JP3478930B2 - 高剛性高靱性鋼およびその製造方法 - Google Patents

高剛性高靱性鋼およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高い剛性ともに高
い靭性が要求される機械的構造用部材等に用いられる高
剛性高靭性鋼およびその製造方法に関するもので、特
に、ヤング率が220Gpaから350Gpaとなる高
剛性高靭性鋼およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】鉄鋼材料は機械的構造部材に最も多く使
用されている。機械的構造部材は建築物、輸送用機器、
各種機械等の構造物を維持するために用いられている。
これら構造物を設計する際、機械的構造部材に求められ
る重要な特性として、剛性および靱性があげられる。剛
性や靱性の高い材料を使用することにより、構造物の機
械的強度がさらに高くなり、信頼性の高い構造物を得る
ことができる。また、剛性や靱性の高い材料を構造物に
用いることにより、使用する材料を少なくすることがで
きる。例えば、自動車、鉄道等の輸送車両に用いること
により、輸送車両の軽量化が達成でき、この結果、燃費
向上による省エネルギー化、材料の節約による省資源化
を図ることができる。
【0003】 鉄鋼材料の剛性や靱性の改善は、鉄鋼材
料への合金添加、鉄鋼材料の組織改善等により実施され
てきた。鉄鋼材料の靱性は、前記方法により飛躍的に改
善されたが、剛性の向上はそれほど大きなものでなかっ
た。剛性は材料が持つ物理的な値であるため、剛性の向
上すなわちヤング率の向上は難しいものであった。しか
し、鉄鋼材料のヤング率(約200GPa)を少なくと
も10%以上高めることが望まれてきた。これにより、
輸送車両の軽量化を始めとして、構造物設計に際し、
大きなメリットが得られることによるものである。
【0004】このため、鉄鋼材料の剛性を高めるために
種々の研究が行われ、多くの方法が提案されてきた。近
年、粉末冶金法による鉄鋼材料の剛性が数多く提案され
ている。これらの方法は、鋼のマトリックス中への高剛
性の化合物を多量に添加するものである。例えば、特開
平7−188874号公報や特開平7−252609号
公報では、マトリックス粉末と高剛性の化合物粉末との
混合粉を、成形し、その後焼結させることにより、高剛
性の化合物を分散させた鋼が得られることを開示してい
る。さらに、メカニカルアロイング法を用いて、多量の
高剛性の化合物をマトリックスに均一に分散させた鋼が
得られることが報告されている(特開平7−18887
4号公報、特開平7−252609号公報および特開平
5−239504公報等参照)。なお、メカニカルアロ
イング法は、粉末の混合法の一種で、マトリックス粉末
と化合物粉末をより均一に分散させた混合物を作ること
ができ、さらにこれら粉末同志を合金化させた混合物を
得ることができる方法である。
【0005】一方、前記粉末冶金法より、安価な製造プ
ロセスである溶製法による高剛性鋼の製造方法が提案さ
れている。特開平4−325641号公報では、高剛性
の化合物粉末を、熱間ダイス鋼や高速度工具鋼の溶湯に
分散させて鋳造する方法を開示している。得られた高剛
性鋼のヤング率は219GPaである。
【0006】また、金型や工具の耐摩耗性の改善のため
に、VCやNbCを14vol%まで分散させた鋼が報
告されている(P.A.BLACKMOREら:"Solidification and
casting of metals" The Metals Society 、London、1
977年;P533〜P538)。この鋼は、マレージング鋼の溶
湯中に、Cと、VまたはNbを添加して、VCまたはN
bCを反応生成させ製造するものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、粉末冶
金法では、多量の化合物粉末とマトリックス粉末をV型
ミキサー等の混合器で混合する際に、粉末を均一に分散
させた混合粉を得ることが困難な場合がある。このた
め、混合粉中で粉末間に偏析が生じることとなる。この
混合粉は圧粉時の成形性が悪く、この混合粉を用いた焼
結体は空孔が生じやすく、化合物粉末の凝集も生じやす
くなる問題がある。このため、剛性を高めることができ
ても、空孔の発生や化合物粉末の凝集により、靭性が著
しく低下し、構造部材として使用できなくなる問題があ
る。
【0008】また、メカニカルアロイング法では、多量
の化合物粉末とマトリックス粉末を均一に混合すること
は可能であり、圧粉時の成形性は前記粉末冶金法より優
れている。しかしながら、緻密化のために液相焼結をお
こなう必要があり、焼結過程で、ネットワーク状の析出
物が生じる場合や空孔が生じる場合がある。また,HI
P(熱間静水圧プレス)により、メカニカルアロイング
法で製造した混合粉を緻密化し、化合物が均一に分散し
た鋼を製造することは可能である。しかし、メカニカル
アロイング法は製造コストの高いプロセスであり、HI
Pを用いることにより、さらに製造コストが高くなる問
題がある。
【0009】一方、高剛性の化合物粉末を、溶湯に分散
させて鋳造する方法(特開平4−325641号公報参
照)では、分散させる化合物粉末(TiN、TiC、T
aC等)は金属溶湯との濡れ性が悪く、添加後の化合物
は空孔を巻き込んだ凝集体となる場合がある。このた
め、空孔の存在や化合物粉末の凝集により、靭性が著し
く低下する問題がある。また、マレージング鋼中にVC
またはNbCを分散させた鋼( The Metals Society 、
