JP4898022B2 - 潤滑グリース組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車の電動式動力舵取装置(電動式パワーステアリング装置)の減速機に使用される潤滑グリース組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
自動車の電動式動力舵取装置の減速機としては近時、バックラッシによる歯打ち音の低減を目的として、例えばポリアミド樹脂などの合成樹脂製のウォームホイールを用いたものが一般化しつつある。
また上記減速機においては、ハンドルの戻り性を向上するため、また動力伝達効率を向上するために、低トルク化が必要とされる。
【0003】
低トルク化を達成するためには、合成樹脂製のウォームホイールと金属製のウォームシャフトとの摩擦面において、摩擦の低減に寄与する潤滑グリース組成物の役割が重要であり、その組成について種々検討がなされている。
しかし合成樹脂に影響を及ぼすことなしに、広い温度域で摩擦の低減に安定した効果を発揮しうる潤滑グリース組成物については、未だ完成されるに至っていないのが現状である。
【0004】
この発明の目的は、広い温度域で摩擦の低減に安定した効果を発揮し、しかも合成樹脂に影響を及ぼすおそれがないため、前記合成樹脂製の部品等を用いた電動式動力舵取装置の減速機に好適に使用することができる、新規な潤滑グリース組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
請求項1記載の発明は、基油と増ちょう剤とを含み、電動式動力舵取り装置の減速機に用いる潤滑グリース組成物であって、ポリエチレンオキサイド系ワックスを配合したことを特徴とする潤滑グリース組成物である。
一般に、潤滑剤の分野において粘度指数向上剤、あるいは固体潤滑剤等としてポリマーを添加すると、広い温度域で摩擦を低減できることが知られている。しかし通常に使用されるポリマーの多くは耐熱性が不足しており、これを潤滑グリース組成物に配合した場合には、特に高温域で、主鎖や側鎖が切断してラジカルやイオンが発生し、それが組成物中の他の成分、特に同系のポリマー分子と反応して架橋などを生じやすい。そしてその結果として、潤滑グリース組成物が硬化してしまう懸念がある。
【0006】
そこで発明者は、これらの現象の出発点である主鎖や側鎖の切断を生じにくく、しかもポリマー同様に摩擦を低減する効果を有する成分について検討を行った。
その結果、ポリエチレンオキサイド系のワックスを使用すればよいとの知見を得た。
すなわちポリエチレンオキサイド系ワックスは、例えば通常は分子量が2万以上であるポリマーよりも分子量が小さいため、特に高温域で主鎖の切断を生じにくい上、分子量が小さいといってもある程度の分子量を有する長い主鎖を備えた高分子化合物であるため、ポリマー同様に、広い温度域で、摩擦を低減する効果を有している。
【0007】
このため基油としては、前記のように合成樹脂に悪影響を及ぼすおそれのあるエステル油を全く使用しないか、使用するとしても合成樹脂に影響を及ぼさないごく少量の使用に止めることができる。
したがって請求項1の構成によれば、広い温度域で摩擦の低減に安定した効果を発揮し、しかも合成樹脂に影響を及ぼすおそれがないため、前記合成樹脂製の部品等を用いた電動式動力舵取装置の減速機に好適に使用することができる、新規な潤滑グリース組成物を提供することが可能となる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明を説明する。
〈ポリエチレンオキサイド系ワックス〉
ポリエチレンオキサイド系ワックスとしては、一般式(1):
HO(CH2CH2O)nH (1)
で表され、重量平均分子量Mwが600以上、2万未満、融点がおよそ25〜70℃程度で、かつ常温(23℃)において軟質ワックス状ないし硬いロウ状を呈する種々の成分が、いずれも使用可能である。また、2種以上のポリエチレンオキサイド系ワックスを配合して、その特性を調整したものを使用することもできる。
【0009】
特に、重量平均分子量Mwが1000〜10000程度のポリエチレンオキサイド系ワックスが好適に使用される。
重量平均分子量Mwが上記の範囲内にあるポリエチレンオキサイド系ワックスは、前述した、分子量が小さいため特に高温域で主鎖や側鎖の切断を生じにくく、しかもポリマー同様に広い温度域で摩擦を低減する効果に特に優れている。
ポリエチレンオキサイド系ワックスの配合割合は、これに限定されないが、基油と増ちょう剤との合計量100重量部に対して0.1〜30重量部であるのが好ましい。
【0010】
