以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る電子部品の製造方法により製造される積層セラミックコンデンサの概略断面図、
図2(A)〜図2(C)および図3(A)〜図3(C)は、グリーンシートと電極パターン層との積層工程の一例を示す要部断面図、
図4(A)は電極パターン層と余白パターン層との接触端部において発生する凹凸部の幅および深さを示す要部断面図、図4(B)はスクリーン製版の重なりを示す概略図、
図5(A)〜図5(C)は電極パターン層と余白パターン層との接触端部において発生する凹凸部の態様を示す要部断面図、
図6は内部電極端部の屈曲を示す素子本体の概略断面図である。
積層セラミックコンデンサの全体構成
まず、本発明に係る電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体4と、第1端子電極6と第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、誘電体層10と、内部電極層12とを有し、誘電体層10の間に、これらの内部電極層12が交互に積層してある。交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の一方の端部の外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の他方の端部の外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある。
本実施形態では、内部電極層12は、後で詳細に説明するように、転写法により形成される。
誘電体層10の材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。各誘電体層10の厚みは、特に限定されないが、数μm〜数百μmのものが一般的である。特に本実施形態では、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、特に好ましくは1.5μm以下に薄層化されている。
端子電極6および8の材質も特に限定されないが、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。端子電極6および8の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦(0.6〜5.6mm、好ましくは0.6〜3.2mm)×横(0.3〜5.0mm、好ましくは0.3〜1.6mm)×厚み(0.1〜1.9mm、好ましくは0.3〜1.6mm)程度である。
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。
まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を構成することになるセラミックグリーンシートを製造するために、誘電体ペースト(グリーンシート用ペースト)を準備する。
誘電体ペーストは、誘電体原料(セラミック粉体)と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。
誘電体原料としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。誘電体原料は、通常、平均粒子径が0.4μm以下、好ましくは0.1〜3.0μm程度の粉体として用いられる。なお、きわめて薄いグリーンシートを形成するためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
有機ビヒクルとは、バインダ樹脂を有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いられるバインダ樹脂としては、本実施形態では、ポリビニルブチラール樹脂が用いられる。そのポリビニルブチラール樹脂の重合度は、1000以上1700以下であり、好ましくは1400〜1700である。また、樹脂のブチラール化度が64%より大きく78%より小さく、好ましくは64%より大きく70%以下であり、その残留アセチル基量が6%未満、好ましくは3%以下である。
ポリビニルブチラール樹脂の重合度は、たとえば原料であるポリビニルアセタール樹脂の重合度で測定されることができる。また、ブチラール化度は、たとえばJISK6728に準拠して測定されることができる。さらに、残留アセチル基量は、JISK6728に準拠して測定されることができる。
