本発明は、主に半導体ウェハや液晶基板等のウェハを静電吸着力によって吸着保持する静電チャックに関するものである。
従来、半導体デバイスを製造する半導体ウェハ(以下、ウェハという)の処理工程であるCVD、PVD、スパッタリング等の成膜工程や微細加工を施すエッチング工程、あるいは各種処理工程間での搬送等においては、ウェハを高精度に保持する必要があることから静電チャックが使用されている。
静電チャックは、セラミック基体の一方の主面(最も広い表面)を、ウェハを載せる吸着面とするとともに、上記セラミック基体中の吸着面側に吸着用電極を備えたもので、ウェハを吸着面に載せ、ウェハと吸着用電極との間に静電吸着力を発現させることによりウェハを吸着面に強制的に固定するようになっている。
これらの静電チャックは、セラミック基体中に一つの電極が設けられた単極型静電チャックが主流であったが、近年では、年々多様化する半導体産業の要求特性を満たすため、セラミック基体中に複数の電極が設けられた双極型静電チャックが使用されるようになってきた。セラミック基体に内蔵する吸着用電極とウェハとの間に電圧を印加することにより、ウェハを吸着面に吸着保持する単極型静電チャックに対し、双極型静電チャックは、セラミック基体に内蔵された一対の吸着用電極に正負の電圧を印加することでウェハを吸着面に吸着保持するようになっている。この双極型静電チャックは、単極型静電チャックのようにウェハに通電端子を接触させて直接通電する必要がないため、ウェハ上に形成された回路に与える悪影響が少ないといった利点があった。
このような双極型静電チャックの例として、特許文献1には図6に示すように台座62の上面に下部誘電体層68、中間部誘電体層67、上部誘電体層66がそれぞれ溶射膜により形成され、下部誘電体層68上に第2の吸着用電極64bが溶射膜によって設けられるとともに中間部誘電体層67によって被覆されており、また、中間部誘電体層67上には溶射膜によって第1の吸着用電極64aが設けられるとともに上部誘電体層66によって被覆されており、その上面を吸着面63とした静電チャック61が提案されている。
また、特許文献2には図4に示すようにセラミック基体42の上面に第1の吸着用電極44aと第2の吸着用電極44bがそれぞれ備えられており、これらの吸着用電極44a、44bを覆うようにセラミック基体42の上面にセラミック誘電体層46が被覆一体化されており、その上面を吸着面43とし、上記吸着面43と第1の吸着用電極44aとの間のセラミック誘電体層46の厚みと、吸着面43と第2の吸着用電極44bとの間のセラミック誘電体層46の厚みが等しい静電チャック41が提案されている。
また、特許文献3には図5に示すようにセラミック基体52の上面に第1の吸着用電極54aと第2の吸着用電極54bがそれぞれ備えられており、これらの吸着用電極54a、54bを覆うようにセラミック基体52の上面にセラミック誘電体層56が被覆一体化されており、正電圧を印加する第1の吸着用電極54aの面積が、負電圧を印加する第2の吸着用電極54bの面積より大きい静電チャック51が提案されている。
特開2003−243493号公報
特開2005−116686号公報
特開平10−242256号公報
近年、半導体産業の急激な拡大のため、ウェハW上に形成する回路の微細化技術が進み、ウェハW上に微細な回路パターンを正確に形成するためウェハWを吸着面に均一に吸着させることができる静電チャックが求められている。
特許文献1に示す従来の静電チャック61は、吸着面63と第1の吸着用電極64aとの間のセラミック誘電体層の厚み(図6中、Tcで示す)と、吸着面63と第2の吸着用電極64bとの間のセラミック誘電体層の厚み(図6中、Tdで示す)が異なるため、第1の吸着用電極64a側と第2の吸着用電極64b側とで吸着力の不均一が発生し、ウェハWを吸着面63に均一に固定することができないという問題があった。また、各吸着用電極64a、64bは溶射膜によって形成されているためボイドが多く、このボイドにより電極厚みが局部的に薄い部分が生じるため、吸着用電極64a、64bに電圧を印加した際に絶縁破壊を起こすといった問題があった。
