以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
まず、構成について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両10は、駆動源としての内燃機関であるエンジン11と、エンジン11の出力軸としてのクランクシャフト15と、エンジン11において発生した動力を伝達するとともに車両10の走行状態に応じて変速比を連続的に変化させるベルト式無段変速機(以下、単に「CVT:Continuously Variable Transmission」という)70とデファレンシャル機構40とを備えたトランスアクスル20と、CVT70などを油圧により制御するための油圧制御回路30と、デファレンシャル機構40によって伝達された動力を後述する駆動輪45L、45Rに伝達する駆動軸としてのドライブシャフト43L、43Rと、ドライブシャフト43L、43Rによって伝達された動力を用いて回転することにより車両10を駆動させる駆動輪45L、45Rとを備えている。
さらに、車両10は、車両10全体を制御するための車両用電子制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100を備えている。また、車両10には、クランクセンサ81と、シフトセンサ82と、駆動軸回転数センサ83と、アクセル開度センサ84と、その他図示しない各種センサが設けられている。これらセンサは、検出した検出信号を、ECU100に入力するように、ECU100と接続されている。
エンジン11は、CVT70に動力伝達可能に接続されている。エンジン11は、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料と空気との混合気を、図示しないシリンダの燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する公知の動力装置により構成されている。エンジン11は、燃焼室内で混合気の吸気、燃焼および排気を断続的に繰り返すことによりシリンダ内のピストンを往復移動させ、ピストンと動力伝達可能に連結されたクランクシャフト15(図2参照)を回転させることにより、トランスアクスル20に動力を伝達するようになっている。なお、エンジン11に用いられる燃料は、エタノール等のアルコールを含むアルコール燃料であってもよい。
トランスアクスル20は、エンジン11から出力されたクランクシャフト15(図2参照)の回転をCVT70によって所望の変速比に応じて変速し、デファレンシャル機構40を介してドライブシャフト43L、43Rに伝達するようになっている。デファレンシャル機構40は、カーブ等を走行する場合に、駆動輪45Lと駆動輪45Rとの回転数の差を許容するものである。CVT70の構成については後述する。
油圧制御回路30は、オイルポンプ29(図2参照)によってオイルパン28(図3参照)から汲み上げられたオイルを、ECU100によって制御される複数のソレノイド弁等により回路の切り替えおよび油圧を制御し、トランスアクスル20に出力して、トランスアクスル20を制御するようになっている。
駆動輪45L、45Rは、ドライブシャフト43L、43Rに取り付けられた金属製などのホイールと、このホイールの外周を覆うように取り付けられた樹脂製などのタイヤとを備えている。また、駆動輪45L、45Rは、ドライブシャフト43L、43Rによって伝達された動力により回転し、タイヤと路面との摩擦作用によって、車両10を駆動させるようになっている。
ECU100は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)と、
固定されたデータの記憶を行うROM(Read Only Memory)と、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)と、入力インターフェース回路と、出力インターフェース回路(いずれも図示しない)と、を有している。ECU100は、さらに、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)や、通信手段などを備えていてもよい。このECU100は、車両10の制御を統括するようになっている。
例えば、ROMには、後述する本実施の形態に係る制御用プログラムなどが記憶され、記憶装置として機能するようになっている。CPUは、このROMに記憶された制御プログラムに基づいて演算処理を実行するようになっている。また、RAMは、CPUによる演算結果や、後述する各種センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するようになっている。また、不揮発性のメモリにより構成されたEEPROMやバックアップメモリなどによって、例えば、エンジン11の停止時に保存すべきデータ等を記憶するようになっている。
上記CPU、RAMおよびROMなどは、バスを介して互いに接続されるとともに、入力インターフェースおよび出力インターフェースと接続されている。入力インターフェースには、各種センサが接続されていて、これらセンサが検出した信号が入力されるようになっている。出力インターフェースには、例えば油圧制御回路30を構成するソレノイド弁などが接続されており、ECU100が各種センサからの検出信号に基づいて、本実施の形態に係る各種制御を実行するようになっている。
