以下に、本願発明を作業車両としてのトラクタに適用した実施形態を図面(図1〜図13)に基づいて説明する。図1はトラクタの左側面図、図2はトラクタの平面図、図3は動力伝達系のスケルトン図、図4は油圧式無段変速機の油圧回路図、図5はトラクタの油圧回路図、図6はコントローラの機能ブロック図、図7はキャビンの平面図、図8はキャビンの左側面断面図、図9はアームレストの左側面図、図10は延出部の拡大左側面図、図11はアームレストの平面図、図12はアームレストを前方斜め上側から見た斜視図、図13は安全機構の電気回路図である。なお、図2では便宜上キャビンの図示を省略している。
(1).トラクタの概要
まず始めに、図1及び図2を参照しながら、トラクタの概要について説明する。
実施形態におけるトラクタ1の走行機体2は、走行部としての左右一対の前車輪3と同じく左右一対の後車輪4とで支持されている。走行機体2の前部に搭載したディーゼル式エンジン5にて後車輪4及び前車輪3を駆動することにより、トラクタ1は前後進走行するように構成されている。エンジン5はボンネット6にて覆われている。走行機体2の上面にはキャビン7が設置され、該キャビン7の内部には、操縦座席8と、かじ取りすることによって前車輪3の操向方向を左右に動かすようにした操縦ハンドル(丸ハンドル)9とが配置されている。キャビン7の底部より下側には、エンジン5に燃料を供給する燃料タンク11が設けられている。
キャビン7内の操縦ハンドル9は、操縦座席8の前方に立設されたステアリングコラム245上に設けられている。ステアリングコラム245の右側には、エンジン5の出力回転数を設定保持するスロットルレバー250と、走行機体2を制動操作するための左右一対のブレーキペダル251とが配置されている。ステアリングコラム245の左側には、走行機体2の進行方向を前進と後進とに切り換え操作するための前後進切換レバー252と、後述するメインクラッチ140を切り作動させるためのクラッチペダル253とが配置されている。ステアリングコラム245の背面側には、左右ブレーキペダル251を踏み込み位置に保持するための駐車ブレーキレバー254が配置されている。
キャビン7内の床板248のうちステアリングコラム245の右側には、スロットルレバー250にて設定されたエンジン回転数を最低回転数として、これ以上の範囲にてエンジン回転数を増減速させるためのアクセルペダル255が配置されている。操縦座席8の下方には、後述するPTO軸23の駆動速度を切り換え操作するためのPTO変速レバー256と、左右の後車輪4を等速で回転駆動させる操作を実行するためのデフロックペダル257とが配置されている。
一方、走行機体2は、前バンパ12及び前車軸ケース13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部にボルトにて着脱自在に固定する左右の機体フレーム16とにより構成されている。機体フレーム16の後部には、エンジン5からの回転動力を適宜変速して前後四輪3,3,4,4に伝達するためのミッションケース17が搭載されている。後車輪4は、ミッションケース17の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース18を介して、ミッションケース17に取り付けられている。左右の後車輪4の上方は、機体フレーム16に固定されたフェンダ19にて覆われている。
ミッションケース17の後部上面には、作業部としてのロータリ耕耘機15を昇降動させるための油圧式昇降機構20が着脱可能に取り付けられている。ロータリ耕耘機15は、ミッションケース17の後部に、一対の左右ロワーリンク21及びトップリンク22からなる3点リンク機構を介して連結されている。ミッションケース17の後側面には、ロータリ耕耘機15にPTO駆動力を伝達するためのPTO軸23が後ろ向きに突設されている。
(2).トラクタの油圧回路構造
次に、図5を参照しながらトラクタ1の油圧回路120構造について説明する。
トラクタ1の油圧回路120は、エンジン5の回転力により作動する作業用油圧ポンプ94及び走行用油圧ポンプ95を備えている。作業用油圧ポンプ94及び走行用油圧ポンプ95は、ミッションケース17の前側壁部材32の前面側に設けられている。作業用油圧ポンプ94は、油圧式昇降機構20の単動式油圧シリンダ125に作動油を供給するための制御電磁弁121に接続されている。
走行用油圧ポンプ95は、ミッションケース17内の油圧式無段変速機29及びパワーステアリング用の油圧シリンダ93に作動油を供給するためのものである。この場合、ミッションケース17は油タンクとしても利用されていて、ミッションケース17内部の作動油が各油圧ポンプ94,95に供給される。
走行用油圧ポンプ95は、パワーステアリング用のコントロール弁122を介して操縦ハンドル9によるパワーステアリング用の油圧シリンダ93に接続されている一方、左右一対のブレーキ作動機構65a,65b用のブレーキシリンダ68a,68bをそれぞれ作動させるためのオートブレーキ電磁弁67a,67bにも接続されている。
更に、走行用油圧ポンプ95は、PTOクラッチ100を作動させるためのPTOクラッチ油圧電磁弁104と、ミッションケース17内の油圧式無段変速機29に対する比例制御弁123及びこれによって作動する切換弁124と、副変速油圧シリンダ55の高速クラッチ電磁弁136と、走行機体2の前後進切り換えのための油圧クラッチ40,42を作動させる前進用クラッチ電磁弁46及び後進用クラッチ電磁弁48と、前車輪3及び後車輪4を同時に駆動するための四駆用油圧クラッチ74に対する四駆油圧電磁弁80と、前車輪3を倍速駆動に切り換えるための倍速用油圧クラッチ76に対する倍速油圧電磁弁82とに接続されている。
前進用クラッチ電磁弁46、後進クラッチ電磁弁48、四駆油圧電磁弁80、倍速油圧電磁弁82、及びPTOクラッチ油圧電磁弁104は、これら各電磁弁46,48,80,82,104を適宜手段にて制御したとき、それぞれに対応するクラッチシリンダ47,49,81,83,105の作動にて、各油圧クラッチ40,42,74,76,100を切り換え駆動させるように構成されている。なお、油圧回路120は、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁、オイルクーラ、オイルフィルタ等も備えている。
(3).トラクタの動力伝達系統及びミッションケース内の油圧回路構造
次に、図3及び図4を参照しながら、トラクタ1の動力伝達系統とミッションケース17内の油圧回路構造とについて説明する。
ミッションケース17は中空箱形に構成されている。ミッションケース17の前面には前側壁部材32が、後面には後側壁部材33がボルトにて着脱自在に固定されている。ミッションケース17の内部は仕切り壁31にて前後に仕切られていて、この仕切り壁31の存在にて前室34と後室35とに分けられている。詳細は図示していないが、前室34と後室35とは、内部の作動油(潤滑油)が相互に移動し得るように連通している。
図3に示すように、前側壁部材32は前車輪駆動ケース69を備えている。前室34には、走行副変速ギヤ機構30及びPTO変速ギヤ機構96(詳細は後述する)が配置されている。後室35には、油圧無段変速機29及び差動ギヤ機構58(詳細は後述する)が配置されている。
エンジン5の後側面に後ろ向き突設されたエンジン出力軸24には、フライホイール25が直結するように取り付けられている。フライホイール25とこれから後ろ向きに延びる主動軸26とは、動力継断用のメインクラッチ140を介して連結されている。主動軸26とミッションケース17に前向きに突設された主変速入力軸27との間は、両端に自在軸継手を備えた伸縮式の動力伝達軸28を介して連結されている。
エンジン5の回転動力は、エンジン出力軸24から主動軸26及び動力伝達軸28を介して、ミッションケースの主変速入力軸27に伝達され、次いで、油圧式無段変速機29と走行副変速ギヤ機構30とにて適宜変速される。この変速動力が差動ギヤ機構58を介して左右の後車輪4に伝達される。また、前述の変速動力は、前車輪駆動ケース69と前車軸ケース13の差動ギヤ機構86とを介して、左右の前車輪3にも伝達される。
(3−1).油圧式無段変速機の詳細構成
後室35の内部にあるインライン方式の油圧式無段変速機29は、主変速入力軸27に主変速出力軸36を同心状に配置してなるものであり、可変容量形の変速用油圧ポンプ部150と、この油圧ポンプ部150から吐出される高圧の作動油にて作動する定容量形の変速用油圧モータ部151とを備えている。主変速入力軸27のうち入力側(前端側)の反対にある後端側は、後側壁部材33に玉軸受を介して回転自在に軸支されている。