有機ビヒクルに用いられる有機溶剤は、特に限定されず、たとえばテルピネオール、アルコール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエンなどの有機溶剤が用いられる。本実施形態では、有機溶剤としては、好ましくは、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤とを含み、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤との合計質量を100質量部として、芳香族系溶剤が、10質量部以上20質量部以下含まれる。芳香族系溶剤の含有量が少なすぎると、シート表面粗さが増大する傾向にあり、多すぎると、ペースト濾過特性が悪化し、シート表面粗さも増大して悪化する。
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが例示される。芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸ベンジルなどが例示される。
誘電体ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、帯電除剤、誘電体、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されても良い。
この誘電体ペーストを用いて、ドクターブレード法などにより、たとえば図3(A)に示すように、キャリアシート30上に、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは0.5〜10μm程度の厚みで、グリーンシート10aを形成する。グリーンシート10aは、キャリアシート30に形成された後に乾燥される。グリーンシート10aの乾燥温度は、好ましくは50〜100°Cであり、乾燥時間は、好ましくは1〜20分である。乾燥後のグリーンシート10aの厚みは、乾燥前に比較して、5〜25%の厚みに収縮する。乾燥後のグリーンシートの厚みは、好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm未満である。
上記のキャリアシート30とは別に、図2(A)に示すように、第1支持シートとしてのキャリアシート20を準備し、その上に、剥離層22を形成し、その上に、所定パターンの電極パターン層12aを形成し、その前後に、その電極パターン層12aが形成されていない剥離層22の表面に、電極パターン層12aと実質的に同じ厚みの余白パターン層24を形成する。
キャリアシート20および30としては、たとえばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどが用いられ、剥離性を改善するために、シリコーンなどがコーティングしてあるものが好ましい。これらのキャリアシート20および30の厚みは、特に限定されないが、好ましくは、5〜100μmである。これらのキャリアシート20および30の厚みは、同じでも異なっていても良い。
剥離層22は、好ましくは図3(A)に示すグリーンシート10aを構成する誘電体と同じ誘電体粒子を含む。また、この剥離層22は、誘電体粒子以外に、バインダと、可塑剤と、離型剤とを含む。誘電体粒子の粒径は、グリーンシートに含まれる誘電体粒子の粒径と同じでも良いが、より小さいことが好ましい。
剥離層22の塗布方法としては、特に限定されないが、きわめて薄く形成する必要があるために、たとえばワイヤーバーコーターまたはダイコーターを用いる塗布方法が好ましい。
剥離層22のためのバインダとしては、たとえば、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体からなる有機質、またはエマルジョンで構成される。剥離層22に含まれるバインダは、グリーンシート10aに含まれるバインダと同じでも異なっていても良いが同じであることが好ましい。
剥離層22のための可塑剤としては、特に限定されないが、たとえばフタル酸エステル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。剥離層22に含まれる可塑剤は、グリーンシート10aに含まれる可塑剤と同じでも異なっていても良い。
剥離層22のための剥離剤としては、特に限定されないが、たとえばパラフィン、ワックス、シリコーン油などが例示される。剥離層22に含まれる剥離剤は、グリーンシート10aに含まれる剥離剤と同じでも異なっていても良い。
バインダは、剥離層22中に、誘電体粒子100質量部に対して、好ましくは2.5〜200質量部、さらに好ましくは5〜30質量部、特に好ましくは8〜30質量部程度で含まれる。
可塑剤は、剥離層22中に、バインダ100質量部に対して、0〜200質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜100質量部で含まれることが好ましい。
