JP5022545B2 - 位相差算出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、同一周期を有する少なくとも2つの信号波形間の位相差を求める位相差算出方法に関し、さらに詳しく言えば、例えば電力測定時における結線確認に必要とされる位相差の算出方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電力測定、特に三相交流の電力測定においては、結線を間違えると測定電力値そのものが不正確になる。誤結線の多くは、クランプセンサの逆向き接続、相順違い、電圧と異なる相の電流入力などによる。この種の誤結線の有無は、被測定信号間の位相差を見ることにより判定できる。
【0003】
そのため従来では、例えば各相の電圧波形をA/D変換して、その波形データをメモリに取り込み、その各々について極性が反転するポイントであるゼロクロスポイントを探し、そのゼロクロスポイントのずれから各相の位相差を求めるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来例の場合、演算量が少なくてよいため処理時間が短くて済むが、他方において、図4に示すように、例えば基準とする信号波形W1に対して、比較波形W2が高調波などの波形歪み成分を含み、1周期の間に少なくとも2箇所以上にゼロクロスポイントが存在するような場合には有効に機能しない。特に、電流波形は大きく歪んでいることがあり、位相差の誤差が大きくなりがちである。
【0005】
もっともFFT演算を使用すれば、この点は解決されるが、FFT演算には少なくとも演算対象として数波形分のデータが必要であり、その演算に時間を要する。また、FFT演算機能の搭載により、その分、コストアップとなるため、好ましい解決策とは言えない。
【0006】
したがって、本発明の課題は、FFT演算よりも簡単な演算により、同一周期を有する少なくとも2つの被測定信号波形間の位相差を求めることを可能とした位相差算出方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、同一周期を有する少なくとも2つの被測定信号波形間の位相差を演算により求める位相差算出方法において、上記被測定信号波形の各々をA/D変換器によりディジタル変換してA/D変換値を得る第1ステップと、上記一方の被測定信号波形のA/D変換値と上記他方の被測定信号波形のA/D変換値とを同一期間にわたって1周期分積和演算して第1積算値Pを求める第2ステップと、上記第2ステップでの上記一方の被測定信号波形のA/D変換値の1周期分と、その1周期分に対して±1/4±N周期(Nは整数)ずらした時点からの上記他方の被測定信号波形のA/D変換値1周期分とを積和演算して第2積算値Qを求める第3ステップと、上記第1積算値Pと上記第2積算値Qとから逆正接関数値arctan(Q/P)を求める第4ステップとを備え、上記第3ステップで上記第2積算値Qを求めるにあたって、上記一方の被測定信号波形のA/D変換値および上記他方の被測定信号波形のA/D変換値の同一期間にわたる各1周期分データをそれぞれ1/4周期単位で分割し、上記一方の被測定信号波形の前半の3/4周期分のデータと上記他方の被測定信号波形の後半の3/4周期分のデータとを積和演算して積算値Q1を得るとともに、上記一方の被測定信号波形の後半の1/4周期分のデータと上記他方の被測定信号波形の前半の1/4周期分のデータとを積和演算して積算値Q2を得た後、上記各積算値Q1,Q2を加算することを特徴としている。
【0008】
この構成によれば、被測定信号波形間のゼロクロス点から位相差を検出するものではないため、いずれか一方の被測定信号波形が歪んでいても、位相差を逆正接関数値であるarctan(Q/P)から求めることができる。また、FFTよりも演算速度が高速であり、コスト的にも安価にできる。また、上記のようにして第2積算値Qを求めることにより、各被測定信号波形のメモリへのデータ取り込み量を少なくすることができる。
【0009】
