JP4109904B2 - 小型車両用パワーユニット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,自動二輪車等の小型車両用パワーユニットに関し,特に,クランク軸を収容支持するクランクケースに,クランク軸にクラッチを介して連結される変速入力軸と,この変速入力軸との間に複数段の変速ギヤ列が設けられる変速出力軸とを収容支持し,前記複数段の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動するチェンジ機構の少なくとも一部をクランクケースの一側方に配設した,小型車両用パワーユニットの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
かゝる小型車両用パワーユニットは,例えば実開昭60−31536号公報に開示されるように,既に知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来,かゝる小型車両用パワーユニットでは,チェンジ機構の多くをクランクケース外に配置する場合には,それによってパワーユニットの外観が損われることがある。
【0004】
ところで,かゝる小型車両用パワーユニットでは,エンジン始動のためにクランク軸をクランキングするキックスピンドルをクランクケースに設ける場合,キックスピンドルの外端に固着されるキックアームを,その操作性を良好にすべく,極力車体外側方に配置することが望ましい。そこで,クランクケースに支持されるキックアームの外端を単に外側方に延ばして,それにキックアームを取り付けるだけでは,キックスピンドルのクランクケースからのオーバハング量が多くなり,キックスピンドルの支持剛性が低下してしまう。またクランクケースのでキックスピンドルを強固に支持しようとすれば,クランクケースの横幅を広げざるを得ず,クランクケースの大型化を招いてしまう。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,チェンジ機構の多くをカバーしながら,キックスピンドルの支持剛性の強化を図ることができるようにした,コンパクトで外観の良好な前記小型車両用パワーユニットを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明は,クランク軸を収容支持するクランクケースに,クランク軸にクラッチを介して連結される変速入力軸と,この変速入力軸との間に複数段の変速ギヤ列が設けられる変速出力軸とを収容支持し,前記複数段の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動するチェンジ機構の少なくとも一部をクランクケースの一側方に配設した,小型車両用パワーユニットにおいて,チェンジ機構の,クランクケース外に露出した部分を収容する第1サイドカバー部をクランクケースの一側壁に取り外し可能に接合し,またクランク軸をクランキングし得るキックスピンドルをクランクケースと共に支持する第2サイドカバー部をクランクケースの一側壁に取り外し可能に接合し,このキックスピンドルの第2サイドカバー部外に突出した外端部にキックアームを固着し,前記第1及び第2サイドカバー部を,それらの内部が連続するように一体のサイドカバーで構成し,このサイドカバー側から変速入力軸及び変速出力軸の少なくとも一方の中心部に摺動可能に嵌合され,その摺動に応じて複数の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動させるシフト軸と,サイドカバーに回動可能に支持されるチェンジスピンドルと,サイドカバー内でチェンジスピンドルに取り付けられ,チェンジスピンドルの回動に応じてシフト軸を摺動させるチェンジアームと,サイドカバー外でチェンジスピンドルに連結されるチェンジ操作部材とでチェンジ機構を構成し,チェンジアームをシフト軸と前記キックスピンドルとの間に配置したことを第1の特徴とする。
【0007】
尚,前記第1サイドカバー部及び第2サイドカバー部は,後述する本発明の実施例中の右サイドカバー20の後半部20b及び前半部20aにそれぞれ対応し,また前記チェンジ操作部材は,後述する本発明の実施例中のチェンジグリップ54に対応する。
【0008】
この第1の特徴によれば,チェンジ機構の多くを第1サイドカバー部に収容してパワーユニットの外観を良好にすることができ,またクランクケースの一外側方向に長く突出するキックスピンドルをクランクケースと第2サイドカバー部とで支持することで,パワーユニットをコンパクトな構成としながらキックスピンドルの支持剛性を強化し,該スピンドル及びその支持部の耐久性の向上を図ることができる。しかもサイドカバーを貫通したキックスピンドルの外端に固着されるキックアームは,車体外側方に配置されることになって,そのキック操作性が良好となる。またサイドカバーをクランクケースから取り外すことにより,チェンジ機構及びキックスピンドルのメンテナンスを容易に行うことができる。
