本発明の一実施形態を図1〜図17を参照して説明する。
まず、図1および図2を参照して、本実施形態における電動機の機構的な構成を説明する。図1は、本実施形態における電動機の要部の断面図、図2は図1の電動機のドライブプレート19を外した状態で該電動機の軸心方向で見た図である。
この電動機1は、2重ロータ構造のDCブラシレスモータであり、出力軸2、外ロータ3、および内ロータ4とを同軸に備える。外ロータ3および内ロータ4はそれぞれ本発明における第1ロータ、第2ロータに相当する。外ロータ3の外側には、電動機1のハウジング(図示省略)に固定されたステータ5を有し、このステータ5には図示を省略する電機子(3相分の電機子)が装着されている。なお、電動機1は、例えば、ハイブリッド車両や電動自動車の推進力発生源として車両に搭載され、電動機としての動作(力行動作)と、発電機としての動作(回生動作)とが可能とされている。
外ロータ3は環状に形成されており、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石6を備える。この永久磁石6は、長尺の方形板状に形成されており、その長手方向を外ロータ3の軸方向に向け、且つ、法線方向を外ロータ3の径方向に向けた状態で、外ロータ3に埋め込まれている。また、外ロータ3には、その軸心と平行な軸心を有する複数のネジ穴7が穿設されている。これらのネジ穴7は、外ロータ3の周方向に等間隔で配列されている。
内ロータ4も環状に形成されている。この内ロータ4は、その外周面を外ロータ3の内周面に摺接させた状態で、外ロータ3の内側に該外ロータ3と同軸に配置されている。なお、内ロータ4の外周面と外ロータ3の内周面との間に若干のクリアランスが設けられていてもよい。さらに、この内ロータ4の軸心部を、該内ロータ4および外ロータ3と同軸に出力軸2が貫通している。この場合、内ロータ4の内径は、出力軸2の外径よりも大きく、出力軸2の外周面と内ロータ4の内周面との間に間隔を有する。
また、内ロータ4は、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石8を備える。この永久磁石8は、外ロータ3の永久磁石6と同形状で、外ロータ3の場合と同様の形態で、内ロータ4に埋め込まれている。内ロータ4の永久磁石8の個数は、外ロータ3の永久磁石8の個数と同じである。
ここで、図2を参照して、外ロータ3の永久磁石6のうちの白抜きで示す永久磁石6aと、点描を付した永久磁石6bとは、外ロータ3の径方向における磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石6aは、その外側(外ロータ3の外周面側)の面がN極、内側(外ロータ3の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石6bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。同様に、内ロータ4の永久磁石8のうちの白抜きで示す永久磁石8aと、点描を付した永久磁石8bとは、内ロータ4の径方向での磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石8aは、その外側(内ロータ4の外周面側)の面がN極、内側(内ロータ4の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石8bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。
そして、本実施形態では、外ロータ3においては、図2に示す如く、互いに隣り合された永久磁石6a,6aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石6b,6bの対とが、外ロータ3の周方向に交互に配列されている。同様に、内ロータ4においては、互いに隣り合された永久磁石8a,8aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石8b,8bの対とが、内ロータ4の周方向に交互に配列されている。
内ロータ4の内側には、出力軸2の外周面との間で、第1部材9と第2部材10とが設けられている。これらの第1部材9および第2部材10は、内ロータ4の内側に複数の油圧室24、25を形成するものである。
第2部材10は、環状部11と、この環状部11の内周面から該環状部11の中心部に向かって径方向に突設された複数の突起部12(以下、第2部材側突起部12ということがある)とを有する。第2部材10は、その環状部11を内ロータ4に同軸に嵌入することにより、該内ロータ4に同軸に固定されている。また、第2部材側突起部12は、周方向に等間隔で設けられている。
第1部材9は、ベーンロータ状のものであり、その軸部としての環状部13と、この環状部13の外周面から径方向に突設された複数の突起部14(以下、第1部材側突起部14ということがある)とを有する。第1部材9の環状部13は、第2部材10の環状部11の内側に該環状部11と同軸に設けられ、その外周面に、第2部材10の各突起部12の先端部がシール部材15を介して摺接されている。また、第1部材9の環状部13は、出力軸2に外挿されており、その内周面が出力軸2の外周面に形成されたスプライン16に嵌合されている。このスプライン嵌合により第1部材9が出力軸2と一体に回転可能とされている。
第1部材側突起部14の個数は、第2部材側突起部12の個数と同数であり、周方向に等間隔で配列されている。この場合、この各第1部材側突起部14は、周方向に隣り合う2つの第2部材側突起部12,12の間の箇所に介装されている。換言すれば、第1部材9と第2部材10とは、それらの突起部14,12が周方向で交互に並ぶように係合されている。そして、各第1部材側突起部14の先端部は、シール部材17を介して第2部材10の環状部11の内周面に摺接されている。また、各第1部材側突起部14には、環状部13の軸心と平行な軸心を有するネジ穴18が穿設されている。
図1を参照して、外ロータ3の軸心方向の両端面部には、円板状のドライブプレート19,19が該外ロータ3と同軸に装着されている。これらのドライブプレート19,19は、それぞれ、その中心部(軸心部)に出力軸2の外径よりも大径の穴20を有し、この穴20を出力軸2が同軸に貫通していると共に、該穴20に第1部材9の環状部13の各端部が嵌入されている。そして、各ドライブプレート19は、外ロータ3の各ネジ穴7と、第1部材9の各突起部14のネジ穴18とにそれぞれボルト21により締結されている。これにより、外ロータ3および第1部材9は、一体に回転可能に連結されている。この場合、前記したように第1部材9は、スプライン嵌合により出力軸2と一体に回転可能であるので、外ロータ3も出力軸2と一体に回転可能とされている。
また、ドライブプレート19,19は、それらの間に、前記内ロータ4および第2部材10を支承している。具体的には、ドライブレート19,19の互いに相対する面には、それぞれ、同軸に環状溝22が形成されている。そして、この環状溝22に前記第2部材10の環状部11の各端部が摺動自在に挿入されている。これにより、内ロータ4および第2部材10は、環状部11を介してドライブプレート19,19に支承されると共に、ドライブプレート19,19の環状溝22に沿って、外ロータ3、第1部材9および出力軸2に対して相対回転可能とされている。
