而して、上記特許文献1,2に示す従来の押出成形用ダイスは、ビレット受圧面を凸面形状に形成しているため、金属ビレットに対する耐圧性など、オス型ダイスの強度をある程度向上させることができるものの、依然としてブリッジ部に強度的に不安を抱えている。このためブリッジ部の強度を十分に確保するには、オス型ダイスにおけるブリッジ部の肉厚などのサイズを不必要に大きくせざるを得ず、大型化および高重量化を来すばかりか、コストの増大も招くという問題が発生する。
また押出成形用ダイスにおいて、特に複雑な形状に押出加工するような場合には、金属材料をオス型ダイスの材料導入部から押出孔にかけて安定状態にスムーズに導入する必要があるが、上記従来の押出成形用ダイスにおいては、オス型ダイスの材料導入部からオス型ダイスおよびメス型ダイス間に流入される金属材料がオス型ダイスのブリッジ部によって乱されて、金属材料のスムーズな導入が妨げられ、押出成形品の寸法精度が低下して、高い品質を得ることが困難になるおそれがあった。
この発明の主たる目的は、上記従来技術の問題を解消し、十分な強度および耐久性を確保しつつ、コストの削減および小型軽量化を図ることができるとともに、高い品質の押出成形品を得ることができる金属材料の押出成形工具を提供することである。
この発明の他の目的は、上記目的を達成可能な熱交換チューブの押出成形工具、金属材料の押出成形方法、熱交換チューブの押出成形方法、金属材料の押出成形機および熱交換チューブの押出成形機を提供することである。
本発明は以下の手段を提供する。
[1] ダイス保持孔を有するダイスホルダと、
ダイス保持孔内に挿入保持されたダイスと、
ダイスの前側に該ダイスの前端面に当接して配置されたバッカと、を備えた金属材料の押出成形工具であって、
ダイスは、
外表面を金属材料受圧面とする受圧部を有し、その受圧部の金属材料受圧面を金属材料の押出方向に対向させるように後方に向けて配置されるダイスケースと、
ダイスケースの内部に保持され、かつダイスケースの軸心に対応して配置されるマンドレルを有するオス型ダイスと、
ダイスケース内の前部に保持され、かつマンドレルとの間で押出孔を形成するダイス孔が設けられたメス型ダイスと、を備え、さらに、
受圧部における金属材料受圧面が後方に向けて突出する凸面形状に形成される一方、
受圧部の外周に、金属材料導入用のポート孔が設けられるとともに、そのポート孔の軸心が下流側に向かうに従ってダイスケースの軸心に近づくように、ダイスケースの軸心に対し傾斜するように配置され、且つ、
金属材料受圧面に押圧された金属材料が、ポート孔を通ってダイスケース内に導かれて、押出孔を通過するよう構成されており、
ダイスホルダのダイス保持孔の周面は、下流側に向かうに従って漸次拡径するテーパ面に形成されるとともに、
ダイスホルダのダイス保持孔の周面に当接する、ダイスのダイスケースの前部の外周面は、ダイス保持孔の周面に対応したテーパ面に形成されたことを特徴とする金属材料の押出成形工具。
[2] ダイスの前端面を含む前端部がダイスホルダの前端面よりも前方に突出している前項1記載の金属材料の押出成形工具。
[3] ダイスホルダの前端面に対するダイスの前端部の前方への突出量が0.3〜2mmの範囲に設定された請求項2に記載の金属材料の押出成形工具。
[4] ダイスホルダのダイス保持孔の周面のテーパ半角は3〜8°の範囲に設定された前項1〜3のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[5] ダイスの金属材料受圧面が、球面の一部からなる凸球面によって構成された前項1〜4のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[6] ダイスの金属材料受圧面が、1/6〜4/6球体の凸球面によって構成された前項1〜5のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[7] ダイスのポート孔は、ダイスケースの軸心回りに周方向に等間隔おきに複数形成された前項1〜6のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[8] ダイスのポート孔は、押出孔に向けて配置された前項1〜7のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[9] ダイスは、
オス型ダイスのマンドレルと、メス型ダイスのダイス孔との間によって、高さ(厚さ)が幅に対し小さい偏平な環状の押出孔が形成されるとともに、
マンドレルにおけるダイス孔に対応する部分が、幅方向に併設された複数の通路成形用凸部を有する櫛歯状に形成されて、
金属材料が押出孔を通過することによって、複数の通路が幅方向に併設された多孔中空材が押出成形されるよう構成された前項1〜8のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[10] 多孔中空材が、熱交換器の熱交換チューブとして用いられる前項9に記載の金属材料の押出成形工具。
[11] ダイスのオス型ダイスのマンドレルと、メス型ダイスのダイス孔との間によって、高さが幅に対し小さい偏平な環状の押出孔が形成され、
ポート孔が押出孔の高さ方向(厚さ方向)両側に対応する位置に配置された前項1〜10のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[12] ダイスのダイスケースは、その前部に受圧部と一体に環状ベース部が設けられた前項1〜11のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[13] 金属材料が、アルミニウムまたはその合金によって構成された前項1〜12のいずれか1項に記載の金属材料の押出成形工具。
[14] 前項1〜13のいずれか1項に記載の押出成形工具を用いて金属製押出成形品を成形することを特徴とする押出成形品の製造方法。
[15] 前項10に記載の押出成形工具を用いて金属製多孔中空材を成形することを特徴とする多孔中空材の製造方法。
[16] 前項10に記載の押出成形工具を用いて熱交換器の金属製熱交換チューブを成形することを特徴とする熱交換チューブの製造方法。
[17] 前項1〜13のいずれか1項に記載の押出成形工具を用いて金属製押出成形品を成形することを特徴とする金属材料の押出成形方法。
[18] コンテナの前側に設置される押出成形工具として、前項1〜13のいずれか1項に記載の押出成形工具を備えたことを特徴とする金属材料の押出成形機。
発明[1]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスのダイスケースの受圧部の金属材料受圧面を凸面形状に形成しているため、金属材料が受圧面に押圧された際に、金属材料の押圧力を凸面によって分散させて受け止めることができて、受圧面の各部分での法線方向の押圧力を低減することができる。このため金属材料の押圧力に対するダイスの強度を向上できて、十分な耐久性を得ることができる。すなわち、金属材料が凸面形状に形成された受圧面に押圧された場合、受圧面の各部位には受圧部の軸心に向かう方向の圧縮力が加わるため、押出成形時にダイスケースに生じる剪断力が低減される。その結果、このダイスケースにおいて最も剪断力が大きく生じる部位である、ダイスケースの中空部に露出した部位について、該部位に生じる剪断力を低減でき、もって金属材料の押圧力に対するダイスの強度を向上させることができる。
