JP5040309B2 - 五酸化アンチモンの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、三酸化アンチモン(Sb)と過酸化水素との反応により五酸化アンチモン(Sb)を製造する上で、Sb/Sb重量比で示される酸化効率(純度)が高い五酸化アンチモンの製造方法に関する。
五酸化アンチモンゾルは、プラスチック、繊維などの難燃助剤、プラスチック、ガラスの表面処理剤用マイクロフィラー、無機イオン交換体、触媒成分、顔料成分等として使用されているもので、一般的には、有機塩基で安定化した高濃度ゾル(Sbとして30〜50重量%含有する。)が使用されている。
これまで五酸化アンチモンゾルは以下の方法で得られたものが知られている。アンチモン酸アルカリ塩を陽イオン交換樹脂で脱イオンする方法(特許文献1、及び特許文献2)、またアンチモン酸アルカリを無機酸と反応させた後に解膠する方法(特許文献3及び特許文献4)、等が知られている。
上記以外の方法としては三酸化アンチモンを高温下で過酸化水素水により酸化する方法(特許文献5、特許文献6、特許文献7、及び特許文献8)が報告されている。更に三酸化アンチモンと過酸化水素水との酸化反応時に無機系アルカリ性物質を添加し、粒子径制御を行う方法(特許文献9、特許文献10及び特許文献11)が報告されている。
また三酸化アンチモンと過酸化水素水との酸化反応の際にSiOとして0.1〜50wt%の無機珪酸化合物の存在下に行いオルガノゾル化に際し、優れた安定性を示すゾルの製造方法(特許文献12)が開示されている。
また、高純度の五酸化アンチモンの用途の一例としてガラスの清澄剤(Fining Agent)が上げられる。従来、ガラス原料を溶融する際に、溶融したガラスの中に含まれる泡がガラス中に残存し透明性を低下させることが知られている。この透明性の低下を防止する目的で清澄剤が使われる。この清澄剤として、三酸化アンチモンと酸化剤(例えば、硝酸ナトリウム)を溶融ガラス中に添加し、三酸化アンチモンを五酸化アンチモンに変えた後、より高温のガラス溶融温度で五酸化アンチモンが三酸化アンチモンに分解し、その時に発生する酸素により泡を成長させガラス中に含まれる泡の脱離を促進させる。しかしながら、同時に窒素酸化物が発生し環境上好ましくなく、またガラス中にアルカリ金属を含有するという点で無アルカリガラスの製造には適用できない。そこでガラスの清澄剤に五酸化アンチモンを単独で使用することが検討されている(特許文献13)。
米国特許4110247号公報 特公昭57−11848号公報 特開昭60−41536号公報 特開昭61−227918号公報 特公昭53−20479号公報 特開昭52−21298号公報 特開昭52−123997号公報 特開昭52−131998号公報 特開昭59−232921号公報 特開昭60−137828号公報 特開平2−180717号公報 特公平7−25549号公報 特開平11−49520号公報
特許文献1及び特許文献2に開示される、イオン交換法により製造された五酸化アンチモンゾル中の五酸化アンチモン粒子は球に近い形状を有していることから、分散性が良く、安定性も良好である特徴を有している。
しかし、このイオン交換法での製造は、原料としてアンチモン酸アルカリを使用することからアルカリ金属(例えばNaOやKO)が生成物の五酸化アンチモンゾルに残り、この低減が困難であることや、五酸化アンチモン(Sb)濃度が10重量%以上の五酸化アンチモンゾルを製造することが困難であり、更に、イオン交換樹脂の分離とその再生操作を行うため操作が煩雑であるという問題を残している。
また、特許文献5〜特許文献8に開示される、高温下の酸化法では直接に五酸化アンチモンとして30%程度の高濃度のゾルを得ることも可能であるが、反応の制御が困難で、製造時に突沸等が起こり易く、非常に危険で、安全性に欠け、更に、急激な反応のため反応効率も悪く、三価のSbの残存量も高くなるという問題がある。
また、特許文献9〜特許文献11に開示される、酸化法による五酸化アンチモンゾルの製造の際、反応性を制御する方法として、反応時に無機系アルカリ性物質を添加し、粒子径制御を兼ねて行う方法が提案されている。しかしこの無機系アルカリ物質の添加反応では生成する五酸化アンチモンゾルの黄色の色調が強くなる問題を有し、また無機アリカリ金属の含有により純度も低下する。
同様に反応性を制御する方法として、特許文献12に開示される、無機珪酸化合物の存在下で製造する方法も提案されているが、やはり組成中にシリカを含有するため、純度が低下する。