さらに、ECU100には、クランクセンサ81、シフトセンサ82、駆動軸回転数センサ83およびアクセル開度センサ84をはじめとした各種センサ類が接続されている。
クランクセンサ81は、クランクシャフト15の回転数を検出して、検出した検出信号をECU100に入力するようになっている。クランクセンサ81は、クランクシャフト15のクランク位置やクランク角度を検知して、エンジン回転速度の信号を検出できるクランクポジションセンサである。ECU100は、クランクセンサ81によって入力された検出信号が表すクランクシャフト15の回転数を、機関回転数としてのエンジン回転数Neとして取得する。
シフトセンサ82は、シフトレバー21が複数の切り替え位置のうちいずれの切り替え位置にあるのかを検出し、シフトレバー21の切り替え位置を表す検出信号をECU100に入力するようになっている。このシフトセンサ82は、シフトレバー21が、パーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、ロー(L)などの各種操作ポジションに選択されたことを検知するシフトポジションセンサである。
駆動軸回転数センサ83は、ドライブシャフト43Lまたは43Rのいずれかの回転数を検出し、ドライブシャフト43Lまたは43Rのいずれかの回転数を表す検出信号をECU100に入力するようになっている。ECU100は、駆動軸回転数センサ83によって入力された上記検出信号に基づいて、車両10の走行速度を算出するようになっている。
アクセル開度センサ84は、運転者の踏み込みにより操作されるアクセルペダル88の近傍に配置され、アクセルペダル88の開度(以下、アクセル開度Accともいう)を検出するようになっている。このアクセル開度センサ84は、アクセルペダル88の踏込み量に対して直線的に出力電圧が得られるリニアタイプのアクセルポジションセンサにより構成されている。アクセル開度センサ84は、エンジン11の出力を決定するようになっており、アクセル開度Accは、運転者の加速要求を表している。
次に、トランスアクスル20の構成について、図2を参照して説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係るトランスアクスル20の構成を表す概略図である。
まず、エンジン11において発生した回転動力は、クランクシャフト15を介してトルクコンバータ(流体伝動装置)50に伝達されるようになっている。トルクコンバータ50に伝達された動力は、さらに、前後進切り替え機60、CVT70、減速歯車機構80を介してデファレンシャル機構40に伝達され、左右の駆動輪45L、45Rに分配されるようになっている。すなわち、CVT70および前後進切り替え機60は、エンジン11から左右の駆動輪(例えば、後輪)45L、45Rに至る動力伝達経路に設けられている。
トルクコンバータ50は、クランクシャフト15に連結された、入力回転部材としてのポンプインペラ51pと、タービンシャフト55を介して前後進切り替え機60に連結された、出力回転部材としてのタービンランナ51tとを有している。また、トルクコンバータ50は、一方向クラッチを介して非回転部材に回転可能に支持されたステータ51sを有している。
ポンプインペラ51pと、タービンランナ51tとは対向して設けられており、それぞれ、多数のブレードが備えられていて、ポンプインペラ51pとタービンランナ51tとの間で、流体の運動エネルギーにより動力伝達が行われるようになっている。
ポンプインペラ51pとタービンランナ51tとの間には、燃費向上のため、ポンプインペラ51pおよびタービンランナ51tを一体的に連結して相互に一体回転させることができるようにするロックアップクラッチ(直結クラッチ)52が設けられている。ロックアップクラッチ52は、タービンシャフト55と一体回転するように取り付けられているとともに、タービンシャフト55の軸線方向に移動可能なように構成されている。
また、ポンプインペラ51pには、ポンプインペラ51pの回転に応じて作動するオイルポンプ29が設けられている。オイルポンプ29は、例えばギヤポンプなどの機械式のオイルポンプにより構成されており、油圧制御回路30に油圧を供給するようになっている。
前後進切り替え機60は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置によって構成されている。サンギヤ61sは、トルクコンバータ50のタービンシャフト55に連結され、キャリヤ62cは、CVT70の入力軸であるプライマリシャフト71に連結されている。
ここで、前後進切り替え機60は、キャリヤ62cとサンギヤ61sとの間に配設された前進クラッチ64が油圧により係合させられると、サンギヤ61sと、キャリヤ62cと、リングギヤ63rとが一体回転させられてタービンシャフト55がプライマリシャフト71に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪45L、45Rに伝達されるようになっている。