円筒形の主変速出力軸36は、油圧式無段変速機29の前側、すなわち主変速入力軸27の入力側に被嵌されている。主変速出力軸36の中途部は仕切り壁31を貫通していて、2組の玉軸受にて仕切り壁31に回転自在に軸支されている。主変速出力軸36の前端側は前室34に、後端側は後室35にそれぞれ突出している。主変速出力軸36の前端外周には、油圧式無段変速機29から変速動力を取り出すための主変速出力ギヤ37が固着されている。主変速入力軸27の入力側(前端側)は、主変速出力軸36前端より前方に突出した状態で、ころ軸受を介して主変速出力軸36の軸孔に回転自在に軸支されている。
主変速入力軸27のうち仕切り壁31と後側壁部材33との間の部位には、油圧ポンプ部150及び油圧モータ部151を作動させるためのシリンダブロック155が被嵌されている。実施形態では、シリンダブロック155を挟んで主変速入力軸27の入力側に近い箇所に油圧モータ部151が配置されている一方、主変速入力軸27の入力側から遠い箇所に油圧ポンプ部150が配置されている。
油圧ポンプ部150は、シリンダブロック155の後側面に対向させてミッションケース17の内側面に固定した第1ホルダ(図示せず)と、主変速入力軸27の軸線に対する傾斜角を変更し得るようにして第1ホルダに配置されたポンプ斜板159と、ポンプ斜板159に摺動自在に設けられたシュー(図示せず)に球体自在継手を介して連結されたポンププランジャ156と、ポンププランジャ156をシリンダブロック155に出入自在に装着するための第1プランジャ孔157とを備えている。ポンププランジャ156の一端側は、シリンダブロック155の側面からポンプ斜板159方向(図4では右側)に突出している。
他方、油圧モータ部151は、シリンダブロック155の側面に対向させて配置され第2ホルダ(図示せず)と、主変速入力軸27の軸線に対する傾斜角を一定に保つように第2ホルダに固定されたモータ斜板168と、モータ斜板168に摺動自在に設けられたシュー(図示せず)に球体自在継手を介して連結されたモータプランジャ165と、モータプランジャ165をシリンダブロック155に出入自在に装着するための第2プランジャ孔166とを備えている。モータプランジャ165の一端側は、シリンダブロック155の側面からモータ斜板168方向(図4では左側)に突出している。
ポンププランジャ156とモータプランジャ165とは互いに同じ数だけあり、シリンダブロック155における回転中心の同一円周上に交互に配列されている。シリンダブロック155には、ポンププランジャ156と同数個の第1スプール弁176と、モータプランジャ165と同数個の第2スプール弁180とが設けられている。また、第1ホルダには、第1ラジアル軸受177が、主変速入力軸27の軸線に対して一定の傾斜角で傾斜させて配置されている。第2ホルダには、第2ラジアル軸受181が、主変速入力軸27の軸線に対して一定の傾斜角で傾斜させて配置されている。
更に、シリンダブロック155のうち主変速入力軸27が挿入される軸孔には、輪溝形の第1油室170及び第2油室171がそれぞれ形成されている。シリンダブロック155には、その回転中心の同一円周上に略等間隔に並ぶ第1弁孔172と第2弁孔173とが形成されている。第1弁孔172及び第2弁孔173は、第1油室170及び第2油室171にそれぞれ連通している。第1プランジャ孔157は第1油路174を介して第1弁孔172に連通し、第2プランジャ孔166は第2油路175を介して第2弁孔173に連通している。
第1弁孔172に挿入された第1スプール弁176は、シリンダブロック155の回転中心の同一円周上に略等間隔に配列されている。第1スプール弁176の先端は、背圧バネ力の弾圧にて第1弁孔172から第1ホルダの方向に突出して、第1ラジアル軸受177の外輪側面に当接している。そして、シリンダブロック155の1回転で第1スプール弁176が1往復するに際して、第1プランジャ孔157は、第1弁孔172と第1油路174とを介して第1油室170又は第2油室171に交互に連通するように設定されている。
第2弁孔173に挿入された第2スプール弁180も、シリンダブロック155の回転中心の同一円周上に略等間隔に配列されている。第2スプール弁180の先端は、背圧バネ力の弾圧にて第2弁孔173から第2ホルダの方向に突出して、第2ラジアル軸受181の外輪側面に当接している。そして、シリンダブロック155の1回転で第2スプール弁180が1往復するに際して、第2プランジャ孔166は、第2弁孔173と第2油路175とを介して第1油室170又は第2油室171に交互に連通するように設定されている。
主変速入力軸27の中心部には、軸線方向に延びる作動油供給油路183が形成されている。作動油供給油路183は、主変速入力軸27の後端面において後ろ向きに開口しており、走行用油圧ポンプ95の吐出口に連通している。
作動油供給油路183中には、第1油室170に対する第1チャージ弁184と、第2油室171に対する第2チャージ弁185とが設けられており、これらチャージ弁184,185を介して、第1及び第2プランジャ孔157,166と第1及び第2油室170,171との間に形成された油圧閉回路187に、作動油供給油路183からの作動油を補給するように構成されている。なお、油圧ポンプ部150及び油圧モータ部151の各回転部分にも、それぞれ逆止弁を介して、作動油供給油路183からの作動油を潤滑油として供給するように構成されている。
ポンプ斜板159は、傾斜角調節支点189を介して第1ホルダの小径部の外周に配置されている。ポンプ斜板159の傾斜角は主変速入力軸27の軸線に対して調節自在となるように構成されている。ポンプ斜板159には、主変速入力軸27の軸線に対するポンプ斜板159の傾斜角を変更・調節する主変速油圧シリンダ190を関連させている(図4及び図5参照)。主変速油圧シリンダ190の駆動にてポンプ斜板159の傾斜角を変更することによって、油圧式無段変速機29の主変速動作が実行される。
(3−2).油圧式無段変速機の主変速動作
次に、主変速油圧シリンダ190による油圧式無段変速機29の変速動作について詳述する。主変速レバー290(詳細は後述する)の傾動操作量に比例して作動する比例制御弁123からの作動油にて切換弁124が作動すると、主変速油圧シリンダ190が駆動し、主変速油圧シリンダ190のピストンが昇降動するのに連動して、主変速入力軸27の軸線に対するポンプ斜板159の傾斜角が変更される。
ポンプ斜板159の傾斜角が略零のときは、主変速入力軸27のシリンダブロック155と油圧モータ部151のモータ斜板168とが同一方向に略同一回転数にて回転し、主変速入力軸27と略同一回転数にて主変速出力軸36も回転する。その結果、主変速入力軸27の回転速度がそのまま(変わることなく)主変速出力ギヤ37に伝達される。
主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板159を一方向(正の傾斜角)側に傾斜させたときは、シリンダブロック155と同一方向にモータ斜板168が回転して、油圧モータ部151を増速作動させ、主変速入力軸27より高い回転数で主変速出力軸36が回転する。その結果、主変速入力軸27の回転速度が増速された状態で主変速出力ギヤ37に伝達される。換言すると、主変速入力軸27の回転数に油圧モータ部151の回転数が加算されて、主変速出力ギヤ37に伝達される。
このため、主変速入力軸27の回転数より高い回転数の範囲で、ポンプ斜板159の傾斜角(正の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ37からの変速動力(走行速度)が変更される。ポンプ斜板159が最大傾斜角(正の傾斜角)のときに、走行機体2は最高走行速度になる。
主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板159を他方向(負の傾斜角)側に傾斜させたときは、シリンダブロック155と逆の方向にモータ斜板168が回転して、油圧モータ部151を減速(逆転)作動させ、主変速入力軸27より低い回転数で主変速出力軸36が回転する。その結果、主変速入力軸27の回転速度が減速された状態で主変速出力ギヤ37に伝達される。すなわち、主変速入力軸27の回転数から油圧モータ部151の回転数が減算されて、主変速出力ギヤ37に伝達される。
このため、主変速入力軸27の回転数より低い回転数の範囲で、ポンプ斜板159の傾斜角(負の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ37からの変速動力(走行速度)が変更される。ポンプ斜板159が最大傾斜角(負の傾斜角)のときに、走行機体2は最低走行速度になる。
(3−3).走行機体の前進と後進とを切り換えるための構成
図3に示すように、ミッションケース17の前室34には、走行機体2の前後進切換のための前進ギヤ41及び後進ギヤ43が配置されている。実施形態では、前室34の内部に、走行カウンタ軸38と逆転軸39とが設けられており、前進ギヤ41及び後進ギヤ43は、走行カウンタ軸38に被嵌されている。
