JP5449443B2 - ポリカーボネート樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、薄肉部を有するポリカーボネート樹脂成形体を成形するためのポリカーボネート樹脂組成物であって、高い難燃性と耐衝撃性及び優れた表面外観(艶消し性)を有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば、自動車材料、電気・電子機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等として幅広く利用されている。特に、難燃化されたポリカーボネート樹脂組成物は、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部材として好適に使用されている。
ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手段としては、従来、ハロゲン系難燃剤をポリカーボネート樹脂に配合することがなされてきた。しかしながら、塩素や臭素を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定性の低下を招いたり、成形加工時における成形機のスクリューや成形金型の腐食を招いたりすることがあった。これにかわる手法としてリン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物が、数多く採用(例えば、特許文献1〜2を参照)されている。
このようなリン系難燃剤をポリカーボネート樹脂に含有させる手法は、リン化合物による樹脂表面の皮膜化、あるいは気相での燃焼ガスの希釈効果などにより、効果的に燃焼時間を短縮することができる。
しかしながら、リン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐衝撃性が著しく低下するため、エラストマーを配合した処方とすることが行われる。本出願人は、このようなリン系難燃剤とエラストマーを配合したポリカーボネート樹脂組成物につき、特許文献3〜7にあるような各種の提案をしてきた。
すなわち、特許文献3では、芳香族ポリカーボネート樹脂にリン系難燃剤及び、有機重合体被覆ポリフルオロエチレンという特別な滴下防止剤を配合することにより、成形表面における白点異物の発生を抑制したポリカーボネート樹脂組成物を、特許文献4では、芳香族ポリカーボネート樹脂にリン系難燃剤、ポリフルオロエチレン及び、第1、第2のビニル系単量体を特定の割合で共重合させたポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体配合したポリカーボネート樹脂組成物を提案した。また、特許文献5では、芳香族ポリカーボネート樹脂にリン系難燃剤、ビニル系単量体をグラフトしたシリコーン/アクリル複合ゴム及び滴下防止剤を特定の割合で配合したポリカーボネート樹脂組成物を提案した。
また、特許文献6では、タルクを必須とし、芳香族ポリカーボネート樹脂にリン系難燃剤、ポリフルオロエチレン並びに、ポリオルガノシロキサン粒子の特定量存在下で第1、第2及び多官能性のビニル系単量体を特定の割合で共重合させたポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を特定の割合で配合したポリカーボネート樹脂組成物を提案した。さらに、特許文献7では、ポリカーボネート樹脂にリン系難燃剤、フルオロポリマー、架橋ポリアルキルアクリレート系コアとアルキル(メタ)アクリレート系重合体系シェルを有する多層構造重合体、酸化チタン、カーボンブラック及び染顔料を特定の割合で配合したポリカーボネート樹脂組成物を提案した。
特開昭59−202240号公報 特開昭62−4746号公報 特開2007−154173号公報 特開2008−280491号公報 特開2009−7487号公報 特開2008−285507号公報 特開2011−57888号公報
しかし、近年、電気電子機器部品は、機器自体の小型化傾向から極度に薄肉小型化されてきており、例えばタブレット型端末あるいはタッチパネル式端末といわれるような携帯型端末機器等に使用される電池パックの枠体あるいは筐体等では、厚さが0.6mm以下、特には0.3〜0.4mmというような薄肉部を有する成形品が必要となり、このような薄肉製品においてもUL94試験にてV−O乃至V−1レベルの難燃性が強く要求され、また、高い流動性と耐衝撃性、さらには優れた表面外観、すなわち低光沢で高級感を呈するような外観性能について、より厳しい製品スペックが求められている。
しかしながら、前記した各特許文献の樹脂組成物は、必ずしもこれらの要求の全てを充分に満足できるものではなかった。
本発明はこのような課題に鑑みて創案されたもので、薄肉部を有する成形体に成形するためのポリカーボネート樹脂組成物であって、高い難燃性と耐衝撃性及び優れた表面外観(艶消し性)を有するポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため、肉厚が0.6mm以下の薄肉部を有するポリカーボネート樹脂成形体を成形するためのポリカーボネート樹脂組成物につき、鋭意検討を重ねた結果、カーボンブラックが難燃剤として効果を発現することを見出し、また、これを特定のSi含量と粒径を有するシロキサン系コア/シェル型エラストマーと組み合わせて、ホスファゼン系難燃剤とともに配合し、さらに樹脂組成物の単位時間当たりの流出量(Q値)を特定範囲とすることにより、薄肉成形用として、高い難燃性と耐衝撃性及び優れた表面外観(艶消し性)を有するポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
[1]肉厚が0.6mm以下の薄肉部を有するポリカーボネート樹脂成形体を成形するためのポリカーボネート樹脂組成物であって、
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ホスファゼン系難燃剤(B)10〜30質量部、シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)4〜15質量部、カーボンブラック(D)1〜10質量部を含有し、
シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)は、シロキサン系ゴム成分をコア層とし、アクリル系またはアクリロニトリル−スチレン系(共)重合体成分をシェル層とするエラストマーであって、Si含有量が9.1〜30質量%、数平均粒径が50〜1000nmであり、
樹脂組成物の単位時間あたりの流出量(JIS K7210付属書Cに記載の方法に準拠し、高架式フローテスターを用い、280℃、荷重160kgf/cmの条件下で測定。)が、15〜50×10−2cm/secであることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[2]前記ポリカーボネート樹脂成形体が、バッテリーパックの枠体または筐体である上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]さらに、含フッ素樹脂(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜1質量部含有する上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物によれば、薄肉部を有するポリカーボネート樹脂成形体用のポリカーボネート樹脂組成物であって、高い難燃性と耐衝撃性及び優れた表面外観(艶消し性)を有するポリカーボネート樹脂組成物材料を提供することが可能である。
