JP4788069B2 - 繊維製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、絹繊維からなる繊維製品の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
絹繊維製品は、光沢及び風合い等に優れた高級な繊維製品として、古くから広く愛用されている。しかし、絹繊維製品は高価であるばかりでなく、磨耗性が比較的弱く、皺になり易いなどの欠点があるため、取り扱いに注意を要するものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる絹繊維製品の欠点を改良し、絹繊維独特の風合いや吸湿性等を保持した状態で、より光沢に優れ、しかも取り扱い易い繊維製品を提供することを課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、比重が比較的軽く、また屈折率が低いため優れた光沢を有するポリ乳酸系繊維に着目し、これを絹繊維と併用することにより、上記課題を解決した。
【0005】
即ち、本発明の繊維製品は、絹繊維とポリ乳酸系繊維を併用した繊維構造物、例えば織物、編物、不織布及びそれらの縫製品等である。
【0006】
絹繊維とポリ乳酸系繊維はいずれも、絹独特のシルキー感とポリ乳酸の独特の光沢が引き立てあうといった点で、フィラメント糸として使用されるのが好ましく、その併用割合は、重量比率で20〜80:80〜20程度でよく、特に30〜70:70〜30であるのが好ましい。
【0007】
また、絹繊維とポリ乳酸系繊維は、繊維構造物全体にほぼ均一に混在するようにするのが好ましく、例えば、織物では、絹繊維を経糸及び緯糸の一方に使用し、他方にポリ乳酸系繊維を使用したり、又は経糸及び/又は緯糸に絹繊維とポリ乳酸系繊維を1〜数本ずつ交互に使用したりするのがよく、また、編物では、2枚以上の筬を使用したトリコットに絹繊維とポリ乳酸系繊維を組み合わせて使用したりするのがよい。
【0008】
本発明では、絹繊維を20〜200デシテックス(以下dtexと記載する)程度の糸として、またポリ乳酸系繊維を30〜300dtex程度の糸として使用するのが好ましく、例えば、織物としては細い絹繊維糸を経糸に使用し、緯糸に太いポリ乳酸系繊維糸を使用するのが好ましい。この場合、製織時の毛羽立ちや糸切れが少なく織り易く、また、緯糸のポリ乳酸系繊維糸が、織物の表面に強く露出するため、色鮮やかな光沢ある製品を得ることができる。より鮮やかな光沢を得るためには、ポリ乳酸系繊維糸の太さは、絹繊維糸の1.2倍以上が好ましく、より好ましくは1.5倍以上、特に好ましくは2.0倍以上である。但し、肌触りの面からは8.0倍以下が好ましく、より好ましくは6.0倍以下、特に好ましくは4.0倍以下である。
【0009】
なお、本発明で使用するポリ乳酸系繊維は、乳酸モノマー単独からなるポリ乳酸繊維だけでなく、他の成分をブレンドまたは共重合して得た繊維であってもよい。但し、製品全体に生分解性を付与する場合には、他の生分解性ポリマー又はその原料モノマー、オリゴマーを用いるのがよく、非分解性原料を使用する場合は、生分解性を害しない量にとどめると良い。
【0010】
本発明で用いられるポリ乳酸系繊維は、比重が絹繊維の1.34よりも軽く、軽量感を発揮するのに役立っている。また、光の屈折率(Refractive Index) が絹繊維の1.54よりも小さいため、光沢感に寄与している。
【0011】
従って、ポリ乳酸系繊維の原料となるポリ乳酸系重合体には、ポリ乳酸の光学異性体比率や共重合成分の種類や重合比率により、色々なバリエーションがあるが、軽量感をより発揮するためには、原料となるポリ乳酸の比重が、1.30以下のものが好ましく、更に好ましくは、1.27以下、中でも、1.26以下であることが好ましい。また、光沢感を上げる観点からは、光の屈折率が1.50以下であることが好ましく、更に好ましくは1.47以下、特に好ましくは1.46以下である。
【0012】
本発明のポリ乳酸系繊維に用いるポリ乳酸は直鎖状の構造を有するのが好ましい。すなわち分岐構造を殆ど持たないものが、絹繊維との交編、交織の際に、糸切れが少ない点でも好ましい。
【0013】
分岐構造を排する為には、ポリマーの原料に分岐構造を生成させるもの、3価、4価のアルコールやカルボン酸等を一切利用しないのが良いが、何らかの別の理由でこれらの構造を持つ成分を使用する場合であっても、紡糸操作性に影響を及ぼさない必要最小限度の量にとどめることが肝要である。
【0014】
