JP2008271624A - 電動機システムの制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】電動機に備えた2つのロータ間の位相差を適切に制御しながら、その両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を容易に判定する。
【解決手段】電動機1は、2つのロータ3,4を有し、両ロータ3,4間の位相差を位相差変更駆動手段23により変更可能である。制御装置50は、電動機1の誘起電圧定数パラメータの目標値Ke_cと観測値Ke_eとの偏差に応じて、該偏差を解消するように位相差変更駆動手段23を制御すると共に、該偏差に基づいて両ロータ間の位相差の変更動作の異常の有無を判定する手段55を備える。異常の有無の判定には、偏差の積分値を用いる。
【選択図】図4
【解決手段】電動機1は、2つのロータ3,4を有し、両ロータ3,4間の位相差を位相差変更駆動手段23により変更可能である。制御装置50は、電動機1の誘起電圧定数パラメータの目標値Ke_cと観測値Ke_eとの偏差に応じて、該偏差を解消するように位相差変更駆動手段23を制御すると共に、該偏差に基づいて両ロータ間の位相差の変更動作の異常の有無を判定する手段55を備える。異常の有無の判定には、偏差の積分値を用いる。
【選択図】図4
Description
本発明は、永久磁石により界磁磁束を発生する2つのロータを備えた電動機と、それらのロータ間の相対回転を行なわせるアクチュエータ装置とを有する電動機システムの制御装置に関する。
従来、この種の電動機システムとしては、特許文献1に見られるものが知られている。この電動機システムは、永久磁石により界磁磁束を発生する2つのロータを備え、それらのロータのうちの一方のロータは、電動機の出力軸と一体に回転可能とされている。また、他方のロータは、一方のロータに対して、ある角度範囲内で相対回転可能とされ、その相対回転が、サーボ圧を出力するアクチュエータによってなされるようになっている。そして、この電動機システムでは、出力軸の回転速度に応じて2つのロータ間の位相差を変化させ、これにより、両ロータの永久磁石の合成界磁磁束の強さを変更するようにしている。
特開昭55−153300号公報
この種の電動機システムでは、両ロータの永久磁石の合成界磁磁束の強さ(電機子巻き線に作用する磁束の強さ)を変更できる(ひいては、電動機の誘起電圧定数を変更できる)ことから、両ロータ間の位相差をアクチュエータを介して適切に制御することによって、電動機の運転(力行運転または発電運転)を幅広い速度域で効率よく行なうことが可能となる。
しかしながら、一方のロータに対して他方のロータを相対回転させる機構や、その相対回転を行わせるアクチュエータの異常が発生すると、両ロータ間の位相差を所望の位相差に制御できなくなる。このため、そのような異常の有無を判断する技術が望まれていた。
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、電動機に備えた2つのロータ間の位相差を適切に制御しながら、その両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を容易に判定することができる電動機システムの制御装置を提供することを目的とする。
本発明の電動機システムの制御装置は、かかる目的を達成するために、永久磁石によりそれぞれ界磁磁束を発生する第1ロータおよび第2ロータと、両ロータのうちの第1ロータと一体に回転可能な出力軸とを互いに同軸に備えると共に、前記第2ロータが前記第1ロータに対して相対回転可能に設けられた電動機と、前記第2ロータの相対回転を行なわせる駆動力を発生して両ロータ間に付与する位相差変更駆動手段とを備え、該位相差変更駆動手段の駆動力により前記第2ロータを第1ロータに対して相対回転させて、両ロータ間の位相差を変更することにより、各ロータの永久磁石の界磁磁束を合成してなる合成界磁磁束の強さを変更可能とした電動機システムの制御装置であって、前記電動機の誘起電圧定数を規定するパラメータである誘起電圧定数パラメータの目標値を設定する目標値設定手段と、前記電動機の実際の誘起電圧定数に対応する前記誘起電圧定数パラメータの観測値を出力する観測値出力手段と、少なくとも前記誘起電圧定数パラメータの目標値と観測値との偏差に応じて、該偏差を解消するように前記位相差変更駆動手段を制御する位相差変更制御手段と、前記偏差に基づいて前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を判定する異常判定手段とを備えたことを特徴とする(第1発明)。
なお、本発明において、「両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常」は、位相差変更駆動手段などの故障により、前記第2ロータを第1ロータに対して正常に相対回転させることができなくなる異常を意味する。
この第1発明によれば、前記位相差変更制御手段は、少なくとも前記誘起電圧定数パラメータの目標値と観測値との偏差に応じて、該偏差を解消するように前記位相差変更駆動手段を制御するので、位相差変更駆動手段などが正常であれば、電動機の誘起電圧定数が前記目標値に対応する値になるように、両ロータ間の位相差が制御される。このとき、位相差変更駆動手段などの故障により、前記第2ロータを第1ロータに対して正常に相対回転させることができなくなる異常、すなわち、両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常が発生すると、前記偏差を継続的に解消できないか、もしくは、その偏差の解消に要する時間が長くなる。従って、該偏差に基づいて、両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を判定することができる。
よって、第1発明によれば、2つのロータ間の位相差を適切に制御しながら、その両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を容易に判定することができる。
なお、第1発明では、前記誘起電圧定数パラメータとしては、電動機の誘起電圧定数の値そのもの、あるいは、該誘起電圧定数と一定の相関性を有するパラメータが挙げられる。この場合、電動機の誘起電圧定数は、基本的には、両ロータ間の位相差に応じて規定されるので、該誘起電圧定数と一定の相関性を有するパラメータとして、例えば、両ロータ間の位相差を用いることができる。
また、誘起電圧定数パラメータの観測値は、適宜のセンサを使用した検出値でよいことはもちろんであるが、電動機の1つ以上の状態量から推定した値でもよい。誘起電圧定数パラメータとして、例えば誘起電圧定数の値そのものを使用した場合には、電動機の電機子の通電電流の検出値や、該電機子の電圧の目標値もしくは検出値、電動機の出力軸の回転速度の検出値などから、誘起電圧定数を推定することが可能である。また、誘起電圧定数パラメータとして、例えば両ロータ間の位相差を使用した場合には、該位相差と誘起電圧定数との相関性と、該誘起電圧定数の推定値とから該位相差を推定することが可能である。また、両ロータ間の位相差は、例えば、レゾルバなどのセンサを使用して、検出するようにすること可能である。
かかる第1発明では、より具体的には、例えば前記偏差を積分する積分手段を備え、前記異常判定手段は、該積分手段により前記偏差を積分してなる積分値に基づいて前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を判定する(第2発明)。
すなわち、両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常が生じた場合には、前記偏差を継続的に解消できないか、もしくは、その偏差の解消に要する時間が長くなるので、該偏差の積分値の大きさが継続的に過大なものとなる。従って、該積分値に基づいて両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を適切に判定できる。
この第2発明では、前記異常判定手段は、前記積分値が所定の範囲を逸脱する状態が所定時間以上継続したとき、前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常が有ると判定すればよい(第3発明)。
この第3発明によれば、両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常が発生した場合に、それを的確に検知することが可能となる。なお、前記積分値が所定の範囲を逸脱していないか、あるいは、該積分値が所定の範囲を逸脱する状態が所定時間に満たない一時的なものである場合には、両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常が無いと判定すればよい。
