JP4986341B2 - 潤滑グリース組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車の電動式動力舵取装置(電動式パワーステアリング装置)の減速機に使用される潤滑グリース組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
自動車の電動式動力舵取装置の減速機としては近時、バックラッシによる歯打ち音の低減を目的として、例えばポリアミド樹脂などの合成樹脂製のウォームホイールを用いたものが一般化しつつある。
また上記減速機においては、ハンドルの戻り性を向上するため、また動力伝達効率を向上するために、低トルク化が必要とされる。
【0003】
低トルク化を達成するためには、合成樹脂製のウォームホイールと金属製のウォームシャフトとの摩擦面において、摩擦の低減に寄与する潤滑グリース組成物の役割が重要であり、その組成について種々検討がなされている。
しかし合成樹脂に影響を及ぼすことなしに、広い温度域で摩擦の低減に安定した効果を発揮しうる潤滑グリース組成物については、未だ完成されるに至っていないのが現状である。
【0004】
この発明の目的は、広い温度域で摩擦の低減に安定した効果を発揮し、しかも合成樹脂に影響を及ぼすおそれがないため、前記合成樹脂製の部品等を用いた電動式動力舵取装置の減速機に好適に使用することができる、新規な潤滑グリース組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
請求項1記載の発明は、基油と増ちょう剤とを含み電動式動力舵取装置の減速機に用いる潤滑グリース組成物であって、増ちょう剤として、Liステアレートと、Liヒドロキシステアレートとを、重量比Li−St/Li−St(OH)=20/80〜50/50の割合で併用したことを特徴とする潤滑グリース組成物である。
LiステアレートおよびLiヒドロキシステアレートはともに、潤滑グリース組成物の増ちょう剤として周知の成分である。発明者は、前記の目的を達成するために、これらの成分を含む種々の増ちょう剤について、潤滑グリース組成物の摩擦の低減にどの程度の効果を発揮しうるかを再検討した。
【0006】
その結果、Liステアレート(ステアリン酸リチウム)は、摩擦の低減に高い効果を発揮しうるものの、これを単独で使用した場合には、低温になるほどトルクが大きくなって低温での潤滑性能(「低温特性」とする)が低下する傾向を示すことを見出した。そこでさらに検討した結果、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムに代表されるLiヒドロキシステアレートを、前記所定の割合で、Liステアレートと併用すれば良いとの知見を得るに至った。
【0007】
すなわちかかる併用系においては、Liステアレートの持つ、摩擦を低減する効果を維持しつつ、Liヒドロキシステアレートの添加によって、特に低温域でのトルクの上昇を抑制して低温特性を改善することができる。その結果、広い温度域で、摩擦を安定して低減することが可能となる。
したがって請求項1の構成によれば、広い温度域で摩擦の低減に安定した効果を発揮し、しかも合成樹脂に影響を及ぼすおそれがないため、前記合成樹脂製の部品等を用いた電動式動力舵取装置の減速機に好適に使用することができる、新規な潤滑グリース組成物を提供することが可能となる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明を説明する。
〈増ちょう剤〉
増ちょう剤としては、前記のようにLiステアレートとLiヒドロキシステアレートとが併用される。両者の配合割合は、Liステアレート(Li−St)とLiヒドロキシステアレート〔Li−St(OH)〕との重量比Li−St/Li−St(OH)で表して20/80〜50/50である必要がある。
【0009】
この範囲よりLiステアレートの配合割合が小さい場合には、当該Liステアレートによる、潤滑グリース組成物の摩擦を低減する効果が不十分になる。
一方、この範囲よりLiヒドロキシステアレートの配合割合が小さい場合には、当該Liヒドロキシステアレートを配合したことによる、特に低温域でのトルクの上昇を抑制して低温特性を改善する効果が不十分になる。
【0011】
なおこの発明においては、上述したLiステアレートとLiヒドロキシステアレートとの併用による効果を損なわない範囲で、従来公知の種々の、他の増ちょう剤を併用することもできる。
かかる他の増ちょう剤は、セッケン系と非セッケン系とに大別される。
