請求項1記載の発明は、対物レンズを所定の移動可能領域で保持する保持手段と、対物レンズをトラッキング方向に駆動する駆動手段と、光ディスクからの反射光に基づいてトラッキングエラー信号を生成する信号処理手段と、トラッキングエラー信号に基づいて駆動手段を駆動してトラッキング制御を行うと共に、トラッキングエラー信号の波形の周期の大小を判断するための第1所定値と第1所定値より大きい第2所定値とを記憶する制御手段とを具備し、制御手段が、所定の移動可能領域の中央部に対物レンズを配置させ、トラッキングエラー信号の波形の周期を検出し、その周期が第1所定値以下になったときに、周期が第2所定値以上になるようにキック電圧を対物レンズ駆動手段に印加して、対物レンズのトラッキング制御を開始するものである。これにより、対物レンズの移動可能領域内での往復移動で、対物レンズを光ディスクの情報トラックに追従させられるので、対物レンズが光ディスクの情報トラックに追従するために対物レンズの移動可能領域を超えてしまいトラッキング制御ができなくなるという不都合を回避できる。そのため、光ディスクの情報トラックを形成する中心と光ディスクの機械的中心がずれている偏心ディスクに記録または再生する場合であっても、トラッキング制御開始直後の対物レンズの移動可能領域を減らすことなく、トラッキング制御の裕度を確保することが可能な光ディスク装置を実現することができる。
請求項2記載の発明は、トラッキングエラー信号の波形の周期に対応するキック電圧値を記憶する記憶手段を有し、制御手段が、記憶手段に記憶されているキック電圧値の中から、検出したトラッキングエラー信号の波形の周期に対応するキック電圧値を選択し、対物レンズ駆動手段に印加することを特徴とするものである。これにより、制御手段が演算処理をする必要がなくなるので、制御手段がキック電圧値を決定する際にかかる負荷を軽減することができる。
(実施の形態1)
本実施の形態1においては、トラッキングエラー信号の波形の周期をトラッキングエラー信号の周波数と言い換えて説明する。このため、トラッキングエラー信号の周波数が高くなる又は大きくなるとは、トラッキングエラー信号の波形の周期が小さくなることを意味し、トラッキングエラー信号の周波数が低くなる又は小さくなるとは、トラッキングエラー信号の波形の周期が大きくなることを意味する。
以下、本発明の実施の形態1について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施の形態1におけるトラッキング制御のブロック図である。図1において、1は光ディスク、2はピックアップモジュール、3はスピンドルモータ、4はレンズホルダ、4aは対物レンズ、5はキャリッジ、6はフィード部、7はフィードモータ、8はアナログ信号処理部、9はサーボ処理部、10はモータ駆動部、11は方向判別部、12はコントローラ、13はアクチュエータである。また、図1において、Aはピックアップモジュール2からアナログ信号処理部8に出力されるピックアップ出力信号、Bはアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号、Cはピックアップモジュール2からコントローラ12に出力されるスピンドルFG信号、Dはサーボ処理部9からコントローラ12に出力されるトラッククロス信号、Eはアナログ信号処理部8から方向判別部11に出力されるオフトラック信号、Fはコントローラ12からサーボ制御部9に出力される制御信号、Gはサーボ処理部9からモータ駆動部10に出力されるピックアップ制御信号、Hはモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号、Iは方向判別部11からコントローラ12に出力される移動方向信号、Jはコントローラ12からサーボ処理部9に出力されるレンズキック信号である。
ピックアップモジュール2は、光ディスク1を回転させるスピンドルモータ3と、光ディスク1の情報記録面にレーザ光を集光する対物レンズ4aと、キャリッジ5に対して移動可能に設けられ対物レンズ4aを保持するレンズホルダ4と、レンズホルダ4が搭載されたキャリッジ5を光ディスク1の半径方向に移動させるフィードモータ7を備えたフィード部6とによって構成されたものである。レンズホルダ4やキャリッジ5には、図示しないコイルやマグネット等が設けられており、コイルに電流を流すことによりレンズホルダ4をフォーカス方向やトラッキング方向に駆動するアクチュエータ13を構成している。対物レンズ4aは、レンズホルダ4を介して駆動される。
アナログ信号処理部8はピックアップモジュール2の内部の分割光センサ(図示せず)からの出力信号であるピックアップ出力信号Aを基に、対物レンズ4aのトラッキング制御を行うトラッキングエラー信号Bと光スポットが光ディスク1の記録トラック上に位置するか否かを示すオフトラック信号Eを生成し、それぞれサーボ処理部9と方向判別部11に出力する。
ここでトラッキングエラー信号Bは、光スポットと光ディスク1の情報トラックとの光ディスク1の半径方向のずれを示す。対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを横断すると正弦波状の波形が発生する。よってこのトラッキングエラー信号Bの1周期が発生することは光スポットが情報トラック1本を横断することに相当する。
サーボ処理部9は、アナログ信号処理部8からのトラッキングエラー信号Bを基に、対物レンズ4aのトラッキング動作やシーク動作の制御を行うピックアップ制御信号Gを生成し、モータ駆動部10に出力する。また、トラッキングエラー信号Bを2値化して、光スポットが横断した光ディスク1の情報トラックの数を示すトラッククロス信号Dを生成する。
モータ駆動部10は、サーボ処理部9から送られてきたピックアップ制御信号Gを基に、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに追従させるトラッキング動作と対物レンズ4aを目標の情報トラックに向って大きく移動させるシーク動作を行うための駆動信号であるピックアップ駆動信号Hを生成し、その信号を出力することにより、対物レンズ4aのトラッキング動作やシーク動作を行う。また、トラッキングエラー信号の低域成分を用いて対物レンズが概略中立位置を保持するようにフィード制御を行う。フィード部6はフィードモータ7、ギヤ(図示せず)、スクリューシャフト(図示せず)等から構成され、フィードモータ7を回転させることによってキャリッジ5が移動し、その際フィードモータ7よりフィードモータパルスが周期的に出力されるようになっている。
方向判別部11は、サーボ処理部9からトラッククロス信号Dを入力し、またアナログ信号処理部8からオフトラック信号Eを入力することで、トラッククロス信号Dとオフトラック信号Eの位相関係を判定することによって所望の情報トラックに対する対物レンズ4aの相対移動方向を示す移動方向信号Iを生成し、生成された移動方向信号Iをコントローラ12に出力する。
コントローラ12は本発明の制御手段を構成し、アナログ信号処理部8、サーボ処理部9、方向判別部11の各部から送られる信号が入力され、これらの信号の演算処理等を行い、この演算処理の結果(信号)を各部に送出し、各部にて駆動、処理を実行させ、各部の制御を行うものである。なお、詳細な説明や図示は省略するが、コントローラ12は、少なくとも、演算機能を備えたCPU、MPU等の演算処理装置や、ROM、RAM等の記憶部を備える。
本実施の形態1におけるコントローラ12は、トラッキングサーボ動作を開始する前にまず光ディスク1のトラック偏心量に応じてサーボ処理部9から出力されるトラッククロス信号Dの周波数を測定し、それが最大となるタイミングをピックアップモジュール2から入力されたスピンドルモータ3の回転位相角を示すスピンドルFG信号Cを基にトラッキング制御開始タイミングとして記憶する。すなわち、トラッキングエラー信号の周波数が最大近傍でトラッキング制御を開始することになる。言い換えれば、トラッキングエラー信号の波形の周期が最小近傍でトラッキング制御を開始することになる。そして、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数を所定値以下にするように対物レンズ4aの移動速度を加速するための方向判別部11から入力された移動方向信号Iに応じて極性が決定されたキック電圧を判定し、その判定したキック電圧をモータ駆動部10に印加できるようなレンズキック信号Jを生成する。次に、スピンドルFG信号Cからトラッキング制御開始タイミングが検出された時にレンズキック信号Jをサーボ処理部9に出力する。これにより、サーボ処理部9を介してモータ駆動部10に判定したキック電圧を印加するので、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキング制御開始可能な所定値以下にして、対物レンズのトラッキング制御を安定して開始することができる状態となる。そしてその直後に、対物レンズのトラッキング制御を開始する。
