JP4792640B2 - ブロックポリマー、重合体の製造方法及びブロックポリマーを含む液状組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブロックポリマー、その製造方法及びブロックポリマーを含む液状組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
水素・酸素燃料電池は、その反応生成物が原理的に水のみであり地球環境への悪影響がほとんどない発電システムとして注目されている。固体高分子型燃料電池は、かつてジェミニ計画及びバイオサテライト計画で宇宙船に搭載されたが、当時の電池出力密度は低かった。その後、より高性能のアルカリ型燃料電池が開発され、現在のスペースシャトルに至るまで宇宙用にはアルカリ型燃料電池が採用されている。
【0003】
ところが、近年技術の進歩により固体高分子型燃料電池が再び注目されている。その理由として次の2点が挙げられる。(1)固体高分子電解質として高導電性の膜が開発された。(2)ガス拡散電極層に用いられる触媒をカーボンに担持し、さらにこれをイオン交換樹脂で被覆することにより、きわめて大きな活性が得られるようになった。
そして、固体高分子型燃料電池の電極・固体高分子電解質膜接合体(以下、単に接合体という)の製造方法に関して多くの検討がなされている。
【0004】
現在検討されている固体高分子型燃料電池は、作動温度が50〜120℃と低いため、排熱が燃料電池の補機動力等に有効利用しがたい欠点がある。これを補う意味でも固体高分子型燃料電池は、特に高い出力密度が要求されている。また実用化への課題として、燃料及び空気利用率の高い運転条件下でも高エネルギ効率、高出力密度が得られる接合体の開発が要求されている。
【0005】
低作動温度かつ高ガス利用率の運転条件では、特に電池反応により水が生成する酸化剤極において、水蒸気の凝縮による電極多孔体の閉塞(フラッディング)が起こりやすい。したがって長期にわたり安定な特性を得るためには、フラッディングが起こらないように電極の撥水性を確保する必要がある。低温で高出力密度が得られる固体高分子型燃料電池では特に重要である。
【0006】
電極の撥水性を確保するには、電極中で触媒を被覆するイオン交換樹脂のイオン交換容量を小さくする、すなわちイオン交換基の含有率が低いイオン交換樹脂の使用が有効である。しかし、この場合にはイオン交換樹脂は含水率が低いため導電性が低くなり、電池性能が低下する。さらに、イオン交換樹脂のガス透過性が低下するため、被覆したイオン交換樹脂を通して触媒表面に供給されるガスの供給が遅くなる。そのため、反応サイトにおけるガス濃度が低下して電圧損失が大きくなる、すなわち濃度過電圧が高くなって出力が低下する。
【0007】
このため、触媒を被覆するイオン交換樹脂にはイオン交換容量の高い樹脂を用い、これに加えて、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)/ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPという。)共重合体、TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等のフッ素樹脂等を撥水化剤として電極、特に空気極中に含有させ、フラッディングを抑制する試みがなされている(特開平5−36418)。なお、本明細書でA/B共重合体とは、Aに基づく繰り返し単位とBに基づく繰り返し単位とからなる共重合体を示す。
【0008】
しかし、充分に撥水化するために電極中の上記撥水化剤の量を多くすると、上記撥水化剤は絶縁体のため電極の電気抵抗が増大する。また、電極の厚さが厚くなるためガス透過性が低下し、逆に出力が低下する問題がある。電極の導電性の低下を補うためには、例えば触媒の担体であるカーボン材料の導電性や触媒を被覆するイオン交換樹脂のイオン導電性を高めることが必要である。しかし、充分な導電性と充分な撥水性を同時に満足する電極を得るのは困難であり、高出力かつ長期的に安定な固体高分子型燃料電池を得ることは容易ではなかった。
【0009】
また、フッ化ピッチを混合する方法(特開平7−211324)、触媒担体をフッ素化処理する方法(特開平7−192738)も提案されているが、触媒表面をイオン交換樹脂により均一に被覆できない問題がある。また、電極の厚さ方向に対して撥水性に勾配を持たせる方法(特開平5−251086、特開平7−134993)も提案されているが、製造方法が煩雑である。
【0010】
本発明者らは、上記問題点を解決するために、スルホン酸基含有セグメントと実質的にイオン交換基を有しない含フッ素セグメントとからなるイオン交換樹脂を電極に用いることを検討した。このようなポリマーの一つとしてブロックポリマーが挙げられ、その製造方法としては、ヨウ素移動重合を用いる方法が特公昭58−4728に記載されている。すなわち、ヨウ素原子を有するヨード化合物の存在下でラジカル重合性の不飽和結合を有する2種以上のモノマーをラジカル重合する方法であって、前記ヨード化合物の炭素−ヨウ素結合間に2種以上のポリマー鎖セグメントを形成させるように、前記の各ポリマー鎖セグメントを構成するためのモノマーを逐次重合させて多元セグメント化ポリマーを得る方法が記載されている。
【0011】
そして、セグメントを構成するためのモノマーとして、TFE及びCF2=CFY’(Y’は、−(OCF2)α−(OCF2CF2)β−(OCF2CF(CF3)γ−Zで表され、ZはSO2F又はSO3M’であり、M’は水素原子、ナトリウム原子又はカリウム原子であり、α、β及びγはそれぞれ0〜3の整数であるが、α+β+γ>0である。)で表されるモノマーが記載され、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fも例示されている。また、WO98/43952には、I(CF2)4Iの存在下でCF2=CF2/CF2=CFOCF2CF2SO3Na共重合体セグメント(モル比で59/41)を重合し、次いでCF2=CF2/CF2=CFOC3F7セグメントを重合することにより、示差走査熱量計(DSC)で275℃に吸熱ピーク(結晶の融点)を有するABA型のブロックポリマーが得られることが記載されている。
【0012】
これらのポリマーは、電気抵抗や耐水性等の点で優れていると記載されているが、具体的に合成されているブロックポリマーは結晶性を有するものであり、重合が制御しにくく、溶媒に溶解又は分散しにくい。そのため、燃料電池の電極用材料として適用しようとすると、電極を成形しにくい等の問題がある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
燃料電池の出力を高めるには、電極中のイオン交換樹脂が高ガス透過性かつ高導電性であることが必要であり、イオン交換基濃度が高く含水率の大きいイオン交換樹脂が好ましい。しかし、イオン交換基濃度の高いイオン交換樹脂を用いた場合、燃料ガスの透過性及び導電性が高く燃料電池の初期の出力は高くなるが、フラッディングが起こりやすく、長期間使用すると出力の低下が起こりやすい。
そこで本発明は、燃料電池の電極材料として好適に使用できる、含水率が高くかつ撥水性を有するブロックポリマー、その製造方法及び当該ブロックポリマーを含む液状組成物を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記セグメントAと下記セグメントBとからなり、かつ下記の方法で算出した分子量が5×103〜5×106であることを特徴とするブロックポリマーを提供する。
【0015】
セグメントA:−SO2X基(ただし、Xはフッ素原子又はOMであり、Mは水素原子又はアルカリ金属原子である。)を有するペルフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位とTFEに基づく繰り返し単位とを含む共重合体であって、前記ペルフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位が20モル%以上含まれる共重合体からなるセグメント。
セグメントB:イオン交換基を有さず、主鎖に脂肪族環構造を有する非晶質のペルフルオロポリマーからなるセグメント。
先にセグメントAを合成する場合の分子量:最初に合成したセグメントAについて、滴定によりイオン交換容量を求め、サイズ排除クロマトグラフィーによりポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量を求める。次にセグメントBをブロック化共重合して得られたブロックポリマー全体のイオン交換容量を滴定により求める。セグメントAのイオン交換容量の値とブロックポリマー全体のイオン交換容量の値から、セグメントAとセグメントBの質量比を求めセグメントBの分子量を算出し、さらに前述のセグメントAの分子量を用いてブロックポリマー全体の分子量を算出する。
先にセグメントBを合成する場合の分子量:セグメントBにセグメントAをブロック化共重合して得られたブロックポリマー全体のイオン交換容量と、 19 F−NMRで求めたセグメントAのイオン交換容量から、セグメントAとセグメントBの質量比を求める。上述と同様にしてサイズ排除クロマトグラフィーにより求めたセグメントBの分子量を用いてセグメントAの分子量及びブロックポリマー全体の分子量を算出する。
【0016】
