JP4994528B2 - 芳香族ケトンまたはアルデヒドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、農医薬、機能性色素等の機能性材料等の中間体として有用な芳香族ケトンまたはアルデヒドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ケトンまたはアルデヒドは、農薬、医薬、機能性色素等の機能性材料等の中間体として有用な化合物であり、多くの製造方法が検討されている。中でも、トルエン誘導体より芳香族ケトンまたはアルデヒドを製造する方法は、原料が安価であり、大量に入手することが可能な点で他の製造方法により工業的に有利である。
【0003】
トルエン誘導体より芳香族ケトンまたはアルデヒドを製造する方法としては、(1)二酸化セレン、クロム酸、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、硝酸タリウム等の酸化剤を用いて酸化する方法、(2)ベンジル位をモノハロゲン化後、ジメチルスルホキシド、ニトロ化合物、ヘキサミン、p−ニトロソジメチルアニリン、アミンオキシドを用いて酸化する方法、(3)ベンジル位をモノハロゲン化後、加水分解によりベンジルアルコールとし、さらにクロム酸、活性二酸化マンガン、ジメチルスルホキシド、オキソアンモニウム塩等の酸化剤により酸化する方法、(4)ベンジル位をジハロゲン化した後、酸性またはアルカリ性で加水分解する方法等が知られている。
【0004】
たとえば、特開平9−87266号公報には、メチルベンジルハライドを金属無機塩基および水を用いてベンジルアルコールを合成し、水層と分離した後、ニトロキシルラジカル誘導体の存在下、次亜ハロゲン酸を用いて酸化することによりトルアルデヒドを製造する方法が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、(1)および(2)の方法は、収率的に満足のいくものではなかった。(3)および(4)の方法は、用いる試薬をうまく選択すれば、収率の問題もなく工業的には優れているが、ベンジル位のハロゲン化、またはジハロゲン化の工程に問題があった。
【0006】
臭素化を例にあげた場合、ベンジル位の臭素化を、工業的に安価な臭素を用いて直接行うと、モノ置換体、ジ置換体等混合物を与えそれらの分離も困難であることが知られている。一方、N−ブロムコハク酸イミド(NBS)は、ベンジル位の臭素化剤として最も優れており、NBSの量を調整することにより、モノブロム体、ジブロム体を選択的に製造できることが知られているが、試薬自体が高価でありしかも再利用が困難であることから工業的に用いることは困難であるという問題があった。また、たとえNBSの量を調整したとしても、工業的なスケールの製造において、完全に反応を制御することは不可能であるという問題もあった。
【0007】
本発明は、安価で大量に入手可能なトルエン誘導体から、工業的に有利なアルデヒドの製造方法を確立することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、工業的に安価な臭素等のハロゲン化剤を用いてトルエン誘導体を直接ハロゲン化して得られるものハロゲン化物、ジハロゲン化物の混合物を分離することなく用いても、最終的に芳香族ケトン、またはアルデヒドを収率よく得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)無置換または置換ベンジルハライドおよび無置換または置換ベンザルハライドの混合物を加水分解後、単離することなく酸化することを特徴とする芳香族ケトンまたはアルデヒドの製造方法、
(2)無置換または置換ベンジルハライドおよび無置換または置換ベンザルハライドの混合物を、C1〜C6有機酸金属塩と反応させ、単離することなく加水分解を行い、単離することなくさらに酸化させることを特徴とする芳香族ケトンまたはアルデヒドの製造方法、
(3)置換ベンジルハライドおよび置換ベンザルハライドの核置換基の少なくとも1つが電子吸引基であることを特徴とする(1)または(2)に記載の製造方法、
(4)塩基性条件下加水分解することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法、
(5)ニトロキシルラジカルの存在下酸化することを特徴とする(1)〜(4)ののいずれかに記載の製造方法、
(6)ニトロキシルラジカルを触媒とし、他の酸化剤を用いて酸化することを特徴とする(1)〜(4)に記載の製造方法、
(7)無置換または置換ベンジルハライドおよび無置換又は置換ベンザルハライドの混合物を、無置換または置換トルエンをハロゲン化することにより製造することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法、
