JP4714957B2 - 固体高分子電解質型燃料電池 - Google Patents

固体高分子電解質型燃料電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
水素・酸素燃料電池は、その反応生成物が原理的に水のみであり地球環境への悪影響がほとんどない発電システムとして注目されている。固体高分子電解質型燃料電池は、かつてジェミニ計画及びバイオサテライト計画で宇宙船に搭載されたが、当時の電池出力密度は低かった。その後、より高性能のアルカリ型燃料電池が開発され、現在のスペースシャトルに至るまで宇宙用にはアルカリ型燃料電池が採用されている。
【0003】
ところが、近年技術の進歩により固体高分子電解質型燃料電池が再び注目されている。その理由として次の2点が挙げられる。(1)固体高分子電解質として高導電性の膜が開発された。(2)ガス拡散電極層に用いられる触媒をカーボンに担持し、さらにこれをイオン交換樹脂で被覆することにより、きわめて大きな活性が得られるようになった。
【0004】
しかし、現在使用されている触媒被覆用のイオン交換樹脂は、低作動温度かつ高ガス利用率の運転条件下では、特に水が生成する酸化剤極において過膨潤状態となったり部分的に溶解して構造が安定化されておらず、長期間の電池性能安定性に問題があった。構造の安定化のためにイオン交換樹脂の含水率を下げることも考えられるが、導電性が低くなり、電池性能が低下する。また、イオン交換樹脂のガス透過性が低下するため、被覆したイオン交換樹脂を通して触媒表面に供給されるガスの供給が遅くなる。したがって、反応サイトにおけるガス濃度が低下して電圧損失が大きくなる、すなわち濃度過電圧が高くなって出力が低下する。
【0005】
そのため、触媒を被覆するイオン交換樹脂にはイオン交換容量の高い樹脂を用い、これに加えて、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等のフッ素樹脂等を撥水化剤として電極、特に酸化剤極中に含有させることで、発生する水を効率よく排出させ、フラッディングを抑制すると同時に被覆イオン交換樹脂の過膨潤を抑え構造安定化をする試みがなされている(特開平5−36418)。
【0006】
しかし、水が生成するのはイオン交換樹脂部分であるためその効果は小さく、充分に撥水化するために電極中の撥水化剤の量を多くすると、上記撥水化剤は絶縁体のため電極の電気抵抗が増大する。また、撥水化剤を含有させることにより電極の厚さが厚くなるためガス透過性が悪化し、逆に出力が低下する問題がある。そのため、充分な導電性と高出力かつ長期的な安定性を具える固体高分子型燃料電池を得ることは容易ではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、出力を高めるには、触媒を被覆するイオン交換樹脂は、導電性が高くかつガスの透過性が高いことが電池性能を高めるうえで重要であり、交換基濃度が高いイオン交換樹脂が好ましい。しかし、従来の交換基濃度の高いイオン交換樹脂を用いた場合、燃料ガスの透過性及び導電性は高く燃料電池の初期の出力は高くなるが、長期間使用すると出力の低下が起こりやすい問題があった。
【0008】
そこで本発明は、導電性が高く、ガスの透過性が高く、かつ耐久性に優れるイオン交換樹脂をガス拡散電極に含有させることにより、出力が高く長期的に性能が安定している固体高分子電解質型燃料電池を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、触媒とイオン交換樹脂とを含有するガス拡散電極からなる燃料極及び酸化剤極と、前記燃料極と前記酸化剤極との間に配置される膜状固体高分子電解質とを有する固体高分子電解質型燃料電池において、前記酸化剤極に含有されるイオン交換樹脂は、スルホン酸基を有する、架橋された含フッ素重合体からなり、前記含フッ素重合体は、CF 2 =CF 2 とCF 2 =CF(OCF 2 CFX) m −O p −(CF 2 n SO 2 F(ただし、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数、nは0〜12の整数、pは0又は1であり、nが0のときはpも0である。)と二重結合を2個有するパーフルオロ不飽和化合物との共重合体の−SO 2 Fをスルホン酸基に変換した共重合体を基本骨格とし、二重結合を2個有するパーフルオロ不飽和化合物に基づく重合単位を反応させて架橋されたものであり、二重結合を2個有するパーフルオロ不飽和化合物に基づく重合単位の含有量が、重合体中0.1〜50mol%であることを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池を提供する。