London、1977年;P533〜P538参照)は、粒界にネットワ
ーク状の炭化物が見られる、このネットワーク状の炭化
物により耐摩耗性が改善されている。しかし、このネッ
トワーク状の炭化物の存在により、靭性が著しく低下す
る問題がある。
【0010】さらに、前記凝集した化合物やネットワー
ク状の化合物は、構造部材の材料に要求される機械加工
性を著しく低下させ、構造部材として使用できなくする
問題もある。また、鋼マトリックス中に化合物量を増加
させるほど、凝集した化合物やネットワーク状の化合物
の発生頻度が高くなる。特に溶製法において、鋼マトリ
ックス中の化合物量の増加とともに、靱性や機械加工性
の低下が顕著である。
【0011】 そこで、本発明は、製造コストが安価な
溶製法を用いて、高剛性の化合物を鋼中に均一分散させ
ることにより、ヤング率が220GPa以上からなる高
剛性高靱性鋼およびその製造方法を提供するものであ
る。特に、高剛性の化合物を分散させたことによる靱性
や機械加工性の低下を抑制し、靱性が高く、機械加工性
に優れた高剛性高靱性鋼およびその製造方法を提供する
ものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明のうちで請求項1
記載の発明は、鉄または鉄合金からなるマトリックス中
に、Tiの炭化物、ホウ化物またはその複合化合物を5
〜50vol%分散させてなる溶製された高剛性高靱性
鋼であり、前記高剛性高靱性鋼の1mmの観察範囲内
に、前記化合物の凝集体が2個以下であり、かつネット
ワーク状の前記化合物量が全化合物量の20vol%以
下であることを特徴とするものである。
【0013】 Tiの炭化物、ホウ化物またはその複合
化合物を鋼(鉄または鉄合金:以下、特にことわらない
限り「鋼」を用いる)のマトリックス中に5〜50vo
l%分散させることによって、ヤング率が220GPa
から350GPaとなる高剛性高靭性鋼を得ることがで
きる。ヤング率が220GPa以上の高剛性高靭性鋼を
得るために、前記化合物量は5vol%以上に分散させ
ることが必要である。さらにヤング率を高めるために1
5vol%以上の前記化合物を分散させることが好まし
い。さらに20vol%以上の前記化合物を鋼中に分散
させることがより好ましい。一方、前記化合物量が50
vol%を越えて鋼中に分散させると、靱性が低下し、
構造部材としての使用が困難となる。また、靱性と機械
加工性の観点から、前記化合物量を40vol%以下に
することが好ましい。また、靱性の観点から、本発明の
高剛性高靱性鋼は相対密度が98%以上あればよい。
【0014】 また、高剛性高靱性鋼の1mmの観察
範囲内で、化合物の凝集体が2個以下で、かつネットワ
ーク状の化合物量が全化合物量の20vol%以下にす
ることにより、衝撃値が100J/cm以上の高い靱
性を持ち、機械加工性に優れた高剛性高靭性鋼を得るこ
とができる。
【0015】本発明の鉄合金には、構造部材に用いられ
ている炭素鋼、低合金鋼を用いることができる。例え
ば、機械構造用炭素鋼(例えば、S−C材等)、ニッケ
ルクロム鋼(例えば、SNC材等)、ニッケルモリブデ
ン鋼(例えば、SNCM材等)、クロム鋼(例えば、S
Cr材等)、クロムモリブデン鋼(例えば、SCM材
等)、マンガン鋼(例えば、SMn材等)、マンガンク
ロム鋼(例えば、SMnC材等)、バネ鋼(例えば、S
UP材等)、高炭素クロム鋼(例えば、SUJ材等)等
が限定例示される。本発明の高剛性高靭性鋼のマトリッ
クスに、これら炭素鋼、低合金鋼を用いることにより、
これら鉄合金が持つ特性に、高い剛性を付加できること
になる。
【0016】
【0017】また請求項記載の発明は、請求項1記
の発明の構成に、化合物の粒径が10μm以下であるこ
とを加えたことを特徴とするものである。化合物の粒径
を10μm以下にすることにより、高剛性高靱性鋼の靱
性および機械加工性をさらに高めることができる。靱性
および機械加工性の向上のため、化合物の粒径は5μm
以下であることが好ましい。より好ましくは2μm以下
である。
【0018】また請求項記載の発明は、鋼(鉄または
鉄合金)からなるマトリックス中に、Tiの炭化物、ホ
ウ化物またはその複合化合物を5〜50vol%分散さ
せるに際し、鉄または鉄合金中に、前記化合物を構成す
る元素が完全に溶解する温度以上に加熱し、凝固時に前
記化合物を晶出または析出させることにより、請求項1
記載の高剛性高靭性鋼を製造する製造方法である。高剛
性高靭性鋼を構成する鉄あるいは鉄合金と、化合物を構
成する元素が完全に溶解する温度は、高剛性高靭性鋼を
構成する元素の液相線温度以上の温度である。前記溶解
する温度を液相線温度+30℃以上にすることが好まし
い。これら高剛性高靭性鋼を構成する元素の液相線温度
は、熱分析法や計算法で求めることができる。また、前
記高剛性高靭性鋼の溶解や凝固過程では、酸化防止のた
め、不活性雰囲気(減圧状態も含む)や真空雰囲気を用
いることが好ましい。特に、真空雰囲気を用いることに
より、鋼(鉄あるいは鉄合金)の溶湯の脱酸、さらに還
元が容易にできる。このため、真空雰囲気の真空度は1
3Pa(0.1torr)以下であることが好ましい。
さらに、本発明の高剛性高靭性鋼を構成する化合物を均
一に分散させるために、凝固時の冷却速度を速くするほ
うがよい。冷却速度を10K/分以下にすることが好ま
しい。
【0019】 次に、本発明の至った研究過程を説明す
る。発明者らは、靱性および機械加工性を損なうことな
