本発明は上記背景を鑑みてなされたものであり、外ロータと内ロータとの間の位相差を種々様々の要求に応じて変化させることを可能としつつ、実際の位相差に適した電動機の運転を行なうことを可能とする制御装置を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために、本発明の電動機の制御装置は、周方向に配列された複数の永久磁石を有する外ロータと、周方向に配列された複数の永久磁石を有し、前記外ロータと同軸に設けられた内ロータと、前記外ロータおよび内ロータのいずれか一方を他方に対して両ロータの軸心まわりに相対回転させるロータ間相対回転手段とを備え、前記外ロータおよび内ロータの間の相対回転によって両ロータの間の位相差を変化させることにより、両ロータの永久磁石の合成界磁を変更可能とした電動機の制御装置であって、前記ロータ間相対回転手段は、前記外ロータと一体に内ロータに対して相対回転可能に設けられた第1部材と、前記内ロータと一体に外ロータに対して相対回転可能に設けられた第2部材と、両ロータの間の位相差の変化に伴い体積が変化するように該第1部材および第2部材により構成された圧力室とを有し、この圧力室の圧力を、該圧力室に供給する作動流体によって操作することにより、両ロータの間の相対回転を行なわせる手段であり、前記圧力室の圧力を検出する圧力検出手段と、該圧力検出手段により検出された圧力を基に、前記両ロータの間の実際の位相差と、該位相差に対して所定の相関関係を有する電動機の特性パラメータとのうちのいずれか一方を位相差パラメータとして、該位相差パラメータの値を推定する位相差パラメータ推定手段と、該位相差パラメータ推定手段により推定された位相差パラメータの値に基づいて前記電動機の通電制御を行なう通電制御手段とを備えたことを特徴とする(第1発明)。
かかる第1発明によれば、前記ロータ間相対回転手段の第1部材および第2部材により構成される圧力室の圧力を操作する(増減させる)ことによって、前記両ロータ間の位相差(外ロータと内ロータとの回転角度との差)を所要の位相差(目標とする位相差)に制御できる。この場合、所要の位相差は、種々様々の要求に応じて任意に決定できる。例えば、電動機のエネルギー効率を高める場合には、エネルギー効率ができるだけ高効率となるような動作点で電動機を動作させ得るように目標とする位相差を決定すればよい。
そして、第1発明では、上記の如く圧力室の圧力の操作によって両ロータ間の位相差(外ロータと内ロータとの回転角度との差)を制御できるので、該圧力室の圧力は、両ロータ間の位相差を規定するものとなる。従って、前記圧力検出手段により検出される圧力室の圧力を基に、両ロータ間の位相差、あるいは、この位相差と所定の相関関係(例えば位相差の変化に対して単調に増加または減少するような関係)を有する電動機の特性パラメータである前記位相差パラメータの値を推定できる。
そこで、第1発明では、前記位相差パラメータ推定手段は、圧力検出手段により検出された圧力室の圧力に基づいて前記位相差パラメータの値を推定する。そして、第1発明は、この推定された位相差パラメータに応じて電動機の通電制御を行なう。これにより、両ロータの永久磁石による合成界磁の状態に適した電動機の運転を行なうことが可能となる。
よって、第1発明によれば、外ロータと内ロータとの間の位相差を種々様々の要求に応じて変化させることを可能としつつ、実際の位相差に適した電動機の運転を行なうことが可能となる。
補足すると、本発明では、電動機の出力軸(トルクを外部に出力する回転軸)は、外ロータと内ロータとのうちのいずれか一方と一体に回転自在に設けられる。この場合、外ロータと内ロータとのうちの他方は、出力軸に対して相対回転可能であるが、両ロータの間の位相差を一定に維持した状態では、両ロータが出力軸と一体に回転することとなる。
また、外ロータの永久磁石と内ロータの永久磁石との間に作用する磁力によって、両ロータの一方に対して他方を回転させようとする回転力が発生する。なお、この磁力による回転力の大きさおよび向きは、両ロータ間の位相差に応じたものとなる。従って、両ロータ間の位相差を、ある値に維持するときには、上記磁力による回転力に釣り合う回転力を前記圧力室の圧力によって両ロータ間に発生させるように該圧力を操作すればよい。
また、前記圧力検出手段は、前記圧力室の圧力をセンサにより直接的に検出する手段でなくてもよく、該圧力室の圧力と相関性を有する物理量の検出値から該圧力を推定する(該圧力を間接的に検出する)手段であってもよい。
かかる第1発明では、より具体的には、前記圧力室は、前記外ロータに対して内ロータを第1の向きに相対回転させようとする圧力を発生する第1の圧力室と、前記外ロータに対して内ロータを前記第1の向きと逆向きの第2の向きに相対回転させようとする圧力を発生する第2の圧力室とから構成され、前記圧力検出手段は、前記第1の圧力室および第2の圧力室のそれぞれの圧力を検出する第1圧力検出手段および第2圧力検出手段から構成される。そして、この場合には、前記位相差パラメータ推定手段は、前記第1圧力検出手段および第2圧力検出手段によりそれぞれ検出された圧力を基に、前記位相差パラメータの値を推定することが好ましい(第2発明)。
この第2発明では、第1の圧力室の圧力と第2の圧力室の圧力との差圧によって、両ロータの間の相対回転(位相差の変更)が行なわれることとなる。従って、前記第1圧力検出手段および第2圧力検出手段によりそれぞれ検出された圧力を基に、前記位相差パラメータの値を推定することで、その推定を適切に行なうことができる。なお、この場合、両ロータ間の位相差を、ある値に維持するときには、前記した磁力による回転力に釣り合う回転力を、前記差圧によって両ロータ間に発生させるように第1および第2の圧力室のそれぞれの圧力を操作すればよい。
前記第2発明における前記第1部材および第2部材は、例えば次のように構成される。すなわち、前記第1部材は、前記外ロータと同軸に設けられて該外ロータと一体に前記内ロータに対して相対回転可能に設けられた軸部と、該軸部の外周面から放射状に突設された複数の第1部材側突起部とを有する部材であり、前記第2部材は、前記第1部材の軸部と同軸に設けられて前記第1部材側突起部の先端部を内周面に摺接させた環状部と、該環状部の内周面から、前記軸部の周方向で互いに隣り合う各対の第1部材側突起部の間の箇所にそれぞれ突設され、その先端部を前記軸部の外周面に摺接させた複数の第2部材側突起部とからなる部材であり、前記軸部の周方向で互いに隣り合う各対の第1部材側突起部の一方と、該対の第1部材側突起部の間の箇所に存する前記第2部材側突起部との間の空間が前記第1の圧力室として構成され、該対の第1部材側突起部の他方と、該対の第1部材側突起部の間の箇所に存する前記第2部材側突起部との間の空間が前記第2の圧力室として構成される(第3発明)。