また、各誘電体層66、67、68は溶射膜によって設けられており、時間的なずれを伴って形成されるため、各誘電体層66、67、68は完全には一体化されず境界面が形成される。この静電チャック61をプラズマ雰囲気中で使用すると、プラズマが上記境界面を侵すため静電チャック61の側面方向において放電現象が発生するという問題があった。
特許文献2に示す従来の静電チャック41は、第1の吸着用電極44a及び第2の吸着用電極44bをスクリーン印刷法および誘電体層の同時焼成法にて形成していることから、吸着面43と第1の吸着用電極44aとの間のセラミック誘電体層46の厚みと、吸着面43と第2の吸着用電極44bとの間のセラミック誘電体層46の厚みを等しくしても、正電圧を印加した第1の吸着用電極44a側と負電圧を印加した第2の吸着用電極44b側とで吸着力の不均一が発生し、ウェハWを吸着面43上に均一に固定することができないという問題があった。このような吸着力の不均一が発生する原因として、セラミック誘電体層46の第1の吸着用電極44a側及び第2の吸着用電極44b側にn型半導体の性質が、吸着面43側にp型半導体の性質が現れ、セラミック誘電体層46がpn結合された半導体と等価な性質を持つためと考えられている。セラミック誘電体層46がpn結合された半導体と等価な性質を持つ理由としては、静電チャック41をスクリーン印刷法および誘電体層の同時焼成法によって形成した際に、吸着用電極44a、44bの金属成分がセラミック誘電体層46の吸着用電極の周囲に拡散することから、吸着面43側と比べて吸着用電極44a、44bに近いセラミック誘電体層46の体積固有抵抗値が小さくなっているためと考えられる。このような半導体の性質を持った静電チャック41の第1の吸着用電極44aに正電圧を印加し、第2の吸着用電極44bに負電圧を印加してウェハWを吸着面43に保持させると、負電圧を印加した第2の吸着用電極44b側のウェハWは正に帯電することから、pn結合体に対する順方向のバイアス回路を形成することになるため、第2の吸着用電極44b側の吸着面43上へ電荷が素早く移動することによって吸着力を高めることができるものの、正電圧を印加した第1の吸着用電極44a側のウェハWは負に帯電することからpn結合に対する逆方向のバイアス回路が形成されることになり、第1の吸着用電極44a側の吸着面43上へ電荷がスムーズに移動し難いことから吸着力が小さいというように、正電圧を印加した第1の吸着用電極44a側と負電圧を印加した第2の吸着用電極44b側とで吸着力の不均一が発生するという問題があった。
また、特許文献3に記載の静電チャックにおいても、正電圧を印加した吸着用電極側と負電圧を印加した吸着用電極側とで吸着力の不均一が発生していた。
このため、プラズマ雰囲気下でウェハWにエッチング処理等施す場合、吸着面43とウェハWとの間で熱交換効率が不均一となり、ウェハW上の温度分布に差が生じるため、成膜工程では、ウェハW上に均質な膜を被着することができず、また、エッチング工程では所定の深さに微細加工することができないため、ウェハWの歩留まりが低下する虞があった。
本発明は、双極型静電チャックにおいてウェハWを吸着面上に均一に固定するための方法を提供することを目的とする。
そこで、本発明は上記課題に鑑み、セラミック基体上に、被保持物の吸着面を有するセラミック誘電体層と、正電圧が印加される第1の吸着用電極及び負電圧が印加される第2の吸着用電極を備えた静電チャックにおいて、前記セラミック誘電体層が純度98質量%以上の窒化アルミニウムであり、前記吸着用電極の主成分がMo、W、Tiまたはこれらの合金、TiN、WC、TiCの少なくとも一種の焼結体からなり、前記吸着面と前記第1の吸着用電極との間の前記セラミック誘電体層の厚(Ta)に対する前記吸着面と前記第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚み(Tb)の比(Tb/Ta)が2.0〜5.0であることを特徴とする。
また、上記構成において、前記セラミック誘電体層は、前記被保持物の吸着時における体積固有抵抗値が108〜1013Ω・cmであることを特徴とする。