さらに、この押出成形工具においては、ダイスのオス型ダイスおよびメス型ダイスを覆うダイスケースの受圧部の外周に、材料流入用のポート孔が形成されており、受圧部の前端(下流側)壁部が周方向に連続して一体に形成されているため、この連続周壁部の存在によって、ダイスケース、ひいてはダイス全体の強度を一段と向上させることができる。このように本発明の押出成形工具のダイスは、従来のダイスにおけるブリッジ部などの強度的に弱い部分が存在せず、強度向上のために必要以上に肉厚などのサイズを大きく形成する必要もないため、小型軽量化を図ることができるとともに、コストも削減することができる。
さらに、この押出成形工具においては、ダイスのポート孔を受圧部の外周に設けるとともに、そのポート孔の軸心を下流側に向かうに従ってダイスケースの軸心に近づくように、ダイスケースの軸心に対し傾斜するように配置しているため、ポート孔を流通する金属材料がダイスケース内の軸心、つまり押出孔にスムーズに導かれて、安定状態で押出加工することができ、高品質の押出成形品を得ることができる。
さらに、この押出成形工具においては、ダイスホルダのダイス保持孔の周面が、下流側に向かうに従って漸次拡径するテーパ面に形成されるとともに、ダイスホルダのダイス保持孔の周面に当接した、ダイスのダイスケースの前部の外周面が、ダイス保持孔の周面に対応したテーパ面に形成されている。さらに、ダイスの前側に該ダイスの前端面に当接してバッカが配置されている。したがって、押出成形時にダイスホルダに加わる前方向の押圧力によってダイスの前端面がバッカに圧接されて、ダイスがダイス保持孔内において後方側(上流側)に押され、これにより、ダイス保持孔の周面からダイスのダイスケースの前部に縮径方向の圧縮力が加わるから、金属材料の押圧力に対するダイスの強度を更に向上できて、ダイスの寿命を更に延ばすことができる。
発明[2]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスの前端面を含む前端部がダイスホルダの前端面よりも前方に突出しているので、押出成形時にダイスホルダに加わる前方向の押圧力によってダイスの前端面がバッカに確実に圧接されて、ダイスがダイス保持孔内において後方側(上流側)に確実に押され、これにより、ダイス保持孔の周面からダイスのダイスケースの前部に縮径方向の圧縮力が確実に加わるから、金属材料の押圧力に対するダイスの強度を確実に向上できて、ダイスの寿命を確実に延ばすことができる。
発明[3]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスホルダの前端面に対するダイスの前端部の前方への突出量が所定の範囲に設定されているので、押出成形時にダイスの前端面がバッカに更に確実に圧接され、もって、金属材料の押圧力に対するダイスの強度を更に確実に向上できて、ダイスの寿命を更に確実に延ばすことができる。
発明[4]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスホルダのダイス保持孔の周面のテーパ半角が所定の範囲に設定されているので、金属材料の押圧力に対するダイスの強度を確実に向上できて、ダイスの寿命を確実に延ばすことができる。
発明[5]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスの受圧部の金属材料受圧面を凸球面によって構成しているため、金属材料の受圧面への押圧力をバランス良く分散できて、金属材料の押圧力に対するダイスの強度を一層向上させることができる。すなわち、金属材料が凸球面によって構成された受圧面に押圧された場合、受圧面の各部位には受圧部の中心に向かう方向の圧縮力が加わるため、押出成形時にダイスケースに生じる剪断力が一層低減される。その結果、このダイスケースにおいて最も剪断力が大きく生じる部位である、ダイスケースの中空部に露出した部位について、該部位に生じる剪断力を一層低減でき、もって金属材料の押圧力に対するダイスの強度を一層向上させることができる。
発明[6]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスの金属材料受圧面を、特定の凸球面によって構成しているため、金属材料の受圧面への押圧力をより確実にバランス良く分散できて、金属材料の押圧力に対するダイスの強度をより確実に向上させることができる。
発明[7]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスのポート孔を周方向に複数形成しているため、金属材料をダイスケース内に周方向から均等に導入でき、押出孔へとスムーズに供給でき、より安定状態に押出加工することができる。
発明[8]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスのポート孔を押出孔に向けて配置しているため、ポート孔に流入された金属材料を、よりスムーズに押出孔へと供給することができる。
発明[9]の金属材料の押出成形工具によれば、幅方向に複数の通路が並列に配置される多孔中空材を確実に成形することができる。
発明[10]の金属材料の押出成形工具によれば、熱交換器用のチューブを確実に得ることができる。
発明[11]の金属材料の押出成形工具によれば、偏平形状の押出孔に、ポート孔から金属材料をより安定した状態で確実に供給することができる。
発明[12]の金属材料の押出成形工具によれば、ダイスのダイスケースは、その前部に受圧部と一体に環状ベース部が設けられるため、その環状ベース部により補強されて、ダイスケース、ひいてはダイス全体の強度をより一層向上させることができる。
発明[13]の金属材料の押出成形工具によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出成形品を製造することができる。
発明[14]によれば、上記と同様の作用効果を奏する金属製押出成形品の製造方法を提供できる。
発明[15]によれば、上記と同様の作用効果を奏する金属製多孔中空材の製造方法を提供できる。
発明[16]によれば、上記と同様の作用効果を奏する金属製熱交換チューブの製造方法を提供できる。
発明[17]によれば、上記と同様の作用効果を奏する金属材料の押出成形方法を提供できる。
発明[18]によれば、上記と同様の作用効果を奏する押出成形機を提供できる。
図1〜11は、この発明の第1実施形態に係る金属材料の押出成形工具(E1)を説明するための図である。この押出成形工具(E1)は、図14,15に示す多孔中空材(扁平多孔チューブ)(90)を押出成形するものである。
中空材(90)は、金属製のもので、本実施形態において具体的には、アルミニウム(その合金を含む。)製熱交換チューブ(60)を構成している。
この中空材(90)は、カーエアコン用のコンデンサなどの熱交換器に採用されるもので、偏平な形状を有している。中空材(90)の中空部(91)は、チューブ長さ方向に延び、かつ互いに平行に配置された複数の隔壁(92)によって、複数の熱交換用通路(93)に仕切られている。これらの通路(93)は、チューブ長さ方向に延び、かつ互いに平行に配置されている。
なお、本実施形態においては、チューブ長さ方向に対し直交し、かつ通路(93)が並列される方向を「幅方向」とし、チューブ長さ方向に対し直交し、かつ幅方向に対し直交する方向を「高さ方向(厚さ方向)」として説明する。さらに本実施形態では、押出方向の「上流側」を「後側」とし、「下流側」を「前側」として説明する。