この第3発明によれば、第1部材の軸部の外周面と前記第2部材の環状部の内周面との間で、前記第1部材側突起部と第2部材側突起部とが周方向に交互に配列されることとなる。そして、このとき、周方向で互いに隣り合う第1部材側突起部と第2部材側突起部との間の空間が第1または第2の圧力室となると共に、これらの第1および第2の圧力室は、第1部材の軸部の外周面と前記第2部材の環状部の内周面との間で周方向に交互に並んで形成されることとなる。このような構成によって、第1の圧力室の圧力と、第2の圧力室とは、外ロータに対して内ロータを互いに逆向きに回転させようとする圧力となり、それらの圧力差によって、両ロータ間の相対回転を行なうことができる。なお、両ロータ間の相対回転(第1部材および第2部材の間の相対回転)に伴い、第1および第2の圧力室の一方の圧力室の体積が増加しつつ、他方の圧力室の体積が減少することとなる。
かかる第3発明によれば、第1部材と第2部材との簡易な構成で、両ロータ間の相対回転を行なわせることができる。
前記第1〜第3発明においては、前記外ロータおよび内ロータのうちのいずれか一方と一体に回転自在に設けられた電動機の出力軸の回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、前記位相差パラメータ推定手段は、前記圧力検出手段により検出された圧力と、前記回転速度検出手段により検出された回転速度とに基づいて、前記位相差パラメータの値を推定する手段であることが好ましい(第4発明)。
すなわち、電動機の出力軸の回転時、特に高速回転時には、両ロータ間の位相差が一定であっても、慣性力の影響で、両ロータ間の位相差をある値に保持するための前記圧力室の圧力の値が多少変動する。従って、圧力検出手段により検出された圧力だけでなく、前記回転速度検出手段により検出された回転速度も使用して、前記位相差パラメータの値を推定するようにすることで、その推定値の精度を高めることができる。
また、前記第1〜第4発明において、前記電動機の特性パラメータとしては、例えば該電動機の誘起電圧定数が挙げられる(第5発明)。
この誘起電圧定数は、電動機の出力軸の回転速度と、電動機の電機子に発生する誘起電圧との関係を規定する定数であり、前記合成界磁の磁束に依存する。そして、該合成界磁は、両ロータ間の位相差に対応して定まるので、前記誘起電圧定数は、両ロータ間の位相差と所定の相関関係を有する。この場合、例えば前記合成界磁の磁束が最大となる両ロータ間の位相差を基準とすると、両ロータ間の実際の位相差と基準の位相差との差の絶対値が大きくなるに伴い、誘起電圧定数の値は、単調に減少する。従って、この誘起電圧定数の値を前記位相差パラメータ推定手段により推定し、その推定値に応じて、電動機の通電制御を行なうことで、両ロータ間の実際の位相差に応じて電動機の通電制御を行なう場合と同等の制御を行なうことができる。
前記第1〜第5発明では、前記位相差パラメータの指令値を出力する位相差パラメータ指令値出力手段と、該位相パラメータの指令値と前記推定された位相差パラメータの値との偏差に応じて、前記ロータ間相対回転手段の動作指令値を決定する動作指令値決定手段とを備え、前記ロータ間相対回転手段は、該動作指令値に応じて前記圧力室の圧力を操作することが好ましい(第6発明)。
この第6発明によれば、位相差パラメータの指令値と前記推定された位相差パラメータの値との偏差に応じて、前記ロータ間相対回転手段の動作指令値を決定するので、両ロータ間の実際の位相差を、前記位相差パラメータの指令値により規定される位相差に適切にフィードバック制御することができる。
補足すると、ロータ間相対回転手段の動作指令値を決定するとき、上記偏差だけでなく、位相差パラメータの指令値を使用してもよい。例えば、位相差パラメータの指令値に応じて動作指令値のフィードフォワード値(基本動作指令値)を決定し、このフィードフォワード値を、上記偏差に応じて補正して、動作指令値を決定するようにしてもよい。
また、前記動作指令値としては、前記圧力室の圧力の指令値、あるいは、両ロータ間の位相差の指令値が挙げられる。この場合、動作指令値が、両ロータ間の位相差の指令値である場合には、その位相差の指令値を、ロータ間相対回転手段で、圧力室の圧力の指令値に変換すればよい。
また、前記位相差パラメータ指令値出力手段は、例えば、電動機の出力トルクの指令値と、該電動機の出力軸の回転速度の検出値と、電動機の電源電圧の目標値とから、マップ等により、位相差パラメータの指令値を決定して出力するようにすればよい。この場合、例えば、電動機の電機子の発生電圧が電動機の電源電圧の目標値を越えないようにしつつ、電動機をそのエネルギー効率が高効率となるような状態で動作させ得るように、位相差パラメータの指令値を決定できる。なお、位相差パラメータの指令値は、例えば電動機の過熱防止などの要求を考慮して決定するようにしてもよい。位相差パラメータの指令値は、電動機の運転形態に関する要求に応じて種々様々の設定が可能である。
前記第6発明では、前記動作指令値が、前記圧力室の圧力の指令値である場合には、前記通電制御手段は、該圧力の指令値と、前記圧力検出手段により検出された圧力との偏差(以下、圧力偏差ということがある)に応じて、前記電動機の通電電流を操作する手段を備えることが好ましい(第7発明)。
あるいは、前記動作指令値が、前記両ロータ間の位相差の指令値である場合には、前記通電制御手段は、該位相差の指令値と、前記位相差パラメータ推定手段により推定された位相差パラメータの値に対応する両ロータ間の位相差の値との偏差(以下、位相差偏差ということがある)に応じて、前記電動機の通電電流を操作する手段を備えることが好ましい(第8発明)。
これらの第7発明、第8発明によれば、前記通電制御手段は、前記圧力偏差または位相差偏差に応じて、前記電動機の通電電流を操作する手段を備える。このため、両ロータ間の実際の位相差が、前記位相差パラメータの指令値に対応する位相差に達していない段階において、前記動作指令値により要求される両ロータ間の位相差(これは最終的には、位相差パラメータの指令値に対応する位相差に収束する)における前記永久磁石の合成界磁と、実際の合成界磁とのずれ分を前記電動機の通電電流によって補償することが可能となる。すなわち、前記動作指令値により要求される両ロータ間の位相差に対する実際の位相差の遅れに伴う永久磁石の合成界磁の上記ずれ分を電動機の通電電流による界磁によって補うことができる。その結果、両ロータ間の実際の位相差が、前記位相差パラメータの指令値に対応する位相差に達する前から、位相差パラメータの指令値に対応する両ロータ間の位相差で要求される電動機の運転と同等の運転を行なうことが可能となり、電動機の応答性を高めることができる。
