JP4864196B2 - アルコキシル基含有エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物及びその成形物 - Google Patents
アルコキシル基含有エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物及びその成形物 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形物の表面平滑性、溶融押出安定性、耐ドローダウン性、層間接着性及びガスバリアー性に優れたアルコキシル基含有エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物に関する。
【0002】
【従来の技術】
エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(以下、「EVOH」という。)は、ガスバリアー性及び溶融成形性を有することから、溶融成形法により、フィルム、シート、パイプ、チューブ、ボトル等に成形され、ガスバリアー性の要求される食品包装材として多用されている。
しかしながら、従来のEVOHを用いて成形物を製造すると、成形物表面に押出成形方向に対応して「縦筋」が発生し外観を悪化させる場合がしばしばあり、これを解消することが重要な技術的課題となっていた。かかる「縦筋」に基づく外観悪化は、特開昭61−197603号公報や特開平9−71620号公報に記載されているような「肌荒れ」、「フィッシュアイ」、「ゲル・ブツ」等の成形物に不連続的に発生する外観悪化とは異なる現象であり、押出方向に対応して、ほぼ連続的に発生するもので、著しく商品価値を損なうため、長年に亘り当業者間で懸案となっており、その解決が強く望まれていた。
【0003】
前記「縦筋」に基づく外観悪化は、EVOH単層で押出成形する場合にも発生するが、他の熱可塑性樹脂と多層共押出成形する場合に発生し易い。また、かかる外観悪化は、押出成形の開始当初から発生する場合もあるし、成形開始当初には発生せず経時的に発生する場合もある。
【0004】
また、EVOHにはその他にも、
・押出成形する場合、押出機の負荷が変動し、成形物の厚さが変動する
・フィルム若しくはシートを押出成形する場合又はパイプ若しくはボトルのパリソンを押出成形する場合、ダイからドローダウンし易い
・他の熱可塑性樹脂と共押出成形した場合、充分な層間接着力が得られない
等の技術的な問題があり、その解決が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、成形物の表面平滑性、溶融押出安定性、耐ドローダウン性、層間接着性及びガスバリアー性に優れたEVOHを得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、上記目的は分子量1000以下の共役二重結合を有する化合物を0.1〜3000ppm含有する、アルコキシル基含有率0.0005〜1モル%、エチレン含有率5〜60モル%、けん化度85モル%以上のEVOHにより達成される。
【0007】
好適な実施態様では、本発明のEVOHは高級脂肪酸又はその誘導体を高級脂肪酸換算量で10〜5000ppm含有する。また、好適な実施態様では、本発明のEVOHはホウ素化合物をホウ素換算量で10〜5000ppm含有する。さらに、本発明は、上記のEVOHからなる単層押出成形物及び該EVOHの層を含む多層共押出成形物を包含する。
【0008】
本発明のEVOHは、アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」という。)に、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化することにより、好適に製造することができる。
【0009】
本発明のEVOHは、アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したEVAに、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化し、次いで高級脂肪酸又はその誘導体及び/又はホウ素化合物を含有させることにより、好適に製造することができる。
【0010】
また、本発明のEVOHからなる単層押出成形物又は該EVOHの層を含む多層共押出成形物は、アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したEVAに、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化して得られるEVOHを単層押出成形又は多層共押出成形することにより、好適に製造することができる。
【0011】
さらに、本発明のEVOHからなる単層押出成形物又は該EVOHの層を含む多層共押出成形物は、アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したEVAに、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化し、次いで高級脂肪酸又はその誘導体及び/又はホウ素化合物を含有させて得られるEVOHを単層押出成形又は多層共押出成形することにより、好適に製造することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のアルコキシル基を含有するEVOHは、分子内に下記式(1)で示されるアルコキシル基を有するEVOHである。
【0013】
【化1】
【0014】
(上記式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
本発明において、アルコキシル基の炭素数は、本発明の所期の効果を達成するという観点から、1〜5であることが必要であり、好ましくは1〜3、最も好ましくは1とするのがよい。
【0015】
本発明において、EVOHのエチレン含有率は5モル%以上であり、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上で、且つ60モル%以下、好ましくは57モル%以下、より好ましくは55モル%以下である。EVOHのエチレン含有率が5モル%を下回るときは、成形物が表面平滑性及び溶融押出安定性の点で劣り、また高湿時のガスバリアー性にも劣る。またエチレン含有率が前記値を上回るときは、耐ドローダウン性、層間接着性及びガスバリアー性に劣る。
【0016】
