JP4798730B2 - 熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法に関し、特に、環境への負荷を低減し、乾燥工程中に引火爆発の危険性を低下できる製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
熱可塑性樹脂微多孔膜は、電池セパレーター、電解コンデンサー用隔膜、各種フィルター、透湿防水衣料、逆浸透濾過膜、限外濾過膜及び精密濾過膜等の各種用途に用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法には、溶剤法、乾式法及び開孔延伸法等があるが、この中で溶剤法が一般に用いられている。溶剤法は、熱可塑性樹脂に溶剤を添加し、溶融混練した後に溶剤を除去する工程を含み、この溶剤除去工程の効率性が、熱可塑性樹脂微多孔膜の生産性だけでなく、微多孔膜の機械物性にも影響を与える。溶剤除去工程には、従来から塩化メチレンを始めとする低沸点の塩素化アルカンや、ヘキサン等の沸点の低い脂肪族炭化水素系化合物が使用されている。低沸点の塩素化アルカンは、洗浄力が高く、かつ乾燥工程が容易になる等の長所を有してはいるが、環境汚染上の観点から、その使用に対する規制が強化される方向にある。また、低沸点の脂肪族炭化水素系化合物に関しては、乾燥工程における引火爆発の危険性が高い上、大気中に放出されやすいため、一部の県では放出を規制する条例が施行されている。
【0004】
これに対し、引火性の無い溶剤として、例えば、特開平6-256559号及び特開平6-298985号には、有機溶剤と水との混合溶剤及び界面活性剤水溶液等の代替溶剤が提案されている。しかし、これらのような準水系及び水系溶剤は、熱可塑性樹脂に含まれる溶剤に対し、必ずしも十分な洗浄力を有しているとは言えない。
【0005】
従って、本発明の目的は、環境への負荷が低減可能であるとともに効率良く溶剤除去でき、かつ、乾燥工程中に引火爆発の危険性の低い熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、熱可塑性樹脂と溶剤(A)とを含むゲル状成形物から残存する前記溶剤(A)を除去する時に、沸点が150℃以上かつ引火点が0℃以上の非水系溶剤(B)を用いた後、オゾン破壊性が無く、かつ沸点が100℃以下の溶剤(C)を用いると、環境への負荷及び引火爆発の危険性を低減しながら、残留物が少なく、優れた透過性及び高い空孔率を有する熱可塑性樹脂微多孔膜を製造することができることを発見し、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂と溶剤(A)とを溶融混練して得られた溶液を押し出し、冷却して得られたゲル状成形物から残存する前記溶剤(A)を除去する熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法において、前記溶剤(A)を、これと異なる溶剤を用いて二段階以上の洗浄工程により除去し、そのうち少なくとも第一段階の工程で、前記溶剤(A)と相溶性を有し、沸点が150℃以上かつ引火点が0℃以上の非水系溶剤(B)を用い、かつ最終段階の工程で、前記非水系溶剤(B)と相溶性を有し、オゾン破壊性が無く、かつ沸点が100℃以下の溶剤(C)で処理することを特徴とする。
【0008】
本発明の好ましい実施態様における前記熱可塑性樹脂は、下記条件(1)〜(5)を満たす。
【0009】
(1) 前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアリレンスルフィドの中から選ばれることが好ましく、これらの熱可塑性樹脂を単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中で特に好ましいものはポリオレフィンである。
【0010】
(2) 前記ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテン-1の中から少なくとも一種選ばれることが好ましく、より好ましくはポリエチレン及び/又はポリプロピレンである。
【0011】
(3) 前記ポリオレフィンとしては、重量平均分子量5×105以上のポリオレフィンが好ましく、重量平均分子量1×106〜15×106のポリオレフィンがより好ましい。また、熱可塑性樹脂として、かかる重量平均分子量を有するポリオレフィンを含む組成物を用いることも好ましく、より好ましくは重量平均分子量5×105以上の超高分子量ポリエチレンと重量平均分子量1×104以上5×105未満の高密度ポリエチレンとからなる組成物である。
【0012】
(4) 前記ポリオレフィン又は前記ポリオレフィン組成物の重量平均分子量/数平均分子量(以下、「Mw/Mn」と記載する)は、5〜300であることが好ましい。
【0013】
(5) 前記ポリオレフィン組成物は、重量平均分子量5×105以上の超高分子量ポリエチレンと重量平均分子量1×104以上5×105未満の高密度ポリエチレンとシャットダウン機能(電池内部の温度上昇時に、発火等の事故を防止するため、微多孔膜が溶融して微多孔を目詰りさせ、電流を遮断する機能)を付与するポリオレフィンとからなり、前記シャットダウン機能を付与するポリオレフィンが、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、分子量1×103〜4×103の低分子量ポリエチレン又はシングルサイト触媒を用いて製造されたエチレン/α-オレフィン共重合体の中から少なくとも一つ選ばれるものであることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記溶剤(A)の除去を、溶剤(A)とは異なる溶剤を用いて多段階処理する工程は、二段〜五段階の工程で行うことが好ましい。
【0015】
また、前記溶剤(A)を除去する二段階以上の工程において、第一段階の工程で、非水系溶剤(B)を用いる。
【0016】
本発明の好ましい実施態様における前記非水系溶剤(B)は、下記条件(6)〜(17)を満たす群の中から少なくとも一種選ぶことができる。
【0017】
(6) 炭素数8以上のノルマルパラフィン、水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数5以上のノルマルパラフィン、炭素数8以上のイソパラフィン、炭素数7以上のシクロパラフィン、水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数5以上のシクロパラフィン、炭素数7以上の芳香族炭化水素、水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数6以上の芳香族炭化水素、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数5〜1Oのアルコール、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数7〜14のエステル及びエーテル、炭素数5〜10のケトンの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0018】
