以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態における制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2を独立に回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2の操舵駆動及びキャンバ角の調整等を行うキャンバ角調整装置4とを主に備えている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、これら前後輪2FL〜2RRは、車輪駆動装置3から回転駆動力を付与されて、それぞれ独立に回転可能に構成されている。
車輪駆動装置3は、各車輪2を独立に回転駆動するための回転駆動装置であり、図1に示すように、4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)を各車輪2に(即ち、インホイールモータとして)配設して構成されている。運転者がアクセルペダル52を操作した場合には、各車輪駆動装置3から回転駆動力が各車輪2に付与され、各車輪2がアクセルペダル52の操作量に応じた回転速度で回転される。
また、キャンバ角調整装置4は、各車輪2の舵角とキャンバ角とを調整するための駆動装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応する位置に合計4個(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が配置されている。
例えば、運転者がステアリング54を操作した場合には、キャンバ角調整装置4の一部(例えば、前輪2FL,2FR側のみ)又は全部が駆動され、ステアリング54の操作量に応じた舵角を車輪2に付与する。これにより、車輪2の操舵動作が行われ、車両1が所定の方向へ旋回される。
また、キャンバ角調整装置4は、車両1の走行状態(例えば、定速走行時または加減速時、或いは、直進時または旋回時)や車輪2が走行する路面Gの状態(例えば、乾燥路面時と雨天路面時)などの状態変化に応じて、制御装置100により作動制御され、車輪2のキャンバ角を調整する。詳細は後述するが、本実施形態の制御装置100は、各種状態変化に応じて制御する場合における車輪2のキャンバ角の調整範囲(制御範囲)が、車輪2のタイヤ2aの磨耗度(磨耗状態)に応じて変更されるように構成されている。
ここで、図2を参照して、車輪駆動装置3とキャンバ角調整装置4との詳細構成について説明する。図2(a)は、車輪2の断面図であり、図2(b)は、車輪2の舵角及びキャンバ角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
なお、図2(a)では、車輪駆動装置3に駆動電圧を供給するための電源配線などの図示が省略されている。また、図2(b)中の仮想軸Xf−Xb、仮想軸Yl−Yr、及び、仮想軸Zu−Zdは、それぞれ車両1の前後方向、左右方向、及び、上下方向にそれぞれ対応する。
図2(a)に示すように、車輪2(前後輪2FL〜2RR)は、ゴム状弾性材から構成されるタイヤ2aと、アルミニウム合金などから構成されるホイール2bとを主に備えて構成され、ホイール2bの内周部には、車輪駆動装置3(FL〜RRモータ3FL〜3RR)がインホイールモータとして配設されている。なお、タイヤ2aの踏面には溝M(図3参照)が刻まれているが、図2(a)では、この溝Mの図示は省略している。
車輪駆動装置3は、図2(a)に示すように、その前面側(図2(a)左側)に突出された駆動軸3aがホイール2bに連結固定されており、駆動軸3aを介して、回転駆動力を車輪2へ伝達可能に構成されている。また、車輪駆動装置3の背面には、キャンバ角調整装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が連結固定されている。
キャンバ角調整装置4は、複数本(本実施形態では3本)の油圧シリンダ4a〜4cを備えており、それら3本の油圧シリンダ4a〜4cのロッド部は、車輪駆動装置3の背面側(図2(a)右側)にジョイント部(本実施形態ではユニバーサルジョイント)54を介して連結固定されている。なお、図2(b)に示すように、各油圧シリンダ4a〜4cは、周方向略等間隔(即ち、周方向120°間隔)に配置されると共に、1の油圧シリンダ4bは、仮想軸Zu−Zd上に配置されている。