また、前後進切り替え機60は、リングギヤ63rとハウジング65との間に配設された後進ブレーキ66が油圧により係合させられるとともに前進クラッチ64が解放されると、タービンシャフト55と一体的に回転するサンギヤ61sの回転方向に対してサンギヤ61sが相対回転しながら公転することによって、キャリヤ62cはタービンシャフト55の回転方向とは反対の方向に回転するようになっている。したがって、キャリヤ62cと連結したプライマリシャフト71はタービンシャフト55に対して逆回転させられるため、後進方向の駆動力が駆動輪45L、45Rに伝達される。
一方、CVT70は、プライマリシャフト71に設けられた有効径が可変のプライマリプーリ72と、CVT70の出力軸であるセカンダリシャフト79に設けられた有効径が可変のセカンダリプーリ77と、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のそれぞれに形成されたV溝に巻き掛けられた伝動ベルト75とを有している。この構成により、CVT70は、動力伝達要素として機能する伝動ベルト75とプライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のV溝の内壁面との間の摩擦力を利用して動力を伝達するようになっている。本実施の形態におけるCVT70は、本発明に係る無段変速機を構成する。
具体的には、プライマリプーリ72は、互いに対向して対向面によってV溝を形成する可動シーブ72aと、固定シーブ72bとを有しており、可動シーブ72aと固定シーブ72bにより形成されるV溝に伝動ベルト75が巻き掛けられている。
また、セカンダリプーリ77は、互いに対向して対向面によってV溝を形成する可動シーブ77aと固定シーブ77bとを備えており、可動シーブ77aと固定シーブ77bにより形成されるV溝に伝動ベルト75が巻き掛けられている。
プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77には、それぞれのV溝幅、すなわち伝動ベルト75の巻き掛かり径を変更するために、可動シーブ72aを可動させるプライマリ側油圧シリンダ73および可動シーブ77aを可動させるカンダリ側油圧シリンダ78が備えられている。
そして、可動シーブ72aのプライマリ側油圧シリンダ73に供給、あるいは排出されるオイルの流量が油圧制御回路30(図1参照)によって制御されることにより、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のV溝幅が変化して伝動ベルト75の巻き掛かり径(有効径)が変更されるようになっている。このように、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77の軸方向に印加される推力の制御により、実変速比γ(=プライマリプーリ72のプライマリシャフト71の実際の回転数Nin/セカンダリプーリ77のセカンダリシャフト79の実際の回転数Nout)を連続的、すなわち無段階に変化させることができる。
また、可動シーブ77aのセカンダリ側油圧シリンダ78内の油圧は、セカンダリプーリ77の伝動ベルト75に対する挟圧力および伝動ベルト75の張力にそれぞれ対応するものであって、伝動ベルト75が滑りを生じないように、油圧制御回路30(図1参照)により調圧されるようになっている。
ECU100には、タービンシャフト回転数センサ87と、入力軸回転数センサ85と、出力軸回転数センサ86とが接続されている。
タービンシャフト回転数センサ87は、トルクコンバータ50のタービンランナ51tに連結されたタービンシャフト55の回転数を検出するようになっている。また、タービンシャフト回転数センサ87は、タービンシャフト55の回転数を表す検出信号をECU100に入力するようになっている。
入力軸回転数センサ85は、キャリヤ62cに連結されたプライマリプーリ72のプライマリシャフト71の回転数を、プライマリプーリ回転数Ninとして検出するようになっている。また、入力軸回転数センサ85は、プライマリプーリ回転数Ninを表す検出信号をECU100に入力するようになっている。
出力軸回転数センサ86は、減速歯車機構80に連結されたセカンダリプーリ77のセカンダリシャフト79の回転数を、セカンダリプーリ回転数Noutとして検出するようになっている。また、出力軸回転数センサ86は、セカンダリプーリ回転数Noutを表す検出信号をECU100に入力するようになっている。
ここで、ECU100は、入力軸回転数センサ85によって入力された検出信号が示すプライマリプーリ回転数Ninと、出力軸回転数センサ86によって入力された検出信号が示すセカンダリプーリ回転数Noutとに基づいて、実変速比γを算出するようになっている。
次に、図3を参照して、本実施の形態に係る油圧制御回路30の構成について説明する。
図3は、本発明の本実施の形態に係る油圧制御回路30の要部を示す概略構成図である。図3に示す油圧制御回路30は、説明の便宜上、CVT70を構成するプライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77を作動させる作動油圧を制御するもののみ開示したもので、前後進切り替え機60を作動させる作動油圧や、潤滑用の油圧などを制御する圧力制御弁等は省略されている。
