以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面構造を表す概念図である。すなわち、本発明の磁気抵抗効果素子10Aは、図示しない所定の基板の上に、反強磁性層A、第1の磁性層P、非磁性中間層S、第2の磁性層Fの順に積層されている。そして、第1の磁性層Pには抵抗調整層R1が挿入され、第2の磁性層Fには抵抗調整層R2が挿入されている。なお、反強磁性層A、第1の磁性層P、非磁性中間層S、第2の磁性層Fは磁気抵抗効果膜を構成する。
さらに、この積層構造の上下には、電極層ELが設けられ、センス電流Iを膜面に対して垂直方向に流すことが特徴となっている。
本実施形態においては、第1の磁性層Pは、その磁化が反強磁性層Aによる一方向異方性により固定された「ピン層」として作用する。また、第2の磁性層Fは、図示しない磁気記録媒体などから発生される外部磁場(例えば信号磁界など)により磁化回転される「磁場感受層」あるいは「フリー層」として作用する。
第1の磁性層Pと第2の磁性層Fは、それぞれ抵抗調整層R1、R2が挿入され、強磁性体層FM/抵抗調整層R1または抵抗調整層R2/強磁性体層FMという積層構造を有する。この構造においては、抵抗調整層R1、R2を挟んだ両側の強磁性体層は強磁性磁気結合をしており、その磁化は実質的に一体として振舞う。すなわち、この強磁性体層/抵抗調整層/強磁性体層の積層構造に含まれるそれぞれの強磁性体層の磁化は、全てほぼ平行にそろった状態にあり、ピン層(第1の磁性層P)においてはほぼ同一方向に磁化固着されており、フリー層(第2の磁性層F)においては外部磁場に対してほぼ同一の磁化方向を持つ。
本具体例においては、電流Iは上部電極ELから下部電極ELに向かって流れるが、抵抗調整層R1、R2は、電流を膜厚方向に流しつつ、かつその電流量を低減するものであり、抵抗調整層の挿入により磁気抵抗効果素子の抵抗を上げることができる。つまり、抵抗調整層R1、R2は、センス電流Iの通過量を制限する「フィルター層」、または、センス電流Iを構成する伝導電子の一部を透過させる「電流狭窄層」、または、センス電流Iの電流量を低減させる「障壁層」、として作用する。上記抵抗調整層の一具体例の構成および作用を、図30を参照して説明する。この具体例の抵抗調整層Rは、絶縁体層中にピンホールHが形成された構成となっている。この抵抗調整層Rを、磁気抵抗効果膜を構成する膜20、21の間に挟み、これらの膜にそれぞれ電極EL1、EL2を接続し、膜面に垂直に電流を流すと、電流は図30の破線に示すように、ピンホールHを通って流れるため、電流量が低減され、抵抗が増大することになる。なお、抵抗調整層の構成及び作用は、後述するように、これに限られるものではない。
さらに、低減された電流Iの一部は2つの抵抗調整層R1、R2の間で何度か反射を繰り返しながら流れる。しかし、反射を繰り返しながら流れる電流の量はセンス電流全体からみるとさほど多くはない。しかし、これによって電子がCPPスピンバルブ構造を無反射で通過する確率は多少減少するため更に電気抵抗を増大させることが可能となる。なお、これらの抵抗調整層は、CIP型スピンバルブ素子の電子反射層とは、形態的(morphological)に異なった構成となっている。
CPPスピンバルブ膜においては、強磁性体層/非磁性体層の界面における電子散乱の効果、すなわち界面抵抗が、大きなスピン依存性を持ちCPP−MRを増大させる役目を担っている。また、界面抵抗は、比較的大きな値を持つ傾向がある。これらの特徴は、図28に関して前述したCPP人工格子における作用と同様である。
従って、抵抗調整層を設けることにより、膜面垂直方向の抵抗値を増大させることができる。その結果として、本発明によれば、より多くの界面抵抗を利用することができ、従来のCPPスピンバルブ膜に比べて、高抵抗で高MR変化率のCPP−SVを実現することが可能となる。
また、本実施形態においては、電流Iが膜面に対して垂直方向に流れるCPP方式をとっているため、すべての電流Iは強磁性体層/非磁性体層の界面を横切ることになる。その結果として、CIP方式の場合には有効に利用できなかった界面効果を極めて有効に利用することが可能となる。このため、CIP構成ではあまり得られなかったMR変化率の増大効果を極めて顕著に得ることが可能になる。
以上の効果により、スピンバルブ構成でありながら、界面抵抗を良好に利用し、適度な抵抗値を持ったCPPスピンバルブ素子を提供することが可能となる。
また、本実施形態においては、ピン層P、フリー層Fの磁化はそれぞれ一体として動作する為、磁化の制御はピン層Pの磁化固着と1つのフリー層Fの磁化制御のみによって可能になり、磁気ヘッド等の読み取りセンサーとして用いる場合には、バルクハウゼンノイズが抑制された磁気ヘッドを実現することが可能になる。
また、本実施形態においては、ピン層P、フリー層Fの合計の厚さを薄くしたまま、良好な抵抗値とMR変化率とを得ることが可能となる。すなわち、本構成においては、従来の単純なCPPスピンバルブ構成と比較すると、電子の単純透過確率を減少させ、抵抗値を増大させるとともに、界面抵抗を十分に利用することが可能となるため、ピン層P、フリー層FのトータルのMstが小さい構造においても、十分な抵抗値とMR変化率を得ることが可能となる。
具体的には、従来構成ではピン層P、フリー層Fの磁性体の厚さとしては20nm程度必要であったが、本実施形態によれば、トータルの磁性層厚が5nm以下でも十分な特性を得ることが可能になる。これによって、フリー層FのMstを小さな値に保つことが可能となり、高感度なスピンバルブ素子を実現することができる。また、ピン層PのMstも小さくすることが可能となるため、反強磁性層Aによる磁化固着特性を向上させることができ、デバイスとしての信頼性を向上させることが可能となる。
本実施形態における抵抗調整層R1、R2としては、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)、C(炭素)等の半金属(セミメタル)や、ZnSe(セレン化亜鉛)等のいわゆるゼロギャップ半導体を用いることができる。これらの材料においては、絶縁体とは異なり、伝導電子は存在しているが、その密度が非常に小さいため、伝導電子が感じるポテンシャルは非常に小さくなっている。具体的にはCu(銅)等の金属が7eV程度のフェルミポテンシャルを持っているのに対して、半金属におけるフェルミポテンシャルは1eV以下の小さな値となっている。
このため、強磁性体となる金属層中に、半金属やゼロギャップ半導体からなる抵抗調整層R1、R2を挟むと、図2に例示したように大きなポテンシャルの段差が生じ、伝導電子が透過するのが制限されるようになる。なお、図2(a)は、ピン層Pとフリー層Fの磁化が平行の場合、図2(b)は、反平行の場合について、それぞれ電子が感じるポテンシャルをアップスピンの場合とダウンスピンの場合について図示したグラフである。
本発明の構成においては、抵抗調整層R1、R2の中にも伝導電子が存在するため、トンネルによる電子の透過確率よりも、伝導電子による伝導の方が十分に大きくなっており、通常の伝導が全体の抵抗値を支配している。このため、強磁性トンネル接合の場合に比べると低抵抗化が可能であり、微少接合において良好な素子抵抗を得ることが可能となる。
これらの材料におけるフェルミポテンシャルの値は、1eV〜0eVの範囲にあることが望ましい。より望ましくは、0.5eV〜0eVの範囲が適している。その理由は、まず第1に、これらの材料においては、フェルミポテンシャルの値が小さければ小さいほど、電子の感じるポテンシャルに段差をつけることが可能になるため、電子の透過確率を小さくすることが可能になるからである。また、セミメタル中の伝導電子数自体も少なくなるため、電子の透過確率を非常に小さくすることが可能になる。0.5eVの場合、伝導電子数は約3.5×1020個となりCu等の貴金属に比べると電子数は2桁程度小さな値となるため、大きな抵抗増大を望むことができる。したがって、これらの材料におけるフェルミポテンシャルの値は0.5eV 以下とする事が望ましい。しかし、1eV以下であれば、伝導電子数は約4.6×1021個となりCu等の貴金属に比べると電子数は1桁程度小さな値となるため十分に抵抗を増加させる効果を生じさせることができる。
また、本実施形態における抵抗調整層R1、R2の材料としては、Au(金)、Ag(銀)もしくはそれらの合金を用いることもできる。ただし、この場合には、あまり大きなポテンシャルの段差を形成することが難しいため、大きな抵抗増大を得ることは容易ではない。
また、本実施形態における抵抗調整層R1、R2としては、ポテンシャルバリアの高さが比較的低い絶縁体を用いることもできる。図3は、この構成に対応したポテンシャル図である。すなわち、図3(a)は、ピン層とフリー層の磁化が平行の場合、図3(b)は、反平行の場合について、それぞれ電子が感じるポテンシャルをアップスピンの場合とダウンスピンの場合について図示したグラフである。
本具体例の場合は、電子の透過確率は抵抗調整層R1、R2における電子のトンネル確率によって決まる。従って、バリアハイトが高くなると素子抵抗が高くなり過ぎるために、抵抗調整層R1、R2のバリアハイトは、0.1eV以下である事が望ましい。
