本発明の一実施形態を図1〜図9を参照して説明する。図1は電動機3の内部構成の要部を該電動機3の軸心方向で示す図、図2は該電動機3の2つのロータの間の位相差を変更するための駆動機構を示すスケルトン図である。なお、図1では駆動機構に関する図示は省略している。
図1を参照して、電動機3は、2重ロータ構造のDCブラシレスモータであり、第1ロータとしての外ロータ10と第2ロータとしての内ロータ11とを出力軸3aと同軸に備える。外ロータ10の外側には、電動機3のハウジング(図示省略)に固定されたステータ12を有し、このステータ12には図示を省略する電機子(3相分の電機子)が装着されている。
外ロータ10は環状に形成されており、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石13を備える。この永久磁石13は、長尺の方形板状に形成されており、その長手方向を外ロータ10の軸方向に向け、且つ、法線方向を外ロータ10の径方向に向けた状態で、外ロータ10に埋め込まれている。
内ロータ11も環状に形成されている。この内ロータ11は、その外周面を外ロータ10の内周面に摺接させた状態で、外ロータ10の内側に該外ロータ10と同軸に配置されている。なお、内ロータ11の外周面と外ロータ10の内周面との間に若干のクリアランスが設けられていてもよい。さらに、この内ロータ11の軸心部を、該内ロータ11および外ロータ10と同軸に出力軸3aが貫通している。
また、内ロータ11は、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石14を備える。この永久磁石14は、外ロータ10の永久磁石13と同形状で、外ロータ10の場合と同様の形態で、内ロータ11に埋め込まれている。内ロータ11の永久磁石14の個数は、外ロータ10の永久磁石13の個数と同じである。
ここで、図1において、外ロータ10の永久磁石13のうちの白抜きで示す永久磁石13aと、点描を付した永久磁石13bとは、外ロータ10の径方向における磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石13aは、その外側(外ロータ10の外周面側)の面がN極、内側(外ロータ10の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石13bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。同様に、内ロータ11の永久磁石14のうちの白抜きで示す永久磁石14aと、点描を付した永久磁石14bとは、内ロータ11の径方向での磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石14aは、その外側(内ロータ11の外周面側)の面がN極、内側(内ロータ11の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石14bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。
そして、本実施形態では、外ロータ10においては、互いに隣り合された永久磁石13a,13aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石13b,13bの対とが、外ロータ10の周方向に交互に配列されている。同様に、内ロータ11においては、互いに隣り合された永久磁石14a,14aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石14b,14bの対とが、内ロータ11の周方向に交互に配列されている。
図2を参照して、外ロータ10は、電動機3の出力軸3aと一体に回転可能なように該出力軸3aに連結されている。そして、内ロータ11は、該外ロータ10および出力軸3aに対して相対回転可能に設けられている。この内ロータ11の相対回転によって、外ロータ10との間の位相差を変更可能とされている。本実施形態では、内ロータ11の相対回転を行なわせる(両ロータ10,11間の位相差を変化させる)ための位相差変更駆動手段として、例えば遊星歯車機構30を有する位相差変更装置15が備えられている。
この位相差変更装置15の遊星歯車機構30は、内ロータ11の内側の中空部に配置されている。該遊星歯車機構30は、本実施形態では、シングルピニオン型のものであり、外ロータ10と一体に回転可能なように該外ロータ10に固定された第1リングギヤR1と、内ロータ11と一体に回転可能なように該内ロータ11に固定された第2リングギヤR2とを内ロータ11および外ロータ10と同軸に備える。両リングギヤR1,R2は、それらの軸心方向に配列されている。両リングギヤR1,R2の軸心部には、その両者について共通のサンギヤSが設けられ、このサンギヤSを一体に有するサンギヤ軸33が複数のベアリング34により回転自在に支持されている。
サンギヤSと第1リングギヤR1との間には、これらと噛合する複数の第1プラネタリギヤ31が設けられ、これらの第1プラネタリギヤ31が、第1キャリアC1に自転自在に保持されている。この場合、第1キャリアC1は、サンギヤSの軸心まわりに回転可能とされ、該第1キャリアC1の回転によって、各第1プラネタリギヤ31がサンギヤSのまわりで公転可能とされている。
