以下、本発明を更に詳細に説明する。尚、各種化合物が有する「基」は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、置換基を有していてもよいことを意味する。
芳香族ポリカ−ボネ−ト樹脂
本発明に用いる芳香族ポリカ−ボネ−ト樹脂(A)(以下、単に「(A)成分」ということがある。)は、具体的には例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカ−ボネ−ト前駆体とを、又はこれらに併せて少量のポリヒドロキシ化合物等を反応させてなる、直鎖または分岐の熱可塑性芳香族ポリカ−ボネ−ト重合体、又は共重合体である。
本発明に用いる芳香族ポリカ−ボネ−ト樹脂は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意のものを使用できる。またその製造方法も任意であり、従来公知の任意の方法を採用できる。具体的には例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カ−ボネ−ト化合物の開環重合法、プレポリマ−の固相エステル交換法等を挙げることができる。
これらポリカーボネート樹脂の製造方法において原料として使用される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的には例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノ−ルA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノ−ルA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス(ヒドロキシアリ−ル)アルカン類;
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリ−ル)シクロアルカン類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノ−ル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル等のジヒドロキシジアリ−ルエ−テル類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリ−ルスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリ−ルスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリ−ルスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
これらの中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノ−ルA]が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカ−ボネ−ト前駆体としては、カルボニルハライド、カ−ボネ−トエステル、ハロホルメ−ト等が使用される。具体的には例えば、ホスゲン;ジフェニルカ−ボネ−ト、ジトリルカ−ボネ−ト等のジアリ−ルカ−ボネ−ト類;ジメチルカ−ボネ−ト、ジエチルカ−ボネ−ト等のジアルキルカ−ボネ−ト類;二価フェノ−ルのジハロホルメ−ト等が挙げられる。これらのカ−ボネ−ト前駆体もまた、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
次に、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法のうち、まず界面重合法について説明する。この製造方法における重合反応は、反応に不活性な有機溶媒、及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物と、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)および芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させた後、第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによってポリカ−ボネ−トを得る。
分子量調節剤の添加はホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されない。なお、反応温度は、例えば、0〜40℃で、反応時間は、例えば、数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
反応に不活性な有機溶媒としては、具体的には例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等;が挙げられる。またアルカリ水溶液に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
分子量調節剤としては、例えば一価のフェノ−ル性水酸基を有する化合物が挙げられ、具体的には、m−メチルフェノ−ル、p−メチルフェノ−ル、m−プロピルフェノ−ル、p−プロピルフェノ−ル、p−tert−ブチルフェノ−ル、及びp−長鎖アルキル置換フェノ−ル等が挙げられる。分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して50〜0.5モルであることが好ましく、中でも30〜1モルであることが好ましい。
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;が挙げられる。
次に、溶融エステル交換法について説明する。この製造方法における重合反応は、例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応である。炭酸ジエステルとしては、具体的には例えば、ジメチルカ−ボネ−ト、ジエチルカ−ボネ−ト、ジ−tert−ブチルカ−ボネ−ト等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカ−ボネ−トおよびジトリルカ−ボネ−ト等の置換ジフェニルカ−ボネ−ト等が挙げられる。炭酸ジエステルは、中でもジフェニルカ−ボネ−トまたは置換ジフェニルカ−ボネ−トであることが好ましく、特にジフェニルカ−ボネ−トが好ましい。
また本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、その末端水酸基含有量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼすので、従来公知の任意の方法によって適宜調整してもよい。溶融エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率や、エステル交換反応時の減圧度を調整して、所望の分子量および末端水酸基含有量を調整した芳香族ポリカーボネートを得ることができる。
