JP4923789B2 - 金属板の冷間圧延方法 - Google Patents
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このような潤滑機能と冷却機能を発揮させるために、鋼板などの金属板の冷間圧延では、鉱物油、天然油脂、合成エステルなどの不水溶性油剤(圧延油)を界面活性剤で水に分散・希釈化したエマルションがクーラントとして用いられている。このエマルションは、圧延油が1〜5mass%程度の濃度で且つ平均粒径5〜15μm程度の油滴として含まれるO/W型(水中油滴型)のものであり、潤滑性能と冷却性能とを兼ね備えたクーラントとして使用することができる。
エマルション圧延油は、金属板や圧延ロールにスプレー供給されると、金属板表面やロールバイト入口において水が排除されながら油膜が形成され(このような現象をプレートアウトと呼ぶ。)、このようにして形成された油膜がロールバイトにおける潤滑性を向上させる。すなわち、ロールバイトに導入される油膜が厚いほど潤滑性は向上し、硬質の金属板であっても高圧下の圧延が可能となる。
このようなエマルション圧延油を用いる場合の潤滑性能を向上させる技術として、例えば、特許文献1には、圧延油を所定温度以上にして供給することで、プレートアウト性能を向上させる方法が示されている。
さらに、ハイブリッド潤滑システムに関しては、特許文献4に、ロールクーラント液の温度を潤滑用に用いるハイブリッド液の温度よりも低くすることで、ロール冷却の効果を増大させる方法が示されている。
しかし、クーラントを循環使用する方式については、いずれもエマルション圧延油を使用していることから、以下に述べるような種々の問題が生じている。
フィルターロスは、冷間圧延によって発生する摩耗粉などの固形物粉がエマルションに取り込まれ、これをフィルターによって分離除去した場合に、エマルション中の油滴もフィルターに捕捉されてしまうために生じる。スカムアウトは、摩耗粉などの固形物粉がエマルションの油滴中に抱き込まれ、圧延油の劣化物との混合物であるスカムが発生することにより生じる油分のロスである。また、ヒュームロスは、特に流動点の高い天然油脂を使用する場合には、クーラント全体の温度を50〜60℃程度まで加熱して循環使用しており、これによって生じるフュームに油分が含まれているために生じるロスである。
これらは、エマルション圧延油を使用する場合には、本質的な解決が困難な課題であり、基油の種類や粘度の選定、界面活性剤の種類や添加量の最適化などの対策がとられているものの、根本的な解決には至っていない。
これに対して冷却効果を向上させるためには、特許文献2や特許文献4に示されるようにエマルション圧延油の温度を低下させるのが有効であるが、圧延油の劣化成分が摩耗粉などの固形物粉と混合体を形成してスカムを生成すると配管中での詰まりを生じたりするため、エマルション圧延油は一定以上の温度に維持する必要があり、エマルション圧延油の温度を低下させて冷却性能を向上させるのにも一定の限界がある。
さらに、特許文献1に示されるように潤滑性の向上のためにクーラントを加熱すると、冷却性能が低下することから、潤滑性と冷却性の両立を図ることは容易ではない。
以上のようにエマルション圧延油を使用した循環給油方式には、従来技術では解決できない種々の問題点がある。
このようなソリューションタイプのクーラントは、潤滑成分自身が水への溶解性を示すため、エマルション圧延油のような大きな油滴を形成しない。したがって、冷間圧延において発生する摩耗粉などの固形物粉とはすぐに分離し、クーラント中から固形物粉を除去することが極めて容易となって、フィルター設備の簡易化も可能である。また、固形物粉を油分中に抱き込むこともないため、スカムの生成によるロスが極めて少なく、さらに、常温で使用することが可能であるためヒュームロスも少ない。また、洗浄性にも優れているため、圧延後に金属板上に残留する潤滑成分が極めて少なく、鋼板による持ち出しロスも低減できる。
なお、特許文献5には、調質圧延であっても圧下率20%程度の高圧下を行うためのソリューションタイプの調質圧延液が開示されているが、この調質圧延液は焼鈍後の軟質化された鋼板の1パス圧延には適用できても、タンデム圧延やレバース圧延のような多パス圧延において加工硬化が生じるような厳しい圧延条件においては十分な潤滑性を得ることができない。
[1]クーラントを供給しつつ金属板の冷間圧延を行なう方法において、
水溶性潤滑剤を主体とする潤滑剤を水で希釈し且つ前記水溶性潤滑剤を溶解することにより曇点を有する溶液をクーラントとして用いるとともに、少なくとも一部の圧延スタンド又は圧延パスにおいて、金属板が前記クーラントの曇点以上の温度でロールバイトに進入して圧延されるようにしたことを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