図3に示すように、油圧制御回路30は、例えばオイルポンプ29、プライマリ圧Pinを調圧するプライマリ圧コントロールバルブ110、セカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ120、プライマリレギュレータバルブ(ライン圧調圧弁)130、モジュレータバルブ140、リニアソレノイド弁SLP、およびリニアソレノイド弁SLSなどを備えている。
ライン圧PLは、例えばオイルポンプ29から出力(発生)される作動油圧を元圧として、リリーフ型のプライマリレギュレータバルブ130によりプライマリ圧Pinおよびリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧Pslsのいずれか一方に基づいてエンジン負荷などに応じた値に調圧される。プライマリレギュレータバルブ130の詳細については後述する。
モジュレータ油圧Pmは、ECU100によって制御されるリニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧Pslp、リニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧Pslsの各元圧となるものであって、ライン圧PLを元圧としてモジュレータバルブ140により一定圧に調圧される。
プライマリ圧コントロールバルブ110は、スプール弁子113と、スプリング114と、油室115と、フィードバック油室116と、油室117とを備えている。
スプール弁子113は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート111を開閉してライン圧PLを入力ポート111から出力ポート112を経てプライマリプーリ72へ供給可能にするようになっている。スプリング114は、スプール弁子113を開弁方向へ付勢する付勢手段として機能するものである。
油室115は、スプリング114を収容し、かつスプール弁子113に開弁方向の推力を付与するために制御油圧Pslpを受け入れるためのものである。フィードバック油室116は、スプール弁子113に閉弁方向の推力を付与するために出力ポート112から出力されたライン圧PLを受け入れるためのものである。油室117は、スプール弁子113に閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pmを受け入れるためのものである。
このように構成されたプライマリ圧コントロールバルブ110は、例えば制御油圧Pslpをパイロット圧としてライン圧PLを調圧制御してプライマリプーリ72のプライマリ側油圧シリンダ73に供給する。これにより、そのプライマリ側油圧シリンダ73に供給されるプライマリ圧Pinが制御される。
例えば、プライマリ側油圧シリンダ73に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧Pslpが増大すると、プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子113が図3の上側に移動する。これにより、プライマリ側油圧シリンダ73へのプライマリ圧Pinが増大する。
一方で、プライマリ側油圧シリンダ73に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧Pslpが低下すると、プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子113が図3の下側に移動する。これにより、プライマリ側油圧シリンダ73へのプライマリ圧Pinが低下する。
また、プライマリ側油圧シリンダ73とプライマリ圧コントロールバルブ110との間の油路118には、フェールセーフなどを目的として、オリフィス119が設けられている。このオリフィス119が設けられていることにより、例えばリニアソレノイド弁SLPが故障してもプライマリ側油圧シリンダ73の内圧が急減しないようにされている。これにより、例えばリニアソレノイド弁SLPの故障に起因した車両10の急減速が抑制される。
セカンダリ圧コントロールバルブ120は、スプール弁子123と、スプリング124と、油室125と、フィードバック油室126と、油室127とを備えている。
スプール弁子123は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート121を開閉してライン圧PLを入力ポート121から出力ポート122を経てセカンダリプーリ77へセカンダリ圧Poutとして供給可能にするようになっている。スプリング124は、スプール弁子123を開弁方向へ付勢する付勢手段として機能するものである。
油室125は、スプリング124を収容し、かつスプール弁子123に開弁方向の推力を付与するために制御油圧Pslsを受け入れるためのものである。フィードバック油室126は、スプール弁子123に閉弁方向の推力を付与するために出力ポート122から出力されたセカンダリ圧Poutを受け入れるためのものである。油室127は、スプール弁子123に閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pmを受け入れるためのものである。