前記第2発明または第3発明においては、前記位相差変更制御手段は、前記偏差を解消するための前記位相差変更駆動手段の操作量(制御入力)を少なくとも前記積分値に応じたフィードバック制御則を含む制御則により決定しつつ、該操作量に応じて前記位相差変更駆動手段を制御する手段であることが好ましい(第4発明)。
この第4発明によれば、前記積分手段を、前記位相差変更制御手段の処理と前記異常判定手段の処理とで共用できるので、電動機システムの制御装置の演算処理負荷を軽減できる。なお、前記フィードバック制御則としては、比例・積分制御則(PI制御則)や、比例・積分・微分制御則(PID制御則)などが挙げられる。
この第4発明では、前記位相差変更駆動手段の急激な動作変化が生じるのを防止するために、前記位相差変更制御手段は、前記制御則により決定した操作量を所定の許容範囲に制限してなる制御用操作量に応じて前記位相差変更駆動手段を制御する手段であることが好ましい。すなわち、前記制御則により決定した操作量が所定の許容範囲に存するときには、その操作量をそのまま制御用操作量として、位相差変更駆動手段を制御する。また、前記制御則により決定した操作量が所定の許容範囲を逸脱しているときには、その操作量を該許容範囲の上限値または下限値(より詳しくは、該上限値および下限値のうち、該操作量に近い方の値)に制限してなる制御用操作量に応じて位相差変更駆動手段を制御する。
そして、この場合、前記異常判定手段は、少なくとも前記制御則により決定された操作量が前記許容範囲を逸脱している場合に、前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無の判定を実行すべきか否かを、前記目標値と所定値との比較に基づいて判断する異常判定可否判断手段を備えることが好ましい(第5発明)。
すなわち、両ロータ間の位相差は、一般に機構的に制約されたある範囲内で変更可能である。そして、例えば、前記誘起電圧定数パラメータの目標値が比較的大きく変更され、その変更後の目標値に対応する両ロータ間の位相差が、その変更可能範囲の境界に近いような場合には、該位相差の変更動作が正常であっても、両ロータ間の実際の位相差が該変更可能範囲の境界に近づくにつれて機構的な制約を受け、前記積分値の大きさが大きくなりやすい。ひいては、前記制御則により決定される操作量が前記許容範囲を逸脱する状況が発生しやすい。そこで、第5発明では、少なくとも前記制御則により決定された操作量が前記許容範囲を逸脱している場合に、前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無の判定を実行すべきか否かを、前記目標値と所定値との比較に基づいて判断する。
これにより、両ロータ間の位相差の変更動作が正常である場合に、前記積分値に基づいて異常が有ると判定されるのを防止することが可能となる。
この場合、より具体的には、例えば、前記目標値と比較する所定値を、両ロータ間の位相差の変更可能範囲の境界近傍の値(変更可能範囲内の値)に対応する誘起電圧定数パラメータの値に設定しておき、前記目標値に対応する両ロータ間の位相差が、前記所定値に対応する位相差の値よりも、該位相差の変更可能範囲の境界に近い値である場合に、異常の有無の判定を実行すべきでないと判断すればよい。また、前記目標値に対応する両ロータ間の位相差が、前記所定値に対応する位相差の値よりも、該位相差の変更可能範囲の境界に近い値でない場合、あるいは、前記操作量が前記許容範囲内に存する場合には、異常の有無の判定を実行すべきであると判断すればよい。
本発明の一実施形態を図1〜図9を参照して説明する。
まず、図1および図2を参照して、本実施形態における電動機の機構的な構成を説明する。図1は、本実施形態における電動機の要部の断面図、図2は図1の電動機のドライブプレート19を外した状態で該電動機の軸心方向で見た図である。
この電動機1は、2重ロータ構造のDCブラシレスモータであり、出力軸2、外ロータ3、および内ロータ4を同軸に備える。外ロータ3および内ロータ4はそれぞれ本発明における第1ロータ、第2ロータに相当する。外ロータ3の外側には、電動機1のハウジング(図示省略)に固定されたステータ5を有し、このステータ5には図示を省略する電機子(3相分の電機子)が装着されている。なお、電動機1は、例えば、ハイブリッド車両や電動車両の推進力発生源として車両に搭載され、電動機としての動作(力行動作)と、発電機としての動作(回生動作)とが可能とされている。
外ロータ3は環状に形成されており、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石6を備える。この永久磁石6は、長尺の方形板状に形成されており、その長手方向を外ロータ3の軸方向に向け、且つ、法線方向を外ロータ3の径方向に向けた状態で、外ロータ3に埋め込まれている。また、外ロータ3には、その軸心と平行な軸心を有する複数のネジ穴7が穿設されている。これらのネジ穴7は、外ロータ3の周方向に等間隔で配列されている。
内ロータ4も環状に形成されている。この内ロータ4は、その外周面を外ロータ3の内周面に摺接させた状態で、外ロータ3の内側に該外ロータ3と同軸に配置されている。なお、内ロータ4の外周面と外ロータ3の内周面との間に若干のクリアランスが設けられていてもよい。さらに、この内ロータ4の軸心部を、該内ロータ4および外ロータ3と同軸に出力軸2が貫通している。この場合、内ロータ4の内径は、出力軸2の外径よりも大きく、出力軸2の外周面と内ロータ4の内周面との間に間隔を有する。
また、内ロータ4は、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石8を備える。この永久磁石8は、外ロータ3の永久磁石6と同形状で、外ロータ3の場合と同様の形態で、内ロータ4に埋め込まれている。内ロータ4の永久磁石8の個数は、外ロータ3の永久磁石8の個数と同じである。
ここで、図2を参照して、外ロータ3の永久磁石6のうちの白抜きで示す永久磁石6aと、点描を付した永久磁石6bとは、外ロータ3の径方向における磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石6aは、その外側(外ロータ3の外周面側)の面がN極、内側(外ロータ3の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石6bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。同様に、内ロータ4の永久磁石8のうちの白抜きで示す永久磁石8aと、点描を付した永久磁石8bとは、内ロータ4の径方向での磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石8aは、その外側(内ロータ4の外周面側)の面がN極、内側(内ロータ4の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石8bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。
そして、本実施形態では、外ロータ3においては、図2に示す如く、互いに隣り合された永久磁石6a,6aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石6b,6bの対とが、外ロータ3の周方向に交互に配列されている。同様に、内ロータ4においては、互いに隣り合された永久磁石8a,8aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石8b,8bの対とが、内ロータ4の周方向に交互に配列されている。
内ロータ4の内側には、出力軸2の外周面との間で、第1部材9と第2部材10とが設けられている。これらの第1部材9および第2部材10は、内ロータ4の内側に複数の油圧室24,25を形成するものである。
第2部材10は、環状部11と、この環状部11の内周面から該環状部11の中心部に向かって径方向に突設された複数の突起部12(以下、第2部材側突起部12ということがある)とを有する。第2部材10は、その環状部11を内ロータ4に同軸に嵌入することにより、該内ロータ4に同軸に固定されている。また、第2部材側突起部12は、周方向に等間隔で設けられている。
