JP5031549B2 - 味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料の製造方法 - Google Patents
味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料の製造方法 Download PDFInfo
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Description
本発明において、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料は、カリウム化合物で強化した原料或いは、カリウム含量が高い材料及び/又はイノシトール又はイノシトール含量が高い材料で、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料或いは、材料に含まれるカリウム及び/又はイノシトールがなるべく多く残存するように製法を調整して製造された原料のような形で用いられる。カリウムを含む化合物としては、水酸化カリウム、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウムのように、水溶性で溶解したときにカリウムイオンを供給する中和剤、酸度調整剤、水質処理剤として用いることができる。またはカリウム、或いはイノシトールの含量の多さを指標として選択した、これらの物質の高含有天然物質、エキスを原料として用いることができる。また、米、麦、大豆、とうもろこし等の植物の種子(穀類)をエキス又は粉砕物に加工することによってイノシトール又はカリウム含量を更に高めた原料を用いても良い。
本発明の製造方法を適用する発酵アルコール飲料としては、ビール、発泡酒、その他の雑酒等、特に限定されないが、本発明の製造方法は、麦又は麦芽を使用しない「その他の醸造酒」のような発酵アルコール飲料の製造に適用して、特に顕著な効果を発揮することができ、味覚・風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することができる。本発明の発酵アルコール飲料の製造方法は、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた原料を、発酵原料の一部として添加する場合には、発酵原料の一部として添加する他は、上記のようなビール、発泡酒、その他の醸造酒等の公知の製造方法と基本的に変わるところはない。
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
本発明の製造方法を、麦及び麦芽を使用しないその他の醸造酒を製造する場合(特開2006−191910号公報)に適用して実施した試験例を示す。実施設備としては、2kLスケールの試験設備を使用した:大豆タンパク10kgを330リットルの湯中に投入し、市販のペプチダーゼによりタンパク分解を実施した。タンパク分解酵素は、プロテアーゼPアマノG(天野エンザイム社製)を用いた。得られたタンパク分解液に、市販のマルトース液糖(DE47、固形分75%)を200kg加えて密閉容器で加熱し、120℃になった時点から、60分保持してメイラード反応液を得た。次に、200kgのマルトース液糖を含む湯の中に前記メイラード反応物を加えて糖度を約13°Pに調整し、ホップを加えて1時間程度煮沸した後、硫酸マグネシウム720gを添加し、10℃程度に冷却した。実験室内で発酵前溶液を作成する場合は、前記の製造法を1.5Lのスケールに縮小して実施した。
供試菌株として下面発酵酵母を用いた。前培養培地として、YNB液体培地(5g/lグルコース、5g/lマルトース、6.7g/lYeast Nitrogen Base w/o Amino Acids (Difco))を用いた。液体培地調製後、フィルター滅菌した。500ml三角フラスコにシリコ栓をつけてオートクレイブ滅菌した(121℃、15分)。この三角フラスコにYNB液体培地を約250ml分注したものを必要に応じて4〜6本作成した。そこへ供試菌株の菌体を1白金耳接種し、20℃で4日間静置培養した。
300ml三角フラスコにシリコ栓をつけてオートクレイブ滅菌した(121℃、15分)。作製した発酵前溶液を三角フラスコに200ml分注した。さらに各三角フラスコへ、次項で述べる栄養素をそれぞれ添加した。前培養液を500ml遠沈管に採り、3000rpm、10分、4℃で遠心分離した。上澄みを捨て、ペレットを滅菌水に懸濁し、50ml遠沈管に移し、再度遠心分離した。このペレットへ適当量の滅菌水を添加し(約5〜10mlになるように)、十分に懸濁させ、100倍希釈してシスメックスCDA−500にて菌数を測定した。その後、200mlに添加した場合に5×106cells/mlとなるような懸濁液の量を計算し、各三角フラスコへ添加した。この三角フラスコを17℃で静置培養し、適宜サンプリングして(サンプリング時には沈殿した酵母が均一に懸濁されるまで撹拌した)、シスメックスによる酵母数、糖度などを測定した。