このように構成されたセカンダリ圧コントロールバルブ120は、例えば制御油圧Pslsをパイロット圧としてライン圧PLを調圧制御してセカンダリプーリ77のセカンダリ側油圧シリンダ78に供給する。これにより、そのセカンダリ側油圧シリンダ78に供給されるセカンダリ圧Poutが制御される。
例えば、セカンダリ側油圧シリンダ78に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧Pslsが増大すると、セカンダリ圧コントロールバルブ120のスプール弁子123が図3の上側に移動する。これにより、セカンダリ側油圧シリンダ78へのセカンダリ圧Poutが増大する。
一方で、セカンダリ側油圧シリンダ78に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧Pslsが低下すると、セカンダリ圧コントロールバルブ120のスプール弁子123が図3の下側に移動する。これにより、セカンダリ側油圧シリンダ78へのセカンダリ圧Poutが低下する。
また、セカンダリ側油圧シリンダ78とセカンダリ圧コントロールバルブ120との間の油路128には、フェールセーフなどを目的として、オリフィス129が設けられている。このオリフィス129が設けられていることにより、例えばリニアソレノイド弁SLSが故障してもセカンダリ側油圧シリンダ78の内圧が急減しないようにされている。これにより、例えばリニアソレノイド弁SLSの故障に起因したベルト滑りが防止される。
ところで、上述した油圧制御回路30においては、プライマリ圧Pinが低下する油圧異常が発生する場合がある。ここでいう油圧異常とは、例えば要求される変速比に応じたプライマリ圧Pinを発生させることができない値までプライマリ圧Pinが低下することを意味する。
こうした油圧異常が発生すると、プライマリ圧Pinの低下に伴って急激なダウンシフトが生じてしまう。このような急激なダウンシフトが継続してしまうと、エンジン回転数Neが許容回転数の上限近くまで上昇、あるいは許容回転数を超過(エンジンのオーバレブ)してしまうおそれがある。
そこで、本実施の形態では、上述したようなプライマリ圧Pinの油圧異常が発生した場合には、セカンダリ圧コントロールバルブ120によってセカンダリ圧Poutを排出(ドレン)して、急激なダウンシフトの継続を防止するようにしている。
具体的には、ECU100は、エンジン回転数Neが許容回転数の上限に達したか否か(オーバレブか否か)を判定することにより、上述したプライマリ圧Pinの油圧異常を検出するようになっている。つまり、ECU100は、エンジン回転数Neが許容回転数の上限に達することによりエンジン11のオーバレブが判定(オーバレブ判定)された場合に、プライマリ圧Pinの油圧異常であると判定するようになっている。このように、本実施の形態におけるECU100は、本発明に係る油圧異常判定手段を構成する。
ECU100は、油圧異常と判定されたことを条件に、セカンダリ圧コントロールバルブ120を介してセカンダリ圧Poutを排出させるようセカンダリ圧コントロールバルブ120を制御するフェールセーフ制御を実行するようになっている。
詳細には、図4に示すように、ECU100は、制御油圧Pslsを低下させるようリニアソレノイド弁SLSを制御して、セカンダリ圧コントロールバルブ120の入力ポート121と出力ポート122とを連通させる位置(図4中、左半分に示す位置)にあるスプール弁子123を、出力ポート122とドレンポート131とを連通する位置(図4中、右半分に示す位置)に移動させる。これにより、セカンダリ圧Poutがドレンポート131を介して排出される。このように、本実施の形態におけるECU100は、本発明に係る制御手段を構成する。
また、上述したように、プライマリ圧Pinの油圧異常発生時にセカンダリ圧Poutを排出させた場合には、プライマリ圧Pin、セカンダリ圧Poutがともに各油圧シリンダ73、78に作用しなくなる。このとき、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77に対しては、遠心力により生じる油圧、いわゆる遠心油圧が作用することとなる。したがって、セカンダリ圧Poutを排出させた場合には、遠心油圧によって変速比γが定まることとなる。ここで、遠心油圧によって定まる変速比γは、ダウンシフトを防止できるような変速比でなければならない。
そこで、本実施の形態では、図7に示すように、最高車速Vmaxにおけるプライマリプーリ72の最大到達回転数N1が許容回転数N2未満(N1<N2)となるように、最高車速Vmaxにおいて遠心油圧により定まる変速比γが変速比γ1から変速比γ2となるような遠心油圧係数を設計するようにした。ここで、最大到達回転数N1は、最高車速Vmaxにおけるプライマリプーリ回転数Ninの最大回転数である。また、本実施の形態における変速比γ2は、本発明における変速比γCFに相当する。
具体的な遠心油圧係数の設計手法は、次の通りである。