【0010】
本発明における酸化剤極に含有されるイオン交換樹脂は架橋されて網目構造を形成しているため、樹脂自体の強度が高く、燃料電池の反応により酸化剤極で生成する水等により膨潤しにくい。そのため、長期間燃料電池を作動させても高出力を維持でき、耐久性に優れる。また、イオン交換容量が高く低抵抗のイオン交換樹脂でも上記構造を有するため耐久性が高く酸化剤極の樹脂として採用できるので、出力を高くできる。
【0011】
本発明における酸化剤極に含有されるイオン交換樹脂は、スルホン酸基を有する、架橋された含フッ素重合体からなる。特に、鎖状の炭化水素系重合体(エーテル結合性の酸素原子等を有するものも含む)の水素原子が実質的にフッ素原子に全置換されたパーフルオロカーボン重合体が架橋されてなるものが、燃料電池を連続運転した場合の耐久性に優れるので好ましい。また、基本骨格がスルホン酸基を有する含フッ素ビニルエーテルに基づく重合単位と含フッ素オレフィンに基づく重合単位とからなり、かつ架橋性基を有する含フッ素化合物により架橋されている共重合体が好ましい。
【0012】
上記共重合体は、例えば加水分解等によりスルホン酸基に変換される−SO2F、−SO2Cl等のスルホン酸基の前駆体基を有する含フッ素ビニルエーテルと含フッ素オレフィンと架橋性基を有する化合物とを共重合した後に、前記前駆体基をスルホン酸基に変換することにより得られる。
【0013】
上記スルホン酸基の前駆体基を有する含フッ素ビニルエーテルとしては種々のものが広く採用されるが、一般式CF2=CF(OCF2CFX)m−Op−(CF2n−SO2Fで表されるパーフルオロビニル化合物(Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは0〜12の整数であり、pは0又は1であり、nが0のときはpも0である。)が好ましい。その具体例として式1〜4の化合物等が挙げられる。ただし、式中、aは1〜9の整数であり、bは1〜8の整数であり、cは0〜8の整数であり、dは2又は3である。
【0014】
【化1】
Figure 0004714957
【0015】
−SO2F基を有する含フッ素ビニルエーテルは、単独重合も可能であるが、ラジカル重合反応性が小さいため、通常は他のオレフィン等のコモノマーと共重合した重合体を用いる。本発明では該コモノマーとしてラジカル重合性を有する不飽和化合物、好ましくは含フッ素不飽和化合物が選択される。具体的には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、パーフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、パーフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン)、パーフルオロ(4−メトキシ−1,3−ジオキソール)等が挙げられる。特に、テトラフルオロエチレンが好ましく採用される。
【0016】
これらのコモノマーに加えてさらに、プロピレン、ヘキサフルオロプロピレン等のパーフルオロ−α−オレフィン類、(パーフルオロブチル)エチレン等の(パーフルオロアルキル)エチレン類、3−パーフルオロオクチル−1−プロペン等の(パーフルオロアルキル)プロペン類、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類(アルキル基は直鎖構造でも分岐構造でもよく、またエーテル結合性の酸素原子を含有していてもよい。)等を共重合させてもよい。
【0017】
パーフルオロアルキルビニルエーテル類としては、CF2=CF−(OCF2CFY)q−O−Rfで表されるパーフルオロビニルエーテルが好ましい。ただし、式中、Yはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、qは0〜3の整数であり、Rfは炭素数1〜12の、直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基である。
【0018】
CF2=CF−(OCF2CFY)q−O−Rfで表されるパーフルオロビニルエーテルの好ましい例としては、式5〜7の化合物が挙げられる。ただし、式5〜7において、eは1〜8の整数であり、fは1〜8の整数であり、gは2又は3である。
【0019】
【化2】
Figure 0004714957
【0020】