上記の従来の酸化法では、例えば反応をH/Sbモル比で化学量論比2.0を過剰に越えた3.0で行ったとしても三価のSbがSb/Sb重量%で5%以下にすることは容易でなく、この残存する三価のSbのため紫外線等による酸化還元が起こりやすくなり、五酸化アンチモンの耐光性が低下する(黄変等の変色を起こす)問題を有している。また、ガラスの清澄材として使用した場合、分解による酸素の発生量が低減し、性能が低下する。
ガラス用清澄剤として五酸化アンチモンを単独で用いる場合には、不純物となる三酸化アンチモンが少なく、五酸化アンチモンの割合が高いほど、清澄剤としての効果も高く、そのために酸化効率(酸化純度)の高い五酸化アンチモンが望まれる。
本発明の目的は、酸化効率(純度)の高い五酸化アンチモンの工業的な製造方法に関する。
本発明は、下記要旨を有することを特徴とするものである。
(1)三酸化アンチモン(Sb23)と過酸化水素水を水性媒体中で混合し、50〜80℃の温度に達した後、その温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇、且つ5℃以上の温度降下を生じない温度範囲に反応温度を維持するように冷却又は加熱して、三酸化アンチモンと過酸化水素水を反応させ、5重量%以下の三酸化アンチモン(Sb23)/五酸化アンチモン(Sb25)重量比を有し、且つ、2〜50nmの一次粒子径を有する五酸化アンチモン粒子が水性媒体中に分散したゾルを得ることを特徴とする、五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
(2)三酸化アンチモンと過酸化水素水を水性媒体中で混合することが、水に三酸化アンチモンと過酸化水素水とを混合する方法で行われる上記(1)に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
(3)三酸化アンチモンと過酸化水素水を水性媒体中で混合することが、三酸化アンチモンと過酸化水素水を混合する方法で行われる上記(1)に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
(4)三酸化アンチモンと過酸化水素水が混合された時、その混合物は、三酸化アンチモン濃度が1〜30重量%のスラリーである上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
(5)50〜80℃の温度に達した後、直ちにその温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持し、三酸化アンチモンと過酸化水素水を反応させ、その後冷却するものである上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
(6)50〜80℃の温度に達した後、直ちにその温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇、且つ5℃以上の温度降下を生じない範囲に反応温度を維持して、三酸化アンチモンと過酸化水素水を反応させ、その後冷却するものである上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
(7)反応温度が、設定温度より5℃以上の温度上昇を生じない温度範囲である上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法で製造した五酸化アンチモン水性ゾルの水性媒体を、有機溶媒に置換する五酸化アンチモン有機溶媒ゾルの製造方法。
(9)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法で製造した五酸化アンチモン水性ゾルを、媒質が蒸発する条件下で乾燥後に粉砕する五酸化アンチモン粉末の製造方法。

本発明は、三酸化アンチモンと過酸化水素とを水性媒体中で反応し五酸化アンチモン粒子を水性媒体に分散したゾルの製造方法である。
三酸化アンチモンは一次粒子が集合した平均粒子径100μm以下、特に1〜10μmの凝集体粒子として用いる。三酸化アンチモンと過酸化水素を水性媒体中で混合することは、水に三酸化アンチモンと過酸化水素水とを添加する第1方法と、三酸化アンチモンと過酸化水素水とを混合する第2方法がある。三酸化アンチモンが混合されたとき、1〜30重量%の三酸化アンチモンの濃度を有するスラリーとして反応に供される。
