本発明の磁気抵抗効果素子は、第1電極層及び第1磁性層を含む第1積層体と、第2電極層及び第2磁性層を含む第2積層体とを備えている。そして、前記第1磁性層及び前記第2磁性層のそれぞれの表面に複数の凸部が形成されており、前記第1磁性層の前記凸部と前記第2磁性層の前記凸部とが複数の微小接点において互いに接触することによって前記複数の微小接点を通過する互いに並列な複数の微小電流路が形成されるように、前記第1積層体と前記第2積層体とが対向配置されている。さらに、前記第1積層体が、前記第1電極層を挟んで前記第1磁性層と対向しておりかつ複数の凸部が表面に形成された基板をさらに含んでいる。
上記構成によると、第1磁性層とこれと微小接点において直接接触した第2磁性層とに跨るように微小電流路が形成されているために、微小接点近傍に磁壁を形成することができる。したがって、磁壁の有無によって大きな磁気抵抗効果を得ることができる。また、複数の微小電流路が互いに並列に形成されていることによって、2つの電極層の間を流れる電流が複数の微小電流路に分流するために、微小電流路が一つだけの場合に比べて素子抵抗を小さくすることができる。したがって、微小電流路に流れるジュール熱で素子が破壊されるのを抑止することができる。さらに、2つの磁性層と2つの電極層とが積層された構造を有しているために、従来のMR素子(GMR素子やTMR素子)の製造に用いられる薄膜形成プロセス、すなわち、基板上に薄層を順次積層する方法を用いて磁気抵抗効果素子を量産することが可能になる。
しかも、第1磁性層及び第2磁性層のそれぞれの表面に複数の凸部が形成されており、第1磁性層の凸部と第2磁性層の凸部とが複数の微小接点において互いに接触することによって複数の微小接点が形成されている。これにより、微小電流路を容易に形成することができる。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記第1積層体が、前記基板と前記第1電極層との間に形成された第1シード層をさらに備えていることが好ましい。上記構成により、基板と第1電極層との密着性を高めることができる。また、シード層上に形成される各層の結晶粒径や結晶構造、表面粗度を制御することができる。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記微小接点の周囲が絶縁体で覆われていることが好ましい。これによると、微小接点が大気に触れることによって生じる微小接点付近の酸化や窒化による劣化を防止することができる。また、放熱性が高まるために耐久性が向上する。この場合、前記絶縁体が、金属酸化物又は金属窒化物であってよい。
この構成によると、第1磁性層とこれと微小接点において直接接触した第2磁性層とに跨るように微小電流路が形成されるために、大きな磁気抵抗効果を得ることができる。また、互いに並列な複数の微小電流路が形成されるので、2つの電極層の間を流れる電流が複数の微小電流路に分流する。したがって、微小電流路が一つだけの場合に比べて素子抵抗を小さくすることができ、微小電流路に流れるジュール熱で素子が破壊されるのを抑止することができる。さらに、従来のMR素子(GMR素子やTMR素子)を製造するときと同様に基板上に薄層を順次積層するので、量産が可能となる。
この場合、前記微小電流路を形成する工程において、前記第1電極層と前記第2電極層との間を流れる電流値が最適となるように調整しつつ前記第1磁性層と前記第2磁性層とを互いに接近する方向に押圧することが好ましい。これによって、第1磁性層と第2磁性層との間に確実に微小接点を形成することができるため、良品率を高くすることができる。
この構成によると、第1磁性層とこれと微小接点において直接接触した第2磁性層とに跨るように微小電流路が形成されるために、大きな磁気抵抗効果を得ることができる。また、互いに並列な複数の微小電流路が形成されるので、2つの電極層の間を流れる電流が複数の微小電流路に分流する。したがって、微小電流路が一つだけの場合に比べて素子抵抗を小さくすることができ、微小電流路に流れるジュール熱で素子が破壊されるのを抑止することができる。さらに、従来のMR素子を製造するときと同様に基板上に薄層を順次積層するので、量産が可能となる。加えて、積層体を第1磁性層上に配置する必要がなく一連の層形成工程だけで製造可能であるために、容易かつ短時間での製造が可能となる。
この場合、前記第1磁性層の前記凸部を被覆する絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層の一部を除去して、前記第1磁性層の前記凸部を部分的に前記絶縁層から露出させる工程とをさらに備えていてよい。これによると、ナノオーダーの微小接点を極めて簡易に形成することができると共に、微小電流路が絶縁層によって覆われた構造を容易に形成することができる。
前記絶縁層をエッチング又は逆スパッタによって除去すると、真空チャンバ内で微小接点を形成することができるので、製造過程における微小接点の劣化を抑えることができる。
あるいは、この場合、前記第1磁性層を被覆する絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層の一部を除去して、前記第1磁性層を部分的に前記絶縁層から露出させる工程とをさらに備えていてよい。これによると、ナノオーダーの微小接点を極めて簡易に形成することができると共に、微小電流路が絶縁層によって覆われた構造を容易に形成することができる。
この構成によると、第1磁性層とこれと微小接点において直接接触した第2磁性層とに跨るように微小電流路が形成されるために、大きな磁気抵抗効果を得ることができる。また、互いに並列な複数の微小電流路が形成されるので、2つの電極層の間を流れる電流が複数の微小電流路に分流する。したがって、微小電流路が一つだけの場合に比べて素子抵抗を小さくすることができ、微小電流路に流れるジュール熱で素子が破壊されるのを抑止することができる。さらに、従来のMR素子(GMR素子やTMR素子)を製造するときと同様に基板上に薄層を順次積層するので、量産が可能となる。さらに、ナノオーダーの微小接点を極めて簡易に形成することができると共に、微小電流路が絶縁層によって覆われた構造を容易に形成することができる。しかも、絶縁層の一部を除去する工程が不要であるために、簡易に製造することが可能である。
この場合、前記高表面粗度膜の下地層に対して、前記下地層の濡れ性を低下させる前処理を施す工程をさらに備えており、前記高表面粗度膜を形成する工程において、Al、Zn、Ag、In、Sn及びPbからなる群より選択された一又は複数の低融点金属材料からなる前記高表面粗度膜を形成することが好ましい。これによると、高表面粗度膜の下地層の表面エネルギーが高くなる。そのため、続いて形成される低融点金属材料からなる高表面粗度膜の表面が基板主面法線方向にアスペクト比の高い凹凸形状となり、微小接点を形成しやすくなる。
あるいは、この場合、前記高表面粗度膜の下地層上に表面の濡れ性を前記下地層よりも低下させる膜を形成する工程をさらに備えており、前記高表面粗度膜を形成する工程において、Al、Zn、Ag、In、Sn及びPbからなる群より選択された一又は複数の低融点金属材料からなる前記高表面粗度膜を形成することが好ましい。これによると、高表面粗度膜の下地層の表面エネルギーが高くなる。そのため、続いて形成される低融点金属材料からなる高表面粗度膜の表面が基板主面法線方向にアスペクト比の高い凹凸形状となり、微小接点を形成しやすくなる。さらに、高表面粗度膜の下地層を大気暴露する必要がないために、容易かつ短時間での製造が可能となる。
前記低融点金属材料は、99.9%以上の純度を有していることが好ましい。これによると、低融点金属材料が凝集しやすくなり、高表面粗度膜の表面がよりアスペクト比の高い凹凸形状となる。なお、さらに低融点金属材料を凝集させるために、前記低融点金属材料は、99.99%以上の純度を有していることが好ましく、99.999%以上の純度を有していることがより好ましい。
<第1実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子を示す模式断面図である。図1において、2つの積層体1、2を互いに接合するための樹脂接着剤の図示を省略している(後述する第2〜第7実施形態においても同様)。
図1に示すBMR素子10は、積層体1と積層体2とが対向配置されたものである。積層体1において、基板1aの上面には、シード層1b、電極層1c、高表面粗度膜1d、磁性層1eが、この順に形成されている。積層体2において、基板2aの下面には、シード層2b、電極層2c、高表面粗度膜2d、磁性層2eが、この順に形成されている。積層体1と積層体2とは、磁性層1eと磁性層2eとの接触位置(多数の微小接点3)の平均位置を中心に対称配置されている。電極層1c及び電極層2cには、両者間に電圧を印加するための電源4が配線を介して接続されている。
基板1a、2aとしては、表面粗度の小さなものが望ましい。具体的には、Si基板や表面を熱酸化処理したSi基板、Al2O3(アルミナ)基板、MgO基板などを基板1a、2aとして用いることができる。また、基板1a、2aは、その上に形成される各層の応力で変形しないように、0.3mm以上の厚さを有している。
シード層1b、2bは、基板1a、2aと電極層1c、2cとの密着性を高める目的、又は、シード層1b、2b上に形成される種々の層の結晶粒径や結晶構造、表面粗度を制御するために形成されるものであって、例えば、Ta,Ti,Ru,Cr,Ni,Fe及びCoを一又は複数含む金属材料を用いることができる。
電極層1c、2cは、BMR素子10の外部から電圧を印加することで、電流(電子)をBMR素子10の積層方向に流すために用いられる。電極層1c、2cを構成する材料としては、電気抵抗の低い材料、例えば、Cu,Ag,Auやこれらの元素を含む金属材料が適している。
高表面粗度膜1d、2dは、これらの下地層となる電極層1c、2cの表面よりも表面粗度が大きい膜であり、電極層1c、2cの表面よりも磁性層1e、2eに対する濡れ性の悪い(表面張力が大きい)材料からなる。高表面粗度膜1d、2dを構成する材料としては、高純度かつ低融点の金属を用いることが望ましい。具体的には、高表面粗度膜1d、2dは、純度99.999%以上のAl、Zn、Ag、In、Sn、Pbに代表される低融点の金属が、不純物の少ない雰囲気中で電極層1c、2c上に成膜されたものである。
電極層1c、2cの表面に対しては、高表面粗度膜1d、2dに対する濡れ性を低下させる前処理が施されている。これによって、高表面粗度膜1d、2dがより表面粗度の大きな層となっている。ここで言う前処理とは、例えば、(1)電極層1c、2cが形成された基板1a、2aを大気暴露する、(2)酸素雰囲気又は窒素雰囲気に曝す、(3)酸素雰囲気又は窒素雰囲気中で生成したプラズマに曝す、のいずれかの処理のことである。これらの前処理のうち一つ又は複数の処理を組合せて行い、電極層1c、2cの表面に、酸素、窒素又は水分を吸着させるか、電極層1c、2cの極表層部を酸化物又は窒化物にすることによって、表面粗度の大きな電極層1c、2cを実現できる。このような表面の前処理を行った表面エネルギーの高い電極層1c、2c上に高表面粗度膜1d、2dとして、低融点金属(Al、Zn、Ag、In、Sn、Pb等)が形成されているので、基板主面法線方向にアスペクト比の高い凹凸形状となった表面を有し、電極層1c、2cの表面よりも大きな表面粗度の高表面粗度膜1d、2dが形成されている。
高表面粗度膜1d、2dは、電極層1c、2c表面上において連続した層である必要はない。すなわち、電極層1c、2c表面上において島状に成長し、島同士が部分的に、又は完全に接触していない状態であっても構わない。また、高表面粗度膜1d、2dの表面粗度は、算術平均粗さRaが1.0nm以上であることが特に望ましい。以下の説明中でも同様である。
磁性層1e、2eの表面には、高表面粗度膜1d、2dの表面の凹凸形状を反映して、多数の凸部が形成されている。そして、磁性層1e、2eの互いの凸部同士が、多数の微小接点3において接触している。この微小接点3は、電子がバリスティックな伝導をする微小電流路の一部となっている。つまり、BMR素子10には、互いに並列な多数の微小電流路が形成されている。図1は、BMR素子10を模式的に示したものであって、実際のBMR素子10において図示されているような微小接点3が形成されているわけではない。すなわち、磁性層1e、2eの互いの凸部同士が接触して微小接点3を形成している箇所と、磁性層1e、2eの互いの凸部同士が接触していない箇所とが存在していても構わない。
磁性層1e、2eは、微小接点3を挟んで平行又は反平行な磁化状態を作り、微小接点3を通過する電子に対する抵抗を制御するための層であり、例えば、Ni,Co,Fe,CoFe,CoFeNi,NiFe,CoFeB,CoPt,CoFePt等の金属、又はスピン偏極率の大きな材料であるハーフメタル材料等を用いて形成することができる。
