以下、本発明の内容について詳細に説明する。本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを、または、これらに併せて少量のポリヒドロキシ化合物等を反応させてなる、直鎖または分岐の熱可塑性芳香族ポリカーボネート樹脂、または共重合体である。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の製造方法を用いることができる。製造方法としては、具体的には例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等が挙げられる。
原料として用いられ芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的には例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等で例示されるカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
これらの中でも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類を用いることが好ましく、特に、得られるポリカーボネート樹脂の耐衝撃性の点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]が好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)の原料である芳香族ジヒドロキシ化合物は、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル、ハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン;ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。これらカーボネート前駆体もまた1種類でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
またポリカーボネート樹脂(A)は、分岐構造を有していてもよく、具体的には例えば、溶融エステル交換法により製造される分岐構造を有するポリカーボネート樹脂や、界面重合法等により製造される直鎖状ポリカーボネート樹脂に、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した、分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等で例示されるポリヒドロキシ化合物類、または、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。
これらの中でも1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。多官能性芳香族化合物は、上述の芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができ、その使用量は芳香族ジヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%の範囲が好ましく、0.1〜2モル%の範囲がより好ましい。
次にポリカーボネート樹脂(A)の製造方法として、界面重合法と溶融エステル交換法について説明する。界面重合法による反応は、反応に不活性な有機溶媒、及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保って行う。反応は、芳香族ジヒドロキシ化合物と、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)、および芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤をホスゲンと反応させた後、第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによってポリカーボネートを得る。分子量調節剤の添加はホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されない。なお反応温度は例えば、0〜40℃で、反応時間は例えば数分(例えば10分)〜数時間(例えば6時間)である。
ここで反応に不活性な有機溶媒としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。またアルカリ水溶液に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
分子量調節剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。一価のフェノール性水酸基を有する化合物としては、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノールおよびp−長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して、好ましくは50〜0.5モル、より好ましくは30〜1モルである。
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類:トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
溶融エステル交換法による反応は、具体的には例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応である。炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネートおよびジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が例示される。炭酸ジエステルとしては、中でもジフェニルカーボネートまたは置換ジフェニルカーボネートを用いることが好ましく、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