に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、芳香族ケトン又は芳香族アルデヒドの製造方法において、無置換または置換ベンジルハライドおよび無置換または置換ベンザルハライドの混合物を加水分解後、単離することなくさらに酸化することを特徴とする。
【0011】
本発明に用いる置換ベンジルハライド、置換ベンザルハライドにおける置換基は、芳香環上、またはベンジル位の置換基を表すが、ベンジル位はケトンに誘導するためモノ置換に限る。芳香環上の置換基は特に制限されず、具体的には、芳香族基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アセチルオキシ基、フェノキシ基等のエーテル結合を有する基、ホルミル基、エステル基、カルボン酸基、アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基を有する置換基、アミノ基、ニトロ基、メチルチオ基、メチルスルフィニル基、メチルスルホニル基等の硫黄原子を有する基、複素環基等を例示することができる。
【0012】
モノハライドおよびジハライドは、後述するように一般的にトルエン誘導体をハロゲン化することによって製造され、その場合、モノハライド、ジハライドが混合物として得られてくる場合が多く、特に芳香環内に直接ヘテロ原子を有する場合、または芳香環上に電子吸引基を有する場合には、メチル基が電子吸引効果により活性化されているため、ハロゲン化工程においてモノハライドとジハライドの生成を制御することが困難であることから本発明の方法を好適に用いることができる。
【0013】
ベンジル位の置換基は、ヘテロ原子、ハロゲン原子以外の置換基であれば特に制限されず、具体的には、芳香族基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭化水素基、ホルミル基、エステル基、カルボン酸基、アセチル基、ベンゾイル基等のカルボニル基を有する置換基、複素環基等を例示することができる。
ハライドは、フッ素以外は特に制限されず、塩素体、臭素体、ヨウ素体いずれも使用することができるが、製造しやすさ、加水分解のしやすさ、取り扱い等を考慮した場合、臭素体が好ましい。
【0014】
また、本発明において用いる「ベンジル」および「ベンザル」は、芳香環にメチレン基、メチン基が結合した構造を表し、芳香環には複素環を含むものとする。加水分解は、酸性条件、塩基性条件下いずれにおいても行うことができるが、塩基性条件下行うのが好ましい。酸性条件として例えば、濃硫酸等を用いる場合等を例示することができる。塩基性条件としては、金属無機塩を用いるのが好ましく、具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属重炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属水酸化物等を例示することができる。
【0015】
用いる量は、モノハライドおよびジハライドの混合比によって異なるが、各ハロゲン原子1モルに対して1当量以上であれば特に制限されず、1〜5当量の範囲が好ましい。
【0016】
加水分解に用いる溶媒としては、水が好ましく、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、グライム、ジグライム、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド等の親水性の溶媒を併用することもできる。また、水とトルエンまたはクロロベンゼン等の二層系で反応を行うこともでき、さらに適当な相間移動触媒を用いることもできる。
【0017】
反応温度は、室温から用いる溶媒の沸点の範囲で行うことができ、水を単独で溶媒に用いた場合、80〜100℃で反応を行うことが好ましい。また、芳香環上に電子吸引基を有するベンジルハライドを用いた場合、生成するベンジルアルコールとベンジルハライドが反応してジベンジルエーテルが副生するため、先に示した親水性の溶媒と水の混合溶媒を用いて室温から80℃以下の低温で反応を行うのが好ましい。
【0018】
得られたベンジルアルコールを酸化してアルデヒドを得る工程において、酸化方法は特に制限されず、具体的には、酸化クロム、二クロム酸、クロム酸エステル、塩化クロミル、クロロクロム酸ピリジニウム(PCC)、二クロム酸ピリジニウム(PDC)等を用いるクロム酸酸化法、活性二酸化マンガンによる酸化、ジメチルスルホキシド(DMSO)−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、DMSO−酸無水物、DMSO−酸塩化物、DMSO−塩素、DMSO−N−クロロコハク酸イミド(NCS)等を用いるDMSO酸化法、ニトロキシルラジカルによる酸化法、ニトロキシルラジカルを触媒に用いてハロゲン化銅、酸素、亜臭素酸ナトリウム等の酸化剤を用い酸化法等例示することができる。