また、サンギヤ33と第2リングギヤR2との間には、これらと噛合する複数の第2プラネタリギヤ32が設けられ、これらの第2プラネタリギヤ32が第2キャリアC2に自転自在に保持されている。この場合、第2キャリアC2は、電動機3のステータ12(あるいはハウジング)に固定され、回転不能とされている。
なお、第1リングギヤR1と第1プラネタリギヤ31とサンギヤSとのギヤ比は、第2リングギヤR2と第2プラネタリギヤ32とサンギヤSとのギヤ比と同じである。
上記のように構成された遊星歯車機構15では、第1キャリアC1を回転不能に保持した状態では、電動機3の出力軸3aおよび外ロータ10が回転すると、これらと同一の回転速度で且つ同方向に内ロータ11が第2リングギヤR2と一体に回転することとなる。従って、内ロータ11が外ロータ10と一体に回転することとなる。そして、第1キャリアC1を回転駆動すると、内ロータ11が外ロータ10に対して相対的に回転することとなる。これにより、内ロータ11と外ロータ10との間の位相差(以下、ロータ間位相差という)が変化することとなる。
そこで、本実施形態の位相差変更装置15は、電動機もしくは油圧アクチュエータなどのアクチュエータ25(回転駆動力発生源)により、遊星歯車機構30の第1キャリアC1を回転駆動することで、ロータ間位相差を変更する。この場合、アクチュエータ25は、第1キャリアC1と一体に回転可能に設けられた駆動軸35を介して該第1キャリアC1に接続され、該駆動軸35を介して第1キャリアC1に回転力(トルク)を付与するようにしている。
以上が、本実施形態における電動機3とこの電動機3に対する位相差変更装置15の機構的な構成である。
なお、本実施形態では、シングルピニオン型の遊星歯車機構30を使用したが、例えばダブルピニオン型の遊星歯車機構を使用するようにしてもよい。また、本実施形態では、電動機3の出力軸3aと外ロータ10とが一体に回転するように構成したが、電動機3の出力軸3aと内ロータ11とが一体に回転するようにして、これらの出力軸3aおよび内ロータ11に対して外ロータ10が相対回転し得るように構成してもよい。また、位相差変更装置15の構成は、上記した構成に限られるものではない。例えば、内ロータ11の内側にベーンロータなどにより油圧室を形成し、その油圧室の圧力を操作することで、内ロータ11を外ロータ10に対して相対回転させるようにしてもよい。
前記位相差変更装置15によって、内ロータ11を外ロータ10に対して回転させ、ロータ間位相差を変化させることで、内ロータ11の永久磁石14a,14bによって発生する界磁と外ロータ10の永久磁石13a,13bによって発生する界磁との合成界磁の(ステータ12に向かう径方向の界磁)の強さ(合成界磁の磁束の強さ)が変化することとなる。以降、その合成界磁の強さが最大となる状態を界磁最大状態、該合成界磁の強さが最小となる状態を界磁最小状態という。図3(a)は界磁最大状態での内ロータ11と外ロータ10との位相関係を示す図であり、図3(b)は界磁最小状態での内ロータ11と外ロータ10との位相関係を示す図である。
図3(a)に示す如く、界磁最大状態は、内ロータ11の永久磁石14a,14bと、外ロータ10の永久磁石13a,13bとが異極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最大状態では、内ロータ11の永久磁石14aが外ロータ10の永久磁石13aに対向すると共に、内ロータ11の永久磁石14bが外ロータ10の永久磁石13bに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ11の永久磁石14a,14bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ10の永久磁石13a,13bのそれぞれの磁束Q2の向きとが同一となるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁の強さ)が最大となる。なお、電動機3の運転停止状態で、内ロータ11が自由に回転し得る状態(前記遊星歯車機構30の第1キャリアC1にアクチュエータ25から回転力を付与していない状態)では、通常、ロータ間位相差は、界磁最大状態の位相差で平衡する。
また、図3(b)に示す如く、界磁最小状態は、内ロータ11の永久磁石14a,14bと、外ロータ10の永久磁石13a,13bとが同極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁最小状態では、内ロータ11の永久磁石14aが外ロータ10の永久磁石13bに対向すると共に、内ロータ11の永久磁石14bが外ロータ10の永久磁石13aに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ11の永久磁石14a,14bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ10の永久磁石13b,13aのそれぞれの磁束Q2の向きとが逆向きとなるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さ(合成界磁の強さ)が最小となる。