本実施の形態1においては、対物レンズ4aを所定の移動可能領域で保持する保持手段がキャリッジ5、対物レンズ4aをトラッキング方向に駆動する駆動手段がモータ駆動部10、光ディスク1からの反射光に基づいてトラッキングエラー信号Bを生成する信号処理手段がアナログ信号処理部8、トラッキングエラー信号Bに基づいて駆動手段を駆動してトラッキング制御を行う際に、所定の移動可能領域の中央部に対物レンズ4aを配置させ、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を検出し、その周期が所定値以下になったときにトラッキング制御を開始する制御手段がコントローラ12、光スポットが情報トラックを横断する方向を所定時間毎に判別して正または負の極性信号を出力する極性判定手段が方向判別部11である。
ここで、本実施の形態1におけるトラッキング制御を開始する時のトラッキングエラー信号の周波数が所定値とは固定値ではない。トラッキングエラー信号Bの周波数の最大値は、光ディスク1の偏心量が大きいと高くなり、偏心量が小さいと低くなるというように、トラックの偏心量に応じて変化するからである。最も好ましいのはトラッキングエラー信号Bの周波数の最大値近傍、すなわちトラッキングエラー信号Bの波形の周期が最小値近傍であるが、これに限るものではなく、トラッキングエラー信号Bの波形の周期において、その最大値と最小値との中間値以下に設定すればよい。このようにすることで、対物レンズ4aの移動可能領域内での往復運動で、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに確実に追従させることができる。対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数は、例えば単位時間を1ミリ秒とした場合は5本であるが、これに限定されるものではない。これらは光ディスク1のトラック間隔とトラッキング制御ゲイン等によってトラッキング制御が安定に開始出来るよう値に設定されることが好ましい。
図2は、本発明の実施の形態1におけるトラッキング制御開始前の各ブロックから出力される信号を示す図である。図2(a)はアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号Bを示す図であり、図2(b)はサーボ処理部9から方向判別部11に出力されるトラッククロス信号Dを示す図であり、図2(c)はアナログ信号処理部8から方向判別部11に出力されるオフトラック信号Eを示す図であり、図2(d)は方向判別部11からコントローラ12に出力される対物レンズ4aと所望の情報トラックの相対移動方向を示す図であり、図2(e)はピックアップモジュール2からサーボ処理部9とコントローラ12に出力されるスピンドルFG信号Cであり、図2(f)はモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号Hを示す図である。図2(a)〜図2(e)において、横軸は時間、縦軸は出力である。図2(f)において、横軸は時間、縦軸は対物レンズの位置を示す機械的中立位置に対する変位量である。
装着された光ディスク1の情報トラックに対する対物レンズ4aの位置情報を示すトラッキングエラー信号Bが図2(a)に示すものであった場合、トラッキングエラー信号Bを基に生成されサーボ処理部9から方向判別部11に出力されるトラッククロス信号Dは図2(b)に示すものとなり、ピックアップ出力信号Aを基に生成されアナログ信号処理部8から方向判別部11に出力されるオフトラック信号Eは図2(c)に示すものとなる。図2(b)に示すトラッククロス信号Dと図2(c)に示すオフトラック信号Eが、方向判別部11に入力されると、方向判別部11ではそれらの信号から図2(d)に示す移動方向信号Iを生成し、コントローラ12に出力する。コントローラ12では、入力された図2(b)に示すトラッククロス信号Dと図2(d)に示す移動方向信号Iと図2(e)に示すスピンドルFG信号Cからトラッククロス信号Dにパルスが立つ度に、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数と横断する方向を計算し、図2(f)に示す関係図を導き出す。
横断する数はトラッククロス信号Dのパルス間隔から算出し、横断する方向は移動方向信号Iのステータス状況から判断し、スピンドルFG信号Cの周期から光ディスク1の回転周期を判断する。横断する数の算出では、トラッキングエラー信号Bを2値化したトラッククロス信号Dのパルス間隔が大きいとトラッキングエラー信号Bの周波数が低いことを意味するため、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が小さいと判断し、またトラッキングエラー信号Bを2値化したトラッククロス信号Dのパルス間隔が少ないとトラッキングエラー信号Bの周波数が高いことを意味するため、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が多いと判断する。このように、制御手段が、光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキングエラー信号の周波数、すなわちトラッキングエラー信号の波形の周期に基づいて算出することによって、その横断する数を短時間で算出することができるので、制御手段がその横断する数を算出する際にかかる時間を短縮すると同時に精度を向上することができる。
ここで、コントローラ12には、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数、すなわちトラッキングエラー信号の波形の周期に対応するキック電圧値が予め記憶されており、その記憶されているキック電圧値の中からモータ駆動部10に印加するキック電圧値を選択する。このようにすることで、コントローラ12が演算処理をする必要がなくなるので、制御手段がキック電圧値を算出する際にかかる負荷を軽減することができる。
本実施の形態1では、コントローラ12が、所定時間毎に測定されるトラッキングエラー信号の周波数を方向判別部11からの出力に応じて極性を付加して複数算出し、その算出した複数の周波数とその周波数になるタイミングとの関係から図2(f)に示す近似曲線を求めて、その近似式からトラッキングエラー信号の周波数が正の最大の場合と負の最大の場合のそれぞれの場合に対応するキック電圧値とそのキック電圧を印加するタイミングを判定することによって、光スポットが情報トラックを横断する方向とトラッキングエラー信号が正の最大の場合と負の最大の場合のそれぞれに対応するキック電圧値とそのキック電圧を印加するタイミングの精度を上げることができるので、光スポットが横断する数を最小にする精度を向上することができる。言い換えれば、コントローラ12が、所定時間毎に測定されるトラッキングエラー信号の波形の周期を方向判別部11からの出力に応じて極性を付加して複数算出し、その算出した複数の周期と、その周期になるタイミングとの関係から図2(f)に示す近似曲線を求めて、その近似式からトラッキングエラー信号の波形の周期が正の最小の場合と負の最小の場合のそれぞれの場合に対応するキック電圧値とそのキック電圧を印加するタイミングを判定することによって、光スポットが情報トラックを横断する方向とトラッキングエラー信号が正の最小の場合と負の最小の場合のそれぞれに対応するキック電圧値とそのキック電圧を印加するタイミングの精度を上げることができるので、光スポットが横断する数を最小にする精度を向上することができる。
次に、キック電圧をモータ駆動部に印加するタイミングについて説明する。
図3は、本発明の実施の形態1におけるトラッキング制御開始時の各ブロックから出力される信号を示す図である。図3(a)はアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号Bを示す図であり、図3(b)はサーボ処理部9から方向判別部11に出力されるトラッククロス信号Dを示す図であり、図3(c)はアナログ信号処理部8から方向判別部11に出力されるオフトラック信号Eを示す図であり、図3(d)は方向判別部11からコントローラ12に出力される対物レンズ4aと情報トラックの相対移動方向を示す図であり、図3(e)はピックアップモジュール2からサーボ処理部9とコントローラ12に出力されるスピンドルFG信号Cであり、図3(f)はモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号Hを示す図であり、図3(g)は対物レンズの可動範囲に対する位置を示す図であり、図3(h)は対物レンズの機械的中立位置に対する変位量を示す図である。図3(a)〜図3(f)において、横軸は時間、縦軸は出力である。また図3(g)において、横軸は時間、縦軸は対物レンズの位置を示し図3(h)に示す対物レンズの機械的中立位置に対する変位量に対応し、Lpmは移動可能な範囲の上限、Lpnは移動可能な範囲の下限、Lmaxは可動制御範囲上限、Lminは可動制御範囲下限である。また、図3(h)において、4はレンズホルダ、4aは対物レンズ、5はキャリッジである。
図3(a)に示すトラッキングエラー信号において、その周波数がタイミングKで所定値以上であるとすると、そのタイミングKで対物レンズ4aのトラッキング制御を開始する。このとき、対物レンズ4aは、キャリッジ5における対物レンズ4aを保持する所定の移動可能領域の中央部に配置されている。本実施の形態1における所定の移動可能領域とは、可動制御範囲上限Lmaxと可動制御範囲下限Lminであり、移動可能領域の中央部とは、機械的中立位置となる。