溶融エステル交換法における分子量や末端ヒドロキシル基量の調節は、一般的に炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率調整や、反応時の減圧度調整等により行われる。より積極的な方法としては、反応時に別途、末端停止剤を添加する調整方法が挙げられる。末端停止剤としては、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類が挙げられる。末端ヒドロキシル基量は、製品ポリカーボネートの熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす。用途にもよるが、実用的な物性を持たせるためには、中でも1000ppm以下、特に700ppm以下であることが好ましい。
またポリカーボネート樹脂(A)を溶融エステル交換法で製造する際、ポリカーボネート樹脂(A)の末端ヒドロキシル基量は100ppm以上であることが好ましい。このような末端ヒドロキシル基量とすることにより、分子量の低下を抑制でき、色調もより良好なものとすることができる。
この様なポリカーボネート樹脂(A)を得るためには、具体的には例えば、溶融エステル交換法に於いて、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを等モル量以上、中でも1.01〜1.30モル用いることが好ましい。
溶融エステル交換法においては、通常、エステル交換触媒を用いる。エステル交換触媒としては特に制限はないが、具体的には例えば、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が好ましい。また補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。尚、これらの触媒は、重合終了後に失活処理しておくことが好ましい。
溶融エスエル交換法における反応条件は、任意であり、適宜選択して決定すればよいが、具体的には例えば100〜320℃の温度で反応を行い、最終的には2mmHg以下の減圧下、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら溶融重縮合反応を行う方法が挙げられる。
溶融エスエル交換法は、バッチ式または連続的に行うことができるが、本発明の樹脂組成物の安定性等を考慮すると、連続式で行うことが好ましい。また溶融エスエル交換法で用いた触媒の失活剤としては、該触媒を中和する化合物、例えばイオウ含有酸性化合物またはそれより形成される誘導体を用いることが好ましい。このような触媒を中和する化合物は、該触媒が含有するアルカリ金属に対して、好ましくは0.5〜10当量、より好ましくは1〜5当量の範囲で添加する。さらに加えて、このような触媒を中和する化合物は、ポリカーボネートに対して、1〜100ppmであることが好ましく、特に1〜20ppmであることが好ましい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、通常、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]が15000〜30000である。この粘度平均分子量が低すぎると機械的強度が低下しすぎてしまい、逆に高すぎても流動性が低下し、成形加工が困難になる。よって粘度平均分子量は、中でも17000〜27000、特に19000〜25000であることが好ましい。本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)としては、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して、上述の粘度平均分子量の範囲内としてもよく、この際、粘度平均分子量が上述の好適範囲外であるポリカーボネート樹脂をもちいてもよい。
ここで粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4M0.83、から算出される値を意味する。ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
さらに、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料だけでなく、使用済製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたものを用いてもよい。使用済製品としては、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス・自動車ヘッドランプレンズ・風防等の車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁・ガラス窓・波板等の建築部材等が好ましく挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生されたポリカーボネート樹脂は、(A)の80重量%以下であることが好ましく、より好ましくは50重量%以下である。
また、ポリカーボネート樹脂組成物の改質のため、他の樹脂と組み合わせてもよい。他樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば、特に制限はなく、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、液晶ポリマー等を用いることが出来る。他樹脂と混合する方法は一般的に用いられる方法で良いが、分散性を良くするため、押出機を用い、ポリカーボネート素材と混合ブレンドする方法が望ましい。