本実施形態では、前記界磁最大状態におけるロータ間位相差を0[deg]、前記界磁最小状態におけるロータ間位相差を180[deg]と定義する。なお、前記界磁最小状態でのロータ間位相差(最小界磁位相差)を0[deg]、界磁最大状態でのロータ間位相差(最大界磁位相差)を180[deg]と定義してもよい。より一般的に言えば、ロータ間位相差の零点は任意に設定してよい。
図4は、前記界磁最大状態と、界磁最小状態と、これらの中間的な界磁状態とにおいて、電動機3の出力軸3aを所定の回転速度で作動させた場合に、ステータ12の電機子に誘起される誘起電圧を比較したグラフである。このグラフの縦軸と横軸とは、それぞれ、誘起電圧[V]、電気角での出力軸3aの回転角度[度]である。参照符号aを付したグラフが、界磁最大状態(ロータ間位相差=0[deg]の状態)でのグラフであり、参照符号bを付したグラフが、界磁最小状態(ロータ間位相差=180[deg]の状態)でのグラフである。また、参照符号cを付したグラフが、これらの中間的な界磁状態(ロータ間位相差が、0[deg]と180[deg]との間の中間的な値である状態)でのグラフである。図4から判るように、ロータ間位相差を0[deg]と180[deg]との間で変化させることで、誘起電圧のレベル(振幅レベル)を変化させることができる。なお、ロータ間位相差を0[deg]と180[deg]まで増加させていくと、基本的には、合成界磁の強さが低下していき、これに伴い、誘起電圧のレベルが減少していく。
このように、ロータ間位相差を変化させて、界磁の強さを増減させることにより、電動機3の誘起電圧定数を変化させることができる。なお、誘起電圧定数は、電動機3の出力軸3aの角速度と、この角速度に応じて電機子に生じる誘起電圧のレベル(誘起電圧の実効値)との関係を規定する比例定数である。図5は、この誘起電圧定数とロータ間位相差との関係を示すグラフである。図示の如く、誘起電圧定数の値は、ロータ間位相差が大きいほど(合成界磁の強さが小さいほど)、小さくなる。
また、前記図4を参照して、ロータ間位相差が0[deg]であるときのグラフaの波形と180[deg]であるときのグラフbの波形とは、ほぼ同期したものとなる(誘起電圧のレベルが0になる回転角度が互いにほぼ同じになる)。これは、ロータ間位相差が0[deg]であるときと180[deg]であるときとでは、前記合成界磁の向き(合成界磁の磁束の向き)が互いにほぼ同じになるからである。一方、ロータ間位相差が0[deg]と180[deg]と間の中間的な値であるときのグラフcの波形は、グラフa,bの波形に対して位相のずれが生じる(誘起電圧のレベルが0となる回転角度が、グラフcと、グラフaまたはcとで相違する)。これは、ロータ間位相差が0[deg]と180[deg]との間の中間的な値であるときの前記合成界磁の向きが、ロータ間位相差が0[deg]または180[deg]であるときの前記合成界磁の向きからロータ10,11の周方向にずれるからである。このように、ロータ間位相差に依存して、出力軸3aの回転角度に応じた誘起電圧の波形の位相のずれが生じる。換言すれば、合成界磁の向きは、外ロータ10あるいは内ロータ11に対して固定的な向きではなく、ロータ間位相差に応じて変化する。
次に、図6〜図9を参照して、本実施形態における電動機3の制御装置50を説明する。図6は電動機3の制御装置50(以下、単に制御装置50という)の機能的構成を示すブロック図、図7(a),(b)は制御装置50に備えたKe推定部69の処理を説明するためのグラフ、図8は制御装置50に備えた角度補正部51の処理機能を示すブロック図、図9は該角度補正部51の処理を説明するためのグラフである。なお、図6では、電動機3を模式化して記載し、前記遊星歯車機構30を「位相可変機構」と表現している。
本実施形態の制御装置50は、基本的には、いわゆるd−qベクトル制御により電動機3の電機子の通電を制御する。すなわち、制御装置50は、電動機3を、界磁方向(詳しくは前記合成界磁の方向)をd軸としてd軸と直交する方向をq軸とする2相直流の回転座標系であるd−q座標系での等価回路に変換して取り扱う。その等価回路は、d軸上の電機子(以下、d軸電機子という)と、q軸上の電機子(以下、q軸電機子という)とを有する。なお、d軸はいわゆる界磁軸、q軸はいわゆるトルク軸である。そして、制御装置50は、外部から与えられるトルク指令値Tr_c(電動機3の出力軸3aに発生させるトルクの指令値)に応じたトルクを電動機3の出力軸3aに発生させるように電動機3の電機子(3相分の電機子)の通電電流を制御する。また、制御装置50は、この通電制御と並行して、電動機3のロータ間位相差θdを前記位相差変更装置15を介して制御する。
これらの制御を行なうために、本実施形態では、センサとして、電動機3の電機子の3相のうちの2つの相、例えばU相およびW相のそれぞれの電流を検出する電流センサ41,42(電流検出手段)と、電動機3の出力軸3aまたは外ロータ10の回転角度θm(電動機3のステータ12に対して固定された座標系での回転角度)を検出する角度検出器43とが備えられている。角度検出器43は、本発明における角度検出手段に相当するものであり、レゾルバ等により構成される。なお、本実施形態では、出力軸3aと外ロータ10とは一体に回転するので、それぞれの回転角度は互いに同一である。