なお、前記第7発明または第8発明で、前記通電制御手段が、いわゆるd−qベクトル制御(電動機の出力軸に対して固定された回転座標系(d−q座標系)で、該電動機の電気子の通電電流を、界磁方向の電流成分としてのd軸電流(界磁電流)と界磁方向と直交する電流成分としてのq軸電流(トルク電流)との合成電流として扱う制御手法)によって、電動機の通電制御を行なう場合には、d軸電流を前記圧力偏差または位相差偏差に応じて操作すればよい。
また、前記第7発明または第8発明では、より具体的には、前記通電制御手段は、例えば、前記電動機の出力トルクの指令値と前記電動機の出力軸の回転速度の検出値と前記推定された位相差パラメータの値とが入力されて、それらの入力値に基づき前記電動機の通電電流の指令値(基本指令値)を決定する電流指令値決定手段を備える。そして、前記電動機の通電電流を操作する手段は、前記圧力偏差または位相差偏差に応じて前記通電電流の指令値(例えば前記d軸電流の指令値)を補正し、その補正後の通電電流の指令値に応じて電動機の通電電流を制御すればよい。
また、前記第1〜8発明では、前記圧力検出手段により検出された圧力を基に、前記ロータ間相対回転手段の異常の有無を判断する異常検出手段を備えることが好ましい(第9発明)。
すなわち、ロータ間相対回転手段が正常に動作しているときには、圧力検出手段により検出される圧力は、ある範囲内で変化するので、その検出された圧力に基づいてロータ間相対回転手段の異常(例えば前記作動流体の漏れや第1部材もしくは第2部材の動作不良など)の有無を判断することが可能となる。なお、この第9発明を前記第2発明と組合わせた場合には、前記第1圧力検出手段および第2圧力検出手段のそれぞれにより検出される圧力の組を基に、ロータ間相対回転手段の異常の有無が判断されることとなる。
本発明の一実施形態を図1〜図9を参照して以下に説明する。図1は、本実施形態における電動機の要部の断面図、図2は図1の電動機のドライブプレート19を外した状態で該電動機の軸心方向で見た図である。
図1を参照して、この電動機1は、2重ロータ構造のDCブラシレスモータであり、出力軸2、外ロータ3、および内ロータ4とを同軸に備える。外ロータ3の外側には、電動機1のハウジング(図示省略)に固定されたステータ5を有し、このステータ5には図示を省略する電機子(3相分の電機子)が装着されている。なお、電動機1は、例えば、ハイブリッド車両や電動自動車の走行用動力源として車両に搭載され、電動機としての動作(力行動作)と、発電機としての動作(回生動作)とが可能とされている。
外ロータ3は環状に形成されており、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石6を備える。この永久磁石6は、長尺の方形板状に形成されており、その長手方向を外ロータ3の軸方向に向け、且つ、法線方向を外ロータ3の径方向に向けた状態で、外ロータ3に埋め込まれている。また、外ロータ3には、その軸心と平行な軸心を有する複数のネジ穴7が穿設されている。これらのネジ穴7は、外ロータ3の周方向に等間隔で配列されている。
内ロータ4も環状に形成されている。この内ロータ4は、その外周面を外ロータ3の内周面に摺接させた状態で、外ロータ3の内側に該外ロータ3と同軸に配置されている。なお、内ロータ4の外周面と外ロータ3の内周面との間に若干のクリアランスが設けられていてもよい。さらに、この内ロータ4の軸心部を、該内ロータ4および外ロータ3と同軸に出力軸2が貫通している。この場合、内ロータ4の内径は、出力軸2の外径よりも大きく、出力軸2の外周面と内ロータ4の内周面との間に間隔を有する。
また、内ロータ4は、その周方向にほぼ等間隔で配列された複数の永久磁石8を備える。この永久磁石8は、外ロータ3の永久磁石6と同形状で、外ロータ3の場合と同様の形態で、内ロータ4に埋め込まれている。内ロータ4の永久磁石8の個数は、外ロータ3の永久磁石8の個数と同じである。
ここで、図2を参照して、外ロータ3の永久磁石6のうちの白抜きで示す永久磁石6aと、点描を付した永久磁石6bとは、外ロータ3の径方向における磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石6aは、その外側(外ロータ4の外周面側)の面がN極、内側(外ロータ3の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石6bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。同様に、内ロータ4の永久磁石8のうちの白抜きで示す永久磁石8aと、点描を付した永久磁石8bとは、内ロータ4の径方向での磁極の向きが互いに逆になっている。例えば、永久磁石8aは、その外側(内ロータ4の外周面側)の面がN極、内側(内ロータ4の内周面側)の面がS極とされ、永久磁石8bは、その外側の面がS極、内側の面がN極とされている。
そして、本実施形態では、外ロータ4においては、図2に示す如く、互いに隣り合された永久磁石6a,6aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石6b,6bの対とが、外ロータ3の周方向に交互に配列されている。同様に、内ロータ4においては、互いに隣り合された永久磁石8a,8aの対と、互いに隣り合わされた永久磁石8b,8bの対とが、内ロータ4の周方向に交互に配列されている。
内ロータ4の内側には、出力軸2の外周面との間で、第1部材9と第2部材10とが設けられている。
第2部材10は、環状部11と、この環状部11の内周面から該環状部11の中心部に向かって径方向に突設された複数の突起部(第2部材側突起部)12とを有する。第2部材10は、その環状部11を内ロータ4に同軸に嵌入することにより、該内ロータ4に同軸に固定されている。また、第2部材10の突起部12は、周方向に等間隔で設けられている。
第1部材9は、ベーンロータ状のものであり、その軸部としての環状部13と、この環状部13の外周面から径方向に突設された複数の突起部(第1部材側突起部)14とを有する。第1部材9の環状部13は、第2部材10の環状部11の内側に該環状部11と同軸に設けられ、その外周面に、第2部材10の各突起部12の先端部がシール部材15を介して摺接されている。また、第1部材9の環状部13は、出力軸2に外挿されており、その内周面が出力軸2の外周面に形成されたスプライン16に嵌合されている。このスプライン嵌合により第1部材9が出力軸2と一体に回転可能とされている。
第1部材9の突起部14の個数は、第2部材10の突起部12の個数と同数であり、周方向に等間隔で配列されている。この場合、この第1部材9の各突起部14は、第2部材10の、周方向に隣り合う2つの突起部12,12の間の箇所に介装されている。換言すれば、第1部材9と第2部材10とは、それらの突起部14,12が周方向で交互に並ぶように係合されている。そして、第1部材9の各突起部14の先端部は、シール部材17を介して第2部材10の環状部11の内周面に摺接されている。また、第1部材9の各突起部14には、環状部13の軸心と平行な軸心を有するネジ穴18が穿設されている。