(7) 前記炭素数8以上のノルマルパラフィンは、炭素数8〜12であることが好ましく、より好ましくはノルマルオクタン、ノルマルノナン、ノルマルデカン、ノルマルウンデカン、ノルマルドデカンの中から少なくとも一種選ばれるものが好ましい。
【0019】
(8) 前記水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数5以上のノルマルパラフィンは、1-クロロペンタン、1-クロロヘキサン、1-クロロヘプタン、1-クロロオクタン、1-ブロモペンタン、1-ブロモヘキサン、1-ブロモヘプタン、1-ブロモオクタン、1,5-ジクロロペンタン、1,6-ジクロロヘキサン、1,7-ジクロロヘプタンの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0020】
(9) 前記炭素数8以上のイソパラフィンは、2,3,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,5-トリメチルヘキサン、2,3,5-トリメチルヘキサン、2,3,5-トリメチルヘプタン、2,5,6-トリメチルオクタンの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0021】
(10) 前記炭素数7以上のシクロパラフィンは、シクロヘプタン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサン、シス-及びトランス-1,2-ジメチルシクロヘキサン、シス-及びトランス-1,3-ジメチルシクロヘキサン、シス-及びトランス-1,4-ジメチルシクロヘキサンの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0022】
(11) 前記水素原子の一部がハロゲン原子で置換された炭素数5以上のシクロパラフィンは、クロロシクロペンタン、クロロシクロヘキサンの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0023】
(12) 前記炭素数7以上の芳香族炭化水素は、トルエン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレンの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0024】
(13) 前記水素原子の一部がハロゲン原子で置換された炭素数6以上の芳香族炭化水素がクロロベンゼン、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、4-クロロトルエン、3-クロロオルトキシレン、4-クロロオルトキシレン、2-クロロメタキシレン、4-クロロメタキシレン、5-クロロメタキシレン、2-クロロパラキシレンの中から少なくとも一種選ばれることが好ましい。
【0025】
(14) 前記水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数5〜10のアルコールは、イソペンチルアルコール、ターシャリーペンチルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、プロピレングリコールノルマルブチルエーテル、5-クロロ-1-ペンタノールの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0026】
(15) 前記水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数7〜14のエステルは、炭酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソペンチル、酢酸3-メトキシブチル、酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル、ノルマル酪酸エチル、ノルマル吉草酸エチル、酢酸2-クロロエチルの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0027】
(16) 前記水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数7〜14のエーテルとしてはノルマルブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ビスクロロエチルエーテルの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0028】
(17) 前記炭素数5〜10のケトンは、2-ぺンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0029】
また、前記溶剤(B)に、任意成分(B)’として、例えばC5H2F10の組成式で示される鎖状ハイドロフルオロカーボン、例えばC4F9OCH3及びC4F9OC2H5の組成式で示されるハイドロフルオロエーテル、例えばC5H3F7の組成式で示される環状ハイドロフルオロカーボンの中から少なくとも一種選ばれる溶剤を混合したものを使用するのが好ましい。
【0030】
さらに、前記溶剤(A)を除去する二段階以上の洗浄工程中の最終段階の工程で、オゾン破壊性がなく、かつ沸点100℃以下の溶剤(C)で処理するのが好ましい。前記溶剤(C)としては、下記条件(18)〜(20)を満たすのが好ましい。
【0031】
(18) 炭素数3〜4のアルコール、炭素数1〜4のアルコールと水との混合物、例えばC5H2F10の組成式で示される鎖状ハイドロフルオロカーボン、例えばC4F9OCH3及びC4F9OC2H5の組成式で示されるハイドロフルオロエーテル、例えばC5H3F7の組成式で示される環状ハイドロフルオロカーボンから少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0032】
(19) 前記炭素数3〜4のアルコールが、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノールの中から少なくとも一種選ばれるのが好ましい。
【0033】
(20) 前記炭素数1〜4のアルコールと水との混合物に使用されるアルコールがメタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノールから選ばれることが好ましい。
【0034】
【発明の実施の形態】
[1] 熱可塑性樹脂
本発明の熱可塑性樹脂微多孔膜の製造に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアリレンスルフィドが好ましい。より好ましくはポリオレフィンである。