また、本発明は、上記セグメントAと上記セグメントBとからなるブロックポリマーを、アルコール性水酸基を有する有機溶媒に溶解又は分散させた液状組成物を提供する。
【0017】
さらに本発明は、第1のラジカル開始剤とヨウ素含有含フッ素化合物との存在下で、非水系媒体中又は溶媒の存在しない条件下で、1種又は2種以上の含フッ素モノマーからなる第1のモノマー群を重合し、非晶質の重合体を合成した後、前記重合体と第2のラジカル開始剤との存在下で、1種又は2種以上のモノマーからなり前記第1のモノマー群と異なる第2のモノマー群を非水系媒体中又は溶媒の存在しない条件下で重合する重合体の製造方法であって、前記第1のモノマー群と前記第2のモノマー群とは、いずれか一方が下記モノマー群aであり他方が下記モノマー群b又は下記モノマー群b’であることを特徴とする重合体の製造方法を提供する。
モノマー群a:−SO 2 X’基を有するペルフルオロビニルエーテル(ただし、X’はフッ素原子又は塩素原子である。)とテトラフルオロエチレン。
モノマー群b:イオン交換基を有さず脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマー、又はイオン交換基を有さず脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーと他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマー。
モノマー群b’:イオン交換基を有さず2つの二重結合を有して環化重合しうるペルフルオロモノマー、又はイオン交換基を有さず2つの二重結合を有して環化重合しうるペルフルオロモノマーと他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマー。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のブロックポリマーは、フルオロスルホニル基(−SO2F基)を有するポリマーからなる非晶質のセグメント(以下、セグメントA’という。)と非晶質のセグメントB(又はC)とからなるブロックポリマー、当該ブロックポリマーを加水分解したもの、又は加水分解した後に酸型化したものであることが好ましい。ここでセグメントA’、セグメントB(又はC)がともに非晶質であると、ヨウ素移動重合による多元セグメント化が容易である。結晶性を有すると、生長ラジカルの反応性が低下したり、溶液からのポリマー析出等の理由によりヨウ素移動重合が進行しにくくなる。特に最初に重合するセグメントが結晶性を有すると次に重合するセグメントの導入が困難となりやすい。
【0019】
また、例えば、触媒とイオン交換樹脂とからなる固体高分子型燃料電池の電極は、通常、イオン交換樹脂を溶媒に溶解又は分散させた液に触媒を分散させて塗工液とし、該塗工液を用いて塗工することにより形成する。本発明のブロックポリマーであってスルホン酸基を有するブロックポリマーを上記イオン交換樹脂として使用する場合、セグメントA’又はセグメントB(又はC)が結晶性を有していると溶媒への溶解性又は分散性が低下する。そのため、イオン交換樹脂が均一性よく分布した電極が得にくく、電極の反応性が低くなるおそれがある。
なお、本明細書において非晶質のポリマーとは、結晶融点Tmを有しないか、又はTmが重合温度より低いポリマーをいう。
【0020】
セグメントA’が実質的に非晶質であるためには、−SO2F基を有するペルフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位がセグメントA’を構成する共重合体中に20モル%以上含まれることが必要であり、25モル%以上含まれていると特に好ましい。また、−SO2F基を有しないペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく繰り返し単位が含まれる場合は、−SO2F基を有するペルフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位と−SO2F基を有しないペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく繰り返し単位との合量が20モル%以上、特に25モル%以上であることが好ましい。
【0021】
本発明のブロックポリマーは、セグメントAとセグメントBとからなるか又はセグメントAとセグメントCとからなる。セグメントA、セグメントB及びセグメントCは、いずれも水素原子が全てフッ素原子に置換された(ただし、−SO2X基を除く。)モノマー(本明細書ではペルフルオロモノマーという。)からなっているため、例えば固体高分子型燃料電池の材料として使用する場合は実用耐久性の観点から好ましい。
【0022】
セグメントAは、イオン交換容量が0.5ミリ当量/g乾燥樹脂以上であることが好ましい。例えば燃料電池の電極に使用する場合、電極中のイオン交換樹脂は高ガス透過性かつ高導電性であることが好ましく、そのためにはイオン交換基濃度が高くて含水率が高いことが好ましいからである。セグメントAは−SO2X基を有するペルフルオロビニルエーテル/TFE共重合体からなるので、イオン交換容量の上限は、−SO2X基を有するペルフルオロビニルエーテルの単独重合体のイオン交換容量で決まり、該モノマーの分子量に依存し、1.5〜4ミリ当量/g乾燥樹脂程度である。
【0023】
上記−SO2X基を有するペルフルオロビニルエーテルとしては、具体的に重合に用いるモノマーとして、CF2=CF−(OCF2CFY)m−Op−(CF2)n−SO2Fで表されるペルフルオロビニルエーテル化合物(式中、Yはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0又は1である。)を用いることが好ましい。上記ペルフルオロビニルエーテル化合物のなかでも、式1〜3のいずれかで表される化合物が好ましい。ただし、下記式中、qは1〜8の整数であり、rは1〜8の整数であり、sは2又は3である。
【0024】
【化1】
【0025】
−SO2F基を有するペルフルオロビニルエーテルは、単独重合も可能であるが、ラジカル重合反応性が小さいため、通常はオレフィン類等のコモノマーと共重合して用いられる。本発明では該コモノマーとしてTFEを使用するが、TFEに加え、さらに下記のモノマー等が共重合されているものも使用できる。ここで下記のモノマー等は、得られるセグメントが広角X線散乱等の測定において実質的に結晶を有しない範囲の量なら添加でき、添加する場合は、得られるセグメントの結晶化度が10%以下、特に5%以下、さらには2%以下となるように添加することが好ましい。その量の好ましい範囲は添加するモノマーによって異なるが、通常TFEに対して20モル%以下である。また、添加するモノマーとしては、ペルフルオロモノマー以外も使用できるが、耐久性の点ではペルフルオロモノマーの使用が好ましい。
【0026】
クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)(以下、BVEという。)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)(以下、PDDという。)、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、ペルフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン)、ペルフルオロ(4−メトキシ−1,3−ジオキソール)、プロピレン、HFP等のペルフルオロ(α−オレフィン)類、(ペルフルオロブチル)エチレン等の(ペルフルオロアルキル)エチレン類、3−ペルフルオロクチル−1−プロペン等の(ペルフルオロアルキル)プロペン類、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(ただし、アルキル基は分枝構造を有してもよく、またエーテル結合性の酸素原子を含有していてもよい。以下、同様の意味で「アルキル基」と記載する。)類等。
【0027】
上記ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)類としては、CF2=CF−(OCF2CFZ)t−O−Rfで表されるペルフルオロビニルエーテル化合物が好ましい。ただし、式中、tは0〜3の整数であり、Zはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rfは直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜12のペルフルオロアルキル基(以下、本明細書において、Rfは同じ意味で用いる。)である。
【0028】
CF2=CF−(OCF2CFZ)t−O−Rfで表されるペルフルオロビニルエーテル化合物としては、式4〜6のいずれかで表される化合物が好ましく挙げられる。ただし、式4〜6中、vは1〜8の整数であり、wは1〜8の整数であり、xは2又は3である。
【0029】
【化2】
【0030】
セグメントAにおける−SO2F基は、重合後加水分解等の処理によりSO3M基に置換できる。ここでMは水素原子又はアルカリ金属原子である。
【0031】
