JP4822609B2 - 抗菌性組成物 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は抗菌性組成物に関する。更に詳しくは、齲蝕した歯牙を治療するために用いる歯科用の抗菌性組成物、特に歯牙に存在する齲蝕菌を死滅あるいは増殖を抑制させ、かつ歯科用ボンディング材、歯科用合着材、充填用コンポジットレジン、充填用コンポマー等の接着性を増強するために使用する接着性抗菌性組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科治療において歯牙の欠損を充填用コンポジットレジン、充填用コンポマー、歯科用金属合金、陶材等の修復材料で補綴する場合には、アクリル系の歯科用接着剤がしばしば利用される。しかしながら、これらの歯科用接着剤を使用しても、歯牙と接着剤との接着界面から細菌が浸入して2次カリエスや歯随炎などが惹起し、再度、治療を行う場合がある。このような細菌の浸入を阻止するには、接着部の封鎖性に優れる接着剤を使用することが効果的であり、例えば、酸性基含有重合性単量体と親水性重合性単量体とを含有するいわゆるセルフエッチングプライマーを利用した接着剤システムは良好な接着性、封鎖性を発現するので好適に使用されている。また、良好な接着性に加えて、抗菌性化合物を配合する試みもなされており、例えば、特開平8−157318号公報には、酸性基含有重合性単量体、親水性重合性単量体、水および重合開始剤からなる組成物に、重合性基含有抗菌性ピリジニウム塩を配合して、優れた接着性を保持しながら歯牙に残存している齲蝕菌を死滅させる技術が開示されている。しかしながら、該公報に記載されている抗菌性組成物は、齲蝕菌の数が少ない場合には抗菌性を効果的に発揮できるが、齲蝕菌の数が多くなったり、齲蝕菌との接触時間が短くなると、抗菌性が十分に発現できない問題がある。
【0003】
更に、該公報に記載されている抗菌性組成物は、室温にて長期間保管している間に変色し、特に保管温度が高くなるに伴って組成物が黒味がかってくる問題がある。そのため、室温で長期間保管した後の該組成物を用いて歯牙を修復すると、接合部(辺縁部)が褐色になり、審美的な治療ができない。また、上記の変色に加えて、象牙質に対する接着性も貯蔵中、経時的に低下することから、貯蔵安定性の更なる改善が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、抗菌性をより向上させ、かつ長期間保管あるいは加温しても変色や接着性の低下が少ない貯蔵安定性に優れる抗菌性組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、特開平8−157318号公報に記載されている抗菌性組成物を基に、抗菌性の向上及び貯蔵安定性の改善を目的として更に鋭意検討した結果、驚くべきことに、抗菌性塩化合物、酸性基含有重合性単量体、親水性重合性単量体および水からなる抗菌性組成物に、更にアルカリ金属の水酸化物類、芳香族基を含有しない強塩基酸塩類、及び脂肪族アミン類から選ばれる塩基性化合物を配合することにより、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は、(a)重合性基含有抗菌性塩化合物、(b)酸性基含有重合性単量体、(c)25℃における水に対する溶解度が10重量%以上である親水性重合性単量体、(d)水、並びに(e)アルカリ金属の水酸化物類、芳香族基を含有しない強塩基酸塩類、及び脂肪族アミン類から選ばれる塩基性化合物を含有する抗菌性組成物である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の抗菌性組成物に使用される抗菌性塩化合物(a)は、抗菌性を発現する有機塩化合物であれば何ら制限されない。かかる抗菌性塩化合物として、例えば、トリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、トリエチルドデシルアンモニウムブロマイド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ジメチルジドデシルアンモニウムクロライド及び一般式(I)で表される各種の抗菌性アンモニウム塩化合物を挙げることができる。
【0008】
【化1】
【0009】
また、トリメチルヘキサデシルホスホニウムブロマイド、トリメチルドデシルホスホニウムクロリド、ジメチルジヘキサデシルホスホニウムクロライド、トリメチルベンジルホスホニウムクロライド及び一般式(II)で表される各種の抗菌性ホスホニウム塩化合物を挙げることができる。
【0010】
【化2】
【0011】
また、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、セチルピリジニウムアセテート、セチルピリジニウムプロピオネート及び一般式(III)で表される各種の抗菌性ピリジニウム塩化合物も挙げることができる。
【0012】
【化3】
【0013】
