以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を示す模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2を独立に回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2の操舵駆動及びキャンバ角の調整等を行うキャンバ角調整装置4とを主に備えている。なお、詳細は後述するが、車両1は、車輪2のトウ角及びキャンバ角を車両用制御装置100により制御することにより、エネルギーのロスや車輪2の磨耗が従来に比べて低減されたその場旋回を行うことができるように構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、これら前後輪2FL〜2RRは、車輪駆動装置3から回転駆動力を付与されて、それぞれ独立に回転可能に構成されている。
車輪駆動装置3は、各車輪2を独立に回転駆動するための回転駆動装置であり、図1に示すように、4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)を各車輪2に(即ち、インホイールモータとして)配設して構成されている。運転者がアクセルペダル52を操作した場合には、各車輪駆動装置3から回転駆動力が各車輪2に付与され、各車輪2がアクセルペダル52の操作量に応じた回転速度で回転される。
また、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、キャンバ角調整装置4によりトウ角(舵角)とキャンバ角とが調整可能に構成されている。キャンバ角調整装置4は、各車輪2のトウ角とキャンバ角とを調整するための駆動装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応する位置に合計4個(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が配置されている。
例えば、運転者がステアリング54を操作した場合には、キャンバ角調整装置4の一部(例えば、前輪2FL,2FR側のみ)又は全部が駆動され、ステアリング54の操作量に応じたトウ角を車輪2に付与する。これにより、車輪2の操舵動作が行われ、車両1が所定の方向へ旋回される。
また、キャンバ角調整装置4は、車両1の走行状態(例えば、定速走行時または加減速時、或いは、直進時または旋回時)や車輪2が走行する路面Gの状態(例えば、乾燥路面時と雨天路面時)などの状態変化に応じて、車両用制御装置100により作動制御され、車輪2のキャンバ角を調整する。
また、詳細は図5を参照しつつ後述するが、運転者がその場旋回スイッチ56を操作してオンした場合には、制御装置100の制御によりキャンバ角調整装置4が駆動されて、各車輪2のトウ角(舵角)が、その場旋回可能な角度に調整されると共に、各車輪2のキャンバ角が、その場旋回時のエネルギーロスや車輪2の磨耗を抑制できる角度に調整される。
ここで、図2を参照して、車輪駆動装置3とキャンバ角調整装置4との詳細構成について説明する。図2(a)は、車輪2の断面図であり、図2(b)は、車輪2のトウ角(舵角)及びキャンバ角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
なお、図2(a)では、車輪駆動装置3に駆動電圧を供給するための電源配線などの図示が省略されている。また、図2(b)中の仮想軸Xf−Xb、仮想軸Yl−Yr、及び、仮想軸Zu−Zdは、それぞれ車両1の前後方向、左右方向、及び、上下方向にそれぞれ対応する。
図2(a)に示すように、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、ゴム状弾性材から構成されるタイヤ2aと、アルミニウム合金などから構成されるホイール2bとを主に備えて構成され、ホイール2bの内周部には、車輪駆動装置3(FL〜RRモータ3FL〜3RR)がインホイールモータとして配設されている。
車輪駆動装置3は、図2(a)に示すように、その前面側(図2(a)左側)に突出された駆動軸3aがホイール2bに連結固定されており、駆動軸3aを介して、回転駆動力を車輪2へ伝達可能に構成されている。また、車輪駆動装置3の背面には、キャンバ角調整装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が連結固定されている。
