JP4876638B2 - 低炭素硫黄快削鋼材 - Google Patents

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Description

本発明は、低炭素硫黄快削鋼材に関し、詳しくは、鉛快削鋼材(以下、「Pb快削鋼材」という。)及びSとPbを複合添加した複合快削鋼材である「硫黄複合快削鋼材」(以下、「S複合快削鋼材」という。)の代替材として用いられている従来のPb非添加の快削鋼材以上の良好な被削性を有する低炭素硫黄快削鋼材に関する。より詳細には、高速度鋼工具(以下、「HSS工具」という。)を用いて、100m/min以下の比較的低速領域で切削油剤を供給する湿式の条件下で切削を行った場合に、切り屑が細かく分断される性質(以下、「切り屑処理性」という。)を有するとともに、上記従来のPb非添加快削鋼材に比べて仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を有し、しかも、連続鋳造性に優れるため安価に大量生産することができるPb非添加の低炭素硫黄快削鋼材に関する。
従来、軟質の小物部品、例えば、自動車用のブレーキパーツ、パソコン周辺機器部品及び電気機器部品など軟質の小物部品の素材には、生産性向上のために被削性に優れた鋼材である所謂「快削鋼材」が用いられてきた。
上記のような軟質小物部品の工業的な規模での切削加工は、HSS工具を用いて、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で主に行われている。そして、このような切削加工条件のもとで、部品の素材である鋼材の「被削性」としては、特に、加工後の鋼材の仕上げ面粗さの小さいこと(つまり、鋼材の表面が滑らかで表面性状に優れること)が要求され、更に、切り屑処理性に優れることも重要視される。
なお、上記の特性のうちで、良好な切り屑処理性は加工ラインの自動化に欠かせないものであって、生産性の向上のために必須とされる特性である。
快削鋼材としてはJIS G 4804(1999)に規定された鋼材、すなわち、Sを多量に含みMnSによって被削性を改善した「硫黄快削鋼材」(以下、「S快削鋼材」ということがある。)及びSとPbの両者を含む「S複合快削鋼材」が最もよく知られており、これらの他に、一般的な快削鋼材として、Pbによる被削性向上を図った「Pb快削鋼材」もよく知られている。
上記の快削鋼材のうちでもPbを含むもの、つまり、Pb快削鋼材及びS複合快削鋼材は、前記した100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下でHSS工具を用いて切削加工した場合に、切り屑処理性に優れるとともに、表面の粗さが小さい滑らかな仕上げ面が得られるといった特性を有している。
したがって、これらのPbを含む快削鋼材は、前述の条件下での切削加工によって前記した自動車用のブレーキパーツ、パソコン周辺機器部品及び電気機器部品など軟質の各種小物部品形状に加工され、最終製品として多用されている。
なお、前記の小物部品には、切削加工後の高い寸法精度が要求される。このため、素材である鋼材には、切削加工前の段階で曲がりが少ないこと、つまり、良好な「真直性」を有することも重要視される。したがって、Pbを含む快削鋼材は、前記の小物部品の素材として用いるために、例えば、伸線加工などによる冷間加工を施し、これによって高い真直度を確保してから切削加工することが一般に行われている。
しかし、近年の地球環境問題に対する高まりから、Pbを製品から排除しようとする動きが強まっており、例えば欧州では、鋼材に含まれるPbの含有量が質量%で、0.35%以下に制限されるなど、Pbの含有量をできる限り低減させることが望まれている。
なお、Pbは融点が低く、しかも鋼中にほとんど固溶しないため、大量のPbを含有した鋼は圧延時に割れを生じやすい。したがって、鋼材の安定製造という面からも、Pb非添加の快削鋼材に対する要望が大きい。
こうした要望に応えるべく、特許文献1〜9に、S量を増量させるとともにMnSの形態を制御して被削性を高めたり、組織を制御して被削性を向上させた種々の鋼材が、Pb快削鋼材及びS複合快削鋼材に替わるPb非添加の快削鋼材として提案されている。
具体的には、特許文献1に、硫化物の平均幅とともに、線材の降伏比を調整することによって、仕上げ面粗さと仕上げ寸法精度を改善した「低炭素硫黄系快削鋼線材およびその製造方法」が開示されている。
特許文献2には、0.38%以上のSを含有させたうえで、鋼中のMnSの平均面積を調整することによって、表面疵の発生防止と仕上げ面粗さの改善とを両立させた「被削性に優れた高S快削鋼の製造方法及び高S快削鋼」が開示されている。
特許文献3には、特定の化学組成と金属組織を有し、鋼材中の硫化物系の介在物の平均幅と初析フェライトの硬さをビッカース硬さ(以下、「Hv硬さ」という。)で133〜150に調整することによって、仕上げ面粗さを改善した「仕上面粗さに優れた低炭素複合快削鋼材およびその製造方法」が開示されている。
特許文献4〜7には、鋼に特定量のSを含有させたうえで、パーライトの面積率の調整を行ったり、微細なMnSを分散させることによって、被削性改善を図った「被削性に優れる鋼およびその製造方法」或いは「被削性に優れる鋼」が開示されている。
特許文献8には、本発明者らが提案した、特定量のC、Mn、S、Ti、Si、P、Al、O及びNを含有し、TiとSの含有量が下記の(i)式を満たすとともに、MnとSの原子比が下記の(ii)式を満たし、且つ、Ti硫化物又は/及びTi炭硫化物が内在するMnSを含有することを特徴とする「低炭素快削鋼」が開示されている。
Ti(質量%)/S(質量%)<1・・・(i)、
Mn/S≧1・・・(ii)。
特許文献9には、本発明者らが提案した、特定量のC、Mn、S、Ti、P、Al、O及びNを含有し、鋼中に含有される介在物が2つの特定の式を満たすことを特徴とする「低炭素快削鋼」が開示されている。
特開2003−253390号公報 特開2005−23342号公報 特開2005−187935号公報 特開2004−169052号公報 特開2004−169054号公報 特開2004−176176号公報 特開2004−169051号公報 特開2003−226933号公報 特開2005−54227号公報
特許文献1で開示された「低炭素硫黄系快削鋼線材」は、Ca、Mg、Ti、Zr及びREMなどOとの親和力が大きい元素の含有量低減に対する配慮がなされていない。このため、HSS工具を用いて、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で切削加工した場合、その実施例の表3及び表4に示されているように、その仕上げ面粗さは、最も小さな場合であっても35μm程度でしかない。このような鋼材の仕上げ面粗さでは前述の小物部品に要求される表面の滑らかさを得るには、十分に満足できるものとはいえなかった。
特許文献2で開示された「高S快削鋼」の場合も、Ca、Mg、Ti、Zr及びREMなどOとの親和力が大きい元素の含有量低減に対する配慮がなされていない。このため、前記した100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下では、HSS工具を用いて切削したときの仕上げ面粗さは、その実施例の表1に示されているように、十点平均粗さで10.5〜15μmにも達するものである。このような鋼材の仕上げ面粗さでは前述の小物部品に要求される表面の滑らかさを得るには、十分に満足できるものとはいえなかった。
