以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
(実施形態)
図1は、ベルト式無段変速機を備えた車両の動力伝達部分における全体を示す構成図である。図1に示すように、車両100は、動力発生手段としての内燃機関120から取り出された回転が、トルクコンバータ130と、前後進切換機構140と、ベルト式無段変速機110と、減速装置150と、差動装置160と、ドライブシャフト170とを介して車輪180に伝えられる。これにより、車輪180は回転し、車輪180が路面に前記回転を伝達する。このようにして、車両100は走行する。
ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50と、セカンダリプーリ60と、ベルト80とを含んで構成される。ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50に回転が入力される。プライマリプーリ50に入力された回転は、回転速度が調節されてセカンダリプーリ60に伝えられる。
セカンダリプーリ60に伝えられた回転は、減速装置150に伝えられる。なお、入力軸であるプライマリシャフト51の回転速度をセカンダリシャフト61の回転速度で除算した値を変速比という。また、変速比を変更することを、以下、変速という。
ベルト式無段変速機110は、例えば、プライマリプーリ50がベルト式無段変速機110の変速比を調節し、セカンダリプーリ60がプライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間でのベルト80の張力を調節する。但し、プライマリプーリ50及びセカンダリプーリ60は、後述する可動シーブと固定シーブとの距離を変更する点で共通し、構成も同様である。よって、以下、プライマリプーリ50を主に説明する。
図2は、プライマリプーリを示す断面図である。プライマリプーリ50は、プライマリシャフト51と、プライマリ固定シーブ52と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリプーリ油圧室54と、スプライン部55と、プライマリシリンダ56と、作動油閉じ込み装置10とを備える。
プライマリシャフト51は、図1に示すように、軸受81、軸受82によってインプットシャフト131の回転軸と同軸上に回転可能に支持される。また、セカンダリシャフト61は、軸受83、軸受84によってプライマリシャフト51に対して平行に回転可能に支持される。
プライマリシャフト51は、筒状に形成される。図2に示すように、プライマリシャフト51は、回転軸RLを軸として回転する。プライマリ固定シーブ52は、通常、プライマリシャフト51と一体に形成される。なお、プライマリ固定シーブ52は、プライマリシャフト51と別個に形成され、プライマリシャフト51に固定して設けられてもよい。
プライマリ固定シーブ52は、回転軸RLを軸にプライマリシャフト51と一体に回転する。ここで、回転軸RLと直交する方向を径方向という。プライマリ固定シーブ52は、プライマリシャフト51の外周から径方向に突出して形成される。
プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51とは別個に形成される。プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51が嵌め込まれる貫通孔を有して形成される。
前記貫通孔の内周面には、スプライン部55が形成される。スプライン部55は、キー溝となるスプラインと、前記スプラインに嵌め込まれる凸部とが対になって構成される。ベルト式無段変速機110は、プライマリ可動シーブ53の前記貫通孔の内周面に前記スプラインが形成され、プライマリシャフト51の外周面に前記凸部が形成される。
プライマリ可動シーブ53は、前記スプラインが、プライマリシャフト51の凸部に嵌め込まれて、プライマリシャフト51に取り付けられる。プライマリ可動シーブ53は、プライマリ固定シーブ52と対向してプライマリシャフト51に嵌め込まれる。
スプライン部55は、プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上をプライマリシャフト51の回転軸RLに沿って摺動できるようにプライマリ可動シーブ53を支持する。加えて、スプライン部55は、回転軸RLを軸とする回転をプライマリシャフト51からプライマリ可動シーブ53へ伝える。
上記構成により、プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51と一体に回転すると共に、プライマリシャフト51上をプライマリ固定シーブ52に対して近づく方向及びプライマリ固定シーブ52に対して遠ざかる方向にスライドして移動する。
プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との間には、略V字形状のプライマリ溝80aが形成される。また、セカンダリプーリ60にも、図1に示すように、プライマリ溝80aと同様のセカンダリ溝80bが形成される。プライマリ溝80aとセカンダリ溝80bとの間には、金属で形成された無端のベルト80が巻き掛けられている。これにより、ベルト80は、プライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間で回転を伝える。
プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上をスライド移動することにより、プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との距離が変化する。また、プライマリ可動シーブ53の移動と共に、図1に示すセカンダリ可動シーブ63もセカンダリ固定シーブ62に対して移動する。これにより、ベルト式無段変速機110は変速比が変わる。以下にプライマリ可動シーブ53を移動させるための機構と変速比が変化するメカニズムとを説明する。
図2に示すように、プライマリプーリ油圧室54は、プライマリシャフト51と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリシリンダ56とによって囲まれて形成される空間である。プライマリシリンダ56は、第1開口56aと第2開口56bとを有して形成される。
第2開口56bは、第1開口56aよりも大きい開口である。プライマリシリンダ56は、第1開口56a及び第2開口56bにプライマリシャフト51が嵌め込まれる。ここで、プライマリシャフト51は、第2開口56bからプライマリシリンダ56に嵌め込まれる。