本発明に用いるポリ乳酸はL−乳酸、D−乳酸あるいは乳酸の2量体であるL−ラクチドやD−ラクチドあるいはメソラクチドを原料とするものであるが、L−体の比率が95%以上のものであることが好ましい。引っ張り強度が上昇するからである。なお、ポリ乳酸繊維がマルチフィラメントである場合には、L−体の比率が98%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明に用いるポリ乳酸は、ポリマー中の錫(Sn)の含有量が30ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは20ppm以下である。Sn系の触媒はポリ乳酸の重合触媒として使用されるが、30ppm以下で紡糸操業性が著しく上昇するからである。
【0016】
Snの量を少なくする為には、重合時に使用する量を少なくしたり、チップを適当な液体で洗浄すればよい。
【0017】
本発明に用いるポリ乳酸は、モノマーの含有量が0.5重量%以下が好ましく、更に好ましくは0.4重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下である。本発明にいうモノマーとは、後述するGPC分析により算出される分子量1000以下の成分である。モノマー量が0.5重量%以下で、特に操業性がよいからである。これはモノマー成分が熱により分解するため、ポリ乳酸の耐熱性を低下させるからであると考えられる。
【0018】
ポリ乳酸中のモノマー量を少なくするためには、重合反応完了間際に反応槽を真空吸引して未反応のモノマーを取り除く、重合チップを適当な液体で洗浄する、固相重合を行うなどの方法を実施するのがよい。
【0019】
本発明に用いるポリ乳酸は、その重量平均分子量Mwが好ましくは12万〜22万であり、数平均分子量Mnが好ましくは6万〜11万である。分子量がこの範囲にあると優れた紡糸性、十分な引っ張り強度を得ることができるからである。
【0020】
本発明に用いるポリ乳酸は、その相対粘度(ηrel)が2.7〜3.9であることが好ましく、更に好ましくは2.9〜3.3、特に好ましくは3.0〜3.2である。この範囲では、ポリマーの耐熱性が良くなり、十分な引っ張り強度を得ることができるからである。
【0021】
相対粘度は、紡糸による低下率が低い程よく、例えばマルチフィラメントの場合、粘度低下率は7%以下であることが好ましい。7%以下の場合、紡糸時のポリマーの分解が殆ど無く、紡糸時の糸切れ等の発生もないため紡糸性がよく、延伸工程での引っ張り強度も特に強くなるからである。
【0022】
製造した糸の引っ張り強度としては、4g/d以上を達成していることが、実生産上は、好ましい。
【0023】
本発明で用いられるポリ乳酸系繊維としては、具体的にはマルチフィラメント、ステープルファイバー、スパンボンド、モノフィラメント、フラットヤーン等が挙げられるが、特に、マルチフィラメントとすることが、通常問題となる単糸切れによる毛羽の発生が殆ど見られない、また、絹繊維と交編、交織が容易であるという特徴を有するため、効果的である。
【0024】
本発明で用いられるポリ乳酸系繊維を得る方法は、従来公知の溶融紡糸法による。紡糸条件は、上に挙げた繊維の種類によって適宜選択すればよい。
【0025】
前述のような樹脂を用いてポリ乳酸系繊維を製造すれば、操業性と繊維物性に優れる生分解性繊維を得ることができる。すなわち、耐熱性に優れ熱劣化による紡糸性低下がなく、口金寿命も十分に長く、糸切れが発生せず、さらに毛羽立ちがなく、強度、伸度、沸収等の物性値がポリエステル、ナイロン繊維並みであるポリ乳酸系繊維を得ることができ、絹繊維との交編、交織の操業性に優れるという利点がある。
【0026】
<分子量><モノマー量>
試料を10mg/mLの濃度となるようにクロロホルムに溶かす。クロロホルムを溶媒としてGPC分析を行い、MwとMnを測定した。検出器はRIを用い、分子量の標準物質としてポリスチレンを用いた。
なお、分子量1000以下の成分の割合からポリマー中のモノマー量を算出した。
【0027】
<相対粘度ηrel>
フェノール/テトラクロロエタン=60/40の混合溶媒に試料を1g/dlの濃度となるように溶解し、20℃でウベローデ粘度管を用いて、相対粘度を測定した。
【0028】
<Sn含有量>
0.5gの試料を硫酸/硝酸により湿式灰化した。これを水で希釈して50mLとし、ICP発光分析法により測定した。
【0029】
<紡糸時粘度低下率>
紡糸ノズルから出てきたフィラメントの相対粘度(ηrel)を測定し、次式により求めた。本実施例における溶融ポリマーの滞留時間は約10分である。
紡糸時粘度低下率(%)={(ポリマー相対粘度−フィラメントの相対粘度)/ポリマー相対粘度}×100
【0030】
なお、絹繊維とポリ乳酸系繊維は染色性が異なるので、本発明では、必要に応じて、それぞれ予め染色したものを組み合わせて使用するのが好ましい。
【0031】
かかる本発明の繊維製品は、従来の絹繊維製品と同様、ネクタイ、衣類(ブラウス、シャツ、コート、ジャケット等)、着物、和装小物、バッグ、布団地等に風合い及び光沢に優れた、高級感ある製品として広く利用できるものとなる。