これらの中でも、分子内に炭素鎖長が10〜20のアルキル基およびアルキレン基を有する化合物が抗菌性に優れるので好適に使用される。また、抗菌性ピリジニウム塩化合物は酸性基含有重合性単量体の共存下でより優れた抗菌性を発現するので好適に使用される。更に、本発明においては、分子内に重合性基を有している重合性基含有抗菌性塩化合物が好適に使用される。重合性基含有抗菌性塩化合物は、重合して固定化することができ、重合硬化後も接着界面からの細菌の浸入を効果的に阻止しすることができる。さらに重合性基を含有しない抗菌性塩化合物を使用した場合と比較して、重合性基含有抗菌性塩化合物を使用すると、歯質に対する接着性がより優れた抗菌性組成物が得られる。
【0014】
上記の抗菌性塩化合物の中でも、特に、メタクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド(以下、MDPBと略す)に代表される一般式(IV)で表されるメタクリル系の抗菌性ピリジニウム塩は製造も容易であることから好適に使用される。
【0015】
【化4】
【0016】
なお、メタクリル系抗菌性ピリジニウム塩の合成方法の一例を図1に示すが、合成方法は特に図1に記載した方法に限定されるものではない。また、図1に記載したエステル化やハロゲン化に使用する試薬は公知のものであれば、何ら制限なく使用することができ、更に、メタクリル酸はハロゲン化やトシル化などして予め活性化したものを使用してもよい。
【0017】
これらの抗菌性塩化合物は1種類または複数種類の組み合わせで用いられる。これらの抗菌性塩化合物の配合量は、あまり少ないと抗菌性が発現しない場合があり、逆にあまり多いと接着性が低下する場合がある。従って、これらの抗菌性塩化合物は、通常、組成物全体に対して0.01〜25重量%、より好ましくは0.1〜15重量%、更に好ましくは1〜10重量%の範囲で配合される。
【0018】
本発明に使用される酸性基含有重合性単量体(b)は、歯質に対して優れた接着性を得るために必須であり、かかる酸性基含有重合性単量体としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基またはスルホン酸基等の酸性基を少なくとも一つ以上有し、かつ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合可能な不飽和基を有する重合性単量体であって、該化合物の具体例として、以下のものが挙げられる。本発明においては(メタ)アクリルをもってメタクリルとアクリルの両者を包括的に表現する。
【0019】
リン酸基含有重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2’−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニルホスホネート等;特開平3−294286号公報に記載されている(5−メタクリロキシ)ペンチル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノアセテート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノアセテート等;特開昭62−281885号公報に記載されている2−メタクリロイルオキシエチル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート等;更には、特開昭52−113089号公報、特開昭53−67740号公報、特開昭53−69494号公報、特開昭53−144939号公報、特開昭58−128393号公報、特開昭58−192891号公報に例示されているリン酸基含有重合性単量体、およびこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0020】
ピロリン酸基含有重合性単量体としては、例えば、ピロリン酸ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕等、およびこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0021】
カルボン酸基含有重合性単量体としては、例えば、マレイン酸、メタクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、およびこれらの酸無水物;5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘキサンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等およびこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0022】
スルホン酸基含有重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。中でもリン酸基含有重合性単量体を使用した場合、歯質に対する接着性が非常に優れるので好適に使用される。
【0023】
これらの酸性基含有重合性単量体は1種類または複数種類の組み合わせで用いられる。これらの酸性基含有重合性単量体の配合量があまり少ない場合やあまり多い場合には、歯質に対する接着性が低下することがあるので、これらの酸性基含有重合性単量体は、抗菌性組成物全体に対して、通常、0.1〜50重量%、より好ましくは1〜40重量%、更に好ましくは5〜30重量%の範囲で配合される。
