JP4835986B2 - 電動ステアリング制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両の電動ステアリング制御装置に関し、特に、ドライブシャフトの配置及び特性に起因する定常的及び過渡的なトルクステアを低減する電動ステアリング制御装置に係る。
一般的に、操向車輪が駆動車輪である車両のステアリング装置において、駆動力の変化に応じて操舵力や保舵力が変化する現象がトルクステアと呼ばれており、このトルクステアを抑制することが望まれている。例えば後掲の特許文献1には、駆動力(又は制動力)を左右輪それぞれ独立して(又は左右輪に対して配分して)制御して車両の操縦性及び安定性を向上させるようにした左右輪制御システムを搭載した車両が開示されている。具体的には、上記の制御により左右不均等な駆動力(又は制動力)が操向輪(転舵輪)に作用した場合に、操向輪側からハンドルを回してしまうトルクステアを抑制することを目的として、駆動力又は制動力を左右輪に対してそれぞれ独立して制御し得る左右輪制御による駆動力又は制動力における左右輪間の制御値に差が生じたときに、該制御値の差により発生するトルクステアを打ち消す向きに操向輪を転舵させるためのトルクステア防止補助トルク信号を出力し、電動機を制御する電動パワーステアリング装置が提案されている。
更に、後掲の特許文献2において、上記特許文献1では左右輪の間の制御値に差が発生した場合のみ、つまり左右輪に回転差が発生した場合のみにトルクステアの抑制制御を行っているが、摩擦抵抗の大きい路面上では、左右輪間に回転差が生じていない状態、あるいは微小な回転差が発生している場合でも、トルクステアが発生しているとして、これを解決する装置が提案されている。即ち、左右駆動輪の回転差ではなく、トルクステアが発生するおそれのある左右の駆動軸の伝達トルク差をみて、トルクステアを打ち消すために、エンジントルクを検出または推定し、エンジントルクに対する左右の駆動軸にかかるトルク差の関係を記憶した記憶回路によって、トルクステア推定値を求め、左右の駆動軸の伝達トルク差によって発生するトルクステアを打ち消す操舵制御装置が提案されている。尚、操向車輪が駆動車輪である車両に関連し、下記の特許文献3に記載のように、四輪駆動式自動車等における左右輪への駆動力配分を行う駆動力配分装置も提案されている。
特開平11−129927号公報 特開2005−170116号公報 特開平5−77653号公報
然し乍ら、前掲の特許文献2のように、エンジントルクに対する左右の駆動軸トルク差の関係によるトルクステアの補償では、依然として、後述する過渡的なトルクステアを充分に低減することが困難となる。
ここで、トルクステアが発生する原因について解析する。トルクステアとは、操向車輪が駆動車輪となる車両(フロントエンジン・フロントドライブ車(所謂FF車)又は四輪駆動車)において、車両の加速時に、操向車輪側からステアリングホイールが転舵される現象(操向車輪がステアリングホイールを転舵する現象)をいう。このトルクステアの発生原因には、主として、「ドライブシャフトの等速ジョイントの折れ角」、及び「キングピンオフセットが存在する場合の左右車輪間での駆動力の差」が挙げられる。
先ず、(1)として「ドライブシャフトの等速ジョイントの折れ角によるトルクステア」について説明する。ドライブシャフトと車輪の関係を 図17に示すように、ドライブシャフトの等速ジョイントが折れ角θを持つ場合、ドライブシャフトが伝達する駆動トルクをTdrvとすると、下記(1)式に基づき、車輪を転舵しようとする2次偶力モーメントMzが発生する。
Mz=Tdrv・tan(θ/2) ---(1)
図18には、操向車輪が駆動車輪である車両におけるステアリング装置を含む部分に関し、正面及び平面の対応関係が明らかとなるように示されている。即ち、図18において、エンジンコンパートメントの空間効率を確保するために、エンジンEG及び変速機TRが、車両進行方向に対して横置きの配置とされている車両では、ドライブシャフト(駆動軸ともいう)DS1及びDS2の長さや取付け配置は、左右対称とはならない。そのため、駆動車輪に接続されるドライブシャフトのジョイント折れ角が左右の車輪WH1,WH2間で異なっている場合には、車輪を転舵するモーメント(転舵トルクともいう)Mzが、左右の車輪WH1,WH2間で差が生じ、車両の加速時に操向車輪がステアリングホイールSWを転舵するトルクステアが発生する。このように、ドライブシャフトの等速ジョイントの折れ角に起因するトルクステアを、定常的なトルクステアという。