本発明の静電チャックは、セラミック基体上に、被保持物の吸着面を有するセラミック誘電体層と、正電圧が印加される第1の吸着用電極及び負電圧が印加される第2の吸着用電極を備えた静電チャックにおいて、前記セラミック誘電体層が純度98質量%以上の窒化アルミニウムであり、前記吸着用電極の主成分がMo、W、Tiまたはこれらの合金、TiN、WC、TiCの少なくとも一種の焼結体からなり、前記吸着面と前記第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みよりも前記吸着面と第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みを厚くすることにより、正電圧を印加した第1の吸着用電極側と負電圧を印加した第2の吸着用電極側とでウェハWを吸着面上に均一な吸着力で吸着することができる。
また、上記構成において、前記セラミック誘電体層は、被保持物の吸着時における体積固有抵抗値が108〜1013Ω・cmであると吸着力がより大きくなりウェハWと吸着面との間の熱交換効率が高まる。このため、正電圧が印加される第1の吸着用電極及び負電圧が印加される第2の吸着用電極に対応するそれぞれの吸着面におけるウェハWと吸着面との間の真実接触面積が同等となり吸着面とウェハW間の熱交換効率が同等となり、ウェハW表面の面内温度差を小さくすることができることから、成膜工程では、ウェハW上に均質な膜を被着することができ、また、エッチング工程では所定の深さに微細加工することが可能となることから、ウェハWの歩留まりを向上させることができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一例である静電チャック1を示す概略図で、(a)は概略の斜視図であり、(b)は(a)のX−X線の概略断面図を示す。
セラミック基体2の上面に設けられた第2の吸着用電極4bを覆うように下部セラミック誘電体層6で被覆され、下部セラミック誘電体層6の上面には第1の吸着用電極4aが設けられており、第1の吸着用電極4aを覆うように上部セラミック誘電体層6で被覆され一体化されており、その上面が吸着面3となっている。これらの吸着用電極4a、4bにはそれぞれ通電用の給電端子5が設けられており、吸着面3上にウェハWを載せ、給電端子5を通じて第1の吸着用電極4aに正電圧を印加し、第2の吸着用電極4bに負電圧を印加することにより第1の吸着用電極4a及び第2の吸着用電極4bとウェハWとの間に静電吸着力を発現させ、ウェハWを吸着面3に固定することができる。
本発明の静電チャック1は、セラミック基体2上に、被保持物の吸着面3を有するセラミック誘電体層6と、正電圧が印加される第1の吸着用電極4a及び負電圧が印加される第2の吸着用電極4bを備えた静電チャック1において、セラミック誘電体層6が純度98質量%以上の窒化アルミニウムであり、吸着用電極4a、4bの主成分がMo、W、Tiまたはこれらの合金、TiN、WC、TiCの少なくとも一種の焼結体からなり、吸着面3と第1の吸着用電極4aとの間のセラミック誘電体層6の厚みTaよりも吸着面3と前記第2の吸着用電極4bとの間のセラミック誘電体層6の厚みTbが厚いことを特徴とする。
吸着面3と第1の吸着用電極4aとの間のセラミック誘電体層6の厚みTaよりも、吸着面3と第2の吸着用電極4bとの間のセラミック誘電体層6の厚みTbが厚い静電チャック1の第1の吸着用電極4aに正電圧を印加し、第2の吸着用電極4bに負電圧を印加してウェハWを吸着面3に保持させると、第1の吸着用電極4a側のウェハWはpn結合に対する逆方向のバイアス回路が形成されるため、第1の吸着用電極4a側の吸着面3上へ電荷がスムーズに移動しにくいことから厚みTaが厚みTbと同じでは吸着力が吸着用電極4aより小さくなるが、厚みをTbより小さくすることで吸着力を大きくできる。