【0024】
本発明に使用される親水性重合性単量体(c)は、25℃における水に対する溶解度が10重量%以上、より好ましくは30重量%以上を示すものであり、具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)等が挙げられる。
【0025】
これらの親水性重合性単量体は1種または複数種組み合わせて用いられる。これらの親水性重合性単量体の配合量があまり少ない場合やあまり多い場合には、歯質に対する接着性が低下することがあるので、親水性重合性単量体は、抗菌性組成物全体に対し、通常、5〜95重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは15〜70重量%の範囲で配合される。
【0026】
本発明に使用される水(d)は、抗菌性の発現や、歯牙と修復材料との接着強度の発現に対して悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有していないものを使用する必要があり、蒸留水またはイオン交換水が好適である。水の配合量があまり少なかったり、あまり多くなると、抗菌性や接着性が低下する場合があるので、水は抗菌性組成物全体に対し、通常、0.1〜80重量%、好ましくは1〜75重量%、さらに好ましくは10〜60重量%の範囲で配合される。
【0027】
本発明においては、抗菌性を向上させ、かつ貯蔵安定性を改善するために、アルカリ金属の水酸化物類、芳香族基を含有しない強塩基酸塩類、及び脂肪族アミン類から選ばれる塩基性化合物(e)が使用される。また、該塩基性化合物は、前述した酸性基含有重合性単量体と水に可溶な塩を形成するものがよく、該塩の25℃における水に対する溶解度は、通常、5重量%以上である。かかるアルカリ金属の水酸化物類としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられる。芳香族基を含有しない強塩基酸類としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ギ酸ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、亜リン酸ニ水素ナトリウム、亜リン酸ニ水素カリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、リン酸ニ水素カリウム、リン酸水素ニナトリウム、リン酸水素ニカリウム等のアルカリ金属とpKaが3以上の弱酸から形成される強塩基酸塩類が好適に使用される。
【0028】
また、脂肪族アミン類としては、第1級脂肪族アミン、第2級脂肪族アミンおよび第3級脂肪族アミンのいずれの脂肪族アミンでもよいが第3級脂肪族アミンが好適に使用され、かかる第3級脂肪族アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−エチルジエタノールアミン、 N−n−ブチルジエタノールアミン、 N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、(2−ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、(2−ジプロピルアミノ)エチルメタクリレート、(3−ジメチルアミノ)プロピルメタクリレート、(4−ジメチルアミノ)ブチルメタクリレート、(6−ジメチルアミノ)ヘキシルメタクリレート、(6−ジエチルアミノ)ヘキシルメタクリレート、(10−ジメチルアミノ)デシルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等が好適に使用される。
【0029】
中でも脂肪族アミンは、組成物中では酸性基含有重合性単量体、特にリン酸基含有重合性単量体と安定な水溶性の塩を形成し、かつ該塩も歯質に対して優れた接着性を発揮するので好ましい。更に、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、(2−ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、(2−ジプロピルアミノ)エチルメタクリレート、(6−ジエチルアミノ)ヘキシルメタクリレート、(6−ジメチルアミノ)ヘキシルメタクリレート、 N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート等の重合性基含有脂肪族第3級アミンが好ましい。
【0030】
これらの塩基性化合物は、1種または複数種組み合わせて用いられる。また、これらの塩基性化合物の配合量は特に限定されないが、あまり少ないと抗菌性や貯蔵安定性が低下する場合があり、逆にあまり多く配合されると接着性が低下する場合がある。従って、塩基性化合物は抗菌性組成物に対して、通常、0.01〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは2〜7重量%の範囲で配合される。更に、抗菌性組成物のpHが1.5〜4.5、より好ましくはpHが1.8〜3.5の範囲になるように塩基性化合物を配合するとよりよい。
【0031】