【0035】
前記ポリオレフィンは、重量平均分子量5×105以上のものが好ましく、1×106〜15×106のものがより好ましい。重量平均分子量が5×105未満では延伸時に破断が起こりやすいため、好適な微多孔膜を得ることは困難である。
【0036】
前記ポリオレフィンとしては、重量平均分子量が5×105である超高分子量ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0037】
前記ポリオレフィンは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、ペンテン-1,4-メチルペンテン-1、オクテン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレンが好ましい。
【0038】
また、熱可塑性樹脂としては、重量平均分子量5×105以上のポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物を用いることも可能である。前記ポリオレフィン組成物は、重量平均分子量5×105以上のポリオレフィンと重量平均分子量1×104以上5×105未満のポリオレフィンとからなる組成物が好ましい。重量平均分子量が5×105未満のポリオレフィンを含有していない組成物では、延伸時に破断が起こりやすいため、好適な微多孔膜を得ることは困難である。また、ポリオレフィン及びポリオレフィン組成物の重量平均分子量の上限は、15×106以下にすることにより、溶融押出を容易にすることができる。
【0039】
前記ポリオレフィン組成物において、重量平均分子量5×105以上のポリオレフィンとしては、超高分子量ポリエチレンが好ましいが、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。
【0040】
また、前記ポリオレフィン組成物において、重量平均分子量1×104以上5×105未満のポリオレフィンとしては、ポリエチレンが好ましい。ポリエチレンの種類は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンが好ましく、より好ましくは高密度ポリエチレンである。これらはエチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、ペンテン-1,4-メチルぺンテン-1、オクテン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレンが好ましい。
【0041】
また、電池セパレーターに用いる場合、メルトダウン温度(熱可塑性微多孔膜の破膜温度)を向上させるために、ポリプロピレンを添加することが好ましい。
【0042】
前記ポリプロピレンとしては、単独重合体のほかに、ブロック共重合体、ランダム共重合体も使用することができる。ブロック共重合体、ランダム共重合体には、プロピレン以外の他のα-オレフィンとの共重合成分を含有することができ、前記他のα-オレフィンとしてはエチレンが好ましい。
【0043】
更に、本発明においては、電池セパレーター用途としての特性を向上させるため、シャットダウン機能を付与するポリオレフィンとして、前述の低密度ポリエチレンを用いることができる。低密度ポリエチレンとしては、分岐状の低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、シングルサイト触媒により製造されたエチレン/α-オレフィン共重合体のうち、少なくとも一種選ばれるポリオレフィンを添加することができる。
【0044】
同様に、本発明においては、電池セパレーター用途としての特性を向上させるため、シャットダウン機能を付与するポリオレフィンとして、重量平均分子量1×103〜4×103の低分子量ポリエチレンを添加してもよい。但し、添加量が多いと延伸する場合に破断が起こり易くなるので、その添加量は、熱可塑性樹脂全体を100重量部としてその20重量部以下にすることが好ましい。
【0045】
本発明におけるポリオレフィン又はポリオレフィン組成物のMw/Mnは、5〜300が好ましく、10〜100がより好ましい。Mw/Mnが5未満では高分子量成分が多くなり過ぎて溶融押出が困難になり、Mw/Mnが300を超えると低分子量成分が多くなり過ぎるために強度の低下を招く。
【0046】
[2] 熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法は、(a)前記熱可塑性樹脂に溶剤を添加して溶融混練し、熱可塑性樹脂溶液を調製する工程、(b)熱可塑性樹脂溶液をダイリップより押し出し、冷却してゲル状成形物を形成する工程、(c)ゲル状成形物から溶剤除去する工程、並びに(d)得られた膜を乾燥する工程を含む。更に、(a)〜(d)の工程の後、必要に応じて、(e)電離放射による架橋処理、(f)熱処理、及び(g)親水化処理等を行ってもよい。
【0047】
(a)熱可塑性樹脂に溶剤(A)を添加して溶融混練し、熱可塑性樹脂溶液を調製する工程
本発明の製造方法では、まず熱可塑性樹脂に適当な溶剤(A)を添加して溶融混練し、熱可塑性樹脂溶液を調製する。熱可塑性樹脂溶液には必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、顔料、染料、無機充填材等の各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。特に、孔形成剤として微粉珪酸を添加するのが好ましい。
【0048】
前記溶剤(A)としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族又は環式の炭化水素、又は沸点がこれらに対応する鉱油留分等を用いることができる。溶剤含有量が安定なゲル状成形物を得るためには、流動パラフィンのような不揮発性の溶剤を用いるのが好ましい。
【0049】
前記溶剤(A)の粘度は25℃において30〜500cStであるのが好ましく、50〜200cStであるのがより好ましい。25℃における粘度が30cSt未満では、不均一なダイリップからの吐出を生じ、混練が困難であり、また500cStを超えると、溶剤除去が困難となる。
【0050】
溶融混練の方法は特に限定されないが、通常、押出機中で均一に混練することにより行う。この方法は熱可塑性樹脂の高濃度溶液を調製するのに適する。溶融温度は熱可塑性樹脂の融点+30℃〜+100℃が好ましく、通常160〜230℃であるのが好ましく、170〜200℃であるのがより好ましい。ここで、融点とはJIS K7121に基づき、示差走査熱量測定(DSC)により求められる値を言う(以下同様)。前記溶剤(A)は混練開始前に添加しても、混練中に押出機の途中から添加してもよいが、混練開始前に添加して予め溶液化するのが好ましい。溶融混練にあたっては熱可塑性樹脂の酸化を防止するために酸化防止剤を添加するのが好ましい。
【0051】
