JP5016172B2 - 高疲労強度・高剛性鋼およびその製造方法 - Google Patents

高疲労強度・高剛性鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高い剛性と共に高い強度、特に疲労強度が要求される機械構造用部材等に用いられる高疲労強度・高剛性鋼とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼材料は、建築物、輸送用機器、各種機械等の構造物を維持するために用いられる機械構造部材として最も多く使用されている。これら構造物を設計する際に求められる重要な特性として、剛性と強度、特に疲労強度があげられる。剛性や強度、特に疲労強度の高い材料を使用することによって、構造物の耐用強度が向上し、信頼性の高い構造物を得ることができる。また、剛性や疲労強度の高い材料を構造物に用いることは、それだけ使用する材料も少なくすることができるので、例えば、自動車、鉄道等の輸送車両に適用すると、輸送車両の軽量化を達成することができ、その結果、燃費向上による省エネルギー化、材料の節約による省資源化を図ることができる。
【0003】
上記のような機械構造部材に用いられる鉄鋼材料は、各種合金成分の添加や鉄鋼材料の組織改善等によって特性改善が試みられてきた。これらの方法によって、鉄鋼材料の強度は、大幅に改善されたが、剛性の向上については必ずしも十分とは言えない。剛性は材料が本来有している物性であるため、上記のような方法では、剛性の向上すなわちヤング率の向上は容易でない。しかし、ヤング率の向上は、輸送車両の軽量化を始めとして、構造物等の設計に際し大きなメリットが得られるので、鉄鋼材料のヤング率を一般的な約200GPaレベルから10%程度以上高めることが望まれてきた。
【0004】
こうした需要に沿うべく、鉄鋼材料の剛性向上に関して種々の研究がなされ、多くの提案がなされている。例えば、粉末冶金法による鉄鋼材料の剛性の向上手段が数多く提案されており、これらの方法は、鋼のマトリックス中へ高剛性を有する化合物を多量に添加するものである。例えば、特開平7−188874号公報や特開平7−252609号公報では、マトリックス粉末と高剛性を有する4a族、5a族の元素を主体とするホウ化物の粉末との混合粉を使用し、これを成形し焼結させることにより、高剛性の化合物を分散させた鋼が得られることを開示している。
【0005】
さらに、メカニカルアロイング法を採用すれば、多量の高剛性化合物をマトリックス中に均一に分散させた鋼が得られることも報告されている(特開平7−188874号公報、特開平7−252609号公報および特開平5−239504公報等参照)。しかし、これらの技術は、粉末冶金法を適用するものであって、その工程の複雑さからコストが高くなるという問題があった。
【0006】
一方、前記粉末冶金法よりも安価な製造方法である溶製法によって高剛性鋼を製造する方法も提案されている。例えば、特開平4−325641号公報には、高剛性の化合物粉末を熱間ダイス鋼や高速度工具鋼の溶湯に分散させて鋳造する方法を開示している。また、金型や工具の耐摩耗性を改善するために、VCやNbCを14vol%まで分散させた鋼も報告されている(PA.BLACKMOREら:”So1idification and casting of meta1s”The Meta1s Society,London,1977年;P533.P538)。
【0007】
特開平10−68040号公報には、高剛性を有する化合物(4a、5a族の炭化物、ホウ化物、またはその複合化物)を溶湯中での反応により生成・分散させる方法が提示されている。この方法によると、安価な溶製法により高剛性および高靭性を有する鋼材の製造が可能になる。
【0008】
以上の様な溶製法による高剛性化技術で、高剛性鋼を得る方法はある程度明確になった。しかし、ほとんどの機械部品は剛性だけでなく強度、特に疲労強度との両立が不可欠であるため、それらの小型軽量化には不十分であることが多い。殊に、上記の開示技術では、強度、特に疲労強度を向上させるための手法が明らかにされておらず、要求特性を満足させることが出来ない。