第1部材9は、ベーンロータ状のものであり、その軸部としての環状部13と、この環状部13の外周面から径方向に突設された複数の突起部14(以下、第1部材側突起部14ということがある)とを有する。第1部材9の環状部13は、第2部材10の環状部11の内側に該環状部11と同軸に設けられ、その外周面に、第2部材10の各突起部12の先端部がシール部材15を介して摺接されている。また、第1部材9の環状部13は、出力軸2に外挿されており、その内周面が出力軸2の外周面に形成されたスプライン16に嵌合されている。このスプライン嵌合により第1部材9が出力軸2と一体に回転可能とされている。
第1部材側突起部14の個数は、第2部材側突起部12の個数と同数であり、周方向に等間隔で配列されている。この場合、この各第1部材側突起部14は、周方向に隣り合う2つの第2部材側突起部12,12の間の箇所に介装されている。換言すれば、第1部材9と第2部材10とは、それらの突起部14,12が周方向で交互に並ぶように係合されている。そして、各第1部材側突起部14の先端部は、シール部材17を介して第2部材10の環状部11の内周面に摺接されている。また、各第1部材側突起部14には、環状部13の軸心と平行な軸心を有するネジ穴18が穿設されている。
図1を参照して、外ロータ3の軸心方向の両端面部には、円板状のドライブプレート19,19が該外ロータ3と同軸に装着されている。これらのドライブプレート19,19は、それぞれ、その中心部(軸心部)に出力軸2の外径よりも大径の穴20を有し、この穴20を出力軸2が同軸に貫通していると共に、該穴20に第1部材9の環状部13の各端部が嵌入されている。そして、各ドライブプレート19は、外ロータ3の各ネジ穴7と、第1部材9の各突起部14のネジ穴18とにそれぞれボルト21により締結されている。これにより、外ロータ3および第1部材9は、一体に回転可能に連結されている。この場合、前記したように第1部材9は、スプライン嵌合により出力軸2と一体に回転可能であるので、外ロータ3も出力軸2と一体に回転可能とされている。
また、ドライブプレート19,19は、それらの間に、前記内ロータ4および第2部材10を支承している。具体的には、ドライブレート19,19の互いに相対する面には、それぞれ、同軸に環状溝22が形成されている。そして、この環状溝22に前記第2部材10の環状部11の各端部が摺動自在に挿入されている。これにより、内ロータ4および第2部材10は、環状部11を介してドライブプレート19,19に支承されると共に、ドライブプレート19,19の環状溝22に沿って、外ロータ3、第1部材9および出力軸2に対して相対回転可能とされている。
前記第1部材9と第2部材10とは、内ロータ4を外ロータ3に対して相対的に回転させる駆動力を発生して両ロータ3,4間に付与する位相差変更駆動手段23の構成要素である。この位相差変更駆動手段23は、前記第1部材9と第2部材10とによって、第1部材9の環状部13と、第2部材10の環状部11と、ドライブプレート19,19とで囲まれた空間内に、図2に示す如く形成された複数対(突起部12,14と同数の対)の油圧室24,25を有する。さらに詳細には、第2部材10の環状部11と第1部材9の環状部13との間の空間のうち、各第2部材側突起部12と、該突起部12の両側(周方向での両側)に存する2つの第1部材側突起部14,14との間の空間が、それぞれ、作動油を流入・流出させる油圧室24,25となっている。この場合、各第2部材側突起部12の一方の側の油圧室24は、出力軸2の内部に設けられた油通路26に、第1部材9の環状部13に穿設されている図示しない油通路を介して連通されて、作動油が充填されている。同様に、各第2部材側突起部12の他方の側の油圧室25は、出力軸2の内部に油通路26とは別に設けられた油通路27に、第1部材9の環状部13に穿設されている図示しない油通路を介して連通されて、作動油が充填されている。この場合、油圧室24の油圧は、それを増圧したとき、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の時計まわり方向に相対回転させようとする圧力となる。また、油圧室24の圧力(油圧)は、それを増圧したとき、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の反時計まわり方向に相対回転させようとする圧力となる。
また、図1に示す如く、位相差変更駆動手段23は、出力軸2の油通路26,27に、電動機1の外部で四方弁28を介して接続された油圧ポンプ29を備えている。四方弁28は、電磁式の4ポート弁であり、そのソレノイド28aの印加電圧(平均印加電圧)をPWM制御により制御することで、油圧ポンプ29から油圧室24,25への作動油の供給流量が調整され、それらの油圧室24,25の圧力差が制御されるようになっている。この場合、四方弁28のソレノイド28aのPWM制御におけるデューティの変化(ソレノイド28aの印加電圧の変化)に応じて、油圧室24,25の圧力差がほぼリニアに変化するようになっている。
ここで、油圧室24,25の圧力差によって、第2部材10と共に内ロータ4を外ロータ3および第1部材9に対して回転させようとするトルクが発生する。すなわち、油圧室24の圧力を油圧室25よりも大きくすることで、それらの圧力差によって、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の時計まわり方向に回転させようとするトルクが両ロータ3,4間に発生する。逆に油圧室25の圧力を油圧室24よりも大きくすることで、それらの圧力差によって、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の反時計まわり方向に回転させようとするトルクが両ロータ3,4間に発生する。そして、このように発生するトルクは、油圧室24,25の圧力差に比例する。従って、本実施形態における位相差変更駆動手段23は、油圧室24,25の圧力差を四方弁28を介して操作することによって、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させる(両ロータ4,5間の位相差を変更させる)トルクを発生する。このように、油圧室24,25の圧力差に応じて両ロータ4,5の間に作用するトルクを以降、位相差変更駆動トルクという。
補足すると、前記第1部材9、第2部材10、および油圧室24,25によって、位相差変更駆動手段23のアクチュエータ(油圧式ロータリーアクチュエータ)が構成される。
以上が、電動機1および位相差変更駆動手段23の機構的な構成である。
なお、本実施形態では、電動機1の出力軸2と外ロータ3とが一体に回転するように構成したが、出力軸と内ロータとが一体に回転するようにして、これらの出力軸および内ロータに対して外ロータが相対回転し得るように構成してもよい。また、位相差変更駆動手段23の構成は、上記した構成に限られるものではない。例えば直動シリンダのピストンの直動運動を回転運動に変換する機構を介して内ロータを外ロータに対して相対回転させるようにしてもよい。また、例えば、内ロータを外ロータに対して回転させる駆動力をロータリーアクチュエータなどのアクチュエータから遊星歯車機構を介して内ロータに伝達するように位相差変更駆動手段を構成してもよい。
前記位相差変更駆動手段23によって、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させ、両ロータ3,4間の位相差(以下、ロータ間位相差θdという)を変化させることで、内ロータ4の永久磁石8a,8bによって発生する界磁磁束と外ロータ3の永久磁石6a,6bによって発生する界磁磁束とを合成してなる合成界磁磁束の強さ(ステータ5に向かう径方向の磁束の強さ)が変化することとなる。以降、その合成界磁磁束の強さが最大となる状態を界磁最大状態、該合成界磁磁束の強さが最小となる状態を界磁最小状態という。図3(a)は界磁最大状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図であり、図3(b)は界磁最小状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図である。
図3(a)に示す如く、界磁最大状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが異極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最大状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6aに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6bに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6a,6bのそれぞれの磁束Q2の向きとが同一となるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁の強さ)が最大となる。