配合割合が0.1重量部未満では、ポリエチレンオキサイド系ワックスを配合したことによる、前述した、広い温度域で摩擦を低減する効果が十分に発揮されないおそれがある。
一方、配合割合が30重量部を超える場合には、基油と増ちょう剤とポリエチレンオキサイド系ワックスとを配合した混合物が硬くなりすぎて、ミリング処理しても均一に混合されにくいため、均一な潤滑グリース組成物が得られないおそれがある。
【0011】
なおこれらの問題を考慮して、広い温度域で、摩擦の低減に安定した効果を発揮する均一な潤滑グリース組成物を得るためには、ポリエチレンオキサイド系ワックスの配合割合は、上記の範囲内でも特に1〜5重量部であるのが好ましい。
〈基油および増ちょう剤〉
基油および増ちょう剤としては、前述した動力舵取装置の減速機用等に使用される、種々の基油と増ちょう剤の組み合わせが、いずれも使用可能である。
【0012】
このうち基油としては、例えば鉱油、エステル油、合成炭化水素油、ポリグリコール系合成油、フェニールエーテル系合成油、シリコーン油、フッ素系合成油等があげられる。これらの基油は、それぞれ1種単独で使用できる他、2種以上を併用することもできる。
とくにポリ(α−オレフィン)やポリブテンなどの合成炭化水素油が、基油として好適に使用される。かかる合成炭化水素油は、エステル油などのように合成樹脂に影響を及ぼすおそれがなく、広い温度域で、鉱油等に比べて安定な状態を維持できるとともに、ポリグリコール系合成油、シリコーン油等に比べて潤滑性に優れる上、フェニールエーテル系合成油、フッ素系合成油等に比べて安価であるという利点を有している。
【0013】
なおエステル油は、合成樹脂に影響を及ぼすおそれがあるので、基油として使用しないのが望ましいが、合成樹脂に影響を及ぼさないごく少量であれば、他の基油と併用しても構わない。この発明は、かかる併用を排除するものではない。
増ちょう剤としては、従来公知の種々の増ちょう剤の中から、使用する基油の種類に応じて、その基油に最も適した増ちょう剤を選択して使用するのが好ましい。
【0014】
増ちょう剤は、セッケン系と非セッケン系とに大別される。
このうちセッケン系増ちょう剤としては、アルカリ金属(Li、Na、K)、アルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba)、Al、Zn、Cu、Pbなどのセッケンがあげられる。セッケンのタイプとしては、高級脂肪酸の金属塩(金属セッケン型、混合セッケン型)や、あるいは高級脂肪酸と、低級脂肪酸または二塩基酸などとのコンプレックス塩(コンプレックス型)があげられる。
【0015】
セッケン系増ちょう剤の具体例としては、これに限定されないが、例えば、
(I) 炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸、および/または少なくとも1個のヒドロキシル基を含む炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸の、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、もしくはAl塩、
(II) 炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸、および/または少なくとも1個のヒドロキシル基を含む炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸と、炭素数2〜11の脂肪族モノカルボン酸とのCaコンプレックス塩、
(III) 炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸と、炭素数7〜24の芳香族モノカルボン酸とのAlコンプレックス塩、
(IV) 炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸、および/または少なくとも1個のヒドロキシル基を含む炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸と、
炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸またはそのジエステル、炭素数7〜24の芳香族モノカルボン酸またはそのエステル、リン酸エステル類、およびホウ酸エステル類のうちの少なくとも1種と
のLiコンプレックス塩
などがあげられる。
【0016】
また非セッケン系増ちょう剤は無機系と有機系に大別され、このうち無機系の非セッケン系増ちょう剤としては、例えばベントナイト、シリカゲル、亜硝酸ホウ素などがあげられる。
