以下、本発明に係る一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1〜図3、及び図6は、本実施形態による燃料噴射弁10を示している。図2及び図3は燃料噴射弁10による特徴部分を示しており、また図6は本実施形態による燃料噴射弁10を搭載した燃料噴射装置の全体構成を模式的に示すものである。
図6に示すように燃料噴射弁10は、シリンダヘッド61に取り付けられ、シリンダヘッド61の壁面と、シリンダブロック62の内壁面(以下、シリンダ壁面)65と、ピストン66の上端面67とで形成される燃焼室64に、直接燃料を噴射する直噴ガソリンエンジン(以下、単にエンジンという)用の燃料噴射装置である。燃料噴射弁10には、図示しない燃料供給ポンプにより燃料噴射圧力相当に加圧された燃料が供給される。当該燃料圧は、1MPaから40MPaの範囲の所定圧に設定されており、燃料噴射弁10は燃焼室64へ当該範囲相当の燃料噴射圧の燃料を噴射するのである。
燃料噴射弁10は、図6の例示のように、吸気バルブ68と排気バルブ69との間、即ちシリンダヘッド61にいわゆるセンター搭載されている。また、図示しない点火装置がシリンダヘッド61に搭載されており、点火装置は燃料噴射弁10からの噴射の燃料が直接付着しない位置、かつ燃料と混合された可燃空気に着火可能な位置に配置されている。
燃料噴射弁10から噴射される燃料の噴霧は、円錐状の噴霧であり、シリンダ壁面65及びピストン66の上端面67の両者に直接付着しないように、燃料噴射弁10(図6(b)では中心軸J1で例示)から噴霧の先端部までの長さ(以下、噴霧長という)が、両者65、67と間隔を置いて所定の噴霧長L1に設定されている。
以上、燃料噴射弁10を主たる構成とする燃料噴射装置の全体構成を説明した。以下、燃料噴射弁10の基本構成について説明する。
(燃料噴射弁10の基本構成)
図1に示すように、燃料噴射弁10のハウジング11は筒状に形成されている。ハウジング11は、第一磁性部12、非磁性部13及び第二磁性部14を有している。非磁性部13は、第一磁性部12と第二磁性部14との磁気的な短絡を防止する。第一磁性部12、非磁性部13及び第二磁性部14は、例えばレーザ溶接などにより一体に接続されている。
ハウジング11の軸方向の一方の端部には入口部材15が設置されている。入口部材15はハウジング11の内周側に圧入などにより固定されている。入口部材15は燃料入口16を有している。燃料入口16には、上記燃料供給ポンプによって燃料(本実施形態ではガソリン燃料)が供給される。燃料入口16に供給された燃料は、異物を除去する燃料フィルタ17を経由してハウジング11の内周側に流入する。
ハウジング11の他方の端部には、ノズルホルダ20が設置されている。ノズルホルダ20は筒状に形成され、その内側には、「弁ボディ」としてのノズルボディ21が設置されている。ノズルボディ21は有底筒状に形成され、例えば圧入あるいは溶接などにより、ノズルホルダ20に固定されている。ノズルボディ21は、その有底筒状に形成された内周面21bが、図2に示すように先端に近づくにつれて内径が縮径する円錐状の内壁面22に形成されており、その内壁面22に弁座部23を有している。そして、弁座部23の下端に凹部27が設けられている。
また、ノズルボディ21は、ハウジング11とは反対側の端部近傍に、即ち凹部27に、ノズルボディ21を貫いて内壁面22と外壁面24とに開口する複数(本実施例では、例えば4つ)の噴孔25を有している。燃料入口16に供給された燃料は、噴孔25からエンジンの気筒の燃焼室(以下、単に「気筒内」ともいう)64に噴射される。
図3は、ノズルボディ21単体を示す平面図であって、図2中のIII矢視図に対応する。図3に例示すように、複数の噴孔25の入口部25bが同一の仮想円(以下、ピッチ円ともいう)K上に配置されている。即ち、上記複数の噴孔入口部25bは、仮想円K上に一重環状に配置されているのである。仮想円Kの中心は、いわゆる燃料噴射弁10の中心軸と一致しており、ハウジング11、ノズルホルダ20及びノズルボディ21の中心軸J1(以下、単に「ノズルボディ21の中心軸J1」という)にほぼ一致する。
また、隣接する噴孔25の入口部25b間のピッチは、仮想円K上にほぼ等ピッチに形成されている。
上記ノズルボディ21のうち軸方向の先端部分、即ち凹部27は、中心軸J1に対して垂直に拡がる板状の底部が形成されており、この底部の厚さ寸法tが均一な板状部分21aに、噴孔25が形成されているのである。噴孔25の中心軸J2に垂直な断面、つまり噴孔25の横断面は円形を呈している。また、噴孔25が貫通する向き、即ち中心軸J2は、噴孔25の出口部25aが噴孔25の入ロ部25bよりも中心軸J1の外側に位置するように傾斜している。なお、図2に示すように、凹部27の上記底部と弁座部23の間は、曲面で滑らかに接続されている。
以上のノズルボディ21の内周面21bは、円錐状の内壁面22と噴孔25の入口部25bとの間には、噴孔25に向けて凹む凹部27が形成されることになるのである。これにより、凹部27の燃料室70は、常に複数の噴孔25の入口部25bに連通することになり、凹部27内の燃料を複数の噴孔25に分配し易くするのである。
また、ハウジング11、ノズルホルダ20及びノズルボディ21により、内部に収容室を形成する弁ボディを構成している。その収客室には、「弁部材」としてのニードル30が収容される。ニードル30は、ハウジング11、ノズルホルダ20及びノズルボディ21の内周側に軸方向へ往復移動可能に収容されている。
ニードル30は、ノズルボディ21と概ね同軸上に配置されている。ニードル30は、軸部31、頭部32、シート部33、及び先端部34を備えている。頭部32は、軸方向において軸部31の燃料入口16側の端部に位置し、シート部33は、軸部31の噴孔25側の端部に位置する。そして、シート部33は、図2に示すようにノズルボディ21の弁座部23と接離可能である。
