JP3736721B2 - 高耐食快削ステンレス鋼 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、OA機器、電子機器等の構成部分用に切削成型された耐食材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、SUS416、SUS430F、SUS303等のいわゆる快削ステンレス鋼は、Sを含有することによって鋼中に主にMnからなる硫化物(MnS)を生じ、これが切削加工中に応力集中源となって亀裂の伸展を容易にしたり工具との間の潤滑作用を示したりして被削性を向上させるといわれている。特に亀裂伸展を容易にする作用は、硫化物の寸法に影響され、硫化物が大きいほど効果が大きいことが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、特開平8−193249号公報や特開平8−260102号公報に開示されているように、S快削ステンレス鋼においては、MnSの晶出形態は溶鋼中の酸素量によって変化するといわれている。高酸素の場合にのみ、大型の粒状硫化物が生成し、圧延等の加工変形を受けても被削性改善に寄与するサイズを保持する。このため従来、被削性を重視したS快削鋼は高酸素で溶製されている。また常温においては鋼中の酸素溶解度は低く、溶鋼中に残存した酸素はSi、MnおよびCr等からなる酸化物となってMnS周辺あるいは単独で存在する。
【0004】
他方、特開平10−46292号公報に開示されているように、ステンレス鋼中の硫化物の組成は、主に鋼中のMnとSの比Mn/SやCr量によって決定され、耐食性等を改善するために硫化物のCr濃度を高めたステンレス鋼が製造されている。しかし、低Mn鋼を汎用鋼と同様に高酸素で溶製すると、Si等の粗大な酸化物を生成しやすく、切削や研磨等による表面仕上後の材料の表面性状の低下を引起こすという問題があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述したような問題を解消するため、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、低Mn/S化による硫化物組成の変化は、硫化物の晶出形態にも影響を与えることが分かった。すなわち、Cr濃度が高い硫化物は、低酸素でも微細分散型にならないため、被削性の低下の懸念なく溶鋼中の酸素を低減することが可能になり、この結果粗大な酸化物の生成を抑制できることを見出した。このことによって、硫化物組成をCr富化にすることにより酸素量を低減しても粒状型の硫化物を生成させることができ、その結果表面性状に悪影響を与える酸化物を減少させ、良好な被削性と表面性状を与える快削ステンレス鋼を提供することができるようになった。
【0006】
その発明の要旨とするところは、
(1)重量%で、C:2.00%以下、Si:3.00以下、Mn:1.00%以下、S:0.05〜0.50%、Cr:10.00〜30.00%、Al:0.005〜0.50%、O:0.005%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ硫化物中のCrとMnの濃度比Cr/Mn:1以上からなることを特徴とする高耐食快削ステンレス鋼。
【0007】
(2)重量%で、C:2.00%以下、Si:3.00以下、Mn:1.00%以下、S:0.05〜0.50%、Cr:10.00〜30.00%、Al:0.005〜0.50%、O:0.005%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、Ni:30.00%以下、Mo:5.00%以下、Cu:4.00%以下、Ti:1.00%以下、Nb:1.00%以下、B:0.02%以下、N:0.50%以下、Se:0.30%以下、Pb:0.30%以下、Te:0.30%以下の1種または2種以上含有し、さらに、硫化物中のCrとMnの濃度比Cr/Mn:1以上からなることを特徴とする高耐食快削ステンレス鋼にある。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の成分組成を限定している理由を示す。
C:2.00%以下
Cは強度を上げるに必要な元素である。しかし耐食性を向上させるためには少ない方が良く、その上限値を2.00%とした。