前記第1部材9と第2部材10とは、内ロータ4を外ロータ3に対して相対的に回転させることにより両ロータ3,4間の位相差を変化させる位相差変更駆動手段23の構成要素である。この位相差変更駆動手段23は、前記第1部材9と第2部材10とによって、第1部材9の環状部13と、第2部材10の環状部11と、ドライブプレート19,19とで囲まれた空間内に、図2に示す如く形成された複数対(突起部12,14と同数の対)の油圧室24,25を有する。さらに詳細には、第2部材10の環状部11と第1部材9の環状部13との間の空間のうち、各第2部材側突起部12と、該突起部12の両側(周方向での両側)に存する2つの第1部材側突起部14,14との間の空間が、それぞれ、作動油を流入・流出させる油圧室24,25となっている。この場合、各第2部材側突起部12の一方の側の油圧室24は、出力軸2の内部に設けられた油通路26に、第1部材9の環状部13に穿設されている図示しない油通路を介して連通されて、作動油が充填されている。同様に、各第2部材側突起部12の他方の側の油圧室25は、出力軸2の内部に油通路26とは別に設けられた油通路27に、第1部材9の環状部13に穿設されている図示しない油通路を介して連通されて、作動油が充填されている。この場合、油圧室24の油圧は、それを増圧したとき、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の時計まわり方向に相対回転させようとする圧力となる。また、油圧室24の圧力(油圧)は、それを増圧したとき、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の反時計まわり方向に相対回転させようとする圧力となる。
また、図1に示す如く、位相差変更駆動手段23は、出力軸2の油通路26,27に、電動機1の外部で四方弁28を介して接続された油圧ポンプ29を備えている。四方弁28は、電磁式の4ポート弁であり、そのソレノイド28aの通電量をPWM制御により制御することで、油圧ポンプ29から油圧室24,25への作動油の供給流量が調整され、それらの油圧室24,25の圧力差が制御されるようになっている。この場合、四方弁28のソレノイド28aの通電量のPWM制御におけるデューティの変化に応じて、油圧室24,25の圧力差がほぼリニアに変化するようになっている。
ここで、油圧室24,25の圧力差によって、第2部材10と共に内ロータ4を外ロータ3および第1部材9に対して回転させようとするトルクが発生する。すなわち、油圧室24の圧力を油圧室25よりも大きくすることで、それらの圧力差によって、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の時計まわり方向に回転させようとするトルクが発生する。逆に油圧室25の圧力を油圧室24よりも大きくすることで、それらの圧力差によって、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の反時計まわり方向に回転させようとするトルクが発生する。そして、このように発生するトルクは、油圧室24,25の圧力差に比例する。従って、本実施形態における位相差変更駆動手段23は、油圧室24,25の圧力差を四方弁28を介して操作することによって、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させる(両ロータ4,5間の位相差を変更させる)トルクを発生する。このように、油圧室24,25の圧力差に応じて両ロータ4,5の間に作用するトルクを以降、位相差変更駆動トルクという。
補足すると、前記第1部材9、第2部材10、および油圧室24,25によって、位相差変更駆動手段23のアクチュエータ(油圧式ロータリーアクチュエータ)が構成される。
以上が、電動機1および位相差変更駆動手段23の機構的な構成である。
なお、本実施形態では、電動機1の出力軸2と外ロータ3とが一体に回転するように構成したが、出力軸と内ロータとが一体に回転するようにして、これらの出力軸および内ロータに対して外ロータが相対回転し得るように構成してもよい。また、位相差変更駆動手段23の構成は、上記した構成に限られるものではない。例えば直動シリンダのピストンの直動運動を回転運動に変換する機構を介して内ロータを外ロータに対して相対回転させるようにしてもよい。また、例えば、内ロータを外ロータに対して回転させる駆動力をロータリーアクチュエータなどのアクチュエータから遊星歯車機構を介して内ロータに伝達するように位相差変更駆動手段を構成してもよい。
前記位相差変更駆動手段23によって、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させ、両ロータ3,4間の位相差(以下、ロータ間位相差θdという)を変化させることで、内ロータ4の永久磁石8a,8bによって発生する界磁と外ロータ3の永久磁石6a,6bによって発生する界磁とを合成してなる合成界磁の強さ(ステータ5に向かう径方向の磁束の強さ)が変化することとなる。以降、その合成界磁の強さが最大となる状態を界磁最大状態、該合成界磁の強さが最小となる状態を界磁最小状態という。図3(a)は界磁最大状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図であり、図3(b)は界磁最小状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図である。
図3(a)に示す如く、界磁最大状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが異極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最大状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6aに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6bに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6a,6bのそれぞれの磁束Q2の向きとが同一となるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁の強さ)が最大となる。
また、図3(b)に示す如く、界磁最小状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが同極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最小状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6bに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6aに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6b,6aのそれぞれの磁束Q2の向きとが逆向きとなるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁の強さ)が最小となる。
本実施形態では、前記内ロータ4は、外ロータ3に対して、前記合成界磁が界磁最大状態となる回転位置と、界磁最小状態となる回転位置との間の範囲内で相対回転可能とされている。この場合、本実施形態では、界磁最小状態と最大界磁状態とでは、第1部材側突起部14と第2部材側突起部12とが当接し、これにより、内ロータ4の外ロータ3に対する相対回転可能範囲(第2部材10の第1部材11に対する相対回転可能範囲)が規制される。その相対回転可能範囲、すなわち、ロータ間位相差θdの変更可能範囲は、電気角で180[deg]の範囲である。そして、本実施形態では、前記界磁最大状態におけるロータ間位相差θdを0[deg]、前記界磁最小状態におけるロータ間位相差θdを180[deg]と定義する。ただし、最大界磁状態におけるロータ間位相差θdを0[deg]と定義する必要はなく、ロータ間位相差θdの零点やスケールは、任意に設定してよい。
図4は、前記界磁最大状態と界磁最小状態とにおいて、電動機1の出力軸2を所定回転速度で作動させた場合に、ステータ5の電機子に誘起される誘起電圧を比較したグラフである。このグラフの縦軸と横軸とは、それぞれ、誘起電圧[V]、電気角での出力軸2の回転角度[度]である。参照符号aを付したグラフが、界磁最大状態(ロータ間位相差θd=0[deg]の状態)でのグラフであり、参照符号bを付したグラフが、界磁最小状態(ロータ間位相差θd=180[deg]の状態)でのグラフである。図4から判るように、ロータ間位相差θdを0[deg]と180[deg]との間で変化させることで、誘起電圧のレベル(振幅レベル)を変化させることができる。なお、ロータ間位相差θdを0[deg]と180[deg]まで増加させていくと、合成界磁の強さが減少していき、これに伴い、誘起電圧のレベルが減少していく。