本発明の第1の実施態様では、水に三酸化アンチモンを分散したスラリーと比較的濃度の高い過酸化水素水とを混合する場合である。本発明の第2の実施態様では、予め希釈した過酸化水素水と三酸化アンチモンとを混合する方法であり、どちらの方法も本発明では可能である。
本発明の第1の実施態様では、スラリーに過酸化水素水を添加すると、三酸化アンチモン粒子は一次粒子に近い状態に分散する。この三酸化アンチモンの一次粒子はその表面から粒子内部に向かって三酸化アンチモンの酸化反応が進行し、五酸化アンチモンに変化する。また過酸化水素としては特殊なものである必要はなく、一般的に入手できる工業製品で良く、通常35%過酸化水素水が用いられる。
本発明の第2の実施態様では、35%過酸化水素水に予め水を添加し希釈した状態で、三酸化アンチモンと混合するものである。
本発明では、この酸化反応は、50〜80℃の反応温度に達した後、その反応温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持して行われる。好ましくは、5℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度が維持される。この酸化反応が行われる時に、設定温度より10℃以上の温度上昇が生じた場合は、急激な酸化反応とその酸化反応により生成する五酸化アンチモンの粒子成長や粒子同士の結びつきにより粒子径分布が不揃いになるばかりか、この酸化反応は三酸化アンチモン粒子の表面から内部に向かって進むものであるから、生成する五酸化アンチモンの急激な粒子成長や粒子の結びつきによる粒子では、粒子中心部まで酸化反応が達せず、未反応分が残存する。この未反応分は三酸化アンチモンと五酸化アンチモンの中間のアンチモン酸化物であり、例えばSb13{Sb・2Sb}等の酸化状態をとるものである。
また、この酸化反応が行われる時に、温度下降の方向に5℃以上の温度差が生じる場合には、反応温度内であれば緩やかに酸化反応が進行し、時間さえ許せば長時間反応により反応は進行する。しかし、その場合は粒子の表面からの酸化反応が緩やかであり、未反応分を残した状態になり、その粒子がその温度から再び温度上昇の方向に温度差を生じる加熱が生じた時には、未反応分を残した状態で粒子成長や粒子同士の結びつきが生じ、結果としてその場合にも内部に未反応分を残した状態の表面だけが五酸化アンチモン粒子が生じる。
本発明では、反応により生成する粒子全体に渡って五酸化アンチモンまで酸化され、酸化純度としてSb/Sb重量比で示される割合が5重量%以下となり、生成物の酸化純度が非常に高い五酸化アンチモン粒子を水性媒体に分散したゾルの製造方法である。
これら水性ゾルは有機塩基、カルボン酸を添加することにより分散安定性を向上させることができる。使用可能な有機塩基としてはトリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどのアルカノールアミン類、n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミンなどのアルキルアミン類、第4級アンモニウムハイドロオキサイド、グアニジンハイドロオキサイド等が挙げられる。この中で特にアルキルアミンが好ましい。また使用可能なカルボン酸としてはギ酸、酢酸などのモノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸等のジカルボン酸、また乳酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、グルコン酸、マンデル酸等のオキシカルボン酸が上げられる。この中で特にオキシカルボン酸が好ましい。
上記の水性五酸化アンチモンゾルは、常法の方法、例えば、蒸発法、限外濾過法等により濃縮することができる。さらにゾルの安定性を高めるためには、上記記載の有機塩基類及びカルボン酸類を用いてpHを5〜8に調整後、濃縮する事が好ましい。
更に上記の水性五酸化アンチモンゾルは、分散媒を水から親水性有機溶媒に置換することができる。親水性有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアミド等のアルキルアミド類、N−メチル−2−ピロリドン等の環状アミド類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等が挙げられる。
上記の水と親水性有機溶媒との置換は、通常の方法、例えば、減圧あるいは常圧の蒸留置換法、限外濾過膜による置換法等が挙げられる。