キャンバ角調整装置4は、複数本(本実施形態では3本)の油圧シリンダ4a〜4cを備えており、それら3本の油圧シリンダ4a〜4cのロッド部は、車輪駆動装置3の背面側(図2(a)右側)にジョイント部(本実施形態ではユニバーサルジョイント)60を介して連結固定されている。なお、図2(b)に示すように、各油圧シリンダ4a〜4cは、周方向略等間隔(即ち、周方向120度間隔)に配置されると共に、1の油圧シリンダ4bは、仮想軸Zu−Zd上に配置されている。
これにより、各油圧シリンダ4a〜4cが各ロッド部をそれぞれ所定方向に所定長さだけ伸長駆動又は収縮駆動することで、車輪駆動装置3が仮想軸Xf−Xb,Zu−Xdを揺動中心として揺動駆動され、その結果、各車輪2に所定のキャンバ角とトウ角(舵角)とが付与される。
例えば、図2(b)に示すように、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4bのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4a,4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Xf−Xb回りに回転され(図2(b)矢印A)、車輪2にマイナス方向(ネガティブキャンバ)のキャンバ角(車輪2の中心線が仮想線Zu−Zdに対してなす角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4b及び油圧シリンダ4a,4cがそれぞれ伸縮駆動されると、車輪2にプラス方向(ポジティブキャンバ)のキャンバ角が付与される。
また、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4aのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Zu−Zd回りに回転され(図2(b)矢印B)、車輪2にトウイン傾向のトウ角(車輪2の中心線が車両1の基準線に対してなす角度であり、車両1の進行方向とは無関係に定まる角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4a及び油圧シリンダ4cが伸縮駆動されると、車輪2にトウアウト傾向のトウ角が付与される。
なお、ここで例示した各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方法は、上述した通り、車輪2が中立位置にある状態から駆動する場合を説明するものであるが、これらの駆動方法を組み合わせて各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を制御することにより、車輪2に任意のキャンバ角及びトウ角を付与することができる。従って、このキャンバ角調整装置4は、本願発明におけるトウ角調整装置としても機能する。
図1に戻って説明する。アクセルペダル52及びブレーキペダル53は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル52,53の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3の作動制御が行われる。
ステアリング54は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(回転角度、回転速度など)に応じて、車両1の旋回半径などが決定され、キャンバ角調整装置4の作動制御が行われる。
その場旋回スイッチ56は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(例えば、操作位置など)によりオンとオフとが切り替えられる。運転者の操作によりその場旋回スイッチ56がオンされると、制御装置100により実行されるその場旋回処理(図5参照)により車両1のその場旋回が開始され、その後、運転者の操作によりその場旋回スイッチ56がオフされると、実行中のその場旋回が終了する。
車両用制御装置100は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための車両用制御装置であり、例えば、各ペダル52,53の操作状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を作動させることで、各車輪2の回転速度を制御する。
あるいは、運転者によりその場旋回スイッチ56がオンされた場合に、後述するその場旋回処理(図5参照)を実行し、キャンバ角調整装置4を駆動して、各車輪2のトウ角(舵角)及びキャンバ角を調整する。