トラッキングエラー信号Bの周波数は、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数と比例関係にあり、トラッキングエラー信号Bの周波数が最も大きいときが、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が最も多いときになる。コントローラ12が、対物レンズ4aにより形成される光スポットの情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキングエラー信号Bの周波数に基づいて算出することによって、光スポットの情報トラックを単位時間当たりに横断する数を容易に算出することができるので、コントローラ12がその横断する数を算出する際にかかる負荷を低減することができる。言い換えれば、コントローラ12が、対物レンズ4aにより形成される光スポットの情報トラックを単位時間当たりに横断する数を、トラッキングエラー信号Bの波形の周期に基づいて算出することによって、光スポットの情報トラックを単位時間当たりに横断する数を容易に算出することができるので、コントローラ12がその横断する数を算出する際にかかる負荷を低減することができる。
通常、対物レンズ4aにより形成される光スポットが、情報トラックを横断する数が多くなる場合には、トラッキング制御を開始するのが困難になる。
ところが本発明においては、トラッキング制御を開始するタイミングK直前に、対物レンズ4aにより形成される光スポットが、単位時間当たりに横断する数を所定値以下にできるように対物レンズ4aの移動速度を加速するキック電圧をモータ駆動部10に印加して図3(f)に示すピックアップ駆動信号Hを生成し、その信号を基に対物レンズ4aの移動制御を行うことで、対物レンズ4aにより形成される光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキング制御開始可能な所定値以下にできるので、対物レンズ4aのトラッキング制御を開始することができる。このように、対物レンズ4aは、キャリッジ5における対物レンズ4aを保持する所定の移動可能領域の中央部に配置して、対物レンズ4aを光ディスク1の半径方向に位置制御するトラッキングエラー信号の周波数が所定値以上のとき、つまりトラッキングエラー信号の波形の周期が所定値以下のときに対物レンズ4aのトラッキング制御を開始することによって、対物レンズ4aの機械的な可動範囲、すなわち図3(g)に示す移動可能な範囲の上限Lpmから移動可能な範囲の下限Lpnまでにおける中心と対物レンズ4aの可動制御、すなわち可動制御範囲上限Lmaxから可動制御範囲下限Lminまでにおける中心を近づけることができ、対物レンズ4aのトラッキング制御開始直後の可動距離を小さくできるので、トラッキング制御開始直後の制御可能範囲を広げることができる。このため、対物レンズ4aのトラッキング制御を開始するトラッキングエラー信号の周波数は高いほど好ましい。
このようにして、トラッキング制御開始直後の制御可能範囲を広げることができると、対物レンズ4aの移動可能領域内での往復移動で、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに追従させられるので、対物レンズ4aが光ディスク1の情報トラックに追従するために対物レンズ4aの移動可能領域を超えてしまいトラッキング制御ができなくなるという不都合を回避できる。
本実施の形態1においては、コントローラ12がトラッキングエラー信号の周波数が最大の場合に対応するキック電圧をモータ駆動部10に印加する。これにより、形成される光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数を最小にできるので、対物レンズ4aのトラッキング制御を容易に開始することができる。言い換えれば、コントローラ12がトラッキングエラー信号の波形の周期が最小の場合に対応するキック電圧をモータ駆動部10に印加することで、形成される光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数を最小にできるので、対物レンズ4aのトラッキング制御を容易に開始することができる。
次に、トラッキング制御を開始する動作について説明する。本実施の形態1では、所定時間毎に異なるトラッキングエラー信号の周波数を複数算出し、その算出した周期とその周期になるタイミングとの関係を近似式にして、その近似式からトラッキングエラー信号の波形の周期が、正の最小の場合、負の最小の場合、それぞれの場合に対応するキック電圧値とそのキック電圧を印加するタイミングを決定する場合について説明する。
図4は、本発明の実施の形態1におけるトラッキング制御を開始する動作を示すフローチャートである。
光ディスク1に対して記録もしくは再生を行うためにトラッキング制御を開始する指示がでると、コントローラ12はFG位相基準タイマをリセットする(S101)。その後FG位相基準タイマをスタートし(S102)、光ディスク1の回転周期を把握する。そして、コントローラ12は入力されるトラッククロス信号Dの1つのパルスに対するトラッククロス周期T(k)を測定し(S103)、FG位相基準タイマの基準時刻に対するトラッククロス信号Dのパルスが入力される時刻を算出する(S104)。
Φ(k)=t・・・(式1)
ここで、時間tは図2(f)の横軸に示す時間であり、トラッククロス周期T(k)はFG位相基準タイマの基準時刻0以降に入力されたk番目のパルスの周期を意味し、Φ(k)はFG位相基準タイマの基準時刻0以降に入力されたk番目のパルスの基準時刻に対する時刻を意味する。
また、トラッククロス周期T(k)の逆数をとることにより、トラッキングエラー信号の周波数v(k)の検出を行う(S105)。ここで、トラッキングエラー信号の周波数は、形成された光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数に相当する。
v(k)=1/T(k)・・・(式2)
コントローラ12は、入力される移動方向信号Iから対物レンズ4aの情報トラックに対する移動方向を特定する(S106)。対物レンズ4aの情報トラックに対する移動方向が+であればv(k)の極性はそのままとして、対物レンズ4aの情報トラックに対する移動方向が+でなければv(k)の極性は−とする(S107)。
v(k)=−1/T(k)・・・(式3)
その後、v(k)とΦ(k)をメモリに保存して(S108)、光ディスク1が1回転するまで、(S103)〜(S109)のステップを繰り返す。光ディスク1が1回転すると、メモリに保存されたΦ(k)を横軸、v(k)を縦軸にとることで、それぞれのパルスにおけるΦ(k)とv(k)の関係を図2(f)に示すように保持する。そして、保持されたΦ(k)とv(k)の関係から対物レンズ4aにより形成される光スポットが横断する数に対する位相タイミングで正弦波近似を行い、近似式f(k)を求める(S110)。求めた近似式f(k)から図2(f)に示す正の最大値vkmとそのときの位相タイミングkm、負の最大値vknとそのときの位相タイミングknを求める(S111)。
それから、光ディスク1の回転周期tがkmになる(S112)あるいはknになる(S114)タイミングを待つ。光ディスク1の回転周期tがkmになるタイミングが先にくるとキック電圧Vkを、
Vk=α・vkm (α:任意の値)・・・(式4)
に設定し(S113)、対物レンズ4aの移動速度を加速するレンズキックパルスを出力する(S116)。また、光ディスク1の回転周期tがknになるタイミングが先にくるとキック電圧Vkを、
Vk=α・vkn (α:任意の値)・・・(式5)
に設定し(S115)、対物レンズ4aの移動速度を加速するレンズキックパルスを出力する(S116)。
その後すぐ、トラッキングサーボをONする(S117)。
このように、光スポットが情報トラックを横断する方向を所定時間毎に判別して正または負の極性信号を出力する方向判別部11を備え、コントローラ12が、所定時間毎にトラッキングエラー信号をサンプリングし、サンプリング値の各々に方向判別部11から出力された極性を付加し、極性を付加されたサンプリング値に基づいてトラッキングエラー信号の波形の周期を算出し、トラッキングエラー信号の波形の周期が正の最小の場合と負の最小の場合のそれぞれに対応するキック電圧値を検出できるので、光スポットが横断する数を最小にする精度を向上することができる。