セグメントBを構成するポリマーは、原料を環化重合することにより得られるポリマー又は環状モノマーを重合して得られるポリマー等の、イオン交換基を有さず主鎖に脂肪族環構造を有する非晶質のペルフルオロポリマーであり、セグメントBを有すると、溶媒への溶解性が良好となる。ここで、「主鎖に脂肪族環構造を有する」とは、繰り返し単位中の脂肪族環構造の炭素原子の少なくとも1つがポリマーの主鎖に共有されていることをいう。また、本明細書において「イオン交換基を有しないポリマー(モノマー)」は、加水分解等をすることによりイオン交換基に変換される「イオン交換基の前駆体」も有していないものとする。セグメントBを構成するポリマーの具体的な好ましい例としては、下記のポリマーが挙げられる。
【0032】
BVE単独重合体(以下、PBVEという。)、ポリ(ペルフルオロ(アリルビニルエーテル))、ポリ(ペルフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン))等の、原料となるモノマーを環化重合することにより得られるポリマー、及び上記環化重合しうるモノマーと他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマーとの共重合により得られるポリマー。
【0033】
PDD単独重合体(以下、PPDDという。)、ポリ(ペルフルオロ(1,3−ジオキソール))、TFE/PDD共重合体、ポリ(ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン))、ポリ(2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール)等の、環状モノマーを重合することにより得られるポリマー、及び上記環状モノマーと他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマーとの共重合により得られるポリマー。
【0034】
ここで、上記環状モノマーと上記環化重合するモノマーは、いずれも非晶質のセグメントを与えるので、任意の比率で共重合させてもよい。
他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマーとしては、TFE、HFP等のペルフルオロ(α−オレフィン)類、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)類等が挙げられる。上記ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)類としては、セグメントAに含ませることができるペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)類と同様に、CF2=CF−(OCF2CFZ)t−O−Rfで表されるペルフルオロビニルエーテル化合物が好ましく、なかでも式4〜6のいずれかで表される化合物が好ましい。
【0035】
これらのモノマーは、セグメントBに結晶性を付与しない範囲の量であれば共重合させられる。具体的にはTFEの場合は、セグメントB中に50質量%以下であることが好ましい。他のペルフルオロ(α−オレフィン)類、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)類は結晶性を与えないが重合反応性が低いので、セグメントBの分子量をある程度大きくするためにはセグメントB中に50質量%以下であることが好ましい。
【0036】
また、本発明におけるセグメントCは、TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体である。ここで、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、CF2=CF−(OCF2CFY)t−O−Rfで表される化合物が好ましい。ただし、式中、Yはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、tは0〜3の整数である。CF2=CF−(OCF2CFY)t−O−Rfで表されるペルフルオロビニルエーテル化合物の好ましい例としては、上述の式4〜6のいずれかで表される化合物が挙げられる。
【0037】
TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体は、結晶性のものと非晶質のものがあるが、非晶質のものを得るためには、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく繰り返し単位が該共重合体中に20モル%以上含まれることが必要であり、特に25モル%以上含まれていることが好ましい。セグメントCを有するブロックポリマーは、セグメントCが非晶質であるため溶媒への溶解性が良好であり、また当該ブロックポリマーをカソード樹脂として有する燃料電池のカソードは、ガス透過性に優れる。ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)は重合反応性が低いので、セグメントCの分子量をある程度大きくするためには50モル%以下であることが好ましい。
【0038】
本発明のブロックポリマーは、少なくとも1つのセグメントAと少なくとも1つのセグメントB(又はC)を含んでいればよく、AB型、ABA型、ABAB型・・・いずれであってもよい。また、本発明のブロックポリマーの分子量は5×103〜5×106であるが、特に1×104〜3×106であることが好ましい。ブロックポリマーにおいて、セグメントAとセグメントB又はセグメントCとの割合は、質量比で95/5〜5/95、特に80/20〜40/60であることが好ましい。また、セグメントA、セグメントB、セグメントCそれぞれの分子量は、いずれも1×103〜5×106、特に2×103〜2×106が好ましい。なお、ここで例えばABA型のブロックポリマーの場合、セグメントAの分子量はセグメントA全体の分子量であり、ブロックポリマー全体の分子量からセグメントBの分子量を差し引いた分子量である。
【0039】
上記のような組成、分子量に制御された場合に、セグメントAとセグメントB又はセグメントCとの相分離が起こりやすく、良好なガス透過性、プロトン伝導性及び撥水性を確保できる。また、本発明のブロックポリマーを溶媒に溶解又は分散させる場合、分子量が大きすぎると、溶媒への溶解又は分散が困難になりやすい。
【0040】
本発明の重合体の製造方法では、第1のモノマー群を第1のラジカル開始剤とヨウ素含有含フッ素化合物との存在下で、非水系媒体中又は溶媒の存在しない条件下で重合し、次いで得られた重合体と第2のラジカル開始剤との存在下で上記同様の条件下で第2のモノマー群を重合する。ここで、第1のラジカル開始剤と第2のラジカル開始剤は同じでも異なっていてもよい。また、第1のモノマー群と第2のモノマー群はそれぞれ1種又は2種以上のモノマーからなり、互いに同じではない。
【0041】
本発明のブロックポリマーは、上記製造方法により得られる。すなわち、第1のモノマー群を下記モノマー群aとし、第2のモノマー群を下記モノマー群b、b’又はcとするか、第1のモノマー群を下記モノマー群b、b’又はcとし、第2のモノマー群を下記モノマー群aとすることにより得られる。
【0042】
モノマー群a:−SO2X’基を有するペルフルオロビニルエーテル(ただし、X’はフッ素原子又は塩素原子である。)とテトラフルオロエチレン。
モノマー群b:イオン交換基を有さず脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマー、又はイオン交換基を有さず脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーと他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマー。
モノマー群b’:イオン交換基を有さず2つの二重結合を有して環化重合しうるペルフルオロモノマー、又はイオン交換基を有さず2つの二重結合を有して環化重合しうるペルフルオロモノマーと他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマー。
モノマー群c:イオン交換基を有さないペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とテトラフルオロエチレン。
【0043】
すなわち、本発明のブロックポリマーは、ヨウ素移動重合によるブロックポリマー合成の方法によってセグメントAとセグメントB又はセグメントCとを導入することにより得る。すなわち、ヨウ素含有含フッ素化合物の存在下でセグメントA又はセグメントB(又はC)を構成するポリマーの原料となるモノマーを重合した後、得られた重合体の存在下でもう一方のセグメントを構成するポリマーの原料となるモノマーを重合する。このとき、セグメントAの合成に使用するモノマーは、−SO2F基又は−SO2Cl基を有するモノマーを使用し、重合後に−SO2F基又は−SO2Cl基をスルホン酸基に変換することが好ましい。
【0044】