これにより、各油圧シリンダ4a〜4cが各ロッド部をそれぞれ所定方向に所定長さだけ伸長駆動又は収縮駆動することで、車輪駆動装置3が仮想軸Xf−Xb,Zu−Xdを揺動中心として揺動駆動され、その結果、各車輪2に所定のキャンバ角と舵角とが付与される。
例えば、図2(b)に示すように、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4bのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4a,4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Xf−Xb回りに回転され(図2(b)矢印A)、車輪2にマイナス方向(ネガティブキャンバ)のキャンバ角(車輪2の中心線が仮想線Zu−Zdに対してなす角度)が付与される。
また、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4aのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Zu−Zd回りに回転され(図2(b)矢印B)、車輪2にトーイン傾向の舵角(車輪2の中心線が車両1の基準線に対してなす角度であり、車両1の進行方向とは無関係に定まる角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4a及び油圧シリンダ4cが伸縮駆動されると、車輪2にトーアウト傾向の舵角が付与される。
なお、ここで例示した各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方法は、上述した通り、車輪2が中立位置にある状態から駆動する場合を説明するものであるが、これらの駆動方法を組み合わせて各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を制御することにより、車輪2に任意のキャンバ角及び舵角を付与することができる。
図1に戻って説明する。アクセルペダル52及びブレーキペダル53は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル52,53の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3の作動制御が行われる。ステアリング54は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(回転角度、回転速度など)に応じて、車両1の旋回半径などが決定され、キャンバ角調整装置4の作動制御が行われる。
また、図1に示すように、本実施形態の車両1には、各車輪2(2FL〜2RR)に装着されているタイヤ2aの磨耗状態を検出するタイヤ磨耗センサ装置55が設けられている。このタイヤ磨耗センサ装置55は、各車輪2(2FL〜2RR)のタイヤ2aの踏面に刻まれている溝M(図3参照)の溝深さを測定(検出)する磨耗状態検出手段としての光学式変位センサ(本実施形態では、FL〜RRレーザ変位センサ55FL〜55RR)を含んで構成される装置である。かかるタイヤ磨耗センサ装置55により、各車輪2のタイヤ2aの磨耗状態を検出することができる。
制御装置100は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための制御装置であり、例えば、各ペダル52,53の操作状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を作動させることで、各車輪2の回転速度を制御する。
或いは、アクセルペダル52、ブレーキペダル53やステアリング54の操作状態を検出し、その検出結果に応じてキャンバ角調整装置4を制御し、走行状態に応じた各車輪2のキャンバ角の調整を行う。このように、車両1の走行状態に応じて車輪2のキャンバ角を調整することにより、走行性能を向上させることができる。
また、本実施形態の制御装置100は、キャンバ角調整装置により調整する車輪2のキャンバ角の調整範囲(制御範囲)を、タイヤ磨耗センサ装置55によるタイヤ2aの磨耗度(磨耗状態)に応じて変更するように構成されている。
ここで、図3を参照して、車輪2に装着されているタイヤ2aの磨耗度(磨耗状態)に応じて車輪2のキャンバ角の調整範囲(制御範囲)を変更することによって、得られる利点について説明する。図3は、車輪2に装着されている新品タイヤ2a1及び磨耗タイヤ2a2が、それぞれに対して設定された調整範囲(制御範囲)の境界とされるキャンバ角に調整された場合における接地状態を示す模式図である。
