以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。本発明に係る変速アクチュエータ構造を適用した車両の一例として、図1及び図2に自動二輪車の正面図及び右側面図を示しており、まず、これらの図面を参照して自動二輪車1の車体構成について概要説明する。
自動二輪車1は、車体2の骨格となる車体フレーム3を有している。車体フレーム3は車両前方から、ヘッドパイプ5、このヘッドパイプ5から後側に斜め下方に延びるメインパイプ6、メインパイプ6の後方中間部に固着されて斜め上方に延びるリヤパイプ7、メインパイプ6の後端部に固着されて下方に延びる支持フレーム8などから構成される。
ヘッドパイプ5には、ステアリングシャフト9が回転自在に枢着されており、このステアリングシャフト9の下側にテレスコピック型サスペンションを備えて伸縮自在なフロントフォーク10を介して前輪FWが回転自在に懸架支持されている。ステアリングシャフト9の上端部には、図示省略するハンドルポストを介して左右に延びるバー状のハンドル11が取り付けられ、前輪FWを操舵可能に構成される。
一方、車体後部では、リヤパイプ7の後部が略水平に後方に延びてシートレールが設けられ、乗員が座る鞍乗り型のシート12が取り付けられている。また、支持フレーム8の下部に後輪RWを回転自在に軸支するスイングアーム13が上下に揺動自在に支持され、スイングアーム13の後部とリヤパイプ7との間に設けられたリヤサスペンション14によって懸架されている。
車体フレーム3の中間部には、エンジン及び変速機を一体化したパワーユニットPUがメインパイプ6の下側に吊り下げられるようにして取り付けられ(図3を併せて参照)、このパワーユニットPUの出力軸(後に詳述する変速機60のカウンタシャフト65)に結合されたドライブスプロケット67からチェーン15を介して後輪RWに伝達される。車体フレーム3の後部には、シート12の下側に位置して燃料タンク16が取り付けられ、燃料チューブを介して車体前方の燃料噴射装置17に供給される。車体3の下部には、シート12に着座して運転操作を行う乗員の足乗せステップ20がパワーユニットPUの側部に位置して左右外方に突出して設けられ、その後方にサイドスタンド23及びセンタースタンド24が設けられている。
車体フレーム3は、カバー25によってほぼ全体が覆われている。カバー25は、ヘッドパイプ5を前方から覆うフロントカバー25a、メインパイプ6及びエンジン等を覆うメインパイプカバー25b、メインパイプカバー25bの側部に取り付けられて乗員の脚部前方を覆う左右一対のレッグシールド25c、左右のメインパイプカバー25bを下部で連結するアンダーカウル25d、メインパイプ6の後部からリアパイプ7及び燃料タンク16を覆うボディカバー25eなどから構成される。
このように概要構成される自動二輪車1にあって、パワーユニットPUは、回転駆動力を発生するエンジンと、切換可能な複数の速度段を有してアクチュエータにより変速作動が行われる変速機とを主体として構成され、パワーユニットケースの内部に一体的に設けられている。
図3〜図6にパワーユニットPUを示しており、以下これらの各図を参照してパワーユニットPUの構成について説明する。ここで、図3はパワーユニットPUを左側から見たユニット内部の配置構成図(図4におけるIII〜矢視方向の側面図)、図4はエンジン40のクランクシャフト45、変速機60のメインシャフト61及びカウンターシャフト65を含む面での要部断面図、図5は図4におけるV〜矢視方向の側断面図、図6はシフトスピンドル101とクラッチ装置52及びクラッチレリーズ機構120との関係を主として示す断面図である。なお、本実施形態においては、説明中に特記しない限り車体2における前後左右及び上下をもって方向を規定し、図1及び図2に示す矢印Fの方向を前方、矢印Rの方向を右方、矢印Uの方向を上方と称して説明する。