なお、磁性層1e、2eは、微小接点3付近だけが局所的に磁性体化したものであってもよい。つまり、磁性層1e、2eは、必ずしもバルクや薄層の状態において磁性体でなくても構わない。
磁性層1eが磁化反転する際の磁界の大きさは、磁性層2eが磁化反転する際の磁界の大きさと相違している。つまり、磁性層1eは、磁性層2eとは異なる保磁力を有している。このような構成は、(1)磁性層1eと磁性層2eとを保磁力の異なる材料で形成する、(2)磁性層1eの膜厚や面積を磁性層2eとは異なるものとする、(3)磁性層1e及び磁性層2eのいずれか一方の磁性層に接して、又は、非磁性体を挟んで、磁性層に一方向異方性を与える層(例えば反強磁性体層や、反強磁性体と強磁性体とが積層された層)を形成する、のいずれかによって実現されている。このように、磁性層1eと磁性層2eとは、磁化反転するときの磁界の大きさが異なる状態、すなわち、「見かけ上の保磁力が異なる状態」になっている。
上記の磁性層1eと磁性層2eのうち、見かけ上の保磁力が小さい方を磁化自由層とし、これを磁化反転させることによって磁気抵抗効果を得るが、上記磁化反転は、磁化自由層の保磁力よりも大きな外部磁界を印加し、この外部磁界の印加方向を反転させることによって実現できる。または、高い電流密度を有する電流を素子に瞬間的または連続的に加えることで、外部磁界無しで磁化反転を行う、いわゆる電流注入磁化反転によって実現するものであっても良い。
微小接点3においてバリスティックな電子伝導を生じさせるために、磁性層1e、2e中の不純物は、できるだけ少ないことが望ましい。このために、磁性層1e、2eの材料として純度が99.999%以上の材料が選択されており、かつ、磁性層1e、2eは不純物の少ない雰囲気中で形成されている。
次に、図1に示すBMR素子10の製造方法について説明する。図2は、BMR素子10の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、以下の文中に示す膜厚は、基板上に各材料の層を100nm程度の厚さで形成し、触針式段差計を用いてその厚さを測定し、測定された厚さと成膜時間とから算出した成膜レートを基に算出されたものである。また、以下に示すマグネトロンスパッタリング装置は、Cu,Al,NiFe、NiCrFeをターゲットとして有する成層チャンバを備えたものであり、各層は、いずれもArガス雰囲気中でDCスパッタリングによって形成する。Alターゲットには純度99.999%のものを用いる。
まず、基板1aとして表面を熱酸化処理したSi基板を用い、上述のスパッタリング装置内で1×10-6Paまで真空引きした後、Arガスを導入し、1×10-1PaのAr雰囲気中でNiCrFeターゲットに給電し、NiCrFeからなるシード層1bを5nmの厚さで基板1a上に形成する(図2(a))。
続いて、Cuターゲットに給電し、Cuからなる電極層1cを100nmの厚さでシード層1b上に形成する。電極層1cは、算術平均粗さRaが0.3nmの比較的平坦な表面を有している(図2(b))。
次に、高表面粗度膜1dを形成する前に、上述した3つの前処理(1)〜(3)の1つとして基板1aを一旦大気暴露することで、電極層1c上に、水分、酸素、窒素からなる不純物を付着させた後、再度スパッタリング装置に入れて1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でAlターゲットに給電し、Alからなる高表面粗度膜1dを厚さ5nmで電極層1c上に形成する。このとき、高表面粗度膜1dの表面は平均粒径が30nm、算術平均粗さRaが1.1nmの凹凸形状をしており、電極層1cの表面粗度よりも大きな表面粗度を有している(図2(c))。図3には、高表面粗度膜1dの表面をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)で観察した結果を示す。本実施形態では、低融点金属材料であるAlの純度を99.999%以上としているので、Alが凝集しやすくなり、高表面粗度膜1dの表面に非常に高いアスペクト比の凹凸形状が形成される。
続いて、NiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層1eを厚さ5nmとなるように形成する。このとき、磁性層1eの表面は、高表面粗度膜1dの表面形状を反映し、同じく、平均粒径が30nm、算術平均粗さRaが1.1nmの凹凸形状を有している。このように、磁性層1eの下地層として高表面粗度膜1dを形成することによって、磁性層1eの表面に凹凸形状を容易に形成することが可能となっている。ここまでの工程によって、積層体1が完成する(図2(d))。以上と同様の工程を行うことで、積層体2(ただし、磁性層2eの厚さを3nmとしている)を完成させる。
次に、図4に示す接合装置20を用いて、磁性層1eと磁性層2eとの表面同士を対向させた状態で積層体1と積層体2とを接触させる(図2(e))。接合装置20は、積層体1、2を保持するための保持部材21、22と、保持部材21、22がそれぞれ取り付けられる下板23及び上板24と、下板23と上板24との間の距離を変化させることができる摺動部25、26とを有している。摺動部25、26は、それぞれ、挿入部25a及び挿入部25aが挿入される筒状の被挿入部25b、挿入部26a及び挿入部26aが挿入される筒状の被挿入部26bからなり、下板23と上板24とを平行に保持したまま摺動自在なものである。
ここで、具体的に、積層体1と積層体2とを接触させる方法について述べる。まず、保持部材21に積層体1を、保持部材22に積層体2をそれぞれ磁性層1e、2eが対向するように取り付け、さらに保持部材21を下板23に、保持部材22を上板24にそれぞれ取り付ける。このとき、積層体1と積層体2とは、それぞれの層面のうち平坦な層面同士が平行になっている。したがって、積層体1と積層体2との平坦な層面同士を、平行な状態を保持したままで接近させることができる。次に、電極層1c、2c間を電気回路27で接続する。この電気回路27は、電極層1c、2c間に電圧を印加するための電圧源と、電気回路27を流れた電流量を検出するための電流計とを有している。そして、電極層1cと電極層2cとの間に電圧を印加しながら、電流計で電流値を測定し、接合装置20の摺動部25、26を動作させて、下板23と上板24とを接近させる。印加した電圧と、測定した電流値とから求められる素子抵抗(印加電圧値÷測定電流値)の値が、電子がバリスティックな伝導をする場合の抵抗値であるh/e2オーダー(h:プランク定数、e:電気素量)、すなわち2.58×104Ωオーダー以下となった時点(微小接点3が層面内に形成された時点)で、積層体1と積層体2とを接近させるのを止める。そして、さらに、電極層1c及び電極層2cに、両者間に電圧を印加するための電源4を配線を介して接続する(図2(e)に図示せず)。ここまでの工程によって、図1に示したようなBMR素子10が完成する。
続いて、積層体1、2が接合装置20に保持されている状態において、シード層1b、2b、電極層1c、2c、高表面粗度膜1d、2d及び磁性層1e、2eの側面が完全に被覆されるように、基板1aと基板2aとの間に樹脂接着剤6を塗布する。樹脂接着剤としては、液体樹脂接着剤や、UV硬化樹脂接着剤を用いることができる。そして、樹脂接着剤6を硬化させることによって、積層体1と積層体2とを接合する(図2(f))。樹脂接着剤6は、高表面粗度膜1d、2d及び磁性層1e、2eの側面を完全に被覆しているものの、シード層1b、2b及び電極層1c、2cの側面を被覆していなくてもよい。なお、積層体1及び積層体2を接合装置20に取り付ける前や、積層体1及び積層体2を接合装置20に取り付けた後であって両者を接近させる前に樹脂接着剤6を塗布してもよい。
このように、微小接点3の周囲が樹脂接着剤6に囲まれて固定されているので、大気中の酸素や窒素による微小接点3及びその周辺の変質を抑え、BMR素子10の耐久性を高めることができる。上述した樹脂接着剤6による積層体1、2の接合処理は、以下の各実施形態や各変形例や各参考例においても用いられることが好ましい。
このようにして製造されたBMR素子10において、電極層1cと電極層2cとの間に電圧を印加してBMR素子10に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、20%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
次に、BMR素子10の動作について説明する。BMR素子10においては、磁性層1eと磁性層2eとに保磁力の違いを生じさせている。これにより、2つの磁性層1e及び磁性層2eのうち、保磁力の小さい磁性層は、保磁力の大きな磁性層が磁化反転する磁界よりも小さな磁界で磁化反転する。これによって、2つの磁性層1e及び磁性層2eにおける磁化の反平行状態(磁壁が存在する状態)を実現でき、微小接点付近に電子の伝導を妨げる(電気抵抗を大きくする)磁壁が形成される。
BMR素子10の電極層1cと電極層2cとの間に電源4によって電圧を印加し、電極層1cから電極層2cに向かって層厚方向に電子を移動させると、電極層1cを出た電子は、高表面粗度膜1d、磁性層1eを順に通って微小接点3に到達する。このとき、微小接点3は電子がバリスティックな伝導特性を示す程度、すなわち、10nmから30nm程度の径を有しており、電子は微小接点3を通過して磁性層2eに流入する。磁性層2eに流入した電子は、高表面粗度膜2dを通過して電極層2cに達する。ここで、磁性層1eの磁化方向と磁性層2eの磁化方向とが互いに略平行な場合(磁壁が存在しない場合)、電子は容易に磁性層2eへと入ることができるが、磁性層1eの磁化方向と磁性層2eの磁化方向とが互いに略反平行である場合(磁壁が存在する場合)には、微小接点3近傍又は微小接点3内に生じる磁壁によって電子が抵抗を受け、容易に磁性層2eに流入することができなくなる。このように、BMR素子10は、磁性層1e、2eの磁化方向が互いに略平行であるか、略反平行であるか、すなわち、微小接点3近傍又は微小接点3内に磁壁が有るか無いかによって、大きな素子抵抗変化を生じることになる。なお、伝動電子が電極層2cから電極層1cへ移動するように電圧を印加しても同様の現象を発生させることができる。このように層面に対して垂直に電流が流れるBMR素子を、CPP(Current perpendicular to plane)型のBMR素子という。
BMR素子10は、層厚方向にバリスティックな電子伝導を生じる微小接点3を含みかつ互いに並列な複数の微小電流路が形成された構成となっている。このことにより、BMR素子10は、微小接点3が1個だけ形成されたBMR素子に比べて、微小接点3の個数分電流が流れやすく、素子抵抗が小さい。したがって、各微小接点3で発生するジュール熱を低く抑えることができ、ジュール熱によって素子が破壊されることがない。そのため、BMR素子10は、高密度な磁気記録情報を読み出すべく高周波動作が要求されるために多量のジュール熱を発生する磁気ヘッドとして用いるのに適している。
また、BMR素子10においては、電極層1cと電極層2cとの間を流れる電流が、多数の微小接点3に分散されるため、大きな電流に対する耐性が高い。つまり、微小接点3が1個だけ形成されたBMR素子よりも大きな電流を流すことができるために、BMR素子10によると微小接点3の個数分大きな信号出力が得られる。
さらに、磁性層1eと磁性層2eとが微小接点3において直接接する構成であるため、微小接点3近傍に磁壁を形成することが可能である。このため、磁壁の有無(微小接点3を挟む両側の磁化が互いに平行か反平行か)によって大きな磁気抵抗変化が得られる。
加えて、BMR素子10は、GMR素子やTMR素子に代表される従来のMR素子作製に用いられる薄層形成プロセス、すなわち、基板上に薄層を順次積層する方法を用いて形成できる。したがって、容易に量産可能であって、ハードディスクに代表される磁気記録媒体の記録情報を読み出す再生用磁気ヘッドとして好適なBMR素子を大量に供給することが可能となる。
さらに、積層体1上に積層体2を配置すると共に、接合装置20を用いて2つの電極層1c、2c間の電流値を測定しながら素子抵抗値が最適となるように積層体1と積層体2との離隔距離を調整しているので、電子がバリスティックな伝動特性を示す微小電流路3を磁性層1eと磁性層2eとの間に確実に形成することができ、良品率を高くすることができる。
また、本実施形態によるBMR素子10は、例えば反強磁性体を用いた磁化固定層を容易に積層形成することができる構造を有しているので、高いMR比が得られるスピンバルブ型のBMR素子を実現することが可能であるという利点がある。
さらに、2つの電極層1c、2cが形成されているので、容易な電極取り出しが可能である実用的なBMR素子10となっている。