【0009】
また第1及び第2サイドカバー部の一体化により部品点数及び組立工数の削減を図ることができるのみならず,チェンジ機構及びキックスピンドルの近接配置が可能となり,パワーユニットのコンパクト化に寄与し得る。
【0010】
さらにチェンジ機構のなかでも比較的大型で動きの大きいチェンジアームを,キックスピンドルとシフト軸との間に配置したことで,サイドカバー内のスペースを有効に利用してチェンジ機構を収容することができて,サイドカバーのコンパクト化,延いてはパワーユニットのコンパクト化に寄与し得る。
【0011】
また本発明は,クランク軸を収容支持するクランクケースに,クランク軸にクラッチを介して連結される変速入力軸と,この変速入力軸との間に複数段の変速ギヤ列が設けられる変速出力軸とを収容支持し,前記複数段の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動するチェンジ機構の少なくとも一部をクランクケースの一側方に配設した,小型車両用パワーユニットにおいて,チェンジ機構の,クランクケース外に露出した部分を収容するサイドカバーをクランクケースの一側壁に取り外し可能に接合すると共に,このサイドカバーとクランクケースとで,クランク軸をクランキングし得るキックスピンドルを支持し,このキックスピンドルのサイドカバー外に突出した外端部にキックアームを固着し,変速入力軸の後方に変速出力軸を配置すると共に,キックスピンドルを変速入力軸の下方且つ変速出力軸の前方に配置し,このキックスピンドルの後方に隣接して,チェンジ機構のサイドカバーに収容される前記部分を配置したことを第2の特徴とする。
【0012】
この第2の特徴によれば,チェンジ機構の多くをサイドカバーに収容してパワーユニットの外観を良好にすることができ,またクランクケースの一外側方向に長く突出するキックスピンドルをクランクケースとサイドカバーとで支持することで,パワーユニットをコンパクトな構成としながらキックスピンドルの支持剛性を強化し,該スピンドル及びその支持部の耐久性の向上を図ることができる。しかもサイドカバーを貫通したキックスピンドルの外端に固着されるキックアームは,車体外側方に配置されることになって,そのキック操作性が良好となる。またサイドカバーをクランクケースから取り外すことにより,チェンジ機構及びキックスピンドルのメンテナンスを容易に行うことができる。
【0013】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,サイドカバー側から変速入力軸及び変速出力軸の少なくとも一方の中心部に摺動可能に嵌合され,その摺動に応じて複数の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動させるシフト軸と,サイドカバーに回動可能に支承されるチェンジスピンドルと,サイドカバー内でチェンジスピンドルに取り付けられ,チェンジスピンドルの回動に応じてシフト軸を摺動させるチェンジアームと,サイドカバー外でチェンジスピンドルに連結されるチェンジ操作部材とでチェンジ機構を構成し,チェンジスアームをシフト軸と前記キックスピンドルとの間に配置したことを第3の特徴とする。
【0014】
尚,前記チェンジ操作部材は,後述する本発明の実施例中のチェンジグリップ54に対応する。
【0015】
この第3の特徴によれば,チェンジ機構のなかでも比較的大型で動きの大きいチェンジアームを,キックスピンドルとシフト軸との間に配置したことで,サイドカバー内のスペースを有効に利用してチェンジ機構を収容することができて,サイドカバーのコンパクト化,延いてはパワーユニットのコンパクト化に寄与し得る。
【0016】
さらにまた本発明は,第2又は第3の特徴に加えて,クランクケースが,前記一側壁とそれに対向する他側壁とでクランク軸を支承し,前記キックスピンドルを,前記サイドカバーの側壁と,クランクケースの前記一側壁及び他側壁との三壁により支持したことを第4の特徴とする。
【0017】
この第4の特徴によれば,比較的長いキックスピンドルの支持剛性を一層強化し,該スピンドル及びその支持部の耐久性の一層の向上を図ることができる。
【0018】
さらにまた本発明は,第1〜第4の特徴の何れかに加えて,キックスピンドルに取り付けられる始動ギヤを,変速入力軸に一体に形成され又はスプライン結合される変速用の駆動ギヤに噛合させたことを第5の特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の一実施例に基づいて以下に説明する。
