JP5384352B2 - オーステナイト系鋳鉄とその製造方法およびオーステナイト系鋳鉄鋳物および排気系部品 - Google Patents

オーステナイト系鋳鉄とその製造方法およびオーステナイト系鋳鉄鋳物および排気系部品 Download PDF

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Description

本発明は、耐熱性等に優れるオーステナイト系鋳鉄およびそれからなる鋳物およびその製造方法および排気系部品に関する。
複雑な形状をした部材や比較的大型の部材は鋳造により製造されることが多く、しかも、比較的安価な鋳鉄製鋳物(以下単に「鋳物」という。)が多用される。
鋳鉄は、鉄−炭素を主成分とする合金中のCがγ鉄中の最大固溶限(約2質量%)を超え、共晶凝固を伴うものである。通常は、機械的特性、耐食性、耐熱性等の特性改善のため、種々の合金元素が加えられる。このような鋳鉄を合金鋳鉄といい、特に、合金元素量の多い鋳鉄を高合金鋳鉄という。この高合金鋳鉄には、通常、晶出する基地の結晶構造の相違により、フェライト系鋳鉄とオーステナイト系鋳鉄に大別される。
なかでもオーステナイト系鋳鉄は、高温域は勿論常温域でも主にオーステナイト相(γ相)からなるため、耐熱性、耐酸化性、耐食性等に優れ、また、延性や靱性等に優れる。
このため、高温雰囲気等の過酷な環境下で使用される部材にオーステナイト系鋳鉄が多用される。例えば、自動車分野でいえば、ターボチャージャーハウジング、エキゾーストマニホルド、触媒ケースなどである。いずれの部材も、高温の排気ガスに曝され、長期耐久性が要求される部品等である。
ところで、オーステナイト系鋳鉄にも種々あり、代表的なものは、ニレジスト、ニモル、ニクロシラル、モネル、ミノーバー、ノーマグ等である。また、日本工業規格(JIS)にも、片状黒鉛(FCA)系鋳鉄が9種、球状黒鉛(FCDA)系鋳鉄が14種規定されている。
従来のオーステナイト系鋳鉄は、オーステナイト安定化元素であるNiを多量含有させることで(例えば、Ni:18〜36%)、常温域でもオーステナイト相が得られるようにしていた。このNiは、母材のFeや他の合金元素と比較して非常に高価であり、従来のオーステナイト系鋳鉄からなる鋳物は非常に高コストであった。
確かに、ニレジスト(JIS FCDA NiMn137相当)のように、Ni含有量が比較的少ないオーステナイト系鋳鉄も公知となっている。しかし、二レジスト(JIS FCDA NiMn137相当)は、耐酸化性が劣る。また、ニレジストをX線解析(XRD)で観るとオーステナイト率100%となるが、実際には、図5の写真(左側2枚の写真)を見ると分かるように、Fe基地中にオーステナイト組織の他に層状炭化物が存在する層状組織(細長い棒状の構造物が複数並び、縞模様が見える組織構造)となっている。従って、ニレジストはもはやオーステナイト相が単相とは言えない組織構造をしている。
ちなみに、オーステナイト組織の他に層状(若しくは針状)炭化物が存在していると、加熱された際に、オーステナイトよりも熱膨張係数の大きいそれら炭化物がオーステナイトよりも膨張することで、オーステナイトに引張応力が生じる。このため、二レジスト(JIS FCDA NiMn137相当)が自動車の排気系部品のような、高温と常温に繰り返し曝される部材に用いられた場合、オーステナイト組織に引張応力が繰り返し発生することで、オーステナイト組織にクラックが発生するおそれがある。さらに、フェライト相に比べオーステナイト相は炭素固溶量が大きい。このため、フェライト⇒オーステナイトの変態の際にオーステナイト化に伴って周囲の黒鉛を溶解・固溶するようになり、黒鉛部分に空隙を作りやすくなり、鋳物の強度の劣化を促進する。さらに、冷却時には再びフェライト相に戻ることで過飽和なCによるチル化が促進され、冷熱サイクルに伴いチル相の増大、それに伴う脆化、体積膨張が懸念される。
また、オーステナイト組織の他に層状炭化物等が存在する不安定な組織構造であると、切削加工時に非常に硬い加工誘起マルテンサイトが現れ、加工性が悪くなるとういう欠点も有している。
また、上記の二レジストよりもさらにNi量を少なくする一方でSi量を増やしたオーステナイト系鋳鉄が下記の特許文献に開示されている。
特開昭58−27951号公報
上記の特許文献1は、オーステナイト系鋳鉄に関する耐熱性の一指標である耐酸化性に関して、Si量が増大する程、単位面積あたりの酸化増量が少なくなることを開示している(特許文献1の第6図参照)。しかし、本発明者の研究によれば、Si量が過多になると、オーステナイト系鋳鉄の伸びの低下や被削性の悪化を招く。このため、オーステナイト系鋳鉄からなる耐熱部材の信頼性や量産性等を考慮すると、Si量の調整だけでその耐酸化性を実用上充分なレベルにまで高めることは現実的ではない。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものである。すなわち、Niの含有量の少ないオーステナイト系鋳鉄であって、熱疲労強度等に優れるのみならず耐酸化性にも優れる低コストなオーステナイト系鋳鉄を提供することを目的とする。また、そのオーステナイト系鋳鉄からなるオーステナイト系鋳物およびその製造方法さらにはそのオーステナイト系鋳物の一つである排気系部品も併せて提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、ニッケル(Ni)の含有量を低減させた場合でも、炭素(C)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および銅(Cu)の含有量を調整することで、良好な特性を示すオーステナイト系鋳鉄を得ることに成功した。特に、Ni量を低減しつつも、Si量を過剰に増加させることなく、Cr量および/またはCu量を調整することで優れた耐酸化性を示すオーステナイト系鋳鉄を得ることができた。これらの成果を発展させることで、本発明者は以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
〈オーステナイト系鋳鉄〉
(1)すなわち、本発明のオーステナイト系鋳鉄は、
炭素(C)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および銅(Cu)からなる基本元素と、
残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または特性改善に有効な微量の微量改質元素とからなり、
常温域でオーステナイト相を主相とするFe合金からなる基地で組織された鋳鉄であるオーステナイト系鋳鉄であって、
前記基本元素は、前記鋳鉄全体を100質量%(以下単に「%」と表示する。)としたとき、下記の条件を満足する組成範囲内にあることを特徴とするオーステナイト系鋳鉄。
C :1〜5 %
Si :2〜6 %
Ni :7〜15 %
Mn :0.1〜8 %
Cu :2.5 %以下
Cr :6 %以下
Cr+Cu:0.5 %以上
(2)先ず、本発明のオーステナイト系鋳鉄では、Ni量が鋳鉄全体としてかなり少量になっている。従来の技術常識からすれば、常温域で安定したオーステナイト相を主相とする基地が得られないようにも思われる。しかし、本発明では、その少量のNi量を前提としつつも、それ以外の合金元素であるC(特に、固溶炭素量Cs)、Si、Cr、MnおよびCuの各含有量を上記の各条件を満足する適切な範囲とすることで、オーステナイト相を得ることに成功した。
特に本発明のオーステナイト系鋳鉄では、適量のCrまたはCuを含有することにより、Si量の上限を抑制しつつも、後述する酸化減量等で指標される耐酸化性を向上させている。
ここでCrは、オーステナイト系鋳鉄の表面付近に緻密なクロム酸化物からなる不働態皮膜を形成して、その耐酸化性を向上させたと考えられる。また、Crは、鋳鉄基地中で炭素と結合して炭化物を析出させ、基地の析出強化により鋳鉄の高温耐力を向上させ得る。もっとも、Crが過多になると炭化物が増加して、シャルピー衝撃値等により指標される靱性や加工性が低下して好ましくない。そこで、本発明のオーステナイト系鋳鉄は、Cr量が0.5〜4%であると好ましい。
さらにCrが含有されていると、ギブスの自由エネルギー表からも解るように、組織が安定して層状・針状炭化物が出現し難いという効果がある。
また、Cuは、常温でオーステナイトと同様の結晶構造であるfcc構造を有し、bcc構造のフェライトよりもより酸素を通しにくい稠密構造であって、fcc構造をより安定にする効果がある。そして酸化皮膜にCuが入ることなく、酸化皮膜と金属との界面にCuが富化され、母相と違う格子状数を持つfcc構造となることで、Cuは母相に侵入しやすいエネルギー状態をもつ酸素原子の侵入を防ぐバリア層効果を発揮することで、その耐酸化性を向上させたと考えられる。
また、CuはNiと同様に基地に固溶してオーステナイト組織を安定化させる他、基地組織の結晶粒を微細化して高温耐力の向上させるのに有効な元素である。さらに、本発明者が鋭意研究した結果、Cuは硬さを減少させる効果もあることが解り、Cuを含有させることでオーステナイト系鋳物の加工性の向上を図れる。
もっとも、Cuが過多になるとCuの包晶組織が出現して黒鉛球状化が妨げられ、鋳鉄の強度等が低下したり、Cuの包晶組織が出現して高温時の伸び性能が悪化する。従って、高温時の延性が悪化しない範囲でCuを含有すると好ましい。そこでCuの上限を例えば2.5%にするとよい。
本発明では、耐酸化性を向上させることを一つの目的としており、耐酸化性を向上させるCuとCrを足して0.5%以上入れることが好ましい。このCu+Crの下限は、1%、1.5%さらには2%であると好ましい。
そして、本発明のように、強度、耐熱性(耐酸化性を含む)、伸び、延性、靱性、加工性等をバランスよく備えたオーステナイト系鋳鉄を低コストで得る上で、Ni量を8〜14%とすると好適である。
〈オーステナイト系鋳物およびその製造方法〉
(1)本発明は、上述したオーステナイト系鋳鉄としてのみならず、そのオーステナイト系鋳鉄からなるオーステナイト系鋳物としても把握できる。本発明のオーステナイト系鋳物の一例として、排気系部品などの高温環境下に曝される部材が挙げられる。
(2)さらに本発明は、そのオーステナイト系鋳物の製造方法としても把握できる。
すなわち、本発明は、前述した組成範囲の溶湯を調製する溶湯調製工程と、該溶湯を鋳型に注湯する注湯工程と、該鋳型に注湯された溶湯を冷却して凝固させる凝固工程とからなり、上述した本発明のオーステナイト系鋳鉄からなる鋳物が得られることを特徴とするオーステナイト系鋳物の製造方法であっても良い。
(3)ところで、本発明のオーステナイト系鋳鉄(または鋳物)の用途を拡大する上で、鋳造時に種々の改質元素を添加することも多い。例えば、基地組織中に晶出する黒鉛の粒数を増加させ、また、その形状を球状化するために、助剤が添加されることが多い。
そこで、本発明のオーステナイト系鋳物の製造方法は、前述した組成範囲の溶湯からなる元湯を調製する元湯調製工程と、晶出または析出する黒鉛の核となる接種剤と該黒鉛の球状化を促進する球状化剤との少なくとも一種を含む助剤を該元湯に直接または間接に添加する助剤添加工程と、該助剤添加工程後または該助剤添加工程中の溶湯を鋳型に注湯する注湯工程と、該鋳型に注湯された溶湯を冷却して凝固させる凝固工程とからなり、基地中に略球状の黒鉛が晶出または析出した前述のオーステナイト系鋳鉄からなる鋳物が得られることを特徴とするものであっても良い。
〈付加的構成〉
本発明のオーステナイト系鋳鉄(オーステナイト系鋳物を含む)またはその製造方法は、下記に示すような内容であってもよい。また、下記に列挙した構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を上記の本発明にさらに付加されてもよい。
なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。また、下記に示したいずれの構成もカテゴリーを越えて相互に適宜組合わせ可能である。例えば、オーステナイト系鋳鉄の組成に関する構成であれば、オーステナイト系鋳物にも、その製造方法にも関連することはいうまでもない。また、一見、「方法」に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、「物」に関する構成ともなり得る。
(1)本発明のオーステナイト系鋳鉄は、C、Si、Cr、Ni、MnおよびCuからなる基本元素と、残部がFeと不可避不純物および/または特性改善に有効な微量の微量改質元素とからなり、
常温域でオーステナイト相を主相とするFe合金からなる基地で組織された鋳鉄であるオーステナイト系鋳鉄であって、
前記基本元素は、
前記鋳鉄全体を100質量%(以下単に「%」と表示する。)としたとき、
CおよびSiの各含有量により与えられる下式の炭素当量(以下単に「Ceq」と表示する。)が下式の第1条件を満足すると共にNiの含有量が下式の第2条件を満足し、Cuの含有量が下式の第3条件を満足し、
さらに、前記基地全体を100%としたときに、
Ni、MnおよびCuの各含有量とFe中に固溶したCである固溶炭素量(Cs)とにより与えられる下式のニッケル当量(以下単に「Nieq」と表示する。)と、CrおよびSiの各含有量により与えられる下式のクロム当量(以下単に「Creq」と表示する。)とが下式の第4条件および第5条件を満足する、組成範囲内にあることを特徴とする。
第1条件 : 2 ≦ Ceq ≦ 5
第2条件 : 7 ≦ Ni ≦ 15 (%)
第3条件 : 0 ≦ Cu ≦ 2.5 (%)
第4条件 :A1・Creq+B1 ≦ Nieq ≦ 30
(A1 = −0.8:B1=21.6)
第5条件 : Creq ≦ 13.5
炭素当量 :Ceq =C+Si/3
ニッケル当量:Nieq=Ni+30・Cs+0.5・Mn+Cu
クロム当量 :Creq=Cr+1.5Si
(2)この本発明のオーステナイト系鋳鉄は、第2条件に示すように、鋳鉄全体としてNi量をかなり少量にしている。このため、従来の技術常識からすれば、常温域で安定したオーステナイト相の基地が得られるとは思われない。
しかし、本発明では、その少量のNi量を前提としつつも、それ以外の合金元素であるC(特にCs)、Si、Cr、MnおよびCuの各含有量を上記の各条件を満足する適切な範囲とすることで、オーステナイト相を得ることに成功した。以下、本発明を規定する各条件について説明する。
先ず、本発明は、あくまでも共晶凝固を伴う鋳鉄であることから、炭素当量(Ceq)を第1条件のように規定した。
次に、本発明は、Niを低減したオーステナイト系鋳鉄であるから、Ni量を第2条件のように規定した。鋳鉄全体の組成として、第1条件を前提に第2条件を考えるだけでも、本発明のオーステナイト系鋳鉄は、従来の多くのオーステナイト系鋳鉄と区別され得る。
さらに本発明では、高温時の伸び性能に優れたオーステナイト系鋳鉄を得るために、Cu量を第3条件のように規定した。本発明者の実験の結果、分析組成でCuを多く含んだオーステナイト鋳鉄は、Cu包晶が存在することが光学顕微鏡の観察により分かった。このCu包晶がオーステナイト系鋳鉄の高温時の伸び性能を悪化させていると推測される。
また、本発明では、そのNi量やCeqを踏まえて、Fe合金からなる基地に着目した。すなわち、鋳鉄組織の中核をなす基地全体の組成を、基本元素から求まるニッケル当量(Nieq)およびクロム当量(Creq)という指標を導入して、第4条件および第5条件により規定した。
今回の実験の結果、Cuを上記範囲としても、上記の第4条件および第5条件を満たすオーステナイト鋳鉄は、オーステナイト中に層状組織が存在しないことが分かった。そして、オーステナイト中に層状組織が存在しないことから、熱疲労に強い材料であることが推測される。
この第4条件および第5条件のベースはシェフラーの組織図である。しかし、多くの有名な技術文献を参照すれば明らかなように、そもそもシェフラーの組織図は、溶接部に関する組成と溶接組織との関係、またはオーステナイト系ステンレス鋳鋼等に関する組成と組織の関係を示すものである。つまり、シェフラーの組織図は、本来、炭素含有量の多い鋳鉄組織に用いられるものではない。このことは、Nieqの換算に際して、固溶炭素量が用いられていることからも解る。
このような経緯を考慮すると、上記の第4条件および第5条件は、一見シェフラーの組織図と同等なようにも思えるが、シェフラーの組織図が本来想定しているような分野とは異なる鋳鉄分野において、本発明者の真摯な種々の実験から得られた全く新規な条件式であるといえる。従って、基本元素が上記の第1〜5条件を満たす本発明のオーステナイト系鋳鉄は、従来の技術常識の延長上にはない、画期的な鋳鉄である。
なお、本発明のオーステナイト系鋳鉄が、その組織および組成からオーステナイト鋳鉄のその他の優れた特性を示すことは勿論である。
(3)本発明のオーステナイト系鋳鉄は、前記第2条件に示したNi量を前提にして、上述の規定方法以外に、または上述の規定方法と併せて、基本元素を構成する各合金元素を個別に、または種々組合わせて、その組成を複数の方法で特定することもできる。
例えば、Ceqの下限を2.1%さらには2.5%、その上限を4.5%さらには4.3%等としても良い。また、Cの下限を2.1%さらには2.5%、その上限を4.5%さらには4.3%、Siの下限を2%さらには3%、その上限を6%、5%さらには4.5%等としても良い。
また、Crの下限を0%、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%、1%、1.2%、その上限を9%、7%、5%、4%、3%、2%等としても良い。
Cuの下限を0%、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%、0.7%、1%、その上限を2%、1.7%、1.5%、1.3%等としても良い。なお、本願明細書でCuの下限を0%というときは、0%≦Cuのみならず0%<Cuをも意味する。
Mnの下限を3%、4%、5%、その上限を15%、10%、9%、8%、7%としても良い。これら各元素の作用および組成の詳細は後述する。
なお、これらの上限および下限は、独立してまたは任意に組合わせて用いることができ、上限を下限とする範囲を設定したり、また、下限を上限とする範囲を設定することもできる。また、基本元素の組成が特定できる限り、各合金元素ごとの組成を任意に組合わせて用いることもできる。これらのことは本明細書において共通することである。
以上を踏まえて本発明のオーステナイト系鋳鉄を鋳鉄全体の組成で規定した一例を次に示す。すなわち、本発明は、C、Si、Cr、Ni、MnおよびCuからなる基本元素と、残部がFeと不可避不純物および/または特性改善に有効な微量の微量改質元素とからなり、常温域でオーステナイト相を主相とするFe合金からなる基地で組織された鋳鉄であるオーステナイト系鋳鉄であって、
前記基本元素は、前記鋳鉄全体を100%(以下単に「%」と表示する。)とした
とき、CおよびSiの各含有量により与えられる下式の炭素当量(以下単に「Ceq」と表示する。)並びに、Ni、Cu、Siが下記に示す組成範囲内にあることを特徴とするオーステナイト系鋳鉄としても規定される。
2 ≦ Ceq ≦ 5 (%)
7 ≦ Ni ≦ 15 (%)
0 ≦ Cu ≦ 2.5 (%)
3 ≦ Si ≦ 6 (%)
また、以上を踏まえて本発明のオーステナイト系鋳鉄を鋳鉄全体の組成で規定した他の一例を次に示す。すなわち、本発明は、本発明は、C、Si、Cr、Ni、MnおよびCuからなる基本元素と、残部がFeと不可避不純物および/または特性改善に有効な微量の微量改質元素とからなり、常温域でオーステナイト相を主相とするFe合金からなる基地で組織された鋳鉄であるオーステナイト系鋳鉄であって、
前記基本元素は、前記鋳鉄全体を100%(以下単に「%」と表示する。)としたとき、CおよびSiの各含有量により与えられる下式の炭素当量(以下単に「Ceq」と表示す
る。)並びに、Ni、Cu、Crが下記に示す組成範囲内にあることを特徴とするオーステナイト系鋳鉄としても規定される。
2 ≦ Ceq ≦ 5 (%)
7 ≦ Ni ≦ 15 (%)
0 ≦ Cu ≦ 2.5 (%)
0.5 ≦ Cr ≦ 9 (%)
(4)ところで本発明でいう「オーステナイト相」は、完全にオーステナイト単相である必要はない。つまり、本発明でいう「オーステナイト相を主相とする」とは、X線解析でオーステナイト100%となり、且つ、オーステナイト中にマルテンサイトやパーライトといったものから成る層状組織を含んでいないオーステナイト単相のみからなる場合は勿論、その他、若干のマルテンサイト相などを含む場合も許容し得る趣旨である。
敢えていうなら、基地全体を100体積%としたときに、オーステナイト単相が50体積%超、60体積%以上、70体積%以上、80体積%以上、90体積%以上さらには95体積%以上であればよい。
基地組織がオーステナイト相であるか否かは、前述した第4条件によって実質的に規定される。すなわち、前記第4条件中でNieqの下限を区画する境界線の切片を21.6とすることで、得られる金属組織をオーステナイト単相へと絞り込むことができる。なお、本発明で示した境界線の切片を示すBxのインデックスは便宜上のものであることを断っておく。
本発明は、使用するNi量を低減しつつ、常温域でオーステナイト相の基地を有する鋳鉄を得ることが一つの目的であるから、第2条件に示すように鋳鉄全体としてNiが少量である限り、基地全体としてのNieqの上限は本来限定されない。
もっとも、Ni以外の元素も、Fe中の固溶量には限度がある。また、それらの元素が多くなると、Ni量の低減を図れてもコストが上昇するし、所望の鋳鉄組織も得難くなって好ましくない。そこで本発明ではNieqの上限を30%としたが、Nieqの上下限は、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%さらには20%のいずれかであると好ましい。
これと同様のことはCreqについても該当するので、本発明では、Creqの上限を疲労強度低下の原因と考えられる炭化物生成状況を考慮して、13.5%とした。もっともCreqの上下限は、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%または4%のいずれかであると好ましい。
特に、Creqが5〜8%でNieqが18%以上であるか、Creqが7〜9%でNieqが13%以上である場合、層状炭化物(針状炭化物含む)の析出がないか、または抑制されるので好ましい。
本発明でいう「微量改質元素」は、特性改善に有効な微量な元素である。例えば、晶出または析出する黒鉛の球状化や粒数の増加、オーステナイト相の微細化や安定化等、金属組織に寄与する元素である。また、室温域または高温域の強度、高温耐久性(クリープ強度等)、靱性、伸び等、機械的特性に寄与する元素でも良い。その他、耐酸化性、熱膨張性、熱伝導性、加工性等に寄与する元素でも良い。さらに、鋳造時の湯流れ性、割れ、ひけまたは気孔等の鋳造欠陥の抑制等、鋳造性に寄与する元素でも良い。
「不可避不純物」には、原料中に含まれる不純物、鋳造時に混入等する不純物等があり、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。例えば、このような不可避不純物としてリン(P)等がある。
本発明では、基本元素の組成が重要であるため、微量改質元素や不可避不純物の組成は特に限定されない。例えば、不可避不純物は勿論のこと、微量改質元素が含まれないオーステナイト系鋳鉄であっても本発明の範囲内である。なお、微量改質元素となり得る元素であっても、その含有量や鋳鉄の用途等によって、不可避不純物として扱っても良い。