前進ギヤ41は、湿式多板型の前進用油圧クラッチ40にて、走行カウンタ軸38と一体回転するように連結可能に構成されていて、主変速出力ギヤ37と噛み合っている。主変速出力ギヤ37には、逆転軸39に固着された逆転ギヤ44も噛み合っている。後進ギヤ43は、湿式多板型の後進用油圧クラッチ42にて、走行カウンタ軸38と一体回転するように連結可能に構成されていて、逆転軸39に固着された逆転出力ギヤ45と噛み合っている。
この場合、前後進切換レバー252(図1及び図2参照)の前進側倒し操作により、前進用クラッチ電磁弁46が駆動して前進用クラッチシリンダ47を作動させ、前進用油圧クラッチ40を動力接続状態にする。その結果、主変速出力ギヤ37と走行カウンタ軸38とが前進ギヤ41を介して動力伝達可能に連結される(図3参照)。
また、前後進切換レバー252の後進側倒し操作により、後進クラッチ電磁弁48が駆動して後進用クラッチシリンダ49を作動させ、後進用油圧クラッチ42を動力接続状態にする。その結果、主変速出力ギヤ37と走行カウンタ軸38とが、逆転軸39上の逆転ギヤ44及び逆転出力ギヤ45と後進ギヤ43とを介して動力伝達可能に連結される(図3参照)。
なお、前後進切換レバー252をいずれにも倒し操作していない中立状態では、前進用及び後進用油圧クラッチ40,42は両方とも動力遮断状態になり、主変速出力ギヤ37から前後車輪3,4に向かう回転動力が略零(メインクラッチ140切りと同じ状態)になるように構成されている。
(3−4).低速と高速とを切り換えるための構成
次に、走行副変速ギヤ機構30を介して低速と高速とを切り換えるための構成について説明する。
ミッションケース17の前室34には、走行カウンタ軸38や逆転軸39以外に、走行副変速ギヤ機構30及び副変速軸50も配置されている。走行カウンタ軸38には、副変速用のカウンタ低速ギヤ51及びカウンタ高速ギヤ53が設けられている一方、副変速軸50には、カウンタ低速ギヤ51に噛み合う低速ギヤ52と、カウンタ高速ギヤ53に噛み合う高速ギヤ54とが設けられている。また、副変速軸50には、副変速油圧シリンダ55にて継断動作可能な低速クラッチ56及び高速クラッチ57も設けられている。
この場合、後述する副変速切換スイッチ231の押し操作又はエンジン5の回転数検出等に応じて、副変速油圧シリンダ55が駆動して低速クラッチ56又は高速クラッチ57を動力接続状態とする。その結果、副変速軸50に低速ギヤ52又は高速ギヤ54が一体回転するように連結され、副変速軸50から前後車輪3,4に向けて回転動力が出力される。
副変速油圧シリンダ55は、ピストン130の片側にピストンロッド131を有する複動構造になっている。副変速油圧シリンダ55内には、ピストンロッド131を内蔵した第1シリンダ室132と、他方の第2シリンダ室133とが形成されている。ピストンロッド131の先端部には、シフトアーム134を介して副変速シフタ135が連結されている。副変速シフタ135にて低速クラッチ56又は高速クラッチ57を動力接続状態にすることにより、副変速軸50は低速又は高速にて駆動する構成になっている。
第1シリンダ室132は、走行用油圧ポンプ95の吐出側に直接連通している。第2シリンダ室133は、2位置3ポート型の高速クラッチ電磁弁136を介して、走行用油圧ポンプ95の吐出側に連通している。高速クラッチ電磁弁136は変速ソレノイド137を備えている(図5参照)。
実施形態では、変速ソレノイド137にて高速クラッチ電磁弁136が切り換え作動して、第2シリンダ室133が走行用油圧ポンプ95の吐出側に連通すると、ピストン130両側の受圧力の差により、ピストンロッド131を突出させる方向にピストン130が移動する。そうすると、高速クラッチ57が動力接続状態になり、副変速軸50が高速にて駆動するのである。
副変速軸50の後端部は、仕切り壁31を貫通してミッションケース17の後室35内部にまで延びている。副変速軸50の後端部にはピニオン59が固着されている。後室35の内部には、左右の後車輪4に回転動力を伝達するための差動ギヤ機構58が配置されている。
差動ギヤ機構58は、副変速軸50のピニオン59に噛み合うリングギヤ60と、リングギヤ60に固着された差動ギヤケース61と、左右方向に延びる差動出力軸62とを備えている。差動出力軸62は、ファイナルギヤ63等を介して後車軸64に連結されており、後車軸64の先端部に後車輪4が取り付けられている。
また、差動出力軸62にはブレーキ作動機構65a,65bが関連付けて設けられており、ステアリングコラム245の右側にあるブレーキペダル251(図2参照)の踏み込み操作にて、ブレーキ作動機構65a,65bが制動動作するように構成されている。更に、操縦ハンドル9の操舵角が所定角度以上になると、旋回内側の後車輪4に対応したオートブレーキ電磁弁67a(67b)の駆動にてブレーキシリンダ68a(68b)が作動して、旋回内側の後車輪4に対するブレーキ作動機構65a(65b)が自動的に制動動作するように構成されている。このため、Uターン等の小回り旋回走行が実行可能になっている。
なお、後室35の内部に配置された差動ギヤ機構58は、この差動動作を停止(左右の差動出力軸62を常時等速で駆動)させるためのデフロック機構(図示せず)を備えている。この場合、差動ギヤケース61に出入自在に設けられたロックピンをデフロックペダル257(図2参照)の踏み込み操作にて差動ギヤに係合させることにより、差動ギヤが差動ギヤケース61に固定されて差動機能が停止し、左右の差動出力軸62が等速にて回転駆動するように構成されている。
(3−5).前後車輪の二駆と四駆とを切り換えるための構成
次に、前後車輪3,4の二駆と四駆とを切り換えるための構成について説明する。ミッションケース17の前側壁部材32に設けられた前車輪駆動ケース69は、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とを備えている。
前車輪入力軸72は、ギヤ70,71を介して副変速軸50と動力伝達可能に連結されている。前車輪出力軸73には、四駆用油圧クラッチ74の作用にて前車輪出力軸73に一体回転するように連結可能な四駆ギヤ75と、倍速用油圧クラッチ76の作用にて前車輪出力軸73に一体回転するように連結可能な倍速ギヤ77とが被嵌されている。四駆ギヤ75は前車輪入力軸72に固着されたギヤ78と噛み合っている一方、倍速ギヤ77も前車輪入力軸72に固着されたギヤ79と噛み合っている。
二駆と四駆との切換スイッチ(図示省略)を四駆側に操作すると、四駆油圧電磁弁80の駆動にて四駆用クラッチシリンダ81が作動して、四駆用油圧クラッチ74が動力接続状態になる。そうすると、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とが四駆ギヤ75にて動力伝達可能に連結され、後車輪4と共に前車輪3が駆動することになる(四輪駆動状態)。
(3−6).前車輪の倍速駆動を切り換えるための構成
次に、前車輪3の倍速駆動を切り換えるための構成について説明する。この場合は、操縦ハンドル9のUターン(圃場の枕地での方向転換)操作を検出すると、倍速油圧電磁弁82の駆動にて倍速用クラッチシリンダ83が作動して倍速用油圧クラッチ76が動力接続状態になり、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とを倍速ギヤ77にて動力伝達可能に連結することによって、四駆ギヤ75にて前車輪3が駆動されるときの速度に比べて約2倍の高速度で前車輪3が駆動するように構成されている。
前車軸ケース13から後ろ向きに突出した前車輪伝達軸84と、前車輪出力軸73のうち前車輪駆動ケース69から前向きに突出した前端部とは、前車輪駆動軸85を介して連結されている。前車軸ケース13の内部には、左右の前車輪3に回転動力を伝達するための差動ギヤ機構86が配置されている。
差動ギヤ機構86は、前車輪伝達軸84の前端に固着されたピニオン87に噛み合うリングギヤ88と、リングギヤ88に設けられた差動ギヤケース89と、左右の差動出力軸90とを備えている。
差動出力軸90は、ファイナルギヤ91等を介して前車軸92に連結されており、前車軸92の先端部に前車輪3が取り付けられている。前車軸ケース13の外側面には、操縦ハンドル9の操舵操作にて前車輪3の走行方向を左右に変更するパワーステアリング用の油圧シリンダ93(図5参照)が設けられている。
(3−7).PTO軸の駆動速度を切り換えるための構成
次に、PTO軸23の駆動速度を切り換える(正転4段と逆転1段)ための構成について説明する。ミッションケース17の前室34には、エンジン5からの動力をPTO軸23に伝達するためのPTO変速ギヤ機構96、及びエンジン5からの動力を各油圧ポンプ94,95に伝達するためのポンプ駆動軸97も配置されている。