本発明に用いる黒鉛(B)は、平均粒径50μm以下、粒径50μm以上のものの含有量が50%以下で且つ、炭素純度が95%以上であることを特徴とする。通常、平均粒径が小さすぎると、混合ブレンド時に凝集を起こしやすくなり、その為に分散性が低下してしまい、強度、難燃性、抵抗値、ゲート部痕状態などの物性バランスが良好でなくなる。また取り扱い性が低下し、混合作業時に周囲に舞うなど、周辺環境を悪化させることも懸念される。更には、ポリカーボネート樹脂等の樹脂成分との混練において、押出機などを用いて溶融混練する際、ホッパーからスクリューを介して混練機内部へ混合材料を搬送するにあたり、スクリューへの喰い込みが低下し、混合材料の計量が不安定となる等、工業的生産性も低下する傾向にある。
逆に、平均粒径が50μmを越えると、樹脂成形体の外観や分散性が低下する。更には、ピンゲートやサブマリンゲート等の金型を用いて樹脂成形体を製造する際、ゲート切れ性が低下し、樹脂成形体表面上に残るゲート痕が大きくなってしまい、ゲート部分の後仕上げが必要となり、生産性が低下してしまう。
よって本発明に用いる黒鉛(B)の平均粒径は、50μm以下であれば適宜選択して決定すればよいが、通常3〜5μmであり、中でも5〜40μm、更には10〜30μmであることが好ましい。尚、本発明に用いる黒鉛(B)の平均粒径とは当該品種の測定対象黒鉛粒子を粒径の大きさ順に並べたときに、黒鉛粒子総数の半分に当たる順番のものの粒径である。
また本発明に用いる黒鉛(B)は、粒径50μm以上のものの含有量が50%以下とすることが重要である。粒径50μm以上の黒鉛(B)が多すぎると、樹脂成形体の外観や分散性が低下するので、出来るだけ少ない方が好ましく、中でも50%以下、特に30%以下であることが好ましい。尚、本発明に用いる黒鉛(B)における特定粒径範囲のものの含有率(%)は、黒鉛粒子の総数に対する数を示す。
更に本発明に用いる黒鉛(B)の炭素純度は95%以上である。炭素純度が95%以上の黒鉛(B)を用いることによって、本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られる厚さ1.6mmの樹脂成形体で、燃焼性がUL規格燃焼試験方法(UL94)による評価で、難燃性の高いV−1またはV−0を示す、優れたものとなる。黒鉛(B)の炭素純度が95%未満では、本発明のポリカーボネート樹脂組成物における難燃性が低下してしまうので、中でも97%以上、特に99%以上であることが好ましい。
本発明に用いる黒鉛(B)は、上述した条件を満たすものであれば、天然物でも人工物でもよく、その産地や製造方法は任意である。本発明に用いる黒鉛(B)としては、具体的には例えば、天然鱗片状黒鉛、天然土状黒鉛、人造黒鉛等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で使用してもよい。中でも、粒径の調整や高炭素含有率の黒鉛を容易に入手できることから、人造黒鉛が好ましい。
また本発明に用いる黒鉛(B)は、表面処理をされていてもよい。表面処理に用いられるものは、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性を損なわない範囲で、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、ポリカーボネート樹脂(A)との親和性を増すための、エポキシ樹脂処理やウレタン樹脂処理、酸化処理等が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における黒鉛(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)と黒鉛(B)との合計100重量%に対して、通常5〜50重量%である。黒鉛(B)の含有量が少なすぎると難燃性が低下し、逆に多すぎても、ポリカーボネート樹脂(A)と黒鉛(B)とを溶混練して混練機から溶融樹脂を押し出し、ペレット化することが困難となる。よって本発明における、黒鉛(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)と黒鉛(B)との合計100重量%に対して、中でも5〜40重量%、特に10〜30重量%であることが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、更に、剛性や寸法安定性を向上させる目的で、粒径が100μm以下で、アスペクト比を有する、具体的にはアスペクト比が3以上の、小粒径強化材(C)を含有することが好ましい。
この小粒径強化材(C)の粒径は100μm以下であれば適宜選択して決定すればよい。粒径が大きすぎると、本発明の樹脂成形体外観や、樹脂成形体中での分散性が低下する傾向にある。更にはゲート切れ性の低下、つまりゲート部痕が樹脂成形体厚みに対して大きくなりすぎてしまい、ゲート部分の後仕上げが必要となり、生産性が低下してしまう。
逆に小さすぎても、混合ブレンド時に凝集を起こしやすくなり、その為に分散性が低下してしまい、強度、難燃性、抵抗値、ゲート部痕状態などの物性バランスが良好でなくなる。更には、ポリカーボネート樹脂等の樹脂成分との混練において、押出機などを用いて溶融混練する際、ホッパーからスクリューを介して混練機内部へ混合材料を搬送するにあたり、スクリューへの喰い込みが低下し、計量が不安定となる等、工業的生産性が低下する傾向にある。よって本発明に用いる小粒径強化材の粒径は、中でも5〜80μm、特に5〜60μmであることが好ましい。
また本発明に用いる小粒径強化材(C)は、アスペクト比を有することが重要である。アスペクト比が小さすぎると剛性の改良効果が不十分となり、逆に大きすぎても、成形収縮率に異方性が生じ、寸法安定性が低下してしまう。よってこのアスペクト比は、3〜50であることが好ましい。