本発明において、EVOHの酢酸ビニル成分のけん化度は85モル%以上であり、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、最も好ましくは99モル%以上である。EVOHのけん化度が85モル%を下回ると、成形物が表面平滑性、溶融押出安定性、耐ドローダウン性に劣り、また低湿時及び高湿時のガスバリアー性も悪化する。
【0017】
なお、本発明でいうエチレン含有率及びけん化度は、本発明で用いられるEVOHが、エチレン含有率又はけん化度の異なる2種類以上のEVOHの組成物からなるときは、平均エチレン含有率及び平均けん化度をいう。
【0018】
本発明のEVOHには、本発明の目的が阻害されない範囲内で他の単量体を共重合することもできる。共重合に用いられる単量体の例としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテンなどのオレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸、その塩、その部分又は完全エステル化物、そのアミド、その無水物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸又はその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類などを挙げることができる。
【0019】
本発明のアルコキシル基を含有するEVOHを得る方法としては、特公昭44−21341号公報、特開昭63−46202号公報、特開昭62−128754号公報等に記載されている、エチレン及び酢酸ビニルと共重合可能なビニル基を有するアルコキシル基含有モノマー、例えばアルキルビニルエーテル、アルキルアリルエーテル、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等を共重合した後、けん化する方法等を例示することができる。
【0020】
さらに、発明者等は、本発明のアルコキシル基を含有するEVOHを得る方法について鋭意検討した結果、エチレンと酢酸ビニルを共重合するときの重合開始剤として、アルコキシル基を含有する重合開始剤を用いたときには、EVOHポリマー中にアルコキシル基を導入することができることを見出した。
【0021】
本発明のアルコキシル基を含有するEVOHを得る方法の中で、重合開姶剤としてアルコキシル基を含有する重合開始剤を用い、重合時にポリマー中にアルコキシル基を導入する方法が、奏される効果の点、少量のアルコキシル基含有率の調整が容易である点、重合開始の操作とアルコキシル基導入の操作を一つの操作で行なうことができ、操作が合理的でコスト的にも有利である点で好ましい。このような重合開始剤の例としては、特開昭58−198509号公報、特開昭58−206606号公報、特開昭58−222102号公報等に記載されているものを挙げることができる。
【0022】
アルコキシル基を有する重合開始剤の中でも好ましく用いることができるものは、下記式(2)で示されるアルコキシル基を有するアゾ系化合物である。
【0023】
【化2】
【0024】
(上記式(2)において、X、X′、Y及びY′は炭素数が1〜5のアルキル基を表し、Z及びZ′は炭素数が1〜5のアルコキシル基を表す。)
上記式におけるXとX′、及びYとY′のアルキル基は同一であっても異なっていてもよいが、同一のアルキル基の方が奏される効果の点、及び重合開始剤を製造する場合の製造効率の点で好ましい。また、Z及びZ′のアルコキシル基は同一であっても異なっていてもよいが、同一のアルコキシル基の方が奏される効果の点、及び重合開始剤を製造する場合の製造効率の点で好ましい。本発明で用いられる好ましいアゾ系化合物の例としては、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(4−エトキシ−2,4−ジエチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(4,4′−ジエトキシ−2−メチルバレロニトリル)等を挙げることができ、この中で、奏される効果の点で最も好ましいのは2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)である。
【0025】
本発明のEVOHのアルコキシル基の含有率は、0.0005モル%以上である必要があり、好ましくは0.0007モル%以上、より好ましくは0.001モル%以上である。アルコキシル基の含有率が0.0005モル%を下回るときは、本発明の充分な効果が得られない。また、アルコキシル基の含有率は1モル%以下である必要があり、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.3モル%以下である。アルコキシル基の含有率が1モル%を上回るときは、耐ドローダウン性、層間接着性及びガスバリアー性が悪化する傾向にある。
【0026】
EVOHのアルコキシル基の含有率の調節は、重合開始剤を用いてアルコキシル基を導入する場合、重合開始剤の使用量、重合温度、重合溶媒の種類及び使用量等を適宜調節することにより、容易になし得る。またアルコキシル基を含有するモノマーを用いて共重合により導入する場合には、共重合モノマー比を適宜調整することにより容易に調節することができる。
【0027】
本発明において、EVOHのメルトフローレート(MFR)は、好ましくは、0.1〜100g/10minであり、より好ましくは0.2〜20g/10minであり、一層好ましくは0.3〜10g/10minであり、最も好ましくは0.4〜6g/10minである。なお、ここでMFRとは、JIS K7210に基づき190℃、2160g荷重下で測定した値をいう。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、メルトインデックスを縦軸(対数)としてプロットし、190℃に外挿した値をいう。
【0028】
本発明で用いられる分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物は、特開昭61−197603号公報、特開昭61−197604号公報、特開平9−71620号公報等に記載されており、少なくとも2個の炭素−炭素二重結合が1個の炭素−炭素単結合を介して繋がっている構造を有する。このような共役二重結合を有する化合物は、2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ジエン化合物、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役トリエン化合物、及びそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ポリエン化合物を包含し、さらに2,4,6−オクタトリエンのような共役トリエン化合物をも包含する。また、本発明で用いられる共役二重結合を有する化合物には、共役二重結合が1分子中に独立して複数組あってもよく、例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物もに含まれる。
