JP5047488B2 - シリカエアロゲル膜の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、シリカエアロゲル膜の製造方法に関し、特に、優れた疎水性を有する有機修飾シリカエアロゲル膜を製造する方法に関する。
反射光量の減少等を目的として、光学素子の表面には反射防止膜等の光学膜がコーティングされている。例えば単層の反射防止膜は、反射防止膜表面での反射光と、反射防止膜とレンズの境界での反射光との光路差が波長の1/2の奇数倍となってこれらの光が干渉により打ち消し合う厚さであって、基材より小さく、かつ空気等の入射媒質より大きい屈折率を有するように設計される。屈折率1.5程度のガラスからなるレンズの反射防止膜は、屈折率1.2〜1.25の材料からなるのが理想的であると言われている。しかし、このような理想的な屈折率を有する物質は無いので、屈折率1.38のMgF2が反射防止膜材料として汎用されている。
近年、MgF2より小さな屈折率を有する反射防止膜材料として、シリカエアロゲルが注目されている。シリカエアロゲルからなる薄膜は、1.02〜1.18という低い屈折率を有しうる。またシリカを有機修飾することによって、実用に耐えられる疎水性を与えることもできる。
本発明者らは先に、有機修飾されたシリカエアロゲルからなる層を含む反射防止膜を提案した。有機修飾シリカエアロゲル層は、例えばレンズ等の基材上に有機修飾シリカを含むゾルの層を形成し、超臨界状態の二酸化炭素流体等によってゾルを乾燥することにより得られる。このシリカエアロゲル膜は優れた疎水性を有し、経時劣化し難い。しかし超臨界流体による乾燥を行うには、高価な装置を有するという問題がある。また超臨界流体による乾燥は高圧プロセスであるため、作業者に危険が伴う上、効率的でないという問題がある。
米国特許5948482号(特許文献1)は有機修飾されたシリカと、アルコール、ヘキサン等の分散媒とからなるゾルを調整し、このシリカ含有ゾルを基材に塗布し、基材上で分散媒を揮発させるシリカエアロゲル薄膜の製造方法を記載している。シリカエアロゲル薄膜の空隙率は、分散媒が揮発している間は、毛管圧によって生じるゲルの収縮のために小さくなるが、揮発し終わると回復する。この現象はスプリングバック現象と呼ばれている。このスプリングバック現象を利用した製造方法によると、超臨界流体乾燥を要することなくシリカエアロゲル薄膜を作製できる。
しかし本発明者らによる研究の結果、アルコール、ヘキサン等、特許文献1に記載の分散媒を用いてシリカ含有ゾルを調製すると、シリカを十分に分散させることができないことが分かった。これらを分散媒とするシリカ含有ゾル中ではシリカは10μm程度、又はそれ以上という粒径を有する。このように大きな粒径のシリカを含有するゾルを用いて基材上に層を形成すると、凝集したシリカ粒子が部分的に沈降した状態になるため、乾燥させても膜状にならなかったり、成膜された場合も、膜表面が凸凹になったりするという問題がある。
米国特許5948482号公報
従って、本発明の目的は、平滑な表面を有し、疎水性のシリカエアロゲル膜を簡易に形成する方法を提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、シリカを含有するゾルの層を基材上に形成し、ゾルの層を乾燥させるシリカエアロゲル膜の製造方法において、ゾルの分散媒としてケトン系の溶媒を用いると、ゾル中でシリカを良好な分散状態にすることができ、平滑な表面を有するシリカエアロゲル膜を作製できることを発見し、本発明に想到した。
すなわち、本発明のシリカエアロゲル膜の製造方法は有機修飾シリカを溶媒に分散させる工程と、前記有機修飾シリカを含む分散液によって膜を形成する工程とを含み、前記分散させる工程においてケトン系溶媒に前記有機修飾シリカを分散させることを特徴とする。
有機修飾シリカは、アルコキシシリケートからシリカを合成し、ケトン系溶媒に溶媒交換した後で、シリカを有機修飾することによって得られる。前記ケトン系溶媒としては、メチルi-ブチルケトンが好ましい。
シリカエアロゲル膜の屈折率は1.35以下であって、物理膜厚は15〜200 nmであるのが好ましい。前記分散液中における前記有機修飾シリカの平均粒径を200 nm以下とするのが好ましい。
本発明のシリカエアロゲル膜の製造方法においては、有機修飾シリカをMIBK(メチルi-ブチルケトン)等のケトン系溶媒に分散させる。ケトン系溶媒を用いると、超音波照射等によって、有機修飾シリカの粒子を小さな粒径で分散させることができる。したがってケトン系溶媒を用い、有機修飾シリカを含有する分散液を基材に塗布したり、分散液に基材を浸漬したりすることによって、平滑な表面を有する疎水性のシリカエアロゲル膜を効率よく製造することができる。
[1] 光学素子の製造方法