次に、(2)として「キングピンオフセットが存在する場合の左右車輪間での駆動力の差によるトルクステア」について説明する。図18に示すように、操向車輪(WH1,WH2)は転舵可能となるようにキングピンKP1,KP2を有しており、転舵の中心点TC(キングピン軸と路面との交点)の位置と駆動力の着力点DPの位置は一致せず、その2点間の距離であるキングピンオフセットKPoが存在する(図18のKPcはホイールセンタ・キングピンオフセットを表す)。キングピンオフセットKPoが存在する場合は、車輪WH1,WH2に駆動力が作用する車両加速時には、車輪を転舵するトルク(転舵トルク)が発生するが、これは(駆動力)×(キングピンオフセット)として求められる。左右の車輪WH1,WH2間で駆動力が一致しておれば、この転舵トルクは相殺されてトルクステアは発生しないが、左右の車輪WH1,WH2の駆動力が相違する場合には、「操向車輪(左右車輪)がステアリングホイールを転舵するトルクステア」が発生する。
更に、上記(2)のように左右車輪間で駆動力が異なる場合としては、以下の三つの場合が考えられる。
(2−a)「ドライブシャフトの特性による駆動力左右差」
ドライブシャフトDS1及びDS2に特性差がある場合には、トルク伝達に過渡的な(動的な)差異が生じる。ドライブシャフトDS1及びDS2が、同一材質、同一断面形状であっても、それらの長さが異なると、ドライブシャフトのねじり剛性は異なる。車両が急加速する場合、ドライブシャフト長が短くねじり剛性が高い側の車輪では駆動力が僅かな遅れで、速やかに立ち上がる。これに対し、ドライブシャフト長が長くねじり剛性が低い側の車輪では駆動力の立ち上がりは緩やかとなる。そのため、過渡的な駆動力に左右差が生じ、これによるトルクステア(過渡的なトルクステアという)が発生する。
(2−b)「トラクション制御による駆動力左右差」
トラクション制御によって、一方の車輪に制動トルクが加えられると、その制動トルクに相当する他方の車輪の駆動力が増加する。特に、路面摩擦係数が左右車輪間で異なる、所謂μスプリット路面において、トラクション制御が作動した場合には、駆動力の左右差が大きく発生する。
(2−c)「駆動力配分装置による駆動力左右差」
左右車輪間に駆動力配分装置を備える場合にも、駆動力の左右差が発生する。尚、駆動力配分装置には、電子制御によるものと、機械的に差動を制限するもの(例えば、ビスカスカップリング等)があり、例えば前掲の特許文献3に開示されている。
そこで、本発明は、電動ステアリング制御装置において、簡便な装置によって効果的にトルクステアを低減することを課題とし、特に、加速操作が所定値以上となったときに、ドライブシャフトの特性、例えばドライブシャフトのねじり剛性差による駆動力左右差に起因する過渡的なトルクステアを効果的に低減することを目的とする。
上記の課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載のように、動力源が発生する動力を、ドライブシャフトを介して駆動車輪に伝達する車両における操向車輪が前記駆動車輪である当該車両に搭載し、当該車両のステアリングホイールの操舵トルクを制御する操舵トルク制御手段を備えた電動ステアリング制御装置において、運転者の加速操作を検出する加速操作検出手段を備え、前記操舵トルク制御手段は、前記加速操作検出手段が検出する加速操作量が所定値以上となったときに、前記ドライブシャフトの特性に起因して前記ステアリングホイールに過渡的に発生するトルクステアを低減させるトルクステア低減トルクを、パルス波形として決定し、該パルス波形のトルクステア低減トルクを前記ステアリングホイールに付与することとしたものである。
あるいは、請求項2に記載のように、動力源が発生する動力を、ドライブシャフトを介して駆動車輪に伝達する車両における操向車輪が前記駆動車輪である当該車両に搭載し、当該車両のステアリングホイールの操舵トルクを制御する操舵トルク制御手段を備えた電動ステアリング制御装置において、運転者の加速操作を検出する加速操作検出手段を備え、前記操舵トルク制御手段は、前記車両の発進時に、前記加速操作検出手段が検出する加速操作量が所定値以上となったときに、前記ドライブシャフトの特性に起因して前記ステアリングホイールに過渡的に発生するトルクステアを低減させるトルクステア低減トルクを、パルス波形として決定し、該パルス波形のトルクステア低減トルクを前記ステアリングホイールに付与するように構成してもよい。
上記電動ステアリング制御装置において、前記操舵トルク制御手段は、請求項3に記載のように前記加速操作量の時間変化を演算する加速操作速度演算手段を備えたものとし、前記操舵トルク制御手段が、前記パルス波形の形状を前記加速操作量、及び前記加速操作速度演算手段が演算する加速操作速度のうちの少なくとも一方に応じて決定するように構成してもよい。