PTO変速ギヤ機構96は、PTOカウンタ軸98とPTO変速出力軸99とを備えている。PTOカウンタ軸98には、これと一体回転するようにPTOクラッチ100にて連結可能なPTO入力ギヤ101が被嵌されている。PTO入力ギヤ101は、主変速入力軸27に固着された入力側ギヤ102と、ポンプ駆動軸97に固着された出力側ギヤ103とに噛み合っており、これらギヤ101〜103の噛み合いにより、ポンプ駆動軸97がPTOカウンタ軸98を介して主変速入力軸27に動力伝達可能に連結されている。
この場合、後述するPTOクラッチスイッチ225を入り操作すると、PTOクラッチ油圧電磁弁104(図5参照)の駆動にてPTOクラッチシリンダ105が作動して、PTOクラッチ100を動力接続状態にする。その結果、PTOカウンタ軸98にPTO入力ギヤ101が一体回転するように連結され、主変速入力軸27からPTOカウンタ軸98に向けて回転動力が出力される。
PTO変速出力軸99には、PTO軸23への出力用として、1速ギヤ106、2速ギヤ107、3速ギヤ108、4速ギヤ109、及び逆転ギヤ110が被嵌されている。PTO変速出力軸99には、変速シフタ111を相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能にスプライン嵌合させており、当該変速シフタ111の作用にて、各ギヤ106〜110がPTO変速出力軸99に択一的に連結されるように構成されている。変速シフタ111には、PTO変速レバー256(図2参照)に連動連結された変速アーム112を係合させている。
PTO変速レバー256を変速操作すると、変速アーム112が変速シフタ111をPTO変速出力軸99の軸線に沿ってスライド移動させ、変速シフタ111が各ギヤ106〜110のいずれかを択一的に選択してPTO変速出力軸99に連結させる。その結果、1速〜4速及び逆転の各PTO変速出力が、PTO変速出力軸99からギヤ113,114を介してPTO軸23に伝達される。
なお、逆転軸39に固着された回転検出ギヤ115には、電磁ピックアップ型の主変速出力軸回転センサ212(図6参照)が対向させて配置されており、当該主変速出力軸回転センサ212にて、主変速出力ギヤ37の回転、ひいては油圧式無段変速機29の出力回転数を検出するように構成されている。また、前車輪入力軸72におけるギヤ78の近傍には、当該ギヤ78の回転を検出する電磁ピックアップ型の車速センサ213(図6参照)が配置されている。車速センサ213にて検出された前車輪入力軸72及び副変速軸50の回転から、走行機体2の走行速度(車速)を検出するように構成されている。
(4).トラクタの各種制御を実行するための構成
次に、図6を参照しながら、トラクタの各種制御(変速制御、自動水平制御、及び耕耘深さ自動制御等)を実行するための構成について説明する。
トラクタ1に搭載された制御手段としてのコントローラ200は、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるためのROM、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM、及び入出力インターフェイス等を備えており、電源印加用キースイッチ201を介してバッテリー202に接続されている。キースイッチ201は、鍵穴に差し込んだ所定の鍵にて回転操作可能なロータリ式スイッチであり、詳細は図示していないが、操縦座席8の前方に位置するステアリングコラム245に取り付けられている。
コントローラ200には、エンジン5の回転を制御する電子ガバナコントローラ204が接続されている。電子ガバナコントローラ204には、エンジン5の燃料を調節するガバナ205と、エンジン回転数を検出するエンジン回転センサ206と、ステアリングコラム245の右側に配置されたスロットルレバー250の操作位置を検出するスロットルポテンショ207とが接続されている。
スロットルレバー250を手動操作すると、電子ガバナコントローラ204は、スロットルレバー250の設定回転数とエンジン回転数とが一致するように、スロットルポテンショ207の検出情報に基づいてスロットルソレノイド208を駆動させ、ガバナ205に設けられた燃料調節ラック(図示せず)の位置を自動的に調節する。このため、エンジン回転数は、負荷の変動に拘らず、スロットルレバー250の位置に応じた所定回転数に保持される。
また、コントローラ200には、出力関連の各種電磁弁やアクチュエータ、すなわち前進用油圧クラッチ40に対する前進用クラッチ電磁弁46、後進用油圧クラッチ42に対する後進用クラッチ電磁弁48、副変速油圧シリンダ55に対する高速クラッチ電磁弁136、後述する主変速レバー290の傾動操作量に比例して主変速油圧シリンダ190を作動させるための比例制御弁123と、四駆用油圧クラッチ74に対する四駆油圧電磁弁80、倍速用油圧クラッチ76に対する倍速油圧電磁弁82、左右のオートブレーキ電磁弁67a,67b、PTOクラッチ100に対するPTOクラッチ油圧電磁弁104、油圧式昇降機構20の単動式油圧シリンダ125に作動油を供給するための制御電磁弁121、ブレーキペダルモータ145、及び、駐車ブレーキレバーモータ146等が接続されている。
ブレーキペダルモータ145は、左右の後車輪4にブレーキが掛かる踏み込み位置にブレーキペダル251を移動させるためのアクチュエータである。駐車ブレーキレバーモータ146は、駐車ブレーキレバー254を駐車ブレーキ入りとなる上げ位置に引き上げる(移動させる)ためのアクチュエータである。
更に、コントローラ200には、入力関連の各種センサ及びスイッチ類、すなわち操舵ポテンショ210、前後進ポテンショ211、主変速出力軸回転センサ212、車速センサ213、振子式のローリングセンサ214、ポテンショメータ型の作業部ポジションセンサ215、ポテンショメータ型のリフト角センサ216、ポテンショメータ型のリヤカバーセンサ217、四駆モードスイッチ218、倍速モードスイッチ219、ブレーキペダルスイッチ220、オートブレーキスイッチ221、主変速ポテンショ222、ポジションレバーセンサ223、耕深設定器224、PTOクラッチスイッチ225、最高速設定ダイヤル226、SCV切換スイッチ227、傾斜手動スイッチ228、自動昇降スイッチ229、昇降微調節スイッチ230、副変速切換スイッチ231、傾斜設定ダイヤル232、最上昇位置設定ダイヤル233、下降位置設定ダイヤル234、感度切換スイッチ235、エンジン特性切換スイッチ236、補正スイッチ237、後進時強制上昇スイッチ238、速度切換スイッチ239、及び姿勢検出スイッチ311等が接続されている。
操舵ポテンショ210は、操縦ハンドル9の回動量(操舵角度)を検出するためのものである。前後進ポテンショ211は、前後進切換レバー252の操作位置を検出するためのものである。主変速出力軸回転センサ212は、主変速出力軸36の出力回転数を検出するためのものである。車速センサ213は、前後車輪3,4の回転速度(走行速度)を検出するためのものである。
ローリングセンサ214は、走行機体2の左右傾斜角度を検出するためのものである。作業部ポジションセンサ215は、走行機体2に対するロータリ耕耘機15の相対的な左右傾斜角度を検出するためのものである。リフト角センサ216は、油圧式昇降機構20と左右ロワーリンク21とをつなぐリフトアーム193(図1参照)の回動角度を検出するためのものである。リヤカバーセンサ217は、ロータリ耕耘機15の耕耘深さ変動に伴って上下回動する耕耘リヤカバー195(図1及び図2参照)の上下回動角度を検出するためのものである。
四駆モードスイッチ218は、四駆油圧電磁弁80を切換操作するためのものである。倍速モードスイッチ219は、倍速油圧電磁弁82を切換操作するためのものである。ブレーキペダルスイッチ220は、ブレーキペダル251の踏み込みの有無を検出するためのものである。オートブレーキスイッチ221は、オートブレーキ電磁弁67a,67bを切換操作するためのものである。
主変速ポテンショ222は、主変速レバー290の操作位置を検出するためのものである。ポジションレバーセンサ223は、ロータリ耕耘機15の高さ位置を手動にて変更調節する作業部ポジションレバー300の操作位置を検出するためのものである。耕深設定器224は、ロータリ耕耘機15の目標耕耘深さを予め設定するためのダイヤル式のものである。PTOクラッチスイッチ225は、PTOクラッチ100を入り切り操作して、PTO軸23からロータリ耕耘機15への動力伝達を継断操作するためのものである。