く、鉄鋼材料のヤング率を220GPa以上にすること
が可能な溶製法による高剛性高靭性鋼の製造方法を鋭意
研究した。まず、鉄鋼材料の剛性を高めるために、ヤン
グ率の高い化合物を鋼中に分散させる溶製法による製造
方法を研究した。次に、この溶製法により製造した高剛
性高靭性鋼中に分散させることが可能な化合物の量およ
び形態が、高剛性高靭性鋼の靱性におよぼす影響につい
て調査した。さらに、機械的構造用部材に要求される機
械加工性についても、化合物の影響について調査した。
これらの研究結果から、ヤング率が300GPa以上の
4a、5a族元素の炭化物、ホウ化物またはその複合化
物を、溶製法により鋼中に分散させ、ヤング率が220
GPa以上となり、かつ靱性および機械加工性に優れた
高剛性高靭性鋼の製造方法を見い出した。さらに、この
高剛性高靭性鋼が優れた靱性および機械加工性を持つた
めに必要な、最適な化合物の量および形態について知見
を得て本発明を完成したものである。
【0020】 ヤング率の高い化合物を種々調査し、鋼
に分散させる化合物の種類と量を検討した。表1に示す
ような4a、5a族元素の炭化物、ホウ化物が高いヤン
グ率を持つことを確認した。化合物のヤング率は高いほ
どよく、ヤング率の高い化合物を使用することにより、
少ない分散量で高いヤング率を得ることができる。特
に、300GPa以上のヤング率を有するこれら4a、
5a族元素の炭化物、ホウ化物(表1の○印)が鉄鋼材
料の剛性を高めるのに有効である。特に、TiC、V
C、TiB、NbBのヤング率が400GPa以上
と高いので、これらの化合物を用いるにより、さらに効
果的に剛性を向上させることができる。例としてTiC
とTiBを鋼に分散させた場合について、複合則によ
り計算したヤング率を図2に示す。図2の結果より、2
20GPa以上の高剛性高靭性鋼を得るために、化合物
量は5vol%以上に分散させることが必要であること
を確認した。さらに、ヤング率を高めるために15vo
l%以上の前記化合物を鋼に分散させることが好まし
い。さらに20vol%以上の前記化合物を鋼に分散さ
せることがより好ましい。
【0021】
【表1】
【0022】次に、鋼に化合物量を5vol%以上分散
させる溶製法について検討した。鋼への化合物の分散量
の増加とともに、晶出する化合物粒子の平均粒子間距離
が小さくなるため化合物凝集体(図2参照)ができやす
くなる。また、ネットワーク状の化合物(図3参照)も
多くなる傾向がある。前記問題を解決するために、鋼と
化合物の溶解方法と、これら溶解された溶湯の凝固方法
について詳しく調査した。
【0023】その結果、鋼と化合物の溶解方法は、鋼と
化合物を構成する元素を完全に溶解する温度(液相線温
度)以上に加熱することが重要であることを見いだし
た。鋼へ分散させる4a、5a族元素の炭化物、ホウ化
物は高融点である。従来の前述したマレージング鋼中に
VCまたはNbCを分散させた鋼では、溶解温度が18
73から2023K(1600から1750℃)であ
り、溶解中にVCまたはNbC等の晶出物が晶出して、
再固溶せずに、溶湯に残ったまま鋳造されているおそれ
がある。また、前述した特開平4−325641号公報
の高剛性鋼の溶湯中には化合物粒子が存在する。この結
果、溶解中や凝固中に、溶解過程での晶出物や化合物粒
子が凝集することになる。さらに、晶出物や化合物粒子
を核にした成長により、ネットワーク状の化合物や巨大
な化合物粒が形成されることとなる。このため、本発明
の鋼(鉄あるいは鉄合金)と化合物を構成する元素が完
全に溶解する温度は、鋼と化合物を構成する元素の液相
線温度以上の温度である。本発明の高剛性高靱性鋼の溶
解は前記液相線温度以上にすることにより、高剛性高靱
性鋼を構成する元素をより完全に溶かすことができる。
【0024】さらに、前記高剛性高靭性鋼の溶解過程に
おいて、不活性雰囲気(減圧状態も含む)や真空雰囲気
を用いる。不活性雰囲気や真空雰囲気を用いることによ
り、溶湯の酸化や溶湯への酸化物の晶出を防止する。酸
化物は溶湯中からの前記化合物の晶出の核となる場合が
あるので、酸化物の晶出を防止することが望ましい。ま
た、真空雰囲気を用いることにより、鋼の溶湯の脱酸を
より効率的に実施できる。炭化物を鋼に分散させる場合
は、Cにより、鋼や添加する4a、5a族元素を還元す
ることができ、靱性がより優れた高剛性高靭性鋼を得る
ことができる。このときの真空度は13Pa(0.1t
orr)以下であることが好ましい。
【0025】 次に、溶解された溶湯の凝固方法を説明
する。本発明の高剛性高靭性鋼を構成する化合物を均一
に分散させるために、凝固時の冷却速度を速くするほう
がよい。冷却速度を速くすることにより、溶湯の過冷度
を大きくして、化合物の晶出核を多く晶出させることが
できる。この結果、化合物の粒子径を小さくし、化合物
の凝集を防止することができ、さらにネットワーク状の
化合物の発生を防止することができる。このときの冷却
速度は10K/分以下にすることが好ましい。これによ
り、化合物が均一に分散された高剛性高靭性鋼を得るこ
とができる。なお、化合物は溶湯から晶出させた化合物
だけでなく、凝固した鋼からから析出する化合物も本発
明に用いてよい。鋼から析出した化合物は微細で鋼中に
分散するので靱性への悪影響は少ない。この析出した化
合物はヤング率の向上寄与することはいうまでもな
い。また、前記高剛性高靭性鋼の凝固過程において、不
活性雰囲気(減圧状態も含む)や真空雰囲気を用い
とが好ましい。理由は前述のように、溶湯の酸化防止と
酸化物の発生抑制である。
