JP5055665B2 - ポリカーボネート樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス系充填剤を充填してなるポリカーボネート樹脂組成物に関し、更に詳しくは、機械的強度と流動性及び成形品の外観に優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネートは、耐熱性、耐衝撃性、透明性等に優れた樹脂として、多くの分野で幅広く用いられている。中でもガラス繊維やガラスビーズ、ガラスフレークといったガラス系充填剤で強化したポリカーボネートは、寸法安定性、機械的強度、耐熱性、及び電気的特性といった種々優れた性能を示すことから、カメラ、OA機器、電気電子部品等の産業分野で幅広く使用されている。
しかし、ガラス系充填剤強化ポリカーボネート樹脂組成物は、上記のような優れた性能を有する一方で、成形性(流動性)が低下したり、ガラス系充填剤が成形品表面に浮き出し、成形品の外観が著しく損なわれるといった欠点があり、ハウジングやカバーのような外観を重視される部品に使用されるには大きな制限があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような課題を解決して、機械的強度、耐熱性、流動性及び成形品の外観に優れたガラス系充填剤強化ポリカーボネート樹脂組成物を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、溶融エステル交換法で得られるポリカーボネートであって、かつ特定の溶融粘弾性を有するポリカーボネートは、分子量が実質的に同等な、他の特性を有するポリカーボネートに比べて、ガラス系充填剤と組み合わせても、機械的強度や耐熱性を犠牲にすることなく、流動性及び成形品の外観が著しく優れていることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、ポリカーボネート100重量部に対して、ガラス系充填剤を3〜200重量部含む樹脂組成物であって、該ポリカーボネートが
a)芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし溶融エステル交換法で得られ、粘度平均分子量が12,000〜30,000の範囲内であるポリカーボネートであって、かつ
b)温度250℃、角速度10rad/sの条件で測定した損失角δ及び複素粘性率η*(Pa・s)が、下記関係式(1)
【数1】
2500≦Tanδ/η *-0.87 ≦6000 (1)
を満たすポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネートが、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給し、且つ、下記i)及びii)の条件を満足する方法で製造されたものであることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物を提供するものである。
【0005】
i)重合槽においてポリカーボネートを安定的に生産する原料供給時間である全製造時間を一つ以上に分画した単位製造時間ごとに、重合槽に供給される芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対しての触媒量を一定に保つための目標触媒供給量である設定触媒量を、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.51〜5μモルの範囲内から選択する。
ii)各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量が、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、各設定触媒量±0.06μモル以内の値に維持されるようにする。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に関わるポリカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし、溶融エステル交換法により製造されるものである。
【0007】
芳香族ジヒドロキシ化合物: 本発明に関わるポリカーボネートの原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記式(I)で示される化合物である。
【0008】
【化1】
(式(I)中、Aは、単結合、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO2−で示される2価の基であり、X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1〜6の炭化水素基であり、p及びqは、0又は1の整数である。なお、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。)
【0009】
代表的な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」とも言い、「BPA」と略記することもある。)が好ましい。
【0010】
炭酸ジエステル: 原料の他の一つである炭酸ジエステルは、下記式(II)で示される化合物である。
【0011】
【化2】