【0019】
中でも、ニトロキシルラジカル存在下、酸化する方法が好ましい。この場合、ニトロキシルラジカルをベンジルアルコールに対して当量またはそれ以上用いて酸化を行うこともできるが、ニトロキシルラジカルを触媒に用い、例えばハロゲン化銅、酸素、亜臭素酸ナトリウム、N−クロロコハク酸イミド(NCS)、次亜ハロゲン酸,次亜ハロゲン酸塩等の他の酸化剤用いて酸化する方法が好ましく、中でも、ニトロキシルラジカルを触媒に用い、次亜ハロゲン酸または次亜ハロゲン酸塩を用いて酸化する方法が好ましい。ニトロキシルラジカルは、対応するヒドロキシルアミンを酸化銀で酸化することで、または、アミンを過酸等で酸化することで得ることができるが、取り扱いや、入手の容易さを考慮すると下記式(I)で表されるニトロキシルラジカル(式(I)中、Rは、水素原子、アシロキシ基、アルコキシ基、またはアラルキルオキシ基を表す。)を用いるのが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
式(I)中、Rとして具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ベンゾイルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンジルオキシ基等を例示することができる。用いる量は、特に制限されないが、ベンジルアルコールまたはその前駆体であるモノハライドおよびジハライド混合物に対して、0.001〜5.0モル%、好ましくは、0.01〜1.0モル%の範囲である。
【0022】
また、次亜ハロゲン酸として具体的には、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸等を例示でき、用いる量は、被酸化体であるベンジルアルコール体に対して1〜1.5当量、好ましくは、1.05〜1.2当量の範囲である。
【0023】
次亜ハロゲン酸は、市販のものをそのまま使用することもできるが、対応する塩に、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、トルエンスルホン酸等の有機酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸塩、フタル酸水素カリウム等の次亜ハロゲン酸塩と反応して次亜ハロゲン酸を発生させる化合物を添加して反応系内で発生させて用いることができる。これら、次亜ハロゲン酸塩化合物と反応して次亜ハロゲン酸を発生させる化合物の使用量は、次亜ハロゲン酸塩化合物に対して5〜25mol%の範囲で使用するのが好ましく、そのまま使用することも、また、水に溶解もしくは希釈して使用することができる。
【0024】
上記次亜ハロゲン酸に対応する塩として、また、酸化剤としての次亜ハロゲン酸塩として、具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、次亜ヨウ素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜ヨウ素酸カリウム等を例示することができ、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸塩が、工業的にも入手が可能であることから好ましく用いることができる。
【0025】
次亜塩素酸化合物のうち、次亜塩素酸ナトリウムは、12〜13%濃度の水溶液の形で安価に多量に入手することができ、取り扱いが容易であるので特に好ましい。次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を使用する場合、市販されている水溶液をそのまま使用することも、適宜希釈して用いることもできる。また、さらし粉等の固体で入手できる場合、固体のまま使用することも、あるいは、水に溶解して5〜20%の範囲の濃度に調整して使用することもできる。
【0026】
反応に用いる溶媒は、酸化反応に対して不活性な溶媒であれば特に制限されず、具体的には、塩化メチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘキサン等の脂肪族または芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒等を例示することができ、中でもハロゲン系溶媒を好ましく用いることができる。