(a) シリカエアロゲル膜の原料
(a-1) アルコキシシラン及びシルセスキオキサン
アルコキシシラン及び/又はシルセスキオキサンの加水分解重合により、シリカゾル及びシリカゲルが生成する。アルコキシシランはモノマーでも、オリゴマーでも良い。アルコキシシランモノマーはアルコキシル基を3つ以上有するものが好ましい。アルコキシル基を3つ以上有するアルコキシシランを出発原料とすることにより、優れた均一性を有する薄膜が得られる。アルコキシシランモノマーの具体例としてはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン及びジエトキシジメチルシランが挙げられる。アルコキシシランオリゴマーとしては、上述のモノマーの縮重合物が好ましい。アルコキシシランオリゴマーはモノマーの加水分解重合により得られる。
シルセスキオキサンを出発原料とした場合も、優れた均一性を有するシリカエアロゲル膜が得られる。シルセスキオキサンは一般式RSiO1.5(ただしRは有機官能基を示す。)により表されるネットワーク状ポリシロキサンの総称である。Rとしては、例えばアルキル基(直鎖でも分岐鎖でも良く、炭素数1〜6である。)、フェニル基、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)が挙げられる。
(a-2) シリカ合成反応溶液の溶媒
シリカ合成反応溶液の溶媒は水とアルコールからなるのが好ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。溶媒の水/アルコール体積比は0.01〜2とするのが好ましい。水/アルコール比が2超であると、溶媒の揮発に時間がかかり過ぎる。水/アルコール比が0.01未満であると、アルコキシシラン及び/又はシルセスキオキサン(以下、単に「アルコキシシラン等」という)の加水分解が十分に起こらない。
(a-3) 触媒
アルコキシシラン等の水溶液に加水分解反応の触媒を添加するのが好ましい。適当な触媒を添加することによりアルコキシシラン等の加水分解反応を促進することができる。触媒は酸性でも塩基性でもよい。酸性の触媒としては塩酸、硝酸及び酢酸が挙げられる。塩基性の触媒としてはアンモニア、アミン、NaOH及びKOHが挙げられる。好ましいアミンとしてアルコールアミン、アルキルアミン(例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、n-ブチルアミン及びn-プロピルアミン。)が挙げられる。
(b) ゾル及び/又はゲルの作製
水とアルコールからなる溶媒に、アルコキシシラン等を溶解する。溶媒/アルコキシシラン等のモル比は3〜100にするのが好ましい。モル比が3未満であると、アルコキシシラン等が溶解し難過ぎる。モル比が100超であると、シリカ含有ゾルの乾燥に時間がかかり過ぎる。触媒/アルコキシシラン等のモル比は1×10-4〜3×10-2にするのが好ましく、3×10-3〜1×10-2にするのがより好ましい。モル比が1×10-4未満であると、アルコキシシラン等の加水分解が十分に起こらない。モル比を3×10-2超としても、触媒効果は増大しない。
アルコキシシラン等を含む溶液を20〜60時間程度エージングする。具体的には、25〜90℃で溶液を静置するか、ゆっくり撹拌する。アルコキシシラン等、触媒及び溶媒を含む水溶液を15〜60℃で60〜120分撹拌した後、アルコール及び塩基性触媒を添加して15〜30℃で20〜60時間撹拌し、40〜60℃に昇温して20〜60時間静置するのが特に好ましい。エージングによりゲル化が進行し、酸化ケイ素を含有するゾル及び/又はゲルが生成する。本明細書中、「酸化ケイ素を含有するゾル」には酸化ケイ素からなるコロイド粒子が分散状態になっているもののほか、凝集したコロイド粒子からなるゾルのクラスターが分散状態になっているものも含まれる。シリカ合成反応を行った後、エタノール等のアルコールを用いてゾル及び/又はゲルを洗浄し、未反応物等を除去するのが好ましい。
(c) 分散媒の置換
ゾル及び/又はゲルの分散媒は、前述のエージング工程においてエージングを促進したり遅らせたりする表面張力及び/又は固相−液相の接触角や、有機修飾工程における表面修飾の範囲に影響する他、後述するコーティング工程における分散媒の蒸発率にも関係する。ゲルに取り込まれている分散媒は、ゲルの入った容器に置換すべき分散媒を注ぎ、振とうした後でデカンテーションする操作を繰り返すことによって置換することができる。ゾルの場合、低沸点の分散媒又は置換すべき分散媒と共沸する分散媒をゾルに加え、元の分散媒を揮発させた後、新しい分散媒を補給することによって置換することができる。
