JP3638828B2 - 表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼 - Google Patents

表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、SUS416、SUS430F、SUS303等のS含有快削ステンレス鋼において、Sは主に鋼中のMnと反応して硫化物MnSを形成し、この硫化物が切屑処理性の向上や切削抵抗の低下等の効果を発揮することにより被削性を改善することが知られている。一方、MnSは一般的に耐食性がステンレス鋼マトリクスと比較して劣り、腐食の起点となりやすい欠点があった。また、材料自体の耐食性のみならず、MnSが空気中の水分と反応して発生する腐食性の硫化水素ガス(アウトガス)が周辺材料を腐食する現象があることも知られており、例えば切削加工で作られる電子機器用の部品などにおいて問題となることがある。これらを改善する一方法として、硫化物組成を変化させる方策が採られている。すなわち、Mnを低減して硫化物組成をCr−richの(Cr,Mn)Sにする方法であり、これによって、耐食性とアウトガス特性を向上させた快削ステンレス鋼が開発され実用化されている。
【0003】
上述した硫化物による被削性改善の度合は硫化物の硬さや形状により異なり、硬さが低く、かつ大型で球状に近い(延伸度が小さい)形状の場合に効果が大きい。(Cr,Mn)Sの硬さは、MnSに比較して常温で高いため、(Cr,Mn)Sの被削性改善効果はMnSより低い。加えて(Cr,Mn)Sの熱間加工による延伸度はMnSより大きく、この点からも(Cr,Mn)SはMnSの場合より被削性が悪い。
【0004】
以上のように、(Cr,Mn)S系硫化物を含有する快削ステンレス鋼の被削性を改善することが課題になっていた。そこで、硫化物の熱間加工における延伸度を抑制させるための方法の一つとしてOに着目した。O量(製鋼時の溶鋼中の溶存酸素量)が多いと、硫化物中に固溶したり微細な酸化物が析出したりする等の効果により、硫化物は熱間圧延で延伸しにくいものになる。硫化物形状を被削性改善に好適なものにするためには、Oを適量含有していることが必要である。
【0005】
ところが、溶存酸素を高くすることは不純物としての酸化物の増大をもたらす。酸化物は、組成によっては被削性改善に有効であるとする文献もあるが、改善効果が現れるのは一定の狭い酸化物組成範囲であり、効果の程度は切削条件によっても影響を受ける。殆どの組成の酸化物は硬質で切削工具の摩耗を促進し被削性に悪影響を与えるとともに、軟化温度の高い酸化物は圧延等の熱間加工でも変形せずに切削面に粗く表出することもある。この表出酸化物は、常温では通常マトリクスよりも硬く脆い性質のため、加工表面に異物として残存することにより、表面処理時の欠陥を生じたり、脱落して精密機械の故障を引き起こしたりする恐れがある。このように粗大酸化物は表面仕上性を悪化させていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
特に、本発明にあるような、耐食性、アウトガス特性の向上のために低Mn化した鋼種の場合は、酸化物が軟化しにくく、短径でも数百μmとなる酸化物がみられることが往々にしてあり、中でも熱間圧延法で製造した丸棒に関しては中心軸と直交する断面において上記の問題を生じ易くなっている。これを解決するためには、酸化物を軟質のものとし、熱間加工により十分に延伸させて切断面に表出する酸化物の断面積を減少させ硫化物と同程度に無害化する必要がある。
【0007】
そこで、精錬時に多量のSiO2 やCr2 3 が生成する当該快削ステンレス鋼において特徴的である上記問題を解消する方法としてAlやCaの効果に着目した。いままでに快削ステンレス鋼の酸化物に関して、例えば特開平10−237603号公報が開示されている。この特許はAlがOと酸化物を生成し、硫化物、セレン化物の核となることから、AlとOとの酸化物が有用であるとしているものである。しかしながら、この酸化物に対する考え方は、本発明とは全く異なるものである。本発明では、核としてのAlとOの酸化物の利用を全く必要とせず酸化物(中でもSiO2 やCr2 3 が主体の酸化物)は低Mn化した鋼においては巨大化するので有害であるとしており、強力な酸化物生成元素であるAl,さらにはCaを微量の添加で、これらの酸化物の組成を変化させ延性を有する複合型酸化物に制御することにより無害化するものである。
【0008】