パワーユニットケース30は、図4に示すように、クランクケース31と、クランクケース31の右側面に結合されたクラッチケース33と、クランクケース31の左側面に結合されたACGケース34等から構成される。なお、クランクケース31は、シリンダの中心軸線を境界として左右分割成型された右クランクケース部材31Rと左クランクケース部材31Lとからなり、詳細図示省略するノックピンで位置決めされたうえでボルト締結されて一体のクランクケースを構成する。
パワーユニットケース30の前部には、エンジン40のシリンダブロック41が取り付けられ、その前方にシリンダヘッド42が結合されている。シリンダブロック41の内部にはピストン43が前後方向に摺動自在に嵌合され、コンロッド44及びクランクピンを介してクランクシャフト45に接続される。クランクシャフト45は、ボールベアリング35a,35b,35cを介して、クランクケース31、およびクラッチケース33に支承され、パワーユニットケース30の内部に左右方向に延びて回転自在に配設されている。
クランクシャフト45の左部には、カムドライブスプロケット46が結合さるとともに、シリンダヘッド42に回転自在に支承されたカムシャフトの左端部に結合されたカムドリブンスプロケット47との間にカムチェーン48が巻き掛けられて接続され、クランクシャフト45の回転により吸気バルブおよび排気バルブが開閉作動される。クランクシャフト45の左端部にはACG(交流発電機)49が配設され、クランクシャフト45の右端部には発進クラッチ50が配設されている。
変速機60は、クランクシャフト45に接続されるメインシャフト61と、このメインシャフトに接続されたカウンタシャフト65とを備えており、メインシャフト61とカウンタシャフト65との間に複数の変速段を確立するためのギヤ列70が設けられる。メインシャフト61は、ボールベアリング62a,62bを介してクランクケース31に回転自在に支承され、クランクシャフト45と平行に配設される。カウンタシャフト65は、ボールベアリング66a,66bを介してクランクケース31に回転自在に支承され、クランクシャフト45およびメインシャフト61と平行に配設される。メインシャフト61の右端部にはクラッチ装置52が配設され、カウンタシャフト65の左端部にはドライブスプロケット67が取り付けられている。
エンジン40のクランクシャフト45と変速機60のメインシャフト61とは、発進クラッチ50、1次減速装置51、およびクラッチ装置52を介して互いに接続され、クランクシャフト45の回転駆動力が発進クラッチ50、1次減速装置51、およびクラッチ装置52を介してメインシャフト61に伝達される。メインシャフト61に伝達された(クランクシャフト45からの)回転駆動力は、メインシャフト61とカウンターシャフト65との間に設けられたギヤ列70において所定の変速比で変速されてカウンタシャフト65に伝達され、このカウンターシャフト65の左端に結合されたドライブスプロケット67からチェーン15を介して後輪RWに伝達される。
発進クラッチ50は遠心式のクラッチであり、クランクシャフト45が回転されたとき、すなわちエンジン40が駆動しているときに係合状態(クラッチが繋がる状態)となって、クランクシャフト45の回転駆動力をクランクシャフト45上に支承されたプライマリドライブギヤ51aに伝達する。
一方、クラッチ装置52は、多板式のクラッチであり、図6にメインシャフト45及びシフトスピンドルを含む面での断面図を示すように、メインシャフト61に回転自在に支承された有底円筒状のクラッチアウタ53と、メインシャフト61にスプライン嵌合してナットで結合されたクラッチインナ54と、クラッチアウタ53とクラッチインナ54との間に配設された複数の摩擦板55と、摩擦板55を押圧する加圧板56とを備えて構成される。
摩擦板55は、クラッチインナ54の周壁部に摺動可能にスプライン係合した駆動摩擦板と、クラッチアウタ53の周壁部に摺動可能にスプライン係合した被動摩擦板とが交互に重ねられて配置され、これらの摩擦板55を左右から挟み込むようにしてクラッチインナ54と加圧板56とが対向配置される。加圧板56はクラッチインナ54のボス部外周面と加圧板56の内周面との間に設けられたバックトルク低減機構140を介してメインシャフト61の軸方向に摺動可能に支承される。加圧板56には、クラッチインナ54の円盤部を左右に挿通する円筒状の支持ボスが複数突設され、これら支持ボスの先端にレリーズフランジ57がボルト締結されている。レリーズフランジ57とクラッチインナ54との間にはサラバネ状のクラッチバネ58が縮設されており、このクラッチバネ58のバネ力によって付勢される加圧板56とクラッチインナ54との間に摩擦板55が挟み込まれてクラッチ52が接続状態に保持される。