第2開口56bには、プライマリ可動シーブ53も嵌め込まれる。ここで、プライマリ可動シーブ53は、プライマリ可動シーブ53の一部分がプライマリシリンダ56の内壁面に接触する。なお、プライマリシリンダ56の内壁面とは、プライマリシャフト51の回転軸RL側の壁面である。本実施形態では、プライマリ可動シーブ53は、プライマリ可動シーブ53の最も径方向外側の部分がプライマリシリンダ56の内壁面に隙間無く接触する。
第1開口56aは、プライマリシャフト51と隙間無く接触する。これにより、プライマリシャフト51と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリシリンダ56の内壁面とによって密閉された空間が形成される。この空間が、プライマリプーリ油圧室54である。
なお、例えば、プライマリプーリ油圧室54は、プライマリシリンダ56とプライマリ可動シーブ53との隙間にシール部材を介在されて隙間が低減されている。しかしながら、プライマリ可動シーブ53はプライマリシリンダ56に対して摺動するため、プライマリ可動シーブ53とプライマリシリンダ56との間に微小な隙間が生じる。本実施形態では、このように実際は微小な隙間がある場合でも、隙間がないものとして説明する。
プライマリプーリ油圧室54には、作動油が供給されると、プライマリプーリ油圧室54内での前記作動油の圧力により、プライマリ可動シーブ53は、プライマリ固定シーブ52側へ押される。これにより、プライマリ可動シーブ53とプライマリ固定シーブ52との間の距離が小さくなる。
すると、ベルト80は、径方向外側へ移動する。ここで、ベルト80とプライマリ溝80aとが接触する部分と、回転軸RLとの距離を接触半径という。このようにして、プライマリプーリ油圧室54に作動油が供給されて、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52に近づく方向へスライド移動すると、プライマリプーリ50の接触半径が増加する。
一方、セカンダリプーリ60では、セカンダリ可動シーブ63はセカンダリ固定シーブ62から遠ざかる方向へスライド移動する。これは、ベルト80の長さは一定であり、ベルト80の張力を略一定に保つためである。ベルト式無段変速機110は、セカンダリプーリ60での接触半径を減少させることにより、ベルト80のプライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間の張力を略一定に保つ。
このようにして、プライマリプーリ50での接触半径とセカンダリプーリ60での接触半径とが変化することにより変速比が変化する。ここで、具体的には、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52側へ近づくと、変速比は小さくなる。つまり、ベルト式無段変速機110はいわゆるシフトアップする。一方、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52から遠ざかると、変速比は大きくなる。つまり、ベルト式無段変速機110はいわゆるシフトダウンする。
作動油閉じ込み装置10は、作動油が溜められるオイルパンOTからプライマリプーリ油圧室54に至るまでにプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油が流れるメイン油路上に設けられる。作動油閉じ込み装置10は、プライマリプーリ油圧室54を強制的に閉じ込める手段である。なお、後に作動油閉じ込み装置10を詳細に説明する。
次に、作動油が溜められるオイルパンOTからプライマリプーリ油圧室54に至るまでにプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油が流れるメイン油路の構成及び前記メイン油路上に設けられる各構成を説明する。
図3は、プライマリプーリ油圧室に供給される作動油が流れる油路を示す模式図である。以下、作動油の流れの上流側を単に上流側といい、作動油の流れの下流側を単に下流側という。
前記メイン油路は、図3に示すように、オイルパンOTからプライマリプーリ油圧室54に向かって順に、シャフト外メイン作動油用油路OL21と、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11と、シャフト内軸方油路OL01と、シャフト内径方油路OL02と、可動シーブ油路OL03とを含んで構成される。
シャフト外メイン作動油用油路OL21上には、オイルパンOTからプライマリプーリ油圧室54に向かって順に、オイルポンプOPと、調圧弁OR01と、流量調節弁OFとが設けられている。
オイルポンプOPは、シャフト外メイン作動油用油路OL21を介してオイルパンOT内の作動油を吸い上げて、下流側のシャフト外メイン作動油用油路OL21へ前記作動油を送る。
調圧弁OR01は、オイルポンプOPから送り出された作動油がシャフト外メイン作動油用油路OL21を介して供給される。調圧弁OR01は、調圧弁OR01よりも下流側のシャフト外メイン作動油用油路OL21へ流す作動油の圧力を調節する。
調圧弁OR01によって作動油の圧力が調節された結果、調圧弁OR01に供給された作動油のうちシャフト外メイン作動油用油路OL21を介して下流側の流量調節弁OFに供給されない作動油は、ドレン油路OLd01を介してオイルパンOTへ戻される。
流量調節弁OFは、調圧弁OR01によって圧力を調節されてシャフト外メイン作動油用油路OL21を介して作動油が供給される。流量調節弁OFは、下流側のシャフト外メイン作動油用油路OL21へ流す作動油の流量を調節する。
流量調節弁OFによって流量が調節された結果、流量調節弁OFに供給された作動油のうちシャフト外メイン作動油用油路OL21を介して下流側の作動油閉じ込み手段としての作動油閉じ込み装置10に供給されない作動油は、ドレン油路OLd02を介してオイルパンOTへ戻される。
シャフト外メイン作動油用油路OL21は、下流側の端部が作動油閉じ込み装置10に接続される。流量調節弁OFによって流量を調節された作動油は、シャフト外メイン作動油用油路OL21を介して下流側の作動油閉じ込み装置10に供給される。作動油閉じ込み装置10は、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11を有する。
作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11の一方の端部OL11aは、シャフト外メイン作動油用油路OL21と連通する。また、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11の他方の端部OL11bは、シャフト内軸方油路OL01と連通する。
