以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2をそれぞれ独立に回転駆動する車輪駆動装置3と、車輪2のトー角とキャンバ角とを車輪2毎にそれぞれ独立に調整するキャンバ角調整装置4とを主に備えて構成されている。
この車両1は、後述する車輪制御処理(図6および図8参照)の実行時には、キャンバ角調整装置4を車両用制御装置100により作動制御して、各車輪2のトー角を調整することで、車輪2を操舵して、旋回することが可能に構成されている。
また、車両1は、上述した車輪制御処理の実行時には、キャンバ角調整装置4を車両用制御装置100により作動制御して、各車輪2のキャンバ角を調整することで、車輪2を路面に対して傾斜させて、旋回性能の向上を図ることができるように構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、これら前後輪2FL〜2RRは、車輪駆動装置3により、それぞれ独立に回転可能に構成されている。
車輪駆動装置3は、車輪2を回転駆動するための駆動装置であり、図1に示すように、4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)を各車輪2に(即ち、インホイールモータとして)配設して構成されている。
例えば、運転者がアクセルペダル52を操作した場合には、各車輪駆動装置3が車両用制御装置100により作動制御され、アクセルペダル52の操作量に応じて各車輪2を回転駆動する。これにより、車両1が所定の速度で走行する。
また、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、キャンバ角調整装置4により、トー角とキャンバ角とが車輪2毎にそれぞれ独立に調整可能に構成されている。キャンバ角調整装置4は、車輪2のトー角とキャンバ角とを調整するための駆動装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応する位置に合計4個(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が配置されている。
例えば、運転者がステアリング54を操作した場合には、キャンバ角調整装置4の一部(例えば、前輪2FL,2FR側のみ)又は全部が車両用制御装置100により作動制御され、ステアリング54の操作量に応じて各車輪2のトー角を調整する。これにより、車輪2が操舵され、車両1が所定の方向へ旋回する。
また、キャンバ角調整装置4は、車両1が旋回する場合に、車両用制御装置100により作動制御され、各車輪2のキャンバ角を調整する。
ここで、図2を参照して、車輪駆動装置3とキャンバ角調整装置4との詳細構成について説明する。図2(a)は、車輪2の断面図であり、図2(b)は、車輪2のトー角およびキャンバ角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
なお、図2(a)では、車輪駆動装置3に駆動電圧を供給するための電源配線などの図示が省略されている。また、図2(b)中の仮想軸Xf−Xb、仮想軸Yl−Yr、及び、仮想軸Zu−Zdは、それぞれ車両1の前後方向、左右方向、及び、上下方向にそれぞれ対応する。
図2(a)に示すように、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、ゴム状弾性材から構成されるタイヤ2aと、アルミニウム合金などから構成されるホイール2bとを主に備えて構成され、ホイール2bの内周部には、車輪駆動装置3(FL〜RRモータ3FL〜3RR)がインホイールモータとして配設されている。
車輪駆動装置3は、図2(a)に示すように、その前面側(図2(a)左側)に突出された駆動軸3aがホイール2bに連結固定されており、駆動軸3aを介して、車輪2に回転駆動力を伝達可能に構成されている。また、車輪駆動装置3の背面には、キャンバ角調整装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が連結固定されている。
キャンバ角調整装置4は、複数本(本実施の形態では3本)の油圧シリンダ4a〜4cを備えており、それら3本の油圧シリンダ4a〜4cのロッド部は、車輪駆動装置3の背面側(図2(a)右側)にジョイント部(本実施の形態ではユニバーサルジョイント)60を介して連結固定されている。なお、図2(b)に示すように、各油圧シリンダ4a〜4cは、周方向略等間隔(即ち、周方向120°間隔)に配置されると共に、1の油圧シリンダ4bは、仮想軸Zu−Zd上に配置されている。
これにより、各油圧シリンダ4a〜4cが各ロッド部をそれぞれ所定方向に所定長さだけ伸長駆動または収縮駆動することで、車輪駆動装置3が仮想軸Xf−Xb,Zu−Xdを揺動中心として揺動駆動され、その結果、車輪2のキャンバ角とトー角とが所定の角度に調整される。