[2]上記[1]の冷間圧延方法において、曇点未満の温度のクーラントを金属板及び/又は圧延ロールに供給することを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの冷間圧延方法において、クーラントの曇点が30〜80℃であることを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの冷間圧延方法において、水溶性潤滑剤の少なくとも一部が平均分子量500〜5000のポリアルキレングリコールであることを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの冷間圧延方法において、金属板がロールバイトに進入する際の板温に応じて、金属板及び/又は圧延ロールに供給するクーラントの温度及び/又は流量を調整することを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかの冷間圧延方法において、一部の圧延スタンド又は圧延パスにおいて、金属板がクーラントの曇点未満の温度でロールバイトに進入して圧延される場合には、曇点以上の温度のクーラントがロールバイトに供給されるようにしたことを特徴とする金属板の冷間圧延方法。
ここで、曇点を有する溶液とは、温度を上昇させると、ある温度で溶解成分の溶解度が急激に低下して白濁する性質を有する溶液のことであり、曇点とはそのように白濁化する液温を指す。本発明では、曇点を有する水溶液(クーラント)の温度を変化させた場合に目視によって白濁を確認した温度を、その水溶液の曇点とする。図6の写真は、曇点が40℃の水溶液について、曇点よりも低い温度での外観と曇点よりも高い温度での外観の違いを例示したものである。
クーラントは、その曇点未満の温度域においては潤滑剤成分が水に溶解しているため、循環使用中に摩耗粉などの固形物粉とはすぐに分離でき、クーラント中から摩耗粉を除去することが極めて容易となって、フィルターロスの低減を図ることができる。また、摩耗粉を油分中に抱き込むこともないため、スカムの生成によるロスが極めて少なくなる。したがって、スカムを流動させるために昇温する必要もなく常温で使用することによってフュームロスを低減させることができる。さらに、洗浄性に優れることから、金属板上に残留する潤滑剤成分が極めて少なく、金属板による持ち出しロスも低減できる。さらに、エマルション圧延油のような乳化安定性の管理を要することがない点でクーラントの管理が簡素化される。
一方、クーラントは曇点以上の温度域においては、潤滑剤成分の水への溶解度が低下することで白濁した外観を有するようになるが、金属板が前記クーラントの曇点以上の温度でロールバイトに進入して圧延され、このような温度の金属板表面(ロールバイト)にクーラントが供給された場合にも、クーラント中の潤滑剤成分と水とが分離しやすい状態となって、クーラントの潤滑剤成分の金属板表面への付着性が非常に高まり、エマルション圧延油と同等以上のロールバイトにおける潤滑性を確保することができる。
曇点を有するクーラントの金属板表面への付着性能は、クーラントをその曇点以上に加熱して金属板表面に供給するよりも、クーラントの曇点以上の温度の金属板表面にクーラントを供給する方がかなり優れていることが判った。
本発明において、金属板がクーラントの曇点以上の温度でロールバイトに進入して圧延されるようにするには、金属板を積極的に加熱してもよいし、圧延による発熱で金属板の温度がクーラントの曇点以上となるようにしてもよい。
金属板がクーラントの曇点以上の温度でロールバイトに進入して圧延されるのは、必ずしも全圧延スタンド(例えば、タンデム式冷間圧延機の全圧延スタンド)や、全圧延パス(例えば、レバース式冷間圧延機による圧延の全圧延パス)である必要はなく、潤滑性が必要とされる少なくとも一部の圧延スタンド又は圧延パスであればよい。圧延の際に必要とされる潤滑性は、圧延スタンドの前・後段位置の違い、圧延パスの段階の違い、被圧延材の種類や寸法、ロール径、ロール粗さ、圧延速度等によって異なり、圧延スタンドや圧延パスのなかには、潤滑性をあまり必要としない場合もあるからである。
クーラントに含有される水溶性潤滑剤は、溶液(水溶液)が曇点を有することができるようなものであればその種類は問わないが、そのなかでも化学合成された潤滑剤(以下、合成潤滑剤という)が特に好ましい。この合成潤滑剤は、従来用いられている圧延油に較べて耐腐敗性に優れ、摩耗粉などの固形物粉と油剤劣化物の混合物であるスカムを形成しにくい点で有利となる。