また、コントローラ12がキック電圧を印加するタイミングをスピンドルモータ3の回転角度を基準にして計算することによって、トラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以上であるタイミングを1度保持すると、そのタイミングをスピンドルモータ3の回転角度に応じて周期的に検出することが可能になるので、安定してかつ短時間にトラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以上であるタイミングを検出することができる。言い換えると、コントローラ12がキック電圧を印加するタイミングをスピンドルモータ3の回転開始から光ディスクが所定の回転角度を回転したタイミングを基準にして計算することによって、トラッキングエラー信号Bの波形の周期が所定値以下であるタイミングを1度保持すると、そのタイミングをスピンドルモータ3の回転角度に応じて周期的に検出することが可能になるので、安定してかつ短時間にトラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以下であるタイミングを検出することができる。
以上の内容により、コントローラ12が、所定の移動可能領域の中央部に対物レンズ4aを配置させ、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を検出し、その周期が所定値以下になったときにトラッキング制御を開始することによって、対物レンズ4aの移動可能領域内での往復移動で、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに追従させられるので、対物レンズ4aの移動可能領域を超えなければ、対物レンズ4aが光ディスク1の情報トラックに追従できず、その結果トラッキング制御ができなくなるという不都合を回避できる。そのため、光ディスク1の情報トラックを形成する中心と光ディスク1の機械的中心がずれている偏心ディスクに記録または再生する場合であっても、トラッキング制御開始直後の対物レンズ4aの移動可能領域を減らすことなく、トラッキング制御の裕度を確保することが可能な光ディスク装置およびそのトラッキング制御方法を実現することができる。
(実施の形態2)
本実施の形態2においては、トラッキングエラー信号の波形の周期をトラッキングエラー信号の周波数と言い換えて説明する。このため、トラッキングエラー信号の周波数が高くなる又は大きくなるとはトラッキングエラー信号の波形の周期が小さくなることを意味し、トラッキングエラー信号の周波数が低くなる又は小さくなるとはトラッキングエラー信号の波形の周期が大きくなることを意味する。
以下、本発明の実施の形態2について図面を参照しながら説明する。本実施の形態2では、トラッキングエラー信号の波形の周期を算出し、その算出した周期を保持し、次に算出した周期が前記保持した周期より大きい場合には保持した周期を維持し、次に算出した周期がその保持した周期より小さい場合には、その保持した周期に代えて次に算出した周期を保持し、最後まで保持されていた周期に対応するキック電圧とキック電圧を印加するタイミングを判定する場合について説明する。
本実施の形態2における光ディスク全体の構成は、図1に示す実施の形態1と同様である。本実施の形態2においては、対物レンズ4aを所定の移動可能領域で保持する保持手段がキャリッジ5、対物レンズ4aをトラッキング方向に駆動する駆動手段がモータ駆動部10、光ディスク1からの反射光に基づいてトラッキングエラー信号Bを生成する信号処理手段がアナログ信号処理部8、トラッキングエラー信号Bに基づいて駆動手段を駆動してトラッキング制御を行う際に、所定の移動可能領域の中央部に対物レンズ4aを配置させ、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を検出し、その周期が所定値以下になったときにトラッキング制御を開始する制御手段がコントローラ12である。
次に、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数を算出する方法と算出した横断する数に対応してモータ駆動部10に印加するキック電圧の決定方法について説明する。
図5は、本発明の実施の形態2におけるトラッキング制御開始前の各ブロックから出力される信号を示す図である。図5(a)はアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号Bを示す図であり、図5(b)はサーボ処理部9から方向判別部11に出力されるトラッククロス信号Dを示す図であり、図5(c)はアナログ信号処理部8から方向判別部11に出力されるオフトラック信号Eを示す図であり、図5(d)は方向判別部11からコントローラ12に出力される対物レンズ4aと所望の情報トラック101の相対移動方向を示す図であり、図5(e)はピックアップモジュール2からサーボ処理部9とコントローラ12に出力されるスピンドルFG信号Cであり、図5(f)はモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号Hを示す図であり、図5(f)は対物レンズ4aの可動範囲に対する位置とピックアップ駆動信号Hの関係を示す図である。図5(a)〜図5(e)において、横軸は時間、縦軸は出力である。また図5(f)において、横軸は時間、縦軸は対物レンズ4aの位置を示す機械的中立位置に対する変位量である。
装着された光ディスク1の情報トラックに対する対物レンズ4aの位置情報を示すトラッキングエラー信号Bが図5(a)に示すものであった場合、トラッキングエラー信号Bを基に生成されサーボ処理部9から方向判別部11に出力されるトラッククロス信号Dは図5(b)に示すものとなり、ピックアップ出力信号Aを基に生成されアナログ信号処理部8から方向判別部11に出力されるオフトラック信号Eは図5(c)に示すものとなる。図5(b)に示すトラッククロス信号Dと図5(c)に示すオフトラック信号Eが方向判別部11に入力されると、方向判別部11ではそれらの信号から図5(d)に示す移動方向信号Iを生成し、コントローラ12に出力する。コントローラ12では、入力された図5(b)に示すトラッククロス信号Dと図5(d)に示す移動方向信号Iと図5(e)に示すスピンドルFG信号Cから図5(f)に示すトラッククロス信号Dにパルスが立つ度に、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数と横断する方向を計算し、図5(f)に示す関係図を導き出す。
横断する数はトラッククロス信号Dのパルス間隔から算出し、横断する方向は移動方向信号Iのステータス状況から判断し、スピンドルFG信号Cの周期から光ディスク1の回転周期を判断する。横断する数の算出では、トラッキングエラー信号Bを2値化したトラッククロス信号Dのパルス間隔が大きいとトラッキングエラー信号Bの周波数が低いことを意味し、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が小さいと判断し、またトラッキングエラー信号Bを2値化したトラッククロス信号Dのパルス間隔が少ないとトラッキングエラー信号Bの周波数が高いことを意味し、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が多いと判断する。このように、制御手段が、光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキングエラー信号Bの周波数、すなわちトラッキングエラー信号Bの波形の周期に基づいて算出することによって、その横断する数を短時間で算出することができるので、制御手段がその横断する数を算出する際にかかる時間を短縮すると同時に精度を向上することができる。
ここで、コントローラ12には、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラック101を単位時間当たりに横断する数、すなわちトラッキングエラー信号Bの波形の周期に対応するキック電圧値が予め記憶されており、その記憶されているキック電圧値の中からモータ駆動部10に印加するキック電圧値を選択する。このようにすることで、コントローラ12が演算処理をする必要がなくなるので、制御手段がキック電圧値を算出する際にかかる負荷を軽減することができる。
本実施の形態2では、コントローラ12が、トラッキングエラー信号Bの周波数を算出し、その算出した周波数を保持し、次に算出した周波数がその保持した周波数より小さい場合には保持した周波数を維持し、次に算出した周波数が保持した周波数より大きい場合にはその保持した周波数に代えて次に算出した周波数を保持し、所定回転数保持された周波数に対応するキック電圧とそのキック電圧を印加するタイミングを判定する。言い換えると、コントローラ12が、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を算出し、その算出した周期を保持し、次に算出した周期がその保持した周期より大きい場合には保持した周期を維持し、次に算出した周期が保持した周期より小さい場合にはその保持した周期に代えて次に算出した周期を保持し、所定回転数保持された周期に対応するキック電圧とそのキック電圧を印加するタイミングを判定する。このようにすることで、モータ駆動部10に印加するキック電圧とキック電圧を印加するタイミングを容易な構成で決定できるので、制御手段がキック電圧値とキック電圧を印加するタイミングを算出する際にかかる負荷を軽減することができる。ここで、時間毎に複数算出されるキック電圧は、図5(a)に示すトラッキングエラー信号Bの周期から算出されるものである。
次に、キック電圧をモータ駆動部10に印加するタイミングについて説明する。