本発明の抗菌性組成物は、歯面に塗布した後、歯科用エアーシリンジ等にて薄くされる場合には、その上に被覆する材料、例えば、歯科用ボンディング材、歯科用合着材及び歯科用コンポジット等と同時に硬化させることができるため、重合開始剤は必ずしも必要ではないが、術者が本発明の抗菌性組成物を極端に多く残してしまった場合や、本発明の抗菌性組成物を接着剤として使用するために5μm以上の厚みで塗布する場合などには、接着強度を維持又は向上させるために、重合開始剤を配合する方がより望ましい。
【0032】
かかる重合開始剤としては、公知の重合開始剤を配合することができ、例えば、α−ジケトン類、ケタール類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキサイド類、クマリン類、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、有機過酸化物等が挙げられる。
【0033】
α−ジケトン類としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオンなどが挙げられる。ケタール類としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。チオキサントン類としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられる。アシルホスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイル−ジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド及び特公平3−57916号公報に開示されている水溶性のアシルホスフィンオキサイド化合物などが挙げられる。
【0034】
クマリン類としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリン等の特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体としては、2、4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2、4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等の特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0035】
有機過酸化物としては、例えば、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などが挙げられ、具体的には、ジアシルパーオキサイド類としてベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシエステル類として、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類とし、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシケタール類として、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン等が挙げられる。ケトンパーオキサイド類として、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド等が挙げられる。ハイドロパーオキサイド類として、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド等が挙げられる。
【0036】
これらの重合開始剤は1種または複数種組み合わせて用いられる。これらの重合開始剤の配合量は、本発明の抗菌性組成物全体に対し、通常、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%の範囲で使用される。
【0037】
本発明の抗菌性組成物には、接着性、硬化特性、機械的強度を向上させる目的で、上記した酸性基含有重合性単量体及び親水性重合性単量体以外の重合性単量体を配合することもできる。かかる重合性単量体としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、及び(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。中でも(メタ)アクリル酸エステルが好適に用いられる。
【0038】
本発明において使用し得る重合性単量体の例を以下に示すが、一つのオレフィン性二重結合を有する単量体を一官能性単量体とし、オレフィン性二重結合の数に応じて、二官能性単量体、三官能性単量体等と表現する。
一官能性単量体:
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン等。
【0039】
二官能性単量体:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート、1,3−ジ(メタ)アクリロリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン等。
【0040】
三官能性以上の単量体:
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等。
【0041】
これらの重合性単量体は1種類または複数種類の組み合わせで用いられる。これらの重合性単量体の配合量は、あまり多いと歯質に対する接着強度が低下する場合があるので、本発明の抗菌性組成物全体に対して、通常、50重量%以下、好ましくは30重量%以下の範囲で使用される。
【0042】
更に、抗菌性塩化合物、酸性基含有重合性単量体、親水性重合性単量体及び重合開始剤等の溶解性を補助する目的として揮発性の有機溶剤を配合することができる。かかる揮発性有機溶剤としては、通常、常圧の沸点が150℃以下、特に100℃以下の揮発性有機溶剤が好ましく、例えば、エタノール、メタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケンン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等のエステル化合物、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ヘプタン、ヘキサン、トルエン等の炭化水素化合物類及びクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素化合物等が好適に使用される。中でも、エタノール、アセトン等の水溶性の揮発性溶剤が好適に使用される。
【0043】
これらの揮発性有機溶剤は、1種または複数種組み合わせて用いてもよい。これらの揮発性有機溶剤の配合量は、本発明の抗菌性組成物全体に対して、通常、50重量%以下、好ましくは30重量%以下の範囲で使用される。また、本発明の抗菌性組成物に配合されたこれらの揮発性溶剤は、接着性を損なわないように、歯質に塗布した後には、歯科用のエアーシリンジ等にて蒸散させることが望ましい。
【0044】
更に、本発明の抗菌性組成物には、所望に応じて、重合禁止剤、着色剤、蛍光剤、紫外線吸収剤などを添加してもよい。また、歯質の耐酸性を付与する目的として、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、セチルアミンフッ化水素酸塩等のフッ素イオンを放出する公知のフッ素化合物を配合してもよい。
【0045】
更には、本発明の抗菌性組成物においては、操作性、塗布性、流動性、機械的強度の向上のためにフィラーを配合することができる。かかるフィラーとしては、無機系フィラーあるいは有機系フィラー及びこれらの複合体が用いられる。無機系フィラーとしては、シリカあるいはカオリン、クレー、雲母、マイカなどのシリカを基材とする鉱物、シリカを基材とし、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、BaO、La2O3、SrO2、CaO、P2O5等を含有するセラミックスやガラスの類、特にランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミナムボロシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラス等が挙げられる。さらには結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム等も好適に用いられる。有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の有機樹脂が挙げられる。また、これらの有機樹脂中に無機フィラーを分散させたり、無機フィラーを上記有機樹脂でコーティングした無機/有機複合フィラー等も挙げられる。
【0046】
これらのフィラーは、本発明の抗菌性組成物の操作性、塗布性、流動性、機械的強度の調整のため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
これらのフィラーは、単独または複数種類を組み合わせて配合され、本発明の抗菌性組成物全体に対して、通常、30重量%以下、好ましくは15重量%以下の範囲で添加される。より好ましくは平均粒径0.001〜50μmの範囲のフィラーを均一に分散させるとよい。
【0048】
本発明の抗菌性組成物は、通常、歯牙に存在している齲蝕菌を静菌あるいは死滅させ、かつ歯科用ボンディング材、レジンセメント、グラスアイオノマーセメント、リン酸亜鉛セメント、ポリカルボキシレートセメント、シリケートセメントなどの接着材料の接着性を増強する接着性プライマーとして使用される。また、小窩裂溝へ適用されるフィッシャーシーラント材、根面及び隣接歯部分のコーティング材、歯科用コンポジットレジンあるいは充填用コンポマーと歯質とを接着させるための接着性プライマーあるいは接着剤としても使用できる。
【0049】
また、本発明の抗菌性組成物は、歯質等の硬質組織のみならず、金属、陶材、コンポジット硬化物などの歯冠修復材料に対しても使用することができ、更に、市販の歯科用金属プライマー、陶材接着用のプライマー、酸エッチング剤、次塩素酸塩等の歯面清掃剤等と組み合わせて使用してもよい。
【0050】
【実施例】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、略称・略号については次の通りである。
【0051】