【0009】
剛性と強度の両立を図ることを目的として、Vを多量に添加した鋼にVCとして化合物を形成する以上の炭素量を添加し、炭素を固溶させて焼入れる方法が報告されている(特開2001−73068号公報、CAMP−ISIJ,Vol.13(2000)p.541−542.)。しかし、本方法においては、焼入れることで剛性が低下するので、達成可能な剛性には自ずと限界があり、また、硬さにおいても、得られている最高の硬さはHV約340程度に止まる。さらに、Cをあらかじめ多量に添加するので、粗大な初晶炭化物が生成し、加工性や延靭性に問題が生じる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこうした状況に着目してなされたものであって、その目的は、比較的安価な溶製法により、鋼の加工性や延靱性を阻害することなく、剛性の大幅な向上と共に、強度、特に疲労強度とを兼ね備えた高疲労強度・高剛性鋼とその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の高疲労強度・高剛性鋼は、鉄または鉄合金からなるマトリックス中に、ヤング率が300GPa以上の化合物が溶製段階で5〜50vol%分散されてなる高剛性鋼において、表面から100μm深さ位置のビッカース硬さが600以上であり、表面から1mm以上の深さ位置のビッカース硬さが450未満であるところに要旨を有する。
【0012】
このように、高ヤング率を有する化合物および上記特性を有する鋼は、高い剛性を有すると共に疲労強度にも優れている。
【0013】
前記化合物としては、4aおよび5a族元素から選択される少なくとも1種の元素の炭化物、窒化物、ホウ化物およびそれらの複合化物の1種以上であることが好ましい。特に、剛性の向上を図るには、前記化合物がTiB2であることが好ましく、この場合、該高疲労強度・高剛性鋼中に含有されるTiとBの比(Ti/B)は質量比で2.1以上、5以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る高疲労強度・高剛性鋼においては、その表面から100μmの深さ位置における、下記式によって求められるSC値およびSN値の少なくとも一方が0.4%以上であると共に、表面から1mm以上の深さ位置における同SC値およびSN値がいずれも0.4%未満であることが好ましい。ここでSC値およびSN値は以下の式で計算され、該鋼中で他の成分と結合せずに存在する炭素および窒素の量を示す。
【0015】
SC=全C−(0.25・Ti−0.53・B+0.24・V+0.13・Zr+0.13・Nb+0.065・W)
SN=全N−(0.29・Ti−0.61・B+0.28・V+0.15・Zr+0.15・Nb+0.076・W)
なお、全C量と全N量は表面から100μm或いは1mm以上の深さ位置での実測値を示すが、その他の元素量はマトリックス中での平均値を表わす。
【0016】
さらに、該高疲労強度・高剛性鋼中に含まれるCr量を23%以下に制限することは該鋼の熱処理特性を高める上で好ましい実施態様として推奨される。
【0017】
また、本発明に係る製法は、上記特性を備えた高疲労強度・高剛性鋼を製造する方法として位置付けられるもので、その構成は、鉄または鉄合金からなるマトリックス中にヤング率が300GPa以上の化合物を溶製段階で5〜50vol%分散させた鋼材に、浸炭焼入れ、窒化焼入れ、浸炭窒化焼入れのいずれかの熱処理を施すところに要旨を有している。この方法を実施するに当たっては、熱処理に付される鋼材としてC含有量が質量%で0.1%を超え、[0.25(Ti−2.18B)+0.18]%未満の鋼材を使用することが推奨される。
【0018】
【発明の実施形態】
本発明者等は、剛性および強度、特に疲労強度に優れた高疲労強度・高剛性鋼を提供するべく、様々な角度から検討した。その結果、高ヤング率を有する化合物を分散した高剛性鋼に浸炭、窒化または浸炭窒化などの熱処理を施し、熱処理前の内部硬度を保ったまま表面硬度のみを向上させることで、剛性、靭性および延性を阻害することなく、全体としての強度、特に疲労強度を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