また本発明の押出成形工具(E1)を用いて押出成形される中空材(90)は、熱交換器の熱交換チューブとして用いられるものに限定されるものではなく、他の用途に用いられるものであっても良いし、その断面形状についても特に限定されるものではない。
図1〜5に示すように、本第1実施形態の押出成形工具(E1)は、ダイス(10)と、ダイスホルダ(60)と、バッカ(80)とを基本的な構成要素として備えている。
さらに、図6〜11に示すように、ダイス(10)は、ダイスケース(20)と、オス型ダイス(30)と、メス型ダイス(40)と、流動制御板(50)とを基本的な構成要素として備えている。
ダイス(10)の構成について以下に説明する。
ダイス(10)のダイスケース(20)は、中空構造を有しており、金属材料としての金属ビレットの押出方向に対し、上流側(後側)に設けられる受圧部(21)と、下流側(前側)に設けられるベース部(25)とを有している。
受圧部(21)は、ドーム状に形成されており、金属ビレットの押出方向に対向する面(後面)が、金属材料受圧面としてのビレット受圧面(22)に形成されている。このビレット受圧面(22)は、押出方向に対向する方向(後方向)に突出する凸面形状として形成されており、具体的には半球面形状の凸球面(詳述すると凸真球面)として形成されている。
受圧部(21)の周壁中央には、受圧部(21)の内部の中空部(ウェルドチャンバ12)に連通するオス型ダイス保持孔(23)が受圧部(21)の軸心(A1)に沿って設けられている。このオス型ダイス保持孔(23)の断面形状は、オス型ダイス(30)の断面形状に対応して、扁平な矩形状に形成されている。さらに、オス型ダイス保持孔(23)の後端側における幅方向両側部には、後述するオス型ダイス(30)を係合するために係合段部(23a)(23a)が設けられている。
受圧部(21)の外周、詳述すると受圧部(21)の周壁における軸心(A1)を挟んだ両側には、一対のポート孔(24)(24)がそれぞれ形成されている。各ポート孔(24)の材料入口部の断面形状は、受圧部(21)の周方向に沿って延びる長孔形状を有しており、両ポート孔(24)(24)の材料入口部は互いに周方向に等間隔をおくように対向して配置されている。さらに、図9に示すように、各ポート孔(24)は下流側(前方)に向かうに従って受圧部(21)の軸心(A1)に近づくように、各ポート孔(24)の軸心(A2)が受圧部(21)の軸心(A1)に対し交差し、かつ傾斜して配置されている。このポート孔(24)の傾斜角度(θ2)などの詳細な構成については、後に詳述する。
なお本実施形態において、ダイスケース(20)の軸心と受圧部(21)の軸心とは一致するよう構成されている。
ベース部(25)は、ダイスケース(20)の前部を構成するものであり、受圧部(21)と一体に形成されている。さらに、ベース部(25)はその外周面が受圧部(21)の他端側外周よりも外側に張り出すように形成されている。
ベース部(25)の内側には、内部のウェルドチャンバ(12)に連通し、かつメス型ダイス(40)の断面形状に対応する断面形状(即ち断面円形状)のメス型ダイス保持孔(26)が形成されている。そのため、ベース部(25)は円環状(詳述すると円筒状)に形成されている。また、このメス型ダイス保持孔(26)の前側の開口は、ベース部(25)の前端面の中央部、すなわちダイスケース(20)の前端面の中央部に形成されている。また、このメス型ダイス保持孔(26)の軸心は、ダイスケース(20)の軸心(A1)に一致するように構成されている。また、ベース部(25)の前端面、すなわちダイスケース(20)の前端面は押出方向に対し垂直に配置されている。
また、メス型ダイス保持孔(26)の周面における後端側には、図9などに示すように、後述するメス型ダイス(40)を流動制御板(50)を介して係合する係合段部(26a)が形成されている。さらに、図8に示すように、メス型ダイス保持孔(26)の周面における両側部には、ダイスケース(20)の軸心(A1)に対し平行な一対のキー溝(27)(27)が形成されている。
オス型ダイス(30)は、その前半の主要部がマンドレル(31)として構成されている。図9,10に示すように、マンドレル(31)は、ダイスケース(20)の軸心(A1)に対応して配置されるものである。また、マンドレル(31)の前端部は、中空材(90)の中空部(91)を成形するもので、中空材(90)の各通路(93)に対応した複数個の通路成形用凸部(33)を有している。これら複数の通路成形用凸部(33)は、マンドレル(31)の幅方向に所定間隔おきに並んで配置されている。さらにこれらの通路成形用凸部(33)の各間に設けられた隙間は、中空材(90)の隔壁(92)を形成する隔壁成形用溝(32)として構成されている。
オス型ダイス(30)の後端部における幅方向両側部には、ダイスケース(20)のオス型ダイス保持孔(23)の係合段部(23a)(23a)に対応して、係合凸部(33a)(33a)が側方突出状に一体に形成されている。
そして、このオス型ダイス(30)が、オス型ダイス保持孔(23)に、そのビレット受圧面(22)側から挿入されて固定される。このとき、オス型ダイス(30)の係合凸部(33a)(33a)が、オス型ダイス保持孔(23)内の係合段部(23a)(23a)に係合されて、オス型ダイス(30)の位置決めが図られることにより、オス型ダイス(30)のマンドレル(31)が、オス型ダイス保持孔(23)からダイスケース(20)の内部に所定量突出した状態に保持される。
なお、オス型ダイス(30)の後端面(基端面)は、ダイスケース(20)の受圧部(21)のビレット受圧面(22)に倣う球面の一部に形成されており、オス型ダイス(30)の後端面とビレット受圧面(22)とにより協同で所望の円滑な凸球面が形成されるよう構成されている。
メス型ダイス(40)は、円柱形状を有しており、図8に示すように外周面の両側部には、上記ダイスケース(20)におけるメス型ダイス保持孔(26)のキー溝(27)(27)に対応して、軸心と平行なキー突起(47)(47)が形成されている。
メス型ダイス(40)には、後端面側に開放し、かつオス型ダイス(30)のマンドレル(31)に対応して形成されたダイス孔(ベアリング孔41)と、ダイス孔(41)に連通し、かつ前端面側に開放するレリーフ孔(42)とが設けられている。
ダイス孔(41)は、その内周縁部に沿って内方突出部が設けられて、中空材(90)の外周部を成形できるよう構成されている。さらに、レリーフ孔(42)は、前端側(下流側)に向かうに従って次第に厚さ(高さ)が大きくなるように末広がりのテーパ状に形成されて、前側(下流側)に開放されている。
流動制御板(50)は、その外周形状が、上記ダイスケース(20)におけるメス型ダイス保持孔(26)の断面形状に対応して円形に形成されている。さらに流動制御板(50)の中央には、オス型ダイス(30)のマンドレル(31)およびメス型ダイス(40)のダイス孔(41)に対応して、中央貫通孔(51)が形成されている。
なお図8に示すように、流動制御板(50)における外周縁部の両側部には、上記ダイスケース(20)におけるメス型ダイス保持孔(26)のキー溝(27)(27)に対応して、キー突起(57)(57)が形成されている。