【0020】
図1は本発明のパワーユニットを備えた自動二輪車の側面図,図2は図1の要部拡大側面図,図3は図2の3−3矢視図,図4は図2の4−4線断面図,図5は図4の5−5線断面図,図6は図4の6−6線拡大断面図,図7は図4の7−7線拡大断面図である。
【0021】
先ず図1において,小型車両としての自動二輪車Sの車体フレーム1は,フロントフォーク2を操向可能に支持するヘッドパイプ1hから下方に延びてステップフロワ3を支持する前部フレーム1fと,この前部フレーム1fの後端から斜め上方に延びてラゲッジボックス4,乗員用シート5及び燃料タンク7を支持する後部フレーム1rとからなっており,フロントフォーク2には下端に前輪6fが軸支される。後部フレーム1rには懸架リンク8が弾性支持されており,それに,後輪6rを支持しつゝそれを駆動するパワーユニットPが上下揺動可能に懸架され,そして後部フレーム1rとパワーユニットPとの間に,パワーユニットPの上下揺動を緩衝するリアクッション9が取り付けられる。また前部フレーム1fには,車体を自立させ得るスタンド10が取り付けされる。こうして,自動二輪車Sはスクータ型に構成される。
【0022】
図2及び図3に示すように,パワーユニットPは,エンジンEのクランクケース11に,クランク軸13と共に歯車変速機Tを収容して構成される。エンジンEのクランクケース11は,前傾姿勢のシリンダブロック12に結合されるもので,鉛直方向の分割面で相互にボルトにより接合される左ケース半体11a及び右ケース半体11bから構成される。この両ケース半体11,11bに,互いに平行に配置されるクランク軸13及び変速入力軸14がそれぞれ左右一対のベアリング16,16′;17,17′を介して支承され,また変速入力軸14と平行に配置される変速出力軸15が右ケース半体11bと,左ケース半体11aの外側面に接合される左サイドカバー19とにベアリング18,18′を介して支承される。また右ケース半体11bの外側面には右サイドカバー20が複数のボルト28で結合され,クランク軸13と平行に配置されるキックスピンドル21が左右のケース半体11,11bと右サイドカバー20の前半部20aの三者の側壁によって支承される。
【0023】
図2において,変速入力軸14は,クランク軸13の下方に配置され,変速出力軸15は,変速入力軸14の下方且つ後方に配置される。図3に示すように,この変速出力軸15の,左ケース半体11aから外方に突出する左端部に後輪6rが取り付けられる。こうすることにより,前傾姿勢のシリンダブロック12の地上高,並びに前輪6f及び後輪6rの軸間距離,即ちホイールベースを充分に確保することができる。再び図2において,キックスピンドル21は,変速入力軸14のやゝ下方且つ前方に配置され,このキックスピンドル21の,右サイドカバー前半部20aを貫通する右端部には,キックアーム22がそのペダル22aを前方上向きにして固着され,ライダがシート5が座乗したまゝで右足によりキック操作をし得るようになっている。
【0024】
図3に示すように,左ケース半体11a外に突出するクランク軸13及び変速入力軸14の左端部間に1次減速装置23が設けられ,また変速入力軸14の左端部には多板クラッチ24が取り付けられ,クランク軸13の回転は,1次減速装置23により減速され,クラッチ24を介して変速入力軸14に伝達されるようになっている。1次減速装置23及びクラッチ24は前記左サイドカバー19によって覆われる。
【0025】
変速入力及び出力軸14,15間には,クランクケース11内において複数段(図示例では4段)の変速ギヤ列Ga〜Gdが設けられる。これら変速ギヤ列Ga〜Gdの駆動ギヤ25a〜25d群は変速入力軸14に一体に形成され,又はスプライン結合され,それらの被動ギヤ26a〜26d群は変速出力軸15に回転可能に支承される。変速出力軸15には,さらに,被動ギヤ26a〜26d群の一側に隣接して中立リング27が回転可能に支承される。
【0026】
上記変速入力及び出力軸14,15,並びに複数段の変速ギヤ列Ga〜Gdにより変速機Tが構成され,各変速ギヤ列Ga〜Gdの被動ギヤ26a〜26dを選択的に変速出力軸15に連結するチェンジ機構Cが次のように構成される(図4〜図7参照)。
【0027】
図4において,変速出力軸15には,その中心部にあって右サイドカバー側に開口するガイド孔30と,このガイド孔30から被動ギヤ26a〜26d群に向かって延びる4条のガイド溝31,31…とが設けられ,ガイド孔30には右サイドカバー20側からシフト軸32が摺動可能に嵌合されると共に,このシフト軸32の内端に固着される十字状の係合ポール33(図5参照)がガイド溝31,31…を摺動可能に横切るように配置され,この係合ポール33は,前記被動ギヤ26a〜26d群及び中立リング27の内周面に周方向等間隔にそれぞれ4個以上形成された軸方向の係合溝34,34…に選択的に係合し得るようになっている。