一方、本実施形態における抵抗調整層R1、R2として、ピンホールが形成された絶縁体を用いることができる。この場合には、電子の透過確率は、ピンホールのサイズや密度などによって決定される。図4は、本具体例の断面構成を表す概念図である。同図に表したように、抵抗調整層R1、R2にピンホールHを適宜設けることができる。ここで、ピンホールHのサイズを、電子の平均自由行程と同程度以下にすると、より大きな抵抗増大効果を得ることが可能となる。また、ピンホールHの密度は、例えば、素子の膜面内に少なくとも10個以上のピンホールが形成されていることが、素子特性の再現性の点からは望ましい。但し、逆に素子中にただ一つのピンホールHが存在するようにすることもできる。また、ピンホールHのトータル面積と素子の膜面積との比率についても適宜決定することができるが、望ましくは50%以下であることが素子抵抗を上昇させるためには理想的である。
図4の具体例においては、電子の透過確率はピンホールHを通した電気伝導によって決まる。従って、抵抗調整層R1、R2を構成する材料として、バリアハイトの大きい絶縁体、例えばAl(アルミニウム)酸化物やSi(シリコン)酸化物などを用いることもできる。ただし、Co(コバルト)酸化物、Ni(ニッケル)酸化物、Cu(銅)酸化物などのバリアハイトの低い材料を用いることもできる。その場合でも、電気伝導は主にピンホールHによって支配される。
また、図4の具体例における抵抗調整層R1、R2の厚さも適宜決定することができるが、ピンホールHの形成を確実且つ容易にするためには、0.5nm〜10nmの範囲に設定することが望ましい。
ピン層Pとフリー層Fのそれぞれの抵抗調整層R1、R2におけるピンホールHの位置は、特にコントロールしなくてもよい。この場合は、ランダムに形成されているピンホールHを通した電気伝導が得られる。
この様なピンホールHを持った抵抗調整層R1、R2の形成方法としては、例えばAlの極薄層をスパッタ等の方法によって形成したあと、酸素雰囲気に短時間曝し、自然酸化により形成することができる。また、その他にも、Alなどの極薄層を、酸素プラズマに曝したり、酸素イオンを照射したり、酸素ラジカルを照射したりするような、エネルギーを与える方法でも形成できる。
また、被酸化層として、例えばAl−Coのように、比較的酸化されやすい材料と酸化されにくい材料とを同時成膜することによりAl−Coのグラニュラー(粒状)膜を形成しておき、それを酸素に曝すことにより、Alのみを選択的に酸化することによっても形成できる。
また、それ以外にも、酸素雰囲気中で成膜することによりピンホールHを持った酸化層を形成することができる。
また、このようなピンホールHを持った抵抗調整層R1、R2の別の形成方法としては、例えば、AFM(atomic force microscope)等を用いた微細加工、また自己組織化により規則的に配列したピンホールHを形成することもできる。
AFM等を用いた微細加工の際には、例えばAlOx(酸化アルミニウム)の連続膜を形成しておき、そのAlOxに穴を開けることにより形成できる。また、自己組織化により規則的に配列したピンホールを形成する場合には、例えば、AlOxの連続膜を形成しておき、そのAlOx上に自己組織化によりピンホールが形成されるレジストを塗布し、そのピンホール部分のAlOxをミリングやRIE等により除去して形成することができる。また、自己組織化により整列したピンホールHを持った絶縁体を直接、形成することもできる。
このように制御された方法でピンホールHを形成する場合には、2つの抵抗調整層R1、R2におけるピンホールHの位置関係が重要になる。すなわち、図5(a)に例示したように、上下の抵抗調整層R1、R2の間で、ピンホールHの位置を同じ場所になるようにすることもできる。また、図5(b)に例示したように、上下の抵抗調整層R1、R2の間でピンホールHの位置がずれているように設けることもできる。図5(b)に例示したように位置がずれていた方が、より効果的な電流量の低減を得ることが可能となり、より高抵抗なCPPスピンバルブ素子を実現することができる。
また、制御された方法でピンホールHを形成する場合には、2つの抵抗調整層R1、R2におけるピンホールHの大きさの関係も調節することができる。すなわち、ピンホールHの大きさを、上下の抵抗調整層R1、R2の間で同じになるようにすることもでき、または、異なるようにすることもできる。抵抗調整層R1、R2のうちで、電子が入って来る方の抵抗調整層のピンホールHの大きさを電子が出て行く方のピンホールの大きさよりも大きくした方が、より効果的な電流量の低減を得ることができ、より高抵抗なCPPスピンバルブ素子を形成することができる。
また、強磁性体層/電子反射層の積層構造における抵抗調整層R1、R2は、必ずしも1層だけで構成されている必要はなく、図6に例示したように、2層以上の抵抗調整層R1A、R1Bあるいは抵抗調整層R2A、R2Bを含んでいてもよい。このように複数の抵抗調整層を挿入することにより、電子の単純透過確率をさらに減少させることが可能となり、さらに高抵抗なCPP−SVを実現することができる。
また、フリー層Fの側においては、図7に例示したように、抵抗調整層R2を強磁性体層FMの内部に挿入せずに、非磁性層NM1、NM2により挟持して配置することも可能である。このようにすることによって、抵抗調整層R2によってフリー層Fの磁気特性にあたえる影響を最小限に留めることが可能になり、軟磁気特性との両立が容易になる。
以上具体例を挙げた本実施形態における第1および第2の磁性体層P、Fに含まれている強磁性体層は、例えばCo単体やCo系磁性合金のようなCoを含む強磁性体、あるいはNiFe合金のようなNi基合金、あるいはFe基合金等により構成することができる。
ここで、Fe基合金としては、Fe(鉄)、FeNi(鉄ニッケル)、FeCo(鉄コバルト)、FeSi(鉄シリコン)、FeMo(鉄モリブデン)、FeAl(鉄アルミニウム)などの軟磁気特性を得られやすい材料を用いることが望ましい。
また、Co系合金としては、Coに対して、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Os(オスミウム)、Hf(ハフニウム)のうちのいずれか1種または2種以上を添加した合金が挙げられる。これら添加元素の添加量は、5〜50原子%とすることが好ましく、さらには8〜20原子%の範囲とすることが望ましい。これは、添加量が少なすぎると、バルク効果が十分に増加せず、逆に添加量が多すぎると、今度は界面効果が大きく減少するおそれがあるからである。添加元素としては、大きなMR変化率を得るためには、特にFeを用いることが望ましい。
また、本実施形態における第1および第2の磁性層P、Fに含まれている強磁性体層は、図8に例示したように、強磁性体層FMと非磁性体層NMとの積層構造としても良い。この強磁性体層FM/非磁性体層NMの積層構造においては、非磁性体層NMを挟んだ強磁性体層FM同士は強磁性磁気結合をしており、実質的に磁化はほぼ平行にそろった状態にあり、ほぼ同一の磁化方向を持っている。
図8に例示したような積層構造膜をピン層P、フリー層Fに採用すると、電子はより多数の強磁性体層/非磁性体層の界面を通過するようになる。CPPスピンバルブ膜においては、強磁性体層/非磁性体層の界面における電子散乱の効果、すなわち界面抵抗が大きなスピン依存性を持ち、CPP−MRを増大させるという作用効果を有する。本具体例においては、より多くの界面抵抗を利用することができるため、より高抵抗で、より大きな抵抗変化率を得ることが可能となる。なお、図8においてフリー層Fと電極ELとの間には、電気伝導度が高い高導電層Gが設けられている。
抵抗調整層R1、R2の挿入は、特にCPPスピンバブル膜の高抵抗化に効果があるが、ピン層P、フリー層Fを積層化することは、特にMR比の増大に効果がある。このため、この2つの組み合わせることにより、特に高抵抗で、高MR変化率のCPPスピンバルブ膜を得ることが可能となる。
本具体例における強磁性体層FM/非磁性体層NMの積層構造膜としては、磁性体層FM/非磁性体層NMの界面において大きなスピン依存界面抵抗を得ることが望ましい。そのような強磁性体、非磁性体の組み合わせとしては、強磁性体層FMの材料としてはFe基合金、Co基合金、Ni基合金を用い、非磁性体層NMの材料としてはCu,Ag,Auもしくはそれらの合金を用いることが望ましい。
また、非磁性体層NMの材料としては、これら以外にも、特に、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)Ir(イリジウム)などの非強磁性金属を用いることも望ましい。特に、MnあるいはReをもちいることが望ましい。
これらのうちでは、界面抵抗が特に大きい組み合わせとして、Fe基合金/Au、Fe基合金/Ag、もしくはFe基合金/Au−Ag合金界面、Co基合金/Cu、Co基合金/Ag、Co基合金/Au、もしくはCo基合金/Cu−Ag−Au合金界面などを挙げることができる。
強磁性体層FM/非磁性体層NMの積層構造に含まれている強磁性体層FMの膜厚としては、ピン層Pにおいては磁気的安定性を増加させ、フリー層FにおいてはMstを薄くして高感度化を測るためには、できるだけ薄くすることが望ましい。膜厚の上限としては、界面数を増やすためには2nm以下であることが望ましい。