麦芽糖化液の作成方法は、BCOJ ビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会分析委員会編)「4.3.1 コングレス麦汁の調整」を参考にした。粉砕した大麦麦芽を58g量り取り、約46℃の液温の300mlの蒸留水が入ったビーカーへ添加した。このビーカーを糖化槽にセットし、撹拌しながら、45℃で30分保持した。その後糖化槽温度を1分に1℃ずつ25分間上昇させた。温度が70℃に達したら、70℃で60分保持した。その後、その麦芽懸濁液を冷やしてろ紙でろ過し、麦芽糖化液として後の実験に使用した。
発酵前溶液中の金属イオンについては、Ca、Mg、Na、KはICP発光分光分析装置で、Zn、Cu、Feは原子吸光光度計(フレームレス法)で分析した。
通常大豆タンパクを使用し、(1)の方法で発酵前溶液を作成した。また同様な方法でカリウム高含有大豆タンパクを使用し、発酵前溶液を作成した。これらの発酵前溶液を各三角フラスコへ分注し、イノシトールや酵母エキスを添加して溶解させた系を作成した。また麦芽糖化液(以下、麦汁と呼ぶ)を、発酵前溶液の総使用原料量に対して麦芽使用重量比率が5%、あるいは10%となるように発酵前溶液へ混合した系を作成した。実験系を下に示した。
通常大豆タンパク使用発酵前溶液+イノシトール 10mg/l
通常大豆タンパク使用発酵前溶液+酵母エキス 500mg/l
通常大豆タンパク使用発酵前溶液+酵母エキス 1g/l
通常大豆タンパク使用発酵前溶液 麦汁を5%混合
通常大豆タンパク使用発酵前溶液 麦汁を10%混合
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液(対照2)
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液+イノシトール 10mg/l
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液+酵母エキス 500mg/l
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液+酵母エキス 1g/l
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液 麦汁を5%混合
カリウム高含有大豆タンパク発酵前溶液 麦汁を10%混合
実施例1、(1)の方法を元に、200Lスケールの試験設備で発酵前溶液を作製した。酵母エキスを約500mg/lとなるように、大豆タンパクと同時に添加した。この作成方法で、通常大豆タンパク、あるいはカリウム高含有大豆タンパクを使用して発酵前溶液を作成した。
試験系
a.仕込No.1:通常大豆タンパク使用
b.仕込No.2:カリウム高含有大豆タンパク使用
供試酵母としてビール製造からの回収酵母を用いた。各タンクへ0.81%となるように添加した。
発酵前溶液の発酵開始温度を12℃とし、酵母添加後、2時間タンク内通気を90分のインターバルをおいて2回実施した。主発酵中は12℃一定とした。主発酵終了後に約10℃で7日間、約0℃で14日間貯蔵した。
主発酵中に経時的にサンプリングコックから発酵液をサンプリングし、結果で述べた分析に供した。
仕込に通常大豆タンパク、或いは、カリウム高含有大豆タンパクを使用して発酵前溶液を作成し、発酵試験を行った。結果を図2、図3に示す(図2:200L規模の仕込・発酵試験結果:主発酵経過における外観エキスの推移;図3:200L規模の仕込・発酵試験結果:主発酵経過における酵母濃度の推移)。通常大豆タンパクを用いた仕込No.1は、カリウム含量が多い仕込No.2に比べて対照は主発酵での糖の切れが悪く、主発酵終了を1日延期した。発酵液中の浮遊酵母濃度でも、仕込No.1は余り酵母濃度が増えなかったが、仕込No.2では、酵母濃度が大幅に増加し、旺盛に発酵したことが分かった。
貯蔵後に発酵液について有機酸の分析を行った。結果を、図4及び図5に示す(図4:200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果(有機酸含量);図5:200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果(低沸点揮発性成分含量))。仕込No.1よりも仕込No.2は、酢酸の含量が少なく、コハク酸が多い傾向が見られた。低沸点揮発性成分の分析では、仕込No.1よりも仕込No.2は、アセトアルデヒドが少なく、酢酸イソアミル、酢酸エチルが多い傾向が見られた。これにより、酵母増殖促進因子の添加により若干華やかなエステル香が付与され、アセトアルデヒドが減り、発酵不良感は解消されると期待された。