従って、これらのことから本発明においては、ある一定の成分範囲にあるときにはじめて、溶存酸素の過度の低下(被削性の低下)を抑制しつつ、精錬時に多量のSiO2 やCr2 3 を含むステンレス鋼において生成酸化物の軟化温度を低下させることができることを見出したものである。他方、被削性のためには、硫化物はできるだけ熱間加工で延伸させない方が都合が良い。本発明は、耐食性とアウトガス特性を改善した快削ステンレス鋼に関し、介在物組成制御により、酸化物は延伸させて無害化し、硫化物は被削性に好適な紡錘形を保持させて、被削性と切削表面仕上性を両立させた高耐食快削ステンレス鋼を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
その発明の要旨とするところは、
(1)重量%で、C:0.50%以下、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.05〜0.41%、S:0.05〜0.50%、Cr:10.00〜30.00%、Al:0.0001〜0.003%未満、O:0.005〜0.04%からなり、長径が10μm以上の硫化物系介在物の組成について、介在物中のCr/Mnの重量比が1.2〜3であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
【0010】
(2)重量%で、C:0.50%以下、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.05〜0.41%、S:0.05〜0.50%、Cr:10.00〜30.00%、Al:0.0001〜0.003%未満、Ca:0.0005〜0.01%、O:0.005〜0.04%からなり、長径が10μm以上の硫化物系介在物の組成について、介在物中のCr/Mnの重量比が1.2〜3であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
【0011】
(3)前記(1)または(2)の成分に加え、さらに重量%で、Ni:20.00%以下、Mo:3.00%以下、Cu:4.00%以下、Ti:1.00%以下、Nb:1.00%以下、V:1.00%以下、Zr:1.00%以下、N:0.50%以下、B:0.02%以下、Se:0.30%以下、Te:0.30%以下、Pb:0.30%以下、Bi:0.30%以下の中から1種または2種以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
【0012】
(4)熱間加工をした鋼材において、熱間加工による鋼材の延伸方向の長さが10μm以上の酸化物系介在物に関して、重量%でSiO2 量が30%以上70%以下で、Al2 3 を5%以上含み、かつSiO2 量より少ない量で他の酸化物を含有した複合型酸化物になっているものが、個数割合で80%以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
(5)熱間加工をした鋼材において、熱間加工による鋼材の延伸方向と垂直な断面の長径が100μm以下の酸化物系介在物からなることを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼にある。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る成分組成の限定理由について述べる。
C:0.50%以下
Cは強度を上げる重要な元素であるが、しかし、多すぎると耐食性を悪化させるので、その上限を0.50%とした。
Si:0.05〜2.00%
Siは発明が解決しようとする課題のところで述べたとおり巨大酸化物となるSiO2 の生成源ではあるが、製鋼時脱酸剤として有用であり、鋼材の硬さ、すなわち強度を高めるとともに、後述するように酸化物を高延伸性の好適組成にするためにも必要であり、そのためにも0.05%必要である。しかし、多すぎると焼なまし硬さを大きくし加工性を阻害することから、上限を2.00%とした。
【0014】
Mn:0.05〜0.41%
Mnは脱酸剤として用いられる。また、酸化物を形成する重要な元素であり、適度な組成になったとき酸化物の高温延性向上する。また硫化物生成元素であり、そのためにも0.05%以上必要である。しかし、多すぎると硫化物中のMn濃度が増加し耐食性を悪化させるので、上限を0.41%とした。
S:0.05〜0.50%
Sは硫化物を形成し被削性向上に極めて効果が大きい。しかし、多すぎると被削性改善効果が飽和し、かつ熱間加工性を悪化させるので、その上限を0.50%とした。
【0015】
Cr:10.00〜30.00%
Crはステンレス鋼の基本的な元素で酸化皮膜を形成し耐食性を付与する。従って、少ないと十分な耐食性皮膜を形成できず、多いと高価であり、かつ熱間加工性が悪化するので、その範囲を10.00〜30.00%とした。