そして、上記メス型ダイス(40)が、ダイスケース(20)のメス型ダイス保持孔(26)に前側から流動制御板(50)を介して収容されて固定される。このとき、メス型ダイス(40)の一端面(後端面)外周が流動制御板(50)の外周縁部を介して、メス型ダイス保持孔(26)の係合段部(26a)に係合されることにより、メス型ダイス(40)および流動制御板(50)の軸心方向(押出方向)の位置決めが図られるとともに、メス型ダイス(40)のキー突起(47)(47)および流動制御板(50)のキー突起(57)(57)がメス型ダイス保持孔(26)のキー溝(27)(27)に係合されることにより、軸心回り方向の位置決めが図られる。
また、メス型ダイス(40)がダイスケース(20)のメス型ダイス保持孔(26)内に収容固定された状態において、メス型ダイス(40)の前端面は、ダイスケース(20)の前端面(詳述すると、受圧部(21)の前端面)と同一位置に配置されて、ダイスケース(20)の前端面と面一に連なっている。このように互いに面一に連なったメス型ダイス(40)の前端面とダイスケース(20)の前端面とにより、ダイス(10)の前端面(10a)が平坦状に形成されている。換言すると、ダイス(10)の前端面(10a)は、メス型ダイス(40)の前端面とダイスケース(20)の前端面とから形成されており、両方の前端面が互いに面一に連なっているため、ダイス(10)の前端面(10a)が平坦状に形成されている。
なお本発明では、もしメス型ダイス(40)の前端面とダイスケース(20)の前端面とが互いに面一に連なっていない場合には、両方の前端面のうち最も前方に位置している面が、ダイス(10)の前端面(10a)に対応することとなる。
以上のようにして、ダイス(10)は、メス型ダイス(40)をダイスケース(20)内の前部(即ちベース部(25)の内部)に前側から取り付けられるよう構成されている。
また、このダイス(10)において、オス型ダイス(30)のマンドレル(31)およびメス型ダイス(40)のダイス孔(41)は、流動制御板(50)の中央貫通孔(51)内に対応して配置される。このとき、図9〜11に示すように、オス型ダイス(30)のマンドレル(31)が、メス型ダイス(40)のダイス孔(41)の内側に配置されて、マンドレル(31)およびダイス孔(41)間で偏平環状の押出孔(11)が形成される。さらに、この押出孔(11)は、マンドレル(31)の複数の隔壁形成溝(32)が幅方向に並列に配置されて、成形される上記中空材(90)の断面形状に対応して形成される。
ここで、本第1実施形態において、ダイスケース(20)のポート孔(24)の詳細な構成について説明する。まず、上下一対のポート孔(24)(24)は、ダイス(10)の押出孔(11)の高さ方向(厚さ方向)両側に対応する位置に配置されて、一対のポート孔(24)(24)の流出側端部(前端部)が、押出孔(11)に対応して配置されている。
また既述したようにポート孔(24)(24)は、その軸心(A2)がダイスケース(20)の軸心(A1)に対し傾斜するように設定されている。図9に示すように、本実施形態において、ダイスケース(20)の軸心(A1)に対するポート孔(24)の軸心(A2)の傾斜角度(θ2)は、3〜35°に設定するのが良く、好ましくは5〜30°、特に好ましくは5〜25°に設定するのが良い。すなわち、この傾斜角度(θ2)を上記特定の範囲内に設定する場合には、ビレットがポート孔(24)(24)およびウェルドチャンバ(12)を安定した状態で流通して、さらにビレットが押出孔(11)をその全周にわたってバランス良くスムーズに通過して、寸法精度に優れた高品質の押出成形品(押出加工品)(90)を形成することができる。換言すれば、上記傾斜角度(θ2)が小さ過ぎる場合には、ポート孔(24)(24)およびウェルドチャンバ(12)を流通したビレットが、押出孔(11)にスムーズに導入されず、高品質の押出成形品(90)を安定して得ることが困難になるおそれがある。逆に傾斜角度(θ2)が大き過ぎる場合には、材料押出方向に対し、ポート孔(24)の材料流通方向が大きく傾斜するため、ビレットの押出荷重が大きくなるので、好ましくない。ただし本発明では、ポート孔(24)の軸心(A2)の傾斜角度(θ2)は上記の範囲内であることに限定されるものではない。
また本実施形態において、ダイスケース(20)におけるビレット受圧面(22)を、1/6〜4/6球体の凸球面によって構成するのが良い。ビレット受圧面(22)を上記特定の凸球面によって構成する場合には、ビレット受圧面(22)によって金属ビレットの押圧力をより確実にバランス良く分散して受け止めることができ、十分な強度をより確実に確保できて、ダイス寿命をより確実に向上させることができる。すなわち、ビレットが特定の凸球面によって構成された受圧面(22)に押圧された場合、受圧面(22)の各部位には受圧部(21)の中心に向かう方向の圧縮力がより確実に加わるため、押出成形時にダイスケース(20)に生じる剪断力がより確実に低減される。その結果、このダイスケース(20)において最も剪断力が大きく生じる部位である、ダイスケース(20)の中空部に露出した部位について、該部位に生じる剪断力をより確実に低減でき、もってビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度をより確実に向上させることができる。そればかりかダイス形状の簡素化、ダイス(10)の小型軽量化およびコストの削減を図ることができる。換言すれば、ビレット受圧面(22)を、1/6球体に満たない球体、たとえば1/8球体の凸球面によって構成した場合には、ビレットの押圧力に対し十分な強度を得ることができず、亀裂の発生によるダイス寿命の低下を来すおそれがある。逆にビレット受圧面(22)を、4/6球体を超える球体、たとえば5/6球体の凸球面によって構成した場合には、ビレット受圧面(22)の形状の複雑化によるコストの増大を来すおそれがある。
ここで本実施形態においてたとえば、1/8球体、1/6球体、4/6球体などの割合付きの球体は、完全球体を軸心に対し直交する方向に切断して切り取った際の部分球体によって構成されるものである。すなわち本実施形態において「n/m球体(ただしm、nは自然数、n<mである)」とは、完全球体の軸心長さ(直径)を「1」として、完全球体の端縁からの軸心(直径)方向の長さがn/mの位置で、その完全球体を、軸心に対し直交する方向に切り取った際の部分球体によって構成されるものである。
なお本実施形態において、図9に示すように、ポート孔(24)の内周面のうち内側面(24a)および外側面(24b)は、互いにほぼ平行に配置されるとともに、ポート孔(24)の軸心(A2)に対しほぼ平行に配置されている。さらにポート孔内周面の内側面(24a)および外側面(24b)は、ダイスケース(20)の軸心(A1)に対し傾斜する傾斜面(テーパ面)としてそれぞれ構成されている。
次に、ダイスホルダ(60)の構成について以下に説明する。
図1〜5に示すように、ダイスホルダ(60)(ダイス設置プレート)は、板状(詳述すると円板状)のものであり、その中央部にダイスホルダ(60)の厚さ方向に貫通した断面略四角形状の貫通孔(61)(ダイス設置孔)が設けられ、これによりダイスホルダ(60)が環状(リング状)に形成されている。また、図3に示すように、ダイスホルダ(60)の前端面(60a)及び後端面はそれぞれ平坦状に形成されている。
さらに、図3〜5に示すように、ダイスホルダ(60)の貫通孔(61)の前部(即ち下流側の部分)は、ダイス(10)を保持するダイス保持孔(62)を構成している。このダイス保持孔(62)の断面形状は、ダイス(10)のダイスケース(20)の前部(25)(すなわちベース部(25))の断面形状に対応した形状であり、すなわち円形状である。さらに、ダイス保持孔(62)の後端側の口径は、貫通孔(61)の口径よりも小さく設定されており、これにより、ダイス設置孔(61)の周面とダイス保持孔(62)の周面(62a)との間の境界部分には段部が形成されている。