先端部34は、シート部33の下端から環状内側に延びる円錐台状の端面35、36を有している。端面35、36は、シート部33の縮径角と異なる角度の円錐状の第1端面(以下、傾斜面)35と、凹部27の底部に概ね平行な第2端面(以下、対向端面)36とから形成される。
ニードル30の外周面30aと、ノズルボディ21の内周面21bとの間に燃料が流れる燃料通路26が形成され、燃料通路26は噴孔25と連通可能に設けられている。燃料通路26は、シート部33と弁座部23が離座及び着座することにより、噴孔25へ流通する燃料が遮断及び許容されるのである。
また、燃料噴射弁10は、図1に示すようにニードル30を駆動する駆動部40を備えている。駆動部40は、スプール41、コイル42、固定コア43、プレートハウジング44及び可動コア50を有している。スプール41は、ハウジング11の外周側に設置されている。スプール41は、樹脂材で筒状に形成され、外周側にコイル42が巻かれている。巻回されたコイル42の両端部は、コネクタ45の端子部46に電気的に接続されている。ハウジング11を挟んでコイル42の内周側には固定コア43が設置されている。固定コア43は、例えば鉄などの磁性材料により筒状に形成され、ハウジング11の内周側に例えば圧入などにより固定されている。プレートハウジング44は、磁性材料から形成され、コイル42の外周側を覆っている。
可動コア50は、固定コア43と同軸上に対向して配置され、ハウジング11の内周側に軸方向へ往復移動可能である。可動コア50は、例えば鉄などの磁性材料から筒状に形成されている。可動コア50は、固定コア43とは反対側に筒部51を有しており、筒部51には、ニードル30の頭部32が圧入されている。これにより、ニードル30と可動コア50とは例えば溶接などにより一体に接続され、協働可能となっている。
可動コア50は、固定コア43側の端部において「付勢部材」としての弾性材からなるスプリング18が設けられている。スプリング18は、軸方向へ伸長する方向の力(以下、付勢力)を有しており、スプリング18の両端部が可動コア50とアジャスティングパイプ19とに挟み込まれるように配置されている。スプリング18は、可動コア50及びニードル30を弁座部23に着座する方向へ押し付けている。また、上記アジャスティングパイプ19は、例えば圧入などにより固定コア43に固定される構造になっており、固定コア43に圧入されているアジャスティングパイプ19の圧入量を調整することにより、スプリング18の付勢力(荷重)が調整される。
コイル42に通電していないとき、可動コア50及び可動コア50と一体のニードル30は弁座部23側へ押し付けられ、シート部33は弁座部23に着座する。これにより噴孔25からの燃料噴射が遮断される。コイル42に通電すると、可動コア50が固定コア43に吸引されてニードル30が弁座部23から離座し、噴孔25から燃料が噴射される。
ここで、ニードル30が弁座部23から離座している状態を、ニードル30のリフト時と呼ぶ。ニードル30のリフト量は、可動コア50及び固定コア43の両磁極面間のエアギャップにより決まる。
以上、燃料噴射弁10の基本構成について説明した。以下、燃料噴射弁10の特徴的構成について説明する。
(燃料噴射弁10の特徴的構成)
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、以下の知見に基づいて、気筒内64の壁面65、67に燃料噴射弁10からの燃料噴霧の燃料が付着するのを防止する低貫徹力と、高微粒化を両立するという課題を達成する特徴的構成を見出したのである。
(課題解決の原理)
図5(a)及び図5(b)は、燃料噴射弁10から噴射する燃料噴霧において時系列的に成長する噴霧長(ペネトレーションともいう)L、及び当該噴霧の先端部における噴射速度Vの変化を時系列的に示している。なお、図5(a)中の噴霧長L1は噴射終了時(図中の時間T1)における噴霧長であり、気筒内64の壁面65、67から間隔(図6参照)を置いて設定されるものである。図5(a)及び図5(b)において、実線で示される時系列的特性(以下、本発明での噴射燃料特性という)が本発明の実施形態を例示するものであり、破線で示される時系列的特性(以下、従来技術での噴射燃料特性という)が従来技術を適用した比較例を例示したものである。
まず、従来技術での噴射燃料特性を、発明者は以下のように考えている。即ち、従来技術を適用した場合には、噴孔25から噴射の噴霧は、噴霧長の成長過程においてその噴霧の先端部の速度は、概ね徐々に低下する程度であって、著しく低下することはないのである。言い換えると、燃料噴射弁10の噴射期間中において、噴射終了時(図5(a)の時間T1)の噴霧長L1に成長した噴霧の先端部は、気筒内を突き進む力(以下、貫徹力)が、噴孔25の出口部25aから噴射された初期噴射時と概ね同じ程度の貫徹力を有しており、上記先端部の噴射燃料に内部エネルギーが温存される。即ち、噴孔25からの噴射燃料は、噴霧成長過程で、噴射燃料の外周側の燃料部分が周囲空気とのせん断により微粒化するとともに、その噴射燃料の内周側の燃料部分は、その後に周囲空気とのせん断により微粒化するまで、上記貫徹力を発揮する内部エネルギーを保持し続けている。
そのような従来技術を適用した噴射燃料装置(以下、単に「装置」という)では、高微粒化を図ろうとすると、貫徹力を高める必要があるのである。微粒化に伴い噴射燃料の飛翔距離、即ち噴霧長L1が短くなるからである。その結果、高貫徹力により噴霧長L1の先端部での噴射速度が高められることになるため、例えば気筒内64に発生する気流等に噴霧が干渉すると、高貫徹力を維持した噴霧長L1の先端部の燃料が、気筒内64の壁面65、67に衝突し、付着するおそれがあるのである。
次に、本発明での噴射燃料特性を、以下のように設定すべきであると発明者は考えている。即ち、発明者は、噴孔25の出口部25aでの燃料流速の勾配(以下、単に「速度勾配」という)を大きく形成すれば、噴射燃料の塊(以下、燃料塊)のうち、高速側の燃料部分と、低速側の燃料部分とが引きちがれ易くし、燃料塊の分裂を促進させることができる。このように有効に高められた速度勾配を有する噴射燃料は、燃料塊の分裂塊部分ごとに、周囲空気とのせん断による微粒化が促進されることになるので、従来技術のように高貫徹力化することなく、微粒化が促進されるのである。