本実施形態のBMR素子10の変形例の一つとして、図5に示すBMR素子30が挙げられる。このBMR素子30は、電極層31c、32cが、シード層31b、32b上だけではなく、それぞれ、基板31a及びシード層31bの側面、基板32a及びシード層32bの側面をも被覆するように凹形状に形成されている点において、BMR素子10と異なる。BMR素子30の高表面粗度膜31d、32d、磁性層31e、32eや微小接点33、電源34は、BMR素子10の高表面粗度膜1d、2d、磁性層1e、2eや微小接点3、電源4とそれぞれ同構成であるので、説明を省略する。これにより、図6に示すように、電源34と電極層31c、32cとを接続するための配線の電気接点を、電極層31c、32cの側面に設けることができる。したがって、図6に示すように、高表面粗度膜31d、32d及び磁性層31e、32eの側面が被覆されるように電極層31c、32cの対向面間を樹脂接着剤36で埋め込むことが可能となり、積層体31と積層体32とを強固に接合することが可能となる。言い換えると、積層体1と積層体2とを強固に接合するために電極層31c、32cの対向面間を樹脂接着剤36で埋め込んだとしても、容易に電極層31c、32cに電源34との接続のための電気接点を設けることができる。
本実施形態のBMR素子10の別の変形例として、磁性層1e、2eの磁化を固定する磁化固定層(図示せず)をさらに設けたものが挙げられる。具体的には、高表面粗度膜1dと磁性層1eとの間、又は、高表面粗度膜2dと磁性層2eとの間に磁化固定層を形成する。この磁化固定層は、磁性層1e又は磁性層2eと交換結合する反強磁性層であってもよく、非磁性層を介して磁性層1e又は磁性層2eと反強磁性結合する強磁性層であってもよい。磁性層1e又は磁性層2eと交換結合する反強磁性層としては、MnPtやMnIr等の反強磁性層を用いることが望ましい。磁性層1e又は磁性層2eと非磁性層を介して反強磁性結合する強磁性層を形成する場合には、非磁性層としてRuやTi、Taを用い、強磁性層にCoやFe、Niを含む層を用いることができる。
なお、上記反強磁性膜を強磁性膜と積層した状態で200℃から300℃程度の温度下で一方向に固定した磁界の中において磁界中アニールを行うことによって、反強磁性膜に隣接する強磁性膜に対して一方向異方性を付与することができる。これにより、磁性層1e又は磁性層2eの磁化が一方向に固定される。
本実施形態のBMR素子10において、高表面粗度膜1d、2dに形成された凸部の高さや磁性層1e、2eに形成された凸部の高さは、均一である必要はない。すなわち、磁性層1e、2eに形成されたすべての凸部に微小接点3が形成されている必要はない。
さらに、上述したシード層1bとシード層2b、電極層1cと電極層2c、高表面粗度膜1dと高表面粗度膜2d、磁性層1eと磁性層2eは、それぞれ異なる材料からなるものであってもよいし、それぞれ異なる厚さを有していてもよい。また、シード層1b、2bは、基板1a、2aと電極層1c、2cとの密着性が高い場合や、基板1a、2a上に電極層1c、2cを直接形成しても電極層1c、2cの表面が比較的平滑となる場合には、形成しなくてもよい。加えて、高表面粗度膜1dと高表面粗度膜2dとは、必ずしも両方が形成される必要はなく、いずれか一方のみを形成しても構わない。
積層体1と積層体2との接合方法は、電子がバリスティックに伝導する微小接点3が形成されるように磁性層1eと磁性層2eとが直接接触する方法であればよく、上記の接合方法以外の方法であっても構わない。例えば、磁性層1eと磁性層2eとの表面同士が対向するように積層体1上に積層体2を乗せた後、接合面に接着剤を塗布して固定するような簡易な方法であってもよい。
また、上記の接合方法では、接合装置20を用いて、保持部材21、22に積層体1、2をそれぞれ取り付けているが、保持部材21、22を用いずに、積層体1、2を上板24及び下板23に直接固定する方法を用いても構わない。
上述した本実施形態のBMR素子10及びその製造方法の変形例は、以下の各実施形態や各変形例や各参考例においても適宜応用することができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図7は、本実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、第1実施形態と同様の部分については、説明を省略することがある。
図7に示すBMR素子40は、凸部が形成された2つの磁性層の互いの対向面にさらに絶縁層が形成されている点で、第1実施形態に係るBMR素子10と異なる。BMR素子40においては、基板41a上に、シード層41b、電極層41c、高表面粗度膜41d、磁性層41e及び絶縁層41fが順次積層された積層体41と、基板42a上に、シード層42b、電極層42c、高表面粗度膜42d、磁性層42e及び絶縁層42fが順次積層された積層体42とが対向配置されている。電極層41cと電極層42cとの間には、これらの間に電圧を印加するための電源44が配線を介して接続されている。
絶縁層41f、42fは、それぞれ、磁性層41e、42eの凸部が形成された互いの対向面を被覆している。磁性層41e及び磁性層42eは、凸部の先端近傍に対応して絶縁層41f及び絶縁層42fに部分的に形成された破壊領域に対応した多数の微小接点43において、互いに直接接触している。微小接点43は、電子がバリスティックな伝導をする微小電流路の一部となっている。微小電流路は、磁性層41eと磁性層42eとに跨って、互いに並列となるように多数形成されている。絶縁層41f及び絶縁層42fは、図4に示した接合装置20を用いて積層体41と積層体42とを対向させて接合する際に、電子がバリスティックな伝導を行うことができる10nmから30nmの径を超えるサイズの微小接点が形成されないようにすると共に、大気暴露による酸化のために磁性層41e及び磁性層42eが変質するのを防止するための層である。さらに、絶縁層41f、42fを形成する際にその厚さを調整することで、微小接点43の断面積を制御することができるので、微小接点43を確実に形成することができる。
絶縁層41f、42fには、例えば、SiO2、SiN、Al2O3、AlN、MgO等の酸化物や窒化物、UV効果樹脂や接着剤などのプラスチックを用いることができる。絶縁層41f、42fは、微小接点43を流れるべき電流が絶縁層41f、42fを通ってリークしてしまうことを抑制するため、微小接点43の抵抗値よりも大きな抵抗値を有する材料からなる必要がある。したがって、絶縁性の高いSiO2やAl2O3、MgOに代表される金属酸化物材料や、SiNやAlNに代表される金属窒化物材料を用いることが特に望ましい。なお、絶縁層41fと絶縁層42fは互いに異なる材料で形成されていてもよいし、互いに異なる厚さであってもよい。
次に、BMR素子40の製造方法について説明する。図8は、BMR素子40の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、BMR素子40の製造方法は、第1実施形態に係るBMR素子10の製造工程と磁性層41eを形成する工程(図2(a)〜(d))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。
図2(d)に示す積層体の状態において、ArとN2の混合ガス雰囲気中でAlターゲットに1kWの電力を給電し、RFスパッタリングによって厚さ5nmの磁性層41eの表面に厚さ5nmの絶縁層41fを積層し、積層体41を形成する。ここで、チャンバ内にN2ガスを導入したことによって反応性スパッタリングとなり、Alが窒化され、絶縁層41fは絶縁性を示すAlN層となっている(図8(a))。
次に、積層体41の製造工程と同様の工程で、積層体42を形成する(図8(b))。なお、積層体42は、厚さ3nmの磁性層42eの表面に厚さ5nmのAlNからなる絶縁層42fが積層されている点において、積層体41と異なる。
続いて、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の接合方法(図2(e)の説明参照)によって、積層体41と積層体42とを接合させる。このとき、本実施形態では、磁性層41e、42eの表面に、絶縁層41f、42fがそれぞれ形成されているため、2つの磁性層41e、42e同士を接触させようとしても、2つの磁性層41e、42e同士を接触させることができない。したがって、電極層41cと電極層42cとの間に電圧を印加したとしても、これらの間には、ほとんど電流が流れない。しかしながら、さらに積層体41と積層体42とを近づけると、絶縁層41fと絶縁層42fとが押し付けられて磁性層41e、42eの凸部に対応する個所が物理的に破壊される。その結果、絶縁層41f及び絶縁層42fに被覆されていた磁性層41eと磁性層42eとが多数の微小接点43において互いに接触する。これらの工程により、多数の微小接点43を有するBMR素子40を形成することができる(図8(c))。
このようにして作製したBMR素子40について、電極層41cと電極層42cとの間に電圧を印加してBMR素子40に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、22%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
BMR素子40の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本実施形態のBMR素子40によると、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の効果を得ることができる。それに加えて、絶縁層41f、42fが存在することにより、第1実施形態に係るBMR素子10に比べ、接合時の積層体1と積層体2との接近に伴う測定電流値の増加が緩やかになり、電子がバリスティックな伝導をする場合の抵抗値であるh/e2オーダー、すなわち104Ωオーダー以下となった時点(微小接点43が形成された時点)で積層体41、42同士の接近を止めることが容易である。したがって、BMR素子40は、第1実施形態に係るBMR素子10に比べ、容易に作製できる。さらに、絶縁層41f、42fを物理的に破壊しているので、絶縁層41f、42fをエッチングなどの工程において除去する必要がない。したがって、比較的簡易に製造することができる。
また、絶縁層41f、42fによって微小接点43が取り囲まれているので、大気中の酸素や窒素等による酸化や窒化を抑止でき、また、微小接点43での放熱性が高まるために、BMR素子40の素子抵抗値の不可逆変化に代表される特性劣化が第1実施形態のBMR素子10よりも生じにくい。また、接着剤による接合後のBMR素子40に外部から振動を与えた場合の経年劣化も生じにくくなる。このように、BMR素子40は、耐久性に優れている。かかる効果は、絶縁層41f、42fが金属酸化物又は金属窒化物からなることで、より一層顕著なものとなる。
なお、本実施形態のBMR素子40では、2つの磁性層41e、42eを共に絶縁層41f、42fで被覆したが、2つの磁性層41e、42eのいずれか一方だけを絶縁層で被覆するようにしてもよい。
また、本実施形態のBMR素子40では、絶縁層41f、42fをスパッタリングによって形成したが、例えば液体樹脂や、UV硬化樹脂、樹脂接着剤によって絶縁層41f、42fを形成してもよい。樹脂接着剤によって絶縁層41f、42fを形成すれば、接合時に周囲から接着剤を塗布する必要が無くなり、工程が簡略化できるとともに、素子製造の再現性が高まる。あるいは、絶縁層41f、42fをスパッタリングによって形成しておき、絶縁層41f、42fの各表面上に、液体樹脂やUV硬化樹脂、樹脂接着剤を塗布してBMR素子を形成しても構わない。
なお、上述の第2実施形態のBMR素子40の変形例は、各実施形態や各変形例や各参考例においても適宜応用することができる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図9は、本実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、第1及び第2実施形態と同様の部分については、説明を省略することがある。
図9に示すBMR素子50は、電極層と高表面粗度膜との間にさらに表面改質層が形成されている点で、第1実施形態に係るBMR素子10と異なる。BMR素子50においては、基板51a上に、シード層51b、電極層51c、表面改質層51g、高表面粗度膜51d及び磁性層51eが順次積層された積層体51と、基板52a上に、シード層52b、電極層52c、表面改質層52g、高表面粗度膜52d及び磁性層52eが順次積層された積層体52とが対向配置されている。電極層51cと電極層52cとの間には、これらの間に電圧を印加するための電源54が配線を介して接続されている。