例えば、図2(b)に示すように、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4bのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4a,4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Xf−Xb回りに回転され(図2(b)矢印A)、車輪2のキャンバ角(車輪2の中心線が仮想線Zu−Zdに対してなす角度)がネガティブ側に調整される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4b及び油圧シリンダ4a,4cがそれぞれ伸縮駆動されると、車輪2のキャンバ角がポジティブ側に調整される。
また、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4aのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Zu−Zd回りに回転され(図2(b)矢印B)、車輪2のトー角(車輪2の中心線が車両1の基準線、即ち、仮想線Zf−Zbに対してなす角度であり、車両1の進行方向とは無関係に定まる角度)がトーイン側に調整される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4a及び油圧シリンダ4cが伸縮駆動されると、車輪2のトー角がトーアウト側に調整される。
なお、ここで例示した各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方法は、上述した通り、車輪2が中立位置にある状態から駆動する場合を説明するものであるが、これらの駆動方法を組み合わせて各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を制御することにより、車輪2のキャンバ角およびトー角を任意の角度に調整することができる。
図1に戻って説明する。アクセルペダル52及びブレーキペダル53は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル52,53の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3の作動制御が行われる。
ステアリング54は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(操作方向、操作量など)に応じて、車両1の旋回方向や旋回半径が決定され、キャンバ角調整装置4の作動制御が行われる。
車両用制御装置100は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための制御装置であり、例えば、各ペダル52,53の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を作動制御して、各車輪2を回転駆動する。
或いは、ステアリング54の操作状態を検出し、その検出結果に応じてキャンバ角調整装置4を作動制御して、各車輪2のトー角とキャンバ角とを調整する。ここで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。
図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図6及び図8に示すフローチャートのプログラム)や固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリであり、RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。なお、ROM72には、キャンバ角マップ72aが設けられている。
ここで、図4を参照して、キャンバ角マップ72aの詳細について説明する。図4は、キャンバ角マップ72aの内容を模式的に図示した模式図である。キャンバ角マップ72aは、車輪2のトー角とキャンバ角との関係を記憶したマップである。CPU71は、このキャンバ角マップ72aの内容に基づいて、車輪2のトー角に応じて調整すべきキャンバ角を算出する。
なお、横軸に示す車輪2のトー角は、トー角の大きさ(即ち、トー角の絶対値)を表しており、車輪2の中心線が仮想線Zf−Zb(図2参照)と一致した状態を0°として、トー角がトーイン側またはトーアウト側に調整される角度を表している。
また、縦軸に示す車輪2のキャンバ角は、キャンバ角の大きさ(即ち、キャンバ角の絶対値)を表しており、車輪2の中心線が仮想線Zu−Zd(図2参照)と一致した状態を0°として、キャンバ角がポジティブ側またはネガティブ側に調整される角度を示している。なお、本実施の形態においては、車輪2のトー角が調整される側へ車輪2を傾斜させるために、キャンバ角マップ72aでは、前輪2FL,2FRの旋回外輪および後輪2RL,2RRの旋回内輪のキャンバ角をネガティブ側に、前輪2FL,2FRの旋回内輪および後輪2RL,2RRの旋回外輪のキャンバ角をポジティブ側に、それぞれ調整すべき角度を表している。