良好な分散性の有機修飾シリカ含有ゾルを得るためには、少なくとも後述する超音波処理工程までに、分散媒をケトン系溶媒にしておく必要がある。超音波処理工程の前であれば(a) 有機修飾反応の前にケトン系溶媒に置換してもよいし、(b) ヘキサン等を溶媒として酸化ケイ素を有機修飾した後で、ケトン系溶媒に置換してもよいが、工程数を少なくする観点から、(a) 有機修飾反応の前に置換しておくのが好ましい。
ケトン系溶媒はシリカ(酸化ケイ素)及び有機修飾シリカに対して優れた親和性を有する。そのためケトン系溶媒中で、シリカ及び/又は有機修飾シリカは良好な分散状態になる。
ケトン系溶媒は60℃以上の沸点を有するのが好ましい。60℃未満の沸点を有するケトンは、後述する超音波照射の工程で揮発しすぎる。例えばアセトンを分散媒として用いると、超音波照射中にアセトンが大量に揮発してしまうため、分散液の濃度を調節し難過ぎる。また成膜工程においても素早く揮発し過ぎるため、十分な成膜時間が得られないという問題もある。さらにアセトンは人体に有害であることが知られており、作業者の健康の面からも好ましくない。
ケトン系溶媒のうち、好ましいのはカルボニル基の両側に異なる置換基を有する非対称なケトンである。非対称ケトンは大きな極性を有するために、シリカ及び有機修飾シリカに対して特に優れた親和性を有する。分散液中で、有機修飾シリカは200 nm以下の粒径を有するのが好ましい。有機修飾シリカの粒径が200 nmより大きいと、実質的に平滑な表面を有するシリカエアロゲル膜を形成し難過ぎる。
ケトンの有する置換基はアルキル基でもよいし、アリール基でもよい。好ましいアルキル基は炭素数1〜5程度のものである。ケトン系溶媒の具体例としてメチルi-ブチルケトン、エチルi-ブチルケトン、メチルエチルケトンが挙げられる。
(d) 有機修飾
ゾル及び/又はゲルに有機修飾剤の溶液を加え、これらが十分に接触した状態にすることにより、ゾル又はゲルを構成する酸化ケイ素の末端にある水酸基等の親水性基を疎水性の有機基に置換する。好ましい有機修飾剤は下記式(1)〜(6)
MpSiClq ・・・(1)
M3SiNHSiM3 ・・・(2)
MpSi(OH)q ・・・(3)
M3SiOSiM3 ・・・(4)
MpSi(OM)q ・・・(5)
MpSi(OCOCH3)q ・・・(6)
(ただしpは1〜3の整数であり、qはq = 4−p を満たす1〜3の整数であり、Mは水素、アルキル基又はアリール基であり、アルキル基は置換又は無置換であって炭素数1〜18であり、アリール基は置換又は無置換であって炭素数5〜18である。)のいずれかにより表される化合物及びそれらの混合物である。
有機修飾剤の具体例としてトリエチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、アセトキシトリメチルシラン、アセトキシシラン、ジアセトキシジメチルシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、2-トリメチルシロキシペント-2-エン-4-オン、n-(トリメチルシリル)アセトアミド、2-(トリメチルシリル)酢酸、n-(トリメチルシリル)イミダゾール、トリメチルシリルプロピオレート、ノナメチルトリシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリフェニルシラノール、t-ブチルジメチルシラノール及びジフェニルシランジオールが挙げられる。
有機修飾剤溶液の溶媒もケトン系溶媒とするのが好ましい。好ましいケトン系溶媒は上述の「(c) 分散媒の置換」で挙げたものと同じである。なお有機修飾反応の溶液はアルコールを含有しないのが好ましい。アルコールはクロロシラン等の有機修飾剤に対して大きな反応性を有するため、溶液中にアルコールが共存すると、酸化ケイ素と有機修飾剤が十分に反応し難過ぎる。
有機修飾剤の種類や濃度にもよるが、一般的には有機修飾反応は10〜40℃で進行させるのが好ましい。10℃未満であると、有機修飾剤が酸化ケイ素と反応し難過ぎる。40℃超であると、有機修飾剤がシリカ以外と反応し易過ぎる。反応中、溶液の温度及び濃度に分布が生じないように、溶液を撹拌するのが好ましい。例えば有機修飾剤溶液がトリエチルクロロシランのメチルi-ブチルケトン溶液の場合、10〜40℃で10〜40時間(例えば30時間)程度保持すると、シラノール基が十分にシリル修飾される。修飾率は一般的には10〜30%程度である。
(e) 超音波処理
超音波処理により、ゲル状の有機修飾シリカ及び/又はゾル状の有機修飾シリカをコーティングに好適な状態にすることができる。ゲル状の有機修飾シリカの場合、超音波処理により、電気的な力若しくはファンデルワールス力によって凝集していたゲルが解離するか、金属と酸素との共有結合が壊れて、分散状態になると考えられる。ゾル状の場合も、超音波処理によってコロイド粒子の凝集を少なくすることができる。超音波処理には、超音波振動子を利用した分散装置を使用することができる。照射する超音波の周波数は10〜30 kHzとするのが好ましく、超音波照射装置の出力は300〜900 Wとするのが好ましい。