また、本発明の五酸化アンチモンの水性ゾルは、媒質が蒸発する条件下で乾燥する事により、簡単にコロイド領域の一次粒子径を有する五酸化アンチモンの粉末を製造することができる。
これらの五酸化アンチモンの水性ゾル、有機溶媒ゾル及び粉末は、非常に酸化純度が高いので、難燃性、イオン交換特性等に優れ、その特性を利用して、プラスチック、繊維などの難燃助剤、プラスチック、ガラスの表面処理剤用マイクロフィラー、無機イオン交換体、触媒成分、顔料成分等として使用できる。
また、特に酸化純度が高い為、粉末化したものはガラスの清澄剤として有用である。
本発明で使用される三酸化アンチモンの粉末は、平均粒子径が概ね100μm以下のものであれば使用できるが、分散性や過酸化水素との反応性から、特に1〜10μmであることが好ましい。三酸化アンチモンの含有率として、純度99重量%以上のものが好ましい。不純物として鉛、砒素、鉄等を含有することができるが、得られる五酸化アンチモン粒子の分散性や、安定性の上で、それら不純物の存在は支障ない。
本発明では、三酸化アンチモンの粉末を、水性媒体(特に純水)に分散し、スラリー状で過酸化水素水との反応を行う第1方法が主に用いられる。この反応液は、三酸化アンチモンを1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%の範囲で含有することができ、この濃度に対応して、生成物である五酸化アンチモンゾルもこの濃度範囲で得られる。この濃度が1重量%以下では希薄であり、反応槽の容積効率が低下し、経済的ではない。また、30重量%を超える濃度の場合は、酸化発熱反応のため、温度制御が十分に行えず、反応効率が低下し、また更に粒子間の二次凝集が増し、得られた五酸化アンチモン粒子の分散性が低下するので好ましくない。
本発明で使用される過酸化水素は、特殊なものである必要はなく、一般的に入手できる工業製品で良く、汎用である35%過酸化水素水を使用することができる。
本発明の反応時の三酸化アンチモンと過酸化水素水のモル比(H/Sb)は、2.0〜2.2であり、化学量論比の2.0で用いることが好ましい。この値が2.0未満では三酸化アンチモンが完全に五酸化アンチモンになるのに不十分な量であり、2.2を越えた場合は、Hが過剰になり過ぎ、経済的でなく、また残存する過剰の過酸化水素による発泡や、樹脂に混合した時に樹脂の劣化等の不具合が生じたり、この過剰な過酸化水素を除去するために触媒での分解や、活性炭での吸着などの処理工程が増えたりするため好ましくない。
本発明では、三酸化アンチモンと過酸化水素を水性媒体中で混合し、50〜80℃の温度に達した後、その温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持して三酸化アンチモンと過酸化水素とを反応するものである。
ここで、50〜80℃の温度に達した後、その温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持するとは、例えば設定温度を65℃にした時は75℃以下の温度で反応を行うことであり、また、設定温度を50℃にした時は60℃以下の温度で反応を行うことであり、そして、設定温度を80℃に設定した時は90℃以下の温度で反応を行う事を意味する。たとえ、50〜80℃の温度内で反応を行っても、予め設定し、反応を開始した温度より10℃以上の昇温が生じた場合には、生成物である五酸化アンチモンゾル中の五酸化アンチモン粒子のSb/Sbに基づく割合が5重量%以上となり高い酸化純度の五酸化アンチモンが得られない。
本発明において、室温より50〜80℃の温度域に達するまで昇温を行うが、その昇温速度は0.5〜5℃/minであり、所望の設定温度に達した後は、温度調節を行い、その設定温度より10℃以内の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持させる。昇温速度については、冷却設備とのバランスを考慮すれば、更に速くすることも可能であるが、過剰な冷却設備が必要となり、経済的でない。
本発明の製造方法で上記の設定温度とは、室温から昇温を行い、50〜80℃の温度域において、適時冷却への切換えにより所望の設定温度とし、この温度が反応開始温度となる。また、上記の設定温度で反応を開始後、反応を終了させる時点とは、設定温度を基準とする前記の温度範囲内に反応温度を調節して反応させた後、50℃〜室温付近の温度域に向かって温度を降下させ、再び温度上昇を起こさない様な温度降下を行う時であり、この温度降下させる時の温度が反応終了温度である。本願発明では、反応開始温度から反応終了温度の間で、上記の温度調節が行われる。