なお、両方の被測定信号波形がともに歪んでいて位相差の算出が困難な場合には、データテーブル上であらかじめ作成した正弦波形のディジタルデータを基準波形として用い、その基準波形と各被測定信号波形との間の位相差を上記第1積算値Pと上記第2積算値Qとから上記逆正接関数値arctan(Q/P)として求めたのち、各被測定信号波形同士の位相差を求めればよい。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。この実施形態は三相電力計についてのもので、図1にその構成を模式的に示す。
【0012】
この三相電力計1は、R相,S相およびT相に対応する3つの入力チャンネルCH1〜CH3を有し、各入力チャンネルCH1〜CH3ごとに電圧用のA/D変換器2aと電流用のA/D変換器2bとが設けられている。なお、電圧は例えばクリップ端子を介して入力され、電流は例えばクランプセンサを介して入力される。
【0013】
各A/D変換器2a,2bにて変換されたA/D変換値は、制御手段である例えばCPU3を介してメモリ4に書き込まれ、CPU3はそれらのA/D変換値により各相間の位相差を演算により求めて、表示部6に表示する。
【0014】
その第1実施形態を図2のフローチャートにしたがって説明する。まず、ステップSa1にて各入力チャンネルCH1〜CH3から入力される電圧(U)と電流(I)とがA/D変換され、ステップSa2でその各A/D変換値がメモリ4に書き込まれる。
【0015】
ここで、図示しない操作部より、例えばR相の電圧(U1)が一方の被測定信号波形に指定され、S相の電圧(U2)が他方の被測定信号波形に指定されたとすると、ステップSa3において、メモリ4から一方の被測定信号波形(U1)のA/D変換値と他方の被測定信号波形(U2)のA/D変換値とが同一期間にわたって1周期分読み出され、その先頭データ同士から積和演算される。
【0016】
例えば、一方の被測定信号波形(U1)が振幅Vおよび周波数ωの正弦波形Vsin(ωt)であり、他方の被測定信号波形(U2)が一方の被測定信号波形(U1)に対して位相差θのずれを有する周波数ωで振幅Aの正弦波形Asin(ωt+θ)であるとすると、CPU3は次式(1)の演算により第1積算値Pを得る。
【0017】
【数1】
【0018】
この第1積算値Pは、位相差θに関する単純な余弦関数である次式(2)に変形することができる。
P=VAcos(θ)/2・・・式(2)
【0019】
次に、CPU3はステップSa4にて、一方の被測定信号波形(U1)のA/D変換値の1周期分と、その1周期分に対して1/4周期ずらした時点からの他方の被測定信号波形(U2)のA/D変換値1周期分とを、それぞれ先頭データ同士から積和演算して第2積算値Qを求める。なお、この実施形態では、一方の被測定信号波形(U1)に対して他方の被測定信号波形(U2)を遅れ方向にずらしている。
【0020】
すなわち、一方の被測定信号波形(U1)の正弦波形Vsin(ωt)に対して、1/4周期だけ遅れ方向にずらした他方の被測定信号波形(U2)は正弦波形Asin(ωt+θ+π/2)で表されるから、第2積算値Qは次式(3)によって求められる。
【0021】
【数2】
【0022】
この第2積算値Qは、位相差θに関する単純な正弦関数である次式(4)に変形することができる。
Q=VAsin(θ)/2・・・式(4)
【0023】
次に、CPU3はステップSa5にて、第1積算値Pと第2積算値Qとから、正弦関数、余弦関数およびこれらの関数によって与えられる正接関数の関係を利用して、下記の式(5)で示される計算過程を経て、その逆関数である式(6)の逆正接関数arctanを求め、これによって一方の被測定信号波形(U1)に対する他方の被測定信号波形(U2)の位相差θを得る。
【0024】
Q/P=sin(θ)/cos(θ)=tan(θ)・・・式(5)
arctan(Q/P)=θ・・・式(6)
【0025】
なお、実施形態では、一方の被測定信号波形(U1)に対して他方の被測定信号波形(U2)を遅れ方向にずらしているが、進み方向にずらした場合には上記式(6)の値が−θとなる。また、相対的に1/4周期ずらすことを条件として、各被測定測定信号波形(U1),(U2)を数周期分ずらしてもよい。すなわち、ずらし量の一般式は、±1/4±N周期(Nは整数)で定義される。