しかも、図5(b)に示すように、初期噴射時において、従来技術を適用した装置に比べて噴射速度を高めた(図5(b)中の噴射速度V1)としても、上記燃料塊の分裂が促進されるので、その噴射過程において貫徹力を発揮する内部エネルギーが著しく低下し、ひいては噴射終了時の噴霧長L1の先端部の速度を著しく小さくすることができるのである。
ここで、上記速度勾配の定義を、図4に従って説明する。図4は速度勾配の定義を説明する図であり、図2中のY軸及びZ軸が図4中のY軸及びZ軸に相当する。そして、噴孔25の出口部25aでのX−Y平面中の任意点(図中の白抜き○)での速度勾配を図4中の式(5)で表した場合、噴孔25の出口部25aでのX−Y平面全体での速度勾配は式(6)に示すように定義される。以下、単に速度勾配と記載する場合は、式(6)にて定義された速度勾配のことを意味する。また、単に噴射速度と記載する場合は、上記出口部25aでの上記速度勾配を有する燃料流れの平均流速のことを意味する。
(燃料通路26の特徴的構成)
燃料通路26は、弁ボディ11、20、21の内周面と、ニードル30の外周面との間に形成され、燃料が流通する通路をいうが、以下の図2及び図3を参照した説明では、単に燃料通路26と記載する場合は、ノズルボディ21の内周面21bとニードル30の外周面30aとの間に形成された通路を意味する。
図2に示すように、燃料通路26のうち、ノズルボディ21の内周面21bとニードル30の外周面30aとの間に形成され、燃料噴射弁10の軸方向に延びる燃料通路部分を第1燃料通路26aと呼び、円錐状の内壁面22及び凹部27と、ニードル30のシート部33及び先端部34との間に形成される燃料通路部分を第2燃料通路26bと呼ぶ。
第1燃料通路26aは軸方向に延びる環状を呈する通路に形成されており、第2燃料通路26bは、第1燃料通路26aの下流端から環状内側に延びるとともに複数の噴孔25と連通する通路に形成される。
また、上記第2燃料通路26bは、燃料通路26を流通する燃料を遮断及び許容する弁座部23及びシート部33の下流側には、凹部27と先端部34とで形成される燃料室70を有している。シート部33が弁座部23から離座時において、燃料室70へ流出する燃料の流れの主流方向(例えば図10(a)及び図11(a)の矢印方向Y10)は、燃料下流側に向けて縮径する内壁面22のうち、弁座部23の縮径方向でほぼ決定される。
そこで、燃料室70へ流入した燃料の流れの主流方向を制御して、噴孔25の出口部25aでの速度勾配を有効に高めると共に、出口部25aでの噴射速度を許容される範囲で増加させることを目的として、ノズルボディ21及びニードル30は、次の(1)、(2)、(3)、及び(4)の条件を満たすように構成されている。
ニードル30のリフト時における噴孔25の入口部25bから、入口部25bに対向する先端部34の傾斜面35までの軸方向距離(以下、噴孔入口直上隙間という)を、Aとし、ニードル30のシート部33のシート径を、Dsとする。そして、噴孔入口直上隙間Aとシート径Dsの比(A/Ds)は、0.048≦A/Ds≦0.18を満たす(条件(1))。ここで、A/Dsは、燃料室70において噴孔入口直上隙間Aの大きさに係わる指標値(相似形値ともいう)を示すものである。
また、板状部分21aにおける噴孔入口部25bより内周側に位置する内側部位から、内側部位に対向する先端部34の対向端面36までの軸方向距離(以下、噴孔内側部位直上隙間という)を、Bとする。そして、噴孔内側部位直上隙間Bとシート径Dsの比(B/Ds)は、B/Ds≦0.18を満たす(条件(2))。B/Dsは、燃料室70において噴孔内側部位直上隙間Bの大きさに係わる指標値を示すものである。
また、噴孔入口部25bが配置される仮想円Kの径をDpとすると、仮想円Kの径をDpとシート径Dsの比(Ds/Dp)は、1.5≦Ds/Dp≦3を満たす(条件(3))。Ds/Dpは、シート部33から噴孔までの径方向距離(Ds−Dp)の大きさに係わる指標値を示すものである。
また、凹部27の底部としての板状部分21aの厚さ寸法をt、噴孔25の径をdとすると、厚さ寸法tと噴孔25の径dの比(t/d)は、1.25≦t/d≦3を満たす(条件(4))。t/dは、噴孔25の中心軸J2方向の内周長、即ち噴孔長の大きさに係わる指標値を示すものである。
ここで、上記(1)〜(4)の条件において、条件(1)及び条件(2)に対応のA及びBは、B<Aを満たすことが好ましい。また、噴孔25の中心軸J2の方向は、噴孔25の出口部25aが入口部25bよりもノズルボディ21の中心軸J1から離れる側に位置するように傾斜していることが好ましい。
また、噴孔25の入口部25bは、噴孔25の噴孔内周面25cと、内周面21bのうち、凹部27の凹内周面部分(即ち凹部27の底部の上端面)とが交差する角部が形成されている。そして、この角部のうち、弁座部23に近い側の角部部分は、上記凹内周面部分と噴孔25の噴孔内周面25cとが滑らかに連続する曲面を有していることが好ましい。このような構成すれば、燃料の主流が流入する入口部25bは、その主流が流入する側の角部の周縁部を、例えば滑らかなピン角状に形成することが可能となる。
(燃料室70に係わる噴孔入口直上隙間Aの指標値(A/Ds)の範囲設定の理由と作用効果)
噴孔入口直上隙間Aの大きさによっては、噴孔25の入口部25bへ流体力学的な最短距離となる方向に、主流の流れ方向が変化する懸念がある。主流の流れ方向が変化することで、噴孔25の噴孔内周面25cへの主流の押し当て度合いが変化してしまう懸念がある。すると、噴孔25の中心軸J2方向に垂直な断面において箇所の違いにより燃料流速に速度差が生じるものの、噴孔25の出口部25aでの速度勾配が有効に高められないという懸念があるのである。
