JP4794591B2 - ホエー発酵飲料及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、チーズ製造で発生するホエー、またはこれを濃縮・乾燥したものを再溶解した調乳液を発酵させ、ペクチンなどのハイドロコロイドを安定剤として使用しない場合でも、沈殿防止に優れ、風味、食感に優れた低粘度のホエー発酵飲料及びその製造方法に関する。
尚、本発明において百分率は、特にことわりのない限り質量による値である。
また、本発明において、ホエー発酵飲料とは、ホエー、ホエーパウダー、ホエー蛋白濃縮物を原料として発酵させた乳等省令に定める乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料のことを差す。
本発明において、低粘度というときは官能評価よりすっきりした食感と評価されるB型粘度計で測定される粘度が50mPa・s以下のもの差す。
乳酸菌の健康増進効果は世界中でその研究が進むとともに急速に発酵乳の市場を拡大してきた。発酵乳の種類も多様化しており、特にわが国においては液状の発酵飲料、特に乳酸菌飲料市場の発展が目覚しい。乳酸菌飲料の乳原料としては生乳や生乳から加工された脱脂乳、脱脂粉乳などが一般的であるが、長期保存中に沈殿が生じやすく、これを防止するためハイドロコロイドを安定剤として使用している。例えば、安定剤としてペクチンを使用した乳酸菌飲料の製造法が知られている(特許文献1参照)。
また、近年、チーズの消費の増大に伴いチーズ製造により副生するホエーの利用が資源有効利用の面からも求められている一方、ホエー蛋白質に関する最近の研究の進展により、その栄養学的な機能面からも、乳原料としての利用が望まれる。
このため、近年、ホエーを発酵させた乳酸菌飲料の製造が検討されている。しかしながら、このホエー発酵飲料についても、前記通常の乳酸菌飲料と同様に長期保存中に沈殿が生じやすいとの問題がある。このため、例えば、前記乳酸菌飲料と同様に安定剤の使用に加えて、甘性ホエイ等を安定剤と共に発酵後に添加することで沈殿を防止するホエイ発酵飲料の製造方法が知られている(特許文献2参照)。
なお、ラクトフェリンは、乳等の外分泌中に存在する塩基性の鉄結合蛋白質であり、抗ウイルス作用、抗菌作用、免疫調整作用等種々の生理機能が報告されているが、pH5以下の酸性の乳酸菌飲料での沈殿防止剤としての作用は未だに報告されていない。
特許第3025972号公報 特開昭61−170341号公報
しかしながら、各従来技術には、次のような問題点があり、解決すべき課題となっていた。
即ち、安定剤としてハイドロコロイドであるペクチンなどを使用した発酵飲料はその高分子構造よる独特の糊感により、食感上好ましくないという問題点があった。
また、50mPa・sを超える粘度のホエー発酵飲料は高粘度から喉越しが悪いという問題点もあった。
本発明は、このような問題点に鑑みて、ホエー発酵飲料の沈殿を防止して安定化する方法を研究した結果、驚くべきことに、ラクトフェリンにその安定化効果があることを見出した。当該ラクトフェリンは牛乳中に100g当たり約10〜20mg含まれるラクトフェリンを分離精製したものである。
即ち、本発明は、ラクトフェリンをホエー発酵飲料に混合すること、好ましくはホエー発酵飲料100gあたり100mg(即ちホエー発酵飲料に対して0.1%)以上となるように添加混合することで、製品の粘度を上昇させることなく低粘度で、長期保存中の安定化(沈殿防止)が図れ、糊感のない食感に優れたホエー発酵飲料を製造することができる知見を得て、なされたものである。
本発明の目的は、従来の安定剤であるペクチンなどハイドロコロイドを使用せず、安定性(沈殿防止)・食感に優れた低粘度のホエー発酵飲料及びその製造方法を提供することである。
前記課題を解決するための本発明における第一の発明は、沈殿防止剤として0.1〜0.3質量%のラクトフェリンを含有することを特徴とするホエー発酵飲料、である。
前記課題を解決するための本発明における第二の発明は、ホエー蛋白質を含有する原料を乳酸菌で発酵した後、沈殿防止剤としてラクトフェリンを添加することを特徴とするホエー発酵飲料の製造方法、である。この発明は、ラクトフェリンの添加量がホエー発酵飲料に対して0.1〜0.3質量%であること、を望ましい態様としている。