最高速設定ダイヤル226は、走行機体2の最高走行速度を予め設定するためのものである。SCV切換スイッチ227は、ミッションケース17の側方に設けられたサブコントロールバルブ(図示せず)を切り換え駆動操作するためのものである。なお、サブコントロールバルブは、トラクタ1に後付けされるフロントローダ等の他の作業部に作動油を供給制御するためのものである。傾斜手動スイッチ228は、ロータリ耕耘機15の左右傾斜角度を手動にて変更調節するためのものである。自動昇降スイッチ229は、ロータリ耕耘機15を所定高さまで強制的に昇降操作するためのものである。昇降微調節スイッチ230は、ロータリ耕耘機15の高さ位置を微調節操作するためのものである。副変速切換スイッチ231は、走行副変速ギヤ機構30の出力範囲を低速と高速とに切り換えるためのものである。
傾斜設定ダイヤル232は、走行機体2に対するロータリ耕耘機15の相対的な目標左右傾斜角度を予め設定するためのものである。最上昇位置設定ダイヤル233は、ロータリ耕耘機15の最上昇位置を設定するためのものである。下降位置設定ダイヤル234は、着地衝撃低減のためにロータリ耕耘機15が高速下降から低速下降に切り換わる位置を設定するためのものである。感度切換スイッチ235は、ロータリ耕耘機15の耕耘深さ自動制御の感度を変更・調節するためのものである。エンジン特性切換スイッチ236は、エンジン5の出力やトルク等の特性を切り換えるためのものである。補正スイッチ237は、ロータリ耕耘機15の自動水平制御を複数段階に補正するためのものである。
後進時強制上昇スイッチ238は、前後進切換レバー252の後進側倒し操作時にロータリ耕耘機15を所定高さまで強制上昇させるためのものである。速度切換スイッチ239は、旋回時及び後進時の走行速度を変更・調節するためのものである。姿勢検出スイッチ311は、後述する右アームレスト271が図9に一点鎖線で示す最上回動姿勢か否かを検出するためのリミットスイッチ式のものである。
(5).操縦座席及びその周辺の構造
次に、図7〜図9を参照しながら、操縦座席8とその周辺の構造について説明する。
図7及び図8に示すように、キャビン7内における操縦座席8の前方には、エンジン5の後部側を囲うステアリングコラム245が配置されている。ステアリングコラム245の上面からは、ハンドル軸246が後方斜め上向きの傾斜状に突出している。平面視略丸型の操縦ハンドル9は、ハンドル軸246の上端に取り付けられている。この場合、操縦ハンドル9における略環状のステアリングホイル247とハンドル軸246とは、側面視で互いに略直交する関係にあるため、ステアリングホイル247は、水平に対して角度θにて後方斜め下向きに傾斜した姿勢になっている(図8参照)。
キャビン7内にある操縦座席8の下部には枠部材260が取り付けられている。枠部材260は、ミッションケース17の上方を覆うリヤカウル261上に、左右一対の移動案内レール手段262を介して、走行機体2の進行方向に沿って位置調節可能(前後スライド可能)に取り付けられている。
左右の移動案内レール手段262は、リヤカウル261上に固定された固定側レール263と、枠部材260の下面に固定された可動側レール264とからなるものである。この場合、固定側レール263に可動側レール264を前後スライド可能に嵌め合わせることによって、枠部材260ひいては操縦座席8が、座席最後位置(図7及び図8の実線状態参照)から座席最前位置(図7及び図8の二点鎖線状態参照)までの摺動ストロークSSの範囲内で前後スライド可能になっている。
なお、詳細は図示していないが、枠部材260とリヤカウル261との間には回動式の座席調節レバーが配置されている。座席調節レバーの回動操作にて、座席調節レバーの係合爪を固定側レール263及び可動レール264の左右内側に凹み形成された複数の係合凹所に係脱させることにより、操縦座席8の前後位置が段階的に変更調節可能になっている。係合爪はばね部材にて常時係合方向に付勢されている。
操縦座席8の左右両側には、操縦座席8に着座したオペレータの腕や肘を載せるための肘掛け装置265,266が設けられている。これら肘掛け装置265,266は、オペレータの腕や肘を支持するアームレスト271,272の形状が若干異なる以外は基本的に同じ構造なので、ここでは、操縦座席の右側にある右肘掛け装置265の構造を代表として説明する。
右肘掛け装置265は、枠部材260の右側部に立設された厚肉のブラケット部材270と、ブラケット部材270の上部に装着された前後長手で中空状の右アームレスト271とを備えている。ブラケット部材270は、操縦座席8の前後スライドとは別個独立して、走行機体2の進行方向(前後方向)に沿って位置調節可能(前後スライド可能)に構成されている。
実施形態では、枠部材260の左右側部に、前後方向に沿って延びる調節溝孔269が2つずつ形成されている。そして、各調節溝孔269に差し込んだボルト273及びナット274にて、ブラケット部材270を枠部材260の右側部に外側から重ねて締結することにより、ブラケット部材270ひいては右肘掛け装置265は、調節溝孔269の可動ストロークSAの範囲内で、操縦座席8に対して前後スライド可能になっている。換言すると、右肘掛け装置265は、最後位置(図9の実線状態参照)から最前位置(図9の二点鎖線状態参照)までの可動ストロークSAの範囲内で、操縦座席8に対して前後スライド可能になっている。
このように肘掛け装置265,266を前後可動式に構成すると、操縦座席8に着座するオペレータの体格や作業姿勢に応じて肘掛け装置265,266の前後位置を調節できるので、オペレータの腕を的確に支持できる。
ここで、図7及び図8において、実線にて示した右肘掛け装置265の操縦座席8に対する位置は最後位置になっているときであり、二点鎖線にて示した右肘掛け装置265の操縦座席8に対する位置は最前位置になっているときである。すなわち、図7及び図8において実線にて示した右肘掛け装置265の位置は、操縦座席8の前後スライドを考慮した上で最も後方に移動した位置であり、二点鎖線にて示した右肘掛け装置265の位置は、操縦座席8の前後スライドを考慮した上で最も前方に移動した位置である。
これらの図面から分かるように、右肘掛け装置265及び操縦座席8がどのような前後スライド位置にあっても、右アームレスト271の前端は、平面視及び側面視において、ステアリングコラム245の後端と操縦座席8の前端との間の範囲AR内に位置するように設定されている(但し、右アームレスト271が後述する最上回動姿勢(図9の一点鎖線状態参照)であるときを除く)。換言すると、右肘掛け装置265の可動ストロークSAは、操縦座席8がどのような前後スライド位置にあっても、右アームレスト271の前端が前述の範囲ARから外れないような大きさになっている。
このような構成を採用すると、平面視及び側面視において、右アームレスト271の前部が操縦ハンドル9に常に近い状態になるので、右アームレストから操縦ハンドル9への手の移し替えをスムーズに行えるという利点がある。
一方、右アームレスト271の下端後部は、ブラケット部材270の上部に、左右横向きの枢支軸275にて起伏(上下)回動可能に枢着されている。このため、右アームレスト271は、枢支軸275を支点(回動中心)として跳ね上げ回動可能になっている(図9の一点鎖線状態参照)。
また、右アームレスト271は、枢支軸275回りの起伏回動による回動姿勢を複数段階(実施形態では4段階)に調節可能に構成されている。この場合、右アームレスト271とブラケット部材270との間に筋交いアーム276が配置されている。筋交いアーム276の一端部(上端部)は、右アームレスト271の中途部に、左右横向きの枢着ピン277にて回動可能に枢着されている。筋交いアーム276の他端部(下端部)には、横長の係止ピン278が左右内向きに突設されている。
他方、ブラケット部材270には、上下方向に延びる長溝孔279と、当該長溝孔279から前方斜め下向きに延びる複数の位置決め溝孔280(実施形態では4つ)とが形成されている。各位置決め溝孔280に筋交いアーム276の係止ピン278を挿通させることにより、筋交いアーム276が突っ張り作用を発揮して、右アームレスト271は各位置決め溝孔280に対応した回動姿勢に保持される。右アームレスト271内(後述する基部281内)には、当該右アームレスト271が最上回動姿勢か否かを検出するリミットスイッチ式の姿勢検出スイッチ311が枢支軸275に関連して設けられている。
実施形態における右アームレスト271の回動姿勢は、操縦座席8の座面に対して略水平な最下回動姿勢(図9の実線状態参照)から前方斜め上向きに延びる最上回動姿勢(図9の一点鎖線状態参照)までの4段階に調節される。但し、右アームレスト271の最上回動姿勢は、オペレータが操縦座席8に乗降する際に右アームレスト271が邪魔にならないように逃がすときの姿勢であり、通常姿勢(腕を載せて休めるときの回動姿勢)ではない。実施形態では、右アームレスト271の通常姿勢は、前述の最上回動姿勢を除いた3段階の回動姿勢を想定している。