更に、請求項に記載のように、前記車両が前記動力源と前記ドライブシャフトの間に介装する変速機を備えたものであれば、前記操舵トルク制御手段は、前記変速機の減速比が所定値より小さいときには、前記トルクステア低減トルクの付与を禁止するように構成とするとよい。また、請求項に記載のように、前記車両の速度を検出する車両速度検出手段を備えたものであれば、前記操舵トルク制御手段は、前記車両速度検出手段の検出する車両速度が所定値より大きいときには前記トルクステア低減トルクの付与を禁止するように構成してもよい。
そして、請求項に記載のように、前記操舵トルク制御手段を、前記トルクステア低減トルクの付与を、前記ステアリングホイールの右旋回方向及び左旋回方向のうちで、前記ドライブシャフトの特性によって予め定まる何れか一方向に限定して行うように構成してもよい。
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の電動ステアリング制御装置においては、加速操作量が所定値以上となったときに、ドライブシャフトの特性に起因してステアリングホイールに過渡的に発生するトルクステアを低減させるトルクステア低減トルクを、パルス波形として決定し、このパルス波形のトルクステア低減トルクをステアリングホイールに付与するように構成されているので、トルクステア低減トルクを容易に決定することができ、簡便な装置によって、ドライブシャフトの特性に起因する過渡的なトルクステアを効果的に低減することができ、車両の加速時において運転者の操舵違和感を低減することができる。
特に、過渡的なトルクステアは、主として車両の発進加速時に発生することから、請求項2に記載の電動ステアリング制御装置によれば、車両の発進加速時にトルクステア低減制御が実行されるので、ドライブシャフトの特性に起因する過渡的なトルクステアを、効果的に低減することができる。
例えば、請求項3に記載のように構成すれば過渡的なトルクステアを一層容易且つ適切に低減することができる。
更に、請求項乃至に記載のように構成すれば、不必要なトルクステア低減トルクの付与を抑制することができ、運転者に対し違和感を与えることなく、過渡的なトルクステアを適切に低減することができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る電動ステアリング制御装置の構成を示すもので、例えば図2に示す車両に搭載される。即ち、動力源としてエンジンEGが発生する動力を、変速機TR及びドライブシャフトDSfl及びDSfrを介して駆動車輪たる車輪WHfr及びWHflに伝達する車両に搭載されるもので、車輪WHfr及びWHflは、ステアリングホイールSWの操作によって転舵される操向車輪でもある。この電動ステアリング制御装置は操舵トルク制御手段を備えており、図1に示す操舵トルク検出手段M1によってステアリングホイールSWの操舵トルクTsが検出され、その検出結果に基づき、パワーステアリング補助トルク目標値決定手段M2において、運転者の操舵力を軽減するためにパワーステアリング制御に補助トルクとして供されるトルクの目標値が演算され、補助トルク目標値Tpsとして出力される。
一方、加速操作検出手段M3によって、運転者の加速操作が検出され、加速操作量Apが出力される。この加速操作量Apは、運転者の操作から駆動力を発生する動力源への入力までにおいて、何れかの個所で検出することができる。例えば、運転者の操作を直接検出するのであれば、アクセルペダルの操作量が加速操作量Apとなる。また、動力源への入力を検出するのであれば、ガソリンエンジンではスルットル開度、ディーゼルエンジンでは燃料噴射量、電気モータでは駆動電流・電圧が加速操作量Apとなる。従って、これらの情報源の間に存在するのであれば、これら以外の情報を検出するものであっても、加速操作検出手段とすることができる。而して、加速操作検出手段M3の検出結果に基づき、判定手段M4において、トルクステア低減トルクを付与するか否かが判定される。
判定手段M4においては、加速操作量Apが所定値Ap1以上となったときに、トルクステア低減トルクの付与が許可される。あるいは、加速操作量Apに基づいて加速操作速度dApを演算し、加速操作量Apが所定値Ap1以上、且つ加速操作速度dApが所定値dAp1以上であるときに、トルクステア低減制御を許可するように判定することとしてもよい。これは、大きな加速操作量であっても緩やかな加速操作変化であれば、ドライブシャフトの過渡的な駆動力差は発生せず、従って、過渡的なトルクステアは生じないためである。