前記熱可塑性樹脂溶液中、前記熱可塑性樹脂と前記溶剤(A)との配合割合は、両者の合計を100重量%として、熱可塑性樹脂が1〜50重量%、好ましくは20〜40重量%である。熱可塑性樹脂が1重量%未満では、ゲル状成形物を形成する際にダイス出口でスウェルやネックインが大きくなり、ゲル状成形物の成形性及び自己支持性が低下する。一方、50重量%を超えると、ゲル状成形物の成形性が低下する。
【0052】
(b)熱可塑性樹脂溶液をダイリップより押し出し、冷却してゲル状成形物を形成する工程
溶融混練した熱可塑性樹脂溶液を直接に又は別の押出機を介して、或いは一旦冷却してペレット化した後再度押出機を介して、ダイリップから押し出す。ダイリップとしては、通常長方形の口金形状をしたシート用ダイリップを用いるが、二重円筒状の中空状ダイリップ、インフレーションダイリップ等も用いることができる。シート用ダイリップの場合、ダイリップのギャップは通常0.1〜5mmであり、押し出し時には140〜250℃に加熱する。加熱溶液の押し出し速度は0.2〜15m/分であるのが好ましい。
【0053】
このようにしてダイリップから押し出した加熱溶液を冷却することによりゲル状成形物を形成する。冷却は少なくともゲル化温度以下までは50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。一般に冷却速度が遅いと、得られるゲル状成形物の高次構造が粗くなり、それを形成する擬似細胞単位も大きなものとなるが、冷却速度が速いと、密な細胞単位となる。冷却速度が50℃/分未満では、結晶化度が上昇し、延伸に適したゲル状成形物となりにくい。冷却方法としては、冷風、冷却水、その他の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールに接触させる方法等を用いることができる
【0054】
(c) ゲル状成形物から溶剤除去する工程
微多孔膜の使用される目的によっては、必要に応じてゲル状成形物を延伸する。延伸を行う場合は、ゲル状成形物を加熱後、通常のテンター法、ロール法、インフレーション法、圧延法又はこれらの方法の組合せによって所定の倍率で行う。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。また、二軸延伸の場合は、縦横同時延伸又は逐次延伸のいずれでもよいが、特に同時二軸延伸が好ましい。延伸により機械的強度が向上する。
【0055】
延伸倍率はゲル状成形物の厚みによって異なるが、一軸延伸では2倍以上が好ましく、より好ましくは3〜30倍である。二軸延伸では、いずれの方向でも少なくとも2倍以上とし、面倍率で10倍以上が好ましく、より好ましくは15〜400倍である。面倍率が10倍未満では延伸が不十分で高弾性及び高強度の熱可塑性樹脂微多孔膜が得られない。一方面倍率が400倍を超えると、延伸装置、延伸操作等の点で制約が生じる。
【0056】
延伸温度は熱可塑性樹脂の融点+10℃以下にするのが好ましく、結晶分散温度から結晶融点未満の範囲にするのがより好ましい。延伸温度が融点+10℃を超えると樹脂が溶融し、延伸による分子鎖の配向ができない。また、延伸温度が結晶分散温度未満では樹脂の軟化が不十分で、延伸において破膜しやすく、高倍率の延伸ができない。本発明では、延伸温度を通常100〜140℃、好ましくは110〜120℃とする。ここで、結晶分散温度とは、ASTM D 4065に基づき動的粘弾性の温度特性測定により求められる値を言う(以下同様)。
【0057】
延伸を行う場合、前記溶剤(A)の除去は延伸前及び/又は延伸後に行うことができるが、延伸後に行うのが好ましい。
【0058】
前記溶剤(A)の除去には、沸点100℃以上かつ引火点0℃以上の非水系溶剤(B)を用いて少なくとも二段階以上の工程で処理する
【0059】
前記溶剤(A)を除去する工程は、二段階以上であれば特に制限されないが、通常二段〜五段階であり、好ましくは二段〜三段階である。一段階だけの処理では、前記溶剤(A)を十分除去することができないため、得られる熱可塑性樹脂微多孔膜の物性が低下する。また、各々の段階において同じ溶剤で処理しても、単に製造工程が長くなるため、熱可塑性樹脂微多孔膜製造設備のスペースが拡大し、また溶剤除去の効率性が低下するため、各段階では互いに異なる溶剤を用いることが好ましい。但し、互いに異なる溶剤を用いることには限定されるものではない。従って、例えば三段階の処理の場合、第一段階及び第二段階において同一の溶剤を用い、第三段階で第一及び第二段階とは異なる溶剤を用いることもできる。
【0060】
本発明においては、溶剤(A)を除去する二段階以上の工程において、少なくとも第一段階の工程で、沸点100℃以上かつ引火点0℃以上の非水系溶剤(B)を用い、最終段階の工程で、オゾン破壊性が無く、かつ、沸点が100℃以下の溶剤(C)で処理することが好ましい。前記溶剤(B)の引火点について、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは40℃以上である。
【0061】
前記溶剤(B)は、難揮発性であり、環境への負荷が低く、乾燥工程において引火爆発する危険性が低いため使用上安全である。また、高沸点であるため凝縮しやすく、回収が容易となり、リサイクル利用し易い。尚、本願明細書において、「沸点」とは、1.01×105Paにおける沸点を言い、「引火点」とは、JIS K 2265に基づいて測定したものを言う。
【0062】
前記溶剤(B)としては、前記溶剤(A)と相溶性を有し、前記熱可塑性樹脂とは相溶性を有しないものを使用することが好ましい。
【0063】
前記溶剤(B)としては、非水系のもののみを用いるべきであり、これを水溶液化することは、前記溶剤(A)の除去を十分に行うことができないため、好ましくない。
【0064】
前記溶剤(B)としては、例えば、炭素数8以上のノルマルパラフィン、水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数5以上のノルマルパラフィン、炭素数8以上のイソパラフィン、炭素数7以上のシクロパラフィン、水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数5以上のシクロパラフィン、炭素数7以上の芳香族炭化水素、水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数6以上の芳香族炭化水素、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数5〜1Oのアルコール、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数7〜14のエステル及びエーテル、炭素数5〜10のケトンから少なくとも一種選ばれるものが好ましい。
【0065】
前記炭素数8以上のノルマルパラフィンとしては、ノルマルオクタン、ノルマルノナン、ノルマルデカン、ノルマルウンデカン、ノルマルドデカンが好ましく、より好ましくはノルマルオクタン、ノルマルノナン、ノルマルデカンである。