このような構成を採用すると、操縦座席8に着座するオペレータの体格や作業姿勢に応じて右アームレスト271の回動姿勢を段階的に調節できるので、オペレータの腕を的確に支持したり膝に当たらないように設定したりできる。その上、操縦座席8及び右肘掛け装置265の前後スライド位置調節機能と相俟って、長時間作業によるオペレータの疲労低減に効果的である。なお、右アームレスト271は、その回動姿勢が無段階に調節可能になっていてもよい。
(6).右アームレストの詳細構造
次に、図7〜図12を参照しながら、右アームレスト271の詳細構造について説明する。
図7及び図11に示すように、右アームレスト271は、前後に長い基部281と、基部281から前向きに延びた延出部282と、基部281の前部(延出部282の後部でもある)から操縦座席8と離れる方向(実施形態では右方向)に分岐した分岐部283とを備えている。右アームレストの前部を構成する延出部282と分岐部283とは平面視で二股状の形態になっており、右アームレスト271全体としては平面視略Y字状の形態になっている。
図8に示すように、右アームレスト271は、基部281と延出部282との連設部分を境目にして側面視略く字状に屈曲している。このため、延出部282及び分岐部283は、前方斜め上向きに延びた形態になっている。右アームレスト271が最上回動姿勢以外の通常姿勢(3段階の回動姿勢)の状態では、延出部282及び分岐部283の上面は、水平に対して角度θにて後方斜め下向きに傾斜したステアリングホイル247の上面と、側面視で実質上同一平面をなすように設定されている(図8では最下回動姿勢の状態のみ示す)。
右アームレスト271のうち延出部282の後部側から基部281にわたる上面は、下向きに凹んだ段部284になっている。段部284には、作業系操作手段の一例である耕深設定器224、傾斜設定ダイヤル232、最上昇位置設定ダイヤル233、下降位置設定ダイヤル234、感度切換スイッチ235、補正スイッチ237、及び、後進時強制上昇スイッチ238や、走行系操作手段の一例であるエンジン特性切換スイッチ236及び速度切換スイッチ239等が配置されている。耕深設定器224以外のスイッチ類232〜239は、開閉可能に構成された左右一対の上面蓋285a,258bにて覆われている。オペレータは通常、その腕や肘を上面蓋285a,285b上に載せることになる。耕深設定器224の上面は、延出部282及び上面蓋285a,285bの上面より低い位置になるように設定されている(図8〜図10及び図12参照)。
一方、延出部282と分岐部283との間の二股部分は、当該部分に載せる手の小指側の側部に沿うように凹ませた凹部286になっていて、上面蓋285a,285b上(右アームレスト271上)に腕を載せた状態で、手の小指側の側部をきっちりと載せ得るように設定されている(図11及び図12参照)。
右アームレスト271における延出部282の上面左側には、側面視において上向き凸湾曲状(かまぼこ形)の突出部分287が一体的に形成されている。また、突出部分287には、走行系操作手段を構成する主変速操作体としての主変速レバー290が前後傾動操作可能に設けられている。
図10に詳細に示すように、実施形態の主変速レバー290は、延出部282内に配置された横向きのピン軸293回りに前後傾動可能なレバー軸291と、レバー軸291の先端に取り付けられた摘み部292とを備えている。突出部分287には、前後に延びる湾曲稜線に沿ってスリット溝288が形成されており、当該スリット溝288をレバー軸291が貫通している。レバー軸291のうち突出部分287から突き出た先端に摘み部292が取り付けられている。
従って、摘み部292を湾曲稜線に沿って移動させると、レバー軸291はスリット溝288に沿って前後傾動することになる。また、レバー軸291ひいては主変速レバー290の前後傾動は、スリット溝288のストロークの範囲内で規制される。延出部282内には、主変速レバー290(レバー軸291)の操作位置を検出する主変速ポテンショ222がピン軸293に関連して設けられている。
実施形態の主変速レバー290は、右アームレスト271がいずれの回動姿勢であっても、側面視においてステアリングホイル247の上面より上方に位置するように形成されている(図8では最下回動姿勢のときのみ示す)。また、図11及び図12に示すように、主変速レバー290の配置位置及び延出部282の突出部分287の形成位置は、延出部282と分岐部283との間の凹部286に手の小指側の側部を載せた状態で、摘み部292を親指にて操作し得るような位置に設定されている。
延出部283の上面右側(突出部分287の隣り側)には、走行系操作手段の一例である最高速設定ダイヤル226及び副変速切換スイッチ231や、作業系操作手段の一例であるSCV切換スイッチ227、傾斜手動スイッチ228、自動昇降スイッチ229、及び、昇降微調節スイッチ230が配置されている。
右アームレスト271における分岐部283の上面には、側面視において上向き凸湾曲状(かまぼこ形)の突出部分297が一体的に形成されている。突出部分297のうち延出部282に臨む側面部には、突出部分297の上面(湾曲稜線)よりも上方に突き出た側面視略円弧状のつば部299が形成されている。また、突出部分297には、作業系操作手段を構成する作業部昇降操作体としての作業部ポジションレバー300が前後傾動操作可能に設けられている。
図10に詳細に示すように、実施形態の作業部ポジションレバー300は、分岐部283内に配置された横向きの支軸303回りに前後傾動可能な昇降レバー軸301と、昇降レバー軸301の先端に取り付けられた昇降摘み部302とを備えている。突出部分297には、前後に延びる湾曲稜線に沿ってスリット溝298が形成されており、当該スリット溝298を昇降レバー軸301が貫通している。昇降レバー軸301のうち突出部分297から突き出た先端に摘み部302が取り付けられている。
従って、摘み部302を湾曲稜線に沿って移動させると、レバー軸301はスリット溝298に沿って前後傾動することになる。分岐部283内には、作業部ポジションレバー300(レバー軸301)の操作位置を検出するポジションレバーセンサ223が支軸303に関連して設けられている。スリット溝298には、レバー軸301ひいては作業部ポジションレバー300の前後傾動を規制するための規制爪片304が嵌め込み装着されている。
実施形態の作業部ポジションレバー300は、実質上鉛直な姿勢(図10の実線及び破線状態参照)から前向き姿勢(図10の一点鎖線状態参照)までの間で前後傾動操作可能になっている。作業部ポジションレバー300を前方に傾動操作すると、制御電磁弁121(図5及び図6参照)が切り換え作動して単動式油圧シリンダ125を短縮駆動させ、リフトアーム193(図1参照)を下向き回動させる。その結果、ロワーリンク21を介してロータリ耕耘機15が下降動することになる。逆に、作業部ポジションレバー300を後方に傾動操作すると、制御電磁弁121が切り換え作動して単動式油圧シリンダ125を伸長駆動させ、リフトアーム193を上向き回動させる。その結果、その結果、ロワーリンク21を介してロータリ耕耘機15が上昇動することになる。
また、作業部ポジションレバー300も、主変速レバー290と同様に、右アームレスト271がいずれの回動姿勢であっても、側面視においてステアリングホイル247の上面より上方に位置するように形成されている(図8では最下回動姿勢のときのみ示す)。
なお、主変速レバー290と作業部ポジションレバー300との位置関係は、前述の実施形態の場合と逆であっても構わない。すなわち、延出部282側に作業部ポジションレバー300(作業系操作手段)を配置し、分岐部283側に主変速レバー290(走行系操作手段)を配置してもよい。
図7〜図9、図11及び図12に示すように、分岐部283のうち作業部ポジションレバー300(突出部分297)より後方の付け根側には、下向きに凹んだ陥没部306が形成されている。この陥没部306の位置は、上面蓋285a,285b上(右アームレスト271上)に腕を載せた状態で、手首付近等が平面視でほとんど重ならないような位置である。陥没部306内には、PTOクラッチ100を入り切り操作して、PTO軸23からロータリ耕耘機15への動力伝達を継断操作するPTO操作体としてのPTOクラッチスイッチ225が配置されている。
PTOクラッチスイッチ225は、スイッチを一度押下しながら平面視で時計回りに回すと押下された位置でロックして、PTO軸23からロータリ耕耘機15への動力伝達を接続状態にし、更にもう一度押下すると元の位置に復帰して、PTO軸23からロータリ耕耘機15への動力伝達を遮断状態にするというプッシュスイッチである。実施形態におけるPTOクラッチスイッチ225の上面は、上面蓋285a,285bの上面より若干高い位置になるように設定されている(図8〜図10及び図12参照)。