そして、トルクステア低減トルク目標値決定手段M5において、トルクステア低減トルク目標値Ttsが決定される。このトルクステア低減トルク目標値Ttsは、後述するようにパルス波形として決定される。このパルス波形は、予め設定される固定形状とすることができる。更に、パルス波形は、加速操作量Ap及び加速操作速度dApのうち、少なくとも何れか一方に基づいて可変形状とすることもできる。而して、上記のパワーステアリング制御に供する補助トルク目標値Tpsにトルクステア低減トルク目標値Ttsが加算され、モータ駆動制御手段M6によって、電気モータMTが制御される。
更に、図1に一点鎖線で示すように、変速機状態検出手段M7を設け、図2の変速機TRの変速比Rtを、判定手段M4における判定処理に供することとしてもよい。動力源(エンジンEG)が発生する動力は、変速機TRの減速比(変速比×最終減速比)によって増幅されるため、変速機TRの変速比Rtが小さい場合には、ドライブシャフトに伝達される駆動トルクは、トルクステアを発生させるほどには大きくはならない。そこで、変速機TRの変速比Rtが所定値Rt1より小さい場合には、加速操作量Apが所定値Ap1以上となったときでも、トルクステア低減トルクの付与を禁止し、不必要な操舵トルクの変化を抑制するとよい。また、車両速度が高くなると、変速機TRはシフトアップし、変速比が低くなるため、図1に破線で示すように、車両速度検出手段M8を設け、車両速度Vxが所定値Vx1より大きくなった場合には、トルクステア低減トルクの付与を禁止することとしてもよい。
上記電動ステアリング制御装置は、前述のように図2に示す車両に搭載され、エンジンEGは、変速機TRと共にエンジンコンパートメント内に横置きに配置されている。変速機TR内には、差動装置DFが配置され、エンジンEGによって発生する駆動力は、駆動車輪且つ操向車輪である車輪WHfr及びWHflに分配される。
車両には、エンジンEGを制御するエンジン電子制御ユニットECU1、ステアリングシステムを制御するステアリング電子制御ユニットECU2、変速機を制御する変速機電子制御ユニットECU3、及びブレーキシステム(BRK等)を制御するブレーキ電子制御ユニットECU4が、通信バスを介して接続されている。この通信バスを通して、センサ信号、及び各電子制御ユニット内の処理信号を共有することができる。
エンジンEGには、エンジン出力を制御するためにスロットルバルブTHが設けられる。スロットルバルブTHの開度は、スロットルアクチュエータTAによって調節され、そのスロットル開度Tkはスロットル開度センサTKによって検出される。また、エンジン回転数Ekを検出するエンジン回転数センサEKも設けられる。そして、運転者の加速要求が、アクセルペダルに設けられるアクセルペダルセンサAPによって、アクセルペダル操作量Apとして検出される。而して、これらの検出結果のアクセルペダル操作量Ap、エンジン回転数Ek、及びスロットル開度Tkに基づき、エンジン電子制御ユニットECU1にて、スロットルアクチュエータTAが制御される。
上記のように、本実施形態では、動力源としてガソリンエンジン(EG)を用いた車両を示しているが、前述のように、駆動力を発生させるための公知の動力源を利用することができ、ディーゼルエンジン等の内燃機関のほか、電気モータを利用する電気自動車(EV)、更には、これらを組み合わせたハイブリッド車両(HEV)を用いることも可能である。
一方、ステアリングシステムは、運転者の操舵力を低減するために、ステアリングシャフトに設けられた操舵トルクセンサTSに基づき、ステアリングホイールSWに作用する操舵トルクを制御するように構成されている。具体的には、ステアリング電子制御ユニットECU2が、操舵トルクセンサTSによって検出された操舵トルクTsに応じて、電気モータMTを制御するように構成されている。更に、車両速度Vxを考慮して電気モータMTを制御するように構成することもできる。この制御は、所謂パワーステアリングの制御であり、電気モータMTを用いるため、電動パワーステアリングとも呼ばれる。
更に、車両の加速時等において、車輪WHfr及びWHflがステアリングホイールSWを転舵しようとするトルクステア現象が発生するが、これを低減するトルクステア低減トルクも、後述するように、電気モータMTによって付与される。尚、このようにトルクステアを低減する制御を、トルクステア低減制御という。
変速機TRには、変速比Rtを検出するギア位置センサGPが設けられており、その出力の変速比Rtが変速機電子制御ユニットECU3に供給される。変速機TRとしては、手動トランスミッション(マニュアルトランスミッション)、自動トランスミッション(オートマティックトランスミッション)、無段変速機(CVT)等、公知の変速機が用いられる。また、通信バスには、ブレーキ電子制御ユニットECU4が接続され、これに入力される車輪速度センサWSの検出車輪速度に基づき、車両速度Vxが演算される。