従来、リン系難燃剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物にカーボンブラックを配合する例は、前記した特許文献7等にも見られるが、透け防止や外観改良のために配合されるものであり、同文献7の[0100]欄にも記載されるように、その含有量を多くするとは望ましくないとされてきた。このような従来の知見からすると、カーボンブラックを上記したような量で配合することで難燃性が良くなるということは画期的なことでもあり、そして、さらに、特定のSi含量と粒径を有するシロキサン系コア/シェル型エラストマーとそれぞれ特定量で配合することで、高い難燃性と耐衝撃性と表面外観を全て有するポリカーボネート樹脂材料とすることができるということは驚くべきことである。
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
[概要]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、肉厚が0.6mm以下の薄肉部を有するポリカーボネート樹脂成形体を成形するためのポリカーボネート樹脂組成物であって、
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ホスファゼン系難燃剤(B)10〜30質量部、シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)4〜15質量部、カーボンブラック(D)1〜10質量部を含有し、
シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)は、シロキサン系ゴム成分をコア層とし、アクリル系またはアクリロニトリル−スチレン系(共)重合体成分をシェル層とするエラストマーであって、Si含有量が9.1〜30質量%、数平均粒径が50〜1000nmであり、
樹脂組成物の単位時間あたりの流出量(JIS K7210付属書Cに記載の方法に準拠し、高架式フローテスターを用い、280℃、荷重160kgf/cmの条件下で測定。)が、15〜50×10−2cm/secであることを特徴とする。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂の種類に制限は無い。また、ポリカーボネート樹脂は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、一般式:−(−O−X−O−C(=O)−)−で表される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。なお、式中、Xは、一般には炭化水素基であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。なかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。またポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例としては、
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等が挙げられる。
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、エタン−1,2−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、デカン−1,10−ジオール等のアルカンジオール類;
シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4−テトラメチル−シクロブタン−1,3−ジオール等のシクロアルカンジオール類;
2,2’−オキシジエタノール(即ち、エチレングリコール)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジエタノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6−ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’−ビフェニルジメタノール、4,4’−ビフェニルジエタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
1,2−エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2−エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,4−エポキシシクロヘキサン、1−メチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、2,3−エポキシノルボルナン、1,3−エポキシプロパン等の環状エーテル類;等が挙げられる。
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
・ポリカーボネート樹脂の製造方法
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて具体的に説明する。
・・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
・・溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式のいずれの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし中でも、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
・ポリカーボネート樹脂に関するその他の事項
ポリカーボネート樹脂の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]は、通常10,000以上、好ましくは16,000以上、より好ましくは17,000以上であり、また、通常40,000以下、好ましくは30,000以下、より好ましくは24,000以下である。粘度平均分子量を前記範囲の下限値以上とすることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を前記範囲の上限値以下とすることにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて薄肉成形加工を容易に行えるようになる。なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4Mv0.83 から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
Figure 0005449443
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1,000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。これにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
