JP4825886B2 - フェライト系球状黒鉛鋳鉄 - Google Patents
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Description
また、本発明に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、鋳鉄組織のうち、パーライト組織をフェライト組織にするフェライト化熱処理が施されていることがより好ましい。
本実施形態に係るフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、基本的には、C:3.1〜3.5質量%、Si:4.1〜4.5質量%、Mn:0.8質量%以下、Mo:0.1〜0.6質量%、Cr:0.1〜1.0質量%、P:0.03〜0.1質量%、S:0.03質量%以下、Mg:0.02〜0.15質量%、残部:Feおよび不可避不純物、からなるフェライト系球状黒鉛鋳鉄である。
このような範囲となるように、CrとMoとを添加することにより、Cr及びMoの炭化物が同時に形成されるため、Cr単独での添加と比較して、基地組織であるフェライト相へのCrの固溶量が増加する。このため、酸化による表層へのCr拡散が促進され酸化層(Cr2O3)を形成し易くなり、Cr又はMoの単独添加と比較して耐酸化性が向上する。そして、Moの含有量に対するCrの含有量の質量比(Cr/Mo)が、1.0未満の場合や、3.5を超えた場合には、高温における耐酸化性が低下する傾向にある。
このようなフェライト系球状黒鉛鋳鉄は、鋳鉄組織のうちパーライト組織をフェライト組織に変態させているので、常温における鋳鉄の靭性を向上させることができ、耐衝撃性を高めることができる。また、鋳鉄の硬度を低下させることができるため、機械加工性を向上させることができる。このような熱処理条件は、750℃〜950℃で2〜3時間保持後炉冷し、さらに、500〜750℃で3〜6時間保持後放冷することがより好ましい。
(実施例1及び2)
表1に示す成分となるように、フェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。具体的には、表1の成分を含む材料を、50kg準備し、高周波加熱誘導炉を用いて大気溶融し、1550℃以上の温度で出湯し、取鍋内で、Fe−Si−Mg合金により黒鉛球状化処理を行った。その後、Fe−Siで接種後、1400℃以上でYブロックに鋳造した。
実施例1及び2と同じようにして、フェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。実施例1及び2と相違する点は、Crを含有させなかった点であり、比較例1の材料は高珪素球状黒鉛鋳鉄である。また、比較例2として、JIS規格、FCDA−NiSiCr 35 5 2相当品のオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄を準備した。
<引張試験>
実施例1及び2、比較例1及び2の材料に対して、室温及び800℃の温度環境下で、JIS Z2241の規定に準拠して引張試験を行った。この結果を図1(a)及び(b)に示す。
実施例1及び2、比較例1及び2の材料を、横型大気炉を使用して、大気中において、800℃で100時間保持して、鋳鉄を酸化させ、その後酸化層を除去した鋳鉄の減量を測定した。この結果を図2に示す。
実施例1及び2、比較例1の材料から、標点距離:15mm、標点径:φ8mmの試験片を作成した。疲労試験機には、電気−油圧サーボ式の熱疲労試験機を用い、加熱による試験片の熱膨張伸びを機械的に完全拘束させた状態で、1サイクル9分とする加熱冷却サイクル(下限温度:200℃、上限温度:800℃)を繰返し、試験片が完全に破断するまでの繰返し数によって、熱疲労特性を評価した。この結果を、図3に示す。
図1及び表1から、実施例1及び2の常温における引張強さは、比較例1及び2のものよりも優れており、これはMo,Crの量を増量させたことによると考えられる。図2から、実施例1及び2の材料は、比較例1に比べて耐酸化性が向上し、比較例2のオーステナイト系鋳鉄と同等の耐酸化性を有しており、これは、Cr及びMoを含有したからであると考えられる。また、図3から、実施例1及び2の破断回数は、比較例1のものと同等またはそれ以上であり、これも、Cr及びMoを含有したことにより高温強度が向上したからであると考えられる。
実施例1と同じようにして、表2に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。実施例3が実施例1と相違する点は、鋳鉄をSiの含有量が以下の成分となるように造り込んだ点である。そして、実施例3の鋳鉄に対して、実施例1と同様に、酸化性能評価試験及び室温における引張試験を行った。この結果を、図4及び図5に示す。なお、図4は、Siの含有量に対する800℃における酸化減量、図5は、Siの含有量に対する室温における伸びを示した図である。なお、図4及び5には、実施例1の結果も合わせて示した。
実施例1と同じようにして、表2に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。比較例3及び4が実施例1と相違する点は、本実施形態で示した成分及びその範囲のうち、Siが4.1〜4.5質量%から外れるように製作した点である。具体的には、比較例3は、Siの含有量を、4.1質量%未満(4.09質量%)とし、比較例4を、Siの含有量が、4.5質量%超え(4.61質量%)とした。比較例3及び4の鋳鉄に対して、実施例3と同様に、酸化性能評価試験及び室温における引張試験を行った。この結果を図4及び5に示す。
