Ni等の合金の形で使用することもできる。
次に、燃料極層形成用材料(Ni或いはNiO粉末と安定化ジルコニア粉末)、有機バインダ及び溶媒を混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いて燃料極層用のシートを作製する。また、燃料極層用のシートを作製する代りに、燃料極形成用材料を溶媒中に分散したペーストを、上記で形成された導電性支持体用成形体の所定位置に塗布し乾燥して、燃料極層用のコーティング層を形成してもよい。
さらに、安定化ジルコニア粉末等の固体電解質層材粉末と、有機バインダと、溶媒とを混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いて固体電解質層用シートを作製する。
上記のようにして形成された支持体成形体、燃料極層用シート及び固体電解質層用シートを、例えば図1に示すような層構造となるように積層し、乾燥し、さらに必要により1000℃程度の温度で仮焼する。この場合、導電性支持体用成形体の表面に燃料極層用のコーティング層が形成されている場合には、固体電解質層用シートのみを導電性支持体用成形体に積層すればよい。
この後、インターコネクタ用材料(例えば、LaCrO3系酸化物粉末)、有機バインダ及び溶媒を混合してスラリーを調製し、インターコネクタ用シートを作製する。
このインターコネクタ用シートを、上記で得られた積層体の所定位置にさらに積層し、焼成用積層体を作製する。
次いで、上記の焼成用積層体を脱バインダ処理し、酸素含有雰囲気中、1300〜1600℃で同時焼成し、得られた焼結体の所定の位置に、酸素極形成用材料(例えば、LaFeO3系酸化物粉末)と溶媒を含有するペースト、及び必要により、P型半導体層形成用材料(例えば、LaFeO3系酸化物粉末)と溶媒を含むペーストを、ディッピング等により塗布し、1000〜1300℃で焼き付けることにより、図1に示す構造の導電性支持体31を備えた燃料電池セル30を製造することができる。
尚、導電性支持体31や燃料極層32の形成に金属ニッケルを用いた場合には、酸素含有雰囲気での焼成により、Niが酸化されてNiOとなっているが、発電時に還元雰囲気に曝されることにより、Niに戻すことができる。
このようにして製造される導電性支持体31を備えた燃料電池セル30では、発電(燃料電池セル30の作動)及び発電停止などに伴う還元・酸化サイクルによる導電性支持体31の体積膨張を有効に抑制することができるため、このような膨張による固体電解質層33でのクラックの発生、導電性支持体31からの固体電解質層33の剥離などの不都合が有効に防止され、長期にわたって信頼性を確保することができる。
(セルスタック及び燃料電池)
セルスタックは、図2に示すように、上述した燃料電池セル30が複数集合して、上下に隣接する一方の燃料電池セル30と他方の燃料電池セル30との間に、金属フェルト及び/又は金属板からなる集電部材40を介在させ、両者を互いに直列に接続することにより構成される。即ち、一方の燃料電池セル30の導電性支持体31は、インターコネクタ35、P型半導体層39、集電部材40を介して、他方の燃料電池セル30の酸素極層34に電気的に接続されている。また、このようなセルスタックは、図2に示すように、サイドバイサイドに配置されており、隣接するセルスタック同士は、導電部材42によって直列に接続されている。
上述した構造の燃料電池セルは、図2のセルスタックを、収納容器内に収容して燃料電池として使用に供される。この収納容器には、外部から水素等の燃料ガスを燃料電池セル30に導入する導入管、及び空気等の酸素含有ガスを燃料電池セル30の外部空間に導入するための導入管が設けられており、各燃料電池セルが所定温度(例えば、600〜900℃)に加熱されることにより発電し、使用された燃料ガス、酸素含有ガスは、収納容器外に排出される。
図3は、本発明の固体電解質形燃料電池セルの他の形態を示すもので、(a)は燃料電池セルの正面図を、(b)は、支持体の断面を示している。この燃料電池セルでは、導電性支持体31は燃料ガスが通過する燃料ガス通路31aを有しており、導電性支持体31の燃料ガス排出側端部が、保護膜49で被覆されている。
即ち、導電性支持体31は、その軸方向(長さ方向)に6個の燃料ガス通路31aを有しており、その燃料ガス排出側端部には、酸素極層34が形成されていない非発電部55が形成されている。支持体31の燃料ガス排出側端面及び、燃料ガス排出側端部の支持体31の燃料ガス通路31a内面(非発電部における燃料ガス通路31a内面)には、保護膜49が形成され、導電性支持体31が保護されている。
このような固体電解質形燃料電池セルでは、導電性支持体31の燃料ガス排出側端部が保護膜49で被覆されているため、いわゆる負荷追従運転を繰り返し、導電性支持体31の燃料ガス排出側端部が空気(酸素源)に晒されたとしても、支持体31の酸化を防止し、酸化還元による変形を防止することができる。
尚、本発明は上記形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、導電性支持体31の形状を円筒状とすることも可能であるし、導電性支持体31を備えた燃料電池セル30では、酸素極層34と固体電解質層33との間に、適当な導電性を有する中間層を形成することも可能である。また、上記形態では、導電性支持体31の上面に燃料極層32を形成した場合について説明したが、導電性支持体自体が燃料極として機能する場合であっても良い。
平均粒径0.5μmのNiO粉末と、Y2O3粉末(平均粒径は0.6〜0.9μm)とを、焼成後におけるNiOがNi換算で48体積%、Y2O3が52体積%になるようにして混合した(試料No.1,3〜19)。尚、表1の試料No.2では、NiOがNi換算で48体積%と、8モル%Y2O3を含有するZrO2(YSZ)粉末を52体積%になるようにして混合し、試料No.20、21は、表1に示すような比率で、また無機骨材相としてYb2O3を用いた。さらに、試料No.3〜21では、酸化還元膨張抑制材Mとして、Fe、Co、Mnを用い、表1中には、NiとFe(Co、Mn)との合計量に対するFeの量(モル%)を記載した。