剥離剤は、剥離層22中に、バインダ100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは2〜50質量部、さらに好ましくは5〜20質量部で含まれることが好ましい。
剥離層22をキャリアシート30の表面に形成した後、図2(A)に示すように、剥離層22の表面に、焼成後に内部電極層12を構成することになる電極パターン層12aを所定パターンで形成する。電極パターン層12aの厚さは、好ましくは0.1〜2μm、より好ましくは0.1〜1.0μm程度である。電極パターン層12aは、単一の層で構成してあってもよく、あるいは2以上の組成の異なる複数の層で構成してあってもよい。
電極パターン層12aは、電極ペーストを用いる厚膜形成方法により、剥離層22の表面に形成する。厚膜法の1種であるスクリーン印刷法あるいはグラビア印刷法により、剥離層22の表面に電極パターン層12aを形成するには、以下のようにして行う。
まず、電極ペーストを準備する。電極ペーストは、各種導電性金属や合金からなる導電体材料、あるいは焼成後に上記した導電体材料となる各種酸化物、有機金属化合物、またはレジネート等と、有機ビヒクルとを混練して調製する。
電極ペーストを製造する際に用いる導体材料としては、NiやNi合金さらにはこれらの混合物を用いる。このような導体材料は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合したものであってもよい。また、導体材料の平均粒子径は、通常、0.1〜2μm、好ましくは0.2〜1μm程度のものを用いればよい。
有機ビヒクルは、バインダおよび溶剤を含有するものである。バインダとしては、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体などが例示されるが、特にポリビニルブチラールなどのブチラール系が好ましい。
バインダは、電極ペースト中に、導体材料(金属粉体)100質量部に対して、好ましくは8〜20質量部含まれる。溶剤としては、例えばテルピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等公知のものはいずれも使用可能である。溶剤含有量は、ペースト全体に対して、好ましくは20〜55質量%程度とする。
接着性の改善のために、電極ペーストには、可塑剤が含まれることが好ましい。可塑剤としては、フタル酸ベンジルブチル(BBP)などのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。可塑剤は、電極ペースト中に、バインダ100質量部に対して、好ましくは10〜300質量部、さらに好ましくは10〜200質量部である。なお、可塑剤または粘着剤の添加量が多すぎると、電極パターン層12aの強度が著しく低下する傾向にある。また、電極パターン層12aの転写性を向上させるために、電極ペースト中に、可塑剤および/または粘着剤を添加して、電極ペーストの接着性および/または粘着性を向上させることが好ましい。
剥離層22の表面に、所定パターンの電極ペースト層を印刷法で形成した後、またはその前に、電極パターン層12aが形成されていない剥離層22の表面に、電極パターン層12aと実質的に同じ厚みの余白パターン層24を形成する。
図2(A)に示す余白パターン層24は、余白パターン用ペーストを用いる印刷法などの厚膜形成方法により、剥離層22の表面に形成する事ができる。厚膜法の1種であるスクリーン印刷法により、剥離層22の表面に余白パターン層(図2(A))を形成する場合には、以下のようにして行う。
まず、余白パターン用ペーストを準備する。余白パターン用ペーストは、誘電体原料(セラミック粉末)と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。
余白パターン用ペーストを製造する際に用いる誘電体材料としては、グリーンシート10aを構成する誘電体と同じ誘電体粒子を用いて作製されるが、必ずしも同じである必要はない。余白パターン用ペーストには、誘電体粒子(セラミック粉末)が、ペースト全体に対して30〜50質量部、さらに好ましくは、40〜50質量部の割合で含まれる。セラミック粉末の含有割合が少なすぎるとペースト粘度が小さくなり印刷が困難にある。また、セラミック粉末の含有割合が多すぎると、印刷厚みを薄くすることが困難になる傾向にある。
有機ビヒクルは、バインダおよび溶剤を含有するものである。バインダとしては、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、またはこれらの共重合体などが例示されるが、特にポリビニルブチラールなどのブチラール系が好ましい。