ヨウ素移動重合の場合、用いられるヨウ素含有含フッ素化合物としては、下記のものが例示される。モノヨードペルフルオロメタン、モノヨードペルフルオロエタン、1−ヨードペルフルオロプロパン、2−ヨードペルフルオロプロパン、1−ヨードペルフルオロブタン、2−ヨードペルフルオロブタン、2−ヨードペルフルオロイソブタン、1−ヨードペルフルオロペンタン、1−ヨードペルフルオロヘキサン、1−ヨードペルフルオロオクタン、1−ヨードペルフルオロノナン、モノヨードペルフルオロシクロブタン、2−ヨードペルフルオロ(1−シクロブチル)エタン、モノヨードペルフルオロシクロヘキサン、モノヨードジフルオロメタン、モノヨードモノフルオロメタン、2−ヨード−1−ヒドロペルフルオロエタン、3−ヨード−1−ヒドロペルフルオロプロパン、モノヨードモノクロロジフルオロメタン、モノヨードジクロロモノフルオロメタン、2−ヨード−1,2−ジクロロ−1,1,2−トリフルオロエタン、4−ヨード−1,2−ジクロロペルフルオロブタン、6−ヨード−1,2−ジクロロペルフルオロヘキサン、4−ヨード−1,2,4−トリクロロペルフルオロブタン、1−ヨード−2,2−ジヒドロペルフルオロプロパン、1−ヨード−2−ヒドロペルフルオロプロパン、モノヨードトリフルオロエチレン、3−ヨードペルフルオロプロペン、4−ヨードペルフルオロ(1−ペンテン)、4−ヨード−5−クロロペルフルオロ(1−ペンテン)。
【0045】
1,3−ジヨードペルフルオロプロパン、1,4−ジヨードペルフルオロブタン、1,3−ジヨード−2−クロロペルフルオロプロパン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロペルフルオロペンタン、1,8−ジヨードペルフルオロオクタン、1−ヨードペルフルオロデカン、1,12−ジヨードペルフルオロドデカン、1,16−ジヨードペルフルオロヘキサデカン、1,2−ビス(ヨードジフルオロメチル)ペルフルオロシクロブタン。
【0046】
2−ヨード−1,1,1−トリフルオロエタン、1−ヨード−1−ヒドロペルフルオロプロパン、2−ヨード−2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン、2−ヨード−2−クロロ−1,1,1−トリフルオロエタン、2−ヨードペルフルオロエチル=ペルフルオロビニル=エーテル、2−ヨードペルフルオロエチル=ペルフルオロイソプロピル=エーテル、3−ヨード−2−クロロペルフルオロブチル=ペルフルオロメチル=チオエーテル、3−ヨード−4−クロロペルフルオロ酪酸等。
【0047】
上記のようなヨウ素含有含フッ素化合物の存在下でセグメントAの原料となるモノマーを重合し、次いで重合系内に残存するモノマーを系外へ除去し、セグメントB又はCの原料となるモノマーを系内に導入した後、さらに重合することで2元ブロックポリマーが得られる。また、セグメントB又はCを重合した後にセグメントAの原料となるモノマーを重合する方法も好適に採用できる。式1〜3に例示したような−SO2F基を有するペルフルオロビニルエーテル化合物は、重合反応性が低いため、ポリマーへの転化率を高めることが困難で重合後も多量のモノマーが系内に存在する。また、沸点の低くないモノマーは、重合系からの抜き出しが容易でない。
【0048】
したがって、最初に重合したセグメントを重合系内から抜き出すことなく次のセグメントを重合するためには、最初に重合反応性の高いBVE、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン)等の環化重合するモノマーやPDD、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、ペルフルオロ(4−メトキシ−1,3−ジオキソール)等の環状モノマーを重合してセグメントBを形成し、後段で−SO2F基を有するペルフルオロビニルエーテル化合物を重合してセグメントAを形成すると容易にブロックポリマーが得られる。
【0049】
また、ヨウ素移動重合におけるヨウ素化合物として好ましくはペルフルオロモノヨージド(1つのヨウ素原子を含み、ヨウ素原子、酸素原子を除いて、炭素原子と結合しているのが全てフッ素原子であるもの)、より好ましくはペルフルオロアルキルモノヨージドを用いて先にセグメントBを重合し、次いでセグメントAの部位を重合すると、イオン交換基を有しないセグメントBの末端にペルフルオロアルキル基を導入できるので、撥水性の高いポリマーとなる。
【0050】
重合系内に残存するモノマーとさらに重合しようとするモノマーとの置換と重合とを繰り返し行うことにより、多元セグメント化ポリマーが得られる。上記モノマーの置換に際しては、ヨウ素原子を末端に有するポリマーを一旦単離して再度重合の仕込みを行ってもよく、また、ポリマーを単離せずにモノマーを反応系外へ抜き出して次に重合するモノマーを添加してもよい。残存するモノマーがガス状モノマー又は沸点の低いモノマーである場合、後者の残存モノマーを抜き出す方法が好適である。
【0051】
また、環化重合モノマーや環状モノマーなど高い重合反応性を有するモノマーを前段で重合していてモノマーからポリマーへの転化率が高い場合は、重合後に該モノマーを抜き出す操作をせず次に重合しようとするモノマーを系内に添加しても、前段のモノマーを抜き出した場合と実質的に同様の重合体を得られる。
【0052】
重合は、ラジカルが生起する条件で行われる。本発明の製造方法では、非水系媒体中での重合又は溶媒の存在しない条件下で重合を行う。紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、通常のラジカル重合で用いられるラジカル開始剤を添加する方法が一般的であり、本発明の実施例では後者の方法を採用している。重合温度は通常は20〜150℃程度である。ラジカル開始剤としては、例えばビス(フルオロアシル)ペルオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド類、ジアルキルペルオキシジカーボネート類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、アゾ化合物類等が挙げられる。
【0053】
非水系媒体中で重合する場合、使用する溶媒の沸点は、取り扱い性の観点から、通常は20〜350℃、好ましくは40〜150℃である。使用できる溶媒としては、例えば以下のものが挙げられる。
ペルフルオロトリブチルアミン、ペルフルオロトリプロピルアミン等のポリフルオロトリアルキルアミン化合物。
【0054】
ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロデカン、ペルフルオロドデカン、ペルフルオロ(2,7−ジメチルオクタン)、2H,3H−ペルフルオロペンタン、1H−ペルフルオロヘキサン、1H−ペルフルオロオクタン、1H−ペルフルオロデカン、1H,4H−ペルフルオロブタン、1H,1H,1H,2H,2H−ペルフルオロヘキサン、1H,1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクタン、1H,1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカン、3H,4H−ペルフルオロ(2−メチルペンタン)、2H,3H−ペルフルオロ(2−メチルペンタン)等のフルオロアルカン。
【0055】
3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロアルカン。
ヘキサフルオロプロペンの2量体、ヘキサフルオロプロペンの3量体等の分子鎖末端に二重結合を有しないフルオロオレフィン。
【0056】
ペルフルオロデカリン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロ(1,2−ジメチルシクロヘキサン)、ペルフルオロ(1,3−ジメチルシクロヘキサン)、ペルフルオロ(1,3,5−トリメチルシクロヘキサン)、ペルフルオロ(ジメチルシクロブタン)(構造異性は限定しない)等のポリフルオロシクロアルカン。
ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のポリフルオロ環状エーテル化合物。
【0057】
n−C3F7OCH3、n−C3F7OCH2CF3、n−C3F7OCHFCF3、n−C3F7OC2H5、n−C4F9OCH3、iso−C4F9OCH3、n−C4F9OC2H5、iso−C4F9OC2H5、n−C4F9OCH2CF3、n−C5F11OCH3、n−C6F13OCH3、n−C5F11OC2H5、CF3OCF(CF3)CF2OCH3、CF3OCHFCH2OCH3、CF3OCHFCH2OC2H5、n−C3F7OCF(CF3)CF2OCHFCF3等のヒドロフルオロエーテル類、フッ素含有低分子量ポリエーテル、t−ブタノール等。
これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
これらの他にも広範な化合物を溶媒として使用できる。1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、1,1,1−トリクロロ−2,2,2−トリフルオロエタン、1,1,1,3−テトラクロロ−2,2,3,3−テトラフルオロプロパン、1,1,3,4−テトラクロロ−1,2,2,3,4,4−ヘキサフルオロブタン等のクロロフルオロカーボン類は、技術的には使用できるが、地球環境保護の観点から好ましくない。この他にも液体又は超臨界の二酸化炭素を用いて重合することもできる。
【0059】
懸濁重合や乳化重合の場合は、水中又は水と上述の溶媒との混合系中で重合できるが、本発明の製造方法では上述した非水系媒体中での重合や、バルク重合(溶媒の存在しない条件下での重合)でポリマーを得る。本発明でこれらの重合法を採用する理由は以下のとおりである。
【0060】