そして、0.048≦A/Ds≦0.18との条件(1)を満たせば、次の作用効果を得られることが、発明者による試験及び数値解析より明らかになった。図7(a)〜図7(c)は、一つの燃料噴射弁10について、A/Dsの値をパラメータとして変更しつつ、速度勾配、噴射速度、及び粒径を計測する試験結果を示している。なお、これらの試験及び数値解析の条件として次の項目が挙げられる。燃料の噴射圧力=10MPa。また、図中の実線は数値解析により得られたデータを示すものである。
図7(a)はA/Dsと、速度勾配及び噴射速度との関係を示しており、速度勾配はA/Dsの値が小さくなるほど大きくなる。言い換えると、A/Dsの値を大きくするほど速度勾配が低下することになるのだが、A/Dsの値を0.18より大きくした場合には、速度勾配が著しく小さくなる。この場合、噴孔25の入口部25bへ向かう主流の流れ方向が、燃料の拡散によりノズルボディ21の中心軸J1に対し概ね垂直に向かう方向等へ変化し、これにより噴孔25の内周面への主流の押し当て度合いが変化することになる。その結果、噴孔25の出口部25aでの速度勾配が著しく小さくなる。即ち速度勾配を有効に高めることができなくなるのである。
図7(c)は速度勾配と噴射速度の関係を、噴霧の粒径に着目し、粒径が一定大きさの等粒径を曲線で示している。また、図7(b)及び図7(c)においては、粒径は、噴霧の実際の粒径分布をザウター平均粒径(SMD)で求めた粒径を示している。図7(c)に示すように、噴射速度及び速度勾配の両者はいずれも微粒化促進に寄与するが、両者のとりえる大きさは背反関係にある。
図7(b)は、このような粒径に着目して発明者が試験及び数値解析を行なった結果であり、A/Dsの値が0.048より小さく、またはA/Dsの値が0.18より大きくなると、粒径が著しく大きくなる即ち微粒化促進の機能を損なうという知見を得たのである。言い換えると、速度勾配を有効に高め得るための、噴射速度の低下を許容できる限界がA/Ds=0.048であり、速度勾配とは背反関係にある噴射速度の増加範囲を許容しつつ、速度勾配の低下を許容できる限界がA/Ds=0.18であることが明らかになった。
以上のことより、0.048≦A/Ds≦0.18を満たす本実施形態の特徴的構成によれば、有効に高められた速度勾配を形成でき、ひいては従来技術のように貫徹力を大きくすることなく微粒化を促進させることができる。しかも、そのような噴射初期の初期速度勾配によって噴射燃料、即ち噴霧を、初期噴射過程において燃料塊の分裂を促進させる。そして、この燃料塊の分裂促進により、気筒内64のシリンダ壁面65またはピストン上端面67に近い側にある噴霧の先端部での噴射速度、即ち噴射終期の先端部噴射速度を、噴射初期の初期噴射速度に対し著しく低下させることが可能となるのである。
言い換えると、噴射燃料が気筒内の壁面65、67に付着するのを抑制できる程度に噴射速度を小さくすること、即ち低貫徹力とすることができると共に、有効に高められた速度勾配により微粒化を更に促進させることができるのである。
(噴孔内側部位直上隙間Bの指標値(B/Ds)の範囲設定の理由と作用効果)
さて、上記主流を含む燃料流れが燃料室70に流入すると、主流以外の流れは、燃料室70を形成する先端部34及び凹部27の外周面30a、内周面21bの部分に沿って拡散され、主流から分離されるおそれがある。
このような事情に鑑み、上記条件(1)に加え、B/Ds≦0.18を満たすという特徴的構成を加えたのである。上記特徴的構成、つまり条件(1)及び(2)満たすことにより、速度勾配を優先的に有効に高めることができる。
図8(a)及び図8(b)は、一つの燃料噴射弁10について、B/Dsの値をパラメータとして変更しつつ、速度勾配、噴射速度、及び粒径を計測する試験結果を示している。なお、これらの試験及び数値解析の条件として次の項目が挙げられる。燃料の噴射圧力=10MPa、A/Ds=0.18。また、図中の実線は数値解析により得られたデータである。
図8(a)はB/Dsと、速度勾配及び噴射速度との関係を示しており、B/Dsの値を大きくするほど速度勾配が低下する。B/Dsの値を0.18より大きくした場合には、速度勾配が著しく小さくなる。A/Dsの値を0.18に固定しているので、図7(a)の如くA/Ds=0.18に対応する噴射速度は、B/Dの値に関係なく一定となっている。一方、B/Dsの値を小さくするほど、即ちBの値をAの値に比べてより小さくするほど、図7(a)に示されるA/Ds=0.18における速度勾配の値を更に高めることができる。
そのように速度勾配を優先的に有効に高めることができるので、図8(b)に示すように燃料の微粒化が更に効果的に促進できるのである。
(指標値(Ds/Dp)の範囲設定の理由と作用効果)
また、発明者は、上記条件(1)及び(2)による速度勾配を有効に高める方法以外に、シート部33のシート径Dsと仮想円(ピッチ円)径Dpの比(Ds/Dp)に着目した特徴的構成による方法によっても、有効に高められた速度勾配を形成できることを見出したのである。
即ち、図9(a)〜図9(c)は、一つの燃料噴射弁10について、Ds/Dpの値をパラメータとして変更しつつ、速度勾配、噴射速度、及び粒径を計測する試験結果を示している。なお、速度勾配及び噴射速度は背反関係にあることを説明したので、図中では、噴射速度の記載を省略している。ここで、図9(b)及び図9(c)は速度勾配により高微粒化される噴霧に着目するものであり、図9(b)はDs/Dpと粒径の関係、図9(c)は噴霧形状に係わる噴射角(噴霧角とういう)αsのばらつきの度合いσと、Ds/Dpとの関係を示している。噴射角αsは、図2中の二点鎖線で示される噴孔25から実際に噴射された噴射燃料(噴霧)の噴射主流方向J3を、ノズルボディ21の中心軸J1に対する傾きで表している。また、図9(c)中の縦軸は上記噴射角αsのばらつきの度合いσを示しており、図2中の噴孔25の傾きαh、即ち中心軸J2の傾きαhに対する噴射角αsのばらつきの度合いを示す標準偏差σである。