ここで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示すブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラムや固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリであり、RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。なお、ROM72内には、図5に図示されるフローチャート(その場旋回処理)のプログラム(図示せず)が格納されていると共に、接地幅変化率マップ72aと回転半径変化率マップ72bとが格納されている。
ここで、図4を参照しつつ、接地幅変化率マップ72a及び回転半径変化率マップ72bについて説明する。図4(a)は、接地幅変化率マップ72aの内容を示す模式図であり、図4(b)は、回転半径変化率マップ72bの内容を示す模式図である。
接地幅変化率マップ72aは、車輪2のキャンバ角と車輪2の接地幅の変化率(0≦α≦1)とを対応付けたマップである。ここで、図4(a)に示す接地幅変化率マップ72aの横軸は、車輪2のキャンバ角(度)を示し、縦軸は、車輪2の接地幅の変化率(0≦α≦1)を示す。なお、横軸の左端は、キャンバ角の初期状態(本実施形態では、0度、即ち、車輪2に傾きが与えられていない状態)に対応し、右側へ向かうほど車輪2の傾き(キャンバ角)が大きい。
図4(a)に示すように、接地幅変化率マップ72aは、キャンバ角が初期状態(本実施形態では0度)にある車輪2の接地幅の変化率を1とし、キャンバ角が大きくなるに従い減少する。つまり、接地幅変化率マップ72aは、車輪2の接地幅が、車輪2の傾きが大きくなるに従って狭くなることを示す。
回転半径変化率マップ72bは、車輪2のキャンバ角と、車輪2における傾き方向側(例えば、ネガティブキャンバであれば、車輪2における車両1の内側となる側)の回転半径の変化率(0≦β≦1)とを対応付けたマップである。
ここで、図4(b)に示す回転半径変化率マップ72bの横軸は、車輪2のキャンバ角(度)を示し、縦軸は、車輪2の回転半径の変化率(0≦β≦1)を示す。なお、横軸の左端は、キャンバ角の初期状態(本実施形態では、0度)に対応し、右側へ向かうほど車輪2の傾き(キャンバ角)が大きい。
図4(b)に示すように、回転半径変化率マップ72bは、キャンバ角が初期状態(本実施形態では0度)である車輪2の接地幅の変化率を1とし、キャンバ角が大きくなるに従い減少する。つまり、回転半径変化率マップ72bは、車輪2における傾き方向側の回転半径が、車輪2の傾きが大きくなるに従って小さくなることを示す。
詳細は後述するが、その場旋回処理(図5参照)において、CPU71は、これらの接地幅変化率マップ72aの内容及び回転半径変化率マップ72bの内容に基づいて、その場旋回に最適なキャンバ角の指令値を決定する。
図3に戻って説明する。車輪駆動装置3は、上述したように、各車輪2(図1参照)を回転駆動するための装置であり、各車輪2に回転駆動力を付与する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
キャンバ角調整装置4は、上述したように、各車輪2のトウ角とキャンバ角とを調整するための駆動装置であり、各車輪2(車輪駆動装置3)に角度調整のための駆動力を付与する4個のFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRと、それら各アクチュエータ4FL〜4RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、3本の油圧シリンダ4a〜4cと、それら各油圧シリンダ4a〜4cにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ4d(図1参照)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダ4a〜4cに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)と、各油圧シリンダ4a〜4c(ロッド部)の伸縮量を検出する伸縮センサ(図示せず)とを主に備えて構成されている。
CPU71からの指示に基づいて、キャンバ角調整装置4の駆動回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ4a〜4cが伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方向(伸長又は収縮)が切り換えられる。
キャンバ角調整装置4の駆動回路は、各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮量を伸縮センサにより監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した油圧シリンダ4a〜4cは、その伸縮駆動が停止される。なお、伸縮センサによる検出結果は、駆動回路からCPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2の現在のトウ角(舵角)及びキャンバ角を得ることができる。