懸濁重合においては、重合時にモノマーで膨潤したポリマー粒子同士が結合して大きな固まりを生成しやすいため、円滑なプロセスの実現が困難である。一方、乳化重合においては、物性の制御が難しい。例えば、セグメントAがTFE/CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO3H共重合体からなる場合、含フッ素ポリマーの乳化重合で通常使用されるC7F15CO2NH4やC8F17CO2NH4(構造異性は限定しない)等の乳化剤を用いた通常の乳化重合方法では、イオン交換容量の高いセグメントAを得るのは容易ではない。
【0061】
例えば、水100質量部に対してCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fを20質量部及び乳化剤としてn−C8F17CO2NH4を0.2質量部加えて57℃で重合した場合、TFEの重合圧がゲージ圧力で0.2MPaという低圧においては、イオン交換容量が0.2ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下のポリマーのみが得られる。これは上記の−SO2F基を有するビニルエーテルモノマーの乳化が困難で、モノマー滴から重合場のミセルに円滑に上記ビニルエーテルモノマーを供給できないためと考えられる。したがって、通常の方法でイオン交換容量が高いポリマーを得るには、さらに重合圧力を下げて重合系内のTFEの濃度を下げる必要があるが、生成ポリマーのイオン交換容量の重合圧力依存性が大きくなりすぎて、小さな圧力変動でイオン交換容量や分子量等のポリマー物性が大きく変動することになり好ましくない。
【0062】
このような課題の対策として、超音波や乳化器等を用いて前乳化する方法(特開昭60−250009、特開昭62−288617)や長いアルキル鎖を有する乳化剤、エーテル鎖を有する乳化剤、スルホン酸型官能基を有する乳化剤など特殊な乳化剤を用いる方法が提案されている(特開昭62−288614、特開昭62−288615、特開昭62−288616)。しかし、前乳化する方法は、ポリマー物性が前乳化の条件に敏感で再現性に課題がある。特殊な乳化剤を用いる方法は、入手が困難であったり、コストが高くなるなどの課題がある。重合系にt−ブタノールなどの水溶性有機溶剤を添加する方法も提案されている(特開平6−184244)が、廃水処理に課題がある。
【0063】
また、再現性よく乳化重合して高いイオン交換容量のポリマーを得るためには、重合後期においても−SO2F基を有するビニルエーテルモノマーが多量に存在している必要があり、該ビニルエーテルモノマーの転化率を高めることができない。したがって、重合後、モノマーを回収するプロセスが必要となる。
【0064】
非水系媒体中での重合又はバルク重合においては、次のようにしてモノマーを容易に回収できる。すなわち、ポリマーの凝集、洗浄後濾過又は遠心分離して得られた液を蒸留する方法や、重合後の溶液又はスラリーを加熱、減圧下でモノマー・溶媒を留去して回収する方法が採用できる。一方、乳化重合して得られたラテックスからモノマーを回収する場合、ポリマーを凝集してモノマーを回収しようとすると、凝集したポリマーがモノマーで膨潤しているため水飴状になりやすく取り扱いが困難である。
【0065】
また、水、含フッ素モノマー又は含フッ素溶媒、含フッ素ポリマーの三者が混在する状態で撹拌すると、懸濁状の液状物が生成しやすく、分離が困難である。さらに、水とモノマーの共存下ではフッ酸が副生し、装置が腐蝕しやすくなる等の問題も生じる。減圧下でモノマーを回収する方法、溶剤洗浄によりモノマーを回収する方法においても同様の問題が生じる。ラテックスに特定の含フッ素溶媒を添加してモノマーを抽出し回収する方法もあるが、抽出時のラテックスの破壊や、抽出溶剤がラテックスに吸収される等の問題が生じる。
【0066】
また、乳化重合においては、ポリマーが生成したミセル以外にもミセルが存在する。そのため、最初に重合したセグメントを含まないミセルで後段の重合が始まると、ブロックポリマーではなく、ブレンドポリマー(セグメントA又はその前駆体を構成するポリマーとセグメントBを構成するポリマーとの混合物)となるおそれがある。
【0067】
一方、ポリマーと親和性の高い非水系媒体中での重合やバルク重合ではポリマー成長末端の重合反応性が維持されるので、上述の問題は起こらない。最初に重合したセグメントに結晶性がない場合、次段の重合において、最初に重合したセグメントを上記非水系媒体やモノマーに均一に溶解させることができるので、円滑にブロック化の重合反応を進行させることができる。また、完全には溶解しない場合でも、最初に重合したセグメントは充分に膨潤するので、重合成長末端の反応性を確保でき、ブロック化の重合反応を進行させられる。ここで最初に結晶性のセグメントを重合すると、次段の重合でブロック化の重合反応が円滑に進行しにくくなるので好ましくない。
【0068】
合成したポリマーの−SO2F基は、例えばNaOHやKOH等のアルカリが水中、又はメタノールやエタノール等のアルコール類やジメチルスルホキシド等の極性溶媒と水との混合溶媒中に溶解した溶液中で加水分解されると、−SO3Na基や−SO3K基に変換される。さらに、塩酸や硫酸や硝酸等の水溶液で処理すると酸型化され、NaイオンやKイオンがプロトンに置換され、スルホン酸基(−SO3H基)に変換される。加水分解及び酸型化は通常0〜120℃の間で行われる。
【0069】
ここでは−SO2F基を有するモノマーから合成するセグメントAを例に本発明のブロックポリマーの合成方法を例示したが、−SO2Cl基を有するモノマーから合成する場合も同様に合成でき、例えば固体高分子型燃料電池の用途に使用する場合にはスルホン酸基に変換してから使用する。
【0070】
本発明のブロックポリマーは、イオン交換基を有しない非晶質のセグメントB又はセグメントCを有しており、結晶性を有していないので、−SO2X基のXが−OMで表され、Mが水素原子又はアルカリ金属原子である場合は、−OH基を有する有機溶媒、特にアルコール性水酸基を有する有機溶媒に溶解又は良好に分散できる。
【0071】
前記溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−1−ペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、3,3,3−トリフルオロ−1−プロパノール、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキサノール、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール等が例示される。またアルコール以外に酢酸等のカルボン酸基を有する有機溶媒も使用できるが、これらに限定されない。
【0072】
−OH基を有する有機溶媒は、混合して用いてもよく、水又は他の含フッ素溶媒と混合して用いてもよい。他の含フッ素溶媒としては、上述の非水系媒体中での重合に好ましい含フッ素溶媒として例示した含フッ素溶媒が例示される。混合溶媒を使用する場合、−OH基を有する有機溶媒は、溶媒全質量の10%以上、特に20%以上含まれることが好ましい。
混合溶媒を用いる場合、最初からブロックポリマーを混合溶媒中に溶解又は分散させてもよいが、−OH基を有する有機溶媒に溶解した後、他の溶媒を混合してもよい。
【0073】
また、本発明のブロックポリマーは水に溶解させることは容易でないが、−OH基を有する有機溶媒に溶解させれば、得られた溶液に水を添加してもポリマーは析出しない。イオン交換基が溶媒と相互作用し、ポリマーは安定化して液中に存在できると考えられる。さらに、−OH基を有する有機溶媒の加熱留去と水添加の操作により、又は遠心分離機によるポリマー濃縮と水添加を繰り返す等の操作により、実質的に有機溶媒を含有しないポリマーの水分散液を調製することもできる。本発明のブロックポリマーの溶解は、通常室温から150℃までの間で行われる。
【0074】
上記のような−OH基を有する有機溶媒を含む溶媒又は水にブロックポリマーを溶解又は分散させて得られる液状組成物を使用して、固体高分子型燃料電池の電極を作製すると、ガス拡散性に優れるガス拡散電極が得られる。特に得られた電極をカソードに使用すると、酸素ガス透過性に優れ好ましい。前記液状組成物中のブロックポリマーの濃度は、液状組成物全質量の1〜50%、特に3〜30%であることが好ましい。濃度が低すぎると電極作製時に多量の有機溶媒が必要とされ、濃度が高すぎると液の粘度が高すぎて取り扱い性が悪くなる。
【0075】
上記液状組成物を用いて固体高分子型燃料電池の電極を作製する場合、通常の手法に従って、液状組成物に白金触媒微粒子を担持させた導電性のカーボンブラック粉末を混合して分散させ、得られた均一の分散液を用いて、以下の2つのいずれかの方法で膜−電極接合体を得ることが好ましい。第1の方法は、カチオン交換膜両面に前記分散液を塗布乾燥後、カーボンクロス又はカーボンペーパーで密着する方法である。第2の方法は前記分散液をカーボンクロス又はカーボンペーパー上に塗布乾燥後、カチオン交換膜に密着させる方法である。
【0076】
得られた膜−電極接合体は、例えば燃料ガス又は酸素を含む酸化剤ガス(空気、酸素等)の通路となる溝が形成され導電性カーボン板等からなるセパレータの間に挟まれ、セルに組み込まれることにより固体高分子型燃料電池が得られる。
【0077】