制御装置50は、CPU、メモリ等により構成される電子ユニットであり、その制御処理が所定の演算処理周期で逐次実行される。以下に、制御装置50の機能的な手段を具体的に説明する。
制御装置50は、角度検出器43で検出された出力軸3aの回転角度θm(=外ロータ10の回転角度)を補正する角度補正部51と、この角度補正部51による補正後の回転角度θm'(以下、補正後回転角度θm'という)を微分してなる回転速度ωm(=dθm'/dt)を求める回転速度算出部52と、電動機3の各相の電機子の通電電流をインバータ回路44を介して制御する通電制御部53とを備える。インバータ回路44は、周知であるので、その図示は省略するが、上アームと下アームとに3相分(3個)のスイッチング素子(FETなど)と、各スイッチング素子に並列に接続された還流ダイオードとを有するものである。なお、インバータ回路44は、図示を省略する電動機3の電源(蓄電器)から、直流電圧が印加される。
角度補正部51の処理の詳細は後述するが、該角度補正部51で求められる補正後回転角度θm'は、前記合成界磁の回転角度、換言すれば、d−q座標系の回転角度を意味する。従って、このθm'を微分してなる回転速度ωmは、前記合成界磁の回転速度(角速度)、あるいは、d−q座標系の回転速度を意味する。以降、回転速度ωmを合成界磁回転速度ωmという。なお、ロータ間位相差θdが一定に維持されている状態では、合成界磁の向きが外ロータ10に対して固定的な向きとなるので、合成界磁回転速度ωmは、出力軸3aの回転速度(=外ロータ10の回転速度=内ロータ11の回転速度=dθm/dt)に一致する。
補足すると、通電制御部53は、本発明における通電制御手段に相当し、角度補正部51は本発明における回転角度補正手段に相当するものである。
通電制御部53は、前記電流センサ41,42の出力信号から不要成分を除去することで、電動機3の電機子のU相、W相のそれぞれの電流検出値Iu,Iwを得るバンドパスフィルタ61と、該電流検出値Iu,Iwと前記角度補正部51で求められた補正後回転角度θm'とに基づいて、3相−dq変換によりd軸電機子の電流(以下、d軸電流という)の検出値Id_sおよびq軸電機子の電流(以下、q軸電流という)の検出値Iq_sを算出する3相−dq変換部62とを備える。
また、通電制御部53は、d軸電流の指令値(目標値)であるd軸電流指令値Id_cとq軸電流の指令値(目標値)であるq軸電流指令値Iq_cとを逐次決定する電流指令算出部63と、d軸電流指令値Id_cを補正する補正値Idvolを求める界磁制御部64と、該補正値Idvolをd軸電流指令値Id_cに加えてなる値(Id_cをIdvolにより補正してなる値)と前記3相−dq変換部62で求められたd軸電流の検出値Id_sとの偏差ΔId(=Id_c+Idvol−Id_s)を求める演算部65と、前記電流指令算出部63により決定されたq軸電流指令値Iq_cと前記3相−dq変換部62で求められたq軸電流の検出値Iq_sとの偏差ΔIq(=Iq_c−Iq_s)を求める演算部66とを備える。
ここで、電流指令算出部63には、制御装置50に外部から与えられるトルク指令値Tr_c(電動機3の出力軸3aに発生させるトルクの指令値)と、前記回転速度算出部52で求められた合成界磁回転速度ωmと、後述するKe推定部69で求められる誘起電圧定数Keの推定値Ke_s(前回の演算処理周期で求められた値)とが入力される。そして、電流指令算出部63は、これらの入力値から、あらかじめ設定されたマップに基づいて、前記d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cを決定する。このd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cは、トルク指令値Tr_cのトルクを電動機3に発生させるためのd軸電流およびq軸電流のフィードフォワード値(基本値)としての意味を持つ。
なお、トルク指令値Tr_cは、例えば電動機3を走行用動力源として搭載した車両(ハイブリッド車両や電動車両)のアクセル操作量(アクセルペダルの踏み込み量)や走行速度に応じて決定される。また、トルク指令値Tr_cには、力行トルクの指令値と回生トルクの指令値とがあり、本実施形態では、力行トルクのトルク指令値Tr_cを正の値、回生トルクのトルク指令値Tr_cを負の値とする。
また、界磁制御部64は、電動機3の電機子の相電圧(誘起電圧)の大きさが、電動機3の電源電圧Vdc(インバータ回路44に印加される直流電圧)に応じて決定される目標電圧に一致するようにd軸電流を操作するものである。このため、界磁制御部64には、電動機3の電源電圧Vdcと、後述する電流制御部67で決定されたd軸電機子およびq軸電機子のそれぞれの電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cとが入力される。そして、界磁制御部64は、入力されたd軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cとから求まる相電圧が、前記電源電圧Vdcに応じて定まる目標電圧を半径とする目標電圧円をトレースするように(換言すれば、Vd_c,Vq_cの合成ベクトルの大きさが電源電圧Vdcを超えないように)、d軸電流Idを操作するための前記補正値Idvolを決定する。この場合、補正値Idvolは、例えば前記目標電圧と上記合成ベクトルの大きさ(=√(Vd_c2+Vq_c2))との偏差からPI制御則などのフィードバック制御則により決定される。