車両速度センサ装置32は、路面Gに対する車両1の対地速度(絶対値及び進行方向)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後及び左右方向加速度センサ32a,32bと、それら各加速度センサ32a,32bの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
前後方向加速度センサ32aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1上下方向)の加速度を検出するセンサであり、左右方向加速度センサ32bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1左右方向)の加速度を検出するセンサである。なお、本実施形態では、これら各加速度センサ32a,32bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
CPU71は、車両速度センサ装置32の制御回路から入力された各加速度センサ32a,32bの検出結果(加速度値)を時間積分して、2方向(前後及び左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の対地速度(絶対値及び進行方向)を得ることができる。
アクセルペダルセンサ装置52aは、アクセルペダル52の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル52の踏み込み状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
ブレーキペダルセンサ装置53aは、ブレーキペダル53の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル53の踏み込み状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
ステアリングセンサ装置54aは、ステアリング54の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング54の操作状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、本実施形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。CPU71は、各センサ装置52a〜54aの制御回路から入力された検出結果により各ペダル52,53の踏み込み量及びステアリング54の操作角を得ると共に、その検出結果を時間微分することにより、各ペダル52,53の踏み込み速度(操作速度)及びステアリング54の回転速度(操作速度)を得ることができる。
また、その場旋回スイッチセンサ装置56aは、その場旋回スイッチ56の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、その場旋回スイッチ56の操作状態(操作位置)を検出するポジショニングセンサ(図示せず)と、そのポジショニングセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
図3に示す他の入出力装置36としては、例えば、各車輪2の接地面が路面から受ける荷重を検出する接地荷重センサ装置や、各車輪2の回転速度を検出する車輪回転速度センサ装置などが例示される。
次に、図5を参照して、上記構成を有する車両1の制御装置100で実行されるその場旋回処理について説明する、図5は、その場旋回処理を示すフローチャートである。このその場旋回処理は、所定時間毎(例えば、50ms毎)に起動する処理であり、まず、車両1が停止状態であるかを確認する(S1)。
S1の処理により確認した結果、車両1が停止状態であれば(S1:Yes)、運転者によってその場旋回スイッチ56がオンされたかを確認し(S2)、その場旋回スイッチ56がオンされた場合には(S2:Yes)、その場旋回に必要な各車輪2(2FL〜2RR)のトウ角の指令値を決定する(S3)。
S3の処理では、上述した従来におけるその場旋回と同様に、車体中心Ccと旋回中心Ctとを一致させる各車輪2(2FL〜2RR)のトウ角を決定する(図8参照)。即ち、各車輪2FL,2FR,2RL,2RRの進行方向を、車体中心Ccと各車輪中心Ofl,Ofr,Orl,Orr(図8参照)とを結ぶ直線に直交させるよう、前左右輪2FL,2FRに対し、トウイン角(トウイン傾向のトウ角)の指令値が決定され、後左右輪2RL,2RRに対し、トウアウト角(トウアウト傾向のトウ角)の指令値が決定される。