【0029】
さらに、本発明で用いられる共役二重結合を有する化合物は、他の官能基、例えばカルボキシル基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等の各種の官能基を有していてもよい。かかる官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合されていてもよいし、共役二重結合から離れた位置に結合されていてもよい。官能基中の多重結合は前記共役二重結合と共役可能な位置にあってもよく、例えば、フェニル基を有する1−フェニルブタジエンやカルボキシル基を有するソルビン酸なども本発明でいう共役二重結合を有する化合物に含まれる。具体例としては、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸、ミルセン等を挙げることができる。
【0030】
なお、本発明で用いられる共役二重結合を有する化合物の共役二重結合は、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸のような脂肪族同志の共役二重結合のみならず、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテンのような脂肪族と芳香族との共役二重結合を含む。但し、本発明の効果を達成する上で、前記脂肪族同志の共役二重結合を含む化合物を選択することが好ましく、またカルボキシル基及びその塩、水酸基等の極性基を有する共役二重結合を含む化合物を選択することも好ましい。さらに極性基を有し、且つ脂肪族同志の共役二重結合を含む化合物を選択することが最も好ましい。
【0031】
本発明において、共役二重結合を有する化合物の分子量は1000以下にする必要がある。分子量が1000を超えると表面平滑性、押出安定性等を悪化させる。また、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物の含有量は、奏される効果の点から0.1ppm以上にすることが必要であり、好ましくは1ppm以上、一層好ましくは3ppm以上、最も好ましくは5ppm以上である。また、かかる化合物の含有量は、奏される効果の点から3000ppm以下にすることが必要であり、好ましくは2000ppm以下、一層好ましくは1500ppm以下、最も好ましくは1000ppm以下である。
【0032】
本発明において、共役二重結合を有する化合物の添加方法としては、EVAを重合した後で、且つ該EVAをけん化する前に添加するのが、表面平滑性と押出安定性を改善する点で好ましい。この理由については必ずしも明らかではないが、共役二重結合を有する化合物が、EVAのけん化工程前及び/又はけん化工程中の変質を防止する作用を有することに基づくものと考えられる。
【0033】
本発明において、EVOHに高級脂肪酸又はその誘導体を含有させることが本発明の効果をさらに高める観点から好ましい。この目的に使用しうる高級脂肪酸は、炭素数が8以上であり、より好ましくは10以上、最も好ましくは12以上で、且つ炭素数が30以下であり、より好ましくは25以下、最も好ましくは20以下の脂肪酸である。
【0034】
かかる高級脂肪酸の誘導体は、アミド、エステル若しくは塩である。高級脂肪酸の誘導体の具体例としては、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、エチレン−ビス−ステアリン酸アミド、エチレン−ビス−オレイン酸アミド、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、リノレン酸マグネシウム等を挙げることができる。これらの高級脂肪酸又はその誘導体の中で、その使用が好ましいのは高級脂肪酸アミド又は高級脂肪酸塩であり、より好ましくは高級脂肪酸アミド又は高級脂肪酸アルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩であり、最も好ましくは高級脂肪酸アミドである。また、前記高級脂肪酸又はその誘導体の中から選択される2種類以上の化合物を併用してもよい。
【0035】
かかる高級脂肪酸又はその誘導体の含有量は、奏される効果の点から、高級脂肪酸換算量で合計量が10ppm以上であるのがよく、好ましくは50ppm以上、更に好ましくは100ppm以上であり、また、5000ppm以下であるのがよく、好ましくは2000ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下である。
【0036】
かかる高級脂肪酸又はその誘導体の添加方法としては、EVAのけん化後に添加することが、奏される効果の観点から好ましい。高級脂肪酸又はその誘導体をけん化前のEVAに添加したのでは、本発明の効果が充分発揮されない。
【0037】
本発明において、本発明の効果を更に高める上で、EVOHにホウ素化合物を含有させることが好ましい。本発明で用いられるホウ素化合物としては、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらのホウ素化合物の中でもオルトホウ酸が好ましい。また、前記ホウ素化合物の中から選択される2種類以上の化合物を併用してもよい。
【0038】
ホウ素化合物の含有量は、ホウ素換算量で好ましくは10ppm以上であり、更に好ましくは30ppm以上、一層好ましくは50ppm以上、最も好ましくは100ppm以上であり、また好ましくは5000ppm以下であり、更に好ましくは3000ppm以下、一層好ましくは2000ppm以下、最も好ましくは1500ppm以下である。ホウ素化合物の含有量がホウ素換算量で10ppmを下回るときは、成形物の溶融押出安定性、耐ドローダウン性及び層間接着性に劣る場合がある。またホウ素化合物の含有量がホウ素換算量で5000ppmを上回るときは、成形物表面の平滑性を悪化させ、溶融押出時の押出機への負荷変動が大きくなり、押出安定性に劣る場合がある。
【0039】
本発明において、ホウ素化合物の添加方法としては、EVAのけん化後に添加することが、本発明の効果を達成する観点から好ましい。けん化前のEVAに添加したのでは、本発明の効果が充分奏されない。