特許文献3で開示された「低炭素複合快削鋼材」は、Oとの親和力が大きい元素であるCa及びMgの含有量低減に対する配慮がなされていない。しかも、そこで規定される鋼材の硬さは、熱間加工されたままのフェライト・パーライト組織中における初析フェライトのHv硬さであり、鋼材自体のHv硬さについては配慮されていない。このため、HSS工具を用いて、前記した100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で切削加工した場合、その実施例の表3、表6及び表10に示されているように、仕上げ面粗さは中心線平均粗さRaで27.6〜37.6μmという大きなものである。このような鋼材の仕上げ面粗さでは前述の小物部品に要求される表面の滑らかさを得るには、十分に満足できるものとはいえなかった。
特許文献4で開示された「被削性に優れる鋼」は、硫化物や酸化物の形態に影響を及ぼすMn、S及Oの含有量バランスについて配慮されていないばかりか、Al、Ti、Zr、Ca及びMgといった硫化物(MnS)や酸化物の形態に大きな影響を及ぼす成分元素の添加をしてもよいとしている。このため、HSS工具を用いて、前記した100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で切削加工した場合、その実施例の表2及び表4に示されているように、仕上げ面粗さは、プランジ切削による200溝加工という切削距離が短い場合に、十点平均粗さで4.1〜11.2μmに達するものである。このように、上記の「被削性に優れる鋼」は、長い距離を切削加工した後であっても小さい仕上げ面粗さが得られるかどうかも明確でなく、更に、前述の小物部品に要求される表面の滑らかさを得るには、この程度の十点平均粗さでは十分に満足できるものとはいえなかった。
特許文献5及び特許文献6で開示された「被削性に優れる鋼」は、硫化物や酸化物の形態に影響を及ぼすMn、S及Oの含有量バランスについて配慮されていないばかりか、Ti、Zr、Ca及びMgといった硫化物(MnS)や酸化物の形態に大きな影響を及ぼす成分元素の添加をしてもよいとしている。このため、前記した100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下では、HSS工具を用いて切削したときの仕上げ面粗さは、プランジ切削による200溝加工という切削距離が短い場合に、十点平均粗さで4.1〜8.8μm(特許文献5)や4.3〜12.1μm(特許文献6)に達するものである。このように、上記の「被削性に優れる鋼」は、いずれも、長い距離を切削加工した後であっても小さい仕上げ面粗さが得られるかどうかも明確でなく、更に、前述の小物部品に要求される表面の滑らかさを得るには、この程度の十点平均粗さでは十分に満足できるものとはいえなかった。
特許文献4〜6と同時期に、同じ発明者が発明して特許文献7で開示された「被削性に優れる鋼」も特許文献4〜6と同様、長い距離を切削加工した後であっても小さい仕上げ面粗さが得られるかどうかも明確でなく、更に、前述の小物部品に要求される表面の滑らかさを得るには、この程度の粗さでは十分に満足できるものとはいえなかった。
また、本発明者らが提案した特許文献8及び特許文献9で開示された「低炭素快削鋼」は、超硬工具を用いて切削した場合に、確かに優れた切り屑処理性や仕上げ面粗さが得られるものであった。しかしながら、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で、HSS工具を用いて切削したときに、仕上げ面粗さが大きくなって所望の良好な表面性状が得られない場合があることが判明した。
すなわち、特許文献8で開示された「低炭素快削鋼」は、確かに超硬工具を用いて無潤滑、つまり、乾式条件下で高速切削する場合には、Pb快削鋼に比べて優れた切り屑処理性が得られるものである。しかしながら、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下では、HSS工具を用いて切削したときに、仕上げ面粗さが大きくなって所望の良好な表面性状が得られない場合があることが判明した。
また、特許文献9で開示された「低炭素快削鋼」も、確かに超硬工具を用いた切削の場合には、仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状と優れた切り屑処理性が得られるものである。しかしながら、100m/min以下の比較的低速領域でHSS工具を用いた切削の場合には、仕上げ面粗さが大きくなって所望の良好な表面性状が得られない場合があることが判明した。
上述のように、従来提案されたPb非添加の快削鋼材は、自動車用のブレーキパーツ、パソコン周辺機器部品及び電気機器部品など軟質の小物部品の素材として必要な被削性、なかでも、HSS工具を用いて、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で長い距離を切削加工する場合の仕上げ表面性状、つまり、仕上げ面粗さの点で必ずしも産業界の要請に応えられるものとはいえなかった。
しかも、前記の従来提案されたPb非添加の快削鋼材は、安価に大量生産するために製造段階で要求される「連続鋳造性」にも必ずしも優れるというものではなかった。
そこで、本発明の目的は、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で、HSS工具を用いて長い距離を切削加工した場合であっても、前述の特許文献1〜9などで提案された従来のPb非添加の快削鋼材と同等の切り屑処理性を有するとともに前記従来のPb非添加の快削鋼材と比較して仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を確保することができ、しかも、連続鋳造による大量生産に適したPb非添加の低炭素硫黄快削鋼材を提供することである。
本発明者らは、Pb快削鋼材及び従来のPb非添加の快削鋼材を被削材として、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下でHSS工具を用いた切削加工を行い、切り屑処理性と仕上げ面粗さについて調査し、更に、工具刃先に形成された構成刃先の微細組織を透過電子顕微鏡(TEM)によって観察し、また、走査電子顕微鏡(SEM)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)によって構成刃先自体の組織観察や組成分析を行って、仕上げ面粗さとの関係について鋭意検討した。
その結果、先ず下記〈1〉〜〈3〉の知見を得た。なお、以下の説明において特に断らない限り「MnS」には、純粋なMnSに加えて、Mn(S、Te)、Mn(S、Se)、Mn(S、O)やMn(S、Se、O)等のように、XをS以外でMnと結合する元素であるTe、Se及びOとして、Mn(S、X)の化学式によって表記されるMnの複合化合物を含む。
〈1〉Pb快削鋼材を切削加工した場合、Pbの融点が低いことに基づく溶融脆化作用が得られ、小さい剪断応力でも切り屑が破断しやすくなって、前記条件下のHSS工具による切削の場合にも優れた切り屑処理性が得られる。更に、上記のPbの作用によって、工具と被削材であるPb快削鋼材との界面の摩擦力が小さくなり、しかも被削材が工具へ凝着し難いので構成刃先が成長しにくくなり、小さい構成刃先しか形成されないので、仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を得ることができる。