クラッチアウタ53の底部には円筒状の取付ボスが左方に向けて複数突設されており、このボス部にプライマリドライブギヤ51aと噛合するプライマリドリブンギヤ51bが取り付けられる。そして、比較的小径のプライマリドライブギヤ51aと、プライマリドライブギヤ51aよりも大径のプライマリドリブンギヤ51bとから1次減速装置51が構成される。
複数の変速段を確立するためのギヤ列70は、第1速〜第4速ギヤ列71〜74から構成される。メインシャフト61とカウンターシャフト65との間で噛合する各ギヤの様子を図7に拡大して示す。第1速ギヤ列71は、メインシャフト61に一体に形成される第1ドライブギヤ81と、カウンタシャフト65に相対回転可能に支承されて第1ドライブギヤ81に噛合される第1ドリブンギヤ82とで構成される。第2速ギヤ列72は、メインシャフト61に相対回転可能に支承される第2ドライブギヤ83と、カウンタシャフト65にスプライン嵌合されて第2ドライブギヤ83に噛合される第2ドリブンギヤ84とで構成される。第3速ギヤ列73は、メインシャフト61に相対回転可能に支承される第3ドライブギヤ85と、カウンタシャフト65にスプライン嵌合されて第3ドライブギヤ85に噛合される第3ドリブンギヤ86とで構成される。第4速ギヤ列74は、メインシャフト61にスプライン嵌合される第4ドライブギヤ87と、カウンタシャフト65に相対回転可能に支承されて第4ドライブギヤ87に噛合される第4ドリブンギヤ68とで構成される。
第1ドリブンギヤ82と第4ドリブンギヤ88との間に位置するカウンターシャフト65上に、1速・4速切換用ドグクラッチ体75が軸方向に摺動可能にスプライン嵌合されており、この1速・4速切換用ドグクラッチ体75を第1ドリブンギヤ82に係合させると第1速ギヤ列71が確立し、1速・4速切換用ドグクラッチ体75を第4ドリブンギヤ88に係合させると第4速ギヤ列74が確立するようになっている。各図から明らかなように、第3ドリブンギヤ86は、この1速・4速切換用ドグクラッチ体75に一体に形成されている。
また、第2ドライブギヤ83と第3ドライブギヤ85との間に位置するメインシャフト61上に、2速・3速切換用ドグクラッチ体76が軸方向に摺動可能にスプライン嵌合されており、この2速・3速切換用ドグクラッチ体76を第2ドライブギヤ83に係合させると第2速ギヤ列72が確立し、2速・3速切換用ドグクラッチ体76を第3ドライブギヤ85に係合させると第3速ギヤ列73が確立するようになっている。第4ドライブギヤ87は、この1速・4速切換用ドグクラッチ体76に一体に形成されている。
ところで、1速・4速切換用ドグクラッチ体75を抱持する第1シフトフォーク91と、2速・3速切換用ドグクラッチ体76を抱持する第2シフトフォーク92が、図8に示すように、カウンタシャフト65と平行に配設されたシフトフォーク軸93に軸方向(左右方向)にスライド移動可能に支持され、各シフトフォークに形成されたシフターピン91p,92pがシフトドラム95に形成されたカム溝95a,95bに係合して配設される。シフトドラム95はクランクケース31に回転自在に支持され、シフトドラム95の右端部に連結されたシフトチェンジ装置100のシフトドラム回動送り機構130によって回動される。
シフトドラム95が回動されると、シフターピンにおいてカム溝95a,95bと係合する第1,第2シフトフォーク91,92が、カム溝95a,95bに倣ってシフトフォーク軸93上を左右にスライド移動し、これによりメインシャフト61またはカウンターシャフト65上を左右に移動される1速・4速切換用ドグクラッチ体75、及び2速・3速切換用ドグクラッチ体76によって、ニュートラルまたは第1〜第4速ギヤ列71〜74のいずれかが択一的に選択され、メインシャフト61とカウンターシャフト65間の伝達ギヤ列すなわち速度段が確立される。
