JP3917451B2 - 鉄系高強度・高剛性鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高い剛性と共に高い強度が要求される機械構造用部材等に用いられる鉄系高強度・高剛性鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼材料は、建築物、輸送用機器、各種機械等の構造物を維持するために用いられる機械構造部材として最も多く使用されている。これら構造物を設計する際に求められる重要な特性として、剛性と強度があげられる。剛性や強度の高い材料を使用することによって、構造物の耐用強度が向上し、信頼性の高い構造物を得ることができる。また、剛性や強度の高い材料を構造物に用いることは、それだけ使用する材料も少なくすることができるので、例えば、自動車、鉄道等の輸送車両に適用すると、輸送車両の軽量化を達成することができ、その結果、燃費向上による省エネルギー化、材料の節約による省資源化を図ることができる。
【0003】
上記のような機械構造部材に用いられる鉄鋼材料は、各種合金成分の添加や鉄鋼材料の組織改善等によって特性改善が試みられてきた。これらの方法によって、鉄鋼材料の強度は、大幅に改善されたが、剛性の向上については必ずしも十分とは言えない。剛性は材料が固有している物理的な値であるため、上記のような方法では、剛性の向上すなわちヤング率の向上は容易でない。しかし、ヤング率の向上は、輸送車両の軽量化を始めとして、構造物等の設計に際し大きなメリットが得られるので、鉄鋼材料のヤング率を一般的な約200GPaレベルから10%程度以上高めることが望まれてきた。
【0004】
こうした需要に沿うべく、鉄鋼材料の剛性向上に関して種々の研究がなされ、多くの提案がなされている。例えば、粉末冶金法による鉄鋼材料の剛性の向上手段が数多く提案されており、これらの方法は、鋼のマトリックス中へ高剛性を有する化合物を多量に添加するものである(特開平5−239504号公報,特開平7−188874号公報,特開平7−252609号公報等)。しかし、これらの技術は、粉末冶金法を適用するものであって、その工程の複雑さからコストが高くなるという問題があった。
【0005】
一方、前記粉末冶金法よりも安価な製造方法である溶製法によって高剛性鋼を製造する方法も提案されている。例えば、高剛性の化合物粉末を溶湯に分散させて鋳造する方法(特開平4−325641号公報参照)や、高剛性を有する化合物(4a,5a族の炭化物、ホウ化物、またはその複合化物)を溶湯中での反応により生成・分散させる方法が開示されている(特開平10−68040号公報参照)。
【0006】
以上の様な溶製法による高剛性化技術で、高剛性鋼を得る方法はある程度明確になった。しかし、ほとんどの機械部品は剛性だけでなく強度との両立が不可欠であるため、それらの小型軽量化には不十分であることが多い。殊に、上記の開示技術では、強度を向上させるための手法が明らかにされておらず、要求特性を満足させることが出来ない。
【0007】
剛性と強度の両立を図ることを目的として、Vを多量に添加した鋼にVCとして化合物を形成する以上の炭素量を添加し、炭素を固溶させて焼入れる方法が報告されている(特開2001−73068号公報、CAMP−ISIJ,vol.13(2000)P.541−542.)。しかし、本方法においては、焼入れることで剛性が低下するので、達成可能な剛性には自ずと限界があり、また、Cをあらかじめ多量に添加するので、粗大な初晶炭化物が生成し、加工性や延靭性に問題が生じる。
【0008】
尚、本発明者らは、特願2001−302998号で、高剛性と高疲労強度を達成した鋼材に関する出願をしているが、該出願は鋼材に浸炭あるいは浸窒処理を施すことを前提としたものであった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこうした状況に着目してなされたものであって、その目的は、比較的安価な溶製法を採用し、しかも、後に浸炭処理や浸窒処理等の熱処理を行なうことなく、鋼の加工性や延靭性を保持しつつ、剛性の大幅な向上を達成すると共に強度も兼ね備えた鉄系高強度・高剛性鋼を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の鉄系高強度・高剛性鋼は、溶製法で作製された鉄または鉄合金からなるマトリックス中に、TiB2系化合物が5〜50vol%分散されてなる高剛性鋼において、
(Ti/B)≧2.1 (1)
0.1%<C<[0.25(Ti−2.18B)+0.18]% (2)
0.3%≦Si+0.5×Al≦6% (3)
を満足するところに要旨を有する。
〔尚、上記(1)〜(3)式において、Ti,B,C,Si,Alはいずれも鋼中の質量%を示す。〕
【0011】
上記規定を満たす鋼材は、特に高いヤング率を有するTiB2系化合物を多量に且つ微分散させることが可能であるため、得られる鋼材の剛性を高くすることができる。さらにSiおよび/またはAlを含むため、マトリックスを固溶強化でき、強度にも優れた鋼材とすることができる。
【0012】
【発明の実施形態】