通電制御部53は、さらに、上記の如く算出された偏差ΔId,ΔIqに応じて、それらの偏差ΔId,Iqを0に近づけるように、PI制御則などのフィードバック制御則により、d軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cを決定する電流制御部67を備える。なお、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとを決定するとき、偏差ΔId,IqからPI制御則などのフォードバック制御則によりそれぞれ求められるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に、d軸とq軸との間で干渉し合う速度起電力の影響を打ち消すための非干渉成分を付加することで、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cを求めることが好ましい。
さらに、通電制御部53は、電流制御部67で決定されたd軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとの組を各相の電機子の電圧指令値に変換し、その電圧指令値に応じてインバータ回路44をPWM制御により制御するインバータ制御部68を備える。
この場合、インバータ制御部68には、d軸電圧指令値Vd_cおよびq軸電圧指令値Vq_cに加えて、前記角度補正部51で求められた補正後回転角度θm'も入力される。そして、インバータ制御部68は、補正後回転角度θm'に応じてdq−3相変換により、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとの組を各相の電機子の電圧指令値に変換する。さらに、インバータ制御部68は、その各相の電機子の電圧指令値を、補正後回転角度θm'に対して所定の位相を有する三角波あるいは鋸波と比較することにより、インバータ回路44の各相に対応するスイッチング素子の制御信号(該スイッチング素子のゲートのON・OFF信号)を生成する。そして、インバータ制御部68は、その制御信号によってインバータ回路を制御することで、電圧指令値の電圧を各相の電機子にインバータ回路44を介して印加させる。
上記した通電制御部53の処理機能によって、電動機3の各相の電機子の相電圧が電源電圧Vdcを超えないようにしつつ、トルク指令値Tr_cのトルクが電動機3の出力軸3aに発生するように、電動機3の各相の電機子の通電電流が制御されることとなる。
また、本実施形態では、通電制御部53は、さらに、電動機3の実際の誘起電圧定数Keを推定するKe推定部69を備える。
Ke推定部69は、本実施形態では、次のように電動機3の誘起電圧定数Keを推定する(誘起電圧定数Keの推定値Ke_sを求める)。
d−q座標系において、d軸電圧Vd、q軸電圧Vq、d軸電流Id、およびq軸電流Iqの間には、一般に、次式(1)、(2)の関係が成立する。
Ke・ωm+R・Iq=Vq−ωm・Ld・Id ……(1)
Vd=R・Id−ωm・Lq・Iq ……(2)
ここで、Rはd軸電機子およびq軸電機子の抵抗値、Ldはd軸電機子のインダクタンス、Lqはq軸電機子のインダクタンスである。
本実施形態では、Ke推定部69は、上記式(1)、(2)に基づいて、電動機3の誘起電圧定数Keの推定値Ke_s(以下、誘起電圧定数推定値Ke_sという)を求める。さらに詳細には、Ke推定部69は、前記式(1)から得られる次式(3)に基づいて、誘起電圧定数推定値Ke_sを求める。
Ke_s=(Vq−ωm・Ld・Id−R・Iq)/ωm ……(3)
この場合、式(3)の右辺の演算に必要なVq,Id,Iq、ωmの値として、それぞれ前記電流制御部67により決定されたq軸電圧指令値Vq_c、前記3相−dq変換部62により求められたd軸電流の検出値Id_sおよびq軸電流の検出値Iq_s、前記回転速度算出部52により求められた合成界磁回転速度ωmが用いられる。また、Ldの値としては、d軸電流Idの指令値Id_cまたは検出値Id_sから、図7(a)のグラフで示す如くあらかじめ定められたデータテーブルに基づいて、Ldの値を決定し、その値を式(3)の演算に使用する。図7(a)のグラフは、d軸電機子のインダクタンスLdとd軸電流Idとの相関関係を表している。本実施形態では、このようなLdとIdとの間の相関性を利用して、Id_cまたはId_sからLdの値を決定する。なお、d軸電流指令値Id_cの代わりに、Id_cを界磁制御部64で求められる補正値Idvolで補正してなる値(Id_c+Idvol)を用いてもよい。また、Rの値としては、例えば前記式(2)から得られる次式(4)により決定される値が用いられる。