また、図3(b)に示す如く、界磁最小状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが同極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最小状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6bに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6aに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6b,6aのそれぞれの磁束Q2の向きとが逆向きとなるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁の強さ)が最小となる。
本実施形態では、前記内ロータ4は、外ロータ3に対して、前記合成界磁磁束が界磁最大状態となる回転位置と、界磁最小状態となる回転位置との間の範囲内で相対回転可能とされている。この場合、本実施形態では、界磁最小状態と最大界磁状態とでは、第1部材側突起部14と第2部材側突起部12とが当接し、これにより、内ロータ4の外ロータ3に対する相対回転可能範囲(第2部材10の第1部材11に対する相対回転可能範囲)が規制される。その相対回転可能範囲、すなわち、ロータ間位相差θdの変更可能範囲は、電気角で180[deg]の範囲である。そして、本実施形態では、前記界磁最大状態におけるロータ間位相差θdを0[deg]、前記界磁最小状態におけるロータ間位相差θdを180[deg]と定義する。ただし、最大界磁状態におけるロータ間位相差θdを0[deg]と定義する必要はなく、ロータ間位相差θdの零点やスケールは、任意に設定してよい。
補足すると、ロータ間位相差θdを変化させて、合成界磁磁束の強さを増減させることにより、電動機1の誘起電圧定数Keが変化することとなる。該誘起電圧定数Keは、電動機1の出力軸2の角速度と、この角速度に応じて電機子に生じる誘起電圧(実効値)との関係を規定する比例定数である。該誘起電圧定数Keの値は、後述する如く、ロータ間位相差θdを0[deg]から180[deg]まで増加させていくに伴い、小さくなる。これは、θdの増加に伴い、合成界磁磁束の強さが弱くなり、ひいては、出力軸2の回転角速度を一定とした場合における電機子の誘起電圧(逆起電圧)が小さくなるからである。
次に、図4〜図9を参照して、本実施形態における電動機1および位相差変更駆動手段23を有する電動機システムの制御装置50を説明する。図4は、この制御装置50の機能的構成を示すブロック図である。なお、図4では、電動機1および位相差変更駆動手段23を模式化して記載し、前記第1部材9および第2部材10から構成される機構(すなわち、位相差変更駆動手段23のアクチュエータ)を「位相可変機構」と表現している。
図4を参照して、本実施形態の制御装置50は、基本的には、いわゆるd−qベクトル制御により電動機1の電機子の通電を制御する。すなわち、制御装置50は、電動機1を、界磁方向をd軸としてd軸と直交する方向をq軸とする座標系であるd−q座標系での等価回路に変換して取り扱う。その等価回路は、d軸上の電機子(以下、d軸電機子という)と、q軸上の電機子(以下、q軸電機子という)とを有する。d−q座標系は、電動機1の出力軸2に対して固定された回転座標系である。そして、制御装置50は、外部から与えられるトルク指令値Tr_c(電動機1の出力軸2に発生させるトルクの指令値)のトルクを電動機1の出力軸2に発生させるように電動機1の電機子(3相分の電機子)の通電電流を制御する。また、制御装置50は、この通電制御と並行して、電動機1の誘起電圧定数Keを所要の目標値に一致させるように、ロータ間位相差θdを前記位相差変更駆動手段23を介して制御する。
これらの制御を行なうために、本実施形態の電動機システムには、電動機1の電機子の3相のうちの2つの相、例えばU相およびW相のそれぞれの電流を検出する電流検出手段としての電流センサ41,42と、電動機1の出力軸2または外ロータ3の回転角度(電動機1のステータ5に対して固定された座標系での回転角度)を検出する回転角度検出手段としてのレゾルバ43とが備えられている。そして、それらの電流センサ41,42およびレゾルバ43の出力(検出値)が制御装置50に入力される。以降、電流センサ41で検出されたU相電機子の電流値をU相電流検出値Iu_s、電流センサ42で検出されたW相電機子の電流値をW相電流検出値Iw_s、レゾルバ43で検出された出力軸2の回転角度(=外ロータ3の回転角度)の値を角度検出値θm_sという。
制御装置50は、CPU、メモリ等を含む電子回路ユニットであり、その制御処理が所定の演算処理周期で逐次実行される。以下に、制御装置50の機能的な手段を具体的に説明する。
制御装置50は、レゾルバ43による角度検出値θm_sを微分することで、電動機1の出力軸2の回転速度(=外ロータ3の回転速度)の検出値としての速度検出値Nm_sを求める回転速度算出部51と、電動機1の各相の電機子の通電電流をインバータ回路(図示省略)を介して制御する通電制御部52とを備える。
通電制御部52は、前記電流センサ41,42によるU相電流検出値Iu_sおよびW相電流検出値Iw_sと、前記レゾルバ43による角度検出値θm_sとから、3相−dq変換によりd軸電機子の電流(以下、d軸電流という)の検出値Id_sおよびq軸電機子の電流(以下、q軸電流という)の検出値Iq_sを算出する3相−dq変換部61を備える。なお、3相−dq変換は、U相電流検出値Iu_sと、W相電流検出値Iw_sと、これらから求められるV相電流検出値(=−Iu_s−Iw_s)との組を、角度検出値θm_s(より詳しくは電気角での出力軸2の回転角度)に応じた変換行列により変換する処理である。
また、通電制御部52は、d軸電流の指令値であるd軸電流指令値Id_cとq軸電流の指令値であるq軸電流指令値Iq_cとを決定する電流指令算出部62と、d軸電流指令値Id_cを補正するための補正値ΔIdaを求める界磁制御部63と、この補正値ΔIdaによりd軸電流指令値Id_cを補正したもの(Id_c+ΔIda)とd軸電流の検出値Id_sとの偏差ΔId(=Id_c+ΔIda−Id_s。以下、d軸電流偏差ΔIdという)を求める演算部64と、q軸電流指令値Iq_cを補正するための補正値ΔIqaを求める電力制御部65と、この補正値ΔIqaによりq軸電流指令値Iq_cを補正したもの(Iq_c+ΔIqa)とq軸電流の検出値Iq_sとの偏差ΔIq(=Iq_c+ΔIqa−Iq_s。以下、q軸電流偏差ΔIqという)を求める演算部66とを備える。
ここで、電流指令算出部62には、制御装置50に外部から与えられるトルク指令値Tr_cと、前記回転速度算出部51で求められた速度検出値Nm_sと、後述するKe推定部53で求められた電動機1の実際の誘起電圧定数Keの推定値Ke_e(以下、誘起電圧定数推定値Ke_eという)とが入力される。そして、電流指令算出部62は、これらの入力値から、あらかじめ設定されたマップに基づいて、前記d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cを決定する。このd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cは、トルク指令値Tr_cのトルクを電動機1の出力軸2に発生させるためのd軸電流およびq軸電流のフィードフォワード指令値としての意味を持つ。
なお、トルク指令値Tr_cは、例えば電動機1を推進力発生源として搭載した車両(ハイブリッド車両や電動車両)のアクセル操作量(アクセルペダルの踏み込み量)や走行速度に応じて決定される。また、トルク指令値Tr_cには、力行トルクの指令値と回生トルクの指令値とがあり、それらの指令値は、正負の極性が異なるものとされる。
また、前記界磁制御部63で決定される補正値ΔIdaは、d軸電機子の電圧とq軸電機子の電圧との合成ベクトルの大きさが電動機1の電源電圧Vdc(より詳しくは、インバータ回路の電源電圧)に応じた電圧円内に収まるようにするためのd軸電流の操作量(フィードバック操作量)を意味する。この補正値ΔIdaは、後述する電流フィードバック制御部67で決定されたd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_c(前回の演算処理周期で決定された値)と、電源電圧Vdcの値とに応じて決定される。例えば、前回の演算処理周期で決定されたVd_cおよびVd_qの合成ベクトルの大きさと、電源電圧Vdcに応じて決定した目標値(電圧円の半径)との偏差に応じて、適宜のフィードバック制御則により、補正値ΔIdaが決定される。