本発明によれば、従来の安定剤であるペクチンなどハイドロコロイドを使用せず、安定性(沈殿防止)・食感に優れた低粘度のホエー発酵飲料及びその製造方法を提供することができる。
本発明の第一の発明は、沈殿防止剤としてラクトフェリンを含有することを特徴とするホエー発酵飲料であり、第二の発明は、ホエー蛋白質を含有する原料を乳酸菌で発酵した後、沈殿防止剤としてラクトフェリンを添加することを特徴とするホエー発酵飲料の製造方法である。
本発明で使用されるホエー蛋白質を含有する原料としては、カゼインを含まず、ホエー蛋白質を含有する原料であればいずれであってもよく、例えば、ホエーパウダー、ホエー蛋白濃縮物、チーズホエーまたは酸ホエーの膜濃縮液、を単独または、複数組み合わせて使用することができる。
ホエー蛋白質を含有する原料に乳糖を含む場合にはそのまま乳酸菌で発酵することもできるが、炭水化物源としてブドウ糖などの糖類を添加することで一層発酵を進めることができる。
発酵に使用する乳酸菌は、特殊なものである必要はなく、通常発酵乳の製造に汎用される市販のラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)(森永乳業社製)及び市販のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(森永乳業社製)からなる混合スターター、ヨーグルトスターター(ハンセン社製)等を使用することができる。
発酵は、重炭酸ナトリウム等のpH調整剤でホエー蛋白質を含有する原料液のpHを使用する乳酸菌の生育至適pH付近(例えば6.7)に調整後、生育至適温度付近(例えば37℃)で適時(例えば18時間)発酵することで行うことができる。
前記発酵により得られた、いわゆる発酵乳に、甘味を付与する場合には、果糖・ブドウ糖液糖等の甘味料からなるシロップを殺菌したうえで添加混合し、ホモジナイザー等を用いて均質化することで甘味が付与された液状発酵乳を得ることができる。
その後、別途殺菌したラクトフェリンを沈殿防止剤として前記液状発酵乳に混合することで、ホエー発酵飲料を得ることができる。
この際、後記試験例の結果からも明確なとおり、沈殿防止剤としてラクトフェリンをホエー発酵飲料100gあたり100mg(即ちホエー発酵飲料に対して0.1%)以上となるように添加混合することで、製品の粘度を上昇させることなく低粘度で、長期保存中の安定化(沈殿防止)が図れ、糊感のない食感に優れたホエー発酵飲料を製造することができる。より好ましくは、ラクトフェリンをホエー発酵飲料に対して0.2〜0.3%となるように添加混合することで、一層低粘度で食感に優れたホエー発酵飲料を製造することができる。
本発明で使用されるラクトフェリンは、ウシ等の哺乳動物の乳から分離精製したラクトフェリンを使用することができ、簡便には市販のラクトフェリン(森永乳業社製等)が使用できる。
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
<試験例1>
1.試験方法
(1)食感の試験方法
5人の専門パネラーにより、次の評価方法により官能的に試験した。
各試料を
0点:食感優れる
1点:食感やや優れる
2点:食感やや劣る
3点:食感劣る
の4段階に評価し、各試料の平均値を算出し、
◎:0.5点未満
○:0.5点以上1.5点未満
△:1.5点以上2.5点未満
×:2.5点以上
の基準により判定した。
(2)粘度の試験方法
飲料の粘度測定は、B型粘度計(東機産業社製)を用い、10℃に調整した試料をNo.1ローター、60回転で評価した。
(3)外観の試験方法
以下の4基準で評価した
◎:外観上5%以下の分離しかみられない
○:外観上5%〜10%の分離がみられる
△:外観上10%〜15%の分離がみられる
×:外観上15%以上の分離がみられる
(4)粒度分布の試験方法
レーザー式粒度分布計(HORIBA社製)を用い、粒度分布を測定し、算出されたメジアン径で評価した。
(5)安定性の評価方法
(a)上清分離量の測定方法
試料をよく反転混合した後、内計21mmの遠心管に50ml入れ、遠心機(日立工機社製)を用い、2000rpm、20分遠心した後、上部の透明層の高さ(単位mm)を計測し、これを上清分離量とする。