上記のように構成された電動ステアリング制御装置の作動を、図3に示すフローチャートを参照して説明する。先ず、ステップ101において制御の初期化が行われた後、ステップ102にてセンサ信号、及び通信バス上の通信信号が読み込まれる。続いて、ステップ103においてフィルタ処理などの信号処理演算が行われる。次に、ステップ104にて、操舵トルクTsに基づき、パワーステアリング制御に供する補助トルク目標値Tpsが演算される。そして、ステップ105において、トルクステア低減トルク目標値Ttsが演算されるが、これについては図4を参照して後述する。更に、ステップ106において補助トルク目標値Tpsにトルクステア低減トルク目標値Ttsが加算され、これに基づいて電気モータMTの電流指令値が演算される。そして、この電流指令値に基づき、ステップ107において、電気モータMTの駆動制御が行われる。
上記トルクステア低減トルク目標値Ttsは、図4に示すフローチャートに従って演算される。先ず、ステップ201において、トルクステア低減制御が実行中であるか否かが判定される。ここで実行中ではないと判定されると、ステップ202に進み、トルクステア低減制御を開始するか否かが判定される。ここでは、運転者の加速操作量Apが所定値Ap1以上のときにトルクステア低減制御の開始と判定される。ステップ202において、トルクステア低減制御の開始不要と判定されると、ステップ204に進み、トルクステア低減トルク目標値Ttsがゼロ(0)に設定される。これに対し、トルクステア低減制御の開始が必要と判定されると、ステップ205にてトルクステア低減トルク目標値Ttsが演算される。
一方、トルクステア低減制御が実行中であるときには、ステップ201からステップ203に進み、トルクステア低減制御を終了するか否かが判定され、トルクステア低減制御の終了が否定されると、ステップ205に進み、トルクステア低減トルク目標値が演算される。そして、トルクステア低減制御の終了条件が充足されると、ステップ204にてトルクステア低減トルク目標値がゼロに設定される。
上記ステップ202におけるトルクステア低減制御の開始条件は、図5に示すフローチャートに従って判定される。先ず、ステップ301において、読み込まれた運転者のアクセルペダルAPの操作量(加速操作量Ap)が所定値Ap1と比較され、加速操作量Apが所定値Ap1以上であると判定されると、ステップ302に進み、加速操作量Apの時間変化量である加速操作速度dApが所定値dAp1と比較される。ステップ302において、加速操作速度dApが所定値dAp1以上であると判定されると、更にステップ303に進み、変速機TRの変速比Rtが所定値Rt1と比較される。而して、ステップ303において変速比Rtが所定値Rt1以上であると判定されると、ステップ304に進み、トルクステア低減制御が実行される。
一方、ステップ301において加速操作量Apが所定値Ap1未満と判定されたときには、大きな駆動トルクはドライブシャフトDS1及びDS2に伝達されず、過渡的なトルクステアは発生しないため、トルクステア低減制御は実行されることなく、図4のルーチンに戻る。また、ステップ302において加速操作速度dApが所定値dAp1未満と判定され、緩やかな加速操作であるときにも、過渡的なトルクステアは発生しないため、トルクステア低減制御は実行されない。更に、動力源が発生する駆動力は、変速比に応じて増大するため、変速比Rtが所定値Rt1より小さい場合には、ドライブシャフトに伝達される駆動トルクは小さく、過渡的なトルクステアは発生しないため、トルクステア低減制御は実行されない。
上記ステップ303においては、変速比に基づいて判定されるが、車両速度が高くなれば変速機TRはシフトアップされ、低い変速比に変更される。従って、ステップ303の判定処理に代えて、車両速度Vxが所定値Vx1より大きいときには、トルクステア低減制御を禁止するようにしてもよい。
ところで、ドライブシャフトの特性に起因する過渡的なトルクステアは、車両の発進時に生じやすい。そのため、図6に示すように、発進時(即ち、車両速度Vxが略ゼロ(0)のとき)にトルクステア低減制御を実行するように設定してもよい。即ち、ステップ401において、車両速度Vxが略0である場合には、ステップ402に進み、加速操作量Apが所定値Ap1と比較され、所定値Ap1以上であると判定されると、更にステップ403に進み、加速操作速度dApが所定値dAp1と比較される。而して、加速操作速度dApが所定値dAp1以上であると判定されると、ステップ404にてトルクステア低減制御が開始される。尚、ステップ401乃至403の条件を充足しない場合には、トルクステア低減制御は実行されない。