キャンバ角マップ72aによれば、図4に示すように、車輪2のトー角が0°の状態では、キャンバ角が0°に規定されると共に、トー角に比例して直線的に増加し、トー角がキャンバ角調整装置4により調整可能な最大値δmaxとなった状態において、キャンバ角がキャンバ角調整装置4により調整可能な最大値θmaxとなるように規定されている。
このように、キャンバ角マップ72aでは、トー角が一定の方向(トーイン側またはトーアウト側)に調整されている間は、キャンバ角も一定の方向(ポジティブ側またはネガティブ側)に調整されるように規定されている。
図3に戻って説明する。車輪駆動装置3は、上述したように、車輪2(図1参照)を回転駆動するための駆動装置であり、各車輪2をそれぞれ回転駆動する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
キャンバ角調整装置4は、上述したように、車輪2のトー角とキャンバ角とを調整すると共に、車輪2のキャンバ角を検出するための装置であり、各車輪2(車輪駆動装置3)の角度(トー角およびキャンバ角)をそれぞれ調整する4個のFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRと、それら各アクチュエータ4FL〜4RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)と、各アクチュエータ4FL〜4RRの伸縮量をそれぞれ検出する4個のFL〜RR伸縮センサ4FLs〜4RRsとを主に備えている。
なお、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、3本の油圧シリンダ4a〜4cと、それら各油圧シリンダ4a〜4cにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ4d(図1参照)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダ4a〜4cに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)とを主に備えて構成されている。
また、FL〜RR伸縮センサ4FLs〜4RRsは、各油圧シリンダ4a〜4cに設けられ、それら各油圧シリンダ4a〜4c(ロッド部)の伸縮量を検出するように構成されている。
CPU71からの指示に基づいて、キャンバ角調整装置4の駆動回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ4a〜4cが伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方向(伸長または収縮)が切り替えられる。
キャンバ角調整装置4の駆動回路は、各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮量を各伸縮センサ4FLs〜4RRsにより監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した油圧シリンダ4a〜4cは、その伸縮駆動が停止される。なお、各伸縮センサ4FLs〜4RRsによる検出結果は、駆動回路からCPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2の現在のトー角およびキャンバ角を得ることができる。
車両速度センサ装置30は、車両1の車速を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後及び左右方向加速度センサ30a,30bと、それら各加速度センサ30a,30bの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
前後方向加速度センサ30aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1上下方向)の加速度を検出するセンサであり、左右方向加速度センサ30bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1左右方向)の加速度を検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ30a,30bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
CPU71は、車両速度センサ装置30の制御回路から入力された各加速度センサ30a,30bの検出結果(加速度値)を時間積分して、2方向(前後および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の車速を得ることができる。