クーラント中に水溶性潤滑剤とともに配合する非水溶性の潤滑剤としては、油脂、脂肪酸エステル、鉱物油などのようなエマルションタイプのクーラントに用いられる圧延油の1種以上を用いることができる。このように非水溶性の潤滑剤を少量併用したとしても、ソリューションタイプのクーラントとしての特性を失うことはなく、エマルションタイプのクーラントに較べて潤滑剤の原単位を大幅に向上させることが可能である。
ポリアルキレングリコールは、ポリグリコール、ポリエーテル、ポリアルキレンオキサイドとも呼ばれ、エチレンオキシド(EO)やプロピレンオキシド(PO)などのアルキレンオキシド(AO)を、活性水素を持つ物質に開環重合させて得られる重合物である。これは、主としてブレーキ液や難燃性作動油に使用されている合成潤滑剤であって、重合度やアルキル基などを変化させることによって、各種の粘度グレードを有する水溶性のものから非水溶性のものまで幅広い特徴を有する重合物を得ることができる物質である。
ポリアルキレングリコールとしては、種々の化学構造を有するものを用いることができるが、オキシプロピレン単位からなるブロック部分の両端にオキシエチレン単位からなるブロック部分が結合された構造を有するものが代表的なものである。市販品としては、例えば、旭電化株式会社製の商品名「アデカプルロニック
L31」、「アデカプルロニック L62」などが挙げられる。また、オキシエチレン単位からなるブロック部分の両端に、オキシプロピレン単位からなるブロック部分が結合された構造を有するブロック共重合体で、リバースブロック型共重合体を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化株式会社製の商品名「アデカプルロニック
25R2」、BASF Japan社製の商品名「プルロニック 25R2」などを挙げることができる。
また、水溶性潤滑剤としてポリアルキレングリコール、好ましくは分子量500〜5000のポリアルキレングリコールを使用する場合、クーラントに配合される潤滑剤中でのポリアルキレングリコールの割合は高いほど望ましい。ここで、配合される潤滑剤中でのポリアルキレングリコールの割合が50mass%未満では、潤滑剤としてポリアルキレングリコールを用いることによるクーラントの低温流動性、化学的安定性の向上効果が十分に得られない。したがって、クーラントに配合される潤滑剤中でのポリアルキレングリコールの割合は50mass%以上とすることが好ましく、さらに、他の水溶性潤滑剤を合わせて80mass%以上、好ましくは95mass%以上の潤滑剤を水溶性潤滑剤(好ましくは水溶性の合成潤滑剤)とすることが望ましい。なお、クーラントにはその他の潤滑剤が含まれてよいことはさきに述べたとおりである。
また、以上のように潤滑剤の一部又は全部としてポリアルキレングリコールを用いる場合についても、クーラントに配合される潤滑剤の濃度、クーラントの曇点などは、さきに述べたとおりである。したがって、本発明で使用するクーラントの最も好ましい形態は、水溶性潤滑剤の全量をポリアルキレングリコール、好ましくは分子量500〜5000のポリアルキレングリコールとし、且つその含有濃度を溶液中での割合で1〜15mass%程度とすることである。
前記極圧添加剤としては、例えば、塩素化油脂、塩素化脂肪酸エステルなどの塩素化化合物、硫化油脂、アルキルポリサルファイドなどの合成硫黄化合物、リン化合物、有機金属塩化合物などの1種以上を使用することができる。また、水溶性防錆剤としては、脂肪族モノカルポン酸などの脂肪酸類に、塩基性物質としてアルカノールアルミなどを加えたものを用いることもできる。
本発明法の圧延の対象となる金属板の代表例は薄鋼板であるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などのような種々の金属板、合金板が対象となる。また、鋼板の場合には、普通鋼、高炭素鋼、ステンレス鋼など鋼種は問わない。
また、金属板の厚さにも制限はなく、金属箔などのような薄い金属板も対象とすることができる。
本発明では、金属板がクーラントの曇点以上の温度でロールバイトに進入して圧延されれば、クーラントの潤滑剤成分の金属板表面への付着性は十分高くなり、潤滑性は確保できるが、仮に金属板を積極的に加熱するための加熱装置が設置されていない場合、クーラントの曇点によっては、一部の圧延スタンド又は圧延パスにおいて金属板がそのような温度に達しない場合もあり得る。このようなケースは、特に圧延速度が低い条件下で生じやすい。一般には、圧延速度が低い場合には高速圧延時のような高い潤滑性は要求されないが、金属板の変形抵抗が高いような場合には潤滑性が必要になる場合がある。したがって、このような場合には、必要に応じてクーラントを加熱することにより、曇点以上の温度のクーラントがロールバイトに供給されるようにすることが好ましい。これによって、金属板の温度が低い条件下であっても、クーラントの潤滑剤成分の溶解度が低下して金属板表面への付着性がある程度高まり、金属板がクーラントの曇点以上の温度でロールバイトに進入して圧延される場合ほどではないが、ある程度の潤滑性向上が期待できる。
