JP4765679B2 - フェライト系快削ステンレス鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、フェライト系快削ステンレス鋼に関するものである。
従来、フェライト系ステンレス鋼の被削性を向上させる元素として、S、Se、Pbなどが知られている。
例えば、S、Seは、一般に、(Mn、Cr)S、(Mn、Cr)Seなどの介在物を生成させる。そのため、切り屑形成時に、この介在物に応力が集中することにより、被削性が向上する。一方、Pbは、鋼中に単体で存在し、工具と切り屑間の潤滑剤としての役割を果たす。そのため、被削性が向上する。
近年、寸法精度確保のため精密な仕上加工が要求される部品や加工代の大きい複雑形状の部品などが増加している。これら部品の製造時には、できる限り被削性を向上させることが要求される。そのため、上記被削性を向上させる元素の含有量は、増加する傾向にある。さらに、これら元素を、単独ではなく、複合添加することも行われている。
例えば、特許文献1には、C:0.10wt%以下、Si:0.05〜2.00wt%、Mn:2.00wt%以下、P:0.20wt%以下、Ni:2.00wt%以下、Cr:20.0〜30.0wt%、Mo:1.0wt%以下、S:0.05〜0.45wt%、Se:0.05wt%以上、O:0.020wt%以下、Pb:0.03〜0.30wt%を含有し、残部Feからなり、その中に存在する硫化物系介在物で長径が5μm以上の比較的大型のものはその少なくとも80%が長短径比が8以下で、かつMn/(S+Se)比>3.5、1.5<S/Se<5.0であるフェライト系快削ステンレス鋼が開示されている。
特開平9−170052号公報
しかしながら、被削性を向上させる元素としてSを用いる場合、Sの添加が過剰であったり、生成する硫化物の形態が制御されていないと、当該ステンレス鋼の耐食性、熱間加工性または冷間加工性が低下する原因になる。
一方、Mn含有量を制限し、硫化物中のCr含有量を高めることにより、耐食性を改善することができる。ところが、これだけでは、熱間加工性が著しく低下する傾向がある。また、硫化物の形態ないし大きさまでは制御することができないので、異方性により靱性が低下することがある。
このように、被削性、耐食性、熱間加工性、冷間加工性および靱性の全てが良好なフェライト系快削ステンレス鋼は、これまで得られていないのが現状であった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、被削性、耐食性、熱間加工性、冷間加工性および靱性が良好なフェライト系快削ステンレス鋼を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明に係るフェライト系快削ステンレス鋼は、
C :0.005wt%以上0.05wt%以下、
Si:0.10wt%以上0.50wt%以下、
Mn:0.05wt%以上0.50wt%以下、
P :0.005wt%以上0.10wt%以下、
S :0.20wt%以上0.35wt%以下、
Cu:0.01wt%以上2.0wt%以下、
Ni:0.01wt%以上2.0wt%以下、
Cr:17.0wt%以上25.0wt%以下、
Mo:0.01wt%以上1.0wt%以下、
Pb:0.03wt%以上0.30wt%以下、
Te:0.01wt%以上0.10wt%以下、
B :0.003wt%以上0.010wt%以下、
O :0.005wt%以上0.030wt%以下、および、
N :0.030wt%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるとともに、0.30≦[Mn]/[S]≦1.50、
50≦[Cr]/[Mn]≦125、
0.04≦[Te]/[S]、
10≦[S]/[O]≦50の各式を満たし、
さらに、構成金属元素としてCrを20wt%以上含み、かつ、円相当径が2.0μm以上、針状比が10以下である硫化物が、面積率で0.50%以上存在することを要旨とする。
上記フェライト系快削ステンレス鋼は、
Se:0.01wt%以上0.30wt%以下、および、
Bi:0.01wt%以上0.30wt%以下から選択される1種または2種以上の元素をさらに含有していても良い。
また、上記フェライト系快削ステンレス鋼は、
Ca:0.0001wt%以上0.05wt%以下、
Mg:0.0001wt%以上0.02wt%以下、および、