より具体的には、図3(a)は、磨耗のないタイヤ2aである新品タイヤ2a1の断面形状を示す模式図であり、図3(b)は、新品タイヤ2a1を装着した車輪2が、新品タイヤに対して予め設定されている車輪2のキャンバ角の調整範囲における一方の境界値となるキャンバ角度0°に調整されている状態を示す模式図であり、図3(c)は、新品タイヤ2a1を装着した車輪2が、他方の境界値となるキャンバ角度D°に調整されている状態を示す模式図である。なお、本実施形態の車両1は、車輪2(2FL〜2RR)にマイナス方向(ネガティブキャンバ)のキャンバ角を付与可能な構成とされているので、キャンバ角D°はマイナス方向にD°のキャンバ角である。
一方、図3(d)は、磨耗したタイヤ2aである磨耗タイヤ2a2の断面形状を示す模式図であり、図3(e)は、磨耗タイヤ2a2を装着した車輪2が、後述する調整範囲変更処理(図5参照)によって設定された車輪2のキャンバ角の調整範囲における一方の境界値となるキャンバ角度(0+α)°に調整されている状態を示す模式図であり、図3(f)は、磨耗タイヤ2a2を装着した車輪2が、他方の境界値となるキャンバ角度(D+α)°に調整されている状態を示す模式図である。なお、(0+α)°及び(D+α)°は、0°及びD°に、それぞれ、マイナス方向にα°の角度が加算されていることを示す。
図3(a)に示すように、新品タイヤ2aの踏面に刻まれた溝Mは、全て、製造時の溝深さを保つ溝M0から構成される。よって、新品タイヤ2a1を装着した車輪2が、キャンバ角0°(図3(b)参照)に調整されている場合であっても、キャンバ角D°(図3(c)参照)に調整されている場合であっても、新品タイヤ2a1と路面Gとの接地部分P1,P2は、磨耗のない溝M0によって良好なグリップ力を得ることができる。
一方、図3(d)に示すように、磨耗タイヤ2a2の踏面は磨耗によって点線部分が消失している。そのため、磨耗タイヤ2a2の溝Mの溝深さは、新品タイヤ2a1の溝M(溝M0)より浅くなっている。そのため、車輪2のキャンバ角の調整範囲が、新品タイヤ2a1と同じ範囲であれば、そのグリップ力は新品タイヤ2a1に比べて劣る。
ここで、本実施形態の制御装置100は、タイヤ2aの磨耗度が低い場合(例えば、新品タイヤ2a1)には、車輪2のキャンバ角の調整範囲が0°〜D°に設定されているので、このキャンバ角の範囲内で路面Gに接する部分の溝M1と、この範囲では路面Gと接触しない(又はほとんど接触しない)部分の溝M2とで、残された溝深さ(残溝深さ)の程度が異なる。
具体的には、車輪2のキャンバ角の調整範囲が0°〜D°である場合において路面Gと接する部分の溝M1の残溝深さは、タイヤ2aの磨耗によって新品タイヤ2a1の溝M0よりかなり浅くなる。これに対し、この調整範囲(0°〜D°)において路面Gと接触しない(又は、殆ど接触しない)部分の溝M2の溝深さは、新品タイヤ2a1の溝M0と同等深さに残される。
よって、磨耗タイヤ2a2が装着された車輪2のキャンバ角の調整範囲を(0+α)°〜(D+α)°とすることにより、0°〜D°の範囲では路面Gと接触しなかった(又は、殆ど接触しなかった)部分を、路面Gに接地させることができる。例えば、図3(f)に示すように、車輪2のキャンバ角が(D+α)°である場合には、磨耗タイヤ2a2と路面Gとの接地部分P3において、磨耗のない(又は、殆ど磨耗のない)溝M2を含む部分が接地されることになる。その結果、新品タイヤ2a1と同等の溝深さを有する溝M2の効果によって、磨耗タイヤ2a2であっても良好なグリップ力を得ることができる。
ここで、図4を参照して、制御装置100の詳細構成について説明する。図4は、制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。図4に示すように、制御装置100は、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラムや固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリであり、RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。なお、ROM72内には、後述する調整範囲変更処理(図5参照)を実行するプログラムが格納されている。
車輪駆動装置3は、上述したように、各車輪2(図1参照)を回転駆動するための装置であり、各車輪2に回転駆動力を付与する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