本発明に用いる小粒径強化材(C)としては、従来公知の任意の強化材を使用でき、具体的には例えばガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルク、ベーマイト、カオリン等が挙げられる。更に小粒径強化材(C)は、ポリカーボネート樹脂(A)との親和性や密着性を向上させるために、収束剤等の表面処理剤により、表面処理をされていてもよい。この様な表面処理剤としては、具体的には例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における小粒径強化材(C)の含有量は任意であり、適宜選択して決定すればよい。小粒径強化材(C)の含有量が少な過ぎると、本発明の樹脂成形体の剛性や寸法安定性の改良効果が不十分となる。逆に多すぎても、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性や耐衝撃性が低下する。よって通常、小粒径強化材(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)と黒鉛(B)との合計100重量部に対して、通常、10〜100重量部である。
また本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、更に、難燃性を向上させるため、従来公知の任意の難燃剤(D)を含有することが好ましい。具体的には例えば、金属塩系難燃剤(D−1)、シリコーン系難燃剤(D−2)、リン系難燃剤(D−3)等が挙げられる。これらは(例えば(D−1)と(D−2)の様に)異なる種類のものを二種以上、任意の割合で用いても、また、(例えば(D−1)に包含される、異なる2以上の化合物の様に)同種内の異なる化合物を、二種以上、任意の割合で用いてもよい。
金属塩系難燃剤(D−1)としては、具体的には例えば、有機酸金属塩が挙げられ、中でも有機スルホン酸金属塩が好ましい。具体的には例えば、パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩、パーフルオロアルカンジスルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられ、中でもパーフルオロアルカン(ジ)スルホン酸金属塩が好ましい。
パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩としては、パーフルオロアルスルホン酸のアルカリ(土類)金属塩等が挙げられ、中でも炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を有するスルホン酸アルカリ(土類)金属塩が好ましい。
パーフルオロアルカンスルホン酸の具体例としては、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸等が挙げられる。
パーフルオロアルカンジスルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロメタンジスルホン酸、パーフルオロエタンジスルホン酸、パーフルオロプロパンジスルホン酸、パーフルオロイソプロパンジスルホン酸、パーフルオロブタンジスルホン酸、パーフルオロペンタンジスルホン酸、パーフルオロヘキサンジスルホン酸、パーフルオロヘプタンジスルホン酸、パーフルオロオクタンジスルホン酸や、これらのイミド等の塩が挙げられる。
中でも、パーフルオロプロパンジスルホン酸またはパーフルオロブタンジスルホン酸や、これらのイミドの金属塩が、ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性や、難燃性付与の点から好ましい。
芳香族スルホン酸金属塩の具体例としては、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4・4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホンのナトリウム塩、4・4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホンのカリウム塩、4−クロロ−4’−ニトロジフェニルスルホン−3ースルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3・3’−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3・3’−ジスルホン酸のジカリウム塩等が挙げられる。
有機スルホン酸金属塩を構成する金属としては、中でもアルカリ金属やアルカリ土類金属が好ましい。中でもアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが、またアルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウムが、有機スルホン酸金属塩とした際に、ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性や、難燃性付与の点から好ましい。
本発明に用いるシリコーン系難燃剤(D−2)としては、ポリカーボネート樹脂(A)に添加した場合、その難燃性を改良することができる種々のシリコーン、或いはシリコーン含有化合物が含まれる。具体的には例えばシリカ粉末、好ましくはアスペクト比が1〜2のシリカ粉の表面に、ポリオルガノシロキサンを担持させた粉末状シリコーン(D−2−1)、主鎖が分岐構造を有し、かつ珪素に結合する芳香族基を有する分岐シリコーン化合物(D−2−2)、芳香族基含有環状ポリオルガノシロキサン及び直鎖状ポリオルガノシロキサンを含有するシリコーン化合物(D−2−3)が挙げられる。
粉末状シリコーン(D−2−1)
シリカ粉末の表面にポリオルガノシロキサンを担持させた粉末状シリコーン(D−2−1) に用いられるシリカ粉末としては、フュームド(又はヒュームド)シリカ、沈殿法または採掘形態から得られた微粉砕シリカ等が挙げられる。本発明に用いるシリカ粉末は、通常、多孔質である。
また形状は任意であり、不定形〜球状まで、様々なものを適宜選択して決定すればよい。またまた平均粒径は10〜100μm、中でも20〜50μmであることが好ましく、アスペクト比は1〜2であることが好ましい。表面積も任意であり、適宜選択して決定すればよいが、ポリオルガノシロキサン等の担持(吸収、吸着又は保持)を容易にするために、50〜400m2/gであることが好ましい。
この様な粉末状シリコーンは、例えば、東レ・ダウコーニング・シリコーン社等より「シリコーン粉末」として市販されているものを使用することが出来る。