本発明の反応は温度が50℃に達しなくても製造可能であるが、反応時間が非常に長くなり経済的に好ましくない。また80℃を越えても理論上は可能であるが、実際は反応の制御が極めて困難となり、等温反応が行えず、酸化効率(純度)が低下し、生成物である五酸化アンチモンゾル中の五酸化アンチモン粒子のSb/Sbに基づく割合が5重量%以上となり好ましくない。
反応時の温度を50℃〜80℃で、昇温幅を10℃以内で行うことにより生成物である五酸化アンチモンゾル中の五酸化アンチモン粒子のSb/Sbに基づく割合が5重量%以下の酸化効率(純度)が高く、一次粒子径が2〜50nmの五酸化アンチモン粒子を含有するゾルが得られる。
上記の50〜80℃、好ましくは60〜70℃の温度に達した後、その温度範囲内の所望の設定温度より10℃以上、好ましくは5℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持して行われることが好ましい。
三酸化アンチモン粒子の表面より酸化反応が進行することから、酸化反応が進行している状態で10℃以上の反応温度の変化があった場合は、粒子中央部に未反応分を残したままの状態や、その状態からの粒子成長が発生することがある。従って、50〜80℃の反応温度に達した後、直ちにその反応温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持し三酸化アンチモンと過酸化水素との反応を完了させる方法が好ましい。
また、設定温度より温度の下降を生じる場合は、長時間の反応を行えば酸化反応は徐々に進行するが、再び急激な温度の上昇があると粒子内部に未酸化分を残したまま粒子成長が行われ、結果として酸化純度を低下させる原因になる。従って、50〜80℃の反応温度に達した後、直ちにその反応温度内の所望の設定温度より10℃以上好ましくは5℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持し、且つその設定温度より5℃以上の温度降下を生じない範囲に維持して三酸化アンチモンと過酸化水素との反応を完了させ、その後、昇温、熟成あるいは冷却する方法が良い。
上記方法で、反応終了後に昇温、熟成あるいは冷却する時は、50〜80℃の反応温度域を越えて昇温、あるいは50〜80℃の反応温度域を経由して冷却されるが、50〜80℃の反応温度域で昇温あるいは冷却のための5℃以上の温度差は、得られる五酸化アンチモンの酸化純度に影響しない。
三酸化アンチモンと過酸化水素水との反応を極めて制御された反応温度で行うことにより、反応速度及び粒子成長が制御され、効率良く酸化されたものと推定される。
通常の三酸化アンチモンと過酸化水素水とを高温下で反応させる方法では、例えば三酸化アンチモンと過酸化水素水のモル比(H/Sb)を3.0と過剰にして行ったとしても、生成物である五酸化アンチモンゾル中の五酸化アンチモン粒子のSb/Sbに基づく割合が5重量%以下にすることが困難である。
三酸化アンチモンと過酸化水素水の添加順序は特に限定されないが、速やかに三酸化アンチモンと過酸化水素水をモル比が2.0〜2.2の比率になるように添加することが好ましい。
三酸化アンチモンと過酸化水素水の反応は激しい酸化発熱反応であるためこの等温反応(温度調節された反応)を行うためには反応槽の冷却/加温による温度制御(調節)が不可欠となる。この温度制御には通常の反応槽のジャケットやコイルに冷媒/熱媒を流す方法や、反応液を外部熱交換器に循環させる方法等の単独あるいは併用が適用できる。
本発明で得た五酸化アンチモンゾルはpHが2〜4の酸性を呈するゾルである。また、この得られたゾルを乾燥し、粉末にする方法としては従来の方法、例えばスプレードライヤー、ドラムドライヤー等が挙げられる。
実施例1
攪拌機付き1L反応フラスコに純水489.5g、次いで三酸化アンチモン(広東三国社製、Sb含量は99.9重量%)126.3gを分散させた後、35%過酸化水素水(日本パーオキサイド社製)84.2gを添加し、加熱、反応させた。H/Sbモル比は2.0であった。反応時の液温は室温から50℃まで昇温し、50℃の上下1℃の範囲に反応温度を維持し、反応時間は8時間で行った。反応終了後、50℃で更に1時間の攪拌を保持し、690.9gの黄白色のゾルを得た。得られたゾルはpH2.50、電導度575μs/cm、一次粒子径15〜30nmであった。このゾルの一部を150℃で乾燥させたパウダーは全Sbが85.9重量%、Sbが2.9重量%であり、生成した五酸化アンチモン中の(Sb/Sb)は3.4重量%であった。