以上のように構成すると、操縦座席8に着座するオペレータの傍らに位置する右アームレスト271の上面に、走行系操作手段を構成する主変速レバー290及び各種スイッチ類226,231,236,239と、作業系操作手段を構成する作業部ポジションレバー300及び各種スイッチ類224,225,227〜230,232〜238とがまとめて配置されているので、その操作性(取り扱い性)に優れている。
また、右アームレスト271の前部が延出部282と分岐部283とからなる平面視二股状に形成されていて、走行系操作手段の一部としての主変速レバー290、最高速設定ダイヤル226及び副変速切換スイッチ231と、作業系操作手段の一部としての作業部ポジションレバー300、耕深設定器224、PTOクラッチスイッチ225、SCV切換スイッチ227、傾斜手動スイッチ228、自動昇降スイッチ229、及び昇降微調節スイッチ230とは、延出部282の上面と分岐部283の上面とにそれぞれ配置されているので、右アームレスト271に腕を載せたままで走行系操作手段及び作業系操作手段を操作でき、これら操作手段の操作性がより一層向上する。
特に実施形態では、延出部282側に、走行系操作手段の一部としての主変速レバー290を配置し、分岐部283側に、作業系操作手段の一部としての作業部ポジションレバー300を配置しているので、右アームレスト271上にある手を、肘を支点にして左右方向に動かせば、主変速レバー290や作業部ポジションレバー300に簡単に手が届く。従って、右アームレスト271上にある手だけで、主変速レバー290を操作したり作業部ポジションレバー300を操作したりできるという利点がある。
その上、右アームレスト271の前部、すなわち延出部282及び分岐部283は、側面視で前方斜め上向きに屈曲して延びた形態になっているから、右アームレスト271に腕を載せたときに、手首を下向きに折り曲げたりしない自然な手の姿勢で、延出部282上の主変速レバー290や分岐部283上の作業部ポジションレバー300を操作できる。このため、主変速レバー290や作業部ポジションレバー300の操作性が格段に向上すると共に、手の安定支持にも寄与する。
しかも、延出部282と分岐部283との間の二股部分(凹部286)に、右アームレスト271に腕を載せた状態で手の小指側の側部を沿わせれば、腕だけでなく手も安定的に支持できるから、長時間作業によるオペレータの疲労を軽減できる。特に、延出部282と分岐部283との間の凹部286は、その形状により、手の小指側の側部を載せたときのホールド性に優れ、手の安定支持に高い効果を発揮できる。
また、右アームレスト271が最上回動姿勢以外の通常姿勢(3段階の回動姿勢)の状態では、延出部282及び分岐部283の上面は、水平に対して角度θにて後方斜め下向きに傾斜したステアリングホイル247の上面と、側面視で実質上同一平面をなすように設定されている。このため、右アームレスト271上に載せた手をスムーズにステアリングホイル247に移動させることができ、トラクタ1の運転が楽になる。
更に、実施形態の主変速レバー290及び作業部ポジションレバー300は、右アームレスト271がいずれの回動姿勢であっても、側面視においてステアリングホイル247の上面より上方に位置するように形成されているから、主変速レバー290及び作業部ポジションレバー300の配置位置がステアリングホイル247よりもオペレータに近くなる。このため、主変速レバー290及び作業部ポジションレバー300の操作性向上に寄与するのである。
実施形態では、分岐部283の突出部分297のうち延出部282に臨む側面部に、突出部分297の上面(湾曲稜線)よりも上方に突き出た側面視略円弧状のつば部299が形成されている。このため、つば部299の存在にて、凹部286に載せた手が分岐部283上の作業部ポジションレバー300に当たるのを阻止できる。従って、凹部286に手の小指側の側部を載せた状態で、不用意に分岐部283上の作業部ポジションレバー300に接触するおそれを確実に低減でき、誤操作防止に効果がある。
更に、実施形態の主変速レバー290は、右アームレスト271の延出部282に配置されており、且つ、前記延出部と前記分岐部との間の凹部286に手の小指側の側部を載せた状態で親指にて操作し得るように構成されているから、主変速レバー290が極めて操作し易く、トラクタ1における走行操作性の向上に高い効果を発揮できる。
一方、作業部ポジションレバー300は、実質上鉛直な姿勢(図10の実線及び破線状態参照)から前向き姿勢(図10の一点鎖線状態参照)までの間で前後傾動操作可能になっており、作業部ポジションレバー300を前方に傾動操作するとロータリ耕耘機15が下降動し、作業部ポジションレバー300を後方に傾動操作するとロータリ耕耘機15が上昇動するように構成されているから、作業部ポジションレバー300の手動操作による動きとロータリ耕耘機15の昇降動とがオペレータの感覚に合致することになる。このため、作業部ポジションレバー300の手動操作に際して、ロータリ耕耘機15の昇降状態を作業部ポジションレバー300の操作状態から把握し易い。
実施形態では、分岐部283のうち作業部ポジションレバー300より後方の付け根側に、PTO操作体としてのPTOクラッチスイッチ225が配置されているから、ロータリ耕耘機15を緊急停止させる際に、PTOクラッチスイッチ225の配置位置が把握し易い。その上、PTOクラッチスイッチ225の配置位置は、右アームレスト271上に腕を載せた状態で、手首付近等が平面視でほとんど重ならない位置であるから、右アームレスト271上の腕等がPTOクラッチスイッチ225に不用意に当たることがなく(邪魔にならず)、PTOクラッチスイッチ225の誤操作を少なくできる。
また、右アームレスト271における延出部282の後部側にある下向き凹状の段部284に、耕深設定器224が配置されており、耕深設定器224の上面が、延出部282及び上面蓋285a,285bの上面より低い位置になるように設定されているから、比較的操作頻度の高い耕深設定器224を右アームレスト271上に設けたものでありながら、腕や肘を右アームレスト271上に載せたままでも、不用意に耕深設定器224に接触するおそれを低減できる。従って、耕深設定器224の誤操作を格段に低減又は防止できる。
(7).安全機構の構造
次に、図6及び図13を参照しながら、トラクタ1の不用意な駆動を防止するための安全機構の構成について説明する。
図13に詳細に示すように、バッテリ202のプラス端子は、キースイッチ201の入力端子と、スタータリレー312を構成する常開形のスイッチ部313の一端と、警報リレー315を構成する常開形のスイッチ部316の一端とに分岐して接続されている。スタータリレー312におけるスイッチ部313の他端はスタータ203に接続されている。警報リレー315におけるスイッチ部316の他端は警報ブザー318に接続されている。バッテリ202のマイナス端子は接地されている。
キースイッチ201は、鍵穴に差し込んだ所定の鍵の回転操作にて、エンジン停止端子241、通電端子242及びスタート端子243という3つの端子位置に切り換え可能に構成されている。キースイッチ201のスタート端子243には、リミットスイッチ式の姿勢検出スイッチ311の入力端子が接続されている。姿勢検出スイッチ311を構成する可動接点311cは、右アームレスト271が図9及び図13に一点鎖線で示す最上回動姿勢以外の通常姿勢(3段階)のときに、姿勢検出スイッチ311の第1出力端子311aに接触し、右アームレスト271が最上回動姿勢のときに、姿勢検出スイッチ311の第2出力端子311bに接触するように構成されている。
姿勢検出スイッチ311の第1出力端子311aは、スタータリレー312を構成するコイル部314の一端に接続されている。スタータリレー312におけるコイル部314の他端は接地されている。姿勢検出スイッチ311の第2出力端子311bは、警報リレー315を構成するコイル部317の一端に接続されている。警報リレー315におけるコイル部317の他端は接地されている。なお、詳細な回路図は示していないが、前述の通り、姿勢検出スイッチ311は制御手段としてのコントローラ200にも電気的に接続されている(図6参照)。
以上の構成において、右アームレスト271が最上回動姿勢以外の通常姿勢のときに、スタート端子243の位置までキースイッチ201を回すと、姿勢検出スイッチ311の可動接点311cが第1出力端子311aに接触しているため、バッテリ12からの電流がスタータリレー312のコイル部314に流れ込んで、当該コイル部314が励磁状態になり、スタータリレー312のスイッチ部314は閉じ状態(導通状態)になる。その結果、バッテリ202からの通電にてスタータ203が作動し、エンジン5が始動する。
エンジン5の始動後にキースイッチ201から手を離すと、バネ(図示せず)の弾性付勢力にてキースイッチ201が通電端子242の位置に戻り、バッテリ202からトラクタ1全体への電力供給とエンジン5の駆動とが維持される。キースイッチ201をエンジン停止端子241の位置まで回すと、バッテリ202からの電力供給が停止すると共にエンジン5の駆動が停止する。