また、前記電力制御部65で決定される補正値ΔIqaは、、電動機3の運転時における前記永久磁石6,8の温度変化と電機子の温度変化とが、電動機3の出力トルクに及ぼす影響を補償するためのものである。永久磁石6,8の温度が変化すると、一般には、ロータ間位相差θdが一定であっても電動機1の誘起電圧定数Keが変化し、また、電機子のコイル抵抗(電機子を構成する巻き線の抵抗)が変化する。このため、q軸電流指令値Iq_cが一定であっても、永久磁石6,8や電機子の温度変化の影響で、電動機1の出力トルクが変化する。そこで、本実施形態では、この影響をq軸電流補正値ΔIq_aにより補償する。このq軸電流補正値ΔIq_aは、U相電流検出値Iu_sまたはW相電流検出値Iw_sのサンプリング値から推定されるコイル抵抗や、後述するKe推定部53で求められた誘起電圧定数推定値Ke_e等に基づいて決定される。なお、電力制御部65は省略してもよい。その場合には、前記演算部66の処理では、q軸電流指令値Iq_cと、q軸電流の検出値Iq_sとの偏差(=Iq_c−Iq_s)をq軸電流偏差ΔIqとして求めるようにすればよい。
通電制御部52はさらに、前記演算部64,66でそれぞれ求められたd軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqに応じて、d軸電機子の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd_cと、q軸電機子の電圧指令値であるq軸電圧指令値Vq_cとを決定する電流フィードバック制御部(電流FB制御部)67を備える。この電流フィードバック制御部67は、d軸電流偏差ΔIdに応じて、該偏差ΔIdを0に近づけるようにPI制御則(比例・積分制御則)などのフィードバック制御則によりd軸電圧指令値Vd_cを決定する。同様に、電流フィードバック制御部68は、q軸電流偏差ΔIqに応じて、該偏差ΔIqを0に近づけるようにPI制御則などのフィードバック制御則によりq軸電圧指令値Vq_cを決定する。
なお、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとを決定するとき、d軸電流偏差ΔId、q軸電流偏差ΔIqからフィードバック制御則によりそれぞれ求められるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に、d軸とq軸との間で干渉し合う速度起電力の影響を打ち消すための非干渉成分を付加することで、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cを求めることが好ましい。
さらに、通電制御部52は、電流フィードバック制御部67で決定したd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cと、前記レゾルバ43による電動機1の出力軸2の角度検出値θm_sとから、dq−3相変換によりU相、V相、W相の各相の相電圧指令値Vu_c,Vv_c,Vw_cを求めるdq−3相変換部68と、これらの相電圧指令値Vu_c,Vv_c,Vw_cに応じて、電動機1の各相の電機子にPWM制御によりインバータ回路(図示省略)を介して通電するPWM制御部69とを備える。この場合、PWM制御部69は、インバータ回路の各スイッチング素子のON・OFFを制御することで、各相の電機子に通電する。なお、dq−3相変換は、d軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cの組を、角度検出値θm_s(より詳しくは電気角での出力軸2の回転角度)に応じた変換行列により座標変換する処理である。
以上説明した通電制御部52の機能によって、d軸電圧とq軸電圧との合成電圧が、電源電圧Vdcに応じた目標値を超えないようにしつつ、電動機1の出力軸2に発生するトルク(電動機1の出力トルク)をトルク指令値Tr_cに従わせるように(ΔId,ΔIqが0に収束するように)、電動機1の各相の電機子の通電電流が制御される。
制御装置50は、前記回転角度算出部51および通電制御部52のほか、前記誘起電圧定数推定値Ke_sを求めるKe推定部53と、電動機1の誘起電圧定数の目標値である誘起電圧定数指令値Ke_cを決定するKe指令算出部54と、前記位相差変更駆動手段23を制御すると共に該位相差変更駆動手段23などの異常の有無を判定する位相差制御/異常判定部55とを備える。
なお、本実施形態では、本発明における誘起電圧定数パラメータとして、誘起電圧定数Keの値そのものを用いる。従って、Ke指令算出部54で決定される誘起電圧定数指令値Ke_cは、本発明における誘起電圧定数パラメータの目標値に相当し、該Ke指令算出部54は、本発明における目標値設定手段に相当する。また、Ke推定部53で求められる誘起電圧定数推定値Ke_sは、本発明における誘起電圧定数パラメータの観測値に相当し、該Ke推定部53は、本発明における観測値出力手段に相当する。
Ke推定部53には、前記電流フィードバック制御部67で決定されたq軸電圧指令値Vq_cと、前記3相−dq変換部61で求められたd軸電流検出値Id_sおよびq軸電流検出値Iq_sと、前記回転速度算出部51で求められた速度検出値Nm_sとが逐次入力される。そして、Ke推定部53は、これらの入力値から誘起電圧定数推定値Ke_eを算出する。
ここで、電動機1のd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとd軸電流Idとq軸電流Iqとの間には、一般に、次の関係式(1)が成立する。なお、ωは電動機1の電気角速度(電気角での回転角速度)、Rは電機子のコイル抵抗、Ldはd軸電機子のインダクタンスである。
Ke・ω+R・Iq=Vq−ω・Ld・Id ……(1)
そこで、本実施形態では、Ke推定部53は、上記式(1)を変形した次式(2)により、誘起電圧定数推定値Ke_eを算出する。
Ke=(Vq−ω・Ld・Id−R・Iq)/ω ……(2)
この場合、本実施形態では、式(2)の演算に必要なVqの値として、d軸電圧指令値Vd_cを用いる。また、Id,Iqの値として、それぞれd軸電流検出値Id_s、q軸電流検出値Iq_sを用いる。また、Ldの値として、あらかじめ定められた値(固定値)、あるいは、d軸電流指令値Id_cからあらかじめ設定されたマップなどにより求められる値が用いられる。また、Rの値として、あらかじめ定められた値(固定値)、あるいは、U相電流検出値Iu_sもしくはW相電流検出値Iw_sのサンプリング値から推定された値が用いられる。また、ωの値として、速度検出値Nm_sに対応する電気角速度(Nm_sを機械角の角速度で表したものに電動機1の極対数を乗じてなる値)が用いられる。
Ke指令算出部54には、トルク指令値Tr_cと速度検出値Nm_sと電動機1の電源電圧Vdcの値とが逐次入力される。そして、Ke指令算出部54は、これらの入力値Tr_c,Nm,Vdcからあらかじめ設定されたマップに従って、電動機1の誘起電圧定数指令値Ke_cを逐次決定する。
この場合、上記マップは、例えば、電動機1の実際の誘起電圧定数が該マップにより決定される誘起電圧定数指令値Ke_cに一致しているときに、トルク指令値Tr_cと速度検出値Nm_sと電源電圧Vdcの値との組に対して、電動機1のd軸電圧とq軸電圧との合成電圧(ベクトル和)の大きさが電源電圧Vdcに応じた電圧円内に収まるようにしつつ、電動機1のエネルギー効率(入力エネルギーに対する出力エネルギーの割合)をできるだけ高めることができるように設定されている。
ここで、一般的には、誘起電圧定数を小さくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを大きくするほど)、電動機1の出力軸2をより高速域で回転させることが可能となると共に、電動機1のエネルギー効率が高効率となる領域を高速回転側にずらすことができる。また、誘起電圧定数を大きくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを小さくするほど)電動機1の出力トルクを大きくすることができる。従って、誘起電圧定数指令値Ke_cは、上記のような電動機1の特性と、電動機1の要求される運転形態とを考慮して設定すればよく、種々様々な設定の仕方が可能である。
本実施形態では、Ke指令算出部54では、速度検出値Nm_sと電源電圧Vdcの値とを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、トルク指令値Tr_cの絶対値|Tr_c|が大きくなるほど、Ke_cの値が大きくなるように設定される。