S3の処理後、接地幅変化率マップ72aの内容及び回転半径変化率マップの内容に基づいて、各車輪2(2FL〜2RR)に付与するネガティブキャンバ角の指令値を決定する(S4)。なお、このS4の処理による具体的なキャンバ角の決定方法については後述する。
次いで、S4の処理により決定されたネガティブキャンバ角の指令値をキャンバ角調整装置4へ出力する(S5)。このS5の処理により、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRが指令値に基づいてそれぞれ伸縮駆動されて、各車輪2(2FL〜2RR)にネガティブキャンバ角が付与される。
S5の処理後、S3の処理により決定されたトウ角の指令値をキャンバ角調整装置4へ出力する(S6)。このS6の処理により、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRが指令値に基づいてそれぞれ伸縮駆動されて、前左右輪2FL,2FRにはトウイン角が付与され、後左右輪2RL,2RRにはトウアウト角が付与される。
S6の処理後、各車輪2(2FL〜2RR)のキャンバ角及びトウ角の調整が終了したか、即ち、各車輪2のキャンバ角及びトウ角がその場旋回可能な角度に調整されたかを確認する(S7)。
S7の処理により確認した結果、車輪2(2FL〜2RR)のキャンバ角及びトウ角の調整が未だ終了していなければ(S7:No)、S4の処理へ移行し、各車輪2(2FL〜2RR)のキャンバ角及びトウ角の調整を続行する。
一方、S7の処理により確認した結果、車輪2(2FL〜2RR)のキャンバ角及びトウ角の調整が終了した場合には(S7:Yes)、その場旋回が右旋回であるか左旋回であるかを確認する(S8)。なお、本実施形態では、その場旋回の旋回方向は、運転者がその場旋回スイッチ56をオンした後に、ステアリング54の操作方向が右であれば右旋回が指定され、左であれば左旋回が指定されるように構成されている。よって、S8の処理では、運転者がその場旋回スイッチ56をオンした後にステアリングセンサ装置54aにより検出されたステアリング54の操作方向に基づいて判定を行う。
S8の処理により確認した結果、その場旋回が右旋回である場合には(S8:右旋回)、アクセルペダル52の踏み込み量に応じた回転駆動を、前後の左車輪2FL,2RLには順方向に付与し、前後の右車輪2FR,2RRには逆方向に付与するよう、車輪駆動装置3を作動させる(S9)。このS9の処理により、車両1は右方向にその場旋回される。
一方、S8の処理により確認した結果、その場旋回が左旋回である場合には(S8:左旋回)、アクセルペダル52の踏み込み量に応じた回転駆動を、前後の左車輪2FL,2RLには逆方向に付与し、前後の右車輪2FR,2RRには順方向に付与するよう、車輪駆動装置3を作動させる(S11)。このS11の処理により、車両1は左方向にその場旋回される。
S9又はS11の処理後、その場旋回の終了が指示されたかを確認する(S10)。なお、本実施形態では、ブレーキペダル53の踏み込みなどにより車両1が停止された後、運転者による操作によってその場旋回スイッチ56がオフされた場合に、その場旋回が終了するように構成されている。よって、S10の処理では、車両1が停止状態とされて、その場旋回スイッチ56がオフされた場合に、その場旋回の終了が指示されたと判断する。
S10の処理により確認した結果、その場旋回の終了が未だ指示されていない場合には(S10:No)、S7の処理へ移行し、その場旋回を続行する。一方で、S10の処理により確認した結果、その場旋回の終了が指示された場合には(S10:Yes)、その場旋回処理を終了する。
また、S1の処理により確認した結果、車両1が停止状態にない場合(S1:No)、又は、S2の処理により確認した結果、その場旋回スイッチ56がオフのままである場合には(S1:No)、その場旋回を行う状況ではないので、そのまま、その場旋回処理を終了する。
ここで、図6及び図7(a)を参照して、上述したその場旋回処理(図5参照)のS4において、各車輪2(2FL〜2RR)に付与するネガティブキャンバ角の指令値を決定する具体的方法について説明する。
図6は、車輪2にキャンバ角が付与された場合における、車輪2(2FL〜2RR)の接地幅及び回転半径の変化を説明するための模式図であり、(a)は、車輪2に傾きが与えられていない場合(即ち、キャンバ角が0度である場合)を示し、(b)は、車輪2に角度θのキャンバ角が与えられている場合を示す。また、図7(a)は、本実施形態の制御装置100による制御によって右方向にその場旋回する車両1を示す模式図である。