一方、右アームレスト271が最上回動姿勢のときに、スタート端子243の位置までキースイッチ201を回すと、姿勢検出スイッチ311の可動接点311cが第2出力端子311aに接触しているため、バッテリ12からの電流がスタータリレー312のコイル部314に流れ込まず、スタータリレー312のスイッチ部314は開き状態(遮断状態)を維持する。このため、バッテリ202からスタータ203への通電が遮断されてスタータ203が作動せず、その結果、エンジン5が始動しないのである。
すなわち、電源投入時に、右アームレスト271が最上回動姿勢になっていれば、エンジン5が始動することはなく、ひいては後車輪4やロータリ耕耘機15も駆動しない。このため、オペレータの乗降時に、最上回動姿勢になった右アームレスト271上の主変速レバー290や作業部ポジションレバー300等に不用意に接触しても、後車輪4やロータリ耕耘機15が突然動いたりすることはなく、トラクタ1の安全性が向上する。
右アームレスト271が最上回動姿勢の場合において、スタート端子243の位置までキースイッチ201を回したときは、バッテリ12からの電流は警報リレー315のコイル部317に流れ込んで、当該コイル部317が励磁状態になり、警報リレー315のスイッチ部316は閉じ状態(導通状態)になる。その結果、バッテリ202からの通電にて警報ブザー318が鳴動する。従って、警報ブザー318の鳴動にてオペレータの注意を喚起でき、右アームレスト271が最上回動姿勢であるためにエンジン5を始動できない旨を、オペレータに的確に報知できるのである。
右アームレスト271を通常姿勢に戻せば、姿勢検出スイッチ311の可動接点311cは第2出力端子311bから離れて第1出力端子311aに接触するため、警報リレー315のコイル部317が消磁して、警報リレー315のスイッチ部316が開き状態になり、警報ブザー318の鳴動が停止する。
さて、エンジン5の駆動中に右アームレスト271を最上回動姿勢にした場合において、コントローラ200及び電子ガバナコントローラ204による安全制御は、例えば次のように実行される(図6参照)。
すなわち、エンジン5の駆動中に右アームレスト271が最上回動姿勢になったことを姿勢検出スイッチ311にて検出すると、コントローラ200は、比例制御弁123からの作動油による切換弁124の作動にて主変速油圧シリンダ190を駆動させ、油圧式無段変速機29を、主変速入力軸27の軸線に対するポンプ斜板159の傾斜角が略零である中立状態に強制的に保持する。
このとき、電子ガバナコントローラ204は、スロットルソレノイド208を駆動させて、ガバナ205に設けられた燃料調節ラック(図示せず)の位置をアイドリング位置に自動的に調節し、エンジン5を回転数の低いアイドリング状態に強制的に保持する。
また、コントローラ200は、PTOクラッチ油圧電磁弁104の作動にてPTOクラッチシリンダ105を駆動させて、PTOクラッチ100を切り状態(動力遮断状態)とし、PTO軸23からロータリ耕耘機15への動力伝達を強制的に遮断する。
これらに加えて、コントローラ200は、ブレーキペダルモータ145の駆動にてブレーキペダル251を踏み込み位置まで移動させて、左右一対のブレーキ65a,65bを入り状態にすると共に、駐車ブレーキレバーモータ146の駆動にて駐車ブレーキレバー254を上げ位置まで移動させて入り状態とし、ブレーキペダル251と駐車ブレーキレバー254とを係合状態に保持することによって、左右の後車輪4をブレーキ65a,65bが掛かった状態(制動状態)に維持する。
つまり、実施形態においては、エンジン5の駆動中に右アームレスト271を最上回動姿勢にすると、(1)油圧式無段変速機29を中立状態に保持し、(2)エンジン5をアイドリング状態に保持し、(3)PTO軸23からロータリ耕耘機15(以下、PTO動力伝達系統と称する)への動力伝達を遮断し、(4)左右の後車輪4を制動状態に維持するという4つの緊急動作を、コントローラ200及び電子ガバナコントローラ204の制御にて実行するように設定されているのである。
以上の構成によると、エンジン5の駆動中であっても右アームレスト271を最上回動姿勢にするだけで、後車輪4及びロータリ耕耘機15の駆動を一遍に停止できるから、右アームレスト271自体が緊急停止スイッチ手段としての役割をも果たすことになり、トラクタ1の安全性向上に高い効果を発揮できる。
さて、その後、右アームレスト271を最上回動姿勢にする前の状態(以下、元の状態と称する)に復帰させる場合は、まず、右アームレスト271を通常姿勢に戻すのであるが、この戻し操作だけで前述した4つの緊急動作を一度に解除してしまうと、走行機体2の走行速度が急激に元に戻ることになり、走行安全性の点で問題があると解される。このため、実施形態では、以下の手順を踏むことによって、コントローラ200及び電子ガバナコントローラ204の制御にて元の状態に復帰するように設定されている。
すなわち、始めは、前述の通り、右アームレスト271を通常姿勢に戻す。この段階では、前述した4つの緊急動作状態がそのまま維持される。次いで、駐車ブレーキレバー254を上げ位置から下げ位置に引き下げて、後車輪4の制動状態のみを解除する(油圧式無段変速機29、エンジン5及びPTO動力伝達系統は緊急動作状態を維持する)。実施形態の駐車ブレーキレバーモータ146は、駐車ブレーキレバー254を上げ位置にのみ移動させるものであり、下げ位置には戻さない設定になっている。ブレーキペダル251は、バネやエアシリンダのような付勢手段(図示せず)の復原力にて、通常位置(踏み込み操作していないときの位置、非踏み込み位置ともいう)まで自動的に復帰する。
次いで、前進側又は後進側に倒し操作されている前後進切換レバー252を一旦中立状態に戻してから、再び前後進切換レバー252を前進側又は後進側に倒し操作する。その結果、油圧式無段変速機29、エンジン5及びPTO動力伝達系統の緊急動作状態が解除される。
この段階の制御過程を詳述すると、ブレーキペダル251が通常位置に戻った旨がブレーキペダルスイッチ200にて検出されると共に、前後進切換レバー252が一旦中立位置を経てから前進側又は後進側倒し位置に移動した旨が前後進ポテンショ211にて検出される。
ブレーキペダルスイッチ200及び前後進ポテンショ211の検出情報を取得したコントローラ200は、比例制御弁123からの作動油による切換弁124の作動にて主変速油圧シリンダ190を駆動させ、主変速入力軸27の軸線に対するポンプ斜板159を元の傾斜角(右アームレスト271を最上回動姿勢にする前の傾斜角)に戻し、変速動力を出力し得る状態に油圧式無段変速機29を切り換える。
このとき、電子ガバナコントローラ204は、スロットルソレノイド208を駆動させて、ガバナ205に設けられた燃料調節ラック(図示せず)の位置を元(右アームレスト271を最上回動姿勢にする前の位置)に戻して、エンジン5の回転数を元の状態に復帰させる。
また、コントローラ200は、PTOクラッチ油圧電磁弁104の作動にてPTOクラッチシリンダ105を駆動させて、PTOクラッチ100を入り状態(動力接続状態)とし、PTO軸23からロータリ耕耘機15への動力伝達を接続する。
以上の説明から明らかなように、実施形態では、右アームレスト271を通常姿勢に戻してから、駐車ブレーキレバー254を上げ位置から下げ位置に引き下げ、その後、前後進切換レバー252を一旦中立状態に戻し、再び前後進切換レバー252を前進側又は後進側に倒し操作するという手順を踏むことによって、トラクタ1は元の状態に復帰するのである。
従って、右アームレスト271を通常姿勢に戻しただけで走行機体2の走行速度が急激に戻ることはなく、右アームレスト271を通常姿勢に戻した復帰時の安全性についても細やかな配慮がなされている。しかも、エンジン5自体の駆動を停止させる訳ではないから、右アームレスト271を通常姿勢に戻したのち所定の手順を踏めば、前述した4つの緊急動作が解除され、元の状態への復帰を安全且つスムーズに行えるのである。
(8).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明はトラクタに限らず、田植機やコンバイン等の農作業機や、ホイルローダ等の特殊作業用車両にも適用可能である。
また、アームレスト271,272は操縦座席8の左右いずれか一方にしかなくても構わない。前述の実施形態のように操縦座席8の左右両側にアームレスト271,272がある場合、各種操作手段は左右どちらのアームレスト271,272に設けてもよい。更に、走行機体2に搭載されるエンジン5はディーゼル式エンジンに限らず、ガソリン式エンジンであってもよい。
その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。