実施例2
攪拌機付き1L反応フラスコに純水489.5g、次いで三酸化アンチモン(広東三国社製、Sb含量は99.5重量%)126.3gを分散させた後、35%過酸化水素水(日本パーオキサイド社製)84.2gを添加し、加熱、反応させた。H/Sbモル比は2.0であった。反応時の液温は室温から70℃まで昇温し、70℃の上下3℃の範囲に反応温度を維持し、反応時間は3.5時間で行い、698.2gの乳白色のゾルを得た。得られたゾルはpH2.22、電導度2910μs/cm、一次粒子径15〜30nmであった。このゾルの一部を150℃で乾燥させたパウダーはSbが86.4重量%、Sbが3.8重量%、生成した五酸化アンチモン中の(Sb/Sb)は4.4重量%であった。
実施例3
攪拌機付き1L反応フラスコに純水489.5g、次いで三酸化アンチモン(広東三国社製、Sb含量は99.5重量%)126.3gを分散させた後、35%過酸化水素水(日本パーオキサイド社製)84.2gを添加し、加熱、反応させた。H/Sbモル比は2.0であった。反応時の液温は室温から80℃まで昇温し、80℃の上下5℃の範囲に反応温度を維持し、反応時間は2.5時間で行い、682gの乳白色のゾルを得た。得られたゾルはpH2.2、電導度2230μs/cm、一次粒子径15〜30nmであった。このゾルの一部を150℃で乾燥させたパウダーはSbが89.5重量%、Sbが3.9重量%、生成した五酸化アンチモン中の(Sb/Sb)は4.4重量%であった。
実施例4
2mGL(グラスライニング製)反応槽に純水1390kg、次いで三酸化アンチモン(蝶理社製、Sb含量は99.5重量%)400kgを分散させた後、35%過酸化水素水(日本パーオキサイド社製)293kgを添加し、加熱、反応させた。H/Sbモル比は2.2であった。反応時の液温は室温から65℃まで昇温し、65℃の上下3℃の範囲に反応温度を維持し、その後、70℃で1時間保持、熟成し、2082kgの黄白色のゾルを得た。得られたゾルの一次粒子径は15〜30nmであった。得られたゾルをスプレードライヤーを使用し、入口温度350℃、出口温度130℃の条件で、乾燥させ、440kgのパウダーを得た。得られたパウダーは、Sbが87.7重量%、Sbが2.9重量%、生成した五酸化アンチモン中の(Sb/Sb)は3.3重量%であった。
実施例5
攪拌機付き12mのGL(グラスライニング製)反応槽に水6000kg、次いで三酸化アンチモン(蝶理社製、Sb含量は99.5重量%)1500kgを分散させた後、35%過酸化水素水(日本パーオキサイド社製)1100kgを添加し、加熱し、反応させた。H/Sbモル比は2.2であった。反応時の液温は室温から55℃まで昇温し、55℃の上下2℃の範囲に反応温度を維持し、反応時間は9時間で行い、8550kgの微黄白色のゾルを得た。得られたゾルの一次粒子径は15〜30nmであった。得られたゾルの一部をスプレードライヤーを使用し、入口温度350℃、出口温度130℃の条件で、乾燥させ、約1000kgのパウダーを得た。得られたパウダーは、Sbが88.5重量%、Sbが3.7重量%、生成した五酸化アンチモン中の(Sb/全Sb)は4.2重量%であった。
比較例1
攪拌機付き12mGL(グラスライニング製)反応槽に水2040kg、次いで攪拌下、三酸化アンチモン(蝶理社製、Sb含量は99.3重量%)500kgを添加、分散させた後、35%過酸化水素水(日本パーオキサイド社製)330kgを添加し、加熱、反応させた。H/Sbモル比は2.0であった。反応時の液温は室温から70℃まで昇温し、加熱を停止した。その後、反応熱により、液温は沸点(100℃)まで上昇した。反応が激しい為、途中、水400kgを添加し、反応時間は約1.5時間で行った。反応終了後、90〜95℃で1.5時間、攪拌を保持し、熟成を行い、3060kgの乳白色のゾルを得た。得られたゾルの一次粒子径は15〜30nmであった。得られたゾルをスプレードライヤーで、入口温度350℃、出口温度130℃の条件で、乾燥させ、550kgのパウダーを得た。この五酸化アンチモンパウダーはSbが90.0重量%、Sbが8.5重量%、生成した五酸化アンチモン中の(Sb/Sb)は9.4重量%であった。
比較例2