本明細書中で「x〜y」と表記するときは、特に断らない限り、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書中の条件式や数式中で用いた元素記号や指標(Nieq、Creq、Ceq、Cs等)は、特に断らない限り、その元素の含有量(質量%)を指標する。また、その条件式や数式中に記載した「・」は、掛け算(積)を意味する。
さらに、本発明で用いる成分組成には、鋳鉄全体としての成分組成と、それを構成する一部である基地全体としての成分組成とがある。もっとも、基地全体としての成分組成は、基本的に基地組織に影響するNieqおよびCreqに関する部分である。従って、特に断らない限り、NieqおよびCreqに関する部分以外について、本明細書中で規定する組成は鋳鉄全体としての成分組成を意味する。
図1は、組成の異なる種々の鋳鉄のXRD図である。
図2は、組成の異なる種々の鋳鉄について示したCreq−Nieq相関図である。
図3は、板厚のみ異なる鋳鉄(試験片No.2−2)のXRD図である。
図4Aは、鋳物試料(試験片No.3−1)の表面および内部の各位置における金属組織を示す顕微鏡写真である。
図4Bは、鋳物試料(試験片No.3−2)の表面および内部の各位置における金属組織を示す顕微鏡写真である。
図5は、ベース材(JIS FCDANiMn137)およびそれにCuを添加したCu添加材からなるそれぞれの鋳鉄について、金属組織を示す顕微鏡写真とシェフラーの組織図上の位置を併せて示した図である。
図6は、鋳物試料(試験片No.6−1〜6−12)の金属組織を示す顕微鏡写真である。
図7は、第4試験におけるCu添加量と伸びの関係を示したグラフである。
図8は、第4試験におけるCr添加量と耐力の関係を示したグラフである。
図9は、成分組成の異なる鋳鉄のXRD図である。
図10は、各種鋳鉄の温度と線膨張係数との相関図であり、同図(a)の相関図は試験片No.6−5に、同図(b)の相関図は試験片No.4−3に、同図(c)の相関図は試験片No.R3に、同図(d)の相関図は試験片No.R4に、同図(e)の相関図は試験片No.R6にそれぞれ対応する。
図11は、各種試験片の酸化減量を示す棒グラフである。
図12は、各種試験片に関する酸化減量と含有元素量の相関を示す図であり、同図(a)はCrの含有量に関するものであり、同図(b)はNiの含有量に関するものである。
図13は、各種試験片に関する酸化減量と含有元素量の相関を示す図であり、同図(a)はMnの含有量に関するものであり、同図(b)はCuの含有量に関するものである。
図14は、各種試験片のシャルピー衝撃値を示す棒グラフである。
図15は、各種試験片に関するシャルピー衝撃値とCr含有量の相関を示す図である。
図16は、各種試験片の800℃における0.2%耐力と破断伸びを示す棒グラフおよび分散図である。
図17は、各種試験片に関する破断伸びと含有元素量の相関を示す図であり、同図(a)はCrの含有量に関するものであり、同図(b)はCuの含有量に関するものである。
図18は、各種試験片の硬さを示す棒グラフである。
図19は、各種試験片の湯廻り性の評価指標となる湯廻り欠陥部を示す写真である。
図20は、各種試験片の湯廻り性を相対評価した棒グラフであり、試験片No.7−1を「1」として示したものである。
図21は、各種試験片の熱疲労寿命を示す棒グラフである。
図22は、各種試験片の熱疲労寿命を示す棒グラフである。
図23は、各種元素を1%添加したときの硬さの上昇値と試験片の板厚の相関を示すグラフである。
図24は、各種試験片の引け量の定量化方法を説明する写真である。
図25は、各種試験片の引け量を相対評価した棒グラフであり、試験片No.R3を「1」として示したものである。
図26は、各種試験片の平均線膨張係数と加熱温度幅との相関を示すグラフである。
図27は、各種試験片の平均線膨張係数を示す棒グラフである。
図28は、各種試験片の熱伝導率を示す棒グラフである。
図29は、各種試験片の各加熱温度における酸化減量を示す棒グラフである。
図30は、各種試験片の各温度における耐力を示す棒グラフである。
図31は、各種試験片の各温度における引張強度を示す棒グラフである。
図32は、各種試験片の各温度における破断伸び示す棒グラフである。
図33は、各種試験片の各条件下における熱疲労寿命を示す棒グラフである。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、本明細書では主にオーステナイト系鋳鉄を取り上げて説明するが、その内容は本発明のオーステナイト系鋳物(排気系部品を含む。)やその製造方法にも適宜適用されることを断っておく。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
〈組成〉
(1)基本元素
本発明のオーステナイト系鋳鉄は、基本元素と残部であるFeとからなり、基本元素はC、Si、Cr、Ni、MnおよびCuの6種の元素よりなる。もっとも、オーステナイト系鋳鉄が実質的にCuを含まない場合は、C、Si、Cr、NiおよびMnの5元素が基本元素となる。以下、これらの各元素の作用または機能と、好適な組成について説明する。
(i)CおよびSi
(a)Cは、Feの溶融温度を下げ、溶湯(元湯を含む)の流動性を高める。このため、鉄系鋳造には不可欠な元素である。鋳鉄は、Fe−C系合金中のCがγ鉄中の最大固溶限を超えて共晶凝固を伴うものであるから、Cの下限は基本的に1.7%、1.8%、1.9%、2%、2.1%、その上限は5%さらには4.3%であり、固溶限を超えるCが黒鉛として晶出する。
Cが過少では溶湯の流動性が低下して好ましい鋳造性が得られない。Cが過多では基地組織が減少し、オーステナイト系鋳鉄の機械的特性等が低下する。また、鋳造時に引け巣等の鋳造欠陥が発生し易くなる。そこで、Cの下限は2%、2.5%、その上限は5%、3.5%であるとより好ましい。
(b)なお、本発明でいうNieqの算出に必要となる固溶炭素量(Cs)は、本来、Feの基地組織を組成分析するか、晶出または析出した黒鉛やセメンタイト(FeC)等の炭化物に消費されたC合計量を配合したCの全量から控除して求められる。
しかし、このCsは微量であり、正確な分析が困難である。また、Csはほぼ一定範囲にあることが経験上解っている。そこでNieqを算出する際に、Cs=0.03%と仮定して求めても、Nieqに生じる誤差は実質的に無視できる程度に小さいのが現実である。そこで、本発明では特に断らない限り、Cs=0.03%と仮定してNieqを求めることとした。
なお、0.03%は、Fe−C二元系状態図におけるα(フェライト)相のC固溶限である。γ(オーステナイト)相の固溶量は状態図から見てこれ以上の固溶量と推定されるため、固溶量の最小値としてCsの値を0.03%と仮定した。
(c)Siは、準安定系共晶温度を下げ、γFe−黒鉛の共晶を促進し、黒鉛の晶出に寄与する。またSiは、晶出する黒鉛の表面付近にケイ素酸化物からなる不働態皮膜を形成し鋳鉄の耐酸化性を高める。
Siが過少であると、このような効果が十分には得られず、Siが過多であると、伸びの低下や被削性の悪化を招き好ましくない。そこで、Siの下限は2%、3%さらには3.5%であると好ましく、Siの上限は6%、5.5%、5%さらには4.5%であると好ましい。
(d)ところで、SiはFe−C系共晶炭素量を低濃度側にずらす作用があり、C量にSi量を加味した炭素当量(Ceq=C+Si/3)が指標として用いられる。そこで、Ceqの下限を2.1%、2.5%さらには3%とし、その上限を5%またはFe−C系状態図の共晶点である4.3%さらには3.5%とするとより好ましい。
(ii)Cr
Crは、鋳鉄基地中で炭素と結合して炭化物を析出させ、基地の析出強化により鋳鉄の高温耐力を向上させる。また、鋳鉄の表面付近に緻密なクロム酸化物からなる不働態皮膜を形成して耐酸化性を向上させ得る。
また、Crが過多になると炭化物が増加して靱性や加工性が低下して好ましくない。そこで、Crの下限は0.1%、0.3%、0.5%、0.7%、1%、1.2%さらには1.5%であると好ましく、Crの上限は6%、5%、4%、3%、2.5%さらには2%であると好ましい。
ちなみに、鋳鉄全体としてCrを9〜15%含有させた鋳鉄を本発明者が分析したところ、Cr−Mn系炭化物が多く晶出または析出して、全面的にチル化(炭化物化)することが解った。従って、Cr量が9%を超えると、本発明でいうオーステナイト系鋳鉄は得難い。
(iii)Ni
Niは、基地組織のオーステナイト化に有効な元素である。Niが過少であると安定したオーステナイト相を得ることが難しい。一方、Niが過多になると本発明の目的であるNi量の低減によるオーステナイト系鋳鉄の低廉化を図れない。
そこでNiの下限は12%、11%、10%、9%、8%さらには7%であると好ましい。また、Niの上限は15%、14%、13%、12%、11%、10%さらには9%であると好ましい。
(iv)CuおよびMn
(a)CuおよびMnは、Niと共に基地組織のオーステナイト化に有効な元素である。
ここで、本発明のNieqの算出式から、0.5Mn+Cu=Nieq−Ni−30Csとなる。
そして本発明のNiは、その上限が高々15%である。また、Csは、Cの総含有量にかかわらず、ほぼ一定範囲内(0〜0.8%)にある。Cs量がこのような範囲となるのは、Fe−C二元系状態図において、γFeのC固溶量が温度低下に伴って最大2.1%から0.8%程度まで低下するためである。
ちなみに、Mnの係数「0.5」はシェフラーの組織図で示されたものであるが、Cuの係数「1」は本発明者が種々の実験等を通じて鋭意研究した結果、全く新規に知見したものである。この経緯を詳述すると次の通りである。
ベース材(Fe−3%C−2.3%Si−13%Ni−7%Mn:JIS FCDA NiMn137:後述の表1Aの試験片No.R2相当)と、このベース材にCuを6.5%添加したCu添加材(後述の表1Aの試験片No.1−1相当)とからなる鋳鉄の試験片を用意した。これらを観察した組織写真と、それらの各組成から求まるシェフラーの組織図上の位置とを図5に併せて示した。
ベース材の場合、その組成からNieq=18.2、Creq=4.1となる。これをシェフラーの組織図上にプロットすると、その位置からベース材はA+Mの準オーステナイト組織であると予想される。このことはベース材の組織写真からも確認された。すなわち、ベース材の基地が、オーステナイト相(γ相)と、鋳造時の冷却過程中にそのγ相から析出したと思われる炭化物層およびα相の2相から形成される層状炭化物とからなることが確認された。
なお、通常のJIS FCD4500等のフェライト系鋳鉄で見られるようなマルテンサイト組織に比べて、ベース材の炭化物層の厚みが大きく、層間隔が広くなっているのは、ベース材がFeと比べてより炭化物を生成しやすい(すなわち、自由エネルギーが低い)Mnを含有するためであると考えられる。
ところで、ベース材にCuを添加したCu添加材の基地を組成分析したところ、主要元素の組成は、Si:2.3%、Ni:10.4%、Mn:6.5%、Cu:7.2%であった。この組成を従来のシェフラーの組織図に適用すると、Nieq(=Ni+30・Cs
+0.5・Mn)=14.7、Creq(=Cr+1.5Si)=3.5となる。これをそ
のままシェフラーの組織図上にプロットすると、その位置はマルテンサイト領域(M領域
)になる。
しかし、Cu添加材の実際の組織写真中には、ベース材のような層状炭化物は見られなかった。すなわち、Cuを添加したことにより、基地がほぼオーステナイト単相になったと考えられる。これは、Cu添加により層状炭化物が無くなり、γ相が安定したためと推定される。
この結果からすると、Cu添加材の基地は、本来、シェフラーの組織図上でいえば、オーステナイト単相領域(A領域)に位置づけられるべきことになる。従来のシェフラーの組織図上で、Creq=3.5のときに、A領域に入るNieqは22.5以上である。