【0027】
反応は、−5〜50℃の範囲で行うのが好ましく、次亜塩素酸の反応系での安定性を考慮すると、0〜30℃の範囲であるのがより好ましい。
反応方法は特に限定されないが、例えば、所定量のベンジルアルコール、ニトロキシルラジカル、必要に応じて次亜ハロゲン酸塩化合物と反応して次亜ハロゲン酸を発生させる化合物および必要に応じて溶媒を混合して所定の温度とし、この混合溶媒に、次亜ハロゲン酸塩を少量ずつ添加する方法を例示することができる。
【0028】
また本発明は、芳香族ケトンまたはアルデヒドの製造方法において、無置換または置換ベンジルハライドおよび無置換または置換ベンザルハライドの混合物を、C1〜C6有機酸金属塩と反応させ、単離することなく加水分解を行い、単離することなくさらに酸化させることを特徴とする。
【0029】
特に芳香環上に電子吸引基を有するベンジルハライドを用いた場合に、直接ハライドの加水分解を行うと、生成するベンジルアルコールとベンジルハライドが反応してジベンジルエーテルが副生する場合があるため、ハライドを一旦有機酸エステルとしその後加水分解を行うことで、上記副反応を制御することができる。
【0030】
C1〜C6の有機酸として具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、吉草酸等を例示することができ、金属塩として具体的にはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等を例示することができる。
【0031】
有機酸金属塩による置換反応に用いられる溶媒としては特に制限されないが、水が好ましく、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、グライム、ジグライム、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド等の親水性の溶媒を併用することもできる。また、水とトルエンまたはクロロベンゼン等の二層系で反応を行うこともでき、さらに適当な相間移動触媒を用いることができる。
【0032】
その後加水分解反応は、酸性条件、塩基性条件下いずれにおいても行うことができるが、塩基性条件下行うのが好ましい。酸性条件として例えば、濃硫酸等を用いる場合等を例示することができる。塩基性条件としては、金属無機塩を用いるのが好ましく、具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属重炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属水酸化物等を例示することができる。
用いる量は、モノハライドおよびジハライドの混合比によって異なるが、各ハロゲン原子1モルに対して1当量以上であれば特に制限されず、1〜5当量の範囲が好ましい。
【0033】
加水分解に用いる溶媒としては、水が好ましく、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、グライム、ジグライム、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド等の親水性の溶媒を併用することもできる。また、水とトルエン、クロルベンゼン等の二層系で反応を行うこともでき、更に適当な相間移動触媒を用いることもできる。
【0034】
加水分解後、得られたベンジルアルコールは、上述した方法と同様の方法で酸化反応を行い、目的とするアルデヒド体を得ることができる。
このようにして得られたアルデヒド体は、有機合成反応において行われる通常の単離、精製操作により単離・精製することができる。
【0035】
また、本発明は、各反応工程において、単離操作を行うことなく連続的に反応を行うことができる。「連続的」とは、1つの反応終了後に何ら操作を行うことなく次ぎの反応に用いる試薬を添加して反応を行う操作、1つの反応終了後に有機溶媒に目的物の抽出を行い、分液後、有機溶媒層をそのまま次工程に用いる、または溶媒置換して用いる操作、いずれの場合をも含む。この際、用いる反応槽は1以上であれば、特に制限されない。
【0036】
本発明に用いる無置換または置換ベンジルハライドおよび無置換又は置換ベンザルハライドの製造方法は特に制限されず、例えば、光、過酸化物、ラジカル開始剤の存在下、塩素、臭素、ヨウ素、塩化スルフリル、NBS、N−クロロコハク酸イミド(NCS),次亜ハロゲン酸t−ブチル等のハロゲン化剤を用いて、対応するトルエン誘導体をハロゲン化することにより得ることができ、芳香環核置換が起こらないように金属塩を除くためにエチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)等のキレート剤を添加することもできる。本発明の方法は、上記方法で得られたハライドに対して好適に用いることができる。モノハライドとジハライドの混合物は、再結晶、蒸留等で精製された残渣で、モノ体、ジ体の分離がこれ以上不可能とされている混合物をも用いることもできる。モノハライド体とジハライド体の混合比は特に制限されず、あらゆる混合比の混合物に本発明を適用することができる。