本発明者等は、剛性および強度に優れた高強度・高剛性鋼を溶製法によって提供するべく、様々な角度から検討した。これまで剛性に優れた鋼材を得るには、高ヤング率を有する化合物を鋼材中に分散させることが有効であることは知られていたが、このような化合物を形成する元素を多量に添加すると、溶湯の冷却時に粗大な初晶を生じたり、化合物が凝集するため、均一な微分散状態とできず、鋼材の被削性や靭性が低下し、これらの特性と剛性および強度の両立を達成することは困難であった。
【0013】
しかしながら、本発明者らは、鉄または鉄合金からなるマトリックス中に、TiB2系化合物を上述の規定を満たすように均一に微分散させ、同時にCを含有させることで、剛性と共に強度も兼ね備えた鋼材を提供し得ること、さらにこの鋼材にSiおよび/またはAlを添加することで、剛性、靭性および延性を阻害することなく、鋼材全体としての強度をより一層向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明の高強度・高剛性鋼は、鉄または鉄合金からなるマトリックス中にTiB2系化合物を5〜50vol%分散させて溶製されたものである。
【0015】
このようにして得られた鋼(鉄または鉄合金:以下、特に断らない限り「鋼」と言う)は、鋼自体の剛性が高く、そのヤング率は220〜350GPaである。しかし、鋼マトリックス中の前記化合物の分散量が5vol%未満では、ヤング率が220GPa以上の高剛性鋼を得ることができない。ヤング率が220GPa以上の高剛性鋼を得るためには、5vol%以上の前記化合物を鋼マトリックス中に分散させることが必要である。より一層ヤング率を高めるためには15vol%以上、さらには20vol%以上の前記化合物を鋼マトリックス中に分散させることが望ましい。一方、前記化合物の鋼マトリックス中の分散量が50vol%を超えると、溶製後の鋼中に前記化合物の凝集体等が生成して、靭性が低下し、構造部材としての使用が困難となる。また、靭性と機械加工性の観点から、前記化合物量は40vol%以下にすることがより好ましい。
【0016】
ここでTiB2系化合物とは、該化合物中のTiB2の割合が体積率で50%以上であるものと規定するが、他のホウ化物、炭化物、窒化物などを含んでいても良く、これらの化合物が個々に複合化していてもかまわない。
【0017】
本発明に係る鋼材に微分散させるTiB2系化合物のヤング率(TiB2:529GPa)は、他のTiC(451GPa)、VC(421GPa)に比べて特に高く、得られる鋼の剛性を向上させるのに最も効果的である。しかし、剛性向上の手段としてTiB2を採用する場合、マトリックス中に多量にCを添加すると、CはTiと結合して、TiCを生成する。その結果、Bが余剰成分として残り、この余剰Bは鉄ホウ化物(FeB2)を生成する。このFeB2とFeの共晶温度は熱間加工される温度域に存在するため、熱間加工性を極端に低下させる。そのため、従来の知見では、高剛性が得られるTiB2系での剛性と強度の両立は難しいと考えられていた。
【0018】
しかし、本発明者等は、前記高剛性鋼中に含まれるTiとBの比(Ti/B)が質量比で2.1以上であれば、TiB2系でも目的とする強度と剛性を兼ね備えた鋼が得られることを見出した。
【0019】
Ti/Bの値が2.1未満であると、鋼中にTiB2として結合しない余剰Bが生じる。上述したように、余剰Bは鋼マトリックス中のFeと結合してFeB2を生成し、得られる鋼の熱間加工性を極端に低下させる。ゆえに、前記高剛性鋼中に含まれるTiとBの比(Ti/B)は質量比で2.1以上であることが好ましい。より好ましくは2.2以上であり、更に好ましくは2.3以上である。ただし、Tiが多くなり過ぎると延性および靭性が低下するため、Ti/Bは6以下に抑えることが好ましい。
【0020】
上述した成分組成に加えて、マトリックス中のC含有量は質量%で0.1%を超え、[0.25(Ti−2.18B)+0.18]%未満であることが好ましい。Cは強度向上に不可欠の元素であり、C含有量が0.1%以下では強度向上に必要な炭化物の析出が不十分となり、鋼材に十分な強度を与えることができない。一方、C含有量が[0.25(Ti−2.18B)+0.18]%以上となると、鋼中に過剰なCが存在することになり、過剰なCはTiCを生成する。その結果、余剰のBを生じ、上述したようにFeB2が生成する。よって、FeB2の生成を抑えて、熱間加工性を確保するためには、溶製後・熱処理前のC含有量を[0.25(Ti−2.18B)+0.18]%未満に抑えることが望ましい。
【0021】
SiおよびAlは、剛性を大幅に低下させることなくマトリックスの強化が期待できる固溶強化元素である。この効果を有効に発揮させるためには、前述の式(Si+0.5×Al)の値が0.3%以上となるようにSiおよびAlを添加する必要がある。しかし、添加量が6%を超えると、効果が飽和するだけでなく、鋼の熱間加工性を極端に低下させるため、添加量の上限は6%とするのがよい。好ましくは0.4%以上、4%以下である。
【0022】