一方、第2の吸着用電極4b側のウェハWはpn結合に対する順方向のバイアス回路が形成されるため、第1の吸着用電極4a側と比べて電荷は移動し易く、大きな吸着力を得易いことから、Tbを大きくすることで吸着用電極4bの吸着力を小さく調製することで吸着用電極4aで吸着する吸着力と同等とすることができる。従って、第1の吸着用電極4a側における吸着力の大きさを第2の吸着用電極4b側における吸着力の大きさと、同一あるいは近似させることができるため、ウェハWを吸着面3に吸着した際に吸着用電極4aと4bで吸着力が略等しいことから、吸着面3とウェハW間の熱交換効率が均一となってウェハW上の温度分布を均一とすることができる。特に、吸着用電極4が左右に半円形に配設された双極型静電チャック1において吸着面3とウェハW間の熱交換効率が均一となってウェハW上の温度分布を均一とすることができる。そして、このような静電チャック1を成膜工程に使用すると、ウェハW上に均質な膜を被着することができ、また、エッチング工程で使用すると所定の深さに微細加工することが可能となることから、ウェハWの歩留まりを向上させることができる。
また、第1の吸着用電極4aと第2の吸着用電極4bはそれぞれ異なるセラミックグリーンシートや溶射膜上に形成できることから、一方の電極から他方の電極に至る絶縁破壊を防ぐことが可能となり、セラミック誘電体層6の耐久性に優れた静電チャック1が得られ好ましい。
また、吸着面3と第1の吸着用電極4aとの間のセラミック誘電体層6の厚み(Ta)に対する吸着面3と第2の吸着用電極4bとの間のセラミック誘電体層6の厚み(Tb)の比(Tb/Ta)は2.0〜5.0であることが好ましい。その理由は、吸着面3と第1の吸着用電極4aとの間のセラミック誘電体層6の厚みに対する吸着面3と第2の吸着用電極4bとの間のセラミック誘電体層6の厚みの比が2.0未満では静電チャックの第1の吸着用電極4aに正電圧を印加し、第2の吸着用電極4bに負電圧を印加してウェハWを吸着面3に保持させると、第2の吸着用電極4b側においてセラミック誘電体層6に拡散する電荷の量が少ないため、第2の吸着用電極4b側の吸着面3上に移動する電荷の量が多くなることから、第1の吸着用電極4a側と第2の吸着用電極4b側とで吸着面3に移動する電荷の量に差が生じるため、吸着力の不均一が発生し、ウェハWを吸着面3上に均一に吸着することができないからである。
一方、吸着面3と第1の吸着用電極4aとの間のセラミック誘電体層6の厚み(Ta)に対する吸着面3と第2の吸着用電極4bとの間のセラミック誘電体層6の厚み(Tb)の比(Tb/Ta)が5.0を超える静電チャック1の第1の吸着用電極4aに正電圧を印加し、第2の吸着用電極4bに負電圧を印加してウェハWを吸着面3に保持させると、第2の吸着用電極4b側においてセラミック誘電体層6に拡散する電荷の量が多いため、第2の吸着用電極4b側の吸着面3上に移動する電荷の量が少なくなることから、第1の吸着用電極4a側と第2の吸着用電極4b側とで吸着面3に移動する電荷の量に差が生じるため、吸着力の不均一が発生し、ウェハWを吸着面3上に均一に吸着することができないからである。
また、本発明の静電チャック1は、セラミック誘電体層6が純度98%以上の窒化アルミニウムからなり吸着用電極4a、4bの主成分がMo、W、Tiまたはこれらの合金、TiN、WC、TiCの少なくとも一種の焼結体からなることが好ましい。特に、純度98%以上の窒化アルミニウムと上記の焼結体からなる吸着用電極4の接触界面には前記PN結合による効果が発生し易いことから、請求項1の構成が正負の吸着用電極における吸着力を等しくする上で好ましいと考えられる。純度98%以上の窒化アルミニウムは、不純物として酸素や酸窒化アルミニウム、珪素等の酸化物やその他の2族の金属酸化物を含むことができる。また、Mo、W、Tiまたはこれらの合金、TiN、WC、TiCは高融点金属である上、熱膨張係数が窒化アルミニウムからなるセラミックスの熱膨張係数に近いため、焼成時にセラミック誘電体層6と吸着用電極4a、4bの収縮率の差によって生じる電極剥がれや、セラミック基体2の反りや割れを防ぐことが可能となり、セラミック基体2の耐久性が向上するからである。セラミック基体2の反りが大きいと、セラミック基体2に埋設された吸着用電極4a、4bも同様に反ってしまうため、セラミック基体2に研削加工を施して吸着面3を平坦にしても、セラミック基体2内部の吸着用電極4a、4bは反ったままであり、ウェハWを吸着面3上に吸着させても、面内の吸着力バラツキが生じるため好ましくない。好ましくは、吸着用電極4a、4bは熱膨張係数が4〜6×10−6/℃であるMo及びWが好ましい。