通常、溶融エステル交換反応においては、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを等モル量以上、中でも1.01〜1.30モル用いることが好ましい。また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を添加する方法が挙げられ、この際の末端停止剤としては、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類が挙げられる。
溶融エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は従来公知の任意のものを使用でき、中でも具体的には例えば、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が好ましい。また補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。
上記原料を用いたエステル交換反応は、通常、100〜320℃の温度で反応を行い、最終的には2mmHg以下の減圧下、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら溶融重縮合反応を行えばよい。
溶融重縮合は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。中でも、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂や、本発明の樹脂組成物の安定性等を考慮すると、連続式で行うことが好ましい。溶融エステル交換法に用いる触媒失活剤としては、該エステル交換反応触媒を中和する化合物、例えばイオウ含有酸性化合物またはそれより形成される誘導体を使用することが好ましい。
この様な、触媒を中和する化合物の添加量は、該触媒が含有するアルカリ金属に対して0.5〜10当量、中でも1〜5当量であることが好ましく、更にはポリカーボネートに対して、1〜100ppm、中でも1〜20ppmであることが好ましい。
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]が10000〜40000であることが好ましい。この様に粘度平均分子量を10000以上とすることで機械的強度がより向上するので、機械的強度の要求の高い用途への適用時に特に好ましく、また40000以下とすることで流動性低下をより抑制するので、成形加工性が向上するので好ましい。
粘度平均分子量は中でも16000〜40000、特に18000〜30000であることが好ましく、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いても、粘度平均分子量が上記好適範囲内となればよい。
ここで粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4M0.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂として、分岐ポリカーボネートを用いる際、その製造方法は特に制限はなく、従来公知の任意の製造方法を用いることが出来る。具体的には例えば、特開平8−259687号公報、特開平8−245782号公報等に記載の様に、溶融法(エステル交換法)により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸のジエステルとを反応させる際、触媒の条件または製造条件を選択することにより、分岐剤を添加することなく、構造粘性指数が高く、加水分解安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
また他の方法として、上述のポリカーボネート樹脂の原料である、芳香族ジヒドロキシ化合物とカ−ボネ−ト前駆体の他に、三官能以上の多官能性芳香族化合物を用い、ホスゲン法、又は溶融法(エステル交換法)にて、これらを共重合する方法が挙げられる。
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、具体的には例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物類;
3,3−ビス(4−ヒドロキシアリ−ル)オキシインド−ル(=イサチンビスフェノ−ル)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。中でも1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
多官能性芳香族化合物は、前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができ、その使用量は芳香族ジヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%、中でも0.1〜3モル%であることが好ましい。
溶融法(エステル交換法)によって得られた芳香族ポリカーボネート樹脂に含まれる分岐構造は、具体的には例えば、以下の一般式(5)〜(8)の構造が挙げられる。
(上述の一般式式(5)〜(8)において、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、または、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO
2−で示される2価の基からなる群より選ばれるものを示す。)
本発明に用いる分岐芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常、構造粘性指数Nが1.2以上であり、この分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることで、滴下防止効果(燃焼時に火のついた溶融樹脂の滴下を防止する効果)が増すので好ましい。ここで構造粘性指数Nとは、例えば公知文献(小野木重治著「化学者のためのレオロジー」第15〜16頁)等に記載の値である。
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、末端水酸基濃度が低すぎると分子量低下による樹脂組成物の機械的特性低下が生ずる場合があり、また高すぎても樹脂組成物の滞留熱安定性や色調が低下する場合がある。
よって通常、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は1000ppm以下であり、中でも800ppm以下、特に600ppm以下であることが好ましく、特にエステル交換法で製造する芳香族ポリカーボネート樹脂では10ppm以上、中でも30ppm以上、特に40ppm以上であることが好ましい。
尚、末端水酸基濃度の単位は、芳香族ポリカーボネート樹脂重量に対する、末端水酸基の重量をppmで表示したものであり、測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)や、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)の他、例えば、本発明の目的である難燃性を更に高める目的で、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体をも含むものである。