図1を参照して、外ロータ3の軸心方向の両端面部には、円板状のドライブプレート19,19が該外ロータ3と同軸に装着されている。これらのドライブプレート19,19は、それぞれ、その中心部(軸心部)に出力軸2の外径よりも大径の穴20を有し、この穴20を出力軸2が同軸に貫通していると共に、該穴20に第1部材9の環状部13の各端部が嵌入されている。そして、各ドライブプレート19は、外ロータ3の各ネジ穴7と、第1部材9の各突起部14のネジ穴18とにそれぞれボルト21により締結されている。これにより、外ロータ3および第1部材9は、一体に回転可能に連結されている。この場合、前記したように第1部材9は、スプライン嵌合により出力軸2と一体に回転可能であるので、外ロータ3も出力軸2と一体に回転可能とされている。
また、ドライブプレート19,19は、それらの間に、前記内ロータ4および第2部材10を支承している。具体的には、ドライブレート19,19の互いに相対する面には、それぞれ、同軸に環状溝22が形成されている。そして、この環状溝22に前記第2部材10の環状部11の各端部が摺動自在に挿入されている。これにより、内ロータ4および第2部材10は、環状部11を介してドライブプレート19,19に支承されると共に、ドライブプレート19,19の環状溝22に沿って、外ロータ3、第1部材9および出力軸2に対して相対回転可能とされている。
前記第1部材9と第2部材10とは、内ロータ3を外ロータ4に対して相対的に回転させるロータ間相対回転手段23の構成要素である。このロータ間相対回転手段23は、前記第1部材9と第2部材10とによって、第1部材9の環状部13と、第2部材10の環状部11と、ドライブプレート19,19とで囲まれた空間内に、図2に示す如く形成された複数対(突起部12,14と同数の対)の圧力室24,25を有する。これらの圧力室24,25は、本発明における第1の圧力室および第2の圧力室に相当するものである。さらに詳細には、第2部材10の環状部11と第1部材9の環状部13との間の空間のうち、第2部材10の各突起部12と、該突起部12の両側(周方向での両側)に存する第1部材9の2つの突起部14,14との間の空間が、それぞれ、作動流体としての作動油を流入・流出させる圧力室24,25となっている。この場合、第2部材10の各突起部12の一方の側の圧力室24は、出力軸2の内部に設けられた油通路26に、第1部材9の環状部13に穿設されている図示しない油通路を介して連通されて、作動油が充填されている。同様に、第2部材10の各突起部12の他方の側の圧力室25は、出力軸2の内部に油通路26とは別に設けられた油通路27に、第1部材9の環状部13に穿設されている図示しない油通路を介して連通されて、作動油が充填されている。この場合、圧力室24の圧力(油圧)は、それを増圧したとき、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の時計まわり方向に相対回転させようとする圧力となる。また、圧力室24の圧力(油圧)は、それを増圧したとき、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の反時計まわり方向に相対回転させようとする圧力となる。
また、図1に示す如く、ロータ間相対回転手段23は、出力軸2の油通路26,27に、電動機1の外部で接続された油圧源装置30を備えている。この油圧源装置30は、各圧力室24,25への作動油の供給を制御することで、各圧力室24,25の圧力を増減させる。この場合、圧力室24,25の圧力差によって、第2部材10と共に内ロータ4を外ロータ3および第1部材9に対して回転させようとする回転力が発生する。すなわち、圧力室24の圧力を圧力室25よりも大きくすることで、それらの圧力差によって、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の時計まわり方向に回転させようとする回転力が発生する。逆に圧力室25の圧力を圧力室23よりも大きくすることで、それらの圧力差によって、内ロータ4を外ロータ3に対して図2の反時計まわり方向に回転させようとする回転力が発生する。従って、ロータ間相対回転手段23は、各圧力室24,25の圧力を増減させて、それらの圧力差を操作することによって、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させる(両ロータ3,4間の位相差を変化させる)。
補足すると、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとの間に作用する磁力によって、内ロータ4は、その永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが異極同士を対向させた状態(永久磁石8a,8bがそれぞれ永久磁石6a,6bに対向する状態)で平衡しようとする。このため、その平衡状態から、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させると、内ロータ4を平衡状態に戻そうとするトルク(以下、磁力トルクということがある)が発生する。このため、前記圧力室24,25の圧力差によって、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させるときには、前記磁力トルクに抗する回転力を第2部材10を介して内ロータ4に作用させるように、圧力室24,25の圧力を操作する必要がある。なお、磁力トルクは、内ロータ4と外ロータ3との間の位相差に応じて変化する。
また、油圧源装置30と出力軸2の油通路26とを接続する油通路26aには、圧力室24の圧力P1を検出する第1圧力検出手段としての第1圧力センサ28が設けられている。さらに、油圧装置23と出力軸2の油通路27とを接続する油通路27aには、圧力室25の圧力P2を検出する第2圧力検出手段としての第2圧力センサ29が設けられている。
以上が、電動機1およびロータ間相対回転手段23の機構的な構成である。
なお、本実施形態では、電動機1の出力軸2と外ロータ3とが一体に回転するように構成したが、出力軸と内ロータとが一体に回転するようにして、これらの出力軸および内ロータに対して外ロータが相対回転し得るように構成してもよい。また、第1部材および第2部材の構成は、上記した構成に限られるものではない。