また、本発明のブロックポリマーは押出し成形等の溶融成形により成形体を得ることもできる。例えば、−SO2F基を有するブロックポリマーを例にとると、−SO2F基を熱分解させることなく溶融成形するためには、各セグメントのガラス転移温度Tgが270℃以下であることが好ましく、また結晶融点Tmが存在する場合はTmが270℃以下であることが好ましい。−SO2F基は350℃以上では熱分解が顕著になるが、成形機内での滞留時間が長い場合には、それより低い温度から分解が起こる。一方、溶融流動性を確保するには、少なくともTg又はTmよりも30〜40℃以上高い温度で成形する必要がある。したがって、安定して溶融成形できる温度を確保するために、Tg又はTmは270℃以下とすることが好ましい。ここでTg又はTmが複数存在する場合は、全てのTg又はTmを270℃以下とすることが好ましい。
【0078】
一般に、ブロックポリマーは、各セグメントが互いに不溶の場合は各セグメントに基づく複数のTgを有し、各セグメントの相溶性が良い場合には各セグメントのTgの間の温度に1つのTgを有する(「高分子と複合材料の力学的性質」L.E.Nielsen著、小野木重治訳、第1版、第7刷、pp129−133、(株)化学同人(1976))。そして、本発明のブロックポリマーの各セグメントを構成する好ましいポリマーの具体的なTgは以下のとおりである。
【0079】
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F(以下、PSVEという。)に基づく繰り返し単位を20モル%以上含有する共重合体のTg:100℃未満、PBVEのTg:108℃、ポリ(ペルフルオロ(アリルビニルエーテル))のTg:69℃、ポリ(パーフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン))のTg:78℃、ポリ(ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン))のTg:130℃、ポリ(ペルフルオロ(1,3−ジオキソール))のTg:180℃、ポリ(ペルフルオロ(4−メトキシ−1,3−ジオキソール))のTg:162℃、TFE/PDD共重合体(モル比35:65)のTg:160℃、TFE/PDD共重合体(モル比13:87)のTg:240℃。
【0080】
したがって、上に挙げたようなTgが270℃以下のポリマーからなるセグメントのみで構成されるブロックポリマーは、各セグメントの相溶性にかかわらず270℃を超えるTgを有しない。そのため、容易に溶融成形できる。
【0081】
また、例えばPPDDのTgは335℃であるが、TFE/PSVE共重合体とは相溶性が良いため、PPDDからなるセグメントとTFE/PSVE共重合体からなるセグメントとからなるブロックポリマーは、Tgを270℃以下となるように制御することもできる。ただし、このブロックポリマーの場合、加水分解すると各セグメントは互いに不溶となる。
【0082】
【実施例】
以下に、本発明を実施例(例1〜5)及び比較例(例6)により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、以下の例において、下記の略号を用いる。
PPVE:CF2=CFOCF2CF2CF3、
IPP:(CH3)2CHOC(=O)OOC(=O)OCH(CH3)2、
HCFC141b:CH3CCl2F(旭硝子社製)、
HCFC225cb:CClF2CF2CHClF(旭硝子社製)。
【0083】
また、以下の各例において合成されるAB型、ABA型又はBAB型のブロックポリマー(A及びBはそれぞれセグメントA及びセグメントBを表す。)において、各セグメント及びポリマー全体の分子量とイオン交換容量は以下のようにして求めた。この方法により求めた各例のポリマーの物性は、表1に示す。なお、ABA型ブロックポリマーのセグメントAの分子量は、ポリマー鎖に導入されたセグメントA合計の分子量(ブロックポリマー全体の分子量からセグメントBの分子量を差し引いた分子量)を示し、BAB型も同様である。
【0084】
なお、表1及び表2において、イオン交換容量の単位は、ミリ当量/g乾燥樹脂である。また、表1におけるA及びBは、それぞれセグメントA及びセグメントBを示す。
[先にセグメントAを合成する場合]
最初に合成したセグメントAについて、滴定によりイオン交換容量を求め、サイズ排除クロマトグラフィー(以下、GPCという。)によりポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量を求めた(装置:東ソー社製、SEC HLC−8020、移動相:HCFC225cb/1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(99/1体積比)、カラム:ポリマー ラボラトリー社製、Plgel 5μ MIXED−C 2本)。次にセグメントBをブロック化共重合して得られたブロックポリマー全体のイオン交換容量を滴定により求めた。セグメントAのイオン交換容量の値とブロックポリマー全体のイオン交換容量の値から、セグメントAとセグメントBの質量比を求めセグメントBの分子量を算出し、さらに前述のセグメントAの分子量を用いてブロックポリマー全体の分子量を算出した。
【0085】
[先にセグメントBを合成する場合]
セグメントBにセグメントAをブロック化共重合して得られたブロックポリマー全体のイオン交換容量と、19F−NMR(溶媒:ペルフルオロベンゼン、基準物質:CFCl3、δ(ppm))で求めたセグメントAのイオン交換容量から、セグメントAとセグメントBの質量比を求めた。上述と同様にしてGPCにより求めたセグメントBの分子量を用いてセグメントAの分子量及びブロックポリマー全体の分子量を算出した。
以下にブロックポリマーの合成例を示し、得られたポリマーのイオン交換容量及び分子量は表1に示す。
【0086】
[例1]
[(TFE/PPVE共重合体)−(TFE/PSVE共重合体)ブロックポリマーの合成]
[TFE/PPVE共重合体セグメントの重合]
脱気した内容積1Lのオートクレーブに、4.50gの1−ヨードパーフルオロブタン(F(CF2)4I)と706.5gのPPVEとを吸入させた後、40℃に加熱した。88gのTFEを圧入後、5.36gのIPPを78.2gのHCFC225cbに混合して得られる溶液5mLを圧入し、重合を開始した。圧力を一定(ゲージ圧で0.66MPa)に保ちながら重合を継続した。重合速度の低下にともない、上記IPPの溶液をさらに添加して重合を続けた。添加したIPPの総量は1.6gであった。TFEが80g入ったところで加熱を止めてTFEをパージし、重合を止めた。得られた溶液を、HCFC141bに注いで凝集後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、白色のポリマー152gを得た。
【0087】
上記ポリマーは、TFEに基づく繰り返し単位とPPVEに基づく繰り返し単位との比が、モル比で72:28であるTFE/PPVE共重合体であった。また、上記ポリマーは室温ではエラストマー状であった。
【0088】
[TFE/PSVE共重合体セグメントのブロック共重合]
上記TFE/PPVE共重合体80gを、内容積1Lのオートクレーブに入れ、脱気後、778.5gのPSVEを吸入させた後に40℃に加熱し、30分撹拌して溶解した。TFEを60g圧入後、2.8gのIPPを78.6gのHCFC225cbに混合して得られる溶液6mLを圧入し、重合を開始した。圧力を一定(ゲージ圧で0.49MPa)に保ちながら重合を継続した。重合速度の低下にともない、上記IPPの溶液をさらに添加して重合を続けた。添加したIPPの総量は1.17gであった。TFEが55g入ったところで加熱を止めてTFEをパージし、重合を止めた。得られた溶液を、HCFC141bに注いで凝集後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、白色のポリマー(以下、ポリマー1という。)268.5gを得た。TFEとPSVEのモル比は70.5:29.5であった。
【0089】
図1に、初めに得られたTFE/PPVE共重合体及び上記で得られたポリマー1それぞれのGPCチャートを、それぞれ実線及び破線で示す。横軸は抽出時間、縦軸はピーク強度を示す。ポリマー1のピークは、TFE/PPVE共重合体よりも高分子量側に一つのピークとして表れていることから、ほとんどブレンドポリマーが存在しないと判断できる。また、ペルフルオロベンゼン中におけるTFE/PPVE共重合体及び上記ポリマー1それぞれの19F−NMRチャートを、それぞれ図2(a)及び図2(b)に示す。横軸は周波数、縦軸はピーク強度を示しており、図3〜5も同様である。これらより、ポリマー1が(TFE/PPVE共重合体)−(TFE/PSVE共重合体)ブロックポリマーであると確認した。
【0090】
[例2]
[(PBVE)−(TFE/PSVE共重合体)ブロックポリマーの合成]
[PBVEセグメントの重合]
500mLのガラス製のフラスコにF(CF2)4Iを2.77g、1H−ペルフルオロヘキサン(以下、C6F13Hという。)を203g、及びBVEを200g入れて撹拌し、40℃に加温した。これに、0.33gのIPPを加え、重合を開始した。途中、重合速度低下にともない、1.0gのIPPを9.0gのC6F13Hに混合して得られた溶液を追加して重合を続け、重合開始から97時間後に加熱を止めた。なお、IPPの総添加量は0.66gであった。この反応液をHCFC141bに注いで凝集後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、非晶質のポリマー137gを得た。