この様なシリカ粉末の表面処理剤としては、ポリオルガノシロキサン以外に、具体的には例えば、ヒドロキシ基またはアルコキシ基を末端基に有する低分子量のポリオルガノシロキサン、ヘキサオルガノジシロキサン、およびヘキサオルガノジシラザン等が挙げられる。これらの中でも、末端基にヒドロキシル基を有し、平均重合度2〜100のオリゴマーである、常温で液状ないし粘稠な油状を呈するポリジメチルシロキサンが好ましい。
本発明に用いる、シリコーン系難燃剤(D−2)としては、シリカ粉末或いは表面処理されたシリカ粉末を更に、その表面を、より分子量の高いポリオルガノシロキサン(以下、「ポリオルガノシロキサン重合体」と言うことがある。)で、処理されていてもよい。ポリオルガノシロキサン重合体は、通常、重合度が100を超えて〜10000以下、好ましくは5000以下であり、直鎖であっても、分岐鎖を有していてもよいが、直鎖のポリジオルガノシロキサン重合体が好ましい。
ポリオルガノシロキサン重合体が有する有機基は、炭素数が1〜20のアルキル基;ハロゲン化炭化水素基の様な置換アルキル基;ビニル基、5−ヘキセニル基等のアルケニル基;シクロヘキシル等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、ベンジル基等のアリール基;アラルキル基等が挙げられる。
中でも炭素原子数1〜4の低級アルキル基;フェニル基;および3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基が好ましく、中でも炭素原子数1〜4の低級アルキル基、特にメチル基が好ましい。
更にポリオルガノシロキサン重合体は、分子鎖中に官能基を有していてもよい。官能基としては具体的には例えば、メタクリル基またはエポキシ基等が好ましい。メタクリル基またはエポキシ基を有することによって、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時に、ポリカーボネート樹脂(A)との架橋反応を生じ、樹脂組成物の難燃性を一層向上させることができる。ポリオルガノシロキサン重合体分子鎖中の官能基の量は、通常、0.01〜1モル%程度であり、中でも0.03〜0.5モル%、特に0.05〜0.3モル%であることが好ましい。
ポリオルガノシロキサン重合体を、シリカ粉末又は表面処理されたシリカ粉末(以下、これらを併せて、単に「シリカ粉末」ということがある。)に担持させる際には、さらに接着促進剤を用いてもよい。接着促進剤を用いることによって、シリカ粉末とポリオルガノシロキサン重合体との界面を一層強固に接着させることができるので好ましい。
接着促進剤としては、具体的には例えば、γ−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドオキシプロピルプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルペンジルアミノ)エチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・モノハイドロジェンヒドロ・クロリド、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン系化合物が挙げられる。
接着促進剤は、処理するシリカ粉末100重量部に対して、0.5〜15重量部であることが好ましい。また添加時期は任意だが、通常、シリカ粉末とポリオルガノシロキサン重合体を混合する際、同時に添加する。
分岐シリコーン化合物(D−2−2)
本発明に用いる、主鎖が分岐構造を有し、かつ珪素原子に結合する芳香族基を有する分岐シリコーン化合物(D−2−2)は、構成単位として、−Si(R1R2)O−で表される二価のシロキサン単位(D単位)、R3Si(O−)3で表される三価のシロキサン単位(T単位)、および/又はSi(O−)4で表される四価のシロキサン単位(Q単位)を含む。ここでR1、R2およびR3は各々独立に、炭素数1〜10の置換又は非置換の炭化水素基であり、少なくともその1部が芳香族基である。
これらシロキサン単位の組み合わせとして、好ましくはT単位/D単位系、T単位/D単位/Q単位系、D単位/Q単位系等が挙げられる。これらの組合せは、D単位を含有し、T単位およびQ単位の少なくとも一方を含有し、更に末端基としてR3SiO1/2(Rは同じ又は異なって、一価の基であり、好ましくは炭化水素基、アルコキシ基、水酸基等である。)を含有する重合体である。
D単位を含有することで、可撓性が改善され、難燃性の改善に繋がる。又、T単位およびQ単位の少なくとも一方を含有することで主鎖が分岐構造を有す。
分岐シリコーン化合物中の各単位の割合は、D、TおよびQ単位の合計に対しモル比で、D単位が20〜50%、好ましくは20〜40%、T単位が0〜90モル%、好ましくは60〜80%、Q単位が0〜50%、好ましくは0.01〜50%である。R1〜R3で示される1価の炭化水素基は、脂肪族基としては、低級アルキル基、特にメチル基が好ましく、芳香族基としては、フェニル基が好ましい。フェニル基量は40モル%以上であることが好ましい。
分岐シリコーン化合物(D−2−2)は、重量平均分子量が2000〜50000であることが好ましい。分岐シリコーン化合物(D−2−2)は、例えば特開平11−140294号公報、特開平10−139964号公報、及び特開平11−217494号公報等に記載の方法で製造される。又一部は市販されており、容易に入手することができる。
シリコーン化合物(D−2−3)
本発明に用いる、芳香族基含有環状ポリオルガノシロキサン及び直鎖状ポリオルガノシロキサンを含有するシリコーン化合物(D−2−3)の製造方法は任意であり、従来公知の任意の方法を適宜選択して決定すればよい。例えば特開2002−53746号公報に記載の方法等が挙げられ、具体的には芳香族含有ジクロロシランR4R5SiCl2や芳香族含有ジアルコキシシランR4R5Si(OR’)2を、加水分解重合することにより、通常末端がシラノール基である直鎖状ポリオルガノシロキサン(2)と環状ポリオルガノシロキサン(1)の混合物が得られる。なお、R4およびR5は上述の式(1)におけると同義であり、R’はアルキル基である。