上述の効果は、SiまたはAlのいずれかを単独で添加しても、あるいはこれらを複合物として添加しても同様に得られるものである。尚、前述の式において、Al含有量に0.5倍の係数を掛けたのは、高強度化の効果がAlはSiに比べて約半分であったためである。
【0023】
固溶強化元素としては他にNi,Cu,P,N等も存在するが、これらのうちNiおよびCuはオーステナイト安定元素であるため鋼の剛性を低下させる恐れがある。また、PはFeマトリックス中に多量に固溶できないためにマトリックス強化の効果が小さく、Nは多量に添加すると熱間加工性を低下させる。これらの理由から、本発明では固溶強化元素としてSiおよびAlを採用する。
【0024】
また、該高強度・高剛性鋼に含まれるCr量を30%以下に抑えることも有効である。即ち、Crはマトリックスに固溶して剛性を向上させる働きがあるため添加することが好ましいが、その含有量が30%を超えると剛性向上効果が飽和すると共に、かえって脆性が劣化するようになるので30%以下とする必要がある。より好ましいCrの添加量の上限は20%であり、好ましいCr添加量の下限は0.5%である。
【0025】
上記の元素以外に、焼入れ性向上を目的として、Cu:3.0%以下、Mn:2.0%以下、Mo:2.0%以下、W:2.0%以下、Ni:3.0%以下を添加しても良い。しかし、これらの選択元素を、上述した量を超えて添加しても効果は飽和し、コストアップするだけであるので無駄である。また、Cu,Niの場合には上述した様に剛性の劣化を生じる恐れがある。
【0026】
本発明に係る高強度・高剛性鋼を製造するに際して、その溶製法としては、真空溶解法、プラズマ溶解法、コールドクルーシブル溶解法、アーク溶解法等が挙げられる。
【0027】
尚、本発明の規定を満たす鉄系高強度・鋼剛性鋼は、剛性とともに十分な強度を備えたものであるので、溶製後に浸炭および浸窒等の特別な熱処理を行うことなく、それぞれの用途に供することができる。
【0028】
【実施例】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。尚、「%」は特に断らない限り質量基準であり、各物性値は以下の方法で測定した。
【0029】
[ヤング率]
サンプルから試験片を加工し、JIS Z 2280に基づいてヤング率の測定を行った。
[引張強度]
サンプルからJIS5号の引張試験片を加工し、引張試験を行った。
【0030】
製造例1 真空溶解
マトリックス成分として、クロム鋼(Cr:15.0質量%、C:0.2質量%、N:0.01質量%)を使用し、これを真空誘導炉に導入し、特開平10−68048号に記載されている様に、化合物が完全に溶解する温度(2273K)で溶解しておき、表1に示す組成となるように、C、B等を適宜添加した。次に、溶解したサンプルを鋳型または水冷鋳型に注湯して、20kgの鋼塊を製造した。冷却は、真空中(真空度:0.13〜1.3Pa)で行い、冷却・凝固の過程でTiとBを反応させることによりTiB2を生成、晶出させ、TiB2が分散した鋼を得た。このときの冷却速度は、鋳型の場合は約10K/分程度、水冷鋳型の場合は40K/分程度とした。
【0031】
【表1】
【0032】
その後、熱間鍛造により直径20mmの丸棒に加工した後、各々の試験片に機械加工した。尚、サンプルE、F、G、Hは、熱間鍛造時に割れが発生し、その後の処理が出来なかった。
【0033】
得られた試験片を用いて、ヤング率の測定および引張り試験を行った。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
実験番号4は鋼中に分散しているTiB2量が少ないため、ヤング率の値が低い。実験番号6はサンプル中の炭素含有量が少なく、鋼材の強度向上に十分な炭化物量が得られなかっため、引張り強度が劣っていた。実験番号7はSiおよびAl添加量が少なく、固溶強化が不十分であったため引張り強度が劣っていた。
【0036】
これらに比べて、本発明の規定を満たす実験番号1〜3および5は、鋼材中に高剛性化合物が均一に微分散できたため高いヤング率を有しており、SiおよびAl添加による固溶強化の効果も得られているため引張り強度にも優れていた。
【0037】
【発明の効果】
本発明の鉄系高強度・高剛性鋼は、加工性や靭延性を失うことなく剛性の大幅な向上を可能とし、さらに優れた強度を付与することもできたため、機械部品の小型軽量化に有用であり、その他の鉄鋼材料にも好適に用いることができる。
Claims (1)
- 溶製法で作製された鉄または鉄合金からなるマトリックス中に、TiB2系化合物が5〜50vol%分散されてなる高剛性鋼において、
(Ti/B)≧2.1 (1)
0.1%<C<[0.25(Ti−2.18B)+0.18]% (2)
0.3%≦Si+0.5×Al≦6% (3)
を満足するとともに、Ti,B,C,Si,Alの他、Cr:0.5質量%〜30質量%、残部:Fe及び不可避不純物からなることを特徴とする鉄系高強度・高剛性鋼。
〔尚、上記(1)〜(3)式において、Ti,B,C,Si,Alはいずれも鋼中の質量%を示す。〕
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