ここで、発明者は、Ds/Dpの大きさに応じて、噴孔入口部25bへ向かう主流の流れ方向が変化することになるのだが、変化した主流の流れ方向が噴孔25の噴孔内周面25cのうち、入口部25b側の噴孔内周面部分ではなく出口部25a側の噴孔内周面部分に衝突し押し当てられるという懸念があると考えている。言い換えると、出口部25aの速度勾配は、有効に高められた速度勾配に形成されずに、単に箇所の違いにより燃料流速に速度差が存在するという程度の「燃料流れの乱れ」だけが生じる可能性があるのである。このような場合にある燃料噴霧は、その噴霧の噴射角αsの乱れを生じ、噴射角αsにばらつきが生じるおそれがあるのである。
このような事情に鑑み、1.5≦Ds/Dp≦3を満たすという特徴的構成にすれば、噴孔25の出口部25aから噴射される燃料噴霧の噴射角αsのばらつきを抑えつつ、噴孔25の出口部25aの速度勾配を有効に高めることができる。
図9(a)のDs/Dp及び速度勾配の関係に示すように、Ds/Dpの値を小さくするほど速度勾配が小さくなるのだが、Ds/Dpの値を1.5より小さくした場合には、速度勾配が著しく小さくなり、ひいては速度勾配を有効に高めることができなくなる。その理由は、以下の図10(a)及び(b)のDs/Dp=1.5、並びに図11(a)及び(b)のDs/Dp=3の一例において燃料の流速分布を数値解析した結果より明らかになった。
また、図10(a)及び図11(a)は噴孔25の中心軸J2方向を含む断面で示される燃料室70及び噴孔25内の流速分布を示しており、図10(b)及び図11(b)は出口部25aでの中心軸J2に垂直な断面で示される流速分布、即ち出口部25aでの速度勾配の形成状態が示されている。
ニードル30のリフト時において燃料室70に流出する燃料の主流方向Y10は、Ds/Dpの値に関係なく、内壁面22の縮径方向(図中の円錐状の方向)によってほぼ決まる。
その主流方向Y10の燃料流れは、Ds/Dpの大きさに応じて、入口部25bへ向かう主流の流れ方向Y20、Y30に変化する。その後、出口部25aでの燃料流れのうち、中心軸J1に近い側にある燃料流れY21、Y31の流速は、中心軸J1から離れる側にある燃料流れY22、Y32の流速との間に概ね差が生じ、速度勾配が生じることになる。
しかしながら、図10に示すように、Ds/Dp=1.5の場合には、シート部33下流にある内壁面22の先端(図中の右端)から噴孔25の入口部25bまでの径方向距離が比較的短い。そのため、入口部25bに向かう主流方向Y20は、噴孔25の入口部25b側の噴孔内周面25cではなく出口部25a側の噴孔内周面25cに衝突し押し付けることになる。その結果、図10(b)の出口部25aの流速分布は、箇所の違いにより燃料流速に速度差が存在するものの、有効に高められた速度勾配を形成するまでには至らないまま、出口部25aより燃料を噴射することになるのである。
一方、図11に示すように、Ds/Dp=3の場合には、内壁面22の先端から噴孔25の入口部25bまでの径方向距離が比較的離れているため、噴孔入口部25bへ向かう主流方向Y30は上記主流方向Y10に対し流れ方向がほとんど変化しないまま、入口部25b側の噴孔内周面25cに主流方向Y30が押し当てられることになる。したがって、Ds/Dp=3の場合、つまりDs/Dpを大きい値に設定する場合においては、出口部25aに至るまでの間に、図11(a)及び(b)の如く出口部25aでの速度勾配を十分大きく、即ち有効に高められた速度勾配が形成できるのである。
但し、上記Ds/Dpの値を3より大きくした場合には、数値解析した別の結果より、更に以下の知見を得たのである。即ち、図12(a)及び(b)は、燃料室70及び噴孔25の圧力分布を数値解析した結果を示している。この結果によれば、図12(a)に示されるDs/Dp=3の場合には、板状部分21a直上の内側部位での燃料圧が、燃料室70内の他の領域部分よりも高い圧力P1となることが明らかになった。
入口部25bに近接する上記板状部分21a直上の内側部位に、高い圧力P1が存在することは、入口部25bでの圧力が上記圧力P1の干渉を受けることを意味する。その結果、互いに干渉し合う双方の圧力の影響により、図9(c)に示す噴霧の噴射角αsのばらつきが、急激に大きくなって、顕著なばらつきとなるのである。
図12(b)に示されるDs/Dpの値を1.5より小さくした場合には、上記板状部分21a直上の内側部位において高い圧力P1が存在することはない。しかし、上述の「燃料流れの乱れ」が生じることになるから、Ds/Dpの値を1.5より小さくした場合についても、図9(c)に示す噴霧の噴射角αsのばらつきが、急激に大きくなって、顕著なばらつきとなるのである。
(指標値(t/d)の範囲設定の理由と作用効果)
さて、上記噴孔入口部25bに向かう主流が入口部25b側の内周面に押し当てれば、出口部25aに向かって速度勾配が高められるはずである。しかしながら、主流が噴孔内周面25cに押し当てられた後、主流以外の流れも噴孔内周面25cによって整流されることになる。そのため、噴孔25の「噴孔長」の大きさによっては、有効に高められた速度勾配の大きさが著しく低下してしまうおそれがあると発明者は考えている。
このような事情に鑑み、「噴孔長」の大きさに係わる指標値(t/d)が、1.25≦t/d≦3を満たすという特徴的構成とすれば、有効に高められた速度勾配の大きさが著しく低下するのを、回避できるのである。そのような速度勾配により微粒化が更に促進されるのである。
図13(a)〜図13(c)は、一つの燃料噴射弁10について、t/dの値をパラメータとして変更しつつ、速度勾配、粒径、及び噴射角αsのばらつきを計測する試験結果を示している。また、図13(b)及び図13(c)は速度勾配により高微粒化される噴霧に着目するものであり、図13(b)はt/dと粒径の関係、図13(c)は噴霧形状に係わる噴霧収縮率αs/αhとの関係を示している。
図13(a)のt/d及び速度勾配の関係に示すように、t/dの値を大きくするに従って次第に速度勾配が増加する傾向にある。しかし、t/dの値が所定値範囲を超えると逆に速度勾配が低下するようになる。詳しくいは、t/dの値が約1に達するまではt/dの値を大きくするほど速度勾配が大きくなる。その後、t/dの値が約1.5を超えると、t/dの値を大きくするほど速度勾配が小さくなるのである。更に詳しくは、t/dを上記1.5〜3.5の範囲でみると、t/dの値が約2.5に達するまでは、t/dの値の変化に対する速度勾配の低下度合いが比較的大きく、t/dの値が約2.5を超えると、t/dの値の変化に対する速度勾配の低下度合いが、著しく小さくなり僅かとなる。