【0026】
引き続いて、残りの電圧,電流についても上記各ステップSa2〜ステップSa5が実行され、それらの位相差が求められる。そして、ステップSa6にてすべての被測定信号波形間の位相差の算出が終了したと判断されると、CPU3は位相差算出処理を終了する。
【0027】
このようにして、本発明によれば、一方の被測定信号波形(U1)に対する他方の被測定信号波形(U2)の位相差θが、CPU3に対してさして負担とならない簡単な演算により求められるのであるが、外乱ノイズなどの影響により、2つの被測定信号波形がともに歪んでいる場合には、高調波成分の積和がゼロにならなくなり、第1積算値P,第2積算値Qに高調波データが残ってしまうため、求めたθに誤差が含まれることになる。
【0028】
このような場合を考慮して、本発明では、図1に示すようにA/D変換値記憶用のメモリ4とは別に基準波形データメモリ5を備えている。これが、次に説明する本発明の第2実施形態である。
【0029】
すなわち、基準波形データメモリ5には、基準波形用の正弦波形データが格納されている。この正弦波形データは、被測定信号波形波形と同一周期として、A/D変換器2a,2bと同じ分解能であらかじめテーブル上で作成されたデータである。
【0030】
この基準波形を(US)として、第2実施形態を図3のフローチャートにしたがって説明する。ステップSb1でのA/D変換およびステップSb2でのメモリ4へのA/D変換値の書き込みは、上記第1実施形態で説明したステップSa1,Sa2と同じである。
【0031】
この第2実施形態によると、ステップSb3で基準波形データメモリ5から1周期分の基準波形(US)を読み出し、まず、この基準波形(US)と例えば被測定信号波形(U1)の1周期分とを先頭データ同士から積和演算して、上記第1実施形態と同じく第1積算値Pを得る。
【0032】
次のステップSb4で、基準波形(US)の1周期分と、その1周期分に対して1/4周期ずらした時点からの被測定信号波形(U1)のA/D変換値1周期分とを、それぞれ先頭データ同士から積和演算して、上記第1実施形態と同じく第2積算値Qを求める。
【0033】
そして、次のステップSb5で、上記第1実施形態と同様にして、第1積算値Pと第2積算値Qとから、上記の式(5)を経て式(6)による演算を行って、基準波形(US)に対する被測定信号波形(U1)の位相差θを求める。
【0034】
残りのすべての被測定信号波形についても、ステップSb3〜Sb5を繰り返して基準波形(US)との位相差θを算出し、ステップSb6ですべての被測定信号波形についての位相差算出が終了したと判断されると、次段のステップSb7に移行して、任意の被測定信号波形の位相を0゜とし、その任意の被測定信号波形の位相を基準として、他の被測定信号波形についても位相を補正する。
【0035】
一例として、基準波形(US)に対するR相の電圧波形(U1)の位相差が+10゜であったとすると、そのR相の電圧波形(U1)の位相から10゜減算して位相を0゜とし、これに合わせて他の被測定信号波形の位相からもそれぞれ10゜減算する。
【0036】
このように、第2実施形態によれば、測定対象である例えば三相3線のすべての波形に歪みがある場合でも、あらかじめ作成した基準波形(US)の波形データを用いることにより、各相間の位相差をより正確に求めることができる。
【0037】
なお、上記各実施形態では、第2積算値Qを求めるにあたって、テーブル上で作成された基準波形を含む一方の信号波形に対し、比較対象としての他方の信号波形については、その一方の信号波形から1/4周期ずれた時点からの1周期分のデータを採用しているが、双方ともに同一期間のデータでも、次のようにして第2積算値Qを求めることができる。
【0038】
まず、仮想的に一方の被測定信号波形のA/D変換値および他方の被測定信号波形のA/D変換値の同一期間にわたる各1周期分データをそれぞれ1/4周期単位で分割する。
【0039】
そして、一方の被測定信号波形の前半の0〜3/4周期分のデータと、他方の被測定信号波形の後半の3/4周期分のデータ(1/4〜4/4周期)とを、それらの各先頭データ同士から積和演算して積算値Q1を得る。