Al:0.0001〜0.003%未満、
Alは本発明の最大の特徴とするものであり、そのAlは強力な脱酸元素であり、酸化物組成に対する影響が大で、適量を含有するときに熱間延伸性に優れた酸化物を生成する。しかし、多すぎると酸化物組成が不適当になり非延性酸化物を生じるとともに、溶製時に溶存酸素量を減少させ被削性を悪化させることから、その範囲を0.0001〜0.003%未満、好ましくは0.0001〜0.0020%、さらにより好ましくは0.0003〜0.0015%とした。
【0016】
Ca:0.0005〜0.01%
Caは強力な脱酸元素であり、酸化物組成に大きく影響し、適量含有するときに好適な酸化物組成となる。しかし、多すぎると酸化物組成が不適当になり非延性化するとともに、溶存酸素の低下による被削性低下をもたらす。従って、その範囲を0.0005〜0.01%とした。
O:0.005〜0.04%
Oは製鋼時に脱酸元素の過剰添加等の原因で過少になると、硫化物が熱間で延伸しやすくなり被削性改善に不適当な形状になる。また、多すぎると被削性改善効果が飽和し、酸化物量が増加し、靱性が低下する。従って、その範囲を0.005〜0.04%、好ましくは0.010〜0.025%とした。
【0017】
Ni:20.00%以下
Niはオーステナイト系ステンレス鋼に主に添加される。非磁性用途向けに一定以上必要とされる。さらに、非酸化性酸に対する耐食性を改善する等の効果を有する。しかし、多量の添加はコスト高となるため、その上限を20.00%とした。
Mo:3.00%以下
Moは耐食性を向上させる元素である。しかし、多すぎると脆化相を析出し耐食性、機械的性質を低下させるので、その上限を3.00%とした。
【0018】
Cu:4.00%以下
Cuは主にオーステナイト地に固溶し、耐食性改善、冷間加工性改善の効果がある。しかし、過剰添加は熱間加工性を悪化させるので、その上限を4.00%とした。
Ti:1.00%以下
TiはTi炭窒化物形成により耐食性改善に有効だが、しかし、多すぎると脆化を起こすので、その上限を1.00%とした。
【0019】
Nb:1.00%以下
Nbは強力な炭窒化物生成元素でNb炭窒化物を形成し、Cr炭化物の生成を抑制し、耐食性を向上させる。しかし、多すぎると熱間加工性を悪化させるので、その上限を1.00%とした。
V:1.00%以下
Vは炭窒化物を生成し、耐食性を向上させるに有効である。しかし、多すぎると熱間加工性を低下させるので、その上限を1.00%とした。
【0020】
Zr:1.00%以下
ZrはTiと同様に炭窒化物を形成し、耐食性改善に有効である。また、熱間加工性を向上させるが、多すぎると逆に悪化させるので上限を1.00%とした。
N:0.50%以下
Nは耐食性を改善し、強度を向上させる。しかし、過大な添加は鋼塊中に欠陥を生じさせるので、その上限を0.50%とした。
B:0.02%以下
Bは適度の添加で、特にオーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性を改善する。しかし、多すぎると逆に悪化させるので、その上限を0.02%とした。
【0021】
Se:0.30%以下
SeはSと同様、MnやCr等と反応し非金属介在物を形成して被削性を改善する。しかし、過剰添加は効果が飽和し熱間加工性を悪化させるので、その上限を0.30%とした。
Te:0.30%以下
TeはS、Seと同様、介在物を形成することにより被削性を改善する効果がある。しかし、過剰添加は効果が飽和し熱間加工性を悪化させるので、その上限を0.30%とした。
【0022】
Pb:0.30%以下
Pbは鋼中に単独あるいは介在物に付着する形で分散して存在し、切削加工中に溶解して潤滑剤としての効果や切屑破砕性改善の効果がある。しかし、過剰の添加は被削性改善効果の飽和と熱間加工性の阻害をもたらすことから、その上限を0.30%とした。
Bi:0.30%以下
BiはPbと同様、低融点金属で鋼中に分散して存在し、被削性改善に効果がある。しかし、過剰添加は効果が飽和し熱間加工性を悪化させることから、その上限を0.30%とした。
【0023】
硫化物および硫化物とセレン化物、テルル化物の複合体(これらを纏めて硫化物系介在物と呼ぶ)の組成について、Cr/Mn比は、耐食性、アウトガス特性を左右する因子であり、Mn濃度が減少し、Cr濃度が増加するのに伴って、これらの特性は向上し、硫化物系介在物中のCr量がMn量を上回ると著しく改善するので、Cr/Mn比を1.2〜3に限定した。硫化物系介在物の組成について、10μm以上のものに限定しているのは、10μm以上の硫化物系介在物が特性上大きな影響を及ぼすと考えられるためである。