この余白パターン用ペーストに含まれるブチラール系バインダの重合度は、グリーンシート10aを形成するためのペーストに含まれるバインダの重合度と同等以上、好ましくは高く設定してある。例えば、グリーンシート用ペーストに含まれるバインダとしてのポリビニルブチラールの重合度が1000〜1700である場合に、余白パターン用ペーストに含まれるバインダは、1400以上、さらに好ましくは1700以上、特に好ましくは2400以上の重合度を持つポリビニルブチラールまたはポリビニルアセタールである。なかでも、重合度2000以上の重合度をもつポリビニルアセタールが好ましい。
余白パターン用ペーストのバインダが、ポリビニルブチラールである場合、そのブチラール化度が64〜74モル%の範囲にあるものが好ましい。また、ポリビニルアセタールである場合には、そのアセタール化度が66〜74モル%であることが好ましい。
バインダは、余白パターン用ペースト中に、誘電体材料100質量部に対して、好ましくは3〜10質量部含まれる。さらに好ましくは、4〜8質量部含まれる事が好ましい。
溶剤には、例えばテルピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等の公知のものは。いずれも使用可能である。その溶剤含有量は、ペースト全体に対して50〜70質量部程度が好ましい。
また、余白パターン用ペーストには、分散剤、可塑剤および、または粘着剤、帯電除剤、といった各種添加剤が含有されても良い。
分散剤としては、特に限定はないが、たとえば、エステル系重合体、カルボン酸といった高分子材料が用いられ、その含有量は、セラミック粉末100質量部に対して、好ましくは0.25〜1.5質量部、さらに好ましくは0.5〜1.0質量部含有される事が好ましい。
可塑剤としては、特に限定はないが、例えば、フタル酸ベンジルブチル(BBP)などのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが用いられる。その含有量は、バインダ100質量部に対して、10〜200質量部、さらに好ましくは50〜100質量部で含有される事が好ましい。
帯電除剤としては、特に限定はないが、例えば、イミダゾリン系帯電除剤などが用いられ、その含有量は、セラミック粉末100質量部に対して0.1〜0.75質量部、さらに好ましくは0.25〜0.5質量部で含有されることが好ましい。
この余白パターン用ペーストは、図2(A)に示すように、電極パターン層12a間の余白パターン部に印刷される。その後、電極パターン層12aおよび余白パターン層12aは、必要に応じて乾燥される。乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは70〜120°Cであり、乾燥時間は、好ましくは0.5〜5分である。
上記のキャリアシート20および30とは別に、図2(A)に示すように、第3支持シートとしてのキャリアシート26の表面に接着層28が形成してある接着層転写用シートを準備する。キャリアシート26は、キャリアシート20および30と同様なシートで構成される。
接着層28の組成は、離型剤を含まない以外は、剥離層22と同様である。すなわち、接着層28は、バインダと、可塑剤とを含む。接着層28には、グリーンシート10aを構成する誘電体と同じ誘電体粒子を含ませても良いが、誘電体粒子の粒径よりも厚みが薄い接着層を形成する場合には、誘電体粒子を含ませない方がよい。また、接着層28に誘電体粒子を含ませる場合には、その誘電体粒子の粒径は、グリーンシートに含まれる誘電体粒子の粒径より小さいことが好ましい。
可塑剤は、接着層28中に、バインダ100質量部に対して、0〜200質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜100質量部で含まれることが好ましい。
接着層28は、さらに帯電除剤を含み、当該帯電除剤は、イミダゾリン系界面活性剤の中の1つを含み、帯電除剤の重量基準添加量は、バインダ(有機高分子材料)の重量基準添加量以下であることが好ましい。すなわち、帯電除剤は、接着層28中に、バインダ100質量部に対して、0〜200質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは50〜100質量部で含まれることが好ましい。
接着層28の厚みは、0.02〜0.3μm程度が好ましく、しかもグリーンシートに含まれる誘電体粒子の平均粒径よりも薄いことが好ましい。また、接着層28の厚みが、グリーンシート10aの厚みの1/10以下であることが好ましい。