抗菌性塩化合物
CPC:セチルピリジニウムクロライド
MDPB:12−メタクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド
MHPC:16−メタクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド
MHAC:16−メタクリロイルオキシヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド
MPHC:16−メタクリロイルオキシヘキサデシルトリメチルホスホニウムクロライド
TMBEA:トリメチルベンジルアンモニウムクロライド
【0052】
酸性基含有重合性単量体
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MEPP:2−メタクリロイルオキシエチルフェニルホスホン酸
MA:マレイン酸
【0053】
親水性重合性単量体
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
9G:ポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレン基の数は9)
【0054】
塩基性化合物
DMAEMA:(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート
DEAHMA:(6−ジエチルアミノ)ヘキシルメタクリレート
DPAEMA:(2−ジプロピルアミノ)エチルメタクリレート
TEA:トリエタノールアミン
NaHCO3:炭酸水素ナトリウム
LiOH:水酸化リチウム
H2KPO4:リン酸ニ水素カリウム
DEPT:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
DMAB:4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン
DMPT: N,N−ジメチル−p−トルイジン
【0055】
重合開始剤
CQ:カンファーキノン
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
【0056】
その他
BHT:2,6−ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン
GDM:1,3−ジメタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパン
PDM:1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン
RE−106:赤色106号(顔料)
BU−1:青色1号(顔料)
【0057】
実施例1
MDPB(5重量部)、MDP(15重量部)、HEMA(40重量部)、蒸留水(40重量部)及びDMAEMA(3重量部)からなる抗菌性組成物を調製した。この抗菌性組成物を用いて、後述の抗菌試験、接着試験及び貯蔵安定性試験に従って抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
〔抗菌試験〕
サンプル管に、予め滅菌乾燥した牛歯象牙質粉末を1g、実施例1の抗菌性組成物を0.5ml、更に50%HEMA水溶液を0.5ml加えて10分間撹拌した後、遠心分離を行って上層の液体部分を採取し、この液を濃度50%の試料とした。濃度50%の試料を更に滅菌水を用いて希釈し、20%、10%、5%、2%、1%となるように濃度の異なる試料を各々調製した。また、予め、ブレインハートインフュージョン(BHI)液体培地(日水製薬製)で18時間全培養したストレプトコッカス・ミュータンス菌(IFO13955)を滅菌水で菌濃度が2×106(CFU/ml)となるように菌液を調製した。これらの濃度の異なる試料と菌液を用いて抗菌試験を実施した。
【0059】
即ち、マイクロプレートを用いて、試料100μlと菌液100μlとを素早く混和して、20秒後に混和液をBHI溶液を用いて1/1000まで希釈した。1/1000希釈した混和液を100μl採取し、予め用意していたBHI寒天培地(日水製薬製)のプレートに蒔き、コンラージ棒で均一なるように塗布した。その後、プレートを37の恒温器の中で48時間好気培養した。また、対照として、試料の代わりに滅菌水を用いて同様に抗菌試験を実施した。抗菌性は、BHI寒天培地に形成された菌のコロニー数を求め、次の式で菌死滅率を算出することによって評価した。
【0060】
【数1】
【0061】
〔接着試験〕
ウシの前歯を#1000シリコン・カーバイド紙(日本研紙(株)製)で平滑に湿潤研磨した後、エナメル質表面または象牙質表面を露出させた後、表面の水を歯科用エアーシリンジで吹き飛ばした。露出したエナメル質表面または象牙質表面に直径3mmの穴を開けた厚さ約150ミクロンの粘着テープを貼り、穴の部分に実施例1の抗菌性組成物を筆で塗布し、そのまま30秒間放置した後、エアーシリンジで抗菌性組成物の流動性が無くなる程度まで乾燥させた。その上に、光重合型歯科用ボンディング材「クリアフィルメガボンド」((株)クラレ製)のボンドを筆で約100μmの厚さに塗布し、歯科用光照射器「ライテル II」(群馬牛尾電気(株)製)にて10秒間光照射を行い、硬化させた。さらに、その上に市販の光重合型歯科用コンポジットレジン「クリアフィルAP−X」((株)クラレ製)をのせ、エバール(登録商標、(株)クラレ製)からなるフィルムをかぶせた後、スライドガラスを上から押しつけ、かかる状態で上記光照射器にて40秒間光照射を行い、硬化させた。
