JP2007057033A - ベルト式無段変速機 - Google Patents

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Abstract

【課題】オイルポンプの動力損失の増加を抑制することができるベルト式無段変速機を提供すること。
【解決手段】プライマリプーリ50と、セカンダリプーリ60と、このプライマリプーリ50およびセカンダリプーリ60とを巻き掛けるベルト110と、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ側に押圧し、このプライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向への移動およびこの移動の規制を行うプライマリ油圧室55(位置決め油圧室)と、プライマリ油圧室55への作動油の供給を許容する作動油供給手段70と、プライマリ油圧室55からの作動油の排出の許容あるいは禁止を制御する作動油排出手段80とを備える。この作動油供給手段70および作動油排出手段80は、プライマリプーリ軸51の軸内(供給側空間部51a、排出側空間部51b)に配置され、プライマリプーリ軸51と一体回転する。
【選択図】 図2

Description

本発明は、ベルト式無段変速機に関するものである。
一般に、車両には、駆動源である内燃機関や電動機からの駆動力、すなわち出力トルクを車両の走行状態に応じた最適の条件で路面に伝達するために、駆動源の出力側に変速機が設けられている。この変速機には、変速比を無段階(連続的)に制御する無段変速機と、変速比を段階的(不連続)に制御する有段変速機とがある。ここで、無段変速機には、2つのプーリ、すなわち駆動源からの駆動力が伝達されるプライマリプーリおよびプライマリプーリに伝達された出力トルクを変化させて出力するセカンダリプーリと、このプライマリプーリに伝達された駆動力をセカンダリプーリに伝達するベルトとにより構成されるベルト式無段変速機がある。このプライマリプーリおよびセカンダリプーリは、平行に配置された2つのプーリ軸であるプライマリプーリ軸とセカンダリプーリ軸と、この各プーリ軸上を軸方向にそれぞれ摺動する2つの可動シーブ(プライマリ可動シーブ、セカンダリ可動シーブ)と、この2つの可動シーブに軸方向においてそれぞれ対向するとともに可動シーブとの間でV字形状の溝を形成する2つの固定シーブ(プライマリ固定シーブ、セカンダリ固定シーブ)と、可動シーブと固定シーブとの間にベルト挟圧力を発生するベルト挟圧力発生手段とにより構成されている。なお、ベルトは、プライマリプーリおよびセカンダリプーリのそれぞれに形成されるV字形状の溝に巻き掛けられている。
このベルト式無段変速機は、各ベルト挟圧力発生手段により2つの可動シーブが各プーリ軸上をその軸方向に摺動し、プライマリプーリおよびセカンダリプーリのそれぞれに形成されるV字形状の溝の幅を変化させる。これにより、ベルトと、プライマリプーリおよびセカンダリプーリとの接触半径を無段階に変化させ、変速比を無段階に変化するものである。つまり、駆動源からの出力トルクを無段階に変化させるものである。
このベルト挟圧力発生手段としては、例えば特許文献1に示すように、油圧室の油圧により、可動シーブを固定シーブ側に押圧し、ベルト挟圧力を発生させるものがある。ここで、ベルト式無段変速機では、固定シーブに対する可動シーブの軸方向への移動を規制する、すなわち固定シーブに対する可動シーブの軸方向における位置を一定とし、変速比を固定する場合がある。従って、上記特許文献1に示すような従来のベルト式無段変速機では、ベルト挟圧力を一定に保持するため、油圧室の油圧を所定の油圧に保持する必要がある。
特開2001−323978号公報
従って、従来のベルト式無段変速機では、変速比の変更時だけでなく変速比の固定時においても、油圧室に作動油を供給する必要がある。このため、作動油供給制御装置が備えるオイルポンプを作動させる必要がある。また、作動油供給制御装置から油圧室への作動油の供給は、ベルト式無段変速機の例えばケースなどの固定部材および例えばプーリ軸などの可動部材に形成された油路により行われる。従って、変速比の固定時においても油圧室に作動油を供給する場合は、この固定部材と可動部材との摺動部から作動油が漏れる虞がある。これらにより、オイルポンプの駆動損失が増加する虞があり、オイルポンプが内燃機関の駆動力により駆動する場合は、内燃機関の駆動力の伝達効率が低下する虞があった。
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、オイルポンプの動力損失の増加を抑制ことができるベルト式無段変速機を提供することを目的とするものである。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明では、平行に配置され、駆動源からの駆動力がいずれか一方に伝達される2つのプーリ軸と、当該2つのプーリ軸上をそれぞれ軸方向に摺動する2つの可動シーブと、当該2つの可動シーブに前記軸方向にそれぞれ対向し、かつ当該プーリ軸とそれぞれ一体回転する2つの固定シーブと、からなる2つのプーリと、前記2つのプーリのうちいずれか一方のプーリに伝達された前記駆動源からの駆動力を他方のプーリに伝達するベルトと、前記可動シーブを前記固定シーブ側に押圧することで、当該可動シーブの当該固定シーブに対する軸方向への移動および当該移動の規制を行う位置決め油圧室と、前記位置決め油圧室への作動油の供給のみを許容する作動油供給手段と、前記位置決め油圧室からの作動油の排出の許容あるいは禁止を制御する作動油排出手段と、を備え、前記作動油供給手段および前記作動油排出手段は、前記2つのプーリ軸のいずれか一方のプーリ軸内にともに配置され、当該プーリ軸と一体回転することを特徴とする。
この発明によれば、変速比を変更する際には、作動油供給手段により位置決め油圧室へ作動油を供給する、あるいは作動油排出手段を制御し、位置決め油圧室から作動油を排出する。一方、変速比を固定(一定)とする際には、作動油排出手段を制御し、位置決め油圧室の作動油の排出を禁止する。つまり、作動油供給手段が位置決め油圧室への作動油の供給のみを許容するものであるため、位置決め油圧室の作動油はこの位置決め油圧室内に保持されることとなる。従って、可動シーブの固定シーブに対する軸方向における位置が変化しようとしても、この位置決め油圧室の油圧が変化することで、可動シーブの固定シーブに対する軸方向における位置を一定に維持することができる。これにより、可動シーブの固定シーブに対する軸方向における位置を一定に維持するために、位置決め油圧室にこの位置決め油圧室外から作動油を供給しなくても良く、固定部材と可動部材との摺動部から作動油が漏れることを抑制することができるので、オイルポンプの動力損失の増加を抑制することができる。
また、この発明では、上記ベルト式無段変速機において、前記作動油供給手段および前記作動油排出手段は、前記プーリ軸の回転軸上に配置されていることを特徴とする。
この発明によれば、駆動源からの駆動力を伝達する際に回転するプーリ軸の回転軸上に作動油供給手段および作動油排出手段が配置されている。従って、作動油供給手段および作動油排出手段をプーリ軸の外部に配置した場合と比較して、この作動油供給手段および作動油排出手段に作用する遠心力を抑制することができる。これにより、作動油供給手段および作動油排出手段による作動油の供給、排出を安定して行うことができる。
また、作動油供給手段および作動油排出手段をプーリ軸の外部に配置した場合、プーリ軸の偏芯回転を抑制するために、この作動油供給手段および作動油排出手段を円周上にそれぞれ複数個配置することとなるが、この作動油供給手段および作動油排出手段をプーリ軸の回転軸上に配置することで、プーリ軸の偏芯回転を抑制することができる。従って、作動油供給手段および作動油排出手段を複数個必要とせず、小型化を図ることができる。
また、この発明では、上記ベルト式無段変速機において、前記プーリ軸の内径は、前記作動油排出手段が配置される部分よりも前記作動油供給手段が配置される部分が小さいことを特徴とする。
この発明によれば、作動油供給手段が配置される部分におけるプーリ軸の内径は、作動油排出手段が配置される部分におけるプーリ軸の内径よりも小さいので、位置決め油圧室への作動油の供給が禁止されている際において、作動油供給手段からプライマリ油圧室の作動油が漏れることを抑制することができ、オイルポンプの動力損失の増加をさらに抑制することができる。
また、この発明では、上記ベルト式無段変速機において、前記プーリ軸内において、前記作動油供給手段は前記作動油排出手段よりも固定シーブ側に配置されていることを特徴とする。
この発明によれば、作動油供給手段が配置されている固定シーブ側のプーリ軸の肉厚は、固定シーブ側におけるプーリ軸の内径がこの固定シーブ側と反対側におけるプーリ軸の内径よりも小さいので、固定シーブ側におけるプーリ軸の内径を小さくしなかった場合と比較して、厚くすることができる。従って、プーリ軸のうちこのプーリ軸と一体回転する固定シーブが設けられている部分の剛性の低下を抑制することができる。
また、この発明では、前記作動油供給手段は、供給側付勢手段により閉弁方向に付勢される供給側逆止弁を有し、前記作動油排出手段は、排出側付勢手段により閉弁方向に付勢される排出側逆止弁を有し、前記供給側逆止弁および前記排出側逆止弁は、開弁方向が対向するように配置され、前記供給側付勢手段と前記排出側付勢手段とが同一の付勢手段であることを特徴とする。