ヨーレイトセンサ装置31は、車両1(車体フレームBF)のヨーレイトを検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1のヨーレイトを検出するジャイロセンサ(図示せず)と、そのジャイロセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、ジャイロセンサがサニャック効果の原理を利用して動作する光ファイバジャイロにより構成されている。但し、他の種類のジャイロセンサを用いることは当然可能である。他の種類のジャイロセンサとしては、例えば、機械式のジャイロセンサや圧電式のジャイロセンサ等が例示される。
アクセルペダルセンサ装置52aは、アクセルペダル52の踏み込み状態(踏み込み量)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル52の踏み込み状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
ブレーキペダルセンサ装置53aは、ブレーキペダル53の踏み込み状態(踏み込み量)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル53の踏み込み状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
ステアリングセンサ装置54aは、ステアリング54の操作状態(操作方向および操作量)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング54の操作状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。CPU71は、各センサ装置52a,53a,54aの処理回路から入力された検出結果により各ペダル52,53の踏み込み量およびステアリング54の操作角を得ると共に、その検出結果を時間微分することにより、各ペダル52,53の踏み込み速度およびステアリング54の操作速度を得ることができる。
図3に示す他の入出力装置32としては、例えば、各車輪2の回転速度を検出するための装置などが例示される。
次いで、図5を参照して、車両1の旋回時における車輪2の動作について説明する。図5は、左旋回状態にある車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、左右の前輪2FL,2FRのトー角が左旋回用に調整されると共に、旋回外輪(右の前輪2FR)のキャンバ角がネガティブ側に調整され、旋回内輪(左の前輪2FL)のキャンバ角がポジティブ側に調整された状態が図示されている。
例えば、図5に示すように、キャンバ角調整装置4が作動制御され、旋回外輪(図5では、右の前輪2FR)のキャンバ角θRがネガティブ側に調整されると、かかる旋回外輪(右の前輪2FR)には、旋回内側(図5右側)へ向けてキャンバスラストFRが発生する。これにより、キャンバスラストFRを旋回力として利用することができ、車両1の旋回性能向上を図ることができる。
また、キャンバ角調整装置4が作動制御され、旋回内輪(図5では、左の前輪2FL)のキャンバ角θLがポジティブ側に調整されると、かかる旋回内輪(左の前輪2FL)には、旋回内側(図5右側)へ向けてキャンバスラストFLが発生する。これにより、キャンバスラストFLを旋回力として利用することができ、車両1の旋回性能向上を図ることができる。
次いで、図6を参照して、車輪制御処理について説明する。図6は、車輪制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理であり、各車輪2のトー角を調整することで、車輪2を操舵して、車両1を旋回させると共に、車両1の旋回時に、各車輪2のキャンバ角を調整することで、車輪2を路面に対して傾斜させて、車両1の旋回性能向上を図る。
ここで、図6の説明においては、図7を参照して説明する。図7は、車両1の車速、ステアリング54の操作量、車輪2のトー角および車輪2のキャンバ角のタイミングチャートを示すグラフであり、ステアリング54を最大に操作した状態(ステアリング54の操作量が100%の状態)で、車速を0%から100%(アクセルペダル52の踏み込み量が0%の状態から100%の状態)へ徐々に増加する場合のタイミングチャートが図示されている。なお、図7では、本実施の形態における車輪2のキャンバ角のタイミングチャートが、実線201で図示されている。
CPU71は、車輪制御処理に関し、まず、ステアリングセンサ装置54aにより、ステアリング54の操作状態(操作方向および操作量)を検出し(S1)、その検出したステアリング54の操作量に応じて調整すべき車輪2のトー角を算出する(S2)。