【0026】 以上のように、鋼(鉄または鉄合金)か
らなるマトリックス中に、ヤング率が300GPa以上
の4a、5a族元素の炭化物、ホウ化物またはその複合
化合物を5〜50vol%分散させるに際し、鋼中に、
前記化合物を構成する元素が完全に溶解する温度以上に
加熱し、凝固時に前記化合物を晶出または析出させる製
造方法により高剛性高靭性鋼を得ることができる。本発
明の製造方法を用いることにより、図1に示すような、
化合物の凝集やネットワーク状の化合物が存在しない高
剛性高靭性鋼を得ることができた。
【0027】最後に、剛性と靱性および機械加工性にお
よぼす高剛性高靭性鋼の化合物の量および形態の影響に
ついて、表2により説明する。表2は、ヤング率が30
0GPa以上の4a、5a族元素の炭化物、ホウ化物
(TiC、VC、TiB2 等)を1〜65vol%分散
させてなる高剛性高靱性鋼を用いて剛性や靱性等の特性
を試験した結果である。
【0028】
【表2】
【0029】高剛性高靭性鋼のヤング率におよぼす高剛
性高靭性鋼の化合物量の影響について、試験No.1〜
9の試験材により説明する。試験No.9は化合物量が
8vol%でヤング率が225GPaである。化合物量
が8vol%以上となる試験No.2〜8の試料はさら
に高いヤング率を示し、化合物量の増加とともに高いヤ
ング率を示している。この結果より220GPa以上の
高剛性高靭性鋼を得るために、化合物量は5vol%以
上に分散させることが必要であることを確認できる。ま
た、ヤング率を高めるために15vol%、さらに20
vol%以上の化合物を鋼に分散させることにより、よ
り高いヤング率が得られる。
【0030】高剛性高靭性鋼の靱性および機械加工性に
およぼす高剛性高靭性鋼の化合物の形態の影響について
説明する。靱性の評価は衝撃試験により行った。構造部
材に要求される衝撃値は100J/cm2 以上である。
機械加工性は切削試験により評価した。切削試験におけ
る切削工具の逃げ面摩耗幅は小さいほど、機械加工時の
切削工具の摩耗量が少ないことを示し、良好な機械加工
性を示すことになる。通常、逃げ面摩耗幅は1.0mm
未満であることが要求される。なお、構造部材の多くは
機械加工を施されることが多いので、機械加工性が向上
することは実用上、大変意義のあることである。
【0031】 また、高剛性高靭性鋼の化合物の形態
は、化合物の凝集の状態(図3参照)とネットワーク状
の化合物の状態(図4参照)により評価した。すなわ
ち、化合物の凝集の状態は、高剛性高靱性鋼の1mm
の観察範囲内での観察される化合物の凝集体の数により
評価した。一方、ネットワーク状の化合物の状態は同じ
く高剛性高靱性鋼の1mmの観察範囲内で観察され
る、ネットワーク状の前記化合物量の全化合物量に対す
面積率を求め、体積率として評価した。
【0032】まず、高剛性高靭性鋼の靱性(衝撃値)を
説明する。衝撃値が100J/cm2 以上を得られる化
合物の凝集の状態は、高剛性高靱性鋼の1mm2 の観察
範囲内での観察される化合物の凝集体の数が2個以下で
あり、かつネットワーク状の前記化合物量が全化合量の
20vol%以下であることが判明した。試験No.6
で、化合物の凝集体の数が2個で、ネットワーク状の化
合物量が18vol%であることより明らかである。化
合物の凝集体の数またはネットワーク状の化合物量が試
験No.6の試験材より多い、試験No.7や試験N
o.11〜13の試験材は、衝撃値が100J/cm2
未満となる。
【0033】引き続き、高剛性高靭性鋼の機械加工性
を、試験No.1〜9により説明する。切削工具の逃げ
面摩耗幅は1.0mm未満となる化合物の凝集の状態
は、高剛性高靱性鋼の1mm2 の観察範囲内での観察さ
れる化合物の凝集体の数が2個以下であり、かつネット
ワーク状の化合物量が全化合量の20vol%以下であ
ることが判明した。なお、試験No.7は、切削試験途
中で、切削工具の摩耗量が以上に多くなったので、試験
を中止した。高剛性高靭性鋼の機械加工性についても、
高剛性高靭性鋼の衝撃値の結果と同様の結果となる。
【0034】さらに、高剛性高靭性鋼の靱性および機械
加工性の試験結果より、高剛性高靭性鋼の化合物の最適
な量と粒径が明らかになった。衝撃値が100J/cm
2 以上で、かつ切削工具の逃げ面摩耗幅は1.0mm未
満になる高剛性高靭性鋼を得るために、高剛性高靭性鋼
の化合物量は50vol%以下であることが必要であ
る。より優れた靱性を得るためには、化合物量は40v
ol%以下にすることが好ましい。同様に、高剛性高靭
性鋼の化合物の粒径は10μm以下であることが必要で
あり、より優れた靱性を得るために、化合物の粒径は5
μm以下、さらに好ましくは2μm以下であることが判
明した。
【0035】
【実施例】本発明の実施例を表2とともにさらにくわし
く説明する。なお、表2は、本発明の実施例と比較例に
ついて、各試験材の製造条件と試験結果をまとめたもの
である。まず、本発明の実施例の試験材の各種特性の測
定方法を以下にまとめる。 1)化合物の量および粒径、化合物の凝集体の数、ネッ
トワーク状の化合物量の測定方法 測定する高剛性高靭性鋼の試験材を中心部で切断し、断
面を研摩後、高剛性高靱性鋼の1mmの視野(各試
料、10箇所)を、顕微鏡観察により検査した。化合物
の量および粒径については、化合物とマトリッスを識別
して、例えば、画像解析装置により、化合物の量および
粒径を測定した。化合物の凝集体は図3(化合物の凝集
体の模式図)に示すように、化合物の凝集体は2個以上