このようにロータ間位相差θdを変化させて、合成界磁の強さを増減させることにより、電動機1の誘起電圧定数Keを変化させることができる。なお、誘起電圧定数Keは、電動機1の出力軸2の角速度と、この角速度に応じて電機子に生じる誘起電圧(実効値)との関係を規定する比例定数である。誘起電圧定数Keの値は、後述する如く、ロータ間位相差θdを0[deg]から180[deg]まで増加させていくに伴い、小さくなる。
次に、図5〜図17を参照して、本実施形態における電動機1の制御装置50を説明する。図5は、電動機1の制御装置50(以下、単に制御装置50という)の機能的構成を示すブロック図である。なお、図5では、電動機1を模式化して記載し、前記第1部材9および第2部材10から構成される機構(すなわち、位相差変更駆動手段23のアクチュエータ)を「位相可変機構」と表現している。
図5を参照して、本実施形態の制御装置50は、基本的には、いわゆるd−qベクトル制御により電動機1の電機子の通電を制御する。すなわち、制御装置50は、電動機1を、界磁方向をd軸としてd軸と直交する方向をq軸とする2相直流の回転座標系であるd−q座標系での等価回路に変換して取り扱う。その等価回路は、d軸上の電機子(以下、d軸電機子という)と、q軸上の電機子(以下、q軸電機子という)とを有する。d−q座標系は、電動機1の出力軸2に対して固定された座標系である。そして、制御装置50は、外部から与えられるトルク指令値Tr_c(電動機1の出力軸2に発生させるトルクの指令値)に応じたトルクを電動機1の出力軸2に発生させるように電動機1の電機子(3相分の電機子)の通電電流を制御する。また、制御装置50は、この通電制御と並行して、電動機1のロータ間位相差θdを前記位相差変更駆動手段23を介して目標値に制御する。
これらの制御を行なうために、本実施形態では、電動機1の状態量を検出する検出手段として、電動機1の電機子の3相のうちの2つの相、例えばU相およびW相のそれぞれの電流を検出する電流センサ41,42(電流検出手段)と、電動機1の出力軸2または外ロータ3の回転角度θm(電動機1のステータ5に対して固定された座標系での回転角度)を検出する回転角度検出用センサとしてのレゾルバ43と、ロータ間位相差θd(出力軸2または外ロータ3に対して固定された座標系での内ロータ4の回転角度)を検出する位相差検出器44とが備えられている。なお、内ロータ4の回転角度(電動機1のステータ5に対して固定された座標系での回転角度)をレゾルバなどにより検出し、その内ロータ4の回転角度の検出値と、外ロータ3の回転角度(本実施形態では、これは出力軸2の回転角度と同一である)の検出値とからロータ間位相差θdを検出するようにしてもよい。
補足すると、位相差検出器44は、本発明における実位相差データ出力手段に相当し、該位相差検出器44から出力されるロータ間位相差θdの検出値θd_sが実位相差データに相当する。
制御装置50は、CPU、メモリ等により構成される電子ユニットであり、その制御処理が所定の演算処理周期で逐次実行される。以下に、制御装置50の機能的な手段を具体的に説明する。
制御装置50は、レゾルバ43で検出された回転角度θmを微分することで、電動機1の出力軸2の回転速度Nm(=外ロータ3の回転速度)を求める回転速度算出部51と、電動機1の各相の電機子の通電電流をインバータ回路(図示省略)を介して制御する通電制御部52とを備える。
通電制御部52は、前記電流センサ41,42の出力信号から不要成分を除去することで、電動機1の電機子のU相、W相のそれぞれの電流検出値Iu,Iwを得るバンドパスフィルタ61と、該電流検出値Iu,Iwと前記レゾルバ43により検出された電動機1の出力軸2の回転角度θm(=外ロータ3の回転角度)とに基づいて、3相−dq変換によりd軸電機子の電流(以下、d軸電流という)の検出値Id_sおよびq軸電機子の電流(以下、q軸電流という)の検出値Iq_sを算出する3相−dq変換部62とを備える。
補足すると、d−qベクトル制御を好適に行なう上では、d軸の向きを前記合成界磁の向きに合わせることが望ましい。そして、その合成界磁の向きは、概ね、外ロータ3の回転角度に応じて定まるものの、ロータ間位相差θdに応じてずれを生じる。従って、3相−dq変換部62の処理を行なうときには、レゾルバ43により検出された回転角度θmをロータ間位相差θdの検出値θd_sに応じて補正し、その補正後の回転角度を用いて3相−dq変換を行なうようにしてもよい。
また、通電制御部52は、d軸電流の指令値であるd軸電流指令値Id_cとq軸電流の指令値であるq軸電流指令値Iq_cとを決定する電流指令算出部63と、d軸電流指令値Id_cを補正するための補正値ΔId_volを求める界磁制御部64と、この補正値ΔId_volをd軸電流指令値Id_cに加えることでd軸電流指令値Id_cを補正してなる補正後d軸電流指令値Id_c'(=Id_c+ΔId_vol)を求める演算部65と、補正後d軸電流指令値Id_c'とd軸電流の検出値Id_sとの偏差ΔId(=Id_c'−Id_s=Id_c+ΔId_vol−Id_s。以下、d軸電流偏差ΔIdという)を求める演算部66と、q軸電流指令値Iq_cとq軸電流の検出値Iq_sとの偏差ΔIq(Iq_c−Iq_s。以下、q軸電流偏差ΔIqという)を求める演算部67とを備える。
ここで、電流指令算出部63には、制御装置50に外部から与えられるトルク指令値Tr_cと、前記回転速度算出部51で求められた回転速度Nmと、後述するKe推定部53で求められた電動機1の実際の誘起電圧定数Keの推定値Ke_s(以下、誘起電圧定数推定値Ke_sという)とが入力される。そして、電流指令算出部63は、これらの入力値から、あらかじめ設定されたマップに基づいて、前記d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cを決定する。このd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cは、トルク指令値Tr_cのトルクを電動機1に出力軸2に発生させるためのd軸電流およびq軸電流のフィードフォワード指令値としての意味を持つ。
なお、トルク指令値Tr_cは、例えば電動機1を推進力発生源として搭載した車両(ハイブリッド車両や電動車両)のアクセル操作量(アクセルペダルの踏み込み量)や走行速度に応じて決定される。また、トルク指令値Tr_cには、力行トルクの指令値と回生トルクの指令値とがあり、本実施形態では、力行トルクのトルク指令値Tr_cを正の値、回生トルクのトルク指令値Tr_cを負の値とする。
また、前記界磁制御部64で決定される補正値ΔId_volは、d軸電機子の電圧とq軸電機子の電圧との合成ベクトルの大きさが電動機1の電源電圧Vdc(より詳しくは、インバータ回路の印加電圧)を超えないようにするためのd軸電流の操作量(フィードバック操作量)を意味する。この補正値ΔId_volを決定するために、界磁制御部64には、後述する電流フィードバック制御部68で決定されたd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_c(前回の演算処理周期で決定された値)と、電源電圧Vdcの値とが逐次入力される。そして、界磁制御部64は、入力されたVd_cおよびVd_qの合成ベクトルの大きさ(=√(Vd_c2+Vd_q2))と、電源電圧Vdcに応じて決定した目標電圧との偏差に応じて、この偏差を0に近づけるようにフィードバック制御則により、補正値ΔId_volを決定する。
通電制御部52はさらに、前記演算部66,67でそれぞれ求められたd軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqに応じて、d軸電機子の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd_cと、q軸電機子の電圧指令値であるq軸電圧指令値Vq_cとを決定する電流フィードバック制御部68を備える。この電流フィードバック制御部68は、d軸電流偏差ΔIdに応じて、該偏差ΔIdを0に近づけるようにPI制御則などのフィードバック制御則によりd軸電圧指令値Vd_cを決定する。同様に、電流フィードバック制御部68は、q軸電流偏差ΔIqに応じて、該偏差ΔIqを0に近づけるようにPI制御則などのフィードバック制御則によりq軸電圧指令値Vq_cを決定する。