【0037】
ブロム体を工業的に製造する場合、ハロゲン化剤としては、取り扱い、価格の点で臭素が一番好ましいが、モノブロム体を得ようとしてもジブロム体の生成を制御することが困難であり、さらにトルエン誘導体に対して1当量以下の臭素を用いたとしてもジブロム体の生成を抑えることができない。従って、従来はこの段階でモノブロム体とジブロム体を分離する工程を入れる必要があり工業的な製造方法として不適切であると考えられていたが、本発明においてはこの段階で分離することなく加水分解、酸化の工程に用いることができ、最終的に単一の芳香族ケトンまたはアルデヒドとして得ることが可能となった。
【0038】
以下実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、実施例に限定されるものではない。
【0039】
【実施例】
参考例1
2−メトキシ−4−ニトロトルエン(MNT)16.7g(0.1mol)とモノクロロベンゼン100mlの溶液に水30mlと2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.16g(1mol%)(AIBN)を加えて、85℃に攪拌下昇温した。同温度で臭素22.4g(0.14mol)を含むモノクロロベンゼン溶液40mlを2時間かけて滴下した。反応終了後、室温まで冷却し水層と有機層を分液し、有機層に水30mlを加え、28%NaOH水溶液でpHを10〜11に調節し洗浄した。有機層をさらに30mlの水で洗浄した後、モノクロロベンゼンを減圧下濃縮留去し、残渣を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、2−メトキシ−4−ニトロベンジルブロマイド(MNBr)17g(収率69%)、2−メトキシ−4−ニトロベンザルブロマイド(MNBr2)7.3g(収率22.5%)を含有していた。
【0040】
実施例1
参考例1で得られた混合物にギ酸ソーダ8.16g(0.12mol)と水50mlを加えて100℃に昇温した。昇温後、反応液のpHを4.5〜5.5になるように調節し、8時間反応を行なった。その後80℃まで温度を下げて、炭酸ソーダ5.1g(0.048mol)を加えて85〜90℃で5時間加熱した後、室温まで冷却しモノクロロベンゼン150mlで抽出した。モノクロロベンゼン層をHPLCで分析したところ、2−メトキシ−4−ニトロベンジルアルコール(MNA)12.5g(収率68%:MNTを基準),2−メトキシ−4−ニトロベンズアルデヒド(MNBA)体4.0g(収率22%:MNTを基準)を含有していた。
次に上記MNAとMNBAの混合物を含有したモノクロルベンゼン溶液に10%NaHCO3水溶液を60ml加えた。この溶液に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシド(TEMPO)を0.1g(1mol%)と12%次亜塩素酸ナトリウム水溶液45ml(0.076mol)を添加して20〜25℃にて2時間攪拌した。反応終了後、有機層と水層を分液して、減圧下にモノクロルベンゼンを濃縮・留去してベンズアルデヒド体15.4g(収率85%:MNTを基準)を得た。
【0041】
実施例2
参考例1で得られた混合物10.3g(MNBr:7.21g,MNBr2:3.09g)にNaHCO38.3g(0.099mol)と水30mlを加えて95〜100℃で7時間加熱した。反応完結後冷却し、モノクロルベンゼン30mlにて抽出した。抽出したモノクロルベンゼン層をHPLCで分析したところ、MNA3.5g(収率45%:MNTを基準)とMNBA1.0g(収率13%:MNTを基準)を含有していた。
上記のようにして得たMNAとMNBAのモノクロルベンゼン溶液にTEMPOを0.03g添加し、10%次亜塩素酸ナトリウム水溶液14.9g(0.020mol)を滴下した。室温にて1時間反応完結後、水50mlにて水洗後、モノクロルベンゼン溶液をHPLCで分析したところ、MNBA4.21g(収率55%:MNTを基準)を含有していた。
【0042】
参考例2