一方、本具体例における強磁性体層FM/非磁性体層NMの積層構造を形成する材料の組み合わせとしては、界面抵抗を良好に得るためには、非固溶系の組み合わせであることが望ましい。つまり、強磁性体層FMと非磁性体層NMを構成する材料が互いに非固溶の関係にあることが望ましい。しかし、要求されるレベルに応じて、必ずしも非固溶系の組み合わせに限定する必要はない。
また、本具体例における強磁性体層FM/非磁性体層NMの積層構造における強磁性体層FMは、必ずしも1種の材料で構成されている必要はなく、図9に例示したように、2種以上の強磁性体の積層膜で構成されていても良い。すなわち、図9に表した例においては、ピン層Pとフリー層Fは、それぞれ第1の強磁性体層FM1、第2の強磁性体層FM2、第3の強磁性体層FM3を積層した構成を有する。但し、強磁性体層の種類や層数あるいは積層の順序は、同図に限定されるものではない。
例えば、ピン層Pにおいては、界面抵抗の大きなFe/Au界面を用いることが望ましいが、Feはスピンの揺らぎが大きいために、室温で用いる為にはスピンの揺らぎを抑えることが望ましい。そのためには強磁性体層として、Fe/CoFe/Fe、Fe/NiFe/Feなどのように、スピン揺らぎの小さな磁性体との積層構造とすることが望ましい。
一方、フリー層Fにおいても、界面抵抗の大きなFe/Au界面を用いることが望ましいが、Feだけではフリー層として必要な軟磁気特性を得ることが難しい。そのため、強磁性体層としては、Fe/CoFe/Fe、Fe/NiFe/Feなどのように、軟磁気特性の優れている磁性材料との積層構造とする事が望ましい。
また、強磁性体層/抵抗調整層の積層構造における強磁性体層も、必ずしも1種の材料で構成されている必要はない。
図10は、抵抗調整層を挟む強磁性体層が2種以上の強磁性体層により構成されている場合を例示する概念図である。すなわち、同図に表した具体例においては、ピン層Pとフリー層Fとが、それぞれ第1の強磁性体層FM1と第2の強磁性体層FM2とを有する。
例えば、フリー層Fにおいては、界面抵抗の大きなFe/Au界面を用いることが望ましいが、Feだけではフリー層として必要な軟磁気特性を得ることが難しい。これに対して、強磁性体層として強磁性結合したCoFe,NiFe等の軟磁気特性の優れている磁性材料からなる磁性体層を付加することにより、軟磁気特性を向上させることが可能になる。
また強磁性体層FM/非磁性体層NMの積層構造における強磁性体層FMに、FeもしくはFe基合金が含まれる場合には、結晶構造がfcc(face centered cubic)構造であることが望ましい。これはAu、Ag、Cu等のfcc構造の金属を積層をした場合に、より安定にでき、また、全体として結晶性の良好な積層構造を構成することが可能になり、軟磁気特性の向上、スピン揺らぎの減少等の効果が得られるからである。但し、bcc構造を用いることもできる。
特に、強磁性体層/非磁性体層の積層構造における強磁性体層として2種類の磁性体を組み合わせる場合には 図11に例示したようにfcc構造の強磁性体層FM(fcc)とbcc構造の強磁性体層FM(bcc)とを組み合わせることもできる。このような組み合わせにおいては、fcc構造の強磁性体FM(fcc)とbcc構造の強磁性体FM(bcc)の電子状態、フェルミ面の形状、状態密度の分布等が大きく異なるため、顕著な伝導電子のフィルター効果を得ることが可能となり、大きな抵抗とMR変化率を得ることが可能となる。図示したように、第1の磁性層Pはbcc構造の強磁性体層、第2の磁性層Fはfcc構造の強磁性体層というように、ピン層Pとフリー層Fとで結晶構造が異なる構成にしても大きなフィルター効果を得ることが可能となる。
また、本発明においては、ピン層P、フリー層Fを構成する強磁性体層/非磁性体層の積層構造において強磁性体層同士は強磁性結合をしている必要があるが、そのためには良好な積層構造を形成する必要がある。また、ピン層P、フリー層Fの磁気特性は、積層構造における結晶格子定数を最適な値に調整することによって向上させることができる。このため、図12に例示したように非磁性層NMも、例えば、第1の非磁性層NM1と第2の非磁性層NM2との積層構造とするとよい。例えば、非磁性層NMを、Au層/Cu層/Au層のような積層構造とすると、大きな界面抵抗を実現しつつ良好な格子定数を実現し、良好な磁気特性を得ることが可能になる。
また、本発明における第1および第2の磁性層P、Fに含まれている強磁性体層FMは、図13に例示したように、強磁性体層FM1/強磁性体層FM2の積層構造により構成することもできる。この強磁性体層FM1/強磁性体層FM2の積層構造においては、強磁性体層同士は強磁性磁気結合をしており、実質的に磁化はほぼ平行にそろった状態にあり、ほぼ同一の磁化方向を持っている。
このような積層構造膜をピン層P、フリー層Fに採用すると、電子はより多数の強磁性体層/強磁性体層の界面を通過するようになる。CPPスピンバルブ膜においては、強磁性体層/強磁性体層の界面における電子散乱の効果、すなわち界面抵抗が大きなスピン依存性を持ち、CPP−MRを増大させるという作用効果を有する。本具体例においては、より多くの界面抵抗を利用することができるため、より高抵抗で、より大きな抵抗変化率を得ることが可能となる。
抵抗調整層R1、R2の挿入は、特にCPPスピンバブル膜の高抵抗化に効果があるが、ピン層P、フリー層Fを積層化することは、特にMR比の増大に効果がある。このため、この2つの組み合わせることにより、特に高抵抗で、高MR変化率のCPPスピンバルブ膜を得ることが可能となる。
本具体例においては、ピン層P、フリー層F中に多くの強磁性体層/強磁性体層の界面を配置することが可能となり、より多くの界面抵抗を利用することができ、高抵抗で高MR変化率のCPP−SVを構成することが可能となる。
また、ピン層P、フリー層Fの磁化は一体として動作するため、磁化の制御はピン層Pの磁化固着と1つのフリー層Fの磁化制御のみによって可能になり、ヘッド等の読み取りセンサーに用いる場合にはバルクハウゼンノイズが抑制された磁気ヘッドを実現することが可能になる。
本具体例における強磁性体層/強磁性体層の積層構造を構成している各強磁性体層は、例えばCo単体やCo系磁性合金のようなCoを含む強磁性体、あるいはNiFe合金のような強磁性体、あるいはFe基合金等により構成することができる。
界面抵抗が特に大きい組み合わせとしては、NiFe合金/CoFe合金、Fe基合金/NiFe合金、もしくはFe基合金/CoFe合金を用いることが望ましい。
また、強磁性体層/強磁性体層の積層構造に含まれる強磁性体層の膜厚は、全体のMstを増やすことなく界面数を増やすためには、できるだけ薄くすることが望ましい。磁性が保たれる組み合わせにおいては、強磁性体層は1原子層で構成することも可能である。また、膜厚の上限としては、界面数を増やすためには2nm以下であることが望ましい。
一方、強磁性体層/強磁性体層の積層構造に含まれている強磁性体層の膜厚は、界面数をできるだけ多くするためには、1nm以下であることが望ましい。また、下限としては、単原子層でも界面抵抗を発生させることは可能である。
強磁性体層/強磁性体層の積層構造を形成する材料の組み合わせとしては、界面抵抗を良好に得るためには、非固溶系の組み合わせであることが望ましい。しかし、必ずしも非固溶系の組み合わせに限定する必要はなく、適宜組み合わせを決定することができる。
図14は、複数の強磁性体層を有する場合の他の具体例を表す概念図である。
すなわち、同図の例においては、ピン層Pとフリー層Fのそれぞれが、第1の強磁性体層FM1と第2の強磁性体層FM2との積層構造を有し、さらに電子反射層R1、R2に隣接して第3の強磁性体層FM3が設けられている。
例えば、フリー層Fにおいては、界面抵抗の大きなFe/CoFe界面を用いることが望ましいが、Feだけではフリー層として必要な軟磁気特性を得ることが難しい。そのために、強磁性体層FM3として強磁性結合したNiFe等の軟磁気特性の優れている磁性材料を付加することにより軟磁気特性を向上させることが可能になる。
また、強磁性体層/強磁性体層の積層構造における強磁性体層に、FeもしくはFe基合金が含まれる場合には、fcc構造であることが望ましい。これは、CoFe、NiFe等のfcc構造の金属を積層をした場合に、より安定にできること、全体として結晶性の良好な積層構造を構成することが可能になり、軟磁気特性の向上、スピン揺らぎの減少等の効果があるためである。但し、bcc構造を用いることもできる。
また、2種類の強磁性体層の組み合わせとしては、fcc構造の強磁性体とbcc構造の強磁性体を組み合わせることもできる。図11に関して前述したように、この様な組み合わせにおいてはfcc構造の強磁性体とbcc構造の強磁性体の電子状態、フェルミ面の形状、状態密度の分布等が大きく異なるため、顕著な伝導電子のフィルター効果を得ることが可能となり、大きな抵抗とMR変化率を得ることが可能となる。