【0028】
シフト軸32は,ガイド孔30に直接摺動可能に嵌合する円筒状の外軸35と,この外軸35の中心孔に嵌合する内軸36とから構成され,その内軸36の内端に螺着される。内軸36の外端に形成された膨大頭部36aの外周面には,係合ポール33への内軸36の螺着に使用する工具を係合させる面取りが施されている。
【0029】
内軸36及び係合ポール33の螺合の緩み止めのために,係合ポール33と外軸35との当接端面に回り止め用凹凸係合部37が設けられると共に,内軸36の頭部36aと外軸35との間に回り止めワッシャ38が介装される。この回り止めワッシャ38は,内軸36の係合ポール33へ螺合後,折り曲げられて外軸35の回り止め溝39に係合される回り止め片38aを有する。
【0030】
内軸36の頭部36aに連結してシフト軸32を作動するチェンジアーム40は,右サイドカバー20内で前記キックスピンドル21及びシフト軸32間に配設される。このチェンジアーム40は,右サイドカバー20の後半部20bの底壁にシール部材41を介して回転自在に支承されて,その底壁を貫通するチェンジスピンドル42の内端に固着される(図6及び図7参照)。チェンジアーム40は,チェンジスピンドル42を中心とした扇形をなしており,その外周側の一端に回動可能に軸支された駒43が内軸36の頭部36a外周に形成された環状溝44に係合される。駒43は,周面に対向する一対の平坦面43,43aを有しており,これら平坦面43,43aを環状溝44の内側壁に摺動可能に当接させている。したがって,チェンジアーム40の回動によれば,駒43を介して内軸36即ちシフト軸32を軸方向にシフトすることができ,その際,環状溝44の相対向する両内側壁と駒43の両平坦面43,43aとの摺動によりシフト軸32の回転を許容することができる。
【0031】
チェンジアーム40の外周面には複数のデテントノッチ45,45…が形成され,右サイドカバー20の後半部20bの内壁に取り付けられた枢軸47に回動可能に支承されるデテントアーム46の先端のデテントローラ48が上記デテントノッチ45,45…に選択的に係合するようになっており,このデテントアーム46には,デテントローラ48をデテントノッチ45,45…との係合方向へ付勢するデテントばね49が接続される。而して,チェンジアーム40がシフト軸32を軸方向にシフトして係合ポール33が中立リング27及び被動ギヤ26a〜26dの何れかの係合溝34に係合したとき,その係合を保持するように,デテントローラ48が対応するデテントノッチ45,45…にデテントばね49の付勢力をもって係合する。
【0032】
右サイドカバー20の後半部20b外に突出したチェンジスピンドル42の外端には,従動プーリ51が固着され,自動二輪車Sの操向ハンドル53のチェンジグリップ54に連結された駆動プーリ50と上記従動プーリ51とが増速用ケーブル52及び減速用ケーブル52′を介して相互に連結され,チェンジグリップ54の回動により両ケーブル52,52′を交互に牽引することにより,チェンジスピンドル42を増速側又は減速側へと回動し得るようになっている。
【0033】
右サイドカバー20の外側面には,両ケーブル52,52′が貫通する一対の中空調整ボルト55,55′が螺着され,これら調整ボルト55,55′の頭部に,両ケーブル52,52′のガイドチューブ52a,52a′の一端部が支持される。
【0034】
操向ハンドル53には,前記クラッチ24のオン,オフ操作するためのクラッチレバー56がチェンジグリップ54に近接して取り付けられる。
【0035】
次に,図4及び図7により,エンジンEのキックスタータについて説明する。
【0036】
クランクケース11において,第1速ギヤ列Gaの駆動ギヤ25aに噛合する始動ギヤ60がキックスピンドル21に回転自在且つ軸方向移動不能に支承され,この始動ギヤ60とキックスピンドル21間に,キックスピンドル21の正転時にはその間を連結する一方向クラッチ機構61が設けられる。この一方向クラッチ機構61は,キックスピンドル21にヘリカルスプラインを介して始動ギヤ60に対して進退可能に嵌合されるクラッチ体62と,このクラッチ体62の回転に摩擦抵抗を付与する摩擦ばね63とを備え,始動ギヤ60及びクラッチ体62の対向面にはラチェット歯64,65が形成され,これらラチェット歯64,65は,それらの噛合時,クラッチ体62の正転のみを始動ギヤ60に伝達し得るようになっている。