【0066】
前記水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数5以上のノルマルパラフィンとしては、1-クロロペンタン、1-クロロヘキサン、1-クロロヘプタン、1-クロロオクタン、1-ブロモペンタン、1-ブロモヘキサン、1-ブロモヘプタン、1-ブロモオクタン、1,5-ジクロロペンタン、1,6-ジクロロヘキサン、1,7-ジクロロヘプタンが好ましく、より好ましくは1-クロロペンタン、1-クロロヘキサン、1-ブロモペンタン、1-ブロモヘキサンである。
【0067】
前記炭素数8以上のイソパラフィンとしては2,3,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,5-トリメチルヘキサン、2,3,5-トリメチルヘキサン、2,3,5-トリメチルヘプタン、2,5,6-トリメチルオクタンが好ましく、より好ましくは2,3,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,5-トリメチルヘキサン、2,3,5-トリメチルヘキサンである。
【0068】
前記炭素数7以上のシクロパラフィンとしては、シクロヘプタン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサン、シス-及びトランス-1,2-ジメチルシクロヘキサン、シス-及びトランス-1,3-ジメチルシクロヘキサン、シス-及びトランス-1,4-ジメチルシクロヘキサンが好ましく、より好ましくはシクロヘキサンである。
【0069】
前記水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数5以上のシクロパラフィンとしては、クロロシクロペンタン、クロロシクロヘキサンが好ましく、より好ましくはクロロシクロペンタンである。
【0070】
前記炭素数7以上の芳香族炭化水素としては、トルエン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレンが好ましく、より好ましくはトルエンである。
【0071】
前記水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数6以上の芳香族炭化水素としてはクロロベンゼン、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、4-クロロトルエン、3-クロロオルトキシレン、4-クロロオルトキシレン、2-クロロメタキシレン、4-クロロメタキシレン、5-クロロメタキシレン、2-クロロパラキシレンが好ましく、より好ましくはクロロベンゼン、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、4-クロロトルエンである。
【0072】
前記水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数5〜10のアルコールとしては、イソペンチルアルコール、ターシャリーペンチルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、プロピレングリコールノルマルブチルエーテル、5-クロロ-1-ペンタノールが好ましく、より好ましくは3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、プロピレングリコールノルマルブチルエーテル、5-クロロ-1-ペンタノールである。
【0073】
前記水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数7〜14のエステルとしては炭酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソペンチル、酢酸3-メトキシブチル、酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル、ノルマル酪酸エチル、ノルマル吉草酸エチル、酢酸2-クロロエチルが好ましく、より好ましくは酢酸イソペンチル、酢酸3-メトキシブチル、酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル、ノルマル酪酸エチル、酢酸2-クロロエチルである。
【0074】
前記水素原子の一部がハロゲン原子で置換されることのある炭素数7〜14のエーテルとしてはジプロピレングリコールジメチルエーテル、ノルマルブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ビスクロロエチルエーテルが好ましく、より好ましくはジプロピレングリコールジメチルエーテル、ビスクロロエチルエーテルである。
【0075】
前記炭素数5〜10のケトンとしては2-ぺンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが好ましく、より好ましくは2-ペンタノン、3-ペンタノンである。
【0076】
上記溶剤(B)の例として挙げたものは混合して用いてもよいが、前記溶剤(B)に、任意成分(B)’として、例えばC5H2F10の組成式で示される鎖状ハイドロフルオロカーボン、例えばC4F9OCH3及びC4F9OC2H5の組成式で示されるハイドロフルオロエーテル、例えばC5H3F7の組成式で示される環状ハイドロフルオロカーボンの中から少なくとも一種選ばれる溶剤をさらに混合したものを使用するのが好ましい。この場合、前記溶剤(B)と前記任意成分(B)’の混合溶剤100重量部中において、前記任意成分(B)’の割合は、好ましくは98重量部以下、より好ましくは70重量部以下、最も好ましくは50重量部以下にする。
【0077】
洗浄方法は、前記溶剤(B)に浸漬し抽出する方法、前記溶剤(B)をシャワーする方法、又はこれらの組合せによる方法等により行うことができる。また、前記溶剤(B)は、前記ゲル状成形物100重量部に対し300〜30000重量部使用することが好ましい。
【0078】
洗浄温度は、溶剤(B)の沸点に依存する。溶剤(B)の沸点が100〜150℃の場合は室温での洗浄が可能であり、必要に応じて加熱洗浄すればよく、一般に20〜80℃で洗浄することが好ましい。また溶剤(B)の沸点が150℃以上の場合、室温では膜内部への浸透性が悪いので、加熱洗浄することが好ましい。洗浄は、残留した前記溶剤(A)が、その添加量に対して1重量%未満になるまで行うことが好ましい。
【0079】
前記多段階処理する工程において、少なくとも最終段階工程で用いる溶剤 (C)としては、前記溶剤(B)と相溶性を有し、熱可塑性樹脂とは相溶せず、オゾン破壊性が無く、かつ、沸点が100℃以下のものが好ましい。
【0080】
前記溶剤(C)で処理することにより、前記溶剤(A)の除去をより十分に行うことができ、乾燥工程の効率が向上し、かつ、製造工程における環境への負荷をより低くできる。特に溶剤(B)として、沸点150℃以上の溶剤を用いる場合は、単に熱風で乾燥するだけでは乾燥に時間がかかり、その影響等で後の熱処理で空孔率が低下し透気性が低下する恐れがあるので、溶剤(C)による処理を追加することが好ましい。