(式(II)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基であり、2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。)
【0012】
代表的な炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することもある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0013】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0014】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸のエステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して1.001〜1.3、好ましくは1.01〜1.2の範囲内のモル比で用いられる。モル比が1.001より小さくなると、製造されたポリカーボネートの末端OH基が増加して、熱安定性、耐加水分解性が悪化し、また、モル比が1.3より大きくなると、ポリカーボネートの末端OH基は減少するが、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望の分子量のポリカーボネートの製造が困難となる傾向がある。本発明においては、末端OH基含有量が50〜1000ppmの範囲に調整したポリカーボネートを使用するのが良い。
【0015】
原料混合槽への原料の供給方法としては、液体状態の方が計量精度を高く維持し易いため、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルのうち、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。液体状態で原料を供給する場合には、計量装置としては、オーバル流量計、マイクロモーション式流量計等を用いることができる。
一方、固体状態で原料を供給する場合には、スクリュー式フィーダーのような容量を計量するものよりも、重量を計量するものを用いるのが好ましく、べルト式、ロスインウェイト式等の重量フィーダーを用いることができるが、ロスインウェイト方式が特に好ましい。
【0016】
エステル交換触媒: 溶融エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際には、通常、触媒が使用される。本発明のポリカーボネート製造方法においては、触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
触媒の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して0.05〜5μモル、好ましくは0.08〜4μモル、さらに好ましくは0.1〜2μモルの範囲内で用いられる。触媒の使用量が上記量より少なければ、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、またポリマーの分岐化も進み、成型時の流動性が低下する傾向がある。
【0018】
アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物、アルコラート、フェノラート、有機カルボン酸塩等の有機アルカリ金属化合物等がある。これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、具体的に最も好ましいセシウム化合物を挙げれば炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
【0019】
また、アルカリ土類金属化合物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物、アルコラート、フェノラート、有機カルボン酸塩等の有機アルカリ土類金属化合物等がある。
【0020】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩又はストロンチウム塩等が挙げられる。
【0021】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−i−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又は、これらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0022】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラエチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキサイド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド等が挙げられる。
【0023】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン,4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
これらの触媒のうち、実用的にはアルカリ金属化合物が望ましい。
【0024】