また、吸着用電極4a、4bの厚みは50μm以下であることが好ましい。その理由は、吸着用電極4a、4bの厚みが50μmを超えると吸着用電極4a、4bの焼結性が低下し焼成時に電極剥がれを起こす虞があるからである。
図2(a)〜(d)に、吸着用電極4a、4bのパターン形状の一例を示す。パターン形状には図2(a)に示すような半円状をしたもの、図2(b)に示すような櫛歯形状をしたもの、図2(c)に示すような円とリングを同心円状に組み合わせたものや、更に図2(d)に示すような扇状をしたものを円を構成するように組み合わせたものなど、吸着面3上に載置するウェハWを均一に吸着できるようなパターン形状であれば良く、これらの形状だけに限定するものではない。
ところで、静電吸着力には、クーロン力とジョンソン・ラーベック力があり、セラミック誘電体層6の体積固有抵抗値が1014Ω・cmより大きいときの吸着力はクーロン力によって支配され、セラミック誘電体層6の体積固有抵抗値が低下するに従ってジョンソン・ラーベック力が発現し、セラミック誘電体層6の体積固有抵抗値が1013Ω・cm未満となるとクーロン力に比べ大きな吸着力が得られるジョンソン・ラーベック力が発現することによりウェハWが吸着されることが知られている。
また、被保持物であるウェハW等を吸着面3に吸着時におけるセラミック誘電体層6の体積固有抵抗値は108〜1013Ω・cmであることが好ましい。その理由は、使用時におけるセラミック誘電体層6の体積固有抵抗値が1013Ω・cmを超えると、吸着面3上に移動する電荷の量が少なくなることから吸着力が小さくなるからである。また、クーロン力が発現するようになるため、ウェハWを吸着面3に強固に固定することができず、吸着面3とウェハW間の熱交換効率が悪くなり、ウェハWの温度が定常状態になるまでの時間も長くなるからである。セラミック誘電体層6の体積固抵抗値が108Ω・cm未満では、吸着面3上に移動する電荷の量が多くなるため大きな吸着力が得られるが、セラミック誘電体層6を流れる漏れ電流が多くなるため、ウェハWを吸着面3に吸着させた際、ウェハW上の微小回路が破壊される虞があるためである。より好ましくは109〜1012Ω・cmである。
また、吸着面3の中心線平均粗さ(Ra)は1.0μm以下であることが好ましい。その理由は、吸着面3の中心線平均粗さ(Ra)が1.0μmを超えると、吸着面3とウェハWとの接触面積が小さくなるため吸着力が低下し、吸着面3とウェハW間の熱交換効率が悪くなるため、ウェハWの温度が定常状態になるまでの時間が長くなるからである。このことから、吸着面3の中心線平均粗さ(Ra)を1.0μm以下とすることにより、吸着力が大きくなるため吸着面3とウェハW間の熱交換効率が良くなり、ウェハWの温度が定常状態になるまでの時間を短縮することが可能となるため、成膜工程やエッチング工程におけるリードタイムを削減することが可能となる。
以下、本発明の静電チャック1のその他の構成について示す。
本発明の静電チャック1ではセラミック基体2として静電吸着用の電極4a、4bを設けた例を示したが、図1に示した構造だけに限定されるものではなく、静電吸着用電極4a、4b以外に加熱用電極、プラズマ発生用電極を備えても良く、また、これら全ての電極を備えたものであっても構わない。
更に、本発明の静電チャック1は、図1には図示していないが、吸着用電極4a、4bへの通電をOFFにしてから吸着面3に保持したウェハWの離脱応答性を高めるために、吸着面3のうち吸着用電極4a、4bを形成していない部分に凹溝を形成してウェハWの接触面積を小さくすることで離脱応答性を高めることができる。更に、上記凹溝にHe等のガスを供給することによって静電チャック1を加熱した時のウェハWへの熱伝導特性を向上させることもできる。そして、静電チャック1には、ウェハWとの熱伝達特性を向上させることから抵抗発熱体を埋設したり、備えることが好ましい。また、セラミック基板2の裏面に板状の金属体を結合し、該金属体に形成した冷却媒体通路に冷却媒体を通しセラミック基体2の裏面からウェハWを冷却することが好ましい。