貯蔵後の発酵液を試飲者9名で試飲した。発酵液の試飲結果を、表5(200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果)に示す。結果、仕込No.1には発酵不良感、アルデヒド臭などの異臭が感じられた。また酸味が強い、後味が悪いという指摘があった。製品の総合的な香味を5段階で評価してもらったところ(1:不良、2:やや不良、3:許容可能、4:やや良好、5:良好)、平均で2.6となり、仕込No.2の3.6を下回った。仕込No.2は、分析値通りにエステル感や、フローラル感が指摘され、発酵不良感は指摘されなかった。また強すぎる酸味や後味などのネガティブな指摘は受けず、全体的な評価が上がったと考えられた。これにより、カリウム高含有大豆タンパクを使用することにより、酵母の増殖を促進させ、発酵不良感のない、香味の良好な製品を製造できる可能性が示された。
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
実施例1の「(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製」で述べた方法により発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製を行なった。
実施例1の「(2)供試菌株、前培養」で述べた方法により、供試菌株を用いて、前培養を行なった。
実施例1の「(3)小規模培養試験」で述べた方法により、小規模培養試験を行なった。
Yeast Nitrogen Base(以下、YNBとする)の各成分を1種類ずつ添加して酵母の増殖促進効果を確かめるために、塩類、ビタミン類、微量金属類について最終的に以下の濃度になるように添加した。基本的に添加物・量はYNB、あるいはWickerhamの合成培地の組成(Eds C. P. Kurtzman and J. W. Fell (1998) The yeasts, a taxonomic study, 4th edition, Amsterdam, Elsevier Science B.V.; Uzuka et al. J. Ferment. Technol. (1985) vol.63, 107-114)に従っているが、一部は改変した。
塩化カルシウムニ水和物 100mg/l
塩化ナトリウム 100mg/l
硫酸マグネシウム七水和物 500mg/l
リン酸ニ水素カリウム 1000mg/l
ビオチン 20μg/l
Ca−パントテン酸 2000μg/l
ピリドキシンHCl 400μg/l
チアミンHCl 400μg/l
イノシトール 10mg/l
ニコチン酸 400μg/l
葉酸 2μg/l
P−アミノ安息香酸 200μg/l
リボフラビン 200μg/l
ホウ酸 500μg/l
硫酸銅五水和物 40μg/l
塩化第二鉄 200μg/l
ヨウ化カリウム 100μg/l
硫酸マンガン五水和物 578μg/l
モリブデン酸二ナトリウム二水和物 200μg/l
硫酸亜鉛七水和物 400μg/l
発酵前溶液中のビタミンについては、チアミンはHPLCで、ピリドキシン、パントテン酸、ビオチン、イノシトールはバイオアッセイで分析した。金属イオンについては、Ca、Mg、Na、KはICP発光分光分析装置で、Zn、Cu、Feは原子吸光光度計(フレームレス法)で分析した。
発酵前溶液へ酵母用の合成培地であるYNBの成分を全て添加すると、発酵前溶液そのもの(対照:発酵前溶液中のカリウムイオン総量30mg/l、イノシトール総量20mg/l)に比べて、培養7日後の酵母増殖量が増加した(図6:発酵前溶液にYNB培地成分を添加したときの培養試験結果)。YNB培地の組成の中に増殖を促進する因子が含まれていると考えられた。
発酵前溶液へYNBの成分を塩類、微量金属類、ビタミン5種類、ビタミン4種類にグループ分けし、それぞれを添加したところ、発酵前溶液そのもの(対照)に比べて、培養7日後の酵母増殖量は余り増加しなかった(図7:発酵前溶液にYNB培地成分を分けて添加したときの培養試験結果)。YNB培地の組成を全て添加し時ほどの増殖量にならなかったため、各成分を組み合わせることによって増殖が促進されるのではないかと考えられた。
発酵前溶液に添加する成分の組み合わせを各種検討した結果、発酵前溶液にリン酸二水素カリウムとイノシトールを同時に添加すると大きく増殖が促進される事を見出した(図8:発酵前溶液にカリウム及びイノシトールを添加したときの培養試験結果)。リン酸二水素カリウム(以下、リン酸カリウムと略す)、あるいはイノシトールを別々に添加したときには、若干増殖が促進されたが、両者を同時に添加したときには及ばなかった。リン酸カリウムの増殖促進効果について、リン酸が増殖をするのか、カリウムが増殖を促進するのか調べるために、モル数を合わせてリン酸二水素ナトリウム(1150mg/l)、塩化ナトリウム(430mg/l)、塩化カリウム(550mg/l)を添加したところ、塩化カリウムで増殖が促進され(図8−a)、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウムにはほとんど増殖促進効果は無かった。むしろ若干増殖量が少なくなったため(図8−b)、カリウムに増殖促進効果があることが分かった。また塩化カリウムの単独添加でリン酸カリウムよりも増殖促進効果が得られるが、塩化カリウムとイノシトールと組み合わせることでより大きな増殖促進効果が得られることが分かった。