表面改質層51g、52gは、電極層51c、52cの表面よりも高表面粗度膜51d、52dに対する濡れ性を低下させる(表面エネルギーを大きくし、後から形成される高表面粗度膜51d、52dの表面張力を大きくする)ために形成するものである。具体的には、金属酸化物や金属窒化物を表面改質層51g、52gとして用いることができる。ただし、金属酸化物や金属窒化物からなる表面改質層51g、52gが素子抵抗を大きくしてしまうことを防ぐために、表面改質層51g、52gは5nm以下程度の厚さとすることが望ましい。また、ITO(インジウム・スズ酸化物)に代表される導電性酸化物やTiN(窒化チタン)に代表される導電性窒化物を、表面改質層51g、52gの材料として用いてもよい。
次に、BMR素子50の製造方法について説明する。図10は、BMR素子50の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、BMR素子50の製造方法は、第1実施形態に係るBMR素子10の製造工程と電極層51cを形成する工程(図2(a)〜(b))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。本実施形態で用いられるAlターゲットは、純度99.999%のものである。また、スパッタリング装置の成層チャンバには、第1実施形態で示した各ターゲットの他にCoFeターゲットも備え付けられている。
図2(b)に示す積層体の状態において、大気暴露を行わず、1×10-1PaのArとO2ガスの混合ガス雰囲気中で、まずCoFeターゲットに電力を給電し、濡れ性を悪くするためのCoFeOからなる表面改質層51gを電極層51c上に厚さ1nmとなるように形成する(図10(a))。
続いて、Alターゲットに給電し、表面改質層51g上にAlからなる高表面粗度膜51dを厚さ2nmとなるように形成する(図10(b))。このとき、高表面粗度膜51dはCoFeOに対して濡れ性が悪いために、島状成長し、平均粒径が150nm、算術平均粗さRaが3.2nmのアスペクト比の高い凹凸形状となる。図11には、高表面粗度膜51dの表面をAFMで観察した結果を示す。
続いて、NiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層51eを厚さ5nmとなるように形成する(図10(c))。このとき、磁性層51eの表面は、高表面粗度膜51dの表面形状を反映し、平均粒径が150nm、算術平均粗さRaが3.2nmの凹凸形状を有している。
次に、積層体51の製造工程と同様の工程で、積層体52を形成する(図10(d))。なお、積層体52は、厚さ3nmの磁性層52eの表面に厚さ5nmのAlNからなる絶縁層52fが積層されている点において、積層体51と異なる。
続いて、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の接合方法(図2(e)の説明参照)によって、積層体51と積層体52とを接合させる。磁性層51eと磁性層52eとが多数の微小接点53において互いに接触する。これらの工程により、多数の微小接点53を有するBMR素子50を形成することができる(図10(e))。
このようにして作製したBMR素子50について、電極層51c、52c間に電圧を印加してBMR素子50に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、25%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
なお、BMR素子50の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本実施形態のBMR素子50は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の効果を奏する上、表面改質層51g、52g上に良質の高表面粗度膜51d、52dを形成できるので、多数の微小接点53を並列に形成するのに適した磁性層51e、52eを高表面粗度膜51d、52d上に形成することができる。したがって、BMR素子50の特性は良好である。
また、本実施形態のBMR素子50の製造方法によると、下地層である表面改質層51g、52gを大気暴露することなく高表面粗度膜51d、52dを形成できるので、スパッタリング装置の成層チャンバを大気開放してから真空引きを行うといった第1実施形態で行う必要があるBMR素子10の製造プロセスを省略でき、より容易にBMR素子を作製できる。
なお、本実施形態では、下地層である表面改質層51g、52gを大気暴露せずに高表面粗度膜51d、52dを形成したが、表面改質層51g、52gの少なくとも一つを大気暴露した後に、高表面粗度膜51d、52dを形成してもよい。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図12は、本実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、第1〜第3実施形態と同様の部分については、説明を省略することがある。
図12に示すBMR素子60は、凸部が形成された2つの磁性層の互いの対向面にさらに絶縁層が形成されている点で、第3実施形態に係るBMR素子50と異なる。BMR素子60においては、基板61a上に、シード層61b、電極層61c、表面改質層61g、高表面粗度膜61d、磁性層61e及び絶縁層61fが順次積層された積層体61と、基板62a上に、シード層62b、電極層62c、表面改質層62g、高表面粗度膜62d、磁性層62e及び絶縁層62fが順次積層された積層体62とが対向配置されている。電極層61cと電極層62cとの間には、これらの間に電圧を印加するための電源64が配線を介して接続されている。
絶縁層61f及び絶縁層62fは、それぞれ、磁性層61e、62eの凸部が形成された互いの対向面を被覆している。磁性層61e及び磁性層62eは、凸部の先端近傍に対応して絶縁層61f及び絶縁層62fに部分的に形成された破壊領域に対応した多数の微小接点63において、互いに直接接触している。微小接点63は、電子がバリスティックな伝導をする微小電流路の一部となっている。微小電流路は、磁性層61eと磁性層62eとに跨って、互いに並列となるように多数形成されている。
次に、BMR素子60の製造方法について説明する。図13は、BMR素子40の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、BMR素子60の製造方法は、第3実施形態に係るBMR素子50の製造工程と磁性層を形成する工程(図10(a)〜(d))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。
図10(c)に示す積層体の状態において、ArとN2の混合ガス雰囲気中でAlターゲットに1kWの電力を給電し、RFスパッタリングによって厚さ5nmの磁性層61eの表面に厚さ5nmのAlNからなる絶縁層61fを積層し、積層体61を形成する。ここで、チャンバ内にN2ガスを導入したことによって反応性スパッタリングとなり、Alが窒化され、絶縁層61fは絶縁性を示すAlN層となっている(図13(a))。
次に、積層体61の製造工程と同様の工程で、積層体62を形成する(図13(b))。なお、積層体62は、厚さ3nmの磁性層62eの表面に厚さ5nmのAlNからなる絶縁層62fを積層している点において、積層体61と異なる。
続いて、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の接合方法(図2(e)の説明参照)によって、積層体61と積層体62とを接合させる。このとき、本実施形態では、磁性層61e、62eの表面に、絶縁層61f、62fがそれぞれ形成されているため、2つの磁性層61e、62e同士を接触させようとしても、2つの磁性層61e、62e同士を接触させることができない。したがって、電極層61cと電極層62cとの間に電圧を印加したとしても、これらの間には、ほとんど電流が流れない。しかしながら、さらに積層体61と積層体62とを近づけると、絶縁層61fと絶縁層62fとが押し付けられて磁性層61e、62eの凸部に対応する個所が物理的に破壊される。その結果、絶縁層61f及び絶縁層62fに被覆されていた磁性層61eと磁性層62eとが多数の微小接点63において互いに接触する。これらの工程により、多数の微小接点63を有するBMR素子60を形成することができる(図13(c))。
このようにして作製したBMR素子60について、電極層61cと電極層62cとの間に電圧を印加してBMR素子60に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、26%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
BMR素子60の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本実施形態のBMR素子60によると、第1〜3実施形態に係るBMR素子10、40、50と同様の効果を得ることができる。
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図14は、本実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、第1実施形態と同様の部分については、説明を省略することがある。
図14に示すBMR素子70は、電極層の表面上に多数の島状粒が均一に分散配置されており、その上に高表面粗度膜が形成されている点で、第1実施形態に係るBMR素子10と異なる。BMR素子70においては、基板71a上に、シード層71b、電極層71c、多数の島状粒76、高表面粗度膜71d及び磁性層71eが順次積層された積層体71と、基板72a上に、シード層72b、電極層72c、多数の島状粒77、高表面粗度膜72d及び磁性層72eが順次積層された積層体72とが対向配置されている。電極層71cと電極層72cとの間には、これらの間に電圧を印加するための電源74が配線を介して接続されている。
電極層71c、72c上に均一に分散して島状粒76、77が形成されていることによって、高表面粗度膜71d、72dの表面の凹凸形状、すなわち、結晶粒径や表面粗度、結晶構造を制御することができる。島状粒76、77には、例えば、Ta,Ti,Ru,W,Cr,Ni,Feを一又は複数含む金属材料を用いることができる。これらの金属材料は融点が高いために、電極層71c、72c表面において粒子同士の結合ならびに凝集が起こりにくい。従って、電極層71c、72c表面上にほぼ均一に分散配置される。続いて形成される高表面粗度膜71dおよび72dは、スパッタ粒子として電極層71c、72c表面に付着した後、凝集しようとするが、電極層71c、72c表面上の島状粒76、77が存在する部分とは金属同士であるために濡れ性が良いために、存在確率が高まり、一方、島状粒76,77が存在しない部分(一旦大気暴露された電極層71c、72cの表面が現れている)では、界面に水分や酸素や窒素が存在するために濡れ性が悪く、存在確率が低くなる。この結果、島状粒76、77は高表面粗度膜71d、72dの凹凸形状の成長核となり、島状粒76,77が無い場合に比べて、均一な凹凸形状を実現することができる。なお、具体的には、島状粒76、77は、1nm以下の膜厚で形成することが望ましい。このようにして形成された島状粒76、77は、図14に示すように、電極層71c、72c上に島状に、かつ、基板上にほぼ均一に分散配置されるようにして成長し、続いて形成される高表面粗度膜71d、72dの凹凸形状の成長核となる。これによって、高表面粗度膜71d、72dの膜面内に凹凸形状が均一に分散して成長するとともに、個々の凹凸形状が均一になる効果が得られる。
次に、BMR素子70の製造方法について説明する。図15は、BMR素子70の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、BMR素子70の製造方法は、第1実施形態に係るBMR素子10の製造工程と電極層71cを形成する工程(図2(a)〜(b))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。
図2(b)に示す積層体の状態において、第1実施形態と同様に大気暴露を行って電極層71c上に水分、酸素、窒素からなる不純物を付着させた後、再度スパッタリング装置に入れて1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でTaターゲットに給電し、Taからなる島状粒76を厚さ0.3nmで電極層71c上に形成する。このとき、形成されたTaは融点が高く、基板表面において粒子同士の凝集が起こりにくいために、基板上にほぼ均一な分布確率で付着し、かつ島状に形成される(図15(a))。