本発明の高疲労強度・高剛性鋼は、鉄または鉄合金からなるマトリックス中にヤング率が300GPa以上の化合物を5〜50vol%分散させて溶製されたものである。このようにして得られた鋼(鉄または鉄合金:以下、特に断らない限り「鋼」を用いる)は、鋼自体の剛性が高く、そのヤング率は220〜350GPaである。しかし、鋼マトリックス中の前記化合物の分散量が5vol%未満では、ヤング率が220GPa以上の高剛性鋼を得ることができない。ヤング率が220GPa以上の高剛性鋼を得るためには、5vol%以上の前記化合物を鋼マトリックス中に分散させることが必要である。さらにヤング率を高めるためには15vol%以上、より一層ヤング率を高めるには20vol%以上の前記化合物を鋼マトリックス中に分散させることが望ましい。一方、前記化合物の鋼マトリックス中の分散量が50vol%を超えると、溶製後の鋼中に前記化合物の凝集体等が生成して、靭性が低下し、構造部材としての使用が困難となる。また、靭性と機械加工性の観点から、前記化合物量は40vol%以下にすることが好ましい。
【0020】
本発明に係る高剛性鋼は、その表面から100μm深さ位置でのビッカース硬さが600以上であると共に、表面から1mm以上の深さ位置でのビッカース硬さが450未満でなければならない。
【0021】
高剛性鋼の表面から100μm深さ位置でのビッカース硬さが600未満では、充分な表面硬度が得られず、高剛性鋼に強度、特に疲労強度を付加することが不可能となる。好ましいビッカース硬さは650以上、さらに好ましくは700以上である。
【0022】
また、表面から1mm以上の深さ位置でのビッカース硬さが450以上になると、高剛性鋼の内部まで硬度が高まってしまい、硬さの割に疲労強度が向上せず、また靭性や加工性が劣化する。好ましいビッカース硬さの上限は430未満であり、さらに好ましくは410未満である。このような性質を有する高剛性鋼を得るには、溶製後に、後述する熱処理を施せばよい。
【0023】
尚、本発明に係る鋼表面および内部組織は、後述するC量、N量だけでなく、焼入れ時に生成するマルテンサイト量など複雑な組織状態が関係するものである。特に、表面層に関する組織は観察・定量化が難しく評価が困難であるため、本発明においては、該鋼の表面から100μmおよび1mm以上の深さ位置におけるビッカース硬さによって表面組織および内部組織の評価を行った。
【0024】
本発明に用いる鉄合金には、通常の構造部材として用いられる炭素鋼、低合金鋼を用いることができる。例えば、機械構造用炭素鋼(例えば、S−C材など)、ニッケルクロム鋼(例えば、SNC材など)、ニッケルモリブデン鋼(例えば、SNCM材など)、クロム鋼(例えば、SCr材など)、クロムモリブデン鋼(例えば、SCM材など)、マンガン鋼(例えば、SMn材など)、マンガンクロム鋼(例えば、SMnC材など)、バネ鋼(例えば、SUP材など)、高炭素クロム鋼(例えば、SUJ材など)などが挙げられる。本発明の高剛性高靭性鋼のマトリックス成分として、これらの炭素鋼や、低合金鋼を用いることで、これら鉄合金が持つ特性に、高い剛性を付加することができる。
【0025】
また、本発明に係る高疲労強度・高剛性鋼を製造するに際して、その溶製法としては、真空溶解法、プラズマ溶解法、コールドクルーシブル溶解法、マーク溶解法等が挙げられる。
【0026】
本発明に係る高剛性鋼中に含まれるヤング率300GPa以上の化合物は、4a、5a族元素の炭化物、窒化物、ホウ化物またはその複合化物であることが好ましい。このような化合物には、高いヤング率を有するものが多く(表1参照)、これらの中でも特に高いヤング率を有するVC、TiC、TiB2、NbB2等、またはそれらの複合化物を用いることによりさらに高い靭性、剛性を有する高剛性鋼を得ることができる。
【0027】
【表1】
Figure 0005016172
【0028】
本発明に係る高疲労強度・高剛性鋼が高疲労強度と高剛性の両立をし得たのは、前述した高いヤング率を有する化合物を該高剛性鋼中に分散することに加えて、該高剛性鋼の表面硬度のみを向上させたことによる。