接着層28の厚みが薄すぎると、接着力が低下し、厚すぎると、その接着層の厚みに依存して焼結後の素子本体の内部に隙間ができやすく、その体積分の静電容量が著しく低下する傾向にある。
接着層28は、第3支持シートとしてのキャリアシート26の表面に、たとえばバーコーター法、ダイコータ法、リバースコーター法、ディップコーター法、キスコーター法などの方法により形成され、必要に応じて乾燥される。乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは室温〜80°Cであり、乾燥時間は、好ましくは1〜5分である。
図2(A)に示す電極パターン層12aおよび余白パターン層24の表面に、接着層を形成するために、本実施形態では、転写法を採用している。すなわち、図2(B)に示すように、キャリアシート26の接着層28を、電極パターン層12aおよび余白パターン層24の表面に押し付け、加熱加圧して、その後キャリアシート26を剥がす。これにより、図2(C)に示すように、接着層28を、電極パターン層12aおよび余白パターン層24の表面に転写する。なお、接着層28の転写は、図3(A)に示すグリーンシート10aの表面に対して行っても良い。
転写時の加熱温度は、40〜100°Cが好ましく、また、加圧力は、0.2〜15MPaが好ましい。加圧は、プレスによる加圧でも、カレンダローラによる加圧でも良いが、一対のローラにより行うことが好ましい。
その後に、電極パターン層12aを、図3(A)に示すキャリアシート30の表面に形成してあるグリーンシート10aの表面に接着する。そのために、図3(B)に示すように、キャリアシート20の電極パターン層12aおよび余白パターン層24を、接着層28を介して、グリーンシート10aの表面にキャリアシート20と共に押し付け、加熱加圧して、図3(C)に示すように、電極パターン層12aおよび余白パターン層24を、グリーンシート10aの表面に転写する。ただし、グリーンシート側のキャリアシート30が引き剥がされることから、グリーンシート10a側から見れば、グリーンシート10aが電極パターン層12aおよび余白パターン層24に接着層28を介して転写される。
この転写時の加熱および加圧は、プレスによる加圧・加熱でも、カレンダローラによる加圧・加熱でも良いが、一対のローラにより行うことが好ましい。その加熱温度および加圧力は、接着層28を転写するときと同様である。
図2(A)〜図3(C)に示す工程により、単一のグリーンシート10a上に、単一層の所定パターンの電極パターン層12aが形成された積層体ユニットU1が形成される。この積層体ユニットU1は、必要な積層数となるまで、多数積層され、グリーンシート10aおよび内部電極パターン層12aが多数積層された積層体を形成する。
その後、積層体を所定サイズに切断し、グリーンチップを形成する。このグリーンチップは、脱バインダ処理、焼成処理が行われ、そして、誘電体層を再酸化させるため、熱処理が行われる。
脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、内部電極層の導電体材料にNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、特に下記の条件で行うことが好ましい。
昇温速度:5〜300℃/時間、
保持温度:200〜400℃、
保持時間:0.5〜20時間、
雰囲気 :加湿したN2 とH2 との混合ガス。
焼成条件は、下記の条件が好ましい。
昇温速度:50〜500℃/時間、
保持温度:1100〜1300℃、
保持時間:0.5〜8時間、
冷却速度:50〜500℃/時間、
雰囲気ガス:加湿したN2 とH2 との混合ガス等。
ただし、焼成時の空気雰囲気中の酸素分圧は、10−2Pa以下、特に10−2〜10−8 Paにて行うことが好ましい。前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にあり、また、酸素分圧があまり低すぎると、内部電極層の電極材料が異常焼結を起こし、途切れてしまう傾向にある。
このような焼成を行った後の熱処理は、保持温度または最高温度を、好ましくは1000℃以上、さらに好ましくは1000〜1100℃として行うことが好ましい。熱処理時の保持温度または最高温度が、前記範囲未満では誘電体材料の酸化が不十分なために絶縁抵抗寿命が短くなる傾向にあり、前記範囲をこえると内部電極のNiが酸化し、容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、寿命も短くなる傾向にある。熱処理の際の酸素分圧は、焼成時の還元雰囲気よりも高い酸素分圧であり、好ましくは10−3Pa〜1Pa、より好ましくは10−2Pa〜1Paである。前記範囲未満では、誘電体層10の再酸化が困難であり、前記範囲をこえると内部電極層12が酸化する傾向にある。