まず、図5、図6を参照して、遠心油圧係数の設計に関わるプライマリプーリ72の構成、およびセカンダリプーリ77の遠心油圧キャンセル室について説明する。
図5に示すように、本実施の形態に係るプライマリプーリ72は、プライマリ側油圧シリンダ73が2つのピストンを備えた、いわゆるダブルピストン方式を採用している。
具体的には、プライマリ側油圧シリンダ73は、アウタシリンダ部材161と、インナシリンダ部材162と、アウタピストン163とを含んで構成されている。また、アウタシリンダ部材161とアウタピストン163との間には、第1油圧室164が設けられている。さらに、インナシリンダ部材162と可動シーブ72aとの間には、第2油圧室165が設けられている。
インナシリンダ部材162は、プライマリシャフト71の軸方向に摺動可能に取り付けられている。アウタピストン163は、アウタシリンダ部材161とインナシリンダ部材162との間に設けられ、プライマリシャフト71の軸方向に摺動可能とされる。
また、可動シーブ72aの外周部には、プライマリシャフト71の軸方向に突出したフランジ部72cが形成されている。フランジ部72cは、その先端部がアウタピストン163に当接するよう構成されている。これにより、プライマリプーリ72は、第1油圧室164の油圧による押圧力を可動シーブ72aの推力として与えることができる。
このように構成されたプライマリプーリ72は、第1油圧室164および第2油圧室165に供給される油圧によって可動シーブ72aを軸方向に摺動させる推力を発生させるようになっている。
図6に示すように、本実施の形態に係るセカンダリプーリ77は、上述したセカンダリ側油圧シリンダ78に加えて、セカンダリシャフト79の回転に伴ってセカンダリ側油圧シリンダ78に対して生ずる遠心油圧をキャンセルする遠心油圧キャンセル室170を有している。また、セカンダリ側油圧シリンダ78には、可動シーブ77aに固定された周壁171および隔壁172によって油圧室173が形成されている。さらに、セカンダリプーリ77は、油圧室173に供給される油圧に加えて可動シーブ77aを移動させる推力を発生させるリターンスプリング175を備えている。
遠心油圧キャンセル室170は、周壁171と隔壁172との間に、すなわち隔壁172を隔てた油圧室173の背面側に形成されている。セカンダリプーリ77では、油圧室173の回転に伴い発生する遠心油圧によって生ずる、固定シーブ77b側への可動シーブ77aの推力に対して、遠心油圧キャンセル室170内で油圧室173と同等の遠心油圧を発生させるようになっている。これにより、セカンダリプーリ77は、遠心油圧キャンセル室170で発生する遠心油圧によって油圧室173とは逆方向の推力を可動シーブ77aに付与するようになっている。この結果、油圧室173内で発生する遠心油圧の影響が抑制されるようになっている。
ここで、本実施の形態に係るプライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77の遠心油圧係数は、上述した通り、最高車速Vmaxにおけるプライマリプーリ72の最大到達回転数N1が許容回転数N2未満(N1<N2)となるように、最高車速Vmaxにおいて遠心油圧により定まる変速比γが変速比γ1から変速比γ2となるような遠心油圧係数でなければならない。
遠心油圧係数は、一般に、プライマリ側油圧シリンダ73およびセカンダリ側油圧シリンダ78の受圧面積、ならびに遠心油圧キャンセル室170の受圧面積によって定まることが知られている。
したがって、本実施の形態においては、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77の各遠心油圧係数が、最高車速Vmaxにおけるプライマリプーリ72の最大到達回転数N1が許容回転数N2を上回ることのない値となるように、プライマリ側油圧シリンダ73およびセカンダリ側油圧シリンダ78の受圧面積、ならびに遠心油圧キャンセル室170の受圧面積を設定した。
具体的には、最高車速Vmax[km/h]において、プライマリプーリ回転数Nin[rpm]が許容回転数N2未満となるときのプライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77の遠心油圧により定まる変速比γ2を実現可能なセカンダリプーリ77およびプライマリプーリ72の推力比(セカンダリ推力/プライマリ推力)をτとしたとき、次式(1)を満たす遠心油圧係数Kout[N/rpm
2]および遠心油圧係数Kin[N/rpm
2]となるよう、プライマリ側油圧シリンダ73およびセカンダリ側油圧シリンダ78の受圧面積、ならびに遠心油圧キャンセル室170の受圧面積を設定するようにしている。
ここで、Nout[rpm]は最高車速Vmaxにおけるセカンダリプーリ回転数であり、Fspr[N]はリターンスプリング175のスプリング推力であり、Koutはセカンダリプーリ77の遠心油圧係数であり、Kinはプライマリプーリ72の遠心油圧係数である。また、本実施の形態におけるγ2は、本発明におけるγCFに相当する。なお、プライマリプーリ回転数Ninは、セカンダリプーリ回転数Noutに変速比γ2を乗ずることによっても算出可能である。