【0029】
この表面の硬度のみの向上は、本発明に係る高疲労強度・高剛性鋼を製造するにあたり、上述した高ヤング率の化合物を鋼中に5〜50vol%分散させた鋼材に、浸炭焼入れ、窒化焼入れ、浸炭窒化焼入れのいずれかの熱処理を施すことで、表層部に固溶炭素や固溶窒素を生成させることによって成し得たのである。
【0030】
溶製後の鋼に上記熱処理を施すことで、表層部に熱処理由来の固溶(C+N)を生成させることができる。これらの固溶(C+N)の存在によって、焼入れ後、鋼の表層にマルテンサイト組織が生成し、強度、特に疲労強度が向上する。また、溶製時に多量のCを添加する必要がなくなるので、大型初晶の生成が抑制され、加工性の低下も抑えられる。さらに、被削性や靱性も比較的良好である。また、炭化物(窒化物)生成元素が合金成分として添加されている場合には、浸炭あるいは窒化等の熱処理により表層に炭化物や窒化物が生成し、さらに剛性が向上する。特に浸炭は窒化やホウ化処理と比較すると深く入るので、強度向上に効果的である。
【0031】
しかし、上述の熱処理によって焼きが入るのは表層のみで、内部の組織は焼入れ前の特性を保持しており、マルテンサイト相生成による鋼全体の剛性の低下は少ないため、剛性と共に疲労強度にも優れた高疲労強度・高剛性鋼を得ることができる。
【0032】
上記熱処理によって鋼の強度向上効果を得るには、鋼の表層より100μm深さにおける固溶C、あるいは固溶N量の少なくとも一方が0.4%以上でなければならない。なお、固溶C(SC)および固溶N(SN)量は以下の式で与えられる。
SC=全C−(0.25・Ti−0.53・B+0.24・V+0.13・Zr+0.13・Nb+0.065・W)
SN=全N−(0.29・Ti−0.61・B+0.28・V+0.15・Zr+0.15・Nb+0.076・W)
【0033】
式中のTi、V、Zr、Nb、Wは強力な炭窒化物生成元素であるため、全C量および全N量から、これらの元素と化合するC、N量を差し引く必要が有る。また、鋼中のBは、Tiと結合して、TiB2となり、C、Nと化合するTi量を減少させるので、上記式ではB含有量を付加している。なお、全C量と全N量の値は熱処理後の表層から100μmでの実測値を示すが、その他の元素量はマトリックス中の平均値を表わしている。
【0034】
また、表面から1mm以上の深さ位置でのSC値、SN値はいずれも0.4%未満でなければならない。上記SC値およびSN値が0.4を超えると、鋼の内部まで硬度が高まり、硬さの割に疲労強度が向上せず、また靭性や、加工性が低下するからである。なお、このときの全Cおよび全Nの値は熱処理後の表層から1mmでの実測値を示す。
【0035】
前述した、浸炭焼入れ、窒化焼入れおよび浸炭窒化焼入れによる効果は、高ヤング率を有する化合物がTiB2である場合に特に効果的である。即ち、TiB2の剛性は特に高く、得られる鋼の剛性を向上させるのに最も効果的である(TiB2:529GPa、TiC:451GPa、VC:421GPa)。しかし、この場合、マトリックス中にCを多量に添加すると、CはTiと結合して、TiCを生成する。その結果、Bが余剰成分として残り、この余剰Bは鉄ホウ化物(Fe2B)を生成する。このFeB2とFeの共晶温度は熱間加工される温度域に存在するため、熱間加工性を極端に低下させる。そのため、従来の知見では、高剛性が得られるTiB2系での剛性と強度の両立は難しいと考えられていた。
【0036】
しかし、本発明者等は、前記高剛性鋼中に含まれるTiとBの比(Ti/B)が質量比で2.1以上、5以下であり、TiB2系でも目的とする強度と剛性を兼ね備えた鋼が得られることを見出した。
【0037】
Ti/Bの値が2.1未満であると、鋼中にTiB2として結合しない余剰Bが生じる。上述したように、余剰Bは鋼マトリックス中のFeと結合してFeB2を生成し、得られる鋼の熱間加工性を極端に低下させる。また、Ti/Bの値が5を超すと、マトリックス中に多量のTiが存在することとなり、このようにTiが多量に固溶されている場合、上述したようにTiCを形成するため、浸炭や窒化が抑制される。ゆえに、前記高剛性鋼中に含まれるTiとBの比(Ti/B)は質量比で2.1以上、5以下であることが好ましい。