【0091】
[TFE/PSVE共重合体セグメントのブロック共重合]
上記で得られたポリマー80gを内容積1Lのオートクレーブに入れ、脱気し、PSVEを778.5g吸入させた後に40℃に加熱し、30分撹拌した。次いでTFEを58g圧入後、2.63gのIPPを78.2gのHCFC225cbに溶解した溶液5mLを圧入し、重合を開始した。圧力を一定に保ちながら重合を継続し、重合速度が低下すると上記IPPの溶液を補充して重合を続けた。添加したIPPの総量は1.05gであった。TFEが55g入ったところで加熱を止めてTFEをパージし、重合を止めた。得られた溶液を、HCFC141bに注いで凝集させた後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、白色のポリマー(以下、ポリマー2という。)217gを得た。TFEとPSVEのモル比は72.1:27.9であった。ペルフルオロベンゼン中におけるPBVE及び上記ポリマー2それぞれの19F−NMRチャートを、それぞれ図3(a)及び図3(b)に示す。
【0092】
[例3]
[(TFE/PSVE共重合体)−(PBVE)−(TFE/PSVE共重合体)ブロックポリマーの合成]
[PBVEセグメントの重合]
500mLのガラス製のフラスコに5.71gの1,4−ジヨードペルフルオロブタン(I(CF2)4I)、150gのC6F13H及び152gのBVEを入れて撹拌し、40℃に加温した。これに2.29gのIPPを12.65gのHCFC225cbに溶解した溶液3.34gを加え、40℃で117時間重合を行った。この反応液をHCFC141bに注いで凝集後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、非晶質の樹脂153gを得た。
【0093】
[TFE/PSVE共重合体セグメントのブロック共重合]
上記PBVE80gを内容積1Lのオートクレーブに入れ、脱気後、778.5gのPSVEを吸入させて40℃に加熱し、30分撹拌して溶解した。TFEを60g圧入後、2.8gのIPPを78.2gのHCFC225cbに溶解した溶液7mLを圧入し、重合を開始した。圧力を一定(ゲージ圧で0.49MPa)に保ちながら重合を継続した。重合速度の低下にともない、上記IPPの溶液をさらに添加して重合を続けた。添加したIPPの総量は1.23gであった。TFEが53g入ったところで加熱を止めてTFEをパージし、重合を止めた。得られた溶液を、HCFC141bに注いで凝集後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、白色のポリマー(以下、ポリマー3という。)265gを得た。TFEとPSVEのモル比は70.1:29.9であった。ペルフルオロベンゼン中におけるPBVE及び上記ポリマー3それぞれの19F−NMRチャートを、それぞれ図4(a)及び図4(b)に示す。
【0094】
[例4]
[(PBVE)−(TFE/PSVE共重合体)−(PBVE)ブロックポリマーの合成]
[TFE/PSVE共重合体セグメントの重合]
脱気した内容積1Lのオートクレーブに、4.15gのI(CF2)4Iと778.5gのPSVEを吸入させた後に40℃に加熱した。58gのTFEを圧入後、7.53gのIPPを78.2gのHCFC225cbに溶解した溶液6mLを圧入し、重合を開始した。圧力を一定(ゲージ圧で0.45MPa)に保ちながら重合を継続した。重合速度の低下にともない、上記IPPの溶液をさらに添加して重合を続けた。添加したIPPの総量は1.66gであった。TFEが80g入ったところで加熱を止めてTFEをパージし、重合を止めた。得られた溶液を、HCFC141bに注いで凝集後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、室温においてエラストマー状のポリマー235gを得た。TFEとPSVEのモル比は72.1:27.9であった。
【0095】
[PBVEセグメントのブロック共重合]
500mLのガラス製のフラスコに上記50gのTFE/PSVE共重合体と250gのC6F13Hと30gのBVEを入れて撹拌、溶解し、40℃に加温した。これに0.97gのIPPを17.26gのHCFC225cbに溶解した溶液1.39gを加え、重合を開始した。途中重合速度の低下にともない、上記IPPの溶液をさらに添加して重合を続けた。IPP添加の総量は0.15gであった。重合開始から366時間後に加熱を止めた。この反応液をHCFC141bに注いで凝集後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、白色のポリマー(以下、ポリマー4という。)71.5gを得た。ペルフルオロベンゼン中におけるTFE/PSVE及び上記ポリマー4それぞれの19F−NMRチャートを、それぞれ図5(a)及び図5(b)に示す。
【0096】
[例5]
[(PPDD)−(TFE/PSVE共重合体)−(PPDD)ブロックポリマーの合成]
[PPDDセグメントのブロック共重合]
500mLのガラス製のフラスコに例4において得られたTFE/PSVE共重合体を50gと、250gのC6F13Hと25gのPDDを入れて撹拌し、TFE/PSVE共重合体を溶解させた。これに0.082gのIPPを5gのC6F13Hに溶解した溶液を加え、30℃で65時間重合した。この反応液をHCFC141bに注いで凝集後、洗浄、ろ過、乾燥することにより、白色のポリマー62.9gを得た。
【0097】
[ポリマーの酸型化及び溶液化]
例1で得られたポリマー((TFE/PPVE共重合体)−(TFE/PSVE共重合体)ブロックポリマー)を空気中、250℃で一晩熱処理した。このポリマーを20.1g、及び30.2gのジメチルスルホキシドと13.2gのKOHを59.2gの水に溶解した水溶液をセパラブルフラスコに加え、70℃に加熱し、撹拌した。16時間後、ポリマーをろ過、水洗した後、再びセパラブルフラスコに戻し、60gの水を補充して、60℃で3時間加熱撹拌した。これらの操作を2回繰り返した後、pHが8以下となっていることを確認した。
【0098】
上記で得られた溶液をろ過し、ポリマーをセパラブルフラスコに戻して、0.5モル/Lの硫酸60gを加え、16時間60℃で加熱撹拌した。ポリマーをろ過後、水洗し、セパラブルフラスコに戻して60gの水を加えて60℃で3時間、加熱撹拌した。この硫酸を加えた後の加熱撹拌、水洗、水を加えた後の加熱撹拌の操作を2回繰り返し、操作終了後のpHが4以上であることを確認した。次いで得られたポリマーを空気中で60℃にて16時間乾燥し、さらに真空中で60℃にて16時間乾燥した。
【0099】
上記のポリマー10gとエタノール40gを混合し、70℃で24時間加熱撹拌することにより、濃度20%(質量比)の青白い半透明の粘稠なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液20gにエタノール20gを加え、しばらく撹拌して調製した濃度10%の共重合体溶液(以下、溶液1という。)は白濁していた。また、上記濃度20%のポリマー溶液20gにHCFC225cbを20g加えて同様に調製した濃度10%のポリマー溶液(以下、溶液2という。)は無色透明であった。このようにして得た溶媒の異なる溶液1及び溶液2からそれぞれキャストフィルムを作製し、透過型電子顕微鏡で観察したところ、いずれのキャストフィルムにも相分離構造が確認された。
【0100】
[含水率の測定]
例1〜5で合成したブロックポリマーを用い、[ポリマーの酸型化及び溶液化]の項と同様の操作を行い、酸型化し、溶液2の作製と同様にしてポリマー溶液(溶媒:エタノールとHCFC225cbの混合溶媒)を作製した。この溶液をキャスト製膜し、160℃で30分加熱することにより例1〜5のポリマーフィルムをそれぞれ作製した。
【0101】
このフィルムを90℃のイオン交換水に16時間浸漬後、質量を測定した。次いでフィルムを110℃にて16時間真空乾燥して再び質量を測定した。前者の質量をa(g)、後者の質量をb(g)とし、含水率を含水率(%)=100×(a−b)/bにより求めた。結果を表2に示す。
【0102】
[燃料電池の作製及び性能の評価]
(1)例1で得られたブロックポリマーを用いた燃料電池
共重合体と白金担持カーボンの質量比が3:7となるように白金担持カーボンを溶液2に混合して塗工液とし、該塗工液をカーボンクロス上に塗工し、乾燥して厚さ10μm、白金担持量0.5mg/cm2のガス拡散電極層を形成したガス拡散電極を得た。
【0103】
一方、TFE/PSVE共重合体(イオン交換容量1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を押し出し製膜し、加水分解、酸型化、水洗を行って、膜厚50μmのスルホン酸基を有するペルフルオロポリマーからなる膜を得た。この膜を、上記ガス拡散電極2枚の間に挟み、平板プレス機を用いてプレスし、さらに加熱プレスして膜−電極接合体を作製した。
【0104】
この膜−電極接合体の外側にチタン製の集電体、さらにその外側にPTFE製のガス供給室、さらにその外側にヒーターを配置し、有効膜面積9cm2の燃料電池を組み立てた。
【0105】
燃料電池の温度を80℃に保ち、カソードに酸素、燃料極に水素をそれぞれ0.05MPa加圧で供給した。電流密度1A/cm2のときの端子電圧を測定したところ、端子電圧は0.63Vであった。この状態で1000時間連続運転したところ、1000時間後の端子電圧は0.62Vであった。