キャンバ角調整装置4は、上述したように、各車輪2の舵角とキャンバ角とを調整するための駆動装置であり、各車輪2(車輪駆動装置3)に角度調整のための駆動力を付与する4個のFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRと、それら各アクチュエータ4FL〜4RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを主に備えている。
なお、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、3本の油圧シリンダ4a〜4cと、それら各油圧シリンダ4a〜4cにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ4d(図1参照)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダ4a〜4cに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)と、各油圧シリンダ4a〜4c(ロッド部)の伸縮量を検出する伸縮センサ(図示せず)とを主に備えて構成されている。
CPU71からの指示に基づいて、キャンバ角調整装置4の駆動回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ4a〜4cが伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方向(伸長又は収縮)が切り換えられる。
キャンバ角調整装置4の駆動回路は、各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮量を伸縮センサにより監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した油圧シリンダ4a〜4cは、その伸縮駆動が停止される。なお、伸縮センサによる検出結果は、駆動回路からCPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2の現在の舵角及びキャンバ角を得ることができる。
アクセルペダルセンサ装置52aは、アクセルペダル52の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル52の踏み込み状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
ブレーキペダルセンサ装置53aは、ブレーキペダル53の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル53の踏み込み状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
ステアリングセンサ装置54aは、ステアリング54の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング54の操作状態を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
タイヤ磨耗センサ装置55は、各車輪2(2FL〜2RR)に装着されているタイヤ2aの磨耗状態を検出すると共に、その検出結果をCPU1に出力するための装置であり、各車輪2FL〜2RR毎にタイヤ2aの磨耗状態を検出する磨耗状態検出手段としてのFL〜RRレーザ変位センサ55FL〜55RRと、それらの各レーザ変位センサ55FL〜55RRの検出結果を処理してCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
また、入出力装置35としては、各車輪2FL〜2RRの回転速度(車輪速)を検出する車輪速センサ装置や、車両1の前後方向の加速度や横加速度を検出する加速度センサ装置などが例示される。
次いで、図5を参照して、上記構成を有する車両1における制御装置100により実行される制御範囲変更手段としての調整範囲変更処理について説明する。図5は、調整範囲変更処理を示すフローチャートである。この調整範囲変更処理は、車輪2の磨耗状態に応じた車輪2のキャンバ角の調整範囲(制御範囲)を変更する処理であり、制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.1s間隔で)実行される。
図5に示すように、この調整範囲変更処理では、まず、4輪のうちの1輪の車輪2(2FL〜2RR)のタイヤ2aの磨耗状態をタイヤ磨耗センサ装置55により検出し(S1)、タイヤ2aの磨耗度が所定の閾値(例えば、磨耗度50%)以上となるかを確認する(S2)。