【0037】
また右サイドカバー20の前半部20aにおいては,キックアーム22を後退方向に付勢する一対のキック戻しばね66,67がキックスピンドル21に接続される。これらキック戻しばね66,67は,何れも捩じりコイルばねからなるもので,両者のコイル部66a,67aはキックスピンドル21の周囲に内外二重に配置され,これらコイル部66a,67aの一端部66b,67bは,キックスピンドル21の外周面に固着されてその直径線上反対方向に突出する一対の係止ピン68,69に係止され,両コイル部66a,67aの他端部から延出するアーム部66c,67cは,各コイル部66a,67aに所定の捩じり荷重を加えた状態でばね係止棒70に係止される。そのばね係止棒70は,右サイドカバー前半部20aと右ケース半体11bとで両端部が支持される。
【0038】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0039】
チェンジグリップ54により駆動プーリ50を回転すれば,その回転は,牽引される増速用ケーブル52又は減速用ケーブル52′を介して従動プーリ51に伝達し,さらにチェンジスピンドル42を介してチェンジアーム40に伝達してそれを回動するので,その回動方向に応じてシフト軸32が軸方向に進退して,係合ポール33を中立リング27及び被動ギヤ26a〜26dの係合溝34,34…の何れかに選択的に係合する。こうして変速機Tは中立状態又は所望の変速ギヤ列Ga〜Gdを確立することになる。
【0040】
而して,エンジンEの始動に当たっては,先ず,変速機Tを中立状態にしてから,キックペダル22aに足をかけてキックアーム22を下方に戻しばね66,67の反発力に抗してキックすれば,キックスピンドル21の正転によりクラッチ体62が始動ギヤ60側に前進して互いのラチェット歯64,65を噛合させるので,キックスピンドル21の回転トルクが始動ギヤ60から第1速の駆動ギヤ25a,変速入力軸14,クラッチ24及び1次減速装置23を順次経てクランク軸13に伝達して,それをクランキングするので,エンジンEを始動することができる。このとき,変速機Tの前述のような中立状態により,キックスピンドル21及びクランク軸13の回転は変速出力軸15には伝達されない。
【0041】
エンジンEが始動して,始動ギヤ60がクラッチ体62よりも速く回転すると,始動ギヤ60及びクラッチ体62のラチェット歯64,65が互いに反発するため,その反発力でクラッチ体62は始動ギヤ60から後退する。そこでキックペダル22aを解放すれば,戻しばね66,67の反発力によりキックアーム22は当初の不作動位置まで戻される。
【0042】
エンジンEの始動後,クラッチ24をオフしながら,チェンジグリップ54を回動操作すれば,前述のようにシフト軸32がシフトされ,所望の変速ギヤ列Ga〜Gdを確立することができる。
【0043】
ところで,チェンジ機構Cでは,クランクケース11外のチェンジアーム40及びデテントアーム46が,クランクケース11の右端面に接合される右サイドカバー20内に収容され,さらに従動プーリ51が右サイドカバー20の外側壁に接合されるプーリカバー57によって覆われるので,パワーユニットPの外観を良好にしながらチェンジ機構Cの防水,防塵を図ることができる。
【0044】
特に,チェンジ機構Cの,右サイドカバー20を貫通する部分は,回転のみを動きとするチェンジスピンドル42であり,該スピンドル42の外周面に密接するシール部材41が右サイドカバー20に装着されるので,チェンジ機構Cの作動中にチェンジスピンドル42が外部から塵埃等を引き込むことを確実に防ぐことができる。
【0045】
またクランクケース11の右外側方に長く延ばしたキックスピンドル21の右端部にキックアーム22が固着されるので,パワーユニットPを車体に取り付けたとき,キックスピンドル21の右端部に固着されるキックアーム22は車体の右外側方に配置されることになって,そのキック操作を容易に行うことができる。しかも,そのように長いキックスピンドル21は,クランクケース11の左右両側壁に右サイドカバー20の側壁を加えて,合計三壁で支承されるので,その支持剛性を効果的に高め,キックスピンドル21及びその支持部の耐久性を向上させることができる。のみならず,右サイドカバー20は,チェンジアーム40及びチェンジスピンドル42の収容及び支持と,キックスピンドル21の支持とに供されるから,部品点数の削減を図り,構成の簡素化,延いてはコストの節減をもたらすことができる。その上,チェンジ機構Cのなかでも比較的大型で動きの大きい扇形チェンジアーム40は,キックスピンドル21と,変速出力軸15と同軸上のシフト軸32との間で,キックスピンドル21の後方に配置されることで,右サイドカバー20内のスペースが有効に利用されることになり,右サイドカバー20のコンパクト化,延いてはパワーユニットPのコンパクト化に寄与し得る。