〈2〉Pb快削鋼材を切削加工した場合に形成される小さな構成刃先中には、TEMでの詳細な観察によれば、粒径が数百nm程度の微細なセメンタイト粒が被削材であるPb快削鋼材中よりも多く分散しており、組成分析を行った結果、被削材に含まれるC量に対して5〜6倍ものCが構成刃先中に濃縮している。
〈3〉一方、従来のPb非添加の快削鋼材を切削加工した場合、その仕上げ面粗さは大きく、しかも、SEMでの観察によれば、上述したPb快削鋼材を切削した場合に認められるCが濃化した小さな構成刃先の上に更に被削材(従来のPb非添加の快削鋼材)が凝着し、堆積することによって粗大な構成刃先が形成されている。
そして、上記の知見から、本発明者らは次の〈4〉〜〈8〉を推測するに至った。
〈4〉従来のPb非添加の快削鋼材を切削加工した場合には、Cが濃化した小さな構成刃先を核として成長した粗大な構成刃先が、結果的に仕上げ面粗さを大きくして表面性状を劣化させる。
〈5〉一方、Pb快削鋼材を切削加工した場合には、切削加工中に形成された小さな構成刃先を核として構成刃先が更に大きく成長して行く段階で、PbやMnSによって成長が抑制され、このために小さな構成刃先しか観察されない。
〈6〉したがって、従来から経験されているような、Pbを含有させたりO(酸素)の含有量を高めて粗大なMnSを形成させたりすることによる仕上げ表面性状の改善効果(つまり、仕上げ表面粗さを小さくする効果)は、PbやMnSが構成刃先の成長段階において成長を抑制する働きをし、構成刃先を大きく成長させないことによって得られる。
〈7〉Pbを添加しない場合であっても、構成刃先が粗大に成長するための核となる初期段階の構成刃先、換言すれば、Cが濃化した構成刃先を小さくすることによって、構成刃先が大きく成長することが防止され、良好な仕上げ表面性状、つまり、小さな仕上げ面粗さを確保することができる。
〈8〉構成刃先が粗大に成長するための核であるCが濃化した構成刃先を小さくすることは、被削材である鋼材のC含有量を低減することによって達成できる。
そこで、本発明者らは、上記の推測に基づいて、被削性に及ぼすC量の影響について種々の検討を行った。
その結果、下記〈9〉及び〈10〉の知見を得た。
〈9〉Cの含有量を低下させることで、Pbを添加せずとも仕上げ面粗さを小さくすることができる。
〈10〉一方、Cの含有量を低減した場合には、同一のS含有量で比較した場合の切り屑処理性が劣化する傾向がある。
このため本発明者らは、仕上げ面粗さの小さい優れた表面性状と良好な切り屑処理性をともに具備させるために、更なる検討を実施し、その結果、下記〈11〉及び〈12〉の知見を得た。
〈11〉前記〈1〉で述べたように、Pb快削鋼材において良好な切り屑処理性と仕上げ面粗さの小さい優れた表面性状の双方が確保できるのは、Pbの融点が低いことによる溶融脆化作用に基づいている。このため、Pbを添加しない場合に、良好な切り屑処理性と優れた表面性状である小さな仕上げ面粗さの双方を具備させるためには、鋼材自体を脆化させるのがよい。
〈12〉鋼材自体を脆化させるためには、伸線加工を始めとする冷間加工を利用すればよいが、Cの含有量を低減した場合には、従来Pb快削鋼材に対して施されていたのと同程度の加工度で冷間加工を行っても、被削材の硬さは高くならないため顕著な脆化は起こらず、そのため、十分な切り屑処理性を得ることができない。
そこで更に、Pb非添加の低C鋼に対する冷間加工の一例として伸線加工を取り上げ、その際の減面率を種々に変化させた場合の被削性を調査した。
その結果、下記〈13〉の知見を得た。
〈13〉Pb非添加の低C鋼であっても、冷間での加工度を高めることによって、加工後の硬さがHv硬さで180以上になるようにすれば、優れた切り屑処理性を確保することができる。但し、冷間加工後のHv硬さが大きくなりすぎ、特に、230を超えると長い距離を切削した場合に、仕上げ面粗さが大きくなってしまう。
なお、上記の冷間での加工度を高めることによる切り屑処理性の改善は、加工歪みによって延性が低下したため、切り屑が剪断応力の集中により、破断しやすくなったためであると推測される。
〈14〉次に、本発明者らは、冷間での加工度を高めて、加工後の硬さをHv硬さで180〜230に調整したPb非添加の低C快削鋼材とPb快削鋼材との仕上げ面粗さ及び切り屑処理性について比較検討した。その結果、仕上げ面性状と切り屑処理性を同時に高めるためには、単にPb非添加鋼材のC量を低くし、冷間での加工度を高めに調整して冷間加工後のHv硬さを180〜230にするだけではなく、下記〈15〉に示すようにMnSの形態と分散状態も重要であることが判明した。
〈15〉MnSの形態と分散状態によって、Pb非添加の低C快削鋼材の仕上げ面粗さ及び切り屑処理性が変化する。すなわち、MnSが微細な場合、切り屑処理性は改善されるが、仕上げ面粗さは大きくなって表面性状は劣化する。一方、鋼中のO含有量を高めてMnSを粗大に晶出させた場合、仕上げ面粗さは小さくなって表面性状は改善するが、切り屑処理性が劣化する。
そこで更に、MnSの形態と分散状態を適正化するために詳細な検討を実施した。
その結果、下記〈16〉〜〈20〉の重要な知見を得、上記知見と組み合わせることによって従来のPb非添加の鋼材と比べ、優れた仕上げ面粗さと切り屑処理性を有する低炭素硫黄快削鋼材を得ることができた。
〈16〉粗大なMnSを含む鋼材を切削した場合、工具刃先の構成刃先周辺ではその粗大なMnSからマイクロクラックが生じ、このマイクロクラックが切り屑と構成刃先を分断する役割を果たすことで構成刃先の成長が抑制される。このため、仕上げ面粗さを小さくして表面性状を改善するにはMnSは粗大であればよい。一方、切り屑処理性を改善するには生成する切り屑を脆化させ、分断させる必要があり、切り屑を脆化させるには、MnSから生じるマイクロクラックが広い領域を伝播する必要がある。したがって、切り屑剪断域で個々のMnSから生じるマイクロクラックを広い領域に伝播させるためには、鋼材そのものの延性を下げて脆化させるとともにMnSの距離が小さいこと、換言すれば、MnSの個数密度が高いことが必要である。上記のことから、構成刃先の成長を抑制することのできるMnSの個数密度を増大させることが、仕上げ面粗さを小さくして表面性状を高めることと切り屑処理性を改善することの双方に繋がる。
〈17〉Pb非添加の低C快削鋼材の成分組成を、Sの含有量を高めたうえでMn、S及びOの含有量バランスを特定の範囲内に調整することによって、構成刃先の成長を抑制することのできるMnSの個数密度が増大し、これによって、更に仕上げ表面性状及び切り屑処理性を高めることができる。
〈18〉上記の好ましいMnSの形態を得るためには、凝固の早い段階でMnSを数多く晶出させる必要があり、そのためには、MnSの晶出核となる酸化物の制御が重要なポイントになる。すなわち、低炭素系の硫黄快削鋼材において多量に晶出するMnSの形態を制御するための晶出核は、MnO、Mn34やMn2OなどのMn系酸化物としなければならない。これは、Mn系酸化物以外の場合には、低炭素系の硫黄快削鋼材において多量に晶出するMnSの形態を制御できるほど十分な量が溶鋼中に存在できないからである。
〈19〉MnO、Mn34やMn2OなどのMn系酸化物をMnSの形態を制御するための晶出核として用いるためには、溶鋼中でOとの親和力が大きいCa、Mg、Zr、Ti及びREMを添加してはならず、更には、不純物中のこれら元素の含有量を制限しなければならない。
〈20〉Mn、S及びOの含有量バランスを適正化すれば、連続鋳造設備で大量生産する場合にも内部割れなど熱間延性低下に起因する不具合が生じることはない。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)及び(2)に示す低炭素硫黄快削鋼材にある。