【0040】
本発明において、本発明の目的を阻外しない範囲内でEVOHに熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー、各種樹脂(ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン等)を配合することができる。
【0041】
本発明のEVOHは、押出成形するときに良好な効果を奏し、特に他の熱可塑性樹脂と多層共押出成形するときに、顕著な効果を奏する。本発明でいう押出成形物の例としては、フィルム、シート、パイプ、チューブ、ボトル等を挙げることができる。
【0042】
本発明のEVOHと共押出成形される熱可塑性樹脂の例としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、高密度、中密度、低密度ポリエチレン;酢酸ビニル、アクリル酸エステル、ブテン、へキセン、4−メチル−1−ペンテン等を共重合したポリエチレン;アイオノマー;ポリプロピレンホモポリマー又はエチレン、ブテン、へキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのオレフィン類を共重合したポリプロピレン;ポリ1−ブテン;ポリ4−メチル−1−ペンテン;更に前記ポリオレフィンに無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸等をグラフト反応させた変性ポリオレフィン等を挙げることができる。これらのポリオレフィンのうち、奏される効果の点から、カルボン酸変性ポリオレフィンを用いることが好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンとは、分子中にカルボキシル基を有するポリオレフィンのことをいい、ポリオレフィンをα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物を用いてグラフト変性したものや、オレフィン単量体とα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物とをランダム共重合させたもの等を例示することができる。
【0043】
カルボン酸変性ポリオレフィンのベースとなるポリオレフィンとしては、ポリエチレン{低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)}、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、EVA、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の各種ポリオレフィンを挙げることができる。また、α,β−不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられるが、無水マレイン酸が好適である。
【0044】
ポリオレフィンに対するα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物の含有量は、本発明の効果の点から好ましくは0.01〜5重量%であり、より好ましくは0.03〜4重量%、さらに好ましくは0.05〜3重量%である。この場合、上記含有量のα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物を含有するポリオレフィンを100%使用してもよいが、α,β−不飽和カルボン酸又はその無水物を高含有量で含有するポリオレフィンと、未変性のポリオレフィンとのブレンド物であって、最終的なα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物の含有量が上記のような範囲内にあるものを用いる方が、コスト的に有利であり好ましい。また、アイオノマーに代表されるように、ポリオレフィン中に含有されるカルボキシル基の全部あるいは一部が金属塩の形で存在していてもよい。
【0045】
また、ポリアミドとしては、ナイロン−6、ナイロン−6/12、ナイロン−6/6,6、ナイロン−11、ナイロン−12等を例示することができる。これらのポリアミドのうち、カプロアミド成分を含む共重合ポリアミド、特にナイロン−6/6,6の使用が奏される効果の点で好ましい。
【0046】
さらに、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリ(エチレン/シクロヘキサンジメチレン)テレフタレートなどがその代表例として挙げられ、さらにこれらの重合体に共重合成分としてエチレングリコール、ブチレングリコール、シクロへキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオールなどのジオール類、又はイソフタル酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、プロピレンビス(フェニルカルボン酸)、ジフェニルオキサイドジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル敢、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ジエチルコハク酸などのジカルボン酸を含有させたものも使用できる。
【0047】
ポリスチレンとしては、スチレンの単独重合体のみならず、スチレン以外の単量体成分を共重合したものや、スチレン以外の単量体を重合してなる樹脂をブレンドしたものであってもよく、具体的には、ポリスチレン単独重合体、少量のゴム成分を含むいわゆるHIPS(ハイインパクトポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、スチレン−ジエン共重合体及びその水添物、スチレン−無水マレイン酸共重合体等が含まれる。
【0048】
本発明のEVOHは、他の熱可塑性樹脂と共押出成形して多層共押出成形物としたときにその効果が顕著に奏されるが、不飽和カルボン酸グラフト変性ポリオレフィンと共押出成形して多層共押出成形物としたときに、特に優れた効果が奏される。不飽和カルボン酸グラフト変性ポリオレフィンとしては、密度0.88〜0.93g/cm3、メルトフローレート(MFR、190℃、2160g)が1〜7g/10minの不飽和カルボン酸グラフト変性線状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0049】