さらに、ダイス保持孔(62)の周面(62a)は、下流側に向かうに従って漸次拡径するテーパ面に形成されている。そして、このダイス保持孔(62)内に前方側からダイス(10)が密に挿入されて保持されている。
一方、ダイス(10)のダイスケース(20)の前部の外周面、即ちベース部(25)の外周面(25a)は、ダイス保持孔(62)内にダイス(10)が挿入保持された状態のもとでダイス保持孔(62)の周面(62a)に面接触状態に当接している面であり、この外周面(25a)はダイス保持孔(62)の周面(62a)に対応したテーパ面に形成されている。
図5に示すように、ダイス保持孔(62)の周面(62a)が押出方向に対してなす角度、すなわち周面(62a)のテーパ半角(θ1)は、3〜8°(特に望ましくは4〜6°)の範囲に設定されるのが良い。こうすることにより、ビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を確実に向上させることができる。そのため、押出成形時に発生することのあるダイス(10)のダイスケース(20)の永久変形(塑性変形)およびメス型ダイス(40)の亀裂などを確実に防止することができるし、更にオス型ダイス(30)の摩耗を低減することができ、もってダイス(10)の寿命を確実に延ばすことができる。
本実施形態では、ダイス(10)のダイスケース(20)のベース部(25)の外周面(25a)のテーパ半角は、ダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)と等しく設定されている。
さらに、図5に示すように、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)内にダイス(10)が挿入保持された状態において、ダイス(10)の前端面(10a)を含む前端部(10b)(詳述すると、ダイス(10)のダイスケース(20)の前端面とメス型ダイス(40)の前端面とを含む前端部)は、ダイスホルダ(60)の前端面(60a)よりも前方に突出している。ダイスホルダ(60)の前端面(60a)に対するダイス(10)の前端部(10b)の前方への突出量(t)は0.3〜2mm(特に望ましくは0.4〜1.0mm)の範囲に設定されるのが良い。こうすることにより、押出成形時にダイス(10)の前端面(10a)がバッカ(80)に確実に圧接されて、ダイス(10)がダイス保持孔(62)内において後方(上流側)に確実に押される。これにより、ダイス保持孔(62)の周面(62a)からダイス(10)のダイスケース(20)の前部(すなわちベース部(25))に縮径方向の圧縮力が加わるから、ビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を更に向上させることができる。そのため、押出成形時に発生することのあるダイス(10)のダイスケース(20)の永久変形(塑性変形)およびメス型ダイス(40)の亀裂などを確実に防止することができるし、更にオス型ダイス(30)の摩耗を低減することができ、もってダイス(10)の寿命を確実に延ばすことができる。
次に、バッカ(80)の構成について以下に説明する。
図1〜5に示すように、バッカ(80)は、ダイス(10)およびダイスホルダ(60)の前側に固定状態に配置される板状のものである。バッカ(80)の前端面および後端面(80a)はそれぞれ平坦状に形成されている。そして、このバッカ(80)は、その後端面(80a)がダイス(10)の前端面(10a)に面接触状態に当接し且つダイスホルダ(60)の前端面(60a)には当接しないで配置されている。したがって、バッカ(80)とダイスホルダ(60)との間には僅かに隙間が生じている。
バッカ(80)の中央部には、メス型ダイス(40)のレリーフ孔(42)と連通する貫通孔(81)がバッカ(80)の厚さ方向(すなわち押出方向)に貫通して設けられている。押出成形時には中空材(90)はレリーフ孔(42)内とこの貫通孔(81)内とを順次通過して前方へ移動される。
以上の構成の押出成形工具(E1)は、図12,13に示すように押出成形機(M)にセットされる。すなわち、押出成形工具(E1)のダイス(10)とダイスホルダ(60)とは、ダイス(10)がダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)内に挿入保持された状態で、押出成形機(M)のコンテナ(6)の前側に設置される。さらに、バッカ(80)がダイス(10)およびダイスホルダ(60)の前側にダイス(10)の前端面(10a)に圧接して固定状態に配置される。さらに、ビレットがダイスホルダ(60)とコンテナ(6)との間の隙間から漏出するのを防止するため、コンテナ(6)の前端面がダイスホルダ(60)に押し付けられる。
そして、この状態で、コンテナ(6)内に挿入されたアルミニウムビレットなどの金属ビレットを、ダミーブロック(7)を介して図12の右方向(押出方向)にステム(図示せず)で押し込む。これによりビレットは、ダイスホルダ(60)の貫通孔(61)内に導入され、さらにそのビレットがダイス(10)におけるダイスケース(20)のビレット受圧面(22)に押し付けられて塑性変形する。こうしてビレットが塑性変形しつつ、一対のポート孔(24)(24)を流通してダイスケース(20)のウェルドチャンバ(12)に導入され、さらに、押出孔(11)内を通って前方へ押し出されることにより、ビレットが押出孔(11)の開口形状に対応した断面形状に成形されて、押出成形品として中空材(90)が製造される。そして、この中空材(90)はレリーフ孔(42)内とバッカ(80)の貫通孔(81)内とを順次通過して前方へ移動される。
而して、本第1実施形態の押出成形工具(E1)によれば、ダイス(10)のダイスケース(20)の受圧部(21)のビレット受圧面(22)を凸面形状に形成しているため、ビレットが受圧面(22)に押圧された際に、ビレットの押圧力を凸面によって分散させて受け止めることができて、受圧面(22)の各部分での法線方向の押圧力を低減することができる。このためビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を向上できる。すなわち、ビレットが凸面形状に形成された受圧面(22)に押圧された場合、受圧面(22)の各部位には受圧部(21)の軸心(A1)に向かう方向の圧縮力が加わるため、押出成形時にダイスケース(20)に生じる剪断力が低減される。その結果、このダイスケース(20)において最も剪断力が大きく生じる部位である、ダイスケース(20)の中空部に露出した部位について、該部位に生じる剪断力を低減でき、もってビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を向上させることができる。