また、トルク指令値Tr_cと電源電圧Vdcの値とを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、速度検出値Nm_sが高速となる領域で、該速度検出値Nm_sが大きくなるほど、Ke_cの値が小さくなるように設定される。また、トルク指令値Tr_cと速度検出値Nm_sとを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、電源電圧Vdcの値が小さくなるほど、Ke_cの値が小さくなるように設定される。
補足すると、誘起電圧定数指令値Ke_cを設定するとき、電動機1の過熱防止などの要求を考慮して設定してもよい。
位相差制御/異常判定部55は、本発明における位相差変更制御手段および異常判定手段として機能を有するものである。この位相差制御/異常判定部55には、Ke指令算出部54で設定された誘起電圧定数指令値Ke_cと、Ke推定部53で求められた誘起電圧定数推定値Ke_eと、回転速度算出部51で求められた速度検出値Nm_sとが入力される。そして、位相差制御/異常判定部55は、これらの入力値を基に、前記位相差変更駆動手段23に対する制御指令(操作量)を決定する。その制御指令は、位相差変更駆動手段23によって、外ロータ3に対して内ロータ4に付与する前記位相差変更駆動トルクの値を規定する操作量(制御入力)である。本実施形態では、位相差変更駆動トルクは、前記したように、位相差変更駆動手段23の四方弁28のソレノイド28aの印加電圧(平均印加電圧)によって規定され、その印加電圧は、PWM制御により制御される。そこで、本実施形態では、位相差制御/異常判定部55は、四方弁28のソレノイド28aの印加電圧(以下、ソレノイド電圧という)の指令値Vcmdを位相差変更駆動手段23を制御するための操作量(制御入力)として逐次決定する。そして、その指令値VcmdをPWM制御におけるデューティの指令値(以下、デューティ指令という)に変換し、そのデューティ指令を位相差変更駆動手段23に出力する。
また、位相差制御/異常判定部55は、入力された誘起電圧定数指令値Ke_cと誘起電圧定数推定値Ke_eとの偏差に基づいて位相差変更駆動手段23の異常(換言すれば、ロータ間位相差θdの変更動作の異常)の有無を判定し、その判定結果を示す異常有無情報を出力する。
図5は、この位相差制御/異常判定部55の処理機能を示すブロック図である。図示の如く、位相差制御/異常判定部55は、ロータ間位相差θdを制御するための機能(デューティ指令を生成する機能)として、フィードバック制御部71、磁力トルク補償部72、慣性力補償部73、演算部74、リミッタ75および操作量変換部76を位相差変更制御手段82の構成要素として備える。
フィードバック制御部(FB制御部)71には、誘起電圧定数指令値Ke_cと誘起電圧定数推定値Ke_eとが逐次入力される。そして、フィードバック制御部71は、入力された誘起電圧定数指令値Ke_cと誘起電圧定数推定値Ke_eとの偏差ΔKe(=Ke_c−Ke_e)を0に収束させるためのソレノイド電圧の要求値としてのフィードバック操作量Vfbを、偏差ΔKeからフィードバック制御則により求める。本実施形態では、そのフィードバック制御則として、比例・積分制御則(PI制御則)が用いられる。すなわち、フィードバック制御部71は、誘起電圧定数指令値Ke_cと誘起電圧定数推定値Ke_eとからそれらの偏差ΔKeを求める演算部77と、この偏差ΔKeに所定の比例ゲインK1を乗じてなる値Vfb1を求める乗算部78と、偏差ΔKeを積分してなる値Vfb2を求める積分器79と、乗算部78および積分器79によりそれぞれ求められた値Vfb1,Vfb2の和を求める演算部80とを備える。この場合、積分器79は、ΔKeを逐次累積加算し、その累積加算値に所定のゲイン(積分ゲイン)を乗じることで、ΔKeの積分値Vfb2を逐次求める。そして、フィードバック制御部71は、演算部80の演算結果(=Vfb1+Vfb2)をフィードバック操作量Vfbとして得る。従って、フィードバック操作量Vfbは、偏差ΔKeを0に収束させるように、比例・積分制御則により求められることとなる。
なお、積分器79は、本発明における積分手段に相当するものである。
磁力トルク補償部72は、外ロータ3の永久磁石6と、内ロータ4の永久磁石8との間に作用する磁力(吸引力または反発力)に起因して両ロータ3,4間に作用するトルク(以下、磁力トルクという)の影響を補償するためのソレノイド電圧の要求値としての第1フィードフォワード操作量Vff1を求めるものである。該第1フィードフォワード操作量Vff1は、より詳しくは、磁力トルクに抗する位相差変更駆動トルクを発生させるために要求されるソレノイド電圧を意味するものである。そして、磁力トルク補償部72には、Vff1を求めるために、誘起電圧定数推定値Ke_eが逐次入力される。
ここで、磁力トルクは、ロータ間位相差θdに応じて変化する。図6は、その磁力トルクとロータ間位相差θdとの関係を例示するグラフである。図6に示す如く、磁力トルクは、ロータ間位相差θdが、0[deg]および180[deg]であるときに0となり、且つ、0[deg]と180[deg]との間のある位相差θdxで極大値(最大値)となるような特性で、ロータ間位相差θdに応じて変化する。また、電動機1の誘起電圧定数Keは、ロータ間位相差θdに応じて図7に示す如く変化する。図7は、該誘起電圧定数Keとロータ間位相差θdとの関係を例示するグラフである。図7に示す如く、誘起電圧定数Keは、ロータ間位相差θdを0[deg]から180[deg]まで増加させていくに伴い、単調に小さくなるような特性で、ロータ間位相差θdに応じて変化する。
そこで、本実施形態では、例えば、ロータ間位相差θdと、磁力トルクとの関係を示すマップ(以下、磁力トルクマップという)と、ロータ間位相差θdと誘起電圧定数Keとの関係を示すマップ(以下、誘起電圧定数マップという)とをあらかじめ実験等に基づいて作成しておく。そして、磁力トルク補償部72は、入力される誘起電圧定数推定値Ke_eから、誘起電圧定数マップに基づいてKe_eに対応するロータ間位相差θdの値を求め、そのθdの値から、磁力トルクマップに基づいて、該θdの値に対応する磁力トルクの値を求める。さらに、磁力トルク補償部72は、求めた磁力トルクに抗する位相差変更駆動トルクに対応するソレノイド電圧の値を第1フィードフォワード操作量Vff1として求める。
なお、誘起電圧定数Keと磁力トルクとの関係をマップ化しておき、そのマップに基づいて誘起電圧定数推定値Ke_eに対応する磁力トルクを求めるようにしてもよい。あるいは、誘起電圧定数Keと、磁力トルクに抗する位相差変更駆動トルクに対応するソレノイド電圧との関係をマップ化しておき、そのマップに基づいて誘起電圧定数推定値Ke_eに対応するソレノイド電圧の値を第1フィードフォワード操作量Vff1として直接的に求めるようにしてもよい。また、マップの代わりに、そのマップを近似する演算式を用いるようにしてもよい。
慣性力補償部73は、内ロータ4の回転速度(ステータ5に対して固定された座標系での回転速度)の変化に起因する慣性力トルク(内ロータ4の回転加速度に応じて発生する慣性力トルク)の影響を補償するためのソレノイド電圧の要求値としての第2フィードフォワード操作量Vff2を求めるものである。該第2フィードフォワード操作量Vff2は、より詳しくは、内ロータ3の慣性力トルクに抗する位相差変更駆動トルクを発生させるために要求されるソレノイド電圧を意味するものである。そして、慣性力補償部73には、Vff2を求めるために、速度検出値Nm_sが逐次入力される。
ここで、一般的には、内ロータ3の慣性力トルクは、内ロータ4の回転加速度(ステータ5に対して固定された座標系で見た回転加速度(角加速度))に比例して変化する。そして、ロータ間位相差θdの変化の加速度(θdの2階微分値)は、一般に十分に小さいので、内ロータ4の慣性力トルクは、出力軸2および外ロータ3の回転加速度(角加速度)に比例して変化する。
そこで本実施形態では、慣性力補償部73は、入力された速度検出値Nm_sを微分することによって求められる出力軸2の角加速度(回転加速度)に、あらかじめ同定された内ロータ4(ここでは前記第2部材10など、内ロータ4と一体に回転する部材を含む)のイナーシャを乗じることによって、慣性力トルクを求める。そして、慣性力補償部73は、求めた慣性力トルクに抗する位相差変更駆動トルクに対応するソレノイド電圧の値を第2フィードフォワード操作量Vff2として求める。