本発明に係るEVOHは、溶融成形によりフィルム、シート、パイプ、チューブ、ボトル、ガソリンタンク等の各種の成形物に成形することができる。これらの成形物は粉砕し、再度成形に供することも可能である。また、フィルム、シート等を一軸又は二軸延伸して延伸フィルム又はシートとすることも可能であり、また熱成形してトレー、カップ等の容器として用いることも有用である。溶融成形法としてはフラットダイによる押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法等の成形法を採用することができる。溶融成形温度は、本発明の効果を充分なものにする観点から、150〜300℃、好ましくは160〜280℃、最も好ましくは170〜250℃の範囲から選択するのがよい。
【0050】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例及び比較例における試験品の測定及び評価は次のようにして行った。
【0051】
(1)測定方法
(1−1)アルコキシル基含有率、エチレン含有率及びけん化度の測定方法
試料のEVOHに含まれる各種添加剤等は溶解するが、EVOHは実質的に溶解しない溶媒(例えばクロロホルム等)を用いてソックスレー抽出器でEVOH中の各種添加剤等を充分抽出、除去した。得られたEVOHをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解後、その溶液をアセトン中に投入し、EVOHを析出させ、精製したEVOHを得た。精製したEVOHについて、核磁気共鳴(NMR)法によりアルコキシル基、エチレン含有率及びけん化度を定量した。NMRの測定においては、予めトリフルオロ酢酸(TFA)を1〜2滴、EVOHのDMSO−d6溶液に滴下し、直ちに測定した。
【0052】
なお、本発明でいうアルコキシル基含有率又はエチレン含有率は、EVOHポリマーを構成する各モノマーユニットの合計量、例えばアルコキシル基を含有するEVOHの場合、エチレンユニット、ビニルアルコールユニット、酢酸ビニルユニット及びアルコキシル基を含有するユニットの合計量に対するアルコキシル基を含有するユニット又はエチレンユニットの割合を「モル%」で表示した値をいう。また、けん化度は、ビニルアルコールユニット及び酢酸ビニルユニットの合計量に対するビニルアルコールユニットの割合を「モル%」で表示した値をいう。
使用装置 :日本電子製超伝導核磁気共鳴装置Lambda500
溶媒 :DMSO−d6(TFA滴下)
濃度 :5重量%
温度 :80℃
共鳴周波数 :1H 500MHz
flip angle :45°
pulse delay time:4.0秒
積算回数 :6000回
【0053】
(1−2)共役二重結合を有する化合物並びに高級脂肪酸及びその誘導体の含有量の測定方法
共役二重結合を有する化合物並びに高級脂肪酸及びその誘導体については、それぞれの化合物は溶解するが、EVOHは実質的に溶解しない溶媒を選択し、EVOHから当該化合物を抽出し、その抽出液からそれぞれの化合物に適した分析法により、共役二重結合を有する化合物並びに高級脂肪酸及びその誘導体を分析し、定量した。
【0054】
(1−3)ホウ素化合物の含有量の測定法
試料のEVOHを磁性ルツボに入れ、電気炉内で灰化させた。得られた灰分を0.01規定の硝酸水溶液200mLに溶解し、原子吸光分析によって定量し、ホウ素化合物の含有量をホウ素換算の値として算出した。
【0055】
(2)評価方法
(2−1)表面平滑性
口径50mmΦ(EVOH用)及び65mmΦ(他の熱可塑性樹脂用)の2台の押出機、セレクタープラグ付フィードブロック及びリップ開口幅620mmのTダイを有する共押出製膜装置を用いて、EVOHの単層溶融体又はEVOHと他の熱可塑性樹脂との積層溶融体を、90mmΦのクロム鍍金鏡面ロール上に押出し製膜した。その際、エアーギャップ(ダイリップからEVOHの第一ロールへの接触面までの距離)は20cmとした。なお、層構成を変更するときは、フィードブロックのセレクタープラグを変更して製膜した。
【0056】
製膜開始後1時間を経過したときのフィルムを採取し、その外観を目視観察し、その平滑性を評価した。5名のパネリストの評価を平均して評価結果とした。
なお、評価は、次の基準に従って行った。
◎:縦筋が全く認められず、充分商品価値がある。
○:縦筋が極くわずかに認められるが、極めて軽微であり商品価値がある。
△:縦筋が認められ、商品価値が少ない。
×:縦筋が顕著であり、商品価値がない。
【0057】
(2−2)溶融押出安定性
前項の単層押出又は積層共押出製膜において、製膜開始後1時間を経過したときの押出機のスクリュー負荷変動の状況から、次の基準に従って溶融押出安定性を評価した。
◎:スクリュー負荷変動幅が2アンペア程度で極めて小さく、操業上全く支障がない。
◯:スクリュー負荷変動幅が4〜5アンペア程度で小さく、操業上支障がない。
△:スクリュー負荷変動幅が7〜8アンペア程度でやや大きく、操業上やや支障がある。
×:スクリュー負荷変動幅が10アンペア以上でやや大きく、操業上支障がある。
【0058】
(2−3)耐ドローダウン性
前項の単層押出又は積層共押出製膜において、製膜開始後1時間を経過したときのダイリップから吐出した溶融樹脂の状況からドローダウン性を評価した。なお、評価は、次の基準に従って行った。
◎:ドローダウンが軽微であり、操業上全く支障がない。
○:ドローダウンがわずかに認められるが、操業上支障がない。
△:ドローダウンが認められ、操業上やや支障がある。
×:ドローダウンが顕著であり、操業上支障がある。
【0059】
(2−4)層間接着力
製膜開始後1時間を経過したときの積層共押出製膜した試料について、温度20℃、65%RHにて充分状態調節した後、押出方向に添って長さ150mm、幅15mmの試料を切り取り、株式会社島津製作所製オートグラフDCS−50M型引張試験機にて、20℃、65%RHの雰囲気下、引張速度250mm/分にて剥離したときの強度を測定した。
【0060】
(2−5)ガスバリアー性(酸素透過率)
前記単層押出又は積層共押出製膜した試料について、温度20℃、85%RHにて充分状態調節した後、MODERN CONTROLS INC.製酸素透過量測定装置MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃、85%RHの条件でJIS K7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した。
【0061】
実施例1