[ホスファゼン系難燃剤(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ホスファゼン系難燃剤(B)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、10〜30質量部含有する。
本発明において用いられるホスファゼン系難燃剤(B)は、分子中に−P=N−結合を有する有機化合物、好ましくは、下記一般式(1)で表される環状ホスファゼン化合物、下記一般式(2)で表される鎖状ホスファゼン化合物、ならびに、下記一般式(1)及び下記一般式(2)からなる群より選択される少なくとも一種のホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋ホスファゼン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。架橋ホスファゼン化合物としては、下記一般式(3)で表される架橋基によって架橋されてなるものが難燃性の点から好ましい。
ホスファゼン系難燃剤(B)は難燃化効果が高く、特に後述のカーボンブラック(D)と併用することにより、優れた難燃性を発揮することができるため、難燃剤の配合によって起こり得る機械的強度の低下やガスの発生を抑制することができる。
Figure 0005449443
(式(1)中、mは3〜25の整数であり、Rは、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
Figure 0005449443
(式(2)中、nは3〜10,000の整数であり、Xは、−N=P(OR基又は−N=P(O)OR基を示し、Yは、−P(OR基又は−P(O)(OR基を示す。Rは、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
Figure 0005449443
(式(3)中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−、又は−O−であり、lは0又は1である。)
一般式(1)及び(2)で表される環状及び/又は鎖状ホスファゼン化合物としては、例えば、フェノキシホスファゼン、(ポリ)トリルオキシホスファゼン(例えば、o−トリルオキシホスファゼン、m−トリルオキシホスファゼン、p−トリルオキシホスファゼン、o,m−トリルオキシホスファゼン、o,p−トリルオキシホスファゼン、m,p−トリルオキシホスファゼン、o,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)キシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C1−6アルキルC6−20アリールオキシホスファゼンや、(ポリ)フェノキシトリルオキシホスファゼン(例えば、フェノキシo−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm−トリルオキシホスファゼン、フェノキシp−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)フェノキシキシリルオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシトリルオキシキシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C6−20アリールC1−10アルキルC6−20アリールオキシホスファゼン等が例示でき、好ましくは環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状C1−3アルキルC6−20アリールオキシホスファゼン、C6−20アリールオキシC1−3アルキルC6−20アリールオキシホスファゼン(例えば、環状及び/又は鎖状トリルオキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状フェノキシトリルフェノキシホスファゼン等)である。
一般式(1)で表される環状ホスファゼン化合物としては、Rがフェニル基である環状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような環状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120〜130℃の温度で反応させて得られる環状及び直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロルホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換して得られる、フェノキシシクロトリホスファゼン、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン等の化合物が挙げられる。また、該環状フェノキシホスファゼン化合物は、一般式(1)中のmが3〜5である化合物が好ましく、mの異なる化合物の混合物であってもよい。なかでも、m=3のものが50質量%以上、m=4のものが10〜40質量%、m=5以上のものが合わせて30質量%以下である化合物の混合物が好ましい。
一般式(2)で表される鎖状ホスファゼン化合物としては、Rがフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような鎖状フェノキシホスファゼン化合物は、例えば、上記の方法で得られるヘキサクロロシクロトリホスファゼンを220〜250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3〜10,000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。該直鎖状フェノキシホスファゼン化合物の、一般式(2)中のnは、好ましくは3〜1,000、より好ましくは3〜100、さらに好ましくは3〜25である。
架橋フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’−スルホニルジフェニレン(ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2−(4,4’−ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’−ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。
また、架橋ホスファゼン化合物としては、一般式(1)においてRがフェニル基である環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(3)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物又は、上記一般式(2)においてRがフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(3)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物が難燃性の点から好ましく、環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(3)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物がより好ましい。