本発明における含フッ素重合体において、基本骨格を架橋する架橋部位は、通常、架橋部位を有するラジカル重合性の含フッ素不飽和化合物を共重合することにより導入される。該含フッ素不飽和化合物はフッ素含有量が多いものが好ましく、特にパーフルオロ化合物であることが好ましい。該含フッ素不飽和化合物が共重合された重合体は、熱処理などにより架橋できる。また必要に応じて架橋剤を混合してもよい。含フッ素不飽和化合物の具体例としては、以下の6種のものが例示される。
【0021】
第1に、二重結合を2個有するパーフルオロ不飽和化合物が挙げられ、具体的には式8〜15の化合物等が好ましく挙げられる。なかでも式13〜15の化合物は、反応性の異なる二重結合を有しており、パーフルオロビニロキシ基の側が重合してももう一方の二重結合の重合反応性はそれよりも小さいため重合時には反応せずに架橋部位として容易に樹脂中に導入できる。
【0022】
ただし、式中、hは2〜8の整数であり、iとjはそれぞれ独立に1〜5の整数であり、kは0〜6の整数であり、rは0〜5の整数である。また、sは1〜8の整数であり、tは2〜5の整数であり、uは0〜5の整数である。
【0023】
【化3】
Figure 0004714957
【0024】
【化4】
Figure 0004714957
【0025】
第2に、臭素原子を有するパーフルオロエテン又はパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(アルキル鎖はエーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい)が挙げられ、具体的には式16〜18の化合物等が好ましく挙げられる。なお、式16〜18及び後述する式19〜31において、v、wはそれぞれ独立に1〜5の整数である。
【0026】
【化5】
Figure 0004714957
【0027】
第3に、カルボン酸基、カルボン酸塩基又はカルボン酸エステル基(アルコキシカルボニル基等)を有するポリフルオロエテン又はポリフルオロ(アルキルビニルエーテル)(アルキル鎖はエーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい)が挙げられ、具体的には式19〜21の化合物等が好ましく挙げられる。ただし、式中、Mは炭素数1〜5のアルキル基、水素原子、アルカリ金属(リチウム、カリウム、ナトリウム)原子又はNH4である。
【0028】
【化6】
Figure 0004714957
【0029】
第4に、水酸基を有するポリフルオロエテン又はポリフルオロ(アルキルビニルエーテル)(アルキル鎖はエーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい)が挙げられ、具体的には式22〜24の化合物等が好ましく挙げられる。
【0030】
【化7】
Figure 0004714957
【0031】
第5に、シアノ基を有するパーフルオロエテン又はパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(アルキル鎖はエーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい)が挙げられ、具体的には式25〜29の化合物等が好ましく挙げられる。
【0032】
【化8】
Figure 0004714957
【0033】
第6に、シアナト基を有するポリフルオロエテン又はポリフルオロ(アルキルビニルエーテル)(アルキル鎖はエーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい)が挙げられ、具体的には式30〜31の化合物等が好ましく挙げられる。ただし、式中Zは水素原子又はトリフルオロメチル基である。
【0034】
【化9】
Figure 0004714957
【0035】
本発明において、電極に含まれるイオン交換樹脂の製造方法としては、通常、含フッ素オレフィン重合体の製造に用いられる乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合のいずれも好ましく採用できる。重合はラジカルが生起する条件で行われ、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、通常のラジカル重合で用いられるラジカル開始剤を添加する方法が一般的である。重合温度は通常−20℃〜150℃程度である。
【0036】