この発明によれば、前記供給側付勢手段と前記排出側付勢手段とが同一の付勢手段であるので、作動油供給手段および作動油排出手段のそれぞれに供給側付勢手段および排出側付勢手段を設ける場合と比較して、製造コストを低減することができる。また、作動油供給手段および作動油排出手段をプーリ軸の同一の空間部に配置することとなるので、プーリ軸に2つの空間部を形成し、それぞれ作動油供給手段および作動油排出手段を配置する場合と比較して、このプーリ軸に対する加工を容易に行うことができる。さらに、作動油供給手段および作動油排出手段をプーリ軸の同一の空間部に配置することとなるので、空間部の体積を大きくすることができ、軽量化を図ることができる。
この発明にかかるベルト式無段変速機は、可動シーブの固定シーブに対する軸方向における位置を一定とする際に、位置決め油圧室からの作動油の排出を禁止できるので、オイルポンプの動力損失の増加を抑制することができる。
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施例により、この発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。ここで、下記の実施例におけるベルト式無段変速機に伝達される駆動力を発生する駆動源として内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなど)を用いるが、これに限定されるものではなく、モータなどの電動機を駆動源として用いても良い。また、下記の実施例では、作動油供給手段及び作動油排出手段をプライマリプーリのプライマリプーリ軸内に配置しているが、セカンダリプーリのセカンダリプーリ軸内に配置しても良い。
図1は、実施例1にかかるベルト式無段変速機のスケルトン図である。また、図2は、プライマリプーリの要部断面図である。図3および図4は、変速比変更時におけるベルト式無段変速機の動作説明図である。図1に示すように、内燃機関10の出力側には、トランスアクスル20が配置されている。このトランスアクスル20は、トランスアクスルハウジング21と、このトランスアクスルハウジング21に取り付けられたトランスアクスルケース22と、このトランスアクスルケース22に取り付けられたトランスアクスルリヤカバー23とにより構成されている。
このトランスアクスルハウジング21の内部には、トルクコンバータ30が収納されている。一方、トランスアクスルケース22とトランスアクスルリヤカバー23とにより構成されるケース内部には、実施例1にかかるベルト式無段変速機1−1を構成する2つのプーリであるプライマリプーリ50およびセカンダリプーリ60と、位置決め油圧室であるプライマリ油圧室55と、セカンダリ油圧室64と、作動油供給手段70と、作動油排出手段80と、ベルト110とが収納されている。なお、40は前後進切換機構、90は車輪120に内燃機関10の駆動力を伝達する最終減速機、100は動力伝達経路、130は作動油供給制御装置(図2〜図4参照)である。
発進機構であるトルクコンバータ30は、図1に示すように、駆動源からの駆動力、すなわち内燃機関10からの出力トルクを増加、あるいはそのままベルト式無段変速機1−1に伝達するものである。このトルクコンバータ30は、少なくともポンプ(ポンプインペラ)31と、タービン(タービンインペラ)32と、ステータ33と、ロックアップクラッチ34と、ダンパ装置35とにより構成されている。
ポンプ31は、内燃機関10のクランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能な中空軸36に取り付けられている。つまり、ポンプ31は、中空軸36とともに、クランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能である。また、ポンプ31は、フロントカバー37に接続されている。このフロントカバー37は、内燃機関10のドライブプレート12を介して、クランクシャフト11に連結されている。
タービン32は、上記ポンプ31と対向するように配置されている。このタービン32は、上記中空軸36内部に配置され、クランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能なインプットシャフト38に取り付けられている。つまり、タービン32は、インプットシャフト38とともに、クランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能である。
ポンプ31とタービン32との間には、ワンウェイクラッチ39を介してステータ33が配置されている。このワンウェイクラッチ39は、上記トランスアクスルハウジング21に固定されている。また、タービン32とフロントカバー37との間には、ロックアップクラッチ34が配置されており、このロックアップクラッチ34は、ダンパ装置35を介してインプットシャフト38に連結されている。なお、上記ポンプ31やフロントカバー37により形成されるケーシングには、作動油供給制御装置130から作動流体として作動油が供給されている。
ここで、このトルクコンバータ30の動作について説明する。内燃機関10からの出力トルクは、クランクシャフト11からドライブプレート12を介して、フロントカバー37に伝達される。ロックアップクラッチ34がダンパ装置35により解放されている場合は、フロントカバー37に伝達された内燃機関10からの出力トルクがポンプ31に伝達され、このポンプ31とタービン32との間を循環する作動油を介して、タービン32に伝達される。そして、タービン32に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、インプットシャフト38に伝達される。つまり、トルクコンバータ30は、インプットシャフト38を介して、内燃機関10からの出力トルクを増加してベルト式無段変速機1−1に伝達する。上記においては、ステータ33により、ポンプ31とタービン32との間を循環する作動油の流れを変化させ所定のトルク特性を得ることができる。
一方、上記ロックアップクラッチ34がダンパ装置35によりロック(フロントカバー37と係合)されている場合は、フロントカバー37に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、作動油を介さずに直接インプットシャフト38に伝達される。つまり、トルクコンバータ30は、インプットシャフト38を介して、内燃機関10からの出力トルクをそのままベルト式無段変速機1−1に伝達する。
トルクコンバータ30と前後進切換機構40との間には、オイルポンプ26が設けられている。このオイルポンプ26は、ロータ27と、ハブ28と、ボディ29とにより構成されている。このオイルポンプ26は、ロータ27により円筒形状のハブ28を介して、上記ポンプ31に接続されている。また、ボディ29が上記トランスアクスルケース22に固定されている。また、ハブ28は、上記中空軸36にスプライン嵌合されている。従って、オイルポンプ26は、内燃機関10からの出力トルクがポンプ31を介してロータ27に伝達されるので、駆動することができる。
前後進切換機構40は、図1に示すように、トルクコンバータ30を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクをベルト式無段変速機1−1のプライマリプーリ50に伝達するものである。この前後進切換機構40は、少なくとも遊星歯車装置41とフォワードクラッチ42と、リバースブレーキ43とにより構成されている。
遊星歯車装置41は、サンギヤ44と、ピニオン45と、リングギヤ46とにより構成されている。
サンギヤ44は、図示しない連結部材にスプライン嵌合されている。この連結部材は、後述するプライマリプーリ50のプライマリプーリ軸51にスプライン嵌合されている。従って、サンギヤ44に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、プライマリプーリ軸51に伝達される。
ピニオン45は、サンギヤ44と噛み合い、その周囲に複数個(例えば、3個)配置されている。各ピニオン45は、サンギヤ44の周囲で一体に公転可能に支持する切換用キャリヤ47に保持されている。この切換用キャリヤ47は、その外周端部においてリバースブレーキ43に接続されている。
リングギヤ46は、切換用キャリヤ47に保持された各ピニオン45と噛み合い、フォワードクラッチ42を介して、トルクコンバータ30のインプットシャフト38に接続されている。
フォワードクラッチ42は、作動油供給制御装置130からインプットシャフト38の図示しない中空部に供給された作動油により、ON/OFF制御されるものである。フォワードクラッチ42のOFF時には、インプットシャフト38に伝達された内燃機関10からの出力トルクがリングギヤ46に伝達される。一方、フォワードクラッチ42のON時には、リングギヤ46とサンギヤ44と各ピニオン45とが互いに相対回転することなく、インプットシャフト38に伝達された内燃機関10からの出力トルクが直接サンギヤ44に伝達される。