本発明においては、上記エステル交換触媒は、溶媒に溶解した触媒溶液の形態で用いられる。溶媒としては、例えば、水、アセトン、アルコール、トルエン、フェノールの他、原料芳香族ジヒドロキシ化合物や原料炭酸ジエステルを溶解する溶媒が挙げられる。これらのなかでは、水が好ましく、特にアルカリ金属化合物を触媒とする場合には、水溶液とすることが好適である。
【0025】
本発明におけるポリカーボネートでは、温度250℃、角速度10rad/sの条件で測定した損失角δ及び複素粘性率η*(Pa・s)が、下記関係式(1)を満たすことが必要で、好ましくは下記関係式(2)の範囲であり、さらに好ましくは下記関係式(3)の範囲であり、最も好ましくは下記関係式(4)の範囲である。本発明において、該Tanδ/η*-0.87の値は、ポリカーボネートの溶融粘弾性を示すパラメーターとして使用した。Tanδ/η*-0.87の値が2500より小さくても6000より大きくても、流動性や成形品の外観が著しく低下する。
【0026】
【数3】
2500≦Tanδ/η*-0.87≦6000 (1)
2800≦Tanδ/η*-0.87≦5500 (2)
3000≦Tanδ/η*-0.87≦5000 (3)
3800≦Tanδ/η*-0.87≦4800 (4)
【0027】
損失角δは、動的溶融粘弾性の測定から求められる、応力に対するひずみの位相の遅れを表し、動的粘弾性挙動を表す指標のひとつとして一般的に知られている。δ(Tanδ)は、その値が大きい場合は粘弾性の粘性的な性質が強いことを示し、小さい場合は弾性的な性質が強いことを示している。この値を決定する要因は複雑であり、例えば、共重合を含む単量体の種類、共重合組成、共重合の構造、分岐点の数や分岐鎖の長さ等の分岐構造等を含む分子構造、分子量、分子量分布等が挙げられる。
【0028】
本発明者らの知見によれば、界面法により製造されたポリカーボネートは、ガラス系充填剤を添加した場合に、射出成形時にガラスが成形品表面に浮き出し成形品外観を著しく損なうといった問題があった。このため、界面法により製造されたポリカーボネートのδ(Tanδ)の値を、分子量等の指標である複素粘性率(η*(Pa・s))に対する、対数座標にプロットすると、Tanδ/η*-0.87=約8000の直線上にほぼ並ぶことがわかった。(ここで、η*の指数である−0.87は、上記直線の傾きを表し、Tanδ/η*-0.87は、上記直線をη*=1(Pa・s)に外挿したときのTanδの値を表す。すなわち、Tanδ/η*-0.87の値をパラメータに用いることで損失角の分子量(粘度)依存性を排除することが可能となる。)
【0029】
溶融エステル交換法により製造されたポリカーボネートは一般にこの直線上には乗らず、しかも、Tanδ/η*-0.87<2500の溶融エステル交換法ポリカーボネートは、射出成形時に流れ模様が出やすく成形品の外観に劣ることがわかった。一方、以下に詳述する方法で得られたポリカーボネートは、分子量が大きい範囲でも流動性及び成形品の外観が優れており、本発明で規定する2500≦Tanδ/η*-0.87≦6000の範囲であることを見出した。
【0030】
本発明において、該溶融粘弾性パラメーターで規定されたポリカーボネートが成形性に与える効果としては、δ(Tanδ)の値がこの範囲内であると、ポリカーボネートの弾性的性質が強くなり、このようなものは法線応力効果が大きくなる。そうすると、射出成形の際、ポリカーボネートを金型表面へ押しつける応力が高く、その結果、ガラス系充填剤の浮き出しが少なくなるものと推定される。この他、薄肉部分での流動性が高くなり、成形性が改良される効果もある。一方、δ(Tanδ)の値がこの範囲よりも小さい場合、成形品表面に流れ模様が発生してしまうので、好ましくない。
【0031】
なお、本発明においては、ポリカーボネートに各種安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等を添加することもでき、ポリカーボネートの製造途中、又はペレット製造の前にこれらの添加剤を添加する場合もあり、一般にそれらの添加剤を含んだものを「ポリカーボネート」と称する場合があるが、本発明で規定する上記関係式の値は、これらの添加剤を全く含まないポリカーボネートについて求められるものである。
【0032】
ポリカーボネートの末端OH基含有量は50〜1000ppmであることが好ましく、70〜900ppmであることがさらに好ましく、90〜800ppmであることがとりわけ好ましい。
【0033】
ポリカーボネートは分子量が低い場合は流動性には優れるが機械的強度に劣り、分子量が高い場合には機械的強度には優れるが流動性に劣る。本発明では、粘度平均分子量が12,000〜30,000のポリカーボネートであり、粘度平均分子量が14,000〜26,000のポリカーボネートが好ましく、粘度平均分子量が16,000〜24,000のポリカーボネートが最も好ましい。
【0034】
ポリカーボネートの製造方法:
本発明において、ポリカーボネートの製造方法は、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とする溶融エステル交換法であって上記特定の物性を有するポリカーボネートが得られる方法であれば、特に限定されないが、例えば、以下のような方法で製造できる。
【0035】