発酵前溶液のビタミン含量を分析したところ、通常のビール仕様の麦汁のビタミン含量に比べて非常に低い値を示した(図9:発酵前溶液、及びビール麦汁中のビタミン、金属イオン分析結果)。発酵前溶液では、酵母の増殖に必要とされるビオチン、パントテン酸の含量も非常に低く、検出限界以下であったが、今回試験した添加量、あるいは培養条件ではこれらのビタミンの添加効果は若干は見られたものの、あまりはっきりとはしなかった(図9−a)。発酵前溶液の金属イオン含量を分析したところ、通常のビール仕様の麦汁に比べてカリウム含量がかなり低いことが分かった(図9−b)。銅や鉄の含量も若干低いが、YNB培地の微量金属類として添加したときには余り増殖への効果は無かった。従って「その他の醸造酒」発酵前溶液における酵母の増殖促進因子としては、カリウム、及びビタミン(特にイノシトール)が挙げられた。
<(1)小規模培養試験法>
小規模発酵試験の方法については実施例3、(1)〜(4)の方法に従った。
「その他の醸造酒」の発酵前溶液へカリウム添加濃度の酵母増殖に及ぼす効果について試験した(図10:発酵前溶液へのカリウム添加濃度の酵母増殖に及ぼす効果)。発酵前溶液へ塩化カリウムを濃度を変化させて添加したところ、塩化カリウム添加量が100mg/lとした場合から増殖を促進する効果が見られ、200mg/lで増殖量が最大に増大し、1500mg/lの添加量まで阻害効果はほとんど示さず、これはカリウムイオンにして、約52mg/lから約787mg/lの添加濃度に相当する(図10−a)。また発酵前溶液にイノシトール(10mg/l)を添加した状態を基本として、リン酸カリウムを濃度を変化させて添加したところ、リン酸カリウム添加量が150mg/lで増殖促進効果が見られ、700mg/lで増殖量が最大となり、1500mg/lの添加濃度までほとんど阻害効果が見られなかった(図10−b)。これはカリウムイオンとして約43mg/lから約430mg/lの添加濃度に相当する。カリウムの添加効果としては、発酵前溶液中の終濃度(総量)として、80mg/l〜800mg/l、より好ましくは約80mg/l〜500mg/lあれば、酵母の増殖に対して効果があると考えられた。
「その他の醸造酒」の発酵前溶液へ塩化カリウムを添加した状態を基本とし、イノシトール濃度を変化させて添加する実験を2回に分けて行った(図11:発酵前溶液へのイノシトール添加濃度の酵母増殖に及ぼす効果)。イノシトール添加量が3mg/lとした場合から増殖を促進する効果が見られ、10mg/lで増殖量が最大に増大し、100mg/lの添加量まで阻害効果はほとんど示さなかった(図11−a、11−b)。イノシトールの添加量としては、発酵前溶液に終濃度(総量)として30〜130mg/l、より好ましくは40〜80mg/lと考えられた。
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製は、実施例3、(1)の方法に従った。作製後、20L容の発酵タンクへ分注した。
供試酵母としてビール製造からの回収酵母を用いた。回収酵母を冷水で1度洗浄し、各タンクへ0.65%となるように添加した。
発酵前溶液を分注した各タンクへ、酵母添加前に以下のように酵母増殖促進因子を添加した。これらの試薬は各タンク別に1つの容器に量り取り、200mlの蒸留水に溶解させて、酵母添加前の通気中に各タンクへ添加した。
b.リン酸二水素カリウム添加:700mg/l
c.塩化カリウム添加:400mg/l
d.リン酸二水素カリウム添加:700mg/l、イノシトール添加:10mg/l
e.塩化カリウム添加:400mg/l、イノシトール添加:10mg/l
添加温度を12℃とし、酵母添加1時間前から通気して空気飽和させた。遠心・計量後の酵母を仕込液の一部で懸濁し、各タンクへ添加した。添加後、通気を1時間止めて、その後4時間タンク内通気を実施した。主発酵中は12℃一定とした。
主発酵中に経時的にサンプリングコックから発酵液をサンプリングし、結果で述べた分析に供した。酒下し時の発酵液を1Lのボトルに採り、4℃の低温室で1週間置き、その後試飲した。