リバースブレーキ43は、作動油供給制御装置130から作動油が供給された図示しないブレーキピストンにより、ON/OFF制御されるものである。リバースブレーキ43がON時には、切換用キャリヤ47がトランスアクスルケース22に固定され、各ピニオン45がサンギヤ44の周囲を公転できない状態となる。リバースブレーキ43がOFF時には、切換用キャリヤ47が解放され、各ピニオン45がサンギヤ44の周囲を公転できる状態となる。
ベルト式無段変速機1−1のプライマリプーリ50は、前後進切換機構40を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクを後述するベルト110により、セカンダリプーリ60に伝達するものである。このプライマリプーリ50は、図1および図2に示すように、プライマリプーリ軸51と、プライマリ固定シーブ52と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリ隔壁54と、位置決め油圧室であるプライマリ油圧室55とにより構成されている。
プライマリプーリ軸51は、図2に示すように、軸受111,112により回転可能に支持されている。また、プライマリプーリ軸51は、軸方向における両端部のみにそれぞれ開口する供給側空間部51aと、排出側空間部51bが形成されている。
供給側空間部51aは、プライマリ固定シーブ側に形成されており、作動油供給制御装置130から位置決め油圧室であるプライマリ油圧室55に供給される作動油が流入する。また、この供給側空間部51aは、軸側連通通路51cを介して、プライマリ可動シーブ53とプライマリプーリ軸51との間に連通している。ここで、供給側空間部51aには、作動油供給手段70の後述する供給側弾性部材72のプライマリ可動シーブ側への移動を規制する環状の段差部51gが形成されている。
また、排出側空間部51bは、プライマリ固定シーブ側と反対側に形成されており、軸側連通通路51dを介して、プライマリ可動シーブ53とプライマリプーリ軸51との間に連通している。また、この排出側空間部51bは、軸側排出通路51eおよびプライマリ隔壁54に形成された隔壁側排出通路54aを介して、プライマリプーリ50の外部と連通している。ここで、排出側空間部51bには、作動油排出手段80の後述する排出側弾性部材82のプライマリ固定シーブ側への移動を規制する環状の段差部51hが形成されている。
プライマリ固定シーブ52は、図2に示すように、プライマリ可動シーブ53と対向する位置にプライマリプーリ軸51と一体回転するように設けられている。ここでは、プライマリ固定シーブ52は、プライマリプーリ軸51の外周から径方向外側に突出する環状部として形成されている。つまり、この実施例1では、プライマリ固定シーブ52は、プライマリプーリ軸51の外周に一体的に形成されている。
プライマリ可動シーブ53は、図2に示すように、円筒部53aと、環状部53bとにより構成されている。円筒部53aは、プライマリプーリ軸51と同一回転軸を中心に形成されている。環状部53bは、この円筒部53aのプライマリ固定シーブ側の端部から径方向外側に突出して形成されている。このプライマリ可動シーブ53は、円筒部53aの内周面に形成されたスプライン53cと、プライマリプーリ軸51の外周面に形成されたスプライン51fとがスプライン嵌合することで、このプライマリプーリ軸51に軸方向に摺動可能に支持されている。このプライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との間、すなわちプライマリ固定シーブ52のプライマリ可動シーブ53に対向する面と、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対向する面との間で、V字形状のプライマリ溝110aが形成されている。
また、プライマリ可動シーブ53には、環状部53bの外周端部の近傍に軸方向のうち他方向に突出、すなわちプライマリ隔壁側に突出する環状の突出部53dが形成されている。また、このプライマリ可動シーブ53の円筒部53aには、プライマリ固定シーブ側の端部近傍に外周面と、プライマリ可動シーブ53とプライマリプーリ軸51との間とを連通するシーブ側連通通路53eが形成されている。このシーブ側連通通路53eは、上記円筒部53aに対して円周上に複数箇所、例えば等間隔に4箇所形成されている。従って、シーブ側連通通路53eは、軸側連通通路51cを介して供給側空間部51aと、軸側連通通路51dを介して排出側空間部51bとにそれぞれ連通している。
プライマリ隔壁54は、図2に示すように、環状部材であり、プライマリプーリ軸51と同一回転軸を中心に配置されている。また、プライマリ隔壁54は、プライマリ可動シーブ53を挟んでプライマリ固定シーブ52と軸方向において対向するように配置されている。このプライマリ隔壁54の径方向内側端部は、プライマリプーリ軸51に固定される。従って、プライマリ隔壁54は、プライマリ可動シーブ53と一体回転するように設けられている。
このプライマリ隔壁54には、プライマリ隔壁54と、プライマリプーリ軸51に固定され、このプライマリプーリ軸を軸受112により支持させる支持部材56との間に、軸側排出通路51eとプライマリプーリ50の外部とを連通する隔壁側排出通路54aが形成されている。この隔壁側排出通路54aは、このプライマリ隔壁54に対して円周上に複数箇所、例えば等間隔に4箇所形成されている。
プライマリ油圧室55は、プライマリ可動シーブ52をプライマリ固定シーブ側に押圧することで、このプライマリ可動シーブ52のプライマリ固定シーブ53に対する軸方向への移動および移動の規制を行う位置決め油圧室であり、図2に示すように、プライマリプーリ軸51と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリ隔壁54とにより形成される空間部である。ここで、プライマリ可動シーブ53の突出部53dとプライマリ隔壁54との間およびプライマリ可動シーブ53の円筒部53aとプライマリプーリ軸51との間には、例えばシールリングなどのシール部材Sがそれぞれ設けられている。つまり、プライマリ油圧室55を構成するプライマリプーリ軸51と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリ隔壁54とにより形成される空間部は、シール部材Sによりシールされている。
このプライマリ油圧室55には、プライマリプーリ軸51の供給側空間部51aに流入した作動油が供給される。つまり、プライマリ油圧室55に作動油を供給し、この供給された作動油の圧力、すなわちプライマリ油圧室55の油圧P1により、プライマリ可動シーブ53を軸方向に摺動させ、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52に対して接近あるいは離隔させるものである。プライマリ油圧室55は、このプライマリ油圧室55の油圧P1により、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ側に押圧することで、プライマリ溝100aに巻き掛けられるベルト110に対するベルト挟圧力を発生させ、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向における位置を変更する。これにより、変速比を変更させる変速比変更手段としての機能をも有するものである。
ベルト式無段変速機1−1のセカンダリプーリ60は、ベルト110によりプライマリプーリ50に伝達された内燃機関10からの出力トルクをベルト式無段変速機1−1の最終減速機90に伝達するものである。このセカンダリプーリ60は、図1に示すように、セカンダリプーリ軸61と、セカンダリ固定シーブ62と、セカンダリ可動シーブ63と、セカンダリ油圧室64、セカンダリ隔壁65とにより構成されている。
セカンダリプーリ軸61は、軸受113,114により回転可能に支持されている。また、セカンダリプーリ軸61は、内部に図示しない作動油通路を有しており、この作動油通路には、作動油供給制御装置130からセカンダリ油圧室64に供給される作動流体である作動油が流入する。
セカンダリ固定シーブ62は、セカンダリ可動シーブ63と対向する位置にセカンダリプーリ軸61と一体回転するように設けられている。ここでは、セカンダリ固定シーブ62は、セカンダリプーリ軸61の外周から径方向外側に突出する環状部として形成されている。つまり、この実施例1では、セカンダリ固定シーブ62は、セカンダリプーリ軸61の外周に一体的に形成されている。
セカンダリ可動シーブ63は、その内周面に形成された図示しないスプラインと、セカンダリプーリ軸61の外周面に形成された図示しないスプラインとがスプライン嵌合することで、このセカンダリプーリ軸61に軸方向に摺動可能に支持されている。このセカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との間、すなわちセカンダリ固定シーブ62のセカンダリ可動シーブ63に対向する面と、セカンダリ可動シーブ63のセカンダリ固定シーブ62と対向する面との間で、V字形状のセカンダリ溝110bが形成されている。なお、66は、パーキングブレーキギヤである。