各圧延スタンド4a〜4eのロールバイト入側には、クーラントを金属板1に供給するためのスプレーノズル5a〜5eが設置されている。また、各圧延スタンド4a〜4eの出側には、クーラントを圧延ロールに供給して冷却するためのロール冷却ノズル6a〜6eが設置されている。
クリーンタンク12内に貯留されたクーラントは、供給ポンプによってスプレーノズル5a〜5eやロール冷却ノズル6a〜6eに送られて循環使用される。
また、金属板1の温度を測定するための温度計14が最終圧延スタンド4eの出側に設置されている。各圧延スタンド4a〜4eのロールバイト入側における金属板1の温度(ロールバイトに進入する際の金属板温度)については、板温度計算装置15において圧延条件から計算で求めることができるが、温度計14によって実測した金属板温度を、その計算結果の誤差を補正するために利用することができる。但し、温度計14の設置は必須ではなく、各圧延スタンド4a〜4eのロールバイト入側の金属板温度がある程度の精度で計算できれば、必ずしも必要ではない。
クーラントはクーラントクーラー13によって50℃未満の温度に調整される。金属板の温度については、圧延速度の影響だけでなく、被圧延材の変形抵抗、圧下率、潤滑状態などによって各圧延スタンドで異なるため、板温度計算装置15によって各圧延スタンド4a〜4eにおけるロールバイト入側の金属板1の温度(ロールバイトに進入する際の温度)を計算で求める。
これに対して、板温度計算装置15によって求められる各圧延スタンド4a〜4eでのロールバイト入側の金属板1の温度のうち、一部の圧延スタンド4での温度が50℃未満である場合には、必要に応じて、その圧延スタンド4のスプレーノズル5に供給されるクーラントをクーラント加熱装置7によって加熱し、スプレーノズル5から曇点以上(50℃以上)の温度のクーラントを金属板表面に供給する。この場合にもクーラントの潤滑剤成分の金属板表面への付着性がある程度高まり、さきに述べたように金属板がクーラントの曇点以上の温度でロールバイトに進入して圧延される場合ほどではないが、ある程度の潤滑性向上が期待できる。
なお、ヒートスクラッチを防止するには、上述したような金属板の冷却のみでなく、ロール冷却ノズル6a〜6eからのクーラント流量を増加させたり、クーラント温度を低温化させることも効果的である。
金属板の温度とポリアルキレングリコールを含有するクーラントの潤滑性能との関係について調べた結果を、従来のエマルション圧延油をクーラントとして用いた場合と比較して示す。
本発明例では、ポリアルキレングリコールを3質量%含有する水溶液をクーラント(=クーラントA)として用いた。この水溶液はポリアルキレングリコール以外の成分は含有させていない。ポリアルキレングリコールとしては、旭電化株式会社製の商品名「アデカプルロニック
L31」を用いた。このポリアルキレングリコールは、平均分子量1100、濃度3質量%における曇点が40℃であり、25℃における動粘度は196mm2/sである。
比較例では、通常の冷間圧延に使用されるエマルション圧延油をクーラント(=クーラントB)として用いた。このエマルション圧延油は、基油が合成エステル60mass%、天然油脂30mass%、高級脂肪酸5mass%から構成され、ノニオン系界面活性剤を2mass%及び極圧添加剤等を3mass%含む原液を濃度3mass%で60℃の水に希釈して、攪拌機によってエマルション粒径が8μmになるように調整したものである。
一方、比較例であるクーラントBについては、板温度が上昇するとプレートアウト性も向上する傾向はみられるものの、板温度への依存性は小さく、板温度が高い場合には、クーラントAのほうがプレートアウト性は格段に向上していることが判る。
普通鋼の板厚0.8mmのシートゲージ材を得るために、ワークロール径500mm、圧延速度1200mpmの条件で冷間圧延を行い、計測された圧延荷重から摩擦係数を逆算した。被圧延材は予め所定の温度まで加熱した後に、クーラントをスプレーし、直後に圧延が行われるようにした。なお、クーラントA,Cについては温度を20℃とし、エマルション圧延油であるクーラントBは60℃とした。
なお、クーラントAは、板温度が50℃以上になるとクーラントBに較べてプレートアウト性が非常に良好になるが、摩擦係数についてはクーラントBとあまり大きな差が生じていない。これは、クーラントAには極圧添加剤などが添加されていないため、ロールバイト内で厚い流体潤滑膜が形成されていても、境界接触部での摩擦係数が高くなっているためであると考えられる。したがって、クーラントAに極圧添加剤を加えれば、さらに潤滑性を向上させることができる。
図1に示す5スタンドのタンデム式圧延機を用いて、クーラントA及びクーラントBによる冷却効果について比較した結果を示す。