図6は、本発明の実施の形態2におけるトラッキング制御開始時の各ブロックから出力される信号を示す図である。図6(a)はアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号Bを示す図であり、図6(b)はサーボ処理部9から方向判別部11に出力されるトラッククロス信号Dを示す図であり、図6(c)はアナログ信号処理部8から方向判別部11に出力されるオフトラック信号Eを示す図であり、図6(d)は方向判別部11からコントローラ12に出力される対物レンズ4aと情報トラックの相対移動方向を示す図であり、図6(e)はピックアップモジュール2からサーボ処理部9とコントローラ12に出力されるスピンドルFG信号Cであり、図6(f)はモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号Hを示す図であり、図6(g)は対物レンズ4aの可動範囲に対する位置を示す図であり、図6(h)は対物レンズ4aの機械的中立位置に対する変位量を示す図である。図6(a)〜図6(f)において、横軸は時間、縦軸は出力である。また図6(g)において、横軸は時間、縦軸は対物レンズ4aの位置を示し図6(h)に示す対物レンズ4aの機械的中立位置に対する変位量に対応し、Lpmは移動可能な範囲の上限、Lpnは移動可能な範囲の下限、Lmaxは可動制御範囲上限、Lminは可動制御範囲下限である。また、図6(h)において、4はレンズホルダ、4aは対物レンズ、5はキャリッジである。
図6(a)に示すトラッキングエラー信号Bにおいて、その周波数がタイミングLで最も高いとすると、そのタイミングLで対物レンズ4aのトラッキング制御を開始する。このとき、対物レンズ4aは、キャリッジ5における対物レンズ4aを保持する所定の移動可能領域の中央部に配置されている。本実施の形態2における所定の移動可能領域とは、可動制御範囲上限Lmaxと可動制御範囲下限Lminであり、移動可能領域の中央部とは、機械的中立位置となる。
トラッキングエラー信号Bの周波数は、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数と比例関係にあり、トラッキングエラー信号の周波数が最も大きいときが、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が最も多いときになる。コントローラ12が、対物レンズ4aにより形成される光スポットの情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキングエラー信号Bの周波数に基づいて算出することによって、光スポットの情報トラックを単位時間当たりに横断する数を容易に算出することができるので、コントローラ12がその横断する数を算出する際にかかる負荷を低減することができる。言い換えれば、コントローラ12が、対物レンズ4aにより形成される光スポットの情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキングエラー信号Bの波形の周期に基づいて算出することによって、光スポットの情報トラックを単位時間当たりに横断する数を容易に算出することができるので、コントローラ12がその横断する数を算出する際にかかる負荷を低減することができる。
通常、対物レンズ4aにより形成される光スポットが、情報トラックを横断する数が多くなる場合にはトラッキング制御を開始するのが困難になる。
ところが本発明においては、トラッキング制御を開始するタイミングL直前に、対物レンズ4aにより形成される光スポットが、単位時間当たりに横断する数を所定値以下にできるように対物レンズ4aの移動速度を加速するキック電圧をモータ駆動部10に印加して図6(f)に示すピックアップ駆動信号Hを生成し、その信号を基に対物レンズ4aの移動制御を行うことで、対物レンズ4aにより形成される光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキング制御開始可能な所定値以下にできるので、対物レンズ4aのトラッキング制御を開始することができる。このように、対物レンズ4aは、キャリッジ5における対物レンズ4aを保持する所定の移動可能領域の中央部に配置して、対物レンズ4aを光ディスク1の半径方向に位置制御するトラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以上のとき、つまりトラッキングエラー信号Bの波形の周期が所定値以下のときに対物レンズ4aのトラッキング制御を開始することによって、対物レンズ4aの機械的な可動範囲、すなわち図6(g)に示す移動可能な範囲の上限Lpmから移動可能な範囲の下限Lpnまでにおける中心と対物レンズ4aの可動制御、すなわち可動制御範囲上限Lmaxから可動制御範囲下限Lminまでにおける中心を近づけることができ、対物レンズ4aのトラッキング制御開始直後の可動距離を小さくできるので、トラッキング制御開始直後の制御可能範囲を広げることができる。このため、対物レンズ4aのトラッキング制御を開始するトラッキングエラー信号Bの周波数は高いほど好ましい。
このようにして、トラッキング制御開始直後の制御可能範囲を広げることができると、対物レンズ4aの移動可能領域内での往復移動で、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに追従させられるので、対物レンズ4aが光ディスク1の情報トラックに追従するために対物レンズ4aの移動可能領域を超えてしまいトラッキング制御ができなくなるという不都合を回避できる。
本実施の形態2においても、本実施の形態1と同様に、コントローラ12がトラッキングエラー信号Bの周波数が最大の場合に対応するキック電圧をモータ駆動部10に印加する。これにより、形成される光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数を最小にできるので、対物レンズ4aのトラッキング制御を容易に開始することができる。言い換えれば、コントローラ12がトラッキングエラー信号Bの波形の周期が最小の場合に対応するキック電圧をモータ駆動部10に印加することで、形成される光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数を最小にできるので、対物レンズ4aのトラッキング制御を容易に開始することができる。
次に、トラッキング制御を開始する動作について説明する。本実施の形態2では、トラッキングエラー信号の周波数を算出し、その算出した周波数を保持し、次に算出した周波数が前記保持した周波数より小さい場合には保持した周波数を維持し、次に算出した周期がその保持した周期より大きい場合にはその保持した周波数に代えて次に算出した周波数を保持し、所定回転数保持された周波数に対応するキック電圧とキック電圧を印加するタイミングを判定する場合について説明する。
図7は、本発明の実施の形態2におけるトラッキング制御を開始する動作を示すフローチャートである。
光ディスク1に対して記録もしくは再生を行うためにトラッキング制御を開始する指示がでると、コントローラ12は、トラッキングエラー信号Bの周波数を保持するvmax、vminの初期化を行い(S201)、FG位相基準タイマをリセットする(S202)。ここで、トラッキングエラー信号Bの周波数は、形成された光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数に相当する。その後FG位相基準タイマをスタートし(S203)、光ディスク1の回転周期を把握する。そして、コントローラ12は入力されるトラッククロス信号Dの1つのパルスに対するトラッククロス周期T(k)を測定し(S204)、FG位相基準タイマの基準時刻に対するトラッククロス信号Dのパルスが入力される時刻を算出する。トラッククロス周期T(k)はFG位相基準タイマの基準時刻0以降に入力されたk番目のパルスの周期を意味し、トラッククロス周期T(k)の逆数をとることにより、トラッキングエラー信号の周波数v(k)の検出を行う(S205)。
v(k)=1/T(k)・・・(式6)
コントローラ12は入力される移動方向信号Iから対物レンズ4aの情報トラックに対する移動方向を特定する(S206)。対物レンズ4aの情報トラックに対する移動方向が+であればv(k)の極性はそのままとして、対物レンズ4aの情報トラックに対する移動方向が+でなければv(k)の極性は−とする(S207)。
v(k)=−1/T(k)・・・(式7)
ここで、算出したv(k)とメモリに保存されているvmaxとを比較し(S208)、算出したv(k)がvmaxより大きければメモリに保存されているvmaxをv(k)に置き換えて保存し(S209)、同時に周波数v(k)の光ディスク1の回転周期kにおける時刻Tmを保存する(S210)。また、算出したv(k)とメモリに保存されているvmaxとを比較し(S208)、算出したv(k)がvmax以下である場合には算出したv(k)と保存されているVminを比較し(S211)、算出したv(k)がvminより小さければメモリに保存されているvminをv(k)に置き換えて保存し(S212)、同時に周波数v(k)の光ディスク1の回転周期kにおける時刻Tnを保存する(S213)。