また、架橋フェノキシホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、一般式(1)で表される環状ホスファゼン化合物及び/又は一般式(2)で表される鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基及びフェニレン基数を基準として、通常50〜99.9%、好ましくは70〜90%である。また、該架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
本発明においては、ホスファゼン系難燃剤(B)は、上記一般式(1)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物が、難燃性及び機械的特性の点から好ましい。
ホスファゼン系難燃剤(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、10〜30質量部であり、11〜25質量部が好ましく、12〜22質量部がより好ましい。10質量部以上とすることにより、難燃性を十分に改良することができ、30質量部以下とすることにより、熱的特性・機械的強度を良好に保つことができる。
[シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、エラストマーとしてシロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)を含有するが、Si含有量が9.1〜30質量%であって、粒径が50〜1000nmであるシロキサン系コア/シェル型エラストマーを使用する。
本発明では、このようなシロキサン系コア/シェル型のエラストマー(C)を、ホスファゼン系難燃剤(B)及びカーボンブラック(D)と組み合わせて使用することにより、また、この際のSi含有量とカーボンブラック含有量を上手くバランスさせることにより、高い難燃性と優れた表面外観を有しながら耐衝撃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物とすることが可能となる。
シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)としては、シリコ−ン系のゴム性重合体をコア層とし、その周囲に、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル系重合体または共重合体成分、もしくは、アクリロニトリル−スチレン系共重合体成分をシェル層とするコア/シェル型エラストマーが特に好ましい。
コア層を構成するシリコーン系のゴムとしては、ポリオルガノシロキサン、例えば、ジメチルシロキサン単位を構成単位として含有する重合体、またビニル重合性官能基を含有するシロキサンを構成成分として含有するものが好ましい。
ビニル重合性官能基を含有するシロキサンとは、ビニル重合性官能基を含有し、かつ、ジメチルシロキサンとシロキサン結合を介して結合しうるものである。ビニル重合性官能基を含有するシロキサンの中でも、ジメチルシロキサンとの反応性を考慮するとビニル重合性官能基を含有する各種アルコキシシラン化合物が好ましい。これらビニル重合性官能基を含有するシロキサンは単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、シロキサン系架橋剤によって架橋されていてもよい。シロキサン系架橋剤としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。
シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)のシェルを構成する成分としては、アクリル系、好ましくはポリアルキル(メタ)アクリレート系のものが挙げられ、アルキル(メタ)アクリレート単位と多官能性アルキル(メタ)アクリレート単位とを構成成分として含有する重合体が好ましく挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートおよび2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上併用できる。
多官能性アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上併用できる。
多官能性アルキル(メタ)アクリレート単位の含有量には特に制限はないが、ポリアルキル(メタ)アクリレート100質量%中の0.1〜2.0質量%であることが好ましく、0.3〜1.0質量%であることがより好ましい。
また、シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)のシェルを構成する成分としては、アクリロニトリル−スチレン系共重合体も好ましい成分として挙げられる。
シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)を製造するには、特に制限はないが、通常、ポリオルガノシロキサン成分のラテックス中に、上記アルキル(メタ)アクリレート成分および多官能性アルキル(メタ)アクリレート成分、もしくはアクリロニトリル成分とスチレン成分を添加し、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系重合開始剤等のラジカル重合開始剤、好ましくはレドックス系重合開始剤を用いて、乳化グラフト重合等により製造する方法が好ましく挙げられる。
本発明で用いるシロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)の数平均粒径は、1000nm以下であり、好ましくは800nm以下であり、より好ましくは650nm以下である。数平均粒径の下限は、50nm以上であり、好ましくは80nm以上であり、より好ましくは100nm以上である。シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)の数平均粒径をこのような範囲とすることにより、耐衝撃性と耐熱性と成形品外観を良好にすることができる。
なお、本発明におけるシロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)の数平均粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、マトリックスのポリカーボネート樹脂(A)中に分散したシロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)の1次粒径を測定して求めた値である。
具体的には、次の要領で求めることができる。
本発明の樹脂組成物ペレットから切り出した厚さ100nmの超薄切片を、四酸化オスミウムの蒸気に60分、さらに四酸化ルテニウムの蒸気に60分さらに染色した後、TEM観察し、TEM観察により得られた画像を用い、マトリックス中に分散したシロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)50個の1次粒径(平均直径)を測定し、その数平均を本発明における数平均粒径とする。