R=(Vd+ωm・Lq・Iq)/Id ……(4)
この式(4)の右辺の演算に必要なVd、Iq、ωmの値としては、前記電流制御部67により決定されたd軸電圧指令値Vd、前記3相−dq変換部62により求められたq軸電流の検出値Iq_s、前記回転速度算出部52で算出された合成界磁回転速度ωmを用いればよい。また、Lqの値としては、q軸電流Iqの指令値Iq_cまたは検出値Iq_sから、図7(b)のグラフで示す如くあらかじめ定められたデータテーブルに基づいて、Lqの値を決定し、その値を式(4)の演算に使用する。図7(b)のグラフは、q軸電機子のインダクタンスLqと、q軸電流Iqとの相関関係を表している。本実施形態では、このようなLqとIqとの間の相関性を利用して、Iq_cまたはIq_sからLqの値を決定する。
なお、式(4)によりRの値を求める場合、d軸電流Idが0近傍の値であるときには、Rの値を精度よく求めることができない。これに対する対策として、例えば次のようにRの値を求めるようにしてもよい。すなわち、前記電流指令算出部63により決定されるd軸電流指令値Id_cを前記界磁制御部64で算出される補正値Idvolにより補正してなる値(=Id_c+Idvol)が0近傍の値に維持される状況において、d軸電流指令値を0近傍で正の値と負の値とに周期的に変化し、且つ、その時間平均値が0近傍に維持されるように設定し直す。そして、このように設定し直したd軸電流指令値とd軸電流の検出値Id_sとの偏差をΔIdとして、電流制御部67に入力する。この状態において、次式(5)によりRの値を算出する。
R={(Vd1−Vd2)+ωm・Lq・(Iq1−Iq2)}/(Id1−Id2) ……(5)
ここで、Vd1,Iq1,Id1は、それぞれd軸電流指令値が正の値(または負の値)となる時刻(以下、時刻1という)に対応するd軸電圧、q軸電流、d軸電流を意味し、Vd2,Iq2,Id2は、それぞれd軸電流指令値がVd1,Iq1,Id1の場合と逆極性になる時刻(以下、時刻2という)に対応するd軸電圧、q軸電流、d軸電流を意味する。それらの値としては、各時刻1,2におけるd軸電圧指令値Vd_c、q軸電流の検出値Iq_s、d軸電流の検出値Id_sを使用すればよい。また、d軸電流指令値を変化させる1周期内での電動機3の合成界磁の実際の回転速度およびq軸電機子の実際のインダクタンスの変化がほぼ0であるとみなし、式(5)のωmの値としては、時刻1または時刻2で前記回転速度算出部52で算出される合成界磁回転速度ωmの値を用いればよい。さらに、式(5)のLqの値としては、時刻1または時刻2でのq軸電流の指令値Iq_cまたは検出値Iq_sから前記図7(b)のグラフで示すデータテーブルに基づき決定される値を使用すればよい。
このようにRの値を決定することにより、d軸電流Idが0近傍の値となる状況でも、Rの値を適正に決定することができる。
補足すると、前記式(3)により誘起電圧定数Keの値を推定する場合、Rの値をあらかじめ定めた固定値にしてもよい。また、Rの値やLqの値は、電動機3の電機子あるいは永久磁石13,14の温度の影響を受けるので、その温度を検出または推定し、その温度に基づいて、RやLqの値を推定するようにしてもよい。そして、その推定したRやLqの値を用いて、Keの値を推定するようにしてもよい。
また、ロータ間位相差θdを適宜のセンサを使用して検出するようにした場合には、そのθdの検出値から、前記図5のグラフで示す相関関係を表すマップに基づいてKeの値を推定するようにしてもよい。
制御装置50は、前記角度補正部51、回転速度算出部52および通電制御部53のほか、電動機3の誘起電圧定数Keの指令値(目標値)Ke_cを逐次決定するKe指令算出部54と、ロータ間位相差を制御するための制御指令を決定して位相差変更装置15に出力する位相制御部55とを備える。
Ke指令算出部54には、前記トルク指令値Tr_cと、電動機3の電源電圧Vdcと、前記回転速度算出部52で求められた合成界磁回転速度ωmとが逐次入力される。そして、Ke指令算出部54は、これらの入力値Tr_c,ωm,Vdcからあらかじめ定められたマップに従って、誘起電圧定数Keの指令値Ke_c(以下、誘起電圧定数指令値Ke_cという)を逐次決定する。
この場合、上記マップは、例えば、トルク指令値Tr_cと合成界磁回転速度ωmと電源電圧Vdcとの組に対して、電動機3のd軸電圧とq軸電圧との合成電圧(ベクトル和)の大きさが電源電圧Vdcを超えないようにしつつ、電動機3のエネルギー効率(入力エネルギーに対する出力エネルギーの割合)をできるだけ高めることができる誘起電圧定数指令値Ke_cが決定されるように設定されている。
ここで、一般的には、誘起電圧定数Keを小さくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを大きくするほど)、電動機3の出力軸3aをより高速域で回転させることが可能となると共に、電動機3のエネルギー効率が高効率となる領域を高速回転側にずらすことができる。また、誘起電圧定数Keを大きくするほど(換言すれば、ロータ間位相差θdを小さくするほど)、電動機3の出力トルクを大きくすることができる。従って、誘起電圧定数指令値Ke_cは、上記のような誘起電圧定数Keに対する電動機3の特性と、電動機3の要求される運転形態とを考慮して設定すればよく、種々様々な設定の仕方が可能である。