(1)質量%で、C:0.05%未満、Si:0.05%未満、Mn:0.7〜1.8%、P:0.03〜0.20%、S:0.40%を超えて0.70%未満、Al:0.005%未満、O:0.0050%以上0.0380%未満、N:0.0020〜0.0250%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のCa、Mg、Ti、Zr及びREMが、Ca:0.001%未満、Mg:0.001%未満、Ti:0.002%未満、Zr:0.002%未満及びREM:0.001%未満であって、下記式(1)式及び(2)式を満たし、更に、冷間加工後のビッカース硬さが180〜230であることを特徴とする被削性に優れた低炭素硫黄快削鋼材。

0.010<O/S<0.080・・・(1)
2.5<Mn/(S+O)<4.0・・・(2)
但し、(1)式及び(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。
(2)Feの一部に代えて、Te:0.05%以下、Bi:0.15%以下及びSe:0.30%未満のうちの1種以上を含有する上記(1)に記載の低炭素硫黄快削鋼材。
以下、上記 (1)及び(2)の低炭素硫黄快削鋼材に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」及び「本発明(2)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
なお、本発明でいう「REM」は、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計含有量を指す。
本発明の鋼材は、Pb非添加の「地球環境に優しい快削鋼材」であるにも拘わらず、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で、HSS工具を用いて長い距離を切削加工した場合であっても、従来のPb非添加の快削鋼材と同等の切り屑処理性を有するとともに前記従来のPb非添加の快削鋼材と比較して仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を確保することができ、しかも、連続鋳造性に優れるため安価に大量生産することができる。したがって、自動車用のブレーキパーツ、パソコン周辺機器部品及び電気機器部品など軟質の小物部品の素材として利用することができる。
先ず、本発明の低炭素硫黄快削鋼材における化学組成とその限定理由について述べる。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
C:0.05%未満
Cは、鋼の強度及び被削性、なかでも仕上げ面粗さに大きな影響を及ぼす元素で、その含有量が0.05%以上の場合には、構成刃先の成長核が大きくなって構成刃先が成長しやすくなり、結果として仕上げ面粗さが大きくなってしまう。したがって、良好な仕上げ表面性状、つまり、小さな仕上げ面粗さを得るために、Cの含有量を0.05%未満とした。良好な仕上げ表面性状を得るという観点からは、Cの含有量は低ければ低いほど好ましいので、0.04%未満にするのがよい。なお、Cの含有量が0.03%以下であれば更に好ましい。しかしながら、Cの含有量があまりにも低くなると、製造コストが嵩むばかりか、優れた切り屑処理性を確保するために、伸線加工等の冷間加工の際に、大きな加工度を加えて硬さを上昇させなければならなくなるので好ましくない。良好な仕上げ表面性状と優れた切り屑処理性の確保という観点からの好ましいC含有量の下限は0.005%である。
Si:0.05%未満
Siは、フェライト中に固溶し、鋼の強度を高める作用を有するものの、強い脱酸作用があるので、0.05%以上含有させた場合には、Oの含有量が低くなり、このため、被削性、なかでも、仕上げ表面性状及び切り屑処理性を改善するために必要な前述のMnSの形態や分散状態を得ることができなくなる。したがって、Siの含有量を0.05%未満とした。なお、被削性をより改善するという点からは、Siの含有量は低いほど好ましいので、0.02%未満にするのがよい。なお、Siの含有量が0.01%未満であれば一層好ましい。
Mn:0.7〜2.2%
Mnは、SとともにMnSを形成して被削性に大きな影響を及ぼす重要な元素である。その含有量が0.7%未満では、熱間加工性を劣化させる。なお、MnはMnS形成元素であると同時に脱酸にも寄与するため、熱間加工性を改善する目的で単純にその含有量を高めただけでは前述のMnS形態や分散状態を得ることができない。このため、SやO(酸素)との質量バランスを十分に配慮したうえでMnを含有させなければならない。しかし、そうした場合であっても、Mnの含有量が2.2%を超えると、前述した所望のMnS形態や分散状態が得られないので、長い距離を切削した場合に、仕上げ面粗さが大きくなって表面性状が低下する。したがって、Mnの含有量を0.7〜2.2%とした。なお、より安定かつ確実に仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を得るためには、Mnの含有量は1.2〜1.8%であることが望ましい。
既に述べたように、上記の「MnS」には、純粋なMnSに加えて、Mn(S、Te)、Mn(S、Se)、Mn(S、O)やMn(S、Se、O)等のように、XをS以外でMnと結合する元素であるTe、Se及びOとして、Mn(S、X)の化学式によって表記されるMnの複合化合物も含まれる。
P:0.03〜0.20%
Pは、鋼の強度を高める作用を有する。このため、良好な仕上げ表面性状、つまり、小さな仕上げ面粗さを確保するためにCの含有量を低く抑える本発明の場合、最終製品としての小物部品の強度を保つためにPの含有量を0.03%以上とする必要がある。しかしながら、Pの含有量が過度になると鋼の強度が大きくなって被削性が低下し、特に、0.20%を超えると強度が高くなりすぎて被削性、なかでも仕上げ面性状の低下が著しくなる。また、Pの含有量が0.20%を超える場合には、熱間加工性も劣化する。したがって、Pの含有量を0.03〜0.20%とした。なお、より良好な被削性を確保するために、Pの含有量は0.05〜0.15%とすることが好ましい。
S:0.40%を超えて0.70%未満
Sは、Mnとともに前記MnSを形成して良好な被削性を得るために、なかでも、仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状及び優れた切り屑処理性を得るために必須の元素である。MnSによる被削性向上効果は、その生成量ばかりではなく形態及び分散状態に応じても変化する。そのために、Sの含有量とMn及びO(酸素)の含有量とのバランスが重要になるが、Sの含有量が0.40%以下では、たとえMn及びO(酸素)の含有量とのバランスを適正化しても、十分な量のMnSが得られず、所望の良好な被削性、つまり、小さな仕上げ面粗さ及び良好な切り屑処理性を得るためのMnS形態と分散状態を得ることができない。なお、通常の場合にはSの含有量が0.35%を超えると熱間加工性が低下するため、鋳片内部における所謂「内部割れ」の要因となるが、Mn及びO(酸素)の含有量とのバランスを適正化することで、Sの含有量が0.35%を超える場合にも内部割れを引き起こすことなく、小さな仕上げ面粗さ及び良好な切り屑処理性を確保することができる。しかし、Sの含有量が0.70%を超える場合には、熱間延性の劣化を生じないようにMnを多量に含有させる必要があるが、Mnが脱酸元素として作用するために十分な酸素量を確保することができず、MnSの形態が損なわれ、実質的に、前述の所望するMnS形態及び分散状態を得ることが困難となる。更に、含有量で0.70%を超える過剰なSの添加は歩留まりの悪化によるコスト上昇に繋がる。したがって、Sの含有量を0.40%を超えて0.70%未満とした。