上記のステップ301及びステップ302、並びにステップ402及びステップ403においては、トルクステア低減制御の開始条件が、加速操作量Ap≧Ap1、且つ、加速操作速度dAp≧dAp1とされている。従って、トルクステア低減制御が実行される領域は、図7の斜線で表される領域となる。尚、ステップ302あるいはステップ403を省略して、加速操作量Ap≧所定値Ap1bをトルクステア低減制御の開始条件とすることができる。このときのトルクステア低減制御の実行領域は、図8に斜線で表される領域となる。更に、図9のように、トルクステア低減制御の実行領域(図9では点描で表す)を加速操作量Apと加速操作速度dApとの関係に基づいて設定することもできる(Ap1c及びdAp1cは基準とする所定値)。このとき、加速操作量Ap<Ap0c、又は、加速操作速度dAp<dAp0cでは、トルクステア低減制御を実行しないように不感帯(図9に斜線で表す)を設けることもできる。
図4のステップ205におけるトルクステア低減トルク目標値Ttsは、図10に示すように設定される。先ず、加速操作量Apが制御開始閾値Ap1以上になったとき(t11時)に、トルクステア低減トルク目標値Ttsはパルス波形として出力される。操舵トルク目標値Ttsの時系列波形は、予め定められた固定のパルス波形として決定される。駆動車輪がステアリングホイールを転舵しようとするトルクステア現象は、ドライブシャフトの特性に起因しているため、右旋回及び左旋回のうち、何れか一方の旋回方向にのみ発生し、予め、トルクステアの大きさと方向については把握することが可能である。そのため、固定のトルクステア低減トルク波形であっても、完全にはトルクステアを打ち消すことはできないものの、トルクステアを効果的に低減することが可能である。トルクステア低減トルク目標値のパルス波形は、図10に示すような、矩形波(a)、三角波(b)、又は台形波(c)とすることができ、あるいは、関数・マップを用いた波形(図示せず)とすることもできる。
また、動力源の特性によっては、運転者の加速操作から、動力源の駆動力の出力までに、ある程度の時間遅れが存在する場合がある。そのため、図10において破線で示すパルス波形のように、トルクステア低減トルク目標値Ttsを、制御開始しきい値Ap1以上となった後、所定時間tdly遅らせて出力するように設定することもできる。これにより、ドライブシャフトに駆動力が伝達されるタイミングに合致させて、トルクステア低減制御を行うことができる。
更に、トルクステアを適切に打ち消すために、トルクステア低減トルク目標値Ttsのパルス波形を、加速操作量Ap及び加速操作速度dApのうちの、少なくとも何れか一方に応じて可変とすることができる。即ち、図11に示すように、パルス波形の出力時間Tpls、トルクステア低減トルク目標値Ttsの増加勾配KTup、トルクステア低減トルク目標値Ttsの最大値Ttsm、その最大値の保持時間Thld、及びトルクステア低減トルク目標値Ttsの減少勾配KTdwnのパラメータのうち、少なくとも何れか一つ以上を、加速操作量Ap又は加速操作速度dApに応じて可変設定することができる。
そして、より適切に過渡的なトルクステアを低減するため、図12及び図13に示すように加速操作量Apに応じて上記の各パラメータを設定することにより、トルクステア低減トルク目標値Ttsを、加速操作量Apに応じて以下のように決定することができる。尚、以下の(A)、(B)、(C)及び(D)は、図12及び図13における縦軸のパラメータ(A)、(B)、(C)及び(D)に夫々対応している。但し、図12の縦軸の各パラメータのスケールは夫々異なるが、加速操作量Apに対する相対的な関係が同様であるので、三つの図をまとめて記載したものであり、スケールが一致することを表すものではない。
(A)加速操作量Apが大きいときには、トルクステア低減トルク目標値Ttsの増加勾配KTupを大きく設定し、トルクステア低減トルクを速やかに立ち上げるようにすることができる。
(B)加速操作量Apが大きいときには、トルクステア低減トルク目標値Ttsの最大値Ttsmを大きく設定して、トルクステア低減トルクをより大きく与えるようにすることができる。
(C)加速操作量Apが大きいときには、トルクステア低減トルク目標値Ttsの最大値Ttsmの保持時間Thldを長く設定して、トルクステア低減トルクを充分に与えるようにすることができる。
(D)加速操作量Apが大きいときには、トルクステア低減トルク目標値Ttsの減少勾配KTdwnを小さく設定して、トルクステア低減トルクを緩やかに立ち下げるようにすることができる。
同様に、より適切に過渡的なトルクステアを低減するため、図14及び図15に示すように加速操作速度dApに応じて上記の各パラメータを設定することにより、トルクステア低減トルク目標値Ttsを、加速操作速度dApに応じて以下のように決定することができる。尚、以下の(a)、(b)、(c)及び(d)は、図14及び図15における縦軸のパラメータ(a)、(b)、(c)及び(d)に夫々対応している。但し、図14の縦軸の各パラメータについても、図12と同様、スケールが一致することを表すものではない。