【0106】
(2)例5で得られたブロックポリマーを用いた燃料電池
例5で得られたポリマー((PPDD)−(TFE/PSVE共重合体)−(PPDD)ブロックポリマー)を用い、[ポリマーの酸型化及び溶液化]の項と同様の操作を行い、酸型化し、HCFC225cbのかわりに1H−ペルフルオロヘキサンを用いた以外は溶液2の作製と同様にして濃度10%のポリマー溶液(溶液3)を得た。
【0107】
溶液2のかわりに溶液3を用いた以外は(1)と同様にして燃料電池を作製し、(1)と同様にして性能の評価を行った。電流密度1A/cm2のときの端子電圧は0.65Vであり、この状態で1000時間連続運転した後の端子電圧は0.64Vであった。
【0108】
[例6(比較例)]
ガス拡散電極を、例1で合成したポリマーのかわりにTFE/PSVE共重合体(イオン交換容量1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を用いて作製したほかは、例1と同様に燃料電池を作製し、例1と同様に燃料電池性能を評価した。80℃において、電流密度1A/cm2のときの端子電圧は0.60Vであり、1000時間後の端子電圧は0.50Vであった。
【0109】
また、上記TFE/PSVE共重合体を質量比で10%の濃度でエタノールに溶解した溶液を用いて[含水率の測定]の項と同様の方法でキャスト製膜し、得られたフィルムの含水率を測定した。結果を表2に示す。
表2によれば、本発明のブロックポリマーは、イオン交換容量が同等以上である比較例の従来のイオン交換樹脂よりも高い含水率を有している。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【発明の効果】
本発明のブロックポリマーは、高イオン交換容量のスルホン酸基を有するペルフルオロポリマー相(セグメントA)と撥水性を有しイオン交換基を有しないペルフルオロポリマー相(セグメントB又はセグメントC)が同時に導入されて各相が分離している構造を有しているため、含水率が高くかつ撥水性を有している。特に脂肪族環構造を有するポリマーからなるセグメントを含む場合は、酸素ガス透過性にも優れている。したがって、本発明のブロックポリマーと触媒とにより構成される電極を有する固体高分子型燃料電池は、出力密度が高く、またフラッディングが起こりにくいため長期的に使用しても高性能を維持できる。
【0113】
また、本発明のブロックポリマーは、食塩電解等の電気化学プロセスにおけるイオン交換膜、選択透過膜、除湿膜、センサー、化学反応の酸触媒、固体電解質等の用途にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】例1で合成したTFE/PPVE共重合体及びブロックポリマーのGPCチャート。
【図2】(a)例1で合成したTFE/PPVE共重合体の19F−NMRチャート。(b)例1で合成したポリマー1の19F−NMRチャート。
【図3】(a)例2で合成したPBVEの19F−NMRチャート。(b)例2で合成したポリマー2の19F−NMRチャート。
【図4】(a)例3で合成したPBVEの19F−NMRチャート。(b)例3で合成したポリマー3の19F−NMRチャート。
【図5】(a)例4で合成したTFE/PSVE共重合体の19F−NMRチャート。(b)例4で合成したポリマー4の19F−NMRチャート。
Claims (8)
- 下記セグメントAと下記セグメントBとからなりかつ下記の方法で算出した分子量が5×103〜5×106であることを特徴とするブロックポリマー。
セグメントA:−SO2X基(ただし、Xはフッ素原子、塩素原子又はOMであり、Mは水素原子又はアルカリ金属原子である。)を有するペルフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位とを含む共重合体であって、前記ペルフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位が20モル%以上含まれる共重合体からなるセグメント。
セグメントB:イオン交換基を有さず、主鎖に脂肪族環構造を有する非晶質のペルフルオロポリマーからなるセグメント。
先にセグメントAを合成する場合の分子量:最初に合成したセグメントAについて、滴定によりイオン交換容量を求め、サイズ排除クロマトグラフィーによりポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量を求める。次にセグメントBをブロック化共重合して得られたブロックポリマー全体のイオン交換容量を滴定により求める。セグメントAのイオン交換容量の値とブロックポリマー全体のイオン交換容量の値から、セグメントAとセグメントBの質量比を求めセグメントBの分子量を算出し、さらに前述のセグメントAの分子量を用いてブロックポリマー全体の分子量を算出する。
先にセグメントBを合成する場合の分子量:セグメントBにセグメントAをブロック化共重合して得られたブロックポリマー全体のイオン交換容量と、 19 F−NMRで求めたセグメントAのイオン交換容量から、セグメントAとセグメントBの質量比を求める。上述と同様にしてサイズ排除クロマトグラフィーにより求めたセグメントBの分子量を用いてセグメントAの分子量及びブロックポリマー全体の分子量を算出する。 - セグメントBが、ポリ(ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル))、ポリ(ペルフルオロ(アリルビニルエーテル))、ポリ(ペルフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン))、ポリ(ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール))、ポリ(ペルフルオロ(1,3−ジオキソール))、ポリ(ペルフルオロ(4−メトキシ−1,3−ジオキソール))、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)共重合体又はポリ(ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン))からなる請求項1に記載のブロックポリマー。
- セグメントAとセグメントBとの質量比が95/5〜5/95である請求項1又は2に記載のブロックポリマー。
- 第1のラジカル開始剤とヨウ素含有含フッ素化合物との存在下で、非水系媒体中又は溶媒の存在しない条件下で、1種又は2種以上の含フッ素モノマーからなる第1のモノマー群を重合し、非晶質の重合体を合成した後、前記重合体と第2のラジカル開始剤との存在下で、1種又は2種以上のモノマーからなり前記第1のモノマー群とは異なる第2のモノマー群を非水系媒体中又は溶媒の存在しない条件下で重合する重合体の製造方法であって、
前記第1のモノマー群と前記第2のモノマー群とは、いずれか一方が下記モノマー群aであり他方が下記モノマー群bである重合体の製造方法。
モノマー群a:−SO 2 X’基を有するペルフルオロビニルエーテル(ただし、X’はフッ素原子又は塩素原子である。)とテトラフルオロエチレン。
モノマー群b:イオン交換基を有さず脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマー、又はイオン交換基を有さず脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーと他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマー。 - 第1のラジカル開始剤とヨウ素含有含フッ素化合物との存在下で、非水系媒体中又は溶媒の存在しない条件下で、1種又は2種以上の含フッ素モノマーからなる第1のモノマー群を重合し、非晶質の重合体を合成した後、前記重合体と第2のラジカル開始剤との存在下で、1種又は2種以上のモノマーからなり前記第1のモノマー群とは異なる第2のモノマー群を非水系媒体中又は溶媒の存在しない条件下で重合する重合体の製造方法であって、
前記第1のモノマー群と前記第2のモノマー群とは、いずれか一方が下記モノマー群aであり他方が下記モノマー群b’である重合体の製造方法。
モノマー群a:−SO 2 X’基を有するペルフルオロビニルエーテル(ただし、X’はフッ素原子又は塩素原子である。)とテトラフルオロエチレン。
モノマー群b’:イオン交換基を有さず2つの二重結合を有して環化重合しうるペルフルオロモノマー、又はイオン交換基を有さず2つの二重結合を有して環化重合しうるペルフルオロモノマーと他の1種以上のイオン交換基を有しないペルフルオロモノマー。 - 前記第2のモノマー群は含フッ素モノマーからなり、かつ前記第2のモノマー群の重合後に得られる重合体は非晶質である請求項4又は5に記載の重合体の製造方法。
- 前記ヨウ素含有フッ素化合物がペルフルオロアルキルモノヨージドである請求項4〜6のいずれかに記載の重合体の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のブロックポリマーであって−SO2X基のXがOMで表され、Mが水素原子又はアルカリ金属原子であるブロックポリマーが、アルコール性水酸基を有する有機溶媒に溶解又は分散していることを特徴とする液状組成物。
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