ここで、調整すべき車輪2のトー角は、旋回外輪と旋回内輪とで異なるため、S2の処理では、各車輪2のトー角をそれぞれ算出する。なお、旋回外輪のトー角δoについては、ステアリング54の操作量に基づいて決定された旋回半径をR、ホイールベースをL、トレッドをWとすると、δo=arctan((L/2)/(R+(W/2))により表される。一方、旋回内輪のトー角δiについては、δi=arctan((L/2)/(R−(W/2))により表される。
S2の処理を実行した後は、算出した車輪2のトー角に応じて調整すべき車輪2のキャンバ角を車輪2毎にそれぞれキャンバ角マップ72aから読み出す(S3)。次いで、S1の処理で検出したステアリング54の操作方向に基づいて、S2の処理で算出したトー角およびS3の処理で読み出したキャンバ角となるように、キャンバ角調整装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)を作動制御することで、車輪2のトー角とキャンバ角とを車輪2毎にそれぞれ調整して(S4)、この車輪制御処理を終了する。
なお、S4の処理では、S1の処理で検出したステアリング54の操作方向に基づいて、前輪2FL,2FRの旋回外輪に対しては、トー角をトーイン側に、キャンバ角をネガティブ側に、それぞれ調整すると共に、旋回内輪に対しては、トー角をトーアウト側に、キャンバ角をポジティブ側に、それぞれ調整する。また、後輪2RL,2RRの旋回外輪に対しては、トー角をトーアウト側に、キャンバ角をポジティブ側に、それぞれ調整すると共に、旋回内輪に対しては、トー角をトーイン側に、キャンバ角をネガティブ側に、それぞれ調整する。
これにより、前輪2FL,2FRに旋回内側へ向けてキャンバスラストFR,FLを発生させることができ、そのキャンバスラストFR,FLを旋回力として利用することで、車両1の旋回性能向上を図ることができる(図5参照)。
また、これと同時に、後輪2RL,2RRの旋回外輪のキャンバ角がポジティブ側に調整されると共に、旋回内輪のキャンバ角がネガティブ側に調整されることで、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRに互いに相反する方向へキャンバスラストを発生させることができ、そのキャンバスラストにより、車両1にヨーイングモーメントを発生させることができる。これにより、ヨーイングモーメントを旋回力として利用することで、旋回性能のより一層の向上を図ることができる。
また、本実施の形態によれば、キャンバ角がトー角に比例して増加するように車輪2のキャンバ角を調整するので、トー角が増加して旋回半径が小さくなるに従って、車輪2を路面に対して大きく傾斜させることができる。よって、その分、より大きなキャンバスラストを車輪2に発生させることができる。
これにより、車両1のより一層の旋回性能向上を図ることができると共に、旋回抵抗となり難いキャンバスラストを旋回力として利用することで、旋回半径が小さくキャンバスラストが大きくなった場合でも、車両1の旋回に対するエネルギー損失の低減を図ることができる。
更に、キャンバ角がトー角に比例して増加するように車輪2のキャンバ角を調整するので、車両旋回中にステアリング54を操作した場合でも、キャンバスラストが急激に増加または減少することなく、かかるキャンバスラストを一定の割合で変化させることができる。これにより、車両1の挙動を安定させて、旋回安定性の向上を図ることができる。
また、本実施の形態によれば、車輪2のトー角を調整する側へ車輪2が傾斜されるように車輪2のキャンバ角を調整するので、車両1が一定の方向へ旋回している間は、車輪2の傾斜方向が変化しない。これにより、従来のように、車両1が一定の方向へ旋回している場合でも、その旋回中に、車輪2のキャンバ角を車速に応じてポジティブ側またはネガティブ側に絶えず変化させる(即ち、旋回方向に関わらず、車輪2の傾斜方向を旋回内側または旋回外側へ絶えず変化させる)場合と比較して、乗り心地の向上を図ることができる。
同様に、本実施の形態によれば、トー角が0°の状態から、トー角に応じて車輪2のキャンバ角を調整するので、例えば、図7に示すように、車輪2のキャンバ角のタイミングチャートにおいて、車速が所定の速度Vを超えた時点で車輪2のキャンバ角を調整する実線202の場合と比較して、実線201で示す本実施の形態では、車輪2が路面に対して急激に傾斜変化することを回避して、乗り心地の向上を図ることができる。
次いで、図8を参照して、第2実施の形態について説明する。図8は、第2実施の形態における車輪制御処理を示すフローチャートである。
第1実施の形態では、車輪2のキャンバ角をトー角に応じて調整する場合を説明したが、第2実施の形態では、トー角に応じて調整した車輪2のキャンバ角を車両1のヨーレイトに応じて補正する。なお、本実施の形態では、車両1を車両用制御装置100により制御するものとし、第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