【0062】
この硬化面に対して、市販の歯科用レジンセメント「パナビア21」((株)クラレ製)を用いてステンレス棒を接着し、30分後に試験片を37℃の水中に24時間浸漬させた後に接着強度を測定した。接着強度の測定には、万能試験機(インストロン製)を用い、クロス・ヘッドスピード2mm/minの条件で引張接着強度を測定した。各接着強度の測定値は、8個の試験片の測定値の平均値で示した。
【0063】
〔貯蔵安定性試験〕
(1)変色試験
実施例1の抗菌性組成物を50℃の恒温器に1ヶ月間保管した後、直径1.4mm、深さ2mm、厚み1mmの無色透明のガラス製の容器に200μl入れて、色差計(日本電色工業製)を用いて、L*値及びb*値を測定した。また、調製直後品も同様に測定し、これらの測定結果から△L*値及び△b*値を算出した。更に肉眼にて変色の度合いを観察した。
(2)接着試験
実施例1の抗菌性組成物を50℃の恒温器に1ヶ月間保管した後に、上述の接着試験に従って、牛歯象牙質に対する引張接着強度を測定した。
【0064】
実施例2、3(但し、実施例2は参考例である)
実施例1の抗菌性組成物からMDPBを除き、代わりにCPC又はMHPCを配合した抗菌性組成物をそれぞれ調製した。これらの抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
比較例1〜3
実施例1〜3の抗菌性組成物からDMAEMAを除き、代わりに塩基性化合物として芳香族アミン(DEPT)を配合した抗菌性組成物をそれぞれ調製した。これらの抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
比較例4
実施例1の抗菌性組成物からDMAEMAを除いた抗菌性組成物を調製した。この抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
比較例5
実施例1の抗菌性組成物からMDPBを除いた組成物を調製した。この組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から明らかなように、抗菌性ピリジニウム塩化合物、MDP、HEMA、蒸留水及びDMAEMAからなる抗菌性組成物を使用した場合(実施例1〜3)、濃度2%でもミュータンス菌を完全に死滅させることができた。更にこれらの抗菌性組成物は接着性に優れ、また、50℃の恒温器中で1ヶ月間保管した後でも、肉眼的には変色は認められず、象牙質に対する接着性も殆ど低下していなかった。これに対して、塩基性化合物として、芳香族アミンであるDEPTを配合した抗菌性組成物を使用した場合(比較例1〜3)、濃度2%では完全にはミュータンス菌を死滅させることができず、更に50℃の恒温器中で1ヶ月間保管すると、変色は激しく、無色から暗褐色に変色し、また象牙質に対する接着性も著しく低下した。また、塩基性化合物を含まない抗菌性組成物を使用した場合(比較例4)、濃度5%でもミュータンス菌を完全には死滅させることができず、また、更に50℃の恒温器中で1ヶ月間保管すると、象牙質に対する接着性も著しく低下した。また、抗菌性ピリジニウム塩化合物を含まない組成物を使用した場合(比較例5)、濃度20%でも細菌を完全には死滅させることができなかった。
【0070】
実施例4〜9、比較例6、7
表2に示すように、MDPB、MDP、HEMA、蒸留水、TMDPO及び塩基性化合物からなる抗菌性組成物をそれぞれ調製した。これらの抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
比較例8
実施例4の抗菌性組成物からDMAEMAを除いた抗菌性組成物を調製した。この抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2から明らかなように、MDPB、MDP、HEMA、蒸留水、TMDPO及び脂肪族アミン、アルカリ金属の水酸化物又は強塩基酸塩からなる抗菌性組成物を使用した場合(実施例4〜9)、組成物全体に対して、MDPBの配合量が約3重量%でも、濃度5%においてミュータンス菌を完全に死滅させることができた。また、これらの抗菌性組成物は接着性に優れ、また、50℃の恒温器中で1ヶ月間保管した後でも、肉眼的には変色は認められず、象牙質に対する接着性も殆ど低下していなかった。これに対して、塩基性化合物として、芳香族アミンであるDEPT又はDMABを配合した抗菌性組成物を使用した場合(比較例6、7)、濃度5%では完全にはミュータンス菌を死滅させることができず、更に50℃の恒温器中で1ヶ月間保管すると、変色は激しく、無色から暗褐色に変色し、象牙質に対する接着性も著しく低下した。また、塩基性化合物を含まない抗菌性組成物を使用した場合(比較例8)、濃度10%でもミュータンス菌を完全には死滅させることができず、更に50℃の恒温器中で1ヶ月間保管すると、象牙質に対する接着性も著しく低下した。
【0074】
実施例10〜13