S2の処理により確認した結果、タイヤ2aの磨耗度が所定の閾値以上(例えば、磨耗度50%以上)でなければ(S2:No)、その車輪2のキャンバ角の調整範囲を、新品タイヤに対して予め設定されている調整範囲である0°〜D°(例えば、0°〜5°)に設定し(S3)、S4の処理へ移行する。
一方で、S2の処理により確認した結果、タイヤ2aの磨耗度が所定の閾値以上(例えば、磨耗度50%以上)であれば(S2:Yes)、その車輪2のキャンバ角の調整範囲を、(0+α)°〜(D+α)°(例えば、2°〜7°)に変更し(S5)、S4の処理へ移行する。
S4では、全車輪2に対してキャンバ角の調整範囲が設定されたかを確認する(S4)。このとき、キャンバ角の調整範囲が設定されていない車輪2が残存していれば(S4:No)、S1の処理へ戻る。一方で、全車輪2に対してキャンバ角の調整範囲が設定されていれば(S4:Yes)、この調整範囲変更処理を終了する。
なお、磨耗タイヤ2a2を装着した車輪2が新品タイヤ2a1に交換されると、S2におけるNoの分岐処理が実行されるので、車輪2のキャンバ角の調整範囲が再度0°〜D°に戻される。あるいは、磨耗タイヤ2a2を装着した車輪2が新品タイヤ2a1に交換されたことを検知した場合に、車輪2のキャンバ角の調整範囲を0°〜D°にリセットするように構成してもよい。
従って、この調整範囲変更処理によれば、所定の閾値以上に磨耗されたタイヤ2aが装着された車輪2のキャンバ角の調整範囲が、新品タイヤに対して予め設定されている調整範囲から、マイナス方向(ネガティブキャンバ側)にα°(例えば、2°)だけ移動させた範囲に変更される。その結果、上述した通り、新品タイヤに対して予め設定されている調整範囲では使用されず(又は、殆ど使用されず)溝深さが深い溝M2が刻まれている新たな面が使用されることとなり、磨耗によって低下したグリップ力が回復される。
以上説明したように、本実施形態の制御装置100によれば、タイヤ2aが所定の磨耗度以上となった場合に、その車輪2のキャンバ角の調整範囲が、既に適用された調整範囲以外を少なくとも含む範囲に変更される。かかる変更の結果、タイヤ2aにおける磨耗がない又は磨耗の少ない(即ち、溝の溝深さが比較的深い)新たな面が使用され、磨耗によって低下したグリップ力をタイヤ交換することなく一旦回復(改善)することができる。
よって、車輪2のキャンバ角の調整範囲を変更しない同程度の磨耗状態にあるタイヤを装着した車輪において生じ得るグリップ性能やウェット時の排水性能の低下による危険性に対して迅速に対処することができ、安全性が確保される。また、タイヤ2aにおいて比較的深い溝M(M2)が刻まれている新たな面が使用されることにより、タイヤ2aの磨耗に伴う静粛性能の悪化(ロードノイズの増加)や乗り心地の悪化も改善されるので、快適性の阻害も抑制される。さらには、タイヤ2aの使用時間が長い程、タイヤ2aは磨耗されると共に経年劣化が生じているので、経年劣化に伴うグリップ性能の低下もまた、本発明によるタイヤ2aの新しい面の使用によって改善されることになるという利点がある。
また、車輪2のキャンバ角の調整範囲の変更は、新品タイヤに対して予め設定されている調整範囲から、マイナス方向に所定量(本実施形態では、α°)だけ移動させた範囲に変更される。よって、調整範囲の幅は変更前と変更後とで変化せず、走行状態などに応じた各車輪2のキャンバ角の調整を行うための制御を同様に実施できるので、制御の複雑化を伴うことなく、タイヤ2aの磨耗時における対策を実現できる。
さらに、適用中の調整範囲を一方向(本実施形態では、マイナス方向)に移動させて新たな調整範囲を得るので、タイヤ2aにおける磨耗がない又は磨耗の少ない新たな面を、確実に使用することができる。
次に、図6から図9を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、上記の第1実施形態で採用した車輪2に換え、図6に示すように、グリップ性能の異なる2種類のトレッドを有するタイヤを採用した車輪20を使用する。また、上記の第1実施形態では、タイヤ2aの磨耗状態に応じて、車輪2のキャンバ角の調整範囲を変更するように構成したが、この第2実施形態では、タイヤ2aの劣化状態に応じて、車輪20のキャンバ角の調整範囲(制御範囲)を変更する。なお、上記の第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図6は、車輪20を備える第2実施形態における車両1の上面視の模式図である。この車輪20は、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、図6に示すように、各車輪20(前輪20FL,20FR及び後輪20RL,20RR)において、第1トレッド21が車両1の内側に配置され、第2トレッド22が車両1の外側に配置されている。この例では、両トレッド21,22の幅寸法(図6左右方向寸法)が同一に構成されている。また、第1トレッド21は、第2トレッド22に比して、グリップ力の高い特性(高グリップ特性)に構成されている。