さらに、上記遠心油圧係数Kout、Kinは、それぞれ次式(2)、(3)により定まる。
ここで、Doilはオイル密度[kg/m3]であり、Rs1はセカンダリ側油圧シリンダ78の外径[mm]であり、Rs2はセカンダリ側油圧シリンダ78の内径[mm]であり、Rscは遠心油圧キャンセル室170のキャンセラ径すなわち遠心油圧キャンセル室170の内径[mm]である。
また、Rpi1はインナシリンダ部材162の外径[mm]であり、Rpi2はインナシリンダ部材162の内径[mm]であり、Rpo1はアウタシリンダ部材161の外径[mm]であり、Rpo2はアウタシリンダ部材161の内径[mm]である。
このように、上記(1)式からセカンダリプーリ回転数Noutが高い、つまり車速Vが大きいほど推力比が大きくなるため、変速比γはロー側となる。したがって、本実施の形態では、車速Vが大きいほどダウンシフト側に移行してしまうため、車両10の性能上引き出せる最高速度、すなわち最高車速Vmax下において、上記(1)式が成立するように上記(2)、(3)式を用いてプライマリ側油圧シリンダ73およびセカンダリ側油圧シリンダ78の受圧面積、ならびに遠心油圧キャンセル室170の受圧面積を設計するようにした。
次に、図8を参照して、本実施の形態に係るECU100によって実行されるフェールセーフ制御について説明する。このフェールセーフ制御は、所定時間間隔で実行される。
図8に示すように、ECU100は、ダウンシフトフェールが生じたか否か、つまりプライマリ圧Pinの油圧異常が発生したか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、ECU100は、エンジン回転数Neが許容回転数の上限に達したか否か(オーバレブか否か)を判定することにより、ダウンシフトフェールが生じたか否かを判定する。
ECU100は、エンジン回転数Neが許容回転数の上限に達していないと判定した場合、つまりダウンシフトフェールが生じていないと判定した場合には、本処理を終了する。
一方、ECU100は、エンジン回転数Neが許容回転数の上限に達したと判定した場合、つまりダウンシフトフェールが生じたと判定した場合には、セカンダリ圧Poutを排出(ドレン)する。具体的には、ECU100は、セカンダリ圧Poutを排出させるようセカンダリ圧コントロールバルブ120を制御する。これにより、変速比γが小さくなる方向(ハイ側)、つまりアップシフト側に変位し、プライマリ圧Pinが低下する油圧異常時にあっても急激なダウンシフトの継続が防止される。
次に、図9を参照して、本実施の形態に係る油圧制御装置の作用について説明する。
図9において、点線で示す各グラフは、それぞれダウンシフトフェール時にフェールセーフバルブの切替によってセカンダリ圧設定バルブからプライマリシリンダに油圧を供給させてプライマリ圧を確保する、従来の油圧制御装置における変速比γ、エンジン回転数Ne、プライマリプーリ回転数Nin、プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutである。
また、図9において、実線で示すグラフは、本実施の形態の油圧制御装置における変速比γ、エンジン回転数Ne、プライマリプーリ回転数Nin、プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutである。
図9に示すように、あるタイミングにおいて、要求される変速比に応じたプライマリ圧Pinを発生させることができない値までプライマリ圧Pinが低下する油圧異常(プライマリ圧Pinドレンフェール)が発生すると、変速比γが急激に大きくなる方向(ロー側)、つまりダウンシフト側に変位し、これが所定期間継続する。
このとき、エンジン回転数Neおよびプライマリプーリ回転数Ninは、急激なダウンシフトの継続によって上昇する。また、セカンダリ圧Poutは、プライマリ圧Pinドレンフェールが発生しても要求に応じて、例えば上昇を続ける。
その後、エンジン回転数Neが許容回転数の上限に達すると、つまりダウンシフトフェールが生じたと判定されると、本実施の形態に係る油圧制御装置にあっては、セカンダリ圧Poutを排出(ドレン)させるフェールセーフ制御が実行される。これにより、変速比γがアップシフト側に変位し、急激なダウンシフトの継続が防止される。このとき、急激なダウンシフトの継続の防止に伴って、エンジン回転数Neおよびプライマリプーリ回転数Ninがそれぞれ低下する。
また、図9において図示はしていないが、例えばダウンシフトフェール時に前後進切り替え機60の前進クラッチ64を解放するようにしてもよい。この場合、エンジン回転数Neの過回転が防止される。
その後、変速比γは、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77に対して作用する遠心油圧によって所望の変速比に収束する。ここで、本実施の形態では、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77それぞれの遠心油圧係数Kin、Koutが、最高車速Vmaxにおけるプライマリプーリ72の最大到達回転数N1が許容回転数N2未満(N1<N2)となるように設計されている。したがって、遠心油圧によって定まる所望の変速比は、上述したように変速比γ2となる。これにより、ダウンシフトフェールが生じた場合、つまりプライマリ圧Pinの油圧異常の際にも最低限の走行性能が確保される。