本実施形態では、車輪2のキャンバ角は初期状態において0度、即ち、傾きが与えられていない状態、即ち、図6(a)に示す状態とされている。かかる初期状態にある車輪2を矢印C方向に傾けて角度θのキャンバ角を与えると、図6(b)に示すように、車輪2における傾き方向とは反対側(矢印S2の側)の端が路面から浮くので、車輪2の接地幅は、車輪2における傾き方向側(矢印S1の側)に限定されるために初期状態より狭くなる。
ここで、キャンバ角が0度である車輪2の接地幅をaとし(図6(a))、キャンバ角θに対する接地幅の変化率をα(0≦α≦1)とすると、キャンバ角の付された車輪2の接地幅は、初期状態における車輪2の接地幅とキャンバ角θに対する接地幅の変化率αとの積αa(=α×a)で表される(図6(b))。なお、上述した接地幅変化率マップ72aは、この接地幅の変化率αとキャンバ角θとを対応付けたマップである。
このように、車輪2にキャンバ角が付されて車輪2が傾けられたことにより、その場旋回時における旋回半径は、図7(a)に示すように、車輪2における傾き方向側の端が描く軌跡の旋回半径をLとすると、車輪2が接地している領域における傾き方向とは反対側(矢印S2の側)の端が描く軌跡の旋回半径はL+αaで表される。
一方、車輪2を矢印C方向に傾けて角度θのキャンバ角を与えた場合には、図6(b)に示すように、車輪2における傾き方向側(矢印S1の側)が荷重によって潰されるため、車輪2における傾き方向側の回転半径は初期状態より小さくなる。
そのため、キャンバ角が0度である車輪2(図6(a))の回転半径が幅方向一律にbであるのに対し、キャンバ角の付された車輪2(図6(b))では、接地している領域のうち、傾き方向とは反対側(矢印S2の側)の端から、傾き方向側(矢印S1の側)の端へ向かうに従い、回転半径が縮径する。
このとき、キャンバ角θに対する回転半径の変化率をβ(0≦β≦1)とすると、キャンバ角の付された車輪2における傾き方向側の端の回転半径は、初期状態における車輪2の回転半径bとキャンバ角θに対する回転半径の変化率βとの積βb(=β×b)で表される(図6(b))。なお、上述した回転半径変化率マップ72bは、この回転半径の変化率βとキャンバ角θとを対応付けたマップである。
上述したその場旋回処理(図5参照)のS4では、変化率α,βが、その場旋回をする上で最適な値となるようなキャンバ角θを決定する。
つまり、(1)車輪2における傾き方向側の端が描く軌跡の旋回半径と、車輪2が接地している領域における傾き方向とは反対側(矢印S2の側)の端が描く軌跡の旋回半径との比率である{L/(L+αa)}と、(2)車輪2が接地している領域における傾き方向とは反対側の端の円周と、車輪2における傾き方向側の端の円周との比率である{2πb/2πβb}、即ち、{b/βb}との差が最も小さくなるようなキャンバ角θを、接地幅変化率マップ72a及び回転半径変化率マップ72bに基づいて決定する。
このように決定される各車輪2のキャンバ角θは、各車輪2の接地幅及び旋回半径をその場旋回に対して最適化されているため、その場旋回時における車輪2のすべりなどの車輪2への悪影響を抑制し、その結果として、その場旋回時におけるエネルギーロスの発生や各車輪2の磨耗を有効に抑制(低減)する。
次に、図7(a)及び図7(b)を参照して、本実施形態の制御装置100が実行するその場旋回の利点について説明する。図7(a)は、本実施形態の制御装置100による制御によって右方向にその場旋回する車両1を示す模式図であり、図7(b)は、従来のその場旋回によって右方向に旋回する車両を示す模式図である。
上述したように、本実施形態の制御装置100は、その場旋回を実行する際に、初期状態のキャンバ角が0度である各車輪2(2FL〜2RR)にネガティブキャンバ角を付与するので、各車輪2の接地幅(αa:図7(a)参照)が初期状態の接地幅(a:図7(b)参照)に比べて狭くなる。
よって、各車輪2の接地幅が狭くなった分だけ、車輪2における傾き方向側の端が描く軌跡(車輪2における車両1の内側となる側の端が描く軌跡)の旋回半径と、車輪2が接地している領域における傾き方向とは反対側(車輪2における車両1の外側となる側の端が描く軌跡)の端が描く軌跡の旋回半径との差を、初期状態に比べて小さくすることができる(図7(a)及び図7(b)参照)。
そのため、その場旋回時における各車輪2のすべりが抑制されるので、従来のその場旋回に比べ、エネルギーロスの発生を低減できる。また、接地幅が狭くなったことにより、従来のその場旋回に比べ、各車輪2の磨耗を低減できる。