なお、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとを決定するとき、d軸電流偏差ΔId、q軸電流偏差ΔIqからフィードバック制御則によりそれぞれ求められるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に、d軸とq軸との間で干渉し合う速度起電力の影響を打ち消すための非干渉成分を付加することで、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cを求めることが好ましい。
さらに、通電制御部52は、電流フィードバック制御部68で決定したd軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとを成分とするベクトルを、その大きさV1の成分と、角度θの成分とに変換するrθ変換部69と、その大きさV1および角度θの成分を3相の交流電圧に変換し、その各相の交流電圧に応じて電動機1の各相の電機子にPWM制御によりインバータ回路(図示省略)を介して通電するPWM演算部70とを備える。この場合、PWM演算部70は、インバータ回路の各スイッチング素子のON・OFFを制御することで、各相の電機子に通電する。なお、図5では図示を省略しているが、PWM演算部70には、上記V1、θ1を電動機1の各相の電機子の交流電圧に変換するために、前記レゾルバ43で検出された出力軸2の回転角度θm(=外ロータ3の回転角度)が入力される。この場合、3相−dq変換部62の処理の場合と同様に、回転角度θmの検出値を位相差検出器44によるロータ間位相差θdの検出値θd_sに応じて補正してもよい。
以上説明した通電制御部52の機能によって、d軸電圧とq軸電圧との合成電圧が、電源電圧Vdcを超えないようにしつつ、電動機1の出力軸2に発生するトルク(電動機1の出力トルク)をトルク指令値Tcに従わせるように(ΔId,ΔIqが0に収束するように)、電動機1の各相の電機子の通電電流が制御される。
制御装置50は、前記回転角度算出部51および通電制御部52のほか、位相差検出器44によるロータ間位相差θdの検出値θd_sに応じて前記誘起電圧定数推定値Ke_sを求めるKe推定部53と、ロータ間位相差θdの指令値(目標値)である位相差指令値θd_cを逐次決定する位相差指令算出部54と、前記位相差変更駆動手段23に対する制御指令(操作量)を逐次決定する位相差制御部55とを備える。
ここで、電動機1の誘起電圧定数Keは、前記したようにロータ間位相差θdに応じて変化し、該ロータ間位相差θdとの間には概ね一定の相関関係がある。図6はその相関関係を示すグラフである。図示の如く、誘起電圧定数Keは、ロータ間位相差θdの増加に伴い(前記合成界磁の強さが低下するに伴い)、単調に減少する。
そこで、本実施形態では、図6のグラフで示す相関関係をあらかじめテーブル化しておき、そのデータテーブルをあらかじめ図示しないメモリに記憶保持している。そして、前記Ke推定部53は、位相差検出器44から入力されるロータ間位相差θdの検出値θd_sから、図6のグラフで示すデータテーブルに基づいて、誘起電圧定数推定値Ke_sを逐次求める。このように求められた誘起電圧定数推定値Ke_sが、前記d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cを決定するために、前記電流指令算出部63に逐次入力される。
前記位相差指令算出部54には、前記トルク指令値Tr_cと、電動機1の電源電圧Vdcの値と、前記回転速度算出部51で求められた回転速度Nmとが逐次入力される。そして、位相差指令算出部54は、これらの入力値Tr_c,Nm,Vdcからあらかじめ設定されたマップに従って、位相差指令値θd_cを逐次決定する。
この場合、上記マップは、例えば、該マップにより決定される位相差指令値θdに従ってロータ間位相差θdを制御したとき、トルク指令値Tr_cと回転速度Nmと電源電圧Vdcとの組に対して、電動機1のd軸電圧とq軸電圧との合成電圧(ベクトル和)の大きさが電源電圧Vdcを超えないようにしつつ、電動機1のエネルギー効率(入力エネルギーに対する出力エネルギーの割合)をできるだけ高めることができるような合成界磁が発生するように設定されている。
ここで、一般的には、前記合成界磁の強さを小さくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを大きくするほど、あるいは、誘起電圧定数Keを小さくするほど)、電動機1の出力軸2をより高速域で回転させることが可能となると共に、電動機1のエネルギー効率が高効率となる領域を高速回転側にずらすことができる。また、前記合成界磁の強さを大きくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを小さくするほど、あるいは、誘起電圧定数Keを大きくするほど)、電動機1の出力トルクを大きくすることができる。従って、位相差指令値θd_cは、上記のようなロータ間位相差θdに対する電動機1の特性と、電動機1の要求される運転形態とを考慮して設定すればよく、種々様々な設定の仕方が可能である。
本実施形態では、位相差指令算出部54では、回転速度Nmと電源電圧Vdcとを一定としたとき、位相差指令値θd_cは、基本的には、トルク指令値Tr_cの絶対値|Tr_c|が大きくなるほど、θd_cの値が小さくなるように(換言すれば、前記合成界磁の強さ、あるいは誘起電圧定数Keを大きくするように)設定される。
また、トルク指令値Tr_cと電源電圧Vdcとを一定としたとき、位相差指令値θd_cは、基本的には、回転速度Nmが高速となる領域で、該回転速度Nmが大きくなるほど、θd_cの値が大きくなるように(換言すれば、前記合成界磁の強さ、あるいは、誘起電圧定数Keを小さくするように)設定される。また、トルク指令値Tr_cと回転速度Nmとを一定としたとき、位相差指令値θd_cは、基本的には、電源電圧Vdcが小さくなるほど、位相差指令値θd_cの値が大きくなるように設定される。
補足すると、位相差指令値θd_cを設定するとき、電動機1の過熱防止などの要求を考慮して設定してもよい。
なお、位相差指令算出部54は、本発明における目標位相差データ決定手段に相当し、該位相差指令算出部54で決定される位相差指令値θd_cが目標位相差データに相当する。
前記位相差制御部55は、本発明における位相差制御手段に相当するものである。この位相差制御部55には、位相差指令算出部54で決定された位相差指令値θd_cと、前記位相差検出器44によるロータ間位相差θdの検出値θd_sと、前記トルク指令値Tr_cと、前記回転速度算出部51で求められた回転速度Nmとが入力される。そして、位相差制御部55は、これらの入力値を基に、前記位相差変更駆動手段23に対する制御指令(操作量)を決定する。その制御指令は、位相差変更駆動手段23によって、外ロータ3に対して内ロータ4に付与する前記位相差変更駆動トルクの値(要求値)を規定する操作量(制御入力)である。本実施形態では、位相差変更駆動トルクは、前記したように、位相差変更駆動手段23の四方弁28のソレノイド28aの通電量によって規定され、その通電量は、PWM制御により制御される。そこで、本実施形態では、位相差制御部55は、四方弁28のソレノイド28aの通電量のPWM制御におけるデューティ指令値Dt_cを位相差変更駆動手段23を制御するための操作量(制御入力)として逐次決定する。そして、位相差制御部55は、このデューティ指令値Dt_cを位相差変更駆動手段23に出力する。
この場合、位相差制御部55は、位相差変更駆動手段23により発生する位相差変更駆動トルク以外に、両ロータ3,4間で発生するトルク(外乱トルク)の影響を補償しつつ、ロータ間位相差θdの検出値θd_sを位相差指令値θd_cに一致させるようにデューティ指令値Dt_cを決定する。このディーティ指令値Dt_cは、本実施形態では、応答指定型のフィードバック制御処理としてのスライディングモード制御の処理により決定される第1指令値成分Dt_c1と、外乱トルクの影響を補償するための第2指令値成分Dt_c2との合成値である。
補足すると、前記第1指令値成分Dt_c1は本発明におけるフィードバック操作量に相当し、第2指令値成分Dt_c2は本発明における外乱トルク補償操作量に相当する。