(a)加速操作速度dApが大きいときには、トルクステア低減トルク目標値Ttsの増加勾配KTupを大きく設定し、トルクステア低減トルクを速やかに立ち上げるようにすることができる。
(b)加速操作速度dApが大きいときには、トルクステア低減トルク目標値Ttsの最大値Ttsmを大きく設定して、トルクステア低減トルクをより大きく与えるようにすることができる。
(c)加速操作速度dApが大きいときには、トルクステア低減トルク目標値Ttsの最大値Ttsmの保持時間Thldを長く設定して、トルクステア低減トルクを充分に与えるようにすることができる。
(d)加速操作速度dApが大きいときには、トルクステア低減トルク目標値Ttsの減少勾配KTdwnを小さく設定して、トルクステア低減トルクを緩やかに立ち下げるようにすることができる。
次に、図4のステップ203におけるトルクステア低減制御終了条件は、図16に示すように行われる。先ず、ステップ501においてトルクステア低減トルク目標値Ttsがゼロか否かが判定される。既に加速操作量Apが所定値Ap1以上であったとしても、制御開始時に与えられたパルス波形において、トルクステア低減トルク目標値Ttsがゼロとなった場合には、ステップ504に進み、トルクステア低減制御は終了する。また、トルクステア低減トルク目標値Ttsのパルス波形がゼロとなっていない場合でも、ステップ502において、加速操作量Apが所定値Ap2未満となって車両の加速状態が低くなったと判定された場合、あるいは、ステップ503において、変速機TRがシフトアップされて変速比Rtが所定値Rt2より小さくなったと判定された場合には、ステップ504に進み、トルクステア低減制御は終了する。尚、これらの終了条件を充足した場合には、トルクステア低減トルク目標値Ttsを急激にゼロに低下させるのではなく、減少勾配の閾値を設け、徐々に低下させるように設定することができる。これにより、ステアリングホイールSWに対する急激な操舵トルク変動を回避することができる。
以上の実施形態では、運転者の加速操作は、アクセルペダルAPの操作量によって検出することとしているが、前述のように、加速操作は、運転者の操作から駆動力を発生する動力源への入力までにおいて何れかの個所で検出することができる。従って、加速操作はアクセルペダルの操作に限定されるのではない。例えば、スロットル開度、燃料の噴射量、電気モータの駆動電流・電圧等を用いて、運転者の加速操作を検出することができる。
ドライブシャフトDS1及びDS2の特性は、予め把握することが可能であり、運転者の加速操作が所定値以上となったときに、ドライブシャフトの特性差に起因する過渡的なトルクステアを低減する操舵トルクをステアリングホイールに付与し、車両の加速時において運転者の操舵違和感を低減することができる。また、付与されるトルクステア低減トルクは、固定の、又は、加速操作に応じたパルス波形として決定されるため、車輪の駆動力を検出・推定することを必要としない。更に、トルクステア低減制御の実行においては、変速機の変速比が考慮されるため、不必要なときにトルクステア低減トルクが付与されることはなく、運転者に対し違和感を与えることがない。
上記のように過渡的なトルクステアを低減することによって、車両の加速時に発生する、操向車輪がステアリングホイールを転舵しようとするトルクステアを、効果的に低減することができる。また、過渡的なトルクステアは、主として車両の発進加速時に発生するので、前述のように、車両の発進加速時(車両の速度が略ゼロで、加速操作が所定値以上のとき)にトルクステア低減制御を実行することにより、ドライブシャフトの特性に起因する過渡的なトルクステアを、効果的に低減することができる。
本発明の一実施形態に係る電動ステアリング制御装置の構成を示すブロック図である。 本発明の一実施形態に係る電動ステアリング制御装置を備えた車両の全体構成を示す構成図である。 本発明の一実施形態におけるステアリング制御例を示すフローチャートである。 本発明の一実施形態におけるトルクステア低減トルク目標値の演算処理例を示すフローチャートである。 本発明の一実施形態におけるトルクステア低減制御開始条件の処理例を示すフローチャートである。 本発明の一実施形態におけるトルクステア低減制御開始条件の他の処理例を示すフローチャートである。 本発明の一実施形態において、トルクステア低減制御の実行領域を設定するためのマップの一例を示すグラフである。 本発明の一実施形態において、トルクステア低減制御の実行領域を設定するためのマップの他の例を示すグラフである。 