冷却装置及び攪拌機を有する重合槽に酢酸ビニル20000重量部、メタノール2000重量部、重合開始剤として2,2´−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)10重量部を仕込み、攪拌しながら窒素置換後、エチレンを導入、内温60℃、エチレン圧力45Kg/cm2に調節し、4時間、その温度及び圧力を保持、攪拌し重合させた。次いで、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DPMP)10重量部(酢酸ビニルに対して0.05重量%)をメタノールに溶解し、1.5重量%溶液にして添加した。重合率は、仕込み酢酸ビニルに対して45%であった。重合槽の圧力を常圧に戻し、エチレンを蒸発除去した。
【0062】
次いで、引き続き、このメタノール溶液をラシヒリングを充填した追い出し塔の塔上部より連続的に流下させ、塔底部よりメタノール蒸気を吹き込んで未反応酢酸ビニルモノマーをメタノール蒸気とともに塔頂部より放出させコンデンサーを通して除去することにより、未反応酢酸ビニル0.005重量%のEVAの40重量%メタノール溶液を得た。
【0063】
得られたEVAのメタノール溶液をケン化反応器に仕込み、水酸化ナトリウム/メタノール溶液(85g/L)を共重合体中の酢酸ビニル成分に対して0.5当量となるように添加し、更にメタノールを添加して共重合体濃度が15重量%になるように調整した。60℃に昇温し反応器内に窒素ガスを吹き込みながら5時間反応させた。その後、酢酸で中和し反応を停止させ内容物を反応器より取り出し、常温に放置すると粒子状に析出した。析出後の粒子は遠心分離機で脱液しさらに大量の水を加え脱液する操作を繰り返した。
【0064】
得られた粒子を酢酸及びオルトホウ酸(OBA)を含む水溶液(水溶液1L中酢酸0.5g、オルトホウ酸0.35g溶解)を用い、浴比20で処理し、乾燥後、エチレン−ビス−ステアリン酸アミド(エチレンジアミンとステアリン酸とのビスアミド)(EBSA)の微粉を添加しブレンダーで混合し、次いで押出機にてペレット化した。
【0065】
得られたEVOHペレットをクロロホルムを用いて、48時間ソックスレー抽出器で処理し、EVOH中の添加剤等を抽出、除去し、精製した。精製したEVOHについて、NMRスペクトルを測定したところ、約1〜1.8ppmにメチレン基の水素に基づくピーク、2ppm付近に酢酸ビニルユニットを構成するメチル基の水素に基づくピーク、約3〜3.15ppmにメトキシ基の水素に基づくピーク、及び約3.15〜4.15ppmにビニルアルコールユニットのメチン基を構成する水素に基づくピークがそれぞれ認められた。当該NMRスペクトルからエチレンユニットの含有率は32モル%、けん化度は99.5モル%、及びメトキシ基を含むユニットの含有率は、0.01モル%であった。
【0066】
前記ソックスレー抽出器で抽出した抽出液中の化合物の量については、標品を用いて予め検量線を作成し、高速液体クロマトグラフィーにて定量したところ、EVOH中の2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DPMP)の含有率は230ppm、エチレン−ビス−ステアリン酸アミド(EBSA)の含有率は300ppmであった。またEVOH中のホウ素化合物の含有量について、測定方法の欄に記載した方法により測定したところ、ホウ素換算値で260ppmであった。
評価方法の欄に記載した方法により、厚さ20μmの単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0067】
実施例2
実施例1における2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DPMP)をソルビン酸(SA)に置き換えた以外は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0068】
実施例3
実施例2におけるエチレン−ビス−ステアリン酸アミド(EBSA)をステアリン酸マグネシウム(SAMg)に置き換えた以外は、実施例2と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0069】
実施例4
実施例2においてオルトホウ酸(OBA)を使用しなかった以外は、実施例2と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0070】
実施例5
実施例2で得られたEVOHと無水マレイン酸グラフト変性線状低密度ポリエチレン(MA−LLDPE、無水マレイン酸含有量0.2重量%、MFR1.8g/10min、密度0.91g/cm3)とを用いて共押出製膜した。押出機及びダイ温度220℃にて共押出し、EVOHの厚みが20μm、MA−LLDPEの厚みが30μm(総厚50μm)の2層フィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0071】
実施例6
実施例3で得られたEVOHを用いた以外は、実施例5と同様にして2層フィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0072】
実施例7
実施例4で得られたEVOHを用いた以外は、実施例5と同様にして積層フィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0073】
実施例8
実施例1において、エチレン−ビス−ステアリン酸アミド(EBSA)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0074】
実施例9
実施例1において、重合開始剤の2,2´−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をアゾビスイソブチロニトリルに変更し、重合時の共重合モノマーとしてN−エトキシメチルアクリルアミドを選択し、EVOH中のN−エトキシメチルアクリルアミドの含有量が0.5モル%となるようにして重合した以外は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0075】
実施例10
実施例5におけるMA−LLDPEに代えて、共重合ポリアミド6/66(Nylon6/66、宇部興産株式会社製UBEナイロン5033B、融点195℃、相対粘度4.40/98%硫酸)を用い、押出機及びダイの温度を240℃に、フィルム厚み構成をNylon6/66(15μm)/EVOH(20μm)/Nylon6/66(15μm)(総厚50μm)の2種3層フィルムとした以外は、実施例5と同様にして共押出製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0076】