【0024】
酸化物組成は酸化物の熱間延性に大きく影響する。硬質で巨大化し易いSiO2 を延性に富んだ酸化物にするためには、Alを0.0001〜0.003%未満、好ましくは0.0001〜0.0020%、より好ましくは0.0003〜0.0015%鋼中に残存させ、Al2 3 を含んだ複合型酸化物にする必要がある。しかし複合型酸化物中のAl2 3 が過度に増大すると、やはり複合型酸化物が硬質化する。Al2 3 過多による複合型酸化物の生成を防ぐには、複合型酸化物を構成する各酸化物の中で特にSiO2 とAl2 3 の含有量に関して、重量%でSiO2 量が30%以上70%以下で、Al2 3 量が5%以上とすれば良い。
【0025】
このように硬質な酸化物を延性に富んだ複合型酸化物に制御するためには、SiとAlの共存が必要であるが、なかでもAlの管理が重要である。Alは精錬過程で脱酸目的で添加したAlの一部が脱酸作用によりスラグと共に除去される。従って、溶鋼中に添加するAl量ではなく、凝固した鋼中に残存するAl量に注目し、その残存量を上述の組成になるよう微量に管理する必要がある。なお、10μm以上の酸化物の個数割合を規定したのは、大型酸化物は表面仕上性悪化の原因となるためである。大きな酸化物を軟質なものとすれば表面仕上げ性に有害である酸化物の巨大化を防ぐことができる。この理由から10μm以上の酸化物について、その個数割合で80%以上を上述した複合型介在物にすれば良い。
【0026】
さらに、Caを0.0005〜0.01%添加すると延性はさらに良くなる。適当な組成の酸化物は熱間加工により延伸し実質上無害化する。本発明でいう酸化物中のSiO2 量とは、酸化物をエネルギー分散型X線分析装置で酸化物組成を分析したSiの濃度をSiO2 換算したものである。他の酸化物についても同様な換算を行っている。切削加工等で表面に表出する酸化物は、延伸方向と垂直な断面に表出した酸化物の長径が100μm以下ならば実質上問題ない。好ましくは50μm以下である。
【0027】
【実施例】
60tアーク電気炉で、フェライト系、マルテンサイト系およびオーステナイト系ステンレス鋼を溶製した。その成分組成を表1に示す。この出来上がった約450mmの角鋼塊を約1000℃でφ30mmに圧延し、適正な熱処理を施し、圧延方向に直角に切り出して実体顕微鏡を用いて倍率30倍で介在物の大きさを測定した。この顕微鏡測定法では、認知できるのは20μm以上の酸化物であり、認知された酸化物の最大径を測定した。さらに、圧延方向に平行な面でも観察を行い、長径が10μm以上の酸化物の組成をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて調査した。また、硫化物系介在物についてもEDX分析を行った。その硫化物系介在物組成および酸化物系介在物の組成を表2に示す。
【0028】
さらに、これらの材料について耐食性およびアウトガス試験に供した。耐食性試験は、相対湿度90%で20℃−2h←→50℃−4hの昇温および降温を20サイクル繰返して行い、試験片表面の発銹状況を観察した。アウトガス試験は、試験片、純水および銀板を80℃で封入して行い、20h後の銀板の色の変化により、硫化水素ガスの発生多寡を評価した。すなわち、硫化水素は銀と反応して銀板を褐色に変化させ、硫化水素アウトガス量の増加に伴って変色度も大きくなる。また、被削性評価として、ドリル穿孔性試験を行った。φ5mm、SKH51製ストレートシャンクドリルを用い、414N、18.7m/minの一定推力、一定周速下で、φ15mmの試験片断面に垂直に穿孔を行い、深さ10mmに達するまでに要した時間(秒数)で被削性評価を行った。すなわち、被削性が良くなるほど穿孔時間が短くなる。その結果を表3に示す。
【0029】
【表1】
Figure 0003638828
【0030】
【表2】
Figure 0003638828
【0031】
【表3】
Figure 0003638828
【0032】
表3に示すように、発明例No1〜24は、硫化物組成が適当に制御されているため、良好な被削性を保持しつつ、耐食性、アウトガス特性が優れている。かつ大部分の酸化物が適当な組成に複合酸化物化して圧延により延伸しているため、粗大酸化物が切断面に表出して表面性状を害することはない。
一方、比較例No25は、従来の製鋼方法によるものであり、Al,Ca無添加のため、生成する酸化物は大部分がSiO2 を主体とするものであり、圧延で延伸せず球状の形態を保つため粗大に残存し、これが製品において表面仕上性を減じる原因となっている。