その後、光ディスクが1回転するまで、(S204)〜(S214)のステップを繰り返す。
それから、光ディスク1の回転周期kがTmになる(S215)あるいはTnになる(S217)タイミングを待つ。光ディスク1の回転周期kがTmになるタイミングが先にくるとキック電圧Vkを、
Vk=α・vmax (α:任意の値)・・・(式8)
に設定し(S216)、レンズキックパルスを出力する(S219)。
また、光ディスク1の回転周期kがTnになるタイミングが先にくるとキック電圧Vkを、
Vk=α・Vmin (α:任意の値)・・・(式9)
に設定し(S218)、レンズキックパルスを出力する(S219)。
その後すぐ、トラッキングサーボをONする(S220)。
このように、コントローラ12が、トラッキングエラー信号Bの周波数を算出し、その算出した周波数を保持し、次に算出した周波数が保持した周波数より小さい場合には保持した周波数を維持し、次に算出した周波数がその保持した周波数より大きい場合にはその保持した周波数に代えて次に算出した周波数を保持し、所定回転数保持された周波数に対応するキック電圧とキック電圧を印加するタイミングを判定することによって、モータ駆動部10に印加するキック電圧とそのキック電圧を印加するタイミングを容易な構成で決定できるので、コントローラ12がキック電圧値とキック電圧を印加するタイミングを算出する際にかかる負荷を軽減することができる。言い換えれば、コントローラ12が、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を算出し、その算出した周期を保持し、次に算出した周期が保持した周期より大きい場合には保持した周期を維持し、次に算出した周期がその保持した周期より小さい場合にはその保持した周期に代えて次に算出した周期を保持し、所定回転数保持された周期に対応するキック電圧とキック電圧を印加するタイミングを判定することによって、モータ駆動部10に印加するキック電圧とそのキック電圧を印加するタイミングを容易な構成で決定できるので、コントローラ12がキック電圧値とキック電圧を印加するタイミングを算出する際にかかる負荷を軽減することができる。
また、コントローラ12がキック電圧を印加するタイミングをスピンドルモータ3の回転開始から所定の回転角度を回転したタイミングを基準にして計算することによって、トラッキング制御信号の周波数が所定値以上であるタイミングを1度保持すると、そのタイミングをスピンドルモータ3の回転角度に応じて周期的に検出することが可能になるので、安定してかつ短時間に制御信号の周波数が所定値以上であるタイミングを検出することができる。言い換えると、コントローラ12がキック電圧を印加するタイミングをスピンドルモータ3の回転開始から所定の回転角度を回転したタイミングを基準にして計算することによって、トラッキングエラー信号Bの波形の周期が所定値以下であるタイミングを1度保持すると、そのタイミングをスピンドルモータ3の回転角度に応じて周期的に検出することが可能になるので、安定してかつ短時間にトラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以下であるタイミングを検出することができる。
以上の内容により、コントローラ12が、所定の移動可能領域の中央部に対物レンズ4aを配置させ、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を検出し、その周期が所定値以下になったときにトラッキング制御を開始することによって、対物レンズ4aの移動可能領域内での往復移動で、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに追従させられるので、対物レンズ4aが光ディスク1の情報トラックに追従するために対物レンズ4aの移動可能領域を超えてしまいトラッキング制御ができなくなるという不都合を回避できる。そのため、光ディスク1の情報トラックを形成する中心と光ディスク1の機械的中心がずれている偏心ディスクに記録または再生する場合であっても、トラッキング制御開始直後の対物レンズ4aの移動可能領域を減らすことなく、トラッキング制御の裕度を確保することが可能な光ディスク装置およびそのトラッキング制御方法を実現することができる。
(実施の形態3)
本実施の形態3においては、トラッキングエラー信号の波形の周期をトラッキングエラー信号の周波数と言い換えて説明する。このため、トラッキングエラー信号の周波数が高くなる又は大きくなるとはトラッキングエラー信号の波形の周期が小さくなることを意味し、トラッキングエラー信号の周波数が低くなる又は小さくなるとはトラッキングエラー信号の波形の周期が大きくなることを意味する。
以下、本発明の実施の形態3について図面を参照しながら説明する。本実施の形態2では、トラッキングエラー信号の波形の周期を算出し、その算出した周期を保持し、次に算出した周期がその保持した周期より大きい場合には保持した周期を維持し、次に算出した周期がその保持した周期より小さい場合にはその保持した周期に代えて次に算出した周期を保持し、所定回転数保持された周期に対応するキック電圧とキック電圧を印加するタイミングを判定する場合で、方向判別部を用いない場合について説明する。
図8は、本発明の実施の形態3におけるトラッキング制御のブロック図である。図8において、1は光ディスク、2はピックアップモジュール、3はスピンドルモータ、4はレンズホルダ、4aは対物レンズ、5はキャリッジ、6はフィード部、7はフィードモータ、8はアナログ信号処理部、9はサーボ処理部、10はモータ駆動部、12はコントローラである。また、図8において、Aはピックアップモジュール2からアナログ信号処理部8に出力されるピックアップ出力信号、Bはアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号、Cはピックアップモジュール2からコントローラ12に出力されるスピンドルFG信号、Dはサーボ処理部9からコントローラ12に出力されるトラッククロス信号、Eはピックアップモジュール8からサーボ処理部9に出力されるオフトラック信号、Fはコントローラ12からサーボ処理部9に出力される制御信号、Gはサーボ処理部9からモータ駆動部10に出力されるピックアップ制御信号、Hはモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号である。Jはコントローラ12からサーボ処理部9に出力されるレンズキック信号である。
ピックアップモジュール2は、光ディスク1を回転させるスピンドルモータ3と、光ディスク1の情報記録面にレーザ光を集光する対物レンズ4aと、キャリッジ5に対して移動可能に設けられ対物レンズ4aを保持するレンズホルダ4と、レンズホルダ4が搭載されたキャリッジ5を光ディスク1の半径方向に移動させるフィードモータ7を備えたフィード部6とによって構成されたものである。レンズホルダ4やキャリッジ5には、図示しないコイルやマグネット等が設けられており、コイルに電流を流すことによりレンズホルダ4をフォーカス方向やトラッキング方向に駆動するアクチュエータ13を構成している。対物レンズ4aは、レンズホルダ4を介して駆動される。
アナログ信号処理部8はピックアップモジュール2の内部の分割光センサ(図示せず)からの出力信号であるピックアップ出力信号Aを基に、対物レンズ4aのトラッキング制御を行うトラッキングエラー信号Bと光スポットが光ディスク1の記録トラック上に位置するか否かを示すオフトラック信号Eを生成し、それぞれサーボ処理部9に出力する。
ここでトラッキングエラー信号Bは、光スポットと光ディスク1の情報トラックとの光ディスク1の半径方向のずれを示す。対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを横断すると正弦波状の波形が発生する。よってこのトラッキングエラー信号Bの1周期が発生することは光スポットが情報トラック1本を横断することに相当する。
サーボ処理部9は、アナログ信号処理部8からのトラッキングエラー信号Bを基に、対物レンズ4aのトラッキング動作やシーク動作の制御を行うピックアップ制御信号Gを生成し、モータ駆動部10に出力する。また、シーク動作時には、トラッキングエラー信号Bを基に対物レンズ4aにより形成される光スポットが横断した光ディスク1の情報トラックの数を示すトラッククロス信号Dを生成する。ここでトラッキングエラー信号Bは、光スポットと光ディスク1の情報トラックとの光ディスク1の半径方向のずれを示す。
モータ駆動部10は、サーボ処理部9から送られてきたピックアップ制御信号Gを基に、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに追従させるトラッキング動作と対物レンズ4aを目標の情報トラックに向って大きく移動させるシーク動作を行うための駆動信号であるピックアップ駆動信号Hを生成し、その信号を出力することにより、対物レンズ4aのトラッキング動作やシーク動作を行う。また、トラッキングエラー信号Bの低域成分を用いて対物レンズ4aが概略中立位置を保持するようにフィード制御を行う。フィード部6はフィードモータ7、ギヤ(図示せず)、スクリューシャフト(図示せず)等から構成され、フィードモータ7を回転させることによってキャリッジ5が移動し、その際フィードモータ7よりフィードモータパルスが周期的に出力されるようになっている。