セカンダリ油圧室64は、セカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ側に押圧するものであり、図1に示すように、セカンダリ可動シーブ63と、セカンダリプーリ軸61に固定された円板形状のセカンダリ隔壁65とにより形成される空間部である。セカンダリ可動シーブ63には、軸方向の一方に突出、すなわち最終減速機90側に突出する環状の突出部63aが形成されている。一方、セカンダリ隔壁65には、軸方向の他方向に突出、すなわちセカンダリ可動シーブ63側に突出する環状の突出部65aが形成されている。ここで、この突出部63aと突出部65aとの間には、例えばシールリングなどの図示しないシール部材が設けられている。つまり、セカンダリ油圧室64を構成するセカンダリ可動シーブ63と、セカンダリ隔壁65とにより形成される空間部は、図示しないシール部材によりシールされている。
このセカンダリ油圧室64には、図示しない作動油供給孔を介して、セカンダリプーリ軸61の図示しない作動油通路に流入した作動油供給制御装置130からの作動油が供給される。つまり、セカンダリ油圧室64に作動油を供給し、この供給された作動油の圧力、すなわちセカンダリ油圧室64の油圧により、セカンダリ可動シーブ63を軸方向に摺動させ、セカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ62に対して接近あるいは離隔させるものである。セカンダリ油圧室64は、このセカンダリ油圧室64の油圧により、セカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ側に押圧することで、プライマリ溝110bに巻き掛けられるベルト110に対するベルト挟圧力を発生させ、ベルト110のプライマリプーリ50およびセカンダリプーリ60に対する接触半径を一定に維持する。なお、セカンダリ油圧室64とトルクカム装置とを用いてベルト挟圧力を発生させても良い。
作動油供給手段70は、位置決め油圧室であるプライマリ油圧室55への作動油の供給のみを許容するものである。つまり、プライマリ油圧室55からの作動油の排出を禁止するものである。作動油供給手段70は、ボール式の供給側逆止弁であり、プライマリプーリ軸51の軸内、ここでは供給側空間部51aに配置されている。この作動油供給手段70は、ボール71と、供給側付勢手段である供給側弾性部材72と、円筒部材73と、係止部材74とにより構成されている。
ボール71は、円筒部材73の内径よりも大きい直径であり、その中心がほぼプライマリプーリ軸51の回転軸上となるように配置されている。供給側弾性部材72は、このボール71を介して、係止部材74により供給側空間部51aに固定された円筒部材73と、段差部51gとの間に付勢された状態で配置されている。供給側弾性部材72は、このボール71が円筒部材73と接触する方向に付勢力を発生しており、この付勢力がボール71に作用している。なお、係止部材74は、円板形状であり、その中央部に作動油を通過させるための開口が形成されている。
ボール71は、供給側空間部51aのこのボール71よりもプライマリ固定シーブ側と反対側における油圧が、供給側弾性部材72の付勢力を超えると、円筒部材73と離れる方向に移動し、作動油供給手段70であるボール式の供給側逆止弁が開弁する。つまり、作動油供給手段70は、作動油が外部からプライマリ油圧室55に供給される方向にのみ開弁する逆止弁である。なお、プライマリ油圧室55の油圧P1は、ボール71に作用するが、このボール71が円筒部材73と接触する方向に作用するため、プライマリ油圧室55の油圧P1が上昇しても、ボール71が円筒部材73からから離れることがない。従って、供給側空間部51aのこのボール71よりもプライマリ固定シーブ側と反対側における油圧が、供給側弾性部材72の付勢力を超えない限り、作動油供給手段70の閉弁状態は維持される。
作動油排出手段80は、位置決め油圧室であるプライマリ油圧室55からの作動油の排出の許容あるいは禁止を制御するものである。作動油排出手段80は、ボール式の排出側逆止弁とアクチュエータとからなり、プライマリプーリ軸51の軸内、ここでは排出側空間部51bに配置されている。この作動油排出手段80は、ボール81と、排出側付勢手段である排出側弾性部材82と、円筒部材83と、係止部材84と、開弁部材85と、駆動油圧室86とにより構成されている。
ボール81は、円筒部材83の内径よりも大きい直径であり、その中心がほぼプライマリプーリ軸51の回転軸上となるように配置されている。排出側弾性部材82は、このボール81を介して、係止部材84により排出側空間部51bに固定された円筒部材83と、段差部51hとの間に付勢された状態で配置されている。排出側弾性部材82は、このボール81が円筒部材83と接触する方向に付勢力を発生しており、この付勢力がボール81に作用している。なお、係止部材84は、円盤形状であり、その中央部に作動油が通過するための開口が形成されている。
開弁部材85は、一方の端部が閉塞されている円柱形状であり、円筒部材83の中空部内に軸方向に摺動可能に支持されている。この開弁部材85の軸方向における一方の端部、すなわちプライマリ固定シーブ側と反対側の端部には、ピストン部85bが形成されている。このピストン部85bは、排出側空間部51bを軸方向に摺動可能である直径に設定されている。また、開弁部材85の軸方向における他方の端部、すなわちプライマリ固定シーブ側の端部は、ボール81と接触できるように、このボール81の直径よりも小さい直径に設定されている。開弁部材85には、この他方の端部からピストン部85bの手前まで排出空間部85aが形成されている。この排出空間部85aのピストン部側は、開弁部材85の外周面に開口している。一方、排出空間部85aのピストン部側と反対側には、開弁部材85の他方の端部まで延在する切欠部85cが形成されている。この切欠部85cは、開弁部材85に対して円周上に複数箇所、例えば等間隔に4箇所形成されている。
駆動油圧室86は、開弁部材85のピストン部85bと、プライマリプーリ軸51の排出側空間部51bを形成する内壁面と、トランスアクスルリヤカバー23の内壁面とにより形成されている。この駆動油圧室86には、トランスアクスルリヤカバー23に形成された作動油通路23aを介して作動油供給制御装置130から作動油が供給される。
開弁部材85は、この駆動油圧室86の油圧により、プライマリ固定シーブ側に摺動し、軸方向における他方の端部、すなわちプライマリ固定シーブ側の端部がボール81と接触する。そして、ボール81は、この開弁部材85の押圧力、すなわち駆動油圧室86の油圧が排出側弾性部材82の付勢力を超えると、開弁部材85とともに、円筒部材83から離れる方向に移動し、作動油排出手段80であるボール式の排出側逆止弁が開弁する。なお、プライマリ油圧室55の油圧P1は、ボール81にも作用するが、このボール81が円筒部材83と接触する方向に作用するため、プライマリ油圧室55の油圧P1が上昇しても、ボール81が円筒部材83から離れることがない。従って、駆動油圧室86の油圧が排出側弾性部材82の付勢力を超えない限り、作動油排出手段80の閉弁状態は維持される。また、作動油排出手段80は、位置決め油圧室であるプライマリ油圧室55からの作動油の排出の許容あるいは禁止を制御するために、駆動油圧室86の油圧を用いているが、これに限定されるものではなく、モータなどの回転力や電磁力などを用いても良い。
セカンダリプーリ60と最終減速機90との間には、動力伝達経路100が配置されている。この動力伝達経路100は、セカンダリプーリ軸61と平行なインターミディエイトシャフト101と、カウンタドライブピニオン102、カウンタドリブンギヤ103と、ファイナルドライブピニオン104とにより構成されている。インターミディエイトシャフト101は、軸受115,116により回転可能に支持されている。カウンタドライブピニオン102は、セカンダリプーリ軸61の軸線方向のうちパーキングブレーキギヤ66が固定されていない側に延在する部分に固定されており、軸受117,118により回転可能に保持されている。カウンタドリブンギヤ103は、インターミディエイトシャフト101に固定されており、カウンタドライブピニオン102と噛み合わされている。また、ファイナルドライブピニオン104は、インターミディエイトシャフト101に固定されている。
ベルト式無段変速機1−1の最終減速機90は、動力伝達経路100を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクを車輪120,120から路面に伝達するものである。この最終減速機90は、中空部が形成されたデフケース91と、ピニオンシャフト92と、デフ用ピニオン93,94と、サイドギヤ95,96とにより構成されている。
デフケース91は、軸受97,98により回転可能に支持されている。また、このデフケース91の外周には、リングギヤ99が設けられており、このリングギヤ99がファイナルドライブピニオン104と噛み合わされている。ピニオンシャフト92は、デフケース91の中空部に取り付けられている。デフ用ピニオン93,94は、このピニオンシャフト92に回転可能に取り付けられている。サイドギヤ95,96は、このデフ用ピニオン93,94の両方に噛み合わされている。このサイドギヤ95,96は、それぞれドライブシャフト121,122に固定されている。
ベルト式無段変速機1−1のベルト110は、プライマリプーリ50を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクをセカンダリプーリ60に伝達するものである。このベルト110は、図1に示すように、プライマリプーリ50のプライマリ溝110aとセカンダリプーリ60のセカンダリ溝110bとの間に巻き掛けられている。また、ベルト110は、例えば多数の金属製の駒と複数本のスチールリングで構成された無端ベルトである。