実施例11
伝熱面積5m2、管数12本の縦型濡壁多管式熱交換器を有する内容積800Lの重合槽を用い、酢酸ビニルを35kg/hrの速度で全量熱交換器を通して導入した。また、エチレンを6.5kg/hrの速度で、重合開始剤として2,2´−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)を17g/hrの速度で、重合溶媒としてメタノールを2.5kg/hrの速度で、それぞれ直接重合槽に導入し、重合温度65℃、重合圧力46Kg/cm2の条件下でEVAの重合を開始した。熱交換器の外側には、−3℃の冷媒体(30重量%のメタノール水溶液)を2.0m3/hrの速度で循環させた。熱交換器内に導入した酢酸ビニルを前記熱交換器内で薄膜状に流下させ、重合槽から気化したエチレンと接触させて、エチレンを吸収溶解後、重合槽に導入し、重合槽内液と混合して連続重合した。このようにして、重合反応溶液を43kg/hrの速度で連続的に得た。
【0077】
次いで、かかる重合反応溶液を重合槽下部より連続的に取り出し、重合槽出口でソルビン酸(SA)のメタノール溶液を添加し、未反応のエチレンを蒸発させて除去した。得られたEVAのメタノール溶液を、ラシヒリングを充填した追い出し塔の塔上部より連続的に流下させ、塔底部よりメタノール蒸気を吹き込んで未反応の酢酸ビニルをメタノール蒸気とともに塔頂部より留去し、コンデンサーを通して除去してEVAの33重量%メタノール溶液を得た。このEVAのメタノール溶液をケン化反応器に仕込み、水酸化ナトリウム(80g/Lのメタノール溶液)をEVA中の酢酸ビニル成分に対して0.55当量となるように添加し、更にメタノールを添加してEVA濃度が15重量%になるように調整した。溶液を60℃に昇温し、反応器内に窒素ガスを吹き込みながら5時間反応させた。その後、酢酸で中和して反応を停止させ、内容物を反応器より取り出し、常温に放置して固形物を粒子状に析出させた。析出後の粒子は遠心分離機で脱液し、更に大量の水を加え脱液する操作を繰り返した。
【0078】
得られた粒子を酢酸及びオルトホウ酸(OBA)を含む水溶液(水溶液1L中酢酸0.55g、オルトホウ酸0.4g溶解)を用い、浴比25で処理し、乾燥後、エチレン−ビス−オレイン酸アミド(EBOA、エチレンジアミンとオレイン酸とのビスアミド)の微粉を添加し、ブレンダーで混合し、次いで215℃に設定された押出機にてペレット化した。
【0079】
得られたEVOHペレットを、クロロホルムを用いて、48時間ソックスレー抽出器で処理し、EVOH中の添加剤等を抽出、除去し、精製した。精製したEVOHのNMRスペクトルから、得られたEVOHのエチレンユニットの含有率は31モル%、けん化度は99.6%、及びメトキシ基を含むユニットの含有率は0.012モル%であった。
【0080】
前記ソックスレー抽出で抽出した抽出液中の化合物の量については、標品を用いて予め検量線を作成し、高速液体クロマトグラフィーにて定量したところ、EVOH中のSAの含有率は、200ppm、EBOAの含有率は350ppmであった。またEVOHペレット中のオルトホウ酸の含有量について、分析方法の欄に記載した方法により測定したところ、ホウ素元素換算値で220ppmであった。
【0081】
得られたEVOHペレットを使用し、実施例5に準じて共押出製膜し、評価したところ、表面平滑性、溶融押出安定性、耐ドローダウン性のいずれも極めて良好であり、評価方法の欄に記載した評価ランクにおいて、すべて「◎」であった。また、層間接着力は剥離不能で充分であり、酸素透過量は1.1ml/m2・day・atmでガスバリアー性に優れていた。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0082】
比較例1
実施例1において、重合開始剤の2,2´−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をアゾビスイソブチロニトリルに変更し、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DPMP)、エチレン−ビス−ステアリン酸アミド(EBSA)及びオルトホウ酸(OBA)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
なお、NMRスペクトルには、実施例1の場合には認められた3.00〜3.15ppmの範囲のメトキシ基の水素に基づくピークは認められなかった。
【0083】
比較例2
実施例1において、重合開始剤の2,2´−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をアゾビスイソブチロニトリルに変更した以外は、実施例1と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
なお、NMRスペクトルには、実施例1の場合には認められた3.00〜3.15ppmの範囲のメトキシ基の水素に基づくピークは認められなかった。
【0084】
比較例3
実施例1において、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DPMP)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0085】
比較例4
実施例1において、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DPMP)の添加量を3200ppmにした以外は、実施例1と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0086】
比較例5
実施例9において、N−エトキシメチルアクリルアミドの含有量を1.5モル%となるようにして重合した以外は、実施例9と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0087】
比較例6
実施例1において、EVOHのエチレン含有率が65モル%となるように重合条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。
EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0088】
比較例7
実施例1において、エチレンを使用しなかった以外は実施例1と同様にして重合体(ポリビニルアルコール)ペレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層ポリビニルアルコールフィルムの製膜を試みたが、製膜当初から膜面が悪く、フィルムをサンプリング後直ちに運転を停止した。ポリビニルアルコールの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0089】