とすると、上記Cu添加材の場合、分析組成から計算上求まるNieqと、実際の組織観察から想定されるNieqとの間には、少なくともΔNieq=22.5−14.7=7.8の乖離が生じていることになる。このような乖離が生じた原因は、上述の経緯からCuの添加に依ることが明らかである。従って、添加したCuがCu添加材の基地のオーステナイト化を促進し、オーステナイト相を安定化させたと考えられる。これを換言すれば、CuがNieqを増大させる方向に作用したといえる。そして、CuによるNieqへの影響割合は、(ΔNieq/Cu分析含有量)=7.8/7.2=1.08となり、少なく見積っても約「1」程度である。そして、Cuの添加により、金属組織がA+MからAへ変化している経緯を併せて考えると、CuによるNieqへの影響割合が1よりも遙かに大きくなるとは考えがたい。そこで本発明では、Nieqを算出する際のCuの係数を「1」とした。
(b)Cuは、前述のようにNiと同様に基地に固溶してオーステナイト組織を安定化させる他、基地組織の結晶粒を微細化して高温耐力の向上させ、また耐酸化性や耐食性の向上にも有効な元素である。
しかし、Cuが過多になるとCuの包晶組織が出現して黒鉛球状化が妨げられ、鋳鉄の強度等を低下させる。また、Cuが過多になるとCuの包晶組織が出現し、高温時の伸び性能が悪化するので好ましくない。そこで、Cuの下限は0%、0.1%、0.3%、0.5%、0.7%、1%さらには1.2%であると好ましく、Cuの上限は3%、2.5%、2%、1.8%さらには1.8%であると好ましい。なお、前述したように、本発明のオーステナイト系鋳鉄がCuを必須元素とする場合、Cuの下限が0%ということは0%<Cuを意味する。一方、Cuが必須元素でない場合、Cuの下限が0%ということは0%≦Cuを意味する。
(c)Mnも、オーステナイト組織の安定化に有効な他、流動性悪化、脆化の原因となるSの除去等にも有効な元素である。
Mnが過少ではこれらの効果が十分には得られず、Mnが過多になると、Mn炭化物が増加して、鋳鉄の靱性等の低下や耐熱性の低下を招く。また、ブローホール等のガス欠陥も発生し易くなり好ましくない。そこでMnの下限は0%、0.1%、0.5%、1%、2%、2.5%、3%、4%さらには5%であると好ましく、Mnの上限は9%、8%、7%さらには6%であると好ましい。
(2)微量改質元素
(a)オーステナイト系鋳鉄(鋳物)の金属組織、耐酸化性、耐腐食性、常温域または高温域における強度、靱性等の機械的特性、電気的特性等、種々の特性を改善するために、微量な元素を含有させると好ましい。このような改質元素を含むオーステナイト系鋳鉄も、基本元素が上述した範囲内にある限り、当然に本発明の範囲内である。
微量改質元素は、例えば、マグネシウム(Mg)、希土類元素(R.E.)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)または窒素(N)等である。
これら各元素の含有量は、オーステナイト系鋳鉄に要求される特性によって適宜調整される。もっとも、コストや基本元素の組成への影響等の観点から、微量改質元素は含有総量で1%以下、0.8%さらには0.6%以下程度が好ましい。
添加した微量改質元素は、融点がFeより低いために鋳造中に消失等することもある。このため各元素の含有量は必ずしもその元素の添加総量とは一致しない。従って、鋳造組織の改善等に有効である限り、その微量改質元素の含有量は検出可能な最低レベルでも良い。
(b)代表的な微量改質元素は、Fe基地中における黒鉛の晶出を促進する接種剤やその晶出した黒鉛の球状化を促進する球状化剤に含まれる各元素である。接種剤や球状化剤等の助剤は、溶湯調製時に配合されたり、鋳造時に適宜添加されたりする。しかし、その含有元素や各元素の含有量は一定ではなく、多種多様である。すなわち、所望する鋳造組織(特に、晶出する黒鉛形状やその粒数)等を得るために試行錯誤されているのが実情である。従って、微量改質元素の種類やその含有量を明確に特定することは困難である。そして、微量改質元素の種類や含有量に拘ることは本発明の本旨に沿わない。
もっとも、MgやR.E.(特に、セリウム(Ce))は、晶出する黒鉛の球状化剤として周知である。そこで本発明のオーステナイト系鋳鉄の場合でも、鋳鉄全体を100%として、微量改質元素として0.01〜0.1%のMgおよび/または0.005〜0.05%のCeを含むと好ましい。
ここでMgは、高温の溶湯中から消失し易いため、鋳鉄全体を100%として、その下限が0.02%さらには0.03%となる程度に添加量が調整されると好ましい。Mg含有量の上限は、基本元素の組成に影響しない限り特に限定されないが、事実上、鋳鉄全体を100%として、0.07%さらには0.06%である。
R.E.であるCeは高価であり、また、少量でも球状化の効果が得られるので、Ceの上限は、鋳鉄全体を100%として0.03%さらには0.01%であると好ましい。Ceの下限は、球状化剤としての効果が得られる範囲であれば特に限定されないが、事実上、その下限は鋳鉄全体を100%として0.007%さらには0.008%である。
(3)不可避不純物
不可避的不純物として、例えば、リン(P)や硫黄(S)がある。Pは黒鉛の球状化に有害であり、また、結晶粒界に析出して耐酸化性と室温伸びを低下させる。Sも黒鉛球状化に有害である。従って、これらの各不可避不純物は0.02%以下さらには0.01%とするのが好ましい。
〈製造方法〉
(1)本発明は、オーステナイト系鋳物の製造方法であるから、前述したような溶湯調製工程、注湯工程および凝固工程を備える。もっとも、自動車部品等の高い信頼が要求される部材を鋳物で製造する場合、本発明のオーステナイト系鋳鉄が球状黒鉛鋳鉄であることが要求される。そこで、オーステナイト相からなる基地中に、多数の球状黒鉛を微細に晶出させることが望まれ、接種剤や球状化剤等の助剤の配合や添加がされる。
これらの助剤は、例えば、溶湯調製工程の段階から予め配合される。しかし、それら助剤の消失や時間の経過に伴い助剤の効果が低減するフェイディング現象を防ぎ、助剤を有効に機能させるために、基本元素からなる元湯を先ず調製しておき(元湯調製工程)、その元湯に助剤を直接または間接に配合または添加する助剤添加工程を備えるとより好適である。
ここで「直接」に添加する場合とは、鋳型への注湯前の元湯に助剤を添加する場合等である。また、「間接」に添加等する場合とは、予め鋳型のキャビティへ助剤を投入しておく場合等である。例えば、接種の場合であれば、取鍋接種、鋳型内接種、ワイヤー接種等のいずれでも良い。球状化処理の場合も同様である。
結局、通常の鋳物は、溶解炉、保持炉から溶湯(元湯)を取鍋へ注入し、その溶湯を鋳型へ注湯して鋳造されるから、助剤の添加はそれらいずれの段階で行われても良いし、また、助剤は粉末状、粒状、ワイヤー状等のいずれでも良い。なお、助剤は、接種剤や球状化剤が代表的であるが、それ以外の添加剤であっても良い。
(2)接種剤は、構成元素的に観て、例えば、Si、Ca、Bi、Ba、Al、Sn、CuまたはR.E.の一種以上からなると好ましい。具体的には、Si−Ca−Bi−Ba−Al系、Si−Ca−Bi−Al−R.E.系、Si−Ca−Al−Ba系、Si−Sn−Cu系などの接種剤がある。接種剤の添加量または配合量は、消失やフェイディング現象等を考慮して決定される。そこで例えば、元湯全体を100%としたときの添加総量が0.05〜1%となるようにすると好ましい。
黒鉛球状化剤は、構成元素的に観て、例えば、MgおよびR.E.の一種以上からなると好ましい。具体的には、Mg−R.E.系、Mg単体、ミッシュメタル(Mm)等のR.E.単体、Ni−Mg系、Fe−Si−Mg系などの球状化剤がある。球状化剤の添加量または配合量も、消失やフェイディング現象等を考慮して決定される。例えば、元湯全体を100%としたときのMg残留量(作成された鋳鉄中に残存しているMg量)が0.01〜0.1%、より好ましくは0.03〜0.08%となるように添加されると好ましい。
なお、晶出する黒鉛の形状や粒数が所望範囲内である限り、いずれの接種剤や球状化剤をどの程度添加するかは任意である。
〈オーステナイト系鋳物〉
(1)本発明のオーステナイト系鋳物は、上述した本発明のオーステナイト系鋳鉄からなる所望形状の部材であるが、その形状や肉厚等を問わないことはいうまでもない。
ここで、鋳物の肉厚、形状、大きさ、方案等が、オーステナイト系鋳物の組織や鋳造欠陥等に影響を及ぼすことも考えられるが、本発明のオーステナイト系鋳物の場合、基地が安定したオーステナイト相となることが確認されている。また、鋳物の肉厚が薄くて溶湯が部分的に急冷凝固されるような場合でも、助剤の添加方法や時期を適宜調整することで、所望の球状黒鉛鋳鉄が得られることを本発明者は確認済みである。
(2)オーステナイト系鋳物の組織は、基地組織と共晶組織に大別される。本発明の基地組織はFeのオーステナイト相からなる。本発明の共晶組織は黒鉛である。
一般的に、晶出する黒鉛の形態により鋳鉄は種々分類されるが、球状黒鉛鋳鉄であれば、他の鋳鉄と比較して機械的特性等、あらゆる特性に優れるので好ましい。そこで本発明のオーステナイト系鋳物も、球状黒鉛鋳鉄からなると好適である。
球状黒鉛鋳鉄の組織は、黒鉛の球状化率と黒鉛の粒数によって一般的に指標される。特性に優れた実用的なオーステナイト系鋳物は、先ず、基地中に晶出または析出した黒鉛の球状化率が70%以上、75%以上、80%以上さらには85%以上である。次に、晶出または析出した黒鉛の粒数が多い方が望ましい。例えば、鋳物の肉厚が5mm以下の部分において、粒径10μm以上の黒鉛粒数が50個/mm以上、75個/mm以上さらには100個/mm以上であると好適である。なお、球状黒鉛は基地中に微細分散しているのが好ましい。また、鋳物の肉厚が5mm以下の部分において、粒径5μm以上の黒鉛粒数が150個/mm以上、200個/mm以上、250個/mm以上さらには300個/mm以上であると好適である。なお、球状黒鉛は基地中に微細分散しているのが好ましい。
なお、黒鉛の球状化率は、JIS G5502 10.7.4や旧JIS5502(NIK法)の黒鉛球状化率判定試験法により測定される。また、黒鉛の粒数は単位面積あたりの黒鉛の粒数を計測することにより測定される。
(3)本発明のオーステナイト系鋳鉄は、常温域での強度、靱性、加工性等に優れるのみならず、高耐酸化性、高温耐力等の耐熱性にも優れる。そこで、この鋳鉄からなる本発明のオーステナイト系鋳物は、例えば、自動車等の排気系部品に好適である。より具体的には、ターボチャージャーのハウジング、エキゾーストマニホルド、触媒ケース等である。これらの部品は、高温の排気ガスにより高温環境下に常に曝されるのみならず、排気ガス中の硫黄酸化物、窒素酸化物等にも曝されるからである。
本発明のオーステナイト系鋳物は、そのような高温域等で使用される部材に限られない。常温域や温間域で使用される部材にも利用され得ることは当然である。特に、本発明のオーステナイト系鋳物は従来よりも低コストで製造され得るから、その利用範囲も拡張され得る。また、利用分野も自動車分野やエンジン分野には限られず、多種多様な部材に本発明のオーステナイト系鋳物が利用され得る。
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
〈第1試験〉
(1)試験片の製造方法
C、Si、Cr、Ni、MnおよびCu(基本元素)と残部Feの少なくとも一種以上を含む原料を種々配合、混合し、それを高周波炉で大気溶解して47Kgの溶湯を得た(溶湯調製工程)。この溶湯を予め用意しておいた鋳型(砂型)に注湯した(注湯工程)。このとき、約1550℃で出湯し、約1450℃で注湯した。また、注湯後の溶湯は、自然冷却で(すなわち、鋳放しの状態で)凝固させ、前記形状の試験片(鋳物)を得た(凝固工程)。