また、成形品外観の向上や流動性の向上を図るため、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。この芳香族ポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、中でも1500〜9500、特に2000〜9000であることが好ましい。芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、芳香族ポリカーボネート樹脂の30重量%以下とすることが好ましい。
更に本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂を使用してもよい。使用済みの製品としては、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス・自動車ヘッドランプレンズ・風防等の車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁・ガラス窓・波板等の建築部材等が好ましく挙げられる。
また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生された芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂のうち、80重量%以下であることが好ましく、中でも50重量%以下であることが好ましい。
金属塩化合物(B)
本発明に用いる金属塩化合物(B)(以下、単に「(B)成分」ということがある。)は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の金属塩化合物であり、このような化合物としては、有機系金属塩化合物、無機系金属塩化合物のいずれでもよいが、中でも芳香族ポリカーボネートへの分散性が良いという点から有機系金属塩化合物が好ましい。
有機系金属塩化合物としては、具体的には例えば、有機系スルホン酸金属塩化合物、有機系カルボン酸金属塩化合物、有機系ホウ酸金属塩化合物、有機系リン酸金属塩化合物等が挙げられる。中でも芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性の点から有機系スルホン酸金属塩が好ましい。
有機系スルホン酸金属塩化合物としては、有機系スルホン酸リチウム(Li)塩化合物、有機系スルホン酸ナトリウム(Na)塩化合物、有機系スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機系スルホン酸ルビジウム(Rb)塩化合物、有機系スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物、有機系スルホン酸マグネシウム(Mg)塩化合物、有機系スルホン酸カルシウム(Ca)塩化合物、有機系スルホン酸ストロンチウム(Sr)塩化合物、有機系スルホン酸バリウム(Ba)塩化合物等が挙げられる。中でも有機系スルホン酸Na塩化合物、有機系スルホン酸K塩化合物、有機系スルホン酸Cs塩化合物が好ましい。
この様な有機系スルホン酸金属塩化合物としては、具体的には例えば、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム、パ−フルオロブタンスルホン酸カリウムが挙げられる。
中でもジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、パ−フルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。
本発明における(B)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、0.001〜1重量部である。(B)成分の含有量が少なすぎると、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎても熱安定性の低下や、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の外観不良、機械的強度の低下が生ずる。
よって本発明における(B)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、中でも0.01〜0.5重量部、更には0.05〜0.4重量部、特に0.1〜0.35重量部であることが好ましい。
フルオロポリマー(C)
本発明に用いるフルオロポリマー(C)(以下、単に「(C)成分」ということがある。)は、難燃性発現に係る3つの要素(耐着火性、消火性、滴下防止性)のうち、滴下防止性の向上に加え、耐着火性も改善し、更に(B)成分の金属塩化合物、シリコーンレジン(D)との相乗効果により、一層、消火性を高めることができる。
本発明に用いるフルオロポリマー(C)としては、従来公知の任意のものを使用できるが、中でもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂としては、通常、フルオロエチレン構造を含む重合体や共重合体が挙げられる。
具体的には例えば、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられ、中でもテトラフルオロエチレン樹脂等が好ましく、このフルオロエチレン樹脂としては、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂が好ましい。
本発明に用いる、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂としては、具体的には例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製テフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業社製ポリフロンF201L、ポリフロンF103等が挙げられる。
またフルオロエチレン樹脂の水性分散液として、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J、ダイキン化学工業社製フルオンD−1等が挙げられる。更に本発明においては、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するフルオロエチレン重合体も使用することが出来、具体的には三菱レイヨン社製メタブレンA−3800等が挙げられる。
本発明における(C)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.05〜0.5重量部である。(C)成分の含有量が少なすぎると、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎても難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の外観不良や、機械的強度低下が生ずる。
よって本発明における(C)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して中でも0.075〜0.45重量部、更には0.1〜0.4重量部、特に0.15〜0.35重量部であることが好ましい。