また、静電チャック1を構成するセラミック基体2の材質としては、純度98%以上の窒化アルミニウムからなる焼結体を用いることができ、これらの中でも耐プラズマ性に優れる純度98%以上の窒化アルミニウムを主成分とする焼結体を用いることが望ましい。
また、セラミック誘電体層6の熱伝導率は40W/(m・K)以上であることが好ましい。その理由は、セラミック誘電体層6の熱伝導率が40W/(m・K)未満だと、ウェハWと吸着面3との熱交換効率が悪いため、ウェハWの温度が定常状態になるまでの時間が長くなるからである。
次に本発明の静電チャック1の製造方法を説明する。
静電チャック1を構成するセラミック基体2としては、窒化アルミニウム質焼結体を用いることができる。窒化アルミニウム質焼結体の製造に当たっては、酸素量が0.5〜1.5質量%含む窒化アルミニウム粉末と焼結助剤として珪素酸化物を加えることが好ましい。さらに、アクリル系のバインダーと溶媒とを加え、トルエンとセラミックボールを用いてボールミルにより48時間混合し、得られた窒化アルミニウムの泥漿をドクターブレード法にてテープ成形を行いグリーンシートを複数枚成形する。その後、得られた窒化アルミニウムのグリーンシート上に、導体ペーストにて第1の吸着用電極4aをスクリーン印刷法で形成する。また他のグリーンシートに第2の吸着用電極4bを形成する。この際、第1の吸着用電極4aの面積と、第2の吸着用電極4bの面積はほぼ等しくなるようにしておく。
しかるのち、各グリーンシートを所定の順序で積層するのであるが、図3に示すように第1の吸着用電極4aが第2の吸着用電極4bより吸着面3に近くなるように敷設する。また、積層する際は、グリーンシートを積み重ねる前に密着液を塗布しておく。ここで、密着液とは強い溶解力を持ち、グリーンシートの表面に塗布すると、その表面を侵して活性化させ、グリーンシート同士を熱圧着させ易くする作用を有するものである。
そして、密着液を塗布した各グリーンシートを積層し、圧力を加えながら熱圧着することによりグリーンシート積層体を製作し、このグリーンシート積層体に切削加工を施して円盤状とした成形体を非酸化性ガス気流中にて500℃で5時間程度の脱脂を行い、更に非酸化性雰囲気にて1900℃で5時間程度の焼成を行い、吸着用電極4a、4bがそれぞれ埋設された窒化アルミニウム質焼結体を得る。
こうして得られた窒化アルミニウム質焼結体を所望の形状、所望の吸着面3と第1の吸着用電極4aとの間のセラミック誘電体層6の厚み及び吸着面3と第2の吸着用電極4bとの間のセラミック誘電体層6の厚みが得られるように必要に応じて研削加工を施し、セラミック基体2とした。
次いで、セラミック基体2に研削加工を施し、吸着面3と反対側の表面に上記吸着用電極4a、4bに連通する穴を形成し、これらの穴に給電端子5をロウ付け等にて接合し、更に、吸着面3を所望の中心線平均粗さとなるよう研磨することにより、静電チャック1を得ることができる。
まず、酸素含有量1.5質量%の窒化アルミニウム粉末と酸素含有量0.5質量%の窒化アルミニウム粉末とにそれぞれ0.005〜0.5質量%の酸化珪素を添加した原料に夫々アクリル系のバインダーと溶媒を加え、トルエンとセラミックボールを用いてボールミルにより48時間混合し、得られた窒化アルミニウムの泥漿をドクターブレード法にてテープ成形を行いグリーンシートを複数枚成形する。得られた窒化アルミニウムのグリーンシート上に、図2(a)に示すような半円形状となるように各種の導体ペーストを用い、第1の吸着用電極をスクリーン印刷法で形成する。また、他のグリーンシートに第2の吸着用電極を形成する。この際、第1の吸着用電極と第2の吸着用電極の面積比は1.0となるようにする。
しかるのち、第1の吸着用電極が第2の吸着用電極より吸着面に近くなるように敷設した後、密着液を塗布した各グリーンシートを積層し、圧力を加えながら熱圧着させてグリーンシート積層体を製作し、このグリーンシート積層体に切削加工を施して円板状とした成形体を形成した。