図7は、第2実施形態における制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。第2実施形態における制御装置100では、タイヤ磨耗センサ装置55に換えて、劣化状態検出手段としてのタイヤ劣化検出装置56を備えている。
このタイヤ劣化検出装置56は、各車輪20(20FL〜20RR)に装着されているタイヤ2aの劣化状態を検出すると共に、その検出結果をCPU1に出力するための装置である。このタイヤ劣化検出装置56は、計時回路(図示せず)と、その計時回路により計時される各車輪20が新品タイヤを装着してからの経過時間が、所定時間(例えば、新品タイヤを装着してから1年など)を超えた場合に、その結果をCPU71に出力する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
次いで、図8を参照して、第2実施形態の制御装置100により実行される制御範囲変更手段としての調整範囲変更処理について説明する。図8は、第2実施形態における調整範囲変更処理を示すフローチャートである。この第2実施形態における調整範囲変更処理は、車輪20の劣化状態に応じた車輪20のキャンバ角の調整範囲(制御範囲)を変更する処理であり、制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.1s間隔で)実行される。
図8に示すように、この第2実施形態における調整範囲変更処理では、まず、4輪のうちの1輪の車輪20(20FL〜20RR)のタイヤ2aの劣化状態をタイヤ劣化検出装置56により検出し(S11)、タイヤ2aの劣化度が所定の閾値以上(例えば、新品タイヤを装着してから1年以上)であるかを確認する(S12)。
S12の処理により確認した結果、タイヤ2aの劣化度が所定の閾値以上でなければ(S12:No)、その車輪20のキャンバ角の調整範囲を、新品タイヤに対して予め設定されている調整範囲である0°〜D°(例えば、0°〜5°)に設定し(S3)、S4の処理へ移行する。
一方で、S12の処理により確認した結果、タイヤ2aの劣化度が所定の閾値以上であれば(S12:Yes)、その車輪20のキャンバ角の調整範囲を、(0+α)°〜(D+α)°(例えば、2°〜7°)に変更し(S5)、S4の処理へ移行する。
S4では、全車輪20に対してキャンバ角の調整範囲が設定されたかを確認する(S4)。このとき、キャンバ角の調整範囲が設定されていない車輪20が残存していれば(S4:No)、S1の処理へ戻る。一方で、全車輪20に対してキャンバ角の調整範囲が設定されていれば(S4:Yes)、この調整範囲変更処理を終了する。
なお、劣化タイヤを装着した車輪20が新品タイヤに交換されると、S12におけるNoの分岐処理が実行されるので、車輪20のキャンバ角の調整範囲が再度0°〜D°に戻される。あるいは、劣化タイヤを装着した車輪20が新品タイヤに交換されたことを検知した場合に、車輪20のキャンバ角の調整範囲を0°〜D°にリセットするように構成してもよい。
ここで、図9を参照して、車輪20に装着されているタイヤ2aの劣化度(劣化状態)に応じて車輪20のキャンバ角の調整範囲(制御範囲)を変更することによって、得られる利点について説明する。
図9は、車輪20のキャンバ角と車輪20のグリップ力との関係を模式的に示すグラフである。図9(a)及び図9(b)において、実線901は、新品タイヤを装着した車輪20の場合を示し、点線902は、劣化タイヤを装着した車輪20の場合を示す。
車輪20のキャンバ角の調整範囲が0°〜D°である場合に、新品タイヤが装着された車輪20では、F1N〜F2Nの範囲で取り得たグリップ力が、劣化タイヤになると、図9(a)に示すように、グリップ力が低下し、その範囲がF1w(<F1N)〜F2w(<F2N)となる。