なお、各試験片を鋳造する際、接種剤および球状化剤等の助剤の添加も行った。接種材の添加は、大阪特殊合金製カルバロイ(Si−Ca−Al−Ba含有)を元湯に対して0.2質量%添加して行った。球状化剤の添加は、元湯100%に対して、Mg単体4質量%、R.E.(ミッシュメタル)1.8質量%およびSb単体0.005質量%を、元湯に添加して行った。なお、Mg量が多いのは消失等を考慮したためである。
ここで用いた鋳型は、幅50x全長180mmで、高さ(厚み)が(i)50mm(長さ50mm)→(ii)25mm(長さ45mm)→(iii)12mm(長さ40mm)→(iv)5mm(長さ25mm)→(v)3mm(長さ20mm)の5段階で順に変化する段付板状の鋳物が得られる砂型である。
また、耐力、引張強さの測定用に、JISB号Yブロックを鋳込みにより作成し、そのYブロックの垂直断面長方形の部分からφ6の丸棒試験片を作成した。
(2)試験片の測定
上記製造方法により、配合組成が異なる5種類の試験片(No.1−1〜1−5)を製造した。各試験片の厚さ5mmの部分から採取した試料を以下の分析に供した。
(i)各試料をX線マイクロアナライザ(EPMA)により組成分析して、鋳鉄全体の分析組成と、Fe基地の分析組成とを得た。こうして得た基本元素組成を表1Aに示した。
なお、表1A中の「−」は、未配合、未分析若しくは未測定、分析不可若しくは測定不可のいずれかを示す。これは本明細書中の他の表1B〜4Bについても同様である。
(ii)また、各試料をX線回折分析した分析図(XRD)を図1に示す。参考のために、オーステナイト系鋳鉄といわれている代表的な鋳鉄(参考例:R1、R2)のXRDについても、図1上に併せて示した。さらに、それらのXRDに基づいて求めたオーステナイト率も表1Aに併せて示した。
(iii)さらに各試料のFe基地組成から、本発明でいうNieqおよびCreqを算出して表1Aに示した。それら各NieqおよびCreqを図2に示す相関図上にプロットした。試験片No.1−1〜1−5については●印で示した。代表的な従来の鋳鉄(R3:D−5S、R4:D−2)については○印で示した。ここで、Csを直接分析することは困難なため、Cs=0.03%と仮定してNieqを求めた。
なお、図2に示すNieq−Creq相関図に基づいて、得られた鋳鉄がオーステナイト系鋳鉄であるか否か、すなわち、Fe基地のオーステナイト率が何%かを議論するには、厳格にいえば、炭化物や黒鉛を除いたFe基地の組成を分析する必要がある。そこで、試験片No.1−1〜1−5についてはこの考え方に沿ったNieqおよびCreqを算出して表1Aに示した。
もっとも、前述したように、一般的にオーステナイト系鋳鉄といわれるものであっても100%オーステナイト単相の基地からなるものは少ない。そして、大半が黒鉛として晶出または析出するCを除き、Fe基地の分析組成と、鋳鉄全体の分析組成との間には、本発明で規定する組成範囲である限り相関があり、両者の間にさほど大きな相違はない。
そこで、表1Aの参考例R1〜R6とNo.1−1〜1−5以外の試験片については、便宜上、Fe基地の分析組成の代替として鋳鉄全体の分析組成を用いて算出したNieqおよびCreqを参考に示すこととした。
(iv)耐力、引張強さの測定は、JISG0567に準じて150℃および800℃の試験を行った。耐力、引張強さの測定データを表1Aおよび1Bに併せて示した。
(3)評価
(i)表1Aおよび図1より、Ni量を低減した試験片No.1−1〜1−5のいずれの場合でも、従来のオーステナイト系鋳鉄であるR1やR2と同様に、オーステナイト相(γ相)が現れていることが解る。
特に試験片No.1−1〜1−3の場合、Ni含有量が高々10%前後で、基地組織がほぼオーステナイト単相になることが解った。
(ii)また、表1AのFe基地の分析組成から、Siは少なくとも5.1%まで、Cuは少なくとも7.2%まで、Mnは少なくとも14.5%までFe中に固溶することが解った。また、Fe−Ni二元系状態図を参考にすれば、本発明の範囲内のNiは、Fe中に全率固溶するといえる。
〈第2試験〉
(1)試験片の製造方法
C、Si、Cr、Ni、MnおよびCu(基本元素)と残部Feの少なくとも一種以上を含む原料を種々配合、混合し、それを高周波炉で大気溶解して47Kgの元湯を得た(元湯調製工程)。この元湯を予め用意しておいた前述した鋳型(砂型)に注湯した(注湯工程)。本試験では、種々の組成からなる接種剤および球状化剤を、予め鋳型中に投入しておいた(助剤添加工程)。他の工程は、第1試験の場合と同様である。
(2)試験片の測定
上記製造方法により、配合組成が異なる13種類の試験片(No.2−1〜2−13)を製造した。各試験片の厚さ12mmの部分から採取した試料を以下の分析に供した。
(i)第1試験の場合と同様にして、各試料の分析組成とオーステナイト率を求めた。これらの結果を表2Aおよび表2Bに示した。
(ii)各試料について、光学顕微鏡写真により組織観察を行い、共晶黒鉛の晶出形態を調べた。黒鉛球状化率は、旧JIS G5502(NIK法)の判定試験法により求めた。
その黒鉛の粒数は、粒径が10μm以上のものを4.8mmの領域で数えて求めた。
さらに、鋳物の強度等の指標となる硬度(Hv20kgf)も測定した。これらの結果
を表2Bに併せて示した。
(iii)さらに第1試験と同様に、各試料全体の分析組成からNieqおよびCreqを算出
して表2Bに示した。これらのNieqおよびCreqを図2の組織図上に重ねて+印でプロ
ットした。Csは第1試験の場合と同様に取り扱った。
(iv)第1試験の場合と同様にして、各試料の耐熱強度を求めて表2Bに併せて示した。
(3)評価
(i)表2Bを観ると解るように、Ni量が少なくてもほぼオーステナイト相の基地が得られることが解る。
ところで本発明者が調査したところ、基地組織は試験片の厚さには影響しないことが確認された。言い換えるなら、本発明の鋳鉄は凝固速度等に影響されず、安定したオーステナイト相が形成されるといえる。この証拠となるXRDを図3に示す。図3のXRDは、試験片No.2−2の厚さ5mm部分と12mm部分についてX線回折したものである。
(ii)但し、表2Bを観ると解るように、オーステナイト系鋳鉄であっても必ずしも球状黒鉛鋳鉄になるとは限らない。そして、球状化率や球状黒鉛の粒数が低い場合もある。
従って、鋳鉄の基地組織をオーステナイト相としつつ、かつ、球状黒鉛が適切に晶出した共晶組織を得るには、溶湯または元湯中の基本元素組成を本発明の範囲内とするのみならず、鋳物形状や溶湯組成等に応じた個別的な対策が必要となる。例えば、助剤の種類や添加量等を、鋳物形状や溶湯組成等に応じて適宜選択することが望まれる。そこで、本発明者が共晶組織を個別に最適化した例を後述の第3試験で示す。
(iii)表2Bから解るように、本発明に係る試験片はいずれも、Ni量を低減しても、従来のオーステナイト系鋳鉄(参考例R3やR4)と同等以上の強度(硬さ)、耐熱強度を有することもわかる。特に、実用上問題となる800℃における耐力は、従来のオーステナイト系鋳鉄よりも本発明にかかる試験片の方が大きい。この結果、本発明に係るオーステナイト系鋳鉄は、従来と同等以上の高い耐熱性を有することが確認できた。
〈第3試験〉
(1)試験片の製造方法
基本元素の組成および助剤の種類や添加量を変更し、他は第2試験と同様にして2種類の試験片No.3−1および試験片No.3−2を製造した。
試験片No.3−1で添加した接種剤は、東洋電化社製トヨバロンBIL(74.18Si−1.23Ca−0.55Ba−0.72Bi−0.51Al−Fe)である。これを元湯に対して0.2質量%の割合で添加した。
また、用いた球状化剤は、Mg単体を4質量%とR.E.(ミッシュメタル)を1.8質量%とSb単体を0.005質量%であり、各割合で元湯に対して添加した。なお、Mg量が多いのは消失等を考慮したためである。
試験片No.3−2で用いた接種剤は、前記のトヨバロンBILである。これを元湯に対して0.4質量%の割合で添加した。球状化剤としては、4質量%のMg、1.8質量%のR.E.(ミッシュメタル)および0.0005質量%のSbを元湯に添加した。ここでは、添加するSb量が試験片No.3−1と異なる。
(2)試験片の測定
(i)第2試験の場合と同様にして、各試料の分析組成とオーステナイト率を求めた。これらの結果を表3Aおよび3Bに示した。
(ii)上記の各試験片の厚さ25mm、12mm、5mmおよび3mmの各部分から試料を採取し、それらについて第2試験と同様に、黒鉛の球状化率および粒数、硬度(Hv20kgf)を測定した。
(iii)各試料の光学顕微鏡写真をそれぞれ図4Aおよび図4Bに示した。図中の番号1〜5は、砂型の上面側から下面側にかけて均等に5分割した各部の組織写真であることを示す。例えば、番号1は最上面近傍の組織を示し、番号5は最下面近傍の組織を示す。なお、組織写真は、試料面を3%ナイタールエッチングした後に行った。
(iv)第1試験の場合と同様にして、各試料の耐熱強度を求めて表3Bに併せて示した。
(3)評価
(i)先ず、表3Bのオーステナイト率から、いずれの試験片も基地組織がオーステナイト相となっていることが解る。
(ii)次に、図4Aおよび図4Bから解るように、砂型の内部のみならず内表面近傍であっても、黒鉛が球状にほぼ均一に晶出していることが解る。
特に、試験片No.3−2の場合は、溶湯が急速に凝固し易い厚さ3mmの試料であっても、球状化率が70%を超えている。また、いずれの厚さでも黒鉛の粒数が200個/mmを超え、さらに硬度も場所によらず200Hv〜300Hv程度を維持できている。これらより、本発明のオーステナイト系鋳鉄(鋳物)は、機械的特性に優れ、また、適度な硬さにより鋳造後の機械加工性にも優れるといえる。
(iii)勿論、表3Bからも解るように、これら試験片のいずれも、Niが少量でありながら、前述した試験片の場合と同様に、従来のオーステナイト系鋳鉄(参考例R3やR4)と同等以上の優れた強度(硬さ)、耐熱強度を有していることはいうまでもない。
従って、試験片No.3−2のような鋳鉄を用いれば、耐熱性は勿論のこと、その他の特性においても形状に依る影響をあまり受けない安定した特性の鋳物が得られることがわかる。
〈第4試験〉
(1)試験片の製造方法
基本元素の組成および助剤の種類や添加量を変更し、他は第2試験と同様にして12種類の試験片(No.4−1〜4−12)を製造した。
なお、各試験片を鋳造する際、接種材および球状化材等の助材の添加も行った。接種材の添加は、東洋電化社製トヨバロンBIL(74.18Si−1.23Ca−0.55Ba−0.72Bi−0.51Al−Fe)である。これを元湯に対して0.4質量%の割合で添加した。球状化材の添加は、元湯100%に対して、Mg単体4質量%、R.E.(ミッシュメタル)1.8質量%およびSb単体0.0005質量%を、元湯に添加して行った。なお、Mg量が多いのは消失等を考慮したためである。
また、耐力、引張強さ、伸び、絞り、ヤング率の測定用に、JISA号Yブロックを鋳込みにより作成し、そのYブロックの垂直断面長方形の部分からφ6の丸棒試験片を作成した。
(2)試験片の測定
上記製造方法により製造した配合組成が異なる12種類の試験片(No.4−1〜4−12)を以下の分析に供した。
(i)第1試験の場合と同様にして、各試料の分析組成とオーステナイト率を求めた。これらの結果を表4Aおよび4Bに示した。
(ii)上記の各試験片の厚さ25mm、12mm、5mmおよび3mmの各部分から試料を採取し、それらについて第2試験と同様に、黒鉛の球状化率および粒数、硬度(Hv20kgf)を測定した。
(iii)上記の各試験片の厚さ25mmの部分から試料を採取し、各試料の光学顕微鏡写真をそれぞれ図6に示した。なお、組織写真は、試料面を3%ナイタールエッチングした後に行った。
(iv)さらに第1試験と同様に、各試料全体の分析組成からNieqおよびCreqを算出して表4Bに示した。これらのNieqおよびCreqを図2の組織図上に重ねて■印でプロットした。Csは第1試験の場合と同様に取り扱った。