前記ロータ間相対回転手段23によって、内ロータ4を外ロータ3に対して回転させ、両ロータ3,4間の位相差を変化させることで、内ロータ4の永久磁石8a,8bによって発生する界磁と外ロータ3の永久磁石6a,6bによって発生する界磁との合成界磁の磁束(ステータ5に向かう径方向の磁束)の強さが変化することとなる。以降、その合成界磁の磁束を合成磁束、その合成磁束の強さが最大となる状態を界磁強め状態、該合成磁束の強さが最小となる状態を界磁弱め状態という。図3(a)は界磁強め状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図であり、図3(b)は界磁弱め状態での内ロータ4と外ロータ3との位相関係を示す図である。
図3(a)に示す如く、界磁強め状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが異極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁強め状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6aに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6bに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6a,6bのそれぞれの磁束Q2の向きとが同一となるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さが最大となる。なお、この界磁強め状態は、前記平衡状態である。
また、図3(b)に示す如く、界磁弱め状態は、内ロータ4の永久磁石8a,8bと、外ロータ3の永久磁石6a,6bとが同極同士を対向させた状態である。より詳しくは、この界磁強め状態では、内ロータ4の永久磁石8aが外ロータ3の永久磁石6bに対向すると共に、内ロータ4の永久磁石8bが外ロータ3の永久磁石6aに対向する。この状態では、径方向において、内ロータ4の永久磁石8a,8bのそれぞれの磁束Q1の向きと、外ロータ3の永久磁石6b,6aのそれぞれの磁束Q2の向きとが逆向きとなるため、それらの磁束Q1,Q2の合成磁束Q3の強さが最小となる。
本実施形態では、前記界磁強め状態における内ロータ4と外ロータ3との間の位相差(外ロータ3に対する内ロータ4の位相。以下、ロータ間位相差という)を0[deg]、前記界磁弱め状態におけるロータ間位相差を180[deg]と定義する。
図4は、前記界磁強め状態と界磁弱め状態とにおいて、電動機1の出力軸2を所定回転数で作動させた場合に、ステータ5の電機子に誘起される誘起電圧を比較したグラフである。このグラフの縦軸と横軸とは、それぞれ、誘起電圧[V]、電気角での出力軸2の回転角度[度]である。参照符号aを付したグラフが、界磁強め状態(ロータ間位相差=0[deg]の状態)でのグラフであり、参照符号bを付したグラフが、界磁弱め状態(ロータ間位相差=180[deg]の状態)でのグラフである。図4から判るように、ロータ間位相差を0[deg]と180[deg]との間で変化させることで、誘起電圧のレベル(振幅レベル)を変化させることができる。なお、ロータ間位相差を0[deg]と180[deg]まで増加させていくと、合成磁束が減少していき、これに伴い、誘起電圧のレベルが減少していく。
このようにロータ間位相差を変化させて、界磁の磁束を増減させることにより、電動機1の誘起電圧定数Keを変化させることができる。なお、誘起電圧定数Keは、電動機1の出力軸2の角速度と、この角速度に応じて電機子に生じる誘起電圧との関係を規定する比例定数である。誘起電圧定数Keの値は、後述する如く、ロータ間位相差を0[deg]から180[deg]まで増加させていくに伴い、小さくなる。
次に、図5〜図9を参照して、本実施形態における電動機1の制御装置(制御システム)を説明する。図5は、電動機1の制御装置(以下、単に制御装置という)の機能的構成を示すブロック図、図6〜図8は制御装置に備えたKe算出部47の処理を説明するための図、図9は該Ke算出部47の処理を示すフローチャートである。なお、図5では、電動機1を模式化して記載し、前記第1部材9および第2部材10から構成される機構を「位相可変機構」と表現している。
本実施形態の制御装置は、いわゆるd−qベクトル制御により電動機1の通電を制御する。すなわち、制御装置は、電動機1を、界磁方向をd軸としてd軸と直交する方向をq軸とする2相直流の回転座標系であるd−q座標系での等価回路に変換して取り扱う。その等価回路は、d軸上の電機子(以下、d軸電機子という)と、q軸上の電機子(以下、q軸電機子という)とを有する。d−q座標系は、電動機1の出力軸2に対して固定された座標系である。そして、制御装置は、外部から与えられるトルク指令値Tcに応じたトルクを電動機1の出力軸2から出力させるように電動機1の電機子(3相分の電機子)の通電電流を制御する。また、制御装置は、この通電制御と並行して、トルク指令値Tcなどに応じて電動機1の誘起電圧定数Keの指令値Ke_cを決定すると共に、電動機1の実際の誘起電圧定数Keを推定し、このKeの推定値を指令値Ke_cに一致させるようにロータ間相対回転手段23を介してロータ間位相差を制御する。
これらの制御を行なうために、本実施形態では、センサとして、前記第1および第2圧力センサ28,29が備えられるほか、電動機1の電機子の3相のうちの2つの相、例えばU相およびW相のそれぞれの電流を検出する電流センサ41,42(電流検出手段)と、電動機1の出力軸2の回転角度(本実施形態ではこれは外ロータ3の回転角度に等しい)を検出するレゾルバ43(回転角度検出手段)とが備えられている。
制御装置は、CPU、メモリ等により構成される電子ユニットであり、その制御処理が所定の演算処理周期で逐次実行される。以下に、制御装置の機能的な手段を具体的に説明する。
制御装置は、その機能的な手段として、前記電流センサ41,42の出力信号から不要成分を除去することで、U相、W相のそれぞれの電流検出値Iu,Iwを得るバンドパスフィルタ44と、該電流検出値Iu,Iwと前記レゾルバ43により検出された出力軸2の回転角度θmとに基づいて、3相−dq変換によりd軸電機子の電流(以下、d軸電流という)の検出値Idおよびq軸電機子の電流(以下、q軸電流という)の検出値Iqを算出する3相−dq変換部45と、前記レゾルバ43により検出された回転角度θmを微分することにより電動機1の出力軸2の回転速度Nmを検出する微分演算部46と、電動機1の実際の誘起電圧定数Keを推定するKe算出部47とを備える。
本実施形態では、本発明における位相差パラメータとして、電動機1の特性パラメータの1つである誘起電圧定数Keを使用する。従って、Ke算出部47は、本発明における位相差パラメータ推定手段に相当するものである。なお、このKe算出部47については詳細を後述する。また、微分演算部46は、本発明における回転速度検出手段に相当するものである。