超音波処理時間は5〜120分間とするのが好ましい。超音波を長く照射するほど、ゲル及び/又はゾルのクラスターが細かく粉砕され、凝集の少ない状態になる。このため超音波処理によって得られるシリカ含有ゾル中で、有機修飾シリカのコロイド粒子が単分散に近い状態になる。超音波処理時間を5分未満とすると、コロイド粒子が十分に解離しない。超音波処理時間を120分超としても、有機修飾シリカのコロイド粒子の解離状態はほとんど変わらない。
シリカ含有ゾルの濃度や流動性が適切な範囲になるように、分散媒を加えても良い。超音波処理に先立って分散媒を添加しても良いし、ある程度超音波処理した後で分散媒を添加しても良い。分散媒に対する有機修飾シリカの比率は0.1〜20質量%とするのが好ましい。分散媒に対する有機修飾シリカの比率が0.1〜20質量%の範囲でないと、均一な膜厚を有する薄層を形成し難過ぎる。
(f) コーティング
シリカ含有ゾルを基材に塗布する。シリカ含有ゾルからなる層を設ける方法の例としてスプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法及びバーコート法が挙げられる。シリカ含有ゾルをコーティングした後、乾燥させると、ゾルの構成要素である分散媒が揮発して、シリカエアロゲル膜が生成する。シリカエアロゲル膜の空隙率は、分散媒が揮発している間は、毛管圧によって生じるゲルの収縮のために小さくなるが、揮発し終わると、スプリングバック現象によって回復する。このためシリカエアロゲル膜の空隙率は、ゲルネットワークの元々の空隙率とほぼ同じであり、大きな値を示す。シリカゲルネットワークの収縮及びスプリングバック現象については、米国特許5,948,482号に詳細に記載されている。
単分散に近い状態の酸化ケイ素コロイド粒子を含有するゾルを用いると、小さな空隙率を有するシリカエアロゲル膜を形成することができる。凝集した状態のコロイド粒子を含有するゾルを用いると、大きな空隙率を有するシリカエアロゲル膜を形成することができる。すなわち、超音波処理時間はシリカエアロゲル膜の空隙率に影響すると言うことができる。5〜120分間超音波処理したゾルをディップコートすることにより、空隙率25〜90%のシリカエアロゲル膜を得ることができる。
シリカ含有ゾルをコーティングした後、室温で保持しても良いが300℃以下の温度で焼成するのが好ましい。焼成温度が300℃超であると、有機修飾基が脱離し過ぎて親水化してしまう。300℃以下の温度で焼成することにより、ゲル化を十分に進行させることができる。
[2] シリカエアロゲル膜
シリカエアロゲル膜はシリカ微粒子によって構成されており、シリカ微粒子の表面の少なくとも一部は、疎水化処理されている。具体的にはメチル基、エチル基、フェニル基、シリル基等の有機基がシリカ微粒子に結合している。シリカエアロゲル膜を構成するシリカ微粒子の隙間は微細孔となっているが、シリカ微粒子の表面に有機基が結合しているために、この微細孔に水分子が入り込み難く、またシリカ微粒子の表面に水が結合し難い。従って、シリカエアロゲル膜は優れた疎水性を有する。
シリカエアロゲル膜の好ましい物理膜厚は15〜200 nmである。物理膜厚が200 nm超であると、応力が大き過ぎるためにシリカエアロゲル膜に剥離及び/又はクラックが生じ易過ぎる。物理膜厚が15 nm未満であると、シリカエアロゲル膜の機械的強度が小さ過ぎる。
シリカエアロゲル膜を反射防止等の光学膜として用いる場合、屈折率は1.35以下であるのが好ましく、1.1〜1.35であるのがより好ましい。屈折率はシリカエアロゲル膜の空孔率に依存する。屈折率1.1未満にするには、シリカエアロゲル膜の空孔率を67%超にする必要がある。このため屈折率1.1未満であると、機械的強度が小さすぎる。屈折率1.35超であると、優れた光学特性を得られない。
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
実施例1
(i) 有機修飾シリカ含有ゾルの作製
テトラエトキシシラン5.21 gと、エタノール4.38 gとを混合した後、塩酸(0.01 N)0.4 gを加えて90分間撹拌した。エタノール44.3 gと、アンモニア水溶液(0.02 N)0.5 gとを添加して46時間撹拌した後、この混合液を60℃に昇温して46時間エージングしたところ、湿潤ゲルが生成した。