【0040】
また、一方の被測定信号波形の後半の1/4周期分のデータ(3/4〜4/4周期)と、他方の被測定信号波形の前半の1/4周期分のデータ(0〜1/4周期)とを、それらの各先頭データ同士から積和演算して積算値Q2を得た後、各積算値Q1,Q2を加算する。
【0041】
このようにしても、上記第2積算値Qを求めることができ、これによれば、各被測定信号波形のメモリへのデータ取り込み量が1周期分でよく、メモリへのデータ取り込み量を少なくすることができるという利点がある。
【0042】
なお、上記各実施形態では、被測定対象を三相3線としているが、三相4線、単相2線もしくは単相3線などであってもよい。また、本発明は特に電力計に好適であるが、同一周期を有する信号波形間についても広く適用可能である。
【0043】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、同一周期を有する少なくとも2つの被測定信号波形間の位相差を演算により求めるにあたって、その一方の被測定信号波形のA/D変換値と他方の被測定信号波形のA/D変換値とを同一期間にわたって1周期分積和演算して第1積算値Pを求めるとともに、一方の被測定信号波形のA/D変換値の1周期分と、その1周期分に対して±1/4±N周期(Nは整数)ずらした時点からの他方の被測定信号波形のA/D変換値1周期分とを積和演算して第2積算値Qを求めた後、第1積算値Pと第2積算値Qとから逆正接関数値arctan(Q/P)を求めるようにしたことにより、一方の被測定信号波形が歪んでいるような場合でも、FFTによることなく高速に被測定信号波形間の位相差を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された実施形態としての電力計の構成を示す模式図。
【図2】本発明の第1実施形態での位相差算出方法のフローチャート。
【図3】本発明の第2実施形態での位相差算出方法のフローチャート。
【図4】ゼロクロス法では算出困難な2つの被測定信号波形を例示した波形図。
【符号の説明】
1 電力計
2a,2b A/D変換器
3 CPU
4 メモリ
5 基準波形データメモリ
6 表示部
Claims (2)
- 同一周期を有する少なくとも2つの被測定信号波形間の位相差を演算により求める位相差算出方法において、
上記被測定信号波形の各々をA/D変換器によりディジタル変換してA/D変換値を得る第1ステップと、
上記一方の被測定信号波形のA/D変換値と上記他方の被測定信号波形のA/D変換値とを同一期間にわたって1周期分積和演算して第1積算値Pを求める第2ステップと、
上記第2ステップでの上記一方の被測定信号波形のA/D変換値の1周期分と、その1周期分に対して±1/4±N周期(Nは整数)ずらした時点からの上記他方の被測定信号波形のA/D変換値1周期分とを積和演算して第2積算値Qを求める第3ステップと、
上記第1積算値Pと上記第2積算値Qとから逆正接関数値arctan(Q/P)を求める第4ステップとを備え、
上記第3ステップで上記第2積算値Qを求めるにあたって、上記一方の被測定信号波形のA/D変換値および上記他方の被測定信号波形のA/D変換値の同一期間にわたる各1周期分データをそれぞれ1/4周期単位で分割し、上記一方の被測定信号波形の前半の3/4周期分のデータと上記他方の被測定信号波形の後半の3/4周期分のデータとを積和演算して積算値Q1を得るとともに、上記一方の被測定信号波形の後半の1/4周期分のデータと上記他方の被測定信号波形の前半の1/4周期分のデータとを積和演算して積算値Q2を得た後、上記各積算値Q1,Q2を加算することを特徴とする位相差算出方法。 - データテーブル上であらかじめ作成した正弦波形のディジタルデータを基準波形として用い、上記基準波形と上記各被測定信号波形との間の位相差を上記第1積算値Pと上記第2積算値Qとから上記逆正接関数値arctan(Q/P)として求めたのち、上記各被測定信号波形同士の位相差を求めることを特徴とする請求項1に記載の位相差算出方法。
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