続いて、同じく1×10-1PaのAr雰囲気中でAlターゲットに給電し、Alからなる高表面粗度膜71dを厚さ5nmで電極層1c上に形成する。このとき、高表面粗度膜71dは均一分散した島状粒76を核として成長し、その表面は平均粒径が20nm、算術平均粗さRaが0.9nmの凹凸形状をしており、第1実施形態の高表面粗度膜1dに比べて個々の凹凸の高さばらつきおよび粒径ばらつきが小さく、より均一な凹凸形状となっている(図15(b))。
続いて、NiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層71eを厚さ5nmとなるように形成する。このとき、磁性層71eの表面は、高表面粗度膜71dの表面形状を反映し、同じく、平均粒径が20nm、算術平均粗さRaが0.9nmの凹凸形状を有している。
このように、高表面粗度膜71dの下地層として島状粒76を形成することによって、磁性層71e表面における凹凸形状を制御し、より均一な凹凸形状を形成することが可能となっている。ここまでの工程によって、積層体71が完成する(図15(c))。以上と同様の工程を行うことで、積層体72(ただし、磁性層72eの厚さを3nmとしている)を完成させる。
続いて、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の接合方法(図2(e)の説明参照)によって、積層体71と積層体72とを接合させる。磁性層71eと磁性層72eとが多数の微小接点73において互いに接触する。これらの工程により、多数の微小接点73を有するBMR素子70を形成することができる(図15(d))。
なお、BMR素子70の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本実施形態のBMR素子70は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の効果を奏する上、複数の島状粒76、77が電極層71c、72c表面上に均一に分散配置されているので、磁性層71e、72eの突起形状の均一化、分布配列の均一化を図ることが可能になる。このように凹凸形状が均一に形成された結果、BMR素子として機能する微小接点の数が増え、電流が素子を分散して流れるので、BMR素子70は、第1実施形態に係るBMR素子10に比べて、電流耐性に優れており特性劣化が少なくなる。従って、本実施形態のBMR素子70は素子の劣化を抑制できる効果がある。
なお、本実施形態では、2つの電極層71c、72c表面上に共に島状粒76、77を均一に分散形成したが、2つの電極層71c、72cのどちらか一方の表面上だけに島状粒76、77を形成するようにしてもよい。
<第1参考例>
次に、本発明の第1参考例に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図16は、本参考例に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、上記各実施形態と同様の部分については、説明を省略することがある。
図16に示すBMR素子80においては、基板81a上に、シード層81b、電極層81c、高表面粗度膜81d、磁性層81e及び絶縁層81fが順次積層されている。絶縁層81fの表面はほぼ平面となっている。絶縁層81f上には、磁性層86及び電極層87が順次形成されている。電極層81cと電極層87との間には、これらの間に電圧を印加するための電源84が配線を介して接続されている。磁性層86及び電極層87は、それぞれ、磁性層81e及び電極層81cと同様の材料で構成されている。
磁性層81eの表面には、高表面粗度膜81dの表面の凹凸形状を反映して、多数の凸部が形成されている。絶縁層81fは、磁性層81eの凹凸面を被覆している。絶縁層81fは、磁性層81eの表面粗度を、絶縁層81fを成層する際の回り込み(ステップカバレッジ)によって緩和し、磁性層81eの表面粗度よりも小さな表面粗度を実現するものである。なお、ステップカバレッジとは、例えば、ターゲットから磁性層81eへ向かって飛来するスパッタ粒子が、磁性層81e平面に対して入射角度の分布を有するために生じる現象であって、磁性層81e平面に対して低角度で入射した粒子によって、大きな凹凸形状が緩和される。このようなステップカバレッジを利用して表面粗度を小さくする効果を得るために、絶縁層81fの材料として比較的小さな結晶粒を作る材料を選択する必要がある。例えば、絶縁層81fの材料としては、高融点金属材料や、金属化合物材料、酸化物材料、窒化物材料を用いることが望ましい。ただし、絶縁層81fには、作製したBMR素子80の微小接点83を電子が流れる際に、電子が微小接点83以外の領域からリークするのを防ぐ目的もあるため、絶縁層81fの材料としては微小接点83の抵抗値よりも高い抵抗値を示す材料、すなわち酸化物又は窒化物を選択して用いることが望ましい。具体的には、SiO2やSiN、Al2O3やAlN、Ta2O5を絶縁層81fの材料として用いることが望ましい。これらの材料を絶縁層81fの材料として選択した場合、スパッタ装置の特性にもよるが、100nm以上の厚さで絶縁層81fを形成することで、磁性層81eの表面よりも平坦性の高い、すなわち表面粗度の小さい表面を得ることができる。
絶縁層81fからは、磁性層81eの凸部の頂点近傍がわずかに露出している。したがって、磁性層81e及び磁性層86は、磁性層81eの露出領域に対応した多数の微小接点83において互いに直接接触している。微小接点83は、電子がバリスティックな伝導をする微小電流路の一部となっている。微小電流路は、磁性層81eと磁性層86とに跨って、互いに並列となるように多数形成されている。
次に、BMR素子80の製造方法について説明する。図17は、BMR素子80の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、BMR素子80の製造方法は、第1実施形態に係るBMR素子10の製造工程と磁性層を形成する工程(図2(a)〜(d))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。本参考例に示すBMR素子80の形成には、Cu,Al,NiFe,NiCrFe,SiO2のターゲットを有する成層チャンバを備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。なお、各層の形成はいずれもArガス雰囲気中で行い、SiO2を除いてはDCスパッタリングによって行う。SiO2の形成は、RFスパッタリングによって行う。また、Alターゲットには純度99.999%のものを用いる。
図2(d)に示す積層体の状態において、SiO2ターゲットに給電し、SiO2からなる絶縁層81fを厚さ250nmとなるように形成する。絶縁層81fの表面形状は、平均粒経が30nm、算術平均粗さRaが0.7nmであり、ステップカバレッジにより磁性層81eの表面よりも平坦な表面が形成される(図17(a))。
ここで基板81aから絶縁層81fまでの積層体81を一旦大気暴露した後、リアクティブイオンエッチング(RIE)装置に積層体81を入れ、1×10-4Paまで真空引きした後、CF4ガス、C2F6ガス又はCHF3ガスを導入してプラズマを発生させ、絶縁層81fをハーフエッチングする。すなわち、予め求めておいた絶縁層81fのエッチングレートを基に、磁性層81eの凸部の頂点近傍が現れるまで絶縁層81fを除去する(図17(b))。なお、RIE装置の代わりにスパッタリング装置を用い、Arガス雰囲気中で逆スパッタを行い、Arイオンによって絶縁層81fを物理的に削ることによって、磁性層81eの凸部の頂点近傍を露出させてもよい。このようにして、エッチングを施した後の絶縁層81fは、磁性層81eの凸部の頂点近傍(微小接点83となる部位)を除いて凸部を取り囲むように残留することになる。したがって、磁性層81eの微小接点83付近は、絶縁層81fによって大気中の酸素や窒素による変質から守られる。
続いて、積層体81を再びスパッタリング装置内に入れ、1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でNiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層86を積層体81上に厚さ3nmとなるように形成する(図17(c))。これにより、磁性層81fと磁性層86とが多数の微小接点83において接触する。
続いて、Cuターゲットに給電し、Cuからなる電極層87を100nmの厚さで磁性層86上に形成する(図17(d))。
このようにして作製したBMR素子80について、電極層81c、87間に電圧を印加してBMR素子80に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、12%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
なお、BMR素子80の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本参考例のBMR素子80では、絶縁層81f上に磁性層86が形成され、磁性層86と磁性層81eとが、電子がバリスティックな伝導をする多数の微小接点83において接触しているので、この微小接点83を挟んで平行又は反平行な磁化状態が形成される。したがって、微小接点83を通過する電子に対する抵抗を制御することができる。そのほか、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の効果を奏する。さらに、絶縁層81fが微小接点83周辺部を取り囲んでいるので、酸化や窒化によって微小接点83及びその周辺が変質するのを抑制することができる。
さらに、絶縁層81fの一部をエッチングによって除去しているので、製造途中のBMR素子80を真空チャンバから取り出すことなく微小接点83を形成することができる。したがって、製造過程における微小接点83の劣化を抑えることができる。
また、本参考例の製造方法によると、ナノオーダーの微小接点113を極めて簡易に形成することができる。さらに、微小接点113の大きさを制御できるため、BMR素子110の素子特性のばらつきを小さくすることができる。
加えて、本参考例の製造方法によると、上述した第1〜第5実施形態のように2つの積層体を互いに対向するように重ね合わせる工程が不要であって、一連の層形成工程だけでBMR素子80の製造が可能であるため、容易かつ短時間でのBMR素子80の製造が可能となる。
なお、本参考例の変形例として、以下のものが挙げられる。RIE装置からスパッタリング装置に基板を移送する際、大気開放中に磁性層81eが酸化、窒化等の影響を受けてしまう場合には、磁性層86を形成するのに先立って、磁性層81e表面に形成された酸化物や窒化物を取り除くための逆スパッタ処理を行っても構わない。
また、本参考例では絶縁層81fの不必要な部分を除去するためにリアクティブイオンエッチングを行っているが、各層を形成したスパッタリング装置内においてArガス雰囲気中で逆スパッタを施す方法で絶縁層81fを部分的に除去してもよい。この方法によれば、積層体81が大気暴露されないため、移送中の層表面への不純物付着を防ぐことができる。さらには、イオンミリングや、機械研磨で除去しても構わない。
これらの変形例は、各実施形態や各変形例や各参考例において、適宜応用することができる。
<第2参考例>
次に、本発明の第2参考例に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図18は、本参考例に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、上記各実施形態や参考例と同様の部分については、説明を省略することがある。
図18に示すBMR素子90は、電極層と高表面粗度膜との間に第3実施形態で説明したものと同様の表面改質層が形成されている点で、第1参考例に係るBMR素子80と異なる。BMR素子90においては、基板91a上に、シード層91b、電極層91c、表面改質層91g、高表面粗度膜91d、磁性層91e及び絶縁層91fが順次積層されている。絶縁層91fの表面はほぼ平面となっている。絶縁層91f上には、磁性層96及び電極層97が順次形成されている。電極層91cと電極層97との間には、これらの間に電圧を印加するための電源94が配線を介して接続されている。磁性層96及び電極層97は、それぞれ、磁性層91e及び電極層91cと同様の材料で構成されている。磁性層91e及び磁性層96は、磁性層91eの絶縁層91fからの露出領域に対応した多数の微小接点93において互いに直接接触している。