(v)耐力、引張強さ、伸び、絞り、ヤング率の測定は、JISG0567に準じて800℃の試験を行い、その結果を表4Bに併せて示した。また、従来の鋳鉄の測定データを参考例として表4Bに併せて示した(No.R3〜R6)。
(vi)熱疲労強度または熱疲労寿命については、鋳込んだJISA号Yブロックから採取したφ5mmの丸棒試験片と、JISB号Yブロックから採取したφ8mmの丸棒試験片を用いて測定した。この試験は拘束率100%の試験片の温度を800℃と150℃に繰り返し変更して、応力が10%低下するサイクル数と、応力が25%低下するサイクル数と、分離破断するサイクル数とを調べた。この結果を図21(φ5mmの丸棒試験片の結果)および図22(φ8mmの丸棒試験片の結果)に示した。10%応力低下または25%応力低下は、引張側のピーク応力が、サイクル数=2の時のピーク応力から10%減少時のサイクル数と25%減少時のサイクル数とをそれぞれ意味する。
(3)評価
(i)先ず、いずれの試験片も、X線解析の結果、表4Aのオーステナイト率が100%となっていることと、図6から解るように、Fe基地中に層状組織が見られないことが解る。なお、一見、層状組織と似ている組織が存在しているように見える試験片もある。しかし、その組織には縞模様は見られず、顕微鏡で拡大して見ると、実際には層状組織のように細長い棒状の構造体は存在せず、ところどころが切断されている構造体が存在しているだけである。そして、ところどころが切断されている構造体は、高温時に膨張しても、オーステナイトにクラックが発生する原因とはならない。
また、試験片No.4−1〜4−12のいずれの試験片についても、厚さ25mmおよび厚さ12mmの部分には磁石が反応せず、磁性が無いことが確認された。すなわち、磁性が無いということは、磁性体であるフェライトが存在しないということであり、オーステナイト単相であることが推測できる。
なお、厚さ3mmおよび5mmの部分に関しては磁石が反応する試験片もあったが、同じ試験片において厚さによってフェライトが存在する場合としない場合があるということは考えられないことから、厚さの薄い部分に関して磁性が有るのは、フェライトが存在するからではなく、厚さが薄くなると鋳造時に炭化物が増えるからだと推測される。
また、表4Bおよび図2から明らかなように、Fe基地中に層状組織が見られない試験片No.4−1〜4−12の場合はいずれも、Nieq≧A1・Creq+B1を満たしている(試験片4−9が一番切片の小さい直線上に存在し、この直線はNieq=A1・Creq+22.9で表される)。
逆に、ニレジスト(JIS FCDA NiMn137相当)は、第1試験にて用いた試験片の25mm、12mm、5mm、3mmの全てに対して磁石が反応し、磁性が有ることが確認された。すなわち、磁性が有るということから、磁性体であるフェライトの存在が推測される。また、表1Aに記載された試験片R2のNieq、Creqを用いて計算した結果、Nieq<A1・Creq+B1となることが確認された(試験片R2は、Nieq=A1・Creq+21.5の直線上に存在する)。
従って、本明細書のようにNieqやCreqを定義し、それに基づいて第4条件および第5条件の適合性を考慮すれば、基地組織がオーステナイト単相のオーステナイト系鋳鉄(鋳物)であるか否かを的確に区画できることが解る。
(ii)次に、表4A、表4B及び図7から解るように、Cu添加量が比較的少ない試験片No.4−3、4−4、4−7、4−8、4−11、4−12は、Ni量を低減しても、従来のオーステナイト系鋳鉄(参考例R3やR4)に引けを取らない組織構造と高温強度を有することがわかる。また、それら試験片を光学顕微鏡で観察しても、Cu包晶組織は見られなかった。
逆にCu添加量が比較的多い試験片No.4−1、4−2、4−5、4−6、4−9、4−10は、高温時の伸びおよび絞りが悪化していることが解る。また、それら試験片を光学顕微鏡で観察すると、Cu包晶組織が見られた。このため、高温時の伸びおよび絞りの悪化原因は、そのCu包晶組織と推測される。
よって、本明細書のようにCuの適合性を考慮すれば、伸びおよび絞りが優れたオーステナイト系鋳鉄(鋳物)であるか否かを的確に区画できることが解る。
(iii)さらに、図8から解るように、Cr添加量が増えるほど耐力(MPa)が高くなることが解る。
(iv)従って、試験片No.4−3、4−4、4−7、4−8、4−11、4−12のような鋳鉄を用いれば、耐熱性は勿論のこと、その他の特性においても安定した鋳物が得られることがわかる。さらに、試験片No.4−3の鋳鉄はNi量が少ないと共に耐力にも優れており、上記試験片の中でも最も優れていると言える。
(v)さらに図21および図22から分かるように、オーステナイト系鋳鉄である試験片No.4−3、4−7、4−8、4−11および4−12は、フェライト系鋳鉄である試験片No.R5、R6よりも遙かに熱疲労寿命が延びており、また、一般的なオーステナイト系鋳鉄と比較しても熱疲労寿命は同等以上であった。
また図21および図22から、オーステナイト系鋳鉄の中でもCr量が増加することで、いずれも熱疲労寿命が延びることが確認された。同様に図21から、そのCr量が同じでも、Cu量が増加することで、いずれも熱疲労寿命が延びることが確認された。
〈第5試験〉
(1)試験片の製造方法
基本元素の組成および助剤の種類や添加量を変更し、他は第4試験と同様にして12種類の試験片(No.5−1〜5−12)を製造した。なお、各試験片を鋳造する際、接種材および球状化材等の助材の添加も行った。接種材の添加は、東洋電化社製トヨバロンBIL(74.18Si−1.23Ca−0.55Ba−0.72Bi−0.51Al−Fe)である。これを元湯に対して0.4質量%の割合で添加した。球状化材はMg単体4質量%、R.E.(ミッシュメタル)1.8質量%の含有量を有する球状化材を使用し、元湯100%に対して、Mgの残留量が0.04〜0.05質量%、Sb単体0.0005質量%となるように、元湯に添加して行った。
(2)試験片の測定
上記製造方法により製造した配合組成が異なる12種類の試験片(No.5−1〜5−12)を以下の分析に供した。
(i)第1試験の場合と同様にして、各試料の分析組成とオーステナイト率を求めた。これらの結果を表5Aおよび5Bに示した。なお、本明細書の分析組成は湿式分析に基づく。
一部の試験片の厚さ25mmの部分から採取した試料をX線回折分析した分析図(XRD)を図9に示した。また、一部の試験片について測定した線膨張係数と温度との相関を図10に示した。
(ii)上記の各試験片の厚さ25mm、12mm、5mmおよび3mmの各部分から試料を採取し、それらについて第2試験と同様に、黒鉛の球状化率および粒数、硬さ(Hv20kgf)を測定した。但し、黒鉛の球状化率および粒数は、黒鉛最小粒径が5μm以上のものを対象とした。
(iii)Cr、Mn、NiおよびCuをそれぞれ1質量%添加した厚さ25mm、12mm、5mmおよび3mmの試験片を用いて、各元素をそれぞれ単独で1質量%添加したときの硬さの上昇値と、その試験片の板厚との相関を調べた。この結果を図23に示す。なお、比較のベース(硬さの基準)となる試験片の組成は、Fe−3%C−4%Siである。
(iv)さらに第1試験と同様に、各試料全体の分析組成からNieqおよびCreqを算出して表5Bに示した。これらのNieqおよびCreqを図2の組織図上に重ねて◆印でプロットした。Cs は第1試験の場合と同様に取り扱った。
(v)耐酸化性は、JIS Z 2282に基づき、酸化減量または酸化増量を測定することで評価した。具体的には、先ず、鋳込みにより作成したJISB、D号Yブロックから採取したφ20x20mmの各種試験片を800℃の大気雰囲気中に100時間保持した。この加熱処理後の試験片にショット球径が0.4mmの鉄球を投射し、表面の酸化皮膜が無くなるまで投射を行った。ここで酸化増量または酸化減量は、単位面積あたりの試験片の質量増加量または質量減少量である。酸化増量は上記加熱処理直後(ショット前)の試験片の質量から、加熱処理前の試験片の質量を差し引いたものである。酸化減量は上記加熱処理直後(ショット前)の試験片の質量から、ショット後の試験片の質量を差し引いたものである。
こうして求めた酸化増量および酸化減量を表5Bに示した。また各試験片の酸化減量を棒グラフで図11に示した。なお、図11中には、表5A、5Bに示した試験片の酸化減量の他、表4A、4Bに示した一部の試験片の酸化減量をも併せて示した。
また、図12(a)、(b)および図13(a)、(b)には、Fe−3%C−4%Si−a%Ni−b%Mn−c%Cr−d%Cu(質量%)をベースに、本発明のオーステナイト系鋳鉄に係る基本元素であるNi、Mn、CrおよびCuの含有量(添加量)と酸化減量との相関を調査した結果を示した。
(vi)靱性は、JIS Z 2242に基づき試験を行い、各試験片のシャルピー衝撃値を測定することで評価した。具体的には、JISB、D号Yブロックから採取した10x10x50mmのVノッチ試験片を用いて、室温下で各試験片のシャルピー衝撃値を測定した。
こうして求めたシャルピー衝撃値を表5Bに示した。また各試験片のシャルピー衝撃値を棒グラフで図14に示した。なお、図14中には、表5A、5Bに示した試験片のシャルピー衝撃値の他、表4A、4Bに示した一部の試験片のシャルピー衝撃値をも併せて示した。
また、図15には、図14に示した各試験片のシャルピー衝撃値と各試験片のCr含有量との相関を示した。
(vii)耐力、引張強さ、伸び、絞り、ヤング率の測定は、JISG0567に準じて800℃の試験を行い、その結果を表5Bに併せて示した。また、従来の鋳鉄の測定データを参考例として表5Bに併せて示した(No.R3〜R6)。
なお、耐力、引張強さ、伸び、絞り、ヤング率の測定には、鋳込みにより作成したJISA号Yブロックから採取したφ6mmの丸棒試験片を用いた。
各試験片の0.2%耐力および破断伸びを棒グラフで図16に示した。この場合も同様に、表5A、5Bに示した試験片の他に表4A、4Bに示した一部の試験片についても併せて示した。また、図17には、各試験片の破断伸びと、Cr含有量またはCu含有量との相関を示した。
なお、図17(b)にプロットした試験片のCr以外の組成は次の通りである。Cu=0%のものはNi=14.5%でMn=5.5%、Cu=1.5%のものはNi=13%でMn=5.5%、Cu=3%のものはNi=11.5%でMn=5.5%、Cu=4.5%のものはNi=10.0%でMn=5.5%である。
さらに、前述した板厚5mmの試験片の硬さ((Hv20kgf))を棒グラフで図18に示した。
(viii)各試験片を鋳造した際の湯廻り性についても検討した。具体的には、図19に示す板形状の試験片について、完全に湯廻りしたときに得られる試験片の全面積から、鋳造時に形成される湯廻り欠陥部の面積を差し引いて求まる湯廻り部面積を求めた。この湯廻り部面積に基づき、各試験片の湯廻り性を相対評価した。
図20には、湯廻り性がもっとも良好であった試験片No.5−1、5−9、4−3の湯廻り部面積を「1」として、他の試験片の湯廻り性を相対評価した結果を棒グラフで示した。
(ix)各試験片を鋳造した際の引けについても検討した。具体的には、図24に示すように、試験片にできた内引け部または外引け部にショット玉(φ0.5mm)を詰め込み、そのショット玉の総重量を測定することで引け量を評価した。試験片No.R3の引け量を「1」として、各試験片の引け量を相対評価した結果を図25に示した。
(x)先ず、加熱温度域と線膨張係数との相関を調査した。線膨張係数の測定は、試験片の温度を特定範囲内で昇温温度3℃/minで変化させて行った。この測定は窒素雰囲気(0.05MPa)で行った。用いた試験片の形状は3mm角で長さ15mmの角柱状とした。試験片は予め、大気中で950℃以上に加熱して焼鈍しておいた。この測定を各試験片についてそれぞれ2回行い、その平均を求めた。この結果を図26に示す。なお、図26中、「E−06」は10−6(100万分の1)を意味する。