発明者は、上記t/dの値の上限値(3)及び下限値(1.25)を以下の理由により設定した。即ち、図13(b)の粒径に着目した結果で示されるように、t/dの値が1.25より小さく、またはt/dの値が3より大きくなる場合には、粒径が著しく大きくなる即ち微粒化促進の機能を損なうという知見に基づいている。言い換えると、速度勾配を有効に高める限界がt/d=1.25であり、t/dの値の増加に伴う速度勾配の低下度合いを許容できる限界がt/d=3であることが明らかになったのである。
また、発明者は、気筒内64の壁面65、67に燃料噴射弁10からの燃料噴霧の燃料が付着するのを確実に防止するという観点から、t/dの値の噴射方向を制御する機能、つまり噴霧収縮率αs/αhは、重要な要素機能であると考えている。即ち、図13(c)の噴射方向制御性に着目した結果で示されるように、t/dの値が1.25を超えると、噴霧収縮率αs/αhがほぼ100%に近づき、噴孔25の傾きαhで噴射方向を決定できる。言い換えると、t/dの値が1.25より小さくなる場合には、速度勾配を有効に高めることはできるものの、噴霧収縮率αs/αhという指標で表される噴射方向制御性が、図13(c)に示すように低下する。そのようなt/d=1.25を、速度勾配を有効に高める限界としたのである。
以上、本実施形態の一特徴的構成を説明した。以下、本実施形態の別の特徴的構成を、図2、及び図14、15に基づいて説明する。
(燃料噴射弁10の別の特徴的構成)
ここで、上述した円錐状を呈する内壁面22は、弁座部を形成する内周面部分に相当する。従って、内壁面22の縮径方向は、上記で説明した「弁座部23の縮径方向」に対応する。
本実施形態は、上記で説明した「課題解決の原理」に基づいて発明されたものであり、特に、速度勾配の形成に伴う噴射速度の低下を抑制すべく、「燃料の主流が、噴孔25の入口部25bへ流れ込むまでの流れエネルギーの減少を抑制」することにある。
そのような本実施形態では、以下の事情を考慮している。即ち、特開平11−70347号公報(特許文献2)や特開平3−264767で示される従来技術の燃料噴射弁では、燃料室が実質的に円筒状に形成されており、燃料室に流入する燃料を、各噴孔に分配し易くしている。しかし、このような従来技術では、噴射の入口部に対向して配置される先端部の形成は、入口部の直上に、対向端面を配置する形状となっている。それ故に、シート部が弁座部から離座時に、燃料の主流が燃料室に流入しても、その主流は、噴孔の入口部に真直ぐに流れ込まず、曲がり損失が生じるという懸念があるのである。
入口部25bへ流れ込むまでの「主流を含む燃料の流れ」に、曲がり損失が生じると、流れエネルギーが減少し、入口部へ流入する流速が低下することになるので、噴孔から噴射される燃料の噴射速度の低下を招く。このことは、速度勾配の形成による噴射速度低下要因以外に、他の噴射速度低下要因が増えることを意味する。従って、このような事情を考慮し、本実施形態では、「噴射速度の過度な低下を防止しつつ、低貫徹力と高微粒化の両立を図る」ことにある。
そこで、本実施形態の特徴的構成を、以下のように設定している。即ち、図2に示すように、上記「弁部材」としてのニードル30の先端部34には、傾斜面35が、シート部33を形成するシート面33aの下端から、環状内側に延びるように形成されている。シート部33のシート面33aは、内壁面22に対向して配置され、シート面33aの挟み角であるシート角βは、80°〜130°の範囲に設定されている。
シート部が着座及び離座する内壁面22の挟み角は、シート角βとほぼ同じか僅かに小さく形成されている。また、噴孔25の傾きαhは、−10°〜40°の範囲に設定されている。なお、好ましくは、噴孔25の傾きαhの範囲は、0°〜40°である。
ノズルボディ21は、内壁面22と噴孔25の位置関係が以下のように構成されている。即ち、噴孔25の中心軸J2を含む仮想平面(図2の紙面)において、内壁面22の縮径方向に延長する仮想延長線msに対し、仮想延長線ms上に噴孔25の入口部25bが位置する。さらに、仮想延長線msは、入口部25b側の噴孔内周面25cと交差している。即ち、仮想延長線msの交点mcが噴孔内周面25c上に位置している。これにより、燃料の主流方向を、入口部25bに真直ぐ流入する流れに制御し得るので、ニードル30が内壁面22から離座時に、燃料の主流が内壁面22を通過した後も、燃料流れの曲がり損失を抑制する。それ故に、燃料の流れエネルギーの減少を抑えつつ、入口部25bに燃料を流れ込ませることが可能となる。
また、ニードル30は、先端部34の傾斜面35と噴孔25の位置関係が以下のように構成されている。即ち、傾斜面35は、噴孔25の中心軸J2が先端部34に交差する位置により内側に延びている。詳しくは、傾斜面35の先端が、噴孔25の中心軸J2が先端部34に交差する位置により径方向内側に位置している。これにより、ニードル30のシート面33aが内壁面22から離座時に、燃料の主流がシート面33aを通過した後も、傾斜面35に沿って整流されるので、燃料流れの曲がり損失が抑制される。
以上のノズルボディ21及びニードル30の構成によれば、シート部33及び弁座部23、即ちシート面33a及び傾斜面35と内壁面22とにより、燃料の主流方向を、噴孔の入口部に真直ぐに流れ込む方向に確実に制御することができる。これにより、燃料の主流を、流れエネルギーの減少を抑えて入口部25bに流れ込ませることができる。
しかも、上記燃料の主流が、入口部25bに流入時に、噴孔内周面25cに衝突することになるので、衝突した噴孔内周面25cに沿って入口部25b側から出口部25aへ移動する間に、燃料に乱れを生じさせることができ、ひいては出口部25aでの速度勾配を大きく形成し得るのである。