の化合物粒子が、その粒径の0.02倍以下の粒子間距
離で密接している数を数えた。ネットワーク状の化合物
は図4(ネットワーク状の化合物の模式図)に示すよう
な、図a)のような、ネットワーク状の化合物の面積率
を求めた。この面積率を、ネットワーク状の化合物の全
化合物量に対する体積率と仮定した。 2)相対密度の測定方法 試験材の相対密度は、アルキメデス法により見かけ密度
を求め、次式により計算した。 相対密度=(見かけ密度)/(真密度)×100% なお、真密度は相対密度が100%であることを確認し
た試料、または文献値より求めた。 3)ヤング率の測定方法 ヤング率は試験材から引張試験片を加工し、引張試験に
より求めた。ヤング率は引張試験片に歪ゲージを張り付
け、測定した応力−歪み曲線よりヤング率を求めた。 4)衝撃値の測定方法 試験材から衝撃試験片を加工し、常温で、シャルピー衝
撃試験を行た。 5)切削工具の逃げ面摩耗幅の測定方法 機械加工性の試験のため、上述の各試験材について円筒
切削試験を行った。切削試験条件は、TiNコーティン
グ超硬チップを用い、切削速度150mm/min、送
り速度0.2mm/rev、切り込み2mmで実施し
た。逃げ面摩耗幅は、切削時間25分後に超硬チップの
工具逃げ面の摩耗幅よりを測定した。
【0036】 本実施例の試験材は、1)溶製法を用い
た本発明の方法(真空溶解、プラズマ溶解法)、比較例
として、2)他の溶製法(化合物粉末を溶湯に添加し攪
拌)、3)粉末冶金法(化合物粉末とマトリイクス粉末
をV型ミキサーで混合)により製造した。以下に試験材
の製造方法を説明する。 1)溶製法を用いた本発明の方法 ・真空溶解法 試験No.2の試験材の製造方法により説明する。5.
5mass%Ti、1.4mass%C、残部Feとな
るように、Ti、C、Feを秤量した。真空誘導炉にF
eとCを挿入し、真空中(真空度:0.13〜1.3P
a(10―2〜10―3torr))で2273K(2
000℃)まで昇温した。2273Kで5分保持し、脱
酸および還元処理を行った。なお、このときの試験N
o.2の試験材の液相線温度は約2073K(約180
0℃)と推定される。つぎに低酸素含有量のTi(酸素
含有量:100ppm以下)を添加し、真空中(真空
度:0.13〜1.3Pa)で引き続き2273Kで1
5分保持し、脱酸および還元処理を行った。このとき、
必要に応じて、前記試験材の成分になるように、Cを添
加し、C量を調製してもよい。次に、前記溶解した試験
材を鋳型または水冷鋳型に注湯して、10kgの鋼塊を
製造した。このようにして、試験材を製造したものであ
る。このときも、真空中(真空度:0.13〜1.3P
a)で冷却を行い、前記試験材を冷却させ、凝固中に溶
湯中より化合物を晶出させた。このときの、冷却速度は
文献より、鋳型の場合は約10K/分程度、水冷鋳型の
場合は約40K/分程度と推定される。この冷却中に、
化合物を晶出または析出させる。このとき、冷却速度を
速くするほど、晶出する化合物の粒径を小さくでき、化
合物の凝集を防止できる。さらに、ネットワーク状の化
合物の発生を防止できる。 ・プラズマ溶解法 試験No.6の試験材の製造方法により説明する。3
0.9mass%Ti、7.7mass%C、残部Fe
となるように、Fe、Ti、Cを秤量した。プラズマ溶
解炉の水冷鋳型にFe、Ti、Cを挿入し、真空中(真
空度:0.0013〜0.013Pa(10―4〜10
―5torr))で約2873K(2600℃)まで昇
温し、30分保持した。この過程で、脱酸および還元処
理を行った。次に、前記溶解した試験材を水冷鋳型中で
冷却を行い、凝固させて溶湯中より化合物を晶出させ
た。このようにして、試験材を製造した。このときの、
冷却速度は前記真空溶解法の水冷鋳型より速くなる。
【0037】2)他の溶製法(化合物粉末を溶湯に添加
し攪拌)。 試験No.11の試験材の製造方法により説明する。試
験No.2と同じ真空誘導炉を用い、真空雰囲気中、1
873K(1600℃)で純鉄を溶解した。その後、T
iC量が10vol%になるように、5μmのTiC粒
子を純鉄の溶湯に添加し、添加後の溶湯を攪拌し、Ti
Cを分散させた。この後、鋳型に注湯して、前記試験材
を凝固させた。このようにして、試験材を製造した。な
お、本製造方法も溶解および凝固過程も真空雰囲気中で
行った。
【0038】3)粉末冶金法(化合物粉末とマトリイク
ス粉末をV型ミキサーで混合) 試験No.13の試験材の製造方法により説明する。T
iC量が10vol%になるように、約5μmのTiC
粉末と約40μmのFe粉末をV型混合機で30分混合
し、その混合粉を成形した。その成形体を真空中で、液
相焼結することにより、試験材を製造した。
【0039】次に、本発明の実施例を、表1とともに説
明する。 (試験No.1:比較例)5.5mass%Ti、0.14
mass%C、残部Feを真空誘導炉で2000℃で溶解
し、その後鋳型に鋳込み、冷却、凝固の過程でTiとC
を反応させることによりTiCを生成させ、TiCを分
散させた鋼を製造した。本比較例の鋼は、相対密度が1
00%で、生成したTiCの体積分率は1vol%とな
り、粒径は約1μmであった。本比較例の鋼は、ヤング
率は210GPaで、高剛性を達成することはできなか
った。
【0040】(試験No.2:本発明)5.5mass%T
i、1.4mass%C、残部Feを真空誘導炉で2273
Kで溶解し、その後鋳型に鋳込み、冷却、凝固の過程で
TiとCを反応させることによりTiCを生成させ、T
iCを分散させた鋼を製造した。本発明の鋼は、相対密