REM:0.0001wt%以上0.02wt%以下から選択される1種または2種以上の元素をさらに含有していても良い。
また、上記フェライト系快削ステンレス鋼は、
Nb:0.01wt%以上0.50wt%以下、
W :0.01wt%以上2.0wt%以下、および、
Ta:0.01wt%以上0.50wt%以下から選択される1種または2種以上の元素をさらに含有していても良い。
本発明に係るフェライト系快削ステンレス鋼は、上記成分組成を満たすとともに、S、Mn、Cr、Te、Oが上記各式を満たし、さらに、特定の硫化物が特定の面積率で存在している。そのため、被削性、耐食性、熱間加工性、冷間加工性および靱性が、従来に比較して良好である。
この際、SeおよびBiから選択される1種または2種以上の元素を、特定割合含有している場合には、被削性をより向上させやすい。
また、さらに、Ca、MgおよびREMから選択される1種または2種以上の元素を特定割合含有している場合には、熱間加工性をより向上させやすい。
また、さらに、Nb、WおよびTaから選択される1種または2種以上の元素を特定割合含有している場合には、靱性をより向上させやすい。
本発明に係るフェライト系快削ステンレス鋼は、被削性、耐食性などに優れることから、とりわけ、精密な仕上加工、メンテナンスフリーなどが要求される部材に好適に用いることができる。
以下に、本発明の実施形態に係るフェライト系快削ステンレス鋼(以下、「本ステンレス鋼」ということがある。)ついて詳細に説明する。本ステンレス鋼は、以下のような元素を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる。含まれる元素の種類、その含有量を特定した理由は、以下の通りである。
(1)C:0.005wt%以上0.05wt%以下
Cは、0.05wt%を超えると、被削性の向上に有効でない単体の炭化物を多量に生成させる。そのため、C含有量の上限を0.05wt%以下、好ましくは0.035wt%以下、より好ましくは0.025wt%以下とする。
一方、Cを必要以上に低減することは、製造コストの上昇を招く。そのため、精錬技術などを考慮し、C含有量の下限を0.005wt%以上、好ましくは0.010wt%以上とする。
(2)Si:0.10wt%以上0.50wt%以下
Siは、鋼の脱酸剤として作用する。その効果を得るため、Si含有量の下限を0.10wt%以上、好ましくは0.20wt%以上とする。
しかし、Si含有量が過剰になると、固溶化熱処理後の硬さが大きくなって冷間加工性が低下したり、δ−フェライトの生成量が増加し、熱間加工性が低下したりする傾向が見られる。そのため、Si含有量の上限を0.50wt%以下、好ましくは0.40wt%以下とする。
(3)Mn:0.05wt%以上0.50wt%以下
Mnは、鋼の脱酸剤として作用する。加えて、Mnは、SやSeなどとの共存により、被削性の向上に有効な化合物を生成する。その効果を得るため、Mn含有量の下限を0.05wt%以上、好ましくは0.15wt%以上とする。
一方、被削性を向上させる化合物のうち、とりわけ、MnSは、耐食性を大きく低下させ、冷間加工性を阻害する。そのため、この点を考慮し、Mn含有量の上限を0.50wt%以下とする。特に耐食性を重視する場合には、Mn含有量の上限を0.40wt%以下、より好ましくは0.35wt%以下とする。
(4)P:0.005wt%以上0.10wt%以下
Pは、粒界に偏析し、粒界腐食に対する感受性を高めるほか、靭性の低下を招く。そのため、P含有量の上限を0.10wt%以下、好ましくは0.07wt%以下とする。
一方、Pを必要以上に低減することは、製造コストの上昇を招く。そのため、精錬技術などを考慮し、P含有量の下限を0.005wt%以上、好ましくは0.015wt%以上とする。
(5)S:0.20wt%以上0.35wt%以下
Sは、Mn、Crなどと結合して、被削性の向上に有効な化合物を生成する。当該化合物の生成に十分な量を確保するため、S含有量の下限を0.20wt%以上、好ましくは0.23wt%以上とする。
一方、S含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する傾向が見られる。そのため、S含有量の上限を0.35wt%以下、好ましくは0.30wt%以下とする。
(6)Cu:0.01wt%以上2.0wt%以下