【0046】
またキックスタータを構成する一方向クラッチ機構61及び戻しばね66,67が,クランクケース11及び右サイドカバー20内に分かれて収容されることで,それらの組立性を良好にすると共に,防水,防塵性を図ることができる。
【0047】
さらにキックアーム22をキックスピンドル21から外し,ボルト28を緩めて右サイドカバー20をクランクケース11から取り外せば,クランクケース11に支持されるキックスピンドル21に戻しばね66,67は残り,右サイドカバー20に支持されるチェンジアーム40はシフト軸32から分離するので,戻しばね66,67やチェンジアーム40のメンテナンスを容易に行うことができ,メンテナンス性が良好である。
【0048】
また右サイドカバー20は,キックスピンドル21を支持する前半部20aと,チェンジ機構Cを収容しながらチェンジスピンドル42を支持する後半部20bとを,それらの内部が連続するように一体化したものであるから,部品点数及び組立工数の削減を図ることができると共に,チェンジ機構C及びキックスピンドル21の近接配置が可能となってパワーユニットPのコンパクト化をも図ることができる。
【0049】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば変速ギヤ列Ga〜Gdの駆動ギヤ25a〜25dを変速入力軸14に回転可能に設ける一方,被動ギヤ26a〜26dを変速出力軸15に固設し,チェンジ機構Cにより駆動ギヤ25a〜25dの何れかを選択して変速入力軸14に結合するようにしてもよい。また右サイドカバー20は,これをキックスピンドル21を支持する部分と,チェンジ機構Cを収容しながらチェンジスピンドル42を支持する部分とに分割して,それらを個別にクランクケース11の一側壁に接合することもできる。
【0050】
【発明の効果】
以上のように本発明の第1の特徴によれば,クランク軸を収容支持するクランクケースに,クランク軸にクラッチを介して連結される変速入力軸と,この変速入力軸との間に複数段の変速ギヤ列が設けられる変速出力軸とを収容支持し,前記複数段の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動するチェンジ機構の少なくとも一部をクランクケースの一側方に配設した,小型車両用パワーユニットにおいて,チェンジ機構の,クランクケース外に露出した部分を収容する第1サイドカバー部をクランクケースの一側壁に取り外し可能に接合し,またクランク軸をクランキングし得るキックスピンドルをクランクケースと共に支持する第2サイドカバー部をクランクケースの一側壁に取り外し可能に接合し,このキックスピンドルの第2サイドカバー部外に突出した外端部にキックアームを固着し,前記第1及び第2サイドカバー部を,それらの内部が連続するように一体のサイドカバーで構成し,このサイドカバー側から変速入力軸及び変速出力軸の少なくとも一方の中心部に摺動可能に嵌合され,その摺動に応じて複数の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動させるシフト軸と,サイドカバーに回動可能に支持されるチェンジスピンドルと,サイドカバー内でチェンジスピンドルに取り付けられ,チェンジスピンドルの回動に応じてシフト軸を摺動させるチェンジアームと,サイドカバー外でチェンジスピンドルに連結されるチェンジ操作部材とでチェンジ機構を構成し,チェンジアームをシフト軸と前記キックスピンドルとの間に配置したので,チェンジ機構の多くを第1サイドカバー部に収容してパワーユニットの外観を良好にすることができ,またクランクケースの一外側方向に長く突出するキックスピンドルをクランクケースと第2サイドカバー部とで支持することで,パワーユニットをコンパクトな構成としながらキックスピンドルの支持剛性を強化し,該スピンドル及びその支持部の耐久性の向上を図ることができる。しかもサイドカバーを貫通したキックスピンドルの外端に固着されるキックアームは,車体外側方に配置されることになって,そのキック操作性が良好となる。またサイドカバーをクランクケースから取り外すことにより,チェンジ機構及びキックスピンドルのメンテナンスを容易に行うことができる。
【0051】
また第1及び第2サイドカバー部の一体化により部品点数及び組立工数の削減を図ることができるのみならず,チェンジ機構及びキックスピンドルの近接配置が可能となり,パワーユニットのコンパクト化に寄与し得る。
【0052】