より安定して優れた被削性、つまり、仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状及び優れた切り屑処理性を確保するためには、Sを0.50%を超えて含有させることが好ましい。なお、製造コストを抑えるとともに、製造性を低下させることなく前述の所望のMnS形態や分散状態を得るためには、Sの含有量を0.60%未満とすることが望ましく、0.55%以下とすれば一層望ましい。
Al:0.005%未満
AlはO(酸素)との親和力が大きい強力な脱酸元素であり、0.005%以上含有される場合には、被削性を改善するのに適した前述のMnSの形態や分散状態更には酸化物組成を得ることができないので、所望の良好な被削性、つまり、小さな仕上げ面粗さを確保することができない。したがって、Alの含有量を0.005%未満とした。なお、AlはMnSの形態や分散状態、更には酸化物組成に大きな影響を及ぼすので、添加しないだけではなく、精錬時になるべく除去する必要がある。より優れた仕上げ面性状を得るために、Alの含有量は0.003%未満とすることが好ましく、0.002%未満とすれば一層好ましい。
O:0.0050%以上0.0380%未満
O(酸素)は、その含有量を高めることによってMnSの形態を変化させ、被削性、なかでも仕上げ面粗さを改善することが可能である。しかしながら、単に脱酸元素を添加せずにOの含有量を高めただけでは、所望の良好な被削性、つまり、仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状及び優れた切り屑処理性を得るために必要な前述したMnSの形態と分散状態を得ることができない。すなわち、Mn及びSの含有量とのバランスを適正化したうえで、Oの含有量を高めることによってMnSの形態と分散状態を変化させ、被削性を改善することができる。しかしながら、Oの含有量が0.0380%以上になると、たとえMn及びSの含有量とのバランスを適正化しても、前記所望のMnS形態や分散状態を得ることができないばかりか、粗大な酸化物が生成し、伸線加工を始めとする冷間加工時に割れを誘発する。一方、Oの含有量が0.0050%未満では、良好な仕上げ表面性状及び優れた切り屑処理性を得るために必要な前述したMnSの形態や分散状態を得ることができない。したがって、Oの含有量を0.0050%以上0.0380%未満とした。なお、Oの含有量は、所望のMnS形態や分散状態を安定して確保するために、0.0080〜0.0280%とすることが望ましい。
N:0.0020〜0.0250%
本発明においては、AlやTiを実質的に含有しないので、硬質のAlやTiの窒化物がほとんど形成されないため、Nは、フェライト中に固溶した状態で存在する。このフェライトに固溶したNは、MnSの形態にさほど影響を与えることなく鋼の強度を高め、これによって切り屑処理性を高める作用を有する。また、Nには、仕上げ面粗さを小さくする作用もある。しかしながら、Nの含有量が0.0020%未満の場合、十分な切り屑処理性と仕上げ面性状を得ることができない。一方、Nを0.0250%を超えて含有させても前記の効果が飽和するばかりでなく、製造コストの上昇をきたす。したがって、Nの含有量を0.0020〜0.0250%とした。より効果的に被削性、なかでも切り屑処理性と仕上げ面性状を向上させたい場合には、Nは0.0050%以上含有させることが好ましく、0.0095%以上含有させることが一層好ましい。
本発明に係る低炭素硫黄快削鋼材においては、不純物中のCa、Mg、Ti、Zr及びREMの含有量を下記のとおりに制限する。
Ca:0.001%未満、Mg:0.001%未満、Ti:0.002%未満、Zr:0.002%未満及びREM:0.001%未満
Ca、Mg、Ti、Zr及びREMは、いずれも、快削鋼材においては、被削性を改善するためにしばしば添加される元素である。しかし、上記のCaからREMまでの元素は、いずれも、Oとの親和力が大きいため、MnSの形態や酸化物組成及びこれらの介在物の分散状態に影響を及ぼし、被削性、なかでも100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下において、HSS工具を用いて切削したときの仕上げ表面性状を低下させてしまう。特に、不純物中に上記のCa、Mg、Ti、Zr及びREMについて、Ca、Mg及びREMのいずれかが0.001%以上、Ti及びZrのいずれかが0.002%以上含有される場合には、前記の切削速度領域でのHSS工具を用いた切削における仕上げ表面性状の低下が著しくなる。したがって、Ca、Mg、Ti、Zr及びREMの不純物中の含有量は、Ca:0.001%未満、Mg:0.001%未満、Ti:0.002%未満、Zr:0.002%未満及びREM:0.001%未満とする必要がある。不純物中の上記Ca、Mg、Ti、Zr及びREMの含有量は、Ca:0.0005%未満、Mg:0.0005%未満、Ti:0.0010%未満、Zr:0.0010%未満及びREM:0.0005%未満であることが好ましい。
なお、既に述べたように、「REM」は、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計含有量を指す。
「O/S」の値:0.010を超えて0.080未満であること
上述した範囲のCからNまでの元素を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のCa、Mg、Ti、Zr及びREMが、Ca:0.001%未満、Mg:0.001%未満、Ti:0.002%未満、Zr:0.002%未満及びREM:0.001%未満である鋼材は、その「O/S」の値が0.010を超えて0.080未満の場合に、伸線加工を始めとする冷間での加工性が良好で割れを生じることもなく、しかも、100m/min以下の比較的低速領域でのHSS工具での切削で所望の仕上げ面粗さの小さい優れた表面性状を確保することができる。以下、このことについて説明する。
MnSは凝固過程において、Mn系酸化物を生成核として晶出し、最終的にOを固溶した形態となる。そのため、前述した好ましいMnS形態や分散状態とするためには、凝固の早い段階でMn系酸化物を生成核として形成させる必要があるので、Sの含有量に応じてOの含有量を高めなければならない。
一方、本発明で規定する前記の低いC含有量では、Cによる脱酸効果があまり期待できないのでOの含有量が高くなる傾向があり、Oの含有量が高くなりすぎた場合には、鋳片にブローホールが生じたり、伸線加工を始めとする冷間加工時に割れを誘発するなどの不具合が生じる。
そこで、最終的に鋼材に残留されるべき、Oの含有量はSの含有量に応じてその範囲が限定されてしまう。そして、「O/S」の値が0.010以下である場合、前述した好ましいMnSの形態や分散状態とならず、良好な仕上げ面粗さが得られない。
一方、「O/S」の値が0.080以上の場合には、生成するMnS量に対してOの量が多くなって粗大な酸化物が形成されるため、伸線加工を始めとする冷間加工時に割れを誘発し、冷間加工性が低下してしまうとともに長い距離を切削加工した場合の仕上げ面粗さを劣化させる。
したがって、「O/S」の値は0.010を超えて0.080未満であること、つまり、前記(1)式を満たす必要がある。なお、上記の式「O/S」中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表し、「O/S」の値は0.020〜0.060であることが好ましい。