(解説)蛋白粒子が十分小さいと遠心しても沈降しないため、上部の透明層の容積は、安定した十分小さい蛋白粒子の割合が多い程小さい値となる。尚、遠心管の上部は円筒状のため、透明層(上清分離)の高さが容積(上清分離量)に比例する。
(b)沈殿量の測定方法
前記上清分離量の測定で得られた遠心完了後の遠心管中の上清を静かに捨て、反転して20分静置した後、重量を測って沈殿量を求める(単位g)。
(解説)沈殿量は蛋白が安定しておらず保存中に凝集することにより発生するため、大きい程、安定性が悪いことを示す。
2.試験試料の調製
(1)発酵乳の調製
ホエーパウダー(森永乳業社製)3重量部、砂糖(北海道精糖社製)0.6重量部を水に溶解し、重炭酸ナトリウム(三栄源エフ・エフ・アイ社製)でpHを6.7〜6.8に調整後、全体を29.85重量部に調合する。この溶液を90℃で10分間保持して殺菌後37℃に冷却し、市販のラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)(森永乳業社製)及び市販のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(森永乳業社製)からなる混合スターターを0.15重量部添加して均一に混合した。これを37℃でpH4.1まで発酵させた後、10℃まで速やかに冷却し、発酵乳30重量部を得た。
(2)甘味付与シロップ液の調製
果糖・ブドウ糖液糖(日本食品化工製)10重量部を水40重量部に溶解し、合計50重量部に調合したシロップ液を90℃で10分間過熱殺菌し、10℃以下まで冷却した。
(3)安定剤溶液の調製
表1に示す配合に従い、ペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、ラクトフェリン(森永乳業社製)を水に溶解し合計20重量部に調合した後、ペクチンは10℃10分で、ラクトフェリン溶液は75℃15秒で殺菌し10℃以下に冷却し、各安定剤溶液とした。
Figure 0004794591
表1中の重量部は最終的に調整されたホエー発酵飲料中の質量%に相当する。
(4)乳酸菌飲料の調製
前記のとおり調製された発酵乳30重量部に前記のとおり調製されたシロップ液50重量部を加え、よく混合した後、ホモジナイザーを用いて15MPaで均質化する。均質化後直ちに各安定剤溶液を20重量%加え、十分に混合し、試験試料とした。
3.試験試料の比較試験実施方法
前記のとおり製造したホエー発酵飲料の各試験試料は製造直後、前記試験方法により、粘度、メジアン径、食感をそれぞれ評価した。
また、各試験試料について、長期保存試験として、15日間10℃で保存した後、前記試験方法により、外観、安定性(上清分離量、沈殿量)、食感について各評価を行った。
4.試験結果
表2に示す通り、試料1、試料3〜6はいずれも低粘度で食感が良好であったが、試料2はメジアン径が大きいことからも裏付けられるように食感が劣った結果であった。
Figure 0004794591
また、保存中の安定性は表3に示す通り、試料4〜6(特に試料5〜6)は安定剤不使用の試料1に比べ外観上安定性に優れ、また遠心による粒子の凝集を比較した場合、小さい粒子の割合が多く、大きな粒子の割合(沈殿量)が少なかった。
Figure 0004794591
以上より、沈殿防止剤としてラクトフェリンをホエー発酵飲料100gあたり100mg(即ちホエー発酵飲料に対して0.1%)以上となるように添加混合することで、製品の粘度を上昇させることなく低粘度で、長期保存中の安定化(沈殿防止)が図れ、糊感のない食感に優れたホエー発酵飲料を製造することができることが判った。
更に、より好ましくは、ラクトフェリンをホエー発酵飲料に対して0.2〜0.3%となるように添加混合することで、一層低粘度で食感に優れたホエー発酵飲料を製造することができることが判った。
なお、試料2のペクチン濃度0.2%は、特許文献2のペクチン濃度0.35%より低い濃度で試験しているにも拘わらず、メジアン径が大きく、かつ糊感があって食感が劣ったことから、特許文献2の方法に問題点があることが裏付けられた。
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(1)発酵乳の調製