本発明の一実施形態において、トルクステア低減制御の実行領域を設定するためのマップの更に他の例を示すグラフである。 本発明の一実施形態において、トルクステア低減トルク目標値を設定するためのマップ例を示すグラフである。 本発明の一実施形態において、トルクステア低減トルク目標値のパルス波形のパラメータを示すグラフである。 本発明の一実施形態において、パルス波形の各パラメータを加速操作量に応じて設定するためのマップ例を示すグラフである。 本発明の一実施形態において、パルス波形のパラメータを加速操作量に応じて設定するためのマップ例を示すグラフである。 本発明の一実施形態において、パルス波形の各パラメータを加速操作速度に応じて設定するためのマップ例を示すグラフである。 本発明の一実施形態において、パルス波形のパラメータを加速操作速度に応じて設定するためのマップ例を示すグラフである。 本発明の一実施形態におけるトルクステア低減制御終了条件の処理例を示すフローチャートである。 一般的な車両におけるドライブシャフトと駆動車輪の関係を示す斜視図である。 操向車輪が駆動車輪である車両において、ステアリング装置を含む部分の正面及び平面図である。
符号の説明
M1 操舵トルク検出手段
M2 パワーステアリング補助トルク目標値決定手段
M3 加速操作検出手段
M4 判定手段
M5 トルクステア低減トルク目標値決定手段
M6 モータ駆動制御手段
M7 変速機状態検出手段
M8 車両速度検出手段
ECU1 エンジン電子制御ユニット
ECU2 ステアリング電子制御ユニット
ECU3 変速機電子制御ユニット
ECU4 ブレーキ電子制御ユニット
SW ステアリングホイール
MT 電気モータ
EG エンジン
TR 変速機
WHfr,WHfl 車輪
AP アクセルペダルセンサ
TS 操舵トルクセンサ
TK スロットル開度センサ

Claims (6)

  1. 動力源が発生する動力を、ドライブシャフトを介して駆動車輪に伝達する車両における操向車輪が前記駆動車輪である当該車両に搭載し、当該車両のステアリングホイールの操舵トルクを制御する操舵トルク制御手段を備えた電動ステアリング制御装置において、運転者の加速操作を検出する加速操作検出手段を備え、前記操舵トルク制御手段は、前記加速操作検出手段が検出する加速操作量が所定値以上となったときに、前記ドライブシャフトの特性に起因して前記ステアリングホイールに過渡的に発生するトルクステアを低減させるトルクステア低減トルクを、パルス波形として決定し、該パルス波形のトルクステア低減トルクを前記ステアリングホイールに付与することを特徴とする電動ステアリング制御装置。
  2. 動力源が発生する動力を、ドライブシャフトを介して駆動車輪に伝達する車両における操向車輪が前記駆動車輪である当該車両に搭載し、当該車両のステアリングホイールの操舵トルクを制御する操舵トルク制御手段を備えた電動ステアリング制御装置において、運転者の加速操作を検出する加速操作検出手段を備え、前記操舵トルク制御手段は、前記車両の発進時に、前記加速操作検出手段が検出する加速操作量が所定値以上となったときに、前記ドライブシャフトの特性に起因して前記ステアリングホイールに過渡的に発生するトルクステアを低減させるトルクステア低減トルクを、パルス波形として決定し、該パルス波形のトルクステア低減トルクを前記ステアリングホイールに付与することを特徴とする電動ステアリング制御装置。
  3. 前記加速操作量の時間変化を演算する加速操作速度演算手段を備え、前記操舵トルク制御手段は、前記パルス波形の形状を前記加速操作量、及び前記加速操作速度演算手段が演算する加速操作速度のうちの少なくとも一方に応じて決定することを特徴とする請求項1又は2記載の電動ステアリング制御装置。
  4. 前記車両は前記動力源と前記ドライブシャフトの間に介装する変速機を備え、前記操舵トルク制御手段は、前記変速機の減速比が所定値より小さいときには、前記トルクステア低減トルクの付与を禁止することを特徴とする請求項1又は2記載の電動ステアリング制御装置。
  5. 前記車両の速度を検出する車両速度検出手段を備え、前記操舵トルク制御手段は、前記車両速度検出手段の検出する車両速度が所定値より大きいときには前記トルクステア低減トルクの付与を禁止することを特徴とする請求項1又は2記載の電動ステアリング制御装置。
  6. 前記操舵トルク制御手段は、前記トルクステア低減トルクの付与を、前記ステアリングホイールの右旋回方向及び左旋回方向のうちで、前記ドライブシャフトの特性によって予め定まる何れか一方向に限定して行うことを特徴とする請求項1又は2記載の電動ステアリング制御装置。
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