「Mn/(S+O)」の値:2.5を超えて4.0未満であること
上述した範囲のCからNまでの元素を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のCa、Mg、Ti、Zr及びREMが、Ca:0.001%未満、Mg:0.001%未満、Ti:0.002%未満、Zr:0.002%未満及びREM:0.001%未満である鋼材は、その「Mn/(S+O)」の値が2.5を超えて4.0未満の場合に、良好な熱間加工性を有するので連続鋳造時に鋳片の内部割れを生じることもなく、しかも、100m/min以下の比較的低速領域でのHSS工具での切削で所望の仕上げ面粗さの小さい優れた表面性状及び良好な切り屑処理性を確保することができる。以下、このことについて説明する。
本発明におけるMnの作用効果は極めて重要で、溶製時に脱酸元素を添加しない低炭素快削鋼材においては、脱酸処理は主にCやMnで行われるが、本発明で規定する前記の低いC含有量では、前述のとおりCによる脱酸効果があまり期待できないので、Mnの脱酸効果が重要となる。また、本発明で規定するような0.40%を超える高いSを含有する鋼材においては、FeSの生成を抑えて熱間加工性の低下を抑制するためにMnの含有量に対する十分な配慮が必要である。
すなわち、Mnは脱酸時にOと反応し、その後Sと結合してFeSの生成を抑え、熱間加工性を改善する作用を有する。そして、「Mn/(S+O)」の値が2.5を超える場合には、工業的な規模での大量生産に適した十分な熱間加工性を確保することができる。しかしながら、「Mn/(S+O)」の値が2.5以下である場合には、十分な熱間加工性が得られないため、連続鋳造設備で大量生産する場合に内部割れなどの不具合が生じてしまう。
一方、「Mn/(S+O)」の値が4.0以上である場合、含有されるSやOに対して過剰なMnが含まれ、素地に固溶するMnの量が過剰となるので、被削性の低下、なかでも切り屑処理性の低下及び仕上げ面粗さの上昇による表面性状の低下を招いてしまう。更に、実質的にAl、Si、Ca、Mg、Ti及びREMを含有しない本発明に係る低炭素硫黄快削鋼材においては、Mnは脱酸元素として作用するために、過剰なMnを含有させると、十分な量のOを得ることができないし、また、過剰なMnは鋼の強度を増加させ、高い加工度で冷間加工した場合に硬さが急激に上昇するので長い距離を切削加工した場合に良好な仕上げ面粗さが得られなくなる。
したがって、「Mn/(S+O)」の値は2.5を超えて4.0未満であること、つまり、前記(2)式を満たす必要がある。なお、上記の式「Mn/(S+O)」中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表し、「Mn/(S+O)」の値は2.7以上3.5未満であることが好ましい。
上記の理由から、本発明(1)に係る低炭素硫黄快削鋼材の化学組成は、上述した範囲のCからNまでの元素を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のCa、Mg、Ti、Zr及びREMが、Ca:0.001%未満、Mg:0.001%未満、Ti:0.002%未満、Zr:0.002%未満及びREM:0.001%未満で、かつ、前記の(1)式及び(2)式を満たすことと規定した。
本発明に係る低炭素硫黄快削鋼材には、必要に応じて、Feの一部に代えて、後述するTe、Bi及びSeのうちから選択される1種以上の元素を任意添加元素として添加し、含有させてもよい。
以下、上記の任意添加元素に関して説明する。
Te:0.05%以下、Bi:0.15%以下及びSe:0.30%未満
Te、Sn及びSeは、いずれも、被削性を改善する作用を有する。このため、被削性、なかでも100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下において、HSS工具を用いて切削したときの仕上げ表面性状及び切り屑処理性をより一層改善したい場合には以下の範囲で含有してもよい。
Te:0.05%以下
Teは、MnとともにMn(S、Te)を生成し、HSS工具を用いた切削における被削性、特に仕上げ面粗さを改善する効果を有する。つまり、Teを添加しても、幅の大きいMn(S、Te)の割合が増加するだけで酸化物形態には影響がないので、前記の切削速度領域でのHSS工具を用いた切削における被削性、なかでも仕上げ表面性状が向上する。この効果を得るには、その含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Teを0.05%を超えて含有させてもその効果が飽和してコストが嵩むし、熱間加工性も劣化する。したがって、含有させる場合のTeの含有量を0.05%以下とした。なお、より安定して良好な熱間加工性と良好な被削性を兼備させるために、Teの含有量は0.0005〜0.03%とすることが好ましい。より好ましいTeの含有量は、0.003〜0.03%である。
Bi:0.15%以下
Biは、Pbと同様の低融点金属介在物として脆化作用を有し、鋼の被削性を改善する効果を有する。この効果を得るには、その含有量を、0.01%以上とすることが好ましい。一方、Biを0.15%を超えて含有させてもその効果が飽和してコストが嵩むし、熱間加工性も劣化する。したがって、含有させる場合のBiの含有量を0.15%以下とした。なお、より安定して良好な熱間加工性と良好な被削性を兼備させるために、Biの含有量は0.01〜0.10%とすることが好ましい。より好ましいBiの含有量は、0.02〜0.10%である。
Se:0.30%未満
Seは、MnとともにMn(S、Se)を生成し、HSS工具を用いた切削における被削性、特に仕上げ面粗さを改善する効果を有する。つまり、Seを添加しても、幅4μm以上のMn(S、Se)の割合が増加するだけで酸化物形態には影響がないので、前記の切削速度領域でのHSS工具を用いた切削における被削性、なかでも仕上げ表面性状が向上する。この効果を得るには、その含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Seを0.30%以上含有させてもその効果が飽和してコストが嵩むし、熱間加工性も劣化する。したがって、含有させる場合のSeの含有量を0.30%未満とした。なお、より安定して良好な熱間加工性と良好な被削性を兼備させるために、Seの含有量は0.0005〜0.15%とすることが好ましい。より好ましいSeの含有量は、0.005〜0.15%である。
上記のTe、Bi及びSeは、いずれか1種のみ、或いは2種以上の複合で添加することができる。
上述の理由から、本発明(2)に係る低炭素硫黄快削鋼材の化学組成を、本発明(1)に係る低炭素硫黄快削鋼材のFeの一部に代えて、Te:0.05%以下、Bi:0.15%以下及びSe:0.30%未満のうちの1種以上を含有するものと規定した。
なお、Cr、Mo、Cu及びNiは、その含有量がそれぞれ、Cr:0.25%以下、Mo:0.10%以下、Cu:0.20%以下及びNi:0.20%以下の範囲であるならば切削性にはほとんど影響しないため、不純物として許容できる。
次に、本発明の低炭素硫黄快削鋼材における冷間加工後のHv硬さとその限定理由について述べる。
冷間加工後のHv硬さ:180〜230
100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で、HSS工具を用いて長い距離を切削加工した場合に、Pbを添加しない本発明の低炭素硫黄快削鋼材に所望の被削性、すなわち、従来のPb非添加の快削鋼材と同等の切り屑処理性及び従来のPb非添加の快削鋼材と比較して仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を具備させるためには、冷間加工を利用して鋼材自体を脆化させる必要がある。