攪拌機付き1L反応フラスコに純水489.5g、次いで三酸化アンチモン(広東三国社製、Sb含量は99.5重量%)126.3gを分散させた後、35%過酸化水素水(日本パーオキサイド社製)84.2gを添加し、加熱、反応させた。H/Sbモル比は2.0であった。反応時の液温は室温から70℃まで昇温し、その後70℃〜100℃で行った。反応時間は約1.5時間で反応終了後、95℃で1時間、攪拌を保持、熟成し、1906gの黄白色のゾルを得た。得られたゾルの一次粒子径は15〜30nmであった。得られたゾルの一部を150℃で乾燥させたパウダーはSbが90.0重量%、Sbが10.1重量%、生成した五酸化アンチモン中の(Sb/Sb)は11.2重量%であった。
本発明では簡単な製造工程により、酸化純度の高い五酸化アンチモン粒子を含有する五酸化アンチモンの水性ゾル、及び水性ゾルを溶媒置換して有機溶媒ゾル、及び水性ゾルを乾燥して粉末が得られる。
ここで得られる五酸化アンチモンの水性ゾル、有機溶媒ゾル、及び粉末は、非常に酸化純度が高いので、耐光性、耐水性、難燃性、イオン交換特性、耐変色性等に優れ、その特性を利用して、プラスチック、繊維などの難燃助剤、プラスチック、ガラスの表面処理剤用マイクロフィラー、無機イオン交換体、触媒成分、顔料成分等として使用できる。
また、特に酸化純度が高い為、パウダーとしてガラスの清澄剤に有用である。

なお、2004年9月21日に出願された日本特許出願2004−272791号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

Claims (9)

  1. 三酸化アンチモン(Sb23)と過酸化水素水を水性媒体中で混合し、50〜80℃の温度に達した後、その温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇、且つ5℃以上の温度降下を生じない温度範囲に反応温度を維持するように冷却又は加熱して、三酸化アンチモンと過酸化水素水を反応させ、5重量%以下の三酸化アンチモン(Sb23)/五酸化アンチモン(Sb25)重量比を有し、且つ、2〜50nmの一次粒子径を有する五酸化アンチモン粒子が水性媒体中に分散したゾルを得ることを特徴とする、五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
  2. 三酸化アンチモンと過酸化水素水を水性媒体中で混合することが、水に三酸化アンチモンと過酸化水素水とを混合する方法で行われる請求項1に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
  3. 三酸化アンチモンと過酸化水素水を水性媒体中で混合することが、三酸化アンチモンと過酸化水素水を混合する方法で行われる請求項1に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
  4. 三酸化アンチモンと過酸化水素水が混合された時、その混合物は、三酸化アンチモン濃度が1〜30重量%のスラリーである請求項1〜3のいずれか一項に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
  5. 50〜80℃の温度に達した後、直ちにその温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇を生じない温度範囲に反応温度を維持し、三酸化アンチモンと過酸化水素水を反応させ、その後冷却するものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
  6. 50〜80℃の温度に達した後、直ちにその温度内の所望の設定温度より10℃以上の温度上昇、且つ5℃以上の温度降下を生じない範囲に反応温度を維持して、三酸化アンチモンと過酸化水素水を反応させ、その後冷却するものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
  7. 反応温度が、設定温度より5℃以上の温度上昇を生じない温度範囲である請求項1〜6のいずれか一項に記載の五酸化アンチモン水性ゾルの製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法で製造した五酸化アンチモン水性ゾルの水性媒体を、有機溶媒に置換する五酸化アンチモン有機溶媒ゾルの製造方法。
  9. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法で製造した五酸化アンチモン水性ゾルを、媒質が蒸発する条件下で乾燥後に粉砕する五酸化アンチモン粉末の製造方法。
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