すなわち、通常、原料混合槽等で両原料を、均一に撹拌した後、触媒を添加して重合を行い、ポリマーが生産される。例えば、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステルの両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。その際、本発明の上記特定の物性のポリマーを安定して生産するためには、例えば、少なくとも以下の(1)及び(2)の両条件を満足する方法が採用される。
【0036】
(1)全製造時間を一つ以上に分画した単位製造時間ごとに、重合槽に供給される芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対しての触媒量を一定に保つための目標触媒供給量である「設定触媒量」を、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.05〜5μモルの範囲内から選択する。なお、「全製造時間」とは、重合槽においてポリマーを安定的に生産する原料供給時間に対応し、立ち上げ時や、グレード切り替え時、製造終了時等の非安定時のポリマー製造時間は含まない。
【0037】
(2)各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量(以下、単に「実際の触媒量」という。)が、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、各設定触媒量±0.1μモル以内の値に維持されるようにする。
上記(1)において、設定触媒量は、全製造時間を通して必ずしも一定値である必要はなく、全製造時間を一つ以上に分画して、その単位製造時間ごとに設定することが可能である。
【0038】
以下、この方法について詳しく説明すると、全製造時間が単一分画の単位製造時間である場合は、その少なくとも95%の時間は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.1μモル以内の値に実際の触媒量を維持する。また、全製造時間が複数の単位製造時間に分画され、設定触媒量が変更される場合には、各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、各設定触媒量±0.1μモル以内の値に、実際の触媒量を維持する。いずれの場合も、設定触媒量±0.08μモル以内に維持することが好ましく、設定触媒量±0.06μモル以内に維持することが特に好ましい。さらに、実際の触媒量が、制御された値に維持される時間の割合は、全製造時間又は各単位製造時間の少なくとも95%であれば良いが、100%に近いほどより好ましい。95%より少ない時間になると、所望の分子量、末端OH基含有量のポリマーが得られなくなり、特に設定触媒量より多い時間の割合が多い場合は、得られるポリマー色相が悪化したり、またポリマーの分岐化が進む等して、結果的に本発明で規定する関係式を満足するものが得られなくなり、該ポリマーを成型する時の流動性も低下する傾向がある。なお、重合温度、重合時間、減圧度等の重合反応時の製造条件を変えても、本発明のポリカーボネートを製造することが可能であるが、安定的な生産が困難になるので好ましくない。実際の触媒量を、設定触媒量±0.1μモルと極めて小さな変動範囲以内に維持して、供給を続けることにより初めて、煩雑な重合操作を必要とせずに、本発明で規定する特定の関係式を満足し、狭い分子量分布、色調、流動性、耐熱性、機械物性等、諸物性に優れたポリマーを安定的に生産できるようになることがわかった。
【0039】
前記の実際の触媒量を、設定触媒量±0.1μモル以内の値に維持させるためには、重合槽に供給する触媒流量を、オーバル流量計、マイクロモーション式流量計等を用いて、計量、供給することが好ましい。
【0040】
触媒供給を自動制御するには、例えば、まずコンピュータに、継続的に実際の触媒流量の測定値を入力し、前述した設定触媒量と芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステルの原料調製槽への供給量より算出された設定触媒流量とを比較させる。その際、実際の触媒流量の測定値が、該設定触媒流量と異なる場合、この結果を触媒計量・供給装置に伝え、バルブの開度等を調節して、実際の触媒流量と設定触媒流量が一致するように制御する。
【0041】
ここで、触媒供給の自動制御は、実際の触媒流量の測定間隔の適正化に十分配慮すれば、継続的な間歇測定に基づく制御でも、連続的な測定と同様に制御を行うことは可能であるが、安定した品質の製品を得るには、連続的な自動測定であることが好ましい。すなわち、連続的に触媒流量を自動測定できれば、重合槽への触媒供給量を迅速且つ連続的に制御することが可能となり、その結果、一定の設定触媒流量に維持され、ポリカーボネートの粘度平均分子量や末端OH基含有量等のふれが小さく、かつ分子量分布が狭くなり、さらに色調、流動性、耐熱性、機械物性等、諸物性の均一な製品が得られるので好ましい。
【0042】
ある設定触媒量の単位製造時間中に、実際の触媒量が、設定触媒量±0.1μモル以内の値に、どれ程の時間存在したかは、上記測定手段による測定結果から容易に判定することができる。連続的測定の場合、実際の原料モル比と測定時間の関係を示す曲線より、予め設定した触媒量±0.1μモル以内にある累積時間と、±0.1μモルよりはずれた累積時間とを求めることにより、該設定触媒量での単位製造時間の少なくとも95%の時間は、±0.1μモル以内の値に維持されていたかどうかが判定される。連続的測定ではない場合でも、継続的な測定であれば、これを統計処理する方法等により判定することができる。