表面改質層91gは、電極層91cの表面よりも高表面粗度膜91dに対する濡れ性を低下させる(表面エネルギーを大きくし、後から形成される高表面粗度膜91dの表面張力を大きくする)ために形成するものである。具体的には、金属酸化物や金属窒化物を表面改質層91gとして用いることができる。
次に、BMR素子90の製造方法について説明する。図19は、BMR素子90の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、第1実施形態に係るBMR素子10の製造工程と電極層を形成する工程(図2(a)〜(b))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。なお、本参考例で用いられるAlターゲットは、純度99.999%のものである。また、スパッタリング装置の成層チャンバには、第1実施形態で示した各ターゲットの他にCoFeターゲットも備え付けられている。
図2(b)に示す積層体の状態において、大気暴露を行わず、1×10-1PaのArとO2ガスの混合ガス雰囲気中で、まずCoFeターゲットに400Wの電力を給電し、濡れ性を悪くするためのCoFeOからなる表面改質層91gを電極層91c上に厚さ1nmとなるように形成する(図19(a))。
続いて、Alターゲットに給電し、Alからなる高表面粗度膜91dを表面改質層91g上に厚さ2nmとなるように形成する(図19(b))。このとき、高表面粗度膜91dは島状成長し、平均粒径が150nm、算術平均粗さRaが3.2nmの凹凸形状を形成し、図11に示したAFMで観察した結果と同様の表面が得られた。
続いて、NiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層91eを高表面粗度膜91d上に厚さ5nmとなるように形成する(図19(c))。このとき、磁性層91eの表面は、高表面粗度膜91dの表面形状を反映し、平均粒径が150nm、算術平均粗さRaが3.2nmの凹凸形状となっている。
次に、SiO2ターゲットに給電し、SiO2からなる絶縁層91fを磁性層91e上に厚さ250nmとなるように形成する。絶縁層91fの表面形状は、平均粒経が30nm、算術平均粗さRaが0.7nmであり、ステップカバレッジにより磁性層91eの表面よりも平坦な表面となっている(図19(d))。
ここで基板91aから絶縁層91fまでの積層体91を一旦大気暴露した後、リアクティブイオンエッチング(RIE)装置に積層体91を入れ、1×10-4Paまで真空引きした後、CF4ガス、C2F6ガス又はCHF3ガスを導入してプラズマを発生させ、絶縁層91fをハーフエッチングする。すなわち、予め求めておいた絶縁層91fのエッチングレートを基に、磁性層91eの凸部の頂点近傍が現れるまで絶縁層91fを除去する(図19(e))。なお、RIE装置の代わりにスパッタリング装置を用い、Arガス雰囲気中で逆スパッタを行い、Arイオンによって絶縁層91fを物理的に削ることによって、磁性層81eの凸部の頂点近傍を露出させてもよい。このようにして、エッチングを施した後の絶縁層91fは、磁性層91eの凸部の頂点近傍(微小接点93となる部位)を除いて凸部を取り囲むように残留することになる。したがって、磁性層91eの微小接点93付近は、絶縁層91fによって大気中の酸素や窒素による変質から守られる。
続いて、積層体91を再びスパッタリング装置内に入れ、1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でNiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層96を積層体91上に厚さ3nmとなるように形成する(図19(f))。これにより、磁性層91fと磁性層96とが多数の微小接点93において接触する。
続いて、Cuターゲットに給電し、Cuからなる電極層97を100nmの厚さで磁性層96上に形成する(図19(g))。
このようにして作製したBMR素子90について、電極層91cと電極層97との間に電圧を印加してBMR素子90に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、14%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
なお、BMR素子90の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本参考例のBMR素子90によると、第1参考例に係るBMR素子80と同様の効果を得ることができる上、表面改質層91g上に良質の高表面粗度膜91dを形成できる。したがって、磁性層91eの表面に適度な凹凸形状を形成することができ、磁性層91eと磁性層96とを多数の微小接点93において確実に接触させることが可能となる。
<第3参考例>
次に、本発明の第3参考例に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図20は、本参考例に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、上記各実施形態や参考例と同様の部分については、説明を省略することがある。
図20に示すBMR素子100は、電極層101cの表面上に、第5実施形態に係るBMR素子70で説明したものと同様の複数の島状粒108が均一に分散され、その上に高表面粗度膜101dが形成されている点で、第1参考例に係るBMR素子80と異なる。図20に示すBMR素子100においては、基板101a上に、シード層101b、電極層101c、多数の島状粒108、高表面粗度膜101d、磁性層101e及び絶縁層101fが順次積層されている。絶縁層101fの表面はほぼ平面となっている。絶縁層101f上には、磁性層106及び電極層107が順次形成されている。電極層101cと電極層107との間には、これらの間に電圧を印加するための電源104が配線を介して接続されている。磁性層106及び電極層107は、それぞれ、磁性層101e及び電極層101cと同様の材料で構成されている。
電極層101c上に均一に分散して島状粒108が形成されていることによって、高表面粗度膜101dの表面の凹凸形状、すなわち、結晶粒径や表面粗度、結晶構造を制御することができる。島状粒108には、例えば、Ta,Ti,Ru,W,Cr,Ni,Feを一又は複数含む金属材料を用いることができる。これらの金属材料は融点が高いために、電極層101c表面において粒子同士の結合ならびに凝集が起こりにくい。従って、電極層101c表面上にほぼ均一に分散配置される。続いて形成される高表面粗度膜101dは、スパッタ粒子として電極層101c表面に付着した後、凝集しようとするが、電極層101c表面上の島状粒108が存在する部分とは金属同士であるために濡れ性が良いために、存在確率が高まり、一方、島状粒108が存在しない部分(一旦大気暴露された電極層101cの表面が現れている)では、界面に水分や酸素や窒素が存在するために濡れ性が悪く、存在確率が低くなる。この結果、島状粒108は高表面粗度膜101dの凹凸形状の成長核となり、島状粒108が無い場合に比べて、均一な凹凸形状を実現することができる。なお、具体的には、島状粒108は、1nm以下の膜厚で形成することが望ましい。このようにして形成された島状粒108は、図20に示すように、電極層101c上に島状に、かつ、基板上にほぼ均一に分散配置されるようにして成長し、続いて形成される高表面粗度膜101dの凹凸形状の成長核となる。これによって、高表面粗度膜101dの膜面内に凹凸形状が均一に分散して成長するとともに、個々の凹凸形状が均一になる効果が得られる。
次に、BMR素子100の製造方法について説明する。図21は、BMR素子100の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、第1実施形態に係るBMR素子10の製造工程と電極層を形成する工程(図2(a)〜(b))までは同様の工程であるので、そこまでの説明を省略する。
図2(b)に示す積層体の状態において、第1実施形態と同様に大気暴露を行って電極層101c上に水分、酸素、窒素からなる不純物を付着させた後、再度スパッタリング装置に入れて1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でTaターゲットに給電し、Taからなる島状粒108を厚さ0.3nmで電極層101c上に形成する。このとき、形成されたTaは融点が高く、基板表面において粒子同士の凝集が起こりにくいために、基板上にほぼ均一な分布確率で付着し、かつ島状に形成される(図21(a))。
続いて、同じく1×10-1PaのAr雰囲気中でAlターゲットに給電し、Alからなる高表面粗度膜101dを厚さ5nmで電極層1c上に形成する。このとき、高表面粗度膜101dは均一分散した島状粒108を核として成長し、その表面は平均粒径が20nm、算術平均粗さRaが0.9nmの凹凸形状をしており、第1実施形態の高表面粗度膜1dに比べて個々の凹凸の高さばらつきおよび粒径ばらつきが小さく、より均一な凹凸形状となっている(図21(b))。
続いて、NiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層101eを厚さ5nmとなるように形成する。このとき、磁性層101eの表面は、高表面粗度膜101dの表面形状を反映し、同じく、平均粒径が20nm、算術平均粗さRaが0.9nmの凹凸形状を有している(図21(c))。
このように、高表面粗度膜101dの下地層として島状粒108を形成することによって、磁性層101e表面における凹凸形状を制御し、より均一な凹凸形状を形成することが可能となっている。
続いて、第1参考例と同様にSiO2ターゲットに給電し、SiO2からなる絶縁層101fを厚さ250nmとなるように形成する。絶縁層101fの表面形状は、平均粒経が20nm、算術平均粗さRaが0.5nmであり、ステップカバレッジにより磁性層101eの表面よりも平坦な表面が形成される(図21(d))。
ここで続いて、第1参考例と同様に基板101aから絶縁層101fまでの積層体101を一旦大気暴露した後、リアクティブイオンエッチング(RIE)装置に積層体101を入れ、1×10−4Paまで真空引きした後、CF4ガス、C2F6ガス又はCHF3ガスを導入してプラズマを発生させ、絶縁層101fをハーフエッチングする。すなわち、予め求めておいた絶縁層101fのエッチングレートを基に、磁性層101eの凸部の頂点近傍が現れるまで絶縁層101fを除去する(図21(e))。なお、RIE装置の代わりにスパッタリング装置を用い、Arガス雰囲気中で逆スパッタを行い、Arイオンによって絶縁層101fを物理的に削ることによって、磁性層101eの凸部の頂点近傍を露出させてもよい。このようにして、エッチングを施した後の絶縁層101fは、磁性層101eの凸部の頂点近傍(微小接点103となる部位)を除いて凸部を取り囲むように残留することになる。したがって、磁性層101eの微小接点103付近は、絶縁層101fによって大気中の酸素や窒素による変質から守られる。
続いて、積層体101を再びスパッタリング装置内に入れ、1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でNiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層106を積層体101上に厚さ3nmとなるように形成する(図21(f))。これにより、磁性層101fと磁性層106とが多数の微小接点103において接触する。
続いて、Cuターゲットに給電し、Cuからなる電極層107を100nmの厚さで磁性層106上に形成する。これらの工程により、多数の微小接点103を有するBMR素子100を形成することができる(図21(g))。
なお、BMR素子100の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本参考例のBMR素子100は、第5実施形態に係るBMR素子70と同様の効果を得ることができる上、複数の島状粒108が電極層101c表面上に均一に分散形成されているので、磁性層101eの突起形状の均一化、分布配列の均一化を図ることが可能になる。このように凹凸形状が均一に形成された結果、BMR素子として機能する微小接点の数が増え、電流が素子を分散して流れるので、BMR素子100は、第1参考例で示した素子80に比べて、電流耐性に優れており特性劣化が少なくなる。従って、本参考例のBMR素子100は素子の劣化を抑制できる効果がある。
<第4参考例>
次に、本発明の第4参考例に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図22は、本参考例に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、上記各実施形態や参考例と同様の部分については、説明を省略することがある。