上記成形体を非酸化性ガス気流中にて500℃で5時間程度の脱脂を行い、更に非酸化性雰囲気にて1900℃で5時間程度の焼成を行い、第1の吸着用電極と第2の吸着用電極がそれぞれ埋設された窒化アルミニウム質焼結体を得た。
こうして得られた窒化アルミニウム質焼結体に研削加工を施し、外径200mm、板厚みが10mmとし、吸着面と第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みと、吸着面と第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みをそれぞれ変更した複数のセラミック基体を作製した。
その後、各セラミック基体の吸着面と反対側の表面に各吸着用電極に連通する穴を形成し、これらの穴に給電端子をロウ付けした。その後、吸着面を中心線平均粗さ(Ra)で0.1μmとなるようラッピング研磨をして各種の静電チャックを作製した。
セラミック誘電体層の体積固有抵抗の測定方法は、内部にWからなる電極が埋設された成形体を静電チャックと同様の方法で形成した後、静電チャックと同時に焼成を行い、得られた焼結体に研削加工を施して外径50mm、厚み2mmとし、電極が埋設されている側の表面から電極との間のセラミック誘電体層の厚みが1mmのセラミック基体を作製する。次いで、このセラミック基体に日本工業規格C2141に基づき、銀ペーストを塗布した後、250℃で焼成することにより電極を焼き付け、次に電極を焼き付けたセラミック基体を真空中、250℃で1時間熱処理した後にドライ窒素を導入し、窒素雰囲気中の室温(25℃)おいて絶縁計を用いて測定した。セラミック基体の温度を300℃にして体積固有抵抗値を測定した所、1010Ω・cmであった。
電極材質及び吸着面と第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みに対する吸着面と第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みの比をそれぞれ変更した場合の、第1の吸着用電極側と第2の吸着用電極側の吸着力及びウェハ面内温度バラツキについてそれぞれ測定を行なった。
吸着力の測定は、静電チャックを300℃に加熱した状態で、第1の吸着用電極側の給電端子に+250V、1インチ角のウェハに−250Vを印加し、第1の吸着用電極側の吸着面にウェハを吸着させ、このウェハをロードセルにて引き剥がすのに要した力を第1の吸着用電極側の吸着力とした。なお、測定は4回行いその平均値を測定値とした。また、同様に第2の吸着用電極側の給電端子に−250V、1インチ角のウェハに+250Vを印加し、第2の吸着用電極側の吸着力を測定した。
ウェハ面内温度バラツキは、静電チャックを300℃に加熱した状態で、両給電端子に+250V、8インチの測温ウェハに−250Vを印加して吸着面にウェハを吸着させ、測定点13箇所の最大温度と最小温度と差を測定点13箇所の平均値で除した値をバラツキとして計算した。面内温度のバラツキが小さい試料ほど、ウェハWの均熱性が優れていると言える。
本発明の比較例として、吸着面と第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みに対する吸着面と第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みの比が0.5及び1.0の試料を準備し、それ以外は他の試料と同様に作製し、評価を行った。
試料No.7は、吸着面と第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みに対する吸着面と第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みの比が0.5であることから、第2の吸着用電極側の吸着力が第1の吸着用電極側の吸着力の4.2倍と大きいため吸着面とウェハ間の熱交換効率が悪く、ウェハ面内温度バラツキが15%と大きく劣っていた。