ところで、CPP−SVにおいては伝導電子がピン層Pとフリー層Fを通り抜けるときに、電子散乱を受けるが、ピン層Pもしくはフリー層Fを多層化した場合には、その多層周期に基づくバンドポテンシャルの変調をうける。このため、膜面に対して垂直方向に流れることができる電子の波数ベクトルは、バンドポテンシャルの変調に対応した制限を受けることになる。この制限を受ける波数は多層構造の周期により異なる。このため、ピン層Pとフリー層Fにおける多層周期を変えることにより、両方の層を通り抜けることができる波数を大きく制限することが可能になる。このフィルター効果自体もスピン依存効果を持つため、全体の電子の透過確率を低くしながらも、スピン依存性を高く保つことが可能となる。つまり、ピン層Pとフリー層Fの積層周期を故意に異なるものとすることにより、さらに高抵抗にしつつ、高MR変化率が実現できるCPP−SVを実現することが可能になる。
一方、非磁性中間層Sの材料としては、Cu(銅)、Au(金)、Ag(銀)のような伝導電子の平均自由行程の長い物質を用いることが望ましい。このような物質を用いることにより、電子は、第1の強磁性層Pと第2の強磁性層Fとの間をバリスティックに伝導することが可能となり、より効果的に強磁性体に起因する電子のスピン依存散乱効果を利用することができる。これにより大きなMR変化率を得ることが可能となる。また、非磁性中間層Sを、上述の3種類の元素の合金によって構成することも可能である。この場合は、積層構造における結晶格子定数を最適な値に調整することが可能な様に組成を調整することが望ましい。
また、非磁性中間層Sとしては、図15に断面構造を表したように、Cu、Au、Ag等の材料を積層した非磁性層S1/非磁性層S2の積層構造で構成することも可能である。このとき、非磁性層S1/非磁性層S2の積層構造の積層周期と、ピン層P、もしくはフリー層Fの積層周期とを適当に設定することにより、CPP−SV全体を膜面に対して垂直方向に流れることができる電子の波数ベクトルを制限し、より高抵抗で高MR変化率が実現できるCPP−SVを実現することが可能となる。
一方、反強磁性体層Aの材料としては、磁化固着特性に優れた金属反強磁性体を用いることが望ましい。具体的には、PtMn,NiMn,FeMn,IrMn等の反強磁性体を用いることができる。これらの層の膜厚は、電気的特性からはできるだけ薄くすることが望ましい。但し、余り薄くすると磁化固着特性が劣化してしまうため、ブロッキング温度が減少しない程度の膜厚を選択する必要がある。このため膜厚は5nm以上とすることが望ましい。
また、以上の構成に加えて、図16に例示したように、いわゆるシンセティック反強磁性構造を採用することができる。これは、第1の磁性層P、第2の磁性層Fのいずれか一方、または両方において、反強磁性結合層ACを介して互いに反強磁性結合をしている一対の強磁性体層FM1、FM2を付加したものである。このようなシンセティック構成を採用することにより、ピン層Pにおいては、見掛け上の磁化をゼロとすることが可能となり、ピン層Pの磁化固着をより安定なものとすることが可能となる。また、フリー層Fにおいては、見掛け上の磁化を小さくすることにより、より高感度な外部磁界応答性を得ることが可能となる。
さらに、以上の構成に加えて、ピン層Pを2層とした、いわゆるデュアル構成を採用することも可能である。
一方、以上の具体例においては、電極ELとスピンバルブ膜との間には特別な層を配置しなかったが、実際の素子を形成する場合は、図17に例示したように、下部電極EL1と反強磁性層Aとの間には、平滑性を向上させ、また結晶性を向上させるために下地層(バッファ層)Bを形成することが望ましい。また、上部電極EL2とフリー層Fとの間には、保護層となるべき層Cを配置することが望ましい。これら下地層B、保護層Cとしては、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Cr(クロム)等の濡れ性の良い材料、Cu、Au、Ag等の電気抵抗が小さくfcc構造が安定な材料、またはそれらの積層構造等を用いることが望ましい。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図18は、本発明の第2実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面構造を表す概念図である。同図については、図1乃至図17に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
本実施形態の磁気抵抗効果素子も、所定の基板の上に、反強磁性層A、第1の磁性層P、非磁性中間層S、第2の磁性層Fの順に積層され、センス電流Iは、膜面に対して垂直方向に流される。なお、反強磁性層A、第1の磁性層P、非磁性中間層S、第2の磁性層Fは磁気抵抗効果膜を構成する。
そして、本実施形態においては、非磁性中間層Sの中に抵抗調整層Rが挿入されている。
本実施形態においては、電流Iは上部電極EL2から下部電極EL1に向かって流れるが、抵抗調整層Rによって電流量が低減される。これによって電子がCPPスピンバルブ構造を通過してゆく確率は減少するため全体として大きく電気抵抗を増大させることが可能となる。
本実施形態においては、電子の透過確率が減少するため全体として、大きく電気抵抗を増大させることが可能となるが、スピン依存散乱効果自体は損なわれないため、MR変化率は大きな値に保っておくことが可能となる。
以上の効果により、スピンバルブ構成でありながら、界面抵抗を良好に利用し、適度な抵抗値を持ったCPPスピンバルブ素子を提供することが可能となる。
また本実施形態においても、ピン層P、フリー層Fの磁化は一体として動作するため、磁化の制御はピン層Pの磁化固着と1つのフリー層Fの磁化制御のみによって可能になり、ヘッド等の読み取りセンサーに用いる場合にはバルクハウゼンノイズが抑制された磁気ヘッドを実現することが可能になる。
また、本実施形態においても、ピン層P、フリー層Fの合計の厚さは薄くしたまま、良好な抵抗値、MR変化率を得ることが可能となる。すなわち、本構成においては、従来の単純なCPPスピンバルブ構成と比較すると、電子の単純透過確率を減少させ、抵抗値を増大させるとともに、界面抵抗を十分に利用することが可能となるため、ピン層P、フリー層Fの合計のMstが小さい領域で、十分な抵抗値とMR変化率を得ることが可能となる。具体的には、従来構成ではピン層P、フリー層Fの磁性体の厚さとしては20nm程度必要であったものが、本構成にすることにより、合計の磁性層厚が5nm以下でも十分な特性を得ることが可能になる。これによって、フリー層FのMstを小さな値に保つことが可能となり、高感度なスピンバルブ素子を構成することができる。
また、ピン層PのMstも小さくすることが可能となるため、反強磁性層Aによる磁化固着特性を向上させることができ、デバイスとしての信頼性を向上させることが可能となる。
本実施形態における抵抗調整層Rの材料としても、第1実施形態に関して前述したものと同様に、Bi、Sb、C等の半金属や、ZnSe等のいわゆるゼロギャップ半導体を用いることができる。これらの材料においては、絶縁体とは異なり伝導電子は存在しているが、その密度が非常に小さいため、伝導電子が感じるポテンシャルは非常に小さくなっている。具体的には、前述したように、Cu等の金属が7eV程度のフェルミポテンシャルを持っているのに対して、半金属においては1eV以下の小さな値となっている。
このため、金属層中に半金属や、ゼロギャップ半導体を挟むと、大きなポテンシャルの段差が生じ、伝導電子は反射されるようになる。本構成においては、抵抗調整層中にも伝導電子が存在するため、トンネルによる電子の透過確率よりも、伝導電子による伝導の方が十分に大きくなっており、通常の伝導が全体の抵抗値を支配している。このため、強磁性トンネル接合の場合に比べると低抵抗化が可能であり、微小接合において良好な素子抵抗を得ることが可能となる。
これらの材料におけるフェルミポテンシャルの値は、1eV〜0eVの範囲にはいっていることが望ましい。より望ましくは、0.5eV〜0eVの範囲が適している。この理由についても、第1実施形態に関して前述した通りである。
また、本実施形態における抵抗調整層Rの材料としては、AuまたはAgもしくはそれらの合金を用いることもできる。ただし、この場合には、あまり大きなポテンシャルの段差を形成することが難しいため、大きな抵抗増大を得ることは難しい。
また、本実施形態における抵抗調整層Rの材料としては、ポテンシャルバリア高さの低い絶縁体を用いることもできる。この場合は電子の透過確率はトンネル確率によって決定されるため、バリアが高くなると素子抵抗が高くなり過ぎる。
この観点から、バリア高さは0.1eV以下であることが望ましい。
また、本実施形態における抵抗調整層Rとして、図4乃至図6に関して前述したようなピンホールが形成された絶縁体を用いることができる。この場合には電子の透過確率は、ピンホールのサイズや密度などによって決定される。ここでピンホールサイズは、電子の平均自由行程と同程度以下にすることにより、より大きな抵抗増大効果を得ることが可能となる。また、ピンホール密度については、素子面積中に少なくとも10個程度のピンホールが形成されていることが、素子特性の再現性の点からは望ましい。しかし、逆に素子中にただ一つのピンホールが存在するようにすることもできる。またピンホールのトータル面積と素子面積との比率は、望ましくは50%以下であることが素子抵抗を上昇させるためには理想的である。