【0038】
また、該高疲労強度・高剛性鋼に含まれるCr量を20%以下に抑えることも有効となる。即ち、Crはマトリックスに固溶して剛性を向上させる働きがあるため、必要な成分であるが、反面、Crはフェライトフォーマーであり、その含有量が20%を超えると低合金鋼や炭素鋼ではオーステナイト温度域でもほとんどがフェライト相になるため、焼入れ焼戻し処理によるマルテンサイト組織の現出が著しく害される。さらにマトリックス中のCr含有量が増加すると、溶製後、鋼の表層に緻密なCrの酸化物層が生成し、浸炭、浸窒処理が困難になる。より好ましいCrの添加量の上限は13%であり、好ましいCr添加量の下限は0.5%である。
【0039】
上述した成分組成に加えて、マトリックス中のC含有量は質量%で0.1%を超え、[0.25(Ti−2.18B)+0.18]%未満であることが好ましい。C含有量が0.1%以下では、浸炭、窒化などで表面硬度の向上に必要な表層のC(またはN)濃度を得るための表面処理に長時間を要する。一方、C含有量が[0.25(Ti−2.18B)+0.18]%以上となると、鋼中に過剰なCが存在することになり、過剰なCはTiCを生成する。その結果、余剰のBを生じ、上述したようにFeB2が生成する。よって、FeB2の生成を抑えて、熱間加工性を確保するためには、溶製後・熱処理前のC含有量を[0.25(Ti−2.18B)+0.18]%未満に抑えることが望ましい。
【0040】
上記の元素以外に、焼入れ性向上を目的として、Cu:3.0%以下、Mn:2.0%以下、Mo:2.0%以下、W:2.0%以下、Ni:3.0%以下、Si:3.0%以下を添加しても良い。しかし、これらの選択元素を、上述した量以上添加しても効果は飽和し、コストアップするだけであるので無駄である。
【0041】
【実施例】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。なお、「%」は特に断らない限り質量基準であり、各物性値は以下の方法で測定した。
【0042】
[ヤング率]
サンプルから引張試験片を加工し、JIS Z 2280に基づいてヤング率の測定を行った。
【0043】
[疲労強度]
サンプルから直径8mmの丸棒に加工し、平滑回転曲げ疲労試験によって、N=107回の疲労強度を評価した。700MPa以上を合格とする。
【0044】
[ビッカース硬さ]
JIS Z 2244に基づいて、試験片の100μm深さ位置および1mm深さ位置でのビッカース硬さを測定した。
【0045】
製造例
(1)真空溶解
製造例1 サンプルA、B、H〜Q
ヤング率300GPa以上の化合物としてTiB2を使用し、真空溶解法を採用したサンプルAの製法について説明する。
【0046】
マトリックス成分として、クロム鋼(Cr:15.0質量%、C:0.2質量%、N:0.01質量%)を使用し、これを真空誘導炉に導入し、特開平10−68048号に記載されている様に、化合物が完全に溶解する温度(2273℃)で溶解しておき、表2に示す組成となるように、C、B等を適宜添加した。次に、溶解したサンプルを鋳型または水冷鋳型に注湯して、20kgの鋼塊を製造した。冷却は、真空中(真空度:0.13〜1.3Pa)で行い、冷却・凝固の過程でTiとBを反応させることによりTiB2を生成、晶出させ、TiB2が分散した鋼を得た。このときの冷却速度は、鋳型の場合は約10K/分程度、水冷鋳型の場合は40K/分程度とした。その後、熱間鍛造により直径20mmの丸棒に加工した後、各々の試験片に機械加工した。
【0047】
高ヤング率を有する化合物としてTiB2を使用したサンプルB、H〜Qも上述した方法と同様にして作成した。尚、サンプルI、J、K、Lは、熱間鍛造時に割れが発生し、その後の処理が出来なかった。
【0048】
製造例2 サンプルC〜EおよびG
高ヤング率を有する化合物がVCであるサンプルC〜Eも、高ヤング率を有する化合物がTiB2の場合と同様にして、表3に示した成分を真空誘導炉中2273Kで溶解してから鋳型に鋳込み、冷却・凝固の過程でVとCとを反応させることによりVCが分散した鋼を製造した。その後、上述した方法により、各々の試験片に機械加工した。