【0081】
前記溶剤(C)としては、炭素数3〜4のアルコール、炭素数1〜4のアルコールと水との混合物、例えばC5H2F10の組成式で示される鎖状ハイドロフルオロカーボン、例えばC4F9OCH3及びC4F9OC2H5の組成式で示されるハイドロフルオロエーテル、例えばC5H3F7の組成式で示される環状ハイドロフルオロカーボンの中から少なくとも一種選ばれる化合物が好ましい。
【0082】
前記炭素数3〜4のアルコールとしては、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノールが好ましく、より好ましくはノルマルプロパノール、イソプロパノールである。
【0083】
前記炭素数1〜4のアルコールと水との混合物としてはメタノールと水、エタノールと水、ノルマルプロパノールと水、イソプロパノールと水、セカンダリーブタノールと水、ターシャリーブタノールと水が好ましく、より好ましくはノルマルプロパノールと水、又はイソプロパノールと水との混合物である。
【0084】
また、上述の化合物は、混合物として使用することができ、例えば、C5H2F10の組成式で示される鎖状ハイドロフルオロカーボン、C4F9OCH3及びC4F9OC2H5の組成式で示されるハイドロフルオロエーテル、C5H3F7の組成式で示される環状ハイドロフルオロカーボンの中から少なくとも一種選ばれた化合物と炭素数3〜4のアルコールとの混合物を使用することができる。また、炭素数3〜4のアルコールの中から二種類を選んで使用することもできる。
【0085】
ここで、二段階で処理する場合の例を挙げ、各々、第一段階で使用する溶剤(B)と第二段階で使用する溶剤(C)との組み合せとして好ましいものを示す。但し、これらは、二段階で行うことに限定する趣旨ではない。例えば、 (B)/(C)=エーテル/ハイドロフルオロエーテル、エーテル/環状ハイドロフルオロカーボン、エーテル/アルコール、エーテル/アルコールと水との混合物、ノルマルパラフィン/ハイドロフルオロエーテル、ノルマルパラフィン/環状ハイドロフルオロカーボン、ノルマルパラフイン/アルコール、ノルマルパラフイン/アルコールと水との混合物、イソパラフィン/ハイドロフルオロエーテル、イソパラフィン/環状ハイドロフルオロカーボン、イソパラフィン/アルコール、イソパラフィン/アルコールと水との混合物、シクロパラフイン/ハイドロフルオロエーテル、シクロパラフィン/環状ハイドロフルオロカーボン、シクロパラフィン/アルコール、シクロパラフィン/アルコールと水との混合物、ケトン/ハイドロフルオロエーテル、ケトン/環状ハイドロフルオロカーボン、ケトン/アルコール、ケトン/アルコールと水との混合物が挙げられる。このようなものを用いることにより、前記溶剤(A)の除去を効果的に行うことができる。
【0086】
前記溶剤(C)の使用量は、前記溶剤(B)の使用量を100重量部として50〜200重量部になるようにすることが好ましい。洗浄方法は、前記溶剤(C)に浸漬し抽出する方法、前記溶剤(C)をシャワーする方法、又はこれらの組合せによる方法等により行うことができる。更に、上述の洗浄は、20〜80℃で行うことが好ましい。
【0087】
(d)得られた膜を乾燥する工程
延伸及び溶剤除去により得られた膜を、加熱乾燥法又は風乾法等により乾燥することができる。乾燥温度は、熱可塑性樹脂の結晶分散温度以下の温度で行うことが好ましく、特に結晶分散温度より5℃以上低い温度が好ましい。
【0088】
乾燥処理により、熱可塑性樹脂微多孔膜中に残存する溶剤(B)の含有量を、5重量%以下とすることが好ましく(乾燥後の膜重量を100重量%とする)、より好ましくは3重量%以下とする。乾燥が不十分で膜中に溶剤(B)が多量に残存する場合、後の熱処理で空孔率が低下し、透気性が悪化するので好ましくない。
【0089】
乾燥して得られた膜について、必要に応じて、電離放射による架橋処理、熱処理、及び親水化処理等を施してもよい。
【0090】
(e) 電離放射により架橋処理する工程
電離放射処理は、膜を乾燥した後に行うことが好ましい。電離放射線としてはα線、β線、γ線、電子線が用いられ、電子線量0.1〜100Mrad、加速電圧100〜300kVにて行うことができる。これによりメルトダウン温度を向上させることができる。
【0091】
(f) 熱処理する工程
熱処理としては、熱延伸処理、熱固定処理、及び熱収縮処理のいずれも用いることができる。これらの処理は、熱可塑性樹脂微多孔膜の融点以下、好ましくは60℃以上融点−10℃以下で行う。
【0092】
熱延伸処理は、通常用いられるテンター方式、ロール方式、又は圧延方式により行われ、少なくとも一方向に延伸倍率1.01〜2.0倍で行うことが好ましく、より好ましくは1.01〜1.5倍である。
【0093】
熱固定処理は、テンター方式、ロール方式、圧延方式により行われる。
【0094】
熱収縮処理は、テンター方式、ロール方式、若しくは圧延方式により行うか、又はベルトコンベア若しくはフローティング等を用いて行ってもよい。なお、熱収縮処理は、少なくとも一方向に50%以下の範囲が好ましく、より好ましくは30%以下の範囲にする。
【0095】
なお、本発明においては、上述の熱延伸処理、熱固定処理及び熱収縮処理を多数組み合せて行ってもよい。
【0096】
特に、熱延伸処理後に熱収縮処理を行うと、低収縮率で高強度の微多孔膜が得られるため好ましい。
【0097】
(g) 親水化処理する工程
親水化処理としては、モノマーグラフト、界面活性剤処理、コロナ放電処理等を用いる。なお、親水化処理は電離放射後に行うのが好ましい。
【0098】
界面活性剤を使用する場合、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及び両イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、ノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0099】
この場合、界面活性剤を水溶液又はメタノール、エタノール又はイソプロピルアルコール等の低級アルコールの溶液にして、ディッピング及びドクターブレード等の方法により親水化される。
【0100】
また、得られた親水化微多孔膜は乾燥させる。ここで、透過性を向上させるため、熱可塑性樹脂微多孔膜の融点以下の温度で収縮を防止又は延伸しながら熱処理することが好ましい。
【0101】
[3] 熱可塑性樹脂微多孔膜
以上のように製造した微多孔膜の物性は、通常の場合、空孔率が25〜70%、透気度が10〜800秒/100ccである。熱可塑性樹脂微多孔膜の膜厚は、用途に応じて適宜選択しうるが、例えば電池セパレーターとして使用する場合は5〜200μmとするのが好ましい。このように、本発明のポリエチレン微多孔膜は優れた透過性を示すので、電池セパレーター、フィルター等として好適に使用できる