次に、平均長さ10μmのセルロース系ポア形成剤(繊維状セルロース)と平均幅1μmのセルロース系ポア形成剤(フレーク状セルロース)を、Ni粉末と無機骨材相形成粉末の混合粉体100質量部に対して、表1に示す質量部になるように外添し混合した。
上記の混合粉末に、有機バインダ(ポリビニルアルコール)と、水(溶媒)とを混合して調製したスラリーを直方体状に押出成形し、扁平状の支持体用成形体を作製し、これを乾燥した。
次に、8モル%Y2O3を含有するZrO2(YSZ)粉末と、NiO粉末と、有機バインダ(アクリル樹脂)と、溶媒(トルエン)とを混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いて燃料極層用シートを作製した。また、上記のYSZ粉末と、有機バインダ(アクリル樹脂)と、トルエンとを混合したスラリーを用いて、固体電解質層用シートを作製し、燃料極層用シートと固体電解質層用シートとを積層した。
この積層シートを、上記で作製された支持体用成形体に、該成形体の一方の平坦な面が露出するように(図1参照)巻き付け、乾燥した。
一方、平均粒径2μmのLaCrO3系酸化物粉末と、有機バインダ(アクリル樹脂)と、溶媒(トルエン)とを混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いてインターコネクタ用シートを作製した。このインターコネクタ用シートを、上記支持体用成形体の露出している平坦な部分に積層し、支持体用成形体、燃料極層用シート、固体電解質層用シート、インターコネクタ用シートからなる焼結用シートを作製した。
次に、この焼結用シートを脱バインダ処理し、大気中にて1500℃で同時焼成して焼結体を得た。
得られた焼結体を、平均粒径2μmのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末(酸素極用材料)と溶媒(ノルマルパラフィン)とからなるペースト中に浸漬し、焼結体に形成されている固体電解質層の表面に酸素極用コーティング層を形成し、同時に、上記ペーストをインターコネクタの外面に塗布し、P型半導体用コーティング層を設け、次いで1150℃で焼き付け、図1に示す構造の燃料電池セルを作製した。
作製した燃料電池セルにおいて、支持体の平坦部Aの長さは26mm、弧状部Bの長さは3.5mm、厚みは2.8mm、燃料極層の厚みは10μm、固体電解質層の厚みは40μm、酸素極層の厚みは50μm、インターコネクタの厚みは50μm、P型半導体層の厚みは50μmとした。
得られた燃料電池セルの支持体のガス通路に、酸素分圧約10−19Paの水素ガスを流し、還元雰囲気中において850℃で16時間還元処理(発電)した後、還元雰囲気のまま室温まで冷却した。この後、固体電解質層のクラック、固体電解質層の支持体からの剥離の有無を、光学顕微鏡(40倍)にて観察し、表1に記載した。
この後、燃料電池セルの支持体から、縦横3mmで長さ20mmの試料を切り出し、還元前後の長手方向の長さを測定し、下記式より還元時(1回目)の線膨張率を求めた。
線膨張率=(還元後の長さ−還元前の長さ)/(還元前の長さ)
次いで、室温まで冷却した後、6時間後に、850℃酸化雰囲気中で16時間酸化処理し、上記した還元処理から酸化処理までの還元酸化サイクルを1回とし、この還元酸化サイクルを3回繰り返した後、上記と同様にして線膨張率を求めた。その結果も表1に示した。
また、各試料の開気孔率をアルキメデス法により、細孔径を水銀圧入法により求め、その結果も表1に示した。アルキメデス法については、煮沸を1hr行い飽水重量、水中重量を測定した後、1hr乾燥して乾燥重量を測定し、JIS−R1634に基づき開気孔率を算出した。水銀圧入法については圧力0.2〜26000psiaの範囲で、JIS−R1655に基づき測定した。なお、表1の試料No.18は参考例である。
表1の結果から理解されるように、開気孔率が20%よりも小さい試料No.3では、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された時の線膨張率が0.07%となり、固体電解質層にクラックが発生し、開気孔率が41.5%の試料No.9では、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された時の線膨張率が0.21%となり固体電解質層が剥離した。
これに対して、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された時の線膨張率が−0.2〜0.04%である本発明の試料では、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された場合でも、固体電解質層のクラックや剥離は生じなかった。また、導電性支持体の開気孔率が20〜35%であり、細孔径が1.1〜3μmである場合には、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された時の線膨張率を−0.2〜0.04%とすることができ、燃料電池セル作製後の最初の還元雰囲気に晒された場合でも、固体電解質層のクラックや剥離は生じなかった。
また、膨張抑制金属Mを添加した試料No.5、6では、3回の還元酸化サイクルを繰り返した場合であっても、線膨張率の絶対値は0.07%以下と非常に小さいことが判る。
尚、導電性支持体の透過電子顕微鏡(TEM)分析の結果から、Feを加えた試料では、Ni/Y2O3の粒界にはFeの反応物は析出していないが、FeがNi相に固溶して偏在していることを確認した。
また、試料No.18の導電性支持体についてTEM分析した結果、Mnは、Ni/Y2O3の粒界にほとんど均一にNi/Y2O3の粒界相として分布しており、その粒界相は、Y2NiMnO6であることを確認した。