表3に示すように、MHPC、酸性基含有重合性単量体、親水性重合性単量体、蒸留水、CQ、BHT及びDPAEMAからなる抗菌性組成物をそれぞれ調製した。これらの抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表3に示す。
【0075】
比較例9〜12
実施例10〜13の抗菌性組成物からDPAEMAを除き、代わりに芳香族アミンであるDEPTを配合した抗菌性組成物をそれぞれ調製した。これらの抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表3に示す。
【0076】
比較例13
実施例10の抗菌性組成物から塩基性化合物(DPAEMA)を除いた抗菌性組成物を調製した。この抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3から明らかなように、MHPC、酸性基含有重合性単量体、親水性重合性単量体、蒸留水、CQ、BHT及びDPAEMAからなる抗菌性組成物を使用した場合(実施例10〜13)、濃度1%でもミュータンス菌を完全に死滅させることができた。また、これらの抗菌性組成物は接着性に優れ、また、50℃の恒温器中で1ヶ月間保管した後でも、CQに起因するの淡黄色を保持し、肉眼的には変色は認められず、象牙質に対する接着性も殆ど低下していなかった。これに対して、塩基性化合物として芳香族アミンであるDEPTを配合した抗菌性組成物を使用した場合(比較例9〜12)、濃度2%でも完全にはミュータンス菌を死滅させることができず、更に50℃の恒温器中で1ヶ月間保管すると、変色は激しく、淡黄色から暗褐色に変色し、象牙質に対する接着性も著しく低下した。また、塩基性化合物を含まない抗菌性組成物を使用した場合(比較例13)、濃度5%でもミュータンス菌を完全には死滅させることができず、また、更に50℃の恒温器中で1ヶ月間保管すると、象牙質に対する接着性も著しく低下した。
【0079】
実施例14〜18(但し、実施例17は参考例である)
表4に示すように、抗菌性塩化合物としてMHAC、MPHC、MDPBまたはTMBEA、酸性基含有重合性単量体としてMDP、親水性重合性単量体としてHEMA、疎水性重合性単量体としてGDMまたはPDM、蒸留水、TMDPO、BHT及び顔料(RE−106またはBU−1)、塩基性化合物としてDMAEMA等からなる抗菌性組成物をそれぞれ調製した。これらの抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。結果を表4に示す。
【0080】
比較例14〜17
実施例14、15、17または18の抗菌性組成物からDMAEMAを除き、代わりに芳香族アミンであるDEPTまたはDMPTを配合した抗菌性組成物をそれぞれ調製した。これらの抗菌性組成物を用いて、実施例1と同様に、抗菌性、接着性及び貯蔵安定性を測定した。
結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表4から明らかなように、抗菌性塩化合物、酸性基含有重合性単量体、親水性重合性単量体、蒸留水及びDMAEMAを含有する抗菌性組成物を使用した場合(実施例14〜18)、少なくとも濃度5%以上ではミュータンス菌を完全に死滅させることができた。また、これらの抗菌性組成物は接着性に優れ、また、50℃の恒温器中で1ヶ月間保管した後でも、顔料に起因する色を保持し、肉眼的には変色は認められず、象牙質に対する接着性も殆ど低下していなかった。これに対して、塩基性化合物として芳香族アミンであるDEPTまたはDMPTを配合した抗菌性組成物を使用した場合(比較例14〜17)、いずれの組成物も濃度5%では完全にはミュータンス菌を死滅させることができず、更に50℃の恒温器中で1ヶ月間保管すると、変色は激しく、更に象牙質に対する接着性も著しく低下した。
【0083】
【発明の効果】
本発明の抗菌性組成物は、齲蝕菌を強力に殺菌あるいは静菌させ、かつ歯牙に対して優れた接着性及び貯蔵安定性に優れていることから、歯牙に存在する齲蝕菌による2次カリエスや接着界面からの細菌の浸入を抑制し、審美的にも優れる治療を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】メタクリル系の抗菌性ピリジニウム塩の合成方法を示すチャートである。
Claims (4)
- (a)重合性基含有抗菌性塩化合物、(b)酸性基含有重合性単量体、(c)25℃における水に対する溶解度が10重量%以上である親水性重合性単量体、(d)水、並びに(e)アルカリ金属の水酸化物類、芳香族基を含有しない強塩基酸塩類、及び脂肪族アミン類から選ばれる塩基性化合物を含有する抗菌性組成物。
- 該重合性基含有抗菌性塩化合物(a)が、重合性基含有抗菌性ピリジニウム塩化合物である請求項1記載の抗菌性組成物。
- 該塩基性化合物(e)が重合性基含有脂肪族第3級アミンである請求項1又は2に記載の抗菌性組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌性組成物に、更に(f)重合開始剤を含有させた抗菌性組成物。
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