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、例えばバレル研磨、サンドプラスト等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極6,8が形成される。端子電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したN2 とH2 との混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、端子電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した電極ペーストと同様にして調製すればよい。
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
電極パターン層と余白パターン層との接触端部
上述した積層セラミックコンデンサ2の製造方法において、図2(A)に示す支持シートとしてのキャリアシート20の剥離層22の表面に、電極パターン層12aを所定パターンで印刷法により形成し、その前後に、余白パターン層24を、印刷法により形成する。その際に、図3(A)に示すグリーンシート10a、または電極パターン層12aおよび余白パターン層24の厚みが、薄くなってくると、以下のような現象が生じる。
すなわち、図4(A)に示すように、電極パターン層12aと余白パターン層24との接触端部のそれぞれにおいて、上方に突出する凸部42および44が形成され、それらの間に凹部40が形成される。本発明者等の実験によれば、これらの凸部42および44の幅ΔLおよび凹部40の深さΔTが、剥離不良や、積層後における電極端部の屈曲に大きく影響し、ショート不良率に悪影響を与えていることが判明した。
凸部42および44の幅ΔLが広くなり、そして、凹部40の深さΔTが深くなればなるほど、図6に示すように、素子本体4aにおける内部電極パターン層12aの端部に発生する屈曲部70が大きくなる。その結果、剥離不良や、積層後における電極端部の屈曲に大きく影響し、ショート不良率に悪影響を与えていることが判明した。
本発明者等の実験によれば、これらの凸部42および44の幅ΔLおよび凹部40の深さΔTは、図4(B)に示すように、スクリーン製版50における電極印刷パターン51の端部52と、スクリーン製版60における余白印刷パターン61の端部62との重なり幅Cに大きく依存することが明らかになった。
なお、スクリーン製版50は、内部電極パターン層12aをスクリーン印刷により形成するためのスクリーン製版であり、スクリーン製版60は、余白パターン層24をスクリーン印刷により形成するためのスクリーン製版である。これらの印刷パターン51および61は、印刷用のペーストを透過させる部分である。
グリーンシートが比較的に厚い場合には、重なり幅Cは、0またはマイナスであることが好ましいと考えられており、実際に問題にはならなかった。しかしながら、グリーンシートの厚みが薄くなるにつれて、剥離不良やショート不良が増大してくる。従来では、その不都合を有効に解決するための簡便な対策が見つからなかった。
本発明では、重なり幅Cを、5μm以上200μm未満、好ましくは5〜150μm、さらに好ましくは10〜100μmとすることにより、凸部42および44の幅ΔLおよび凹部40の深さΔTを小さくでき、さらに、そのことにより、剥離不良やショート不良を低減できる。なお、従来では、グリーンシートの厚みが比較的に厚かったために、凸部42および44の幅ΔLおよび凹部40の深さΔTは、剥離不良やショート不良には、それほど影響しなかったと考えられる。
本実施形態において、重なり幅Cが小さすぎると、図5(A)に示すように、凸部42および44の幅ΔLおよび凹部40の深さΔTが大きくなる傾向にある。そのために、図3(B)に示す積層体ユニットU1の積層時に十分に圧力が掛けることができず、そこでの密着が弱くなり、結果的に、図3(C)に示すように、積層体ユニットU1からキャリアシート30または20を剥離するときに、積層体ユニットU1が破断してしまうおそれがある。
また、重なり幅Cを、上記の適切な範囲にすることで、図5(B)に示すように、凸部42および44の幅ΔLおよび凹部40の深さΔTを小さくできる。これらの幅ΔLおよび深さΔTを小さくすることで、図3(C)に示す積層体ユニットU1を積層する際に、積層体ユニットU1からキャリアシート20を剥離するとき、グリーンシート10aと電極パターン層12aとの界面において破断が起こらない。また電極パターン層12aと余白パターン層24との重なり部分において凹凸が減少する(隙間がなくなる)ために、図6に示す屈曲部70が小さくなり、ショート不良を低減することができる。