試料No.8は、吸着面と第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みに対する吸着面と第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みの比が1.0であることから、第2の吸着用電極側の吸着力が第1の吸着用電極側の吸着力の3.1倍と大きいため吸着面とウェハ間の熱交換効率が悪く、ウェハ面内温度バラツキが10%と大きかった。
また、試料No.12は吸着面と第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みに対する吸着面と第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みの比が6.0で本発明の範囲内であるが、第2の吸着用電極側の吸着力が第1の吸着用電極側の吸着力の0.67倍であるため、吸着面とウェハ間の熱交換効率が悪く、ウェハ面内温度バラツキが6%と劣っていた。
これに対し、試料No.1〜No.6及び試料No.9〜No.11は吸着面と第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みに対する吸着面と第2の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みの比が2.0〜5.0であり、第2の吸着用電極側の吸着力が第1の吸着用電極側の吸着力の0.84〜1.3倍となるため、吸着面とウェハ間の熱交換効率が良くなり、ウェハの面内温度バラツキが6%未満と小さく優れていた。
実施例1と同様に吸着用電極の形状を半円形の双極形とした。吸着用電極の材質としてWを用い、第1の吸着用電極と第2の吸着用電極の面積比が1.0、吸着面と第1の吸着用電極との間のセラミック誘電体層の厚みに対する吸着面と第2の吸着用電極の間のセラミック誘電体層の厚みの比を3.0とした窒化アルミニウムからなるセラミック基体を複数作製した。
その後、実施例1と同様に各セラミック基体の吸着面と反対側の表面に各吸着用電極に連通する穴を形成し、これらの穴に給電端子をロウ付けして静電チャックを作製した。
静電チャックの使用温度を変更してセラミック誘電体層の体積固有抵抗値が変化した時の吸着力についてそれぞれ測定を行なった。セラミック誘電体層の体積固有抵抗値は、実施例1と同様に測定した。
吸着力の測定は、静電チャックをそれぞれの使用温度に加熱した状態で、両給電端子に+250V、8インチ角のウェハに−250Vを印加して吸着面にウェハを吸着させ、このウェハをロードセルにて引き剥がすのに要した力を吸着力とした。また、この際生じる漏れ電流を微小電流計により測定した。
試料No.1は使用温度600℃において、セラミック誘電体層の体積固有抵抗値が107Ω・cmであることから吸着力が大きく、吸着面とウェハ間の熱交換効率が良くなるため、ウェハ面内温度バラツキが0.3%と優れていたが、漏れ電流が4mAと大きいためウェハ上の回路に悪影響を及ぼす虞があった。
試料No.5は使用温度50℃において、セラミック誘電体層の体積固有抵抗値が1014Ω・cmであることから漏れ電流が0.01mA未満となり優れていたが、吸着力が小さいため、吸着面とウェハ間の熱交換効率が悪くなり、ウェハ面内温度バラツキが6%と劣っていた。
これに対し、試料No.2〜No.4は、使用温度120℃〜500℃において、セラミック誘電体層の体積固有抵抗値が108Ω・cm〜1013Ω・cmであることから、ジョンソン・ラーベック力により大きな吸着力が得られるため、吸着面とウェハ間の熱交換効率が良くなり、面内温度バラツキが1%以下と優れていた。
(a)は本発明の概略の斜視図、(b)は(a)のX−X線の概略の断面図を示す。
(a)〜(d)は静電吸着用の電極の様々なパターン形状を示す概略の平面図である。
本発明に係る静電チャックの製造方法を説明するための概略図である。
従来の静電チャックを示す概略図である。
従来の静電チャックを示す概略図である。
従来の静電チャックを示す概略図である。
符号の説明
1、41:静電チャック
2、42:セラミック基体
3、43:吸着面
4a、44a:第1の吸着用電極
4b、44b:第2の吸着用電極
5、45:給電端子
6、46:セラミック誘電体層