【0102】
【実施例】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0103】
実施例1
重量平均分子量が2.0×106の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)20重量%と重量平均分子量が3.5×105の高密度ポリエチレン(HDPE)80重量%とからなり、Mw/Mn=16.8であるポリエチレン組成物(融点135℃、結晶分散温度90℃)に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタンをポリエチレン組成物100重量部当たり0.375重量部加えたポリエチレン組成物を得た。得られたポリエチレン組成物30重量部を二軸押出機(58mmφ、L/D=42、強混練タイプ)に投入し、この二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン70重量部を供給し、200℃・200rpmで溶融混練して、押出機中にてポリエチレン溶液を調製した。続いて、このポリエチレン溶液を押出機の先端に設置されたTダイから二軸延伸膜が50μm程度になるように押し出し、50℃に温調された冷却ロールで引き取りながら、ゲル状シートを成形した。得られたゲル状シートについて、バッチ延伸機を用いて118℃で5×5倍になるように二軸延伸を行い、延伸膜を得た。得られた膜を20cm×20cmのアルミニウム製の固定枠に固定し、50℃に温調されたグリコールエーテルの酢酸エステル(酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル、沸点188℃、引火点75℃(以下、エステル(1)と記述する)))の第1洗浄槽において1OOrpmで揺動させながら3分間含浸洗浄し、更に50℃に温調されたハイドロフルオロエーテル((C4F9OCH3)、住友スリーエム(株)製HFE-7100、沸点61℃、引火点なし(以下同様))の第2洗浄槽で1分間含浸させて洗浄処理した(以下、第2洗浄槽のことを「リンス槽」といい、第2洗浄槽における洗浄処理のことを「リンス処理」という)。リンス処理後に膜を自然乾燥し、更に120℃で10分間熱固定してポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0104】
実施例2
40℃に温調されたイソプロピルアルコール(沸点82℃)のリンス槽で1分間含浸させてリンス処理した以外は実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0105】
実施例3
60℃に温調された87重量%イソプロピルアルコール水溶液(沸点80℃)のリンス槽で1分間含浸させてリンス処理した以外は実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0106】
実施例4
50℃に温調されたイソパラフイン系炭化水素洗浄剤(イソパラフィンの炭素数が9/10/11=1/36/50(wt%)とその他の不可避不純物からなるもの、沸点154〜174℃、引火点41℃、(以下、イソパラフィン(1)と記述する))の第1洗浄槽で1分間含浸洗浄した以外は実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0107】
実施例5
50℃に温調された3-メトキシブタノール(沸点160℃、引火点65℃)の第一洗浄槽で2回洗浄し、50℃に温調された水のリンス槽で1分間含浸して2回リンス処理し、70〜80℃の熱風で乾燥した以外は実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0108】
実施例6
重量平均分子量が3.0×106の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE、融点135℃、結晶分散温度90℃)に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタンをポリエチレン組成物100重量部当たり0.375重量部加えたポリエチレン組成物を得た。得られたポリエチレン組成物17重量部を二軸押出機(58mmφ、L/D=42、強混練タイプ)に投入し、微粉珪酸18重量部とフタル酸ジオクチル50重量部及び流動パラフィン15重量部をこの二軸押出機のサイドフィーダーから供給し、200℃・200rpmで溶融混練して、押出機中にてポリエチレン溶液を調製した。続いて、このポリエチレン溶液を押出機の先端に設置されたTダイから二軸延伸膜が200μm程度になるように押し出し、50℃に温調された冷却ロールで引き取りながら、ゲル状シートを成形した。得られたゲル状シートを20cm×20cmのアルミニウム製の固定枠に固定し、50℃に温調されたエステル(1)の第1洗浄槽において100rpmで揺動させながら3分間含浸洗浄し、フタル酸ジオクチル及び流動パラフィンを抽出した後、50℃に温調されたHFE-7100のリンス槽で1分間含浸させてリンス処理した。得られた膜を乾燥し、更に60℃に温調された25%の苛性ソーダの洗浄槽に10分間含浸して、微粉珪酸を抽出した後、自然乾燥した。更に、この膜を125℃に加熱されたバッチ延伸機により膜厚が30μm程度になるように一軸延伸し、115℃で1O分間熱固定を行った。
【0109】
実施例7
重量平均分子量が2.0×106の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)20重量%と重量平均分子量が3.5×105の高密度ポリエチレン(HDPE)80重量%とからなり、Mw/Mn=16.8のポリエチレン組成物(融点135℃、結晶分散温度90℃)に酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタンをポリエチレン組成物100重量部当たり0.375重量部加えたポリエチレン組成物を得た。得られたポリエチレン組成物20重量部を二軸押出機(58mmφ、L/D=42、強混練タイプ)に投入し、この二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン80重量部を供給し、200℃・200rpmで溶融混練して、押出機中にてポリエチレン溶液を調製した。続いて、このポリエチレン溶液を押出機の先端に設置されたTダイから二軸延伸膜が60μm程度になるように押し出した。Tダイから3m/分の速度で押出された直後に80℃に温調された冷却ロールで引き取りながら、ゲル状シートを成形した。得られたゲル状シートを、20cm×20cmのアルミニウム製の固定枠に固定し、50℃に温調されたエステル(1)の第1洗浄槽で3分間含浸洗浄し、更に50℃に温調されたHFE-7100のリンス槽で1分間含浸しリンス処理した。リンス処理後に膜を自然乾燥し、更に115℃で10分間熱固定してポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0110】