また、シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)のSi含有量は、9.1〜30質量%であることが必要であり、その上限は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、さらには15質量%以下、特には12質量%以下であることが好ましい。Si含有量をこのような範囲とすることにより、耐衝撃性と耐熱性と成形品外観を良好にすることができる。Si含有量の調整は、シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)を製造する際のシリコ−ン系ゴムの量を調整することにより容易に行うことができる。
なお、シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)のSi含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP/AES法)で検出される値として測定される。
コア/シェル型エラストマー(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、4〜15質量部である。コア/シェル型エラストマー(C)の含有量が、4質量部を下回る場合は、耐衝撃性向上効果が不十分であり、含有量が15質量部を超える場合は、難燃性が悪化する。
[カーボンブラック(D)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、カーボンブラック(D)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、1〜10質量部を含有する。前述したように、従来、カーボンブラックは着色目的のために配合されることが通常であるが、本発明においては、カーボンブラックは難燃効果を向上させるための成分として配合される。そのため、本発明におけるカーボンブラック(D)の量は、従来の配合量よりも多量に配合することでより性能を発現し、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、2質量部を超える量を配合することでより効果をもたらす。特には2.5〜5質量部が好ましいという点が特異的である。
本発明に用いるカーボンブラック(D)は、その種類、原料種、製造方法に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のいずれをも使用することができる。その数平均粒径には特に制限はないが、5〜60nm以下であることが好ましい。このように数平均粒子径が所定の範囲にあるカーボンブラックを用いることにより、高温下でブリスターが発生し難い組成物を得ることができる。
カーボンブラック(D)の窒素吸着比表面積(単位:m/g)は、通常1000m/g未満が好ましく、なかでも50〜400m/gであることが好ましい。窒素吸着比表面積を1000m/g未満にすることで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。なお、窒素吸着比表面積はJIS K6217に準拠して測定することができる。
またカーボンブラック(D)のDBP(ジブチルフタレート)吸収量は、300cm/100g未満であることが好ましく、なかでも30〜200cm/100gであることが好ましい。DBP吸収量を300cm/100g未満にすることで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。
なお、DBP吸収量(単位:cm/100g)はJIS K6217に準拠して測定することができる。また本発明で使用するカーボンブラックは、そのpHについても特に制限はないが、通常、2〜10であり、3〜9であることが好ましく、4〜8であることがさらに好ましい。
カーボンブラック(D)は、一種を単独でまた2種以上併用して使用することができる。更にカーボンブラックは、バインダーを用いて顆粒化することも可能であり、他の樹脂中に高濃度で溶融混練したマスターバッチでの使用も可能である。溶融混練したマスターバッチを使用することによって、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良が達成できる。上記樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
前記したように、カーボンブラック(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、1〜10質量部以上であるが、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは2.5質量部超以上、特には3質量部以上であり、また、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
[含フッ素樹脂(E)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、含フッ素樹脂(E)を含有することが好ましく、その量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜1質量部であることが好ましい。含フッ素樹脂(E)は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。このように含フッ素樹脂を含有することで、樹脂組成物の溶融特性を改良することができ、燃焼時の滴下防止性を向上させることができる。
含フッ素樹脂(E)の含有量は、0.001質量部より少ないと、難燃性向上効果が不十分になりやすく、1質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じやすい。含有量の下限は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上、特に好ましくは0.1質量部以上であり、また、含有量の上限は、より好ましくは0.9質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以下、特に好ましくは0.6質量部以下である。
含フッ素樹脂(E)としては、フルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、具体例としては、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられるが、なかでもテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
また、この含フッ素樹脂としては、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂が挙げられる。このように、フィブリル形成能を有することで、燃焼時の滴下防止性が著しく向上する傾向にある。
また、含フッ素樹脂(E)として、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂を用いることで、分散性が向上し、成形品の表面外観が向上し、表面異物を抑制できる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
フルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体を生成するための単量体としては、ポリカーボネート樹脂に配合する際の分散性の観点から、ポリカーボネート樹脂との親和性が高いものが好ましく、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体がより好ましい。
[リン系安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リン系安定剤を含有することが好ましい。リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、アデカ社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP−10」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
リン系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
[フェノール系安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、フェノール系安定剤を含有することも好ましい。フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、アデカ社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
フェノール系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、フェノール系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
[滑剤]
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、滑剤(離型剤)を含有することも好ましい。滑剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
なお、上述した滑剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
滑剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。滑剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、滑剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
・その他の樹脂
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;
ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
・樹脂添加剤
樹脂添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に好適な添加剤の例について具体的に説明する。
・・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
このようなベンゾトリアゾール化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701」、「シーソーブ705」、「シーソーブ703」、「シーソーブ702」、「シーソーブ704」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、アデカ社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−n−ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられ、このようなベンゾフェノン化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ100」、「シーソーブ101」、「シーソーブ101S」、「シーソーブ102」、「シーソーブ103」、共同薬品社製「バイオソーブ100」、「バイオソーブ110」、「バイオソーブ130」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ10」、「ケミソーブ11」、「ケミソーブ11S」、「ケミソーブ12」、「ケミソーブ13」、「ケミソーブ111」、BASF社製「ユビヌル400」、BASF社製「ユビヌルM−40」、BASF社製「ユビヌルMS−40」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV9」、「サイアソーブUV284」、「サイアソーブUV531」、「サイアソーブUV24」、アデカ社製「アデカスタブ1413」、「アデカスタブLA−51」等が挙げられる。
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が挙げられ、このようなサリシレート化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ201」、「シーソーブ202」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ21」、「ケミソーブ22」等が挙げられる。
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられ、このようなシアノアクリレート化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ501」、共同薬品社製「バイオソーブ910」、第一化成社製「ユビソレーター300」、BASF社製「ユビヌルN−35」、「ユビヌルN−539」等が挙げられる。
トリアジン化合物としては、例えば1,3,5−トリアジン骨格を有する化合物等が挙げられ、このようなトリアジン化合物としては、具体的には例えば、アデカ社製「LA−46」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「チヌビン1577ED」、「チヌビン400」、「チヌビン405」、「チヌビン460」、「チヌビン477−DW」、「チヌビン479」等が挙げられる。
オギザニリド化合物の具体例としては、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキザリニックアシッドビスアリニド等が挙げられ、このようなオキザリニド化合物としては、具体的には例えば、クラリアント社製「サンデュボアVSU」等が挙げられる。
マロン酸エステル化合物としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。このようなマロン酸エステル化合物としては、具体的には例えば、クラリアントジャパン社製「PR−25」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「B−CAP」等が挙げられる。
紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
・・染顔料
染顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
有機顔料および有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