【0049】
製造例3 サンプルF
高ヤング率を有する化合物がTiCであるサンプルFも、高ヤング率を有する化合物がTiB2の場合と同様にして、表3に示した成分を真空誘導炉中2273Kで溶解してから鋳型に鋳込み、冷却・凝固の過程でTiとCとを反応させることによりTiCが分散した鋼を製造した。その後、上述した方法により、各々の試験片に機械加工した。
【0050】
【表2】
Figure 0005016172
【0051】
(2)熱処理
前述した方法で得たサンプルに表3に示す熱処理を施した。尚、熱処理条件は下記の通りとした。実験で用いた試験片のCr濃度は高く、通常のガス浸炭では浸炭、浸炭窒化を行うことが難しいため、真空浸炭を採用した。さらに、浸炭および浸炭窒化処理では、表層炭素濃度および窒素濃度と処理時間を変化させたそれぞれ2種類の条件で行った。
【0052】
浸炭(1)は、真空炉中、試験片を950℃に加熱し、これにプロパンを主体とした浸炭性ガスを通じて6時間浸炭を行い、油焼入れを行った。その後、200℃で30分間の焼き戻しを行った。このときの表層炭素濃度は0.8質量%であった。
【0053】
浸炭(2)は、真空炉中、試験片を900℃に加熱し、これにプロパンを主体とした浸炭性ガスを通じて2時間浸炭を行い、油焼入れを行った。その後、200℃で30分間の焼き戻しを行った。このときの表層炭素濃度は0.7質量%であった。
【0054】
浸炭窒化(1)は、真空炉中、試験片を900℃に加熱し、6時間浸炭窒化を行った。この時、プロパンを主体とした浸炭性ガスとアンモニア(窒化ガス)を使用し、各々のガス添加量を調整して、CとNの表層濃度を制御した。その後、200℃で30分間の焼き戻しを行った。このときの表層炭素濃度は0.6質量%であり、表層窒素濃度は0.45%であった。
【0055】
浸炭窒化(2)は、真空炉中、試験片を900℃に加熱し、4時間浸炭窒化を行った。この時、浸炭窒化(1)と同様にして、CとNの表層濃度を制御した。その後、200℃で30分間の焼き戻しを行った。このときの表層炭素濃度は0.4質量%であり、表層窒素濃度は0.25%であった。
【0056】
窒化には、イオン窒化処理を採用した。真空容器中、グロー放電により試験片を550℃に加熱し、これにアンモニアガスを流入して10時間窒化を行った。このときの表層窒素濃度は0.7%であった。
【0057】
焼入れ焼戻し処理は、高Cr鋼においてもオーステナイト化が予想される1000℃に試験片を加熱・油焼入れ後、200℃で30分間の焼戻しを行った。
【0058】
時効処理は、550℃で2時間行った。
【0059】
尚、表3中、有効硬化層深さとは、それぞれの熱処理によって達成される硬化層の深さを示している。
【0060】
【表3】
Figure 0005016172
【0061】
表4には、それぞれのサンプルに施した熱処理方法と各種熱処理後の表層から100μm深さ位置及び1mm深さ位置におけるビッカース硬さ、CとN濃度および固溶Cと固溶N濃度を示している。
【0062】
【表4】
Figure 0005016172
【0063】
【表5】
Figure 0005016172
【0064】
表4に表3の各熱処理後のヤング率と疲労強度の測定結果を示している。
【0065】
熱処理による表面硬化を行わなかった実験No.1〜3では、表面の固溶Cおよび固溶N量が低く十分な表面硬度が得られないため、疲労強度も低い。また、実験No.4〜6、8、9は、熱処理時に浸炭、窒化などの硬化処理を行っていないため表面硬度が低く、疲労強度も低い。実験No.7(サンプルD)は溶製前の炭素添加量が多く、焼入れ焼戻し処理により、内部までマルテンサイト組織となって硬化しているため、加工性、靱性が悪い。No.12は、浸炭(2)の表層炭素濃度が十分でないため、十分な浸炭特性が得られていない。実験No.17は、TiB2量が少ないため、十分なヤング率が得られていない。
【0066】