次に、加熱温度幅を150〜800℃に限定して、各試験片の平均線膨張係数を求めた。この結果を図27に示す。
(xi)各試験片の室温における熱伝導率を測定した。この結果を図28に示す。
(3)評価
(i)先ず、いずれの試験片も、X線解析の結果、表5Aのオーステナイト率が100%となっている。また、このことは、図9に示すXRD図および図10に示す温度と線膨張係数の相関図において、一般的にオーステナイト系鋳鉄として知られている試験片No.R3またはフェライト系鋳鉄として知られている試験片No.R6と試験片No.5−5等とのグラフ形態を比較することでも確認される。すなわち、図9からは、試験片No.5−1、No.5−5およびNo.5−9のXRD線図がオーステナイト相からなる他の試験片No.R3と同じ形態を示しており、フェライト相からなる試験片No.R6とは異なる形態を示していることがわかる。
また図10からは、試験片No.5−5の温度と線膨張係数の相関図が、オーステナイト相からなる他の試験片No.4−3、No.R3およびR4と同じような、なだらかな形態を少なくとも910℃付近まで示しているのに対して、フェライト相からなる試験片No.R6のように特定温度域(750℃付近)で線膨張係数が急変していないことがわかる。このことからも、試験片No.5−1〜5−12の鋳鉄はほぼオーステナイト単相からなるオーステナイト系鋳鉄であることが確認された。
一方、図2からわかるように、このような試験片No.5−1〜5−12は、本来、シェフラーの組織図上では、一応、オーステナイト相(A)とマルテンサイト相(M)の混合相に位置づけられる。しかし、本発明のオーステナイト系鋳鉄は、そのような位置付けの組成にも拘らず、全体的な組成範囲を適切に調整することで、ほぼオーステナイト単相になった。
また、NiMn137が常温ではオーステナイト単相でないことと、シェフラーの組織図上では、NiMn137よりもオーステナイト単相になりにくいと推測される試験片(図2における点線よりも下の試験片)の全てが常温でもオーステナイト単相となったことから、Cr当量が7〜9の範囲においてはNi当量が少なくてもオーステナイト単相となることが推測できる。
シェフラーの組織図においてCuとNiが、Ni当量に関して等価であると推測されることから、例えば、5−12のCu量を「0」から「1.5」に増やし、Ni量を「8.5」から「7」に減量したとしても、Ni当量に変化は無いので、オーステナイト単相のままであることが予測できる。このようにすれば、Ni量をさらに低減することができる。
また、シェフラーの組織図においてMnとNiが、Ni当量に関して0.5:1の関係であることから、例えば、5−12のMn量を「7.5」から「0.1」に減らし、Ni量を「8.5」から「12.2」に増やしたとしても、Ni当量に変化は無いので、オーステナイト単相のままであることが予測できる。なお、Ni量だけを増量するのではなく、Ni量とCu量の両方を増やしても良い。このように、硬さを上昇させる要因であるMn量を減らすことができれば、オーステナイト系鋳鉄の硬さを低下させることができる。
(ii)次に、試験片No.5−1〜5−12の酸化減量はいずれも100mg/cm以下であり、耐酸化性に優れることが図11からわかる。特に図12および図13からわかるように、酸化減量は含有元素の種類およびその含有量に大きく影響を受け、その影響力はCr>Ni>Cu>Mnの順となった。本発明のように、従来よりもNi量を相当少なくしたオーステナイト系鋳鉄では、CrまたはCu(特にCr)を含有させることが耐酸化性の向上に有効であることが確認された。
(iii)一方、Crの含有量の増加に伴い、オーステナイト系鋳鉄の靱性が低下することが図14および図15からわかる。もっとも、Crの含有量が2.5質量%程度なら、従来のオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R5)やフェライト系鋳鉄(試験片No.R6)と同等以上の靱性を有することが確認された。さらに図15から、Mnの含有量が少ない方が、オーステナイト系鋳鉄の靱性(シャルピー衝撃値)が高くなる傾向にあることもわかる。
図12および図15から、従来のオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R3、R4)と同等以上の耐酸化性および靱性を確保する上で、Cr含有量は0.5〜2量%さらには0.5〜1.5質量%程度がより好ましいといえる。
(iv)図16から、試験片No.5−1〜5−12の鋳鉄はいずれも、従来のオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R3〜R5)やフェライト系鋳鉄(試験片No.R6)に対して同等以上の高温強度(800℃での0.2%耐力および破断伸び)を有することがわかる。
また図17(a)から、オーステナイト系鋳鉄の高温での破断伸びはCrの含有量の増加により向上するが、その含有量が2.5質量%程度でほぼ飽和状態になることがわかる。一方、図17(b)から、オーステナイト系鋳鉄の高温での破断伸びはCuの含有量の増加により急減することがわかる。そこで、Crの含有量の上限は3質量%以下さらには2.5質量%程度が好ましく、Cuの含有量の上限は2質量%程度が好ましいといえる。
(v)図18から試験片No.5−1〜5−12(板厚5mm部分)の硬さはいずれも250Hv程度であり、切削等の加工性も良好であると思われる。
なお、図23から分かるように、試験片の硬さは添加元素と板厚の影響を受ける。すなわち、CrまたはMnを添加すると、試験片の硬さが上昇する傾向となる。逆に、NiまたはCuを添加すると硬さが低下する傾向となる。このことから、これらの添加元素の選択およびその添加量の調整により、所望する硬さのオーステナイト系鋳鉄が得られることがわる。
もっとも、得られる硬さは、試験片(鋳物)の厚さの影響も受ける。板厚の小さい部分では添加元素の影響が大きいが、その板厚が大きくなるほど、いずれの添加元素の影響も小さくなり、基準組成からなる試験片の硬さに収束する傾向を示すこともわかった。
(vi)図20に示した湯廻りの相対評価から、試験片No.5−1〜5−12はいずれも、従来のオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R5)よりも湯廻り性に優れていた。特に、本発明に係るオーステナイト系鋳鉄の試験片の湯廻り性は、試験片No.5−11を除き、相対評価ながら全て約1であり、非常に良好であり、従来のオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R3)よりも湯廻り性に優れることも確認された。
(vii)図25に示した引け量の相対評価から、いずれもの試験片も、、代表的なオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R3)よりも引け量が少ないことがわかった。具体的には、引け量の多い試験片で70〜85%程度であり、引け量の少ない試験片では35〜50%程度であり、フェライト系鋳鉄(試験片No.R5)の引け量に近いものであった。
(viii)図26から、加熱温度域に拘らず、試験片No.4−3やNo.5−5のオーステナイト系鋳鉄の平均線膨張係数は、既存のオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R4)の平均線膨張係数とほぼ同程度であることがわかった。
また図27から、試験片No.5−1〜5−12やNo.4−3、4−4、4−11、4−12の平均線膨張係数は、既存のフェライト系鋳鉄(試験片No.R5、R6)よりも高いことは勿論、Niを多く含有した既存のオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R3、R4)よりも少し高めであった。
(ix)図28から、試験片No.5−1〜5−12やNo.4−3、4−4、4−11、4−12の熱伝導率は、既存のフェライト系鋳鉄(試験片No.R5、R6)の熱伝導率よりも低いが、既存のオーステナイト系鋳鉄(試験片No.R3)の熱伝導率とほぼ同程度であった。
(x)試験片No.5−5、5−6は、Niの量が少ないにもかかわらず、硬さが適度で且つ、耐酸化性に優れており、優れている材料であると言える。
〈第6試験〉
(1)試験片の製造方法
基本元素の組成および助剤の種類や添加量を変更し、他は第4試験と同様にして6種類の試験片(No.6−1〜6−6)を製造した。なお、各試験片を鋳造する際、接種材および球状化材等の助材の添加も行った。
接種材の添加は、東洋電化社製トヨバロンBIL(74.18Si−1.23Ca−0.55Ba−0.72Bi−0.51Al−Fe)である。これを元湯に対して0.4質量%の割合で添加した。
球状化材はMg単体4質量%、R.E.(ミッシュメタル)1.8質量%の含有量を有する球状化材を使用し、元湯100%に対して、Mgの残留量が0.04〜0.06質量%、Sb単体0.0005質量%となるように、元湯に添加して行った。
(2)試験片の測定
上記製造方法により製造した配合組成が異なる6種類の試験片(No.6−1〜6−6)を以下の分析に供した。
(i)第1試験の場合と同様にして、各試料の分析組成と、その分析組成に基づくCeq、NieqおよびCreqと、オーステナイト率とをそれぞれ求めた。これらの結果を表6Aに示した。なお、湿式分析に基づき各試験片の主要元素の分析を行ったが、これと併せて、各試験片に対してガス分析も行った。このガス分析方法は、LECO社製分析装置を用いて、高周波燃焼によりガス化された気体を赤外線吸収法で定量化し、Oは赤外線吸収法で定量化し、Nは熱伝導度法で定量化した。
(ii)上記の各試験片の厚さ25mm、12mm、5mmおよび3mmの各部分から試料を採取し、それらについて第2試験と同様に、黒鉛の球状化率および粒数、硬さ(Hv20kgf)を測定した。但し、黒鉛の球状化率および粒数は、黒鉛最小粒径が5μm以上のものを対象とした。この結果を表6Bに示した。
(iii)各試験片の耐酸化性は、JIS Z 2282に基づき、酸化減量または酸化増量を測定することで評価した。具体的には、先ず、鋳込みにより作成したJISB、D号Yブロックから採取した20x30x5mmの各種試験片を750℃、800℃、850℃の大気雰囲気中に100時間保持した。この加熱処理後の試験片にショット球径が0.4mmの鉄球を投射し、表面の酸化皮膜が無くなるまで投射を行った。ここで酸化増量または酸化減量は、単位面積あたりの試験片の質量増加量または質量減少量である。酸化増量は上記加熱処理直後(ショット前)の試験片の質量から、加熱処理前の試験片の質量を差し引いたものである。酸化減量は上記加熱処理直後(ショット前)の試験片の質量から、ショット後の試験片の質量を差し引いたものを表面積で割った値である。こうして求めた各試験片の酸化増量および酸化減量を表6Bに示した。
さらに、各試験片を加熱保持する大気雰囲気中の温度を800℃の他、750℃、850℃とした場合についても、各試験片ごとに酸化減量および酸化増量を測定した。その結果を表6Cに示すと共に各試験片の酸化減量を棒グラフで図29に示した。なお、表6A、表6Bおよび図29中には、本試験片(No.6−1〜6−6)の他、比較のために従来の鋳鉄からなる試験片(No.R3、R4、R5、R7)の酸化減量をも併せて示した。ちなみに、表6A、表6Bおよび図29に示した酸化減量は2回の平均値および酸化増量は3回の平均値である。
(vi)各試験片の耐力(0.2%耐力)、引張強さ、伸びの測定は、JISG0567に準じて800℃の各試験片について行った。これらの測定には、鋳込みにより作成したJISB号Yブロックから採取したφ6mmの丸棒試験片を用いた。その結果を表6Bに併せて示した。