本発明に用いるシリコーン系難燃剤(D−2)としては、ハンドリング性に優れ、且つ樹脂への分散性・混合性が向上していることから、シリカ粉末の表面にポリオルガノシロキサンを担持させた粉末状シリコーン(D−2−1)、または、主鎖が分岐構造を有し、かつ珪素に結合する芳香族基を有する分岐シリコーン化合物(D−2−2)が好ましい。
本発明に用いるリン系難燃剤(D−3)としては、従来公知の任意の燐系難燃剤から、適宜選択して決定すればよい。リン系難燃剤としては、従来公知の任意のホスファイト系又はホスフェート系化合物を用いることができる。
ホスファイト系化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
これらの内、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが特に好ましく、具体的には例えば、旭電化社による商品名PEP−36、PEP−8、2112、HP−10等が挙げられる。
またフォスフェート系化合物としては、下記の一般式(1)で表される非ハロゲンのリン系化合物が挙げられ、中でもP−OH構造を有する化合物であることが好ましい。
(1)
(式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は各々、炭素数1〜6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、rおよびsは各々、0または1であり、mは1から5の整数であり、Xはアリーレン基を示す。)
一般式(1)で表される非ハロゲンのリン系化合物としては、mが1〜5の縮合燐酸エステル化合物であり、縮合度(m)が異なる縮合燐酸エステルの混合物であってもよく、この際には混合物ぜんたいにおける、mの平均値が1〜5であればよい。Xはアリーレン基を示し、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等のジヒドロキシ化合物から誘導される基である。
一般式(1)で表されるリン系化合物としては、具体的には例えば、Xがレゾルシノールである場合は、フェニルレゾルシン・ポリホスフェート、クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル-P-t-ブチルフェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート、クレジル・キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート等が挙げられる。
中でも本発明に用いるホスフェート化合物としては、上述の一般式(1)の構造を有し、mが1〜2のものの混合物が好ましく、具体的には例えば旭電化工業社製AX−71等が挙げられる。
本発明における難燃剤(D)の含有量は、難燃剤の種類によって適宜選択して決定すればよい。例えば、金属塩系難燃剤(D−1)の場合には、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し0.01〜3重量部、中でも0.03〜2重量部、特に0.05〜1重量部であることが好ましい。0.01重量部未満では難燃性の改善が不十分な場合があり、逆に3重量部を越えると、熱安定性が低下する場合がある。
シリコーン系難燃剤(D−2)の場合には、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し0.1〜10重量部、中でも0.3〜7重量部、特に0.5〜5重量部であることが好ましい。0.1重量部未満では難燃性の改善が不十分な場合があり、逆に10重量部を越えると、耐熱性や機械的強度が低下することがある。
またリン系難燃剤(D−3)の場合には、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し1〜30重量部、中でも3〜28重量部、特に5〜25重量部であることが好ましい。1重量部未満であると難燃性の改善が不十分な場合があり、逆に30重量部を越えると機械的物性や荷重撓み温度が低下し過ぎる場合がある。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に難燃剤(D)を配合する場合、溶融樹脂の滴下防止し、難燃性を向上させるために、更にポリフルオロエチレン等の滴下防止剤を用いることが好ましい。ポリフルオロエチレンとしては例えば、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが挙げられ、ポリテトラフルオロエチレンは樹脂組成物に容易に分散し、かつ樹脂同士を結合して繊維状構造を作る傾向を示すものである。
フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンは通常、ASTM規格でタイプ3に分類される。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンは、種々市販されており、容易に入手することができる。具体的には例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製テフロン(登録商標)6J、ダイキン化学社製ポリフロン等が挙げられる。ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液としては、三井デュポンフロロケミカル社製テフロン(R)30J、ダイキン化学工業社製フルオンD−1等が挙げられる。
更に、本発明に用いる滴下防止剤としては、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するポリテトラフルオロエチレン重合体も挙げられ、具体的には例えば、三菱レイヨン社製メタブレンA−3800等が挙げられる。