Si:3.00%以下
Siは通常脱酸のために添加され、多いと焼きなまし硬さが大きくなり加工性を阻害する。従って、その上限値を3.00%とした。
【0009】
Mn:1.00%以下
MnはSiと同様に脱酸剤であり、またSと反応して硫化物を生成する。しかし多いと硫化物中のCr濃度が減少し晶出形態に酸素の影響を受けるようになるのと同時に耐食性が悪化する。従って、その上限値を1.00%とした。
S:0.05〜0.50%
Sは被削性向上に極めて効果が大きい元素である。しかし、0.05%未満ではその効果が薄く、0.50%を超えると効果が飽和して熱間加工性が阻害される。従って、その範囲を0.05〜0.50%とした。
【0010】
Cr:10.00〜30.00%
Crはステンレス鋼の基本的な元素であり、表面に酸化皮膜を生成することで耐食性を付与する。しかし30.00%を超える添加は高価になり、かつ製造性を劣化させる。従って、その範囲を10.00〜30.00%とした。
Al:0.005〜0.50%
Alは強力な脱酸元素であり、かつ耐食性を高める元素である。しかし0.50%を超えると酸素と共に溶鋼中に存在すると凝固時に硬質の酸化物を生成し被削性を阻害する。従って、その範囲を0.005〜0.50%とした。
【0011】
O:0.005%以下
Oは多いと粗大酸化物を生成して表面仕上性を悪くする。従って、その上限値を0.005%とした。
硫化物中の濃度比Cr/Mn:1以上
硫化物中の濃度比Cr/Mnは、低酸素でも粒状型の硫化物系介在物を生成するために制限するものである。また硫化物中にMn濃度が増加すると耐食性等が悪化する。従って、硫化物中の濃度比Cr/Mnを1以上とした。
【0012】
その他、必要に応じて以下の元素のうち1種または2種以上の添加を認める。
Ni:30.00%以下
Niは非磁性用途向けに添加する。また非酸化性酸に対する耐食性を向上する。しかし30.00%を超える添加は高価になるため、30.00%以下とした。
Mo:5.00%以下
Moは耐食性を向上させる。しかし多すぎる脆化相を析出し耐食性、靱性を悪化させる。従って、その上限値を5.00%とした。
【0013】
Cu:4.00%以下
Cuはオーステナイト地に固溶し耐食性を改善させると共に、変形抵抗を低下させる。しかし4.00%を超える添加は熱間加工性を悪化させる。従って、その上限値を4.00%とした。
Ti:1.00%以下、Nb:1.00%以下
Ti、Nbは炭化物を生成し耐食性を向上させる。またSと反応し硫化物を形成させる。しかし多すぎると、いずれも熱間加工性を悪化させる。従って、いずれもその上限値を1.00%とした。
【0014】
B:0.02%以下
Bは特にオーステナイト系で熱間加工性を改善する。しかし、多すぎると逆に悪化する。従って、その上限値を0.02%とした。
N:0.50%以下
Nは強力なオーステナイト生成元素で耐食性の改善や強度向上に効果がある。しかし溶解度を超えて添加すると欠陥を生じさせる。従って、その上限値を0.50%とした。
【0015】
Se:0.30%以下
SeはSと同様に介在物として被削性を向上させる。しかし、過剰添加は熱間加工性を悪化さる。従って、その上限値を0.30%とした。
Pb:0.30%以下
Pbは切削中の潤滑材として働き被削性を向上させる。しかし、多すぎるとその効果が飽和し熱間加工性を損なう。従って、その上限値を0.30%とした。
Te:0.30%以下
TeはS、Seと同様に介在物として被削性を向上させる。しかし、多すぎると熱間加工性を低下させるので、上限値を0.30%とした。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
実施に使用した本発明鋼および比較鋼の化学成分を表1に示す。これらは、100kg真空炉にて溶製した鋼塊を用いて、以下に挙げる各試験を行った。
(1)硫化物系介在物形態観察
硫化物系介在物の晶出形態に及ぼす硫化物系介在物組成および鋼中酸素量の影響をみるため、凝固組織を光学顕微鏡で観察し、介在物の晶出形態を粒状型および点状型に分類した。粒状型とは比較的大型の介在物が分散晶出している状態をいい、点状型とは細かい介在物が火花状に晶出している状態をいう。特に、表1に示す供試鋼No1、10、11、12については、図1に示す顕微鏡写真によって示されている。