【0043】
本発明ではポリカーボネートの重合反応(エステル交換反応)は、一般的には2以上の重合槽での反応、すなわち2段階以上、通常3〜7段の多段工程で連続的に実施されることが好ましい。具体的な反応条件としては、温度:150〜320℃、圧力:常圧〜2.0Pa、平均滞留時間:5〜150分の範囲とし、各重合槽においては、反応の進行とともに副生するフェノールの排出をより効果的なものとするために、上記反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。なお、得られるポリカーボネートの色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、できるだけ短い滞留時間の設定が好ましい。
なお、多段工程で重合槽を複数用いる場合の実際の触媒量の自動制御は、触媒の供給量を連続的に自動制御することが好ましく、その場合は、第1重合槽の滞留時間の1/3以内に測定及び制御が完了していることが必要である。
【0044】
上記エステル交換反応において使用する装置は、竪型、管型又は塔型、横型のいずれの形式であってもよい。通常、タービン翼、パドル翼、アンカー翼、フルゾーン翼(神鋼パンテック(株)製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼((株)日立製作所製)等を具備した1以上の竪型重合槽に引き続き、円盤型、かご型等の横型一軸タイプの重合槽やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、メガネ翼、格子翼((株)日立製作所製)、又はメガネ翼とポリマーの送り機能を持たせた、例えばねじりやひねり等の入った翼及び/又は傾斜がついている翼等を組み合わせたもの等を具備した、横型二軸タイプの重合槽を用いることができる。
上記方法で製造したポリカーボネート中には、通常、原料モノマー、触媒、エステル交換反応で副生する芳香族ヒドロキシ化合物、ポリカーボネートオリゴマー等の低分子量化合物が残存している。なかでも、原料モノマーと芳香族ヒドロキシ化合物は、残留量が多く、耐熱老化性、耐加水分解性等の物性に悪影響を与えるので、製品化に際して除去されることが好ましい。
【0045】
それらを除去する方法は、特に制限はなく、例えば、ベント式の押出機により連続的に脱揮してもよい。その際、樹脂中に残留している塩基性エステル交換触媒を、あらかじめ酸性化合物又はその前駆体を添加し、失活させておくことにより、脱揮中の副反応を抑え、効率よく原料モノマー及び芳香族ヒドロキシ化合物を除去することができる。
【0046】
添加する酸性化合物又はその前駆体には特に制限はなく、重縮合反応に使用する塩基性エステル交換触媒を中和する効果のあるものであれば、いずれも使用できる。具体的には、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸等のブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらは、単独で使用しても、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの酸性化合物又はその前駆体のうち、スルホン酸化合物又はそのエステル化合物、例えば、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチル等が特に好ましい。
【0047】
これらの酸性化合物又はその前駆体の添加量は、重縮合反応に使用した塩基性エステル交換触媒の中和量に対して、0.1〜50倍モル、好ましくは0.5〜30倍モルの範囲で添加する。酸性化合物又はその前駆体を添加する時期としては、重縮合反応後であれば、いつでもよく、添加方法にも特別な制限はなく、酸性化合物又はその前駆体の性状や所望の条件に応じて、直接添加する方法、適当な溶媒に溶解して添加する方法、ペレットやフレーク状のマスターバッチを使用する方法等のいずれの方法でもよい。
【0048】
脱揮に用いられる押出機は、単軸でも二軸でもよい。また、二軸押出機としては、噛み合い型二軸押出機で、回転方向は同方向回転でも異方向回転でもよい。脱揮の目的には、酸性化合物添加部の後にベント部を有するものが好ましい。ベント数に制限は無いが、通常は2段から10段の多段ベントが用いられる。また、該押出機では、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等の添加剤を添加し、樹脂と混練することもできる。
【0049】
本発明で用いるガラス系充填剤とは、ガラスを主成分とする無機充填剤のことを指すが、中でもガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレークが好ましく、これらは単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0050】