シフトドラム95の左方に位置する左クランクケース部材31Lには、シフドドラム95の回動角度位置、すなわち変速機60において確立された速度段(シフトポジション)を検出するシフトポジション検出器96が設けられている。シフトポジション検出器96は、シフトドラム95の回転角度位置に応じた大きさの信号を出力するポテンショメータ等の角度検出器のほか、ニュートラルポジションなどシフトドラム95が特定の角度位置にあるか否かを検出するリミットスイッチや近接センサ等の検出器であっても良い。
シフトチェンジ装置100は、大別的には、シフトスピンドル101の回動に応じてクラッチ52の接続を解放させるクラッチレリーズ機構120、シフトスピンドル101の回動に応じてシフトドラム95を回動させるシフトドラム回動送り機構130、及び自動二輪車1を運転する乗員(運転者)の運転操作に基づいてシフトスピンドル101を回動させる変速作動装置150から構成される。なお、これらの各機構120,130,150のうち、クラッチレリーズ機構120及びシフトドラム回動送り機構130は、クラッチ52の断接操作及びシフトスピンドル101の回動操作を運転者が自ら行うマニュアルシフトの自動二輪車と同様である。そこで、本明細書では、クラッチレリーズ機構120とシフトドラム回動送り機構130については簡潔に説明し、変速作動装置150について詳細に説明する。
シフトスピンドル101は、図5及び図6に示すように、メインシャフト61及びカウンターシャフト65と平行に左右に延び、右クランクケース部材31Rを貫通し左クランクケース31Lの内側に取り付けられたベアリングホルダ36とクラッチケース33とに回転可能に支承される。シフトスピンドル101の先端側には、クラッチブレーキ用の捻りバネ103を有するクラッチアーム104が揺動可能に設けられ、このクラッチアーム104の先端部にピンローラ105が枢結されている。
クラッチレリーズ機構120は、メインシャフト61と同一軸上に位置してクラッチ装置52に隣接して設けられており、クラッチケース33に回転可能に枢支されロックナットにより固定される調整ボルト121、この調整ボルト121に螺合された円筒状の調整ボス122、調整ボス122の基端側(右側)に固着された受け板123、調整ボス122の先端側(左側)に軸支され軸方向への摺動及び軸まわり回動が可能に配設されたレリーズ板124、レリーズ板124とレリーズフランジ57との間に設けられたボールベアリング125、受け板123とレリーズ板124との間に挟持されたレリーズボール126などから構成される。
受け板123及びレリーズ板124には、図9に挟持部分の断面図を略示するように、レリーズボール126を受け入れるV字溝状のカム状凹部123a,124aが同一半径上に複数箇所(例えば120度間隔で3箇所)対向して設けられるとともに、カム状凹部の形成位置に合わせて複数のボール保持部が形成されたリテーナ127の各ボール保持部に、レリーズボール126が回転自在に支持されて、対向する各カム状凹部の溝底部にレリーズボール126が挟み込んで配設される。対向するカム状凹部123a,124aの間隔は、調整ボルト121を回動して調整ボス122の軸方向位置を調整することにより設定され、レリーズボール126が対向するカム状凹部の溝底部に僅かなクリアランスを有して挟持されるように設定される。
レリーズ板124には外周方向に延びるレリーズアームが形成され、このレリーズアームの先端側にクラッチアーム先端のピンローラ105の直径に合わせた溝幅の長孔状のピン係合孔が形成されて、このピン係合孔にピンローラ105が係合されている。一方、受け板123には外周方向に延びる廻り止めアーム部が形成されてその先端部がクラッチケース内面の溝部に掛止され、軸方向への移動は許容されるが軸まわりの回動は規制されるようになっている。