さらに、上記シート面33aと傾斜面35のなす角度θが、18°≦θ≦27°を満たせば、噴孔25の入口部25bへ流れ易くできるということを、発明者による試験及び数値解析により明らかになった。言い換えると、図2中の燃料通路26のうち、シート面33a及び傾斜面35での燃料通路部分が、入口部25bへ流れ易い通路形状に設定されるのである。
ここで、角度θとは、図2に示すように、傾斜面35が、シート面33aに対し、内壁面22から遠ざかる方向に傾斜する角度である。
図14(a)〜(e)は、一つの燃料噴射弁10について、θの値をパラメータとして変更しつつ、速度勾配、噴射速度、及び流量係数を計測する試験結果を示している。なお、これらの試験及び数値解析の条件として次の項目が挙げられる。燃料の噴射圧力=10MPa。また、図中の実線は数値解析により得られたデータを示すものである。
図14(a)の流量係数と角度θとの関係のように、角度θを大きくするに従って次第に流量係数が増加する傾向にある。これは、角度θの増加により、図14(b)の上記シート面33a及び傾斜面35での燃料通路部分における断面減少率が小さく抑えられるからである。しかし、角度θが所定値範囲を超えると、図14(b)の剥離角という指標が示すように、主流を含む燃料の流れのうち、傾斜面35に近い燃料流れの部分で傾斜面35から剥離する度合いが過度に増加するため、角度θが増加するほど逆に流量係数が小さくなる。
発明者は、上記角度θの値の上限値(27)及び下限値(18)を以下の理由により設定した。図(a)の流量係数の特性図に示されるように、18°≦θ≦27°の範囲に設定すれば、比較的流れ易い通路形状であることを示す所定値(実施例では、0.6)以上の流量係数を確保できるからである。
また、図14(d)は角度θと速度勾配との関係を示しており、角度θを大きくなるほど、速度勾配が低下する傾向にある。角度θの増加に伴って上記シート面33a及び傾斜面35での燃料通路部分が面積増加するので、所定の流量係数を得やすくなるものの、上記剥離の過度な発生により、主流が噴孔内周面25cに押し当てられる度合いが変化してしまうからと発明者は考えている。このような図14(a)〜(e)の結果の知見に基づいて、噴射速度の低下を許容できる限界がθ=18°であり、速度勾配の低下を許容できる限界がθ=27°であることが明らかになった。
以上の本実施形態によれば、従来技術のように微粒化促進を高貫徹力、即ち噴射速度を高めることでなし得るというものではなく、出口部25aでの速度勾配形成と噴射速度との組合せにより微粒化促進が図れるので、低貫徹力と高微粒化の両立が図れる。しかも、速度勾配の形成に伴って噴射速度が低下することに対し、流れエネルギーの減少を抑えて噴孔25の入口部25bに燃料を流れ込ませるようにするので、噴射速度の過度な低下を防止しつつ、低貫徹力と高微粒化の両立ができるのである。
なお、本実施形態では、先端部34における傾斜面35の先端が、入口部25bの位置より径方向内側にあることが好ましい。これにより、燃料の主流がシート部33を通過した後も、入口部25bの位置に到達するまで、燃料流れの曲がり損失を抑制することができる。
(第2実施形態)
第2実施形態を図15に示す。第2実施形態は第1実施形態の変形例である。図15は、燃料噴射弁の一部を示し、噴孔及び噴孔の燃料上流の燃料室の周りを示している。
ニードル30は、先端部34の傾斜面35と噴孔25の位置関係が以下のように構成されている。即ち、傾斜面35の先端が、入口部25bの位置より径方向内側に延びている。このような上記シート面33a及び傾斜面35での燃料通路部分は、燃料の主流がシート部33を通過した後も、少なくとも入口部25bの位置の内側まで、燃料流れの曲がり損失を抑制する機能を有するのである。これにより、流れエネルギーを減少させることなく、流れエネルギーを維持したまま、噴孔25の入口部25bに燃料を流れ込ませることが可能となる。
ここで、燃料噴霧の噴射角αsは、燃料噴射弁10を搭載するエンジンの要求性能等によって決定されるため、凹部27に形成される各噴孔25が、異なる噴射角αsに設定されるという懸念がある。狙いの噴射角αsにより噴孔長が変化するので、噴射角αsの異なる噴孔25間で微粒化度合いが異なることになる。
これに対し、本実施形態では、ノズルボディ21の凹部27において、噴孔25が形成される板状部分21aの構成を、以下のようにしている。即ち、板状部分21aの入口部25bの面が平面に形成されている。さらに、板状部分21aの出口部25aの面が球面に形成されている。
また、上記出口部25aの面は、各噴孔25の出口部25aに形成される球面間が連続的に接続されており、全体として燃料下流側(図15の下方向)に突出する凸球面状に形成されている。
以上の構成によると、板状部分21aのうちの、入口部25bの面を平面とし、出口部25aの面を球面とするので、各噴孔25の噴射角αsの相違による噴孔長の変化を抑制することができる。これにより、噴射角αsの異なる各噴孔25間の微粒化のばらつきを抑制することができる。
ここで、図16(a)は指標値(Lt/d)と噴孔長との関係を示し、図16(b)は指標値(Lt/d)と粒径の変化度合いとの関係を示すものである。指標値(Lt/d)は、噴孔長Ltに係わる指標値であって、噴孔長Ltと噴孔25の径の比である。なお、図16(b)の粒径のばらつきは、Lt/d=1.5のときの粒径を基準に、粒径の変化度合いを示している。
噴射角αs、即ち実質的に同じである噴孔25の傾きαhの設定範囲は、―10°≦αh≦45で設定されている。その設定範囲において、板状部分21aの両面が平面である場合には、Lt/dの値が、Lt/d=1.5〜2、1程度の範囲で変化する。その結果、粒径は、0〜5.7%程度のばらつきを生じることになるのである。
これに対し本実施形態では、Lt/dの値が、Lt/d=1.5〜1.6程度の範囲に抑制することができる。その結果、粒径のばらつきを、0〜1.2%程度の範囲に効果的に抑制することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は本実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