ここで、車輪20のタイヤが所定の劣化度以上となった場合に、車輪20のキャンバ角の調整範囲を、新品タイヤに対して予め設定されている調整範囲から、第1トレッド21の接地比率が増加するキャンバ角の方向、即ち、マイナス方向(ネガティブキャンバ側)にα°(例えば、2°)だけ移動させた範囲である(0+α)°〜(D+α)°に変更することにより、図9(b)に示すように、グリップ力の範囲を、新品タイヤと同様の範囲に回復させることができる。
このように、本実施形態の制御装置100によれば、タイヤ2aの劣化度が高くなった場合に、0°〜D°とされていたキャンバ角の調整範囲を(0+α)°〜(D+α)°へ変更することにより、タイヤ2aの劣化により低下したグリップ力を回復することができ、経年劣化によるグリップ力の低下による制動性能や走行性能の悪化を好適に抑制することができる。
以上説明したように、第2実施形態の制御装置100によれば、タイヤ2aの劣化状態が所定の劣化度以上となった場合に、その車輪20のキャンバ角の調整範囲が、第1トレッド21の接地比率が増加するキャンバ角の方向へ移動されるので、タイヤ2aがより高いグリップ力を発揮できる制御範囲を得ることができる。よって、タイヤの劣化に伴うグリップ力の低下をタイヤ交換することなく高度に回復(改善)できる。
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
例えば、上記各実施形態では、タイヤ2aの磨耗度又は劣化度が所定の閾値以上となった場合に、車輪2,20のキャンバ角の調整範囲を変更するように構成したが、調整範囲を変更する閾値は1の閾値に限らず、複数の閾値を採用し、これらの閾値との比較に基づいて、車輪2,20のキャンバ角の調整範囲を多段階に変更するように構成してもよい。あるいは、タイヤ磨耗センサ装置55により検出されたタイヤ2aの磨耗度(磨耗状態)又はタイヤ劣化検出装置56により検出されたタイヤ2aの劣化度(劣化状態))に応じて、所定の関係(例えば、リニアな関係)に基づいて車輪2,20のキャンバ角の調整範囲を変更する構成としてもよい。
また、上記各実施形態では、適用中の調整範囲をマイナス方向に所定量だけ移動させて新たな調整範囲を得る構成としたが、既に適用された制御範囲以外を少なくとも含む範囲であれば、調整範囲を変更する際の移動方向や移動量、及び変更前後における調整範囲の幅などは限定されない。
例えば、変更前の調整範囲と変更後の調整範囲とが全く重複しない範囲(例えば、変更前の調整範囲が0°〜4°であり、変更後の調整範囲が5°〜8°)としてもよい。また、例えば、変更前の調整範囲の幅と変更後の調整範囲の幅とが異なる(例えば、変更前の調整範囲が0°〜5°であり、変更後の調整範囲が3°〜10°)としてもよい。
また、車輪2にプラス方向(ポジティブキャンバ)のキャンバ角を付与可能な構成である場合には、調整範囲を変更する際の移動方向をプラス方向としてもよい。
同様に、上記の第2実施形態では、各車輪20(前輪20FL,20FR及び後輪20RL,20RR)において、第1トレッド21が車両1の内側に配置され、第2トレッド22が車両1の外側に配置される構成としたが、第1トレッド21が車両1の外側に配置され、第2トレッド22が車両1の内側に配置される構成である場合には、車輪20にプラス方向(ポジティブキャンバ)のキャンバ角を付与可能な構成とし、劣化度に応じて車輪20のキャンバ角の調整範囲を変更する際には、調整範囲をプラス方向に移動し、高グリップ性能を有する第1トレッド21の接地比率が増加するキャンバ角の方向へ移動するようにしてもよい。
また、上記第1実施形態では、タイヤ2aの磨耗状態を、FL〜RRレーザ変位センサ55FL〜55RRを用いて検出するように構成した。タイヤ2aの磨耗状態を検出する方法としては、上記第1実施形態にて採用した方法に限定されるものではなく、カメラや変位センサなどによりタイヤ2aの外径を測定したり、特開2006−162384号公報において採用されている方法など、種々の方法を採用できる。
また、上記第2実施形態では、タイヤ劣化検出装置56により検出されるタイヤ2aの劣化状態を、新品タイヤを装着してからの経過時間に基づいて検出する構成とした。タイヤ2aの劣化状態を検出する方法としては、上記第2実施形態にて採用した方法に限定されるものではなく、新品タイヤを装着してからの走行距離に基づいて検出する方法(例えば、新品タイヤを装着してから10000km走行したらタイヤ2aが劣化したと判定する方法)や、タイヤ2aの表面の状態に基づいて検出する方法(例えば、画像認識技術によってひび割れの発生を観察し、ひび割れの発生が所定量(又は所定割合)以上検出された場合にタイヤ2aが劣化したと判定する方法)など、種々の方法を採用できる。