コントローラ12は本発明の制御手段を構成し、アナログ信号処理部8、サーボ処理部9の各部から送られる信号が入力され、これらの信号の演算処理等を行い、この演算処理の結果(信号)を各部に送出し、各部にて駆動、処理を実行させ、各部の制御を行うものである。なお、詳細な説明や図示は省略するが、コントローラ12は、少なくとも、演算機能を備えたCPU、MPU等の演算処理装置や、ROM、RAM等の記憶部を備える。
本実施の形態3におけるコントローラ12は、ピックアップモジュール2から入力されたスピンドルモータ3の回転速度を示すスピンドルFG信号Cから、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数を所定値以下にするように対物レンズ4aの移動速度を加速するキック電圧を判定する。そして、その判定したキック電圧をモータ駆動部10に印加できるようなレンズキック信号Jを生成し、そのレンズキック信号Jをトラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以上のときにサーボ処理部9に出力することで、サーボ処理部9を介してモータ駆動部10に判定したキック電圧を印加する。そしてその直後に、対物レンズ4aのトラッキング制御を開始する。このようにすることで、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキング制御開始可能な所定値以下にできるので、対物レンズ4aのトラッキング制御を安定して開始することができる。
本実施の形態3においても、本実施の形態1または本実施の形態2と同様に、対物レンズ4aを所定の移動可能領域で保持する保持手段がキャリッジ5、対物レンズ4aをトラッキング方向に駆動する駆動手段がモータ駆動部10、光ディスク1からの反射光に基づいてトラッキングエラー信号Bを生成する信号処理手段がアナログ信号処理部8、トラッキングエラー信号Bに基づいて駆動手段を駆動してトラッキング制御を行う際に、所定の移動可能領域の中央部に対物レンズ4aを配置させ、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を検出し、その周期が所定値以下になったときにトラッキング制御を開始する制御手段がコントローラ12である。
ここで、本実施の形態3におけるトラッキング制御を開始する時のトラッキングエラー信号Bの周波数が所定値とは固定値ではない。トラッキングエラー信号Bの周波数の最大値は、光ディスク1の偏心量が大きいと高くなり、偏心量が小さいと低くなるというように、トラックの偏心量に応じて変化するからである。最も好ましいのはトラッキングエラー信号Bの周波数の最大値近傍であるが、すなわちトラッキングエラー信号Bの波形の周期が最小値近傍であるが、これに限るものではなく、トラッキングエラー信号Bの波形の周期において、その最大値とトラッキングエラー信号Bの波形の最小値との中間値以下に設定すればよい。このようにすることで、対物レンズの移動可能領域内での往復運動で、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに確実に追従させることができる。対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数は、例えば単位時間を1ミリ秒とした場合は5本であるが、これに限定されるものではない。これらは光ディスク1のトラック間隔とトラッキング制御ゲイン等によってトラッキング制御が安定に開始出来るよう値に設定されることが好ましい。
次に、対物レンズが光ディスクの情報トラックを単位時間当たりに横断する数を算出する方法と、その算出した数に対応してモータ駆動部に印加するキック電圧の決定方法について説明する。
図9は、本発明の実施の形態3におけるトラッキング制御開始前の各ブロックから出力される信号を示す図である。図9(a)はアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号Bを示す図であり、図9(b)はサーボ処理部9からコントローラ12に出力されるトラッククロス信号Dを示す図であり、図9(c)はピックアップモジュール2からサーボ処理部9とコントローラ12に出力されるスピンドルFG信号Cであり、図9(d)はモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号Hを示す図であり対物レンズ4aの可動範囲に対する位置とピックアップ駆動信号Hの関係を示す図である。図9(a)〜図9(c)において、横軸は時間、縦軸は出力である。また図9(d)において、横軸は時間、縦軸は対物レンズ4aの位置を示し機械的中立位置に対する変位量である。
装着された光ディスク1の記録面上の情報トラックに対する対物レンズ4aの位置情報を示すトラッキングエラー信号Bが図9(a)に示すものであった場合、トラッキングエラー信号Bを基に生成されサーボ処理部9からコントローラ12に出力されるトラッククロス信号Dは図9(b)に示すものとなる。図9(b)に示すトラッククロス信号Dがコントローラ12に入力されると、コントローラ12では入力された図9(b)に示すトラッククロス信号Dと図9(c)に示すスピンドルFG信号Cから図9(d)に示すトラッククロス信号Dにパルスが立つ度に、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数と横断する方向を計算し、図9(d)に示す関係図を導き出す。
横断する数はトラッククロス信号Dのパルス間隔から算出する。横断する方向の算出では、トラッキングエラー信号Bを2値化したトラッククロス信号Dのパルス間隔が大きいとトラッキングエラー信号Bの周波数が低いことを意味するため、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が小さいと判断し、またトラッキングエラー信号Bを2値化したトラッククロス信号Dのパルス間隔が小さいとトラッキングエラー信号Bの周波数が高いことを意味するため、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が多いと判断する。このように、制御手段が、光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数をトラッキング制御信号の周波数に基づいて算出することによって、その横断する数を短時間で算出することができるので、制御手段がその横断する数を算出する際にかかる時間を短縮すると同時に精度を向上することができる。
ここで、コントローラ12には、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックが単位時間当たりに横断する数、すなわちトラッキングエラー信号Bの波形の周期に対応するキック電圧値が予め記憶されており、その記憶されているキック電圧値の中からモータ駆動部10に印加するキック電圧値を選択する。このようにすることで、コントローラ12が演算処理をする必要がなくなるので、制御手段がキック電圧値を算出する際にかかる負荷を軽減することができる。
本実施の形態3では、コントローラ12が、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を算出し、その算出した周期を保持し、次に算出した周期が前記保持した周期より大きい場合には保持した周期を維持し、次に算出した周期がその保持した周期より小さい場合にはその保持した周期に代えて次に算出した周期を保持し、所定回転数保持された周期に対応するキック電圧とキック電圧を印加するタイミングを判定する場合で、かつ方向判別部11を用いないため、従来の光ディスク装置の構成を維持したまま、トラッキングエラー信号Bの周波数を検出することができる。ここで、時間毎に複数算出されるキック電圧は、図9(a)に示すトラッキングエラー信号Bの周期から算出されるものである。
次に、キック電圧をモータ駆動部に印加するタイミングについて説明する。
図10は、本発明の実施の形態3におけるトラッキング制御開始時の各ブロックから出力される信号を示す図である。図10(a)はアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号Bを示す図であり、図10(b)はサーボ処理部9からコントローラ12に出力されるトラッククロス信号Dを示す図であり、図10(c)はモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号Hを示す図である。また、図11も、本発明の実施の形態3におけるトラッキング制御開始時の各ブロックから出力される信号を示す図である。図11(a)はアナログ信号処理部8からサーボ処理部9に出力されるトラッキングエラー信号Bを示す図であり、図11(b)はサーボ処理部9からコントローラ12に出力されるトラッククロス信号Dを示す図であり、図11(c)はモータ駆動部10からピックアップモジュール2に出力されるピックアップ駆動信号Hを示す図である。図10、図11において、横軸は時間、縦軸は出力である。