このように構成されるクラッチレリーズ機構120において、シフトスピンドル101が時計廻りまたは反時計廻りに回動されると、その回動方向にクラッチアーム104が揺動され、ピンローラ105と係合するレリーズアームを介してレリーズ板124が反時計廻りまたは時計廻りに回動される。レリーズ板124がいずれかの方向に回動されると、その回動とともにレリーズ板側のカム状凹部124aが受け板側のカム状凹部123aに対して相対移動する。すると、両者の間に挟持されたレリーズボール126が転がりながら対向する傾斜面をスムーズに上り、調整ボス122に回動及び摺動可能に支持されたレリーズ板124をクラッチ装置52側に移動させ、ボールベアリング125を介してレリーズフランジ57を押圧する。
この押圧力によりレリーズフランジ57はクラッチバネ58を圧縮しながら加圧板56を左方に移動させ、その結果、摩擦板55(駆動摩擦板および被動摩擦板)の摩擦係合が解除されて、クラッチ装置52の係合状態が解除される(クラッチ装置52がオフ状態になる)。
一方、シフトスピンドル101の中間部に、シフトスピンドル101を所定の角度位置(中立位置)に戻すスプリングリターン機能を有し、シフトスピンドル101が回動されたときにその作動をシフトドラム回動送り機構130に伝達するチェンジアーム構造110が設けられている。図6中のX矢視方向の側面図を図10に示す。
チェンジアーム構造110は、シフトスピンドル101に固着されたアーム111と、アームに隣接してシフトスピンドル101の外周に相対回転自在に装着されたカラー112と、このカラーに固着されたチェンジアーム113と、右クランクケース部材31Rに固定された規制ピン114と、カラー112の外周部に支持されて捩られた状態で両端が規制ピン114を挟み込むようにたすき掛けされた戻しスプリング(捻りバネ)115などから構成される。アーム111及びチェンジアーム113には、規制ピン114の直径と同程度の幅で曲げ起こされた舌片状のバネ係合片111a,113aが形成され、各バネ係合片111a,113aが規制ピン114と並んで戻しスプリング115の両端に挟み込まれるように配設される。またチェンジアーム113には、このチェンジアーム113の揺動範囲を規制ピン114を挟む所定の角度範囲に規制する規制孔113pが開口形成されており、規制ピン114がこの規制孔113pを挿通して配設される。
このようなチェンジアーム構造110において、シフトスピンドル101を回動する力が作用していない場合には、戻しスプリング115の両端部が規制ピン114を挟み込んだ状態となり、戻しスプリング115の両端部間に突設されたバネ係合片111a,113aも、戻しスプリング115の付勢力により両端部の中間に位置して配設される。このため、アーム111及びチェンジアーム113は、ともに各バネ係合片111a,113aがシフトスピンドル101の軸心と規制ピン114の軸心とを結んだ角度位置に配設され、これによりシフトスピンドル101およびチェンジアーム113が初期の揺動角度位置(中立位置)に配設される。
このように初期の揺動角度位置に保持されるチェンジアーム113が上方に延びて、シフトスピンドル101の回動がシフトドラム回動送り機構130に伝達される。シフトドラム回動送り機構130は、チェンジアーム113の揺動に応じた回動方向にシフトドラム95を所定角度だけ回動送りする機構であり、例えば、ピンと鈎車を利用した回動送り機構や、遊星歯車を利用した回動送り機構によりシフトドラム95を回動させる。
既述したように、シフトドラム95が回動されると、シフターピン91p,92pにおいてそれぞれカム溝95a,95bと係合する第1シフトフォーク91及び第2シフトフォーク92が、各カム溝95a,95bに沿ってシフトフォーク軸93上を左右にスライド移動し、メインシャフト61上の1速・4速切換用ドグクラッチ体75、及びカウンターシャフト65上の2速・3速切換用ドグクラッチ体76を移動させて、ニュートラルまたは第1〜第4ギヤ列71〜74のいずれかを確立させる。