【0032】
即ち、本発明の繊維製品は、絹繊維独特の風合いや吸湿性を維持するものであるが、光の屈折率が絹繊維よりも低いポリ乳酸系繊維の併用により、絹繊維単独からなる製品よりも、光沢と色鮮やかさを表現でき、また、ポリ乳酸系繊維の比重が軽いため、軽量な製品となり、衣料、ネクタイ等に使用した場合に、着用感がなく、肩の凝らないものとなる。
【0033】
更に、ポリ乳酸系繊維が形態安定性に優れるため、本発明の繊維製品(ネクタイ等)を締めつけた場合、皺がつきにくく、しかも、ゆるみのない確実な締めつけができ、安定した着用が可能となる。
【0034】
また、ポリ乳酸系繊維の併用により、絹繊維単独の場合より、清涼感やドライタッチ性に優れた製品を得ることができ、摩擦による毛羽立ちも少なく、耐久性よく、新鮮な外観を保つものとなる。
なお、絹繊維は生分解性ある天然繊維であるが、ポリ乳酸系繊維も生分解可能であるため、本発明の繊維製品は、生分解可能なものとして、廃棄物処理の問題を生ずることなく使用できるものとなる。
【0035】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施例を示すが、これによって本発明が限定されるものではない。
実施例1
経糸に23dtex/2諸(46dtexに相当する)の絹糸−下撚Z1200T/M、上撚S1100T/M−で、精練後、含金染料でクリーム糸に染色したものを使用し、緯糸に56dtex/48fのポリ乳酸系繊維の加工糸を、分散染料で黄色と紫に染色したものと、白色のものの3種を使用し、レピア織機によるジャガード織で、破れ斜文織に製織した(経糸密度:248本/インチ、緯糸密度131本/インチ)。
なお、ポリ乳酸系繊維に用いたポリ乳酸は、直鎖状、L体98.7%のホモポリマーで、Sn含有量18ppm、モノマー含有量0.27重量%、Mw14.6×104 、Mn7.2×104 、相対粘度3.02、紡糸時粘度低下率3%であった。また、ポリ乳酸系繊維の引っ張り強度は5.02g/dであった。
【0036】
比較例1
実施例1の緯糸を、23dtex/3片(69dtexに相当する)の絹糸−S150−を、精練後、実施例1の緯糸と同様に染色したものと、白色のものの3種として以外は、実施例1と同様の方法で破れ斜文織に製織した。
【0037】
次いで、実施例1で得た織物と比較例1で得た織物でネクタイを製造し、その外観や着用性等を試験した。その結果を、表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
また、実施例1と比較例1の織物の染色堅牢度を試験した。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
更に、実施例1と比較例1の織物の毛羽、ピリング試験を行った結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
いずれも4〜5級を示したが、実施例1では比較例1のような糸抜けが無かった。
【0044】
実施例2
経糸に生糸とポリ乳酸系繊維糸を使用し、緯糸に生糸(強撚糸)とポリ乳酸系繊維糸を使用して、紋風通白生地ちりめんを製造し、これにボカシ染を施した。得られた製品は、ちりめん生地でありながら、軽やかで、光沢に優れた清涼感あるもので、高級感ある着用し易い服地として使用できた。
【0045】
実施例3
絹糸とポリ乳酸系繊維糸を使用して2枚筬でプレントリコットを製造した。得られた編物は、軽やかで、光沢に優れた清涼感あるもので、非常に着心地の良い下着に縫製できた。
【0046】
【発明の効果】
本発明では、絹繊維とポリ乳酸系繊維を併用することによって、絹繊維独特の風合いや吸湿性等を保持した状態で、より光沢に優れ、しかも軽やかで、防皺性等を有する、扱い易い高級感ある繊維製品を比較的安価に得ることができる。
なお、本発明の製品は生分解可能であるので、廃物処理も容易である。
Claims (5)
- 絹繊維及びポリ乳酸系繊維を併用してなり、ポリ乳酸系繊維糸の太さは、絹繊維糸の1.2倍以上8.0倍以下であり、経糸及び緯糸のいずれか一方に絹繊維を使用し、他方にポリ乳酸系繊維を使用した織物であることを特徴とする繊維製品。
- ポリ乳酸は、ポリマー中の錫(Sn)の含有量が30ppm以下であることを特徴とする請求項1の繊維製品。
- 絹繊維及びポリ乳酸系繊維がフィラメント糸として使用されている請求項1または2の繊維製品。
- 絹繊維及びポリ乳酸系繊維を含む布帛の縫製品である請求項1〜3いずれか1項の繊維製品。
- 前記縫製品がネクタイである請求項4の繊維製品。
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