制御装置は、さらに、誘起電圧定数の指令値Ke_cを決定するKe指令算出部49と、このKe指令算出部49で決定された誘起電圧定数の指令値Ke_cと前記Ke算出部47で求められた誘起電圧定数Keの推定値との偏差ΔKe(=Ke_c−Ke)を求める演算部57と、その偏差ΔKeと誘起電圧定数の指令値Ke_cとを基に、圧力P1,P2のそれぞれの指令値である圧力指令値P1_c,P2_cを決定し、その決定した圧力指令値P1_c,P2_cを前記油圧源装置30に出力する油圧制御部58とを備える。
前記Ke指令算出部49は、制御装置の外部から与えられるトルク指令値Tcと、前記微分演算部46の処理により検出された電動機1の出力軸2の回転速度Nm(検出値)と、電動機1の電源電圧Vdc(目標値)とから、あらかじめ設定されたマップに基づいて、誘起電圧定数の指令値Ke_cを決定する。この場合、上記マップは、例えば、トルク指令値Tcと回転速度Nm(検出値)と電源電圧Vdcとの組に対して、電動機1のd軸電機子の発生電圧とq軸電機子の発生電圧との合成電圧(ベクトル和)の大きさが電源電圧Vdcを超えないようにしつつ、電動機1のエネルギー効率(入力エネルギーに対する出力エネルギーの割合)をできるだけ高めることができる指令値Ke_cが決定されるように設定されている。
ここで、一般的には、誘起電圧定数Keを小さくするほど(換言すれば、ロータ間位相差を大きくするほど)、電動機1の出力軸2をより高速域で回転させることが可能となると共に、電動機1のエネルギー効率が高効率となる領域を高速回転側にずらすことができる。また、誘起電圧定数Keを大きくするほど(換言すれば、ロータ間位相差を小さくするほど)、電動機1で発生可能なトルクを大きくすることができる。従って、誘起電圧定数の指令値Ke_cは、上記のような誘起電圧定数Keに対する電動機1の特性と、電動機1の要求される運転形態とを考慮して設定すればよく、種々様々な設定の仕方が可能である。
なお、電動機1を車両の走行用動力源として車両に搭載した場合、トルク指令値Tcは、例えば車両のアクセル操作量や走行速度などに応じて設定される。また、上記マップは、電動機1のエネルギー効率以外に、電動機1の過熱防止などの要求を考慮して設定してもよい。
また、油圧制御部58は、本発明における動作指令値決定手段に相当するものであり、前記圧力指令値P1_c,P2_cを前記ロータ間相対回転手段23に対する動作指令値として決定する。なお、この油圧制御部58の処理の詳細は後述する。
制御装置は、さらに、d軸電流の指令値であるd軸電流指令値Id_cとq軸電流の指令値であるq軸電流指令値Iq_cとを決定する電流指令値決定手段としての電流指令算出部48を備える。
この電流指令算出部48は、前記トルク指令値Tcと、前記微分演算部46の処理により検出された電動機1の出力軸2の回転速度Nmと、前記Ke算出分47で求められた電動機1の誘起電圧定数Keの推定値とから、あらかじめ設定されたマップに基づいて、d軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Iq_cを決定する。
そして、制御装置は、電流指令算出部48により決定されたd軸電流指令値Id_cおよびq軸電流指令値Id_cのうちのd軸電流指令値Id_cを補正する補正値ΔId_volを求める界磁制御部52と、該補正値ΔId_volをd軸電流指令値Id_cに加えることで、補正後d軸電流指令値Id_c’を求める演算部50と、該補正後d軸電流指令値Id_cおよび前記q軸電流指令値Id_cのそれぞれと、前記3相−dq変換部45で求められたd軸電流の検出値Idおよびq軸電流の検出値Iqのそれぞれとの偏差ΔId(=Id_c−Id),ΔIq(=Iq_c−Iq)をそれぞれ求める演算部53,51とを備える。
ここで、界磁制御部52は、本実施形態では、前記圧力センサ28,29によりそれぞれ検出された圧力P1,P2と、前記油圧制御部58で決定された圧力指令値P1_c,P2_cとが入力され、P1とP1_cとの偏差、並びに、P2とP2_cとの偏差に応じて、これらの偏差を0に近づけるように、フィードバック制御則などにより、補正値ΔId_volを算出する。この補正値ΔId_volは、誘起電圧定数の指令値Ke_cが変更されたときに、実際のロータ間位相差が誘起電圧定数の指令値Ke_cに対応するロータ間位相差に達するまでに、圧力指令値P1_c,P2_cにより要求されるロータ間位相差での永久磁石6,8の合成界磁と、実際のロータ間位相差Keに対応するロータ間位相差での合成界磁とのずれ分を補償する(その合成界磁のずれ分をd軸電流(界磁電流)による界磁で補う)ためのd軸電流の操作量を意味する。
また、制御装置は、上記の如く算出された偏差ΔId,ΔIqに応じて、それらの偏差ΔId,Iqを0に近づけるように、PI制御則などのフィードバック制御則により、d軸電機子の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd_cと、q軸電機子の電圧指令値であるq軸電圧指令値Vq_cとを決定する電流フィードバック制御部54を備える。なお、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとを決定するとき、偏差ΔId,IqからPI制御則などのフォードバック制御則によりそれぞれ求められるd軸電圧指令値、q軸電圧指令値に、d軸とq軸との間で干渉し合う速度起電力の影響を打ち消すための非干渉成分を付加することで、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cを求めることが好ましい。
さらに、制御装置は、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとを成分とするベクトルを、その大きさV1の成分と、角度θの成分とに変換するrθ変換部55と、その大きさV1および角度θの成分をPWM制御により3相の交流電圧に変換して、電動機1の各相の電機子に通電するPWM演算部56とを備える。
補足すると、前記電流指令算出部48、演算部50,51,53、界磁制御部52、電流フィードバック制御部54、rθ変換部55、およびPWM演算部56により、すなわち、図5の破線で囲んだ部分により本発明における通電制御手段が構成される。
なお、前記界磁制御部52では、簡易的な手法として、d軸電圧指令値Vd_cとq軸電圧指令値Vq_cとから求まる相電圧が、前記電源電圧Vdcから求められる目標電圧円をトレースするように(換言すれば、Vd_c,Vq_cの合成ベクトルの大きさが目標電圧円の半径としてのVdcに一致するように)、d軸電流Idを操作するための前記補正値ΔId_volを決定するようにしてもよい。