ホエーパウダー(森永乳業社製)3kg、砂糖(北海道精糖社製)0.6kgを水に溶解し、重炭酸ナトリウム(三栄源エフ・エフ・アイ社製)でpHを6.7に調整後、全体を29.85kgに調合する。この溶液を90℃で10分間保持して殺菌後37℃に冷却し、市販のラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)(森永乳業社製)及び市販のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(森永乳業社製)からなる混合スターターを0.15kg添加して均一に混合した。これを37℃で18時間、pH4.1まで発酵させた後、10℃まで速やかに冷却し、発酵乳30kgを得た。
(2)甘味付与用シロップ液の調製
果糖・ブドウ糖液糖(日本食品化工製)10kgを、水40kgに溶解し、合計50kgに調合したシロップ液を90℃で10分間過熱殺菌し、10℃以下まで冷却し、シロップ液50kgを得た。
(3)ラクトフェリン溶液の調製
ラクトフェリン(森永乳業社製)0.3kgを水19.7kgに溶解し、合計20kgに調合した後、75℃15秒で過熱殺菌し10℃以下に冷却し、沈殿防止剤としてラクトフェリン溶液16kgを得た。
(4)乳酸菌飲料の調製
前記発酵乳30kgに前記シロップ液50kgを加えよく混合し、ホモジナイザーを用いて15MPaで均質化して得られた液状発酵乳64kgに、直ちに前記ラクトフェリン溶液を16kg加え、十分に混合しホエー発酵飲料80kgを得た(ラクトフェリンは製品中0.3質量%)。
(5)得られたホエー発酵飲料は、低粘度(4.4mPa・s)で食感が良好(メジアン径:1.01μm)で、10℃15日間という長期保存後の安定性も良好な、安定性・食感に優れた低粘度のホエー発酵飲料であった。
<実施例2>
(1)発酵乳の調製
ホエーパウダー(森永乳業社製)3.3kgを水26.55kgに溶解し、重炭酸ナトリウム(三栄源エフ・エフ・アイ社製)でpHを6.7に調整後、全体を29.85kgに調合する。この溶液を90℃で10分間保持して殺菌後37℃に冷却し、市販のラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)(森永乳業社製)及び市販のストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(森永乳業社製)からなる混合スターターを0.15kg添加して均一に混合した。これを37℃で20時間、pH4.1まで発酵させた後、10℃まで速やかに冷却し、発酵乳30kgを得た。
(2)甘味付与用シロップ液の調製
果糖・ブドウ糖液糖(日本食品化工製)10kgを、水46kgに溶解し、合計56kgに調合したシロップ液を90℃で10分間過熱殺菌し、10℃以下まで冷却し、シロップ液66kgを得た。
(3)ラクトフェリン溶液の調製
ラクトフェリン(森永乳業社製)0.4kgを水7.6kgに溶解し、合計8kgに調合した後、75℃15秒で過熱殺菌し10℃以下に冷却し、沈殿防止剤としてラクトフェリン溶液3.4kgを得た。
(4)乳酸菌飲料の調製
前記発酵乳30kgに前記シロップ液66kgを加えよく混合し、ホモジナイザーを用いて15MPaで均質化して得られた液状発酵乳81.6kgに、直ちに前記ラクトフェリン溶液3.4kgを加え、十分に混合しホエー発酵飲料85kgを得た(ラクトフェリンは製品中0.2質量%)。
(5)得られたホエー発酵飲料は、低粘度(4.7mPa・s)で食感が良好(メジアン径:1.00μm)で、10℃15日間という長期保存後の安定性も良好な、安定性・食感に優れた低粘度のホエー発酵飲料であった。
本発明のホエー発酵飲料及びその製造方法は、製品の粘度を上昇させることなく低粘度で、長期保存中の安定化(沈殿防止)が図れ、糊感のない食感に優れたホエー発酵飲料を製造することができることから好適である。

Claims (3)

  1. 沈殿防止剤として0.1〜0.3質量%のラクトフェリンを含有することを特徴とするホエー発酵飲料。
  2. ホエー蛋白質を含有する原料を乳酸菌で発酵した後、沈殿防止剤としてラクトフェリンを添加することを特徴とするホエー発酵飲料の製造方法。
  3. ラクトフェリンの添加量がホエー発酵飲料に対して0.1〜0.3質量%である請求項2に記載のホエー発酵飲料の製造方法。
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