図7は、位相差制御部55の処理機能を示すブロック図である。図示の如く、位相差制御部55は、その機能を大別すると、応答指定型のフィードバック制御としてのスライディングモード制御の処理により上記第1指令値成分Dt_c1を求めるスライディングモード制御部80と、外乱トルクの影響を補償するための上記第2成分指令値Dt_c2を求める外乱トルク補償部81と、これらの指令値成分Dt_c1,Dt_c2を合成する(加え合わせる)ことで、デューティ指令値Dt_cを求める演算部82とから構成される。
なお、スライディングモード制御部80は、本発明におけるフィードバック操作量決定手段に相当する。また、外乱トルク補償部81は、本発明における外乱トルク補償操作量決定手段に相当する。
前記スライディングモード制御部80には、位相差指令値θd_cと、ロータ間位相差θdの検出値θd_s(以下、単にロータ間位相差検出値θd_sという)と、位相差制御部55が既に決定したディーティ指令値Dt_c(過去値)とが入力される。そして、スライディングモード制御部80は、これらの入力値を基に、第1指令値成分Dt_c1を逐次決定する。
スライディングモード制御では、一般に、制御対象の制御量と目標値との偏差を制御すべき状態量とし、この状態量を変数成分として有する線形な切換関数があらかじめ定義される。そして、この切換関数の値を0に収束させるように、制御入力(操作量)を決定する。
本実施形態では、ロータ間位相差検出値θd_sと、位相差指令値θd_cとの偏差e(=θd_s−θd_c)の時系列を変数成分とする切換関数σを定義する。具体的には、次式(1)により、スライディングモード制御用の切換関数σが定義される。
σ(k)=e(k)+S・e(k-1) ……(1)
ただし、e(k)=θd_s(k)−θd_c(k-1)
なお、「k」は、制御装置50の演算処理周期の番数(量子化時刻)を意味する。また、「S」は偏差eの減衰挙動を規定する係数パラメータである。また、θd_c(k-1)は、時刻kの演算処理周期で観測されるロータ間位相差検出値θd_s(k)の目標値として、時刻k−1の演算処理周期で決定された位相差指令値を意味する。
スライディングモード制御部80のスライディングモード制御の処理では、それを概略的に説明すると、上記の如く定義された切換関数σの値を0に収束させ、さらには、0に維持するように制御入力(操作量)としての第1指令値成分Dt_c1が決定される。図8は、e(k)を縦軸、e(k-1)を横軸とする座標平面上において、偏差eがスライディングモード制御によって0に収束していく様子を概念的に示している。図示の如く、今現在のe(k)、e(k-1)の値の組が、点Pで表されるとすると、e(k)、e(k-1)の値の組は、図中の矢印で示す如く、σ=0により表される直線(これは一般に切換直線あるいはスライディングラインなどと言われる)上に収束し、さらに、該切換直線σ=0上を滑るようにして、e(k)=e(k-1)=0となる原点に収束する。
ここで、σ=0となる状態では、前記式(1)により、e(k)=−S・e(k-1)となる。この系は、係数パラメータSの値が0<|S|<1となる値であれば、入力のない安定系となる。特に、−1<S<0となるように係数パラメータSの値を設定しておけば、偏差eは、振動的な挙動を示すことなく、一次遅れの挙動で0に収束する。従って、切換関数σの係数パラメータSの値を−1<S<0の範囲内の値に設定しておけば、切換関数σの値を0に収束させることによって、結果的に偏差eを、外乱などの影響を受けることなく、高いロバスト性で0に収束させることができる。そこで、本実施形態では、係数パラメータSの値は、−1<S<0となるような値に設定される。この場合、本実施形態では、Sの値は、−1<S<0の範囲内で可変的に設定されるが、これについては後述する。
スライディングモード制御部80による処理では、上記のように定義された切換関数σを用い、各演算処理周期における前記第1指令値成分Dt_c1(k)が例えば次式(2)により逐次決定される。
この式(2)の右辺の第1項は偏差e(k)、e(k-1)の組を切換直線σ=0に拘束するための制御入力としての等価制御入力項、第2項は切換関数σの値を0に収束させるための制御入力としての到達則項、第3項は切換関数σを0に収束させるに際しての外乱やモデル化誤差(後述するモデルの誤差)の影響を補償するための制御入力としての適応則項である。なお、Krch、Kadpは、それぞれ到達則項、適応則項のゲインであり、それらの値としては、あらかじめ設定された値(固定値)が用いられる。
式(2)に示すように、到達則項は、切換関数σの値に比例させた値である。また、適応則項は、初期時刻から現在時刻kまでの切換関数σの値の累積加算値(これはσの積分値を意味する)に比例させた値である。従って、本実施形態では、PI則によりσの値を0に収束させる。
また、等価制御入力項Dt_eq(k)は、ロータ間位相差θdと前記デューティ指令値Dt_cとの関係を表すモデルに基づいて構築された演算式により決定される。
本実施形態では、そのモデルとして、次式(3)により記述される自己回帰モデルを用いている。
θd(k+1)=a1・θd(k)+a2・θ(k-1)+b1・Dt_c(k)+b2・Dt_c(k-1)
……(3)
このモデルでは、現在時刻kの次の演算処理周期の時刻k+1におけるロータ間位相差θd(k+1)が、ロータ間位相差θdの現在値θd(k)および過去値θd(k-1)と、ディーティ指令値Dt_cの現在値Dt_c(k)および過去値Dt_c(k-1)との線形結合により表される。そして、式(3)の右辺の各項の係数a1,a2,b1,b2(モデルパラメータ)の値は、あらかじめ実験やシミュレーションに基づき同定される。
前記等価制御入力項Dt_eqは、式(3)により表されるモデルにおいて、σ(k+1)=σ(k)を満たすようなDt_c(k)の値として与えられる。従って、等価制御入力項Dt_eqは、前記式(1)、(3)とσ(k+1)=σ(k)という条件とから、次式(4)により与えられる。
Dt_eq(k)=(1/b1)・{ (1−a1−S)・θd_s(k)+(S−a2)・θd_s(k-1)
−b2・Dt_eq(k-1)−S・θd_c(k-2)
+(S−1)・θd_c(k-1)+θd_c(k) }
……(4)
従って、本実施形態では、スライディングモード制御部80は、入力されたロータ間位相差検出値θd_sと、位相差指令値θd_cとから、それらの偏差eおよび切換関数σの値が、前記式(1)に従って逐次求められ、その切換関数σの値を用いて前記式(2)の右辺の到達則項および適応則項の値が求められる。なお、この場合、切換関数σの値を求めるために必要な前記係数パラメータSの値とし、制御装置50の各演算処理周期において後述するように設定した値が使用される。
さらに、スライディングモード制御部80は、入力されたロータ間位相差検出値θd_sの時系列θd_s(k),θd_s(k-1)(現在値および過去値)と、位相差指令値θd_cの時系列θd_c(k-2),θd_c(k-1),θd_c(k)(現在値および過去値)と、デューティ指令値Dt_eq(k-1)(過去値)とから、前記式(4)の右辺の演算により、等価制御入力項Dt_eqを求める。なお、この場合、式(4)の右辺の演算に必要なa1,a2,b1,b2の値としては、前記式(3)のモデルに対してあらかじめ同定された値が用いられる。また、Sの値は、制御装置50の各演算処理周期において後述するように設定した値が使用される。
そして、スライディングモード制御部80は、上記のように求めた等価制御入力項と、到達則項と、適応則項とを前記式(2)の通り、加え合わせることにより、各演算処理周期における前記第1指令値成分Dt_c1(k)を決定する。
このようにしてスライディングモード制御部80により第1指令値成分Dt_c1を逐次決定することにより、該第1指令値成分Dt_c1は、切換関数σの値を0に収束させ、ひいては、前記偏差eを0に収束させる(ロータ間位相差検出値θd_sを位相差指令値θd_cに収束させる)ように決定される。なお、このように決定される第1指令値成分Dt_c1は、デューティ指令値Dt_cのフィードバック操作量の成分を意味する。