演算部74は、上記の如く求められたフィードバック操作量Vfbと、第1フィードフォワード操作量Vff1と、第2フィードフォワード操作量Vff2とを加え合わせることにより、要求操作量Vdmdを逐次算出する。これにより、誘起電圧定数推定値Ke_eを誘起電圧定数指令値Ke_cに一致させるために要求されるソレノイド電圧の値としての要求操作量Vdmdが算出される。
このように算出された要求操作量Vdmdは、リミッタ75に入力される。このリミッタ75は、ソレノイド電圧の指令値Vcmdの大きさが過大になるのを防止し、ひいては、ロータ間位相差θdが急激に変化するのを防止するためのものである。該リミッタ75は、入力された要求操作量Vdmdが所定の許容範囲内に存する場合には、そのVdmdをそのままソレノイド電圧の指令値Vcmdとして決定する。一方、リミッタ75は、入力された要求操作量Vdmdが所定の許容範囲を逸脱している場合には、該許容範囲の上限値または下限値をソレノイド電圧の指令値Vcmdとして決定する。より詳しくは、Vdmdが該許容範囲の上限値よりも大きい場合には、該上限値を指令値Vcmdとし、Vdmdが許容範囲の下限値よりも小さい場合には、該下限値を指令値Vcmdとする。
このリミッタ75により最終的に決定されたソレノイド電圧の指令値Vcmdは、操作量変換部76に入力される。該操作量変換部76は、指令値Vcmdを、あらかじめ設定されたマップや演算式などによりPWM制御におけるデューティ指令に変換する。
以上説明したフィードバック制御部71、磁力トルク補償部72、慣性力補償部73、演算部74、リミッタ75および操作量変換部76の処理(位相差変更制御手段82の処理)により、誘起電圧定数推定値Ke_eを誘起電圧定数指令値Ke_cに一致させるように、位相差変更駆動手段23の四方弁28のソレノイド28aに対するデューティ指令が逐次決定されることとなる。
そして、位相差変更駆動手段23では、そのデューティ指令に応じたPWM制御により、ソレノイド28aの通電が行なわれる。これにより、位相差変更駆動手段23は、誘起電圧定数推定値Ke_eを誘起電圧定数指令値Ke_cに一致させるのに必要な位相差変更駆動トルクを発生する。その結果、ロータ間位相差θdは、電動機1の実際の誘起電圧定数Keが誘起電圧定数指令値Ke_cになるような位相差に制御されることとなる。この場合、ソレノイド電圧の要求値Vdmdは、磁力トルクおよび慣性力を補償する第1フィードフォワード操作量Vff1および第2フィードフォワード操作量Vff2を含むので、ロータ間位相差θdを安定に所要の位相差に制御できる。
位相差制御/異常判定部55は、上記した機能に加えて、異常判定処理部81を有する。該異常判定処理部81は、本発明における異常判定手段に相当するものである。
この異常判定処理部81には、前記演算部74で求められたソレノイド電圧の要求値Vdmdと、積分器79で求められた積分値Vfb2と、誘起電圧定数指令値Ke_cとが入力される。そして、異常判定処理部81は、それらの入力値を使用して、以下に説明する処理によって、位相差変更駆動手段23の異常の有無を判定する。
図8および図9は、異常判定処理部81の処理を示すフローチャートである。
異常判定処理部81は、図8の処理を逐次実行する。すなわち、異常判定処理部81は、まず、STEP1において、ソレノイド電圧の要求値としての前記要求操作量Vdmdが、リミッタ75における許容範囲の上限値よりも大きいか否かを判断する。このSTEP1の判断結果が肯定的である場合には、異常判定処理部81は、STEP2において、誘起電圧定数指令値Ke_cが第1所定値よりも大きいか否かを判断する。この場合、第1所定値は、前記界磁最大状態における誘起電圧定数Keの値(電動機1の誘起電圧定数Keの最大値)よりも若干低い値に設定されている。従って、STEP2の判断結果が肯定的であるということは、ロータ間位相差θdを、その変更可能範囲の一方の境界値である0[deg]近傍の値に近づけようとしている状態であることを意味する。
ここで、ロータ間位相差θdが、0[deg]近傍の値であるときには、外ロータ3に対する内ロータ4の回転が機構的に制限される。また、本実施形態では、位相差変更駆動手段23の異常の有無の判定の指標として、前記積分器79により算出される偏差ΔKeの積分値Vfb2を用いる。そして、外ロータ3に対する内ロータ4の回転が機構的に制限される状態では、位相差変更駆動手段23が正常に動作していても、該積分値Vfb2の大きさが、増大しやすい。
そこで、本実施形態では、STEP2の判断結果が肯定的である場合には、位相差変更駆動手段23の異常の有無を適切に判定することが困難であることから、STEP5において、位相差変更駆動手段23の異常の有無の判定を禁止し、図8の処理を終了する。
また、STEP1の判断結果が否定的である場合には、異常判定処理部81は、さらに、STEP3において、ソレノイド電圧の要求値Vdmdがリミッタ75における許容範囲の下限値よりも小さいか否かを判断する。そして、このSTEP3の判断結果が肯定的である場合には、異常判定処理部81は、STEP4において、誘起電圧定数指令値Ke_cが第2所定値(<第1所定値)よりも小さいか否かを判断する。この場合、第2所定値は、前記界磁最小状態における誘起電圧定数Keの値(電動機1の誘起電圧定数Keの最小値)よりも若干大きい値に設定されている。従って、STEP4の判断結果が肯定的であるということは、ロータ間位相差θdを、その変更可能範囲の他方の境界値である180[deg]近傍の値に近づけようとしている状態であることを意味する。
ここで、ロータ間位相差θdが、180[deg]近傍の値であるときには、0[deg]近傍の値である場合と同様に、外ロータ3に対する内ロータ4の回転が機構的に制限され。このため、位相差変更駆動手段23が正常に動作していても、位相差変更駆動手段23の異常の有無の判定の指標として使用する積分値Vfb2の大きさが、増大しやすい。
そこで、本実施形態では、STEP4の判断結果が肯定的である場合には、STEP2の判断結果が肯定的である場合と同様に、STEP5において、位相差変更駆動手段23の異常の有無の判定を禁止し、図8の処理を終了する。
一方、STEP1,3の判断結果がいずれも否定的である場合(すなわち、要求操作量Vdmdがリミッタ75の許容範囲内に存する場合)、あるいは、STEP2もしくはSTEP4の判断結果が否定的である場合(すなわち、誘起電圧定数指令値Ke_cに対応するロータ間位相差θdの目標値が、ロータ間位相差θdの変更可能範囲の境界値に対してある程度の余裕がある場合)には、位相差変更駆動手段23が正常であれば、内ロータ4が外ロータ3に対して円滑に回転し得る状態、換言すれば、ロータ間位相差θdを誘起電圧定数指令値Ke_eに対応するロータ間位相差θdの目標値に向かって円滑に変化させ得る状態である。
そこで、これらの場合には、異常判定処理部81は、STEP6において、位相差変更駆動手段23の異常の有無の判定を許可する。そして、これに続いて、異常判定処理部81は、STEP7において、位相差変更駆動手段23の異常の有無を判定する具体的な処理を実行する。
なお、前記STEP1〜STEP6の処理により、本発明における異常判定可否判断手段が構成されることとなる。
前記STEP7の処理は、図9のフローチャートで示すように実行される。
まず、STEP11において、異常判定処理部81は、積分器79により算出されたΔKeの積分値Vfb2が所定の上限判定値(>0)よりも大きいか否かを判断する。この判断結果が肯定的となる状況は、Ke_c>Ke_eとなる状態が継続している可能性が高い状況である。そこでSTEP11の判断結果が肯定的となる場合には、異常判定処理部81は、STEP13において、Vfb2>上限判定値となる状況が所定時間以上、継続したか否かを判断する。この場合にSTEP13の判断結果が肯定的となる状況は、Ke_c>Ke_eとなる状態でKe_eがKe_cに向かって増加していかないか、もしくは、その増加が遅すぎる状況である。このような状況では、外ロータ3に対する内ロータ4の相対回転を阻害する要因が発生していると考えられる。そこで、STEP11,13の判断結果がいずれも肯定的となる場合には、異常判定処理部81は、STEP14において、位相差変更駆動手段23の異常が有ると判定し、STEP7の処理を終了する。