しかも、この押出成形工具(E1)によれば、ダイス(10)の受圧部(21)のビレット受圧面(22)を凸球面によって構成しているため、ビレットの受圧面(22)への押圧力をバランス良く分散できて、ビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を一層向上させることができ、もって十分な耐久性を得ることができる。すなわち、ビレットが凸球面によって構成された受圧面(22)に押圧された場合、受圧面(22)の各部位には受圧部(21)の中心に向かう方向の圧縮力が加わるため、押出成形時にダイスケース(20)に生じる剪断力が一層低減される。その結果、このダイスケース(20)において最も剪断力が大きく生じる部位である、ダイスケース(20)の中空部に露出した部位について、該部位に生じる剪断力を一層低減でき、もってビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を一層向上させることができる。
さらに、本第1実施形態の押出成形工具(E1)によれば、ダイス(10)のオス型ダイス(30)およびメス型ダイス(40)を覆うダイスケース(20)の受圧部(21)の外周に、材料流入用のポート孔(24)を形成するものであり、受圧部(21)の前端壁部とベース部(25)の壁部とが共に周方向に連続して一体に形成されるため、この連続周壁部の存在によって、ダイスケース(20)、ひいてはダイス全体の強度を一段と向上させることができる。従って、従来のダイスにおけるブリッジ部などの強度的に弱い部分が存在せず、強度向上のために必要以上に肉厚などのサイズを大きく形成する必要もないため、小型軽量化を図ることができるとともに、コストも削減することができる。
また、本第1実施形態の押出成型工具(E1)においては、ダイス(10)の受圧部(21)の軸心(A1)から逸脱した位置、つまり受圧部(21)の外周に、ポート孔(24)(24)を形成するとともに、そのポート孔(24)(24)の軸心(A2)を下流側に向かうに従ってダイスケース(20)の軸心に漸次近づくように、ダイスケース(20)の軸心(A1)に対し傾斜させているため、ポート孔(24)(24)を流通するビレットは、ダイスケース(20)の軸心(A1)、つまり押出孔(11)にスムーズに導かれていき、安定状態に押出加工することができる。さらに本実施形態においては、ポート孔(24)(24)の下流側端部(出口)を押出孔(11)に向けて配置しているため、ビレットを一層スムーズに押出孔(11)に導くことができる。
さらに、本第1実施形態の押出成形工具(E1)においては、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)が、下流側に向かうに従って漸次拡径するテーパ面に形成されるとともに、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)に当接した、ダイス(10)のダイスケース(20)の前部(すなわちベース部(25))の外周面(25a)が、ダイス保持孔(62)の周面(62a)に対応したテーパ面に形成されている。さらに、ダイス(10)の前側に該ダイス(10)の前端面(10a)に当接してバッカ(80)が配置されている。したがって、図13に示すように、押出成形時にダイスホルダ(60)に加わるビレットの前方向の押圧力(F1)と、更にコンテナ(6)からダイスホルダ(60)に加わるコンテナ(6)の前方向の押付け力(F2)とによって、ダイス(10)の前端面(10a)がバッカ(80)に圧接されて、ダイス(10)がダイス保持孔(62)内において後方側に押され、これにより、ダイス保持孔(62)の周面(62a)からダイス(10)のダイスケース(20)の前部(すなわちベース部(25))に縮径方向の圧縮力(C)が加わるから、ビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を更に向上できて、ダイス(10)の寿命を更に延ばすことができる。
さらに、本第1実施形態の押出成形工具(E1)によれば、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角を所定の範囲に設定することにより、ビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を確実に向上できて、ダイス(10)の寿命を確実に延ばすことができる。
さらに、本第1実施形態の押出成形工具(E1)によれば、ダイスホルダ(60)の前端面(60a)に対するダイス(10)の前端部(10b)の前方への突出量(t)を所定の範囲に設定することにより、押出成形時にダイス(10)の前端面(10a)がバッカ(80)に確実に圧接され、もって、ビレットの押圧力に対するダイス(10)の強度を更に確実に向上できて、ダイス(10)の寿命を更に確実に延ばすことができる。
さらに、本第1実施形態の押出成形工具(E1)によれば、ダイス(10)のポート孔(24)の軸心(A2)を、特定の傾斜角度に設定しているため、ビレットをポート孔(24)から押出孔(11)に、より安定した状態で供給することができる。
その上さらに本第1実施形態においては、ポート孔(24)(24)を、偏平な押出孔(11)の高さ方向(厚さ方向)両側に対応させて配置するものであるため、ビレットを押出孔(11)に対し厚さ方向両側から、一層スムーズに安定した状態で導入することができる。従って押出孔(11)の全域を均等にバランス良くビレットが通過して押し出されることにより、高品質の押出中空材(90)を得ることができる。
特に本第1実施形態のように、偏平なハモニカチューブ形状のような複雑な形状の中空材(90)を押出成形する場合であっても、ビレットを押出孔(11)の全域にバランス良く導入することができるため、高い品質を確実に維持することができる。
参考までに、高さおよび幅が0.5mmの矩形断面通路(93)が複数並列に形成されたアルミニウム製熱交換チューブ(中空体)を製造する場合、従来の押出成形工具のダイスにおいては、強度が不十分あるため、オス型ダイスに発生する亀裂が、ダイス寿命の要因となっていた。これに対し、本発明に準拠した押出成形工具(E1)のダイス(10)においては、強度が十分であるため、オス型ダイス(30)に亀裂が発生するようなことがなく、オス型ダイス(30)の磨耗が、ダイス寿命の要因となり、飛躍的にダイス寿命を向上させることができる。
また本発明においては、十分な耐圧性(強度)を有しているため、押出限界速度もかなり向上させることができる。たとえば従来のダイスでは、押出速度の上限値が60m/minであったのに対し、本発明の押出成形工具のダイスにおいては、押出速度の上限値を150m/minまで高めることができ、2.5倍程度も押出限界速度を高めることができ、生産効率の向上をさらに期待することができる。
なお上記第1実施形態においては、ポート孔(24)を2つ設ける場合を例に挙げて説明したが、それだけに限れず、本発明においては、図16に示すようにポート孔(24)を3つ設けたり、図17に示すようにポート孔(24)を4つ設けたり、あるいはポート孔を1つまたは5つ以上設けるようにしても良い。
また本発明では、図18に示すように、ダイス(10)は、ダイスケース(20)のベース部(25)の外周面(25a)が受圧部(21)に対して外側に段状に張り出さずに、受圧部(21)の前端外周面に連続して形成されたものであっても良い。
また上記第1実施形態では、ダイスホルダ(60)は1個のダイス保持孔(62)を有するものであるが、本発明では、その他に、例えば図19に示すように、ダイスホルダ(60)は2個又は3個以上のダイス保持孔を有するものであって、各ダイス保持孔内にダイス(10)が1個ずつ挿入保持されたものであっても良い。