ラジカル開始剤としては、例えばビス(フルオロアシル)パーオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)パーオキシド類、ビスアルキルパーオキシジカーボネート類、ジアシルパーオキシド類、パーオキシエステル類、アゾ化合物類、過硫酸塩類等が挙げられる。
【0037】
溶液重合では、取り扱い性の観点から使用する溶媒の沸点は、通常は20〜350℃、特に40〜300℃が好ましい。上記溶液重合において使用可能な溶媒としては、例えば、下記のものが挙げられる。
パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン等のポリフルオロトリアルキルアミン化合物。
【0038】
パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロドデカン、パーフルオロ−2,7−ジメチルオクタン、2H,3H−パーフルオロペンタン、1H−パーフルオロヘキサン、1H−パーフルオロオクタン、1H−パーフルオロデカン、1H、4H−パーフルオロブタン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロヘキサン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクタン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロデカン、3H,4H−パーフルオロ−2−メチルペンタン、2H,3H−パーフルオロ−2−メチルペンタン、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のフルオロアルカン化合物。
【0039】
ヘキサフルオロプロペンの2量体、ヘキサフルオロプロペンの3量体等、分子の内側に二重結合を有するポリフルオロ化合物。パーフルオロデカリン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ−1,2−ジメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、パーフルオロジメチルシクロブタン等のポリフルオロシクロアルカン化合物。パーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のポリフルオロ環状エーテル化合物。
【0040】
n−C37OCH3、n−C37OCH2CF3、n−C37OC25、n−C49OCH3、i−C49OCH3、n−C49OC25、i−C49OC25、n−C49OCH2CF3、n−C511OCH3、n−C613OCH3、n−C511OC25、CF3OCF(CF3)CF2OCH3、CF3OCHFCH2OCH3、CF3OCHFCH2OC25等のヒドロフルオロエーテル類。その他、フッ素含有低分子量ポリエーテル、t−ブタノール等も使用できる。
【0041】
上述の溶媒は、単独又は複数を混合して使用できるが、これら以外にも広範な化合物を使用できる。
また、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン等のクロロフルオロカーボン類も技術的には使用できるが、地球環境保護の観点から、その使用は好ましくない。このほか、液体又は超臨界の二酸化炭素を用いて重合することもできる。
また、懸濁重合、乳化重合の場合は、水又は水と上述の溶媒との混合溶媒が用いられる。
【0042】
電極に含まれるイオン交換樹脂のスルホン酸基の濃度に依存するイオン交換容量は、使用するモノマーによって合成可能な範囲が異なる。合成可能な範囲は、スルホン酸基又はその前駆体基である−SO2F基を有するモノマーの分子量の影響を大きく受けるが、0.5〜4ミリ当量/g乾燥樹脂とすることが好ましい。0.5ミリ当量/g乾燥樹脂未満では電気抵抗が大きくなる。一方、4ミリ当量/g乾燥樹脂を超える、スルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの合成は困難である。燃料電池の性能を高めるにはイオン交換容量が大きい方が好ましく、1.0〜4.0ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましい。
【0043】
一方、電極に含まれるイオン交換樹脂は、架橋部位を含有する重合単位の含有量が、重合体中0.1〜50mol%であることが好ましい。0.1mol%未満では架橋による強度の向上効果が少なく、50mol%を超える場合には架橋された樹脂が脆弱となる。より好ましくは0.5〜30mol%である。
【0044】