さらに、各試験片の温度を800℃の他、室温(RT)、750℃、850℃とした場合についても、各試験片ごとに耐力、引張強さ、伸びを同様に測定した。その結果を表6Cに示すと共に各試験片の耐力、引張強さ、伸びを棒グラフで図30〜32にそれぞれ示した。この場合についても、本試験片(No.6−1〜6−6)の他、比較のために従来の鋳鉄からなる試験片(No.R3、R4、R5、R7)の耐力、引張強さ、伸びをも併せて示した。ちなみに、表6A、表6Bおよび図30〜32に示した耐力、引張強さおよび伸びは、各試験片について求めた3回の測定値を平均した値である。
(v)各試験片の熱疲労寿命を測定した。この熱疲労寿命の測定は次のようして行った。JISB号Yブロックから採取したφ8mmの各種組成からなる丸棒試験片を用意した。
各試験片の拘束率を100%としつつ、その試験片の温度を800℃と200℃との間で繰り返し変動させ、試験片に作用する応力が10%低下するサイクル数と、25%低下するサイクル数と、50%低下するサイクル数と、試験片が分離破断するサイクル数とをそれぞれ調べた。さらに、各試験片の拘束率を100%とした他、拘束率を50%および30%とした場合についても、同様に、試験片に作用する応力が10%、25%および50%低下するサイクル数と、試験片が分離破断するサイクル数とをそれぞれ求めた。
なお、この熱疲労試験はcoffin型熱疲労試験機で行い、拘束率ηとは自由膨張量Aに対して拘束される量(B)の割合(η=B/A x 100(%))を意味する。また、10%応力低下、25%応力低下または50%応力低下は、引張側のピーク応力が、サイクル数=2の時のピーク応力を基準に、そこから10%減少時のサイクル数、25%減少時のサイクル数または50%減少時のサイクル数をそれぞれ意味する。
上記の熱疲労試験に加えてさらに、各試験片の拘束率を100%としつつ、その試験片の温度を150℃と800℃との間で繰り返し変動させ、試験片に作用する応力が10%低下するサイクル数と、25%低下するサイクル数と、試験片が分離破断するサイクル数とをそれぞれ調べた。
これらの結果を表6Cにまとめて示すと共に各試験片の熱疲労寿命を棒グラフで図33に示した。なお、本試験片(No.6−1〜6−6)の他、比較のために従来の鋳鉄からなる試験片(No.R3、R4、R5、R7)についても、それぞれの熱疲労寿命を併せて示した。
(vi)各試験片の線膨張係数を求めた。この線膨張係数は、窒素雰囲気(0.05MPa)の下で、各試験片の温度を昇温温度3℃/minで40℃から900℃まで変化させたときの試験片の長さの変化を測定して求めた。この測定に用いた試験片の形状は、3mm角で長さ15mmの角柱状とした。各試験片は予め、大気中で950℃以上に加熱して焼鈍しておいた。この結果を表6Cに示した。
なお、表6C中、「平均」線膨張係数とあるのは、40〜900℃までの平均的な熱膨張係数を意味し、この平均線膨張係数は、各試験片について求めた2回の測定値(平均線膨張係数)をさらに平均した値である。
(3)評価
(i)先ず、X線解析の結果、表6Aのいずれの試験片(No.6−1〜6−6)も、オーステナイト率がほぼ100%であった。このことは表6Cに示すように、それらの試験片(No.6−1〜6−6)の線膨張係数が、一般的にオーステナイト系鋳鉄として知られている試験片No.R3と同等であることからも分かる。
(ii)次に、表6Bからわかるように、板厚に拘らず各試験片の球状化率は高く、板厚の大きな試験片でも黒鉛の粒数が十分となった。つまり、板厚に拘らずいずれの試験片(No.6−1〜6−6)でも、黒鉛が球状にほぼ均一に晶出することがわかった。従って、それらの試験片と同様な組成であれば、表面のみならず内部でも、黒鉛が球状にほぼ均一に晶出した金属組織からなる鋳物が得らえる。
さらにいずれの板厚の試験片でも、硬さが200Hv〜300Hv程度と安定しており、本実施例のオーステナイト系鋳鉄(鋳物)は、機械的特性に優れると共に機械加工性にも優れるといえる。
(iii)試験片No.6−1〜6−6の酸化減量は、表6B、表6Cおよび図29から解るように、いずれも、加熱温度が750℃なら30mg/cm以下程度であり、加熱温度が800℃なら50mg/cm以下程度と少なかった。加熱温度が850℃の場合でも、いずれの酸化減量も100mg/cm以下程度であり、本実施例のオーステナイト系鋳鉄は耐酸化性に優れることがわかる。
もっとも、例えば、試験片No.6−1と試験片No.6−5、試験片No.6−5と試験片No.6−6を比較すれば、酸化減量の抑制つまり耐酸化性の向上には、Cr量またはNi量が大きく影響することがわかる。特に、Cr量およびNi量の両方が多い試験片No.6−3では、酸化減量の抑制が著しく、試験片No.R7と同レベルであることが確認された。
(iv)試験片No.6−1〜6−6の耐力、引張強度および破断伸びはいずれも、表6B、表6Cおよび図30〜32から解るように、従来のオーステナイト系鋳鉄である試験片No.R3または試験片No.R4などと同等以上であった。特に、Cuを含まない試験片No.6−2は、耐力や引張強度がほとんど低下せず、伸びが著しく向上して高い延性を示した。
特に試験片No.6−6は、Crを含有しているために耐酸化性がかなり向上している。しかも試験片No.6−6のCr含有量は、1.5%であって試験片No.6−3の2.5%よりも少ないため、比較的硬さが低いという優れた特性を発揮している。
(v)試験片No.6−1〜6−6の熱疲労寿命はいずれも、表6Cおよび図33から解るように、一般的なオーステナイト系鋳鉄である試験片No.R3や試験片No.R4と同等以上であった。もっとも全体的に観て試験片の熱疲労寿命は、Ni量が多くCr量が少ないほど高くなり、また、適量なCuを含む試験片の方が熱疲労寿命は高くなった。

Claims (22)

  1. 炭素(C)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および銅(Cu)からなる基本元素と、
    残部が鉄(Fe)と不可避不純物および特性改善に有効な微量の微量改質元素とからなり、
    常温域でオーステナイト相を主相とするFe合金からなる基地で組織された鋳鉄であるオーステナイト系鋳鉄であって、
    前記微量改質元素はマグネシウム、希土類元素、アルミニウム、カルシウム、バリウム、ビスマス、アンチモン、スズ、チタン、ジルコニウム、モリブデン、バナジウム、タングステン、ニオブ、窒素から選択され、少なくともマグネシウム、希土類元素、アンチモンから選択される黒鉛球状化剤、及び、アルミニウム、カルシウム、バリウム、ビスマス、スズから選択される接種剤を含み、且つ、前記微量改質元素は含有総量1%以下であり、
    前記基本元素は、前記鋳鉄全体を100質量%(以下単に「%」と表示する。)としたとき、下記の条件を満足する組成範囲内にあることを特徴とするオーステナイト系鋳鉄。
    C :1〜5 %
    Si :2〜6 %
    Ni :7〜15 %
    Mn :0.1〜8 %
    Cu :2.5 %以下
    Cr :6 %以下
    Cu+Cr:0.5 %以上
  2. 前記Niは、8〜12%である請求項1に記載のオーステナイト系鋳鉄。
  3. 前記Siは、3〜5%である請求項1または2に記載のオーステナイト系鋳鉄。
  4. 前記Mnは、5〜8%である請求項1〜3のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄。
  5. 前記Crは、0.5〜4%である請求項1〜4のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄。
  6. 前記Crは、1〜2%である請求項5に記載のオーステナイト系鋳鉄。
  7. 前記Cuは、0.1%以上である請求項1〜6のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄。
  8. 前記Cuは、0.5%以上である請求項7に記載のオーステナイト系鋳鉄。
  9. 前記Cuは、1〜2%である請求項8に記載のオーステナイト系鋳鉄。
  10. 前記Crは0.1%以上であり、かつ、前記Cuは0.1%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄。
  11. 前記Crは0.5%以上であり、かつ、前記Cuは0.5%以上である請求項10に記載のオーステナイト系鋳鉄。
  12. さらにCreq(Creq=Cr+1.5Si)の値が5〜8%、Nieq(Nieq=Ni+30・Cs+0.5・Mn+Cu、Cs:固溶炭素量)が18%以上である請求項1に記載のオーステナイト系鋳鉄。
  13. 前記Creqの値が7〜9%、Nieqが13%以上である請求項1に記載のオーステナイト系鋳鉄。
  14. 前記基本元素は、さらに下記の条件を満足する組成範囲内にある請求項1に記載のオーステナイト系鋳鉄。
    C :2.5〜3.5 %
    Si :3.5〜5.5 %
    Ni :9〜14 %
    Mn :1〜6 %
    Cr :1〜2 %
    Cu :1〜2 %
  15. 前記基本元素は、さらに下記の条件を満足する組成範囲内にある請求項1に記載のオーステナイト系鋳鉄。
    C :2.5〜3.5 %
    Si :3.5〜4.5 %
    Ni :12〜14 %
    Mn :5〜6 %
    Cr :1〜2 %
    Cu :1〜2 %
  16. 前記基地中に前記晶出または析出した黒鉛の球状化率が70%以上である請求項1〜15のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄。
  17. 前記晶出または析出した黒鉛は、鋳物の肉厚が5mm以下の部分において、粒径5μm以上の粒数が100個/mm以上である請求項1〜16のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄。
  18. 前記基地は、オーステナイト単相からなる請求項1〜17のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄。
  19. 請求項1〜15のいずれかに記載した組成範囲の基本元素と鉄を含む溶湯を調製する溶湯調製工程と、
    該溶湯を鋳型に注湯する注湯工程と、
    該鋳型に注湯された溶湯を冷却して凝固させる凝固工程とからなり、
    請求項16〜18のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄からなる鋳物が得られることを特徴とするオーステナイト系鋳物の製造方法。
  20. 請求項1〜15のいずれかに記載した組成範囲の基本元素と鉄を含む溶湯からなる元湯を調製する元湯調製工程と、
    晶出または析出する黒鉛の核となる接種剤と該黒鉛の球状化を促進する球状化剤との少なくとも一種を含む助剤を該元湯に直接または間接に添加する助剤添加工程と、
    該助剤添加工程後または該助剤添加工程中の溶湯を鋳型に注湯する注湯工程と、
    該鋳型に注湯された溶湯を冷却して凝固させる凝固工程とからなり、
    基地中に略球状の黒鉛が晶出または析出した請求項16〜18のいずれかに記載のオーステナイト系鋳鉄からなる鋳物が得られることを特徴とするオーステナイト系鋳物の製造方法。
  21. 請求項19または20のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とするオーステナイト系鋳物。
  22. 請求項19または20のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とする排気系部品。
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