例えば、1速・4速切換用ドグクラッチ体75、及びカウンターシャフト上の2速・3速切換用ドグクラッチ体76が、いずれも他のギヤと係合していないニュートラルポジションにおいて、シフトスピンドル101が車両の右側面視(図2に示す方向視)における反時計回りに回動されると、第1シフトフォーク91が右動されて1速・4速切換用ドグクラッチ体75が第1ドリブンギヤ82に係合されて第1速ギヤ列71が確立される。また、ニュートラルポジションからシフトスピンドル101が時計回りに回動されると、第2シフトフォーク92が左動されて2速・3速切換用ドグクラッチ体76が第2ドライブギヤ83に係合され第2速ギヤ列72が確立される。
このように、クラッチレリーズ機構120及びシフトドラム回動送り機構130を作動させるシフトスピンドル101が、変速作動装置150のアクチュエータ160により回動される。変速作動装置150は、図11に、この変速作動装置150のブロック図を示すように、乗員が操作する変速スイッチ151、シフトポジション検出器96、シフトスピンドル101を回転駆動するアクチュエータ160、シフトスピンドル101の回転角度位置を検出するスピンドル位置検出器168、アクチュエータの作動を制御する変速制御装置170などを備えて構成され、アクチュエータ160の回転駆動力が第1〜第3ギヤ165〜167を介してシフトスピンドル101に伝達される。
変速スイッチ151は、スイッチ内部に設けられた内蔵スプリングにより保持される中立位置を境として、変速機60の速度段を上昇させるアップシフトの操作ボタン部と下降させるダウンシフトの操作ボタン部とを有するスイッチ手段であり、例えばハンドル11の左グリップ部分に設けら、その出力信号が変速制御装置170に入力されている。
アクチュエータ160は、例えばDCサーボモータ等の電気モータであり、図6に示すように、出力軸161の軸線がシフトスピンドル101と平行に左右に延びる配設姿勢でACG(交流発電機)49側に取り付けられ、このアクチュエータの出力軸161に設けられたピニオンギャが第1ギヤ165に噛合されている。第1ギヤ165と第2ギヤ166とは同一の回転軸を有して体的に形成されており、左右のボールベアリング37a,37bを介して左クランクケース部材31L及びその内側に取り付けられたベアリングホルダ36に回転自在に支承される。第2ギヤ166と噛合する第3ギヤ167は図5に示すように扇状に形成されており、シフトスピンドル101の左端近傍にスプライン嵌合されてシフトスピンドル101と一体に回転可能に取り付けられている。
このため、アクチュエータ160の回転駆動力が、第1〜第3ギヤ165〜167によりシフトスピンドル101に伝達され、パワーユニットケース30を左右に延びるシフトスピンドル101を介してユニット右側のクラッチレリーズ機構120に伝達されてクラッチ装置52の接続が解除される。また、シフトドラム回動送り機構130に伝達されて変速機60の速度段が切り換えられる。このように、アクチュエータ160をクラッチ装置が隣接するクラッチ側ではなくACG側に設けた構成により、アクチュエータ160を備えて大型化しやすいパワーユニットPUを小型に構成することができる。
スピンドル位置検出器168は、アクチュエータ160の作動によりシフトスピンドル101が変速スイッチ151の操作方向に所定角度回動されたか否かを検出する検出器であり、例えば、シフトスピンドル101の角度位置に応じた信号を出力するポテンショメータやエンコーダ、シフトスピンドル101が中立位置から所定角度回動されたときにその位置状態を検出するドグとリミットスイッチ、フォトインタラプタなどにより構成することができる。なお、上記所定角度は、クラッチレリーズ機構120においてクラッチ装置52が解放状態となり、シフトドラム回動送り機構130においてシフトドラム95が回動送りされて変速後のギヤ列が確立されるのに必要な回動角度に一定の予備角を加えた角度が設定され、この予備角相当分は戻しスプリング115により吸収される。
ここで、本パワーユニットPUにおいては、このスピンドル位置検出器168を、アクチュエータ168の出力軸近傍ではなく、シフトスピンドル101を介してアクチュエータと反対側の軸端部に設けている。このため、複雑化しやすいアクチュエータ近傍の構成を簡明化しつつ、シフトスピンドル101の回動状態を高精度に検知できるようになっている。