また、上記各実施形態では、タイヤ2aの磨耗度や劣化度が所定の閾値以上となる車輪2,20があれば、その車輪2,20のキャンバ角の調整範囲を変更するように構成したが、タイヤ2aの磨耗度が所定の閾値以上となる車輪2,20が1つでも検出された場合に、全車輪2(2FL〜2RR),20(20FL〜20RR)のキャンバ角の調整範囲を変更するように構成してもよい。あるいは、タイヤ2aの磨耗度が所定の閾値以上となることが検出された車輪2,20と、その車輪2,20と左右一対となる車輪2,20との両輪に対して、それらの車輪2,20のキャンバ角の調整範囲を変更するように構成してもよい。
また、上記第1実施形態では、溝M2を有する一般的なタイヤが装着された車輪2を備える車両1に対し、車輪2に装着されたタイヤが所定の磨耗度以上となった場合に、車輪2のキャンバ角の調整範囲(制御範囲)を変更する構成とした。この第1実施形態と同様に、車輪20を備える第2実施形態の車両1(図6参照)に対しても、車輪20に装着されたタイヤが所定の磨耗度以上となった場合に、車輪20のキャンバ角の調整範囲を、高グリップ性能を有する第1トレッド21の接地比率が増加するキャンバ角の方向へ所定量だけ移動させた範囲に変更するように構成してもよい。車輪20に装着されたタイヤ2aが所定の磨耗度以上となった場合に、車輪20のキャンバ角の調整範囲を、高グリップ性能を有する第1トレッド21の接地比率が増加するキャンバ角の方向へ所定量だけ移動させた範囲とすることにより、タイヤ2aの磨耗により劣化したグリップ力を高度に回復(改善)することができ、制動性能や走行性能の悪化を好適に抑制することができる。
なお、グリップ性能の異なる2種類のトレッドを有するタイヤを装着した車輪20の磨耗状態を検出する場合には、高グリップ特性を有する第1トレッド21側の磨耗状態を検出することが好ましい。かかる第1トレッド21の磨耗状態に基づいて、車輪20のキャンバ角の調整範囲の変更を行うことにより、第1トレッド21の特性である高グリップ性能の低下による制動性能や走行性能の悪化を好適に抑制することができる。同様に、車輪20の劣化状態を検出する場合には、高グリップ特性を有する第1トレッド21側の劣化状態を検出することが好ましい。
また、各車輪20毎に、第1トレッド21と第2トレッド22との位置関係が異なっていてもよい。かかる場合には、第1トレッド21と第2トレッド22との位置関係に応じた方向にキャンバ角の調整範囲を変更(移動)するようにすればよい。
あるいは、上記第1実施形態で採用した車輪2又は上記第2実施形態で採用した車輪20に換え、図10に示すように、第1トレッド221、第2トレッド222及び第3トレッド223の3種類のトレッドを備える車輪200を使用する構成であってもよい。図10は、車輪200を備える車両1の上面視の模式図である。なお、この車両1は、車輪2又は車輪20が車輪200に置換されていること以外は、上記各実施形態と同様の構成であるので、車輪200以外の説明は省略する。
図10に示すように、車輪200において、第1トレッド221が車両1の内側に配置されると共に、第3トレッド223が車両1の外側に配置され、第2トレッド222が第1トレッド221と第3トレッド223との間に配置されている。ここで、車輪200は、第1トレッド221と第2トレッド222とが互いに異なる特性に構成され、第1トレッド221が第2トレッド222に比してグリップ力の高い特性に構成されている。また、第3トレッド223は、少なくとも第2トレッド222に比してグリップ力の高い特性に構成されている。なお、図10に示す例では、各トレッド221,222,223の幅寸法(図10左右方向寸法)が同一に構成されている。
かかる車輪200を採用し、車輪200のタイヤが所定の磨耗度以上又は所定の劣化度以上となった場合に、車輪200のキャンバ角の調整範囲を、マイナス方向、即ち、第1トレッド221の接地比率が増加するキャンバ角の方向へ変更することにより、車輪200がより高いグリップ力を発揮できる制御範囲を得ることができる。あるいは、車輪2にプラス方向(ポジティブキャンバ)のキャンバ角を付与可能な構成である場合には、プラス方向、即ち、第3トレッド223の接地比率が増加するキャンバ角の方向へ変更する構成としてもよい。
なお、各車輪200毎に、第1トレッド221と第2トレッド222と第3トレッド223の位置関係が異なっていてもよい。かかる場合には、これらのトレッド221,222,223の位置関係に応じた方向にキャンバ角の調整範囲を変更(移動)するようにすればよい。