比較例8
実施例1において、EVOHのけん化度が80モル%となるようにけん化条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0090】
比較例9
実施例1において、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DPMP)を分子量が1100のα−メチルスチレン重合体(MS重合体、分子鎖の末端に共役二重結合を有する。)に置き換えた以外は、実施例1と同様にしてEVOHぺレットを製造し、評価した。また、実施例1と同様にして単層EVOHフィルムを製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0091】
比較例10
実施例5におけるEVOHに代えて、比較例1のEVOHを用いた以外は実施例5と同様にして共押出製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0092】
比較例11
実施例10におけるEVOHに代えて、比較例2のEVOHを用いた以外は実施例10と同様にして共押出製膜し、評価した。EVOHの組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【発明の効果】
本発明によれば、EVOHについて、
▲1▼表面平滑性に優れた成形物を与える
▲2▼溶融押出安定性に優れる
▲3▼耐ドローダウンに優れる
▲4▼層間接着性に優れる
▲5▼ガスバリアー性に優れる
という効果を奏する。
Claims (11)
- 分子量1000以下の共役二重結合を有する化合物を0.1〜3000ppm含有する、アルコキシル基含有率0.0005〜1モル%、エチレン含有率5〜60モル%、けん化度85モル%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物。
- 炭素数8以上30以下の高級脂肪酸又はそのアミド、エステル若しくは塩を高級脂肪酸換算量で10〜5000ppm含有する、請求項1記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物。
- ホウ素化合物をホウ素換算量で10〜5000ppm含有する、請求項1又は2記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物からなる単層押出成形物。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物の層を含む多層共押出成形物。
- アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体に、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化することを特徴とする請求項1記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物の製造方法。
- アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体に、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化し、次いで炭素数8以上30以下の高級脂肪酸又はそのアミド、エステル若しくは塩、及び/又はホウ素化合物を含有させることを特徴とする、請求項2又は3記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物の製造方法。
- アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体に、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化して得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物を単層押出成形することを特徴とする、請求項4記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物からなる単層押出成形物の製造方法。
- アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体に、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化して得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物を多層共押出成形することを特徴とする、請求項5記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物の層を含む多層共押出成形物の製造方法。
- アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体に、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化し、次いで炭素数8以上30以下の高級脂肪酸又はそのアミド、エステル若しくは塩、及び/又はホウ素化合物を含有させて得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物を単層押出成形することを特徴とする、請求項4記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物からなる単層押出成形物の製造方法。
- アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体に、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物を含有させた後、けん化し、次いで炭素数8以上30以下の高級脂肪酸又はそのアミド、エステル若しくは塩、及び/又はホウ素化合物を含有させて得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物を多層共押出成形することを特徴とする、請求項5記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物の層を含む多層共押出成形物の製造方法。
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