Cuは、耐食性、特に還元性酸環境中での耐食性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るため、Cu含有量の下限を0.01wt%以上、好ましくは0.05wt%以上とする。
一方、Cu含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する傾向が見られる。そのため、Cu含有量の上限を2.0wt%以下、好ましくは1.0wt%以下とする。
(7)Ni:0.01wt%以上2.0wt%以下
Niは、Crにより付与される耐食性を補填するのに有効な元素である。その効果を得るため、Ni含有量の下限を0.01wt%以上、好ましくは0.10wt%以上とする。
一方、Ni含有量が過剰になると、製造コストが上昇する。そのため、Ni含有量の上限を2.0wt%以下、好ましくは1.0wt%以下とする。
(8)Cr:17.0wt%以上25.0wt%以下
Crは、25.0wt%を超えると、製造コストがかかるだけでなく熱間加工性が低下する。そのため、Cr含有量の上限を25.0wt%以下、好ましくは21.0wt%以下とする。
一方、Crは、17.0wt%を下回ると、十分な耐食性が得られない。そのため、Cr含有量の下限を17.0wt%以上、好ましくは18.0wt%以上とする。
(9)Mo:0.01wt%以上1.0wt%以下
Moは、耐食性や強度を向上させる元素である。その効果を得るため、Mo含有量の下限を0.01wt%以上とする。
一方、Mo含有量が過剰になると、熱間加工性が低下するほか、製造コストが上昇する。そのため、Mo含有量の上限を1.0wt%以下、好ましくは0.6wt%以下とする。
(10)Pb:0.03wt%以上0.30wt%以下
Pbは、被削性を向上させるのに有効な元素である。被削性を向上させるのに必要十分な量を確保するため、Pb含有量の下限を0.03wt%以上、好ましくは0.10wt%以上とする。
一方、Pb含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する傾向が見られる。そのため、Pb含有量の上限を0.30wt%以下、好ましくは0.25wt%以下とする。
(11)Te:0.01wt%以上0.10wt%以下
Teは、被削性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るため、Te含有量の下限を0.01wt%以上、好ましくは0.02wt%以上とする。
一方、Te含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する傾向が見られる。そのため、Te含有量の上限を0.10wt%以下、好ましくは0.05wt%以下とする。
(12)B:0.003wt%以上0.010wt%以下
Bは、熱間加工性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るため、B含有量の下限を0.003wt%以上、好ましくは0.004wt%以上とする。
一方、B含有量が過剰になると、製造コストが上昇する。そのため、B含有量の上限を0.010wt%以下、好ましくは0.008wt%以下とする。
(13)O:0.005wt%以上0.030wt%以下
Oは、被削性を向上させる硫化物の形成に関わる元素である。そのため、その効果が十分得られるように、O含有量の下限は0.005wt%以上、好ましくは0.008wt%以上とする。
一方、O含有量が過剰になると、被削性の向上に有効でない酸化物が生成しやすくなる。そのため、O含有量の上限を0.030wt%以下、好ましくは0.020wt%以下とする。
(14)N:0.030wt%以下
Nは、被削性の向上に有効でない窒化物を生成させるため、その含有量は、極力低く抑制するのが良い。そのため、N含有量を0.030wt%以下、好ましくは0.020wt%以下とする。
本ステンレス鋼は、上述した必須元素に加えて、さらに、以下の元素から選択される1種または2種以上の元素を任意に含んでいても良い。これら元素の含有量を特定した理由は、以下の通りである。
<1>Se:0.01wt%以上0.30wt%以下、および、Bi:0.01wt%以上0.30wt%以下から選択される1種または2種以上の元素