被圧延材は板厚3.2mmの普通鋼板であり、板厚0.8mmまで圧延速度1300mpmにて冷間圧延を行い、圧延機出側での鋼板温度によって冷却性能を比較した。なお、クーラントAについては、その温度を曇点よりも低い30℃とした場合と、曇点よりも高い60℃とした場合について評価した。
図4に板温度の比較結果を示す。本発明例であるクーラントAをクーラント温度30℃で用いた場合には、比較例であるエマルション圧延油によるクーラントBに比べて、板温度が20℃以上低下しており、クーラントBと同等の潤滑性を維持しながら、高い冷却性能を示すことが判る。また、クーラントAを60℃で用いた場合には、それほどの冷却性能は得られないものの、クーラントBと比較すると良好な冷却性が得られている。これは、クーラントBの場合には、エマルション中の油脂成分がロール表面に付着することで冷却性を阻害しているのに対して、クーラントAの優れた洗浄効果によって冷却性も向上しているためと考えられる。
実施例2と同様のタンデム式圧延機において、硬質材の冷間圧延を実施した結果を示す。
本発明例1では、クーラントAを曇点よりも低い30℃とし、圧延速度が変化してもクーラント流量及び温度を一定にした。比較例では、クーラントBを60℃で使用し、この場合も同一のクーラント流量を供給した。
図5に圧延速度に対する板温度の変化を示す。本発明例1では、比較例に比べて冷却効果が高く、板温度も低下しているものの、圧延速度が高い場合に、ヒートスクラッチ発生温度として想定している160℃を超えるケースもあった。
そこで、本発明例2では、板温度がヒートスクラッチ発生温度よりも20℃低い140℃に達する場合には、クーラントAの温度を20〜25℃の範囲に調整するとともに、クーラントAの流量を15%増加させた。この場合には、圧延速度が高い場合でもヒートスクラッチ発生温度に達することはなかった。なお、これらのケースにおける潤滑性はほぼ同等のレベルであり、いずれも十分な潤滑性を有している。
2 ペイオフリール
3 テンションリール
4a,4b,4c,4d,4e 圧延スタンド
5a,5b,5c,5d,5e スプレーノズル
6a,6b,6c,6d,6e ロール冷却ノズル
7a,7b,7c,7d,7e クーラント加熱装置
8 オイルパン
9,11 フィルタリング設備
10 ダーティタンク
12 クリーンタンク
13 クーラントクーラー
14 温度計
15 板温度計算装置
Claims (8)
- クーラントを供給しつつ金属板の冷間圧延を行なう方法において、
水溶性潤滑剤を主体とする潤滑剤を水で希釈し且つ前記水溶性潤滑剤を溶解することにより曇点を有する溶液をクーラントとして用いるとともに、少なくとも一部の圧延スタンド又は圧延パスにおいて、金属板が前記クーラントの曇点以上の温度でロールバイトに進入して圧延されるようにしたことを特徴とする金属板の冷間圧延方法。 - 曇点未満の温度のクーラントを金属板及び/又は圧延ロールに供給することを特徴とする請求項1に記載の金属板の冷間圧延方法。
- クーラントを循環使用するとともに、金属板及び/又は圧延ロールに供給後、回収されたクーラントに対して、その曇点未満の液温で液中固形物の除去処理を施すことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属板の冷間圧延方法。
- クーラントの曇点が30〜80℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属板の冷間圧延方法。
- 水溶性潤滑剤の少なくとも一部が平均分子量500〜5000のポリアルキレングリコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属板の冷間圧延方法。
- 水溶性潤滑剤を1〜15質量%含有する水溶液をクーラントとして用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属板の冷間圧延方法。
- 金属板がロールバイトに進入する際の板温に応じて、金属板及び/又は圧延ロールに供給するクーラントの温度及び/又は流量を調整することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属板の冷間圧延方法。
- 一部の圧延スタンド又は圧延パスにおいて、金属板がクーラントの曇点未満の温度でロールバイトに進入して圧延される場合には、曇点以上の温度のクーラントがロールバイトに供給されるようにしたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の金属板の冷間圧延方法。
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