シャフト内軸方油路OL01は、図2に示すように、回転軸RLに沿ってプライマリシャフト51に形成される。プライマリシャフト51には、回転軸RLに沿って軸方向穴57が形成される。シャフト内軸方油路OL01は、軸方向穴57の一部である。
具体的には、軸方向穴57は、開口としての入口57aと、閉塞部としての底部57bとが形成される。作動油閉じ込み装置10は、入口57aから軸方向穴57に挿入される。ここで、軸方向穴57の軸方向の長さは、作動油閉じ込み装置10の軸方向の長さよりも長く形成される。作動油閉じ込み装置10は、軸方向穴57に挿入される際に、端部OL11bが底部57bよりも浅い位置、つまり入口57a側に配置される。
このようにして、端部OL11bと底部57bとの間に形成された空間がシャフト内軸方油路OL01となる。シャフト内径方油路OL02は、一方の端部OL02aがシャフト内軸方油路OL01と連通し、他方の端部OL02bがプライマリシャフト51の外周面に開口する。
前記外周面とはプライマリ可動シーブ53と対向するプライマリシャフト51の側周部である。プライマリシャフト51の前記外周面と対向するプライマリ可動シーブ53の面をプライマリ可動シーブ53の内周面とする。
可動シーブ油路OL03は、プライマリ可動シーブ53に形成される。可動シーブ油路OL03は、一方の端部OL03aがシャフト内径方油路OL02の端部OL02bと連通し、他方の端部OL03bがプライマリプーリ油圧室54に開口する。ここで、端部OL03aは、プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上をスライド移動しても、常に空間部58を介して端部OL02bと連通するように構成される。
このようにして、作動油閉じ込み装置10の作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11を介してシャフト内軸方油路OL01に供給された作動油は、シャフト内径方油路OL02、空間部58、可動シーブ油路OL03を順に介してプライマリプーリ油圧室54に供給される。
また、プライマリプーリ油圧室54から排出される作動油は、可動シーブ油路OL03、空間部58、シャフト内径方油路OL02、シャフト内軸方油路OL01、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11を順に介してプライマリプーリ50の外部に排出される。次に、作動油閉じ込み装置10の構成を詳細に説明する。
図4は、作動油閉じ込み装置を拡大して示す断面図である。作動油閉じ込み装置10は、シリンダ11と、ピストン12と、油路構成部材13と、スナップリング14a及びスナップリング14bと、ピストン動作用油圧室15と、弁体16と、押付手段としてのスプリング17とを含んで構成される。なお、前記押付手段は、スプリング17に限定されない。押付手段は、例えば弾性部材であり、板バネや、ゴム等でもよい。
ここで、作動油閉じ込み装置10は、プライマリシャフト51の軸方向穴57に挿入されて配置されるため、プライマリシャフト51と共に回転軸RLを中心に回転する。しかし、以下では説明の便宜上、プライマリシャフト51が回転していないものとして説明する。
よって、実際はプライマリシャフト51と共に回転軸RLを軸に回転する部材であっても、プライマリシャフト51に対して相対移動しない部材を単に静止部材という。一方、プライマリシャフト51に対して相対移動する部材を可動部材という。
シリンダ11は、静止部材である。シリンダ11は、貫通孔11aを有するように筒状に形成される。また、シリンダ11は、大外径部11bと、小外径部11cと、段差面11dとが形成される。シリンダ11は、段差面11dよりも底部57b側が大外径部11bであり、段差面11dよりも入口57a側が小外径部11cである。大外径部11bは、小外径部11cよりも回転軸RLから外周面までの距離が大きい。なお、回転軸RLから外周面までの距離を外径といい、回転軸RLから内周面までの距離を内径という。
シリンダ11は、大外径部11bの外径が軸方向穴57の入口57aの内径と略同一に形成される。シリンダ11は、軸方向穴57に入口57aから挿入される。この際、軸方向穴57の内壁面と、シリンダ11の外周面との間の隙間を低減するために、軸方向穴57の壁面と、シリンダ11の外周面との間にはシール部材SL01が介在される。
ここで、軸方向穴57の内壁面には、例えば段差部57cが形成される。具体的には、段差部57cの位置より底部57b側の軸方向穴57の内径よりも、段差部57cの位置より入口57a側の軸方向穴57の内径の方が大きく形成される。また、シリンダ11の大外径部11bの外径は、段差部57cより底部57b側の軸方向穴57の内径よりも大きい。これにより、シリンダ11は、底部57b側へ向かう軸方向の移動が段差部57cにより規制される。
また、シリンダ11は、段差面11dがスナップリング14aと接触する。スナップリング14aは、軸方向穴57の内壁面に形成された溝に嵌め込まれる。これにより、シリンダ11は、入口57a側へ向かう軸方向の移動がスナップリング14aにより規制される。
このようにして、シリンダ11は、段差部57cとスナップリング14aとによって挟まれて軸方向の移動が規制される。しかしながら、例えば、段差部57cは必ずしも形成されなくてもよい。シリンダ11に働く軸方向の力は、通常、シリンダ11が底部57bに近づく方向の力よりも、シリンダ11が入口57aに近づく方向の力の方が大きい。よって、シリンダ11は、少なくとも入口57a側へ近づく方向の移動が規制されればよい。
また、シリンダ11の入口57a側へ近づく方向の移動を規制する手段は、スナップリング14aに限定されない。例えば、軸方向穴57の内壁面にメスネジを形成し、シリンダ11の外周面にオスネジを形成して、シリンダ11は軸方向穴57の内部にねじ込まれて固定されてもよい。この場合であっても、シリンダ11は、軸方向の移動が規制される。
図5は、ピストンを立体的に示す模式図である。図5では、説明の便宜を図り、ピストン12の一部を切り欠いて示す。図5に示す切り欠きは、実際はピストン12に形成されない。
図4及び図5に示すピストン12は、軸方向に移動する可動部材である。ピストン12は、貫通孔12aを有するように筒状に形成される。また、ピストン12は、外周面12bと、シリンダ対向部12cと、油路構成部材対向部12dと、支持部12eと、孔12fと、柱状体12gと、第1受圧面12hと、第2受圧面12iとを含んで形成される。
図4に示すように、ピストン12は、支持部12eよりも底部57b側であってシリンダ11側の部分がシリンダ対向部12cであり、支持部12eよりも入口57a側であって油路構成部材13側の部分が油路構成部材対向部12dである。外周面12bの外径は、段差部57cよりも入口57a側の軸方向穴57の内径よりも小さい。