【0033】
比較例No26のように、Alを過分に添加すると、酸化物組成がAl2 3 濃度の高いものへと変化し、圧延による酸化物延伸が低下し、粗大な酸化物が残存する。さらにAl量が多い比較例No27の場合は、脱酸元素であるAlの過剰添加により溶製時の溶存酸素量の低下が進み、酸化物量自体が少なくなる。しかし、溶存酸素の減少が硫化物の熱間延伸性を高め、圧延により著しく延伸した硫化物が十分な効果を発揮できないため被削性が低下する。
【0034】
比較例No28のように、Al量が多い場合にCaを添加すると、Caも強力な脱酸元素であるためにCaOを含む複合組成の酸化物が生成するが、Al2 3 濃度が高い不適当な組成のため熱間延伸性に乏しく、粗大酸化物が残存する。比較例No29のように、Al無添加でCaを含む場合は、酸化物が主にSiO2 とCaOの2種類からなる組成となり、圧延で延伸せず粗大に残存する。
【0035】
汎用の快削鋼であるSUS430F、SUS303、SUS416の場合を比較として示しているが、これらの鋼種はもともとMn含有量が多く、酸化物もMnOを多く含むSiO2 −MnO組成であるため、熱間延伸性が良好で粗大酸化物の問題は殆ど生じない。ただし、硫化物がMnS組成であるため、耐食性、アウトガス特性に関しては発明例に比べて非常に悪い。また、SUS430は、快削鋼でなく被削性が発明例に比べ非常に劣っている。
【0036】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、硫化物系介在物の組成制御により、優れた耐食性、アウトガス特性、被削性を兼ね備えた高耐食性快削ステンレス鋼において典型的である粗大酸化物残存の問題を、微量のAl、Caの添加により酸化物組成制御することで解決した、実用上非常に高い効果を奏するものである。

Claims (5)

  1. 重量%で、
    C:0.50%以下、
    Si:0.05〜2.00%、
    Mn:0.05〜0.41%、
    S:0.05〜0.50%、
    Cr:10.00〜30.00%、
    Al:0.0001〜0.003%未満、
    O:0.005〜0.04%
    からなり、長径が10μm以上の硫化物系介在物の組成について、介在物中のCr/Mnの重量比が1.2〜3であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
  2. 重量%で、
    C:0.50%以下、
    Si:0.05〜2.00%、
    Mn:0.05〜0.41%、
    S:0.05〜0.50%、
    Cr:10.00〜30.00%、
    Al:0.0001〜0.003%未満、
    Ca:0.0005〜0.01%、
    O:0.005〜0.04%
    からなり、長径が10μm以上の硫化物系介在物の組成について、介在物中のCr/Mnの重量比が1.2〜3であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
  3. 請求項1または請求項2の成分に加え、さらに重量%で、
    Ni:20.00%以下、
    Mo:3.00%以下、
    Cu:4.00%以下、
    Ti:1.00%以下、
    Nb:1.00%以下、
    V:1.00%以下、
    Zr:1.00%以下、
    N:0.50%以下、
    B:0.02%以下、
    Se:0.30%以下、
    Te:0.30%以下、
    Pb:0.30%以下、
    Bi:0.30%以下
    の中から1種または2種以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
  4. 熱間加工をした鋼材において、熱間加工による鋼材の延伸方向の長さが10μm以上の酸化物系介在物に関して、重量%でSiO2 量が30%以上70%以下で、Al2 3 を5%以上含み、かつSiO2 量より少ない量で他の酸化物を含有した複合型酸化物になっているものが、個数割合で80%以上であることを特徴とする請求項1〜3に記載の表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
  5. 熱間加工をした鋼材において、熱間加工による鋼材の延伸方向と垂直な断面の長径が100μm以下の酸化物系介在物からなることを特徴とする請求項1〜3に記載の表面仕上性に優れた高耐食快削ステンレス鋼。
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