本実施形態では、Ke指令算出部54では、合成界磁回転速度ωmと電源電圧Vdcとを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、トルク指令値Tr_cの絶対値|Tr_c|が大きくなるほど、Ke_cの値が大きくなるように(換言すれば、前記合成界磁の強さを高くするように)設定される。
また、トルク指令値Tr_cと電源電圧Vdcとを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、合成界磁回転速度ωmが高速となる領域で、該合成界磁回転速度ωmが大きくなるほど、Ke_cの値が小さくなるように(換言すれば、前記合成界磁の強さを低くするように)設定される。また、トルク指令値Tr_cと合成界磁回転速度ωmとを一定としたとき、誘起電圧定数指令値Ke_cは、基本的には、電源電圧Vdcが小さくなるほど、Ke_cの値が小さくなるように設定される。
補足すると、誘起電圧定数指令値Ke_cを設定するとき、電動機3の過熱防止などの要求を考慮して設定してもよい。
位相制御部55には、前記通電制御部53のKe推定部69で求められた誘起電圧定数推定値Ke_sが入力されると共に、Ke指令算出部54から出力された誘起電圧定数指令値Ke_cが逐次入力される。そして、位相制御部55は、これらの入力値を基に、Ke_sをKe_cに追従させるように(実際の誘起電圧定数Keを指令値Ke_cに一致させるように)、位相差変更装置15に対する制御指令を決定し、該制御指令を位相差変更装置15に出力する。本実施形態では、該制御指令として、例えばロータ間位相差の指令値θd_c(以下、位相差指令値θd_cという)が決定される。この場合、位相差指令値θd_cは、例えば、Ke_cに応じて定めたフィードフォワード値を、誘起電圧定数指令値Ke_cと誘起電圧定数推定値Ke_sの偏差ΔKe(=Ke_c−Ke_s)に応じて定めたフィードバック補正量で補正することにより決定される。該フィードフォワード値は、Ke_cから、前記図5のグラフで示すようにあらかじめ設定したマップを用いて決定すればよい。また、フィードバック補正量は、ΔKeから比例則、PID則などのフィードバック制御則によって決定すればよい。
なお、位相差変更装置15は、位相制御部55から入力される位相差指令値θd_cに従って、アクチュエータ25を介してロータ間位相差θdを制御する。
補足すると、本実施形態では、位相差変更装置15に対する制御指令としてロータ間位相差指令値θd_cを使用したが、例えば位相差変更装置15のアクチュエータ25の動作量の指令値であってもよい。該制御指令は、位相差変更装置15のアクチュエータ25の動作を規定できるものであればよい。
以上説明した、Ke指令算出部54および位相制御部55の処理によって、電動機3の実際の誘起電圧定数Keの推定値である誘起電圧定数推定値Ke_sが、電動機3の運転形態に応じた誘起電圧定数指令値Ke_cに一致するように、ロータ間位相差θdが位相差変更装置15を介して制御される。
次に、説明を後回しにした前記角度補正部51の処理を説明する。前記したように、外ロータ10の永久磁石13の界磁と内ロータ11の永久磁石14の界磁とを合成してなる前記合成界磁の向きは、外ロータ10あるいは内ロータ11に対して固定的な向きではなく、ロータ間位相差に応じて変化する。そして、電動機3の出力トルクを適切に所望のトルクに制御するためには、前記合成界磁の向きに適合させて、各相の電機子の通電電流を制御する必要がある。具体的には、本実施形態のようにd−qベクトル制御により電動機3の各相の電機子の通電電流を制御する場合には、前記通電制御部53の3相−dq変換部62や、インバータ制御部68に、実際の合成界磁の向きとd軸方向とが一致するd−q座標系の回転角度(あるいは該回転角度に対して一定のオフセットを有する回転角度)を入力する必要がある。
一方、前記角度検出器43で検出される回転角度θmは、外ロータ10あるいは出力軸3aの回転角度であるので、その回転角度θmのみに依存して一義的に合成界磁の向きが定まるわけではなく、該合成界磁の向き(あるいはd−q座標系の回転角度)は、ロータ間位相差θdにも依存する。
ここで、例えば、前記ロータ間位相差θdが0[deg]または180[deg]であるときの前記合成界磁の向きを基準の向きとし、任意のロータ間位相差θdにおける合成界磁の向きの基準の向きからのずれ角度をΔθmとおくと、このΔθmは、ロータ間位相差θdに対して、概ね図9のグラフで示すような相関性を有する。図示の如く、ロータ間位相差θdが、前記界磁最大状態に対応するロータ間位相差である0[deg]と、前記界磁最小状態に対応するロータ間位相差である180[deg]との間の中間的な所定値θdxであるときに、Δθmが極大値(最大値)となるような特性でΔθmがロータ間位相差θdに応じて変化する。換言すれば、ロータ間位相差θdが0[deg]から180[deg]まで変化することに伴うΔθmの変化の波形が凸型の波形(図9では上に凸の波形)になる。