また上記第1実施形態では、ダイス(10)は、ダイスケース(20)とは別体の流動制御板(50)を備えているが、本発明では、その他に、例えば、流動制御板(50)とダイスケース(20)とが一体に形成されていても良いし、流動制御板(50)とメス型ダイス(40)とが一体に形成されていても良いし、あるいはダイス(10)は必ずしも流動制御板(50)を備えていなくても良い。
また上記第1実施形態では、ダイス(10)のポート孔(24)は、その入口部の開口面積と内部の通路断面積とが等しく形成されているが、本発明では、その他に、例えば、ポート孔(24)の入口部の開口面積が内部の通路断面積よりも大きく形成されていても良いし、更に、ポート孔(24)はその入口部から内部にかけて通路断面積が漸次小さくなるように形成されていても良いし、その他の形状に形成されていても良い。
また上記第1実施形態では、ダイス(10)のダイスケース(20)の受圧部(21)のビレット受圧面(22)は、凸球面状に形成されているが、本発明では、その他に、ビレット受圧面(22)は例えば凸多面体によって構成されていても良い。
また上記実施形態では、受圧部(21)は、軸心方向上流側から見た状態で円形状に形成されているが、本発明では、その他に、受圧部(21)は、例えば、軸心方向上流側から見た状態で楕円形状や長円形状に形成されていても良いし、側面から見て略楕円形状に形成されていても良い。
また上記第1実施形態では、ダイス(10)を用いて押出成形される押出成形品(90)は、熱交換チューブであるが、本発明では、その他に、押出成形品は例えば丸パイプであっても良い。
また本発明では、図20に示すように、ダイスホルダ(60)は、例えば、その貫通孔(61)の後側(入口側)周縁部に面取り加工等の切除加工が施されていても良いし、その他の加工が施されていても良い。なお、同図に示したダイスホルダ(60)は、その貫通孔(61)の後側周縁部に面取り加工が施されることにより、貫通孔(61)の後側(入口側)開口面積が増大している。
また上記実施形態では、ダイスケース(20)を一体に形成しているが、それだけに限られず、本発明では、ダイスケース(20)を2つ以上の部材に分割できるように構成しても良い。例えばダイスケース(20)を、オス型ダイス(30)を保持するオス型ダイスケースと、メス型ダイス(40)を保持するメス型ダイスケースとの2つの部材により構成しても良い。
また本発明では、ダイス(10)は、ダイスケース(20)にオス型ダイス(30)および/またはメス型ダイス(40)が一体に形成されていても良い。
また、本発明では、上記第1実施形態のように、ダイス(10)のオス型ダイス(30)の後端面(基端面)は、ダイスケース(20)の受圧部(21)のビレット受圧面(22)に倣う凸面(球面)の一部に形成されており、オス型ダイス(30)の後端面とビレット受圧面(22)とにより協同で所望の円滑な凸面(球面)が形成されるよう構成されていることが望ましいが、本発明では、オス型ダイス(30)の後端面(基端面)はこのように形成されることに限定されるものではなく、その他に、例えば次のように形成されていても良い。すなわち、本発明では、オス型ダイス(30)の後端面の表面積がビレット受圧面(22)の表面積に対して例えば1/3以下である場合には、オス型ダイス(30)の後端面を、その幅方向(長手方向)がビレット受圧面(22)に倣って円弧状に形成され、かつ短手方向(厚さ方向)が直線状に形成された円柱外周面の一部によって構成するようにしても良い。オス型ダイス(30)の後端面の表面積がこの程度に小さい場合には、オス型ダイス(30)の後端面が凸面(球面)の一部ではなく円柱の外周面の一部に形成されることによるダイス寿命、押出荷重への影響が少ない一方で、オス型ダイス(30)の後端面の加工コストを下げることができるからである。
<実施例1〜15>
図1〜11に示した上記第1実施形態の押出成形工具(E1)において、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)と、ダイスホルダ(60)の前端面(60a)に対するダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)とについて表1に示すように様々に変更したものを、準備した。
そして、各押出成形工具(E1)を図12,13に示すように上記実施形態と同様な押出成形機(M)にセットして、熱間押出成形を行って、図14,15に示したアルミニウム製中空材(熱交換チューブ60)を製造した。
そして、ダイス寿命(ダイス(10)に亀裂や磨耗が発生するまでの材料導入量(ton/ダイス))を測定し、更にダイス寿命の制限要因を調査した。その結果を表1に示す。
ここで、各押出成形工具(E1)のダイス(10)において、ビレット受圧面(22)は、半径30mmの1/2球体の凸球面からなるものである。また、ダイスケース(20)のベース部(25)の後端位置の直径(外径)は65mmに設定されている。またオス型ダイス(30)としては、マンドレル(31)の高さ(厚さ)が2.0mm、マンドレル(31)の幅が19.2mm、通路成形用凸部(33)の高さが1.2mm、通路成形用凸部(33)の幅が0.6mm、隔壁成形用溝(32)の幅が0.2mmのものを用いた。メス型ダイス(40)としては、ダイス孔(41)の高さ(厚さ)が1.7mm、ダイス孔(41)の幅が20.0mmのものを用いた。また、ポート孔(24)の個数は2個、各ポート孔(24)の軸心(A2)の傾斜角度(θ)は20°である。
また、ダイスケース(20)の材質はSKD61、オス型ダイス(30)の材質はWC−Co、メス型ダイス(40)の材質はWC−Coである。
<比較例1>
押出成形工具のダイスとして、直径60mm、高さ(押出方向の長さ)50mmで、上記実施例4の押出成形工具(E1)のダイス(10)と同一の占有体積を有し、ビレット受圧面が押出方向に対し直交する平坦面に仕上げられたブリッジタイプのダイスを準備した。
この押出成形工具のブリッジタイプのダイスにおいて、オス型ダイスのマンドレルの寸法、通路成形用凸部の寸法、隔壁成形用溝の寸法、および押出孔の寸法は、実施例4のダイス(10)と同じである。さらに、ダイスケースの材質およびオス型ダイスの材質は、実施例4のダイス(10)と同じである。
また、この押出成形工具において、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)はテーパ面に形成されたものではなく(すなわちテーパ半角θ1=0°)、また、ダイスの前端部はダイスホルダ(60)の前端面(60a)よりも前方に突出していない(すなわち突出量t=0mm)ものである。
そして、この押出成形工具を用いて実施例1と同じ条件で押出成形を行って、中空材(90)を製造した。
そして、ダイス寿命を測定し、更にダイス寿命の制限要因を調査した。その結果を表1に示す。
<実施例1〜15、比較例1の評価>
表1に示すように、実施例1〜15の押出成形工具(E1)は、比較例1の押出成形工具に比べて、ダイス寿命が格段に長いことを確認し得た。
また、実施例1〜15の押出成形工具(E1)のうち、実施例1のものは、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)が小さすぎるため、本発明の効果を十分に得ることができず、比較的ダイス寿命が短かった。
また、実施例1〜15の押出成形工具(E1)のうち、実施例8のものは、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)が大きすぎるため、ダイス保持孔(62)の周面(62a)からダイス(10)のダイスケース(20)の前部(すなわちベース部(25))に加わる縮径方向の圧縮力(C)が大きすぎ、その結果、メス型ダイス(40)に亀裂が発生した。