しかしながら、図4(B)に示す製版パターン51および61相互の重なり幅Cが大きすぎると、図5(C)に示すように、凸部42と凸部44とが重なり合うことになり、図6に示す屈曲部70が大きくなり、ショート不良が多くなる傾向にある。
また、本実施形態の方法では、内部電極パターン層12aおよび余白パターン層24をそれぞれスクリーン印刷により形成する際のスキージ速度を100mm/sec以上800mm/sec以下とする。スキージ速度が小さすぎると、印刷中にペーストがスクリーン製版の裏に回り込んでしまい、製版がワークに張り付いてしまい、印刷不良になる傾向にある。スキージ速度が大きすぎると、電極パターン層12aと余白パターン層24との接触端部において発生する凹凸部の深さΔTが大きくなり、ショート不良が発生しやすい傾向にある。
さらに、本実施形態の方法では、内部電極パターン層12aを形成するための電極ペーストのせん断速度が8s−1における粘度をηe1、剪断速度が10000s−1における粘度をηe2としたとき、6≦ηe1/ηe2≦15となるように、バインダ樹脂量、分散剤量、可塑剤量そして帯電助剤の種類や配合量を調整する。
また、本実施形態の方法では、余白パターン層24を形成するために用いる余白ペーストのせん断速度が8s−1における粘度をηs1、剪断速度が10000s−1における粘度をηs2としたとき、4≦ηs1/ηs2≦15となるように、バインダ樹脂量、分散剤量、可塑剤量そして帯電助剤の種類や配合量を調整する。
これらの比が小さすぎると、印刷中にペーストがスクリーン製版の裏に回り込んでしまい、製版がワークに張り付いてしまい、印刷不良になる傾向にある。また、比が大きすぎると、電極パターン層と余白パターン層との接触端部において発生する凹凸部の深さΔTが大きくなり、ショート不良が発生しやすい傾向にある。
本実施形態の方法により作製された積層体ユニットU1では、電極パターン層12aと余白パターン層24との重なり部分近辺における平滑性が良好となり、電極パターン層12aとグリーンシート10aとの密着性が向上する。結果として、積層体ユニットU1からキャリアシート20または30を剥離させるときに、上記重なり部分において剥離不良が発生しない。つまりシート欠陥が減少するために、積層チップコンデンサにした場合、ショート不良率が低減する。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、本発明の方法は、積層セラミックコンデンサの製造方法に限らず、その他の積層型電子部品の製造方法としても適用することが可能である。
また、上述した実施形態では、転写法により、内部電極パターン層12aおよび余白パターン層24と、グリーンシート10aとを積層したが、本発明の方法は、湿式法により、これらを積層する場合にも適用することができる。すなわち、乾燥後のグリーンシート10aの表面に、内部電極パターン層12aおよび余白パターン層24を順次印刷して積層していく方法にも、本発明の方法を適用することができ、同様な効果が期待できる。
なぜなら、湿式工法においても、積層方法に関わらず、積層時には支持シート(キャリアシート)を剥離する工程を必要とする。つまり、上述したように、電極パターン層と余白パターン層とを、ある規定量だけ重ねて印刷することで、湿式工法における積層時の剥離不良を回避できる。また、本発明では、積層時の支持シートの剥離方法は、特に限定されず、積層後の剥離であっても、剥離後の積層であっても有効であることは言うまでも無い。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
出発原料として、セラミック粉末と、MgCO3、MnCO3 、(BaCa)SiO3、および希土類などの金属化合物と、アクリル樹脂やブチラール樹脂などのバインダと、フタル酸エステル類、グリコール類、アジピン酸などの可塑剤と、エタノール、プロパノール、キシレンなどの混合有機溶剤とを使用して混合し、スラリー化した。さらに、これをバーコーター法でPETキャリアシート上に塗布し、セラミックグリーンシート10aを得た。
次に、Niを主成分とする電極ペーストを用いて、PET上に内部電極パターン層12aを印刷した。次に内部電極パターン層12aが印刷されていない箇所に、内部電極パターン層12aと相補的なパターンで、誘電体ペーストを印刷し、余白パターン層24を形成した。この誘電体ペーストは、グリーンシートを形成するための誘電体ペーストと同様の方法で用意した。
また、余白パターン層24を形成するためのスクリーン製版60としては、電極パターン層12aを形成するためのスクリーン製版50との重なり量Cを、それぞれ−20、−10、0、5、10、20、50、100、150、200μmとしたものを使用した。また、余白パターン層の厚みは、電極パターン層と同じになるように印刷した。