第2実施の形態における車輪制御処理では、まず、ステアリング54の操作状態(操作方向および操作量)を検出し(S1)、その検出したステアリング54の操作量に応じて調整すべき車輪2のトー角を算出すると共に(S2)、その算出した車輪2のトー角に応じて調整すべき車輪2のキャンバ角を車輪2毎にそれぞれキャンバ角マップ72aから読み出す(S3)。
次いで、S1の処理で検出したステアリング54の操作方向に基づいて、S2の処理で算出したトー角およびS3の処理で読み出したキャンバ角となるように、キャンバ角調整装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)を作動制御することで、車輪2のトー角とキャンバ角とを車輪2毎にそれぞれ調整する(S4)。なお、S4の処理では、上述した第1実施の形態の場合と同様に各車輪2のトー角とキャンバ角とを調整するため、その詳細については省略する。
これにより、第1実施の形態の場合と同様に、前輪2FL,2FRに旋回内側へ向けてキャンバスラストFR,FLを発生させることができ、そのキャンバスラストFR,FLを旋回力として利用することで、車両1の旋回性能向上を図ることができる(図5参照)。
また、これと同時に、後輪2RL,2RRの旋回外輪のキャンバ角がポジティブ側に調整されると共に、旋回内輪のキャンバ角がネガティブ側に調整されることで、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRに互いに相反する方向へキャンバスラストを発生させることができ、そのキャンバスラストにより、車両1にヨーイングモーメントを発生させることができる。これにより、ヨーイングモーメントを旋回力として利用することで、旋回性能のより一層の向上を図ることができる。
また、キャンバ角がトー角に比例して増加するように車輪2のキャンバ角を調整するので、トー角が増加して旋回半径が小さくなるに従って、車輪2を路面に対して大きく傾斜させることができる。よって、その分、より大きなキャンバスラストを車輪2に発生させることができる。
これにより、車両1のより一層の旋回性能向上を図ることができると共に、旋回抵抗となり難いキャンバスラストを旋回力として利用することで、旋回半径が小さくキャンバスラストが大きくなった場合でも、車両1の旋回に対するエネルギー損失の低減を図ることができる。
S4の処理を実行した後は、ヨーレイトセンサ装置31により、車両1に発生している実際のヨーレイトを検出すると共に(S25)、理論上のヨーレイトを算出し(S26)、実際のヨーレイトが理論上のヨーレイトに等しいか否かを判断する(S27)。
なお、車両1の理論上のヨーレイトは、S1の処理で検出されたステアリング54の操作状態(操作方向および操作量)と、車両速度センサ装置30により検出された車両1の車速とに基づいて、公知の手法(例えば、特開平05−170124号公報)により算出される。
S27の処理の結果、実際のヨーレイトが理論上のヨーレイトに等しくないと判断される場合には(S27:No)、次いで、実際のヨーレイトが理論上のヨーレイトよりも大きいか否かを判断し(S28)、その結果、実際のヨーレイトが理論上のヨーレイトよりも大きいと判断される場合には(S28:Yes)、車両1がオーバステアの状態にあるということであるので、FL〜RR伸縮センサ4FLs〜4RRsによる検出結果に基づいて、後輪2RL,2RRのキャンバ角が旋回内側の最大値δmaxであるか否かを判断する(S29)。即ち、後輪2RL,2RRの旋回外輪のキャンバ角がネガティブ側の最大値δmaxであるか否か、或いは、旋回内輪のキャンバ角がポジティブ側の最大値δmaxであるか否かを判断する。
その結果、後輪2RL,2RRのキャンバ角が旋回内側の最大値δmaxでないと判断される場合には(S29:No)、後輪2RL,2RRのキャンバ角を更に旋回内側へ向けて調整できるということであるので、後輪2RL,2RRのキャンバ角を所定角度(本実施の形態では、1°)だけ旋回内側へ向けて調整して(S30)、S4の処理において調整したキャンバ角を補正することで、この車輪制御処理を終了する。
即ち、S30の処理では、後輪2RL,2RRの旋回外輪のキャンバ角を1°だけネガティブ方向へ調整すると共に、旋回内輪のキャンバ角を1°だけポジティブ方向へ調整する。
これにより、前輪2FL,2FRに発生するキャンバスラストと、後輪2RL,2RRに発生するキャンバスラストとの比率を変更することができ、オーバステアの状態にある車両1をニュートラルまたはアンダステアの状態に近づけることができる。よって、車両1の旋回安定性向上を図ることができる。
一方、S29の処理の結果、後輪2RL,2RRのキャンバ角が旋回内側の最大値δmaxであると判断される場合には(S29:Yes)、後輪2RL,2RRのキャンバ角を更に旋回内側へ向けて調整することはできないということであるので、S30の処理をスキップして、この車輪制御処理を終了する。