【0017】
【表1】
Figure 0003736721
【0018】
(2)最大酸化物系介在物
φ20mmに鍛伸した丸棒の長手方向の10mm×10mmの断面を研磨後100倍で検鏡し、視野内の10μm以上の酸化物系介在物の中で最大のものについて最長径を測定した。
(3)ドリル穿孔性試験
φ20mmに鍛伸した丸棒の鍛伸面方向に平行にドリルを用いて一定周速、一定推力で穿孔し、このときに要した時間で被削性を評価した。試験条件は以下の通りである。
【0019】
使用ドリル:SKH51、φ5ストレートシャンクドリル
周速:18.7m/min
推力:414N
潤滑:なし
評価方法:深さ10mmを穿孔するのに要する時間
上述した試験結果を表2および表3に示す。
【0020】
【表2】
Figure 0003736721
【0021】
【表3】
Figure 0003736721
【0022】
発明鋼であるNo1〜9は、硫化物介在物が粒状型に晶出しており、その組成は、若干のSe、TiおよびTeを含有するNo2、4および6を除くと、全て(Cr,Mn,Fe)Sであり、しかも硫化物中のCrとMnの濃度比Cr/Mnはいずれも1以上である。また、酸化物の大きさはいずれも10μm以下で実用上問題ないレベルの大きさである。ドリル穿孔性は、Se、PbおよびTeをそれぞれ含有するNo2、5および6の場合、他よりも幾分良くなっているが、他はおおよそ8秒台で一定している。
【0023】
比較鋼No10、11は、汎用レベルのSUS416であり、硫化物系介在物はほぼMnSであり、比較鋼No10のように酸素が低いと晶出する硫化物系介在物は点状型になり被削性が大幅に悪化する。一方、比較鋼No11のように酸素が高いと硫化物の粒状化により低酸素鋼より被削性は向上するが、切削後の表面仕上性を害する巨大な酸化物系介在物が生じる。比較鋼No12は、硫化物中のCrとMnの濃度比Cr/Mnが1以上であるため、比較鋼No11のように、硫化物系介在物の粒状化のために酸素を高める必要がなく、むしろ巨大な酸化物系介在物が生じて特性を減じている。
【0024】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により従来の快削ステンレス鋼に比べて、切削表面仕上性の悪化なく、優れた耐食性を兼備する快削ステンレス鋼を提供することができ、極めて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】各供試鋼の硫化物系介在物晶出形態に及ぼす硫化物組成および酸素量の影響を示す顕微鏡写真である。

Claims (2)

  1. 重量%で、
    C:2.00%以下、
    Si:3.00以下、
    Mn:1.00%以下、
    S:0.05〜0.50%、
    Cr:10.00〜30.00%、
    Al:0.005〜0.50%、
    O:0.005%以下、
    残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ硫化物中のCrとMnの濃度比Cr/Mn:1以上からなることを特徴とする高耐食快削ステンレス鋼。
  2. 重量%で、
    C:2.00%以下、
    Si:3.00以下、
    Mn:1.00%以下、
    S:0.05〜0.50%、
    Cr:10.00〜30.00%、
    Al:0.005〜0.50%、
    O:0.005%以下、
    残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ
    Ni:30.00%以下、
    Mo:5.00%以下、
    Cu:4.00%以下、
    Ti:1.00%以下、
    Nb:1.00%以下、
    B:0.02%以下、
    N:0.50%以下、
    Se:0.30%以下、
    Pb:0.30%以下、
    Te:0.30%以下
    の1種または2種以上含有し、さらに、硫化物中のCrとMnの濃度比Cr/Mn:1以上からなることを特徴とする高耐食快削ステンレス鋼。
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