ところで、本実施形態では、前記切換関数σの係数パラメータSの値は、前記したように−1<S<0の範囲内の値に設定される。この場合、切換関数σの値が0に収束した状態では、e(k)=−S・e(k-1)となるので、係数パラメータSの値によって、偏差eの減衰挙動における減衰速度を指定できる。図9のグラフc,dは、それぞれSの値を例えば−0.8、−0.5に設定した場合における偏差eの時間的変化を示すグラフである。これらのグラフc,dに示されるように、Sの絶対値が小さい方が、偏差eの減衰速度が速くなる(偏差eがより早く0に収束する)。
一方、実際のロータ間位相差θdを位相差指令値θdに制御する上では、基本的には、その制御の応答性が速いことが望ましい。ただし、内ロータ4の外ロータ3に対する相対回転可能範囲(ロータ間位相差θdの変更可能範囲)の境界付近では、ロータ間位相差θdの制御の応答性が速すぎると、内ロータ4と一体に回転する部材がストッパに急激に衝突し(具体的には、前記第2部材側突起部12が第1部材側突起部14に衝突する)、その衝突する部材の損傷や、実際のロータ間位相差θdの過渡的な振動を生じる恐れがある。そして、実際のロータ間位相差θdの振動は、電動機1の出力トルクの振動の原因となる。
そこで、本実施形態では、スライディングモード制御部80は、ロータ間位相差検出値θd_sに応じて、前記切換関数σの係数パラメータSの値を−1<S<0の範囲内で可変的に設定する。この場合、特に、ロータ間位相差検出値θd_sがロータ間位相差θdの変更可能範囲の境界近傍の所定範囲内にあるときには、θd_sが該所定範囲外にあるときよりも、前記偏差eの減衰速度が遅くなるように、係数パラメータSの値を設定する。
具体的には、Sの値は、図10のグラフで示すようにθd_sに応じて設定される。図10はその設定例を示すグラフである。図示の如く、ロータ間位相差θdの変更可能範囲[0deg,180deg]の下限側の境界値0[deg]よりも若干大きい下限側閾値θd_thminと、上限側の境界値180[deg]よりも若干小さい上限側閾値θd_thmaxとがあらかじめ設定されている。そして、ロータ間位相差検出値θd_sがθd_thmin<θd_s<θd_thmaxであるときには、係数パラメータSの値は、ロータ間位相差θdの制御の十分な応答性が得られるような一定値とされ、例えば−0.5に設定される。また、θd_s≦θd_thminである場合と、θd_s≧θd_thmaxである場合とでは、係数パラメータSの値は、θd_thmin<θd_s<θd_thmaxである場合よりも絶対値の大きい値に設定される。この場合、θd_s≦θd_thminである場合には、Sの値は、例えば−0.8に設定され、θd_s≧θd_thmaxである場合には、Sの値は、例えば−0.7に設定される。
なお、θd_s≧θd_thmaxである場合に、θd_s≦θd_thminである場合よりもSの絶対値を若干小さくするのは、次の理由による。すなわち、ロータ間位相差θdが比較的大きい場合(180[deg]に近い場合)には、外ロータ3の永久磁石6と、内ロータ4の永久磁石8との間に作用する磁力(吸引力または反発力)に起因するトルク(後述する磁力トルク)によって、ロータ間位相差θdが減少方向に変化しやすい。そこで、本実施形態では、θd_s≧θd_thmaxである場合に、θd_s≦θd_thminである場合よりもロータ間位相差θdの制御の応答性を高めるために、係数パラメータSの絶対値を小さめに設定した。
図11は、上記のようにスライディングモード制御部80により係数パラメータSの値を設定する処理を示すフローチャートである。
同図示の如く、スライディングモード制御部80は、まず、ロータ間位相差検出値θd_sを前記位相差検出器44から取得する(STEP1)。次いで、スライディングモード制御部80は、θd_s≦θd_thminであるか否かを判断する(STEP2)。この判断結果が、肯定的であるときには、スライディングモード制御部80は、係数パラメータSの値を−0.8に設定する(STEP3)。
また、STEP2の判断結果が否定的である場合には、スライディングモード制御部80は、θd_s≧θd_thmaxであるか否かを判断する(STEP4)。そして、この判断結果が肯定的である場合には、スライディングモード制御部80は、係数パラメータSの値を−0.7に設定する(STEP5)。
また、STEP4の判断結果が否定的である場合、すなわち、θd_thmin<θd_s<θd_thmaxである場合には、スライディングモード制御部80は、係数パラメータSの値を−0.5に設定する(STEP6)。
本実施形態では、制御装置50の各演算処理周期において、スライディングモード制御部80は、上記の如く切換関数σの係数のパラメータSの値をロータ間位相差検出値θd_sに応じて可変的に設定する。そして、スライディングモード制御部80は、このように設定したSの値を用いて、前述の通り、前記式(2)の等価制御入力項、到達則項、および適応則項を求め、それらを加え合わせることにより第1指令値成分Dt_c1(k)を求める。この場合、応答指定型の制御としてのスライディングモード制御の処理により第1指令値成分Dt_c1(k)を求めるので、前記偏差eを高いロバスト性を有する好適な減衰挙動(振動を生じない減衰挙動)で円滑に0に収束させるように第1指令値成分Dt_c1を決定できる。また、特に、実際のロータ間位相差θdが、変更可能範囲の境界に近い状況では、係数パラメータSの絶対値が通常よりも大きめの値に設定されるので、偏差eの減衰速度を遅めにすることができる。すなわち、ロータ間位相差θdの位相差指令値θd_cへの収束を緩やかに行なうことができる。その結果、内ロータ4と一体に回転する部材がストッパに急激に衝突する(前記第2部材側突起部12が第1部材側突起部14に急激に衝突する)のを防止し、その衝突に伴う部材の損傷や、実際のロータ間位相差θdの過渡的な振動の発生を防止することができる。
なお、図10のグラフで示すようなロータ間位相差θdと係数パラメータSの設定値との関係をテーブル化しておき、そのデータテーブルに基づいてロータ間位相差検出値θd_sから係数パラメータSの値を決定するようにしてもよい。また、第1指令値成分Dt_c1を算出するために使用する係数パラメータSの値が不連続的に変化するのを防止するために、例えば、前記図11のフローチャートの処理で設定したSの値を目標値とし、この目標値に徐々に追従させた値(例えば一次遅れで追従する値)を第1指令値成分Dt_c1を算出するための係数パラメータSの値として使用するようにしてもよい。
以上が、本実施形態におけるスライディングモード制御部80の処理の詳細である。
なお、本実施形態では、スライディングモード制御用の切換関数σを偏差eの時系列を変数成分として構成したが、例えば偏差eと、この微分値de/dtとの線形結合したものとを切換関数として用いてもよい。また、本実施形態では、切換関数σの偏差e(k)に係る係数を「1」にしたが、その係数は「1」でなくてもよい。その場合には、偏差e(k)に係る係数と、偏差e(k-1)に係る係数との比の値が、偏差eの減衰速度などの減衰挙動を規定するものとなる。また、本実施形態では、前記式(2)により、偏差eを0に収束させるための制御入力(操作量)としての第1指令値成分Dt_c1を求めるようにしたが、スライディングモード制御の処理による第1指令値成分Dt_c1の決定手法は、これに限られるものではない。例えば、式(2)の右辺の等価制御入力項もしくは適応則項を省略してもよい。
次に、前記外乱トルク補償部81の処理を説明する。前記位相差変更駆動手段23による前記位相差変更駆動トルク以外に外ロータ3と内ロータ4の間に作用するトルクである外乱トルクとして、主に、次の3種類の外乱トルクがある。
(1)外ロータ3の永久磁石6と、内ロータ4の永久磁石8との間に作用する磁力(吸引力または反発力)に起因するトルク(以下、磁力トルクという)。
(2)内ロータ4の回転速度(ステータ5に対して固定された座標系での回転速度)の変化に起因する慣性力トルク(内ロータ4の回転加速度に応じて発生する慣性力トルク)。
(3)電機子の通電によって発生する界磁(回転界磁)と各ロータ3,4の永久磁石6,7の界磁との相互作用に起因するトルク。より詳しくは、電機子の通電によって発生する回転界磁と前記合成界磁との相互作用によって外ロータ3および出力軸2に発生するトルクの反力の一部として(当該反力の残部はステータ5に作用する)、外ロータ3から磁気的に内ロータ4に作用するトルク(以下、磁気反力トルクという)。