スルホン酸基を有する含フッ素重合体は通常、−SO2Fを有する単量体を用いて合成する。例えばNaOHやKOH等のアルカリ金属の水酸化物等を水、又はメタノール、エタノール等のアルコール類やジメチルスルホキシド等の極性溶媒と水との混合溶媒に溶解した溶液中で、−SO2Fは加水分解された後、塩酸や硫酸等の水溶液により酸型化される。例えばKOH水溶液により加水分解される場合は−SO2Fが−SO3Kに変換され、その後カリウムイオンがプロトンに置換されることで−SO3Hとなり目的のイオン交換樹脂が得られる。
【0045】
上記の酸型化処理は樹脂架橋の前に行っても架橋の後に行ってもよい。加水分解及び酸型化は通常0℃〜120℃の範囲の温度で行われる。これらの処理において樹脂が液に濡れにくい場合は、あらかじめ樹脂をメタノールやエタノール、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒で濡らしておくとよい。
【0046】
本発明では、酸化剤極はイオン交換樹脂を溶媒に溶解した溶液を用いて作製されることが好ましい。ここで使用するイオン交換樹脂は、架橋されたものであってもよいが、通常は溶媒に溶解しにくい。したがって、架橋前で、架橋性基を有しているイオン交換樹脂を溶媒に溶解した溶液により酸化剤極の層を形成し、その後後述する処理などにより架橋することが好ましい。イオン交換樹脂を溶解させる溶媒は特に制限されないが、例えば下記のものが例示される。
【0047】
メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類。
2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−1−ペンタノール等の含フッ素アルコール。
【0048】
パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロ−2−n−ブチルテトラヒドロフラン等のパーフルオロ含酸素又は含窒素化合物、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン等のクロロフルオロカーボン類、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等のハイドロクロロフルオロカーボン類の他、N,N−ジメチルホルムアミドやN,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリジノン、水等の極性溶媒が使用できる。これらの溶媒は単独で用いてもよいが、2種以上混合して用いてもよい。単独で使用する場合は、含フッ素又は非フッ素系アルコール系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミドやN,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリジノン等の極性溶媒が好ましく用いられる。
【0049】
溶液の溶質濃度は、溶液全質量の0.3〜30%が好ましい。0.3%未満では、溶媒を揮発させるために時間がかかり、時間短縮する場合は高温加熱が必要となるので好ましくない。30%を超えると溶液粘度が高くなり成形性が悪くなる。また得られる電極において触媒を被覆する樹脂の分散状態が悪くなり電池性能が低下するので好ましくない。2〜10%の濃度の場合、特に好ましい。
【0050】
本発明におけるパーフルオロカーボン重合体の架橋方法は、通常、高分子材料の架橋に用いられる方法である、加熱、放射線照射、電子線照射、光照射等が採用されるが、加熱架橋法が装置の入手しやすさや取扱いの容易さ等の点で好ましい。架橋反応を促進させるうえで過酸化物等のラジカル開始剤、トリアリルイソシアヌレート、ビスフェノール、ビスフェノールAF等の架橋剤を添加して加熱する方法を採用することもできる。必要に応じて、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の助剤を添加してもよい。
【0051】
式25〜29のようなシアノ基を有する化合物や式30〜31のようなシアナト基を有する化合物を含んで共重合された共重合体を用いる場合には、別途に触媒を添加する必要はないが、必要に応じて硬化触媒として、ルイス酸類、プロトン酸類、テトラフェニルスズ、水酸化トリフェニルスズ、(C715COO)2Zn等のカルボン酸の遷移金属塩類、カルボン酸のアンモニウム塩類、過酸化物、アミン類、アミジン類、イミドイルアミジン構造を有する化合物類等から選ばれる1種以上を用いてもよい。
【0052】