本実施の形態3は方向判別部11を持たないため、対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数を所定値以下にするために対物レンズ4aの移動を加速するキック電圧の極性を別の方法で決定する必要がある。
以下、その方法について説明する。図9(d)から算出されたキック電圧値の極性を仮に正と負の2つの場合に設定し、それぞれの場合のキック電圧をモータ駆動部10に印加してトラッキングエラー信号B波形の変化をモニタする。
例えば、負の極性を持つキック電圧を図10(c)に示すタイミングでモータ駆動部10に印加した場合、キック電圧を印加した直後からトラッキングエラー信号Bが図10(a)に示すように変化して、その結果トラッククロス信号Dが図10(b)に示すようにパルス間隔が短くなると、コントローラ12は対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が増えたと判断し、トラッキング制御を開始しない。
また例えば、正の極性を持つキック電圧を図11(c)に示すタイミングでモータ駆動部10に印加した場合、キック電圧を印加した直後からトラッキングエラー信号Bが図11(a)に示すように変化して、その結果トラッククロス信号Dが図11(b)に示すようにパルス間隔が長くなると、コントローラ12は対物レンズ4aにより形成される光スポットが光ディスク1の情報トラックを単位時間当たりに横断する数が減ったと判断し、トラッキング制御を開始する。
このように、キック電圧をモータ駆動部10に印加して、トラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以下になる場合にはキック電圧の印加方向が逆方向と判断してトラッキング制御を開始せず、トラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以上になる場合にはキック電圧の印加方向が正しい方向と判断してトラッキング制御を開始することによって、所望の情報トラックに対する対物レンズ4aの相対移動方向を判別する方向判別器がなくても正しい向きの電圧を印加できるので、方向判別器を付加することなく本発明を実施することができる。言い換えれば、キック電圧をモータ駆動部10に印加して、トラッキングエラー信号Bの波形の周期が所定値以下になる場合にはキック電圧の印加方向が逆方向と判断してトラッキング制御を開始せず、トラッキングエラー信号Bの波形の周期が所定値以上になる場合にはキック電圧の印加方向が正しい方向と判断してトラッキング制御を開始することによって、所望の情報トラックに対する対物レンズ4aの相対移動方向を判別する方向判別器がなくても正しい向きの電圧を印加できるので、方向判別器を付加することなく本発明を実施することができる。
次に、トラッキング制御を開始する動作について、本実施の形態3では、コントローラが、算出したキック電圧値を保持し、その保持されたキック電圧値の絶対値と新たに算出したキック電圧値の絶対値を比較して大きい方のキック電圧値を新たに保持し、最後まで保持されていたキック電圧値を対物レンズ駆動手段に印加する場合で、方向判別部11を用いない方法について説明する。
図12は、本発明の実施の形態3におけるトラッキング制御を開始する動作を示すフローチャートである。
光ディスクに対して記録もしくは再生を行うためにトラッキング制御を開始する指示がでると、コントローラ12は、トラッキングエラー信号Bの周波数を保持するvmax、vminの初期化を行い(S301)、FG位相基準タイマをリセットする(S302)。
ここで、トラッキングエラー信号Bの周波数は、形成された光スポットが情報トラックを単位時間当たりに横断する数に相当する。その後FG位相基準タイマをスタートし(S303)、光ディスク1の回転周期を把握する。そして、コントローラ12は入力されるトラッククロス信号Dの1つのパルスに対するトラッククロス周期T(k)を測定し(S304)、FG位相基準タイマの基準時刻に対するトラッククロス信号Dのパルスが入力される時刻を算出する。トラッククロス周期T(k)はFG位相基準タイマの基準時刻0以降に入力されたk番目のパルスの周期を意味し、トラッククロス周期T(k)の逆数をとることにより、トラッキングエラー信号の周波数v(k)の検出を行う(S305)。
v(k)=1/T(k)・・・(式10)
そして、算出したv(k)とメモリに保存されているvmaxとを比較し(S306)、算出したv(k)がvmaxより大きければメモリに保存されているvmaxをv(k)に置き換えて保存し(S307)、同時に周波数v(k)の光ディスク1の回転周期kにおける時刻Tonを保存する(S308)。その後、光ディスクが1回転するまで、(S304)〜(S309)のステップを繰り返す。
それから、光ディスクが1回転すると、
Vk=−α・vmax (α:任意の値)・・・(式11)
に設定し(S310)、光ディスク1の回転周期がTonになるタイミングを待つ。光ディスク1の回転周期がTonになると(S311)、トラッキング制御状態を監視するタイマをスタートし(S313)、仮にレンズキックパルスVkを出力する(S314)。このとき、コントローラ12の処理において、トラッキング制御状態を監視するタイマが規定時間以上経過したタイムアウトが発生すると(S315)と、レンズキックパルスVkの極性を変え、再度(S311)〜(S314)の処理を繰り返す。また、タイムアウトが発生しない場合には、図10(b)に示すトラッククロス信号Dの1つのパルスに対するトラッククロス周期Tws(i)と安定にトラッキング制御が開始できるための所定の閾値であるTwonを比較し(S316)、トラッククロス信号Dの1つのパルスに対するトラッククロス周期TwsがTwonより大きくなければ、(S315)に戻り、トラッククロス信号Dの1つのパルスに対するトラッククロス周期Twsがより大きければトラッキングサーボをONする(S317)。
このように、キック電圧をモータ駆動部10に印加して、トラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以下になる場合にはキック電圧の印加方向が逆方向と判断してトラッキング制御を開始せず、トラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以上になる場合にはキック電圧の印加方向が正しい方向と判断してトラッキング制御を開始することによって、所望の情報トラックに対する対物レンズの相対移動方向を判別する方向判別器11がなくても正しい向きの電圧を印加できるので、方向判別器11を付加することなく本発明を実施することができる。言い換えれば、キック電圧をモータ駆動部10に印加して、トラッキングエラー信号Bの波形の周期が所定値以下になる場合にはキック電圧の印加方向が逆方向と判断してトラッキング制御を開始せず、トラッキングエラー信号Bの波形の周期が所定値以上になる場合にはキック電圧の印加方向が正しい方向と判断してトラッキング制御を開始することによって、所望の情報トラックに対する対物レンズ4aの相対移動方向を判別する方向判別器11がなくても正しい向きの電圧を印加できるので、方向判別器11を付加することなく本発明を実施することができる。
また、コントローラ12がキック電圧を印加するタイミングをスピンドルモータ3の回転開始から所定の回転角度を回転したタイミングを基準にして計算することによって、トラッキング制御信号の周波数が所定値以上であるタイミングを1度保持すると、そのタイミングをスピンドルモータ3の回転角度に応じて周期的に検出することが可能になるので、安定してかつ短時間に制御信号の周波数が所定値以上であるタイミングを検出することができる。言い換えると、コントローラ12がキック電圧を印加するタイミングをスピンドルモータ3の回転開始から所定の回転角度を回転したタイミングを基準にして計算することによって、トラッキングエラー信号Bの波形の周期が所定値以下であるタイミングを1度保持すると、そのタイミングをスピンドルモータ3の回転角度に応じて周期的に検出することが可能になるので、安定してかつ短時間にトラッキングエラー信号Bの周波数が所定値以下であるタイミングを検出することができる。
以上の内容により、コントローラ12が、所定の移動可能領域の中央部に対物レンズ4aを配置させ、トラッキングエラー信号Bの波形の周期を検出し、その周期が所定値以下になったときにトラッキング制御を開始することによって、対物レンズ4aの移動可能領域内での往復移動で、対物レンズ4aを光ディスク1の情報トラックに追従させられるので、対物レンズ4aが光ディスク1の情報トラックに追従するために対物レンズ4aの移動可能領域を超えてしまいトラッキング制御ができなくなるという不都合を回避できる。そのため、光ディスク1の情報トラックを形成する中心と光ディスク1の機械的中心がずれている偏心ディスクに記録または再生する場合であっても、トラッキング制御開始直後の対物レンズ4aの移動可能領域を減らすことなく、トラッキング制御の裕度を確保することが可能な光ディスク装置およびそのトラッキング制御方法を実現することができる。