変速制御装置170は、シフトポジション検出器96から入力される変速機の現行速度段及び変速スイッチ151から入力される変速信号に基づいて、アクチュエータ160に駆動信号を出力する。具体的には、例えばシフトポジション検出器96から入力される変速機の現行速度段が3速の速度段の状態において、変速スイッチ151からダウンシフトの変速信号が入力されると、シフトスピンドル101を第3速→第2速にダウンシフトさせる作動方向、一般的には、図2に示す車両の右側面視においてシフトスピンドル101を反時計回りに回動させる方向の駆動信号をアクチュエータ160に出力し、戻りスプリング115を弾性変形させながらシフトスピンドル101を反時計回りに回動させる。
シフトスピンドル101が反時計回りに回動されると、クラッチアーム104、ピンローラ105及びレリーズアームを介してレリーズ板124が回動され、対向するカム状凹部123a,124aとレリーズボール126との相互作用によりクラッチ装置52側に移動されるレリーズ板124によってボールベアリング125を介してレリーズフランジ57が左方に押圧され、この押圧力によりレリーズフランジ57がクラッチバネ58を圧縮しながら加圧板56を左方に移動させてクラッチ装置52の係合状態が解除される。
また、シフトスピンドル101の回動によって戻りスプリング115を介してチェンジアーム113が揺動され、シフトドラム95が第3速の角度位置から第2速の角度位置に回動される。この回動に伴って第2シフトフォーク92がカム溝95bに沿ってスライド移動され、メインシャフト上の2速・3速切換用ドグクラッチ体76を第2ドライブギヤ83に係合させて第2速ギヤ列72を確立させる。
第2速ギヤ列72が確立され、さらに予備角分シフトスピンドル101が回動すると、スピンドル位置検出器168から検出信号が変速制御装置170に入力される。変速制御装置170は、このスピンドル位置検出器168からの検出信号によりシフトスピンドル101が所要角度回動されたと判断し、アクチュエータ160に出力していた駆動信号をオフにする。すると、アクチュエータ160の駆動力がゼロとなり、戻りスプリング115に蓄えられていたバネ力によってシフトスピンドル101が駆動方向と反対方向に回動され、シフトスピンドル101、第1〜第3ギヤ165〜167、チェンジアーム113及びレリーズ板124が、それぞれ初期位置に復帰する。
レリーズ板124が初期位置に戻ると、クラッチバネ58のバネ力により加圧板56が摩擦板55をクラッチインナ54の受圧面に押圧してクラッチインナ54とクラッチアウタ53とを摩擦係合させ、クラッチ装置52が接続状態になる。これにより、メインシャフト61とカウンターシャフト65との間で動力伝達するギヤ列が、第3速ギヤ列73から第2速ギヤ列72に切り換えられ、変速機60の速度段が第3速から第2速に変速される。
ここで、クラッチ装置52にバックトルク低減機構140が設けられている。バックトルク低減機構140は、クラッチ装置52におけるクラッチインナ54と加圧板56との間に設けられ、クラッチアウタ53側(エンジン40側)からクラッチインナ54側(変速機60側)に伝達する順方向の動力伝達と逆方向に過大なトルクが作用したとき、より具体的には急激なクラッチ接続により過大なエンジンブレーキ状態になったときに、クラッチインナ54との間に摩擦板55を挟み込む加圧板56の押圧力を低減して、クラッチ装置52の接続を緩める機構である。
このような機能を備えたバックトルク低減機構には種々の構成形態があるが、例えば、クラッチインナ54のボス部外周及び加圧板56の内周に係合する鍔付フランジ状のリミット部材を設け、このうち、クラッチインナ54のボス部外周とリミット部材内周との係合部に螺旋状のヘリカルスプライン(ネジスプラインとも称される)を形成して嵌合接続し、リミット部材の外周部と加圧板の内周部にメインシャフト61の軸方向に延びる直線状のストレートスプラインを形成して嵌合接続する。そしてクラッチインナ54とリミット部材との間にサラバネ部材を配設して、常にはサラバネ部材の付勢力によりヘリカルスプラインが摺動することなくストレートスプラインで順方向にトルク伝達し、サラバネ部材の付勢力を越える過大なトルクが逆方向に作用したときにヘリカルスプラインの嵌合部が摺動して加圧板56を受け板と反対方向に移動させ、クラッチを滑らせるような構成を用いることができる。なお、バックトルク低減機構140は、他にも種々の機構構成が既に知られており、これら公知の機構のいずれかを用いて構成することができる。