それぞれのスクリーン印刷に際しては、スキージ速度は、600mm/secに設定した。また、内部電極パターン層を形成するための電極ペーストのせん断速度が8s−1における粘度をηe1、剪断速度が10000s−1における粘度をηe2としたとき、これらの実施例では、ηe1/ηe2=9.0であった。また、余白パターン層を形成するために用いる誘電体ペーストのせん断速度が8s−1における粘度をηs1、剪断速度が10000s−1における粘度をηs2としたとき、これらの実施例では、ηs1/ηs2=12.0であった。
次に、バインダと可塑剤を溶剤に加えて溶解したものを、バーコータ法でPETキャリアシート上に塗布し、接着層を得た。次に、電極パターン層および余白パターン層と接着層とをロールに通し、接着層を電極パターン層および余白パターン層に転写させた。
さらに、この接着層付き電極パターン層および余白パターン層を、セラミックグリーンシートと共にロールに通し、セラミックグリーンシートを電極層に転写させ、積層体ユニットを得た。
次に、この積層体ユニットを、所望の静電容量が得られるように数十層ごとに重ね合わせてプレスし、表1に示す試料番号1〜13の積層ブロックを作製した。このとき、積層体ユニットU1を、キャリアシート20または30から剥離させたときに発生した積層体ユニットU1の破断をカウントした。結果を表1に示す。
なお、積層体ユニットの破断の○×判定は、キャリアシート剥離後のキャリアシートを観察し、剥離面に電極パターン層やセラミックグリーンシートが残っていないかで観察した。積層体ユニットU1に破断がある場合、剥離面に電極パターン層やセラミックグリーンシートが残る。所望の積層数全数において積層体ユニットU1の破断の有無を確認し、破断が無い場合のみ○、それ以外は×とした。
次に、セラミックグリーンシートのみで積層した外層用グリーン積層体の間に、目標特性が得られる量の積層ブロックを入れ、プレスを行った。次に、このブロック体を、所定のグリーンチップ形状に切断、焼成を行って、積層チップコンデンサを得た。この時に得られた積層チップコンデンサのショート不良率をカウントした。結果を表1に示す。
ショート不良率は、各積層チップコンデンサのサンプルについて、測定電圧1Vrmを印加し、導通が確認されたものをショート不良としてカウントした。表においては、ショート率が20%以下の試料を○とし、ショート率0%の試料を◎とした。逆にショート率が20%を超える試料は×とした。
なお、表1において、屈曲とは、図6に示すように、コンデンササンプルの断面を観察し、電極パターン層12aに、目視できる屈曲部70が観察された場合を、×とし、そうでない場合は○とした。
表1に示す試料1は従来の工法で作製したサンプルである。電極パターン層と余白パターン層との重なり幅Cは、−20μm(すなわち、重ならずに20μmの間隔がある)であるが、グリーンシートが2.0μmと厚いために剥離不良は発生せず、ショート率も20%である。屈曲も観察されなかった。
試料2は、試料1に対して、グリーンシート厚が1.5μmへと薄層化された試料である。この試料では、積層体ユニットU1からキャリアシートを剥離する際に、電パターン極と余白パターン層との重なり部付近でシート破断を確認された。
その結果、この破断がシート欠陥となり、ショート率は100%となった。また電極端部での屈曲も確認された。試料3および4のように、重なり幅Cを減らした場合においても同様で、剥離不良を回避することは出来ず、ショート率も依然として高いことが確認された。
重なり幅Cの設計を5μmとした試料5では、電極パターン層の表面の凹凸は緩和され、剥離不良は確認されなかった。またショート率も低下し、電極端部の屈曲も確認されなかった。
重なり幅Cの設計が10μmの試料6では、さらにショート率は0%に改善した。重なり幅Cの設計を150μmまで増加させた試料10では、ショート不良率は若干上昇した。さらに重なり幅Cを200μmとした試料11では、剥離不良が確認されなかったにも関わらず、ショート率は大きく上昇し、また屈曲も確認された。
これは、図5(C)に示すように、余白パターン層24の端部が、電極パターン層12aの端部に大きく乗り上げてしまったために屈曲が発生し、この屈曲部分で、積層方向の電極パターン層12a同士が接触しているために、ショート率が増加したと考えられる。このことから重なり幅Cの設計は、200μm未満であることが好ましいと言える。
なお、試料12および13に示すように、グリーンシートの厚みを1.0μmと、さらに薄くした場合でも、本発明の方法の有効性が確認できた。