発酵前溶液に増殖促進効果があったカリウムやイノシトール等を添加して発酵試験を行った所、発酵前溶液にリン酸カリウムを添加した場合、若干酵母の増殖が促進され、対照よりも少しずつ浮遊酵母数が増加していた(図12:20L規模の発酵試験結果 発酵経過)。塩化カリウムを添加した場合には大きく酵母の増殖が促進され、浮遊酵母数は対照に比べて大幅に浮遊酵母数が増加していた。リン酸カリウムにイノシトールを添加すると、リン酸カリウムを添加しただけの系に比べると、浮遊酵母数が増加していた。塩化カリウムにイノシトールを添加すると、ピーク時に若干浮遊酵母数が多くなっていた(図12−a)。糖の消費速度は、各種増殖促進因子を添加した系が速くなり、特に塩化カリウム、あるいは塩化カリウムとイノシトールを添加した系で消費速度が速かった(図12−b)。
発酵7日間で発酵試験を終了し、その時点での発酵液について有機酸の分析を行った(図13:20L規模の発酵試験結果 発酵終了時の発酵液分析値)対照の発酵前溶液そのもので発酵させた系よりも、各種増殖促進因子を添加した系の方がピルビン酸、酢酸の含量が少なく、乳酸が多い傾向が見られた(図13−a)。有機酸含量の合計では、各種増殖促進因子を添加した系は対照よりも10〜20%減少しており、酸味の抑制に効果があると考えられた。低沸点揮発性成分の分析では、対照の発酵前溶液そのもので発酵させた系よりも、各種増殖促進因子を添加した系の方がアセトアルデヒドが少なく、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、イソブタノールが多い傾向が見られた(図13−b)。これにより、酵母増殖促進因子の添加により若干華やかなエステル香が付与され、アセトアルデヒドが減り、発酵不良感は解消されると期待された。
発酵試験の発酵液を4℃、1週間置き、その後試飲者4名で試飲した。発酵液の試飲結果を表8に示す。結果、対照には若干発酵不良感が感じられた。リン酸カリウムを添加した系では、リン酸の影響からボディー感の少なさが指摘された。これらの試験系で最も評価が高かったものは、塩化カリウムとイノシトールを添加した系で、エステルも良好で、コクがあると評価され、発酵不良感は指摘されなかった。このように、酵母増殖促進因子の添加により、「その他の醸造酒」の香味が改善されることが示唆された。但しリン酸カリウムの添加でも、今回は酵母の増殖量が最大になるように比較的多量に添加したため、添加量の調整により、香味的にあまり大きな影響を及ぼさずに酵母増殖促進効果を得ることが可能ではないかと考えられた。
<(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製>
実施例3、(1)の方法を元に、200Lスケールの試験設備で発酵前溶液を作製した。イノシトールを添加する際は、大豆タンパクと同時に添加した。リン酸二水素カリウム、或いは塩化カリウムはホップを加えた煮沸終了時に添加した。
供試酵母としてビール製造からの回収酵母を用いた。各タンクへ0.65%となるように添加した。
各仕込毎に、次のように酵母増殖促進因子を添加した。
b.仕込No.2:塩化カリウム添加:400mg/l
c.仕込No.3:塩化カリウム添加:400mg/l、イノシトール添加:10mg/l
d.仕込No.4:リン酸二水素カリウム添加:700mg/l、イノシトール添加:10mg/l
発酵前溶液の発酵開始温度を12℃とし、酵母添加後、2時間タンク内通気を90分のインターバルをおいて2回実施した。主発酵中は12℃一定とした。主発酵終了後に約10℃で7日間、約0℃で14日間貯蔵した。
主発酵中に経時的にサンプリングコックから発酵液をサンプリングし、結果で述べた分析に供した。
仕込中にカリウムやイノシトール等を添加して発酵前溶液を作成し、発酵試験を行った(図14:200L規模の仕込・発酵試験結果 主発酵経過)。カリウムやイノシトールを添加した系に比べて対照は主発酵での糖の切れが悪く、主発酵終了を1日延期した(図14−a)。発酵液中の浮遊酵母濃度でも、対照は余り酵母濃度が増えなかったが、カリウムやイノシトールを添加した系では、酵母濃度が大幅に増加し、旺盛に発酵したことが分かった(図14−b)。
貯蔵後に発酵液について有機酸の分析を行った(図15:200L規模の仕込・発酵試験結果 発酵液分析結果)。対照の発酵前溶液そのもので発酵させた系よりも、各種増殖促進因子を添加した系の方がピルビン酸、酢酸の含量が少なく、コハク酸、乳酸が多い傾向が見られた(図15−a)。低沸点揮発性成分の分析では、対照の発酵前溶液そのもので発酵させた系よりも、各種増殖促進因子を添加した系の方がアセトアルデヒドが少なく、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、イソブタノールが多い傾向が見られた(図15−b)。これにより、酵母増殖促進因子の添加により若干華やかなエステル香が付与され、アセトアルデヒドが減り、発酵不良感は解消されると期待された。