シリコーンレジン(D)
本発明に用いるシリコーンレジン(D)(以下、単に「(D)成分」ということがある。)は、(B)成分及び(C)成分と共に用いることで、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂に、高度な難燃性を付与する効果がある。
本発明に用いる(D)成分の重量平均分子量は450〜5000であり、中でも750〜4000、更には1000〜3000、特に1500〜2500であることが好ましい。この重量平均分子量が小さすぎるものは製造が困難であり、工業的生産への適応が困難となるばかりでなく、シリコーンレジンの耐熱性も低下する恐れがある。
逆にシリコーンレジン(D)の重量平均分子量が大きすぎても、ポリカーボネート樹脂組成物中での分散性が低下し、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における難燃性の低下や、機械物性が低下する。尚、重量平均分子量は、通常GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)によって測定される。
更に本発明に用いる(D)成分は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
平均分子式:(R1 2SiO2/2)a(R2SiO3/2)b(SiO4/2)c(HO1/2)d ・・・(1)
(式中、R1及びR2は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の一価の炭化水素基を示し、R1及びR2の合計におけるアリール基含有量が80モル%以上であり、a、c及びdは0又は正数を示し、bは正数で且つa+b+cを1とした際に0.8以上であり、dは、シリコーンレジン(D)における水酸基含有量が3.5〜10重量%となる数値である。)
上記式中、炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。炭素数2〜12のアルケニル基としては、ビニル基、ブテニル基、アリル基等が挙げられる。炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
(D)成分は、R1及びR2を合計した、全一価炭化水素中におけるアリール基の含有量が、80モル%以上であることが重要である。このアリール基の含有量は、中でも85〜100モル%、更には90〜100モル%、特に100モル%であることが好ましい。アリール基の含有量が80モル%未満の場合には、(A)成分である芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性が低下する為に分散性が低下し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となる。
特に、R2におけるアリール基含有量が高いことが重要である。R1とR2の合計におけるR2中のフェニル基の含有量は、50〜100モル%であることが好ましく、中でも80〜100モル%であることが好ましい。アリール基としては従来公知の任意のものを使用でき、具体的には例えば、フェニル基が好ましい。
上記式中、a、c及びdは0又は正数を示し、bは正数で且つa+b+cを1とした際に0.8以上であり、dは、シリコーンレジン(D)における水酸基含有量が3.5〜10重量%となる数値である。これは(D)成分を構成する、D単位、T単位、及びQ単位の合計に対して、T単位の占める割合が80%以上であることを示す。中でもbは、0.85以上であることが好ましく、更には0.9以上、特に0.95以上であることが好ましい。a+b+cを1とした際にbが0.8に満たないと、(D)成分の耐熱性、難燃性が不十分となる。
本発明に用いる(D)成分は、先述の一般式(3)(一般式(1)においては(R2SiO3/2))で表される、T単位を必須成分とする。但し、本発明の効果を損ねない範囲であれば、一般式(2)(一般式(1)においては(R1 2SiO2/2))で表されるD単位や、一般式(4)(一般式(1)においては(SiO4/2))で表されるQ単位を含有していてもよい。
また本発明における(D)成分は、水酸基含有量が3.5〜10重量%であることを特徴とする。この水酸基含有量は中でも、4〜9重量%であることが好ましく、更には5〜8重量部、特に5.5〜7.5重量%であることが好ましい。水酸基含有量が低すぎると反応性が低下し、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に高すぎても、熱安定性が低下する。
また本発明に用いる(D)成分は、水酸基の他に、R3O−で表されるアルコキシ基(R3は炭素数1〜12のアルキル基、又は炭素数2〜12のアルケニル基を示す。)を含有してもよい。その含有量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択して決定すればよく、通常、(D)成分において10重量%以内で、出来るだけ少ない方が好ましく、特に含有しないことが好ましい。
本発明における(D)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、0.1〜7.5重量部である。(D)成分の含有量が少なすぎると、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂成形品の外観不良や機械的強度の低下、熱安定性の低下が生ずる場合がある。
よって本発明における(D)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、中でも0.2〜5重量部、更には0.5〜0.4重量部、特に0.75〜3.5重量部であることが好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂以外の芳香族熱可塑性樹脂(E)
本発明においては、更に、芳香族ポリカーボネート以外の芳香族熱可塑性樹脂(E)(以下、単に「(E)成分」ということがある。)を含有していてもよい。この(E)成分としては特に制限はないが、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の芳香族熱可塑性ポリエステル樹脂;
ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;
ポリフェニレンエーテル樹脂等の芳香族ポリエーテル樹脂;芳香族ポリアミド樹脂;芳香族ポリイミド樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。中でもスチレン系樹脂、芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)等が挙げられる。中でもアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)が特に好ましい。
芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)等が挙げられるが、中でもポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)が特に好ましい。