シリンダ対向部12cの内径、つまり回転軸RLからシリンダ対向部12cの内周面12kまでの距離は、小外径部11cの外径よりもわずかに大きい。ピストン12は、シリンダ対向部12cの内周面12kに小外径部11cの外周面が対向するように配置される。シリンダ対向部12cの内周面12kと小外径部11cの外周面との隙間には、シール部材SL02が介在される。
油路構成部材対向部12dの内径、つまり回転軸RLから油路構成部材対向部12dの内周面12mまでの距離は、後述する小外径部13bの外径よりもわずかに大きい。また、油路構成部材対向部12dの内径は、シリンダ対向部12cの内径よりも大きい。
油路構成部材対向部12d部分の貫通孔12aには、小外径部13bが嵌め込まれる。これにより、油路構成部材対向部12dの内周面12mは、小外径部13bの外周面と対向する。油路構成部材対向部12dの内周面12mと小外径部13bの外周面との隙間には、シール部材SL03が介在される。
支持部12eは、柱状体12gを支持する。柱状体12gは、回転軸RLに沿うように貫通孔12a及び貫通孔11aの内部に支持される。支持部12eは、孔12fが形成される。これにより、支持部12eよりもシリンダ11側の貫通孔12aの空間と、支持部12eよりも油路構成部材13側の貫通孔12aの空間とが、孔12fを介して連通する。つまり、貫通孔12aは、支持部12eよりもシリンダ11側の筒状部の内側の空間と、支持部12eよりも油路構成部材13側の筒状部の内側の空間と、孔12fとを含んで構成される空間である。
このように、ピストン12は、シリンダ対向部12cの内周面12kが小外径部11cの外周面と対向し、油路構成部材対向部12dの内周面12mが小外径部13bの外周面と対向する。これにより、ピストン12は、小外径部11cの外周面及び小外径部13bの外周面にガイドされて、回転軸RLに沿って移動する。
第1受圧面12hは、ピストン12のシリンダ11側の端面である。第1受圧面12hは、例えば、回転軸RLに直交する面である。第1受圧面12hは、ピストン動作用作動油の圧力を受ける。これにより、第1受圧面12hが受けたピストン動作用作動油の圧力によって、ピストン12は、弁体16から離れる方向に移動する力を受ける。
なお、ピストン12を移動させるためにピストン動作用油圧室15に供給される作動油と、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側へ押すためにプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油とを区別するために、ピストン12を弁体16側へ押すためにピストン動作用油圧室15に供給される作動油をピストン動作用作動油という。ピストン動作用作動油は、作動油閉じ込み装置10の開閉を制御するための作動油である。
また、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側へ押すためにプライマリプーリ油圧室54に供給される作動油を、メイン作動油という。
第1受圧面12hは、ピストン12が最もシリンダ11側に移動した際でも、段差面11dと接触しない。ピストン12は、第1受圧面12hと段差面11dとの間に常に空間が形成されるように構成される。
具体的には、ピストン12は、ピストン12がシリンダ11側へ移動した際に、第1受圧面12hが段差面11dに接触するよりも以前に、シリンダ11の入口57a側の端部11eが支持部12eのシリンダ11側の面と接触するように構成される。
つまり、ピストン12は、支持部12eのシリンダ11側の面と第1受圧面12hとの距離が、段差面11dから端部11eまでの距離よりも短く形成される。これにより、ピストン12は、底部57b側へ向かう移動が、支持部12e及び端部11eによって規制される。
第2受圧面12iは、ピストン12の入口57a側の端面である。第2受圧面12iは、例えば、回転軸RLに直交する面である。第2受圧面12iは、ピストン動作用作動油の圧力を受ける。これにより、第2受圧面12iが受けたピストン動作用作動油の圧力によって、ピストン12は、弁体16に近づく方向に移動する力を受ける。
内周面12kは、シリンダ対向部12c部分の内周面である。内周面12mは、油路構成部材対向部12d部分の内周面である。
第3受圧面12nは、ピストン12の支持部12eの端面のうち、油路構成部材対向部12d側の端面である。第3受圧面12nは、メイン作動油の圧力を受ける。これにより、第3受圧面12nが受けたメイン作動油の圧力によって、ピストン12は、弁体16に近づく方向に移動する力を受ける。
第4受圧面12oは、ピストン12の支持部12eの端面のうち、シリンダ対向部12c側の端面である。第4受圧面12oは、メイン作動油の圧力を受ける。これにより、第4受圧面12oが受けたメイン作動油の圧力によって、ピストン12は、弁体16から離れる方向に移動する力を受ける。
油路構成部材13は、静止部材である。油路構成部材13は、貫通孔13aを有するように筒状に形成される。また、油路構成部材13は、小外径部13bと、大外径部13cと、段差部13dと、最大外径部13eとが形成される。
油路構成部材13は、段差部13dよりも底部57b側が小外径部13bであり、段差部13dよりも入口57a側が大外径部13cである。小外径部13bの外径は、ピストン12の油路構成部材対向部12dの内径よりもわずかに小さい。油路構成部材13は、小外径部13bの外周面が、油路構成部材対向部12dの内周面12mと対向するように配置される。
大外径部13cの外径は、油路構成部材対向部12dの内径よりも大きく、軸方向穴57の内径よりも小さい。これにより、大外径部13cは、ピストン12の油路構成部材対向部12d部分の貫通孔12aには挿入されずに、段差部13dが第2受圧面12iと干渉する。これにより、ピストン12は、軸方向の移動のうち入口57a側に向かう移動が段差部13dによって規制される。
また、好ましくは、ピストン12が入口57a側へ移動し、第2受圧面12iと段差部13dとが干渉すると同時に、油路構成部材13の底部57b側の端部13fとピストン12の支持部12eとが干渉すると好ましい。これにより、ピストン12が入口57a側へ移動し、油路構成部材13と接触する際に、第2受圧面12iのみが油路構成部材13に接触する場合よりもピストン12と油路構成部材13との接触面積が増加する。
接触部分に同じ大きさの力が与えられる場合、前記接触部分の接触面積が大きいほど、前記接触部分の摩耗は抑制される。よって、第2受圧面12iのみが油路構成部材13に接触する場合よりも、ベルト式無段変速機110は、ピストン12及び油路構成部材13の摩耗を抑制できる。