参考例1で得られた混合物14.4g(MNBr:10.1g,MNBr2:4.3g)に酢酸ソーダ5.1g(0.075mol)と水50mlを加えて100℃に加熱した。反応完結8時間後、炭酸ソーダ5.31g(0.05mol)を加え、さらに20時間加熱還流した。その後室温まで冷却し酢酸エチル100mlと水50mlを加え抽出した。酢酸エチル層をHPLCで分析したところ、MNA5.0g(収率46%:MNTを基準)とMNBA0.8g(収率7%:MNTを基準)を含有していた。
【0043】
参考例3
炭酸水素ナトリウム17.3gを含むアセトニトリル−水(1:1;容積比)の混合溶媒480mlにMNBr27.9gとMNBr215.0gの混合物を室温にて加えた。この溶液を77℃に加熱し、HPLCで原料が消失するまで反応を続けた。反応終了後、この溶液をHPLCにて定量分析を行ったところ、MNA20.2g(収率99%:MNBrを基準)とMNBA8.2g(収率98%:MNBr2を基準)を含有していた。
【0044】
参考例4
炭酸ナトリウム4.4gを含むアセトニトリル−水(1:1;容積比)の混合溶媒240mlにMNBr15.3gとMNBr25.4gの混合物を室温にて加えた。この溶液を77℃に加熱し、HPLCで原料が消失するまで反応を続けた。反応終了後、減圧濃縮してアセトニトリルを留去し、酢酸エチル100mlを加えて抽出した。有機層を濃縮してこの溶液をHPLCにて定量分析を行ったところ、MNA20.2g(収率95%:MNBrを基準)とMNBA3.0g(収率98%:MNBr2を基準)を含有していた。
【0045】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の方法を用いることにより、トルエン誘導体より途中単離操作を行うことなく連続して反応を行い、目的とする芳香族ケトンまたはアルデヒドを収率よく製造することが可能となった。また、モノハロゲン体とジハロゲン体を分離することなく混合物として用いることが可能となったことより、従来用いることが困難であった臭素等をハロゲン化剤として用いることが工業的に可能となった。
Claims (6)
- 無置換または下記の置換基群Aから選ばれる置換基を有するベンジルハライドおよび無置換または下記の置換基群Aから選ばれる置換基を有するベンザルハライドの混合物を塩基性条件下で加水分解後、単離することなく酸化することを特徴とする芳香族ケトンまたはアルデヒドの製造方法。
置換基群A:ベンジル位の置換基は炭化水素基、芳香環上の置換基は、炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アセチルオキシ基、フェノキシ基、ホルミル基、エステル基、カルボン酸基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、ニトロ基、メチルチオ基、メチルスルフィニル基、メチルスルホニル基および複素環基 - 無置換または下記の置換基群Aから選ばれる置換基を有するベンジルハライドおよび無置換または下記の置換基群Aから選ばれる置換基を有するベンザルハライドの混合物を、C1〜C6有機酸金属塩と反応させ、単離することなく塩基性条件下で加水分解を行い、単離することなくさらに酸化させることを特徴とする芳香族ケトンまたはアルデヒドの製造方法。
置換基群A:ベンジル位の置換基は炭化水素基、芳香環上の置換基は、炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アセチルオキシ基、フェノキシ基、ホルミル基、エステル基、カルボン酸基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、ニトロ基、メチルチオ基、メチルスルフィニル基、メチルスルホニル基および複素環基 - 置換基を有するベンジルハライドおよび置換基を有するベンザルハライドの核置換基の少なくとも1つがハロゲン原子、ホルミル基、カルボン酸基、アセチル基、ベンゾイル基およびニトロ基から選ばれる電子吸引基であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
- ニトロキシルラジカルの存在下、酸化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- ニトロキシルラジカルを触媒とし、他の酸化剤を用いて酸化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- 無置換または置換基を有するベンジルハライドおよび無置換又は置換基を有するベンザルハライドの混合物を、無置換または置換基を有するトルエンをハロゲン化することにより製造することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
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