このうちセッケン系増ちょう剤としては、前述した2種以外の、アルカリ金属(Li、Na、K)、アルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba)、Al、Zn、Cu、Pbなどのセッケンがあげられる。セッケンのタイプとしては、高級脂肪酸の金属塩(金属セッケン型、混合セッケン型)や、あるいは高級脂肪酸と、低級脂肪酸または二塩基酸などとのコンプレックス塩(コンプレックス型)があげられる。
【0012】
セッケン系増ちょう剤の具体例としては、これに限定されないが、例えば、
(I) 炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸、および/または少なくとも1個のヒドロキシル基を含む炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸の、アルカリ金属塩(ただし前述した2種を除く)、アルカリ土類金属塩、もしくはAl塩、
(II) 炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸、および/または少なくとも1個のヒドロキシル基を含む炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸と、炭素数2〜11の脂肪族モノカルボン酸とのCaコンプレックス塩、
(III) 炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸と、炭素数7〜24の芳香族モノカルボン酸とのAlコンプレックス塩、
(IV) 炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸、および/または少なくとも1個のヒドロキシル基を含む炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸と、
炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸またはそのジエステル、炭素数7〜24の芳香族モノカルボン酸またはそのエステル、リン酸エステル類、およびホウ酸エステル類のうちの少なくとも1種と
のLiコンプレックス塩
などがあげられる。
【0013】
また非セッケン系増ちょう剤は無機系と有機系に大別され、このうち無機系の非セッケン系増ちょう剤としては、例えばベントナイト、シリカゲル、亜硝酸ホウ素などがあげられる。
また有機系の非セッケン系増ちょう剤としては、例えば式(i):
R1NHCONHR2NHCONHR1 (i)
〔式中R1は、炭素数6〜24でかつ直鎖状もしくは分岐状の、飽和または不飽和の、1価の脂肪族炭化水素基を示し、R2は、炭素数6〜15の、2価の芳香族炭化水素基を示す。〕
で表されるジウレア化合物、上記式(i)中のR1が炭素数6〜15の1価の芳香族炭化水素基であるアリルウレア化合物、ポリウレア化合物、フタロシアニン化合物、テレフタラメート化合物、インダンスレン、アメリンなどがあげられる。
【0014】
〈基油〉
基油としては、前述した動力舵取装置の減速機用等に使用される種々の基油が、いずれも使用可能である。
基油の具体例としては、鉱油、エステル油、合成炭化水素油、ポリグリコール系合成油、フェニールエーテル系合成油、シリコーン油、フッ素系合成油等があげられる。これらの基油は、それぞれ1種単独で使用できる他、2種以上を併用することもできる。
【0015】
とくにポリ(α−オレフィン)やポリブテンなどの合成炭化水素油が、基油として好適に使用される。かかる合成炭化水素油は、エステル油などのように合成樹脂に影響を及ぼすおそれがなく、広い温度域で、鉱油等に比べて安定な状態を維持できるとともに、ポリグリコール系合成油、シリコーン油等に比べて潤滑性に優れる上、フェニールエーテル系合成油、フッ素系合成油等に比べて安価であるという利点を有している。
【0016】
なおエステル油は、合成樹脂に影響を及ぼすおそれがあるので、基油として使用しないのが望ましいが、合成樹脂に影響を及ぼさないごく少量であれば、他の基油と併用しても構わない。この発明は、かかる併用を排除するものではない。
基油と増ちょう剤との配合割合は、潤滑グリース組成物に求められるちょう度その他の特性値や、あるいは基油の粘度等の物性値などに応じて適宜、設定すれば良い。特に増ちょう剤を、基油100重量部に対して5〜35重量部の配合割合で配合するのが好ましく、5〜25重量部の割合で配合するのがさらに好ましい。なお増ちょう剤の配合割合は、少なくとも前記2種の増ちょう剤を含む、増ちょう剤の総量を示す。
【0017】
〈他の添加剤〉