Se、Biは、被削性をさらに向上させることが可能な元素である。そのため、必要に応じて添加しても良い。その効果を得るため、Se含有量およびBi含有量を、ともに0.01wt%以上、好ましくは0.03wt%以上とする。
一方、Se含有量、Bi含有量が過剰になると、熱間加工性が低下しやすくなる。そのため、Se含有量およびBi含有量を、ともに0.30wt%以下、好ましくは0.20wt%以下とする。
<2>Ca:0.0001wt%以上0.05wt%以下、Mg:0.0001wt%以上0.02wt%以下、および、REM:0.0001wt%以上0.02wt%以下から選択される1種または2種以上の元素
Ca、Mg、REMは、熱間加工性を向上させるのに有効な元素である。そのため、必要に応じて添加しても良い。その効果を得るため、Ca含有量、Mg含有量およびREM含有量を、何れも0.0001wt%以上、好ましくは0.0010wt%以上とする。
一方、Ca含有量、Mg含有量およびREM含有量が過剰になると、その効果も飽和するし、逆に熱間加工性を低下させる傾向が見られる。そのため、Ca含有量を0.05wt%以下、好ましくは0.01wt%以下とする。Mg含有量を0.02wt%以下、好ましくは0.01wt%以下とする。REM含有量を0.02wt%以下、好ましくは0.01wt%以下とする。
<3>Nb:0.01wt%以上0.50wt%以下、W:0.01wt%以上2.0wt%以下、および、Ta:0.01wt%以上0.50wt%以下から選択される1種または2種以上の元素
Nb、W、Taは、炭窒化物を形成して鋼の結晶粒を微細化し、靭性を高める効果がある。そのため、その効果を得るため、Nb含有量、W含有量およびTa含有量を、何れも0.01wt%以上、好ましくは0.05wt%以上とする。
一方、Nb含有量、W含有量およびTa含有量が過剰になると、コスト上昇を招く。そのため、Nb含有量を0.50wt%以下、好ましくは0.10wt%以下とする。W含有量を2.0wt%以下、好ましくは1.0wt%以下とする。Ta含有量を0.50wt%以下、好ましくは0.10wt%以下とする。
ここで、本ステンレス鋼は、0.30≦[Mn]/[S]≦1.50、50≦[Cr]/[Mn]≦125、0.04≦[Te]/[S]、10≦[S]/[O]≦50の各式を満たす。なお、各式中[ ]は、各元素のwt%を示す。以下、各式の技術的意味について説明する。
・0.30≦[Mn]/[S]≦1.50
[Mn]/[S]が0.30未満になると、Mn含有量が極めて低くなる、もしくは、S含有量が高くなり、製造が困難になる傾向が見られる。したがって、[Mn]/[S]の下限を0.30以上とする。
一方、[Mn]/[S]が1.50を越えると、硫化物中のMn含有量が高くなり、硫化物中のCr含有量を確保し難くなる傾向が見られる。したがって、[Mn]/[S]の上限を1.50以下とする。
・50≦[Cr]/[Mn]≦125
[Cr]/[Mn]が50未満になると、硫化物中のCr含有量を確保し難くなる傾向が見られる。したがって、[Cr]/[Mn]の下限を50以上とする。
一方、[Cr]/[Mn]が125を越えると、δ−フェライト形成量が増し、鋼の熱間加工性を劣化させる傾向が見られる。したがって、[Cr]/[Mn]の上限を125以下とする。
・0.04≦[Te]/[S]
[Te]/[S]が0.04未満になると、硫化物が展伸し、被削性に有効な形状である紡錘形状になり難くなる傾向が見られる。したがって、[Te]/[S]の下限を0.04以上とする。
・10≦[S]/[O]≦50
[S]/[O]が10未満の場合、割合として[S]が低いと、十分な被削性が得られ難く、また、割合として[O]が高いと、硬質な酸化物が多くなり、被削性が低下する傾向が見られる。したがって、[S]/[O]の下限を10以上とする。
一方、[S]/[O]が50を越える場合、割合として[S]が高いと、製造性が悪くなる傾向が見られ、割合として[O]が低いと、被削性に有効な大きさの硫化物が得られ難くなる傾向が見られる。したがって、[S]/[O]の上限を50以下とする。
さらに、本ステンレス鋼中には、構成金属元素としてCrを20wt%以上含み、かつ、円相当径が2.0μm以上、針状比が10以下である硫化物が、面積率で0.50%以上存在する。
上記硫化物に占めるCr含有量の下限が20wt%未満になると、十分な耐食性が得られなくなる傾向が見られる。