本発明で使用するガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス等のガラス組成からなり、好ましくは、Eガラス(無アルカリガラス)がポリカーボネートに悪影響を及ぼさない点で好ましい。また断面の形状は一般的な真円状の他に、真円状の繊維を平行に重ね合わせたものに代表される各種の異形断面形状のものを使用してもよい。かかるガラス繊維は、平均繊維径が1〜25μm、好ましくは5〜17μmである。平均繊維径が1μm未満のガラス繊維を使用すると、成形加工性が低下する場合があり、平均繊維径が25μmより大きいガラス繊維を使用すると、外観が損なわれ、補強効果も十分でない場合があるので好ましくない。
【0051】
かかるガラス繊維は、連続的に巻き取った「ガラスロービング」や長さ1〜10mmに切りそろえた「チョップドストランド」、長さ10〜500μm程度に粉砕した「ミルドファイバー」を用いることができ、これらを併用することもできる。かかるガラス繊維としては、旭ファイバーグラス社より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。
また、ガラスビーズとは、外径10〜100μmの球状のものであり、例えば、東芝バロティーニ社より、商品名「EGB731」として市販されているものがあり、容易に入手できる。
【0052】
ガラスフレークとは、厚さ1〜20μm、一辺の長さが0.05〜1.0mmの鱗片状のものであり、例えば、日本板硝子社より、「フレカ」の商品名で市販されているものがあり、容易に入手できる。
【0053】
このようなガラス系充填剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対して3〜200重量部であり、好ましくは5〜150重量部、とりわけ好ましくは7〜100重量部である。ガラス系充填剤の配合量が3重量部未満であると、補強効果が十分ではなく、200重量部を越えると成形性に難が生じるという問題がある。
【0054】
本発明は、さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、難燃剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、滑剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤、ガラス系以外の無機系充填剤等の添加剤を添加した、所望の物性を有するポリカーボネート樹脂組成物をも対象とする。
【0055】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
ポリカーボネートの製造
以下、ポリカーボネートの製造法を示す。なお、得られたポリカーボネートの分析は、下記の測定方法により行った。
(1)粘度平均分子量(Mv)
ウベローデ粘度計を用いて、塩化メチレン中20℃の極限粘度[η]を測定し、以下の式(5)より粘度平均分子量(Mv)を求めた。
【0057】
【数4】
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83 (5)
【0058】
(2)末端OH基含有量
四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)により比色定量を行った。測定値は、ポリカーボネート重量に対する末端OH基の重量をppm単位で表示した。
【0059】
(3)分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。測定装置には、HLC−8020(商品名、東ソー(株)製)を、溶離液にはテトラヒドロフランを使用し、ポリスチレン換算で求め、Mw/Mnを算出した。
【0060】
(4)動的粘弾性
動的粘弾性は以下の様に測定した。サンプルのポリカーボネートを120℃、5時間の乾燥を行い、250℃で直径25mm、厚み1.5mmの形状にプレス成形し、測定用サンプルを得た。サンプルは測定前に120℃、4時間の減圧乾燥を行い、測定に供した。粘弾性測定器RDA−700(商品名、レオメトリックス(株)製)を使用し、直径25mmのパラレルプレート型の治具を装着し、本機器の適正条件を満足する窒素気流中、測定温度である250℃に設定した。測定温度はオーブン内の温度を測定することにより設定した。その後乾燥した測定用サンプルを機器にセットし、サンプル全体が十分に設定温度となる様に静置の後、角速度10rad/s、歪み10%の回転をすることで測定した。この測定により損失正接Tanδ及び複素粘性率η*(Pa・s)を求めた。
【0061】
製造例1
図1は、本発明で使用する特定の物性を有するポリカーボネートの製造方法の1例を示したフローシート図である。図中、1はDPC(ジフェニルカーボネート)貯槽、2は撹拌翼、3はBPA(ビスフェノールA)ホッパー、4a,bは原料混合槽、5はDPC流量制御弁、6はBPA流量制御弁、7はポンプ、8は触媒流量制御弁、9はプログラム制御装置、10はポンプ、11は触媒貯槽である。図中、12は副生物排出管、13a,b,cは竪型重合槽、14はマックスブレンド翼、15は横型重合槽、16は格子翼である。
【0062】