本発明における(E)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して1〜50重量部であり、中でも2〜30重量部、特に3〜15重量部であることが好ましい。(E)成分の含有量が少なすぎると、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性、耐薬品性等の改質効果が不十分であり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂成形品の耐熱性や機械的強度が低下する場合がある。
その他の成分
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の樹脂や各種樹脂添加剤を含有してもよい。
他の樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
また樹脂添加剤としては、従来公知の任意の樹脂添加剤から適宜選択して決定すればよい。具体的には例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。以下、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に用いる添加剤として、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、難燃剤等について具体的に説明する。
熱安定剤としては例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には例えばリン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等が挙げられる。
これらの中でも、下記一般式(9)で表される有機ホスフェート化合物及び/又は下記一般式(10)で表される有機ホスファイト化合物が好ましい。
O=P(OH)m(OR)3−m (9)
(上記式中、Rはアルキル基またはアリール基を示し、それぞれ同一でも、異なっていてもよく、mは0〜2の整数を示す。)
(式中、R’はアルキル基またはアリール基を示し、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。)
一般式(9)中、Rは炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基であることが好ましく、中でも炭素原子数2〜25のアルキル基であることが好ましい。またmは、1又は2であることが好ましい。
一般式(10)中、R’は炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基であることが好ましい。一般式(7)で表される有機ホスファイトの好ましい具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
本発明における、これらリン系化合物の含有量は適宜選択して決定すればよいが、通常(A)成分100重量部に対して0.001〜1重量部、中でも0.01〜0.7重量部、特に0.03〜0.5重量部であることが好ましい。
酸化防止剤としては例えば、ヒンダ−ドフェノール系酸化防止剤が挙げられる。具体的には例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
中でもペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これら2つのフェノール系酸化防止剤は、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社より、「イルガノックス1010」及び「イルガノックス1076」の名称で市販されている。
本発明における酸化防止剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると効果が不十分であり、逆に多すぎても効果が頭打ちとなり経済的ではない。よって通常、(A)成分100重量部に対して0.001〜1重量部、中でも0.01〜0.5重量部であることが好ましい。
離型剤としては例えば、脂肪族カルボン酸やそのアルコールエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、脂肪族1〜3価のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも炭素数6〜36の、1価又は2価カルボン酸が好ましく、特に炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が好ましい。この様な脂肪族カルボン酸としては、具体的には例えばパルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステルにおける脂肪族カルボン酸成分は、上述の脂肪族カルボン酸と同義である。一方、脂肪族カルボン酸エステルのアルコール成分としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、1価または多価アルコールが挙げられる。これらはフッ素原子、アリール基等の換基を有していてもよく、中でも炭素数30以下の、1価または多価飽和アルコールが好ましく、特に炭素数30以下、飽和脂肪族の、1価または多価アルコールが好ましい。
この様なアルコール成分としては、具体的には例えばオクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。尚、この脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよく、更には複数の脂肪族カルボン酸エステルの混合物でもよい。
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで脂肪族炭化水素とは、脂環式炭化水素も含まれる。またこれらの炭化水素化合物は、部分酸化されていてもよい。
これら脂肪族炭化水素の中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、特にパラフィンワックスやポリエチレンワックスが好ましい。数平均分子量は中でも200〜5000であることが好ましい。これらの脂肪族炭化水素は単独で、又は2種以上を任意の割合で併用しても、主成分が上記の範囲内であればよい。
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられ、これらは一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
本発明における離型剤の含有量は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると離型効果が十分に発揮されず、逆に多すぎても芳香族ポリカーボネート樹脂の耐加水分解性の低下や、射出成形時の金型汚染等が生ずる場合がある。よって通常、(A)成分100重量部に対して0.001〜2重量部であり、中でも0.01〜1重量部であることが好ましい。