次に、前記Ke算出分47をさらに詳細に説明する。このKe算出部47には、位相差パラメータとしての誘起電圧定数Keを推定するために、前記微分演算部46により求められた回転速度Nmの検出値と、第1および第2圧力センサ38,39でそれぞれ検出された圧力P1,P2とが入力される。
ここで、本実施形態では、前記ロータ間位相差を制御するとき、基本的には、前記圧力室24,25の圧力P1,P2を、それぞれ図6のグラフc,dに沿うような形態で変化させる。すなわち、圧力P1については、グラフcで示すように、ロータ間位相差θが、界磁強め状態での位相差(=0度)と、界磁弱め状態での位相差(=180度)との間の所定値θdx以下であるときには、ロータ間位相差θdが大きくなるに従って、P1が単調に増加される。そして、ロータ間位相差θdが所定値θdxりも大きくなると、P1が、所定値θdxにおけるP1の値にほぼ等しい値に維持される。
一方、圧力P2については、グラフdで示すように、ロータ間位相差θdが、上記所定値θdx以下であるときには、P2がほぼ0に維持される。そして、ロータ間位相差θが、所定値θdxよりも大きくなると、ロータ間位相差θdが大きくなるに従ってP2が単調に増加される。なお、P2の増加は、ロータ間位相差θdが180度であるときにP1に一致するように行なわれる。このように、圧力P1,P2を変化させることにより、その圧力差(P1−P2)は、図6のグラフeで示すように、上記所定値θdx付近でピーク値をもつような形態(上に凸の形態)で変化することとなる。このように圧力P1,P2をロータ間位相差θdに対して変化させるのは、圧力差(P1−P2)によって内ロータ4に作用するトルクと逆向きになる前記磁力トルクが、ロータ間位相差θdに対して、図6のグラフeと同様の形態で変化するからである。つまり、圧力P1,P2は、その圧力差P1−P2によって内ロータ4に作用するトルクが磁力トルクに概ね釣り合うように、ロータ間位相差θdに対して変化させられる。
本実施形態では、上記グラフc,dで示すような、ロータ間位相差θdとP1,P2との関係を表す相関データ(テーブル)が、あらかじめ定められて制御装置のメモリに記憶保持されている。この場合、内ロータ4や外ロータ3の回転時の慣性力などの影響で、ロータ間位相差θとP1,P2との間の関係は、電動機1の出力軸2の回転速度Nmに依存して、多少変化する。このため、本実施形態では、電動機1の出力軸2の回転速度Nm毎に(より正確には複数の回転速度Nmの値のそれぞれに対応して)、上記相関データが備えられている。そして、前記Ke算出部47は、入力された回転速度Nmの検出値と圧力P1,P2の検出値とから、上記相関データを基に、ロータ間位相差θdを推定する。例えば、ある回転速度Nmにおける圧力P1,P2の検出値がそれぞれ図6に示すP1a,P2aであるとすると、図4に示すθdaがロータ間位相差θdの推定値として得られる。なお、回転速度Nmの検出値と圧力P1,P2の検出値とロータ間位相差θdと間の相関関係をマップ化しておき、そのマップに基づいてロータ間位相差θdの推定値を求めるようにしてもよい。また、電動機1を低速域だけで動作させるような場合には、圧力P1,P2の検出値だけから、ロータ間位相差θdを推定するようにしてもよい。
上記のように推定されるロータ間位相差θdは、電動機1の誘起電圧定数Keと密接な相関関係を有する。すなわち、ロータ間位相差θdと誘起電圧定数Keとは、図7のグラフfで示すような相関関係を有し、ロータ間位相差θdが大きくなるに伴って、誘起電圧定数Keが減少する。これは、ロータ間位相差θdが大きくなると、前記合成磁束の強さが減少するからである。
そこで、本実施形態では、図7のグラフfで示すような、ロータ間位相差θdと誘起電圧定数Keとの関係を表す相関データが、制御装置のメモリに記憶保持されている。そして、Ke算出部47は、上記の如く求めたロータ間位相差θdの推定値から、この相関データを基に誘起電圧定数Keの推定値を求める。
なお、回転速度Nmと圧力P1,P2と誘起電圧定数Keとの相関関係(あるいは圧力P1,P2と誘起電圧定数Keとの相関関係)をマップ化しておき、そのマップに基づいて、Nmの検出値とP1,P2の検出値とから(あるいはP1,P2の検出値から)、直接的に誘起電圧定数Keの推定値を求めるようにしてもよい。
以上のように圧力P1,P2の検出値を使用することで、実際のロータ間位相差θdを適切に推定し、ひいては、実際の誘起電圧定数Keを適切に推定することができる。
また、本実施形態では、Ke算出部47は、圧力P1,P2の検出値を基に、前記ロータ間相対回転手段23を構成する油圧系の異常(油圧源装置30や第1部材9、第2部材10の動作不良、油漏れなどの異常)をチェックする機能も備えている。具体的には、Ke算出部47は、圧力P1,P2の検出値の組み合わせが、図8に示す破線で囲まれた領域AR(横軸をP1、縦軸をP2とした座標系での領域)にあるときには、ロータ間相対回転手段23が正常に機能していると判断する。領域ARは、前記図6のグラフc,dで示すような形態でP1,P2を変化させたときにとり得るP1,P2の値の組により定まる点の存在可能領域である。また、Ke算出部47は、圧力P1,P2の検出値の組み合わせが、領域ARから逸脱している場合には、ロータ間相対回転手段23の異常が生じていると判断する。そして、その異常判断時には、その旨を示すエラー信号を外部に出力する。例えば、圧力P1,P2の検出値の組み合わせが図8の点A1で表される場合には、ロータ間相対回転手段23が正常であると判断される。また、圧力P1,P2の検出値の組み合わせが図8の点A2で表される場合には、ロータ間相対回転手段23の異常が生じていると判断され、エラー信号がKe算出部47から出力される。なお、そのエラー信号は、異常発生の報知や、電動機1の動作停止処理などに使用される。
以上説明したKe算出部47の処理は、図9のフローチャートで示す如く実行される。すなわち、STEP1において、Ke算出部47は、回転速度Nm、圧力P1,P2の検出値を取得する。次いで、Ke算出部47は、前記図8の領域ARに、P1,P2の検出値の組が存在するか否かによって、P1,P2の検出値の組み合わせが正常であるか否かを判断する(STEP2)。このとき、P1,P2の検出値の組み合わせが正常であると判断したときには、Ke算出部47は、P1,P2,Nmの検出値から、前記した如く、ロータ間位相差θの推定値を求める(STEP3)。さらに、Ke算出部47は、ロータ位相差θの推定値から、前記した如く、誘起電圧定数Keの推定値を求める(STEP4)。
また、STEP2において、P1,P2の検出値の組み合わせが異常であると判断した場合には、Ke算出部47は、エラー信号を出力する(STEP5)。この場合には、ロータ間位相差θや誘起電圧定数Keを適正に推定することができないので、Ke算出部47は、前記STEP3,4の処理は実行しない。