この発明の潤滑グリース組成物には、上記の各成分の他に、さらに必要に応じて、例えば酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、さび止め剤、腐食防止剤、構造安定剤、固体潤滑剤などの添加剤を配合してもよい。各添加剤の配合量は、それぞれ従来と同程度であればよい。
〈潤滑グリース組成物の製造〉
この発明の潤滑グリース組成物は、従来と同様に直接ケン化法、または混合法によって製造される。
【0018】
このうち直接ケン化法では、
(1) まずセッケン原料としての脂肪酸を基油中に溶解し、
(2) 次にかく拌下、強アルカリである金属水酸化物を加えて、ケン化反応によってセッケンを合成するとともに、加熱して脱水させ、
(3) 次いでかく拌を続けながらさらに加熱して、合成したセッケンを基油中に分散もしくは溶解した後、冷却してゲル化させる
操作を、LiステアレートおよびLiヒドロキシステアレートの、少なくとも2種のセッケン系の増ちょう剤についてそれぞれ別個に行う。そして得られた少なくとも2種のゲルを所定の割合で混合した後、ミリング処理することで潤滑グリース組成物が製造される。
【0019】
上記直接ケン化法において添加剤を配合するタイミングは特に限定されない。ただし、ケン化反応への影響と、ケン化反応によって生成した水の影響を避けるためには、脱水後の任意の工程で、これらの成分を配合するのが好ましい。またミリング処理まで完了した潤滑グリースに、さらにその後の工程で添加剤を配合して、この発明の潤滑グリース組成物とすることもできる。
一方の混合法では、あらかじめ別個に合成しておいた、少なくともLiステアレートおよびLiヒドロキシステアレートの2種を含む増ちょう剤と基油とを加熱下でかく拌、混合して、増ちょう剤を基油中に分散もしくは溶解した後、冷却してゲル化させ、さらにミリング処理することで潤滑グリース組成物が製造される。
【0020】
かかる混合法においては、増ちょう剤と基油とのかく拌、混合工程から、ミリング処理工程までの任意の工程で、添加剤を配合することができる。また先の場合と同様に、ミリング処理まで完了した潤滑グリースに、さらにその後の工程で添加剤を配合して、この発明の潤滑グリース組成物とすることもできる。
また、上記直接ケン化法と混合法とを併用することもできる。すなわち、いずれか1種の増ちょう剤を含む潤滑グリースを直接ケン化法によって合成するとともに基油中に分散もしくは溶解する工程から、ミリング処理工程までの任意の工程で、添加剤とは別個に、あるいは添加剤と同時に、別に合成しておいた残りの増ちょう剤を加えてさらにミリング処理することでも潤滑グリース組成物が製造される。
【0021】
かくして製造されるこの発明の潤滑グリース組成物は、前述したように広い温度域で摩擦の低減に安定した効果を発揮し、しかも合成樹脂に影響を及ぼすおそれがないため、前記合成樹脂製の部品等を用い、比較的低速で駆動される低負荷の、電動式動力舵取装置の減速機において特に好適に使用される。
【0022】
【実施例】
以下にこの発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
実施例1〜3、比較例1、2
あらかじめ別個に合成した、基油としてのポリ(α−オレフィン)〔40℃での動粘度が48mm2/s〕100重量部と、増ちょう剤の総量12重量部とを配合し、加熱下でかく拌、混合した後、冷却してゲル化させ、さらにミリング処理して潤滑グリース組成物を製造した。
【0023】
なお増ちょう剤としては、LiステアレートおよびLiヒドロキシステアレート(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム)の2種を用い、各実施例、比較例における、上記2種の増ちょう剤の配合割合は、重量比Li−St/Li−St(OH)で表して0/100(比較例1)、20/80(実施例1)、50/50(実施例2)、85/15(実施例3)、100/0(比較例2)とした。
そして得られた各実施例、比較例の潤滑グリース組成物について、バウデン−レーベン法に準拠した摩擦試験機を使用して、下記の手順で、温度25℃での静摩擦係数μを求めるとともに、−40℃での低温トルク(N・cm)を測定した。
【0024】
〔静摩擦係数μ〕
〈試験片〉
試験片としては、前述した自動車の電動式動力舵取装置の減速機において実際にウォームホイールに使用するポリアミド樹脂にて形成した、直径φ5の円柱状試験片と、同じく金属製のウォームシャフトに実際に使用する機械構造用炭素鋼にて形成した平板状試験片とを用いた。
【0025】