また、アンモニア又はアミン系化合物の活性水素の一部又は全部を他の官能基で保護したブロックドアミン化合物を触媒として添加することもできる。必要に応じて、架橋後にスルホン酸基の酸型化処理が行われる。熱硬化の温度は通常100〜400℃、好ましくは150〜350℃の温度範囲で行われる。処理時間は0.1分〜2日間、特に0.5分〜3時間が好ましい。加熱方法としては、オーブン加熱、熱プレス、赤外線加熱、高周波加熱等の方法が採用される。ポリマーの劣化を防止するため、窒素等の不活性ガス雰囲気下での処理も好ましい。
【0053】
架橋性基を有するイオン交換樹脂の溶液は、通常の手法により白金触媒微粒子を担持させた導電性のカーボンブラック粉末を混合して分散させ、以下のいずれかの方法で膜−電極接合体を得ることが好ましい。第1の方法は、カチオン交換膜の片面に上記分散液を塗布し、膜のもう一方の面には燃料極を形成するための塗工液を塗布し、乾燥後2枚のカーボンクロス又はカーボンペーパーに密着させる方法である。第2の方法は、上記分散液をカーボンクロス又はカーボンペーパー上に塗布したものと、燃料極を形成するための塗工液をカーボンクロス又はカーボンペーパー上に塗布したものとを、乾燥後それぞれカチオン交換膜の両面に密着させる方法である。
【0054】
本発明における燃料極は特に限定されず、酸化剤極と同じであっても異なっていてもよい。燃料極も触媒とイオン交換樹脂とを含むことが好ましいが、酸化剤極のように電極反応により水が生成することはないので、イオン交換樹脂は必ずしも架橋されたものでなくてもよい。
【0055】
本発明における燃料極及び酸化剤極に含まれる触媒とイオン交換樹脂とは、質量比で触媒:イオン交換樹脂=40:60〜95:5であることが、電極の導電性と水の排出性の観点から好ましい。なお、ここでいう触媒は、カーボン等の担体に担持された担持触媒の場合は担体の質量を含む。
【0056】
得られた膜−電極接合体は、燃料ガス又は酸化剤ガスの通路となる溝が形成され導電性カーボン板等からなるセパレータの間に挟まれ、セルに組み込まれる。
水素ガス燃料電池では、陽極側に水素ガスが供給され、陰極側には酸素又は空気が供給される。反応は陰極ではH2→2H++2e-、陽極では1/2O2+2H++2e-→H2Oで、化学エネルギが電気エネルギに変換される。
【0057】
【実施例】
以下に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0058】
[例1(実施例)]
[スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン系イオン交換樹脂の合成]
内容積200mlのステンレス鋼製オートクレーブに、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート128mg、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F(以下、PSVEという)139.6g及びCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF=CF2(以下、PGBVという)20.3gを仕込んだ。次いでオートクレーブ内を窒素で充分に置換した後、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという)を仕込んで40℃にて重合を開始した。重合中は系外からTFEを導入することによりオートクレーブ内の圧力をゲージ圧で0.4MPaに保持した。
【0059】
10時間後に未反応のTFEをパージして重合を終了させ、得られたポリマー溶液中のポリマーをメタノールで凝集し、洗浄、乾燥させてTFE/PSVE/PGBV共重合体を得た。NMRと滴定によりポリマーを分析した。イオン交換容量は1.3ミリ当量/g乾燥樹脂であり、上記共重合体中の(TFEに基づく重合単位)/(PSVEに基づく重合単位)/(PGBVに基づく重合単位)のモル比は6927であった。また、高化式フローテスター(島津製作所社製)で上記共重合体を0.3MPaの加圧下で、径1mm、長さ1mmのオリフィスから溶融流出させたところ、容量流速が100mm3/秒になる温度は180℃であった。
【0060】
上記共重合体をKOH水溶液で加水分解し、塩酸中に浸漬後イオン交換水で洗浄することでパーフルオロカーボンスルホン酸型イオン交換樹脂を得た。
【0061】
[燃料電池の作製及び性能の評価]