油路構成部材13は、最大外径部13eの外径が、軸方向穴57の内径と略同一に形成される。また、油路構成部材13は、最大外径部13eの外周面と軸方向穴57の内周面との隙間にシール部材SL04が介在される。これにより、油路構成部材13は、軸方向穴57に最大外径部13eが隙間無く挿入される。
また、油路構成部材13は、入口57a側の端部がスナップリング14bと接触する。スナップリング14bは、軸方向穴57の内壁面に形成された溝に嵌め込まれる。これにより、油路構成部材13は、入口57a側へ向かう軸方向の移動がスナップリング14bにより規制される。
ピストン動作用油圧室15は、例えば、第1受圧面12hと、小外径部11cの外周面と、段差面11dと、軸方向穴57の内周面の一部とで囲まれる空間である。本実施形態では、油路構成部材13の大外径部13cの外周面と軸方向穴57の内周面とで囲まれる空間及びピストン12の外周面12bと軸方向穴57の内周面とで囲まれる空間を、ピストン動作用油圧室15に作動油を供給するためのピストン動作用第3油路OL14として取り扱う。
但し、油路構成部材13の大外径部13cの外周面と軸方向穴57の内周面とで囲まれる空間及びピストン12の外周面12bと軸方向穴57の内周面とで囲まれる空間をピストン動作用油圧室15として取り扱ってもよい。ピストン動作用油圧室15は、第1受圧面12hに弁体16から離れる方向にピストン12を押す力を与えられる構成であればよい。
ここで、作動油閉じ込み装置10は、ピストン12が最も底部57b側に位置する場合であっても、必ずピストン12の第1受圧面12hが段差面11dに接触しないように構成される。つまり、作動油閉じ込み装置10は、段差面11dと第1受圧面12hとの間には常に隙間が存在する。
なお、本実施形態では、作動油閉じ込み装置10は、段差面11dと第1受圧面12hとの間に補助スプリング17aが配置される。補助スプリング17aは、弁体16から離れる方向にピストン12を押す。
補助スプリング17aは、ピストン12を弁体16から離れる方向へ押す手段であるピストン動作用油圧室15の補助として機能する。なお、補助閉弁力発生手段は、補助スプリング17aに限定されない。補助閉弁力発生手段は、例えば弾性部材であり、板バネや、ゴム等でもよい。
よって、弁体16から離れる方向へピストン12を移動させるために十分な力をピストン動作用油圧室15が発生できる場合、作動油閉じ込み装置10は補助スプリング17aを備えなくてもよい。この場合、作動油閉じ込み装置10は、部品点数が低減される。
シリンダ11は、ピストン12の先端部分12jが配置される位置よりも底部57b側に、弁孔11fと台座面11gとが形成される。弁孔11fは、設けられる位置の上流側と下流側とを連通する孔である。メイン作動油は、弁孔11fを介して流れる。弁孔11fの直径は、球体である弁体16の直径よりも小さい。台座面11gは、弁孔11fに近づくほど回転軸RLとの距離が小さくなる斜面である。
弁体16は、弁孔11fに入口57a側へ向かって押し付けられることにより、弁孔11fを塞ぐ。これにより、弁体16が弁孔11fに押し付けられている間、弁孔11fよりも底部57b側の作動油は、弁孔11fよりも入口57a側へは流動できない。
スプリング17は、一方の端部が弁体16に固定され、他方の端部が静止部材に固定される。ここでは、スプリング17は、シリンダ11に固定された構造部材に他方の端部が固定される。スプリング17は、弁体16を弁孔11fに入口57a側へ向かって最小限の力で押し付ける。
ここで、スプリング17が弁体16を弁孔11fに押し付ける「最小限の力」を説明する。弁体16は、弁孔11fよりも底部57b側の作動油によって、自然と弁孔11fに押し付けられる。しかしながら、例えば、弁孔11fよりも入口57a側の作動油の圧力と、弁孔11fよりも底部57b側の作動油の圧力とが一致する場合、弁体16は弁孔11fに押し付けられない。
これにより、弁体16は、例えば、自重により弁孔11fから離れるおそれがある。また、弁体16は、振動や、メイン作動油の揺らぎ等のわずかな外力によって、弁孔11fから離れるおそれがある。スプリング17は、弁体16を弁孔11fに最小限の力で押し付けて、弁体16を弁孔11fの近傍に留める。
よって、前記最小限の力とは、弁孔11fよりも入口57a側の作動油の圧力と、弁孔11fよりも底部57b側の作動油の圧力とが一致する場合でも、弁体16を弁孔11f近傍に留めることができる力である。次に、作動油閉じ込み装置10が備える油路を説明する。
作動油閉じ込み装置10は、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11と、ピストン動作用第1油路OL12と、ピストン動作用第2油路OL13と、ピストン動作用第3油路OL14とを備える。
作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11は、貫通孔13aと、貫通孔12aと、貫通孔11aを含んで構成される。作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11内は、図2に示すプライマリプーリ油圧室54に供給されるメイン作動油が流れる。
一方、ピストン動作用第1油路OL12内、ピストン動作用第2油路OL13内、ピストン動作用第3油路OL14内は、ピストン12を弁体16側へ押すためのピストン動作用作動油が流れる。ピストン動作用第1油路OL12は、回転軸RLに沿って油路構成部材13に形成される。
ピストン動作用第2油路OL13は、径方向に沿って油路構成部材13に形成される。ピストン動作用第2油路OL13は、一方の開口端がピストン動作用第1油路OL12に連通し、他方の開口端がピストン動作用第3油路OL14に連通する。
ピストン動作用第3油路OL14は、油路構成部材13の大外径部13cの外周面と軸方向穴57の内周面との間に形成される空間と、ピストン12の外周面12bと軸方向穴57の内周面との間に形成される空間とを含んで構成される空間である。ピストン動作用第3油路OL14は、ピストン動作用油圧室15と連通する。上述したように、ピストン動作用第3油路OL14を、ピストン動作用油圧室15の一部として取り扱ってもよい。
ピストン動作用作動油は、ピストン動作用第1油路OL12と、ピストン動作用第2油路OL13と、ピストン動作用第3油路OL14とを介してピストン動作用油圧室15に供給される。
次に、ピストン動作用作動油の供給元を説明する。ピストン動作用作動油の供給元は、例えば、信号用作動油である。信号用作動油とは、ベルト式無段変速機110が備えるスプール弁や、電磁弁に入力される「信号油圧」を発生させる作動油である。