この場合には、電子の透過確率はピンホールを通した電気伝導によって決定されるため、抵抗調整層Rを構成する絶縁体としては、バリア高さの大きいもの、例えば、Al酸化物やSi酸化物などを用いることができる。ただし、Co酸化物、Ni酸化物、Cu酸化物などのバリアハイトの低い材料を用いることもできる。そのような場合でも電気伝導はピンホールによって支配される。
また、本実施形態における絶縁体層の厚さは、ピンホールを形成し易くするためには0.5nm〜10nmの範囲に設定することが望ましい。
この様なピンホールを持った絶縁体層の形成方法についても、第1実施形態に関して前述した各種の方法を用いることができる。すなわち、Alの極薄層を、スパッタ等の方法によって形成した後、酸素雰囲気に短時間さらし、自然酸化により形成することができる。また、その他にも、酸素プラズマにさらす、酸素イオンを照射する、酸素ラジカルを照射する、等のエネルギーを付与する方法でも形成できる。また、被酸化層として、例えばAl−Auのような比較的酸化し易い材料と、酸化しづらい材料とを同時成膜することによりAl−Auのグラニュラー膜を形成しておき、それを酸素に曝すことにより、Alのみを選択的に酸化することによっても形成できる。さらに、これら以外にも、酸素雰囲気中で成膜することによりピンホールを持った酸化層を形成することもできる。
また、この様なピンホールを持った絶縁体層の別の形成方法としては、例えば、AFM等を用いた微細加工、また自己組織化により規則的に配列したピンホールを形成することもできる。これらの詳細も第1実施形態に関して前述した通りである。
一方、本実施形態における抵抗調整層Rも、必ずしも1層だけで構成されている必要はなく、2層以上の積層構成を有していてもよい。また、抵抗調整層Rは、非磁性中間層Sの中に1層のみでなく、複数層が設けられていてもよい。このように複数の抵抗調整層Rを非磁性中間層Sに挿入することにより、より電子の単純透過確率を減少させることが可能となり、さらに高抵抗なCPP−SVを構成することが可能となる。
さらに、本実施形態の構成は、本発明の第1実施形態として前述した各種の構成と組み合わせることもできる。これにより、さらに高抵抗のCPPスピンバルブ膜を構成することができる。
第2実施形態と第1実施形態との組み合わせにおいて、ピンホールの位置を制御して形成する場合には、それぞれの抵抗調整層R、R1、R2におけるピンホールHの位置の関係が重要になる。つまり、ピンホールHの位置は 図19に例示したように、それぞれの抵抗調整層の間で同じ場所になるようにすることもできる、一方、図20に例示したようにそれぞれの抵抗調整層の間でピンホールHの位置がずれているように設けることもできる。
図20に表したようにピンホールHの位置がずれていた方が、電流量をより効果的に低減することができるため、さらに高抵抗なCPPスピンバルブ素子を形成することができる。
また、このようにピンホールHの位置を制御して形成する場合には、それぞれの抵抗調整層R、R1、R2におけるピンホールHの大きさの関係も重要である。この場合には、ピンホールHの大きさを全ての抵抗調整層で同じにしても良いが、抵抗調整層毎にピンホールHの大きさが異なるようにすることもできる。すなわち、抵抗調整層R、R1、R2のうちで、電子の流れに対して上流側に設けられるもののピンホールHを大きめに形成すると、電流量を効果的に低減することができ、より高抵抗なCPPスピンバルブ素子を形成することができる。
また、本発明の第2実施形態における第1および第2の磁性層P、Fも、第1実施形態に関して前述したものと同様に、強磁性体層、強磁性体層/非磁性体層の積層構造、強磁性体層/強磁性体層の積層構造などの構成を有するものとすることができる。
一方、本発明の第2実施形態における非磁性中間層Sも、本発明の第1実施形態に関して前述したものと同様の積層構成を有するものとすることができる。
また、本発明の第2実施形態における反強磁性層Aについても、第1実施形態と同様に、磁化固着特性に優れた金属反強磁性体を用いることが望ましい。具体的には、PtMn、NiMn、FeMn、IrMn等の反強磁性体を用いることができる。これらの層の膜厚は電気的特性からはできるだけ薄くすることが望ましい。但し余り薄くすると磁化固着特性が劣化してしまうため、ブロッキング温度が減少しない程度の膜厚を選択する必要がある。このため膜厚は5nm以上とすることが望ましい。
また、以上の構成に加えて、第1の磁性層P、第2の磁性層Fのいずれか一方、または両方において、いわゆるシンセティック反強磁性層構造を採用しても良い。さらに、以上の構成に加えて、ピン層Pを2層とした所謂デュアル構成としてもよい。これらの点についても、第1実施形態に関して図16を参照しつつ前述した通りである。
さらに、本実施形態においても、下地層(バッファ層)や保護層を設けることが望ましい。この点については、第1実施形態に関して図17を参照しつつ詳述した通りである。
次に、本発明の実施の形態について、実施例を参照しつつさらに詳細に説明する。
(第1の実施例)
まず、本発明の第1の実施例について説明する。
図21は、本発明の第1の実施例にかかる磁気抵抗効果素子の要部断面構成を表す概念図である。この磁気抵抗効果素子の形成に際しては、まず、図示しない熱酸化シリコン(Si)基板上にスパッタ法によってCu下電極EL1を層厚500nm積層し、フォトリソグラフィーにより幅9μmのストライプ状に形成した。その後、その上に3μm角のCPP−SVを成膜した。その膜構成は、以下に表す材料と膜厚の通りである。
Ta5nm(バッファ層B)/NiFe2nm(バッファ層B)/
PtMn15nm(反強磁性層A)/CoFe1nm(ピン層P1)/
AlOx(抵抗調整R1)/CoFe5nm(ピン層P2)/
Cu3nm(非磁性中間層S)/CoFe5nm(フリー層F)/
Cu2nm(非磁性体層NM1)/AlOx(抵抗調整層R2)/
Cu2nm(非磁性体層NM2)/Ta5nm(保護層C)
ここで、抵抗調整層となるAlOxは、Al(アルミニウム)を成膜した後、酸素雰囲気中に曝し、Alを自己酸化することにより形成した。本実施例においては、Alを1nm成膜し、酸素に1kラングミュアーだけ曝すことにより、図示しないピンホールの開いたAlOxを形成した。すなわち、本実施例においては、ピンホールが設けられたAlOx層が抵抗調整層R1、R2として機能する。
上記スピンバルブ構成の上にさらに絶縁用AlOx膜Zを形成し、0.1μm角の穴を形成した。その上にCu(銅)を約500nmの層厚にスパッタ法によって積層して上部電極EL2を形成した。本実施例では、上記構成により絶縁用AlOx膜Zの0.1μ角の穴を通してCPP−SV特性を測定することが可能となった。
室温における測定の結果、素子抵抗は7Ωであり、抵抗変化率は10%の値を得ることができた。これにより、0.7Ωの抵抗変化量を得ることができた。また、ピン層Pは良好に磁化固着され、ピン層Pを構成する積層構造の磁化は一体として動いていることが確認できた。また、フリー層FのHcも小さく、磁化は外部磁場に対して一体として動いていることが確認できた。
(比較例1)
まず、熱酸化シリコン(Si)基板上にスパッタ法によってCu下電極を500nm積層し、フォトリソグラフィーにより幅9μmのストライプ状に形成した。その後、その上に3μm角のCPP−SVを成膜した。その膜構成は、以下の通りである。
Ta5nm(バッファ層)/NiFe2nm(バッファ層)/
PtMn15nm(反強磁性層)/CoFe5nm(ピン層)/
Cu3nm(非磁性中間層)/CoFe5nm(フリー層)/
Cu2nm(非磁性体層)/Ta5nm(保護層)
その上にさらに、図21と同様のAlOxの絶縁膜を形成し、AlOxには0.1μm角の穴を形成した。その上にCuを500nmの層厚にスパッタ法によって積層して上部電極を形成した。室温での測定の結果、素子抵抗は3Ωとなり、抵抗変化率は3%の値しか得られなかった。つまり、本比較例では、0.09Ωの抵抗変化量しか得られず、第1実施例の1/8程度の変化量に留まった。
(第2の実施例)
第1実施例と同様に、まず、熱酸化シリコン(Si)基板上にスパッタ法によってCu下電極を500nm積層し、フォトリソグラフィーにより幅9μmのストライプ状に形成した。その後、その上に3μm角のCPP−SVを成膜した。
その膜構成は、以下の如くである。
Ta5nm(バッファ層B)/NiFe2nm(バッファ層B)/
PtMn15nm(反強磁性層A)/CoFe1nm(強磁性体層FM1)/
AlOx(抵抗調整層R1)/CoFe1nm(強磁性体層FM2)/
Cu1nm(非磁性体層NM1)/CoFe1nm(強磁性体層FM3)/Cu1nm(非磁性体層NM2)/CoFe1nm(強磁性体層FM4)/
Cu3nm(非磁性中間層S)/CoFe1nm(強磁性体層FM5)/
Cu1nm(非磁性体層NM3)/CoFe1nm(強磁性体層FM6)/
Cu1nm(非磁性体層NM4)/CoFe1nm(強磁性体層FM7)/
Cu2nm(非磁性体層NM5)/AlOx(抵抗調整層R2)/
Cu2nm(非磁性体層NM6)/Ta5nm(保護層C)
上記積層構造において、強磁性体層FM1から強磁性層FM4までの積層は、ピン層Pを構成する。また、強磁性層FM5から強磁性層FM7あるいは非磁性層NM6までの積層は、フリー層Fを構成する。