紫外線吸収剤としては、具体的には例えば酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物などの有機紫外線吸収剤が挙げられ、中でも有機紫外線吸収剤が好ましい。
特に、ベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルからなる群から選ばれるものが好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物としては、具体的には例えば、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物等が挙げられる。またその他のベンゾトリアゾール化合物としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕[メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
これらベンゾトリアゾール化合物の中でも、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−メチレン−ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕等が好ましい。
本発明における紫外線吸収剤の含有量は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると耐候性の改良効果が不十分となり、逆に多すぎてもモールドデボジット等の問題が生じる場合がある。よって通常、(A)成分100重量部に対して0.01〜3重量部、中でも0.1〜1重量部であることが好ましい。
染顔料としては、無機顔料、有機顔料、有機染料など、従来公知の任意のものを使用できる。無機顔料としては、具体的には例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロ−等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロ−、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリ−ン、コバルトグリ−ン、コバルトブル−、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデ−トオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。
有機顔料および有機染料としては、具体的には例えば、銅フタロシアニンブル−、銅フタロシアニングリ−ン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロ−等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等が挙げられる。
これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。中でも熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物等が好ましい。
本発明における染顔料の含有量は適宜選択して決定すればよいが、含有量が多すぎると耐衝撃性が低下する場合があるので、通常、(A)成分100重量部に対して5重量部以下、中でも3重量部以下、特に2重量部以下とすることが好ましい。
難燃剤も従来公知の任意のものから、適宜選択して決定し使用すればよく、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機化合物系難燃(助)剤等が挙げられる。
これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよく、中でも環境汚染の可能性が極めて低い有機金属塩系難燃剤や、シリコーン系難燃剤、無機化合物系難燃(助)剤が好ましい。無機化合物系難燃(助)剤としては、タルク、マイカ、カオリン、クレー、シリカ粉末、ヒュームドシリカ、ガラスフレークが挙げられる。
本発明における難燃剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると難燃効果が不十分となり、逆に多すぎても耐熱性や機械物性が低下する場合があるので通常、(A)成分100重量部に対して0.0001〜30重量部であり、中でも0.01〜25重量部、特に0.1〜20重量部であることが好ましい。
難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート(A)に、上述した金属塩化合物(B)、フルオロポリマー(C)及びシリコーンレジン(D)を特定量含有することを特徴とする。そしてその製造方法は特に制限されることはなく、従来公知の任意の、樹脂組成物の製造方法から適宜選択して決定すればよい。
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、具体的には例えば各(A)〜(D)成分、更に必要に応じてその他の添加成分を、タンブラ−やヘンシェルミキサ−などの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリ−ミキサ−、ロ−ル、ブラベンダ−、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニ−ダ−などで溶融混練する方法が挙げられる。
また各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみ予め混合して、フィーダーを用いて押出機に供給し溶融混練して、樹脂組成物を製造してもよい。更には、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、再度、他の成分と混合し溶融混練することによって樹脂組成物を製造することもできる。
中でも本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、上述した金属塩化合物(B)やシリコーンレジン(D)を、予め樹脂成分でマスターバッチ化して、樹脂組成物を製造することによって、分散性、更には押出作業性が向上するので好ましい。また上述した金属塩化合物の分散性向上の観点から、予め水や有機溶剤等の溶媒にこれを溶解してから、混練することもできる。
樹脂成形体の製造
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、上述の、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、従来公知の任意の樹脂成形方により、製造すればよい。樹脂成形体の製造方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に用いられる成形法を用いることが出来る。
樹脂成形体の製造方法としては、具体的には例えば、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサ−ト成形、IMC(インモールドコ−ティング成形)成形法、押出成形法、シ−ト成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等が挙げられる。また、ホットランナ−方式を使用した成形法を用いることも出来る。