さらにチェンジ機構のなかでも比較的大型で動きの大きいチェンジアームを,キックスピンドルとシフト軸との間に配置したことで,サイドカバー内のスペースを有効に利用してチェンジ機構を収容することができて,サイドカバーのコンパクト化,延いてはパワーユニットのコンパクト化に寄与し得る。
【0053】
また本発明の第2の特徴によれば,クランク軸を収容支持するクランクケースに,クランク軸にクラッチを介して連結される変速入力軸と,この変速入力軸との間に複数段の変速ギヤ列が設けられる変速出力軸とを収容支持し,前記複数段の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動するチェンジ機構の少なくとも一部をクランクケースの一側方に配設した,小型車両用パワーユニットにおいて,チェンジ機構の,クランクケース外に露出した部分を収容するサイドカバーをクランクケースの一側壁に取り外し可能に接合すると共に,このサイドカバーとクランクケースとで,クランク軸をクランキングし得るキックスピンドルを支持し,このキックスピンドルのサイドカバー外に突出した外端部にキックアームを固着し,変速入力軸の後方に変速出力軸を配置すると共に,キックスピンドルを変速入力軸の下方且つ変速出力軸の前方に配置し,このキックスピンドルの後方に隣接して,チェンジ機構のサイドカバーに収容される前記部分を配置したので,チェンジ機構の多くをサイドカバーに収容してパワーユニットの外観を良好にすることができ,またクランクケースの一外側方向に長く突出するキックスピンドルをクランクケースとサイドカバーとで支持することで,パワーユニットをコンパクトな構成としながらキックスピンドルの支持剛性を強化し,該スピンドル及びその支持部の耐久性の向上を図ることができる。しかもサイドカバーを貫通したキックスピンドルの外端に固着されるキックアームは,車体外側方に配置されることになって,そのキック操作性が良好となる。またサイドカバーをクランクケースから取り外すことにより,チェンジ機構及びキックスピンドルのメンテナンスを容易に行うことができる。
【0054】
さらに本発明の第3の特徴によれば,第2の特徴に加えて,サイドカバー側から変速入力軸及び変速出力軸の少なくとも一方の中心部に摺動可能に嵌合され,その摺動に応じて複数の変速ギヤ列の何れかを選択的に作動させるシフト軸と,サイドカバーに回動可能に支承されるチェンジスピンドルと,サイドカバー内でチェンジスピンドルに取り付けられ,チェンジスピンドルの回動に応じてシフト軸を摺動させるチェンジアームと,サイドカバー外でチェンジスピンドルに連結されるチェンジ操作部材とでチェンジ機構を構成し,チェンジスアームをシフト軸と前記キックスピンドルとの間に配置したので,チェンジ機構のなかでも比較的大型で動きの大きいチェンジアームを,キックスピンドルとシフト軸との間に配置したことで,サイドカバー内のスペースを有効に利用してチェンジ機構を収容することができて,サイドカバーのコンパクト化,延いてはパワーユニットのコンパクト化に寄与し得る。
【0055】
さらにまた本発明の第4の特徴によれば,第2又は第3の特徴に加えて,クランクケースが,前記一側壁とそれに対向する他側壁とでクランク軸を支承し,前記キックスピンドルを,前記サイドカバーの側壁と,クランクケースの前記一側壁及び他側壁との三壁により支持したので,比較的長いキックスピンドルの支持剛性を一層強化し,該スピンドル及びその支持部の耐久性の一層の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のパワーユニットを備えた自動二輪車の側面図
【図2】 図1の要部拡大側面図
【図3】 図2の3−3矢視図
【図4】 図2の4−4線断面図
【図5】 図4の5−5線断面図
【図6】 図4の6−6線拡大断面図
【図7】 図4の7−7線拡大断面図
【符号の説明】
C・・・・・チェンジ機構
E・・・・・エンジン
Ga〜Gd・・・変速ギヤ列
P・・・・・パワーユニット
S・・・・・小型車両(自動二輪車)
11・・・・クランクケース
13・・・・クランク軸
14・・・・変速入力軸
15・・・・変速出力軸
20・・・・サイドカバー(右サイドカバー)
20a・・・第2サイドカバー部(右サイドカバー20の前半部)
20b・・・第1サイドカバー部(右サイドカバー20の後半部)
21・・・・キックスピンドル
22・・・・キックアーム
24・・・・クラッチ
40・・・・チェンジアーム
42・・・・チェンジスピンドル
54・・・・チェンジ操作部材(チェンジグリップ)
61・・・・一方向クラッチ機構
66,67・・・戻しばね
Claims (5)