ドライブシャフト121,122は、その一方の端部にそれぞれサイドギヤ95,96が固定され、他方の端部に車輪120,120が取り付けられている。
作動油供給制御装置130は、少なくともベルト式無段変速機1−1の各構成部品の潤滑部分や、各油圧室(プライマリ油圧室55やセカンダリ油圧室64や駆動油圧室86も含まれる)に作動油を供給するものである。この作動油供給制御装置130は、オイルタンク131と、オイルポンプ132と、プレッシャーレギュレータ133と、挟圧力調圧バルブ134と、押圧力調圧バルブ135とにより構成されている。
オイルポンプ132は、内燃機関10の出力、例えば図示しないクランクシャフトの回転に連動して作動するものであり、オイルタンク131に貯留されている作動油を吸引、加圧し、吐出するものである。この加圧されて吐出された作動油は、プレッシャーレギュレータ133を介して、挟圧力調圧バルブ134および押圧力調圧バルブ135に供給される。ここで、プレッシャーレギュレータ133は、このプレッシャーレギュレータ133よりも下流側における油圧が所定油圧以上となった際に、この下流側にある作動油の一部をオイルタンク131に戻すものである。
挟圧力調圧バルブ134は、その弁開度を制御することで、プライマリプーリ50のプライマリ油圧室55の油圧P1およびセカンダリプーリ60のセカンダリ油圧室64の油圧を調圧するものである。つまり、挟圧力調圧バルブ134は、プライマリプーリ50のプライマリ油圧室55およびセカンダリプーリ60のセカンダリ油圧室64において発生するベルト挟圧力を制御するものである。この挟圧力調圧バルブ134は、プライマリプーリ軸51の供給側空間部51aに接続されており、挟圧力調圧バルブ134により調圧された作動油が、この供給側空間部51aを介してプライマリ油圧室55に供給される。なお、作動油供給制御装置130は、この挟圧力調圧バルブ134以外にもう一つ図示しない挟圧力調圧バルブを備え、この図示しない挟圧力調圧バルブがセカンダリプーリ軸61の図示しない作動油通路に接続されており、この挟圧力調圧バルブにより調圧された作動油が、この図示しない作動油通路を介してセカンダリ油圧室64に供給される。
押圧力調圧バルブ135は、その弁開度を制御することで、駆動油圧室86の油圧P2を調圧するものである。つまり、押圧力調圧バルブ135は、駆動油圧室86において開弁部材を軸方向のうちプライマリ固定シーブ52側に押圧する押圧力を制御するものである。この押圧力調圧バルブ135は、トランスアクスルリヤカバー23の作動油通路23aを介して駆動油圧室86に接続されており、押圧力調圧バルブ135により調圧された作動油が、この駆動油圧室86に供給される。
次に、実施例1にかかるベルト式無段変速機1−1の動作について説明する。まず、一般的な車両の前進、後進について説明する。車両に設けられた図示しないシフトポジション装置により、運転者が前進ポジションを選択した場合は、図示しないECU(Engine Control Unit)が、作動油供給制御装置130から供給された作動油によりフォワードクラッチ42をON、リバースブレーキ43をOFFとし、前後進切換機構40を制御する。これにより、インプットシャフト38とプライマリプーリ軸51が直結状態となる。つまり、遊星歯車装置41のサンギヤ44とリングギヤ46を直接連結し、内燃機関10のクランクシャフト11の回転方向と同一方向にプライマリプーリ軸51を回転させ、この内燃機関10からの出力トルクをプライマリプーリ50に伝達する。プライマリプーリ50に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、ベルト110を介してセカンダリプーリ60に伝達され、このセカンダリプーリ60のセカンダリプーリ軸61を回転させる。
セカンダリプーリ60に伝達された内燃機関10の出力トルクは、セカンダリプーリ軸61から動力伝達経路100のカウンタドライブピニオン102およびカウンタドリブンギヤ103を介して、インターミディエイトシャフト101に伝達され、インターミディエイトシャフト101を回転させる。インターミディエイトシャフト101に伝達された出力トルクは、ファイナルドライブピニオン104およびリングギヤ99を介して最終減速機90のデフケース91に伝達され、このデフケース91を回転させる。デフケース91に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、デフ用ピニオン93,94およびサイドギヤ95,96を介してドライブシャフト121,122に伝達され、その端部に取り付けられた車輪120,120に伝達され、車輪120,120を回転させ、車両は前進する。
一方、車両に設けられた図示しないシフトポジション装置により、運転者が後進ポジションを選択した場合は、図示しないECUが、作動油供給制御装置130から供給された作動油によりフォワードクラッチ42をOFF、リバースブレーキ43をONとし、前後進切換機構40を制御する。これにより、遊星歯車装置41の切換用キャリヤ47がトランスアクスルケース22に固定され、各ピニオン45が自転のみを行うように切換用キャリヤ47に保持される。従って、リングギヤ46がインプットシャフト38と同一方向に回転し、このリングギヤ46と噛合っている各ピニオン45もインプットシャフト38と同一方向に回転し、この各ピニオン45と噛合っているサンギヤ44がインプットシャフト38と逆方向に回転する。つまり、サンギヤ44に連結されているプライマリプーリ軸51は、インプットシャフト38と逆方向に回転する。これにより、セカンダリプーリ60のセカンダリプーリ軸61、インターミディエイトシャフト101、デフケース91、ドライブシャフト121,122などは、運転者が前進ポジションを選択した場合とは逆方向に回転し、車両が後進する。
また、図示しないECUは、車両の速度や運転者のアクセル開度などの所条件とECUの記憶部に記憶されているマップ(例えば、機関回転数とスロットル開度に基づく最適燃費曲線など)とに基づいて、内燃機関10の運転状態が最適となるようにベルト式無段変速機1−1の変速比を制御する。このベルト式無段変速機1−1の変速比の制御には、変速比の変更と、変速の固定(変速比γ定常)とがある。この変速比の変更、変速比の固定は、プライマリプーリ50の位置決め油圧室であるプライマリ油圧室55の油圧と、駆動油圧室86の油圧とを制御することで行われる。
変速比の変更は、主に作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55への作動油の供給、あるいはプライマリ油圧室55からプライマリプーリ50の外部への作動油の排出により、プライマリ可動シーブ53がプライマリプーリ軸51の軸方向に摺動し、プライマリ固定シーブ52とこのプライマリ可動シーブ53との間の間隔、すなわちプライマリ溝110aの幅が調整される。これにより、プライマリプーリ50におけるベルト110の接触半径が変化し、プライマリプーリ50の回転数とセカンダリプーリ60の回転数との比である変速比が無段階(連続的)に制御される。また、変速比の固定は、主に、プライマリ油圧室55からプライマリプーリ50の外部への作動油の排出の禁止により行われる。
なお、セカンダリプーリ60においては、セカンダリ油圧室64に作動油供給制御装置130から供給される作動油の油圧を挟圧力調圧バルブ134により制御することで、セカンダリ固定シーブ62とこのセカンダリ可動シーブ63とによりベルト110を挟み付けるベルト挟圧力が調整される。これにより、プライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間に巻き掛けられたベルト110のベルト張力が制御される。
変速比の変更には、変速比を減少させる変速比減少変更と、変速比を増加させる変速比増加変更とがある。以下、それぞれについて説明する。
変速比減少変更では、作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55へ作動油を供給し、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ側に摺動(移動)させることで行われる。まず、図3に示すように、作動油供給手段70を開弁し、作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55への作動油の供給を許容する。具体的には、作動油供給制御装置130の挟圧力調圧バルブ134により調圧された作動油を、供給側空間部51aのボール71よりもプライマリ可動シーブ側と反対側に供給し、この部分の油圧を上昇させ、この部分の油圧が供給側弾性部材72の付勢力を超えるとボール71が円筒部材73から離れる方向に移動し、作動油供給手段70が開弁する。