すなわち、本発明に係る鋼材は、Cの含有量を低くすることによって、構成刃先が成長するための核を一層小さくし、結果的に構成刃先の大きさを抑制して仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を得ることを目的とするものであるため、冷間加工を行わない状態では延性が高く、従来のPb非添加の快削鋼材と比較して切り屑処理性が劣る傾向にある。
したがって、鋼材自体を脆化させて切り屑処理性を向上させるために冷間加工を施す必要があり、冷間加工後の硬さがHv硬さで180以上の場合に前述した所望の切り屑処理性、つまり、従来のPb非添加の快削鋼材と同等の切り屑処理性が得られる。しかしながら、冷間での加工度が大きいために冷間加工後のHv硬さが大きくなりすぎ、特に、230を超えると、仕上げ面粗さが大きくなって、前述した所望の仕上げ表面性状、つまり、従来のPb非添加の快削鋼材と比較して仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を得ることができない。
上述の理由から、本発明に係る低炭素硫黄快削鋼材は、冷間加工後のHv硬さを180〜230とした。
なお、冷間加工後のHv硬さが180〜230となればよいので、冷間加工の方法は特に規定するものではなく、例えば、高い真直度を確保するために実施される伸線加工など通常の冷間加工を利用すればよい。
本発明に係る低炭素硫黄快削鋼材は、例えば、次のようにして工業的に大量生産するのがよい。
先ず、本発明に係る低炭素硫黄快削鋼材を連続鋳造法によって製造する場合に、転炉などの製鋼炉から取鍋への出鋼段階及び取鍋でのスラグ精錬段階での状態を調整する。
具体的には、取鍋精錬開始時に溶鋼中に含有されるMn量を1.5%未満、好ましくは1.2%未満に調整する。この段階で1.5%以上のMnを溶鋼中に含有させても、最終的に前記した範囲内に調整することは可能であるが、適切な酸化物及びMnSの形態を得るために、精錬開始時におけるMnの含有量を上記のように調整しておくのがよい。このMn含有量の調整と同時に、精錬開始時におけるスラグ中のMnOの含有量を適切な範囲、具体的には25〜40%の範囲に調整すると一層よい。そして、精錬の後半から末期に、合金鉄を添加することによって所定のMn含有量にすればよい。
次に、適切なMnSの形態を得るために、鋳造時の冷却速度を調整する。
すなわち、鋳片の冷却速度は、表皮及び中心部で大きな差があるので、好ましいMnS形態とするために、中心部における冷却速度を少なくとも1℃/分以上として、より好ましくは2℃/分以上として冷却するのがよい。
なお、造塊法で鋼塊を製造する場合は、小型のインゴットに鋳造する場合のように、冷却速度が速い場合には、鋼塊中心部の冷却速度で20℃/分以下になるようにすればよい。逆に、巨大なインゴットに鋳造する場合のように、冷却速度が遅い場合には、中心部の冷却速度が1℃/分以上になるように鋳型を工夫すればよい。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
(実施例1)
高周波誘導炉を用いて、表1に示す化学組成を有する鋼1〜16を溶製し、直径が約220mmの鋼塊を作製した。
表1中の鋼1〜8は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼(以下、「本発明例の鋼」という。)であり、鋼9〜16は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。なお、比較例の鋼のうち鋼9は従来のPb非添加の快削鋼に相当する鋼である。
Figure 0004876638
上記各鋼の鋼塊の表面部に近いDi/8部(但し、「Di」は鋼塊の直径である。)の位置を中心として、鋼塊高さ方向から直径10mm、長さ130mmの高温引張試験片を採取し、熱間加工性を調査した。すなわち、熱間加工再現試験装置を用いて、真空中で1250℃に高周波加熱して5分間保持した後、10℃/分の速度で900℃まで冷却し、10秒保持した後、歪速度を10秒-1として900℃で高温引張試験を行い、熱間加工性を調査した。なお、上記棒状試験片の加熱領域は、長さ方向中央部の約20mmとし、高温引張試験後は直ちに急冷した。上記において、高温引張試験の温度として900℃を選定したのは、一般に低炭素快削鋼材の場合には、900℃で熱間延性の指標となる高温引張の絞り値が極小になるからである。
熱間加工性は上記の高温引張試験における絞り(%)で評価した。なお、熱間加工性の目標は、上記高温引張試験で30%以上の絞り値を有することとした。これは、0.4%を超えるような高いS量を含有させた鋼であっても、上記の絞り値を有する場合には、連続鋳造時に内部割れを生じることなく安定して鋳片の製造が可能なためである。
また、次に述べる方法で冷間加工後の各鋼のHv硬さ及び被削性を調査した。
すなわち、各鋼の上記直径が約220mmの鋼塊の残部を1200℃まで加熱して2時間以上保持した後、仕上げ温度が1000℃以上となるように熱間鍛造し、鍛造後に空冷を行って直径40mmの丸棒を作製した。なお、鋼13は絞り値が低かったため、生産性に劣ると判断し、以下の調査を実施しなかった。
次いで、上記の直径40mmの各丸棒をピーリング加工して直径31mmの丸棒とし、これに冷間引き抜き加工を施した。なお、予備調査の結果に基づいて、加工後のHv硬さが本発明で規定する180〜230を満たすように、減面率を調整して引き抜き加工を実施し、この引き抜き加工した丸棒を用いてHv硬さの測定と被削性の調査を行った。
Hv硬さの測定は引抜き加工した丸棒のDf/4(但し、「Df」は各丸棒の直径を表す。)部の縦断面方向から試験片を切り出して樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、9.807Nの試験力でビッカース硬さを測定した。なお、各鋼について5点ずつ測定を行い、その平均値をHv硬さとした。
被削性は、上記の冷間引抜き加工して得た各丸棒を供試材として、コーティング処理が施されていないHSS工具、具体的には、SKH4(JIS G 4403(2000))の旋削用チップを用いて下記の条件で旋削して、仕上げ面粗さと切り屑処理性を調査した。
・切削速度:100m/min、
・送り量:0.05mm/rev.、
・切り込み深さ:1.0mm、
・潤滑:水溶性潤滑油を用いた湿式潤滑。
仕上げ面粗さは、上記条件にて切削距離で100m、700m、1500m及び2000m切削した後の表面を、触針式の粗さ計を用いて各3点ずつ測定し、上記各切削距離における仕上げ面の最大粗さRz及び平均粗さRaを求め、更にそれらを平均したものを、長い距離を切削加工する場合の、各供試材の仕上げ面の最大粗さRz及び平均粗さRaとして評価した。
また、切り屑処理性は、上記の条件にて切削距離で100m切削する間に排出された切り屑を採取し、長い切り屑から順に20個の質量を測定し、その質量にて評価を行った。すなわち、この質量が小さい値であるほど切り屑処理性が良好なため、従来のPb非添加の快削鋼材に相当する鋼9と同等の5.0g以下であった場合に、切り屑処理性が良好であると判断した。なお、切り屑処理性が悪く、長い切り屑が排出された結果、20個の切り屑が得られなかったものについては、その個数と質量から20個当たりの質量に換算した。