特に、本実施形態の制御装置100は、その場旋回を実行する際に、ネガティブキャンバを付与するので、各車輪2が車両1の内側に向けて傾けられることになる。このように、各車輪2が車両1の内側に向けて傾けられると、車輪2における傾き方向側が荷重によって潰されるため、車輪2における傾き方向側の端の回転半径が、車輪2が接地している領域における傾き方向とは反対側の端の回転半径より小さくなる。
その結果、各車輪2の内側(各車輪2における車両1の内側となる側)の回転数が、各車輪2の外側(各車輪2における車両1の外側となる側)の回転数より増えることになる。よって、かかる回転数の差によって、その場旋回時に生じる各車輪2のすべりを有効に抑制することができるので、エネルギーロスの発生及び車輪の磨耗をより有効に低減させることができる。
以上説明したように、本実施形態の制御装置100によれば、その場旋回を実行する際に、各車輪2に対し、初期状態より大きなキャンバ角を付与するので、従来のその場旋回に比べ、各車輪2の接地幅を狭めることができ、その結果として、エネルギーロスの発生及び各車輪2の磨耗を低減することができる。
また、上述したその場旋回処理(図5)によれば、S5の処理の結果として、先にネガティブキャンバが付与されてから、S6の処理によるトウ角の付与が行われる。このように、トウ角を付与する前にネガティブキャンバが付与されることにより、車輪2の接地幅(接地面)をより狭くした状態でトウ角の付与が行われることになり、トウ角付与時の車輪の磨耗を有効に抑制することができる。
なお、本実施形態において、請求項1記載の実行指示検出手段としては、S2の処理が該当し、請求項1記載のキャンバ角調整手段としては、S5の処理が該当し、請求項1記載のトウ角指令値決定手段としては、S3の処理が該当し、請求項1記載のトウ角調整手段としては、S6の処理が該当し、請求項1記載の車輪駆動手段としては、S9,S11の処理が該当する。また、本実施形態において、請求項3記載のキャンバ角指令値決定手段としては、S4の処理が該当する。
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
また、上記実施形態では、その場旋回の際に、各車輪2にネガティブキャンバが付与される構成としたが、ポジティブキャンバを付与する構成であってもよい。ポジティブキャンバを付与した場合も、車輪2の接地幅は初期状態の接地幅に比べて狭くなるため、エネルギーロスの発生及び各車輪2の磨耗を低減することができる。
また、上記実施形態では、初期状態における車輪2のキャンバ角を0度として説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、初期状態における車輪2のキャンバ角をポジティブキャンバ又はネガティブキャンバに設定することは当然可能である。なお、初期状態における車輪2のキャンバ角をポジティブキャンバ又はネガティブキャンバとした場合であっても、その場旋回時に、車輪2のキャンバ角を初期状態より大きく傾けることにより、接地幅を初期状態に比べて狭くすることができるため、エネルギーロスの発生及び各車輪2の磨耗を低減することができる。
また、上記実施形態におけるその場旋回処理(図5参照)では、S7の処理によりキャンバ角及びトウ角の調整をが終了したかを確認しつつ、S5の処理(キャンバ角の付与)及びS6の処理(トウ角の付与)を行う構成としたが、S4の処理により決定されたネガティブキャンバ角の指令値に基づくキャンバ角の付与を先に終了させた後、S3の処理により決定されたトウ角の指令値に基づくトウ角の付与を行うように構成してもよい。
また、上記実施形態におけるその場旋回処理(図5参照)では、S5の処理によって先にネガティブキャンバの付与を行い、続いて、S6の処理によるトウ角の付与を行う構成としたが、先にトウ角を付与し、その後にキャンバ角を付与する構成としてもよい。
また、上記実施形態では、その場旋回スイッチ56を設け、停止状態において運転者がその場旋回スイッチ56をオンしたことをその場旋回開始の契機としたが、その場旋回開始の契機はこれに限定されるものではない。例えば、その場旋回スイッチ56を設けることなく、停止状態において運転者によるステアリング54の操作(操舵指令)があった場合にその場旋回を開始するような構成であってもよい。
また、上記実施形態では、その場旋回の旋回方向を、運転者がその場旋回スイッチ56をオンした後に、ステアリング54の操作方向により指定するものとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、その場旋回スイッチ56に換えて、右旋回用のその場旋回スイッチと左旋回用のその場旋回スイッチを設け、その場旋回の開始と旋回方向の指定とが同時に行われるような構成であってもよい。