上記で得られたイオン交換樹脂を70℃でエタノールに溶解し、溶質が全質量の10%濃度の溶液を得た。この溶液を用いて、上記イオン交換樹脂と白金担持カーボンの質量比が1:3となるように白金担持カーボンを該溶液中に混合分散させ、これを塗工液としてカーボン布上に塗工し、乾燥して厚さ10μm、白金担持量0.5mg/cm2のガス拡散電極層を形成した。
【0062】
一方、TFE/PSVE共重合体(イオン交換容量1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を押出し製膜し、加水分解、酸型化、水洗を行って、膜厚50μmのパーフルオロスルホン酸膜を得た。この膜を、上記ガス拡散電極2枚の間に挟み、平板プレス機を用いてプレスし、さらに220℃で2時間加熱して架橋させて膜−電極接合体を作製した。
【0063】
この膜−電極接合体の外側にチタン製の集電体、さらにその外側にPTFE製のガス供給室、さらにその外側にヒーターを配置し、有効膜面積9cm2の燃料電池を組み立てた。
【0064】
燃料電池の温度を80℃に保ち、酸化剤極に酸素、燃料極に水素をそれぞれ2気圧で供給した。電流密度1A/cm2のときの端子電圧を測定したところ、端子電圧は0.60Vであった。また、1000時間運転後の端子電圧は0.58Vであった。
【0065】
[例2(比較例)]
内容積200mlのステンレス鋼製オートクレーブに、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート256mg、PSVE160gを仕込んだ。次いでオートクレーブ内を窒素で充分に置換した後、TFEを仕込んで40℃にて重合を開始した。重合中は系外からTFEを導入することによりオートクレーブ内の圧力をゲージ圧で0.62MPaに保持した。6時間後に未反応のTFEをパージして重合を終了させ、得られたポリマー溶液中のポリマーをメタノールで凝集し、洗浄、乾燥させてTFE/PSVE共重合体を得た。
【0066】
上記共重合体のイオン交換容量は1.3ミリ当量/g乾燥樹脂であった。また、高化式フローテスター(島津製作所)で上記共重合体を0.3MPaの加圧下で、径1mm、長さ1mmのオリフィスから溶融流出させたところ、容量流速が100mm3/秒になる温度は185℃であった。
【0067】
上記共重合体を用い、例1と同様に加水分解、酸型化処理した後、例1と同様にしてイオン交換ポリマー溶液を調製した。得られた溶液を用いて例1と同様に燃料電池を組み立て、評価した。電流密度1A/cm2のときの端子電圧を測定したところ、端子電圧は0.60Vであったが、1000時間運転後の端子電圧は0.42Vに低下した。
【0068】
【発明の効果】
本発明における電極用被覆樹脂は、スルホン酸基を有するフルオロカーボン重合体が架橋されているため、高イオン交換容量の樹脂としても燃料電池の作動によって樹脂が膨潤しにくく、電池を長期間使用しても性能劣化が少ない。

Claims (4)

  1. 触媒とイオン交換樹脂とを含有するガス拡散電極からなる燃料極及び酸化剤極と、前記燃料極と前記酸化剤極との間に配置される膜状固体高分子電解質とを有する固体高分子電解質型燃料電池において、前記酸化剤極に含有されるイオン交換樹脂は、スルホン酸基を有する、架橋された含フッ素重合体からなり、前記含フッ素重合体は、CF 2 =CF 2 とCF 2 =CF(OCF 2 CFX) m −O p −(CF 2 n SO 2 F(ただし、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数、nは0〜12の整数、pは0又は1であり、nが0のときはpも0である。)と二重結合を2個有するパーフルオロ不飽和化合物との共重合体の−SO 2 Fをスルホン酸基に変換した共重合体を基本骨格とし、二重結合を2個有するパーフルオロ不飽和化合物に基づく重合単位を反応させて架橋されたものであり、二重結合を2個有するパーフルオロ不飽和化合物に基づく重合単位の含有量が、重合体中0.1〜50mol%であることを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池。
  2. 前記含フッ素重合体は、共有結合で架橋されている請求項1に記載の固体高分子電解質型燃料電池。
  3. 前記含フッ素重合体のイオン交換容量は、0.5〜4ミリ当量/グラム乾燥樹脂である請求項1又は2に記載の固体高分子電解質型燃料電池。
  4. 前記酸化剤極には、触媒とイオン交換樹脂とが質量比で40/60〜95/5含まれる請求項1、2又は3に記載の固体高分子電解質型燃料電池。
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