実際のロータ間位相差θdを位相差指令値θdに安定に制御するためには、これらの外乱トルクに抗し得る位相差変更駆動トルクを位相差変更駆動手段23から内ロータ4に付与する必要がある。この場合、これらの外乱トルクは、電動機1の運転状態に応じて変化する。具体的には、前記磁力トルクは、ロータ間位相差θdに応じて変化する。図12は、ロータ間位相差θdに応じた磁力トルクの変化の様子を示すグラフである。図示の如く、磁力トルクは、ロータ間位相差θdが0[deg]、180[deg]であるときには、0となるとなると共に、ロータ間位相差θdが0[deg]と180[deg]との中間的な値θdxであるときに(前記合成界磁の強さが前記最大界磁状態と最小界磁状態との中間的な強さであるときに)、ピーク値(極大値)を持つような特性(凸特性)で、ロータ間位相差θdに応じて変化する。
また、前記慣性力トルクは、一般的には、内ロータ4の回転加速度(ステータ5に対して固定された座標系で見た回転加速度(角加速度))に比例して変化する。また、特に、ロータ間位相差θdをある一定の位相差指令値θd_cに制御している状態では、慣性力トルクは、出力軸2および外ロータ3の回転加速度(角加速度)に比例して変化する。
また、前記磁気反力トルクは、図13のグラフで示すように、概ね、電動機1の出力トルクに比例して変化する。
本実施形態では、前記外乱トルク補償部81は、これらの磁力トルク、慣性力トルク、および磁気反力トルクの影響を補償して、ロータ間位相差θdの制御の安定性を高めるために、以下に説明するように前記第2指令値成分Dt_c2を決定する。
前記図7に示すように、外乱トルク補償部81には、前記トルク指令値Tr_cと、出力軸2の回転速度Nm(=外ロータ3の回転速度)と、ロータ間位相差検出値θd_sとが入力される。そして、外乱トルク補償部81は、前記トルク指令値Tr_cにフィルタリング処理(ローパス特性のフィルタリング処理)を施すことにより、電動機1の実際の出力トルクの推定値に相当する実出力トルクデータTr_sを求めるフィルタ83と、前記磁力トルクの影響を補償するためのフィードフォワード操作量Dt_c21をロータ間位相差検出値θd_sに応じて決定する磁力トルク補償部84と、前記慣性力トルクの影響を補償するためのフィードフォワード操作量Dt_c22を電動機1の出力軸2の回転速度Nmに応じて決定する磁力トルク補償部85と、前記磁気反力トルクの影響を補償するためのフィードフォワード操作量Dt_c23を前記実出力トルクデータTr_sに応じて決定する磁気反力トルク補償部86と、前記各フィードフォワード操作量Dt_c21,Dt_c22,Dt_c23を合成する(加え合わせる)ことで、前記第2指令値成分Dt_c2を求める演算部87とを備える。各フィードフォワード操作量Dt_c21,Dt_c22,Dt_c23は、それぞれ磁力トルク、慣性力トルク、磁気反力トルクの影響を補償するためのデューティ指令値Dt_cのフィードフォワード成分を意味する。従って、フィードフォワード操作量Dt_c21,Dt_c22,Dt_c23は、本発明における磁力トルク補償用操作量、慣性力トルク補償用操作量、磁気反力トルク補償用操作量に相当する。
この場合、前記磁力トルク補償部84は、図14フローチャートで示す処理によって、フィードフォワード操作量Dt_c21を求める。すなわち、まず、磁力トルク補償部84は、前記位相差検出器44からロータ間位相差検出値θd_sを取得する(STEP11)。次いで、磁力トルク補償部84は、このロータ間位相差検出値θd_sから、あらかじめ設定されたデータテーブルに基づいて、そのθd_sの値に対応して発生する磁力トルク(推定値)を求める(STEP12)。このSTEP12で使用するデータテーブルは、前記図12に示したロータ間位相差θdと、磁力トルクとの相関関係をあらかじめテーブル化し、図示しないメモリに記憶保持したものである。
次いで、磁力トルク補償部84は、STEP12で求めた磁力トルクの値から、図17のグラフで示すような特性であらかじめ設定されたデータテーブルに基づいて、フィードフォワード操作量Dt_c21を求める(STEP13)。ここで、このSTEP13で使用するデータテーブルは、外乱トルクに抗して位相差変更駆動手段23に発生させるべきトルク(位相差変更駆動トルク)と、デューティ指令値との相関関係をあらかじめテーブル化し、図示しないメモリに記憶保持したものである。そして、STEP13では、STEP12で求めた磁力トルクの値(図17のグラフの横軸の値)に対応して、図17のデータテーブルにより定まるデューティ指令値の値がフィードフォワード操作量Dt_c21として求められる。
以上説明した磁力トルク補償部84の処理によって、磁力トルクに抗する位相差変更駆動トルクを位相差変更駆動手段23に発生させるためのディーティ指令値のフィードフォワード成分としてのフィードフォワード操作量Dt_c21がロータ間位相差検出値θd_sに応じて決定される。なお、STEP12,13では、それぞれで使用するデータテーブルを近似する演算式によって、磁力トルクやフィードフォワード操作量Dt_c21を求めるようにしてもよい。また、ロータ間位相差θdと、フィードフォワード操作量Dt_c21との関係をテーブル化しておくか、もしくは、演算式で近似しておき、そのデータテーブルまたは演算式を用いてロータ間位相差検出値θd_sから、直接的にフィードフォワード操作量Dt_c21を求めるようにしてもよい。
また、前記慣性トルク補償部85は、図15のフローチャートで示す処理によって、フィードフォワード操作量Dt_c22を求める。すなわち、まず、慣性力トルク補償部85は、前記回転速度算出部51から出力軸2の回転速度Nmを取得する(STEP21)。次いで、慣性力トルク補償部85は、この回転速度Nmを微分することによって、出力軸2の角加速度β(回転加速度)を求める(STEP22)。なお、このSTEP22で求められる角加速度βが、本発明における実回転加速度データ(より詳しくは、出力軸2の実際の回転加速度を表す実回転加速度データに相当する。
次いで、慣性力トルク補償部85は、この角加速度βとあらかじめ同定された内ロータ4(ここでは前記第2部材10など、内ロータ4と一体に回転する部材を含む)のイナーシャとから、慣性力トルクを求める(STEP23)。具体的には、角加速度βに、イナーシャを乗じることにより、慣性力トルクが求められる。
次いで、慣性力トルク補償部85は、STEP23で求めた慣性力トルクの値から、前記図17のグラフで示すデータテーブルに基づいて、フィードフォワード操作量Dt_c22を求める(STEP24)。すなわち、STEP23で求めた慣性力トルクの値(図17のグラフの横軸の値)に対応して、図17のデータテーブルにより定まるデューティ指令値の値がフィードフォワード操作量Dt_c22として求められる。なお、STEP24の処理では、図17のデータテーブルの代わりに、これを近似する演算式により、慣性力トルクの値から、フィードフォワード操作量Dt_c22を算出するようにしてもよい。
以上説明した慣性力トルク補償部85の処理によって、慣性力トルクに抗する位相差変更駆動トルクを位相差変更駆動手段23によって発生させるためのディーティ指令値のフィードフォワード成分としてのフィードフォワード操作量Dt_c22が出力軸2の回転速度Nm(=外ロータ3の回転速度)に応じて決定される。
補足すると、本実施形態では、前記STEP24で求められる慣性力トルクは、ロータ間位相差θdを一定の目標値に保持する場合に、出力軸2および外ロータ3の回転速度Nmの変化に伴うロータ4の回転速度(≒Nm)の変化に起因する慣性力トルクである。従って、その慣性力トルクには、ロータ間位相差θdの変化時に、内ロータ4が外ロータ3に対して相対回転することに起因する慣性力トルクは含まれていない。この内ロータ4の相対回転に起因する慣性力トルクを含めた慣性力トルクを求める場合には、例えば、出力軸2の回転速度Nmを微分して得られる前記角加速度βと、ロータ間位相差検出値θd_cを2階微分して得られる内ロータ4の相対角加速度(外ロータ3に対する内ロータ4の相対角加速度)とを加え合わせることにより、内ロータ4の角加速度(ステータ5に対して固定された座標系で見た内ロータ4の回転加速度)を求める。そして、この内ロータ4の角加速度に、前記イナーシャを乗じることで、慣性力トルクを求めるようにすればよい。また、出力軸2の回転加速度、または、内ロータ4の回転加速度を検出する手段を備えた場合には、それらの検出値から慣性力トルクを求めるようにしてもよい。