また有機系の非セッケン系増ちょう剤としては、例えば式(i):
R1NHCONHR2NHCONHR1 (i)
〔式中R1は、炭素数6〜24でかつ直鎖状もしくは分岐状の、飽和または不飽和の、1価の脂肪族炭化水素基を示し、R2は、炭素数6〜15の、2価の芳香族炭化水素基を示す。〕
で表されるジウレア化合物、上記式(i)中のR1が炭素数6〜15の1価の芳香族炭化水素基であるアリルウレア化合物、ポリウレア化合物、フタロシアニン化合物、テレフタラメート化合物、インダンスレン、アメリンなどがあげられる。
【0017】
これらの増ちょう剤は、それぞれ1種単独で使用できる他、2種以上を併用することもできる。
前述したポリ(α−オレフィン)に代表される合成炭化水素油と組み合わせるのに最も好適な増ちょう剤としては、前者のセッケン系増ちょう剤のうちLi塩もしくはLiコンプレックス塩などのLiセッケンがあげられる。Liセッケンを合成炭化水素油と組み合わせた潤滑グリース組成物は、他の金属系セッケンを用いたものに比べて静摩擦係数μが小さい上、広い温度域でほぼ一定の粘度を示すなど、安定した特性を有する。このためポリエチレンオキサイド系ワックスの配合により、上記の広い温度域で、摩擦を安定して低減するために有効である。
【0018】
基油Oと増ちょう剤Wとの配合割合は、潤滑グリース組成物に求められるちょう度その他の特性値や、あるいは基油の粘度等の物性値などに応じて適宜、設定すれば良い。
例えば合成炭化水素油とLiセッケンとの組み合わせにおいては、両者を、重量比O/Wで表して95/5〜75/25の配合割合で配合するのが好ましく、92/8〜80/20の配合割合で配合するのがさらに好ましい。
【0019】
〈他の添加剤〉
この発明の潤滑グリース組成物には、上記の各成分の他に、さらに必要に応じて、例えば酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、さび止め剤、腐食防止剤、構造安定剤、固体潤滑剤などの添加剤を配合してもよい。各添加剤の配合量は、それぞれ従来と同程度であればよい。
〈潤滑グリース組成物の製造〉
この発明の潤滑グリース組成物は、従来と同様にして製造することができる。
【0020】
例えば増ちょう剤としてセッケンを使用した潤滑グリース組成物は、下記の直接ケン化法、または混合法によって製造される。
このうち直接ケン化法では、まずセッケン原料としての脂肪酸などを基油中に溶解する。次にかく拌下、強アルカリである金属水酸化物を加えて、ケン化反応によってセッケンを合成するとともに、加熱して脱水させる。次に、かく拌を続けながらさらに加熱して、合成したセッケンを基油中に分散もしくは溶解した後、冷却してゲル化させる。そしてミリング処理することで潤滑グリース組成物が製造される。
【0021】
かかる直接ケン化法においてポリエチレンオキサイド系ワックスその他の添加剤を配合するタイミングは特に限定されない。ただし、ケン化反応への影響と、ケン化反応によって生成した水の影響を避けるためには、脱水後の任意の工程で、これらの成分を配合するのが好ましい。またミリング処理まで完了した潤滑グリースに、さらにその後の工程で、ポリエチレンオキサイド系ワックスその他の添加剤を配合してこの発明の潤滑グリース組成物とすることもできる。
【0022】
一方の混合法では、あらかじめ合成しておいたセッケンと基油とを加熱下でかく拌、混合して、セッケンを基油中に分散もしくは溶解した後、冷却してゲル化させ、さらにミリング処理することで潤滑グリース組成物が製造される。
かかる混合法においては、セッケンと基油のかく拌、混合工程から、ミリング処理工程までの任意の工程で、ポリエチレンオキサイド系ワックスおよびその他の添加剤を配合することができる。また先の場合と同様に、ミリング処理まで完了した潤滑グリースに、さらにその後の工程で、ポリエチレンオキサイド系ワックスおよびその他の添加剤を配合してこの発明の潤滑グリース組成物とすることもできる。
【0023】
かくして製造されるこの発明の潤滑グリース組成物は、前述したように広い温度域で摩擦の低減に安定した効果を発揮し、しかも合成樹脂に影響を及ぼすおそれがないため、前記合成樹脂製の部品等を用い、比較的低速で駆動される低負荷の、電動式動力舵取装置の減速機において、摩擦面の潤滑に特に好適に使用される。
【0024】
【実施例】
以下にこの発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
実施例1、比較例1