また、STEP11の判断結果が否定的である場合には、異常判定処理部81は、さらに、STEP12において、積分値Vfb2が所定の下限判定値(<0)よりも小さいか否かを判断する。この判断結果が肯定的となる状況は、Ke_c<Ke_eとなる状態が継続している可能性が高い状況である。そこでSTEP12の判断結果が肯定的となる場合には、異常判定処理部81は、STEP13において、Vfb2<下限判定値となる状況が所定時間以上、継続したか否かを判断する。この場合にSTEP13の判断結果が肯定的となる状況は、Ke_c<Ke_eとなる状態で、Ke_eがKe_cに向かって低下していかないか、もしくは、その低下が遅すぎる状況である。このような状況では、外ロータ3に対する内ロータ4の相対回転を阻害する要因が発生していると考えられる。そこで、STEP12,13の判断結果がいずれも肯定的となる場合には、異常判定処理部81は、STEP14において、位相差変更駆動手段23の異常が有ると判定し、STEP7の処理を終了する。
以上説明した処理により、積分値Vfb2が前記上限判定値および下限判定値を境界とする許容範囲から逸脱した状態が、所定時間以上継続した場合に、位相差変更駆動手段23の異常があると判定されることとなる。
一方、STEP12の判断結果が否定的である場合、すなわち、積分値Vfb2が、所定の上限判定値と下限判定値との間の範囲内の値である場合には、異常判定処理部81は、STEP15において、位相差変更駆動手段23の異常が無い(すなわち、位相差変更駆動手段23が正常である)と判定して、STEP7の処理を終了する。
また、STEP13の判断結果が否定的である場合には、誘起電圧定数指令値Ke_cの変更直後などに一時的に、積分値Vfb2が前記上限判定値および下限判定値の間の範囲から逸脱している状況が考えられるので、異常判定処理部81は、位相差変更駆動手段23の異常の判定の有無を確定することなく、そのままSTEP7の処理を終了する。
以上説明した異常判定処理部81の処理により、位相差変更駆動手段23の異常の有無を適切に判定することができることとなる。この場合、位相差変更駆動手段23の異常の有無をフィードバック制御部71の積分器79の出力である積分値Vfb1に基づいて判定するので、ロータ間位相差θdの制御のための要素を活用して、異常の有無を判定できる。
また、要求操作量Vdmdがリミッタ75の許容範囲から逸脱している状況で、誘起電圧定数指令値Ke_cが第1所定値よりも大きいか、もしくは、第2所定値よりも小さい場合に、位相差変更駆動手段23の異常の有無の判定を禁止するので、位相差変更駆動手段23が正常である場合に、異常が有ると誤判定されるような事態を回避することができる。
補足すると、異常判定処理部81により位相差変更駆動手段23の異常が有ると判定され、その旨を示す異常有無情報が出力された場合には、制御装置50は、例えば、電動機1の運転を停止し、あるいは、電動機1の運転制限を行なう。
なお、以上説明した実施形態では、誘起電圧定数パラメータとして、誘起電圧定数Keの値そのものを用いたが、誘起電圧定数Keの値以外のパラメータを使用してもよい。例えば、誘起電圧定数Keとロータ間位相差θdとは、前記図7に示したような相関性があるので、ロータ間位相差θdを誘起電圧定数パラメータとして使用してもよい。この場合、ロータ間位相差θdの目標値(指令値)は、前記Ke指令算出部54と同様に、トルク指令値Tr_cと、速度検出値Nm_sと、電源電圧Vdcの値とから、あらかじめ設定されたマプにより決定するようにすればよい。また、ロータ間位相差θdの観測値については、例えば前記Ke推定部53の処理と同じ処理により誘起電圧定数Keの推定値を求めた後、その推定値から、前記図7に示すようなマップに基づいてロータ間位相差θdの推定値(観測値)を求めるようにすればよい。あるいは、例えば、電動機1の出力軸2の回転角度(外ロータ3の回転角度)と、内ロータ4の回転角度とをそれぞれレゾルバなど回転角度センサにより検出し、それらの検出値の差をロータ間位相差θdの観測値として得るようにしてもよい。また、この場合、ロータ間位相差θdの制御は、その目標値と観測値との偏差を誘起電圧定数Keの偏差ΔKeの代わりに用いて、前記位相差変更制御手段82と同様の処理により実行すればよい。
また、前記実施形態では、位相差変更駆動手段23の異常の有無の指標として、偏差ΔKeの積分値Vfb2を用いたが、例えば、偏差ΔKeの絶対値の平均値、あるいは、該絶対値にローパス特性のフィルタリングを施したものを、積分値Vfb2の代わりに、異常の有無の指標として用いるようにしてもよい。
1…電動機、2…出力軸、3…外ロータ(第1ロータ)、4…内ロータ(第2ロータ)、6,8…永久磁石、23…位相差変更駆動手段、50…制御装置、53…Ke推定部(観測値出力手段)、54…Ke指令算出部(目標値設定手段)、81…異常判定処理部(異常判定手段)、82…位相差変更制御手段、79…積分器(積分手段)、STEP1〜6…異常判定可否判断手段。
Claims (5)
- 永久磁石によりそれぞれ界磁磁束を発生する第1ロータおよび第2ロータと、両ロータのうちの第1ロータと一体に回転可能な出力軸とを互いに同軸に備えると共に、前記第2ロータが前記第1ロータに対して相対回転可能に設けられた電動機と、前記第2ロータの相対回転を行なわせる駆動力を発生して両ロータ間に付与する位相差変更駆動手段とを備え、該位相差変更駆動手段の駆動力により前記第2ロータを第1ロータに対して相対回転させて、両ロータ間の位相差を変更することにより、各ロータの永久磁石の界磁磁束を合成してなる合成界磁磁束の強さを変更可能とした電動機システムの制御装置であって、
前記電動機の誘起電圧定数を規定するパラメータである誘起電圧定数パラメータの目標値を設定する目標値設定手段と、
前記電動機の実際の誘起電圧定数に対応する前記誘起電圧定数パラメータの観測値を出力する観測値出力手段と、
少なくとも前記誘起電圧定数パラメータの目標値と観測値との偏差に応じて、該偏差を解消するように前記位相差変更駆動手段を制御する位相差変更制御手段と、
前記偏差に基づいて前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を判定する異常判定手段とを備えたことを特徴とする電動機システムの制御装置。 - 前記偏差を積分する積分手段を備え、前記異常判定手段は、該積分手段により前記偏差を積分してなる積分値に基づいて前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無を判定することを特徴とする請求項1記載の電動機システムの制御装置。
- 前記異常判定手段は、前記積分値が所定の範囲を逸脱する状態が所定時間以上継続したとき、前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常が有ると判定することを特徴とする請求項2記載の電動機システムの制御装置。
- 前記位相差変更制御手段は、前記偏差を解消するための前記位相差変更駆動手段の操作量を少なくとも前記積分値に応じたフィードバック制御則を含む制御則により決定しつつ、該操作量に応じて前記位相差変更駆動手段を制御する手段であることを特徴とする請求項2または3記載の電動機システムの制御装置。
- 前記位相差変更制御手段は、前記制御則により決定した操作量を所定の許容範囲に制限してなる制御用操作量に応じて前記位相差変更駆動手段を制御する手段であり、
前記異常判定手段は、少なくとも前記制御則により決定された操作量が前記許容範囲を逸脱している場合に、前記両ロータ間の位相差の変更動作に関する異常の有無の判定を実行すべきか否かを、前記目標値と所定値との比較に基づいて判断する異常判定可否判断手段を備えることを特徴とする請求項4記載の電動機システムの制御装置。
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JP2007107408A JP2008271624A (ja) | 2007-04-16 | 2007-04-16 | 電動機システムの制御装置 |
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WO2011037211A1 (ja) * | 2009-09-28 | 2011-03-31 | 本田技研工業株式会社 | 動力出力装置 |
-
2007
- 2007-04-16 JP JP2007107408A patent/JP2008271624A/ja not_active Withdrawn
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WO2011037211A1 (ja) * | 2009-09-28 | 2011-03-31 | 本田技研工業株式会社 | 動力出力装置 |
US8594875B2 (en) | 2009-09-28 | 2013-11-26 | Honda Motor Co., Ltd. | Power output system |
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