また、抵抗調整層R1、R2を構成するAlOxは、第1の実施例と同様の方法により、ピンホールの開いたAlOx層として形成した。
上記スピンバルブ構成の上に、図21と同様に、絶縁用AlOx膜を形成し、0.1μm角の穴を形成した。その上にCuを500nmの層厚にスパッタ法によって積層して上部電極EL2を形成した。本実施例では上記構成により絶縁用AlOx膜の0.1μ角の穴を通してCPP−SV特性を測定することが可能となった。
室温における測定の結果、素子抵抗は9Ωとなり、抵抗変化率として20%の値を得ることができた。つまり、1.8Ωの抵抗変化量を得ることができた。また、ピン層Pは良好に磁化固着され、ピン積層構造の磁化は一体として動いていることが確認できた。また、フリー層FのHcも小さく、その磁化は外部磁場に対して一体として動いていることが確認できた。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を、図31を参照して説明する。図31は本発明の第3実施形態による磁気抵抗効果素子の構造を膜断面からみた概念図である。
この実施形態の磁気抵抗効果素子は、図31に示すように、下部電極31、下地層32、反強磁性層33、磁化固着層34、非磁性中間層35、磁化自由層36、非磁性金属層37、非磁性化合物層38、上部電極39の順に積層された構造を有する。なお、反強磁性層33、磁化固着層34、非磁性中間層35、磁化自由層36は磁気抵抗効果膜を構成する。
非磁性化合物層38は、B、Si、Ge、Ta、W、Nb、Al、Mo、P、V、As、Sb、Zr、Ti、Zn、Pb、Th、Be、Cd、Sc、La、Y、Pr、Cr、Sn、Ga、Cu、In、Rh、Pd、Mg、Li、Ba、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Rbの酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物の中から選ばれる少なくとも一つで構成されている。また、非磁性化合物層38は結晶質であるとさらに良い。結晶質を得やすい物質としては、B、Si、Ge、W、Nb、Mo、P、V、Sb、Zr、Ti、Zn、Pb、Cr、Sn、Ga、Fe、Coの中から選ばれる少なくともひとつを含む酸化物が上げられる。本明細書においては、結晶質とは、非磁性化合物層が、単結晶あるいは多結晶からなることを意味する。アモルファスの中に微細結晶が点在するような状態を意味するのではない。これは断面TEM(Transmission Electron Microscopy)などにより、格子像を観察することで容易に確認することができ、例えば、秩序的な配列が観察されれば、結晶質であるといえる。あるいは、電子線回折像において、スポット状のパターンが観察された場合には、電子線の照射範囲は実質的に単結晶であり、結晶質と判断することができる。また、リング状のパターンが得られた場合には電子線の照射範囲は多結晶状態であり、結晶質と判断することができる。下部層とエピタキシャルに成長している様子を、格子像を観察することで確認することができる。
非磁性化合物層38は、電子反射効果により、擬似的に膜厚を増大させた効果があり、出力を増大させることができる。また、非磁性化合物層38は層中に金属相、半金属相、ハーフメタル相を含んでいる、あるいはピンホールが空いているような膜質であるときには、電流を絞る効果があり、実効的に電流密度を増大させた効果が生じる。したがって出力が増大する。このような効果を得るためには、このとき金属相に対して、非磁性化合物相の割合が大きすぎると抵抗が増大しすぎて素子の発熱が増大し、素子の特性を悪化させてしまう。そのため金属層部分は2%以上であることが望ましい。また、金属相部分があまりにも多いと、電流密度を増大させる効果が弱くなるため、すくなくとも30%以下あることが望ましい。
層中の金属相、あるいはピンホール部分の存在は、断面TEMの格子像を観察することによって確認することができる。すなわち、非磁性化合物層中に、上下の金属層とエピタキシャルにつながった部分が存在するとき、この部分は金属相であるといえる。また、非磁性化合物層中の組成分析を行うことによって、金属相の有無を確認することができる。すなわち、酸素濃度,あるいは窒素濃度、あるいはフッ素濃度あるいはホウ素濃度が、組成比で20%未満であれば実質的に金属相であるといえる。
また、このような金属相部分、あるいはピンホール部分の平均直径は、前記磁化自由層と、非磁性中間層と磁化固着層の膜厚の和に対して、10%から100%の範囲であることが望ましい。10%以下であると、絞込みによる抵抗増大が大きすぎて、実用的でない。逆に100%以上であると電流が広がりすぎて絞込みの効果が得られない。磁化固着層が、Ruなどの非磁性金属層を介して反強磁性的に結合した構造(シンセティック反強磁性構造)の場合は、非磁性中間層に近いほうの強磁性層のみを考慮して、前期膜厚の和を計算しなければならない。
また、このような金属相部分、あるいはピンホール部分の膜面内間隔は、1nmから100nmの範囲であることが望ましい。1nm以下であると、いったん絞り込まれた電流が非磁性化合物層の近傍で、重なり合ってしまうため、効果が劣化してしまう。また100nm以上であると、実際の素子における存在個数が1から3個程度のレベルになるため、確率的に特性のばらつきが多くなる。
非磁性化合物層38が、アモルファスであるとき、膜界面の電子ポテンシャルの急峻さが失われ、弾性的な散乱が抑制されるため、あまり大きな電子反射効果が得られず、出力の増大が望めない。また、アモルファスの場合には、構造が不安定で、耐熱性が悪化するため出力劣化の原因となる。結晶性の非磁性化合物層を得るためには、例えば、B、Si、Ge、W、Nb、Mo、P、V、Sb、Zr、Ti、Zn、Pb、Cr、Sn、Ga、Fe、Coの希土類金属の酸化物から選ばれる化合物は、結晶質を得る上で望ましい。
また、非磁性化合物層38は、0.2nm以下になると、熱拡散により容易にその形態を変えるため、0.2nm以上の厚みでなければならない。また、一方で、10nm以上の厚みになると、素子の抵抗が大きくなって、センス電流を流したときに過剰な発熱を引き起こし出力劣化の原因となる。より好ましくは0.5nmから5nmの範囲であることが望ましい。しかしながら、非磁性化合物層38が、半金属、ハーフメタル、及び金属であるところの化合物であるときには、この限りでない。
非磁性金属層37は、非磁性化合物層38の化合物を安定させるために、反応性の低い元素を使うことが望ましい。例えば、Cu、Au、Ag、Ru、Ir、Re、Rh、Pt、Pd、Osの中から選ばれる少なくとも一つを含む金属層は、この観点からも有効である。Alも非磁性金属層37に使用することができるが、このとき、非磁性化合物層38は、Alより酸化しやすい材料が好ましい。
また、非磁性金属層37と非磁性化合物層38を比べたときに、非磁性化合物層38は非磁性金属層37の元素とは異なる元素を主とする元素の化合物であることが望ましい。なぜなら、酸素、窒素、炭素、ホウ素との結合エネルギーが同じである場合には、酸素が拡散しやすいため、非磁性化合物層38の熱安定性が保ちにくいためである。しかしながら、化合物を作成する方法によっては、非常に拡散に強い化合物を作ることができる。例えば、化合する元素のイオン、プラズマ、ラジカルを生成して金属層に照射することで作成した化合物は、非常に安定であり、同種金属元素の化合物相と金属相とで、あまり著しい拡散を示さない。
さらに、上記のイオン、プラズマ、ラジカルを生成して金属層に照射することで作成した化合物による、化合物層と上記Cu、Au、Ag、Ru、Ir、Re、Rh、Pt、Pd、Al、Osから選ばれる少なくとも一つを含む非磁性金属層との組み合わせは非常に熱安定性が良い。
また、非磁性化合物層38は、図32に示すように、必ずしも層状である必要は無く、非磁性金属層37内部に島状に形成されていてもかまわない。この場合も非磁性金属層37、非磁性化合物層38に求められる材料は、図31の場合と同じである。このような島状化合物の膜面内間隔は、1nmから100nmの範囲であることが望ましい。1nm以下であると、いったん絞り込まれた電流が非磁性化合物層の近傍で、重なり合ってしまうため、効果が劣化してしまう。また100nm以上であると、実際の素子における存在個数が1から3個程度のレベルになるため、確率的に特性のばらつきが多くなる。また島状部分とその間の金属部分の膜面内面積比は、2%から30%の範囲であることが望ましい。