図22に示すBMR素子110においては、基板111a上に、シード層111b、電極層111c、磁性層111e及び絶縁層111fが順次積層されている。磁性層111eの表面は平坦であるが、絶縁層111fは表面に凹凸形状を有している。絶縁層111f上には、磁性層116及び電極層117が順次形成されている。電極層111cと電極層117との間には、これらの間に電圧を印加するための電源114が配線を介して接続されている。磁性層116及び電極層117は、それぞれ、磁性層111e及び電極層111cと同様の材料で構成されている。
絶縁層111fの凹部の底点近傍からは、磁性層111eがわずかに露出している。そして、磁性層111e及び絶縁層111f上に形成された磁性層116は、磁性層111eの露出領域に対応した多数の微小接点113において互いに直接接触している。微小接点113は、電子がバリスティックな伝導をする微小電流路の一部となっている。微小電流路は、磁性層111eと磁性層116とに跨って、互いに並列となるように多数形成されている。
次に、BMR素子110の製造方法について説明する。図22は、BMR素子110の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、BMR素子110の製造方法は、第1実施形態に係るBMR素子10の製造工程と電極層を形成する工程(図2(a)〜(b))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。また、本参考例においては、Cu,NiFe,NiCrFe,SiO2のターゲットを有する成層チャンバを備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いる。なお、各層の形成はいずれもArガス雰囲気中で行い、SiO2を除いてはDCスパッタリングによって行う。SiO2の形成は、RFスパッタリングによって行う。
図2(b)に示す積層体の状態において、大気暴露を行わず、NiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層111eを電極層111c上に厚さ5nmとなるように形成する(図23(a))。
続いて、SiO2ターゲットに給電し、SiO2からなる絶縁層111fを磁性層111e上に厚さ50nmとなるように形成する(図23(b))。形成された絶縁層111fは、平坦な表面を有している。
ここで基板111aから絶縁層111fまでの積層体111を一旦大気暴露した後、AFMのX−Yステージに取付けた後、絶縁層111fの表面に対して鉛直にAFMの微小探針118(先端曲率半径5nm)を押し当てる。このとき、微小探針118が絶縁層111fの厚さと同じ50nmだけ押し込まれるように、かつ、磁性層111eが露出する領域の径が10nmから30nm以下となるように、微小探針118の押し付け圧力及び押し込み深さを調整する。これにより、絶縁層111fが局所的に削り取られて絶縁層111fに凹部が形成され、その底点近傍から磁性層111eが部分的に露出する。なお、押し付け圧力を決定するためには、例えば、絶縁層111fが削り取られた個所を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察し、磁性層111eの露出径が10nmから30nm以下となるように圧力や押し込み深さを調整する。このようにX−Yステージの移動と微小探針118による押し込み加工とを繰り返し行うことで、局所的に多数削り取られた領域を有しかつ削り取られた領域から磁性層111eが露出した絶縁層111fを形成する(図23(c))。
続いて、積層体111を再びスパッタリング装置内に入れ、1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でNiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層116を磁性層111e上に厚さ3nmとなるように形成する。このとき、絶縁層111fの凹部内に入り込むように形成された磁性層116が、絶縁層111fの凹部底点近傍から露出した磁性層111eと多数の微小接点113において接触する。(図23(d))。
続いて、Cuターゲットに給電し、Cuからなる電極層117を100nmの厚さで磁性層116上に形成する(図23(e))。
このようにして作製したBMR素子110について、電極層111cと電極層117との間に電圧を印加してBMR素子110に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、28%のMR比が得られた。
なお、BMR素子110の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本参考例のBMR素子110によると、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の効果を得ることができる上、微小接点113の周辺部が絶縁層111fによって取り囲まれているので、大気暴露による微小接点113の劣化を抑止できる。
また、本参考例の製造方法によると、ナノオーダーの微小接点113を極めて簡易に形成することができる。さらに、微小接点113の大きさを制御できるため、BMR素子110の素子特性のばらつきを小さくすることができる。
なお、本参考例において、AFMからスパッタ装置に基板を移送する際、大気開放中に磁性層111eが酸化、窒化等の影響を受けてしまう場合には、磁性層116を形成するのに先立って、磁性層111e表面に形成された酸化物や窒化物を取り除くための逆スパッタ処理を行っても構わない。
また本参考例では、絶縁層111fの加工にAFMを用いたが、微小探針を有する装置であればよく、例えば走査トンネル顕微鏡の微小探針を用いても構わない。
<第6実施形態>
次に、本発明の第6実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図24は、本実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、上記各実施形態や各参考例と同様の部分については、説明を省略することがある。
図24に示すBMR素子120においては、表面が凹凸形状を有する基板121a上に、シード層121b、電極層121c及び磁性層121eが順次積層された積層体121と、表面が凹凸形状を有する基板122a上に、シード層122b、電極層122c及び磁性層122eが順次積層された積層体122とが対向配置されている。電極層121cと電極層122cとの間には、これらの間に電圧を印加するための電源124が配線を介して接続されている。
シード層121b、122b、電極層121c、122c及び磁性層121e、122eの表面には、基板121a、122aの表面の凹凸形状を反映して、多数の凸部が形成されている。そして、磁性層121e、122eの互いの凸部同士が、多数の微小接点123において接触している。この微小接点123は、電子がバリスティックな伝導をする微小電流路の一部となっている。つまり、BMR素子120には、互いに並列な多数の微小電流路が形成されている。
次に、BMR素子120の製造方法について説明する。図25は、BMR素子120の製造方法を工程順に示す断面図である。
まず、大気暴露によって水分、酸素、窒素からなる不純物が付着しており、かつ、表面が熱酸化処理されたSi基板を基板121aとして用い、スパッタリング装置内で1×10-6Paまで真空引きした後、Arガスを導入し、1×10-1PaのAr雰囲気中で純度99.999%のAlからなる前処理層126を基板121a上に厚さ5nmとなるように形成する。前処理層126の表面は、平均粒径が30nm、算術平均粗さRaが1.1nmの凹凸形状を有している(図25(a))。
続いて、基板121aを一旦大気暴露した後、リアクティブイオンエッチング(RIE)装置に基板121aを入れ、1×10-4Paまで真空引きした後、例えばCF4ガスを導入してプラズマを発生させ、前処理層126をエッチングにより除去する。この際、前処理層126が完全に除去された後もさらにエッチングを続けて基板121aを表面から除去する。その結果、基板121aの表面には、前処理層126の凹凸形状が転写されて、算術平均粗さRaが1.5nmの凹凸形状が形成される(図25(b))。
ここで、エッチングは、例えばリアクティブイオンエッチング(RIE)装置を用い、CF4やC2F6、CHF3ガス等の雰囲気中において、前処理層126及び基板121aが前処理層126の表面側から除去されるように行う。または、スパッタリング装置を用い、Arガス雰囲気中で逆スパッタを行い、Arイオンによって前処理層126及び基板121aを物理的に削ってもよい。前処理層126の凹凸形状を基板121aに効率的に転写するためには、より異方性の高いエッチング方法を選択することが望ましい。
また、前処理層126に比べて基板121aのエッチングレートが高くなるように、基板121aの材料、前処理層126の材料、及び、エッチング方法を選択すれば、前処理層126に形成された凹凸形状よりも強調されたアスペクト比の高い突起を基板121aに形成することができる。このようにエッチングレートを選択することによって、より小さな微小接点123を有するBMR素子を形成することができる。具体的には、例えば基板121aとしてSi基板又はSiO2基板を用い、前処理層126にAlを用いる。エッチング方法としてCF4やC2F6、CHF3ガスを用いたRIE法を用いれば、SiやSiO2に比べてAlのエッチングレートが極めて遅いため、基板121aの表面にアスペクト比の大きな凹凸形状を形成できる。
次に、基板121aを再びスパッタリング装置内に入れ、1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でNiCrFeからなるシード層121bを基板121a上に厚み5nmとなるように形成する(図25(c))。しかる後、Cuからなる電極層121cをシード層121b上に厚み100nmとなるように形成する(図25(d))。さらに、NiFeからなる磁性層121eを電極層121c上に厚さ5nmとなるように形成する。ここまでの工程によって、基板121a、シード層121b、電極層121c及び磁性層121eからなる積層体121が形成される(図25(e))。
そして、積層体121を形成するのと同様の工程で、基板122a、シード層122b、電極層122c及び磁性層122eからなる積層体122を形成する(図25(f))。
続いて、図4に示した接合装置20を用いて、第1実施形態で説明したのと同様の手順で、磁性層121eと磁性層122eとの層面同士を対向させた状態で積層体121と積層体122とを接触させる(図25(g))。このとき、2つの電極層121c、122c間を流れる電流を測定しつつ積層体121と積層体122との距離を調整することで、確実に微小接点123を形成することができる。その後、樹脂接着剤(図示せず)で積層体121と積層体122とを接合する。
このようにして作製したBMR素子120について、2つの電極層121c、122c間に電圧を印加してBMR素子120に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、22%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
なお、BMR素子120の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本実施形態のBMR素子120によると、第1実施形態に係るBMR素子10と同様の効果を得ることができる上、容易に微小接点123を形成できる。
また、基板121a、122aに直接凸部が形成されているので、高表面粗度膜を形成しなくとも磁性層121e、122eの表面を凹凸形状とすることができる。したがって、BMR素子120の積層膜数が少なくて済み、抵抗値を小さくすることができ、その結果、素子の特性向上に寄与することができる。そして、基板121a、122aに直接凸部が形成された上記のような構造を、エッチング又は逆スパッタという方法を用いることによって比較的容易に形成することができる。
なお、この凹凸形状を有する前処理層126は、基板121aを大気暴露せずに、上述した表面改質層を基板121aに形成した後、この表面改質層の上に形成してもよい。また、基板121a上に、前処理層126の凹凸形状、すなわち、結晶粒径や表面粗度、結晶構造を制御する目的で、まず粒形状制御層を形成し、その後、前処理層126、又は、表面改質層と前処理層126とを形成してもよい。なお、上記エッチングを施した後の基板121a表面には、前処理層126や表面改質層、粒形状制御層が残留していてもよく、完全に取り除かれていてもよい。