なお、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
染顔料の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。染顔料の含有量が多すぎると耐衝撃性が十分でなくなる可能性がある。
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、ポリカーボネート樹脂(A)、ホスファゼン系難燃剤(B)、シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)及びカーボンブラック(D)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
[樹脂組成物の単位時間あたりの流出量(Q値)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、JIS K7210付属書Cに記載の方法に準拠し、高架式フローテスターを用い、280℃、荷重160kgf/cmの条件下で測定する単位時間あたりの流出量(Q値)が、15〜50×10−2cm/secであることを特徴とする。Q値は、好ましくは18〜40×10−2cm/secであり、より好ましくは20〜30×10−2cm/secである。Q値をこのような範囲にすることで、薄肉部を有するポリカーボネート樹脂成形体を、高い難燃性と耐衝撃性及び優れた表面外観を備えた状態で成形することができる。
なお、Q値の調整方法は、公知の方法に従い、ポリカーボネート樹脂(A)やシロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)等の種類や分子量の選定、溶融混練の条件等を調整することにより可能である。
[成形体]
得られたポリカーボネート樹脂組成物は、肉厚が0.6mm以下の薄肉部を有する成形体として用いる。本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、流動性、特に薄肉流動性に優れているため、0.6mmレベル以下の薄肉化が可能となる。薄肉部の厚さとして、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.4mm以下、また、その上限は通常0.2mm以上である。
薄肉部を有する成形体としては、少なくとも部分的に0.6mm以下の薄肉部を有していればよく、その形状、寸法などに制限はない。
成形体の例を挙げると、電気・電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品、照明機器等の部品へ用いて好適であり、電気・電子機器等の部品に用いて特に好適である。
前記の電気・電子機器としては、例えば、パソコン、ゲーム機、テレビ、電子ペーパーなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、タブレット型端末、タッチパネル式端末、これらのための電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等が挙げられる。なかでも、タブレット型端末あるいはタッチパネル式端末に代表される携帯機器の電池パックの枠体または筐体に好適に用いることができる。
成形体の製造方法は、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられ、また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。なかでも、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法などの射出成形法が好ましい。
特に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて、薄肉部を有する成形品を成形するには、キャビティ内の成形面が熱伝導率0.3〜6.3W/m・Kの材料で構成された金型(以下、この金型を「断熱金型」と称す場合がある。)を用いて成形することが好ましい。このような断熱金型を用いることにより、薄肉成形時の金型キャビティ内の樹脂組成物の急冷による成形品表面へ配合成分の浮き上がりを防止し、成形品の表層に透明な樹脂層を形成し、金型面の転写性を向上させることにより、透明性を高めると共に成形品外観をより一層良好なものとすることができる。
このような断熱金型としては、好ましくはキャビティ内の成形面であって、樹脂成形品の外面の輪郭構成面のうちの少なくとも最大面に相当する成形面が熱伝導率0.3〜6.3W/m・Kの材料で構成されている金型であり、例えば、キャビティの内面を上記の熱伝導率を有する各種の材料、例えば、ジルコニア系材料、アルミナ系材料、KO−TiOの群から選択される各種のセラミックス、ソーダガラス、石英ガラス、耐熱ガラス、結晶化ガラスの群から選択される各種のガラス等の被覆材で被覆したものを用いることができる。上記のセラミックスの具体例としては、ZrO、ZrO−CaO、ZrO−Y、ZrO−MgO、ZrO−SiO、KO−TiO、Al、Al−TiC、Ti、3Al−2SiO、MgO−SiO、2MgO−SiO、MgO−Al−SiO等が挙げられ、被覆材としてはZrO、ZrO−Y、石英ガラス、結晶化ガラスの群から選択されるいずれかの材料が好ましい。
被覆材の構造は、材料の種類に応じ、例えば、塗布構造、溶射構造、貼付構造(すなわち入れ子タイプ)のいずれであってもよい。また、被覆材の厚さは、熱伝導率や上記の構造にも依存するが、通常0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mmである。また、被覆材の表面粗さは、Rzとして通常0.01〜15μmである。
さらには、金型表面層の耐傷付き性を向上させ、表面硬度を上げるために金属層を設けることが出来る。この場合、この金属層は、Cr、Cr合金等のCr材料、Cu、Cu合金等のCu材料、Ni及びNi合金等のNi材料から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から成り、該金属層は、1層から構成してもよいし、複数層から構成してもよい。Cr合金として、具体的には、ニッケル−クロム合金を挙げることができる。また、Cu合金として、具体的には、銅−亜鉛合金、銅−カドミウム合金、銅−錫合金を挙げることができる。更には、Ni合金として、具体的には、ニッケル−リン合金(Ni−P系合金)、ニッケル−鉄合金、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−錫合金、ニッケル−鉄−リン合金(Ni−Fe−P系合金)、ニッケル−コバルト−リン合金(Ni−Co−P系合金)を挙げることができる。金属層に高い耐擦傷性が要求される場合には、例えば、金属層をクロム(Cr)材料で構成することが好適である。一方、金属層に耐擦傷性はさほど要求されないが、厚さが必要とされる場合には、例えば、金属層を銅(Cu)材料で構成することが好適である。更には、金属層に耐擦傷性も或る程度要求され、しかも、厚さも必要な場合には、例えば、金属層をニッケル(Ni)材料で構成することが好適である。更に、金属層に厚さが必要とされ、しかも、表面硬度が必要とされる場合には、金属層を2層構成とし、例えば、下層を銅(Cu)材料あるいはニッケル(Ni)材料で構成して所望の厚さとし、厚さの調整を行い、一方、上層を薄いクロム(Cr)材料で構成することが好ましい。