また、磁気反力トルク補償部86は、図16のフローチャートで示す処理によって、フィードフォワード操作量Dt_c23を求める。すなわち、まず、磁気反力トルク補償部86は、前記フィルタ83から実出力トルクデータTr_sを取得する(STEP31)。次いで、磁気反力トルク補償部86は、この実出力トルクデータTr_sから、あらかじめ設定されたデータテーブルに基づいて、その実出力トルクデータTr_sの値に対応して発生する磁気反力トルク(推定値)を求める(STEP32)。このSTEP32で使用するデータテーブルは、前記図13に示した電動機1の出力トルクと、磁気反力トルクとの相関関係をあらかじめテーブル化し、図示しないメモリに記憶保持したものである。
次いで、磁気反力トルク補償部86、STEP32で求めた磁気反力トルクの値から、前記図17のグラフで示すデータテーブルに基づいて、フィードフォワード操作量Dt_c23を求める(STEP33)。すなわち、STEP32で求めた磁気反力トルクの値(図17の横軸の値)に対応して、図17のデータテーブルにより定まるデューティ指令値の値がフィードフォワード操作量Dt_c23として求められる。
以上説明した磁気反力トルク補償部86の処理によって、磁気反力トルクに抗する位相差変更駆動トルクを位相差変更駆動手段23に発生させるためのディーティ指令値のフィードフォワード成分としてのフィードフォワード操作量Dt_c23が実際の出力トルクの推定値に相当する実出力トルクデータTr_sに応じて決定される。なお、STEP32,33では、それぞれで使用するデータテーブルを近似する演算式によって、磁気反力トルクやフィードフォワード操作量Dt_c23を求めるようにしてもよい。また、電動機1の出力トルクと、フィードフォワード操作量Dt_c23との関係をテーブル化しておくか、もしくは、演算式で近似しておき、そのデータテーブルまたは演算式を用いて実出力トルクデータTr_sから、直接的にフィードフォワード操作量Dt_c23を求めるようにしてもよい。また、電動機1の出力トルクを検出する手段を備えている場合には、前記フィルタ83の出力の代わりに、その出力トルクの検出値を実出力トルクデータTr_sとして使用してもよい。
本実施形態における外乱トルク補償部81は、以上のように各トルク補償部84,85,86で求められたフィードフォワード操作量Dt_c21,Dt_c22,Dt_c23を前記演算部87で加え合わせて合成することにより、前記第2指令値成分Dt_c2を決定する。このようにして決定される第2指令値成分Dt_c2は、前記磁力トルク、慣性力トルクおよび磁気反力トルクを合わせた外乱トルクに抗する位相差変更駆動トルクを位相差変更駆動手段23に発生させるためのディーティ指令値のフィードフォワード成分としての意味を持つ。
そして、位相差制御部55は、前記スライディングモード制御部80で求めた第1指令値成分Dt_c1と前記外乱トルク補償部81で求めた第2指令値成分Dt_c2とを前記演算部82で加え合わせて合成することにより、最終的にデューティ指令値Dt_cを決定する。
以上が、位相差制御部55の処理の詳細である。このように位相差制御部55で逐次決定されるデューティ指令値Dt_cは、位相差変更駆動手段23に出力される。そして、位相差変更駆動手段23は、そのデューティ指令値Dt_cに従って図示しない通電回路により、四方弁28のソレノイド28aに通電する。これにより、ロータ間位相差検出値θd_sを位相差指令値θd_cに収束させるように、位相差変更駆動手段23により内ロータ4に付与される位相差変更駆動トルクが操作される。
この場合、磁力トルク、慣性力トルク、および磁気反力トルクからなる外力トルクの影響がデューティ指令値Dt_cのうちの第2指令値成分Dt_c2によってフィードフォワード則により補償されるので、該外乱トルクが電動機1の運転状態に応じて変化しても、スライティングモード制御の処理によるデューティ指令値Dt_cの第1指令値成分Dt_c1が過大に変動するのを抑制できる。その結果、ロータ間位相差θdの制御を安定に行なうことができる。また、第1指令値成分Dt_cを応答指定型のフィードバック制御であるスライディングモード制御の処理により求めるので、電動機1の運転状態によらずに、ロータ間位相差θdの振動を発生させることなく、極めて安定にロータ間位相差θdを位相差指令値θd_cに追従制御することができる。さらに、ロータ間位相差θdの変更可能範囲の境界付近で、偏差eの減衰速度が遅めになるように、スライディングモード制御における切換関数σの係数パラメータSの値を設定するので、位相差変更駆動手段23の機構的部材の損傷を防止できると共に、ロータ間位相差θdの過渡的な振動を抑制して、電動機1の出力トルクの安定性を高めることができる。
なお、以上説明した実施形態では、位相差変更駆動手段23に対する制御入力(操作量)として、ディーティ指令値θd_cを用いたが、例えば、位相差変更駆動手段23により内ロータ4に付与するトルクである位相差変更駆動トルクの目標値(指令値)を位相差変更駆動手段23に対する制御入力(操作量)として用いてもよい。この場合には、例えば位相差制御部55のスライディングモード制御部80と同様のスライディングモード制御の処理によって、位相差変更駆動トルクの目標値のフィードバック成分を求める。また、位相差制御部55の外乱補償部81に関して説明した前記の処理(具体的には、図14のSTEP11,12の処理、図15のSTEP21〜23の処理、図16のSTEP31,32の処理)によって、前記磁力トルク、慣性力トルク、磁気反力トルクを推定し、それらの総和に抗するトルクを該位相差変更駆動トルクの目標値のフィードフォワード成分として求める。そして、これらのフィードバック成分とフィードフォワード成分とを合成する(加え合わせる)ことで、位相差変更駆動トルクの目標値を決定するようにすればよい。また、この場合は、位相差変更駆動手段23において、位相差変更駆動トルクの目標値をデューティ指令値に変換し、そのデューティ指令値に応じて四方弁28のソレノイド28aの通電を制御すればよい。
また、前記実施形態では、偏差eに応じたフィードバック操作量としての第1指令値成分Dt_c1をスライディングモード制御の処理によって決定するようにしたが、PID則などの他のフィードバック制御則を用いてフィードバック操作量を決定するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、実位相差データとして、位相差検出器44によるロータ間位相差検出値θd_sを用いたが、実際のロータ間位相差θdを電機子の通電電流の検出値もしくは目標値等を基に、適当なモデルを用いて推定し、その推定値を実位相差データとして使用してもよい。また、前記したようにロータ間位相差θdと誘起電圧定数Keとの間には一定の相関関係があるので、例えば前記Ke推定部53で求められた誘起電圧定数推定値Ke_sを実位相差データとして使用してもよい。この場合には、位相差指令値θd_cの代わりに、それに対応する誘起電圧定数Keの指令値(目標値)を目標位相差データとして逐次決定するようにして、この指令値と誘起電圧定数推定値Ke_sとを位相差指令値θd_cおよびロータ間位相差検出値θd_sの代わりに、位相差制御部55に入力するようにすればよい。
また、前記実施形態では、磁力トルク、慣性力トルク、および磁気反力トルクの3種類の外乱トルクを考慮したが、これらのうちの一つ、もしくは二つの種類の外乱トルクだけを考慮するようにしてもよい。
1…電動機、2…出力軸、3…外ロータ(第1ロータ)、4…内ロータ(第2ロータ)、5…ステータ、23…位相差変更駆動手段、44…位相差検出器(実位相差データ出力手段)、50…制御装置、54…位相差指令算出部(目標位相差データ決定手段)、55…位相差制御部(位相差制御手段)、81…外乱トルク補償部(外乱トルク補償操作量決定手段)。