貯蔵後の発酵液を試飲者4名で試飲した。発酵液の試飲結果を、表9に示す。結果、対照には若干異臭が感じられた。リン酸カリウムを添加した系では、酸味が強いと指摘された。塩化カリウムとイノシトールを添加した系は試験系の中では評価が高めであり、エステル感が指摘され、発酵不良感は指摘されなかった。このように、酵母増殖促進因子の添加により、「その他の醸造酒」の香味が改善される可能性が示唆された。今回の試験において塩化カリウムやリン酸カリウムは、酵母の増殖量が最大になるように添加しているため、添加量の調整により、香味的にあまり大きな影響を及ぼさずに酵母増殖促進効果を得ることが可能ではないかと考えられた。
実施例6の「(1)発酵アルコール飲料の発酵前溶液の作製」で述べた方法により、200Lスケールの試験設備で発酵前溶液を作製した。この作成方法において、通常大豆タンパクを100%使用して発酵前溶液を作製した場合と、通常大豆タンパクA60%と精製度の低い大豆タンパクB40%を混合して発酵前溶液を作製した場合で比較した。
試験系:
a.仕込No.1:通常大豆タンパクA 100%使用
b.仕込No.2:通常大豆タンパクA 60%+精製度の低い大豆タンパクB40%混合
供試酵母としてビール製造からの回収酵母を用いた。各タンクへ0.75%となるように添加した。
実施例6の「(4)200Lタンクにおける発酵条件」で述べた方法により、200Lスケールの試験設備で発酵及び貯蔵を行った。
実施例6の「(5)各タンクからのサンプリング」で述べた方法により、発酵液をサンプリングし、結果で述べた分析に供した。
発酵前溶液の作製において、上で述べたように大豆タンパクの精製度を抑えた大豆タンパクを原料の一部に使用することにより、発酵前溶液中のカリウム含量が増加させられることが分かった。発酵前溶液、発酵終了時の発酵液の金属イオン濃度について、表10に示す。
貯蔵後の発酵液の試飲者10名で試飲した。発酵液の試飲結果を、表12に示す。その結果、仕込No.1には穀物様や脂肪酸様等の異臭が指摘された。仕込No.2にはこれらの異臭の指摘は無かった。また、仕込No.1では過剰な酸味が指摘された。仕込No.2ではバランスの良さが指摘され、仕込No.1のような過剰な味の指摘は無かった。このように、精製度の低い大豆タンパクを一部使用することにより、良好な香味の「その他醸造酒」が製造できることが示された。さらに大豆タンパクの精製度や、精製度の低い大豆タンパクの混合割合を調整することにより、さらに好ましい香味の「その他醸造酒」が製造可能であると考えられる。
Claims (5)
- 麦又は麦芽を使用しない、或いはビールに比較して麦芽含量の少ない原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、カリウム及び/又はイノシトール含量を高めた大豆タンパクを添加し、発酵前溶液中のカリウムイオン総量を、80〜500mg/l及び/又はイノシトール総量を、30〜130mg/lに調整することにより、発酵アルコール飲料の製造における発酵の促進と、発酵アルコール飲料の味覚・風味の調和を図ることを特徴とする、味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
- カリウム含量を高めた大豆タンパクが、大豆タンパク製造工程において、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部として用いて製造された大豆タンパクであることを特徴とする請求項1記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
- カリウム含量を高めた大豆タンパクが、大豆タンパク製造工程において、大豆タンパクの精製度を、タンパク質64重量%以上80重量%以下におさえることでカリウム含量を高めた大豆タンパクであることを特徴とする請求項1記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
- 原料の大豆タンパクに中和剤として、水酸化カリウムを中和剤の一部或いは全部とするものを使用することにより、発酵前溶液中のカリウムイオン濃度を上昇させ、該カリウムイオンとの相乗効果により酵母の増殖を促進する因子として、酵母エキス及び/又は麦芽糖化液を添加することを特徴とする請求項1記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
- 大豆タンパクの精製度をおさえることでカリウム含量を高めた大豆タンパクを原料とすることにより、発酵前溶液中のカリウムイオン濃度を上昇させ、該カリウムイオンとの相乗効果により酵母の増殖を促進する因子として、酵母エキス及び/又は麦芽糖化液を添加することを特徴とする請求項1記載の味覚・風味の優れた発酵アルコール飲料の製造方法。
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