ここまで述べてきた、非磁性化合物層に金属相部分を形成したり、ピンホールが開いた構造を形成するには、酸化エネルギーの異なる物質を組み合わせるのが良い。特に金属相部分を形成する物質としては上述の上記Cu、Au、Ag、Ru、Ir、Re、Rh、Pt、Pd、Al、Osから選ばれる少なくともひとつを含む金属を主成分とすることが望ましい。このとき、非磁性化合物層を形成する原子が、金属相部分に拡散すると、金属相部分の抵抗が上昇して実用上の問題が出てくる可能性がある。このため、金属相を形成する原子と、化合物相を形成する原子とは、実質的に非固溶であることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がCuであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、B,Fe,Mo,Pb,Ta,Cr,V,Si,Sb,Geの中から選ばれる少なくともひとつを主成分としていることが望ましい。より好ましくは、結晶質になりやすいB,Fe,Mo,Pb,Cr,V,Si,Sb,Geの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がAuであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、B,Fe,Ge,Mo,P,Rh,Si,W,Crの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。より好ましくは、結晶質になりやすいB,Fe,Mo,P,Si,W,Crの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がAgであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、B,Be,Co,Cr,Fe,Mo,Pb,Si,Ta,V,W,Ge,Sn,Al,Rhの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。より好ましくは、結晶質になりやすいB,Be,Co,Cr,Fe,Mo,Pb,Si,V,W,Ge,Sn,Al,Rhの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がPtであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、Wを主成分としていることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がPdであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、W,Crを主成分としていることが望ましい。
上記の金属相と非磁性化合物相の組み合わせを形成する手段としては、金属相を形成する物質の層中あるいは界面に非磁性化合物を形成しても良い。非磁性化合物を形成する方法としては、成膜後に反応ガスを照射して形成しても良いし、非磁性化合物をスパッタなどにより直接積層しても良い。
上記の金属相と非磁性化合物相の組み合わせを形成するもう1つの手段としては、金属相を形成する物質と非磁性化合物層を形成する物質との合金層を形成した後、反応性ガスを照射することによって形成することもできる。このような合金層は、例えば合金ターゲットをスパッタなどにより積層することで形成することができる。合金ターゲットは、前記の非固溶物質の組み合わせで作るのが良い。これらは非固溶であるが、焼結であればターゲットを作成することができるし、2つの物質のモザイクでもかまわない。
下部電極31には、Cu、Au、Ag、Ru、Ir、Re、Rh、Pt、Pd、Al、Os、Niなどから選ばれる物質を含む金属が用いられる。下地層32には、NiFeCr、Ta/NiFeCr、Ta/Ru、Ta/NiFe、Ta/Cu、Ta/Auなどが用いられる。Taとfcc、あるいはHCPの金属層との積層構造は良好な膜成長を得る上で重要である。特に磁化自由層の良好な軟磁性を得るためにはfcc構造の(111)配向を得ることが重要で、上記の下地32の構造が必要である。
この実施形態も、適当な抵抗値と、大きなMR変化量を有し、且つ磁気的に高感度となるようなCPP型の磁気抵抗効果素子を得ることができる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を、図33を参照して説明する。図33は本発明の第3実施形態による磁気抵抗効果素子の構造を膜断面からみた概念図である。
この実施形態の磁気抵抗効果素子は、下部電極31、下地層32、反強磁性層33、磁化固着層34、非磁性中間層35、磁化自由層36、非磁性金属層37、非磁性化合物層38、上部電極39、の順に積層された構造を有する。なお、反強磁性層33、磁化固着層34、非磁性中間層35、磁化自由層36は磁気抵抗効果膜を構成する。
非磁性中間層35は、非磁性化合物層38との混合状態になっている。このとき図34に示すように、非磁性中間層35中に非磁性化合物38が析出した形になっていても良いし、グラニュラーになっていても良い。また非磁性化合物38は、非磁性中間層35を面垂直方向に貫いていても良い(図35参照)。また、非磁性中間層35の膜中にある必要は必ずしも無く、界面に形成されていても良い(図36参照)。このような構造を作ることにより、実効的に素子サイズを小さくして電流密度を増大させた効果があり、出力を増大させることができる。このような電流絞込みの効果は、第3の実施の形態で述べたように、磁化自由層36からみて、非磁性中間層35と反対側に形成した場合も効果があるが,本実施の形態のように、磁気抵抗効果に直接関係する部分のほぼ中央に形成したほうが、絞込みの効果が強い。この非磁性化合物層38が、非晶質であると、熱拡散が生じて、非磁性中間層35中の平均自由行程に悪影響を与えることがある。このため好ましくは結晶質のほうが良い。このとき金属相に対して、非磁性化合物層38の割合が大きすぎると抵抗が増大しすぎて素子の発熱が増大し、素子の特性を悪化させてしまう。そのため金属層部分は2%以上であることが望ましい。また、金属相部分があまりにも多いと、電流密度を増大させる効果が弱くなるため、すくなくとも30%以下あることが望ましい。
層中の金属相、あるいはピンホール部分の存在は、断面TEMの格子像を観察することによって確認することができる。すなわち、非磁性化合物層中に、上下の金属層とエピタキシャルにつながった部分が存在するとき、この部分は金属相であるといえる。また、非磁性化合物層中の組成分析を行うことによって、金属相の有無を確認することができる。すなわち、酸素濃度,あるいは窒素濃度、あるいはフッ素濃度あるいはホウ素濃度が、組成比で20%未満であれば実質的に金属相であるといえる。
しかしながら、良好な磁気抵抗効果を得るためには、非磁性中間層では電子が散乱されずに通過することが、重要である。このため、酸素濃度,あるいは窒素濃度、あるいはフッ素濃度あるいはホウ素濃度が、組成比で15%未満であることが望ましい。
また、このような金属相部分、あるいはピンホール部分の平均直径は、上記磁化自由層と、非磁性中間層と磁化固着層の膜厚の和に対して、10%から100%の範囲であることが望ましい。10%以下であると、絞込みによる抵抗増大が大きすぎて、実用的でない。逆に100%以上であると電流が広がりすぎて絞込みの効果が得られない。磁化固着層が、Ruなどの非磁性金属層を介して反強磁性的に結合した構造(シンセティック反強磁性構造)の場合は、非磁性中間層に近いほうの強磁性層のみを考慮して、前期膜厚の和を計算しなければならない。
また、このような金属相部分、あるいはピンホール部分の膜面内間隔は、1nmから100nmの範囲であることが望ましい。1nm以下であると、いったん絞り込まれた電流が非磁性化合物層の近傍で、重なり合ってしまうため、効果が劣化してしまう。より好ましくは10nm以上が良い。また100nm以上であると、実際の素子における存在個数が1から3個程度のレベルになるため、確率的に特性のばらつきが多くなる。
ここまで述べてきた、非磁性化合物層に金属相部分を形成したり、ピンホールが開いた構造を形成するには、酸化エネルギーの異なる物質を組み合わせるのが良い。特に非磁性中間層に金属相部分を形成する物質としては上述の上記Cu、Au、Ag、Ru、Ir、Re、Rh、Pt、Pd、Al、Osから選ばれる少なくとも1つを含む金属を主成分とすることが望ましい。このとき、非磁性化合物層を形成する原子が、金属相部分に拡散すると、金属相部分の抵抗が上昇して実用上の問題が出てくる可能性がある。このため、金属相を形成する原子と、化合物相を形成する原子とは、実質的に非固溶であることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がCuであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、B,Fe,Mo,Pb,Ta,Cr,V,Si,Sb,Geの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。より好ましくは、結晶質になりやすいB,Fe,Mo,Pb,Cr,V,Si,Sb,Geの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がAuであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、B,Fe,Ge,Mo,P,Rh,Si,W,Crの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。より好ましくは、結晶質になりやすいB,Fe,Mo,P,Si,W,Crの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がAgであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、B,Be,Co,Cr,Fe,Mo,Pb,Si,Ta,V,W,Ge,Sn,Al,Rhの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。より好ましくは、結晶質になりやすいB,Be,Co,Cr,Fe,Mo,Pb,Si,V,W,Ge,Sn,Al,Rhの中から選ばれる少なくとも1つを主成分としていることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がPtであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、Wを主成分としていることが望ましい。