あらかじめ製造した、基油としてのポリ(α−オレフィン)〔40℃での動粘度が48mm2/s〕と、増ちょう剤としてのLiセッケンとを、重量比O/W=88/12の配合割合で含む潤滑グリース100重量部に、3重量部のポリエチレンオキサイド系ワックス〔重量平均分子量Mw:600〕を配合し、均一にかく拌、混合して実施例1の潤滑グリース組成物を製造した。またポリエチレンオキサイド系ワックスを配合しなかったものを比較例1とした。
【0025】
実施例2、比較例2
あらかじめ製造した、基油としてのポリ(α−オレフィン)〔40℃での動粘度が48mm2/s〕と、増ちょう剤としてのウレア系増ちょう剤とを、重量比O/W=88/12の配合割合で含む潤滑グリース100重量部に、3重量部のポリエチレンオキサイド系ワックス〔重量平均分子量Mw:600〕を配合し、均一にかく拌、混合して実施例2の潤滑グリース組成物を製造した。またポリエチレンオキサイド系ワックスを配合しなかったものを比較例2とした。
【0026】
そして得られた各実施例、比較例の潤滑グリース組成物について、バウデン−レーベン法に準拠した摩擦試験機を使用して、下記の手順により、雰囲気温度25℃、60℃および80℃で、それぞれ静摩擦係数μを求めた。
〔静摩擦係数μ〕
〈試験片〉
試験片としては、前述した自動車の電動式動力舵取装置の減速機において実際にウォームホイールに使用するポリアミド樹脂にて形成した、直径φ5の円柱状試験片と、同じく金属製のウォームシャフトに実際に使用する機械構造用炭素鋼にて形成した平板状試験片とを用いた。
【0027】
このうちポリアミド樹脂製の円柱状試験片の、摩擦試験面である端面の面粗さは、実機ウォームホイールの、歯面の面粗さと一致するように仕上げた。また同様に平板状試験片の、摩擦試験面である表面の面粗さは、実機ウォームシャフトの、歯面の面粗さと一致するように仕上げた。
〈測定〉
測定に際しては、雰囲気温度を前記いずれかの温度に維持した恒温室中で、まず前記バウデン−レーベン摩擦試験機の、往復動される台盤上に上記平板状試験片を固定し、その摩擦試験面である表面に潤滑グリース組成物を塗布した。次いで温度を安定させた後、上記バウデン−レーベン摩擦試験機の保持部に円柱状試験片を保持させた状態で、当該円柱状試験片の摩擦試験面である端面を、平板状試験片の、潤滑グリース組成物を塗布した面に、一定の負荷荷重をかけて圧接させた。負荷荷重は39.2Nとした。
【0028】
そしてこの圧接状態で、台盤をすべり速度1.0mm/秒、摺動幅15mmで往復動させた際に、保持部に接続した板バネに発生する、摺動方向に沿う方向の歪み量を歪みゲージで測定して、台盤往復時の起動トルクと起動後の摺動トルクとを求め、その結果から静摩擦係数μを算出した。実施例1、比較例1の結果を図1、実施例2、比較例2の結果を図2に示す。
まず図1より、基油として合成炭化水素油であるポリ(α−オレフィン)を使用し、かつ増ちょう剤としてLiセッケンを使用した系では、ポリエチレンオキサイド系ワックスを配合することにより、静摩擦係数μを、前記測定温度範囲の全域でほぼ半減できること、しかも測定温度範囲の全域でほぼ一定の値にできることがわかった。
【0029】
また図2より、基油として合成炭化水素油であるポリ(α−オレフィン)を使用し、かつ増ちょう剤としてウレア系増ちょう剤を使用した系では、ポリエチレンオキサイド系ワックスを配合することにより、静摩擦係数μが、これまでは高温になるほど上昇する傾向を示していたものを、測定温度範囲の全域でより低く、しかもほぼ一定の値にできることがわかった。
そしてこのことから、実施例1、2の潤滑グリース組成物は、ともに熱安定性に優れ、広い温度域で、摩擦を低減する効果を安定して発揮できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の、実施例1、比較例1の潤滑グリース組成物における、測定温度と静摩擦係数μとの関係を示すグラフである。
【図2】この発明の、実施例2、比較例2の潤滑グリース組成物における、測定温度と静摩擦係数μとの関係を示すグラフである。
Claims (4)
- 基油と増ちょう剤とを含み、電動式動力舵取り装置の減速機に用いる潤滑グリース組成物であって、ポリエチレンオキサイド系ワックスを配合したことを特徴とする潤滑グリース組成物。
- ポリエチレンオキサイド系ワックスを、基油と増ちょう剤との合計量100重量部に対して0.1〜30重量部の配合割合で配合した請求項1に記載の潤滑グリース組成物。
- 増ちょう剤がLiセッケンである請求項1または2に記載の潤滑グリース組成物。
- 基油が合成炭化水素油である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
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