前記スプール弁は、例えば、入力される複数の前記信号油圧の大きさのバランスに基づいて、油路を切り替える。また、前記電磁弁はオンオフ制御されることで、前記信号用作動油を塞き止めたり流したりする。これにより、前記電磁弁はパルス信号を発生させる。
信号用作動油は、図3に示すシャフト外信号油圧用油路OL22を流れる。シャフト外信号油圧用油路OL22は、一方の端部が調圧弁OR01と流量調節弁OFとの間のシャフト外メイン作動油用油路OL21と連通する。また、シャフト外信号油圧用油路OL22は、他方の端部が、作動油閉じ込み装置10のピストン動作用第1油路OL12に連通する。信号用作動油は、前記一方の端部から前記他方の端部に向かって流れる。
シャフト外信号油圧用油路OL22上には、上流側から順に、減圧弁OR02、オンオフ切り替え弁OVが設けられる。減圧弁OR02は、調圧弁OR01によって圧力が調整されたメイン作動油が供給される。減圧弁OR02は、前記メイン作動油の圧力を信号油圧まで下げる。これにより、前記メイン作動油は、信号用作動油となる。なお、信号油圧とは、例えば、0.5MPa程度である。
減圧弁OR02から送り出された作動油は、シャフト外信号油圧用油路OL22を介してオンオフ切り替え弁OVに供給される。オンオフ切り替え弁OVは、作動油閉じ込み装置10を制御する作動油閉じ込み制御装置10Eと例えば電気的に接続されて、作動油閉じ込み制御装置10Eにより開弁及び閉弁が制御される。なお、作動油閉じ込み制御装置10Eは、例えば、図1に示す車両100を制御する車両制御装置にプログラムとして組み込まれて、オンオフ切り替え弁OVを制御する。
オンオフ切り替え弁OVが開弁すると、信号用作動油がオンオフ切り替え弁OVより下流側のシャフト外信号油圧用油路OL22、図4に示すピストン動作用第1油路OL12、ピストン動作用第2油路OL13、ピストン動作用第3油路OL14を介して、ピストン動作用油圧室15に供給される。
図6は、ピストンが底部側へ移動した後の作動油閉じ込み装置を示す断面図である。ここで、作動油閉じ込み装置10は、常時開のいわゆるノーマルオープン型の逆止弁装置である。ノーマルオープン型とは、ピストン動作用油圧室15内のピストン動作用作動油の圧力が0の状態を常時とした場合、常時開弁するものをいう。一方、ノーマルクローズ型とは、常時閉弁するものをいう。
ピストン動作用油圧室15にピストン動作用作動油が供給され、ピストン動作用油圧室15内のピストン動作用作動油の圧力が所定の圧力に達すると、ピストン12は、図6に示すように、第2受圧面12iが段差部13dと干渉し、支持部12eが端部13fと干渉するまで入口57a側へ移動する。
すると、ピストン12の弁体16側の端部である先端部分12jが図4に示すように弁体16を底部57b側へ押していた状態から、図6に示すように弁体16が弁孔11fを塞ぐ状態になる。これにより、図4に示す弁孔11fと弁体16との間の隙間が図6に示すようになくなる。
よって、弁孔11fよりもプライマリプーリ油圧室54側のメイン作動油は、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11側へ弁孔11fを介して流動できなくなる。このようにして、作動油閉じ込み装置10は、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込める。
また、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から、オンオフ切り替え弁OVが閉弁すると、ピストン動作用油圧室15への信号用作動油の供給が止まる。これにより、ピストン12が底部57b側へ移動し、プライマリプーリ油圧室54が開放状態となる。次に、ピストン12を軸方向に移動させるために必要な構成を説明する。
ピストン12は、図4及び図6に示すように、ピストン12に働く力であってピストン12を入口57a側へ押す方向の閉弁力F01と、ピストン12に働く力であってピストン12を底部57b側へ押す方向の開弁力F02との大きさの関係によって、その移動方向が決定する。
具体的には、開弁力F02が閉弁力F01よりも大きい場合、ピストン12は底部57b側へ移動する。また、開弁力F02が閉弁力F01よりも小さい場合、ピストン12は入口57a側へ移動する。また、開弁力F02が閉弁力F01と等しい場合、ピストン12は、現在の位置から移動しない。
まず、ピストン12に働く閉弁力F01の大きさを説明する。ピストン12の第1受圧面12hの面積を第1受圧面積S01aとする。第1受圧面12hには、ピストン動作用油圧室15内のピストン動作用作動油の圧力が入口57a側に向かって働く。
ピストン12の第2受圧面12iの面積を第2受圧面積S01bとする。第2受圧面12iには、ピストン動作用第3油路OL14内のピストン動作用作動油の圧力が底部57b側に向かって働く。
ピストン動作用作動油の圧力を圧力Psとする。補助スプリング17aが、ピストン12を入口57a側へ押す力を補助バネ力Fsp01とする。
F01=Ps・S01a+Fsp01−Ps・S01b ・・・(1)
閉弁力F01は、上記式(1)により算出される。式(1)を整理すると、下記式(2)となる。
F01=Ps(S01a−S01b)+Fsp01 ・・・(2)
このように、閉弁力F01は、第1受圧面積S01aから第2受圧面積S01bを減算した面積差に、ピストン動作用作動油の圧力Psを乗算し、その値に補助バネ力Fsp01を加算した値となる。
図7は、第1受圧面及び第2受圧面を回転軸方向に投影した投影図である。図7に示すように、第1受圧面12h及び第2受圧面12iを回転軸方向に投影した際に、第1受圧面12hと第2受圧面12iとが重ならない部分が、式(2)での(S01a−S01b)、つまり前記面積差となる。
ここで、閉弁力F01が負の値となる場合、ピストン12は、底部57b側へ移動するおそれがある。ピストン12は、第1受圧面積S01aが第2受圧面積S01bよりも大きくなるように、第1受圧面12h及び第2受圧面12iが形成される。
具体的には、ピストン12は、図4に示すように、シリンダ対向部12cの肉厚が、油路構成部材対向部12dの肉厚よりも大きく形成される。なお、肉厚とは、径方向の部材の寸法をいう。これにより、ピストン12は、閉弁力F01が常に正の値となる。
ここで、閉弁力F01の大きさが、開弁力F02に対して小さすぎる場合、ベルト式無段変速機110は、前記面積差(S01a−S01b)がより大きくなるように設計されるとよい。これにより、圧力Psの大きさが一定であっても、ベルト式無段変速機110は、閉弁力F01をより大きく確保できる。