例えば、金属相部分の主成分がPdであるとき、非磁性化合物層を形成する主成分は、W,Crを主成分としていることが望ましい。
上記の金属相と非磁性化合物相の組み合わせを形成する手段としては、金属相を形成する物質の層中あるいは界面に非磁性化合物を形成しても良い。非磁性化合物を形成する方法としては、成膜後に反応ガスを照射して形成しても良いし、非磁性化合物をスパッタなどにより直接積層しても良い。
上記の金属相と非磁性化合物相の組み合わせを形成するもう1つの手段としては、金属相を形成する物質と非磁性化合物層を形成する物質との合金層を形成した後、反応性ガスを照射することによって形成することもできる。このような合金層は、たとえば合金ターゲットをスパッタなどにより積層することで形成することができる。合金ターゲットは、前記の非固溶物質の組み合わせで作るのが良い。これらは非固溶であるが、焼結であればターゲットを作成することができるし、2つの物質のモザイクでもかまわない。
この実施形態も、適当な抵抗値と、大きなMR変化量を有し、且つ磁気的に高感度となるようなCPP型の磁気抵抗効果素子を得ることができる。
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態として、本発明の磁気抵抗効果素子を用いた磁気ヘッドについて説明する。
図22は、本発明の磁気抵抗効果素子を用いた磁気ヘッドの要部構成を表す斜視概念図である。すなわち、本発明の磁気ヘッドは、記録媒体200に対向して配置された一対の磁気ヨーク102、102を有する。磁気ヨーク102、102の上には、これらと磁気的に結合された磁気抵抗効果素子104が設けられている。磁気抵抗効果素子104は、図1乃至図21および図31乃至図34に関して前述したような本発明のCPPタイプの素子である。また、一対の磁気ヨーク102、102を跨ぐように、その両端には、一対のバイアス層106、106が形成されている。バイアス層106は、反強磁性体あるいは強磁性体からなり、磁気ヨーク102と磁気抵抗効果素子104のフリー層の磁化を、記録磁界と垂直方向、すなわち同図中のy方向に向けるように作用する。
記録媒体200には、記録トラック200Tが形成され、記録ビット200Bが配列している。それぞれの記録ビット200Bには、矢印で例示したような信号磁化が形成され、これらの記録ビットからの信号磁束は、磁気ヨーク102と磁気抵抗効果素子104とを結んだ磁気回路に与えられる。磁気抵抗効果素子104に記録ビット200Bの磁場が与えられると、フリー層の磁化は、バイアス層106によるy方向から面内に回転する。すると、この磁化方向の変化が磁気抵抗の変化として検出される。
磁気抵抗効果素子104の磁気検出領域を記録ビット200Bのサイズに合わせるために、磁気抵抗効果素子104の電極のコンタクトは、図22に表した記録トラックの幅Wに相当する領域に制限して形成されている。
本発明によれば、磁気抵抗効果素子104として、図1乃至図21及び図31乃至図34に関して前述したような本発明のCPPタイプの素子を用いることにより、適切な素子抵抗と大きな磁気抵抗の変化を両立することができる。つまり、従来よりも大幅に感度が高く且つ信頼性も安定した磁気ヘッドを実現することができる。
なお、本実施形態においては、長手(面内)記録方式の磁気記録媒体に適応した磁気ヘッドを例に挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、垂直記録媒体に適応した磁気ヘッドについても、本発明の磁気抵抗効果素子を同様に適用して同様の効果を得ることができる。
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態として、本発明の磁気抵抗効果素子を用いた磁気記録再生装置について説明する。図1乃至図21及び図31乃至図34に関して前述したような本発明の磁気抵抗効果素子は、図22に例示したような磁気ヘッドに搭載され、例えば、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込まれて磁気記録再生装置に応用することができる。
図23は、このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち、本発明の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、長手記録用または垂直記録用磁気ディスク200は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。磁気ディスク200に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダ153は、例えば、第1乃至第2実施形態において前述したような本発明の磁気抵抗効果素子を搭載した磁気ヘッドをその先端付近に有する。
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
アクチュエータアーム155は、固定軸157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
図24は、アクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアッセンブリ160は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム151を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。
サスペンション154の先端には、本発明の磁気抵抗効果素子を用いた再生用磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。記録用ヘッドを組み合わせても良い。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165は磁気ヘッドアッセンブリ160の電極パッドである。
ここで、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)と磁気ディスク200の表面との間には、所定の浮上量が設定されている。
磁気ヘッド10を搭載したスライダ153は、磁気ディスク200の表面から所定の距離だけ浮上した状態で動作する。本発明によれば、このような「浮上走行型」の磁気記録再生装置においても、従来よりも高分解能で低ノイズの再生を行うことができる。
一方、磁気ヘッド10と磁気ディスク200とを積極的に接触させて、走行させる「接触走行型」の磁気記録再生装置においても、従来よりも高分解能で低ノイズの再生を行うことができることは勿論である。
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
例えば、スピンバルブ素子としての構造及び各層の材料については、当業者が選択しうるすべての範囲について本発明を同様に適用して同様の効果を得ることが可能である。例えば、「デュアル型」のような構造についても本発明を同様に適用することができる。
また、磁気ヘッドの構造、構成する各要素の材料や形状などに関しても、具体例として前述したものには限定されず、当業者が選択しうる範囲のすべてを同様に用いて同様の効果を奏し得る。
また、磁気記録再生装置に関しても、再生のみを実施するものでも、記録・再生を実施するものであっても良く、また、媒体は、ハードディスクには限定されず、その他、フレキシブルディスクや磁気カードなどのあらゆる磁気記録媒体を用いることが可能である。さらに、磁気記録媒体を装置から取り外し可能した、いわゆる「リムーバブル」の形式の装置であっても良い。
さらに、本発明による磁気抵抗効果素子は、トランジスタ/ダイオード等と組み合わせて、あるいは単独で、磁気情報を記憶する「磁気メモリセル」を構成することができる。つまり、本発明は、磁気メモリセルを集積化した「磁気メモリ装置(MRAM)」にも適用可能である。
以上詳述したように、本発明の各実施形態によれば、適当な抵抗値と、大きなMR変化量を有し、且つ磁気的に高感度となるようなCPP型の磁気抵抗効果素子を提供することができる。
その結果として、従来よりも微小な記録ビットからの磁気的情報を確実に読み取ることが可能となり、記録媒体の記録密度を大幅に向上させることが可能となる。同時に、熱的にも安定するために、磁気記録再生システムの信頼性が向上し、利用範囲が拡がり、産業上のメリットは多大である。