作動油供給手段70が開弁すると、同図の矢印Bに示すように、作動油供給制御装置130から供給側空間部51aに供給された作動油は、供給側空間部51aの供給側弾性部材72が配置されている部分よりもプライマリ可動シーブ53側に流入し、軸側連通通路51cおよびシーブ側連通通路53eを介して、プライマリ油圧室55に供給される。このとき、作動油供給制御装置130は、押圧力調圧バルブ135を閉弁しており、作動油供給制御装置130から駆動油圧室86への作動油の供給が停止されている。つまり、作動油排出手段80は、閉弁状態を維持し、プライマリ油圧室55から作動油の排出が禁止されている。従って、供給された作動油によりプライマリ油圧室55の圧力P1が上昇し、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ側に押圧力する押圧力が上昇し、プライマリ可動シーブ53が軸方向のうち、プライマリ固定シーブ側に摺動する。これにより、プライマリプーリ50におけるベルト110の接触半径が増加し、セカンダリプーリ60におけるベルト110の接触半径が減少し、変速比が減少する。
変速比増加変更では、プライマリ油圧室55から作動油を排出し、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ側と反対側に摺動(移動)させることで行われる。まず、図4に示すように、作動油排出手段80を開弁し、プライマリ油圧室55から作動油の排出を許容する。具体的には、作動油供給制御装置130に押圧力調圧バルブ135により調圧された作動油を、作動油通路23aを介して駆動油圧室86に作動油を供給し、この駆動油圧室86の油圧P2を上昇させる。この駆動油圧室86の油圧P2が排出側弾性部材82の付勢力を超えると、開弁部材85がボール81を円筒部材83から離れる方向に押圧し、ボール81が円筒部材83から離れる方向に移動し、作動油排出手段80が開弁する。
作動油排出手段80が開弁すると、矢印Cに示すように、プライマリ油圧室55の作動油は、シーブ側連通通路53eおよび軸側連通通路51dを介して排出側空間部51bの円筒部材83よりもプライマリ固定シーブ側に流入する。次に、この排出側空間部51bの円筒部材83よりもプライマリ固定シーブ側に流入した作動油は、切欠部85cから開弁部材85の排出側空間部85aに流入し、開弁部材85の外周面に開口しているこの排出空間部85aのピストン部側から、この排出側空間部51bの円筒部材83よりもプライマリ固定シーブ側と反対側に流入する。そして、この排出空間部51bの円筒部材83よりもプライマリ固定シーブ側と反対側に流入した作動油は、軸側排出通路51eおよび隔壁側排出通路54aを介してプライマリプーリ50の外部へ排出される。
このとき、作動油供給制御装置130は、挟圧力調圧バルブ134を閉弁しており、作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55への作動油の供給が停止されている。つまり、作動油供給手段70は、閉弁状態を維持する。従って、プライマリ油圧室55から作動油が排出されることにより、プライマリ油圧室55の圧力P1が減少し、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ側に押圧する押圧力が減少し、プライマリ可動シーブ53が軸方向のうち、プライマリ固定シーブ側と反対側に摺動する。これにより、プライマリプーリ50におけるベルト110の接触半径が減少し、セカンダリプーリ60におけるベルト110の接触半径が増加し、変速比が増加する。なお、作動種排出手段80は、押圧力調圧バルブ135の弁開度により駆動油圧室86の油圧P2を制御することで、プライマリ油圧室55から排出される作動油の排出量を制御することもできる。
変速比の固定は、プライマリ油圧室55から作動油を排出せず、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向における位置を一定とし、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する移動を規制することで行われる。なお、変速比を固定、すなわち変速比を定常とするのは、車両の走行状態が安定している場合など、大幅な変速比の変更を行う必要がないと、図示しないECUが判断した場合である。まず、図2に示すように、作動油供給手段70および作動油排出手段80を閉弁状態に維持し、プライマリ油圧室55から作動油の排出を禁止する。具体的には、作動油供給制御装置130は、挟圧力調圧バルブ134および押圧力調圧バルブ135のいずれも閉弁し、作動油供給制御装置130から供給側空間部51aのボール71よりもプライマリ可動シーブ側と反対側への作動油の供給および駆動油圧室86への作動油の供給を停止する。従って、この部分の油圧および駆動油圧室86の油圧がそれぞれ供給側弾性部材72および排出側弾性部材82の押圧力を超えることはなく、ボール71が円筒部材73から離れることはなく、ボール81が円筒部材83から離れることはない。これにより、作動油供給手段70および作動油排出手段80は、閉弁状態を維持し、プライマリ油圧室55からの作動油の排出が禁止される。
ここで、変速比の固定時においても、ベルト110のベルト張力が変化するため、プライマリプーリ50におけるベルト110の接触半径が変化しようとし、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向における位置が変化する虞がある。上述のように、プライマリ油圧室55には、作動油が保持された状態となるため、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向における位置が変化しようとすると、このプライマリ油圧室55の油圧P1は変化するがプライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向における位置は一定に維持される。従って、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向における位置を一定に維持するために、プライマリ油圧室55に作動油を供給することによるプライマリ油圧室55の油圧P1の上昇を行わなくても良い。これにより、変速比の固定時に、プライマリ油圧室55に作動油を供給するために作動油供給制御装置130が備えるオイルポンプ132を駆動させなくても良いため、オイルポンプの動力損失の増加を抑制することができる。
また、従来のベルト式無段変速機のように、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向における位置を一定に維持するために、作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55へ作動油を供給し続ける場合は、作動油が作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55までの作動油供給経路に、所定圧力の作動油が存在することとなる。この作動油供給経路には、固定部材と可動部材との摺動部を複数箇所含まれており、変速比の固定時において所定圧力の作動油がこの摺動部から作動油供給経路の外部に漏れる虞があった。この固定部材とは、ベルト式無段変速機1−1を構成する部材において、回転、摺動などを行わない部材である。例えばトランスアクスル20などである。一方、この可動部材とは、ベルト式無段変速機1−1を構成する部材において、回転、摺動などを行う部材である。例えばプライマリプーリ軸などである。従って、摺動部とは、例えば、トランスアクスル20に対して、プライマリプーリ軸51が回転する部分などが含まれる。
上記ベルト式無段変速機1−1では、作動油供給手段70および作動油排出手段80は、プライマリ油圧室55と上記摺動部との間に配置されている。つまり、作動油供給手段70および作動油排出手段80を閉弁状態に維持し、プライマリ油圧室55に作動油を保持した状態とした際に、プライマリ油圧室55と作動油供給手段70および作動油排出手段80との間には、上記固定部材と可動部材との摺動部が存在することはない。これにより、この摺動部から作動油が漏れることを抑制することができるので、オイルポンプの動力損失の増加をさらに抑制することができる。
また、作動油供給手段70および作動油排出手段80は、プライマリプーリ軸51の回転軸上に配置されている。特に、作動油供給手段70および作動油排出手段80の開閉弁に影響を与えるボール71,81は、その中心がほぼプライマリプーリ軸51の回転軸上となるように配置されている。上述のように、ベルト式無段変速機1−1は、駆動源である内燃機関10からの駆動力を伝達する際に、プライマリプーリ50は、プライマリプーリ軸51を回転中心として回転することとなる。従って、作動油供給手段70および作動油排出手段80をプーリ軸の外部に配置した場合と比較して、この作動油供給手段70および作動油排出手段80に作用する遠心力を抑制することができる。これにより、作動油供給手段70および作動油排出手段80による作動油の供給、排出を安定して行うことができる。
また、遠心力により、ボール71,81がそれぞれ円筒部材73,83から離れる虞を抑制することができるので、供給側弾性部材72および排出側弾性部材82よりボール71,81に作用する付勢力を小さくすることができる。従って、ボール71,81をそれぞれ円筒部材73,83から離れさせるのに必要な油圧を小さくすることができる。これにより、オイルポンプの動力損失の増加をさらに抑制することができる。
また、プライマリプーリ軸51の軸内に、作動油供給手段70および作動油排出手段80を構成する部品を順次挿入していくだけで、作動油供給手段70および作動油排出手段80を構成することができるので、ベルト式無段変速機1−1への作動油供給手段70および作動油排出手段80の組付性を向上することができる。