以上がKe算出部47の処理の詳細である。補足すると、Ke算出部47が実行する前記STEP2の判断処理は、本発明における異常検出手段に相当するものである。
次に、前記油圧制御部58の処理を説明する。この油圧制御部58では、まず、Ke指令算出部49から入力される誘起電圧定数の指令値Ke_cから、前記図7に示した、誘起電圧定数Keとロータ間位相差θdとの間の相関データに基づいて、指令値Ke_cに対応するロータ間位相差θdの指令値が求められる(指令値Ke_cをロータ間位相差θdの指令値に変換する)。そして、この求めたロータ間位相差θdの指令値から、図6のグラフc,dで示すようにあらかじめ定められた相関データに基づいて、圧力P1,P2のそれぞれのフィードフォワード指令値を決定する。さらに、この各フィードフォワード指令値を、前記演算部57から入力される偏差ΔKeに応じて補正する(例えばΔKeに、あるゲインを乗じてなる値をフィードフォワード指令値に加える)ことにより、圧力指令値P1_c,P2_cを決定する。これにより、偏差ΔKeを0に近づけるように(実際の誘起電圧定数Keを指令値Ke_cに一致させるように)、圧力指令値P1_c,P2_cが決定される。
なお、ロータ間相対回転手段23の油圧源装置30は、圧力指令値P1_c,P2_cに従って、圧力P1,P2を操作する。すなわち、圧力室24,25のそれぞれの圧力P1,P2を現在圧力から圧力指令値P1_c,P2_cに変化させるように、各圧力室24,25への作動油の供給を制御する。
以上説明した本実施形態の制御装置によれば、圧力センサ28,29によりそれぞれ検出される圧力P1,P2と、電動機1の出力軸2の回転速度Nmとに基づいて誘起電圧定数Keを推定することで、その推定を適切に行なうことができる。そして、この誘起電圧定数Keの推定値を使用して、電動機1の通電電流の指令値Id_c,Iq_cを決定して、該通電電流の制御を行なうので、実際の誘起電圧定数Keに対応するロータ間位相差での合成界磁に適した電動機1の通電制御を行なうことができる。
また、油圧制御部58は、前記Ke指令算出部49で決定される誘起電圧定数の指令値Keに、実際の誘起電圧定数Ke(Ke算出部47で推定された誘起電圧定数Ke)を一致させるように、圧力室24,25のそれぞれの圧力P1,P2の指令値P1_c,P2_cを決定し、この指令値P1_c,P2_cでロータ間相対回転手段23の動作を制御するので、ロータ間位相差を、電動機1のエネルギー効率に関する要求などを満たす上で好適なロータ間位相差に制御することができる。
さらに、電動機1の通電制御では、前記界磁制御部52と演算部50とにより、d軸電流指令値Id_cを補正して、d軸電流を操作するので、実際のロータ間位相差が、誘起電圧定数の指令値Ke_cに対応するロータ間位相差に達するまでに、実際のロータ間位相差での合成界磁と、圧力指令値P1_c,P2_cにより要求されるロータ間位相差での合成界磁とのずれ分をd軸電流による界磁で補償することができる。その結果、実際のロータ間位相差が、誘起電圧定数の指令値Ke_cに対応するロータ間位相差に達する前から、誘起電圧定数の指令値Ke_cに対応するロータ間位相差で要求されるトルクを電動機1の出力軸2に支障なく円滑に発生させることができ、電動機2の応答性を高い応答性に保つことができる。
なお、以上説明した実施形態では、位相差パラメータとして、誘起電圧定数Keを使用し、それをKe算出部47で推定するようにしたが、誘起電圧定数Keの代わりに、ロータ間位相差θdを使用してもよい。その場合には、Ke算出部47で前記したように求められるロータ間位相差θdの推定値を、電流指令算出部48に入力するようにして、該電流指令算出部48で、電流指令値Id_c,Iq_cを決定するときに、Keの代わりにロータ間位相差θdを使用するようにすればよい。
また、Ke指令算出部49では、誘起電圧定数の指令値Ke_cの代わりに、この指令値Ke_cを前記図7に示したグラフfにより表される相関データに従ってロータ間位相差θdの指令値に変換し、そのロータ間位相差θdの指令値を出力するようにしてもよい。あるいは、トルク指令値Tc、回転速度Nm、電源電圧Vdcからマップなどにより直接的にロータ間位相差θdの指令値を決定して出力するようにしてもよい。このようにした場合には、油圧制御部58には、ロータ間位相差の指令値、並びに、この指令値とKe算出部47で前記したように求められるロータ間位相差θdの推定値との偏差を入力する。そして、油圧制御部58では、例えば、入力されたロータ間位相差の指令値から、前記した実施形態の場合と同様に、圧力P1,P2のフィードフォワード指令値を決定し、このフィードフォワード指令値を、入力されたロータ間位相差の偏差に応じて補正することにより圧力P1,P2ロータ間相対回転手段23に対する動作指令値を決定するようにすればよい。
また、前記油圧制御部58では、ロータ間相対回転手段23に対する動作指令値として、圧力P1,P2の指令値P1_c,P2_cを決定して出力するようにしたが、その代わりに、ロータ間位相差θdの指令値を決定して出力するようにしてもよい。この場合、Ke_cとΔKeとを油圧制御部58に入力する場合には、誘起電圧定数の指令値Ke_cを、前記図7のグラフに従って、ロータ間位相差θdに変換してなる値を、偏差ΔKeに応じて補正することで、ロータ間相対回転手段23に対するロータ間位相差θdの指令値を決定するようにすればよい。また、Ke_c,ΔKeの代わりに、これらの対応するロータ間位相差θdの指令値と、ロータ間位相差の偏差とを油圧制御部58に入力する場合には、入力されたロータ間位相差θdの指令値を、入力された偏差に応じて補正することで、ロータ間相対回転手段23に対するロータ間位相差の指令値を決定するようにすればよい。そして、このように、油圧制御部58で、ロータ間位相差の指令値を決定して出力する場合には、ロータ間相対回転手段23では、入力されたロータ間位相差の指令値から、前記図6のグラフc,dで表される相関データに基づいて、圧力P1,P2を決定し、これに応じて、圧力P1,P2を操作するようにすればよい。
1…電動機、2…出力軸、3…外ロータ、4…内ロータ、6(6a,6b)…外ロータの永久磁石、8(8a,8b)…内ロータの永久磁石、9…第1部材、10…第2部材、11…第2部材の環状部、12…第2部材の突起部、13…第2部材の環状部(軸部)、14…第2部材の突起部、23…ロータ間相対回転手段、24…第1の圧力室、25…第2の圧力室、28…圧力センサ(第1圧力検出手段)、29…圧力センサ(第2圧力検出手段)、46…微分演算部(回転速度検出手段)、47…Ke算出部(位相差パラメータ推定手段)、49…Ke指令算出部(位相差パラメータ指令値出力手段)、48,50,51,52,53,54,55,56…通電制御手段、58…油圧制御部(動作指令値決定手段)、STEP2…異常検出手段。