上記面積率は、鏡面研磨した本ステンレス鋼の表面について、代表的なミクロ写真を200倍で50視野撮影し、その後、硫化物(介在物)の色抽出を行い、画像処理により、各硫化物の円相当径、針状比を測定し、その中から、円相当径2μm以上、針状比が10以下である硫化物の総面積率を求めれば良い。
次に、本ステンレス鋼の代表的な製造方法について説明する。
上述した成分組成、各式を満たすステンレス鋼となるように、例えば、高周波誘導炉などを用いて、各原料を溶解し、鋼塊を溶製した後、冷却してインゴットを製造する。次いで、得られたインゴットを熱間鍛造または熱間圧延し、焼きなましなどの熱処理を行う。これにより本ステンレス鋼を製造することができる。
上記製造工程において、熱間鍛造または熱間圧延時の加熱温度としては、具体的には、例えば、1100〜1250℃の温度範囲を例示することができる。
また、上記製造工程における熱処理の一例を示すと次のとおりである。焼きなましは、例えば850〜900℃で3〜5時間加熱後、10〜20℃/時間の速度で600℃付近まで炉冷し、その後空冷することなどにより行うことができる。
また、上記製造工程では、必要に応じて、表層酸化層除去のための酸洗あるいは研磨を実施し、冷間圧延を行っても良い。
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
1.実施例および比較例に係るステンレス鋼の作製
初めに、表1、2に示す成分組成、成分比を満たすステンレス鋼となるように、高周波誘導炉を用いて50kgの鋼塊を溶製した後、これを冷却してインゴットを作製した。次いで、各インゴットを1000〜1200℃に加熱し、熱間鍛造により直径60mmと直径20mmの丸棒に加工した。次いで、それら丸棒をさらに800℃で1時間加熱した後、空冷した(焼きなまし処理)。これにより、実施例および比較例に係るステンレス鋼を得た。
2.硫化物特性
次に、実施例および比較例に係るステンレス鋼中に存在する硫化物につき、その円相当径、針状比および面積率を測定した。
すなわち、鏡面研磨した各ステンレス鋼の表面について、代表的なミクロ写真を、光学顕微鏡を用いて200倍で50視野撮影した。
その後、硫化物(介在物)の色抽出を行い、画像処理により、各硫化物の円相当径、針状比を測定し、その中から、円相当径2μm以上、針状比が10以下である硫化物の総面積率を求めた。その結果を、表2に示す。
Figure 0004765679
Figure 0004765679
3.評価試験
次に、得られた各丸棒を用いて、被削性、耐食性、熱間加工性、冷間加工性および靱性について相対評価を行った。
1)被削性
被削性評価は、切削加工後の工具磨耗量、切削形状を相対評価することにより行った。すなわち、超硬バイトを用い、周速200mm/min、一回転あたりの切込み量1.0mm、一回転あたりの送り量0.2mm/revの条件にて、乾式で切削加工を実施した。
ここで、工具磨耗量とは、工具横逃げ面の平均磨耗量である。後述の表3では、この工具摩耗量が50μm以下であった場合を「小」、51〜100μmであった場合を「中」、101μm以上であった場合を「大」と表記している。
一方、目視観察により切屑形状を確認した。後述の表3では、切り屑の破砕性が良好であったものを「良」、数巻き程度に破砕したものを「中」、破砕性が悪く、切屑がつながっていたものを「劣」と表記している。
2)耐食性
耐食性評価は、JIS Z 2371に準拠して行った。すなわち、各ステンレス鋼につき、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の試験片を準備した。次いで、試験片の表面をエメリー紙により番手#400まで研磨加工し、脱脂洗浄した。次いで、これら各試験片を温度35℃、5%NaClの塩水噴霧雰囲気中に96時間保存した。次いで、保存後の各試験片につき、目視にて発錆の有無を確認した。後述の表3では、発錆が生じていなかった場合を「○」とし、発錆が生じていたものを「×」と表記している。
3)熱間加工性
熱間加工性評価は、各ステンレス鋼の鍛造時に、疵がどの程度発生するかを確認することに行った。後述の表3では、疵が発生しなかったものを「○」とし、グラインダーで削れる程度のわずかな疵が発生したもの「△」、大きな疵が発生したものを「×」と表記している。
4)冷間加工性
冷間加工性評価は、次のようにして行った。すなわち、各ステンレス鋼につき、直径12mm、高さ18mmの円柱形状の試験片を準備した。次いで、各試験片につき、600tプレスにより一気圧縮試験を行い、限界圧縮率を測定した。