度が100%で、生成したTiCの体積分率は10vo
l%となり、粒径は約10μmであった。本発明の鋼
は、ヤング率は230GPaとなり、目標のヤング率2
20GPaを越えることができた。また、衝撃値は14
7J/cm2 で靭性にも優れていることを確認した。さ
らに、本発明の鋼は、切削試験での工具逃げ面摩耗幅は
0.55mmであり、良好な機械加工性を有することを
確認した。従来の溶製法では困難と考えられている、T
iCを多量に鋼中への分散させ鋼を製造することができ
た。従来、Cを含有するFe溶湯に、Ti多量に添加す
ると、Tiが含有しているO(酸素)とCが急激に反応
し、ポーラスな鋳塊ができ、極端な場合は鋳型への鋳込
みが不可能になる場合が生じていた。
【0041】(試験No.3:本発明)5.5mass%T
i、1.4mass%C、残部Feを真空誘導炉で2273
Kで溶解し、その後水冷鋳型に鋳込み、急冷凝固を行い
TiとCを反応させることによりTiCを生成させ、T
iCを分散させた鋼を製造した。本発明の鋼は、相対密
度が100%で、生成したTiCの体積分率は10vo
l%となり、粒径は約1μmであった。本発明の鋼は、
ヤング率は230GPaとなり、目標のヤング率220
GPaを越えることができた。また、衝撃値は166J
/cm2 となり、さらに靭性に優れていることを確認し
た。さらに、本発明の鋼は、切削試験での工具逃げ面摩
耗幅は0.20mmとなり、機械加工性をさらに改善さ
れることが判明した。
【0042】(試験No.4:本発明)17.0mass%
Ti、4.2mass%C、残部Feを真空誘導炉で227
3Kで溶解し、その後鋳型に鋳込み、冷却、凝固の過程
でTiとCを反応させることによりTiCを生成させ、
TiCを分散させた鋼を製造した。本発明の鋼は、相対
密度が100%で、生成したTiCの体積分率は30v
ol%となり、粒径は約15μmであった。本発明の鋼
は、ヤング率は260GPaとなり、ヤング率が著しく
改善された。また、衝撃値は108J/cm2 となり、
靭性に優れていることを確認した。さらに、本発明の鋼
は、切削試験での工具逃げ面摩耗幅は0.60mmであ
り、良好な機械加工性を有することが確認された。
【0043】(試験No.5:比較例)17.0mass%
Ti、4.2mass%C、残部Feを真空誘導炉で192
3Kで溶解し、その後鋳型に鋳込み、冷却、凝固の過程
でTiとCを反応させることによりTiCを生成させ、
TiCを分散させた鋼を製造した。光温度計より測定し
た溶解温度は約2873Kであった。本発明の鋼は、相
対密度が100%で、生成したTiCの体積分率は30
vol%となり、粒径は約30μmであった。本比較例
の鋼は、ヤング率は255GPaとなり、目標のヤング
率220GPaを越えることができた。しかし、衝撃値
は78J/cm2 で靭性を満足することができなった。
さらに、本比較例の鋼は、切削試験での工具逃げ面摩耗
幅は1.15mmとなり、難加工材であることが判明し
た。このときの、TiCの凝集体の個数は0個/mm2
であったが、ネットワーク状のTiCの量が25vol
%であった。ネットワーク状のTiCの量が25vol
%となったのは、溶解温度が1923Kであり、Fe、
Ti、Cを完全に溶解できなっかたためである。試験N
o.1〜4の試験材では、TiCの凝集体の個数は0ま
た1個/mm2であり、ネットワーク状のTiCの量は
10vol%以下である。本比較例の鋼は、ネットワー
ク状のTiCの量が多くなったために、靱性および機械
加工性が著しく低下したものである。
【0044】(試験No.6:本発明)30.9mass%
Ti、7.7mass%C、残部Feを水冷鋳型中で、プラ
ズマ溶解し、その後、水冷鋳型中で急冷凝固を行いTi
とCを反応させることによりTiCを生成させ、TiC
を分散させた鋼を製造した。本発明の鋼は、相対密度が
100%で、生成したTiCの体積分率は50vol%
となり、粒径は約20μmであった。TiCの凝集体の
個数は2個/mm2 であったが、ネットワーク状のTi
Cの量が18vol%であった。本発明の鋼は、ヤング
率は290GPaとなり、ヤング率をさらに著しく改善
された。また、衝撃値は108J/cm2であり、切削
試験での工具逃げ面摩耗幅は0.80mmとなり、本発
明の目標より高い靱性と機械加工性を有することを確認
した。
【0045】(試験No.7:比較例)37.0mass%
Ti、9.5mass%C、残部Feをプラズマ溶解し、水
冷鋳型中で、プラズマ溶解し、その後、水冷鋳型中で急
冷凝固を行いTiとCを反応させることによりTiCを
生成させ、TiCを分散させた鋼を製造した。光温度計
より測定した溶解温度は約2873Kであった。本比較
例の鋼は、相対密度が99%で、生成したTiCの体積
分率は65vol%となり、粒径は約25μmであっ
た。本比較例の鋼は、ヤング率は330GPaとなり、
ヤング率をさらに著しく改善された。しかし、本比較例
の鋼の衝撃値は78J/cm2 であった。また、切削試
験では工具摩耗が著しいため、切削試験を途中で中止し
た。このため、本比較例の鋼は構造用部材に用いること
は困難であることが判明した。しかし、TiCを65v
ol%も分散させた鋼が製造できたことは注目すべきこ
とである。従来の溶製法では、このように多量に分散さ
せた鋼を実現することができなった。なお、本発明の範
囲であるTiCを50vol%分散させた鋼は十分な靱
性と機械加工性を有している。
【0046】(試験No.8:本発明)5.3mass%T