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
なお、以下の説明において[部]とは、特に断らない限り質量基準に基づく「質量部」を表す。
実施例および比較例に使用した各成分は以下の表1のとおりである。
Figure 0005449443
[樹脂ペレット製造]
表1に記載した各成分を、後記表3に記した割合(質量比)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度280℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
[難燃性評価 UL94試験]
上述の製造方法で得られたペレットを80℃で5時間乾燥させた後、住友機械社製のSE100DU型射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、成形面をジルコニアセラミックスで被覆した断熱金型を使用し、金型温度90℃の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ0.5mmのUL試験用試験片を成形した。
各ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性の評価は、上述の方法で得られたUL試験用試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V−0、V−1及びV−2の難燃性を有するためには、以下の表2に示す基準を満たすことが必要となる。
Figure 0005449443
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さである。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。さらに、5試料のうち、1つでも上記基準を満たさないものがある場合、V−2を満足しないとしてNR(Not Rated)と評価した。
結果を表3に示す。なお、表中、「UL難燃性」と表記する。
[成形品の外観評価]
上記で得られたUL試験用試験片(0.5mm厚)を目視にて観察し、以下の基準に従い外観評価の判定を行った。
○:艶消し性良好。
×:艶があり、不良。
結果を表3に示す。なお、表中、「外観評価」と表記する。
[耐衝撃性評価 シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)]
ISO179−1及び179−2に準拠し、以下の手順にて測定した。
得られたペレットを、射出成形機(住友重機械工業社製「SG75MII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル45秒の条件で、ISO179−1、2に基づく3mm厚のノッチ付耐衝撃性試験片を作製し、23℃の温度でシャルピー衝撃強度(kJ/m)を測定した。数値が大きいほど、耐衝撃性が優れていることを意味する。
結果を表3に示す。なお、表中、「シャルピー」と表記する。
[耐熱性評価 DTUL(荷重たわみ温度)(単位:℃)]
得られたペレットを100℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(住友重機械工業製、サイキャップM−2、型締め力75T)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、3mm厚のISO多目的試験片を作製し、ISO75−1&2に従い、荷重1.80MPaの条件(A法)にて測定を行った。
結果を表3に示す。なお、表中、「DTUL」と表記する。
[単位時間あたり流出量 Q値(単位:×10−2cm/sec)]
後述の製造方法で得られたペレットを100℃で4時間以上乾燥した後、高架式フローテスターを用いて、280℃、荷重160kgfの条件下で組成物の単位時間あたりの流出量Q値(単位:×10−2cc/sec)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。
結果を表3に示す。なお、表中、「Q値」と表記する。
Figure 0005449443
表3に示す実施例1〜5から、ポリカーボネート樹脂(A)に、ホスファゼン系難燃剤(B)と本発明で規定するシロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)とカーボンブラック(D)をそれぞれ所定量含有するポリカーボネート樹脂組成物は、高い難燃性と耐衝撃性及び優れた表面外観(艶消し性)を有することがわかる。
一方、本発明で規定する要件を満たさない比較例のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性が悪く、耐衝撃性や外観も良くないことがわかる。
したがって、上記の実施例及び比較例から、薄肉成形において高い難燃性と耐衝撃性及び優れた表面外観(艶消し性)を有するという効果は、本発明の構成によりはじめて得られるものであることが確認された。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高い難燃性と耐衝撃性及び優れた表面外観(艶消し性)を有する薄肉成形用のポリカーボネート樹脂材料である、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品等の部品に広く好適に利用でき、特に産業上の利用性は非常に高い。

Claims (3)

  1. 肉厚が0.6mm以下の薄肉部を有するポリカーボネート樹脂成形体を成形するためのポリカーボネート樹脂組成物であって、
    ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ホスファゼン系難燃剤(B)10〜30質量部、シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)4〜15質量部、カーボンブラック(D)1〜10質量部を含有し、
    シロキサン系コア/シェル型エラストマー(C)は、シロキサン系ゴム成分をコア層とし、アクリル系またはアクリロニトリル−スチレン系(共)重合体成分をシェル層とするエラストマーであって、Si含有量が9.1〜30質量%、数平均粒径が50〜1000nmであり、
    樹脂組成物の単位時間あたりの流出量(JIS K7210付属書Cに記載の方法に準拠し、高架式フローテスターを用い、280℃、荷重160kgf/cmの条件下で測定。)が、15〜50×10−2cm/secであることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
  2. 前記ポリカーボネート樹脂成形体が、バッテリーパックの枠体または筐体である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  3. さらに、含フッ素樹脂(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜1質量部含有する請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
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