本発明における滴下防止剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると難燃性や滴下防止性の改良が不十分となる場合があり、逆に多すぎても、本発明の樹脂成形体外観が低下しすぎる場合がある。よって通常、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.01〜1重量部であり、中でも0.02〜0.8重量部であることが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、上述したA〜D成分や滴下防止剤のほかに、更に他の樹脂や、耐衝撃性改良剤および各種の樹脂添加剤などを配合することができる。他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂などが挙げられる。
また樹脂添加剤としては、リン系安定剤、フェノール系安定剤、離型剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤等が挙げられる。これらは一種類でも二種類以上を組み合わせて使用することもできる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、従来公知の任意、熱可塑性樹脂組成物の製造方法により、製造することができる。具体的には例えば、上述したA〜D成分および必要に応じて配合される添加成分を、タンブラ−やヘンシェルミキサ−などの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリ−ミキサ−、ロ−ル、ブラベンダ−、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニ−ダ−などで溶融混練することによって製造すればよい。
また各成分を予め混合せずに、又は一部の成分のみ予め混合してフィダ−を用いて押出機に供給して溶融混練して製造してもよい。更にC成分が溶融混練により破壊しやすい小粒径強化材であるときは、C成分以外を上流部分に一括投入し、中流以降でC成分を添加し樹脂成分と溶融混練する方法も、得られる樹脂組成物の機械的強度の点から好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種製品(樹脂成形体)の製造(成形)用樹脂材料として用いる。成形方法は、熱可塑性樹脂材料から樹脂成形体を成形する従来から知られている方法が適用できる。具体的には例えば、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシストなどの中空成形法等が挙げられる。
またこれら樹脂成形方法においては、断熱金型を用いた成形法や、急速加熱金型を用いた成形法等も挙げられる。更には、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、インモールドコーティング(IMC)成形法、押出成形法、フィルム成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法なども挙げられる。
中でも量産性や形状自由度の点から射出成形法が好ましく、特に金型としてピンゲートやサブマリンゲート等の金型、つまり型開きにより、自動的に樹脂成形体からゲート部分が切断される金型を用いることで、本発明の効果が顕著となる。具体的にはゲート痕の仕上げ工程を省略可能な、高品質の樹脂成形体を、生産性高く製造することが出来るので好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形に射出成形法が適用される場合、ゲートはピンゲートが好ましい。ピンゲート径が小さいほど、より微小な樹脂部品を製造できる。よって所望の樹脂部品に応じて、樹脂詰まりが生じない範囲で、出来るだけ小さく設計すればよいが、ゲート径が大きすぎても、ゲート切れが悪くなり、生産性が低下する場合がある。よってゲート径は通常、0.1〜2mmであり、中でも0.2〜1.5mm、特に0.3〜1mmであることが好ましい。
つまり上述した様な、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を、型開きによりゲート部分が切断される金型を使用した射出成形方法に用いて樹脂成形体を製造することで得られる樹脂成形体は、射出成形用ゲート径が0.1〜2mmの際に、型開きにより射出成形金型から外れた直後の、樹脂成形体表面のゲート部痕の高さが、0.2mm以下と極めて低い、後仕上げを不要とする、生産性、品質の高い樹脂成形体となる。
尚、『射出成形金型から外れた直後』とは、型開きにより自動的にゲートが切断される金型を用いて得られる、射出成形方法によって得られる樹脂成形体において、この型開き直後における、後加工を施していない状態を示す。中でも本発明の樹脂成形体は、『射出成形金型から外れた直後』時点での、ゲート部痕を含む樹脂成形体部分の肉厚が、0.5mm以下である微小部品に於いても、ゲート痕が極めて低い、優れたものである。
通常、ゲート痕の仕上げを行わないようにするためは、ゲート部痕凸部がその周辺の樹脂成形体の表面から突出しないように、ゲート部を周辺の樹脂成形体表面より、低くして対応せざるを得なかった。しかし樹脂成形体肉厚が0.5mm以下である場合は、0.2mmを越える凸が生じた場合に、ゲート部を周辺の樹脂成形体表面より0.2mm以上低くすることになる。その結果、ゲート部の樹脂成形体肉厚が0.3mm以下の極薄形状となるので、ポリカーボネートの成形は困難となる。
よって、ゲート及びその周辺部分の肉厚が0.5mm以下の樹脂成形体では、ピンゲートの凸が0.2mm以下にすることは重要なポイントになり、本発明のポリカーボネート樹脂成形体をもちいることによって、この課題が解決することが可能となる。
本発明の樹脂組成物は、難燃性、帯電防止性、剛性、寸法安定性、外観、ゲート切れに優れ、さらにゲート詰まりがなく生産性の高いので、カメラ、デジタルカメラ、携帯電話、ノートブック型パソコン、ビデオカメラ、コピー機、ファクシミリ等の部品やハウジングとして使用でき、特に光学部品用部材、中でもレンズ支持部材に用いる樹脂成形体として好適に使用できる。