このうちポリアミド樹脂製の円柱状試験片の、摩擦試験面である端面の面粗さは、実機ウォームホイールの、歯面の面粗さと一致するように仕上げた。また同様に平板状試験片の、摩擦試験面である表面の面粗さは、実機ウォームシャフトの、歯面の面粗さと一致するように仕上げた。
〈測定〉
測定に際しては、温度を25℃に設定した恒温室中で、まず前記バウデン−レーベン摩擦試験機の、往復動される台盤上に上記平板状試験片を固定し、その摩擦試験面である表面に潤滑グリース組成物を塗布した。次いで温度を安定させた後、上記バウデン−レーベン摩擦試験機の保持部に円柱状試験片を保持させた状態で、当該円柱状試験片の摩擦試験面である端面を、平板状試験片の、潤滑グリース組成物を塗布した面に、一定の負荷荷重をかけて圧接させた。負荷荷重は39.2Nとした。
【0026】
そしてこの圧接状態で、台盤をすべり速度1.0mm/秒、摺動幅15mmで往復動させた際に、保持部に接続した板バネに発生する、摺動方向に沿う方向の歪み量を歪みゲージで測定して、台盤往復時の起動トルクと起動後の摺動トルクとを求め、その結果から静摩擦係数μを算出した。結果を図1に示す。
〔低温トルク〕
恒温室の設定温度を−40℃としたこと以外は上記と同様にして台盤往復時の起動トルクを測定して、−40℃での低温トルク(N・cm)とした。結果を図2に示す。
【0027】
両図より、Liヒドロキシステアレートを単独で使用した比較例1の潤滑グリース組成物は、−40℃での低温トルクが小さいものの、静摩擦係数μが0.2を超えることから、摩擦を低減する効果が不十分であることがわかった。
一方、Liステアレートを単独で使用した比較例2の潤滑グリース組成物は静摩擦係数μが小さく、摩擦を低減する効果に優れていた。しかし、−40℃での低温トルクが、前述したポリアミド樹脂製のウォームホイールと、機械構造用炭素鋼製のウォームシャフトとを組み合わせた実機の、自動車の電動式動力舵取装置の減速機において良好とされた32N・cmを超えることから、低温特性が悪いことがわかった。
【0028】
これに対し、実施例1〜3の潤滑グリース組成物は、いずれも静摩擦係数μが0.2以下で摩擦を低減する効果に優れるとともに、−40℃での低温トルクが32N・cm以下で低温特性にも優れることが確認された。
また各実施例の潤滑グリース組成物を比較すると、Liステアレートの配合割合を多くするほど、低温特性を維持しつつ、静摩擦係数μを小さくできることも確認された。
【0029】
次に、上記各実施例、比較例の潤滑グリース組成物について、恒温室の設定温度を25℃、60℃および80℃としたこと以外は前記と同様にして静摩擦係数μを求めた。結果を図3に示す。
図より、Liヒドロキシステアレートを単独で使用した比較例1の潤滑グリース組成物は、上記の測定温度範囲の全域で静摩擦係数μが大きい上、その変動も大きいことから熱安定性が悪いことがわかった。
【0030】
これに対し実施例1〜3の潤滑グリース組成物は、上記測定温度範囲の全域で、比較例1に比べて静摩擦係数μが小さく、しかもほぼ一定の値を示した。そしてこのことから、実施例1〜3の潤滑グリース組成物は熱安定性に優れ、広い温度域で、摩擦を低減する効果を安定して発揮できることが確認された。
また各実施例の比較より、Liステアレートの配合割合を多くするほど、摩擦の低減効果が向上することも確認された。特に実施例3の潤滑グリース組成物は、摩擦の低減効果に優れていた。
【0031】
なお、Liステアレートを単独で使用した比較例2の潤滑グリース組成物は、上記測定温度の範囲内では、実施例3と同等の摩擦の低減効果を示したが、前記のように低温特性が不良であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例、比較例の潤滑グリース組成物における、Liステアレートの、増ちょう剤の総量に対する配合割合(重量%)と、静摩擦係数μとの関係を示すグラフである。
【図2】上記実施例、比較例の潤滑グリース組成物における、Liステアレートの、増ちょう剤の総量に対する配合割合(重量%)と、−40℃での低温トルク(N・cm)との関係を示すグラフである。
【図3】上記実施例、比較例の潤滑グリース組成物における、測定温度と静摩擦係数μとの関係を示すグラフである。
Claims (2)
- 基油と増ちょう剤とを含み電動式動力舵取装置の減速機に用いる潤滑グリース組成物であって、増ちょう剤として、Liステアレートと、Liヒドロキシステアレートとを、重量比Li−St/Li−St(OH)=20/80〜50/50の割合で併用したことを特徴とする潤滑グリース組成物。
- 基油が合成炭化水素油である請求項1記載の潤滑グリース組成物。
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