5)靭性(異方性)
靭性評価は、JIS Z2202に準拠し、室温にて行った。すなわち、L、T方向のシャルピー衝撃試験により衝撃値を測定した。
各評価結果をまとめたものを表3に示す。
Figure 0004765679
表3によれば、次のことが分かる。すなわち、比較例1に係るステンレス鋼は、Sなどの被削性を向上させる元素が不足しているため、十分な被削性が得られていない。
比較例2に係るステンレス鋼は、Mnが低く、さらにTe、Bが添加されていない。そのため、熱間加工性、冷間加工性が低い。また、異方性が生じており、靭性も低い。
比較例3に係るステンレス鋼は、主たる介在物としてMnSを利用しているため、耐食性が悪い。また、冷間加工性も低い。また、異方性が生じており、靭性も低い。
比較鋼4〜6に係るステンレス鋼は、Bが添加されていないため、熱間加工性が低い。
これらに対し、実施例に係るステンレス鋼は、本発明で規定される成分組成を満たすとともに、S、Mn、Cr、Te、Oが上記各式を満たし、さらに、特定の硫化物が特定の面積率で存在している。そのため、被削性、耐食性、熱間加工性、冷間加工性および靱性が良好であった。
以上、本発明に係るフェライト系快削ステンレス鋼について説明したが、本発明は、上記実施形態、実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能なものである。

Claims (4)

  1. C :0.005wt%以上0.05wt%以下、
    Si:0.10wt%以上0.50wt%以下、
    Mn:0.05wt%以上0.50wt%以下、
    P :0.005wt%以上0.10wt%以下、
    S :0.20wt%以上0.35wt%以下、
    Cu:0.01wt%以上2.0wt%以下、
    Ni:0.01wt%以上2.0wt%以下、
    Cr:17.0wt%以上25.0wt%以下、
    Mo:0.01wt%以上1.0wt%以下、
    Pb:0.03wt%以上0.30wt%以下、
    Te:0.01wt%以上0.10wt%以下、
    B :0.003wt%以上0.010wt%以下、
    O :0.005wt%以上0.030wt%以下、および、
    N :0.030wt%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるとともに、
    0.30≦[Mn]/[S]≦1.50、
    50≦[Cr]/[Mn]≦125、
    0.04≦[Te]/[S]、
    10≦[S]/[O]≦50の各式を満たし、
    さらに、構成金属元素としてCrを20wt%以上含み、かつ、円相当径が2.0μm以上、針状比が10以下である硫化物が、面積率で0.50%以上存在することを特徴とするフェライト系快削ステンレス鋼。
  2. Se:0.01wt%以上0.30wt%以下、および、
    Bi:0.01wt%以上0.30wt%以下、
    から選択される1種または2種以上の元素をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系快削ステンレス鋼。
  3. Ca:0.0001wt%以上0.05wt%以下、
    Mg:0.0001wt%以上0.02wt%以下、および、
    REM:0.0001wt%以上0.02wt%以下、
    から選択される1種または2種以上の元素をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系快削ステンレス鋼。
  4. Nb:0.01wt%以上0.50wt%以下、
    W :0.01wt%以上2.0wt%以下、および、
    Ta:0.01wt%以上0.50wt%以下、
    から選択される1種または2種以上の元素をさらに含有することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のフェライト系快削ステンレス鋼。
JP2006060497A 2006-03-07 2006-03-07 フェライト系快削ステンレス鋼 Active JP4765679B2 (ja)

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