i、2.4mass%B、残部Feを真空誘導炉で2273
Kで溶解し、その後鋳型に鋳込み、冷却、凝固の過程で
TiとBを反応させることによりTiB2 を生成させ、
TiB2 を分散させた鋼を製造した。本発明ではフェロ
ボロンの形でB(ボロン)を添加したが、純B(ボロ
ン)のまま添加してもよい。本発明の鋼は、相対密度が
100%で、生成したTiB2 の体積分率は12vol
%となり、粒径は約12μmであった。本比較例の鋼
は、ヤング率は235GPaとなり、目標のヤング率2
20GPaを越えることができた。また、衝撃値は15
7J/cm2 となり、靭性に優れていることを確認し
た。さらに、本発明の鋼は、切削試験での工具逃げ面摩
耗幅は0.60mmであり、良好な機械加工性を有する
ことを確認した。TiB2 を鋼中に12vol%分散す
ることができたは、注目すべき点である。TiCの鋼中
へ多量に分散させることより、さらに難しいものであ
る。TiB 2 は熱伝導性が良く、耐凝着摩耗性(耐焼付
き性)に優れており、TiB2 を分散させた本発明の高
剛性高靱性鋼は、さらに高温での使用で優れた性能を期
待できる。
【0047】(試験No.9:本発明)5.5mass%
V、1.4mass%C、残部Feを真空誘導炉で2273
Kで溶解し、その後鋳型に鋳込み、冷却、凝固の過程で
VとCを反応させることによりVCを生成させ、VCを
分散させた鋼を製造した。本発明の鋼は、相対密度が1
00%で、生成したVCの体積分率は8vol%とな
り、粒径は約8μmであった。本発明の鋼は、ヤング率
は225GPaとなり、目標のヤング率220GPaを
越えることができた。また、衝撃値は157J/cm2
で靭性にも優れていることを確認した。さらに、本発明
の鋼は、切削試験での工具逃げ面摩耗幅は0.55mm
であり、良好な機械加工性を有することを確認した。
【0048】(試験No.10:比較例)5mass%C、
残部Feを真空誘導炉で2273Kで溶解し、その後鋳
型に鋳込み、冷却、凝固の過程でFeとCを反応させる
ことによりFe3 Cを生成させ、セメンタイト、パーラ
イト組織の鋼を製造した。本比較例の鋼は、相対密度が
100%で、生成したFe3 Cの体積分率は20vol
%となった。本比較例の鋼は、ヤング率は200GPa
であり、目標のヤング率220GPaを得ることができ
なかった。
【0049】(試験No.11:他の溶製法での比較
例)純鉄を真空誘導炉で1873Kで溶解し、溶湯中に
約5μmのTiC粒子を体積分率で10%となるように
添加し、添加後の溶湯を攪拌することによりTiCを分
散させた。この後鋳型に鋳込み、冷却、凝固を行いTi
Cを分散させた鋼を製造した。本比較例の鋼は、相対密
度が96%であり、TiCの体積分率は8vol%であ
り、粒径は約3μmであった。TiCの凝集体は13個
/mm2 観察された。本比較例の鋼はヤング率は230
GPaとなり、目標のヤング率220GPaを越えるこ
とができた。しかし、衝撃値は78J/cm2 で靭性の
低下が著しかった。これは、本比較例の鋼の相対密度が
96%であり、TiCの凝集体が13個あったことに起
因する。
【0050】(試験No.12::他の溶製法での比較
例)純鉄を真空誘導炉で1873Kで溶解し、この溶湯
中に約12μmのTiC粉末を体積分率で8%となるよ
うに添加し、その後の溶湯を攪拌し TiC粉末を純鉄
を溶湯中に分散させた。この後鋳型に鋳込み、冷却、凝
固を行いTiCを分散させた鋼を製造した。さらに、こ
のTiC分散させた鋼にHIP処理による緻密化を行っ
た。得られた本比較例の鋼は、相対密度が97%とな
り、TiCの体積分率は7vol%であり、粒径は約1
0μmであった。TiCの凝集体は4個/mm2 観察さ
れた。本比較例の鋼はヤング率は230GPaとなり、
目標のヤング率220GPaを越えることができた。し
かし、衝撃値は88J/cm2 で靭性の低下が著しい。
これは、本比較例の鋼の相対密度が97%であり、Ti
Cの凝集体が4個/mm2 であったことに起因する。試
験No.11と12の結果より、衝撃値が100J/c
2 以上得るためには、鋼の相対密度は98%以上必要
であることが判明した。
【0051】(試験No.13:粉末冶金法での比較
例)TiC量が10vol%になるように、約5μmの
TiC粉末と約40μmのFe粉末をV型混合機で混合
し、その混合粉を成形した。その成形体を真空中で、液
相焼結することにより、TiCを分散させた鋼を製造し
た。本比較例の鋼は、相対密度が95%であり、TiC
の体積分率は10vol%であり、粒径は約10μmで
あった。TiCの凝集体およびネットワーク状のTiC
は認められなった。 本比較例の鋼はヤング率は230
GPaとなり、目標のヤング率220GPaを越えるこ
とができた。しかし、衝撃値は88J/cm2 で靭性の
低下が著しい。これも、本比較例の鋼の相対密度が95
%であったことに起因する。
【0052】以上の本発明の実施例で得られた結果につ
いて以下にまとめた。本発明は、従来の溶製法では不可
能であった、4a、5a族元素の炭化物、ホウ化物を6
5vol%(本発明の範囲は50vol%)まで鋼中に
分散できることを示したものである。特に、溶製法でT
iCを多量に鋼中への分散させることは不可能と考えら
れていたが、本発明では5〜50vol%TiCの高剛
性高靱性鋼が得られた。また、TiCは硬質の化合物で
あるので、本発明の高剛性高靱性鋼は耐摩耗性の向上が
期待される。同様に、他の4a、5a族元素の炭化物、
ホウ化物の分散した鋼も耐摩耗性の向上が期待される。