窒素ガス雰囲気下120℃で調製されたジフェニルカーボネート融液、及び、窒素ガス雰囲気下計量されたビスフェノールA粉末を、それぞれ、DPC貯槽(1)から205.0モル/h、及びBPAホッパー(3)から197.1モル/h(原料モル比1.040)の送量となるように、マイクロモーション式流量計及びロスインウェイト方式の重量フィーダーで計量し、窒素雰囲気下140℃に調整された原料混合槽(4a)に連続的に供給した。続いて、原料混合液を原料混合槽(4b)に、さらにポンプ(7)を介して容量100Lの第1竪型撹拌重合槽(13a)に連続的に供給した。一方、上記混合物の供給開始と同時に、触媒として2重量%の炭酸セシウム水溶液を、触媒導入管を介して、1.6mL/h(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.51μモル)の流量で連続供給を開始した。
【0063】
このとき、実際の触媒流量制御は、プログラム制御装置(9)で、BPA流量制御弁(6)で検知したBPA流量と設定触媒量より、設定触媒流量を計算して、この値と触媒流量制御弁(8)に設けられた測定装置で実測された触媒流量とが一致するように触媒流量制御弁(8)の開度をコントロールすることによって遂行された。
【0064】
マックスブレンド翼(14)を具備した第1竪型撹拌重合槽(13a)は、常圧、窒素雰囲気下、220℃に制御し、さらに平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。
【0065】
槽底より排出された重合液は、引き続き、第2、第3のマックスブレンド翼を具備した容量100Lの竪型撹拌重合槽(13b、13c)、及び第4の格子翼(16)を具備した容量150Lの横型重合槽(15)に逐次連続供給された。第2〜第4重合槽での反応条件は、それぞれ、下記のように、反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるように条件設定した。
【0066】
【表1】
【0067】
反応の間は、第2〜第4重合槽の平均滞留時間が60分となるように、液面レベルの制御を行い、また、各重合槽においては、副生したフェノールを副生物排出管(12)より除去した。以上の条件下で、1500時間連続して運転した。なお、第4重合槽底部のポリマー排出口から抜き出されたポリカーボネートは、溶融状態のまま、3段ベント口を具備した2軸押出機に導入され、p−トルエンスルホン酸ブチルをポリカーボネート重量に対し、4.0ppm(触媒の中和量に対し、4.4倍モル)添加し、水添、脱揮した後、ペレット化した。
【0068】
得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)及び末端OH基含有量は、それぞれ、21,500及び500ppmであった。
【0069】
また、触媒流量制御弁(8)に設けられた測定装置で実測された触媒流量の連続測定データ(以下、「触媒流量制御弁の連続測定データ」と略称する。)より、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.06μモル以内及び±0.1μモル以内の時間を算出したところ、それぞれ全製造時間の96.7%及び99.1%であった。分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η*-0.87の値は、それぞれ、2.3及び4,850であった。これをPC−1と表す。
【0070】
【比較製造例1】
製造例1において、プログラム制御装置を設置せず、触媒流量を1.6mL/h(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.5μモル)に固定した以外は、実施例2と同様にして実施した。得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)及び末端OH基含有量は、それぞれ、22,400及び500ppmであった。
また、触媒流量制御弁の連続測定データより、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.06μモル以内及び±0.1μモル以内の時間を算出したところ、全製造時間の89.9%及び91.7%であった。分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η*-0.87の値は、それぞれ、2.7及び2,240であった。これをPC−2と表す。
【0071】
【比較製造例2】
ビスフェノールAを界面法により重縮合させ、フェノールで末端封止した。得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)及び末端OH基含有量は、それぞれ、22,100及び30ppmであった。分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η*-0.87の値は、それぞれ、2.3及び7,550であった。これをPC−3と表す。
【0072】
【実施例1〜4、及び比較例1〜4】
表2及び表3に示す配合処方で、単軸押出機VS−40(田辺プラスチック(株)製)によりバレル温度280℃で混練、ペレット化した。得られたペレットを120℃、5時間乾燥した後、住友重機械工業社製、商品名:サイキャップM−2、型締め力75Tの射出成形機を用いて、 シリンダー温度:300℃,金型温度:100℃の条件で各種試験片の射出成形を行い、得られた成形サンプルを用いて以下の評価を行った。
【0073】
(5)曲げ強さと曲げ弾性率
ISO 178による曲げ試験法に従い、三点曲げ試験を行った。
(6)熱変形温度
ISO 75に従い、1.80MPaでの熱変形温度を測定した。