実施例8
40℃に温調されたエステル(1)(沸点188℃、引火点75℃)/HFE-7100(沸点61℃、引火点なし)混合溶剤(重量比50/50)の第1洗浄槽で3分間含浸洗浄し、さらに室温のHFE-7100のリンス槽で1分間含浸させてリンス処理した以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0111】
実施例9
60℃に温調されたイソパラフィン(1)(沸点154〜174℃、引火点41℃)/環状ハイドロフルオロカーボン(C5H3F7、日本ゼオン(株)製ゼオローラH、沸点80℃、引火点なし)混合溶剤(重量比50/50)の第1洗浄槽で3分間含浸洗浄し、さらに80℃のゼオローラHのリンス槽で1分間含浸させてリンス処理した以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0112】
実施例 10
50℃に温調されたプロピレングリコールノルマルブチルエーテル(沸点170℃、引火点62℃)/HFE-7100(沸点61℃、引火点なし)混合溶液(重量比95/5)の第1洗浄槽で3分間含浸洗浄し、さらに室温のHFE-7100のリンス槽で1分間含浸させてリンス処理した以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0113】
実施例 11
50℃に温調されたジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点175℃、引火点60℃)/HFE-7100(沸点61℃、引火点なし)混合溶液(重量比95/5)の第1洗浄槽で3分間含浸洗浄し、さらに室温のHFE-7100のリンス槽で1分間含浸させてリンス処理した以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0114】
比較例1
室温でイソパラフィン(1)の第一洗浄槽で1分間含浸洗浄し、リンス処理を行わず、70〜80℃の熱風で乾燥した以外は実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0115】
比較例2
HFE-7100によるリンス処理を施さず、空気を吹き付けて乾燥した以外は実施例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0116】
比較例3
HFE-7100によるリンス処理を施さなかった以外は、実施例4と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0117】
比較例4
70〜80℃の熱風で乾燥せずに自然乾燥した以外は比較例1と同様にしてポリエチレンの微多孔膜を作製した。
【0118】
比較例5
実施例6において、50℃に温調されたエステル(1)の第1洗浄槽において100rpmで揺動させながら3分間含浸洗浄し、フタル酸ジオクチル及び流動パラフィンを抽出した後、実施例6記載のリンス処理を行わない以外は実施例6と同様にしてポリエチレンの膜を作製した。
【0119】
実施例1〜11及び比較例1〜5で得られた熱可塑性樹脂微多孔膜の物性を以下の方法で測定した。
・膜厚:走査型電子顕微鏡により測定した。
・透気度:JIS P8117に準拠して測定した。
・空孔率:重量法により測定した。
・残留物:微多孔膜から95mm×95mmの大きさのサンプルを打ち抜き、重量を測定した。この時の重量をaとする。その後、前記サンプルを塩化メチレン300mlで10分間超音波抽出し、抽出後のサンプルを105℃で5分間乾燥後、再度重量を測定した。この時の重量をbとする。残留物の割合X(wt%)はX=(a-b)/a×100により算出した。残留物の成分は、流動パラフィンが主であり、その他少量の酸化防止剤、フタル酸ジオクチル、微粉ケイ酸、溶剤(B)及び/又は(C)等も含む。
【0120】
【0121】
表1に示すように、本発明の方法により製造した実施例1〜11の熱可塑性樹脂微多孔膜は、流動パラフィンが十分に除去されており、優れた透過性を有していることが分かる。一方、比較例1〜5の微多孔膜は、一段処理のみで作製されているために、実施例1〜11と比較して流動パラフィンの除去が少なく、物性が劣っている。
【0122】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の溶剤法による熱可塑性樹脂微多孔膜の製造において、熱可塑性樹脂と溶剤との溶融混練後の溶剤除去工程で、熱可塑性樹脂に添加した溶剤とは異なる溶剤を用いて二段階以上の工程で処理することにより、環境への負荷を低減しつつ、効率良く熱可塑性樹脂微多孔膜を製造することができる。また、該非水系溶剤は高沸点であるため凝縮しやすく、回収が容易となり、リサイクル利用し易い。さらに、少なくとも最終段階で使用する低沸点溶剤は、オゾン破壊性がないため、環境問題上有用である。得られた熱可塑性樹脂微多孔膜は優れた物性を有しており、電池セパレーター、フィルター等に有用である。
Claims (2)
- 熱可塑性樹脂と流動パラフィンとを溶融混練して得られた溶液を押し出し、冷却して得られたゲル状成形物から残存する前記流動パラフィンを二段階の洗浄工程で除去することにより熱可塑性樹脂微多孔膜を製造する方法において、第一段階の洗浄溶剤(B)/第二段階の洗浄溶剤(C)の組合せが、(i)酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル/ハイドロフルオロエーテル、(ii)酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル/イソプロピルアルコール、(iii)酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル/イソプロピルアルコール水溶液、(iv)イソパラフイン系炭化水素/ハイドロフルオロエーテル、(v)イソパラフィン系炭化水素と環状ハイドロフルオロカーボンとの混合物/環状ハイドロフルオロカーボン、及び(vi)ジプロピレングリコールジメチルエーテルとハイドロフルオロエーテルとの混合物/ハイドロフルオロエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一組であることを特徴とする熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法。
- 請求項1に記載の熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法において、さらにゲル状成形物を延伸する工程を有し、前記流動パラフィンの除去を、前記延伸工程の前及び/又は後に行うことを特徴とする熱可塑性樹脂微多孔膜の製造方法。
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