これに対して、従来の油圧制御装置においては、ダウンシフトフェール時にフェールセーフバルブの切替によってセカンダリ圧設定バルブからプライマリシリンダに油圧を供給するようになっている。このため、図中、点線で示すようにダウンシフトフェール時からプライマリ圧が一定圧確保され、ダウンシフトの継続が防止されている。しかしながら、こうした従来の油圧制御装置では、上述の通り、ダウンシフトの継続を防止するためにはフェールセーフバルブが必要であり、コストアップやバルブボディの大型化に繋がってしまう。
以上のように、本実施の形態に係る油圧制御装置は、プライマリ圧Pinが低下する油圧異常と判定された際にはセカンダリ圧コントロールバルブ120を介してセカンダリ圧Poutを排出させるので、セカンダリ圧Poutを低下させてセカンダリプーリ77の有効半径を小さくすることができる。このとき、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77の有効半径は、遠心油圧によって定まることとなる。
このため、本実施の形態に係る油圧制御装置は、プライマリプーリ72とセカンダリプーリ77との間に生じる有効半径の差を、セカンダリ圧Poutを排出させない場合と比較して小さくすることができる。したがって、本実施の形態に係る油圧制御装置は、セカンダリ圧Poutを排出させない場合と比較して、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77の有効半径により定まる変速比γを小さくすることができる。
この結果、本実施の形態に係る油圧制御装置は、フェールセーフバルブを設けなくとも急なダウンシフトの継続を防止することができる。よって、本実施の形態に係る油圧制御装置は、バルブボディの小型化およびコスト低減を図りつつ、プライマリプーリ72に供給される油圧の異常に対するフェールセーフ機能を実現することができる。
また、本実施の形態に係る油圧制御装置は、プライマリプーリ72およびセカンダリプーリ77のそれぞれの遠心油圧係数Kin、Koutが、最高車速Vmaxにおいてプライマリプーリ72の回転数Ninが予め定められた許容回転数N2を上回ることのない値となるように、プライマリ側油圧シリンダ73およびセカンダリ側油圧シリンダ78の受圧面積、ならびに遠心油圧キャンセル室170の受圧面積を設定した。
これにより、本実施の形態に係る油圧制御装置は、プライマリ圧Pinが低下する油圧異常に対してセカンダリ圧Poutを排出させた際に遠心油圧によって定まる変速比γを、最高車速Vmaxにおいてプライマリプーリ72の回転数Ninが許容回転数N2を上回ることのないような変速比γ2とすることができる。したがって、本実施の形態に係る油圧制御装置は、上記油圧異常の際にも最低限の走行性能を確保することができる。
また、本実施の形態に係る油圧制御装置は、車速Vが高いほどハイ側の変速比γとなることを考慮して上記油圧異常時に最も不利となる最高車速Vmax下において、プライマリプーリ72の回転数Ninが許容回転数N2を上回ることのない値となるように、プライマリ側油圧シリンダ73およびセカンダリ側油圧シリンダ78の受圧面積、ならびに遠心油圧キャンセル室170の受圧面積を設定することができる。これにより、本実施の形態に係る油圧制御装置は、上記油圧異常時に車速Vが最高車速Vmaxとなった場合であっても、最低限の走行性能を確保することができる。
さらに、本実施の形態に係る油圧制御装置は、エンジン回転数Neが許容回転数の上限に達したときに油圧異常が生じていると判定し、セカンダリ圧Poutを排出させるので、ダウンシフトの継続によってエンジン回転数Neが許容回転数を超えてしまう、いわゆるエンジン11のオーバレブ状態を回避することができる。
なお、本実施の形態においては、エンジン11のオーバレブ判定がなされたか否かによりプライマリ圧Pinの油圧異常を検出するようにしたが、これに限らず、例えばプライマリシャフト71の実際の回転数Ninの変動量が正常範囲内に含まれているか否かによりプライマリ圧Pinの油圧異常を検出するようにしてもよい。また、プライマリ圧Pinを直接検知可能な油圧センサを設けて、この油圧センサの検出値に基づきプライマリ圧Pinの油圧異常を検出するようにしてもよい。
これらの場合、上述した回転数Ninの変動量や油圧センサに基づきプライマリ圧Pinの油圧異常が検出された際に、セカンダリ圧Poutを排出させるようにするのが好ましい。これにより、例えばエンジン11がオーバレブに至る前に急激なダウンシフトの継続を防止することができる。
また、本実施の形態においては、プライマリ側油圧シリンダ73をダブルピストン方式としたが、これに限らず、例えばシングルピストン方式を採用してもよい。
以上説明したように、本発明に係る油圧制御装置は、バルブボディの小型化およびコスト低減を図りつつ、プライマリプーリに供給される油圧の異常に対するフェールセーフ機能を実現することができ、ベルト式無段変速機の油圧制御装置に有用である。