なお、前記図4を参照して、任意のロータ間位相差θdにおけるΔθmは、そのロータ間位相差θdの値を維持して電動機3の出力軸3aを一定速度で回転させた場合に電機子に発生する誘起電圧が0となる出力軸3aの回転角度θmと、ロータ間位相差θdを0[deg]または180[deg]に維持して電動機3の出力軸3aを一定速度で回転させた場合に電機子に発生する誘起電圧が0となる出力軸3aの回転角度との差分に相当する。
そこで、本実施形態では、角度検出器43で検出される回転角度θmを角度補正部51によりロータ間位相差θdに応じて補正する。この補正のために、角度補正部51には、角度検出器43で検出された回転角度θmに加えて、前記位相制御部55で決定された位相差指令値θd_cが実際のロータ間位相差を表すパラメータとして入力される。
そして、角度補正部51は、図8のブロック図で示す処理により回転角度θmを補正して、前記補正後回転角度θm'を求める。さらに詳細には、図8を参照して、角度補正部51は、まず、角度補正量算出部51aにより、位相差指令値θd_cから、前記ずれ角度Δθmを求め、それを回転角度θmの補正量(以下、角度補正量という)として決定する。この場合、本実施形態では、図9のグラフに示すロータ間位相差θdと、Δθmとの相関関係をあらかじめマップ化しておき、このマップ(これは本発明における相関データに相当する)をあらかじめ図示しないメモリに記憶保持している。そして、このマップに基づいて位相差指令値θd_cから角度補正量Δθmを決定する。すなわち、角度補正部51に入力されたθd_cの値を、図9のグラフにおけるθdの値として、その値に対応するΔθmの値を当該マップにより求め、その求めたΔθmの値を角度補正量Δθmとして決定する。
次いで、角度補正部51は、上記のように求めた角度補正量Δθmをフィルタ51bに入力し、このフィルタ51bにより、Δθmにローパス特性のフィルタリング処理を施す。これにより、回転角度θmを実際に補正するため使用する角度補正量Δθm’が求められる。このようにしてΔθmにローパス特性のフィルタリング処理を施すことで、頻繁な変動を生じるのが抑制された角度補正量Δθm'が得られる。そして、角度補正部51は、この角度補正量Δθm'を、角度検出器43から入力される回転角度θmに加える処理を演算部51cにより行なう。これにより、回転角度θmを角度補正量Δθm'で補正してなる補正後回転角度θmが求められる。
以上が、本実施形態における角度補正部51の処理の詳細である。
上記のように角度検出器43で検出された回転角度θmを補正することにより、合成界磁の向き(d−q座標系の回転角度)に対応する回転角度として適切な補正後回転角度θm'を求めることができる。そして、この補正後回転速度θm'や、これを微分してなる合成界磁回転速度ωmを前記通電制御部53の処理で使用することにより、電動機3の運転効率の低下や、出力トルクの振動を抑制しつつ、トルク指令値Tr_cの出力トルクを電動機3の出力軸3aに円滑に発生させることができる。
なお、本実施形態では、角度補正部51では、位相差指令値θd_cを、本発明におけるパラメータの値として使用したが、例えば前記Ke推定部69で求められる誘起電圧定数推定値Ke_s、あるいは、この誘起電圧定数推定値Ke_sから前記図5に示したグラフで表されるマップに基づいて求められるロータ間位相差の値(これは実際のロータ間位相差の推定値を意味する)を位相差指令値θd_cの代わりに用いてもよい。あるいは、位相差指令値θd_cに対応する位相差変更装置15のアクチュエータ25の動作量の指令値を位相差指令値θd_cの代わりに用いてもよい。また、ロータ間位相差θdを適宜のセンサを使用して検出するようにした場合には、その検出値を位相差指令値θd_cの代わりに使用して、角度補正量Δθmを求めるようにしてもよい。
また、前記実施形態では、回転角度θmの補正は、角度補正量Δθm'の加算演算により行なうようにしたが、回転角度θmの補正を、減算演算、乗算演算、除算演算などにより行なうようにしてもよい。
また、前記実施形態では、ロータ間位相差θdが0[deg]または180[deg]であるときの合成界磁の向き(d−q座標系の回転角度)を基準の向きとしたが、ロータ間位相差θdが0[deg]と180[deg]との間の値(例えばθdx)であるときの合成界磁の向き(d−q座標系の回転角度)の基準の向きとしてもよい。
また、前記実施形態では、角度補正量Δθmを求めるために、マップを使用したが、図9のグラフに示したロータ間位相差θdと角度補正量Δθmとの相関関係を適宜の近似式で表しておき、その近似式を用いて角度補正量Δθmを求めるようにしてもよい。
また、前記実施形態では、角度検出器43により外ロータ10の回転角度(=出力軸3aの回転角度)を検出するようにしたが、その代わりに、内ロータ11の回転角度を検出するようにしてもよい。内ロータ11の回転角度を検出しても、その検出値とロータ間位相差θdを表すパラメータとから合成界磁の向き(d−q座標系の回転角度)を一義的に特定できる。
3…電動機、3a…出力軸、10…外ロータ(第1ロータ)、11…内ロータ(第2ロータ)、13,14…永久磁石、43…角度検出器(角度検出手段)、50…制御装置、53…通電制御部(通電制御手段)、51…角度補正部(回転角度補正手段)。