(1)以上説明した本実施形態では、燃料室70の形状を、弁座部23と凹部27の底部の外周側とを滑らかな曲面で接続されるものとしたが、以下の図17に示す変形例の各態様の形状としてもよい。即ち、図17(a)の変形例の如き上記曲面に代えて底部に垂直な内周面で形成された円筒状の凹部であってもよい。また、図17(e)の変形例の如き凹部において底部も上記曲面と同じ曲面状に形成するものであってもよい。また図17(i)の変形例の如き凹部を円錐状に形成し、底部と弁座部23を円錐状の内周面で形成するものであってもよい。
なお、ここで、図17(a)〜図17(d)の各変形例は、上記本実施形態と同様の、凹部27の底部が板状部分21aで形成されるものである。また、図17(e)〜図17(h)の各変形例は、凹部127が上記底部を含め半球面状に形成されるものである。また、図17(i)〜図17(l)の各変形例は、凹部227が上記底部を含め円錐面状に形成されるものである。なお、底部は、本実施形態における板状部分21aに相当する。
(2)また、以上説明した本実施形態では、ニードル30の先端部34を概ね円錐状に形成されるものとしたが、図17(b)の変形例の如き先端部134を概ね球面状に形成するものであってもよい。また、図17(f)の変形例の如く先端部134を概ね球面状に形成し、上記半球面状の凹部127に対向して配置するものであってもよい。また、図17(j)の変形例の如く先端部134を概ね球面状に形成し、上記円錐面状の凹部227に対向して配置するものであってもよい。
(3)また、以上説明した本実施形態では、燃料室70の形状を規定する指標値であるA/Ds、及びB/Dsにおいて先端部の形状を、B<Aとなる円錐状であるとしたが、これに限らす以下の変形例であってもよい。即ち、図17(c)の変形例では、先端部234を扁平な円筒状とし、先端部234の対向端面236に対向する凹部27側の板状部分21aに対向端面236に向けて延びる段差部29を設ける構成とする。また、図17(g)の変形例では、図17(f)に示される半球面状の凹部127に、先端部134に向けて延びる段差部29を設ける構成とする。また、図17(g)の変形例では、図17(j)に示される円錐状の凹部227に、先端部に向けて延びる段差部29を設ける構成とした。なお、この先端部の形状は、球面状や円錐状であっても、図17(j)ように扁平な円筒状に形成された先端部234のいずれでもよい。
なお、上記段差部29は円筒状を呈しており、凹部27、127、227に、先端部に向けて設置されている。
(4)上記段差部29は円筒状に呈するものに限らず、図17(d)、図17(h)、及び図17(l)の変形例の如く円錐状に形成され、円錐状を呈する段差部29の頂部を、先端部に対向するように配置するものであってもよい。
(5)また、以上説明した本実施形態では、燃料噴射弁10を気筒内64にセンター搭載し、燃料噴射弁10からの噴射される燃料の噴霧形状を円錐状に形成されるものとしたが、これに限らず、図18の変形例の燃料噴射装置に示されるように、気筒内64に斜め搭載し、燃料噴射弁10からの噴射される燃料の噴霧形状を、扁平な扇状に形成されるものとしてもよい。この場合、燃料噴射弁10は、シリンダヘッド61のうち、吸気バルブ68側の気筒内64の角部に取り付けられ、燃料噴射弁10を鉛直状態から排気バルブ69側に所定角度に傾斜して設置する。
(6)また、以上説明した本実施形態では、仮想円K上に4個の噴孔25を一重環状に配置した。これに限らず、噴孔25の数は、2個、6個、あるいは8個等いずれであってもよい。なお、噴孔25の数が2個の場合、仮想円Kの直径(ピッチ径)を、Dpと定義する代わり、噴孔25間のピッチを、Dpと定義してもよい。
(7)また、上記燃料噴射弁10からの噴霧形状が扁平な扇状に形成される場合、扁平な扇状の噴霧は、燃料噴射弁10からの噴射により、一つ形成されるものに限らず、複数形成されるものであってもよい。
(8)また、以上説明した本実施形態において、噴孔25の中心軸J2の方向は、噴孔25の出口部25aが入口部25bよりもノズルボディ21の中心軸J1から離れる側に位置するように傾斜している構成とした。このような構成により、ニードル30がリフト時、燃料の主流が噴孔25の入口部25bに流入する際に、噴孔25の入口部25b側の内周面のうち、ノズルボディ21の中心軸J1に近い側の内周面部分に、主流を効果的に押し当てることができるからである。故に、出口部25aにおいて上記中心軸J1に近い側の内周面部分から遠い側の内周面部分の間で、効果的に有効に高めた速度勾配が形成されるのである。
(9)また、以上説明した本実施形態では、本実施形態による燃料噴射弁10に必須構成として、条件(1)〜条件(4)のそれぞれの特徴的構成を有するものとして説明したが、条件(1)、条件(2)、条件(3)、及び条件(4)を同時に具備する必要はなく、少なくとも条件(1)及び条件(2)を具備する燃料噴射弁であってもよい。
(10)また、以上説明した本実施形態では、噴孔25の横断面形状を真円としたが、楕円であってよいし、またスリット状であってもよい。
(11)また、以上説明した本実施形態では、弁ボディとしてのノズルボディ21に、凹部27及び噴孔25を形成する構成としているが、ノズルボディとは別体の噴孔成形部材としてのプレート部材を設け、当該プレート部材に噴孔を形成する構成としてもよい。この場合、プレート部材の板厚寸法は、例えば凹部の底部に相当する板状部分21aの厚寸法tで形成される。
(12)また、以上説明した本実施形態では、噴孔25の傾きαhの値を、―10°≦αh≦45で設定した。この場合、αhの値を、0°≦αh≦45でなく、―10°≦αh≦45とすることで、噴霧形状設定の自由度向上と、壁面65、67以外の点火プラグへの燃料付着防止が図れる。
即ち、図19に示すように、凹部27に形成された噴孔25のうち、点火プラグ側に向けて噴射する噴射主流方向J3となる噴孔の傾きαhの値を、他の噴孔の傾きαhとは大きく異なる値にすることが容易となる。