次に、ピストン12に働く開弁力F02の大きさを説明する。図4及び図5に示すように、ピストン12の支持部12eの端面のうち、油路構成部材対向部12d側の端面である第3受圧面12nの面積を第3受圧面積S02aとする。第3受圧面12nには、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11内のメイン作動油の圧力が底部57b側に向かって働く。
ピストン12の支持部12eの端面のうち、シリンダ対向部12c側の端面である第4受圧面12oの面積を第4受圧面積S02bとする。第4受圧面12oには、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11内のメイン作動油の圧力が入口57a側に向かって働く。
メイン作動油の圧力を圧力Pinとする。スプリング17が、弁体16を入口57a側へ押す力をバネ力Fsp02とする。なお、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11内のメイン作動油の圧力と、シャフト内軸方油路OL01内のメイン作動油の圧力とは略同一である。例えば、弁体16を挟んでメイン作動油の圧力に差が生じると、作動油閉じ込み装置10が開弁した時に、この圧力の差によってベルト式無段変速機110はショックが生じるおそれがある。
調圧弁OR01は、前記ショックを抑制するため、弁体16よりも入口57a側のメイン作動油の圧力をプライマリプーリ油圧室54内のメイン作動油の圧力と略同一になるように調節する。よって、弁体16は、ピストン12及びスプリング17から受ける力以外、基本的には外部から力が作用することはない。
F02=Pin・S02a−Fsp02−Pin・S02b ・・・(3)
開弁力F02は、上記式(3)により算出される。式(3)を整理すると、下記式(4)となる。
F02=Pin(S02a−S02b)−Fsp02 ・・・(4)
このように、開弁力F02は、第3受圧面積S02aから第4受圧面積S02bを減算した面積差に、メイン作動油の圧力Pinを乗算し、その値からバネ力Fsp02を減算した値となる。
図8は、第3受圧面及び第4受圧面を回転軸方向に投影した投影図である。図8に示すように、第3受圧面12n及び第4受圧面12oを回転軸方向に投影した際に、第3受圧面12nと第4受圧面12oとが重ならない部分が、式(4)での前記面積差(S02a−S02b)となる。
ここで、開弁力F02が負の値となる場合、ピストン12は、入口57a側へ移動するおそれがある。ピストン12は、第3受圧面積S02aが第4受圧面積S02bよりも大きくなるように、第3受圧面12n及び第4受圧面12oが形成される。これにより、ピストン12は、開弁力F02が常に正の値となる。
このように、上記式(2)で求められる閉弁力F01が、式(4)で求められる開弁力F02よりも大きくなった際に、作動油閉じ込み装置10は閉弁する。すなわち、作動油閉じ込み装置10は、ピストン動作用作動油がピストン動作用油圧室15に供給されない場合、常に開弁し、下記式(5)を満たす場合のみに閉弁する。
Ps(S01a−S01b)+Fsp01>Pin(S02a−S02b)−Fsp02 ・・・(5)
ここで、ベルト式無段変速機110は、ピストン動作用作動油の圧力が働く面であって軸方向の力が働く面のうち、入口57a側に向かう力が働く面の面積を、底部57b側に向かう力が働く面の面積よりも大きくなるようにピストン12が形成される点に特徴がある。これにより、ベルト式無段変速機110は、ピストン動作用作動油の圧力により、ピストン12が入口57a側へ移動する力がピストン12に働く。
また、ベルト式無段変速機110は、メイン作動油の圧力が働く面であって軸方向の力が働く面のうち、底部57b側に向かう力が働く面の面積を、入口57a側に向かう力が働く面の面積よりも大きくなるようにピストン12が形成される点に特徴がある。これにより、ベルト式無段変速機110は、メイン作動油の圧力により、ピストン12が底部57b側へ移動する力がピストン12に働く。
ここで、従来の作動油閉じ込み装置は、ノーマルクローズ型の逆止弁装置である。よって、従来のベルト式無段変速機では、作動油閉じ込み装置の開弁を維持する間、ピストン動作用作動油の圧力を所定の圧力以上に維持する必要がある。そして、ピストン動作用作動油の圧力を所定の圧力以上に維持するためには、ベルト式無段変速機は、オイルポンプがピストン動作用作動油を加圧する必要がある。
通常、オイルポンプは、内燃機関120のクランクシャフト121から作動油を加圧するために必要な動力を得ている。よって、オイルポンプが消費する動力が増加すると、クランクシャフト121の有するエネルギーが消費される。このエネルギーの消費を補うために、内燃機関120は、燃料の噴射量が増加する。このように、従来のベルト式無段変速機は、作動油閉じ込み装置を開弁する間、オイルポンプが消費する動力が増加して、内燃機関120の燃料の消費量が増加する。
ここで、作動油閉じ込み装置が閉弁中は、プライマリプーリ油圧室54からメイン作動油は排出されず、ベルト式無段変速機は強制的に変速比が一定に維持される。よって、作動油閉じ込み装置が閉弁する際は、車両100が略一定速度での走行である定常走行中である。
定常走行の時間が長くなるほど、作動油閉じ込み装置は、閉弁時間が長くなる。しかしながら、車両100は、一般的に、定常走行する時間よりも、ベルト式無段変速機に変速が要求される走行時間の方が長い。よって、作動油閉じ込み装置の開弁時間と閉弁時間とでは、一般的に、開弁時間の方が長い。
上述のように、ノーマルクローズ型の作動油閉じ込み装置は、開弁時間が長くなるほど、開弁を維持するためにオイルポンプが消費する動力が増加して内燃機関120の燃料の消費量が増加する。よって、従来のベルト式無段変速機は、ノーマルクローズ型の作動油閉じ込み装置を備えることで、内燃機関120の燃料の消費量が増加するおそれがあった。
しかしながら、本実施形態の作動油閉じ込み装置10は、ノーマルオープン型である。よって、ベルト式無段変速機110は、一般的に、閉弁されている期間よりも時間が長い開弁中に開弁を維持するためにオイルポンプがピストン動作用作動油を加圧する必要がない。
つまり、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10を動作させるために必要なオイルポンプの動力を低減できる。これにより、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量を抑制できる。
また、例えば、オイルポンプに不具合が生じた場合でも、作動油閉じ込み装置10は、ノーマルオープン型であるため、車両100の安全性がより向上する。なお、従来の作動油閉じ込み装置を有するベルト式無段変速機110を備える車両も、十分な安全性を確保できている。作動油閉じ込み装置10は、前記十分な安全性よりもさらに安全性が向上する。以下に、オイルポンプに不具合が生じた場合に、本実施形態のベルト式無段変速機110が従来のベルト式無段変速機よりも安全である理由を説明する。