(7)流動性
射出成形機(住友重機械工業社製、商品名:サイキャップM−2、型締め力75T)を用いて、 シリンダー温度:300℃,金型温度:100℃,金型:20mm幅×2mm厚み,射出圧力:150MPaの条件で流動長を測定した。
【0074】
(8)成形品外観
射出成形機(住友重機械工業社製、商品名:サイキャップM−2、型締め力75T)を用いて、 シリンダー温度:300℃,金型温度:100℃の条件で、80mm×40mm×3.2mmtのプレートを成形し、外観を目視で評価するとともに、表面粗さ計を用いて表面粗さを測定した。尚、外観の評価基準は以下による。
◎ ガラス充填剤の浮きや、流れ模様が無く非常に良好
○ ガラス充填剤の浮きや、流れ模様が少なく良好
△ ガラス充填剤の浮きや、流れ模様が目立つ
× ガラス充填剤の浮きや、流れ模様が非常に目立つ
【0075】
表面粗さは、(株)東京精密社製の表面粗さ計(サーフコム554A)を用いて測定し、JIS B0601に従って、10点平均粗さ(Rz)を求めた。測定は5回繰り返し、その平均値をとり、平均値が小さいほど、成形品表面が平滑であることを示す。結果を下記の表2及び表3に示す。
上記の実施例及び比較例で使用したポリカーボネート以外の原材料を以下に示す。
【0076】
ガラス系充填剤
GF 直径13μm、長さ3mmのチョップドストランド(旭ファイバーグラス社製、商品名:CS03MAFT737)
MF 直径10μ、平均長さ60μmのミルドファイバー(旭ファイバーグラス社製、商品名:MF06JB1−20)
GB 直径80μmのガラスビーズ(東芝バロティーニ社製、商品名:EGB731)
GFL 平均厚み5μ、平均長さ600μmのガラスフレーク(日本板硝子社製、商品名:フレカREFG−101)
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【発明の効果】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ガラス系充填剤の添加により、機械的強度や耐熱性に優れ、かつ従来の欠点であった流動性や成形品の外観が著しく改良されており、カメラ部品やOA、電気電子部品をはじめとする各種産業用途に用いることができ、その意義は極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の製造方法の1例を示したフローシート図である。
【符号の説明】
1.DPC貯槽 2.撹拌翼 3.BPAホッパー
4a,b.原料混合槽5.DPC流量制御弁 6.BPA流量制御弁
7.ポンプ 8.触媒流量制御弁 9.プログラム制御装置
10.ポンプ 11.触媒貯槽 12.副生物排出管
13a,b,c.竪型重合槽 14.マックスブレンド翼
15.横型重合槽 16.格子翼
Claims (3)
- ポリカーボネート100重量部に対して、ガラス系充填剤を3〜200重量部含む樹脂組成物であって、
該ポリカーボネートが
a)芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし溶融エステル交換法で得られ、粘度平均分子量が12,000〜30,000の範囲内であるポリカーボネートであって、かつ
b)温度250℃、角速度10rad/sの条件で測定した損失角δ及び複素粘性率η*(Pa・s)が、下記関係式(1)
【数1】
2500≦Tanδ/η*-0.87≦6000 (1)
を満たすポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネートが、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給し、且つ、下記i)及びii)の条件を満足する方法で製造されたものであることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
i)重合槽においてポリカーボネートを安定的に生産する原料供給時間である全製造時間を一つ以上に分画した単位製造時間ごとに、重合槽に供給される芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対しての触媒量を一定に保つための目標触媒供給量である設定触媒量を、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.51〜5μモルの範囲内から選択する。
ii)各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量が、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、各設定触媒量±0.06μモル以内の値に維持されるようにする。 - ポリカーボネートの末端OH基含有量が50〜1000ppmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- ガラス系充填剤が、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレークからなる群より選ばれる1種、又は2種以上の組み合わせからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
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