また、実施例1〜15の押出成形工具(E1)のうち、実施例9のものは、ダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)が小さすぎるため、本発明の効果を十分に得ることができず、比較的ダイス寿命が短かった。
また、実施例1〜15の押出成形工具(E1)のうち、実施例15のものは、ダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)が大きすぎるため、ダイス保持孔(62)の周面(62a)からダイス(10)のダイスケース(20)の前部(すなわちベース部(25))に加わる縮径方向の圧縮力(C)が大きすぎ、その結果、メス型ダイス(40)に亀裂が発生した。
したがって、実施例1〜15の押出成形工具(E1)のうち、実施例2〜8、および10〜14のものが、特に優れた耐久性を有するものであることが分かった。
<実施例16>
表2に示すように上記実施形態に準拠して、押出成形工具(E1)のダイス(10)のダイスケース(20)として、ビレット受圧面(22)が、1/8球体の凸球面によって構成され、その球面半径が45.4mmに設定されたものを準備した。この受圧部(21)の直径は60mmに調整されている。
さらに、ダイスケース(20)は、2つのポート孔(24)(24)を有し、ダイスケース(20)の軸心(A1)に対しポート孔(24)の軸心(A2)の傾斜角度(θ)が25°に調整されている。
またオス型ダイス(30)としては、マンドレル(31)の高さ(厚さ)が2.0mm、マンドレル(31)の幅が19.2mm、通路成形用凸部(33)の高さが1.2mm、通路成形用凸部(33)の幅が0.6mm、隔壁成形用溝(32)の幅が0.2mmのものを用いた。さらにメス型ダイス(40)としては、ダイス孔(41)の高さが1.7mm、ダイス孔(41)の幅が20.0mmのものを用いた。
また、この押出成形工具(E1)において、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)は5°に設定されており、またダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)は2.0mmに設定されている。
そして、この押出成形工具(E1)を図12,13に示すように上記実施形態と同様な押出成形機(M)にセットして、熱間押出成形を行って、図14,15に示したアルミニウム製中空材(熱交換チューブ90)を製造した。
そして、ダイス寿命を測定した。その結果を表2に示す。
<実施例17>
表2に示すように、押出成形工具(E1)のダイス(10)として、ビレット受圧面(22)を、1/6球体の凸球面によって構成し、かつその球面半径を40.3mmに設定し、それ以外は、上記実施例16と同様のダイス(10)を準備した。また、この押出成形工具(E1)において、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)およびダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)は、実施例16と同じである。そして、この押出成形工具(E1)を上記実施形態と同様な押出成形機(M)にセットして、同様に熱間押出成形を行って、中空材(90)を製造した。
<実施例18>
表2に示すように、押出成形工具(E1)のダイス(10)として、ビレット受圧面(22)を、1/3球体の凸球面によって構成し、かつその球面半径を32.0mmに設定し、それ以外は、上記実施例16と同様のダイス(10)を準備した。また、この押出成形工具(E1)において、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)およびダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)は、実施例16と同じである。そして、この押出成形工具(E1)を上記実施形態と同様な押出成形機(M)にセットして、同様に熱間押出成形を行って、中空材(90)を製造した。
<実施例19>
表2に示すように、押出成形工具(E1)のダイス(10)として、ビレット受圧面(22)を、1/2球体の凸球面によって構成し、かつその球面半径を30.0mmに設定し、それ以外は、上記実施例16と同様のダイス(10)を準備した。また、この押出成形工具(E1)において、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)およびダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)は、実施例16と同じである。そして、この押出成形工具(E1)を上記実施形態と同様な押出成形機(M)に設定して、同様に熱間押出成形を行って、中空材(90)を製造した。
<実施例20>
表2に示すように、押出成形工具(E1)のダイス(10)として、ビレット受圧面(22)を、4/6球体の凸球面によって構成し、かつその球面半径を32.0mmに設定し、それ以外は、上記実施例16と同様のダイス(10)を準備した。また、この押出成形工具(E1)において、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)およびダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)は、実施例16と同じである。そして、この押出成形工具(E1)を上記実施形態と同様な押出成形機(M)にセットして、同様に熱間押出成形を行って、中空材(90)を製造した。
<実施例21>
表2に示すように、押出成形工具(E1)のダイス(10)として、ビレット受圧面(22)を、5/6球体の凸球面によって構成し、かつその球面半径を40.3mmに設定し、それ以外は、上記実施例16と同様のダイス(10)を準備した。また、この押出成形工具(E1)において、ダイスホルダ(60)のダイス保持孔(62)の周面(62a)のテーパ半角(θ1)およびダイス(10)の前端部(10b)の突出量(t)は、実施例16と同じである。そして、この押出成形工具(E1)を上記実施形態と同様の押出成形機(M)にセットして、同様に熱間押出成形を行って、中空材(90)を製造した。
<実施例16〜21の評価>
表2に示すように、押出成形工具(E1)のダイス(10)のビレット受圧面(22)における球面半径が大きくて突出量が比較的小さいもの(実施例6)では、ダイス寿命が少し短くなっていた。
さらにビレット受圧面(22)における球面半径が小さくて球体の突出量が比較的大きいもの(実施例11)では、ダイス寿命を長く確保できるが、ビレット受圧面(22)の加工が若干困難であると考えられる。
これに対し、ビレット受圧面(22)が、適度な凸面形状に設定されたもの、つまり1/6〜4/6球体の凸球面に設定されたもの(実施例17〜20)では、ダイス寿命を長くできる上さらに、ダイス制作費も抑えることができた。中でも特にビレット受圧面(22)が、1/2球体の凸球面に設定されたもの(実施例19)では、十分なダイス寿命を確保しつつ、ダイス制作費も抑えることができ、優れた結果が得られた。
なお実施例19のものと比較すると、ビレット受圧面(22)が、4/6球体の凸球面に設定されたもの(実施例20)では多少、ダイス制作費が高くなり、実施例16〜20の中では、若干見劣りした結果となった。