また、作動油供給手段70および作動油排出手段80をプライマリプーリ軸50の外部に配置した場合、プライマリプーリ軸51が偏芯回転する虞がある。この偏芯回転を抑制するために、この作動油供給手段70および作動油排出手段80をプライマリプーリ軸50の外部に円周上にそれぞれ複数個配置する必要がある。そこで、この作動油供給手段70および作動油排出手段80をプライマリプーリ軸51の回転軸上に配置することで、プライマリプーリ軸51の偏芯回転を抑制することができる。これにより、作動油供給手段70および作動油排出手段80を複数個必要とせず、小型化を図ることができる。また、作動油供給手段70および作動油排出手段80は、1つずつで良いので、複数個の作動油供給手段70および作動油排出手段80を配置する場合と比較して、この、作動油供給手段70および作動油排出手段80からの作動油の漏れを抑制することができる。従って、オイルポンプの動力損失の増加をさらに抑制することができる。
図5は、実施例2にかかるベルト式無段変速機の要部断面図である。実施例2にかかるベルト式無段変速機1−2が、図2に示す実施例1にかかるベルト式無段変速機1−1と異なる点は、作動油供給手段70と作動油排出手段80とを1つの共通空間部51kに配置し、ボール71およびボール81に付勢力を作用させる供給側付勢手段と排出側付勢手段とを同一の付勢手段、すなわち1つの共通弾性部材140とする点である。なお、図5に示す実施例2にかかるベルト式無段変速機1−2は、図2に示す実施例1にかかるベルト式無段変速機1−1とその基本的構成はほぼ同一であるため、その説明は省略する。
プライマリプーリ軸51は、図5に示すように、軸方向における両端部に開口する共通空間部51kが形成されている。共通空間部51kは、ほぼ中央部にボール接触面51mが形成されている。この供給空間部51kは、このボール接触面51mよりもプライマリ固定シーブ側がその反対側よりも直径が大きく設定されており、かつこの反対側の径が開弁部材85を軸方向において摺動可能となるように設定されている。この供給空間部51kのボール接触面51mよりもプライマリ固定シーブ側と反対側には、開弁部材85が配置されている。また、共通空間部51kのボール接触面51mよりもプライマリ固定シーブ側には、プライマリ固定シーブ側から係止部材74、円筒部材73、ボール71、共通弾性部材140、ボール81の順番で配置されている。なお、この共通空間部51kのボール接触面51mよりもプライマリ固定シーブ側には、共通空間部51kと、プライマリ可動シーブ53とプライマリプーリ軸51との間を連通する共通連通通路51nが形成されている。この共通連通通路51nは、プライマリプーリ軸51に対して円周上に複数箇所、例えば等間隔に4箇所形成されている。従って、共通空間部51kには、共通連通通路51nおよびシーブ側連通通路53eを介してプライマリ油圧室55に連通している。
共通弾性部材140は、その両端部にボール71,81がそれぞれ接触した状態で、係止部材74により共通空間部51kに固定された円筒部材73と、ボール接触面51mとの間に付勢された状態で配置されている。従って、ボール71は、共通弾性部材140によりプライマリ固定シーブ側に付勢され、ボール81は、共通弾性部材140によりプライマリ固定シーブ側と反対側に付勢される。つまり、作動油供給手段70、すなわち供給側逆止弁と、作動油排出手段80、すなわち排出側逆止弁とは、その開弁方向が対向するように配置される。
従って、変速比減少変更を行うために、作動油供給手段70が開弁した際には、ボール81に作用する共通弾性部材140による付勢力は、作動油供給制御装置130から共通空間部51kのボール71よりもプライマリ可動シーブ側と反対側に供給された作動油によりボール71に作用する押圧力によって増加する。このとき、作動油供給制御装置130から駆動油圧室86への作動油の供給が停止されているので、作動油供給手段70が開弁した際に作動油排出手段80が開弁することはない。
一方、変速比増加変更を行うために、作動油排出手段80が開弁した際には、ボール71に作用する共通弾性部材140による付勢力は、作動油供給制御装置130から駆動油圧室86に供給された作動油によりボール81に作用する押圧力によって増加する。このとき、作動油供給制御装置130から共通空間部51kのボール71よりもプライマリ可動シーブ側と反対側への駆動油圧室86への作動油の供給が停止されているので、作動油排出手段80が開弁した際に作動油供給手段70が開弁することはない。
また、変速比の固定を行うために、作動油供給手段70および作動油排出手段80を閉弁状態に維持した際には、共通空間部51kのうちボール71,81との間の部分の油圧は、プライマリ油圧室55の油圧P1と同じとなる。ここで、プライマリ油圧室55の油圧P1がベルト110のベルト張力が変化することで上昇すると、共通空間部51kのうちボール71,81との間の部分の油圧も上昇するが、この部分の油圧は、ボール71を円筒部材73に、ボール81をボール接触面51mに接触される方向にそれぞれボール71,81に作用する。これにより、作動油供給手段70および作動油排出手段80は、閉弁状態を維持し、プライマリ油圧室55からの作動油の排出が禁止される。
以上のように、実施例2にかかるベルト式無段変速機1−2においても、実施例1にかかるベルト式無段変速機1−1と同様の効果を奏し、オイルポンプの動力損失の増加を抑制することができる。また、1つの共通弾性部材140が、作動油供給手段70のボール71を付勢する供給側付勢手段および作動油排出手段80のボール81を付勢する排出側付勢手段としての機能を有する。従って、作動油供給手段70および作動油排出手段80のそれぞれに供給側付勢手段および排出側付勢手段を設ける場合と比較して、製造コストを低減することができる。
また、プライマリプーリ軸51に形成された1つの共通空間部51kに、作動油供給手段70および作動油排出手段80を配置することとなるので、プライマリプーリ軸51に2つの空間部を形成し、それぞれ作動油供給手段70および作動油排出手段80を配置する場合と比較して、このプライマリプーリ軸51に対する加工を容易に行うことができる。また、プライマリプーリ軸51に形成された1つの共通空間部51kに、作動油供給手段70および作動油排出手段80を配置することとなるので、プライマリプーリ軸51に形成する空間部の体積を大きくすることができ、軽量化を図ることができる。
また、1つの共通弾性部材140とすることにより、供給側付勢手段、排出側付勢手段と別々にした場合よりも、軸方向に長くすることができる。従って、1つの共通弾性部材140では、供給側付勢手段、排出側付勢手段と別々にした場合よりもばね定数を低くすることができる。これにより、プライマリ可動シーブ53を軸方向に摺動させるのに必要な油圧を低くすることができる。
図6は、実施例3にかかるベルト式無段変速機の要部断面図である。実施例3にかかるベルト式無段変速機1−3が、図5に示す実施例2にかかるベルト式無段変速機1−2と異なる点は、共通空間部51kのプライマリ固定シーブ側にテーパー部51pが形成されている点である。なお、図6に示す実施例3にかかるベルト式無段変速機1−3は、図2に示す実施例1にかかるベルト式無段変速機1−1とその基本的構成はほぼ同一であるため、その説明は省略する。
共通空間部51kのプライマリ固定シーブ側には、このプライマリ固定シーブ側に向かって、共通空間部51kの径、すなわちプライマリプーリ軸51の内径が小さくなるようにテーパー部51pが形成されている。ここで、プライマリプーリ軸51内、ここでは共通空間部51kにおいて、作動油供給手段70は作動油排出手段80よりもプライマリ固定シーブ側に配置されている。従って、プライマリプーリ軸の内径、ここでは共通空間部51kの直径は、作動油排出手段80が配置される部分よりも作動油供給手段70が配置される部分が小さくなる。
作動油供給手段70が配置される部分におけるプライマリプーリ軸51の内径は、作動油排出手段80が配置される部分におけるプライマリプーリ軸51の内径よりも小さいので、作動油供給手段70を構成する部品は、作動油排出手段80を構成する部品よりも小さくすることができる。つまり、作動油供給手段70のボール75、円筒部材76、係止部材77などの直径(外径)は、作動油排出手段80のボール81、円筒部材83、係止部材84などの直径(外径)よりも小さくなる。従って、ボール75と、プライマリプーリ軸51に係止部材77により係止されている円筒部材76との接触面積を少なくすることができる。これにより、プライマリ油圧室55への作動油の供給が禁止されている際において、作動油供給手段70からプライマリ油圧室55の作動油が漏れることを抑制することができ、オイルポンプの動力損失の増加を抑制することができる。
また、プライマリプーリ軸51の共通空間部51kのテーパー部51pにおける肉厚、すなわち作動油供給手段70が配置されているプライマリ固定シーブ側のプライマリプーリ軸51の肉厚W2は、プライマリ固定シーブ側におけるプライマリプーリ軸51の内径を小さくしなかった場合の肉厚W1(図5参照)と比較して、厚くすることができる。これは、プライマリ固定シーブ側におけるプライマリプーリ軸51の内径が、このプライマリ固定シーブ側と反対側におけるプライマリプーリ軸51の内径よりも小さいためである。これにより、プライマリプーリ軸51のうち最も応力が高く強度を必要とする、このプライマリプーリ軸51と一体回転するプライマリ固定シーブ52が設けられている部分の剛性の低下を抑制することができ、伝達効率の向上および耐久性の向上を図ることができる。