湿潤ゲルの溶媒をデカンテーションした後、素早くエタノールを加えて振とうし、デカンテーションすることにより未反応物等を除去するとともに、湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。さらにメチルi-ブチルケトンを加えて振とうし、デカンテーションすることによりエタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。ゲル状のシリカにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするトリメチルクロロシラン溶液(濃度5体積%)を加え、30時間撹拌して、酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ溶液に含まれるメチルi-ブチルケトンはデカンテーションした。
有機修飾シリカにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にした後、超音波照射(20 kHz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。
(ii) ディップコート
(i)で得られた有機修飾シリカ含有ゾルをシリコン基材の一面にディップコートし、40℃で5分間乾燥した後、150℃で1時間焼成したところ、シリカエアロゲル膜が形成した。
比較例1〜4
(a) エタノール洗浄後の湿潤ゲルに加える分散媒、(b) トリメチルクロロシラン溶液の溶媒、及び(c) 有機修飾シリカ含有ゾルの分散媒をメチルi-ブチルケトンの代わりに表1のとおりとした以外実施例1(i)と同様にして有機修飾シリカを含有する分散液を調製し、この分散液をシリコン基材の一面にディップコートした後、焼成した。
Figure 0005047488
実施例1のシリカエアロゲル膜、及び比較例1〜3の薄膜の形成に用いた分散液の粒度分布を測定した。測定結果を図1〜4に示し、各ゾルにおいて最大のピークを示したシリカの直径を表2に示す。
Figure 0005047488
実施例1の作製に用いた分散液中では、有機修飾シリカが直径約30 nmという小さな粒径で分散していた。実施例1のシリカエアロゲル膜の膜厚を測定したところ、104 nmであった。また屈折率は1.1であった。一方、比較例1及び2で用いた分散液中の有機修飾シリカの粒径は大きかった。比較例1及び2の薄膜の表面には凹凸が生じており、屈折率を測定できなかった。
比較例3で用いた分散液中の有機修飾シリカの粒径は、実施例1には及ばないものの、比較的小さかった。しかし、比較例3の薄膜は十分な疎水性を示さなかった。これは、1-メトキシ2-プロパノールが有機修飾剤と反応したために、シリカが十分に有機修飾されなかったためであると考えられる。
実施例1及び比較例4で用いた有機修飾シリカを含有する分散液(超音波照射後のもの)の質量を測定し、有機有機修飾シリカと分散媒の質量の和と比較したところ、表3のとおりであった。
Figure 0005047488
アセトンを分散媒とする有機修飾シリカ含有分散液の質量は、分散の前と比較して18%近く減少していた。また比較例4のシリカエアロゲル膜の膜厚は不均一であり、再現性を得られ難かった。これは比較例4で用いた分散液の溶媒の沸点が低いため、濃度変化が起こり易かったためであると考えられる。またシリカエアロゲル膜の質も均一になり難かった。
実施例1のシリカエアロゲル膜の粒度分布を示すグラフである。 比較例1の薄膜の粒度分布を示すグラフである。 比較例2の薄膜の粒度分布を示すグラフである。 比較例3の薄膜の粒度分布を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 有機修飾シリカを溶媒に分散させる工程と、前記有機修飾シリカを含む分散液によって膜を形成する工程とを含むシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記分散の工程においてメチルi-ブチルケトン、エチルi-ブチルケトン及びメチルエチルケトンからなる群から選ばれた少なくとも1種のケトン系溶媒に前記有機修飾シリカを分散させることを特徴とする方法。
  2. 請求項1に記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記ケトン系溶媒としてメチルi-ブチルケトンを用いることを特徴とする方法。
  3. 請求項1又は2に記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、シリカエアロゲル膜の屈折率が1.35以下であり、物理膜厚が15〜200 nmであることを特徴とする方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記分散液中の前記有機修飾シリカの平均粒径を200 nm以下とすることを特徴とする方法。
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