図4及び5からも明らかなように、実施例1及び3の酸化減量は、比較例3のものと比較して少なく、実施例1及び3の室温伸びは、比較例4のものと比較して大きかった。この結果から、Siの含有量は、4.1〜4.5質量%の範囲が最適であり、Siの含有量が4.1質量%未満では、充分な耐酸化性を得ることができないため酸化減量が多くなり、4.5質量%を超えた場合には、基地組織のフェライト相が脆化することにより、伸びが著しく低下すると考えられる。
実施例1と同じようにして、表3に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。実施例4が実施例1と相違する点は、鋳鉄をPの含有量が以下の成分となるように造り込んだ点である。そして、実施例4の鋳鉄に対して、実施例1と同様に、室温及び400℃における引張試験を行った。この結果を、図6及び図7に示す。なお、図6は、Pの含有量に対する室温における伸びを示した図、図7は、Pの含有量に対する400℃における伸びを示した図である。なお、図6及び7には、実施例1に示した鋳鉄における引張試験の結果も合わせて示した。
実施例1と同じようにして、表3に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。比較例5及び6が実施例1と相違する点は、本実施形態で示した成分及びその範囲のうち、Pが0.03〜0.1質量%から外れるように製作した点である。具体的には、比較例5は、Pの含有量を、0.03質量%未満(0.019質量%)とし、比較例6は、Pの含有量を、0.1質量%超え(0.15質量%)とした。比較例5及び6の鋳鉄に対して、実施例4と同様に、室温及び400℃における引張試験を行った。この結果を図6及び7に示す。
図6及び7からも明らかなように、実施例1及び4の室温伸び及び400℃伸びは、比較例5及び6のものと比較していずれも高かった。この結果から、Pの含有量は、0.03〜0.1質量%の範囲が最適であり、Pの含有量が0.03質量%未満では、400℃で鋳鉄が脆化することにより400℃伸びが低下し、0.1質量%を超えた場合には、基地組織のパーライト量が増加するため、室温で靭性も低下することにより、室温伸びが低下したと考えられる。
実施例1と同じようにして、表4に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。実施例5及び6が実施例1と相違する点は、鋳鉄をMoの含有量が以下の成分となるように造り込んだ点である。そして、実施例5及び6の鋳鉄に対して、実施例1と同様に、室温及び800℃における引張試験を行った。この結果を、図8及び図9に示す。なお、図8は、Moの含有量に対する800℃における引張強さを示した図であり、図9は、Moの含有量に対する室温における伸びを示した図である。なお、図8及び9には、実施例1の結果も合わせて示した。
実施例1と同じようにして、表4に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。比較例7及び8が実施例1と相違する点は、本実施形態で示した成分のうち、Moが0.1〜0.6質量%から外れるように製作した点である。具体的には、比較例7は、Moの含有量を、0.1質量%未満(0.09質量%)とし、比較例8は、Moの含有量を、0.6質量%超え(0.78質量%)とした。比較例7及び8の鋳鉄に対して、実施例5及び6と同様に、室温及び800℃における引張試験を行った。この結果を図8及び9に示す。
図8及び9からも明らかなように、実施例1、5及び6の800℃引張強さは、比較例7よりも大きく、実施例1、5及び6の室温伸びは比較例8よりも大きかった。この結果から、Moの含有量は、0.1〜0.6質量%の範囲が最適であり、Moの含有量が0.1質量%未満では、800℃の引張強度が低下し、0.6質量%を超えた場合に、基地組織のパーライト量が増加するため、室温で靭性が低下することにより、室温伸びが低下したと考えられる。また、より好ましくは、Moの含有量は、0.15質量%以上である。
実施例1と同じようにして、表5に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。実施例7〜10が実施例1と相違する点は、鋳鉄をCrの含有量が以下の成分となるように造り込んだ点である。そして、実施例7〜10の鋳鉄に対して、実施例1と同様に、室温及び800℃における引張試験と、酸化性能評価試験を行った。この結果を、図10〜12に示す。なお、図10は、Crの含有量に対する800℃における引張強さを示した図であり、図11は、Crの含有量に対する室温における伸びを示した図であり、図12は、Crの含有量に対する800℃における酸化減量を示した図である。なお、図10〜12には、実施例1の結果も合わせて示した。