S28の処理の結果、実際のヨーレイトが理論上のヨーレイトよりも大きくないと判断される場合には(S28:No)、車両1がアンダステアの状態にあるということであるので、FL〜RR伸縮センサ4FLs〜4RRsによる検出結果に基づいて、前輪2FL,2FRのキャンバ角が旋回内側の最大値δmaxであるか否かを判断する(S31)。即ち、前輪2FL,2FRの旋回外輪のキャンバ角がネガティブ側の最大値δmaxであるか否か、或いは、旋回内輪のキャンバ角がポジティブ側の最大値δmaxであるか否かを判断する。
その結果、前輪2FL,2FRのキャンバ角が旋回内側の最大値δmaxでないと判断される場合には(S31:No)、前輪2FL,2FRのキャンバ角を更に旋回内側へ向けて調整できるということであるので、前輪2FL,2FRのキャンバ角を所定角度(本実施の形態では、1°)だけ旋回内側へ向けて調整して(S32)、4の処理において調整したキャンバ角を補正することで、この車輪制御処理を終了する。
即ち、S32の処理では、前輪2FL,2FRの旋回外輪のキャンバ角を1°だけネガティブ方向へ調整すると共に、旋回内輪のキャンバ角を1°だけポジティブ方向へ調整する。
これにより、前輪2FL,2FRに発生するキャンバスラストと、後輪2RL,2RRに発生するキャンバスラストとの比率を変更することができ、アンダステアの状態にある車両1をニュートラルまたはオーバステアの状態に近づけることができる。よって、車両1の旋回安定性向上を図ることができる。
一方、S31の処理の結果、前輪2FL,2FRのキャンバ角が旋回内側の最大値δmaxであると判断される場合には(S31:Yes)、前輪2FL,2FRのキャンバ角を更に旋回内側へ向けて調整することはできないということであるので、S32の処理をスキップして、この車輪制御処理を終了する。
S27の処理の結果、実際のヨーレイトが理論上のヨーレイトに等しいと判断される場合には(S27:Yes)、車両1がステアリング54の操作状態どおりに旋回しており、車両1がニュートラルの状態にあるということであるので、S4の処理において調整した車輪2のキャンバ角を補正することなく、この車輪制御処理を終了する。
なお、図6に示すフローチャート(車輪制御処理)において、請求項1記載の作動制御手段としてはS4の処理が、図8に示すフローチャート(車輪制御処理)において、請求項1記載の作動制御手段としてはS4の処理が、請求項2記載の操作状態検出手段としてはS1の処理が、理論ヨーレイト算出手段としてはS26の処理が、実ヨーレイト検出手段としてはS25の処理が、オーバステア補正手段としてはS30の処理が、請求項3記載のアンダステア補正手段としてはS32の処理が、それぞれ該当する。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
上記各実施の形態では、各車輪2(全ての車輪2)のトー角とキャンバ角とを車輪2毎にそれぞれ調整する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、前輪2FL,2FRのみや後輪2RL,2RRのみを調整しても良い。
上記第2実施の形態では、オーバステアの状態にある車両1をニュートラルまたはアンダステアの状態に近づけるために、後輪2RL,2RRのキャンバ角を旋回内側へ向けて補正する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、前輪2FL,2FRのキャンバ角を旋回外側へ向けて補正しても良い。
また、上記第2実施の形態では、アンダステアの状態にある車両1をニュートラルまたはオーバステアの状態に近づけるために、前輪2FL,2FRのキャンバ角を旋回内側へ向けて補正する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、後輪2RL,2RRのキャンバ角を旋回外側へ向けて補正しても良い。
これらの場合には、前輪または後輪のみのキャンバ角を調整可能な車両に対しても、上記各実施の形態の場合と同様に、車両の旋回性能向上を図ると共に、車両の旋回に対するエネルギー損失の低減を図ることができる。
上記各実施の形態では、前輪2FL,2FRのキャンバ角と後輪2RL,2RRのキャンバ角とを逆位相に調整する(即ち、前輪2FL,2FRのキャンバ角をそれぞれ旋回内側へ向けて調整する一方、後輪2RL,2RRのキャンバ角をそれぞれ旋回外側へ向けて調整する)場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、前輪2FL,2FRのキャンバ角と後輪2RL,2RRのキャンバ角とを同位相に調整しても良い。即ち、前輪2FL,2FRのキャンバ角をそれぞれ旋回内側へ向けて調整すると共に、後輪2RL,2RRのキャンバ角をそれぞれ旋回内側へ向けて調整しても良い。