ベルト式無段変速機110は、プライマリシャフト51及びセカンダリシャフト61が回転しながら、プライマリ可動シーブ53及びセカンダリ可動シーブ63がそれぞれ移動することによって変速する。よって、ベルト式無段変速機110は、その構造上、プライマリシャフト51及びセカンダリシャフト61が回転していないと変速できない。よって、車輪180が回転していない場合、ベルト式無段変速機110は変速できない。
このため、例えば、ベルト式無段変速機110は、変速比が最小値の状態で車両100が停止すると、次に車両100が走行しはじめるときに、変速比が最小値であるため、車両100の発進が困難となる。また、車両100が走行し、車輪180が回転しないと、ベルト式無段変速機110は変速比を最大値側へ変更できない。
このように、ベルト式無段変速機110は、変速比が最小値の状態で車両100が停止すると、ベルト式無段変速機110の変速比が最小値に設定されているために車両100の走行に不具合が生じるおそれがある。
よって、車両100が停止する際は、ベルト式無段変速機110は、通常、車両100が停止するよりも前に変速比を最大値に設定しておく必要がある。ここで、変速比が最大値に変更する際に、仮にオイルポンプに不具合が発生したとする。この場合、オイルポンプは、ピストン動作用作動油を十分に加圧できない。
ここで、従来の作動油閉じ込み装置は、ノーマルクローズ型であるため、ピストン動作用作動油が十分に加圧されていないと、プライマリプーリ油圧室54を開放できない。よって、従来のベルト式無段変速機は、変速比が最大値に変更されない状態で、車両が停止するおそれがあった。
しかしながら、本実施形態の作動油閉じ込み装置10は、ノーマルオープン型であるため、ピストン動作用作動油が十分に加圧されていない場合でも、プライマリプーリ油圧室54が開放される。よって、ベルト式無段変速機110は、オイルポンプに不具合が発生した場合であっても、車両100が停止するよりも前に変速比が最大値に変更できないおそれを抑制できる。
また、本実施形態のベルト式無段変速機110は、従来のベルト式無段変速機よりも、変速が要求されてから、実際に変速が開始されるまでの時間が低減される。例えば、従来のベルト式無段変速機の場合、変速が要求された場合に、まずピストン動作用作動油を加圧する必要がある。
しかしながら、上述のように、作動油閉じ込み装置10は、ノーマルオープン型の逆止弁である。よって、ベルト式無段変速機110は、ピストン動作用作動油を加圧することなく、開弁中の作動油閉じ込み装置10を介してプライマリプーリ油圧室54にメイン作動油を供給できる。
また、ベルト式無段変速機110は、ピストン動作用作動油を加圧することなく、プライマリプーリ油圧室54内のメイン作動油を排出できる。このように、ベルト式無段変速機110は、変速が要求された際に、ピストン動作用作動油を加圧する作業を実行しない分、変速の要求がなされてから、実際に変速が開始されるまでの時間が低減される。
また、本実施形態のベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10が開弁される際に発生するショックが抑制される。前記ショックとは、弁体16が塞ぐ弁孔11fよりもプライマリプーリ油圧室54側のシャフト内軸方油路OL01内のメイン作動油の圧力と、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11内のメイン作動油の圧力との差により生じるショックである。
基本的には、開口部を挟んでメイン作動油の圧力の差が0になるように、ベルト式無段変速機は、調圧弁がメイン作動油の圧力を調節する。しかしながら、作動油閉じ込み装置が閉弁中、弁孔11fよりもプライマリプーリ油圧室54側のメイン作動油の圧力は、計算により算出された理論値である。よって、従来のベルト式無段変速機では、実際は、弁孔11fを挟んでメイン作動油の圧力に差が生じるおそれがあった。
例えば、プライマリプーリ油圧室54に供給されるメイン作動油の圧力が、弁孔11fよりもプライマリプーリ油圧室54側のメイン作動油の圧力よりも小さくなると、従来のベルト式無段変速機では、作動油閉じ込み装置が開弁する際に、前記ショックが発生するおそれがあった。特に、プライマリプーリ油圧室54にメイン作動油を供給する際は、作動油閉じ込み装置が開弁する際に、一時的にメイン作動油がプライマリプーリ油圧室54から排出される方向に逆流するおそれがあった。
しかしながら、ベルト式無段変速機110は、弁孔11fを挟んでメイン作動油の圧力に差が生じる場合、その構造上、弁孔11fを挟んでメイン作動油の圧力に差が十分に低減されてから作動油閉じ込み装置10が開弁する。以下、その理由を説明する。
作動油閉じ込み装置10は、開弁力F02が閉弁力F01より大きくなった際に開弁する。この時、開弁力F02の大きさは、上記式(4)によって求められ、閉弁力F01の大きさは、上記式(2)によって求められる。しかしながら、これらの式は、弁孔11fを挟んだメイン作動油の圧力の差が0であることが前提である。
よって、式(4)によって求められる開弁力F02が、式(2)によって求められる閉弁力F01より大きくなったとしても、弁孔11fよりも作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11側のメイン作動油の圧力が、弁孔11fよりもプライマリプーリ油圧室54側のメイン作動油の圧力に達するまで加圧されないと、作動油閉じ込み装置10は開弁しない。
このようにして、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11内のメイン作動油の圧力と、弁孔11fよりもプライマリプーリ油圧室54側のメイン作動油の圧力との差が低減される。これにより、ベルト式無段変速機110は、作動油閉じ込み装置10が開弁される際に発生するショックが抑制できる。
また、プライマリプーリ油圧室54にメイン作動油を供給する際、作動油閉じ込み装置内メイン油路OL11内のメイン作動油の圧力が十分に高くなった状態になってから作動油閉じ込み装置10が開弁するため、ベルト式無段変速機110は、前記逆流を抑制できる。
なお、作動油閉じ込み装置10は、プライマリシャフト51に形成される軸方向穴57に挿入されて配置される場合を説明したが、作動油閉じ込み装置10は、プライマリシャフト51の外部に配置されてもよい。作動油閉じ込み装置10は、例えば、図2に示すプライマリシリンダ56に隣接して配置されてもよい。