表2に、上記の各試験結果をまとめて示す。
表2における「熱間加工性」欄の「○」は高温引張試験で30%以上の絞り値を有し熱間加工性が良好なことを、「×」は高温引張試験での絞り値が30%を下回って熱間加工性が低いことを示す。
また、表2における「切り屑処理性」欄の「○」は切り屑の質量が5.0g以下で従来のPb非添加の快削鋼材に相当する鋼9と同等の切り屑処理性を有することを、また、「×」は切り屑の質量が5.0gを上回って切り屑処理性が上記従来のPb非添加の快削鋼に相当する鋼9より劣ることを示す。表2中の鋼13における「−」は、熱間延性が低かったため、生産性に劣ると判断し、調査を実施しなかったことを示す。
Figure 0004876638
表2から、本発明に係る低炭素硫黄快削鋼材は、Pbを含まないにも拘わらず、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で、HSS工具を用いて長い距離を切削加工した場合であっても、従来のPb非添加の快削鋼材と同等の切り屑処理性を有するとともに前記従来のPb非添加の快削鋼材と比較して仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を有することが明らかである。更に、その熱間加工性は良好で、連続鋳造による工業的な大量生産を行う場合にも何ら問題のないものであることも明らかである。
これに対して、本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼材は、切り屑処理性、仕上げ表面性状及び熱間加工性のうち少なくとも一つが本発明に係る低炭素硫黄快削鋼材に比べて劣っている。
(実施例2)
高周波誘導炉を用いて、表3に示す化学組成を有する鋼17及び鋼18を溶製し、直径が約220mmの鋼塊を作製した。
なお、鋼17は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼18は、化学組成のうちCの含有量が本発明で規定する条件から外れた鋼で、従来のPb非添加の快削鋼に相当する鋼である。なお、上記2つの鋼は、そのS含有量がほぼ同じレベルになるように調整した。
Figure 0004876638
両鋼の上記直径が約220mmの鋼塊を1200℃まで加熱して2時間以上保持した後、仕上げ温度が1000℃以上となるように熱間鍛造し、鍛造後に空冷を行って直径40mmの丸棒を作製した。
次いで、上記の直径40mmの各丸棒をピーリング加工して直径31mmの丸棒とし、表4に示す各減面率で冷間引き抜き加工を施し、その引き抜き加工した各丸棒を用いてHv硬さの測定と被削性の調査を行った。なお、減面率が40%を超える場合には、2段引き抜き(2パス)によって丸棒を作製した。
Hv硬さの測定は引抜き加工した丸棒のDf/4(但し、「Df」は各丸棒の直径を表す。)部の縦断面方向から試験片を切り出して樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、9.807Nの試験力でビッカース硬さを測定した。なお、各引き抜き加工条件のものについて5点ずつ測定を行い、その平均値をHv硬さとした。
被削性は、上記の冷間引抜き加工して得た各丸棒を供試材として、コーティング処理が施されていないHSS工具、具体的には、SKH4(JIS G 4403(2000))の旋削用チップを用いて下記の条件で旋削して、仕上げ面粗さと切り屑処理性を調査した。
・切削速度:100m/min、
・送り量:0.05mm/rev.、
・切り込み深さ:1.0mm、
・潤滑:水溶性潤滑油を用いた湿式潤滑。
仕上げ面粗さは、上記条件にて切削距離で100m、700m、1500m及び2000m切削した後の表面を、触針式の粗さ計を用いて各3点ずつ測定し、上記各切削距離における仕上げ面の最大粗さRz及び平均粗さRaを求め、更にそれらを平均したものを、長い距離を切削加工する場合の、各供試材の仕上げ面の最大粗さRz及び平均粗さRaとして評価した。
また、切り屑処理性は、上記の条件にて切削距離で100m切削する間に排出された切り屑を採取し、長い切り屑から順に20個の質量を測定し、その質量にて評価を行った。すなわち、この質量が小さい値であるほど切り屑処理性が良好なため、従来のPb非添加の快削鋼に相当する鋼18と同等の5.0g以下であった場合に、切り屑処理性が良好であると判断した。なお、切り屑処理性が悪く、長い切り屑が排出された結果、20個の切り屑が得られなかったものについては、その個数と質量から20個当たりの質量に換算した。
表4に、上記の各試験結果を併せて示す。また、図1及び図2に、それぞれ、引き抜き加工後のHv硬さと仕上げ面の最大粗さRz及び平均粗さRaとの関係を整理して示す。なお、上記の各図では、鋼17の結果を「発明例」として●印で、鋼18の結果を「比較例」として□印で表記した。
Figure 0004876638
表4、図1及び図2から、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼であっても、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で、HSS工具を用いて長い距離を切削加工した場合に、良好な切り屑処理性及び仕上げ面粗さの小さい優れた表面性状を得るには、冷間加工後のHv硬さを本発明で規定する範囲内に調整する必要があることが明らかである。
本発明の鋼材は、Pb非添加の「地球環境に優しい快削鋼材」であるにも拘わらず、100m/min以下の比較的低速領域での湿式条件下で、HSS工具を用いて長い距離を切削加工した場合であっても、従来のPb非添加の快削鋼材と同等の切り屑処理性を有するとともに前記従来のPb非添加の快削鋼材と比較して仕上げ面粗さの小さい良好な表面性状を確保することができ、しかも、連続鋳造性に優れるため安価に大量生産することができる。したがって、自動車用のブレーキパーツ、パソコン周辺機器部品及び電気機器部品など軟質の小物部品の素材として利用することができる。
実施例2における引き抜き加工後のHv硬さと仕上げ面の最大粗さRzとの関係を示す図である。 実施例2における引き抜き加工後のHv硬さと仕上げ面の平均粗さRaとの関係を示す図である。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.05%未満、Si:0.05%未満、Mn:0.7〜1.8%、P:0.03〜0.20%、S:0.40%を超えて0.70%未満、Al:0.005%未満、O:0.0050%以上0.0380%未満、N:0.0020〜0.0250%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のCa、Mg、Ti、Zr及びREMが、Ca:0.001%未満、Mg:0.001%未満、Ti:0.002%未満、Zr:0.002%未満及びREM:0.001%未満であって、下記式(1)式及び(2)式を満たし、更に、冷間加工後のビッカース硬さが180〜230であることを特徴とする被削性に優れた低炭素硫黄快削鋼材。
    0.010<O/S<0.080・・・(1)
    2.5<Mn/(S+O)<4.0・・・(2)
    但し、(1)式及び(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。
  2. Feの一部に代えて、Te:0.05%以下、Bi:0.15%以下及びSe:0.30%未満のうちの1種以上を含有する請求項1に記載の低炭素硫黄快削鋼材。
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