- クランク軸(13)を収容支持するクランクケース(11)に,クランク軸(13)にクラッチ(24)を介して連結される変速入力軸(14)と,この変速入力軸(14)との間に複数段の変速ギヤ列(Ga〜Gd)が設けられる変速出力軸(15)とを収容支持し,前記複数段の変速ギヤ列(Ga〜Gd)の何れかを選択的に作動するチェンジ機構(C)の少なくとも一部をクランクケース(11)の一側方に配設した,小型車両用パワーユニットにおいて,
チェンジ機構(C)の,クランクケース(11)外に露出した部分を収容する第1サイドカバー部(20b)をクランクケース(11)の一側壁に取り外し可能に接合し,またクランク軸(13)をクランキングし得るキックスピンドル(21)をクランクケース(11)と共に支持する第2サイドカバー部(20a)をクランクケース(11)の一側壁に取り外し可能に接合し,このキックスピンドル(21)の第2サイドカバー部(20a)外に突出した外端部にキックアーム(22)を固着し,前記第1及び第2サイドカバー部(20b,20a)を,それらの内部が連続するように一体のサイドカバー(20)で構成し,このサイドカバー(20)側から変速入力軸(14)及び変速出力軸(15)の少なくとも一方の中心部に摺動可能に嵌合され,その摺動に応じて複数の変速ギヤ列(Ga〜Gd)の何れかを選択的に作動させるシフト軸(32)と,サイドカバー(20)に回動可能に支持されるチェンジスピンドル(42)と,サイドカバー(20)内でチェンジスピンドル(42)に取り付けられ,チェンジスピンドル(42)の回動に応じてシフト軸(32)を摺動させるチェンジアーム(40)と,サイドカバー(20)外でチェンジスピンドル(42)に連結されるチェンジ操作部材(54)とでチェンジ機構(C)を構成し,チェンジアーム(40)をシフト軸(32)と前記キックスピンドル(21)との間に配置したことを特徴とする,小型車両用パワーユニット。 - クランク軸(13)を収容支持するクランクケース(11)に,クランク軸(13)にクラッチ(24)を介して連結される変速入力軸(14)と,この変速入力軸(14)との間に複数段の変速ギヤ列(Ga〜Gd)が設けられる変速出力軸(15)とを収容支持し,前記複数段の変速ギヤ列(Ga〜Gd)の何れかを選択的に作動するチェンジ機構(C)の少なくとも一部をクランクケース(11)の一側方に配設した,小型車両用パワーユニットにおいて,
チェンジ機構(C)の,クランクケース(11)外に露出した部分を収容するサイドカバー(20)をクランクケース(11)の一側壁に取り外し可能に接合すると共に,このサイドカバー(20)とクランクケース(11)とで,クランク軸(13)をクランキングし得るキックスピンドル(21)を支持し,このキックスピンドル(21)のサイドカバー(20)外に突出した外端部にキックアーム(22)を固着し,変速入力軸(14)の後方に変速出力軸(15)を配置すると共に,キックスピンドル(21)を変速入力軸(14)の下方且つ変速出力軸(15)の前方に配置し,このキックスピンドル(21)の後方に隣接して,チェンジ機構(C)のサイドカバー(20)に収容される前記部分を配置したことを特徴とする,小型車両用パワーユニット。 - 請求項2記載の小型車両用パワーユニットおいて,
サイドカバー(20)側から変速入力軸(14)及び変速出力軸(15)の少なくとも一方の中心部に摺動可能に嵌合され,その摺動に応じて複数の変速ギヤ列(Ga〜Gd)の何れかを選択的に作動させるシフト軸(32)と,サイドカバー(20)に回動可能に支持されるチェンジスピンドル(42)と,サイドカバー(20)内でチェンジスピンドル(42)に取り付けられ,チェンジスピンドル(42)の回動に応じてシフト軸(32)を摺動させるチェンジアーム(40)と,サイドカバー(20)外でチェンジスピンドル(42)に連結されるチェンジ操作部材(54)とでチェンジ機構(C)を構成し,チェンジアーム(40)をシフト軸(32)とキックスピンドル(21)との間に配置したことを特徴とする,小型車両用パワーユニット。 - 請求項2又は3記載の小型車両用パワーユニットおいて,
クランクケース(11)が,前記一側壁とそれに対向する他側壁とでクランク軸(13)を支承し,前記キックスピンドル(21)を,前記サイドカバー(20)の側壁と,クランクケース(11)の前記一側壁及び他側壁との三壁により支持したことを特徴とする,小型車両用パワーユニット。 - 請求項1〜4の何れかに記載の小型車両用パワーユニットにおいて, キックスピンドル(21)に取り付けられる始動ギヤ(60)を,変速入力軸(14)に一体に形成され又はスプライン結合される変速用の駆動ギヤ(25a)に噛合させたことを特徴とする,小型車両用パワーユニット。
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