サンプルMを用いた実験No.22は、Ti/B値が高く、多量のTiが過剰として固溶し、TiCを生成するため、浸炭が抑制され、十分な浸炭特性が得られていない。実験No.23は、サンプル中のCr含有量が多いため、浸炭時にもオーステナイト化せず、十分な強度が得られない。実験No.24で用いたサンプルOは母材の炭素含有量が少なく、浸炭に長時間を要するので不経済であるだけでなく、心部強度が不十分で、疲労試験においても内部破壊が生じ、十分な疲労強度が得られていない。実験No.25は、他のサンプルに比べて炭窒化物生成元素の含有量が多く、サンプル中の炭素のほとんどがそれらの元素と結合し、マルテンサイト生成のためのCが確保されないため、十分な硬度が得られなかったものと考えられる。実験No.26は、浸炭窒化(2)条件(表層炭素濃度および窒素濃度)が十分でないため、強度不足となっている。
【0067】
これらに比べて、実験No.10、11、13〜16は、本発明で定める組成や熱処理条件を満たしており、熱処理前の内部強度を保ったままで表面硬度が高められているため、剛性、強度ともに優れている。
【0068】
【発明の効果】
本発明の高剛性鋼は、加工性や靭延性を失うことなく、剛性の大幅な向上と共に強度、特に疲労強度にも優れたものであるから、機械部品の小型軽量化やその他の鉄鋼材料にも好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. Cr:0.5〜20質量%(%は質量%の意味、以下、同じ)、C:0.1%超を含む鋼マトリックス中に、ヤング率が300GPa以上であり、且つ、TiB2、VC、またはTiC化合物が溶製段階で5〜50vol%分散されてなる高剛性鋼において、
    前記化合物としてTiB2を含むときは、前記高剛性鋼中に含まれるTiとBの比(Ti/B)が質量比で2.1以上、5以下であり、且つ、前記鋼マトリックス中のC含有量が、[0.25(Ti−2.18B)+0.18]%未満であり、
    表面から100μm深さ位置のビッカース硬さが600以上であり、表面から1mm以上の深さ位置のビッカース硬さが450未満であり、且つ、
    下記式によって求められるSC値およびSN値について、表面から100μmの深さ位置におけるSC値が0.4%以上であると共に、表面から1mm以上の深さ位置におけるSC値およびSN値がいずれも0.4%未満であり、且つ、
    前記高剛性鋼の表層部に、浸炭焼入れ、浸炭窒化焼入れのいずれかの熱処理を施すことによって得られるものであることを特徴とする高疲労強度・高剛性鋼。
    SC=全C−(0.25・Ti−0.53・B+0.24・V+0.13・Zr+0.13・Nb+0.065・W)
    SN=全N−(0.29・Ti−0.61・B+0.28・V+0.15・Zr+0.15・Nb+0.076・W)
  2. ヤング率が220GPa以上である請求項1に記載の高疲労強度・高剛性鋼。
  3. 前記化合物としてTiB2を含むものである請求項1または2に記載の高疲労強度・高剛性鋼。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の高疲労強度・高剛性鋼を製造する方法であって、
    請求項1に記載の鋼マトリックス中に、請求項1または3に記載のヤング率が300GPa以上の化合物を溶製段階で5〜50vol%分散してなる高剛性鋼の表層部に、
    表面から100μm深さ位置のビッカース硬さが600以上であり、表面から1mm以上の深さ位置のビッカース硬さが450未満であり、且つ、
    下記式によって求められるSC値およびSN値について、表面から100μmの深さ位置におけるSC値が0.4%以上であると共に、表面から1mm以上の深さ位置におけるSC値およびSN値がいずれも0.4%未満
    となるように浸炭焼入れ、浸炭窒化焼入れのいずれかの熱処理を施すことを特徴とする高疲労強度・高剛性鋼の製造方法。
    SC=全C−(0.25・Ti−0.53・B+0.24・V+0.13・Zr+0.13・Nb+0.065・W)
    SN=全N−(0.29・Ti−0.61・B+0.28・V+0.15・Zr+0.15・Nb+0.076・W)
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