実施例1と同じようにして、表5に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。比較例9及び10が実施例1と相違する点は、本実施形態で示した成分のうち、Crが0.1〜1.0質量%から外れるように製作した点である。具体的には、比較例9は、Crの含有量を、0.1質量%未満(0.05質量%)とし、比較例10は、Crの含有量を、1.0質量%超え(1.15質量%)とした。比較例9及び10の鋳鉄に対して、実施例7〜10と同様に、室温及び800℃における引張試験と、酸化性能評価試験を行った。この結果を図10〜12に示す。
図10〜12からも明らかなように、実施例1、及び8〜10の800℃引張強さは、比較例9のものよりも大きく、Crの含有量の増加に伴って、800℃引張強さが向上した。実施例1、及び7〜10の室温伸びは、比較例10のものよりも大きかった。また、実施例1、及び7〜10の酸化減量は、比較例9のものよりも少なかった。この結果から、Crの含有量は、0.1〜1.0質量%の範囲が最適であり、Crの含有量が0.1質量%未満では、耐酸化性及び高温強度耐酸化性が低下してしまい、その結果、800℃酸化減量が多くなったと考えられる。一方、Crの含有量が1.0質量%を超えた場合に、Crの炭化物(クロムカーバイド)が鋳造時に過多に析出することにより、鋳鉄の靭性を低下させ、これにより、室温伸びが低下したと考えらえる。
実施例2と同じようにして、フェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造し、これを、図13に示す温度プロフィールで熱処理(フェライト化熱処理)を行った。具体的には、熱処理条件として、930℃で3.5時間保持後炉冷し、さらに、680〜730℃で6時間保持後放冷した。そして、実施例1と同様の引張試験を行った。また、ビッカース硬度計により押込み荷重196.1Nの条件で表面硬さを測定した。この結果を図14及び15に示す。また、熱処理前後の組織写真を観察した。この結果を図16に示す。
実施例2と同じようにして、フェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。実施例11と相違する点は、上述した熱処理を行っていない点である。そして、実施例11と同じように、室温における引張試験及び硬さ試験を行った。この結果を図14及び15に示す。
図14に示すように、実施例11の室温伸びの方が比較例11のものよりも大きかった。また、図15に示すように、実施例11の硬さのほうが比較例11のものよりも低かった。また、図16に示すように、実施例11は、熱処理により、鋳鉄組織のうちパーライト組織がフェライト組織に変態していた。
実施例1と同じようにして、表6に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。実施例12〜14が実施例1と相違する点は、鋳鉄をCr/Mo(Moの含有量に対するCrの含有量の質量比(Cr/Mo))が、以下の質量比となるように造り込んだ点である。そして、実施例12〜14の鋳鉄に対して、実施例1と同様に、酸化性能評価試験を行った。この結果を、図17に示す。なお、図17には、実施例1の結果も合わせて示した。なお、実施例1は、鋳鉄をMoの含有量に対するCrの含有量の質量比(Cr/Mo)は、1.97である。
実施例1と同じようにして、表6に示す成分のフェライト系球状黒鉛鋳鉄を製造した。比較例12〜16が実施例1と相違する点は、鋳鉄をMoの含有量に対するCrの含有量の質量比(Cr/Mo)が、1.0〜3.5の範囲から外れる質量比となるように造り込んだ点である。そして、比較例12〜16の鋳鉄に対して、実施例12〜14と同様に、酸化性能評価試験を行った。この結果を、図17に示す。なお、図17には、比較例1の結果も合わせて示した。表6及び図17では、実施例12〜14との比較のために、比較例12及び13と表しているが、比較例12及び13は、本発明(請求項1)に含まれる実施例に相当する。
図17に示すように、実施例1及び12〜14の酸化減量は、比較例1及び13〜16のものに比べて、少なかった。また、実施例1及び実施例14の酸化減量が特に少なかった。
Claims (3)
- C:3.1〜3.5質量%、
Si:4.1〜4.5質量%、
Mn:0.8質量%以下、
Mo:0.1〜0.6質量%、
Cr:0.1〜1.0質量%、
P:0.03〜0.1質量%、
S:0.03質量%以下、
Mg:0.02〜0.15質量%、
残部:Feおよび不可避不純物、
からなるフェライト系球状黒鉛鋳鉄であって、
Moの含有量に対するCrの含有量の質量比(Cr/Mo)が、1.97〜3.45の範囲にあることを特徴とするフェライト系球状黒鉛鋳鉄。 - C:3.1〜3.5質量%、
Si:4.1〜4.5質量%、
Mn:0.8質量%以下、
Mo:0.1〜0.6質量%、
Cr:0.1〜1.0質量%、
P:0.03〜0.1質量%、
S:0.03質量%以下、
Mg:0.02〜0.15質量%、
残部:Feおよび不可避不純物、
からなるフェライト系球状黒鉛鋳鉄であって、
Moの含有量に対するCrの含有量の質量比(Cr/Mo)が、58/30〜3.5の範囲にあることを特徴とするフェライト系球状黒鉛鋳鉄。 - 前記フェライト系球状黒鉛鋳鉄は、鋳鉄組織のうち、パーライト組織をフェライト組織にするフェライト化熱処理が施されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
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