<第7実施形態>
次に、本発明の第7実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図26は、本実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、上記各実施形態や各参考例と同様の部分については、説明を省略することがある。
図26に示すBMR素子130は、磁性層131e、132eの表面にさらに第2実施形態で説明したものと同様の絶縁層131f、132fが形成されている点で、第6実施形態に係るBMR素子120と異なる。図26に示すBMR素子130においては、表面が凹凸形状を有する基板131a上に、シード層131b、電極層131c、磁性層131e及び絶縁層131fが順次積層された積層体131と、表面が凹凸形状を有する基板132a上に、シード層132b、電極層132c、磁性層132e及び絶縁層132fが順次積層された積層体132とが対向配置されている。電極層131cと電極層132cとの間には、これらの間に電圧を印加するための電源134が配線を介して接続されている。
シード層131b、132b、電極層131c、132c及び磁性層131e、132eの表面には、基板131a、132aの表面の凹凸形状を反映して、多数の凸部が形成されている。絶縁層131f、132fは、それぞれ、磁性層131e、132eの凸部が形成された互いの対向面を被覆している。磁性層131e及び磁性層132eは、凸部の先端近傍に対応して絶縁層131f及び絶縁層132fに部分的に形成された破壊領域に対応した多数の微小接点133において、互いに直接接触している。微小接点133は、電子がバリスティックな伝導をする微小電流路の一部となっている。微小電流路は、磁性層131eと磁性層132eとに跨って、互いに並列となるように多数形成されている。絶縁層131f及び絶縁層132fは、図4に示した接合装置20を用いて積層体131と積層体132とを対向させて接合する際に、電子がバリスティックな伝導を行うことができる10nmから30nmの径を超えるサイズの微小接点が形成されないようにすると共に、大気暴露による酸化のために磁性層131e及び磁性層132eが変質するのを防止するための層である。さらに、絶縁層131f、132fを形成する際にその厚さを調整することで、微小接点133の断面積を制御することができるので、微小接点133を確実に形成することができる。
次に、BMR素子130の製造方法について説明する。図27は、BMR素子130の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、第6実施形態に係るBMR素子120の製造工程と磁性層を形成する工程(図25(a)〜(e))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。
図25(e)に示す積層体の状態において、ArとN2の混合ガス雰囲気中でAlターゲットに1kWの電力を給電し、RFスパッタリングによって厚さ5nmの磁性層131eの表面上に厚さ5nmのAlNからなる絶縁層131fを成膜することによって、積層体131を形成する。ここで、チャンバ内にN2ガスを導入したことによって反応性スパッタリングとなり、Alが窒化され、絶縁層131fは絶縁性を示すAlN層となっている(図27(a))。
次に、積層体131の製造工程と同様の工程で、積層体132を形成する(図27(b))。なお、積層体132は、厚さ3nmの磁性層132eの表面に厚さ5nmのAlNからなる絶縁層132fが積層されている点において、積層体131と異なる。
続いて、第2実施形態に係るBMR素子40と同様の接合方法によって、積層体131と積層体132とを接合させる。このとき、磁性層131e、132eの表面に、絶縁層131f、132fがそれぞれ形成されているため、2つの磁性層131e、132e同士を接触させようとしても、2つの磁性層131e、132e同士を接触させることができない。したがって、電極層131cと電極層132cとの間に電圧を印加したとしても、これらの間には、ほとんど電流が流れない。しかしながら、さらに積層体131と積層体132とを近づけると、絶縁層131fと絶縁層132fとが押し付けられて磁性層131e、132eの凸部に対応する個所が物理的に破壊される。その結果、絶縁層131f及び絶縁層132fに被覆されていた磁性層131eと磁性層132eとが多数の微小接点133において互いに接触する。これらの工程により、多数の微小接点133を有するBMR素子130を形成することができる(図8(c))。
このようにして作製したBMR素子130について、電極層131cと電極層132c間に電圧を印加してBMR素子130に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、26%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
なお、BMR素子130の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本実施形態のBMR素子130によると、第6実施形態に係るBMR素子120及び第2施形態に係るBMR素子40と同様の効果を得ることができる。
<第7実施形態>
次に、本発明の第7実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子について説明する。図28は、本実施形態に係るバリスティック磁気抵抗効果素子の模式断面図である。なお、上記各実施形態や各参考例と同様の部分については、説明を省略することがある。
図28に示すBMR素子140においては、表面が凹凸形状を有する基板141a上に、シード層141b、電極層141c、磁性層141e及び絶縁層141fが順次積層されている。絶縁層141fの表面はほぼ平面となっている。絶縁層141f上には、磁性層146及び電極層147が順次形成されている。電極層141cと電極層147との間には、これらの間に電圧を印加するための電源144が配線を介して接続されている。磁性層146及び電極層147は、それぞれ、磁性層141e及び電極層141cと同様の材料で構成されている。
シード層141b、電極層141c及び磁性層141eの表面には、基板141aの表面の凹凸形状を反映して、多数の凸部が形成されている。絶縁層141fは、磁性層141eの凸部が形成された表面を被覆している。絶縁層141fは、磁性層141eの表面粗度を、絶縁層141fを成層する際の回り込み(ステップカバレッジ)によって緩和し、磁性層141eの表面粗度よりも小さな表面粗度を実現するものである。絶縁層141fからは、磁性層141eの凸部の頂点近傍がわずかに露出している。したがって、磁性層141e及び磁性層146は、磁性層141eの露出領域に対応した多数の微小接点143において互いに直接接触している。微小接点143は、電子がバリスティックな伝導をする微小電流路の一部となっている。微小電流路は、磁性層141eと磁性層146とに跨って、互いに並列となるように多数形成されている。
次に、BMR素子140の製造方法について説明する。図29は、BMR素子140の製造方法を工程順に示す断面図である。なお、第6実施形態に係るBMR素子120の製造工程と磁性層を形成する工程(図25(a)〜(e))までは同様であるので、そこまでの説明を省略する。
図25(e)に示す積層体の状態において、SiO2ターゲットに給電し、SiO2からなる絶縁層141fを厚み250nmとなるように磁性層141e上に形成する。絶縁層141fの表面形状は、平均粒経が30nm、算術平均粗さRaが0.7nmであり、ステップカバレッジにより磁性層141eの表面よりも平坦な表面となっている(図29(a))。
ここで基板141aから絶縁層141fまでの積層体141を一旦大気暴露した後、RIE装置に積層体141を入れ、1×10-4Paまで真空引きした後、CF4ガス、C2F6ガス又はCHF3ガスを導入してプラズマを発生させ、絶縁層141fをハーフエッチングする。すなわち、予め求めておいた絶縁層141fのエッチングレートを基に、磁性層141eの凸部の頂点近傍が現れるまで絶縁層141fを除去する(図29(b))。なお、RIE装置の代わりにスパッタリング装置を用い、Arガス雰囲気中で逆スパッタを行い、Arイオンによって絶縁層141fを物理的に削ることによって、磁性層141eの凸部の頂点近傍を露出させてもよい。このようにして、エッチングを施した後の絶縁層141fは、磁性層141eの凸部の頂点近傍(微小接点143となる部位)を除いて凸部を取り囲むように残留することになる。したがって、磁性層141eの微小接点143付近は、絶縁層141fによって大気中の酸素や窒素による変質から守られる。
続いて、積層体141を再びスパッタリング装置内に入れ、1×10-6Paまで真空引きし、Arガスを導入して1×10-1PaのAr雰囲気中でNiFeターゲットに給電し、NiFeからなる磁性層146を積層体141上に厚さ3nmとなるように形成する(図29(c))。これにより、磁性層141fと磁性層146とが多数の微小接点143において接触する。
続いて、Cuターゲットに給電し、Cuからなる電極層147を100nmの厚さで磁性層146上に形成する(図29(d))。
このようにして作製したBMR素子140について、電極層41cと電極層42cとの間に電圧を印加してBMR素子140に層厚方向の電流を流し、MR比を測定した結果、12%のMR比が得られた。このMR比は、再生用磁気ヘッドとして用いるためには十分かつ実用的な値である。
なお、BMR素子140の動作は、第1実施形態に係るBMR素子10と同様であるので、説明を省略する。
本実施形態のBMR素子140は、第6実施形態に係るBMR素子120及び第1参考例に係るBMR素子80と同様の効果を得ることができる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更を上述の実施の形態に施すことが可能なものである。例えば、上記各実施形態において、各層の間に別の層が設けられていてもよい。さらに、上記各実施形態において、各層が複数の材料を積層することによって形成された複合層であってもよい。
また、上記各実施形態において、磁気抵抗効果を得るために、微小接点を挟む2つの磁性体の磁化方向が、必ずしも完全なる平行/反平行状態を形成しなくても構わない。例えば、外部磁界の印加方向によって微小接点近傍に90度磁壁が形成された状態と180度磁壁が形成された状態とを切り替えて用いても良い。すなわち、2つの磁性層の磁化の相対角度を変化させることで微小接点近傍の磁化状態が変化し、磁気抵抗効果が得られるものであればどのような形態を利用しても構わない。
上記各実施形態に記載された各層の材料及びその形成方法は一例に過ぎず、各層は様々な公知の材料を用いて様々な公知の方法で形成することが可能である。例えば、高表面粗度膜には、純度99.999%以上のAl、Zn、Ag、In、Sn、Pbに代表される低融点の金属を用いたが、これら低融点の金属の純度は必ずしも99.999%以上である必要はなく、99.99%以上又は99.9%以上の純度のものでもよい。これらの純度の低融点金属を用いても、高表面粗度膜の表面に凹凸形状を有する磁性層を形成でき、凹凸形状を用いた微小接点が形成できる。また、本発明によるBMR素子は、磁気ヘッドとしてだけではなく、MRAMの要素としても使用可能である。
そのほか、本発明は、以下のような態様を含んでいる。
(1) 互いに並列な複数の微小電流路を有しているのであれば、磁性層が電極層などのその他の層と積層された構造となっていなくてもよい。
(2) 磁性層を挟む2つの電極層の間に層厚方向の電流が流れるような構造であれば、互いに並列な複数の微小電流路を有していなくてもよい。つまり、この場合、微小電流路を1つだけ有していてもよい。上記微小電流路を1つだけ形成するには、例えば、第4参考例においてAFMの微小探針118を用いて絶縁層111fを局所的に削り取る箇所を1箇所とすることで実現できる。または、第1実施形態から第5実施形態及び第1参考例から第3参考例において、高表面粗度膜を形成する代わりに、電極層上に単一ドットを形成し、これに続いて磁性層を形成する方法で実現できる。さらには、同じく第1実施形態から第5実施形態及び第1参考例から第3参考例において、高表面粗度膜および磁性層を形成する代わりに、電極層上に単一磁性ドットを形成する方法を用いても実現できる。上記単一ドットや単一磁性ドットは、例えば、イオンビーム源を用い、形成しようとするドットの材料を含んだ反応性ガス雰囲気中でイオンビームを基板表面に照射することで、照射領域において化学反応を起こすことで反応性ガスに含まれたドットの材料が固化して形成できる。