また、上述のように、作動油供給手段70の円筒部材76もその外径を小さくすることができるので、この円筒部材76が配置されるプライマリプーリ軸51の内径、すなわち共通空間部51kのプライマリ固定シーブ側の端部近傍の直径も小さくすることができる。従って、プライマリプーリ軸51のこのプライマリプーリ軸51を支持する軸受111とプライマリプーリ軸51の軸内、すなわち共通空間部51kとの間の肉厚H2は、プライマリ固定シーブ側におけるプライマリプーリ軸51の内径を小さくしなかった場合の肉厚H1(図5参照)と比較して、厚くすることができる。これにより、プライマリプーリ軸51のプライマリ固定シーブ側の端部の剛性を向上することができ、このプライマリプーリ軸51を軸受111に圧入する際における圧入荷重を高くすることができる。従って、プライマリプーリ軸51と軸受111との間に発生するクリープなどによる摩耗を低減することができ、耐久性の向上をさらに図ることができる。
また、プライマリプーリ軸51の軸内、すなわち共通空間部51kにテーパー部51pを設けることで、ボール71が円筒部材73から離れた際におけるこのボール75と共通空間部51kとの間の流路面積は、ボール75が円筒部材76から離れた際における移動量に応じて増減する。従って、作動油供給手段70により、作動油をプライマリ油圧室55に供給する場合には、ボール75の移動量の増加とともに流路面積が増加するので、作動油供給手段70が急激に開弁されるので、短時間で多量の作動油をプライマリ油圧室55に供給することができる。一方、作動油供給手段70による作動油のプライマリ油圧室55への供給を停止する場合には、ボール75の移動量が減少するとともに流路面積が減少するので、作動油供給手段70が急激に閉弁されることはないので、作動油のサージの発生が抑制され、ドライバビリティーを向上することができる。
図7は、実施例4にかかるベルト式無段変速機の要部断面図である。実施例4にかかるベルト式無段変速機1−4が、図2に示す実施例1にかかるベルト式無段変速機1−1と異なる点は、作動油排出手段80をボール式の逆止弁のかわりに、ポペット式の逆止弁とした点である。なお、図7に示す実施例4にかかるベルト式無段変速機1−4は、図2に示す実施例1にかかるベルト式無段変速機1−1とその基本的構成はほぼ同一であるため、その説明は省略する。
このベルト式無段変速機1−4では、作動油供給手段70が供給側空間部51aに配置され、作動油排出手段80が排出側空間部51bに配置されている。なお、供給側空間部51aと排出側空間部51bとは、共通連通通路51rおよびシーブ側連通通路53eを介してプライマリ油圧室55に連通する連通空間部51qにそれぞれ連通している。
作動油排出手段80は、弁本体87と、排出側弾性部材82と、閉弁部材88と、係止部材84と、ピストン部材89とにより構成されている。弁本体87は、ほぼ三角錐形状の部材であり、その側面にテーパー面87aが形成されている。また、この弁本体87は、その中心軸とプライマリプーリ軸51の回転軸とがほぼ一致するように配置されている。閉弁部材88は、その内部に軸方向の両端部に開口するテーパー面88aが上記弁本体87のテーパー面87aと対向するように形成されている。ピストン部材89は、軸方向の断面形状がT字状に形成されており、その最大外径が排出側空間部51bを軸方向に摺動可能となるように設定されている。
ピストン部材89は、駆動油圧室86の油圧により、プライマリ固定シーブ側に摺動し、軸方向における一方の端部、すなわちプライマリ固定シーブ側の端部が弁本体87と接触する。そして、弁本体87は、このピストン部材89の押圧力、すなわち駆動油圧室86の油圧が排出側弾性部材82の付勢力を超えると、ピストン部材89とともに、閉弁部材88から離れる方向、すなわちプライマリ固定シーブ側に移動する。これにより、接触していた弁本体87のテーパー面87aと、閉弁部材88のテーパー面88aとが離れ、作動油排出手段80であるポペット式の排出側逆止弁が開弁する。
以上のように、作動油排出手段80としてポペット式の逆止弁を用いると、開弁した際におけるこの弁本体87と閉弁部材88との間の流路面積は、弁本体87が閉弁部材88から離れた際における移動量に応じて増減する。従って、作動油排出手段80により、プライマリ油圧室55から排出される作動油の排出量を精度良く制御することができる。従って、作動油排出手段80を制御することで、プライマリ油圧室55から排出される作動油の排出量を増減することができるため、プライマリ可動シーブ53の軸方向の摺動の速度を上昇、低下することができる。これにより、ベルト式無段変速機1−4の変速比の変更速度を増減させることがきる。また、変速比の変更時における変速精度を向上することができる。これにより、ドライバビリティーを向上することができる。
実施例1にかかるベルト式無段変速機のスケルトン図である。 プライマリプーリの要部断面図である。 変速比変更時におけるベルト式無段変速機の動作説明図である。 変速比変更時におけるベルト式無段変速機の動作説明図である。 実施例2にかかるベルト式無段変速機の要部断面図である。 実施例3にかかるベルト式無段変速機の要部断面図である。 実施例4にかかるベルト式無段変速機の要部断面図である。
符号の説明
1−1〜1−4 ベルト式無段変速機
10 内燃機関(駆動源)
20 トランスアクスル
23 トランスアクスルリヤカバー
23a 作動油通路
30 トルクコンバータ
40 前後進切換機構
50 プライマリプーリ
51 プライマリプーリ軸
51a 供給側空間部
51b 排出側空間部
51c,51d 軸側連通通路
51e 軸側排出通路
51f スプライン
51g,h 段差部
51k 共通空間部
51m ボール接触面
51n,r 共通連通通路
51p テーパー部
51q 連通空間部
52 プライマリ固定シーブ
53 プライマリ可動シーブ
53a 円筒部
53b 環状部
53c スプライン
53d 突出部
53e シーブ側連通通路
54 プライマリ隔壁
54a 隔壁側排出通路
55 プライマリ油圧室(位置決め油圧室)
56 支持部材
60 セカンダリプーリ
70 作動油供給手段
71,75 ボール
72 供給側弾性部材(供給側付勢手段)
73,76 円筒部材
74,77 係止部材
80 作動油排出手段
81 ボール
82 排出側弾性部材(排出側付勢手段)
83 円筒部材
84 係止部材
85 開弁部材
85a 排出空間部
85b ピストン部
85c 切欠部
86 駆動油圧室
87 弁本体
88 閉弁部材
89 ピストン部材
90 最終減速機
100 動力伝達経路
110 ベルト
120 車輪
130 作動油供給制御装置
140 共通弾性部材(同一の付勢手段)

Claims (5)

  1. 平行に配置され、駆動源からの駆動力がいずれか一方に伝達される2つのプーリ軸と、当該2つのプーリ軸上をそれぞれ軸方向に摺動する2つの可動シーブと、当該2つの可動シーブに前記軸方向にそれぞれ対向し、かつ当該プーリ軸とそれぞれ一体回転する2つの固定シーブと、からなる2つのプーリと、
    前記2つのプーリのうちいずれか一方のプーリに伝達された前記駆動源からの駆動力を他方のプーリに伝達するベルトと、
    前記可動シーブを前記固定シーブ側に押圧することで、当該可動シーブの当該固定シーブに対する軸方向への移動および当該移動の規制を行う位置決め油圧室と、
    前記位置決め油圧室への作動油の供給のみを許容する作動油供給手段と、
    前記位置決め油圧室からの作動油の排出の許容あるいは禁止を制御する作動油排出手段と、
    を備え、
    前記作動油供給手段および前記作動油排出手段は、前記2つのプーリ軸のいずれか一方のプーリ軸内にともに配置され、当該プーリ軸と一体回転することを特徴とするベルト式無段変速機。
  2. 前記作動油供給手段および前記作動油排出手段は、前記プーリ軸の回転軸上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
  3. 前記プーリ軸の内径は、前記作動油排出手段が配置される部分よりも前記作動油供給手段が配置される部分が小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のベルト式無段変速機。
  4. 前記プーリ軸内において、前記作動油供給手段は前記作動油排出手段よりも固定シーブ側に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のベルト式無段変速機。
  5. 前記作動油供給手段は、供給側付勢手段により閉弁方向に付勢される供給側逆止弁を有し、
    前記作動油排出手段は、排出側付勢手段により閉弁方向に付勢される排出側逆止弁を有し、
    前記供給側逆止弁および前記排出側逆止弁は、開弁方向が対向するように配置され、
    前記供給側付勢手段と前記排出側付勢手段とが同一の付勢手段であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のベルト式無段変速機。
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