このため、戻しスプリング115のバネ力によりシフトスピンドル101が中立位置に戻るとともにレリーズ板124が初期位置に戻り、クラッチインナ54とクラッチアウタ53間に逆方向のトルクが作用した場合であっても、バックトルク低減機構140によりクラッチ装置52の接続が緩められて過大なエンジンブレーキの作動が抑制される。
従って、シフトスピンドル101を中立位置に戻すための戻しスプリング115を利用したマニュアルシフト車と同様の簡単な機構構成とすることができ、かつ、シフトダウン時の急激なエンジンブレーキを避けるためにアクチュエータ160の戻り制御を複雑化することなく、駆動電力をオフにする簡明な制御構成とすることができる。
ところで、車両走行時に乗員が足を乗せる左右の足乗せステップ20は、図1,図2及び図12〜図15の各図に示すように、パワーユニットPUの左右側部に位置してバー部材21の左右端部に設けられている。ここで、図12はパワーユニットPUの前方から見たアクチュエータ160とバー部材21(及び足乗せステップ20)の配置構成を示す正面図、図13は右側面図、図14は斜め後方から見た斜視図であり、図15はメインシャフトを含んだ各部材の位置関係を後方から見た配置構成図(図13におけるXV矢視方向の断面図)である。
バー部材21は、パワーユニットPUの下方を跨いで左右に延びパワーユニットケース30の底面に固定される側方延出部21aと、この側方延出部21aに繋がって斜め上方に延びパワーユニットの左右側部に延出された上方延出部21bと、上方延出部21bと繋がって水平に延び左右外方に突出するステップ装着部21cなどからなり、中空の金属パイプをウイング状に曲げ成型して形成される。足乗せステップ20は、このパイプ状部材21のステップ装着部21cに嵌入されており、パワーユニットPUの側方に位置して左右外方に水平に突出して配設される。
そして、変速作動装置150のアクチュエータ160は、パワーユニットPUの下方から斜め上方に延びるバー部材の上方延出部21bの内側に位置し、アクチュエータ160の出力軸161の軸線がバー部材21の側方延出部21aに沿うように配設している。
このため、コーナリング走行時に車体2を左右に傾斜させたり、誤って自動二輪車1を転倒させたような場合であっても、アクチュエータ160がバー部材21により保護され、アクチュエータ160の損傷が防止される。またアクチュエータ160が側方延出部21aと上方延出部21bとに囲まれるように配置されるため、パワーユニット上方にアクチュエータの配設スペースを確保できないビジネスバイク型の自動二輪車であっても、良好な乗降性を確保しつつアクチュエータを確実に保護することができる。
シフトスピンドル101の角度位置を検出するスピンドル位置検出器168についても、足乗せステップ20及びバー部材及21との位置関係を図16に示すように、車体の右側においてバー部材の上方延出部21bの内側に配設されているため、コーナリング走行時に車体2を左右に傾斜させ、あるいは車両をを転倒させたような場合であっても、スピンドル位置検出器168がバー部材21により保護され損傷を防止することができる。なお、この図から明らかなように、バー部材21はキックペダル26の過度の揺動を規制する機能を兼ね備えた構成になっている。
従って、本構成によれば、マニュアルシフトの車両と同等のバンク角や最低地上高、足当たり等を維持した上で、アクチュエータの配置と保護を両立させた変速アクチュエータの配置構造を提供することができる。なお、本実施例では変速操作を乗員が行うセミオートマチックの変速装置に本発明を適用した実施形態について説明したが、車速を検出して自動変速するフルオートマチックの変速装置に適用しても同様の効果を得ることができる。