なお、本実施の比較例である、他の溶製法(化合物粉末
を溶湯に添加し攪拌)、粉末冶金法(化合物粉末とマト
リイクス粉末をVミキサーで混合)では、満足な結果が
得られなかった。
【0053】また、TiB2 を鋼中に30vol%分散
することができることも、注目すべき点である。溶製法
では、TiCの鋼中へ多量に分散させることより、Ti
2を分散させることは、さらに難しいものである。T
iB2 は熱伝導性が良く、耐凝着摩耗性(耐焼付き性)
に優れており、TiB2 を分散させた本発明の高剛性高
靱性鋼は、さらに高温での使用で優れた性能を期待でき
る。
【0054】本実施例では、鉄中に各種4a、5a族元
素の炭化物、ホウ化物を分散させたが、機械的構造部材
に用いられている炭素鋼や低合金鋼中に前記各種4a、
5a族元素の炭化物、ホウ化物を分散させてもよい。こ
れら炭素鋼や低合金鋼を用いることにより、これら鉄鋼
材料が持つ特性に、高い剛性を付加できる。また、4a
族元素の代表としてTiを実施例としたが、同様の性質
を有するZr、Hfの炭化物、ホウ化物を、本発明の高
剛性高靱性鋼に用いることができる。また、5a族元素
の代表としてVを実施例としたが、同様の性質を有する
Nb、Taの炭化物、ホウ化物を、本発明の高剛性高靱
性鋼に用いることができる。さらに、これら、4a、5
a族元素の炭化物、ホウ化物の複合化物を本発明の高剛
性高靱性鋼に用いることができる。なお、4a、5a族
元素の炭化物、ホウ化物の複合化物に、本発明の高剛性
高靱性鋼を構成するFeが固溶していてもよい。通常、
溶製法ではこれら化合物にFeが固溶される。また、同
様に、前記炭素鋼や低合金鋼を構成する元素(例えば、
Cr、Mo、Mn等)が4a、5a族元素の炭化物、ホ
ウ化物の複合化物が含まれてもよい。
【0055】本実施例では、溶解や凝固過程で真空雰囲
気を用いたが、これに限定されることなく、不活性ガス
雰囲気(減圧状態も含む)を用いてもよい。
【0056】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、従来の
溶製法では不可能であった、4a、5a族元素の炭化
物、ホウ化物またはその複合化物を5〜50vol%分
散させてなる高剛性高靱性鋼を実現できた.さらに本発
明は、高剛性高靱性鋼の化合物の凝集体およびネットワ
ーク状の化合物量を、本発明の範囲に調製することによ
り、高い剛性に加え、靱性が高く、機械加工性に優れ
た、機械的構造用部材等に用いられる高剛性高靭性鋼を
得ることを可能とするものである。この高剛性高靭性鋼
を用いることにより、鉄鋼材料の剛性が制約になってい
た輸送車両の軽量化をさらに進めることが可能となり、
また構造物の設計に際し、大きなメリットをあたえるこ
とを可能とするものである。
【0057】さらに本発明は、溶製法でTiCを多量に
鋼中への分散させることは不可能と考えられていた、5
〜50vol%TiCの高剛性高靱性鋼を得ることを可
能とするものである。ヤング率の高いTiCを鋼に分散
させることができ、より高いヤング率の高剛性高靱性鋼
を得ることを可能とするものである。また、TiB2
鋼中へ分散させた高剛性高靱性鋼は、さらに、TiB2
が持つ良好な熱伝導性、耐凝着摩耗性(耐焼付き性)を
持つ効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で得られた本発明の高剛性高靱
性鋼の金属組織を示す顕微鏡写真図(倍率:50倍)で
ある。
【図2】複合則により計算したTiCまたはTiB2
鋼に分散させた場合のヤング率を示す図である。
【図3】高剛性高靱性鋼の化合物の凝集体の模式図であ
って、図a)は化合物の凝集体の状態を示す図であり、
図b)は化合物粒子径と粒子間距離を示す図である。
【図4】高剛性高靱性鋼のネッワ−ク状の化合物の形態
の模式図であって、図a)はネッワ−ク状の化合物を示
す図であり、図b)は分散している化合物を示す図であ
る。
フロントページの続き (72)発明者 森本 啓之 兵庫県神戸市西区高塚台1丁目5番5号 株式会社神戸製鋼所 神戸総合研究所 地区内 (56)参考文献 特開 平7−228946(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60 C22C 33/04

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】鉄または鉄合金からなるマトリックス中
    に、Tiの炭化物、ホウ化物またはその複合化合物を5
    〜50vol%分散させてなる溶製された高剛性高靱性
    鋼であり、 前記高剛性高靱性鋼の1mmの観察範囲内に、前記化
    合物の凝集体が2個以下であり、かつネットワーク状の
    前記化合物量が全化合物量の20vol%以下であるこ
    とを特徴とする高剛性高靭性鋼。
  2. 【請求項2】前記化合物の粒径が10μm以下である請
    求項1記載の高剛性高靭性鋼
  3. 【請求項3】鉄または鉄合金からなるマトリックス中
    に、Tiの炭化物、ホウ化物またはその複合化合物を5
    〜50vol%分散させるに際し、 鉄あるいは鉄合金中に、前記化合物を構成する元素が完
    全に溶解する温度以上に加熱し、冷却、凝固時に前記化
    合物を晶出または析出させることにより、請求項1記載
    の高剛性高靭性鋼を製造する製造方法
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